説明

空気動圧軸受、スピンドルモータおよび磁気情報記録装置

【課題】 空気動圧軸受内部に塵埃が吸引されることを防止し、あるいは、吸引された塵埃が空気動圧軸受内外において浮遊させられることを防止する。
【解決手段】 固定部15と、該固定部15に対して回転させられる回転部11とを備え、固定部15および回転部11の半径方向および/または軸方向に微小間隔をあけて対向配置される面の一方に、固定部15と回転部11との相対回転により空気を引き込む動圧発生溝18,19を形成してなる複数の動圧発生部20A,20B,21を備えるとともに、固定部15または回転部11を構成する部材の壁面を貫通して、動圧発生部20A,20B,21の間に開口する貫通孔22,23と、該貫通孔22,23または該貫通孔22,23に空気を導く流路24に配置され、塵埃を捕集するフィルタ25とを備える空気動圧軸受9を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気動圧軸受、スピンドルモータおよび磁気情報記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスクドライブ装置用のスピンドルモータには、流体動圧軸受が広く採用されている。流体動圧軸受としては、作動流体としてオイルを用いたオイル動圧軸受と、作動流体として空気を用いた空気動圧軸受とが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平11−69725号公報
【特許文献2】特開2004−32825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
オイル動圧軸受は、剛性が高く、耐振動性能も良好であるという利点を有する反面、駆動電流値を低くすることができないために消費電力が多く、バッテリ駆動式の携帯機器に搭載する場合には、さらなる省電力を図る必要がある。また、オイル漏れの問題もある。
【0004】
一方、空気動圧軸受は、オイル漏れの問題もなく、駆動電流値も低く抑えることができるため、携帯機器に搭載するのに適している。
しかしながら、空気動圧軸受の場合、内部に何らかの原因で塵埃が吸引されても、オイル動圧軸受の作動流体であるオイルのようにその塵埃を吸着する機能がなく、吸引された塵埃が空気動圧軸受の内外の空間を浮遊させられる不都合が考えられる。
特に、空気動圧軸受をハードディスク用のスピンドルモータに使用する場合には、浮遊する塵埃が磁気記録媒体や磁気ヘッドに付着して磁気情報の読み取りエラー等の不都合が発生する虞がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、空気動圧軸受内部に塵埃が吸引されることを防止し、あるいは、吸引された塵埃が空気動圧軸受内外において浮遊させられることを防止することができる空気動圧軸受およびスピンドルモータを提供することを目的としている。また、空気動圧軸受内部に吸引された塵埃が磁気記録媒体や磁気ヘッドの周囲に浮遊するのを防止して、塵埃による磁気情報の読み取りあるいは書き込みエラーの発生を防止できる磁気情報記録装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、以下の手段を提供する。
固定部と、該固定部に対して回転させられる回転部とを備え、固定部および回転部の半径方向および/または軸方向に微小間隔をあけて対向配置される面の一方に、固定部と回転部との相対回転により空気を引き込む動圧発生溝を形成してなる複数の動圧発生部を備えるとともに、固定部または回転部を構成する部材の壁面を貫通して、前記動圧発生部の間に開口する貫通孔と、該貫通孔または該貫通孔に空気を導く流路に配置され、塵埃を捕集するフィルタとを備える空気動圧軸受を提供する。
【0007】
本発明によれば、固定部に対して回転部を回転させると、両者の相対回転に伴って、各動圧発生部を構成する対向面の一方に形成された動圧発生溝が移動させられるため、該動圧発生溝が設けられている微小間隙に空気が引き込まれ、微小隙間に周方向の全周にわたって局所的に動圧の高い領域が発生する。その結果、発生した局所的な動圧分布により、固定部に対して回転部が微小間隙の間隔方向に押圧され、ラジアル方向あるいはスラスト方向に浮上した状態に支持される。
【0008】
この場合において、本発明によれば、回転部あるいは固定部を構成する部材の壁面を貫通する貫通孔が複数の動圧発生部間に開口しているので、動圧発生部により引き込まれる空気が該貫通孔を介して供給される。したがって、回転部の回転時に動圧発生部間における負圧の発生が抑制され、回転部が固定部に対して安定して浮上した状態に維持されることになる。
【0009】
さらに、本発明によれば、動圧発生部に空気を供給する貫通孔または該貫通孔に空気を導く流路に、フィルタが配置されているので、動圧発生部によって吸引されることにより空気が貫通孔または該貫通孔に空気を導く流路を通過する際に、空気に含まれている塵埃がフィルタによって捕集され、空気動圧軸受内部に導入されることが防止される。
【0010】
本発明の空気動圧軸受がハードディスク装置の磁気記録媒体や磁気ヘッドを密封状態に収容するベースハウジング内部に配置されている場合、貫通孔がベースハウジング内部に開口する場合にはベースハウジング内部に浮遊する塵埃は、ベースハウジング内部の空気が貫通孔または該貫通孔に空気を導く流路を介して動圧発生部に吸引される際にフィルタによって捕集される。また、貫通孔がベースハウジングの外部に開口している場合には、ベースハウジング外部から貫通孔を介して動圧発生部に空気が引き込まれる際に、ベースハウジング外部に浮遊していた塵埃がフィルタによって捕集されるので、ベースハウジング内部に吸い込まれることを防止できる。
【0011】
また、上記発明においては、前記動圧発生部が、固定部および回転部の半径方向に微小間隔をあけて対向配置される面の一方に動圧発生溝を形成してなるラジアル動圧発生部と、固定部および回転部の軸方向に微小間隔をあけて対向配置される面の一方に動圧発生溝を形成してなるスラスト動圧発生部とからなり、前記貫通孔が、これらラジアル動圧発生部とスラスト動圧発生部との間の固定部と回転部との隙間に開口していることとしてもよい。
このように構成することで、フィルタによって塵埃を捕集されたクリーンな空気が貫通孔を介して、ラジアル動圧発生部およびスラスト動圧発生部に供給され、回転部が固定部に対して安定して浮上した状態に維持されつつ回転自在に支持されることになる。
【0012】
また、上記発明においては、前記フィルタを配置した貫通孔または流路の流通断面積が、他の流路の流通断面積よりも大きく構成されていることが好ましい。
このように構成することで、フィルタを配置した貫通孔または流路を介した空気を、他の流路よりも優先的に動圧発生部に引き込ませることができ、空気動圧軸受内部に導入される空気を効率的に清浄化させることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記回転部の回転軸上において固定部と回転部とを接触させる導電性グリースからなる接触部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、導電性グリースからなる接触部によって回転により回転部に蓄積される静電気が接触部を介して固定部に逃がされる。したがって、過大な静電気が蓄積されることによる不都合の発生を未然に防止することができる。この場合に、空気中に含有される塵埃の一部が導電性グリースに付着することで捕集される。したがって、空気動圧軸受内の空気清浄化効果をさらに向上することが可能となる。
【0014】
さらに、上記発明においては、前記フィルタを配置した貫通孔または流路と前記動圧発生部との間に空気溜まり部が設けられていることが好ましい。
フィルタによる清浄化効果を高めるためにフィルタを密なものとすると、フィルタの空気流通性が低下するが、この場合においても空気溜まり部から動圧発生部に空気が供給されるので、動圧を安定して発生させることができる。
【0015】
また、本発明は、上記空気動圧軸受を備え、前記固定部を固定するステータと、前記回転部を固定するロータとを有し、前記ステータに、前記ロータの周囲を取り囲む円環状の励磁コイルが備えられ、前記ロータに、前記励磁コイルに半径方向に対向して円環状に配列された複数の永久磁石が備えられているスピンドルモータを提供する。
本発明によれば、ステータに設けられた励磁コイルに電力を供給し、励磁コイルを励磁することにより、該励磁コイルに対向配置された永久磁石との間の磁気吸引力および磁気反発力を利用してロータに回転力が付与される。ロータは空気動圧軸受によって、ステータに対し回転自在に支持されているので、ロータは、少ない駆動電流で安定して滑らかに回転されることになる。
【0016】
また、本発明は、上記スピンドルモータと、該スピンドルモータのロータに固定された磁気記録媒体と、前記スピンドルモータにより回転させられる前記磁気記録媒体に近接させられて、該磁気記録媒体に対して磁気情報を記録しあるいは読み取る磁気ヘッドと、これらスピンドルモータ、磁気記録媒体および磁気ヘッドを収容する閉空間を備えるベースハウジングとを備える磁気情報記録装置を提供する。
【0017】
本発明によれば、スピンドルモータの作動によりロータが回転させられると、ロータに固定された磁気記録媒体が回転させられる。そして回転している磁気記録媒体に磁気ヘッドを近接させることにより、磁気記録媒体に記録されている磁気情報が磁気ヘッドによって読み取られ、あるいは磁気記録媒体に磁気情報を記録することが可能となる。この場合において、空気動圧軸受に設けた貫通孔が、ベースハウジングによって画定されたスピンドルモータ、磁気記録媒体および磁気ヘッドを収容する閉空間内に開口している場合には、閉空間内の空気が貫通孔を介して動圧発生部に引き込まれる際にフィルタを通過させられることにより塵埃を捕集される。したがって、何らかの原因で閉空間内に入った塵埃が、閉空間内において浮遊させられることが防止され、磁気記録媒体や磁気ヘッドに付着することを防止して読み取りあるいは書き込みエラーの発生を防止することができる。
【0018】
上記発明においては、前記貫通孔が、前記ベースハウジングの外部に露出する位置に開口していることが好ましい。
このように構成することで、スピンドルモータの作動によりロータが回転させられると、ステータに対してロータを支持する空気動圧軸受の動圧発生部に貫通孔を介してベースハウジングの外部から空気が引き込まれる。この場合に、空気は貫通孔に設けられたフィルタを通過させられることにより塵埃を捕集された状態でベースハウジング内部に吸引される。
【0019】
したがって、ベースハウジング内部に塵埃を引き込むことなくクリーンな空気を吸引して磁気記録媒体や磁気ヘッドに塵埃が付着することを防止して読み取りあるいは書き込みエラーの発生を防止することができる。
また、貫通孔を介して空気動圧軸受の内部がベースハウジング外部と連通するので、ベースハウジングを密封構造にしても空気動圧軸受内部に外気を流通させることができる。その結果、温度変化等に伴うベースハウジング内外の圧力差等の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る空気動圧軸受およびスピンドルモータによれば、動圧発生部への空気の引き込みにより負圧になり易い動圧発生部間の領域に貫通孔を介して空気を積極的に供給できる。したがって、固定部に対して回転体を安定して回転自在に支持し、ステータに対してロータを少ない駆動電流で安定して回転させることができるという効果がある。また、貫通孔を介して吸引する空気をクリーンな状態とすることができ、また、スピンドルモータを含む空間内において循環する空気内の塵埃を捕集して正常な環境に維持することができる。その結果、本発明に係る磁気情報記録装置によれば、磁気記録媒体や磁気ヘッドに塵埃が付着することを防止して、読み取りあるいは書き込みエラーの発生を防止し、信頼性を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る空気動圧軸受、スピンドルモータおよび磁気情報記録装置について図1〜図3を参照して説明する。
本実施形態に係る磁気情報記録装置1は、ハードディスクドライブ装置であって、図1および図2に示されるように、閉空間Aを形成するベースハウジング2と、該ベースハウジング2内に収容される、磁気記録媒体3、該磁気記録媒体3を回転駆動するスピンドルモータ4および該磁気記録媒体3に記録されている磁気情報を読み取る磁気ヘッド5とを備えている。
【0022】
前記磁気記録媒体3は、中央に貫通孔3aを有する平坦なディスク状に形成されている。
前記スピンドルモータ4は、前記磁気記録媒体3を固定するロータ6と、該ロータ6の周囲に配置される円環状の励磁コイル7を備えるステータ8と、該ステータ8に対してロータを回転自在に支持する空気動圧軸受9とを備えている。
【0023】
前記ロータ6は、前記磁気記録媒体3の貫通孔3aに嵌合する嵌合部6aと、該嵌合部6aに貫通孔3aを嵌合させた状態でロータ6に固定される磁気記録媒体3を突き当てる段部6bとを備えている。また、ロータ6の外周には、複数の永久磁石10が周方向に沿って円環状に配列されている。永久磁石10は、断面略矩形に形成され、軸線方向に隣接配置される鍔状のフランジ部6cと、半径方向内方に隣接配置されるヨーク部6dとにより支持されている。また、ロータ6は全体としてカップ状に形成され、その中央に、後述する空気動圧軸受9のシャフト(回転部)11を嵌合させる嵌合孔6eを備えている。図中、符号12は、磁気記録媒体3をロータ6に固定した状態に維持する板バネであり、シャフト11の先端に設けられたネジ孔11aにネジ13を締結することにより固定されるようになっている。また、符号10aは永久磁石10とベースハウジング2との間に磁気回路が形成されるのを防止するシールド部材である。
【0024】
前記ステータ8は、前記ベースハウジング2に固定され、前記ロータ6の永久磁石10に対して、全周にわたり半径方向外方に微小間隔をあけて対向配置される電磁石14を備えている。ベースハウジング2には、後述する空気動圧軸受9のハウジング(固定部)15を嵌合させる嵌合孔2aを有するボス部2bが備えられている。前記電磁石14は、ステータコア16と該ステータコア16に巻き付けられた励磁コイル7とから構成されている。図中、符号17は、励磁コイル7を覆い、磁気記録媒体3に対し磁気情報を読み書きする際に、磁気ヘッド5に対する励磁コイル7の磁場の作用を抑制する磁性材料からなるシールド部材である。
【0025】
ステータコア16は、1以上の金属板により構成され、円環状のコアバック16aと、周方向に間隔をあけてコアバック16aから半径方向内方に延びる複数の歯極16bとを備えている。前記励磁コイル7は、各歯極16bに巻き付けられることにより、周方向に間隔をあけて複数配列される電磁石14を構成し、かつ、全体としてロータ6全周を取り囲む円環状に配置されている。
【0026】
前記空気動圧軸受9は、図1に示されるように、ベースハウジング2のボス部2bに固定されるハウジング15と、該ハウジング15に微小隙間をあけて収容されるシャフト11とを備えている。本実施形態においては、シャフト11に固定されるロータ6の内面も空気動圧軸受9の一部を構成している。
【0027】
シャフト11は、略円柱状の柱状部11bの一端部に全周にわたって半径方向外方に延びる外鍔部11cを備え、他端部に前記ロータ6の嵌合孔6eに嵌合する嵌合部11dとを備えている。
ハウジング15は、ボス部2bに嵌合する嵌合部15aと、前記シャフト11の外鍔部11cを収容するように底面15bにより一端を閉塞された円筒部15cと、該円筒部15cの一端から半径方向内方に延びる内鍔部15dとを備えている。円筒部15cの外周面には、ヘリングボーン溝のようなラジアル動圧発生溝18が形成されている。また、内鍔部15dの軸方向の両端面には、例えば、ヘリングボーン溝のようなラジアル動圧発生溝19が形成されている。
【0028】
前記シャフト11の外鍔部11cは、ハウジング15の底面15bと内鍔部15dとの間に軸方向に挟まれる位置に配置され、それぞれとの間に微小間隙をあけることができる程度の厚さ寸法に形成されている。また、シャフト11の嵌合部11dがロータ6の嵌合孔6eに嵌合された状態で、シャフト11の外鍔部11cとロータ6の内面6fとの間に前記ハウジング15の内鍔部15dが軸方向に微小間隔をあけて挟まれるように配置されている。さらに、ロータ6は、シャフト11に固定された状態で、ロータ6の内周面6gが前記ハウジング15の円筒部15cの外周面に微小間隙をあけて対向するようになっている。
【0029】
これにより、ハウジング15の内鍔部15dの軸方向の一端面とこれに対向するシャフト11の外鍔部11cの面およびハウジング15の内鍔部15dの軸方向の他端面とこれに対向するロータ6の内面6fとにより、それぞれ、スラスト動圧発生部20A,20Bが形成されている。そして、ハウジング15に対してシャフト11およびロータ6が回転させられることにより各スラスト動圧発生部20A,20Bに動圧が発生すると、発生した動圧によって外鍔部11cとロータ6とが軸方向に沿って反対側に押圧され、その力の釣り合いによってシャフト11がハウジング15に対して軸方向に動かないように支持されるようになっている。
【0030】
また、ハウジング15の円筒部15cの外周面とロータ6の内周面6gとによりラジアル動圧発生部21が形成されている。これにより、ハウジング15に対してシャフト11およびロータ6が回転させられると、ラジアル動圧発生部21に発生した動圧によって、ロータ6がハウジング15に対して全周にわたって半径方向外方に押圧される結果、ロータ6がハウジング15に対して半径方向に動かないように支持されるようになっている。
【0031】
前記ロータ6には、ハウジング15の内鍔部15dとの間に構成されたスラスト動圧発生部20A,20Bよりも半径方向内側位置に、ロータ6を構成する壁面を貫通する貫通孔22が設けられている。該貫通孔22は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。また、貫通孔22は周方向に等間隔をあけて設けられていることが好ましい。
これら貫通孔22は、ハウジング15の内鍔部15dの両端面に形成された2つのスラスト動圧発生部20A,20Bの間の隙間に開口している。
【0032】
また、ハウジング15には、内鍔部15dに形成されたスラスト動圧発生部20A,20Bの半径方向外側に内鍔部15dを構成する壁面を貫通する貫通孔23が設けられている。該貫通孔23は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。貫通孔23は周方向に等間隔をあけて設けられていることが好ましい。
これら貫通孔23は、ハウジング15の外周面に構成されたラジアル動圧発生部21と、内鍔部15dに形成されたスラスト動圧発生部20Bとの間のハウジング15とロータ6との間の隙間に開口している。
【0033】
また、ハウジング15の底面15bには、該底面15bを厚さ方向に貫通する貫通孔24が設けられている。この貫通孔24にはフィルタ25が固定されている。フィルタ25は、十分に細かい網目を有し、空気を自由に流通させる一方、空気に含まれている塵埃を捕集することができるようになっている。また、フィルタ25に隣接するハウジング15内部には、比較的大きな容積を有する空気溜まり部Dが確保されている。
【0034】
前記磁気ヘッド5は、図2に示されるように、磁気記録媒体3の回転軸線Bに平行間隔をあけて配置される中心軸線C回りに揺動させられるスイングアーム26の先端に取り付けられている。磁気ヘッド5の表面には金属磁性膜(図示略)が形成されており、磁気記録媒体3の磁気記録層(図示略)に情報を記録するとともに、この磁気記録層に記録されている情報を読み取ることができるようになっている。磁気ヘッド5は、磁気記録媒体3の厚さ方向の両面に設けられた磁気記録層の情報を読み取るために2つ備えられている。各磁気ヘッド5は同時に動作する2本のスイングアーム26の先端にそれぞれ固定されている。
【0035】
このように構成された本実施形態に係る空気動圧軸受9、スピンドルモータ4および磁気情報記録装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る磁気情報記録装置1によれば、スピンドルモータ4の駆動により、ステータ8に対してロータ6を回転駆動し、ロータ6に固定されている磁気記録媒体3を回転させた状態で、スイングアーム26の揺動によって磁気ヘッド5を磁気記録媒体3の表面に近接させ、磁気記録媒体3の磁気記録層に記録されている磁気情報を高速に順次読み取りあるいは記録することができる。ロータ6はステータ8に対して空気動圧軸受9により回転自在に支持されているので、ステータ8に対するロータ6の回転によって、空気動圧軸受9により、ロータ6が軸方向および半径方向の両方に移動しないように安定して回転させられる。これにより、磁気ヘッド5を磁気記録媒体3に対して適正な位置に配置し続けることができ、読み取りあるいは書き込みエラーの発生を防止できる。
【0036】
本実施形態に係る空気動圧軸受9によれば、ハウジング15に対してシャフト11が回転させられると、図3に示されるように、ハウジング15の内鍔部15dの両端面に設けられたスラスト動圧発生部20A,20B、およびハウジング15の円筒部15cの外周面に設けられたラジアル動圧発生部21のいずれにも周囲から空気Gが引き込まれることにより動圧が発生する。この場合に、2つのスラスト動圧発生部20A,20Bの間およびスラスト動圧発生部20Bとラジアル動圧発生部21との間の隙間においては、両側の動圧発生部20A,20B,21によって空気Gが引き込まれる結果、負圧になり易くなるが、本実施形態によれば、それらの位置に開口する貫通孔22,23が設けられているので、貫通孔22,23を介して空気Gが供給され、動圧発生部20A,20B,21間の隙間が負圧になることが防止される。その結果、ロータ6が負圧によってハウジング15に吸着されることが防止され、ロータ6を安定して回転させることができる。
【0037】
また、本実施形態に係る空気動圧軸受9によれば、動圧発生部20A,20B,21に引き込まれる空気Gの一部は、ハウジング15の底面15bに設けられた貫通孔24を介してベースハウジング2の外部から吸い込まれる。この貫通孔24にはフィルタ25が設けられているので、吸い込まれる空気G内の塵埃がフィルタ25によって捕集され、清浄な空気Gがハウジング15内に引き込まれることになる。
【0038】
本実施形態に係る磁気情報記録装置1によれば、ベースハウジング2内に塵埃が取り込まれることがなく、ベースハウジング2内の空気Gを清浄な状態に維持できる。したがって、磁気記録媒体3や磁気ヘッド5に塵埃が付着することが防止され、読み取りあるいは書き込みエラーの発生を防止できる。また、フィルタ25に隣接するハウジング15内部には空気溜まり部Dが設けられているので、フィルタ25の目を細かくして集塵効果を高めても、動圧発生部20A,20B,21に供給する空気Gが不足することが防止される。したがって閉空間A内をより清浄な状態に維持しつつ、安定した回転を行うことができる。
【0039】
また、本実施形態に係る磁気情報記録装置1によれば、フタ部材27により密閉されたベースハウジング2内部の閉空間Aが、前記フィルタ25を備える貫通孔24によって外部に開放されているので、周囲の温度変化や気圧の変化に伴ってベースハウジング2内外に気圧差が生ずることが防止される。その結果、気圧差による構成部品の変形等が防止され、磁気記録媒体3を精度よく回転させることができる。
【0040】
なお、本実施形態に係る空気動圧軸受9は上記の形態に限定されるものではなく、図4に示されるように、構成してもよい。すなわち、上記実施形態においては、ハウジング15の底面15b中央に貫通孔24を設け、該貫通孔24にフィルタ25を配置したが、これに代えて、図4に示されるように、底面15b中央には、シャフト11に接触して回転自在に支持する導電性グリース28を貯留する凹部29が設けられていてもよい。
【0041】
このように構成することで、回転によりロータ6に蓄積される静電気を、シャフト11に接触する導電性グリース28を介してベースハウジング2に逃がすことができる。この場合、貫通孔24はハウジング15の底面15b中央からずれた位置に1カ所または凹部29の周囲に周方向に間隔をあけて複数箇所に設けられていればよい。
【0042】
また、上記実施形態においては、シャフト11に設けた外鍔部11cとハウジング15に設けた内鍔部15dとの間にスラスト動圧発生部20Aを構成した。これにより、内鍔部15dを挟む2カ所のスラスト動圧発生部20A,20Bによってシャフト11がハウジング15に対して軸方向に移動しないように支持しているが、これに代えて、図5に示されるように、シャフト11の外鍔部11cをなくし、ロータ6の内面6fとハウジング15の内鍔部15dとの間に1カ所のスラスト動圧発生部20Bを構成してもよい。これにより、ハウジング15に対するロータ6の組み付けが容易になる。
【0043】
また、内鍔部15dを有するハウジング15に代えて、図6に示されるように、外鍔部15eを有するハウジング15を採用してもよい。この場合、ラジアル動圧発生部21は、ハウジング15の円筒部15c内面とこれに対向するシャフト11の柱状部11b外面とにより構成される。動圧発生溝18は、シャフト11の外周面に形成した方が加工し易いが、円筒部15cの内周面に形成してもよい。また、図中符号30は、ハウジング15内に空気Gを供給する貫通孔である。
【0044】
さらに、外鍔部15eを有するハウジング15を採用した場合、図7に示されるように、ロータ6側に内鍔部31を固定して、外鍔部15eを軸方向に挟む位置に2カ所のスラスト動圧発生部20A,20Bを構成することにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態においては、内鍔部15dを構成する壁面を貫通する貫通孔23を設けたが、貫通孔23としては、内鍔部15dに穿孔したものの他、内鍔部15dの外周部を厚さ方向全長にわたって切り欠いた半円形断面等のような切欠により構成し、円筒部15cに組み付けることでスラスト動圧発生部20A,20B間を連通する貫通孔23となる形態のものでもよい。
【0046】
次に、本発明の第2の実施形態に係る空気動圧軸受9′、スピンドルモータ4′および磁気情報記録装置1′について、図8を参照して以下に説明する。
本実施形態の説明において、上述した第1の実施形態に係る空気動圧軸受9、スピンドルモータ4および磁気情報記録装置1と構成を共通とする箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0047】
本実施形態に係る空気動圧軸受9′は、上述した第1の実施形態に係る空気動圧軸受9がハウジング15に対してシャフト11を回転させる方式のものであったのに対し、シャフト11′を固定しその周囲においてロータ6′を回転させる方式のものである。図中符号32は、シャフト11′をフタ部材27に固定するネジである。
図8に示されるように、本実施形態に係る空気動圧軸受9′は、ベースハウジング2に固定されるシャフト(固定部)11′と、該シャフト11′の周囲に配置され、シャフト11′の軸線回りに回転させられるハブ(回転部)33とを備えている。シャフト11′には、軸方向に間隔をあけて半径方向外方に延びる2枚の外鍔部11a′,11b′が備えられている。外鍔部11a′,11b′の半径方向内径側には、周方向に間隔をあけて厚さ方向に貫通する複数の貫通孔22が設けられている。
【0048】
前記ハブ33は、前記シャフト11′の周囲を取り囲む円筒部33aと、該円筒部33aの内面の前記シャフト11′の2枚の外鍔部11a′,11b′の間に軸方向に挟まれる位置に半径方向内方に突出する内鍔部33bとを備えている。内鍔部33bの厚さ方向の両端面には、ヘリングボーン溝のような動圧発生溝19が形成されている。これら動圧発生溝19が形成された内鍔部33bの端面と、これに対向するシャフト11の外鍔部11a′,11b′の面とによりスラスト動圧発生部20A,20Bが構成されている。
【0049】
また、前記ハブ33の内鍔部33bの内周面に微小間隙をあけて対向するシャフト11′の外周面にもヘリングボーン溝のような動圧発生溝18が形成されている。これにより、シャフト11′の外周面とこれに対向する内鍔部33bの内周面とによりラジアル動圧発生部21が構成されている。
【0050】
なお、ハブ33は、永久磁石10が固定されることによりロータ6を構成し、ベースハウジング2に固定された励磁コイル7がステータ8を構成し、これによってスピンドルモータ4′が構成されている点は第1の実施形態と同様である。また、ロータ6に磁気記録媒体3が固定され、フタ部材27によって密閉されたベースハウジング2の閉空間A内に収容されることにより、磁気情報記録装置1′が構成されている点も第1の実施形態と同様である。
【0051】
このように構成された本実施形態に係る空気動圧軸受9′によれば、スピンドルモータ4′の作動によってシャフト11′に対してハブ33がシャフト11′の軸線回りに回転させられると、シャフト11′とハブ33との間に設けられたラジアル動圧発生部21およびスラスト動圧発生部20A,20Bに、回転に伴って空気Gが引き込まれ、動圧が発生する。これにより、シャフト11′に対してハブ33が半径方向および軸方向に移動しないように支持されつつ安定して回転させられる。
【0052】
この場合において、ラジアル動圧発生部21と2つのスラスト動圧発生部20A,20Bとの間の空間は、両動圧発生部20A,20B,21によって空気Gが引き込まれることにより負圧になり易いが、本実施形態によれば、シャフト11′の外鍔部11a′,11b′に形成した貫通孔22を介して随時空気Gが供給されるため、局所的に負圧が発生することが防止され、安定した回転を維持することができる。また、ベースハウジング2に設けた貫通孔25を介してベースハウジング2外部から空気Gが導入される際に、空気Gに含まれている塵埃がフィルタ25に捕集されるので、ベースハウジング2内の閉空間Aに塵埃が取り込まれることがなく、閉空間A内を清浄な状態に維持することができる。
【0053】
なお、本実施形態においては、ハブ33の内鍔部33bの両側にスラスト動圧発生部20A,20Bを設けたが、これに代えて、図9に示されるように、シャフト11′の外鍔部11a′をなくして単一の内鍔部11b′を設け、片側のみにスラスト動圧発生部20Aを設けてもよい。この場合に、ハブ33の内鍔部33bの内周面に微小間隙をあけて対向するシャフト11′の外周面に動圧発生溝18を形成して、この位置にラジアル動圧発生部21を構成してもよい。この場合に、ラジアル動圧発生部21とスラスト動圧発生部20Aとの間に開口する貫通孔22をシャフト11′の外鍔部11b′の半径方向内周側に設けることとすればよい。
【0054】
また、ハブ33の内鍔部33bの内周面とシャフト11′の外周面とにより構成したラジアル動圧発生部21に代えて、図10に示されるように、シャフト11′の外鍔部11b′の外周面に動圧発生溝18を形成し、この外周面とこれに対向するハブ33の内周面とによってラジアル動圧発生部21を構成してもよい。この場合には、ラジアル動圧発生部21とスラスト動圧発生部20Aとの間に開口する貫通孔22をハブ33の内鍔部33bに設けることとすればよい。
【0055】
また、図10に示されるように、この貫通孔22にフィルタ34を設けることとしてもよい。このようにすることで、この貫通孔22を介してベースハウジング2内部の閉空間Aを循環する空気Gが塵埃を含んでいる場合、この貫通孔22を通過する際に塵埃がフィルタ34によって捕集される。したがって、スピンドルモータ4′の作動毎にベースハウジング2内部の閉空間Aを清浄化することが可能となる。
【0056】
この場合に、貫通孔22の流通断面積を他の流路よりも十分に大きく設定することが効果的である。このように構成することで、貫通孔22の流動抵抗が他の流路よりも小さくなるので、閉空間A内の空気が、貫通孔22を優先的に流通することとなる。その結果、フィルタ34による集塵効果を高めて、より清浄な状態にすることができるという利点がある。
【0057】
また、シャフト11′の2枚の外鍔部11a′,11b′とハブ33の1枚の内鍔部33aにより2つのスラスト動圧発生部20A,20Bを構成したが、これに代えて、図11に示されるように、ハブ33に2枚の内鍔部33b,33cを設け、これら内鍔部33b,33cの間に、シャフト11′に設けた1枚の外鍔部11b′を挟むように配置して、該外鍔部11b′の両端面にスラスト動圧発生部20A,20Bを構成し、外鍔部11b′の外周面とこれに対向する円筒部33a内面とによりラジアル動圧発生部21を構成してもよい。
【0058】
この場合に、ラジアル動圧発生部21と各スラスト動圧発生部20A,20Bとの間に位置するハブ33の内鍔部33b,33cには、該内鍔部33b,33cを構成する壁面を貫通して貫通孔22を設ける必要がある。これによりラジアル動圧発生部21とスラスト動圧発生部20A,20Bとの間の隙間が負圧になることが防止され、ハブ33をシャフト11′に対して安定して回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気情報記録装置の一部を破断して示す部分断面図である。
【図2】図1の磁気情報記録装置の平面図である。
【図3】図1の磁気情報記録装置部分断面図である。
【図4】図3の空気動圧軸受の第1の変形例を示す部分断面図である。
【図5】図3の空気動圧軸受の第2の変形例を示す部分断面図である。
【図6】図3の空気動圧軸受の第3の変形例を示す部分断面図である。
【図7】図3の空気動圧軸受の第4の変形例を示す部分断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る磁気情報記録装置に用いられる空気動圧軸受の空気の流れを説明する部分断面図である。
【図9】図8の空気動圧軸受の第1の変形例を示す部分断面図である。
【図10】図8の空気動圧軸受の第2の変形例を示す部分断面図である。
【図11】図8の空気動圧軸受の第3の変形例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0060】
A 閉空間
D 空気溜まり部
G 空気
1,1′ 磁気情報記録装置
2 ベースハウジング
3 磁気記録媒体
4、4′ スピンドルモータ
5 磁気ヘッド
6 ロータ
7 励磁コイル
8 ステータ
9,9′ 空気動圧軸受
10 永久磁石
11 シャフト(回転部)
11′ シャフト(固定部)
15 ハウジング(固定部)
18,19 動圧発生溝
20A,20B スラスト動圧発生部(動圧発生部)
21 ラジアル動圧発生部(動圧発生部)
22,23,25 貫通孔
24 貫通孔(流路)
25 フィルタ
28 導電性グリース(接触部)
33 ハブ(回転部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、該固定部に対して回転させられる回転部とを備え、
固定部および回転部の半径方向および/または軸方向に微小間隔をあけて対向配置される面の一方に、固定部と回転部との相対回転により空気を引き込む動圧発生溝を形成してなる複数の動圧発生部を備えるとともに、
固定部または回転部を構成する部材の壁面を貫通して、前記動圧発生部の間に開口する貫通孔と、該貫通孔または該貫通孔に空気を導く流路に配置され、塵埃を捕集するフィルタとを備える空気動圧軸受。
【請求項2】
前記動圧発生部が、固定部および回転部の半径方向に微小間隔をあけて対向配置される面の一方に動圧発生溝を形成してなるラジアル動圧発生部と、固定部および回転部の軸方向に微小間隔をあけて対向配置される面の一方に動圧発生溝を形成してなるスラスト動圧発生部とからなり、
前記貫通孔が、これらラジアル動圧発生部とスラスト動圧発生部との間の固定部と回転部との隙間に開口している請求項1に記載の空気動圧軸受。
【請求項3】
前記フィルタを配置した貫通孔または流路の流通断面積が、他の流路の流通断面積よりも大きく構成されている請求項1または請求項2に記載の空気動圧軸受。
【請求項4】
前記回転部の回転軸上において固定部と回転部とを接触させる導電性グリースからなる接触部を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の空気動圧軸受。
【請求項5】
前記フィルタを配置した貫通孔または流路と前記動圧発生部との間に空気溜まり部が設けられている請求項1から請求項4のいずれかに記載の空気動圧軸受。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載された空気動圧軸受を備え、
前記固定部を固定するステータと、前記回転部を固定するロータとを有し、
前記ステータに、前記ロータの周囲を取り囲む円環状の励磁コイルが備えられ、
前記ロータに、前記励磁コイルに半径方向に対向して円環状に配列された複数の永久磁石が備えられているスピンドルモータ。
【請求項7】
請求項6に記載されたスピンドルモータと、
該スピンドルモータのロータに固定された磁気記録媒体と、
前記スピンドルモータにより回転させられる前記磁気記録媒体に近接させられて、該磁気記録媒体に対して磁気情報を記録しあるいは読み取る磁気ヘッドと、
これらスピンドルモータ、磁気記録媒体および磁気ヘッドを収容する閉空間を備えるベースハウジングとを備える磁気情報記録装置。
【請求項8】
前記貫通孔が、前記ベースハウジングの外部に露出する位置に開口している請求項7に記載の磁気情報記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−283902(P2006−283902A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106161(P2005−106161)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】