積層内部熱交換型反応器及びその製造方法
【課題】コンパクトでありながら高い熱交換機能を有し、製造も容易な積層内部熱交換型反応器を提供する。
【解決手段】紙製の平板と波板とが積層され波板の山部と平板との間に往路を有する流入側ユニットと、波板の谷部と平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなる積層前駆体から積層前駆体と同一形状の炭化ケイ素質の積層体を形成し、積層体を流入口と流出口をもつケーシングに封入する。流入口から往路に流入した流体は、積層体とケーシングとの間に形成された連通空間に入り、連通空間から復路を流れる。連通空間又は積層体には発熱手段が形成され、流体は発熱手段で加熱されて流出口から流出される。
【解決手段】紙製の平板と波板とが積層され波板の山部と平板との間に往路を有する流入側ユニットと、波板の谷部と平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなる積層前駆体から積層前駆体と同一形状の炭化ケイ素質の積層体を形成し、積層体を流入口と流出口をもつケーシングに封入する。流入口から往路に流入した流体は、積層体とケーシングとの間に形成された連通空間に入り、連通空間から復路を流れる。連通空間又は積層体には発熱手段が形成され、流体は発熱手段で加熱されて流出口から流出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流れる複数の流路が左右方向及び上下方向に列設された積層内部熱交換型反応器とその製造方法に関し、より詳しくは炭化ケイ素系セラミックスからなる積層内部熱交換型反応器とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体を一時的に加熱することは、種々の産業分野において様々な要請に応じて行われている。例えば化学工業分野では、目的とする化学反応に適する温度まで原料を予め加熱することが行われ、数多くの化学装置で行われている。
【0003】
また悪臭ガスや揮発性有機溶剤(VOC)などの有害ガスは、一般に、燃焼や触媒によって無臭の無害なガスに転化することができる。しかし大気中に含まれる有害ガス濃度は一般に低濃度であり、かつ温度も低いために、有害ガスの燃焼を開始し継続させるためには、予熱した後に燃焼領域へ流入させることが行われている。
【0004】
さらに自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガスを酸化触媒、三元触媒、NOx選択還元触媒、NOx吸蔵還元触媒、フィルタ触媒などを用いて浄化する場合において、エンジン始動時などの低温域ではCO、HC、NOx、PMを浄化することが困難となる。またディーゼルエンジンなどのリーンバーンエンジンにおいては、燃焼温度が低いために触媒による浄化効率も低いという不具合がある。したがって排ガスを予熱した後に触媒へ供給することが望ましい。
【0005】
そこで従来より、例えばPtなどの触媒金属を多く担持した触媒を通常の触媒の上流側に配置することが行われている。このような触媒装置によれば、上流側の触媒では酸化活性が早期に発現されるためCO及びHCの酸化反応熱によって排ガスが加熱され、下流側の触媒へ流入する排ガス温度を高めることができる。しかし、この方法で可能な加熱温度は、加熱源となるCOやHC等の濃度によって定まる断熱上昇温度にしかならない。すなわち、例えば0.1%のCOあるいはエチレンの完全酸化の反応熱によってもたらされる上昇温度は、それぞれ10Kあるいは48Kにしかならない。このため、より温度の上昇を必要とする場合には、排ガス中に燃料を添加することが行われているが、多くの燃料が必要となる。このように触媒燃焼による予熱だけでは、燃費が大きく悪化するという不具合がある。
【0006】
これに対して、化学装置で行われているように、反応熱の回収による予熱を利用すると、熱交換性能によっては、上昇温度を断熱上昇温度の2〜4倍まで増大させることが可能になる。ただし、自動車の排ガスを予熱する装置などにおいては、搭載性の点から、装置の規模をコンパクトとすることが求められる。このコンパクト性を確保するため、熱交換性能が高い向流プレート型の熱交換構造の実用化が求められている。
【0007】
例えば特開2004-069293号公報には、ステンレス薄板を蛇腹状に多数回折り曲げ全体形状として直方体でアコーディオン形状の構造体とし、これを直方体容器に収納した熱交換器が提案されている。構造体はその長手方向の一端を封じ他端は開放とし、容器には封じた側の近くに流体の入り口と出口を有している。入り口から流入したガスはアコーディオン形状の一表面に沿って(往路)流れて解放端から出、流れ方向が反転されてアコーディオン形状の他表面に沿って(復路)流れて容器の出口から流出する。構造体の開放端近傍に触媒を担持させておくことで、排ガス中のCOやHCを酸化することができ、その反応熱及び復路から往路に向かっての内部的な熱回収によって、折り返し部における排ガスを著しく加熱することができる。
【0008】
この内部熱交換型反応器は、限られた容積の中で伝熱面積を大きくするとともに排ガス通路幅を小さくすることができるので、熱交換性能が高い、また排ガス温度が最大となる折り返し部の容積が小さいので放熱ロスが小さい、可動部がなく構造が単純であるため安価となる、などの特徴を備えている。
【0009】
また国際特許公開第2004/099577号パンフレットには、薄い箱形の伝熱板を多数積層した直方体形状の構造体をケーシングに封入し、ケーシングの一端に形成された流入開口から構造体の長手方向に延びる往路に排ガスを流入させ、構造体から出た排ガスをケーシング内で流れ方向を反転させて構造体の長手方向に延びる復路に流入させ、流入口近傍に形成されたケーシングの出口から流出するように構成され、さらに構造体に触媒を担持した排ガス浄化装置が提案されている。この装置によっても、排ガス中のCOやHCの酸化反応熱及び内部熱交換機能によって排ガスを大きく加熱することができる。
【0010】
ところが上記した反応器においては、排ガスを構造体の複数の往路に均等に分配できるようにするための構造や、往路と復路との間のシール構造が難しいという問題があった。
【0011】
そこで特開2008−157592号公報には、コージェライトなどから形成された薄板が互いに間隔を隔てて積層され、薄板どうしの間に面状流路を形成した熱交換構造体が提案されている。この熱交換構造体は、面状流路を挟んで一つおきに配置された往路と復路が一方向に伸長され、伸長方向の一端面の一領域に往路用の流入口が面状流路の一つおきに設けられ、別の領域に流出口が面状流路の別の一つおきに設けられている。また流入口及び流出口が設けられたのとは反対側の伸長方向の端部には、ケーシングとの間の空間を介して往路と復路を連通させるための連通空間が設けられている。そして連通空間の近傍にヒータや酸化触媒を設けて流体を加熱することで、折り返し部近傍における流体温度を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-069293号公報
【特許文献2】国際特許公開第2004/099577号パンフレット
【特許文献3】特開2008−157592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが特許文献3に記載の熱交換構造体は、コージェライトなどのセラミック板やステンレス板などから形成する場合、その部品点数あるいは工数が大きく、また特にセラミック製の場合、構造壁が薄くかつ機械的強度に優れた一体構造にすることが難しいという不具合があった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、コンパクトでありながら高い熱交換機能を有し、製造も容易な積層内部熱交換型反応器を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の積層内部熱交換型反応器の製造方法の特徴は、有機多孔質体からなる平板と有機多孔質体からなり山部と谷部が交互に形成された波板とが積層され少なくとも波板の山部と平板との間に往路を有する流入側ユニットと、平板と波板とが積層され少なくとも波板の谷部と平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、一端面には往路と復路の両方が開口し一端面と反対側の他端面には復路の前方に規制壁をもつ積層前駆体を形成する前駆体形成工程と、
樹脂とシリコン粉末とを含み樹脂が溶解したスラリー又はスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを積層前駆体に含浸させて含浸体とする含浸工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて含浸体を加熱し樹脂を炭素化するとともに積層前駆体を熱分解して積層前駆体と略同一形状の炭素質積層前駆体とする炭素化工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭素質積層前駆体を加熱することでシリコンと炭素とを反応させて炭素質積層前駆体から積層前駆体と略同一形状で炭化ケイ素質の積層体を形成する焼成工程と、を行い、
流入口と流出口をもつケーシングに、他端面に開口する往路が流入口に連通するとともに復路を流れる流体が規制壁によって流出口へ案内されるように得られた積層体を封入し、積層体の一端面とケーシングとの間には一端面に開口する往路及び復路と連通する連通空間を形成し、連通空間及び連通空間近傍の積層体の少なくとも一方に発熱手段を形成することにある。
【0016】
また第2の発明である積層内部熱交換型反応器の製造方法の特徴は、有機多孔質体からなる平板と有機多孔質体からなり山部と谷部が交互に形成された波板とが積層され少なくとも波板の山部と平板との間に往路を有する流入側ユニットと、平板と波板とが積層され少なくとも波板の谷部と平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、一端面には往路と復路が開口し一端面と反対側の他端面には復路の前方に規制壁をもつ積層前駆体を形成する前駆体形成工程と、
樹脂を溶解状態で含む溶液又は該溶液にさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを積層前駆体に含浸させて含浸体とする含浸工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて含浸体を加熱し樹脂を炭素化するとともに積層前駆体を熱分解して積層前駆体と略同一形状の炭素質積層前駆体とする炭素化工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭素質積層前駆体に溶融シリコンを含浸させシリコンと炭素とを反応させて炭素質積層前駆体から積層前駆体と略同一形状で炭化ケイ素質の積層体を形成する溶融含浸工程と、を行い、
流入口と流出口をもつケーシングに、他端面に開口する往路が流入口に連通するとともに復路を流れる流体が規制壁によって流出口へ案内されるように得られた積層体を封入し、積層体の一端面とケーシングとの間には一端面に開口する往路及び復路と連通する連通空間を形成し、連通空間及び連通空間近傍の積層体の少なくとも一方に発熱手段を形成することにある。
【0017】
そして本発明の製造方法により製造される本発明の積層内部熱交換型反応器の特徴は、炭化ケイ素系セラミックスからなる平板と、炭化ケイ素系セラミックスからなり山部と谷部とが交互に形成された波板と、が積層されてなり波板の山部及び谷部と平板とで区画された多数の流路を有する積層体と、積層体が封入され流入口と流出口をもつケーシングと、からなる積層内部熱交換型反応器であって、
積層体は、平板と波板とが積層され少なくとも波板の山部と平板との間に往路を有する流入側ユニットと、平板と波板とが積層され少なくとも波板の谷部と平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、
積層体の一端面には往路と復路が開口し、一端面と反対側の他端面には復路の前方に規制壁をもち、積層体の一端面とケーシングとの間には往路及び復路と連通する連通空間が形成され、連通空間の内部及び連通空間近傍の積層体の少なくとも一方には発熱手段を有し、
流入口から流入した流体が、他端面に開口する往路から連通空間へ流入し、往路内で連通空間に流入する前に復路を流れる流体から熱を受け取って温度上昇し、連通空間から復路へ流入する際に発熱手段による加熱によってさらに温度上昇し、復路内で往路に熱を渡すことにより次第に降温し、規制壁に案内されて流出口から流出することにある。
【発明の効果】
【0018】
本願発明者は、特許第3699992号、特許第4273195号、特許第4110244号などにおいて、スポンジ状の有機多孔質構造体から炭化ケイ素質構造材を製造する方法を提案している。この製造方法は、例えばウレタンスポンジにフェノール樹脂及びシリコン粉末を含むスラリーを含浸させ、それを不活性雰囲気下で焼成することで、炭素質多孔質構造体を経て反応焼結によって炭化ケイ素質構造材を製造するものである。この製造方法によれば、得られた炭化ケイ素質多孔質構造材は、用いたウレタンスポンジと同一の骨格を有している。
【0019】
そこで本願発明者は、上記特許に記載された方法を用いて内部熱交換型反応器を製造することを想起した。この製造方法を用いれば、多様な内部構造を有する炭化ケイ素質構造材を容易に形成することができるので、耐熱性、耐蝕性に優れ、高強度で熱伝導率が大きな内部熱交換型反応器を製造することが可能となる。そして内部熱交換型反応器の骨格として段ボール紙の骨格を利用することで、目詰めを簡単に行うことができること、段ボール紙の波板と平板で形成された直線状の通路を流路として利用できることなどを見出し、本発明を完成した。
【0020】
すなわち本発明の製造方法によれば、段ボール紙などの有機多孔質体を用いて積層前駆体を形成しているので、紙工作のようにして積層前駆体をきわめて容易に形成することができる。また流路に目詰めが必要な場合にも、粘度の高いスラリーを用いて、あるいは山部を潰すなどの方法で、きわめて容易に行うことができる。さらに曲げ、潰し、切除などの加工が容易であるので、積層前駆体の流路を自在に調整することができる。そして積層前駆体の形状そのままの積層内部熱交換型反応器を製造できるので、セラミック構造体の製造で通常行われている押し出し成形法と異なり、複雑な形状であっても小さな工数できわめて容易に製造することができる。
【0021】
そして本発明の製造方法により製造された本発明の積層内部熱交換型反応器によれば、炭化ケイ素質であるため熱伝導性に優れている。また波板と平板との間に流路が形成されているので、流体と流路壁面との接触面積(伝熱面積)をきわめて大きくすることができ高い熱交換機能を備えている。そして流体が往路を流れる方向と復路を流れる方向とが互いに逆向きとなり、理想的な向流が形成されるとともに、流体の速度や温度が均等化する。したがって本発明の積層内部熱交換型反応器は、コンパクトでありながら高い熱交換機能を有している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係る単位波板の製造方法を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例に係る積層前駆体(積層体)の斜視図である。
【図3】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の分解斜視図である。
【図4】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の断面図である。
【図5】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の流入側端部の断面図である。
【図6】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の連通空間側端部の断面図である。
【図7】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の要部断面図である。
【図8】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器における排ガスの流れを示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係る積層内部熱交換型反応器の分解斜視図である。
【図10】本発明の第3の実施例に係る単位積層体の製造方法を示す説明図である。
【図11】本発明の第3の実施例に係る積層前駆体(積層体)の斜視図である。
【図12】本発明の第3の実施例に係る積層前駆体(積層体)の他の態様を示す流入側端部の断面図である。
【図13】本発明の第3の実施例に係る積層前駆体(積層体)の他の態様を示す断面図である。
【図14】本発明の第3の実施例に係る単位積層体の他の態様を示す概略平面図である。
【図15】本発明の第4の実施例に係る積層前駆体(積層体)の製造方法を示す斜視図である。
【図16】本発明の第4の実施例に係る単位積層体の他の態様を示す斜視図である。
【図17】本発明の第4の実施例に係る単位積層体の他の態様を示す斜視図である。
【図18】本発明の第5の実施例に係る単位積層体の製造方法を示す説明図である。
【図19】本発明の第5の実施例に係る単位積層体の製造方法を示す説明図である。
【図20】本発明の第5の実施例に係る積層前駆体(積層体)の斜視図である。
【図21】本発明の第5の実施例に係る積層内部熱交換型反応器の断面図である。
【図22】本発明の第5の実施例に係る積層前駆体(積層体)の他の態様を示す流入側端部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の製造方法では、出発素材として有機多孔質体からなる平板と、同じく有機多孔質体からなる波板とを用いている。平板及び波板の気孔率や細孔分布は、目的に応じて種々選択することができ、同一であってもよいし異なっていてもよい。有機多孔質体としては、紙、不織布、織布、編布、ウレタン発泡体、など種々の有機材料からなる多孔質体を用いることができる。平板と波板とで材質が同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0024】
例えば両面段ボール紙や片面段ボール紙は、多孔質な平板とその平板から形成された波板とが互いに接合されたものであり、またコピー紙などに比べて多孔質度が高いので、好適に用いることができる。また例えば布から波板を形成するには、波板形状に賦形した後、樹脂などの有機バインダを含浸させて波形状を固定してもよい。
【0025】
平板及び波板は、炭素粉末を含むことが好ましい。炭素粉末を50質量%以上含んでいることが好ましく、70質量%以上含むことが望ましい。炭素粉末を含むことで、後述するスラリーの含浸量が少ない場合でも十分な炭化ケイ素骨格を形成することができ、炭素化工程や焼成工程における体積収縮を抑制することができる。したがって積層前駆体と同一形状の炭化ケイ素質の積層体を容易に製造することができる。
【0026】
前駆体形成工程では、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されてなる積層前駆体が形成される。流入側ユニットは、平板と波板とが積層され少なくとも波板の山部と平板との間に往路を有している。また流出側ユニットは、平板と波板とが積層され少なくとも波板の谷部と平板との間に復路を有している。波板は山部と谷部とが交互に形成されているので、往路と復路とはそれぞれ複数形成される。往路の下流側である一端面には、往路と復路が共に開口し、一端面と反対側の他端面には復路の前方に規制壁が形成されている。この規制壁は、復路を流れる流体の流れ方向を規制してケーシングの流出開口へ案内するものであり、目詰め部、潰し部あるいは壁部からなるものである。
【0027】
例えば1枚の波板の両側にそれぞれ平板が積層されてなるサンドイッチ構造の両面段ボール紙を用いれば、波板の山部と平板とで構成される流路と、波板の谷部と平板とで構成される流路とが既に分離されている。したがって一方の流路の一端部を閉塞して規制壁を形成し、その閉塞された流路に外部と連通する流出開口を形成すれば、閉塞されていない流路が往路となり閉塞された流路が復路となるので、1枚の段ボール紙で流入側ユニットと流出側ユニットを形成することができる。流路を閉塞して規制壁を形成するには、粘度の高いスラリーを一端部に充填する方法、あるいは流路を一端部で物理的に潰して閉塞する方法などがある。
【0028】
また1枚の波板の片側に平板が積層されてなる片面段ボール紙を用いる場合には、紙製の平板を片面段ボール紙の波板に積層すれば上記したサンドイッチ構造の段ボールとなるので、上記と同様に流入側ユニットと流出側ユニットを形成することができる。片面段ボール紙であれば、波板を一端部で物理的に潰して閉塞するのが容易であり、あるいは谷部へのスラリーの充填が容易であるので、上記した規制壁を形成するための工数を低減することができる。
【0029】
また片面段ボール紙を用いる場合には、短冊状の複数枚の紙製スペーサーを介して平板を積層することも好ましい。このようにすれば波板の山部の頂面又は谷部の底面と平板との間に面状空間が形成され、これにより往路又は復路の中で互いに平行する山部あるいは谷部の流路間を連通することができる。このことにより流路間の流速を均等化したり、復路においては全ての流路を流出開口と連通させることができる。またこの面状空間によって、往路又は復路を流れる流体の圧力損失を低減することができる。なお波板の山部と平板との間に面状空間を形成するには、波板の山部の頂部又は谷部の底部の一部を潰して山高さ又は谷深さを小さくしてもよい。
【0030】
さらに、図10、11に示すように、2枚の片面段ボール紙を波板どうしが互いに対向するように、かつ互いの山部どうしが対向するように積層し、互いに対向する谷部を流入側端部で目詰めしても、流入側ユニットと流出側ユニットを形成することができる。この場合は、対向する谷部どうしの目詰めしていない空間が復路となる。この場合にも2枚の片面段ボール紙をスペーサを介して積層すれば、復路どうしを連通する面状空間を形成することができる。
【0031】
また図12に示すように、2枚の片面段ボール紙を波板どうしが互いに対向するように、かつ互いの山部と谷部が間隔を隔てて対向するように積層すれば、波板どうしの間に復路どうしを連通する断面波状の通路が形成され、あるいは山部どうしの稜線が互いに交差するように片面段ボール紙どうしを積層すれば、隣接する上下の谷部どうしが互いに連通する通路が形成されるため、スペーサを用いなくても圧損を低くすることができる。
【0032】
前駆体形成工程で形成される積層前駆体には、他にも種々の積層形態が考えられるが、後述の実施例で詳細に説明する。
【0033】
本発明の第1の製造方法における含浸工程では、樹脂とシリコン粉末とを含み樹脂が溶解したスラリー又はそのスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを積層前駆体に含浸させて含浸体とする。また第2の製造方法における含浸工程では、樹脂を溶解状態で含む溶液又はその溶液にさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを積層前駆体に含浸させて含浸体する。樹脂を含浸させることで、炭素化工程で形成される炭素質積層前駆体の形状を保持することが可能となる。樹脂としては、溶媒に溶解して溶液となるものを用いることができ、フェノール樹脂、フラン樹脂、あるいはポリカルボシラン等の有機金属ポリマーなどが例示される。これらから選ばれる一種でもよいし、複数種を混合して用いてもよいが、熱硬化性であり炭素原子を多く含有して炭素源にもなるものが好ましく、フェノール樹脂が特に好ましい。
【0034】
第2の製造方法では、後述するようにシリコンの溶融含浸工程が必要となるが、第1の製造方法のように樹脂にシリコン粉末を加えたスラリーを用いれば、シリコンの溶融含浸工程を行わなくても炭化ケイ素質の積層体を形成することができるし、シリコンの溶融含浸工程を行う場合は溶融含浸工程をさらに容易に行うことができる。またスラリー中には添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末、カーボンブラックを添加してもよく、骨材や酸化防止剤としては炭化ケイ素が最も好ましいが、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素、ホウ素粉末などを添加することもできる。スラリーを積層前駆体に含浸するには、単に浸漬して引き上げるだけでもよいし、減圧下で含浸させることも好ましい。
【0035】
シリコン粉末を含むスラリーを用いる場合には、シリコン粉末は平均粒径が30μm以下の微粉末が好適である。粒径が大きなものは、ボールミルなどによって粉砕して用いることが好ましい。シリコン粉末は、純シリコン粉末であってもよいし、Mg、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Wなどの金属を含むシリコン合金粉末、あるいは純シリコン粉末とこれらの金属粉末との混合粉末を用いることもできる。
【0036】
シリコン粉末を含むスラリーを用いる場合には、スラリーにおける樹脂とシリコン粉末との混合比は、原子比でSi/C<5.00の範囲とするのが好ましい。この原子比が5.00を超えると、スラリー中のシリコン粉末量が多くなって沈殿し易くなる。またシリコン粉末と骨材としての炭化ケイ素粉末とを混合したスラリーを用いる場合には、炭化ケイ素粉末はシリコン粉末重量の3倍以内の範囲とするのが好ましい。炭化ケイ素粉末がシリコン粉末重量の3倍を超えると、混合が不十分となる場合がある。
【0037】
スラリー中の固形分濃度は、積層前駆体の平板と波板にスラリーを含浸可能な粘度であれば特に制限されない。またスラリーに用いられる溶媒は特に制限されないが、樹脂を溶解可能なものが用いられる。スラリーを積層前駆体に含浸するには、単に浸漬して引き上げるだけでもよいし、減圧下で含浸させることも好ましい。
【0038】
含浸工程後に、積層前駆体に付着した余剰のスラリーを除去する除去工程を行うことが望ましい。積層前駆体から余剰のスラリーを除去するのは、往路及び復路に充填された余剰のスラリーを除去して流路の閉塞を防止するためであり、遠心分離や吸引などで行うことができる。また次の炭素化工程前に、積層前駆体に付着したスラリー中の溶媒を乾燥させる乾燥工程を行うことが望ましい。乾燥工程は大気中で行うことができ、70℃で3時間程度保持すれば十分である。
【0039】
この含浸工程の前あるいは含浸工程の後には、復路を形成するため、規制壁を形成するため、あるいは隙間を埋めるための目詰め工程を行うことが望ましい。目詰め材は、耐熱性を有する各種セラミック粉末を主成分としフェノール樹脂などの有機バインダを含む粘土状のペーストを用いることができる。焼成工程で形成される炭化ケイ素質の積層体と強固に接合する炭化ケイ素粉末を主成分とするペーストを用いることが好ましい。またシリコン粉末を含むペーストを用いれば、後述の焼成工程で目詰め材が炭化ケイ素となるため、目詰め材と炭化ケイ素質の積層体との接合強度がさらに向上する。なお紙粘土や樹脂粉末など、有機質のものを目詰め材として用いることもできる。この場合、目詰め材は後述の炭素化工程で炭素化し、焼成工程で炭化ケイ素となる。
【0040】
また目詰め工程に代えて、含浸工程の前あるいは含浸工程の後に潰し工程を行うこともできる。波板の山部の一端部を潰せば、その部分が閉塞されるため目詰めに代えることができる。また復路の一部を潰して流出開口を形成することもできるし、山部を潰して高さを低くして面状空間を形成することも容易に行うことができる。
【0041】
炭素化工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて含浸体を加熱し、含浸している樹脂を炭素化するとともに積層前駆体を熱分解して炭素質積層前駆体とする。非酸化性雰囲気としては、アルゴンガスなど不活性ガス雰囲気が好ましい。樹脂の熱分解による炭素化過程では、タール状のものや気化物質が生成するので、真空中で行うのはあまり好ましくない。またシリコン粉末を含むスラリーを用いて含浸工程を行った場合には、窒素ガス雰囲気で炭素化工程を行うと窒化ケイ素が生成する場合があるのであまり好ましくない。
【0042】
炭素化工程における焼成温度は、900〜1350℃の範囲とすることができる。900〜1350℃の範囲で加熱することで、積層前駆体の表面に付着している樹脂が炭素化するとともに、積層前駆体の有機成分が熱分解しその立体骨格を維持しつつ炭素化される。したがって積層前駆体の骨格を維持した炭素質積層前駆体が形成される。
【0043】
炭素化工程後に焼成工程が行われる。この焼成工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭素質積層前駆体を加熱することで、シリコンと炭素とを反応させ、炭素質積層前駆体から炭化ケイ素質の積層体を形成する。焼成雰囲気は、炭素化工程と同様とすることができるが、真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0044】
焼成工程における焼成温度は、1350℃以上とすることができる。1350℃以上に加熱されることで炭素とシリコンとが反応し、炭化ケイ素を主成分とする炭化ケイ素質の積層体が形成される。この反応は、シリコンと炭素が系内にあるので体積が減少する反応であり、炭素が拡散してシリコンと反応することで炭化ケイ素の生成と同時に内部に微細な細孔が形成される。この多孔質炭化ケイ素は溶融シリコンとの濡れ性が良く、後述のシリコンの溶融含浸を容易に行うことができる。また既に目詰めされている場合には、目詰め材も焼成されて炭化ケイ素質の積層体と一体に固定される。
【0045】
炭素化工程と焼成工程とは、別々に行ってもよいが、炭素化工程に連続して焼成工程を行うことが望ましい。このようにすることで、熱エネルギーの無駄を防止することができる。
【0046】
第2の製造方法では、炭素化工程後に真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭素質積層前駆体に溶融シリコンを含浸させる溶融含浸工程を行う。この溶融含浸工程は、第1の製造方法でも行うことができる。この溶融含浸工程は、金属シリコンをその融点(約1410℃)以上に加熱して溶融シリコンとし、炭素質積層前駆体に含浸すればよく、特に真空中で行うことが好ましい。溶融含浸用シリコンは、粉末状、顆粒状、あるいは塊状でもよい。
【0047】
溶融含浸工程では、炭素化工程時に形成された炭素質積層前駆体の微細な細孔に溶融シリコンが浸入し、炭素と反応して炭化ケイ素が形成される。この反応は、シリコンを系外から加えているので体積が増加する反応であり、内部に形成された微細な細孔がシリコン又は炭化ケイ素で充填されることになる。したがって炭素質積層前駆体の強度が向上する。
【0048】
溶融含浸工程における反応では、シリコンと樹脂からの炭素及び有機多孔質体からの炭素の組成が原子比でSi/C<1であれば炭化ケイ素と未反応の炭素が残留し、Si/C>1であれば炭化ケイ素と未反応の金属シリコンが残留するが、強度的には金属シリコンが残留するのが好ましい。
【0049】
炭化ケイ素質の積層体がシリコンを含む場合には、含まれるシリコンの少なくとも一部を酸化してSiO2を形成する酸化工程を行うことも好ましい。SiO2にはシラノール基が容易に生成し親水性が向上する。したがって触媒金属化合物の水溶液を多量に吸水することが可能であり、それを焼成することでPtなどの触媒金属を高分散担持した積層体を形成することができる。このように触媒を担持した積層体を有する積層内部熱交換型反応器とすれば、自動車排ガスなどHCやCOを含むガスを流通させることでHCやCOを酸化することが可能となり、低温域の排ガスを加熱し浄化する反応器として用いることができる。しかも、積層体が炭化ケイ素質なので通電によって発熱可能であるため、始動時における低温の排ガスを加熱することで有害成分を浄化することができる。
【0050】
この酸化工程は、シリコンを含む炭化ケイ素質の積層体を大気中などの酸化性雰囲気中で加熱すればよい。加熱温度が高いほど、シリコンの総量に対して生成するSiO2量が多くなることが明らかとなっており、400℃以上で加熱することが望ましい。なお加熱時間は10分間程度保持すれば十分である。また形成されるSiO2の量は、加熱温度によって調整することが可能であり、加熱温度が高いほどSiO2を多く形成することができる。したがってPtなどの触媒金属を高分散状態かつ十分な担持量で担持できる厚さとすることができる加熱温度を選択すればよい。
【0051】
第1の製造方法において、焼成工程後に炭素が残る場合や強度不足の場合には、焼成工程後に、真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭化ケイ素質の積層体に溶融シリコンを含浸させる溶融含浸工程を行うことも好ましい。溶融含浸工程は、金属シリコンをその融点(約1410℃)以上に加熱して溶融シリコンとし、炭化ケイ素質の積層体に含浸すればよく、特に真空中で行うことが好ましい。溶融含浸用シリコンは、粉末状、顆粒状、あるいは塊状でもよい。
【0052】
溶融含浸工程では、炭化ケイ素は溶融シリコンに対する濡れ性が良好であるので、焼成工程時に形成された微細な細孔に溶融シリコンが浸入し、残留している炭素と反応して炭化ケイ素が形成される。この反応は、シリコンを系外から加えているので体積が増加する反応であり、内部に形成された微細な細孔がシリコン又は炭化ケイ素で充填されることになる。したがって炭化ケイ素質の積層体の強度が向上する。
【0053】
そして溶融含浸工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて1410℃の高温に晒されるため、残留炭素が存在する場合は大部分が炭化ケイ素となる。なお溶融含浸工程は、焼成工程と同時に又は焼成工程に連続して行うこともできる。すなわち炭素化工程後に、溶融含浸用シリコンを加えて真空あるいは非酸化性雰囲気にて、シリコンの融点(約1410℃)以上の温度にすることで焼成工程を行うとともにシリコンを溶融含浸させ、未反応の炭素とシリコンとを反応させる。過剰なシリコンは金属シリコンとして残留する。
【0054】
このようにして形成された炭化ケイ素質の積層体は、ケーシングに封入される。積層体の往路及び復路の開口が表出する一端面とケーシングとの間には、一端面に開口する往路及び復路と連通する連通空間が形成される。またケーシングには、積層体の往路と連通する流入口と、積層体の流出開口及び復路と連通する流出口が形成されている。流入口と流出口とはケーシングの一端面に並列に形成してもよいし、流体の流れ方向が交差するように形成してもよいが、往路と復路の流れが積層体の壁を隔てて互いに対向する流路長ができるだけ長くなるように形成することが望ましい。
【0055】
連通空間の内部及び連通空間近傍の積層体の少なくとも一方には、発熱手段が形成されている。この発熱手段は往路又は復路及び連通空間を流れる流体を直接的に又は間接的に加熱するものであり、例えば連通空間に配置された電気ヒーター、燃焼バーナー、触媒燃焼器などとすることができる。あるいは連通空間近傍の積層体表面、連通空間近傍の往路や復路の壁表面にPtやPdなどの酸化触媒を担持し、流体中に含まれる被酸化物質を酸化してその燃焼熱で発熱するものを用いることもできる。
【0056】
流入口から流入した流体は往路を通過して連通空間に入り、連通空間で反転して復路へ導入され、この間に発熱手段によって加熱された後、復路の前方(下流側)に形成された規制壁に案内され流出開口を通じてケーシングの流出口から流出する。その際、発熱手段によって温度が上昇して復路に流入した流体から、炭化ケイ素質の積層体を介して往路の流体に熱が移動(熱交換)する。その結果、発熱手段と熱交換による加熱作用によって、往復する流体を連通空間付近で著しく昇温することができる。このように流体が高温化することにより、さらにはこの付近に目的とする反応を促進する触媒を配置しておくことにより、通常の内部熱交換機能をもたない反応器と比べて、目的とする反応の速度を著しく促進することができる。
【0057】
なお往路及び復路と連通空間を流れる流体としては、液体及び気体のいずれも用いることができる。
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。本実施例は、自動車からの排ガスを昇温して浄化することができる積層内部熱交換型反応器に関する。
【実施例1】
【0059】
<前駆体形成工程>
先ず活性炭を70質量%含有する厚さ約0.3mm、秤量約110g/m2の平板(片面段ボール紙の平板相当品)と、この平板をコルゲート加工することにより形成された波板(片面段ボール紙の波板相当品)とをそれぞれ複数枚用意した。図1(a)に示すように、波板1には山部10と谷部11とが交互に形成されている。
【0060】
次に、フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比がSi/C=1.5になる割合でフェノール樹脂と平均粒径約20μmのシリコン粉末との混合量を設定し、さらに平均粒径約3μmの炭化ケイ素粉末をシリコン粉末と同量添加し、シリコン粉末重量の約0.6倍の重量のエチルアルコールでフェノール樹脂を溶解して、粘土状のペーストを調製した。このペーストを用い、図1(b)に斜線部で示すように、波板1の一端部で谷部11にペーストを充填して目詰め部12を形成した。また山谷部の延びる方向に対して直角方向の両端部では、山部10にペーストを充填した。谷部11は断面略U字形状をなし大きく開口しているので、ヘラなどを用いてペーストを容易にかつ均一に充填することができる。次いでペーストが充填された両端の山部10を波板1の一端部に近い部位で切欠き、左右一対の流出開口13を形成した。
【0061】
そして活性炭を70質量%含有する短冊形状の平板(片面段ボール紙の平板相当品)を複数枚用意して厚さ2mm程度に積層し、図1(b)に示すように、長手方向3箇所で山部10を横断するように山部10の頂部に紙用接着剤で貼着してスペーサ14を形成した。こうして図1(c)に示された単位波板1'を製造した。
【0062】
得られた単位波板1'と平板2とを、紙用接着剤を用いて交互に積層し、図2に示す積層前駆体3を形成した。なお各単位波板1'は、目詰め部12が同一端面に表出するように積層され、左右一対の流出開口13も長手方向の同一位置に表出している。目詰め部12が表出する一端面には山部10と平板2とで区画された通路が開口し、反対側の他端面には山部10と平板2とで区画された通路と、谷部11と平板2とで区画された通路とが開口している。
【0063】
なお流出開口13が開口する両側面には、単位波板1'と平板2との間にスペーサ14に起因する隙間が生じているので、その隙間を流出開口13の部位を除いて上記したペーストで充填した。
【0064】
<含浸工程>
次に、フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比がSi/C=3になる割合でフェノール樹脂と平均粒径約20μmのシリコン粉末との混合量を設定し、シリコン粉末重量の約0.9倍の重量のエチルアルコールでフェノール樹脂を溶解してスラリーを調製し、シリコン粉末の粒径を小さくするために1日間ボールミル混合して、更に平均粒径約3μmの炭化ケイ素粉末をシリコン粉末の0.33倍の重量添加し、分散スラリーを調製した。そして上記積層前駆体3にこの分散スラリーを含浸させ、余分なスラリーを吹き払った後、70℃で3時間乾燥した。
【0065】
<炭素化工程>
その後、アルゴンガス雰囲気下にて1000℃に加熱して炭素化した。この時、波板1、平板2及びスペーサ14が熱分解して炭素化されるとともに、含浸しているスラリー及び目詰め部12中のフェノール樹脂が炭素化し、積層前駆体3と同等の形状をなし同等の多孔質構造を有する炭素質積層前駆体が形成された。
【0066】
<焼成工程>
次いで、この炭素質積層前駆体を真空中にて1450℃で1時間焼成した。この焼成では、シリコンの融点(約1410℃)以下の温度で、炭素がシリコンと反応して、炭化ケイ素からなり炭素質積層前駆体と同等の立体骨格を有する炭化ケイ素質の積層体が形成された。
【0067】
この炭化ケイ素質の積層体は、図2に示した積層前駆体3と同一の形状をなしている。したがって便宜上、以下の説明において、積層体には積層体3と符号を付け、積層体3の各部位には積層前駆体3の対応する部位と同一の符号を付けて説明する。
【0068】
<封入工程>
次に、図3に示すケーシング4を用意した。ケーシング4は直方体形状の収納空間40を有し、長手方向の一端面に収納空間40に連通する流入口41を有している。また一端面と他端面とを連結する一対の側面には、それぞれ流入口41の近傍に流出口42が形成されている。収納空間40は、図示しない締結具を用いて蓋43によって密閉されるように構成されている。
【0069】
このケーシング4に上記した積層体3を収納した。このとき図4に示すように、目詰め部12が表出し山部10と平板2とで区画された通路が開口する一端面が流入口41に対向するように、かつ左右一対の流出開口13が一対の流出口42にそれぞれ対向するように積層体3を配置した。積層体3の他端面とケーシング4との間には連通空間44が形成されている。またケーシング4の積層体3の他端面に対向する表面には、図示しない電源によって加熱可能なヒーター100が固定されている。
【0070】
図5に示すように、目詰め部12が表出する積層体3の一端面には、山部10と平板2とで区画された通路(以下、往路30という)が開口し、往路30は流入口41と連通している。一方、連通空間44に対向する他端面には、図6に示すように、谷部11と平板2とで区画された通路(以下、復路31という)と、往路30とが開口している。また波板1と平板2との間にはスペーサ14が介在しているので、図7に示すように、山部10の稜線と平板2との間には面状空間15が形成され、面状空間15は復路31と連通している。また積層体3の一対の側面とケーシング4との間には、図示しないシール材が介在されている。
【0071】
すなわち流入口41から流入する排ガスは、図8に模式的に示すように、往路30に流入した後に連通空間44に入り、ヒーター100で加熱された後に連通空間44から復路31に流入する。そして復路31及び面状空間15を通過し、目詰め部12(規制壁)によって流れが規制された排ガスが流出開口13を介して流出口42から流出する。したがって本実施例に係る積層体3には、波板1の山部10と平板2との間に往路30を有する流入側ユニットが形成され、波板1の谷部11と平板2との間に復路31を有する流出側ユニットが形成され、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されている。
【0072】
また往路30を流れる排ガスは、復路31と往路30とを区画する熱伝導性に優れた炭化ケイ素質の薄い壁面を介して復路31を流れる排ガスからの熱を受けて(熱交換)加熱される。すなわち往路30から連通空間44に流入する排ガスの温度が高まり、それがさらにヒーター100で加熱され昇温されて排ガスは最高温度に達する。その後、復路31に流入した排ガスは、往路を流れる排ガスと熱交換されて降温し、最終的には往路30への流入時に比べてヒーター100による正味の加熱分(断熱上昇温度)だけ温度上昇して、流出口42から流出される。
【0073】
したがって本実施例に係る反応器の連通空間内部あるいはその近傍の往復路内部あるいは往復路を形成している積層体表面に、排ガス浄化用触媒など目的とする反応を促進する触媒を配置しておけば、発熱手段と熱交換機能によって触媒の温度が著しく高められることにより、始動時などの低温域においても排ガス温度を触媒の活性温度まで高めることができ、有害物質の排出を大きく抑制することができる。
【実施例2】
【0074】
図9に本実施例の積層内部熱交換型反応器を示す。この積層内部熱交換型反応器は、前駆体形成工程で用いた材料が異なること以外は実施例1と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0075】
本実施例では、活性炭を70質量%含有する厚さ約0.3mm、秤量約110g/m2の平板と、この平板をコルゲート加工することにより形成された波板と、が一枚ずつ積層された片面段ボール紙32を複数枚用意した。そして実施例1と同様にして目詰め部12を形成した。また山谷部の延びる方向に対して直角方向の両端部では、山部10にペーストを充填した。谷部11は断面略U字形状をなし大きく開口しているので、ヘラなどを用いてペーストを容易にかつ均一に充填することができる。次いでペーストが充填された両端の山部10を波板1の一端部に近い部位で切欠き、左右一対の流出開口13を形成した。そして実施例1と同様に、長手方向3箇所で山部10を横断するように、山部10の頂部に紙用接着剤で活性炭を70質量%含有する平板(片面段ボール紙の平板相当品)を貼着してスペーサ14を形成した。
【0076】
このように形成された片面段ボール紙32を、紙用接着剤を用いて複数枚積層し、最上部に平板2のみを積層して、本実施例の積層前駆体3を形成した。各片面段ボール紙32は、目詰め部12が同一端面に表出するように積層され、左右一対の流出開口13も長手方向の同一位置に表出している。目詰め部12が表出する一端面には山部10と平板2とで区画された通路(往路30)が開口し、反対側の他端面には山部10と平板2とで区画された通路(往路30)と、谷部11と平板2とで区画された通路(復路31)とが開口している。
【0077】
<含浸工程・炭素化工程>
次に、フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比がSi/C=0.6になる割合でフェノール樹脂と平均粒径約20μmのシリコン粉末との混合量を設定し、シリコン粉末重量の約2.5倍の重量のエチルアルコールでフェノール樹脂を溶解してスラリーを調製し、シリコン粉末の粒径を小さくするために1日間ボールミル混合して、更に平均粒径約3μmの炭化ケイ素粉末をシリコン粉末の0.5倍の重量添加し、分散スラリーを調製した。そして上記積層前駆体3にこの分散スラリーを含浸させ、余分なスラリーを吹き払った後、70℃で3時間乾燥した。
【0078】
この積層前駆体3を用い、実施例1と同様にして炭素化工程を行って、炭素質積層前駆体を形成した。
【0079】
<焼成工程・溶融含浸工程>
次にシリコン顆粒の適量を炭素質積層前駆体の表面に置き、真空中にて1450℃で1時間焼成した。この焼成では、まずシリコンの融点(約1410℃)以下の温度で、炭素がシリコン粉末と反応して、炭化ケイ素と未反応の炭素とからなる積層体3が形成される。さらに、シリコンの融点以上の温度で積層体3にシリコン顆粒が溶融含浸し、未反応の炭素と反応して炭化ケイ素が生成するとともに、余剰の金属シリコンによって積層体3が補強される。
【0080】
得られた積層体3について実施例1と同様にして封入工程を行い、本実施例の積層内部熱交換型反応器を得た。本実施例の積層内部熱交換型反応器によれば、実施例1の積層内部熱交換型反応器に比べて積層体3の強度及び密度が高い。また積層前駆体3の製造時には、波板と平板とを交互に積層する手間を省くことができ、工数をさらに低減することができる。
【実施例3】
【0081】
図10及び図11に本実施例の積層内部熱交換型反応器に用いた積層体を示す。この積層体は、前駆体形成工程で用いた材料が異なること以外は実施例2と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0082】
本実施例では、実施例2と同様の片面段ボール紙32を複数枚用意した。そして実施例2と同様にして目詰め部12を形成し、左右一対の流出開口13を形成した。そしてスペーサ14を形成した第1片面段ボール紙33と、スペーサ14を形成しなかったこと以外は第1片面段ボール紙33と同一の第2片面段ボール紙34を用意した。
【0083】
そして第1片面段ボール紙33と第2片面段ボール紙34を互いの山部10が対向するように、かつ流出開口13どうしが互いに連通するように積層した単位積層体35を形成し、複数の単位積層体35をそれぞれ同じ向きに積層して本実施例の積層前駆体3を形成した。
【0084】
この積層前駆体3を用い、実施例2と同様にして含浸工程、炭素化工程、焼成工程及び溶融含浸工程を行って炭化ケイ素質の積層体3を形成し、さらに実施例1と同様にして封入工程を行って、本実施例の積層内部熱交換型反応器を得た。
【0085】
この積層体3では、目詰め部12が表出する一端面には往路30が開口し、反対側の他端面には往路30と、復路31とが開口している。したがって流入口41から流入する排ガスは、往路30に流入して連通空間44に入り、ヒーター100で加熱された後に連通空間44から復路31に流入する。そして復路31及びスペーサ14によって確保された面状空間15を通過し、目詰め部12(規制壁)で流れが規制された排ガスが流出開口13を介して流出口42から流出する。したがって本実施例に係る積層体3には、第1片面段ボール紙33及び第2片面段ボール紙34の山部に往路30を有する流入側ユニットが形成され、第1片面段ボール紙33及び第2片面段ボール紙34の谷部に復路31を有する流出側ユニットが形成され、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されている。
【0086】
なお本実施例では、スペーサ14によって復路31どうしが連通する面状空間15を形成したが、図12及び図13に示すようにすれば、隙間形成に用いる厚いスペーサ14を不要とすることができる。図12には目詰め部12の部位における断面図を示し、図13には流出開口13の部位における断面図を示している。
【0087】
すなわち、第1片面段ボール紙33と第2片面段ボール紙34を互いの山部10と谷部11とが間隔を隔てて対向するように、かつ目詰め部12どうしの間を同様のペーストで目詰めして積層する。このとき、第2片面段ボール紙34の一部を潰して流出開口13を形成して単位積層体35を形成する。複数の単位積層体33をそれぞれ同じ向きに積層して積層体3とする。このようにすることで、第1片面段ボール紙33と第2片面段ボール紙34との間に断面波形状をなす面状の復路31が形成されるので、スペーサ14を不要として全ての復路31を流出開口13と連通させることができる。
【0088】
なお往復路間の圧力差などによる往路30又は復路31の変形を防止するためには、スペーサ14を用いて山部10を補強することが望ましい。この場合、スペーサ14は薄くてもよい。
【0089】
また図14に模式的な平面図を示すように、互いの山部10の稜線が交差するように第1片面段ボール紙33と第2片面段ボール紙34を重ねて単位積層体35を形成すれば、互いの山部10の稜線が重なる部分が少なくなるので、復路31どうしが互いに連通する。したがってスペーサ14を不要として全ての復路31を流出開口13と連通させることができる。また左右両側の山部10以外の山部10の高さを部分的に低くしても、スペーサ14を用いることなく面状空間15を形成することができる。
【実施例4】
【0090】
図15に本実施例の積層内部熱交換型反応器に用いた積層体を示す。この積層体は、前駆体形成工程で用いた材料が異なること以外は実施例2と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0091】
本実施例では、活性炭を70質量%含有する厚さ約0.3mm、秤量約110g/m2の平板2と、この平板2をコルゲート加工することにより形成された波板1とからなり、波板1の両側にそれぞれ平板2が積層された両面段ボール紙を用いている。
【0092】
先ず2枚の両面段ボール紙を、波板1の山部10の稜線が互いに平行となるように紙用接着剤で積層する。このとき、上段ボール紙50の一端面が下段ボール紙51の一端面から離間し、他端面どうしが揃うように積層する。そして下段ボール紙51の一端部に、波板1の一つの山部10をもつ単位段ボール紙52を、山部10の稜線が下段ボール紙51の山部10の稜線と直交するように積層する。したがって上段ボール紙50の一端面と単位段ボール紙52との間には、上段ボール紙50の山谷部と連通し左右方向に延びる通路53が形成されている。
【0093】
このように構成された単位積層体54を同じ向きとなるように複数枚積層し、最上部の単位積層体54には平板2を積層して、本実施例の積層前駆体5を形成した。この積層前駆体5を用い、実施例2と同様にして含浸工程、炭素化工程、焼成工程及び溶融含浸工程を行って炭化ケイ素質の積層体5を形成し、さらに実施例1と同様にして封入工程を行って、本実施例の積層内部熱交換型反応器を得た。
【0094】
本実施例の積層内部熱交換型反応器によれば、下段ボール紙51の一端面に開口する山谷部から流入した排ガスは、連通空間44に流入し、連通空間44から上段ボール紙50の山谷部に流入し、上段ボール紙50の山谷部から出た後、単位段ボール紙52に案内されて通路53に流入する。すなわち単位段ボール紙52が規制壁として機能している。通路53はケーシング4の流出口42に連通しているので、排ガスは通路53に案内されて流出口42から流出する。したがって本実施例に係る積層体5には、下段ボール紙51の山谷部に往路30を有する流入側ユニットが形成され、上段ボール紙50の山谷部に復路31を有する流出側ユニットが形成され、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されている。
【0095】
なお例えば図16に示すように、各単位積層体54について上段ボール紙50を厚さ方向に部分的に切り抜いて枠状としてもよい。また本実施例の積層体5では、復路31の全開口面積に比べて通路53の断面積が小さいため、中央部付近の復路流路が側面近くの復路流路と比べて、流出の際に圧損が大きくなる場合がある。そのような場合には、図17に示すように、各単位積層体54について通路53に対向する上段ボール紙50の一端面をV字状に切り欠いた構造とすれば、通路53の断面積が大きくなるとともに復路31から流出した排ガスがV字状の端面に沿って案内されるため、圧損を低減することができる。また片面段ボール紙から上段ボール紙50、下段ボール紙51、単位段ボール紙52の少なくとも一つを形成することも可能である。
【実施例5】
【0096】
先ず実施例2と同様の片面段ボール紙を用意し、実施例1と同様のペーストを用いて図18に示すように複数の山谷部のうち左側面から半数を一端面で目詰めして目詰め部60を形成した。次いで実施例2と同様にして、波板2の山部の稜線を横断するスペーサ14を貼着し、第1単位積層体61を形成した。一方、実施例1と同様のペーストを用い、図19に示すように複数の山谷部のうち右側面から半数を一端面で目詰めして目詰め部62を形成した。次いで実施例2と同様にして、波板2の山部の稜線を横断するスペーサ14を貼着し、第2単位積層体63を形成した。
【0097】
図20に示すように、第1単位積層体61と第2単位積層体63を、目詰め部60と目詰め部62とが同じ端面側となるように交互に積層し、最上部の単位積層体には平板2を積層して、本実施例の積層前駆体6を形成した。図20に示すように積層前駆体6の一端面には目詰め部60と目詰め部62が千鳥状に形成され、目詰め部60の最右端の目詰め部60aと目詰め部62の最左端の目詰め部62aは各層で厚さ方向に重なっている。なお、他端面には目詰め部が存在していない。
【0098】
この積層前駆体6を用い、実施例2と同様にして含浸工程、炭素化工程、焼成工程及び溶融含浸工程を行って炭化ケイ素質の積層体6を形成した。この積層体を図21に示すケーシング7に収納する封入工程を行い、本実施例の積層内部熱交換型反応器を得た。
【0099】
図21に示すケーシング7は、一端面に流入口70と流出口71を有し、一端面に連続する内部空間には流入口70と流出口71を区画する隔壁72が形成されている。収納された積層体6は、目詰め部60aと目詰め部62aが隔壁72に当接し、他端面とケーシング7の内壁面との間には連通空間73が形成されている。積層体6は、目詰め部60側(流出ブロック)の復路65の開口が流出口71に連通し、目詰め部62側(流入ブロック)の往路64の開口が流入口70に連通している。
【0100】
すなわち流入口70から流入した排ガスは、第1単位積層体61の一端面の目詰め部62側(流入ブロック)に開口する往路64へ流入し、往路64とスペーサ14によって形成された面状空間15を流れて連通空間73に流入する。そしてヒーター100で加熱された排ガスは、連通空間73から積層体6の往路64以外の開口へ流入し、面状空間15を流れて目詰め部60側(流出ブロック)に開口する復路65へ向かい、流出口71から流出する。すなわち積層体6の目詰め部62側(流入ブロック)に開口する山谷部が流入側ユニットを形成し、目詰め部60側(流出ブロック)に開口する山谷部が流出側ユニットを形成し、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されている。
【0101】
したがって本実施例の積層内部熱交換型反応器によれば、積層体6の全長で向流となるので、熱交換性能が向上するとともに、よりコンパクトとすることができる。また大きな片面段ボール紙を用い、図22に示すように、一枚毎に複数の目詰め部と複数の非目詰め部とを左右方向に交互に形成すれば、幅方向に複数の流入ブロックと流出ブロックを形成できるので、大型の積層内部熱交換型反応器も容易に製造することができる。
【0102】
また本実施例の場合においても、図16と同様に、第1単位積層体61及び/又は第2単位積層体63の山部10を部分的に切り欠いておけば、スペーサ14を不要とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の積層内部熱交換型反応器は、流れる気体又は液体をその内部で著しく昇温することが可能であり、自動車排ガスの浄化装置、化学工業などの各種分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1:波板 2:平板
3:積層前駆体(積層体) 4:ケーシング
10:山部 11:谷部
12:目詰め部 13:流出開口
14 :スペーサ 15:面状空間
30:往路 31:復路
41:流入口 42:流出口
44:連通空間 100:ヒーター(発熱手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流れる複数の流路が左右方向及び上下方向に列設された積層内部熱交換型反応器とその製造方法に関し、より詳しくは炭化ケイ素系セラミックスからなる積層内部熱交換型反応器とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体を一時的に加熱することは、種々の産業分野において様々な要請に応じて行われている。例えば化学工業分野では、目的とする化学反応に適する温度まで原料を予め加熱することが行われ、数多くの化学装置で行われている。
【0003】
また悪臭ガスや揮発性有機溶剤(VOC)などの有害ガスは、一般に、燃焼や触媒によって無臭の無害なガスに転化することができる。しかし大気中に含まれる有害ガス濃度は一般に低濃度であり、かつ温度も低いために、有害ガスの燃焼を開始し継続させるためには、予熱した後に燃焼領域へ流入させることが行われている。
【0004】
さらに自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガスを酸化触媒、三元触媒、NOx選択還元触媒、NOx吸蔵還元触媒、フィルタ触媒などを用いて浄化する場合において、エンジン始動時などの低温域ではCO、HC、NOx、PMを浄化することが困難となる。またディーゼルエンジンなどのリーンバーンエンジンにおいては、燃焼温度が低いために触媒による浄化効率も低いという不具合がある。したがって排ガスを予熱した後に触媒へ供給することが望ましい。
【0005】
そこで従来より、例えばPtなどの触媒金属を多く担持した触媒を通常の触媒の上流側に配置することが行われている。このような触媒装置によれば、上流側の触媒では酸化活性が早期に発現されるためCO及びHCの酸化反応熱によって排ガスが加熱され、下流側の触媒へ流入する排ガス温度を高めることができる。しかし、この方法で可能な加熱温度は、加熱源となるCOやHC等の濃度によって定まる断熱上昇温度にしかならない。すなわち、例えば0.1%のCOあるいはエチレンの完全酸化の反応熱によってもたらされる上昇温度は、それぞれ10Kあるいは48Kにしかならない。このため、より温度の上昇を必要とする場合には、排ガス中に燃料を添加することが行われているが、多くの燃料が必要となる。このように触媒燃焼による予熱だけでは、燃費が大きく悪化するという不具合がある。
【0006】
これに対して、化学装置で行われているように、反応熱の回収による予熱を利用すると、熱交換性能によっては、上昇温度を断熱上昇温度の2〜4倍まで増大させることが可能になる。ただし、自動車の排ガスを予熱する装置などにおいては、搭載性の点から、装置の規模をコンパクトとすることが求められる。このコンパクト性を確保するため、熱交換性能が高い向流プレート型の熱交換構造の実用化が求められている。
【0007】
例えば特開2004-069293号公報には、ステンレス薄板を蛇腹状に多数回折り曲げ全体形状として直方体でアコーディオン形状の構造体とし、これを直方体容器に収納した熱交換器が提案されている。構造体はその長手方向の一端を封じ他端は開放とし、容器には封じた側の近くに流体の入り口と出口を有している。入り口から流入したガスはアコーディオン形状の一表面に沿って(往路)流れて解放端から出、流れ方向が反転されてアコーディオン形状の他表面に沿って(復路)流れて容器の出口から流出する。構造体の開放端近傍に触媒を担持させておくことで、排ガス中のCOやHCを酸化することができ、その反応熱及び復路から往路に向かっての内部的な熱回収によって、折り返し部における排ガスを著しく加熱することができる。
【0008】
この内部熱交換型反応器は、限られた容積の中で伝熱面積を大きくするとともに排ガス通路幅を小さくすることができるので、熱交換性能が高い、また排ガス温度が最大となる折り返し部の容積が小さいので放熱ロスが小さい、可動部がなく構造が単純であるため安価となる、などの特徴を備えている。
【0009】
また国際特許公開第2004/099577号パンフレットには、薄い箱形の伝熱板を多数積層した直方体形状の構造体をケーシングに封入し、ケーシングの一端に形成された流入開口から構造体の長手方向に延びる往路に排ガスを流入させ、構造体から出た排ガスをケーシング内で流れ方向を反転させて構造体の長手方向に延びる復路に流入させ、流入口近傍に形成されたケーシングの出口から流出するように構成され、さらに構造体に触媒を担持した排ガス浄化装置が提案されている。この装置によっても、排ガス中のCOやHCの酸化反応熱及び内部熱交換機能によって排ガスを大きく加熱することができる。
【0010】
ところが上記した反応器においては、排ガスを構造体の複数の往路に均等に分配できるようにするための構造や、往路と復路との間のシール構造が難しいという問題があった。
【0011】
そこで特開2008−157592号公報には、コージェライトなどから形成された薄板が互いに間隔を隔てて積層され、薄板どうしの間に面状流路を形成した熱交換構造体が提案されている。この熱交換構造体は、面状流路を挟んで一つおきに配置された往路と復路が一方向に伸長され、伸長方向の一端面の一領域に往路用の流入口が面状流路の一つおきに設けられ、別の領域に流出口が面状流路の別の一つおきに設けられている。また流入口及び流出口が設けられたのとは反対側の伸長方向の端部には、ケーシングとの間の空間を介して往路と復路を連通させるための連通空間が設けられている。そして連通空間の近傍にヒータや酸化触媒を設けて流体を加熱することで、折り返し部近傍における流体温度を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-069293号公報
【特許文献2】国際特許公開第2004/099577号パンフレット
【特許文献3】特開2008−157592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが特許文献3に記載の熱交換構造体は、コージェライトなどのセラミック板やステンレス板などから形成する場合、その部品点数あるいは工数が大きく、また特にセラミック製の場合、構造壁が薄くかつ機械的強度に優れた一体構造にすることが難しいという不具合があった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、コンパクトでありながら高い熱交換機能を有し、製造も容易な積層内部熱交換型反応器を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の積層内部熱交換型反応器の製造方法の特徴は、有機多孔質体からなる平板と有機多孔質体からなり山部と谷部が交互に形成された波板とが積層され少なくとも波板の山部と平板との間に往路を有する流入側ユニットと、平板と波板とが積層され少なくとも波板の谷部と平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、一端面には往路と復路の両方が開口し一端面と反対側の他端面には復路の前方に規制壁をもつ積層前駆体を形成する前駆体形成工程と、
樹脂とシリコン粉末とを含み樹脂が溶解したスラリー又はスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを積層前駆体に含浸させて含浸体とする含浸工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて含浸体を加熱し樹脂を炭素化するとともに積層前駆体を熱分解して積層前駆体と略同一形状の炭素質積層前駆体とする炭素化工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭素質積層前駆体を加熱することでシリコンと炭素とを反応させて炭素質積層前駆体から積層前駆体と略同一形状で炭化ケイ素質の積層体を形成する焼成工程と、を行い、
流入口と流出口をもつケーシングに、他端面に開口する往路が流入口に連通するとともに復路を流れる流体が規制壁によって流出口へ案内されるように得られた積層体を封入し、積層体の一端面とケーシングとの間には一端面に開口する往路及び復路と連通する連通空間を形成し、連通空間及び連通空間近傍の積層体の少なくとも一方に発熱手段を形成することにある。
【0016】
また第2の発明である積層内部熱交換型反応器の製造方法の特徴は、有機多孔質体からなる平板と有機多孔質体からなり山部と谷部が交互に形成された波板とが積層され少なくとも波板の山部と平板との間に往路を有する流入側ユニットと、平板と波板とが積層され少なくとも波板の谷部と平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、一端面には往路と復路が開口し一端面と反対側の他端面には復路の前方に規制壁をもつ積層前駆体を形成する前駆体形成工程と、
樹脂を溶解状態で含む溶液又は該溶液にさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを積層前駆体に含浸させて含浸体とする含浸工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて含浸体を加熱し樹脂を炭素化するとともに積層前駆体を熱分解して積層前駆体と略同一形状の炭素質積層前駆体とする炭素化工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭素質積層前駆体に溶融シリコンを含浸させシリコンと炭素とを反応させて炭素質積層前駆体から積層前駆体と略同一形状で炭化ケイ素質の積層体を形成する溶融含浸工程と、を行い、
流入口と流出口をもつケーシングに、他端面に開口する往路が流入口に連通するとともに復路を流れる流体が規制壁によって流出口へ案内されるように得られた積層体を封入し、積層体の一端面とケーシングとの間には一端面に開口する往路及び復路と連通する連通空間を形成し、連通空間及び連通空間近傍の積層体の少なくとも一方に発熱手段を形成することにある。
【0017】
そして本発明の製造方法により製造される本発明の積層内部熱交換型反応器の特徴は、炭化ケイ素系セラミックスからなる平板と、炭化ケイ素系セラミックスからなり山部と谷部とが交互に形成された波板と、が積層されてなり波板の山部及び谷部と平板とで区画された多数の流路を有する積層体と、積層体が封入され流入口と流出口をもつケーシングと、からなる積層内部熱交換型反応器であって、
積層体は、平板と波板とが積層され少なくとも波板の山部と平板との間に往路を有する流入側ユニットと、平板と波板とが積層され少なくとも波板の谷部と平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、
積層体の一端面には往路と復路が開口し、一端面と反対側の他端面には復路の前方に規制壁をもち、積層体の一端面とケーシングとの間には往路及び復路と連通する連通空間が形成され、連通空間の内部及び連通空間近傍の積層体の少なくとも一方には発熱手段を有し、
流入口から流入した流体が、他端面に開口する往路から連通空間へ流入し、往路内で連通空間に流入する前に復路を流れる流体から熱を受け取って温度上昇し、連通空間から復路へ流入する際に発熱手段による加熱によってさらに温度上昇し、復路内で往路に熱を渡すことにより次第に降温し、規制壁に案内されて流出口から流出することにある。
【発明の効果】
【0018】
本願発明者は、特許第3699992号、特許第4273195号、特許第4110244号などにおいて、スポンジ状の有機多孔質構造体から炭化ケイ素質構造材を製造する方法を提案している。この製造方法は、例えばウレタンスポンジにフェノール樹脂及びシリコン粉末を含むスラリーを含浸させ、それを不活性雰囲気下で焼成することで、炭素質多孔質構造体を経て反応焼結によって炭化ケイ素質構造材を製造するものである。この製造方法によれば、得られた炭化ケイ素質多孔質構造材は、用いたウレタンスポンジと同一の骨格を有している。
【0019】
そこで本願発明者は、上記特許に記載された方法を用いて内部熱交換型反応器を製造することを想起した。この製造方法を用いれば、多様な内部構造を有する炭化ケイ素質構造材を容易に形成することができるので、耐熱性、耐蝕性に優れ、高強度で熱伝導率が大きな内部熱交換型反応器を製造することが可能となる。そして内部熱交換型反応器の骨格として段ボール紙の骨格を利用することで、目詰めを簡単に行うことができること、段ボール紙の波板と平板で形成された直線状の通路を流路として利用できることなどを見出し、本発明を完成した。
【0020】
すなわち本発明の製造方法によれば、段ボール紙などの有機多孔質体を用いて積層前駆体を形成しているので、紙工作のようにして積層前駆体をきわめて容易に形成することができる。また流路に目詰めが必要な場合にも、粘度の高いスラリーを用いて、あるいは山部を潰すなどの方法で、きわめて容易に行うことができる。さらに曲げ、潰し、切除などの加工が容易であるので、積層前駆体の流路を自在に調整することができる。そして積層前駆体の形状そのままの積層内部熱交換型反応器を製造できるので、セラミック構造体の製造で通常行われている押し出し成形法と異なり、複雑な形状であっても小さな工数できわめて容易に製造することができる。
【0021】
そして本発明の製造方法により製造された本発明の積層内部熱交換型反応器によれば、炭化ケイ素質であるため熱伝導性に優れている。また波板と平板との間に流路が形成されているので、流体と流路壁面との接触面積(伝熱面積)をきわめて大きくすることができ高い熱交換機能を備えている。そして流体が往路を流れる方向と復路を流れる方向とが互いに逆向きとなり、理想的な向流が形成されるとともに、流体の速度や温度が均等化する。したがって本発明の積層内部熱交換型反応器は、コンパクトでありながら高い熱交換機能を有している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係る単位波板の製造方法を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例に係る積層前駆体(積層体)の斜視図である。
【図3】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の分解斜視図である。
【図4】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の断面図である。
【図5】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の流入側端部の断面図である。
【図6】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の連通空間側端部の断面図である。
【図7】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器の要部断面図である。
【図8】本発明の一実施例に係る積層内部熱交換型反応器における排ガスの流れを示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係る積層内部熱交換型反応器の分解斜視図である。
【図10】本発明の第3の実施例に係る単位積層体の製造方法を示す説明図である。
【図11】本発明の第3の実施例に係る積層前駆体(積層体)の斜視図である。
【図12】本発明の第3の実施例に係る積層前駆体(積層体)の他の態様を示す流入側端部の断面図である。
【図13】本発明の第3の実施例に係る積層前駆体(積層体)の他の態様を示す断面図である。
【図14】本発明の第3の実施例に係る単位積層体の他の態様を示す概略平面図である。
【図15】本発明の第4の実施例に係る積層前駆体(積層体)の製造方法を示す斜視図である。
【図16】本発明の第4の実施例に係る単位積層体の他の態様を示す斜視図である。
【図17】本発明の第4の実施例に係る単位積層体の他の態様を示す斜視図である。
【図18】本発明の第5の実施例に係る単位積層体の製造方法を示す説明図である。
【図19】本発明の第5の実施例に係る単位積層体の製造方法を示す説明図である。
【図20】本発明の第5の実施例に係る積層前駆体(積層体)の斜視図である。
【図21】本発明の第5の実施例に係る積層内部熱交換型反応器の断面図である。
【図22】本発明の第5の実施例に係る積層前駆体(積層体)の他の態様を示す流入側端部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の製造方法では、出発素材として有機多孔質体からなる平板と、同じく有機多孔質体からなる波板とを用いている。平板及び波板の気孔率や細孔分布は、目的に応じて種々選択することができ、同一であってもよいし異なっていてもよい。有機多孔質体としては、紙、不織布、織布、編布、ウレタン発泡体、など種々の有機材料からなる多孔質体を用いることができる。平板と波板とで材質が同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0024】
例えば両面段ボール紙や片面段ボール紙は、多孔質な平板とその平板から形成された波板とが互いに接合されたものであり、またコピー紙などに比べて多孔質度が高いので、好適に用いることができる。また例えば布から波板を形成するには、波板形状に賦形した後、樹脂などの有機バインダを含浸させて波形状を固定してもよい。
【0025】
平板及び波板は、炭素粉末を含むことが好ましい。炭素粉末を50質量%以上含んでいることが好ましく、70質量%以上含むことが望ましい。炭素粉末を含むことで、後述するスラリーの含浸量が少ない場合でも十分な炭化ケイ素骨格を形成することができ、炭素化工程や焼成工程における体積収縮を抑制することができる。したがって積層前駆体と同一形状の炭化ケイ素質の積層体を容易に製造することができる。
【0026】
前駆体形成工程では、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されてなる積層前駆体が形成される。流入側ユニットは、平板と波板とが積層され少なくとも波板の山部と平板との間に往路を有している。また流出側ユニットは、平板と波板とが積層され少なくとも波板の谷部と平板との間に復路を有している。波板は山部と谷部とが交互に形成されているので、往路と復路とはそれぞれ複数形成される。往路の下流側である一端面には、往路と復路が共に開口し、一端面と反対側の他端面には復路の前方に規制壁が形成されている。この規制壁は、復路を流れる流体の流れ方向を規制してケーシングの流出開口へ案内するものであり、目詰め部、潰し部あるいは壁部からなるものである。
【0027】
例えば1枚の波板の両側にそれぞれ平板が積層されてなるサンドイッチ構造の両面段ボール紙を用いれば、波板の山部と平板とで構成される流路と、波板の谷部と平板とで構成される流路とが既に分離されている。したがって一方の流路の一端部を閉塞して規制壁を形成し、その閉塞された流路に外部と連通する流出開口を形成すれば、閉塞されていない流路が往路となり閉塞された流路が復路となるので、1枚の段ボール紙で流入側ユニットと流出側ユニットを形成することができる。流路を閉塞して規制壁を形成するには、粘度の高いスラリーを一端部に充填する方法、あるいは流路を一端部で物理的に潰して閉塞する方法などがある。
【0028】
また1枚の波板の片側に平板が積層されてなる片面段ボール紙を用いる場合には、紙製の平板を片面段ボール紙の波板に積層すれば上記したサンドイッチ構造の段ボールとなるので、上記と同様に流入側ユニットと流出側ユニットを形成することができる。片面段ボール紙であれば、波板を一端部で物理的に潰して閉塞するのが容易であり、あるいは谷部へのスラリーの充填が容易であるので、上記した規制壁を形成するための工数を低減することができる。
【0029】
また片面段ボール紙を用いる場合には、短冊状の複数枚の紙製スペーサーを介して平板を積層することも好ましい。このようにすれば波板の山部の頂面又は谷部の底面と平板との間に面状空間が形成され、これにより往路又は復路の中で互いに平行する山部あるいは谷部の流路間を連通することができる。このことにより流路間の流速を均等化したり、復路においては全ての流路を流出開口と連通させることができる。またこの面状空間によって、往路又は復路を流れる流体の圧力損失を低減することができる。なお波板の山部と平板との間に面状空間を形成するには、波板の山部の頂部又は谷部の底部の一部を潰して山高さ又は谷深さを小さくしてもよい。
【0030】
さらに、図10、11に示すように、2枚の片面段ボール紙を波板どうしが互いに対向するように、かつ互いの山部どうしが対向するように積層し、互いに対向する谷部を流入側端部で目詰めしても、流入側ユニットと流出側ユニットを形成することができる。この場合は、対向する谷部どうしの目詰めしていない空間が復路となる。この場合にも2枚の片面段ボール紙をスペーサを介して積層すれば、復路どうしを連通する面状空間を形成することができる。
【0031】
また図12に示すように、2枚の片面段ボール紙を波板どうしが互いに対向するように、かつ互いの山部と谷部が間隔を隔てて対向するように積層すれば、波板どうしの間に復路どうしを連通する断面波状の通路が形成され、あるいは山部どうしの稜線が互いに交差するように片面段ボール紙どうしを積層すれば、隣接する上下の谷部どうしが互いに連通する通路が形成されるため、スペーサを用いなくても圧損を低くすることができる。
【0032】
前駆体形成工程で形成される積層前駆体には、他にも種々の積層形態が考えられるが、後述の実施例で詳細に説明する。
【0033】
本発明の第1の製造方法における含浸工程では、樹脂とシリコン粉末とを含み樹脂が溶解したスラリー又はそのスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを積層前駆体に含浸させて含浸体とする。また第2の製造方法における含浸工程では、樹脂を溶解状態で含む溶液又はその溶液にさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを積層前駆体に含浸させて含浸体する。樹脂を含浸させることで、炭素化工程で形成される炭素質積層前駆体の形状を保持することが可能となる。樹脂としては、溶媒に溶解して溶液となるものを用いることができ、フェノール樹脂、フラン樹脂、あるいはポリカルボシラン等の有機金属ポリマーなどが例示される。これらから選ばれる一種でもよいし、複数種を混合して用いてもよいが、熱硬化性であり炭素原子を多く含有して炭素源にもなるものが好ましく、フェノール樹脂が特に好ましい。
【0034】
第2の製造方法では、後述するようにシリコンの溶融含浸工程が必要となるが、第1の製造方法のように樹脂にシリコン粉末を加えたスラリーを用いれば、シリコンの溶融含浸工程を行わなくても炭化ケイ素質の積層体を形成することができるし、シリコンの溶融含浸工程を行う場合は溶融含浸工程をさらに容易に行うことができる。またスラリー中には添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末、カーボンブラックを添加してもよく、骨材や酸化防止剤としては炭化ケイ素が最も好ましいが、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素、ホウ素粉末などを添加することもできる。スラリーを積層前駆体に含浸するには、単に浸漬して引き上げるだけでもよいし、減圧下で含浸させることも好ましい。
【0035】
シリコン粉末を含むスラリーを用いる場合には、シリコン粉末は平均粒径が30μm以下の微粉末が好適である。粒径が大きなものは、ボールミルなどによって粉砕して用いることが好ましい。シリコン粉末は、純シリコン粉末であってもよいし、Mg、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Wなどの金属を含むシリコン合金粉末、あるいは純シリコン粉末とこれらの金属粉末との混合粉末を用いることもできる。
【0036】
シリコン粉末を含むスラリーを用いる場合には、スラリーにおける樹脂とシリコン粉末との混合比は、原子比でSi/C<5.00の範囲とするのが好ましい。この原子比が5.00を超えると、スラリー中のシリコン粉末量が多くなって沈殿し易くなる。またシリコン粉末と骨材としての炭化ケイ素粉末とを混合したスラリーを用いる場合には、炭化ケイ素粉末はシリコン粉末重量の3倍以内の範囲とするのが好ましい。炭化ケイ素粉末がシリコン粉末重量の3倍を超えると、混合が不十分となる場合がある。
【0037】
スラリー中の固形分濃度は、積層前駆体の平板と波板にスラリーを含浸可能な粘度であれば特に制限されない。またスラリーに用いられる溶媒は特に制限されないが、樹脂を溶解可能なものが用いられる。スラリーを積層前駆体に含浸するには、単に浸漬して引き上げるだけでもよいし、減圧下で含浸させることも好ましい。
【0038】
含浸工程後に、積層前駆体に付着した余剰のスラリーを除去する除去工程を行うことが望ましい。積層前駆体から余剰のスラリーを除去するのは、往路及び復路に充填された余剰のスラリーを除去して流路の閉塞を防止するためであり、遠心分離や吸引などで行うことができる。また次の炭素化工程前に、積層前駆体に付着したスラリー中の溶媒を乾燥させる乾燥工程を行うことが望ましい。乾燥工程は大気中で行うことができ、70℃で3時間程度保持すれば十分である。
【0039】
この含浸工程の前あるいは含浸工程の後には、復路を形成するため、規制壁を形成するため、あるいは隙間を埋めるための目詰め工程を行うことが望ましい。目詰め材は、耐熱性を有する各種セラミック粉末を主成分としフェノール樹脂などの有機バインダを含む粘土状のペーストを用いることができる。焼成工程で形成される炭化ケイ素質の積層体と強固に接合する炭化ケイ素粉末を主成分とするペーストを用いることが好ましい。またシリコン粉末を含むペーストを用いれば、後述の焼成工程で目詰め材が炭化ケイ素となるため、目詰め材と炭化ケイ素質の積層体との接合強度がさらに向上する。なお紙粘土や樹脂粉末など、有機質のものを目詰め材として用いることもできる。この場合、目詰め材は後述の炭素化工程で炭素化し、焼成工程で炭化ケイ素となる。
【0040】
また目詰め工程に代えて、含浸工程の前あるいは含浸工程の後に潰し工程を行うこともできる。波板の山部の一端部を潰せば、その部分が閉塞されるため目詰めに代えることができる。また復路の一部を潰して流出開口を形成することもできるし、山部を潰して高さを低くして面状空間を形成することも容易に行うことができる。
【0041】
炭素化工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて含浸体を加熱し、含浸している樹脂を炭素化するとともに積層前駆体を熱分解して炭素質積層前駆体とする。非酸化性雰囲気としては、アルゴンガスなど不活性ガス雰囲気が好ましい。樹脂の熱分解による炭素化過程では、タール状のものや気化物質が生成するので、真空中で行うのはあまり好ましくない。またシリコン粉末を含むスラリーを用いて含浸工程を行った場合には、窒素ガス雰囲気で炭素化工程を行うと窒化ケイ素が生成する場合があるのであまり好ましくない。
【0042】
炭素化工程における焼成温度は、900〜1350℃の範囲とすることができる。900〜1350℃の範囲で加熱することで、積層前駆体の表面に付着している樹脂が炭素化するとともに、積層前駆体の有機成分が熱分解しその立体骨格を維持しつつ炭素化される。したがって積層前駆体の骨格を維持した炭素質積層前駆体が形成される。
【0043】
炭素化工程後に焼成工程が行われる。この焼成工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭素質積層前駆体を加熱することで、シリコンと炭素とを反応させ、炭素質積層前駆体から炭化ケイ素質の積層体を形成する。焼成雰囲気は、炭素化工程と同様とすることができるが、真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0044】
焼成工程における焼成温度は、1350℃以上とすることができる。1350℃以上に加熱されることで炭素とシリコンとが反応し、炭化ケイ素を主成分とする炭化ケイ素質の積層体が形成される。この反応は、シリコンと炭素が系内にあるので体積が減少する反応であり、炭素が拡散してシリコンと反応することで炭化ケイ素の生成と同時に内部に微細な細孔が形成される。この多孔質炭化ケイ素は溶融シリコンとの濡れ性が良く、後述のシリコンの溶融含浸を容易に行うことができる。また既に目詰めされている場合には、目詰め材も焼成されて炭化ケイ素質の積層体と一体に固定される。
【0045】
炭素化工程と焼成工程とは、別々に行ってもよいが、炭素化工程に連続して焼成工程を行うことが望ましい。このようにすることで、熱エネルギーの無駄を防止することができる。
【0046】
第2の製造方法では、炭素化工程後に真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭素質積層前駆体に溶融シリコンを含浸させる溶融含浸工程を行う。この溶融含浸工程は、第1の製造方法でも行うことができる。この溶融含浸工程は、金属シリコンをその融点(約1410℃)以上に加熱して溶融シリコンとし、炭素質積層前駆体に含浸すればよく、特に真空中で行うことが好ましい。溶融含浸用シリコンは、粉末状、顆粒状、あるいは塊状でもよい。
【0047】
溶融含浸工程では、炭素化工程時に形成された炭素質積層前駆体の微細な細孔に溶融シリコンが浸入し、炭素と反応して炭化ケイ素が形成される。この反応は、シリコンを系外から加えているので体積が増加する反応であり、内部に形成された微細な細孔がシリコン又は炭化ケイ素で充填されることになる。したがって炭素質積層前駆体の強度が向上する。
【0048】
溶融含浸工程における反応では、シリコンと樹脂からの炭素及び有機多孔質体からの炭素の組成が原子比でSi/C<1であれば炭化ケイ素と未反応の炭素が残留し、Si/C>1であれば炭化ケイ素と未反応の金属シリコンが残留するが、強度的には金属シリコンが残留するのが好ましい。
【0049】
炭化ケイ素質の積層体がシリコンを含む場合には、含まれるシリコンの少なくとも一部を酸化してSiO2を形成する酸化工程を行うことも好ましい。SiO2にはシラノール基が容易に生成し親水性が向上する。したがって触媒金属化合物の水溶液を多量に吸水することが可能であり、それを焼成することでPtなどの触媒金属を高分散担持した積層体を形成することができる。このように触媒を担持した積層体を有する積層内部熱交換型反応器とすれば、自動車排ガスなどHCやCOを含むガスを流通させることでHCやCOを酸化することが可能となり、低温域の排ガスを加熱し浄化する反応器として用いることができる。しかも、積層体が炭化ケイ素質なので通電によって発熱可能であるため、始動時における低温の排ガスを加熱することで有害成分を浄化することができる。
【0050】
この酸化工程は、シリコンを含む炭化ケイ素質の積層体を大気中などの酸化性雰囲気中で加熱すればよい。加熱温度が高いほど、シリコンの総量に対して生成するSiO2量が多くなることが明らかとなっており、400℃以上で加熱することが望ましい。なお加熱時間は10分間程度保持すれば十分である。また形成されるSiO2の量は、加熱温度によって調整することが可能であり、加熱温度が高いほどSiO2を多く形成することができる。したがってPtなどの触媒金属を高分散状態かつ十分な担持量で担持できる厚さとすることができる加熱温度を選択すればよい。
【0051】
第1の製造方法において、焼成工程後に炭素が残る場合や強度不足の場合には、焼成工程後に、真空中又は非酸化性雰囲気中にて炭化ケイ素質の積層体に溶融シリコンを含浸させる溶融含浸工程を行うことも好ましい。溶融含浸工程は、金属シリコンをその融点(約1410℃)以上に加熱して溶融シリコンとし、炭化ケイ素質の積層体に含浸すればよく、特に真空中で行うことが好ましい。溶融含浸用シリコンは、粉末状、顆粒状、あるいは塊状でもよい。
【0052】
溶融含浸工程では、炭化ケイ素は溶融シリコンに対する濡れ性が良好であるので、焼成工程時に形成された微細な細孔に溶融シリコンが浸入し、残留している炭素と反応して炭化ケイ素が形成される。この反応は、シリコンを系外から加えているので体積が増加する反応であり、内部に形成された微細な細孔がシリコン又は炭化ケイ素で充填されることになる。したがって炭化ケイ素質の積層体の強度が向上する。
【0053】
そして溶融含浸工程では、真空中又は非酸化性雰囲気中にて1410℃の高温に晒されるため、残留炭素が存在する場合は大部分が炭化ケイ素となる。なお溶融含浸工程は、焼成工程と同時に又は焼成工程に連続して行うこともできる。すなわち炭素化工程後に、溶融含浸用シリコンを加えて真空あるいは非酸化性雰囲気にて、シリコンの融点(約1410℃)以上の温度にすることで焼成工程を行うとともにシリコンを溶融含浸させ、未反応の炭素とシリコンとを反応させる。過剰なシリコンは金属シリコンとして残留する。
【0054】
このようにして形成された炭化ケイ素質の積層体は、ケーシングに封入される。積層体の往路及び復路の開口が表出する一端面とケーシングとの間には、一端面に開口する往路及び復路と連通する連通空間が形成される。またケーシングには、積層体の往路と連通する流入口と、積層体の流出開口及び復路と連通する流出口が形成されている。流入口と流出口とはケーシングの一端面に並列に形成してもよいし、流体の流れ方向が交差するように形成してもよいが、往路と復路の流れが積層体の壁を隔てて互いに対向する流路長ができるだけ長くなるように形成することが望ましい。
【0055】
連通空間の内部及び連通空間近傍の積層体の少なくとも一方には、発熱手段が形成されている。この発熱手段は往路又は復路及び連通空間を流れる流体を直接的に又は間接的に加熱するものであり、例えば連通空間に配置された電気ヒーター、燃焼バーナー、触媒燃焼器などとすることができる。あるいは連通空間近傍の積層体表面、連通空間近傍の往路や復路の壁表面にPtやPdなどの酸化触媒を担持し、流体中に含まれる被酸化物質を酸化してその燃焼熱で発熱するものを用いることもできる。
【0056】
流入口から流入した流体は往路を通過して連通空間に入り、連通空間で反転して復路へ導入され、この間に発熱手段によって加熱された後、復路の前方(下流側)に形成された規制壁に案内され流出開口を通じてケーシングの流出口から流出する。その際、発熱手段によって温度が上昇して復路に流入した流体から、炭化ケイ素質の積層体を介して往路の流体に熱が移動(熱交換)する。その結果、発熱手段と熱交換による加熱作用によって、往復する流体を連通空間付近で著しく昇温することができる。このように流体が高温化することにより、さらにはこの付近に目的とする反応を促進する触媒を配置しておくことにより、通常の内部熱交換機能をもたない反応器と比べて、目的とする反応の速度を著しく促進することができる。
【0057】
なお往路及び復路と連通空間を流れる流体としては、液体及び気体のいずれも用いることができる。
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。本実施例は、自動車からの排ガスを昇温して浄化することができる積層内部熱交換型反応器に関する。
【実施例1】
【0059】
<前駆体形成工程>
先ず活性炭を70質量%含有する厚さ約0.3mm、秤量約110g/m2の平板(片面段ボール紙の平板相当品)と、この平板をコルゲート加工することにより形成された波板(片面段ボール紙の波板相当品)とをそれぞれ複数枚用意した。図1(a)に示すように、波板1には山部10と谷部11とが交互に形成されている。
【0060】
次に、フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比がSi/C=1.5になる割合でフェノール樹脂と平均粒径約20μmのシリコン粉末との混合量を設定し、さらに平均粒径約3μmの炭化ケイ素粉末をシリコン粉末と同量添加し、シリコン粉末重量の約0.6倍の重量のエチルアルコールでフェノール樹脂を溶解して、粘土状のペーストを調製した。このペーストを用い、図1(b)に斜線部で示すように、波板1の一端部で谷部11にペーストを充填して目詰め部12を形成した。また山谷部の延びる方向に対して直角方向の両端部では、山部10にペーストを充填した。谷部11は断面略U字形状をなし大きく開口しているので、ヘラなどを用いてペーストを容易にかつ均一に充填することができる。次いでペーストが充填された両端の山部10を波板1の一端部に近い部位で切欠き、左右一対の流出開口13を形成した。
【0061】
そして活性炭を70質量%含有する短冊形状の平板(片面段ボール紙の平板相当品)を複数枚用意して厚さ2mm程度に積層し、図1(b)に示すように、長手方向3箇所で山部10を横断するように山部10の頂部に紙用接着剤で貼着してスペーサ14を形成した。こうして図1(c)に示された単位波板1'を製造した。
【0062】
得られた単位波板1'と平板2とを、紙用接着剤を用いて交互に積層し、図2に示す積層前駆体3を形成した。なお各単位波板1'は、目詰め部12が同一端面に表出するように積層され、左右一対の流出開口13も長手方向の同一位置に表出している。目詰め部12が表出する一端面には山部10と平板2とで区画された通路が開口し、反対側の他端面には山部10と平板2とで区画された通路と、谷部11と平板2とで区画された通路とが開口している。
【0063】
なお流出開口13が開口する両側面には、単位波板1'と平板2との間にスペーサ14に起因する隙間が生じているので、その隙間を流出開口13の部位を除いて上記したペーストで充填した。
【0064】
<含浸工程>
次に、フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比がSi/C=3になる割合でフェノール樹脂と平均粒径約20μmのシリコン粉末との混合量を設定し、シリコン粉末重量の約0.9倍の重量のエチルアルコールでフェノール樹脂を溶解してスラリーを調製し、シリコン粉末の粒径を小さくするために1日間ボールミル混合して、更に平均粒径約3μmの炭化ケイ素粉末をシリコン粉末の0.33倍の重量添加し、分散スラリーを調製した。そして上記積層前駆体3にこの分散スラリーを含浸させ、余分なスラリーを吹き払った後、70℃で3時間乾燥した。
【0065】
<炭素化工程>
その後、アルゴンガス雰囲気下にて1000℃に加熱して炭素化した。この時、波板1、平板2及びスペーサ14が熱分解して炭素化されるとともに、含浸しているスラリー及び目詰め部12中のフェノール樹脂が炭素化し、積層前駆体3と同等の形状をなし同等の多孔質構造を有する炭素質積層前駆体が形成された。
【0066】
<焼成工程>
次いで、この炭素質積層前駆体を真空中にて1450℃で1時間焼成した。この焼成では、シリコンの融点(約1410℃)以下の温度で、炭素がシリコンと反応して、炭化ケイ素からなり炭素質積層前駆体と同等の立体骨格を有する炭化ケイ素質の積層体が形成された。
【0067】
この炭化ケイ素質の積層体は、図2に示した積層前駆体3と同一の形状をなしている。したがって便宜上、以下の説明において、積層体には積層体3と符号を付け、積層体3の各部位には積層前駆体3の対応する部位と同一の符号を付けて説明する。
【0068】
<封入工程>
次に、図3に示すケーシング4を用意した。ケーシング4は直方体形状の収納空間40を有し、長手方向の一端面に収納空間40に連通する流入口41を有している。また一端面と他端面とを連結する一対の側面には、それぞれ流入口41の近傍に流出口42が形成されている。収納空間40は、図示しない締結具を用いて蓋43によって密閉されるように構成されている。
【0069】
このケーシング4に上記した積層体3を収納した。このとき図4に示すように、目詰め部12が表出し山部10と平板2とで区画された通路が開口する一端面が流入口41に対向するように、かつ左右一対の流出開口13が一対の流出口42にそれぞれ対向するように積層体3を配置した。積層体3の他端面とケーシング4との間には連通空間44が形成されている。またケーシング4の積層体3の他端面に対向する表面には、図示しない電源によって加熱可能なヒーター100が固定されている。
【0070】
図5に示すように、目詰め部12が表出する積層体3の一端面には、山部10と平板2とで区画された通路(以下、往路30という)が開口し、往路30は流入口41と連通している。一方、連通空間44に対向する他端面には、図6に示すように、谷部11と平板2とで区画された通路(以下、復路31という)と、往路30とが開口している。また波板1と平板2との間にはスペーサ14が介在しているので、図7に示すように、山部10の稜線と平板2との間には面状空間15が形成され、面状空間15は復路31と連通している。また積層体3の一対の側面とケーシング4との間には、図示しないシール材が介在されている。
【0071】
すなわち流入口41から流入する排ガスは、図8に模式的に示すように、往路30に流入した後に連通空間44に入り、ヒーター100で加熱された後に連通空間44から復路31に流入する。そして復路31及び面状空間15を通過し、目詰め部12(規制壁)によって流れが規制された排ガスが流出開口13を介して流出口42から流出する。したがって本実施例に係る積層体3には、波板1の山部10と平板2との間に往路30を有する流入側ユニットが形成され、波板1の谷部11と平板2との間に復路31を有する流出側ユニットが形成され、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されている。
【0072】
また往路30を流れる排ガスは、復路31と往路30とを区画する熱伝導性に優れた炭化ケイ素質の薄い壁面を介して復路31を流れる排ガスからの熱を受けて(熱交換)加熱される。すなわち往路30から連通空間44に流入する排ガスの温度が高まり、それがさらにヒーター100で加熱され昇温されて排ガスは最高温度に達する。その後、復路31に流入した排ガスは、往路を流れる排ガスと熱交換されて降温し、最終的には往路30への流入時に比べてヒーター100による正味の加熱分(断熱上昇温度)だけ温度上昇して、流出口42から流出される。
【0073】
したがって本実施例に係る反応器の連通空間内部あるいはその近傍の往復路内部あるいは往復路を形成している積層体表面に、排ガス浄化用触媒など目的とする反応を促進する触媒を配置しておけば、発熱手段と熱交換機能によって触媒の温度が著しく高められることにより、始動時などの低温域においても排ガス温度を触媒の活性温度まで高めることができ、有害物質の排出を大きく抑制することができる。
【実施例2】
【0074】
図9に本実施例の積層内部熱交換型反応器を示す。この積層内部熱交換型反応器は、前駆体形成工程で用いた材料が異なること以外は実施例1と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0075】
本実施例では、活性炭を70質量%含有する厚さ約0.3mm、秤量約110g/m2の平板と、この平板をコルゲート加工することにより形成された波板と、が一枚ずつ積層された片面段ボール紙32を複数枚用意した。そして実施例1と同様にして目詰め部12を形成した。また山谷部の延びる方向に対して直角方向の両端部では、山部10にペーストを充填した。谷部11は断面略U字形状をなし大きく開口しているので、ヘラなどを用いてペーストを容易にかつ均一に充填することができる。次いでペーストが充填された両端の山部10を波板1の一端部に近い部位で切欠き、左右一対の流出開口13を形成した。そして実施例1と同様に、長手方向3箇所で山部10を横断するように、山部10の頂部に紙用接着剤で活性炭を70質量%含有する平板(片面段ボール紙の平板相当品)を貼着してスペーサ14を形成した。
【0076】
このように形成された片面段ボール紙32を、紙用接着剤を用いて複数枚積層し、最上部に平板2のみを積層して、本実施例の積層前駆体3を形成した。各片面段ボール紙32は、目詰め部12が同一端面に表出するように積層され、左右一対の流出開口13も長手方向の同一位置に表出している。目詰め部12が表出する一端面には山部10と平板2とで区画された通路(往路30)が開口し、反対側の他端面には山部10と平板2とで区画された通路(往路30)と、谷部11と平板2とで区画された通路(復路31)とが開口している。
【0077】
<含浸工程・炭素化工程>
次に、フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比がSi/C=0.6になる割合でフェノール樹脂と平均粒径約20μmのシリコン粉末との混合量を設定し、シリコン粉末重量の約2.5倍の重量のエチルアルコールでフェノール樹脂を溶解してスラリーを調製し、シリコン粉末の粒径を小さくするために1日間ボールミル混合して、更に平均粒径約3μmの炭化ケイ素粉末をシリコン粉末の0.5倍の重量添加し、分散スラリーを調製した。そして上記積層前駆体3にこの分散スラリーを含浸させ、余分なスラリーを吹き払った後、70℃で3時間乾燥した。
【0078】
この積層前駆体3を用い、実施例1と同様にして炭素化工程を行って、炭素質積層前駆体を形成した。
【0079】
<焼成工程・溶融含浸工程>
次にシリコン顆粒の適量を炭素質積層前駆体の表面に置き、真空中にて1450℃で1時間焼成した。この焼成では、まずシリコンの融点(約1410℃)以下の温度で、炭素がシリコン粉末と反応して、炭化ケイ素と未反応の炭素とからなる積層体3が形成される。さらに、シリコンの融点以上の温度で積層体3にシリコン顆粒が溶融含浸し、未反応の炭素と反応して炭化ケイ素が生成するとともに、余剰の金属シリコンによって積層体3が補強される。
【0080】
得られた積層体3について実施例1と同様にして封入工程を行い、本実施例の積層内部熱交換型反応器を得た。本実施例の積層内部熱交換型反応器によれば、実施例1の積層内部熱交換型反応器に比べて積層体3の強度及び密度が高い。また積層前駆体3の製造時には、波板と平板とを交互に積層する手間を省くことができ、工数をさらに低減することができる。
【実施例3】
【0081】
図10及び図11に本実施例の積層内部熱交換型反応器に用いた積層体を示す。この積層体は、前駆体形成工程で用いた材料が異なること以外は実施例2と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0082】
本実施例では、実施例2と同様の片面段ボール紙32を複数枚用意した。そして実施例2と同様にして目詰め部12を形成し、左右一対の流出開口13を形成した。そしてスペーサ14を形成した第1片面段ボール紙33と、スペーサ14を形成しなかったこと以外は第1片面段ボール紙33と同一の第2片面段ボール紙34を用意した。
【0083】
そして第1片面段ボール紙33と第2片面段ボール紙34を互いの山部10が対向するように、かつ流出開口13どうしが互いに連通するように積層した単位積層体35を形成し、複数の単位積層体35をそれぞれ同じ向きに積層して本実施例の積層前駆体3を形成した。
【0084】
この積層前駆体3を用い、実施例2と同様にして含浸工程、炭素化工程、焼成工程及び溶融含浸工程を行って炭化ケイ素質の積層体3を形成し、さらに実施例1と同様にして封入工程を行って、本実施例の積層内部熱交換型反応器を得た。
【0085】
この積層体3では、目詰め部12が表出する一端面には往路30が開口し、反対側の他端面には往路30と、復路31とが開口している。したがって流入口41から流入する排ガスは、往路30に流入して連通空間44に入り、ヒーター100で加熱された後に連通空間44から復路31に流入する。そして復路31及びスペーサ14によって確保された面状空間15を通過し、目詰め部12(規制壁)で流れが規制された排ガスが流出開口13を介して流出口42から流出する。したがって本実施例に係る積層体3には、第1片面段ボール紙33及び第2片面段ボール紙34の山部に往路30を有する流入側ユニットが形成され、第1片面段ボール紙33及び第2片面段ボール紙34の谷部に復路31を有する流出側ユニットが形成され、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されている。
【0086】
なお本実施例では、スペーサ14によって復路31どうしが連通する面状空間15を形成したが、図12及び図13に示すようにすれば、隙間形成に用いる厚いスペーサ14を不要とすることができる。図12には目詰め部12の部位における断面図を示し、図13には流出開口13の部位における断面図を示している。
【0087】
すなわち、第1片面段ボール紙33と第2片面段ボール紙34を互いの山部10と谷部11とが間隔を隔てて対向するように、かつ目詰め部12どうしの間を同様のペーストで目詰めして積層する。このとき、第2片面段ボール紙34の一部を潰して流出開口13を形成して単位積層体35を形成する。複数の単位積層体33をそれぞれ同じ向きに積層して積層体3とする。このようにすることで、第1片面段ボール紙33と第2片面段ボール紙34との間に断面波形状をなす面状の復路31が形成されるので、スペーサ14を不要として全ての復路31を流出開口13と連通させることができる。
【0088】
なお往復路間の圧力差などによる往路30又は復路31の変形を防止するためには、スペーサ14を用いて山部10を補強することが望ましい。この場合、スペーサ14は薄くてもよい。
【0089】
また図14に模式的な平面図を示すように、互いの山部10の稜線が交差するように第1片面段ボール紙33と第2片面段ボール紙34を重ねて単位積層体35を形成すれば、互いの山部10の稜線が重なる部分が少なくなるので、復路31どうしが互いに連通する。したがってスペーサ14を不要として全ての復路31を流出開口13と連通させることができる。また左右両側の山部10以外の山部10の高さを部分的に低くしても、スペーサ14を用いることなく面状空間15を形成することができる。
【実施例4】
【0090】
図15に本実施例の積層内部熱交換型反応器に用いた積層体を示す。この積層体は、前駆体形成工程で用いた材料が異なること以外は実施例2と同様であるので、異なる部分についてのみ説明する。
【0091】
本実施例では、活性炭を70質量%含有する厚さ約0.3mm、秤量約110g/m2の平板2と、この平板2をコルゲート加工することにより形成された波板1とからなり、波板1の両側にそれぞれ平板2が積層された両面段ボール紙を用いている。
【0092】
先ず2枚の両面段ボール紙を、波板1の山部10の稜線が互いに平行となるように紙用接着剤で積層する。このとき、上段ボール紙50の一端面が下段ボール紙51の一端面から離間し、他端面どうしが揃うように積層する。そして下段ボール紙51の一端部に、波板1の一つの山部10をもつ単位段ボール紙52を、山部10の稜線が下段ボール紙51の山部10の稜線と直交するように積層する。したがって上段ボール紙50の一端面と単位段ボール紙52との間には、上段ボール紙50の山谷部と連通し左右方向に延びる通路53が形成されている。
【0093】
このように構成された単位積層体54を同じ向きとなるように複数枚積層し、最上部の単位積層体54には平板2を積層して、本実施例の積層前駆体5を形成した。この積層前駆体5を用い、実施例2と同様にして含浸工程、炭素化工程、焼成工程及び溶融含浸工程を行って炭化ケイ素質の積層体5を形成し、さらに実施例1と同様にして封入工程を行って、本実施例の積層内部熱交換型反応器を得た。
【0094】
本実施例の積層内部熱交換型反応器によれば、下段ボール紙51の一端面に開口する山谷部から流入した排ガスは、連通空間44に流入し、連通空間44から上段ボール紙50の山谷部に流入し、上段ボール紙50の山谷部から出た後、単位段ボール紙52に案内されて通路53に流入する。すなわち単位段ボール紙52が規制壁として機能している。通路53はケーシング4の流出口42に連通しているので、排ガスは通路53に案内されて流出口42から流出する。したがって本実施例に係る積層体5には、下段ボール紙51の山谷部に往路30を有する流入側ユニットが形成され、上段ボール紙50の山谷部に復路31を有する流出側ユニットが形成され、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されている。
【0095】
なお例えば図16に示すように、各単位積層体54について上段ボール紙50を厚さ方向に部分的に切り抜いて枠状としてもよい。また本実施例の積層体5では、復路31の全開口面積に比べて通路53の断面積が小さいため、中央部付近の復路流路が側面近くの復路流路と比べて、流出の際に圧損が大きくなる場合がある。そのような場合には、図17に示すように、各単位積層体54について通路53に対向する上段ボール紙50の一端面をV字状に切り欠いた構造とすれば、通路53の断面積が大きくなるとともに復路31から流出した排ガスがV字状の端面に沿って案内されるため、圧損を低減することができる。また片面段ボール紙から上段ボール紙50、下段ボール紙51、単位段ボール紙52の少なくとも一つを形成することも可能である。
【実施例5】
【0096】
先ず実施例2と同様の片面段ボール紙を用意し、実施例1と同様のペーストを用いて図18に示すように複数の山谷部のうち左側面から半数を一端面で目詰めして目詰め部60を形成した。次いで実施例2と同様にして、波板2の山部の稜線を横断するスペーサ14を貼着し、第1単位積層体61を形成した。一方、実施例1と同様のペーストを用い、図19に示すように複数の山谷部のうち右側面から半数を一端面で目詰めして目詰め部62を形成した。次いで実施例2と同様にして、波板2の山部の稜線を横断するスペーサ14を貼着し、第2単位積層体63を形成した。
【0097】
図20に示すように、第1単位積層体61と第2単位積層体63を、目詰め部60と目詰め部62とが同じ端面側となるように交互に積層し、最上部の単位積層体には平板2を積層して、本実施例の積層前駆体6を形成した。図20に示すように積層前駆体6の一端面には目詰め部60と目詰め部62が千鳥状に形成され、目詰め部60の最右端の目詰め部60aと目詰め部62の最左端の目詰め部62aは各層で厚さ方向に重なっている。なお、他端面には目詰め部が存在していない。
【0098】
この積層前駆体6を用い、実施例2と同様にして含浸工程、炭素化工程、焼成工程及び溶融含浸工程を行って炭化ケイ素質の積層体6を形成した。この積層体を図21に示すケーシング7に収納する封入工程を行い、本実施例の積層内部熱交換型反応器を得た。
【0099】
図21に示すケーシング7は、一端面に流入口70と流出口71を有し、一端面に連続する内部空間には流入口70と流出口71を区画する隔壁72が形成されている。収納された積層体6は、目詰め部60aと目詰め部62aが隔壁72に当接し、他端面とケーシング7の内壁面との間には連通空間73が形成されている。積層体6は、目詰め部60側(流出ブロック)の復路65の開口が流出口71に連通し、目詰め部62側(流入ブロック)の往路64の開口が流入口70に連通している。
【0100】
すなわち流入口70から流入した排ガスは、第1単位積層体61の一端面の目詰め部62側(流入ブロック)に開口する往路64へ流入し、往路64とスペーサ14によって形成された面状空間15を流れて連通空間73に流入する。そしてヒーター100で加熱された排ガスは、連通空間73から積層体6の往路64以外の開口へ流入し、面状空間15を流れて目詰め部60側(流出ブロック)に開口する復路65へ向かい、流出口71から流出する。すなわち積層体6の目詰め部62側(流入ブロック)に開口する山谷部が流入側ユニットを形成し、目詰め部60側(流出ブロック)に開口する山谷部が流出側ユニットを形成し、流入側ユニットと流出側ユニットとが交互に積層されている。
【0101】
したがって本実施例の積層内部熱交換型反応器によれば、積層体6の全長で向流となるので、熱交換性能が向上するとともに、よりコンパクトとすることができる。また大きな片面段ボール紙を用い、図22に示すように、一枚毎に複数の目詰め部と複数の非目詰め部とを左右方向に交互に形成すれば、幅方向に複数の流入ブロックと流出ブロックを形成できるので、大型の積層内部熱交換型反応器も容易に製造することができる。
【0102】
また本実施例の場合においても、図16と同様に、第1単位積層体61及び/又は第2単位積層体63の山部10を部分的に切り欠いておけば、スペーサ14を不要とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の積層内部熱交換型反応器は、流れる気体又は液体をその内部で著しく昇温することが可能であり、自動車排ガスの浄化装置、化学工業などの各種分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1:波板 2:平板
3:積層前駆体(積層体) 4:ケーシング
10:山部 11:谷部
12:目詰め部 13:流出開口
14 :スペーサ 15:面状空間
30:往路 31:復路
41:流入口 42:流出口
44:連通空間 100:ヒーター(発熱手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機多孔質体からなる平板と有機多孔質体からなり山部と谷部が交互に形成された波板とが積層され少なくとも該波板の山部と該平板との間に往路を有する流入側ユニットと、該平板と該波板とが積層され少なくとも該波板の谷部と該平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、一端面には該往路と該復路の両方が開口し該一端面と反対側の他端面には該復路の前方に規制壁をもつ積層前駆体を形成する前駆体形成工程と、
樹脂とシリコン粉末とを含み該樹脂が溶解したスラリー又は該スラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを該積層前駆体に含浸させて含浸体とする含浸工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該含浸体を加熱し該樹脂を炭素化するとともに該積層前駆体を熱分解して該積層前駆体と略同一形状の炭素質積層前駆体とする炭素化工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該炭素質積層前駆体を加熱することでシリコンと炭素とを反応させて該炭素質積層前駆体から該積層前駆体と略同一形状で炭化ケイ素質の積層体を形成する焼成工程と、を行い、
流入口と流出口をもつケーシングに、該他端面に開口する該往路が該流入口に連通するとともに該復路を流れる流体が該規制壁によって該流出口へ案内されるように得られた該積層体を封入し、該積層体の該一端面と該ケーシングとの間には該一端面に開口する該往路及び該復路と連通する連通空間を形成し、該連通空間及び該連通空間近傍の該積層体の少なくとも一方に発熱手段を形成することを特徴とする積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項2】
有機多孔質体からなる平板と有機多孔質体からなり山部と谷部が交互に形成された波板とが積層され少なくとも該波板の山部と該平板との間に往路を有する流入側ユニットと、該平板と該波板とが積層され少なくとも該波板の谷部と該平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、一端面には該往路と該復路が開口し該一端面と反対側の他端面には該復路の前方に規制壁をもつ積層前駆体を形成する前駆体形成工程と、
樹脂を溶解状態で含む溶液又は該溶液にさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを該積層前駆体に含浸させて含浸体とする含浸工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該含浸体を加熱し該樹脂を炭素化するとともに該積層前駆体を熱分解して該積層前駆体と略同一形状の炭素質積層前駆体とする炭素化工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該炭素質積層前駆体に溶融シリコンを含浸させシリコンと炭素とを反応させて該炭素質積層前駆体から該積層前駆体と略同一形状で炭化ケイ素質の積層体を形成する溶融含浸工程と、を行い、
流入口と流出口をもつケーシングに、該他端面に開口する該往路が該流入口に連通するとともに該復路を流れる流体が該規制壁によって該流出口へ案内されるように得られた該積層体を封入し、該積層体の該一端面と該ケーシングとの間には該一端面に開口する往路及び復路と連通する連通空間を形成し、該連通空間及び該連通空間近傍の該積層体の少なくとも一方に発熱手段を形成することを特徴とする積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項3】
有機多孔質体からなる前記平板と有機多孔質体からなる前記波板は段ボール紙である請求項1又は請求項2に記載の積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項4】
前記平板及び前記波板には炭素粉末が50質量%以上含まれている請求項1〜3のいずれかに記載の積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程後に、真空中又は非酸化性雰囲気中にて前記炭化ケイ素質の積層体に溶融シリコンを含浸させる溶融含浸工程を行う請求項1に記載の積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で製造され、炭化ケイ素系セラミックスからなる平板と、炭化ケイ素系セラミックスからなり山部と谷部とが交互に形成された波板と、が積層されてなり該波板の該山部及び該谷部と該平板とで区画された多数の流路を有する積層体と、該積層体が封入され流入口と流出口をもつケーシングと、からなる積層内部熱交換型反応器であって、
該積層体は、該平板と該波板とが積層され少なくとも該波板の山部と該平板との間に往路を有する流入側ユニットと、該平板と該波板とが積層され少なくとも該波板の谷部と該平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、
該積層体の一端面には該往路と該復路が開口し、該一端面と反対側の他端面には該復路の前方に規制壁をもち、該積層体の該一端面と該ケーシングとの間には該往路及び該復路と連通する連通空間が形成され、該連通空間の内部及び該連通空間近傍の該積層体の少なくとも一方には発熱手段を有し、
該流入口から流入した流体が、該他端面に開口する該往路から該連通空間へ流入し、該往路内で該連通空間に流入する前に該復路を流れる流体から熱を受け取って温度上昇し、該連通空間から該復路へ流入する際に該発熱手段による加熱によってさらに温度上昇し、該復路内で該往路に熱を渡すことにより次第に降温し、該規制壁に案内されて該流出口から流出することを特徴とする積層内部熱交換型反応器。
【請求項7】
前記流入側ユニットは前記波板と前記波板の前記山部とともに前記往路を形成する第1平板とからなり、前記流出側ユニットは前記流入側ユニットと共通の前記波板と前記波板の前記谷部とともに前記復路を構成する第2平板とからなり、前記波板の前記谷部と前記第2平板との間の空隙は前記往路の流入側端部で閉塞されて前記規制壁が形成され、前記波板には前記往路及び前記復路の伸長方向と交差する方向に開口し前記復路と連通する流出開口が形成され、該第2平板と前記谷部との間には複数の前記谷部と連通し該流出開口と連通する面状空間が形成されている請求項6に記載の積層内部熱交換型反応器。
【請求項8】
前記流入側ユニットは前記波板と前記波板の前記山部側と前記谷部側の両方に積層された一対の前記平板とからなり、前記流出側ユニットは前記波板と少なくとも前記山部側に積層された前記平板とからなり、前記流出側ユニットの少なくとも前記波板には前記往路及び前記復路の伸長方向と交差する方向に開口する流出開口が形成され、前記流出側ユニットは前記谷部側が前記流入側ユニットの前記平板に積層され、前記復路の流出側の開口の前方には流体を該流出開口へ案内する案内流路が形成されている請求項6に記載の積層内部熱交換型反応器。
【請求項9】
前記積層体は前記平板と前記波板とが交互に積層されてなり、それぞれの前記波板は隣接する複数の前記山部と前記谷部が閉塞された閉塞部と、隣接する複数の前記山部と前記谷部が開口する開放部と、を前記一端面側にそれぞれ有し、前記積層体は積層方向で該閉塞部と開放部とが市松状に交互に形成され、
前記ケーシングの前記流入口と前記流出口は互いに平行に形成され、積層方向に該閉塞部と該開放部とが交互に形成された流入ブロックが前記流入口に連通し、該流入ブロックに隣接し積層方向に該開放部と該閉塞部とが交互に形成された流出ブロックが前記流出口に連通している請求項6に記載の積層内部熱交換型反応器。
【請求項10】
前記波板の前記山部と前記平板との間には、複数の前記谷部と連通し、前記連通空間に連通するとともに前記流入口又は前記流出口と連通する面状空間が形成されている請求項9に記載の積層内部熱交換型反応器。
【請求項1】
有機多孔質体からなる平板と有機多孔質体からなり山部と谷部が交互に形成された波板とが積層され少なくとも該波板の山部と該平板との間に往路を有する流入側ユニットと、該平板と該波板とが積層され少なくとも該波板の谷部と該平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、一端面には該往路と該復路の両方が開口し該一端面と反対側の他端面には該復路の前方に規制壁をもつ積層前駆体を形成する前駆体形成工程と、
樹脂とシリコン粉末とを含み該樹脂が溶解したスラリー又は該スラリーにさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを該積層前駆体に含浸させて含浸体とする含浸工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該含浸体を加熱し該樹脂を炭素化するとともに該積層前駆体を熱分解して該積層前駆体と略同一形状の炭素質積層前駆体とする炭素化工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該炭素質積層前駆体を加熱することでシリコンと炭素とを反応させて該炭素質積層前駆体から該積層前駆体と略同一形状で炭化ケイ素質の積層体を形成する焼成工程と、を行い、
流入口と流出口をもつケーシングに、該他端面に開口する該往路が該流入口に連通するとともに該復路を流れる流体が該規制壁によって該流出口へ案内されるように得られた該積層体を封入し、該積層体の該一端面と該ケーシングとの間には該一端面に開口する該往路及び該復路と連通する連通空間を形成し、該連通空間及び該連通空間近傍の該積層体の少なくとも一方に発熱手段を形成することを特徴とする積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項2】
有機多孔質体からなる平板と有機多孔質体からなり山部と谷部が交互に形成された波板とが積層され少なくとも該波板の山部と該平板との間に往路を有する流入側ユニットと、該平板と該波板とが積層され少なくとも該波板の谷部と該平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、一端面には該往路と該復路が開口し該一端面と反対側の他端面には該復路の前方に規制壁をもつ積層前駆体を形成する前駆体形成工程と、
樹脂を溶解状態で含む溶液又は該溶液にさらに炭化ケイ素粉末を含むスラリーを該積層前駆体に含浸させて含浸体とする含浸工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該含浸体を加熱し該樹脂を炭素化するとともに該積層前駆体を熱分解して該積層前駆体と略同一形状の炭素質積層前駆体とする炭素化工程と、
真空中又は非酸化性雰囲気中にて該炭素質積層前駆体に溶融シリコンを含浸させシリコンと炭素とを反応させて該炭素質積層前駆体から該積層前駆体と略同一形状で炭化ケイ素質の積層体を形成する溶融含浸工程と、を行い、
流入口と流出口をもつケーシングに、該他端面に開口する該往路が該流入口に連通するとともに該復路を流れる流体が該規制壁によって該流出口へ案内されるように得られた該積層体を封入し、該積層体の該一端面と該ケーシングとの間には該一端面に開口する往路及び復路と連通する連通空間を形成し、該連通空間及び該連通空間近傍の該積層体の少なくとも一方に発熱手段を形成することを特徴とする積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項3】
有機多孔質体からなる前記平板と有機多孔質体からなる前記波板は段ボール紙である請求項1又は請求項2に記載の積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項4】
前記平板及び前記波板には炭素粉末が50質量%以上含まれている請求項1〜3のいずれかに記載の積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程後に、真空中又は非酸化性雰囲気中にて前記炭化ケイ素質の積層体に溶融シリコンを含浸させる溶融含浸工程を行う請求項1に記載の積層内部熱交換型反応器の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で製造され、炭化ケイ素系セラミックスからなる平板と、炭化ケイ素系セラミックスからなり山部と谷部とが交互に形成された波板と、が積層されてなり該波板の該山部及び該谷部と該平板とで区画された多数の流路を有する積層体と、該積層体が封入され流入口と流出口をもつケーシングと、からなる積層内部熱交換型反応器であって、
該積層体は、該平板と該波板とが積層され少なくとも該波板の山部と該平板との間に往路を有する流入側ユニットと、該平板と該波板とが積層され少なくとも該波板の谷部と該平板との間に復路を有する流出側ユニットと、が交互に積層されてなり、
該積層体の一端面には該往路と該復路が開口し、該一端面と反対側の他端面には該復路の前方に規制壁をもち、該積層体の該一端面と該ケーシングとの間には該往路及び該復路と連通する連通空間が形成され、該連通空間の内部及び該連通空間近傍の該積層体の少なくとも一方には発熱手段を有し、
該流入口から流入した流体が、該他端面に開口する該往路から該連通空間へ流入し、該往路内で該連通空間に流入する前に該復路を流れる流体から熱を受け取って温度上昇し、該連通空間から該復路へ流入する際に該発熱手段による加熱によってさらに温度上昇し、該復路内で該往路に熱を渡すことにより次第に降温し、該規制壁に案内されて該流出口から流出することを特徴とする積層内部熱交換型反応器。
【請求項7】
前記流入側ユニットは前記波板と前記波板の前記山部とともに前記往路を形成する第1平板とからなり、前記流出側ユニットは前記流入側ユニットと共通の前記波板と前記波板の前記谷部とともに前記復路を構成する第2平板とからなり、前記波板の前記谷部と前記第2平板との間の空隙は前記往路の流入側端部で閉塞されて前記規制壁が形成され、前記波板には前記往路及び前記復路の伸長方向と交差する方向に開口し前記復路と連通する流出開口が形成され、該第2平板と前記谷部との間には複数の前記谷部と連通し該流出開口と連通する面状空間が形成されている請求項6に記載の積層内部熱交換型反応器。
【請求項8】
前記流入側ユニットは前記波板と前記波板の前記山部側と前記谷部側の両方に積層された一対の前記平板とからなり、前記流出側ユニットは前記波板と少なくとも前記山部側に積層された前記平板とからなり、前記流出側ユニットの少なくとも前記波板には前記往路及び前記復路の伸長方向と交差する方向に開口する流出開口が形成され、前記流出側ユニットは前記谷部側が前記流入側ユニットの前記平板に積層され、前記復路の流出側の開口の前方には流体を該流出開口へ案内する案内流路が形成されている請求項6に記載の積層内部熱交換型反応器。
【請求項9】
前記積層体は前記平板と前記波板とが交互に積層されてなり、それぞれの前記波板は隣接する複数の前記山部と前記谷部が閉塞された閉塞部と、隣接する複数の前記山部と前記谷部が開口する開放部と、を前記一端面側にそれぞれ有し、前記積層体は積層方向で該閉塞部と開放部とが市松状に交互に形成され、
前記ケーシングの前記流入口と前記流出口は互いに平行に形成され、積層方向に該閉塞部と該開放部とが交互に形成された流入ブロックが前記流入口に連通し、該流入ブロックに隣接し積層方向に該開放部と該閉塞部とが交互に形成された流出ブロックが前記流出口に連通している請求項6に記載の積層内部熱交換型反応器。
【請求項10】
前記波板の前記山部と前記平板との間には、複数の前記谷部と連通し、前記連通空間に連通するとともに前記流入口又は前記流出口と連通する面状空間が形成されている請求項9に記載の積層内部熱交換型反応器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−126756(P2011−126756A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289312(P2009−289312)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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