説明

穴加工用NCプログラム作成装置

【課題】複数の穴が交差する場合の穴加工用NCプログラム作成装置を提供する。
【解決手段】穴領域抽出手段120により、製品形状三次元CADデータ20において加工すべき複数の穴領域G1,G2,G3を抽出する。交差穴領域抽出手段130により、複数の穴領域G1,G2,G3の中から相互に交差する二つの穴領域G2,G3を抽出する。加工工程決定手段160により、相互に交差する二つの穴領域G2,G3のうち先に加工する一方の穴領域G2に対して尖ドリルT2により加工し、後に加工する他方の穴領域G3に対して少なくとも交差部を平ドリルT3により加工し、交差部より奥側を尖ドリルT2により加工するように加工工程を決定する。この加工工程に基づいて、NCプログラム作成手段170がNCプログラムを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴を有する製品形状三次元CADデータを用いて、穴加工用のNCプログラムを作成する穴加工用NCプログラム作成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
穴加工用NCプログラム作成装置として、例えば、特開2008−149382号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1には、CAD上で作成された製品の穴形状データに基づいてドリルの選択およびドリルの動作の決定を自動的に行って、NCプログラムを作成することが記載されている。
【0003】
また、交差穴の加工方法について、特開平11−33807号(特許文献2)に記載されている。特許文献2には、二つの穴の交差部に生じるバリを除去する加工方法について記載されている。また、傾斜面に穴加工するための加工方法について、特開2007−216334号公報(特許文献3)および特開2009−45680号公報(特許文献4)に記載されている。特許文献3,4には、穴の開口部をエンドミルにて加工することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−149382号公報
【特許文献2】特開平11−33807号公報
【特許文献3】特開2007−216334号公報
【特許文献4】特開2009−45680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、一つの穴加工用のNCプログラムを作成することが記載されている。ところで、加工対象によっては、複数の穴が交差する場合がある。このような場合には、後の穴を尖ドリルにより加工する際に、交差部に進入する際および当該交差部からさらに奧へ向かって加工する際に、尖ドリルの先端が尖ドリルの径方向に移動することによって、尖ドリルが折損するおそれがある。このような加工対象について、工具が折損しないようなNCプログラムを作成することが求められる。
【0006】
なお、特許文献2には、NCプログラムの作成について記載されていない上に、上述したような交差部の後の穴を加工する際については何ら記載されていない。また、特許文献3,4には、NCプログラムの作成について記載されておらず、複数の穴の交差部に関するものではない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、複数の穴が交差する場合の穴加工用NCプログラム作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1)本発明の穴加工用NCプログラム作成装置は、製品形状三次元CADデータを取得して加工すべき複数の穴領域を抽出する穴領域抽出手段と、複数の前記穴領域の中から相互に交差する複数の前記穴領域を抽出する交差穴領域抽出手段と、相互に交差する二つの前記穴領域のうち先に加工する一方の前記穴領域に対して尖ドリルにより加工し、後に加工する他方の前記穴領域に対して少なくとも交差部を平ドリルにより加工し、前記交差部より奥側を尖ドリルにより加工するように加工工程を決定する加工工程決定手段と、前記加工工程に基づいてNCプログラムを作成するNCプログラム作成手段とを備える。
【0009】
(請求項2)また、本発明において、前記穴加工用NCプログラム作成装置は、前記交差穴領域抽出手段により抽出された二つの前記穴領域のそれぞれについて、穴開口位置から前記交差部までの深さを算出する交差部深さ算出手段を備え、前記加工工程決定手段は、前記深さが浅い方を先に加工する前記一方の穴領域として加工し、前記深さが深い方を後に加工する前記他方の穴領域として加工するように前記加工工程を決定するようにしてもよい。
【0010】
(請求項3)また、本発明において、前記穴加工用NCプログラム作成装置は、前記交差穴領域抽出手段により抽出された二つの前記穴領域の中心軸ベクトルのなす角度を算出するなす角度算出手段を備え、前記加工工程決定手段は、前記なす角度が予め設定された閾値より小さい場合に、後に加工する前記他方の穴領域に対して少なくとも交差部を平ドリルにより加工し、前記交差部より奥側を尖ドリルにより加工するように加工工程を決定するようにしてもよい。
【0011】
(請求項4)また、本発明において、前記穴加工用NCプログラム作成装置は、前記交差穴領域抽出手段により抽出された二つの前記穴領域のそれぞれについて、穴開口位置から前記交差部までの深さを算出する交差部深さ算出手段を備え、前記加工工程決定手段は、前記深さに応じて設定された前記閾値を用いて前記加工工程を決定するようにしてもよい。
【0012】
(請求項5)また、本発明において、前記穴領域抽出手段により抽出された前記穴領域には、前記穴の稜線に関する情報が含まれ、前記交差穴領域抽出手段は、二つの前記穴領域の前記稜線が共通する場合に当該二つの前記穴領域が相互に交差する二つの前記穴領域であると判定するようにしてもよい。
【0013】
(請求項6)また、本発明において、前記加工工程決定手段は、前記他方の穴領域に対して前記交差部の手前までを尖ドリルにより加工し、後に加工する他方の前記穴領域に対して少なくとも交差部を平ドリルにより加工し、前記交差部より奥側を尖ドリルにより加工するように前記加工工程を決定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
(請求項1)本発明によれば、複数の穴領域の交差部を平ドリルで加工するように加工工程を決定している。ここで、平ドリルは、先端がドリル軸方向に直交するように形成されており、先端で加工ができるドリルである。従って、交差部に進入する際に平ドリルにかかる径方向の負荷が変動することによって、平ドリルに対して径方向に力が作用したとしても、平ドリルの先端面で加工することができるため、平ドリルがドリル軸の径方向に倒れることが抑制される。さらに、平ドリルの先端が交差部に進入した後に交差部を通過する際においても、平ドリルにかかる径方向の負荷が変動することによって、平ドリルに対して径方向に力が作用する。特に、平ドリルの先端が先に加工された穴領域のうち後に加工する穴領域の穴開口側とは反対側(奧側)の面を加工する際には、その負荷変動が大きくなる。しかし、この場合にも、平ドリルの先端面で交差部を加工することができるため、平ドリルがドリル軸の径方向に倒れることが抑制される。従って、二つの穴領域の交差部において、ドリルが折損しないようなNCプログラムを自動的に作成することができる。
【0015】
(請求項2)本発明によれば、二つの穴領域のうち交差部までの深さが浅い方を先に加工し、深い方を後に加工するようなNCプログラムを作成している。ここで、ドリルが穴に進入している長さが長いほど、ドリルが倒れるおそれが低くなる。つまり、交差部までの深さが深い方を後に加工するようなNCプログラムとすることで、後に加工する穴の交差部を加工する際には、ドリルの穴への進入長さが長くできる。従って、平ドリルが倒れることをより抑制できる。その結果、平ドリルによって交差部を加工する際に、平ドリルが折損することをより確実に防止できるようなNCプログラムを作成できる。
【0016】
(請求項3)本発明によれば、二つの穴領域の中心軸のなす角度が小さいほど、尖ドリルを用いて交差部を加工すると、尖ドリルが倒れるおそれが高い。そこで、なす角度が閾値より小さい場合に、交差部において平ドリルを用いて加工するようなNCプログラムを作成することにしている。これにより、適切に平ドリルを用いるようなNCプログラムを作成することができる。なお、なす角度が閾値以上の場合には、平ドリルを用いるのではなく、尖ドリルを用いたNCプログラムとするとよい。つまり、なす角度が閾値以上の場合には、尖ドリルを用いて、穴開口部から交差部を通過して、最終位置まで加工するようなNCプログラムとする。そうすることで、途中で工具を変更することなく加工を行うことができるため、加工時間を短縮することができる。
【0017】
(請求項4)本発明によれば、交差部までの深さが深いほど、ドリルが倒れるおそれが低い。そこで、平ドリルを用いる加工工程を採用する否かの閾値を、交差部までの深さに応じて変化させるようにすることで、より適切に平ドリルを用いる場合を判定できる。
【0018】
(請求項5)本発明によれば、稜線が共通するか否かによって、交差部を有するか否かを判定している。これにより、製品形状三次元CADデータから確実に交差部を有する穴領域を抽出することができる。
【0019】
(請求項6)本発明によれば、交差部の手前までは尖ドリルを用いたNCプログラムとしている。ここで、尖ドリルは、平ドリルに比べて、高速な加工を実現できる。従って、本発明によれば、加工時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】製品形状三次元CADデータを示す図である。
【図2】交差穴の加工工程の順序を示す図である。
【図3】NCプログラム作成装置の機能ブロック図である。
【図4】(a)は第一NCプログラムによる第一回目の段取を示す図であり、(b)は第二NCプログラムによる第二回目の段取を示す図である。
【図5】NCプログラム毎の加工部位を示す図である。
【図6】(a)は第一穴領域の稜線を示す図であり(b)は交差穴の一方である第二穴領域の稜線を示す図であり、(c)は交差穴の他方である第三穴領域の稜線を示す図である。
【図7】交差穴領域抽出手段による交差穴領域抽出処理を示すフローチャートである。
【図8】深さ,角度算出手段による深さ,角度算出処理を示すフローチャートである。
【図9】判定手段による判定処理を示すフローチャートである。
【図10】加工工程決定手段による加工工程決定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(NCプログラム作成装置により実行される穴の加工工程の説明)
本実施形態のNCプログラム作成装置により作成されるNCプログラムにより、加工される穴の加工工程について図1および図2を参照して説明する。その後に、NCプログラム作成装置の詳細について説明するものとする。
【0022】
三次元CAD装置によって予め作成された製品形状三次元CADデータ20(以下、「製品データ」と称する)は、図1に示すとおりである。すなわち、製品データ20は、第一〜第五製品面21〜25によって五角形形状に形成されており、第二製品面22が第一製品面21および第三製品面23に対して傾斜している。また、製品データ20は、図1に示すように、第一〜第三製品面21,22,23のそれぞれに、第一穴G1,第二穴G2および第三穴G3が形成されている。
【0023】
特に、第二穴G2および第三穴G3は、途中で交差している。ここで、第二穴G2の軸方向ベクトルと第三穴G3の軸方向ベクトルとのなす角度は、αである。また、第二穴G2のうち第三穴G3との交差部までの穴開口側の深さをDb1とし、第二穴G2のうち第三穴G3との交差部までの穴奥側の深さをDb2とし、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部までの穴開口側の深さをDa1とし、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部までの穴奥側の深さをDa2とする。
【0024】
次に、本発明は、特に、交差穴を加工するためのNCプログラムを作成することが特徴的であるため、図1に示す製品データ20のうち、第二穴G2と第三穴G3との加工工程について図2を参照して説明する。加工工程が、図2(a)〜図2(f)の順に進むようにされる。図2において、第二穴G2および第三穴G3について、加工済みの部分は実線にて示し、加工前の部分は破線にて示す。ここで、本実施形態においては、第二穴G2を第三穴G3よりも先に加工するものとしている。これは、第二穴G2のうち第三穴G3との交差部までの深さ(Da1,Da2)と、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部までの深さ(Db1,Db2)とのうち、浅い方を先に加工するようにしたためである。以下、図2(a)から図2(f)まで、順に説明する。
【0025】
まず、図2(a)に示すように、穴G2に対するセンタもみ加工をセンタドリルT1によって行う。続いて、図2(b)に示すように、尖ドリルT2によって、穴G2を最後まで穴開け加工を行う。この尖ドリルT2とは、先端が尖っているドリルである。つまり、尖ドリルT2の先端は、側面から見た場合に、二等辺三角形状となる。続いて、図2(c)に示すように、第三穴G3に対するセンタもみ加工をセンタドリルT1によって行う。続いて、図2(d)に示すように、尖ドリルT2によって、第三穴G3の穴開け加工を行う。ただし、このときの穴開け加工は、尖ドリルT2の先端が、既に加工されている第二穴G2に達しない位置で停止させる。つまり、尖ドリルT2の先端が、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部までの穴開口側の深さをDa1付近に位置するまで、穴開け加工を行う。
【0026】
続いて、図2(e)に示すように、平ドリルT3によって第三穴G3のうち第二穴G2との交差部を加工する。具体的には、平ドリルT3によって、第三穴G3のうち第二穴G2に到達する加工を行うと共に、第三穴G3のうち第二穴G2からさらに奥深くまで加工を行う。平ドリルT3による加工は、平ドリルT3の先端が、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部までの穴奥側の深さDa2より僅かに穴奥側の位置で停止させる。そして、最後に、図2(f)に示すように、尖ドリルT2によって、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部よりも穴奥側の加工を行う。ここで、平ドリルT3とは、先端が尖っておらず、側面から見た場合に平坦になっているドリルである。つまり、平ドリルT3は、尖ドリルT2の先端をドリル軸方向に直交するように形成されており、先端で加工ができるドリルである。また、平ドリルT3は、エンドミルを含む意味でも用いている。
【0027】
このように、第二穴G2と第三穴G3との交差部を平ドリルT3で加工するように加工工程を決定している。ここで、後に加工する第三穴G3を加工する際に、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部に進入する際に平ドリルT3にかかる径方向の負荷が変動することによって、平ドリルT3に対して径方向に力が作用する。しかし、平ドリルT3の先端面で加工することができるため、平ドリルT3がドリル軸の径方向に倒れることが抑制される。さらに、平ドリルT3の先端が第三穴G3のうち第二穴G2との交差部に進入した後に交差部を通過する際においても、平ドリルT3にかかる径方向の負荷が変動することによって、平ドリルT3に対して径方向に力が作用する。特に、平ドリルT3の先端が先に加工された第二穴G2のうち後に加工する第三穴G3の穴開口側とは反対側(奧側)の面を加工する際には、その負荷変動が大きくなる。しかし、この場合にも、平ドリルT3の先端面で交差部を加工することができるため、平ドリルT3がドリル軸の径方向に倒れることが抑制される。従って、第二穴G2と第三穴G3との交差部において、尖ドリルT2が折損しないようなNCプログラムを自動的に作成することができる。
【0028】
(NCプログラム作成装置の詳細構成)
次に、上述したような穴加工工程を実行できるNCプログラムを作成するNCプログラム作成について、図3〜図10を参照して説明する。図3に示すように、NCプログラム作成装置は、3D(三次元)データ記憶部110と、穴領域抽出手段120と、交差穴領域抽出手段130と、深さ,角度算出手段140と、判定手段150と、加工工程決定手段160と、NCプログラム作成手段170とを備えて構成される。
【0029】
このNCプログラム作成装置は、それぞれの段取毎に少なくとも一つのNCプログラムを作成する。例えば、第一回目の段取は、図4(a)に示すように、テーブル30の上面に製品データ20の面24を設置した状態とする。また、第二回目の段取は、図4(b)に示すように、テーブル30の上面に製品データ20の面25を設置した状態とする。このとき、図5の上段に示すように、第一回目の段取において実行する第一NCプログラムは、図1に示す第一穴G1および第二穴G2を加工するプログラムであるとする。また、図5の下段に示すように、第二回目の段取において実行する第二NCプログラムは、図1に示す第三穴G3を加工するプログラムであるとする。つまり、本実施形態のNCプログラム作成装置は、第一NCプログラムと第二NCプログラムを作成するものとする。
【0030】
図3に戻り説明する。図3に示す3D(三次元)データ記憶部110は、三次元CAD装置により予め作成された図1に示す製品データ20を記憶する。製品データ20は、ソリッドモデルとして記憶されている。ここでは、ソリッドモデルとしての製品データ20は、面、その面を構成するための稜線、複数の稜線の交点である点に関する情報を有している。
【0031】
穴領域抽出手段120は、製品データ20を取得して、加工すべき複数の穴領域G1、・・・、Gnを抽出する。それぞれの穴領域Gnの記号nは、穴領域固有のID番号である。本実施形態においては、穴領域抽出手段120は、第一穴領域G1、第二穴領域G2および第三穴領域G3を抽出する。ここで、三次元形状データとしての穴を表す場合に「穴領域」と称し、実際に被加工物に加工される穴を表す場合には、単に「穴」と称する。つまり、以下は、NCプログラムを作成する段階における説明であるため、「穴領域」と称する。
【0032】
抽出された第一,第二,第三穴領域G1,G2,G3は、図6(a)(b)(c)のそれぞれに示すような面、稜線および点に関する情報、並びに、それらの位置情報を有している。例えば、第二穴領域G2は、図6(b)に示すように、稜線G21,G22を有している。また、第三穴領域G3は、図6(c)に示すように、稜線G31,G32を有している。ここで、第二穴領域G2の稜線G21は、第三穴領域G3の稜線G31と共通する。また、第二穴領域G2の稜線G22は、第三穴領域G3の稜線G32と共通する。
【0033】
図3に示す交差穴領域抽出手段130は、複数の穴領域G1、・・・、Gnの中から相互に交差する複数の穴領域の組を抽出する。以下において、穴領域の組をPk(カウンタk=1〜kmax)と記載する。本実施形態においては、交差穴領域抽出手段130は、穴領域抽出手段120にて抽出された第一,第二,第三穴領域G1,G2,G3の中から、相互に交差する第二,第三穴領域G2,G3の組P1を抽出する。
【0034】
この交差穴領域抽出手段130による交差穴領域抽出処理について、図7を参照して説明する。図7に示すように、現段取対象カウンタiを1にセットし(ステップS1)、全カウンタjを1にセットする(ステップS2)。現段取対象カウンタiとは、現在の段取において加工対象となる穴領域GiのID番号iに相当するカウンタである。つまり、図5(a)に示す第一回目の段取においては、第一穴領域G1および第二穴領域G2が対象となる。また、全カウンタjとは、穴領域抽出手段120により抽出された全ての穴領域GjのID番号jに相当するカウンタである。
【0035】
続いて、穴領域Gi,Gjに共通する稜線が有るか否かを判定する(ステップS3)。ただし、二つの穴領域Gi,Gjの全ての稜線が共通する場合、つまり、同じ穴領域の場合は判定対象から除外する。例えば、i=1、j=2の場合には、第一穴領域G1と第二穴領域G2とは全ての稜線が共通しない。一方、i=2、j=3の場合には、第二穴領域G2と第三穴領域G3とは、図6(b)(c)に示すように、一部において稜線が共通する。
【0036】
続いて、穴領域Gi,Gjに共通する稜線が有る場合には(ステップS3:Y)、当該穴領域Gi,Gjは交差穴として設定される(ステップS4)。つまり、第二穴領域G2と第三穴領域G3とは、交差穴として設定される。一方、穴領域Gi,Gjに共通する稜線がない場合には(ステップS3:N)、次のステップS5へ進む。このように、交差穴であるか否かの判定を、それぞれの穴領域Gi,Gjの稜線が共通するか否かによって行っている。これにより、製品データ20から確実に交差穴を確実に抽出することができる。
【0037】
続いて、全カウンタjが最大値jmaxであるか否かを判定し(ステップS5)、最大値jmaxでない場合には1加算して(ステップS6)、ステップS3から繰り返す。一方、全カウンタjが最大値jmaxに達した場合には(ステップS5:Y)、現段取対象カウンタiが最大値imaxであるか否かを判定し(ステップS7)、最大値imaxでない場合には1加算して(ステップS8)、ステップS2から繰り返す。一方、現段取対象カウンタiが最大値imaxに達した場合には(ステップS7:Y)、処理を終了する。つまり、現段取対象の穴領域Giのそれぞれに対して、全ての穴領域Gjと共通する稜線が有るか否か比較することにより、現段取対象の穴領域Giの中に交差穴であるか否かを判定する。つまり、第一回目の段取では、第二穴領域G2が交差穴として抽出され、交差対象は第三穴領域G3として設定される。また、第二回目の段取では、第三穴領域G3が交差穴として抽出され、交差対象は第二穴領域G2として設定される。
【0038】
図3に示す深さ,角度算出手段140は、交差穴領域抽出手段130により抽出された二つの穴領域の組P1,・・・,Pkmaxのそれぞれについて、穴開口位置から交差部までの深さを算出する。本実施形態においては、図4(a)に示すような、第二穴領域G2のうち第三穴領域G3との交差部までの穴開口側の深さDb1、第二穴領域G2のうち第三穴領域G3との交差部までの穴奥側の深さDb2、第三穴領域G3のうち第二穴領域G2との交差部までの穴開口側の深さDa1、第三穴領域G3のうち第二穴領域G2との交差部までの穴奥側の深さDa2を算出する。さらに、深さ,角度算出手段140は、交差穴領域抽出手段130により抽出された二つの穴領域の組P1,・・・,Pkmaxの中心軸ベクトルのなす角度を算出する。本実施形態においては、図4(a)に示すように、第二穴領域G2の中心軸ベクトルと第三穴領域G3の中心軸ベクトルのなす角度αを算出する。
【0039】
この深さ,角度算出手段140による深さ,角度算出処理について、図8を参照して説明する。図8に示すように、交差穴組カウンタkを1にセットする(ステップS11)。続いて、交差穴領域抽出手段130により抽出された交差穴領域の組Pkを取得する。本実施形態においては、相互に交差する第二穴領域G2と第三穴領域G3の組P1を取得する。
【0040】
続いて、交差する穴領域のうち一方の穴領域に加工済フラグが有るか否かを判定する(ステップS13)。加工済フラグとは、今回実行する段取より前の段取にて、既に加工されている穴領域に付されているフラグである。この加工済フラグは、後述する加工工程決定処理におけるステップS35にてセットされる。つまり、本ステップでは、前の段取において、一方の穴領域が加工済みであるか否かを判定するものである。
【0041】
続いて、一方の穴領域に加工済フラグが有る場合には、加工済フラグの穴領域を改めて取得する(ステップS14)。ステップS13において一方の穴領域に加工済フラグがない場合には、交差する穴領域の加工順序を決定する処理を実行する(ステップS15)。この処理は、例えば、交差穴の穴開口側の深さ(Da1,Db1)または交差穴の穴奥側の深さ(Da2,Db2)を比較して、浅い方を先に加工するものとする。この他に、操作者によって任意に決定することもでき、ランダムに決定するようにしてもよい。加工順序が決定されると、後に加工する穴領域を取得する(ステップS16)。本実施形態において、第二穴領域G2が第一回目の段取にて既に加工済フラグが付されているとすると、第三穴領域G3がステップS14にて取得される穴領域となる。仮に、同じ段取にて第二穴領域G2と第三穴領域G3とを加工するとした場合には、交差部までの深さが浅い第二穴領域G2を先に加工し、第三穴領域G3を後に加工するものとして、ステップS15にて加工順序が決定される。そうすると、ステップS16においては、後に加工するとされる第三穴領域G3が取得される。
【0042】
続いて、ステップS14またはステップS16にて取得した穴領域と、それに交差する穴領域との中心軸ベクトルのなす角度αを算出する。本実施形態においては、図4(a)に示すように、第二穴領域G2と第三穴領域G3との中心軸ベクトルのなす角度αが算出される。続いて、ステップS17にて取得した第三穴領域G3について、交差部までの深さ(Da1,Da2)を算出する(ステップS18)。深さDa1は、上述したように、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部までの穴開口側の深さであり、深さDa2は、第三穴G3のうち第二穴G2との交差部までの穴奥側の深さである。
【0043】
続いて、交差穴組カウンタkが最大値kmaxであるか否かを判定し(ステップS19)、最大値kmaxでない場合には1加算して(ステップS20)、ステップS12から繰り返す。一方、交差穴組カウンタkが最大値kmaxに達した場合には(ステップS19:Y)、処理を終了する。
【0044】
図3に示す判定手段150は、深さ,角度算出手段140により算出された後に加工する穴領域Gnにおいて、交差部までの深さDa1,Da2および角度αを用いて、特殊加工を実行するか否かを判定する。ここで、特殊加工とは、図2(c)〜図2(f)に示した加工方法のことを意味する。つまり、穴の交差部において、平ドリルT3を用いる加工である。
【0045】
例えば、交差穴のなす角度αが90°の場合には、交差穴のうち後に加工する穴を尖ドリルT2により加工する場合、交差部に進入する際および当該交差部を通過する際に、尖ドリルT2の先端は尖ドリルT2の径方向に移動することはほとんどない。これに対して、交差穴のなす角度αが0°に近くなるほど、または、交差穴のなす角度αが180°に近くなるほど、交差穴のうち後に加工する穴を尖ドリルT2により加工する場合、交差部に進入する際および当該交差部を通過する際に、尖ドリルT2の先端は尖ドリルT2の径方向に移動する。この移動する力が大きいほど、尖ドリルT2が折損する可能性が高くなる。このように、交差穴のなす角度αによって、尖ドリルT2が折損するか否かが異なる。
【0046】
また、交差穴のうち後に加工する穴を尖ドリルT2により加工する場合、交差部までの深さが深いほど、尖ドリルT2が支持される剛性が大きくなるため、尖ドリルT2が折損しにくくなる。このように交差穴の深さによって、尖ドリルT2が折損するか否かが異なる。
【0047】
そこで、判定手段150による判定処理にて、尖ドリルT2を用いた穴加工の場合に尖ドリルT2が折損するか否かを判定することとする。すなわち、図9に示すように、まず、交差穴組カウンタkを1にセットする(ステップS21)。続いて、深さ,角度算出手段140により算出された交差穴領域の組Pkのうち一方の穴領域Gn(第三穴領域G3)の交差部までの深さ(Da1,Da2)およびなす角度αを取得する(ステップS22)。
【0048】
続いて、交差部までの深さ(Da1,Da2)と閾値Thとの関係を予め設定したマップと、ステップS22にて取得した交差部までの深さ(Da1,Da2)とにより、閾値Thを算出する(ステップS23)。この閾値Thは、なす角度に相当する閾値である。続いて、ステップS22にて取得したなす角度αが、閾値Th未満であるか否かを判定する(ステップS24)。
【0049】
そして、取得したなす角度αが閾値Th未満である場合には、当該交差穴の組Pkを特殊加工に変更すべき加工工程として設定する(ステップS25)。一方、取得したなす角度αが閾値Th以上である場合には、当該交差穴の組Pkは基本的な加工工程とするため、何ら設定することなく次のステップS26へ進む。
【0050】
続いて、交差穴組カウンタkが最大値kmaxであるか否かを判定し(ステップS26)、最大値kmaxでない場合には1加算して(ステップS27)、ステップS22から繰り返す。一方、交差穴組カウンタkが最大値kmaxに達した場合には(ステップS26:Y)、処理を終了する。
【0051】
図3に示す加工工程決定手段160は、相互に交差する複数の穴領域の組Pkのうち先に加工する一方の穴領域Gnに対して尖ドリルT2により加工し、後に加工する他方の穴領域Gnに対して少なくとも交差部を平ドリルT3により加工し、交差部より奥側を尖ドリルT2により加工するように加工工程を決定する。本実施形態においては、図2(a)(b)に示すように、交差穴のうち先に加工する第二穴領域G2は、センタドリルT1によりセンタもみ加工を行った後、尖ドリルT2により穴の最後までドリル加工を行っている。一方、図2(c)〜図2(f)に示すように、交差穴のうち後に加工する第三穴領域G3は、センタドリルT1によりセンタもみ加工を行い、尖ドリルT2により交差部の手前までドリル加工を行い、続いて、平ドリルT3により交差部の前後をドリル加工して、最後に尖ドリルにて交差部の奥側をドリル加工する。つまり、このような加工工程となるように決定する。
【0052】
具体的には、図10に示すように、製品データ20を取得する(ステップS31)。続いて、基本設定された加工工程決定演算を行う(ステップS32)。ここで演算される加工工程は、予め設定された基本的な加工工程を用いるものとして演算する。穴加工であれば、まずセンタもみ加工を行い、穴の最奥形状に応じた尖ドリルにより最奥までドリル加工を行うものとなる。つまり、この段階では、全ての穴がセンタもみ加工の後に、尖ドリルにより最奥までドリル加工を行うものとして、加工工程が得られる。また、穴によっては、タップが形成される場合もあり、タップ穴については、尖ドリルT2により下穴加工としてドリル加工を行った後に、タップ加工を行うように、基本的な加工工程が得られる。
【0053】
続いて、判定手段150により特殊加工に変更すべき加工工程として設定されたものが有るか否かを判定する(ステップS33)。そして、特殊加工に変更すべき加工工程として設定されたものが有る場合には、ステップS32にて得られた加工工程のうち対応する加工工程を、特殊加工に変更するように設定する(ステップS34)。つまり、該当する加工工程を図2(c)〜図2(f)に示す加工工程となるように設定する。一方、特殊加工に変更すべき加工工程として設定されたものがない場合には、次のステップS35に進む。続いて、当該加工工程に含まれる穴領域Gnは、加工済フラグをセットする(ステップS35)。
【0054】
ここで、加工工程を決定する際に、サイクルタイムを短縮するために、各加工工程をどの順序で実行するかを演算することがある。例えば、図2(a)のセンタもみ加工と図2(c)のセンタもみ加工を連続して行うことで、工具交換回数を低減することができる。また、図2(b)(d)(f)は、尖ドリルT2によるドリル加工を行っている。つまり、共通する工具は連続して加工を行うようにすると、図2(e)の平ドリルT3によるドリル加工を行うことができなくなってしまう。このようなことにならないように、交差穴の交差部を平ドリルT3にて加工するドリル加工とその奥側を加工する尖ドリルT2によるドリル加工は、一体的なものとして取り扱われる。従って、図2(b)(d)は、連続して加工を行うように変更可能であるが、図2(e)(f)は、加工工程の順序が変更されないようになる。
【0055】
図3に示すNCプログラム作成手段170は、加工工程決定手段160により決定された加工工程に基づいて、NCプログラムを作成する。このとき、切削条件および工具軌跡などを算出した上で、NCプログラムを作成する。このNCプログラムの作成処理は、公知の技術であるため説明を省略する。
【0056】
以上より、本実施形態によれば、上述の「NCプログラム作成装置により実行される穴の加工工程の説明」欄にて説明したように、複数の穴領域Gnの交差部において、尖ドリルT2が折損しないようなNCプログラムを自動的に作成することができる。そして、交差部の手前までは尖ドリルT2を用いたNCプログラムとしている。ここで、尖ドリルT2は、平ドリルT3に比べて、高速な加工を実現できる。従って、加工時間の短縮を図ることができる。
【0057】
また、ステップS15において、複数の穴領域Gnのうち交差部までの深さが浅い方を先に加工し、深い方を後に加工するように加工順序を決定している。つまり、同じ段取において、複数の穴領域Gnのうち交差部までの深さが浅い方を先に加工し、深い方を後に加工するようなNCプログラムを作成している。ここで、尖ドリルT2および平ドリルT3が穴に進入している長さが長いほど、尖ドリルT2および平ドリルT3が倒れるおそれが低くなる。つまり、交差穴Gnの交差部までの深さが深い方を後に加工するようなNCプログラムとすることで、後に加工する交差穴Gnの交差部を加工する際には、平ドリルT3の穴への進入長さが長くできる。従って、平ドリルT3が倒れることをより抑制できる。その結果、平ドリルT3によって交差穴Gnの交差部を加工する際に、平ドリルT3が折損することをより確実に防止できるようなNCプログラムを作成できる。
【0058】
また、二つの穴領域Gnの中心軸のなす角度αが小さいほど、尖ドリルT2を用いて交差部を加工すると、尖ドリルT2が倒れるおそれが高い。そこで、なす角度αが閾値Thより小さい場合に、交差部において平ドリルT3を用いて加工するようなNCプログラムを作成することにしている。これにより、適切に平ドリルT3を用いるようなNCプログラムを作成することができる。なお、なす角度αが閾値Th以上の場合には、平ドリルT3を用いるのではなく、図2(b)に示すような尖ドリルT2を用いたNCプログラムとしている。つまり、なす角度αが閾値Th以上の場合には、尖ドリルT2を用いて、穴開口部から交差部を通過して、最終位置まで加工するようなNCプログラムとする。そうすることで、途中で工具を変更することなく加工を行うことができるため、加工時間を短縮することができる。
【0059】
また、交差穴Gnの交差部までの深さが深いほど、ドリルが倒れるおそれが低い。そこで、平ドリルT3を用いる加工工程を採用する否かの閾値Thを、交差部までの深さに応じて変化させるようにすることで、より適切に平ドリルT3を用いる場合を判定できる。これにより、平ドリルT3が倒れることをより抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
20:製品形状三次元CADデータ
G1:第一穴領域、 G2:第二穴領域、 G3:第三穴領域
G21,G22,G31,G32:稜線
30:テーブル
T1:センタドリル、 T2:尖ドリル、 T3:平ドリル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品形状三次元CADデータを取得して加工すべき複数の穴領域を抽出する穴領域抽出手段と、
複数の前記穴領域の中から相互に交差する複数の前記穴領域を抽出する交差穴領域抽出手段と、
相互に交差する二つの前記穴領域のうち先に加工する一方の前記穴領域に対して尖ドリルにより加工し、後に加工する他方の前記穴領域に対して少なくとも交差部を平ドリルにより加工し、前記交差部より奥側を尖ドリルにより加工するように加工工程を決定する加工工程決定手段と、
前記加工工程に基づいてNCプログラムを作成するNCプログラム作成手段と、
を備える穴加工用NCプログラム作成装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記穴加工用NCプログラム作成装置は、前記交差穴領域抽出手段により抽出された二つの前記穴領域のそれぞれについて、穴開口位置から前記交差部までの深さを算出する交差部深さ算出手段を備え、
前記加工工程決定手段は、前記深さが浅い方を先に加工する前記一方の穴領域として加工し、前記深さが深い方を後に加工する前記他方の穴領域として加工するように前記加工工程を決定する穴加工用NCプログラム作成装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記穴加工用NCプログラム作成装置は、前記交差穴領域抽出手段により抽出された二つの前記穴領域の中心軸ベクトルのなす角度を算出するなす角度算出手段を備え、
前記加工工程決定手段は、前記なす角度が予め設定された閾値より小さい場合に、後に加工する前記他方の穴領域に対して少なくとも交差部を平ドリルにより加工し、前記交差部より奥側を尖ドリルにより加工するように加工工程を決定する穴加工用NCプログラム作成装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記穴加工用NCプログラム作成装置は、前記交差穴領域抽出手段により抽出された二つの前記穴領域のそれぞれについて、穴開口位置から前記交差部までの深さを算出する交差部深さ算出手段を備え、
前記加工工程決定手段は、前記深さに応じて設定された前記閾値を用いて前記加工工程を決定する穴加工用NCプログラム作成装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記穴領域抽出手段により抽出された前記穴領域には、前記穴の稜線に関する情報が含まれ、
前記交差穴領域抽出手段は、二つの前記穴領域の前記稜線が共通する場合に当該二つの前記穴領域が相互に交差する二つの前記穴領域であると判定する穴加工用NCプログラム作成装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
前記加工工程決定手段は、前記他方の穴領域に対して前記交差部の手前までを尖ドリルにより加工し、後に加工する他方の前記穴領域に対して少なくとも交差部を平ドリルにより加工し、前記交差部より奥側を尖ドリルにより加工するように前記加工工程を決定する穴加工用NCプログラム作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−35332(P2012−35332A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174540(P2010−174540)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(505223687)株式会社データ・デザイン (2)
【Fターム(参考)】