説明

積層型熱交換器、それを用いた熱媒体加熱装置および車両用空調装置

【課題】扁平熱交チューブ間にPTCヒータを挟み押圧して密接させる際の出入口ヘッダ部のシール部分の変形によるシール性の低下を防止できる積層型熱交換器、それを用いた熱媒体加熱装置および車両用空調装置を提供する。
【解決手段】扁平チューブ部の両端に出入口ヘッダ部22,23が設けられている2枚の成形プレート17A,17Bを接合して構成される扁平熱交チューブ17と、出入口ヘッダ部22,23が連通穴24,25を介して互いに連通されるように積層された扁平熱交チューブ17を押圧して密着させる熱交押え部材16と、を備えた積層型熱交換器18にあって、出入口ヘッダ部22,23に対して、熱交押え部材16による押圧力の入力位置P1と、該押圧力が2枚の成形プレートの接合部分に伝わる位置P2と、押圧力が出入口ヘッダ部間のシール部分に伝わる位置P3との少なくとも1つが、押圧力方向の同一線L上から外れた位置に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱媒体を加熱するための積層型熱交換器、それを用いた熱媒体加熱装置および車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車等に適用される車両用空調装置にあって、暖房用の熱源となる被加熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置の1つに、正特性サーミスタ素子(Positive Temperature Coefficient;以下、PTC素子という。)を発熱要素とするPTCヒータを用いたものが知られている。かかる熱媒体加熱装置において、特許文献1には、熱媒体の出入口を備えたハウジング内を隔壁により多数の加熱室と熱媒体循環室とに区画し、加熱室側に隔壁と接触するように挿入設置されたPTC素子により、循環室内を流れる熱媒体を加熱するように構成した熱媒体加熱装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、PTC素子を挟んでその両面に電極板、絶縁層および伝熱層を設けて平板状のPTCヒータを構成し、該PTCヒータの両面に熱媒体の出入口を備えた互いに連通されている一対の熱媒体流通ボックスを積層し、更にその外面に基板収容ボックスを配設した構成の熱媒体加熱装置が示されている。一方、特許文献3,4には、チューブエレメントの両端に設けられるヘッダ部(タンク部)の連通穴周りにバーリングを形成し、それを嵌合することによって積層時の位置合わせを容易化するとともに、接合時の位置ずれによる接合不良を防止するように構成した積層型熱交換器が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献5には、冷却媒体が流通される扁平冷却管を電子部品の両面を挟持するように複数組積層した積層型冷却器であって、冷却管の開口部に伸縮可能な連通部材を接続して隣接する冷却管の開口部間を連通するとともに、該開口部の特定周囲部にリブを設け、冷却管の厚さ方向の圧縮強度を積層型冷却器の製造時にかかる荷重に対して充分に大きくしているものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−7106号公報
【特許文献2】特開2008−56044号公報
【特許文献3】特開2005−30701号公報
【特許文献4】特許第4178682号公報
【特許文献5】特許第4100328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すものは、隔壁により形成された加熱室内にPTC素子を挿入設置した構成としているため、伝熱面となる隔壁間にPTC素子を密接させて挿入することは容易でなく、隔壁とPTC素子間の接触熱抵抗が大きくなり、伝熱効率が低下する等の課題があった。また、特許文献2に示すものは、PTCヒータの両面に放熱フィンを有する一対の熱媒体流通ボックスを積層するとともに、その外側に基板収容ボックスおよび蓋体を設けて熱媒体流路を密閉し、それをボルトで一体に締結した積層構造としているため、PTCヒータと熱媒体流通ボックス間の接触熱抵抗を小さくできるが、熱媒体流通ボックスや基板収容ボックスを耐熱性や伝熱性を考慮して、アルミダイカスト製としており、小型軽量化には限界があるとともに、高価になる等の課題があった。
【0007】
上記の課題を解消すべく、熱媒体加熱装置に積層型熱交換器を適用することが考えられている。しかし、積層型熱交換器の場合、特許文献3,4に示されるように、ロウ材がクラッドされた材料で成形されたチューブエレメントとフィンとを積層して炉中ロウ付けするのが一般的である。従って、治具を用いて仮組み立てした熱交換器を炉中に投入してロウ付けすればよく、積層時の位置合わせを容易化し、接合時の位置ずれを防止することにより良好なシール性が得られるが、PTCヒータを挟み込んでチューブエレメントと密接させる必要がある上記熱媒体加熱装置では、このような手法を採ることはできない。
【0008】
そこで、特許文献5に示されるように、電子部品の両面と冷却管とを確実に密接させるため、冷却管の開口部間を伸縮可能な連通部材で接続する構成とし、この連通部材を加圧状態でロウ付けできるように、冷却管の開口部周りにリブを設け、冷却管の厚さ方向の圧縮強度を高めて加圧時の変形を防止するようにしたものが提案されている。しかし、伸縮可能な連通部材が必要な上に、連通部材を加圧状態でロウ付けするため、冷却管の開口部周りにリブを設けて変形を防止する等、部品点数の増加や構成の複雑化は避け難く、コストアップ要因となる等の課題があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、複数組の扁平熱交チューブを積層し、その間にPTCヒータを挟み押圧して密接させる際の入口ヘッダ部および出口ヘッダ部のシール部分の変形によるシール性の低下を防止できる積層型熱交換器、それを用いた熱媒体加熱装置および車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明の積層型熱交換器、それを用いた熱媒体加熱装置および車両用空調装置は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる積層型熱交換器は、熱媒体が流通される扁平チューブ部の両端に入口ヘッダ部および出口ヘッダ部が設けられている2枚の成形プレートを接合して構成される扁平熱交チューブと、前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部が連通穴を介して互いに連通されるように積層された複数組の前記扁平熱交チューブを押圧して密着させる熱交押え部材と、を備えた積層型熱交換器にあって、前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部に対して、前記熱交押え部材による押圧力の入力位置と、該押圧力が前記2枚の成形プレートの接合部分に伝わる位置と、前記押圧力が前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部間のシール部分に伝わる位置との少なくとも1つが、前記押圧力方向の同一線上から外れた位置に設定されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、複数組の扁平熱交チューブが熱交押え部材により押圧され、互いに密着されている積層型熱交換器にあって、入口ヘッダ部および出口ヘッダ部に対して、熱交押え部材による押圧力の入力位置と、押圧力が2枚の成形プレートの接合部分に伝わる位置と、押圧力が入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール部分に伝わる位置との少なくとも1つが、押圧力方向の同一線上から外れた位置に設定されているため、熱交押え部材による押圧力が、2枚の成形プレートの接合部分または入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール部分で分散され、該押圧力が入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール部分の特定部位に強く当たることがなくなり、該押圧力が特定の部位に強く当たることによる周りの変形を抑制し、シール面での隙間の発生を阻止することができる。従って、扁平熱交チューブ内に内圧が負荷された際のシール性を向上し、熱媒体の漏れを防止することができる。
【0012】
さらに、本発明の積層型熱交換器は、上記の積層型熱交換器において、前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部の前記連通穴周りに、互いにインロー嵌合されるバーリングが設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、入口ヘッダ部および出口ヘッダ部の連通穴周りに、互いにインロー嵌合されるバーリングが設けられているため、入口ヘッダ部および出口ヘッダ部の連通穴周りの強度をバーリングにより向上し、熱交押え部材による押圧時の変形をより小さくすることができるとともに、該バーリングを扁平熱交チューブの積層時の位置決めに利用できることから、位置ずれによるシール不良をも防止することができる。従って、複数組の扁平熱交チューブの入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール性を向上し、熱媒体の漏えいを確実に防止することができる。
【0014】
さらに、本発明の積層型熱交換器は、上記の積層型熱交換器において、前記バーリングは、テーパー状とされていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、バーリングが、テーパー状とされているため、複数組の扁平熱交チューブを積層して入口ヘッダ部および出口ヘッダ部を熱交押え部材により押圧して互いに密接させた際の微小変形をテーパー部分で吸収し、入口ヘッダ部および出口ヘッダ部同士を確実に密接させることができるとともに、出入口ヘッダ部を含む扁平熱交チューブの寸法交差もテーパー部分で吸収することができる。従って、複数組の扁平熱交チューブの入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール性を更に向上することができ、熱媒体の漏えいを確実に防止することができる。
【0016】
さらに、本発明の積層型熱交換器は、上述のいずれかの積層型熱交換器において、前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部間は、それぞれシール面に介在されたシール材を介してシールされていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間が、それぞれシール面に介在されたシール材を介してシールされているため、複数組の扁平熱交チューブを積層する際、その入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール面にシール材(液状ガスケット、Oリング等)を介在させ、それらを熱交押え部材により押圧して入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間を密接させることによって、入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間をシールすることができる。従って、入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール性を十分に確保し、熱媒体の漏えい防止に対する信頼性を向上することができるとともに、シール構造の簡素化、組み立ての容易化を図ることができる。
【0018】
さらに、本発明の積層型熱交換器は、上述のいずれかの積層型熱交換器において、前記熱交押え部材は、扁平熱交チューブの長さ方向に対応した四辺形状とされ、その両端各2箇所の締め付け固定部を押圧力の入力位置としたとき、前記扁平熱交チューブの前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部に設けられている前記連通穴の中心が、前記両端各2箇所の入力位置を結ぶ線上に位置されていることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、熱交押え部材が、扁平熱交チューブの長さ方向に対応した四辺形状とされ、その両端各2箇所の締め付け固定部を押圧力の入力位置としたとき、扁平熱交チューブの入口ヘッダ部および出口ヘッダ部に設けられている連通穴の中心が、両端各2箇所の入力位置を結ぶ線上に位置されているため、熱交押え部材を締め付け固定して扁平熱交チューブに押圧力を加えたとき、入口ヘッダ部および出口ヘッダ部の連通穴周方向に力が分散され、連通穴周りのシール部分において局所的に強く当たる部分をなくすることができる。従って、連通穴周りのシール部分での変形を抑制し、シール面での隙間の発生を阻止して入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール性を向上することができる。
【0020】
さらに、本発明にかかる熱媒体加熱装置は、上述の積層型熱交換器における複数組の前記扁平熱交チューブの前記扁平チューブ部間に複数組のPTCヒータが組み込まれ、該PTCヒータにより前記扁平熱交チューブ内を流通される熱媒体が加熱可能とされていることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、上述の積層型熱交換器における複数組の扁平熱交チューブの扁平チューブ部間に複数組のPTCヒータが組み込まれ、該PTCヒータにより扁平熱交チューブ内を流通される熱媒体が加熱可能とされているため、複数組の扁平熱交チューブ間に組み込まれる複数組のPTCヒータと、各扁平熱交チューブの扁平チューブ部とを熱交押え部材の押圧力により確実に密接させ、PTCヒータと扁平熱交チューブ間の接触熱抵抗を低減することができる。従って、PTCヒータと扁平熱交チューブ間の伝熱効率を高めて加熱性能を向上し、熱媒体加熱装置を高性能化することができるともに、熱媒体の漏えい等を確実に解消することができる。
【0022】
さらに、本発明にかかる車両用空調装置は、空気流路中に配設されている放熱器に対して、熱媒体加熱装置で加熱された熱媒体が循環可能に構成されている車両用空調装置において、前記熱媒体加熱装置が、上記の熱媒体加熱装置とされていることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、空気流路中に配設されている放熱器に対して、上述の熱媒体加熱装置により加熱された熱媒体が循環可能に構成されているため、放熱器に対する熱媒体循環回路中での熱媒体の漏えい等を確実に解消することができるとともに、熱媒体加熱装置による熱媒体の加熱性能を高めることができる。従って、車両用空調装置の信頼性向上と空調性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の積層型熱交換器によると、熱交押え部材による押圧力が、2枚の成形プレートの接合部分または入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール部分で分散され、該押圧力が入口ヘッダ部および出口ヘッダ部間のシール部分の特定部位に強く当たることがなくなり、該押圧力が特定の部位に強く当たることによる周りの変形を抑制し、シール面での隙間の発生を阻止することができるため、扁平熱交チューブ内に内圧が負荷された際のシール性を向上し、熱媒体の漏れを防止することができる。
【0025】
また、本発明の熱媒体加熱装置によると、複数組の扁平熱交チューブ間に組み込まれる複数組のPTCヒータと、各扁平熱交チューブの扁平チューブ部とを熱交押え部材の押圧力により確実に密接させ、PTCヒータと扁平熱交チューブ間の接触熱抵抗を低減することができるため、PTCヒータと扁平熱交チューブ間の伝熱効率を高めて加熱性能を向上し、熱媒体加熱装置を高性能化することができるともに、熱媒体の漏えい等を確実に解消することができる。
【0026】
さらに、本発明の車両用空調装置によると、放熱器に対する熱媒体循環回路中での熱媒体の漏えい等を確実に解消することができるとともに、熱媒体加熱装置による熱媒体の加熱性能を高めることができるため、車両用空調装置の信頼性向上と空調性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る積層型熱交換器および熱媒体加熱装置を備えた車両用空調装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す熱媒体加熱装置の組み立て手順を説明するための分解斜視図である。
【図3】図2に示す熱媒体加熱装置の平面図(A)とその側面図(B)である。
【図4】図2および図3に示す熱媒体加熱装置に組み込まれる積層型熱交換器の縦断面図(A)とその扁平チューブ部の断面図(B)である。
【図5】図4に示す積層型熱交換器の出入口ヘッダ部の積層状態を表す拡大斜視図である。
【図6】図4に示す積層型熱交換器の出入口ヘッダ部の接合状態を表す拡大斜視図(A)とその比較例図(B)である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る積層型熱交換器の出入口ヘッダ部分の側面図である。
【図8】図7に示す積層型熱交換器の出入口ヘッダ部分の変形例の側面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る積層型熱交換器の扁平熱交チューブと熱交押え部材による押圧力の入力位置との関係を示す平面配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図6を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に係る積層型熱交換器および熱媒体加熱装置を備えた車両用空調装置の概略構成図が示されている。
車両用空調装置1は、外気または車室内空気を取り込んで温調した後、それを車室内へと導くための空気流路2を形成するケーシング3を備えている。
【0029】
ケーシング3の内部には、空気流路2の上流側から下流側にかけて順次、外気または車室内空気を吸い込んで昇圧し、それを下流側へと圧送するブロア4と、該ブロア4により圧送される空気を冷却する冷却器5と、冷却器5を通過して冷却された空気を加熱する放熱器6と、放熱器6を通過する空気量と放熱器6をバイパスする空気量との流量割合を調整し、その下流側でエアミックスさせることによって、温調風の温度を調節するエアミックスダンパ7と、が設置されている。
【0030】
ケーシング3の下流側は、図示しない吹き出しモード切替えダンパおよびダクトを介して温調された空気を車室内に吹き出す複数の吹き出し口に接続されている。
冷却器5は、図示省略された圧縮機、凝縮器、膨張弁等と共に冷媒回路を構成し、膨張弁で断熱膨張された冷媒を蒸発させることによって、そこを通過する空気を冷却するものである。放熱器6は、タンク8、ポンプ9、および熱媒体加熱装置10と共に熱媒体循環回路10Aを構成し、熱媒体加熱装置10により高温に加熱された熱媒体(例えば、不凍液等)がポンプ9を介して循環されることにより、そこを通過する空気を加温するものである。
【0031】
図2には、図1に示された熱媒体加熱装置10を組み立てる手順を説明するための分解斜視図が示され、図3には、その熱媒体加熱装置10の平面図(A)とその側面図(B)が示されている。熱媒体加熱装置10は、図2に示されるように、制御基板13と、電極板14(図3(B)参照)と、IGBT等からなる複数個の半導体スイッチング素子12(図3(B)参照)と、熱交押え部材(押圧部材)16と、複数組(例えば、3組)の扁平熱交チューブ17を積層した積層型熱交換器18と、複数組のPTC素子(Positive Temperature Coefficient)19a(図3(B)参照)と、これらの制御基板13、電極板14、半導体スイッチング素子12、積層型熱交換器18、PTC素子19aおよび熱交押え部材16等を収容するケーシング11と、を備えている。なお、電極板14、PTC素子19aおよび後述する絶縁体等により、複数組のPTCヒータ19が構成されている。
【0032】
ケーシング11は、上半部と下半部とに2分割された構成となっており、上半部に位置するアッパケース11a(図3(B)参照)と、下半部に位置するロアケース11bとを備えている。また、アッパケース11aおよびロアケース11bの内部には、ロアケース11bの上方からロアケース11bの開口部11cにアッパケース11aを載置することによって、上記の制御基板13、半導体スイッチング素子12、熱交押え部材16、積層型熱交換器18、電極板14、および複数組のPTCヒータ19等を収容する空間が形成されるようになっている。
【0033】
ロアケース11bの下面には、積層型熱交換器18に導入される熱媒体の導くための熱媒体入口路(熱媒体導出入路)11dおよび積層型熱交換器18内を流通した熱媒体を導出するための熱媒体出口路(熱媒体導出入路)11eが一体的に設けられている。ロアケース11bは、その内部空間に収容される扁平熱交チューブ17を形成しているアルミ合金材と線膨張が近い樹脂材料(例えば、PBT)により成形されている。なお、アッパケース11aも、ロアケース11bと同じ樹脂材による成形品とすることが望ましい。このように、ケーシング11を樹脂材料で構成することにより、軽量化を図ることができる。
【0034】
また、ロアケース11bの下面には、電源ハーネス27およびLVハーネス28の先端部を貫通するための電源ハーネス用孔11fおよびLVハーネス用孔11g(図3(A)参照)が開口されている。電源ハーネス27は、制御基板13および半導体スイッチング素子12を介してPTCヒータ19に電力を供給するものであり、先端部が2又状に分岐され、制御基板13に設けられている2つの電源ハーネス用端子台13cに電極ハーネス接続用ネジ13bによってネジ止め可能とされている。また、LVハーネス28は、制御基板13に制御用の信号を送信するものであり、その先端部は、制御基板13にコネクタ接続可能とされている。
【0035】
半導体スイッチング素子12および制御基板13は、上位制御装置(ECU)からの指令に基づいて複数組のPTCヒータ19に対する通電制御を行う制御系を構成するものであり、IGBT等の複数個の半導体スイッチング素子12を介して複数組のPTCヒータ19に対する通電状態が切替えできるように構成されている。そして、この複数組のPTCヒータ19をその両面側から挟み込むように、積層型熱交換器18を構成する複数組の扁平熱交チューブ17が積層されている。
【0036】
積層型熱交換器18を構成している扁平熱交チューブ17は、図4(A)に示されるように、アルミ合金製の2枚の成形プレート17A,17Bをロウ付け接合して構成されたものであり、扁平チューブ部20と、その両端に形成されている熱媒体を供給する入口ヘッダ部22および熱媒体が導出される出口ヘッダ部23とを備えている。ここでの積層型熱交換器18は、例えば3組の扁平熱交チューブ17が互いに平行になるように積層された構成とされている。3組の扁平熱交チューブ17は、下段、中段、上段の扁平熱交チューブ17c、17b、17aの順に積層される。
【0037】
扁平熱交チューブ17a、17b、17cの扁平チューブ部20内には、図4(B)に示されるように、コルゲート状のインナーフィン21が形成され、これによって、各扁平熱交チューブ17a、17b、17c内には、その軸方向に連通している複数の熱媒体流通路が形成されている。また、各扁平熱交チューブ17a、17b、17c内にインナーフィン21が形成されることによって剛性が増大される。このため、後述する基板サブアッセンブリ15の熱交押え部材16により3組の扁平熱交チューブ17a、17b、17cが、ロアケース11bの内底面に対して押圧された場合においても、各扁平熱交チューブ17a、17b、17cが変形され難くされている。
【0038】
扁平熱交チューブ17a、17b、17cは、平面視した場合、軸方向(図4(A)において左右方向)に長い扁平状を呈している。この扁平熱交チューブ17a、17b、17cは、扁平方向、すなわち、軸方向と直交する方向(図4(B)において上下方向)に幅広となっている。さらに、各扁平熱交チューブ17a、17b、17cの軸方向の両端部、すなわち、扁平チューブ部20の両端部には、入口ヘッダ部22と出口ヘッダ部23とが形成されており、この入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の中心部には、それぞれ連通穴24,25が設けられている。
【0039】
上記した下段、中段、上段の3組の扁平熱交チューブ17c、17b、17aは、積層される際に入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23に介在された、例えば、シール面に塗布された液状ガスケットまたはOリング等のシール材26により、連通穴24,25の周りがシールされるようになっている。そして、この3組の扁平熱交チューブ17c、17b、17aの扁平チューブ部20間に、複数組のPTCヒータ19が、その両面に設けられている電極板14を介して両側から挟み込まれることによって、平行に積層されている。なお、扁平熱交チューブ17c、17b、17aの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23内にスペーサ29を挿入してもよい。
【0040】
さらに、各扁平熱交チューブ17a、17b、17cの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23は、上記のように積層され、後述する基板サブアッセンブリ15の熱交押え部材16によりロアケース11bの内底面に向け押圧されて締め付け固定される際に、その押圧力が特定の部位に強く当たることにより該部位の周辺が変形し、隙間が生じることによるシール性の低下を防止するため、図5に示されるように、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23に対して、熱交押え部材16による押圧力が押圧力方向の同一線L上の特定部位に集中され、該部位に強く当たることがないように構成されている。
【0041】
つまり、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23に対して、熱交押え部材16による押圧力の入力位置をP1、その押圧力が2枚の成形プレート17A,17Bの接合部分に伝達される位置をP2、該押圧力が入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間のシール部分に伝達される位置をP3としたとき、このP1,P2,P3の3点が押圧力方向の同一線L上に位置されないように、P1,P2,P3の少なくとも1つが、押圧力方向の同一線L上から外れた位置に設定されるようにしている。
【0042】
このように、P1,P2,P3位置の少なくとも1つを押圧力方向の同一線L上からずらすには、扁平熱交チューブ17を構成している2枚の成形プレート17A,17Bの成形金型を、予め解析した結果に基づき、P1,P2,P3位置の少なくとも1つの位置がずれるような形状とした型構造とし、該金型で成形された成形プレート17A,17Bを用いて扁平熱交チューブ17を構成すればよい。
【0043】
上記構成とされた3組の扁平熱交チューブ17c、17b、17aは、この順に積層され、後述する基板サブアッセンブリ15を介してロアケース11bの内底面に向け押圧されることによって、シール材(液状ガスケット、Oリング等)26を介して中段扁平熱交チューブ17bの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の下面と、その下方に位置している下段扁平熱交チューブ17cの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面との間、および中段扁平熱交チューブ17bの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面と、その上方に位置している上段扁平熱交チューブ17aの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の下面との間がそれぞれ密接されるようになっている。
【0044】
また、積層型熱交換器18を構成している扁平熱交チューブ17a、17b、17cを上記のように積層することによって、上段の扁平熱交チューブ17a、中段の扁平熱交チューブ17bおよび下段の扁平熱交チューブ17の各々の連通穴24,25が互いに連通され、入口ヘッダ部22同士および出口ヘッダ部23同士が互いに連通されるようになるとともに、各連通穴24,25の周囲がシール材26によって密封状態にシールされるようになっている。
【0045】
これによって、熱媒体入口路11dから導かれた熱媒体は、積層型熱交換器18の各入口ヘッダ部22から各扁平熱交チューブ17a、17b、17cの扁平チューブ部20内へと導かれる。この熱媒体は、扁平チューブ部20内を流通する過程において、PTCヒータ19により加熱されて昇温され、各出口ヘッダ部23に流出し、熱媒体出口路11eを経て熱媒体加熱装置10の外部へと導出されるようになっている。熱媒体加熱装置10から導出された熱媒体は、熱媒体循環回路10A(図1参照)を介して放熱器6に供給されることになる。
【0046】
また、電極板14は、図3(B)に示されるように、PTC素子19aに電力を供給するものであり、平面視において、矩形状を呈するアルミ合金製の板材とされている。電極板14は、PTC素子19aを挟んでその両面に、PTC素子19aの上面に接するように一枚、PTC素子19aの下面に接するように一枚それぞれ積層されている。これら2枚の電極板14によって、PTC素子19aの上面と、PTC素子19aの下面とが挟み込まれるようになっている。
【0047】
さらに、PTC素子19aの上面側に位置する電極板14は、その上面が扁平熱交チューブ17の下面に接するように配置され、PTC素子19aの下面側に位置する電極板14は、その下面が扁平熱交チューブ17の上面に接するように配置されている。本実施形態の場合には、電極板14は、下段の扁平熱交チューブ17cと中段の扁平熱交チューブ17bとの間、中段の扁平熱交チューブ17bと上段の扁平熱交チューブ17aとの間に各々2枚、合計4枚配置されている。
【0048】
4枚の各電極板14は、扁平熱交チューブ17a、17b、17cと略同一形状とされている。各電極板14は、その長辺側に1つの端子14aが設けられている。電極板14に設けられている端子14aは、各電極板14を積層させた場合に重なることなく、電極板14の長辺に沿って位置している。すなわち、各電極板14に設けられている端子14aは、その長辺に沿って少しずつ位置がずらされて設けられ、各電極板14が積層された場合に直列に配列されるように設けられている。各端子14aは、上方に突出するように設けられ、制御基板13に設けられている端子台13aに端子接続用ネジ14bを介して接続されるようになっている。
【0049】
基板サブアッセンブリ15は、制御基板13と熱交押え部材16を平行に配設し、熱交押え部材16の上面に設置されているIGBT等の複数個の半導体スイッチング素子12を間に挟み込んでいるものである。制御基板13と熱交押え部材16は、例えば4本の基板サブアッセンブリ接続用ネジ15aで固定されており、これによって、基板サブアッセンブリ15は、一体化されている。
【0050】
基板サブアッセンブリ15を構成している制御基板13には、各電極板14に直列に配列されている4つの端子14aに対応して、その一辺の下面に直列に4つの端子台13aが配列されている。また、4つの端子台13aと両端側に直列に並ぶように、電源ハーネス27の2分岐されている先端部と接続される2つの電源ハーネス用端子台13cが設けられている。これらの端子台13aおよび電源ハーネス用端子台13cは、制御基板13の下面から下方に突出するように設けられている。また、各端子台13aおよび電源ハーネス用端子台13cは、積層型熱交換器18の扁平熱交チューブ17の長辺に沿って直列に配設されている。
【0051】
さらに、制御基板13に設けられている各端子台13aおよび電源ハーネス用端子台13cは、ロアケース11bの開口部11cよりも少し上方に位置されるように設けられている。このため、各端子台13aおよび電源ハーネス用端子台13cに接続される電極板14の端子14aや電源ハーネス27の先端部が固定しやすくなっている。
【0052】
図3(B)に示すように、IGBT等からなる半導体スイッチング12は、略長方形状に樹脂成形されたトランジスタである。この半導体スイッチング12は、作動することによって熱を生じる発熱素子であり、熱交押え部材16の上面であって、積層型熱交換器18の上段の扁平熱交チューブ17aの入口ヘッダ部22近傍に接続用ネジ12aを介してねじ止めされ、熱交押え部材16をヒートシンクとして冷却されるようになっている。
【0053】
基板サブアッセンブリ15を構成している熱交押え部材16は、平面視した際に扁平な四辺形状(長方形状)のアルミ合金製板材とされている。この熱交押え部材16は、制御基板13よりも軸方向(図3(A)の左右方向)に大きくされたものであり、積層型熱交換器18の扁平熱交チューブ17a、17b、17cの上面を覆うことができる大きさとされている。制御基板13よりも軸方向に大きくされた熱交押え部材16の四隅には、該熱交押え部材16をロアケース11bに固定する基板サブアッセンブリ固定用ネジ15b(図3(A)参照)が貫通可能な孔(図示せず)が4箇所に設けられている。
【0054】
基板サブアッセンブリ15は、積層型熱交換器18の上段の扁平熱交チューブ17aの上方に載置されている。すなわち、基板サブアッセンブリ15は、熱交押え部材16の下面が上段の扁平熱交チューブ17aの上面に接するようにして配置されている。該基板サブアッセンブリ15は、熱交押え部材16を4本の基板サブアッセンブリ固定用ネジ15bを介してロアケース11bにネジ止めすることにより、熱交押え部材16の下面とロアケース11bの内底面との間で、積層された3組の扁平熱交チューブ17a、17b、17cと、その間に挟まれている2組のPTCヒータ19を挟み込んでいる。
【0055】
このように、基板サブアッセンブリ15をロアケース11bにネジ止め固定することにより、ロアケース11bの内底面方向に積層された3組の扁平熱交チューブ17a、17b、17cと、その間に挟まれている2組のPTCヒータ19が押圧されるようになっている。また、基板サブアッセンブリ15を構成している熱交押え部材16は、アルミ合金製板材であるため、積層型熱交換器18の扁平熱交チューブ17a、17b、17c内を流れる熱媒体の冷熱を介して、熱交押え部材16上に設置されているIGBT等の半導体スイッチング素子12を冷却するヒートシンクとして用いられるようになっている。
【0056】
次に、図2および図3を用いて本実施形態に係る積層型熱交換器18および熱媒体加熱装置10の組み立て手順について説明する。
まず、ロアケース11bの内底面に略平行になるように、積層型熱交換器18を構成している3組の扁平熱交チューブ17の中の下段扁平熱交チューブ17cをロアケース11bの内部空間に設置する。次に、この扁平熱交チューブ17cの扁平チューブ部20上にPTCヒータ19の両面を絶縁シート(図示せず)によって挟み、下段扁平熱交チューブ17cの上方から積層する。
【0057】
更に、下段扁平熱交チューブ17cの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面のシール面に液状ガスケット、Oリング等のシール材26を介在し、その上に上方から中段扁平熱交チューブ17bを積層する。この中段扁平熱交チューブ17bの扁平チューブ部20上に、上記と同様にPTCヒータ19の両面を絶縁シートで挟み、中段扁平熱交チューブ17bの上方から積層する。次に、中段扁平熱交チューブ17bの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面のシール面に上記と同様のシール材26を塗布し、該中段扁平熱交チューブ17bの上方から上段扁平熱交チューブ17aを積層する。
【0058】
こうして積層された上段扁平熱交チューブ17aの上方から基板サブアッセンブリ15を熱交押え部材16が下方となるように積層した後、上段の扁平熱交チューブ17a上に積層されている基板サブアッセンブリ15の熱交押え部材16を、基板サブアッセンブリ固定用ネジ15bによってロアケース11bに締め付け固定する。これによって、各扁平熱交チューブ17a、17b、17cの入口ヘッダ部22間および出口ヘッダ部23間がロアケース11bの内底面方向に押圧されて密接され、各々の入口ヘッダ部22間および出口ヘッダ部23間の連通穴24,25の周りがシール材26によってシールされることとなる。
【0059】
なお、シール材26として液状ガスケットを用いた場合、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23に塗布された液状ガスケットは、3組の扁平熱交チューブ17a、17b、17cが押圧されて密接されることによって、その一部が合わせ面にはみ出し、空気と接触されることにより空気中の水分と反応して硬化される。また、この押圧により各扁平熱交チューブ17の入口ヘッダ部22間および出口ヘッダ部23間が密接されるため、下段扁平熱交チューブ17cと中段扁平熱交チューブ17b間、および中段扁平熱交チューブ17bと上段扁平熱交チューブ17a間に挟まれていたPTCヒータ19および電極板14も、それぞれ扁平熱交チューブ17a、17b、17cの扁平チューブ部20の外表面と密接され、その間の接触熱抵抗が低減されることとなる。
【0060】
続いて、基板サブアッセンブリ15を構成する制御基板13に設けられている各端子台13aと、各電極板14の端子14aとを端子接続用ネジ14bによって本止めするとともに、電源ハーネス用孔11fに電源ハーネス27を挿入してその先端部と、制御基板13に設けられている各電源ハーネス用端子台13cとを電源ハーネス接続用ネジ13bによりねじ止めする。更に、LVハーネス28の先端部をロアケース11bの側壁に開口されているLVハーネス用孔11gからロアケース11b内に挿入し、制御基板13に対してコネクタ接続する。次いで、電源ハーネス27をロアケース11bの外底面から電源ハーネス固定用ネジ27aにより固定し、LVハーネス用孔11gにLVハーネス28を固定する。
【0061】
その後、ロアケース11bの開口部11cにシール材(上記の入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面に介在したものと同様の液状ガスケットまたはOリングでよい)を介在し、更にそのロアケース11bの開口部11c上に、上方からアッパケース11aを載置し、アッパケース11aに設けられているクリップ部(図示せず)をロアケース11bに設けられている爪部(図示せず)に引っ掛け、アッパケース11aとロアケース11bとを締結することによって、熱媒体加熱装置10の組み立てが完了(終了)する。
【0062】
なお、本実施形態で用いられている液状ガスケット(シール材)26とは、耐熱性に優れており、高温に晒される扁平熱交チューブ17の入口ヘッダ部22間および出口ヘッダ部23間等のシールに適した、空気中の水分と接することによって硬化する硬化性の液状のシール材であり、例えば、株式会社スリーボンド製のシリコーンを主成分とする製品番号1207dのシリコーン系液状ガスケットを用いることができる。
【0063】
斯くして、本実施形態に係る積層型熱交換器18、それを用いた熱媒体加熱装置10および車両用空調装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
PTCヒータ19を挟んで少なくともその両面に順次積層されている複数組(3組)の扁平熱交チューブ17を互いに平行に積層し、その上段扁平熱交チューブ17aの上面に制御基板13と熱交押え部材(押圧部材)16とを組み合わせた基板サブアッセンブリ15を設け、これをロアケース11bに締め付け固定することにより、積層された3組の扁平熱交チューブ17と2組のPTCヒータ19を圧着しながら、積層型熱交換器18を組み立てている。
【0064】
この圧着により、積層型熱交換器18の入口ヘッダ部22間および出口ヘッダ部23間に介在したシール材(液状ガスケット、Oリング等)26を密着させ、複数組の扁平熱交チューブ17と、その間に積層されているPTCヒータ19間の密接性を高めることができる。従って、各扁平熱交チューブ17とPTCヒータ19間の接触熱抵抗を低減することができ、PTCヒータ19から扁平熱交チューブ17への伝熱効率を向上させ、積層型熱交換器18および熱媒体加熱装置10を高性能化することができる。また、PTCヒータ19と熱媒体とを、複数組の扁平熱交チューブ17を積層して構成した積層型熱交換器18を介して熱交換させることができるため、ダイカスト製の大型部品である熱媒体流通ボックス等が不要とすることができ、従って、熱媒体加熱装置10の小型軽量化、低コスト化を図ることができる。
【0065】
また、3組の扁平熱交チューブ17と2組のPTCヒータ19を熱交押え部材16により押圧して圧着させる際、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23に対して、熱交押え部材16による押圧力の入力位置P1と、押圧力が2枚の成形プレート17A,17Bの接合部分に伝わる位置P2と、押圧力が入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間のシール部分に伝わる位置P3との少なくとも1つが、図5に示されるように、押圧力方向の同一線L上から外れるように設定されている。このため、熱交押え部材16による押圧力が、2枚の成形プレート17A,17Bの接合部分または入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間のシール部分で分散され、押圧力が入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間のシール部分の特定部位に強く当たることがなくなる。
【0066】
これによって、熱交押え部材16による押圧力が、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の特定の部位に強く当たることによる周りの変形を抑制し、その周辺におけるシール面での隙間の発生を阻止することができる。その結果、扁平熱交チューブ17内に内圧が負荷された際のシール性を向上し、熱媒体の漏れを防止することができる。図6(A)および図6(B)に、上記P1,P2,P3が押圧力方向の同一線L上に位置された場合の解析結果(B)と、その1つP2が押圧力方向の同一線L上からずれた位置に設定された場合の解析結果(A)とが示されている。
【0067】
この結果を見ると、(B)の場合は、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の特定部位の周りが変形し、隙間Sが発生してシール性が低下する可能性があり、扁平熱交チューブ17内に内圧が負荷されたとき、熱媒体の漏えいが懸念される。これに対して、本実施形態による(A)の場合は、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23のシール部分の変形が殆んどなく、その懸念が払しょくされていることが明らかである。
【0068】
また、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間が、シール面に介在された液状ガスケット、Oリング等のシール材26を介してシールされている。このため、複数組の扁平熱交チューブ17を積層する際、その入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23のシール面に上記のようなシール材26を介在し、それらを熱交押え部材16により押圧して入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間に密接させることにより、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間を確実にシールすることができる。従って、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間のシール性を十分に確保し、熱媒体の漏えい防止に対する信頼性を向上することができるとともに、シール構造の簡素化、組み立ての容易化を図ることができる。
【0069】
さらに、アルミ合金製の熱交押え部材16と制御基板13との間に、発熱素子であるIGBT等の半導体スイッチング12を設けている。このため、熱交押え部材16および制御基板13により、積層された扁平熱交チューブ17およびPTCヒータ19を押圧するとともに、熱交押え部材16をヒートシンクとして半導体スイッチング12を扁平熱交チューブ17からの冷熱によって冷却することができる。従って、半導体スイッチング12の冷却性能を確保し、熱媒体加熱装置10をより高性能化することができる。また、積層された扁平熱交チューブ17の押圧と半導体スイッチング12の冷却とを熱交押え部材16によって兼用化しているため、熱媒体加熱装置10を構成する部品点数を減らすことができ、従って、熱媒体加熱装置10全体を小型化することができる。
【0070】
また、熱媒体の導入を行う熱媒体入口路(熱媒体導出入路)11dと熱媒体の導出を行う熱媒体出口路(熱媒体導出入路)11eとをロアケース11bに一体的に形成した構成としている。このため、熱媒体を熱媒体加熱装置10に供給する際に、積層された扁平熱交チューブ17にかかる応力を分散することができ、従って、扁平熱交チューブ17に係る荷重を低減することができる。
【0071】
また、PTCヒータ19に対する通電を制御する制御基板13および半導体スイッチング12からなる制御系を、基板サブアッセンブリ15として一体化し、これをケーシング11内に内蔵したことにより、各電極板14との電気的な接続においては、基板サブアッセンブリ15を構成している制御基板13に設けられている各端子台13aと、各電極板14に設けられている端子14aとを端子接続用ネジ14bで固定するのみでよく、電気的に接続するための配線(ハーネス)を不要とすることができる。このため、配線経路が複雑化することがなく、組み付け性を容易化することができるとともに、部品数を削減することができ、制御系の配線経路を簡素化して、扁平熱交チューブ17、PTCヒータ19およびその制御系を、ケーシング11内に一体に内蔵した高性能でコンパクトな熱媒体加熱装置10を得ることができる。
【0072】
また、制御基板13に接続されるIGBT等の半導体スイッチング(発熱素子)12を扁平熱交チューブ17の入口ヘッダ部22側に近い位置に配設した構成としている。このため、PTCヒータ19により加熱される前の比較的温度の低い熱媒体によって、半導体スイッチング12を冷却することができ、半導体スイッチング12の冷却性能を一段と高めることができる。
【0073】
さらに、上記の如く、伝熱効率が向上されるとともに、熱媒体の漏えい等がなく、軽量でコンパクト化された高性能の熱媒体加熱装置10を組み込み、放熱器6に循環される熱媒体を加熱することができるため、車両用空調装置1の信頼性向上と空調性能の向上を図ることができるとともに、設置スペースを低減し、車両に対する搭載性を向上することができる。
【0074】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図7および図8を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、扁平熱交チューブ17の入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の連通穴24,25周りにバーリングを設けた構成としている点が異なる。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、扁平熱交チューブ17の入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23に設けられている連通穴24,25の周縁に、積層時に互いにインロー嵌合されるバーリング30,31を形成した構成としている。
【0075】
このバーリング30,31は、図7に示されるように、テーパー状のバーリングとされており、3組の扁平熱交チューブ17a、17b、17cを積層したとき、上下の入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間において、バーリング30,31同士がインロー嵌合され、そのテーパー面が互いに密着されるように構成されている。なお、このバーリング30,31のテーパー面にも、積層時に液状ガスケット、Oリング等のシール材26が介在されることはもちろんである。
【0076】
このように、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の連通穴24,25周縁に、互いにインロー嵌合されるバーリング30,31を設けることにより、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の連通穴24,25周りの強度をバーリング30,31によって向上し、熱交押え部材16による押圧時の変形をより小さくすることができる。また、該バーリング30,31を複数組の扁平熱交チューブ17の積層時の位置決めにも利用できるため、位置ずれによるシール不良をも防止することができる。従って、複数組の扁平熱交チューブ17の入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間のシール性を向上し、熱媒体の漏えいを確実に防止することができる。
【0077】
また、バーリング30,31をテーパー状としているため、複数組の扁平熱交チューブ17を積層して入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23を熱交押え部材16により押圧して互いに密接させた際の微小変形をテーパー部分で吸収し、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23同士を確実に密接させることができるとともに、出入口ヘッダ部22,23を含む扁平熱交チューブ17の寸法交差もテーパー部分で吸収することができる。従って、複数組の扁平熱交チューブ17の入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23間のシール性を更に向上することができ、熱媒体の漏えいを確実に防止することができる。
【0078】
さらに、上記バーリング30に対して、図8に示されるように、テーパー面に蛇腹状の微小突起32を設けてもよく、このような微小突起32を設けることによって、上下のバーリング30,31がインロー嵌合されたとき、該微小突起32でバーリング30,31同士が当接されるようになるため、シール性を更に向上することが可能となる。
【0079】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について、図9を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、熱交押え部材16による押圧力の入力位置P1の平面上の位置を特定している点が異なる。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
前述のとおり、四辺形状をなす熱交押え部材16は、四隅(4コーナー部)を4本の基板サブアッセンブリ固定用ネジ15bを介してロアケース11bにネジ止め固定されている。本実施形態において、押圧力の入力位置P1は、図9に示されるように、4本の固定用ネジ15bの位置とされる。
【0080】
そして、この4本の固定ネジ15bの両端側の各2本の固定ネジ15の中心、すなわち熱交押え部材16による各2箇所の押圧力の入力位置P1,P1を結ぶ線X上に、積層型熱交換器18の各扁平熱交チューブ17(17a,17b,17c)の両端部に設けられている入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の連通穴24,25の中心Wが、それぞれ位置されるように設定されている。
【0081】
上記のように、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の連通穴24,25の中心W位置と、熱交押え部材16を締め付け固定する4本のネジ15bの位置、すなわち押圧力の入力位置P1との関係を設定することによって、熱交押え部材16を締め付け固定して扁平熱交チューブ17に押圧力を加えたとき、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の連通穴24,25の周方向に力が分散され、連通穴24,25周りのシール部分において局所的に強く当たる部分をなくすることができる。
【0082】
このため、連通穴24,25周りのシール部分での変形を抑制し、シール面での隙間の発生を阻止することができ、第1実施形態と同様、扁平熱交チューブ17内に内圧が負荷された際のシール性を向上し、熱媒体の漏れを防止することが可能となる。因みに、上記線Xが、例えばX’位置にずれていると、線X’と連通穴24,25とが交わる位置Z付近のシール部分において、ヘッダ部同士が強く接触し、連通穴24,25周りで変形が発生することとなり、シール性の低下が懸念される。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記した実施形態では、扁平熱交チューブ17を3層に積層し、各々の間にPTCヒータ19を組み込んだ構成としているが、これに限らず、扁平熱交チューブ17およびPTCヒータ19の積層数を増減してもよいことはもちろんである。
【0084】
また、上記実施形態では、扁平熱交チューブ17が、扁平チューブ部20と両端の入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23とが一体化されている例について説明したが、扁平チューブ部20と両端の入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23とを別々に成形し、ロウ付けにより一体化した扁平熱交チューブとしてもよい。さらに、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23に設けるバーリング30,31については、テーパー状に限定されるものではなく、鉛直状に設ける等、様々な形状に変形してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 車両用空調装置
6 放熱器
10 熱媒体加熱装置
10A 熱媒体循環回路
16 熱交押え部材
17,17a,17b,17c 扁平熱交チューブ
17A,17B 成形プレート
18 積層型熱交換器
19 PTCヒータ
20 扁平チューブ部
22 入口ヘッダ部
23 出口ヘッダ部
24,25 連通穴
26 シール材(液状ガスケット、Oリング等)
30,31 バーリング
32 微小突起
L 押圧力方向の同一線
P1 押圧力の入力位置
P2 接合部分に伝わる位置
P3 シール部分に伝わる位置
W 連通穴の中心
X 2箇所の押圧力の入力位置を結ぶ線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体が流通される扁平チューブ部の両端に入口ヘッダ部および出口ヘッダ部が設けられている2枚の成形プレートを接合して構成される扁平熱交チューブと、
前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部が連通穴を介して互いに連通されるように積層された複数組の前記扁平熱交チューブを押圧して密着させる熱交押え部材と、を備えた積層型熱交換器にあって、
前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部に対して、前記熱交押え部材による押圧力の入力位置と、該押圧力が前記2枚の成形プレートの接合部分に伝わる位置と、前記押圧力が前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部間のシール部分に伝わる位置との少なくとも1つが、前記押圧力方向の同一線上から外れた位置に設定されていることを特徴とする積層型熱交換器。
【請求項2】
前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部の前記連通穴周りに、互いにインロー嵌合されるバーリングが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の積層型熱交換器。
【請求項3】
前記バーリングは、テーパー状とされていることを特徴とする請求項2に記載の積層型熱交換器。
【請求項4】
前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部間は、それぞれシール面に介在されたシール材を介してシールされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の積層型熱交換器。
【請求項5】
前記熱交押え部材は、扁平熱交チューブの長さ方向に対応した四辺形状とされ、その両端各2箇所の締め付け固定部を押圧力の入力位置としたとき、前記扁平熱交チューブの前記入口ヘッダ部および前記出口ヘッダ部に設けられている前記連通穴の中心が、前記両端各2箇所の入力位置を結ぶ線上に位置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型熱交換器。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の積層型熱交換器における複数組の前記扁平熱交チューブの前記扁平チューブ部間に複数組のPTCヒータが組み込まれ、該PTCヒータにより前記扁平熱交チューブ内を流通される熱媒体が加熱可能とされていることを特徴とする熱媒体加熱装置。
【請求項7】
空気流路中に配設されている放熱器に対して、熱媒体加熱装置で加熱された熱媒体が循環可能に構成されている車両用空調装置において、
前記熱媒体加熱装置が、請求項6に記載の熱媒体加熱装置とされていることを特徴とする車両用空調装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−107804(P2012−107804A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256872(P2010−256872)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】