説明

空気入りタイヤ

【課題】補強層に使用するスチールコードの耐疲労性を維持しながら、その生産性を向上するようにした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】1×2撚り構造のスチールコード10を補強層に使用した空気入りタイヤにおいて、スチールコード10をカーボン含有量が0.60〜0.75%であると共に、タイヤ中における強度が2900〜3500MPaで、且つ、撚角度が1.5〜3.0°であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、補強層に使用するスチールコードの耐疲労性を維持しながら、その生産性を向上するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤのベルト層に使用されるスチールコードには、高強度(2900MPa以上など)を得るためにカーボン含有量が0.75%を超えるような高炭素鋼を使用して、1×2×0.30HT撚り構造にしたものが使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、高カーボン含有量のスチールは硬く、これを伸線加工する際の加工度を大きく出来ないため、中間伸線生産性が良くないという欠点があった。
【0003】
このような問題の対策としては、伸線加工度を大きくし易い、柔らかい低カーボン含有量のスチールロッドを素材として使用し、その中間伸線加工度を高くした強加工を行う方法がある。こうすることで、スチール組織の配向性が増加するため、スチールコードの強度を高カーボン含有量のスチールを使用した場合と同レベルにすることが出来る。しかし、強度は従来の高カーボン含有量のスチールコード並みに出来ても、スチール素材が柔らかいために、使用中に1×2撚り構造スチールコード中のワイヤ素線同士が点接触することにより、スチールコードの耐疲労性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−193983号公報
【特許文献2】特開2000−178887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述する問題点を解決するもので、補強層に使用するスチールコードの耐疲労性を維持しながら、その生産性を向上するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、1×2撚り構造のスチールコードを補強層に使用した空気入りタイヤにおいて、前記スチールコードをカーボン含有量が0.60〜0.75%であると共に、タイヤ中における強度が2900〜3500MPaで、且つ、撚角度が1.5〜3.0°であるようにしたことを特徴とする。
【0007】
また、上述する構成において、更に、以下(1)〜(4)に記載するように構成することが好ましい。
(1)前記スチールコードのワイヤ素線の外表面に形成されたブラス鍍金層の厚さが0.25〜0.32μmであること。
(2)前記スチールコードのワイヤ素線の径が0.28〜0.35mmであること。
(3)前記スチールコードの撚長さが18〜40mmであること。
(4)前記補強層がベルト層及び/又はサイド補強層であること。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1×2撚り構造のスチールコードを補強層に使用した空気入りタイヤにおいて、スチールコードはカーボン含有量を0.60〜0.75%にしたので柔軟であって、伸線加工する際の加工度を大きくすることが出来るため、生産性を良くすることが出来、しかも、高配向にするための強加工が可能であるため、強度を2900〜3500MPaの従来の高カーボン含有量のスチールコード並みにすることが出来、且つ、撚角度が1.5〜3.0°であるのでスチールコード中のワイヤ素線同士の間を点接触ではなく線接触に近くすることが出来るため、ワイヤ素線同士の点接触破断を防止し、スチールコードの耐疲労性を向上することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線方向の半断面図である。
【図2】本発明に使用するスチールコードの実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示す本発明の空気入りタイヤにおいて、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右1対のビード部3、3間にはカーカス層4が装架され、そのタイヤ幅方向の両端部がそれぞれビードコア5の周りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には2層のスチールコードからなるベルト層6が層間で補強コードを交差させるように配置されている。また、サイドウォール部2からビード部3に亘る領域にはカーカス層4の折り返し端部の外側に沿ってスチールコードからなるサイド補強層7が設けられている。
【0011】
上記ベルト層6の補強コードに用いるスチールコード10は、図2に示すように、2本のワイヤ素線11が一定のピッチで撚り合わされた1×2撚り構造からなる。このスチールコード10は、カーボン含有量が0.60〜0.75%であると共に、タイヤに埋設された状態で強度が2900〜3500MPaであり、且つ、撚角度αが1.5〜3.0°であるように設定されている。
【0012】
上記構成のスチールコード10は、以下に説明するような方法によって製造することが出来る。
【0013】
原料の素材には、カーボン含有量が0.60〜0.75%で、径が5.5〜6.0mm程度のスチールロッドが使用される。この低カーボン含有量のスチールロッドを、先ず径が2.0±0.02mm程度の中間伸線まで伸線加工し、更にこの中間伸線にブラス鍍金加工を、ゴムとの接着層、最終伸線時の潤滑層として施す。次いで、このブラス鍍金した中間伸線に、最終伸線加工度が3.8以上の比較的高い伸線加工を行うことにより、径が0.28〜0.35mm程度になったワイヤ素線にする。更に、このワイヤ素線を2本引き揃えて、撚角度を比較的小さい1.5〜3.0°になるように撚り加工して、タイヤ中においての強度が2900〜3500MPaの1×2撚り構造のスチールコードを得ることが出来る。
【0014】
上記伸線加工は低カーボン含有量のスチールロッドを使用するので、生産性の高い高加工を行うことが出来る。且つ、最終伸線加工を加工度が3.8以上の直径差の大きい強加工を行うので、強度が2900MPa以上の高強度のワイヤ素線にし、1×2撚り構造のスチールコードを強度2900〜3500MPaにすることが出来る。また、太い中間伸線を減速無しに伸線加工してワイヤ素線に成形することが出来るので、中間伸線、鍍金線を太くして加工効率(単位時間当たりの重量)を向上することが出来る。
【0015】
スチールコード10のカーボン含有量が0.60%より小さいと、スチールコード10が柔軟になり過ぎるため耐疲労性が悪化する。カーボン含有量が0.75%より大きいと、スチールコード10が硬くなるため低速加工が必要になり生産性が低下する。即ち、上述した本発明の場合と異なり、中間伸線を細くしなければ最終伸線加工に長時間かかる上、中間伸線を細く加工するために中間伸線の加工効率及び鍍金加工の効率も低下してしまう。
【0016】
本発明のスチールコード10は、タイヤに埋設された状態で強度が2900〜3500MPaであるようにして、従来のコードと同レベルの強度が維持されるようにしている。強度が2900MPaより小さいと、タイヤ補強層の強度低下によってタイヤ耐久性が低下する。逆に、強度が3500MPaより大きいと、ワイヤの靭性低下によって、ワイヤ破断し易くなり、タイヤ耐久性が低下する。
【0017】
本発明のスチールコード10は、カーボン含有量が低く柔軟であるため、その儘では使用中にワイヤ素線11同士が接触し、接触点を起点として破断が生じ易いという問題がある。しかし、撚角度αを1.5〜3.0°という小さい範囲に設定しているので、ワイヤ素線11同士が接触する場合には、点接触よりも線接触に近くなるため、ワイヤ素線11同士の点接触破断を防止することが出来る。タイヤ中におけるスチールコード10の撚角度αが1.5°より小さいと、集束性が低下してコード形状が不安定になるためタイヤ耐久性が悪化する。逆に、撚角度αが3.0°より大きいと、ワイヤ素線11同士が点接触し易くなって点接触破断が起こり易くなる。
【0018】
ここで撚角度αとは、コード長手方向とワイヤ素線11のなす角度であり、コード径Rcから素線径Rwを引いた層心径R(=Rc−Rw)と1撚りピッチ当たりの撚長さLとから、式α=180/π×tan-1(π×R/L)により求めた値である。
【0019】
また、スチールコード10のワイヤ素線11は、径が0.28〜0.35mmであるようにすることが好ましい。ワイヤ素線11の径が0.28mmより小さいと、生産性を向上出来なくなる。逆に、ワイヤ素線11の径が0.35mmより大きいと、ワイヤの耐疲労性を維持出来なくなる。
【0020】
スチールコード10のワイヤ素線11の外表面に形成したブラス鍍金層12は、厚さが0.25〜0.32μmであるようにすることが好ましい。ブラス鍍金層12の厚さが0.25μmより小さいと、ワイヤ素線11の鉄地が局部的に露出し易くなり、タイヤ耐久性が悪化する。逆に、ブラス鍍金層12の厚さが0.32μmより大きいと、ブラス鍍金層12の接着層が脆くなり、ゴムとのセパレーションが生じ易くなりタイヤ耐久性が悪化する。
【0021】
また、上記撚角度と共に、更に好ましくは、スチールコード10の撚長さLが18〜40mmであることが好ましい。撚長さLが18mmより小さいと、ワイヤ素線11同士の点接触破断を防止することが出来なくなる。逆に、撚長さLが40mmより大きいと、集束性の低下によりコード形状が不安定になる。
【0022】
上述した構成からなるスチールコード10は、ベルト層6に使用される他、サイド補強層7などの他のタイヤ補強層にも同様に使用することが出来る。
【実施例】
【0023】
スチールコード(1×2×0.30)を打ち込み密度40.0本/50mmで配置したベルト層を2枚設けたタイヤサイズ145R12の空気入りタイヤを製造するにあたり、上記スチールコードを構成するスチールロッドのカーボン含有量、スチールコードの最終伸線加工度、タイヤ中におけるスチールコードの撚長さ、撚角度、コード強力、及びコード強度を表1のように異ならせたスチールコードを使用し、従来例1、実施例1〜2、比較例1〜4の7種類の空気入りタイヤを製造した。
【0024】
ここで最終伸線加工度とは、鍍金線径をR1、最終線径をR2としたとき、式2×ln(R1/R2)で求められる値である。
【0025】
従来例1は、高カーボン含有量の高張力スチールロッドを素材に用いた例である。実施例1、2は、低カーボン含有量のスチールロッドを素材に用い、カーボン含有量が本発明の規定する範囲内で、撚角を本発明の規定する範囲内で異ならせた例である。比較例1〜4は、スチールロッドのカーボン量は本発明の規定する範囲内であるが、撚角或いはコード強度が本発明の規定する範囲から外れた例である。
【0026】
これら7種類のタイヤについて、以下の試験方法によりタイヤ耐久性能を測定し、その結果を表1に示した。
【0027】
実施例は耐久性能を従来タイヤと同等以上に維持していた。比較例1は強力が低下し、比較例2は靭性が低下していた。また、比較例3は点接触破断が発生し、比較例4は形状不安定になっていた。
【0028】
タイヤ耐久性能
タイヤをリムサイズ12×4.00Bのリムにリム組みし、空気圧170kPaを充填し、直径1707mmの回転ドラム上で、荷重を3.2±2.1kN、スリップ角を0±4°として、荷重とスリップ角を0.067Hzで矩形波変動させながら、速度25km/hで走行させた。タイヤが故障するまで走行試験し、走行距離を測定した。従来例1の走行距離を100として指数で示した。指数値が大きいほどタイヤ耐久性能が優れている。
【0029】
【表1】

【符号の説明】
【0030】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ベルト層
7 サイド補強層
10 スチールコード
11 ワイヤ素線
12 ブラス鍍金層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1×2撚り構造のスチールコードを補強層に使用した空気入りタイヤにおいて、
前記スチールコードをカーボン含有量が0.60〜0.75%であると共に、タイヤ中における強度が2900〜3500MPaで、且つ、撚角度が1.5〜3.0°であるようにした空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記スチールコードのワイヤ素線の外表面に形成されたブラス鍍金層の厚さが0.25〜0.32μmである請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記スチールコードのワイヤ素線の径が0.28〜0.35mmである請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記スチールコードの撚長さが18〜40mmである請求項1、2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記補強層がベルト層及び/又はサイド補強層である請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−84221(P2011−84221A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239753(P2009−239753)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】