説明

穴内面の加工方法とこれに用いる加工具

【課題】穴内面の回転加工具による中ぐり加工上、加工具を巧みに利用して穴の周方向および長手方向双方に滑らかに繰り返す油保持および耐摩耗性に有利な微細な凹凸を簡単かつ安価に形成する。
【解決手段】摺動する部材を受ける穴1の内面を加工具2が回転しながら穴1の長手方向に進み切削することで、穴1の内面を加工する穴1の内面の加工方法であって、加工具2の回転により穴1内面の周方向に発生する切削深さの増減変化が、複数あり、かつ、加工具2の1回転による加工始点Sと加工終点Bとで穴1内面の周方向にずれるように規制して加工を行い、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴内面の所定の内面構造を得る加工方法と、この加工方法に用いる加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
穴の内面構造は、それが受け、支持するピンや軸などとの嵌合特性、摺動特性に大きく影響する。これらを意図して、下記特許文献1は、ピストンピンを支持するピストンピン孔の内周面の粗度を、ピストンピン孔加工用の工具の1次加工軸線と2次加工軸線とを偏倚させることによりピン孔の長手方向及び円周方向に変化させる技術を開示している。これにより、ピン孔の高面圧部位や低面圧部位が長手方向や円周方向に混在しても、それらの対応部位ごとに所望の大きさの表面粗度に形成でき、低面圧部位での潤滑油の保持能力を向上させるのに併せ、高面圧部位の耐摩耗性を向上させられるようにしている。
【0003】
また、下記特許文献2は、ピストンピン穴の穴面の内側または外側、もしくは内側と外側の両方において、ピン穴の内面に沿って規則的な帯形状に条痕加工を仕上げた内燃機関用ピストンを開示している。これにより、ピストンがシリンダボア内を摺動している際に、ピストンピンがピストンからのガス力又は慣性力などの圧縮応力により変形することにより、反対にピン穴内面に掛かる圧縮応力の低減となるようにしている。また、ピストンとピン穴の接触面積が減少することになり、ピン穴面の面圧が増加することなく、焼き付きを防止できるようにしている。さらに、条痕の摩耗あるいは変形により、ピストンピン抜けを防止できるようにしている。
【0004】
また、下記特許文献3は、ピストンピンもしくはクランクシャフトのための軸受の少なくとも1つが、少なくとも高負荷を受ける領域で、レーザビームによって粗面化されたピストン・ピストンピン・コンロッド構成ユニットを開示している。これにより、軸受のオイル保持能力を高めている。
【0005】
また、下記特許文献4は、ピストンスカート内にピストンを受容するため、ピストンスカートに設けられた2つのピストンピン穴の表面に、クレータ状の複数の窪みが設けられたピストンを開示している。これにより、クレータ状の複数の窪みによってオイル貯蔵容積を増大し、潤滑剤特にエンジンオイルを収集し、滑動膜若しくはクッションを形成できるようにしている。結果、ピストンピン穴内でのピストンの相対運動に基づいて、固着を効果的に防止することができるのと同時に、ピストンピン穴は、ピストンのために重要な特性を有しているとしている。
【0006】
また、下記特許文献5は、潤滑油の存在下で相対的に摺動する少なくとも一方の部材の摺動面に多数の微細凹部を形成するのに、微細凹部は、多数の第1微細凹部の摺動方向の幅及び深さを第1微小凹部より小さな値の第2の微小凹部を形成した低摩擦摺動部材を開示している。これにより、2種の微小凹部の混在により摺動面での保油性が向上し、摺動面に生じる摩擦を低減できるようにしている。特に、2種の微小凹部の一方が、他方に比し、摺動方向の幅及び深さが小さいことにより、負荷容量の低下による直接接触を発生させることなく、摩擦を低減することができる。なお、本文献では、微小凹部はミクロンオーダーの極めて小さな凹部を指している。
【0007】
また、下記特許文献6は、ピストンピンが摺動するピン穴の周面に、気相から焼成された高硬度な薄膜を形成した内燃機関用ピストンを開示している。これにより、この薄膜によりピン穴の周面が強化されピストンピンの撓みによる応力や摺動による摩擦力を受けてもピン穴の周面の摩耗を防止できるようにしている。
【0008】
一方、下記特許文献7は、回転する加工具が穴の長手方向に進みながら内面を加工するのに、長く突き出した軸状本体の先端の刃で行われるため、びびりが発生しやすいことにつき、工具本体先端部に凹溝を設けることにより、先端部が軽量化してバイト自身の固有振動数の増大を図り、バイトを含む機械系の固有振動数と外力の振動数との乖離を大きくしてびびりを起きにくくしながら、凹溝を設けることにより切削力の主分力が作用する方向には肉厚を確保し、切削力の背分力に対してはリブとして機能する部分を残しておけるようにした技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−246354号公報
【特許文献2】特開平5−5460号公報
【特許文献3】特表2004−508501号公報
【特許文献4】特表2007−504411号公報
【特許文献5】特開2007−321860号公報
【特許文献6】特開平2−218848号公報
【特許文献7】特開平11−285906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、穴の内面を所望の表面構造とするのに、穴加工としての1次加工後、特許文献1に記載のような加工軸線を偏倚させての特別な2次加工、特許文献2に記載のような刃具による特定部分への帯状の条痕加工、特許文献3に記載のようなレーザ加工、特許文献4に記載のようなショットピーニング加工、特許文献5に記載のような2種類の微細凹部を形成する加工、を行うのでは、特別な2次加工を必須とするために加工コストが高くつき部品コストが上昇する。また、凹凸の境目が鋭利なため、この部分にピン摺動時の応力が集中して働くので、耐摩耗性の低下や部分的な焼きつきが発生する懸念がある。
【0011】
また、特許文献6に記載のような成膜処理は、ニッケル、モリブデン等の高硬度な材料による気相からの成膜を図ることになるので、材料、処理装置、処理作業上、加工コストがよりかさむので部品コストがより上昇する。
【0012】
特許文献7に記載の技術は、加工具の振動を抑制して加工精度の向上を図れても、油保持および耐摩耗性に有利な穴内面構造を実現するものではない。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑み、穴内面の回転加工具による加工上、加工具を巧みに利用して穴の周方向および長手方向双方に滑らかに繰り返す油保持および耐摩耗性に有利な微細な凹凸を簡単かつ安価に形成する穴内面の加工方法と、これに用いる加工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の穴内面の加工方法は、摺動する部材を受ける穴の内面を加工具が回転しながら穴の長手方向に進み切削することで、穴の内面を加工する穴の内面の加工方法であって、加工具の回転により穴内面の周方向に発生する切削深さの増減変化が、複数あり、かつ、この増減変化が工具の1回転による加工始点と加工終点とで穴内面の周方向にずれるように規制して加工することを特徴としている。
【0015】
回転する加工具の振動の特性、規則性は、加工具の材質や材質の組み合わせなどにて意図的に管理でき、これと加工具の回転数と送りを組み合わせることにより、加工具の振動による切削量の増減の幅、つまり振幅と周期とを任意に操作することができる。また、このような加工具の振動の振幅と周期とを操作して作製した穴内面の加工結果は、例えば3次元形状測定器にて計測し確認できる。
【0016】
これらから、上記構成のように、加工具の回転により穴内面の周方向に発生する切削深さの増減変化が、複数あり、かつ、この増減変化が工具の1回転の始点と終点とで前記周方向にずれるように規制して加工することができる。この加工方法により、穴の周方向では切削の深い谷部と切削の浅い山部の変化周期が加工始点と加工終点でずれ、なおかつ、穴の長手方向では、隣接する切削条痕の山部と谷部が交互に配列した穴の内面構造が得られる。
【0017】
上記において、さらに、穴は、ピストンのピストンピン穴、またはコネクティングロッドのピン穴、クランクシャフトの貫通穴である。
【0018】
本発明の上記穴内面の加工方法に用いる加工具は、機械系への取り付け部から刃を持った先端までほぼ柱状に延びた本体を有し、この本体を、その途中位置から、取り付け部側の一般構造材よりなる基部側材と、先端側の超硬材よりなる先端材との組み合わせ構造とし、これら基部材と先端材とをろう接などした接合部により一体化したことを特徴としている。
【0019】
そして、基部側材の一般構造材による振幅が大きく低周波の振動特性と、先端側材の超硬材による振幅が小さく高周波の振動特性とが、それらの占有長比率に応じて組み合わせることで、加工具の回転により穴内面の周方向に発生する切削深さの増減変化の数と、この増減変化の加工具の1回転による加工始点Sと加工終点Fとでの穴内面の周方向のずれを規制する振動特性を簡易に設定できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の穴内面の加工方法によれば、加工具による切削条痕での切削の深い谷部と切削の浅い山部とが穴内面の周方向に複数あって滑らかに繋がり、かつ、山部と谷部とが加工具の1回転の始点と終点とでずれて山部が穴の長手方向に整列せず周方向にずれる配列になる。そのため山部が重なってなす稜線がスパイラル状になるため谷部に保持する油が逃げにくく、メタルタッチによる焼き付きが生じにくいという効果を奏する。
【0021】
また、山部が穴の長手方向に整列せず周方向にずれて、スパイラルになる配列によって穴内面の真円性を確保することができる。これらから、高い嵌合特性を有する上に、耐摩耗性が向上し、部分的な焼きつきも回避することができる。
【0022】
また、1パス加工にて所望の窪みを形成することができるので、山部と谷部とを滑らかに繋がらせやすいし、加工が単純で短時間で済むので、加工コスト、製品コストが低減する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る穴内面の加工方法につき、ピストンのピストンピン穴と回転する加工具との関係を模式的にみて示す説明図である。
【図2】同加工方法により得たピストンピン穴の内面構造の1つの例を模式的に示し、(a)は横断面図、(b)は縦断面図、(c)は斜視図である。
【図3】比較例の穴内面の加工方法につき、ピストンのピストンピン穴と回転する加工具との関係を模式的にみて示す説明図である。
【図4】同加工方法により得たピストンピン穴の内面構造の1つの例を模式的に示す断面図で、(a)は横断面図、(b)は縦断面図、(c)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態に係る穴内面の加工方法につき、図1〜図4を参照しながら比較例と共に説明し、本発明の理解に供する。以下の説明は、本発明の具体例であって特許請求の範囲の記載事項を限定するものではない。
【0025】
本実施の形態の穴内面の加工方法は、図1に示すように摺動する部材を受け、支持する穴1の内面を加工具2が回転しながら図1に矢印で示すように穴1の長手方向に進み切削することで、穴1の内面を加工する穴の内面の加工方法である。
【0026】
ところで、このような加工方法に用いる加工具は、例えば、図3に示す比較例の加工具20のように、ピストンヘッド21にコネクティングロッドを連結するピストンピンを摺動できるように受け・支持するピストンピン穴22の内面加工に用いられる。この場合、ピストンピン穴22がピストンヘッド21の周壁の直径線上2か所を貫通しているので、切削機械の主軸に装着する基部から先端の刃20aまで、ピストンヘッド21の直径+αの長さが必要である。
【0027】
+αは加工具20の刃20aを一対のピストンピン穴22内にその一方側から接近し、安全に進入して加工を開始するための穴外ストロークと、他方側のピストンピン穴22を確実に抜けて切削し終えるための穴外ストロークを含む。加工具20は、これらの長さ分だけ主軸から突出した状態でピストンピン穴22を加工することになる。
【0028】
このように、長く突出して回転し先端の刃で切削加工する加工具20は、特許文献7が開示するように、加工具20の固有振動数や加工条件などに起因して振動する。この振動は加工具20が取り付けられる機械系を含む振動系の構成、加工条件によって変動するが、特定の振動系、加工条件では特定の振動が発生する。この加工具20の振動によると、例えば、図4(a)の横断面図に示す本発明の比較例のように、ピストンピン穴22の内面の切削条痕23に沿って、切削の深い谷部23aと切削の浅い山部23bとが周方向に連続して繰り返す凹凸ができる。
【0029】
このような加工具20の振動の特性、規則性は、既述したように、ピストンピン穴22の内面の真円度を損なうおそれがある。より具体的には、図3、図4に示す比較例において、加工具20の1回転による加工始点Sと加工終点Fとで切削の山谷の位相が一致してしまい、その結果切削条痕23の谷部23aと山部23bとが図4(a)の横断面図に示すようにピン穴の長手方向にほぼ連続する結果、加工穴の真円度が損なわれる。
【0030】
これは、図4(b)の縦断面図に示すように切削条痕23の谷部23aどうし、山部23bどうしが、それぞれピストンピン穴22の長手方向に並ぶことを意味し、加工したピストンピン穴22内面の真円度が低下することになる。これを強調し分かりやすくするのに図4(a)では谷部23aおよび山部23bが4つずつ交互に周方向に繋がる単純形態にて示している。なお、山部23bと谷部23aの距離23dは1.5μm程度である。
【0031】
このため、支持面をなす山部23bおよび谷部23aが共に穴の軸線方向に並ぶので谷部23aに保持した油が逃げやすくメタルタッチが生じやすい。また、山部23bの周方向への分散が少なく真円度が低くなるので、ピストンピンとの嵌合特性、摺動特性に悪影響する。
【0032】
しかし、本発明者は、このような回転する加工具の振動による穴内面への切削加工状態の影響が、規則的に反復することに着目して本発明をするに至った。すなわち、本実施の形態の穴内面の加工方法では、図2(a)に示すように加工具2の回転により穴1内面にできる切削条痕3に沿って周方向に発生する切削深さhの増減変化が、複数あり、かつ、この増減変化が加工具2の1回転による加工始点Sと加工終点Fとで穴1内面の周方向にずれるように規制して加工を行う。なお、切削深さh(山部と谷部の距離)は1μm以下程度若しくは2μm以上である。
【0033】
すなわち、加工始点Sと加工終点Fとで周方向の切削深さhの増減の周期の位相が異なるように加工具2の振動を調整して加工を行う。より具体的な1例としては、ある加工始点Sが切削の山部の頂点から開始される場合は、周方向に1回転した加工終点Fは谷部の底点で終了する(この場合は位相差が90度)ということである。
【0034】
回転する加工具2の振動の特性、規則性は、加工具2の材質や材質の組み合わせなどにてその固有振動数を能動的に管理できる。また、この固有振動数と加工具2の回転数と送りなどの加工条件を組み合わせることにより、加工具2の振動による切削量の増減の幅、つまり振幅と周期とを任意に操作することができる。
【0035】
このような加工具2の振動の振幅と周期とを操作して作製した穴1内面の加工状態は、広く知られ多く実用されている3次元形状測定器にて計測し確認できる。
【0036】
これらから、本実施の形態のように、加工具2の回転により穴1内面の周方向に発生する切削深さhの増減変化が、複数あり、かつ、加工具2の1回転による加工始点Sと加工終点Fとで前記周方向にずれるように規制して切削加工することができる。
【0037】
結果、周方向にできる切削条痕3での切削の深い谷部3aと切削の深浅い山部3bとの繋がり状態と、隣接する切削条痕3どうしの谷部3aと山部3bとの穴1の長手方向の並びの穴1内面の周方向のずれ、つまりずれ量とを、加工始点と加工終点で位相をずらせるように設定した配列状態とすることができる。図2(a)の横断面図および図2(b)の縦断面図、図2(c)の斜視図には、この切削状態を示す。なお、図2(a)では、加工始点Sと加工終点Fが一致してなく、位相がずれていることを示している。また、図2(b)では、刃2bを示した。
【0038】
これにより、加工具2による切削条痕3での切削の深い谷部3aと切削の浅い山部3bとが、図2(a)に示すように穴1内面の周方向に複数あって滑らかに繋がり、かつ、谷部3aと山部3bとが加工具2の1回転による加工始点Sと加工終点Fとでずれて山部3bが穴1の長手方向に整列しない配列とすることができる。
【0039】
また、山部3bが穴1の長手方向に直線状に整列しないで、周方向に順次位置ずれるので、谷部3aに保持する油を逃しにくくし、メタルタッチしにくい構造となる。また、いずれの山部および谷部も、穴内面域にスパイラルに連なって分散する配列となるので、切削時に山谷ができても、穴1内面の真円性を確保することができる。これらから、高い嵌合特性を有する上に、耐摩耗性が向上し、部分的な焼きつきも回避することができる。また、1パス加工にて所望の窪みを形成することができるので、山部3bと谷部3aとを滑らかに繋がらせやすいし、加工が単純で短時間で済むので、加工コスト、製品コストが低減する。
【0040】
詳述すると、切削条痕3に沿って穴1内面の周方向に谷部3aと山部3bとが交互に滑らかに繋がって谷部3aが形成する窪みを形成する。この時、切削条痕3の隣接ピッチP、つまり加工具2が回転しながら穴1の長手方向に進む際の送りピッチPに相当する。
【0041】
従って、切削条痕3が谷部3aをなして窪みを作る際の最大切削幅Bmax程度に設定した配列としてある。しかし、隣接する切削条痕3での谷部3aと山部3bとの周方向のずれにより(図2(c)での図示例では半周期のずれ)、図2(c)に示すような3次元配列となる。
【0042】
この結果、最大切削幅Bmaxに等しいピッチPで隣接する切削条痕3どうしは、互いの最大切削幅Bmaxの谷部3aと最小切削幅Bminの山部3bとが隣接し合う。図2(c)では、最大切削幅Bmaxと最小切削幅Bminが隣接している様子を示している。
【0043】
図4(b)に示す比較例では、切削痕の山部23bと谷部23aが穴の長さ方向に直線状に整列するため、山部は山部と隣接し、谷部は谷部としか隣接しない。すなわち、図4(c)では、最大切削幅Bmaxと最小切削幅Bminが隣接せず、最大切削幅Bmax同士、最小切削幅Bmin同士が隣接する。したがって、油保持部となりにくい山部23bが連続する。
【0044】
これに対して、本発明では、図2(c)に示すように、油保持部となる谷部3aは、従来例の図4(c)で示した山部23bが連続する部分を穴の長さ方向に交互に配置されるため、谷部3aの配置密度は、従来例と比較してほぼ倍加する。
【0045】
このような加工対象とする穴1は、図1に例示するピストン4のコネクティングロッドを連結するピストンピン穴の他、図示しないがコネクティングロッドのピン穴、クランクシャフト貫通穴に適用して有効である。
【0046】
なお、本実施の形態は、加工具2が回転しながら穴1の長手方向に進み切削されたことによる切削条痕3を有し、この加工具2の1回転に対応する切削条痕3に、発生した切削深さhの増減変化が、複数あり、かつ、増減の変化の位相が加工具2の1回転による加工始点Sと加工終点Fとで前記周方向にずれたものとした、摺動する部材を受ける穴1の内面構造をも提供している。
【0047】
上記のような穴内面の加工方法に用いる加工具2は、一般に、図1に示すように、切削機械の主軸といった機械系6への取り付け部2aから刃2bを持った先端までほぼ柱状に延びた本体部2cを有した基本構成を有している。このような基本構成における本体部2cを、その途中位置から、取り付け部2a側の一般構造材よりなる基部側材2dと、先端側の超硬材よりなる先端側材2eとの組合わせ構造としている。
【0048】
その上で、これら基部側材2dと先端側材2eとをろう接するなどした接合部5により接合して一体化したものとする。
【0049】
これにより、加工具2の基部側材2dの一般構造材による振幅が大きい低周波の振動特性と、先端側材2eの超硬材による振幅が小さく高周波の振動特性とが、それらの占有長比率に応じて組み合わせることで、加工具2の回転により穴1内面の周方向に発生する切削深さの増減変化の数と、この増減変化の加工具2の1回転による加工始点Sと加工終点Fとでの穴1内面の周方向のずれ(位相差)を規制する振動特性を簡易に設定できる。
【0050】
なお、本実施の形態の加工具2は、全長が80mm〜100mm程度であり、基部側材2dと先端側材2eとの長さの比は1:2として好適であったが、これに限られることはない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、摺動する部材を受け、支持する穴内面を回転する加工具が穴の長手方向に進んで加工するのに、加工具の回転による切削条痕に沿ってできる切削深さの深い谷部と切削深さの浅い山部との周方向の数と、加工具の1回転による加工始点と加工終点とで谷部と山部とのずれ量を規制して加工するだけで、嵌合特性、摺動特性に好適な内面構造が容易かつ安価に実現する。
【符号の説明】
【0052】
1 穴
2 加工具
2a 取り付け部
2b 刃
2c 本体部
2d 基部側材
2e 先端側材
3 切削条痕
3a 谷部
3b 山部
4 ピストン
5 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動する部材を受ける穴の内面を加工具が回転しながら穴の長手方向に進み切削することで、穴の内面を加工する穴の内面の加工方法であって、加工具の回転により穴内面の周方向に発生する切削深さの増減変化が、複数あり、かつ、工具の1回転の始点と終点とで穴内面の周方向にずれるように規制することを特徴とする穴内面の加工方法。
【請求項2】
穴は、ピストンのピン穴、またはコネクティングロッドのピン穴、クランクシャフト貫通穴である請求項1に記載の穴内面の加工方法。
【請求項3】
機械系への取り付け部から刃を持った先端までほぼ柱状に延びた本体を有し、この本体部を、その途中位置から、取り付け部側の一般構造材よりなる基部側材と、先端側材の超硬材よりなる先端材との組み合わせ構造とし、これら基部側材と先端側材とをろう接などした接合部により一体化したことを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載の穴内面の加工方法に用いる加工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−52582(P2012−52582A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194150(P2010−194150)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】