説明

積層型誘電体フィルタ

【課題】 高周波信号成分に対する阻止帯域の減衰量が十分にとれた、信号の選択性に優れる積層型誘電体フィルタを提供する。
【解決手段】 複数の誘電体層が積層されてなる積層体1と、積層体1の外面に被着されている入出力端子電極3,4およびグランド端子電極2と、積層体1の内部で誘電体層間に配置され、一端が入出力端子電極3,4と電気的に接続されているコイル導体5,6と、積層体1の内部で積層方向においてコイル導体5,6の上下に位置する誘電体層間1a−1b,1l−1mに、積層方向に見たときにコイル導体5,6が配置されている領域の外側に配置され、グランド端子電極2と電気的に接続されている環状グランド導体7とを具備する積層型誘電体フィルタ10である。コイル導体5,6による容量が小さく、デジタル信号回路に利用することが可能で、環状グランド導体7により外部からの電磁波ノイズが充分に除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波信号を扱う回路における高周波ノイズの除去またはRF(Radio Frequency:無線周波数)回路ブロック内での高調波成分の除去に用いられる積層型誘電体フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型誘電体フィルタとして、例えば、複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、この積層体の外面に被着されている入出力端子電極およびグランド端子電極と、積層体の内部で誘電体層間に配置され、一端が入出力端子電極と電気的に接続されているコイル導体とを具備する積層型誘電体フィルタが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
このような従来の積層型誘電体フィルタは、コイル導体が有するインダクタンスにより入出力端子電極から積層体の内部に入力された電気信号の高周波ノイズあるいは高調波成分を減衰させることができるので、高周波信号を扱う回路における電気信号に含まれる高周波ノイズの除去またはRF回路ブロック内での高調波成分の除去に用いるフィルタとしての機能を備えている。
【特許文献1】特開2004−229268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の積層型誘電体フィルタは、例えば積層体の主面側から電磁波ノイズが侵入することがあり、この場合には、電磁波ノイズが入出力端子電極から積層体の内部に入力される信号の成分ではないことから、コイル導体の全域を使った高周波ノイズあるいは高調波成分に対する減衰効果が得られないので、電磁波ノイズを充分に除去することができないという問題点があった。
【0005】
なお、積層体の主面側からの電磁波ノイズの侵入を防ぐ手段として、積層体の内部で積層方向においてコイル導体の上下に位置する誘電体層間の略全域にグランド導体を配置するというものがある。しかし、この手段を用いた場合には、コイル導体とグランド導体との間で大きなキャパシタンスが発生してそのキャパシタンスへの電荷の蓄積に時間がかかるようになり、コイル導体に入出力されるデジタル信号の各波形の立ち上がりおよび立ち下がりに時間遅れが生じてしまい、デジタル信号の波形の急峻性が劣化して信号波形を維持することが困難になるという問題点があった。
【0006】
本発明は上記のような従来の積層型誘電体フィルタにおける問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、外部から侵入する電磁波ノイズを充分に除去することが可能であるとともに、高周波のデジタル信号回路に好適に利用可能な積層型誘電体フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層型誘電体フィルタは、複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、該積層体の外面に被着されている入出力端子電極およびグランド端子電極と、前記積層体の内部で誘電体層間に配置され、一端が前記入出力端子電極と電気的に接続されているコイル導体と、前記積層体の内部で積層方向において前記コイル導体の上下に位置する誘電体層間に、積層方向に見たときに前記コイル導体が配置されている領域の外側に配置され、前記グランド端子電極と電気的に接続されている環状グランド導体とを具備することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の積層型誘電体フィルタは、上記構成において、前記入出力端子電極は、前記積層体の側面から両主面にかけて被着されており、両主面に被着されている部分がそれぞれ前記誘電体層を挟んで前記環状グランド導体と対向していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層型誘電体フィルタによれば、積層体の内部で積層方向においてコイル導体の上下に位置する誘電体層間に、積層方向に見たときにコイル導体が配置されている領域の外側に、グランド端子電極と電気的に接続されている環状グランド導体が配置されていることから、環状グランド導体が積層体の主面側からの電磁波ノイズの侵入を遮断して除去することが可能となる。しかも、環状グランド導体とコイル導体との間で発生するキャパシタンスは小さいので、コイル導体に入出力されるデジタル信号の波形の急峻性を実用上問題となるように劣化させることがない。従って、高周波信号を扱うデジタル信号回路に好適に利用可能である。
【0010】
また、積層体の内部で積層方向においてコイル導体の上下に位置する誘電体層間で、積層方向に見たときにコイル導体が配置されている領域の外側に、グランド端子電極と電気的に接続されている環状グランド導体が配置されていることから、積層体のコイル導体が配置されている領域の外側のうち環状グランド導体が配置されている領域については、その領域とコイル導体が配置されている領域との積層方向における厚みの差を小さくすることができる。従って、誘電体層の積層体からなる誘電体フィルタにおける誘電体層間の剥離の発生や誘電体層のクラックの発生を抑制することができる。
【0011】
また、環状グランド導体が環状であることから、コイル導体のインダクタンスにより生じる電磁波ノイズが外部へ漏れるのを防ぐようなインダクタンスが発生するように、環状グランド導体を周回する方向へ電流が流れるようになるので、外部への電磁波ノイズの放射が少ない積層型誘電体フィルタになるという効果も得られる。
【0012】
また、本発明の積層型誘電体フィルタによれば、入出力端子電極は、積層体の側面から両主面にかけて被着されており、両主面に被着されている部分がそれぞれ誘電体層を挟んで環状グランド導体と対向しているときには、入出力端子電極のうち環状グランド導体と対向している部分はコイル導体との間でキャパシタンスを形成しないので、入出力端子電極のうち積層体の両主面に被着されている部分とコイル導体との間でのキャパシタンスの発生を抑えることができ、そのキャパシタンスを小さくすることができるので、キャパシタンスを通じて出力側へと伝わってしまう高周波ノイズを少なくすることができ、高周波ノイズあるいは高調波成分の減衰特性をより良好なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の積層型誘電体フィルタについて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の積層型誘電体フィルタの実施の形態の一例を示す外観斜視図である。図2は図1に示す積層型誘電体フィルタ10のA−A線断面図である。図3は図1に示す積層体1の分解斜視図である。これらの図に示す本発明の積層型誘電体フィルタ10は、基本的な構成として、積層体1と、積層体1の外面に被着されている入出力端子電極3,4と、グランド端子電極2と、積層体1の内部に配置されているコイル導体5,6および環状グランド導体7とを具備するものである。
【0015】
このような積層型誘電体フィルタ10は、例えば高周波信号を扱う回路における高周波ノイズの除去またはRF回路ブロック内での高調波成分の除去に用いられるものであり、例えば、入出力端子電極3からコイル導体5に入力された電気信号を入出力端子電極4から出力するまでの間に、電気信号の高周波ノイズや高調波成分を減衰させるインピーダンス特性を有するものである。
【0016】
積層体1は、長方形状の複数の誘電体層1a〜1mが積層されてなる直方体状の誘電体ブロックである。誘電体層1a〜1mは、例えば、TiO−Nd−BaTiO等を主成分とする誘電体材料によって1層当たり5μm〜300μmの厚みで形成されたものである。
【0017】
入出力端子電極3は、積層体1の長手方向の一対の側面のうちの一方の第1側面1wの複数箇所に積層方向に渡って、例えば、Cu,AgまたはAg系合金を主成分とする導電性材料を用いて10μm〜70μmの厚みで帯状に被着されたものである。また、積層体1の第1側面1wと対向する第2側面1xには、入出力端子電極3と対向する位置に複数の入出力端子電極4が入出力端子電極3と同じ材料および同じ厚みで積層方向に渡って帯状に被着されている。
【0018】
さらに、入出力端子電極3,4がそれぞれ形成されている積層体1の第1側面1wおよび第2側面1xとは異なる第3側面1yおよび第4側面1zのそれぞれには、グランド端子電極2が入出力端子電極3,4と同じ材料および同じ厚みで積層方向に渡って被着されている。なお、グランド端子電極2の1つ当たりの面積は、入出力端子電極3,4と比べて大きいものとして、これによりグランド電位が安定しやすいものにしている。
【0019】
これら入出力端子電極3,4およびグランド端子電極2は、積層型誘電体フィルタ10を外部の回路基板等に実装するときに半田等によって回路基板等の端子電極パッドに接着される実装用の接続端子でもある。なお、これら入出力端子電極3,4およびグランド端子電極2は、積層体1のそれぞれの側面1w〜1zから両主面の一部にかけて連続した一体の形状で被着されていることによって、半田による接着面積を大きくして実装性を高いものとしている。
【0020】
コイル導体5は、誘電体層間1b−1c,1c−1d,1d−1e,1e−1fのそれぞれに形成された内部導体のコイルパターン導体5a,5b,5c,5dを、各コイルパターン導体5a〜5d間の誘電体層1c〜1eに形成された、破線で示す貫通導体(符号なし)で順次接続することにより形成されたものである。また、コイル導体6は、誘電体層間1h−1i,1i−1j,1j−1k,1k−1lのそれぞれに形成された内部導体のコイルパターン導体6a,6b,6c,6dを、各コイルパターン導体6a〜6d間の誘電体層1i〜1kに形成された、破線で示す貫通導体(符号なし)で順次接続することにより形成されたものである。
【0021】
また、コイル導体5は、一端が積層体1の上側で第1側面1wに引き出されて入出力端子電極3と電気的に接続され、他端が積層体1の上側で第2側面1xに引き出されて入出力端子電極4と電気的に接続されている。また、コイル導体6は、一端が積層体1の下側で第1側面1wに引き出されて入出力端子電極3と電気的に接続され、他端が積層体1の下側で第2側面1xに引き出されて入出力端子電極4と電気的に接続されている。さらに、コイル導体5およびコイル導体6は、第1側面1wおよび第2側面1xのそれぞれに交互に引き出されている。これらコイル導体5およびコイル導体6は、それぞれが有するインダクタンスによって入出力端子電極3,4から積層体1の内部に入力された電気信号の高周波ノイズあるいは高調波成分を減衰させることができるフィルタとしての機能を備えている。
【0022】
このように、本例の積層型誘電体フィルタ10は、直方体状の積層体1の長手方向の側面である第1側面1wおよび第2側面1xのそれぞれに交互に形成された入出力端子電極3,4に積層体1の内部に構成されている別々のコイル導体5,6がそれぞれ電気的に接続されていることによって、それぞれ独立する複数のフィルタ機能を有した多連型の積層型誘電体フィルタとなっている。
【0023】
また、誘電体層間1f−1g,1g−1hのそれぞれには内部導体のグランド導体9がそれぞれの誘電体層間1f−1g,1g−1hの大部分を占める面積で形成され、一部が積層体1の第3側面1yおよび第4側面1zに引き出されてグランド端子電極2と電気的に接続されており、グランド導体9が積層方向におけるコイル導体5が形成された部分とコイル導体6が形成された部分との間に配置されることにより、コイル導体5とコイル導体6との間での容量結合の防止が図られている。また、グランド導体9が、誘電体層間1f−1gおよび誘電体層間1g−1hの2つの誘電体層間に形成されているので、それぞれのグランド導体9におけるグランド電位の変動がより少ないものとなっている。
【0024】
これらコイル導体5,6およびグランド導体9等の内部導体は、例えば、Cu,AuまたはAg系合金を主成分とする導電体材料を用いて10μm〜70μmの厚みで形成されたものである。また、貫通導体は、例えば、材料としては内部配線導体と同じものを用いて、直径が30μm〜300μmの円柱状に形成されたものである。
【0025】
そして、本例の積層型誘電体フィルタ10においては、積層体1の内部で積層方向においてコイル導体5,6の上下に位置する誘電体層間1a−1b,1l−1mに、内部導体の環状グランド導体7がそれぞれ配置されている。また、誘電体層間1a−1bに配置された環状グランド導体7は、積層方向に見たときにコイル導体5が配置されている領域の外側に配置されており、誘電体層間1l−1mに配置された環状グランド導体7は、積層方向に見たときにコイル導体6が配置されている領域の外側に配置されている。さらに、それぞれの環状グランド導体7は、一端が積層体1の第3側面1yおよび第4側面1zに引き出されて、それぞれグランド端子電極2と電気的に接続されている。
【0026】
このように、本例の積層型誘電体フィルタ10によれば、積層体1の内部で積層方向においてコイル導体5,6の上下に位置する誘電体層間1a−1b,1l−1mに、積層方向に見たときにコイル導体5,6が配置されている領域の外側に、グランド端子電極2と電気的に接続されている環状グランド導体7が配置されていることから、環状グランド導体7が積層体1の主面側からの電磁波ノイズの侵入を遮断して除去する効果を有するものとなっており、しかも、この環状グランド導体7とコイル導体5,6との間で発生するキャパシタンスは小さいので、コイル導体5,6に入出力されるデジタル信号の波形の急峻性を実用上問題となるように劣化させることがなく、高周波信号を扱うデジタル信号回路に利用することも可能となる。
【0027】
また、積層体1の内部で積層方向においてコイル導体5,6の上下に位置する誘電体層間1a−1b,1l−1mで、積層方向に見たときにコイル導体5,6が配置されている領域の外側に、グランド端子電極2と電気的に接続されている環状グランド導体7が配置されていることから、積層体1のコイル導体5,6が配置されている領域の外側のうち環状グランド導体7が配置されている領域については、コイル導体5,6が配置されている領域との積層方向における全体の厚みの差を小さくすることができる。
【0028】
さらに、環状グランド導体7が環状であることから、コイル導体5,6のインダクタンスにより生じる電磁波が外部へ漏れるのを防ぐ方向にインダクタンスが発生するように環状グランド導体7を周回する方向へ電流が流れるようになるので、外部への電磁波の漏れが少ない積層型誘電体フィルタ10になるという効果も得られる。
【0029】
なお、本例の積層型誘電体フィルタ10においては、誘電体層間1c−1d,1d−1e,1e−1fのそれぞれに内部導体のグランドコイルパターン導体8a,8b,8cが形成されており、各グランドコイルパターン導体8a〜8c間の誘電体層1d,1eに形成された、破線で示す貫通導体(符号なし)で順次接続されて、グランドコイル導体8が形成されている。また、グランドコイル導体8は、一端が誘電体層1fに形成された貫通導体を介してグランド導体9と電気的に接続されており、他端は開放されたものとなっている。そして、グランドコイル導体8を構成するグランドコイルパターン導体8bの一部がコイルパターン導体5b,5dと対向してキャパシタンスを発生しており、このキャパシタンスとグランドコイル導体8のインダクタンスとで直列共振させることによっても大きく減衰する周波数帯域を作っており、それにより周波数帯域の選択性をより高めた積層型誘電体フィルタ10となっている。
【0030】
また、誘電体層間1h−1i,1i−1j,1j−1kのそれぞれに内部導体のグランドコイルパターン導体12a,12b,12cが形成されており、各グランドコイルパターン導体12a〜12c間の誘電体層1i,1jに形成された、破線で示す貫通導体(符号なし)で順次接続されて、グランドコイル導体12が形成されている。また、グランドコイル導体12は、一端が誘電体層1hに形成された貫通導体を介してグランド導体9と電気的に接続されており、他端は開放されたものとなっている。このグランドコイル導体12にも、グランドコイル導体8と同様に、積層型誘電体フィルタ10の周波数帯域の選択性をより高める効果がある。具体的には、グランドコイル導体12を構成するグランドコイルパターン導体12bの一部がコイルパターン導体6a,6bと対向してキャパシタンスを発生しており、このキャパシタンスとグランドコイル導体12のインダクタンスとで直列共振させることによって、大きく減衰する周波数帯域を作っているというものである。
【0031】
本例の積層型誘電体フィルタ10は、例えば以下に示す方法により製造される。
【0032】
本例の積層型誘電体フィルタ10の製造方法は、基本的には、所定の内部導体および貫通導体に対応する導体ペーストのパターンを有した複数の誘電体グリーンシートを積層して成る積層シートを作製する第1工程と、積層シートを切断して直方体状の複数の個片に分離する第2工程と、個片の積層シートを焼成することにより焼結させて各内部導体および貫通導体を有する直方体状の積層体1を作製する第3工程と、積層体1の側面に導体ペーストを塗布し焼き付けて入出力端子電極3,4およびグランド端子電極2を形成する第4工程とを備える。
【0033】
第1工程において、誘電体グリーンシートを、例えば、BaTiO,TiOまたはNd等の金属酸化物の粉末に適当な有機溶剤および有機バインダ等を添加し混合して誘電体セラミックスラリーを作製し、この誘電体セラミックスラリーを例えばドクターブレード法等によって所定形状および所定厚みに形成することにより作製する。また、導体ペーストを、例えば、Cu,AgまたはAg系合金を主成分とする導体材料の粉末に適当な有機溶剤および有機バインダ等を添加し混合することにより作製する。内部導体に対応する導体ペーストのパターンは、例えばスクリーン印刷法等により所定形状および所定厚みに塗布して形成する。貫通導体に対応する導体ペーストのパターンは、例えば金型等を用いて誘電体グリーンシートの所定箇所を打ち抜くことにより貫通孔を形成し、スクリーン印刷法等によりこの貫通孔に導体ペーストを充填することによって形成する。
【0034】
そして、上述した導体ペーストのパターンが形成された誘電体グリーンシートを積層して密着させることにより、積層シートを作製する。
【0035】
第2工程において、積層シートを、縦横の並びに複数配置した積層型誘電体フィルタ10に対応する個片の領域の境界線に沿って、例えば切断刃を用いて切断することにより、複数の個片へ分離する。
【0036】
第3工程において、積層シートを焼成する温度は、上述した材料を用いる場合は、例えば最大温度930℃〜970℃に設定する。
【0037】
第4工程において、入出力端子電極3,4およびグランド端子電極2を形成する導体ペーストを、Cu,AgまたはAg系合金を主成分とする導体材料の粉末に適当な有機溶剤および有機バインダ等を添加し混合することにより作製し、作製した導体ペーストを例えばスクリーン印刷法により積層体1の側面から主面にかけて塗布し、焼付けすることにより入出力端子電極3,4およびグランド端子電極2をそれぞれ形成する。また、入出力端子電極3,4およびグランド端子電極2の表面には、NiおよびSn等の金属膜をめっき処理によりめっき膜として形成しておくことが好ましい。
【0038】
また、本例の積層型誘電体フィルタ10においては、図2に示すように、入出力端子電極3,4は、積層体1の側面から両主面にかけて被着されており、さらに、一方主面に被着されている入出力端子電極3,4の一部が誘電体層1aを挟んで環状グランド導体7と対向し、他方主面に被着されている入出力端子電極3,4の一部が誘電体層1mを挟んで環状グランド導体7と対向している。これにより、入出力端子電極3,4のうち環状グランド導体7と対向している部分は、コイル導体5,6との間でキャパシタンスを形成しないので、入出力端子電極3,4のうち積層体1の両主面に被着されている部分とコイル導体5,6との間でのキャパシタンスの発生を抑えることができ、両主面に被着されている入出力端子電極3,4のうち積層体1の両主面に被着されている部分とコイル導体5,6との間で発生するキャパシタンスを小さくすることができるので、キャパシタンスを通じて出力側へと伝わってしまう高周波ノイズあるいは高調波成分を少なくすることができ、それら高周波成分の減衰特性をより良好なものとすることができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更,改良等が可能である。
【0040】
例えば、上述した実施の形態の例では、入出力端子電極3を電気信号の入力側とし、入出力端子電極4を電気信号の出力側としているが、本発明の積層型誘電体フィルタ10にあっては、入出力端子電極3,4のうちのいずれを電気信号の入力側としてもよく、いずれを出力側としてもよいものである。
【0041】
また、上述した実施の形態の例では、積層型誘電体フィルタ10を複数のフィルタ機能を有した多連型の積層型誘電体フィルタ10としているが、このような構成に限定されるものではなく、フィルタ機能を1つだけ有したものとしても構わない。
【0042】
また、コイル導体5とコイル導体6との間での容量結合の防止を図るグランド導体9が2つの誘電体層間に形成されているが、グランド導体9は1つの誘電体層間のみに形成されたものとしてもよく、また、3つ以上の誘電体層間に形成したものとしてもよい。
【0043】
また、コイル導体5,6がグランド導体9を挟んで積層体1の上下に別々に配置されているが、グランド導体9を形成しないで、コイル導体5,6が並んで配置されたものとしてもよい。
【実施例】
【0044】
本発明の積層型誘電体フィルタについて具体例を説明する。
【0045】
試料1として本発明の実施例である積層型誘電体フィルタ10を作製した。試料1は、積層体1については長さ2.0mm,横1.25mm,高さ0.8mmの直方体状とし、積層体1の表面には図1,図2および図3に示したような入出力端子電極3,4、グランド端子電極2、内部導体および貫通導体が形成されたものとし、フィルタ回路を4つ備える多連型の積層型誘電体フィルタとした。試料1を構成する材料は、誘電体材料についてはTiO−Nd−BaTiOを主成分とする材料とし、内部導体および貫通導体の材料についてはAgを主成分とする材料とした。
【0046】
また、試料2として比較例の積層型誘電体フィルタを作製した。試料2は、本発明の積層型誘電体フィルタ10の環状グランド導体7を形成しない点を除いては、試料1と同じ形状,構成および材料のものとした。
【0047】
これら試料1,2について、オシロスコープを用いて、入力されたデジタル信号が出力された後の波形を調べてみると、試料2については信号波形の急峻性が大きく劣化していたが、試料1については信号波形の急峻性の劣化がほとんど見られなかった。これは、環状グランド導体7が積層体1の主面側からの電磁波ノイズの侵入を遮断して除去する効果を有するとともに、環状グランド導体7とコイル導体5との間で発生するキャパシタンスは小さいので、入出力されるデジタル信号の波形の急峻性を実用上問題となるように劣化させることがないことによるものである。
【0048】
また、これら試料1,2についてそれぞれ10個のサンプルを作製し、積層体の誘電体層の層間剥離の有無を調べてみたところ、試料2は10個中2個のサンプルに層間剥離が発生していたが、試料1では層間剥離が発生しているサンプルは無かった。これは、試料1では積層体1のコイル導体5,6が配置されている領域とコイル導体5,6が配置されている領域の外側で環状グランド導体7が配置されている部分との積層方向における全体の厚みの差を小さくすることができたことによるものである。
【0049】
また、試料1,2について、一定レベルの信号を0GHz〜3GHzの周波数帯域で入出力端子電極3からコイル導体5に入力させたときに、入出力端子電極4から出力される信号を測定した結果を図4に示す。図4は積層型誘電体フィルタの減衰特性を示す線図であり、横軸は出力される信号の周波数(単位:Hz)を示し、縦軸は出力される信号の減衰量(単位:dB)を示す。また図4中の実線の特性曲線Xは試料1の減衰特性を示し、破線の特性曲線Yは試料2の減衰特性を示す。
【0050】
図4に示す結果から分かるように、試料1は試料2に比べて500MHz〜2000MHzの周波数帯域で減衰量が大きく、特に、通過帯域との境界付近の周波数帯域500MHz〜1000MHz付近での減衰量が大きくなっている。これは、入出力端子電極3,4のうち環状グランド導体7と対向している部分は、コイル導体5,6との間でキャパシタンスを形成しないので、入出力端子電3,4とコイル導体5,6との間に環状グランド導体7が配置されており、これにより入出力端子電極3,4のうち積層体1の両主面に被着されている部分とコイル導体5,6との間でそれぞれ形成されるキャパシタンスを小さくできることから、このキャパシタンスを通じて出力側へと伝わってしまう高周波ノイズあるいは高調波成分を少なくすることができたことによるものである。
【0051】
このように本発明の積層型誘電体フィルタによれば、積層体の内部で積層方向においてコイル導体の上下に位置する誘電体層間に、積層方向に見たときにコイル導体が配置されている領域の外側に、グランド端子電極と電気的に接続されている環状グランド導体が配置されていることから、積層体の主面側からの電磁波ノイズの侵入を遮断し、入出力される電気信号から高周波ノイズあるいは高調波成分を効果的に除去できるとともに、入出力されるデジタル信号の波形の急峻性を実用上問題となるように劣化させることがなく、大きく減衰する周波数帯域が作れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の積層型誘電体フィルタの実施の形態の一例を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示す積層型誘電体フィルタのA−A線断面図である。
【図3】図1に示す積層体の分解斜視図である。
【図4】積層型誘電体フィルタの減衰特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・積層体
1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h,1i,1j,1k,1l,1m・・・誘電体層
2・・・グランド端子電極
3,4・・・入出力端子電極
5,6・・・コイル導体
5a,5b,5c,5d,6a,6b,6c,6d・・・コイルパターン導体
7・・・環状グランド導体
10・・・積層型誘電体フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層されてなる積層体と、
該積層体の外面に被着されている入出力端子電極およびグランド端子電極と、
前記積層体の内部で誘電体層間に配置され、一端が前記入出力端子電極と電気的に接続されているコイル導体と、
前記積層体の内部で積層方向において前記コイル導体の上下に位置する誘電体層間に、積層方向に見たときに前記コイル導体が配置されている領域の外側に配置され、前記グランド端子電極と電気的に接続されている環状グランド導体と
を具備することを特徴とする積層型誘電体フィルタ。
【請求項2】
前記入出力端子電極は、前記積層体の側面から両主面にかけて被着されており、両主面に被着されている部分がそれぞれ前記誘電体層を挟んで前記環状グランド導体と対向していることを特徴とする請求項1に記載の積層型誘電体フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−225408(P2009−225408A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70783(P2008−70783)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】