説明

空気弁

【課題】大きな排気能力を維持したまま、水などの流体が流入口から弁室内に急激に流入してきても外部に流体が噴出することを防止できる空気弁を提供する。
【解決手段】弁箱1の下部に流入口2及び上部に開口部3を有する略円筒形状に形成する。弁箱1内部に設けた弁室4内に有底の案内筒5を装着し、この案内筒5の外周面と弁箱1の内周面との間に流路間隙7を形成する。案内筒5は、内部に遊動弁体8とフロート弁体9を収納し、上部に案内筒5の内部と流路間隙7とを連通する連通口10を形成する。連通口10の上端は案内筒5の上端部に形成した鍔部6より一定距離下方に位置し、連通口10より上方位置にある案内筒5の外周面と弁箱1の内周面とで環状間隙12を形成し、また、下端が、下限位置にある遊動弁体8の外周に設けられた肩部11とほぼ同じ位置となるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として上水道や農業用水などの輸送配管に設置される空気弁に係わるものであり、特に水が流入口から弁室内に急激に流入してきても、外部に流体が噴出することを防止できる空気弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、流体輸送配管に取り付けられ、配管内の空気の排出作用や外部から配管内への吸気作用、および、該排気作用時に配管から外部に流体が流出するのを防止する作用を行う空気弁として、例えば、図8に示す構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
その構成は、配管(図示せず)に連通して取り付けられた弁箱101と、弁箱101の内部に収容され、遊動弁体102およびフロート弁体103が昇降自在に配置されたガイド104とからなり、配管内に水などの流体を満たすときに大径空気孔105から多量に空気が排出される多量排気と呼ばれる作用のときには、遊動弁体102とフロート弁体103とはガイド104底部に位置して作動せず、空気は、大径空気孔105から外部へと排出される。排出が終了し、流体が弁箱101およびガイド104内部に流入した際には、その浮力や液体からの動圧などの作用によって、遊動弁体102およびフロート弁体103は上昇し、それぞれの上限位置において、遊動弁体102は大径空気孔105を、フロート弁体103は、遊動弁体102に設けられた小径空気孔106を閉止し、液体の外部への流出が阻止される。その後、遊動弁体102が大径空気孔105を閉止している状態において、弁箱101内部に配管からの空気が流入すると、流入した空気は遊動弁体102の下方に溜まり、溜まった空気によりフロート弁体103が下降し、小径空気孔106の下端部が開放され、空気が小径空気孔106から外部へと排出されて圧力下排気と呼ばれる作用が行われる。外部から配管への吸気作用の際には、遊動弁体102およびフロート弁体103は下降し、大径空気孔105から吸気が行われる。
【0004】
また、空気弁の弁箱101外面に、封止リング107をカバー108方向にスライド可能に摺嵌し、封止リング107のカバー側端面109をカバー外端110に気密に接合可能にして構成することにより、空気弁の弁箱101外面と給排気口の開口カバー108との間の空間を封止リング107により人為的に開閉可能とし封止リング107の封止位置設置により空気弁としての機能を停止させ、逆に開放位置設置により機能を回復させる。通常は管内空気の排出機能を有すると共に、管内排水の必要がある場合は大量の外気を吸入でき、また災害時に大量の取水が必要な場合は、逆に空気吸入を意図的に停止可能としたものである。
【0005】
しかしながら、前記従来の空気弁は、管路充水時に水圧が低い状態で液体が流入口から弁室内に急激に流入すると大空気孔105が閉止される前に弁箱101外部に液体が噴出するという問題があった。これは、流入した流体の多くは流路間隙111に流れ、導水口112からガイド104内部に流入した流体によってフロート弁体103および遊動弁体102が水に対する浮力によって浮上するより前に開口113からガイド104内部に流入し、ガイド104内部に流入した流体の一部は大径空気孔105から外部へと噴出するためである。また、ガイド104内部に流入した流体の一部は弁箱101内の上壁に衝突して跳ね返り遊動弁体102を下方に付勢しフロート弁体103および遊動弁体102の浮上を妨げて空気弁の閉止を妨げ、流体の外部への噴出を拡大させる。
流体が空気弁の外部に噴出すると空気弁の周囲に流体を撒き散らし、流体で汚すという問題があった。また、流体の流れによっては遊動弁体102が下方に付勢され続けて浮上できなくなり、空気弁を完全に閉止することができず、流体が絶え間なく噴出し、空気弁がピットやマンホールに設置されている場合はピットやマンホールの内部に水が溜まり、空気弁が屋外に設置されている場合は周辺の道路などが水浸しになるなどの二次災害を起こし、復旧作業に労力とコストが必要となるという問題があった。
【0006】
上記の問題を解決するため、図9に示すような排気弁を用いる方法があった(例えば、特許文献2参照)。その構成は、下部に流入口201を形成し内部に弁室203を有する本体204に流出口202を形成し下面に弁座205を設けた蓋206を締結してケーシングを形成し、本体204の内壁に内側に突出したリブ207を形成し、リブ207の内側に有底のほぼ円筒形状で底部に内外を連通する通孔208を設けたフロート受け209を固定し、フロート受け209内にフロート210を自由状態で配置し、フロート受け209の側壁には内外を連通する連通路211を形成し、連通路211の下端を下限位置にあるフロート210の中心とほぼ同じ高さに形成したものである。その効果は、流体が流入口201から弁室203内に急激に流入してきても、フロート210を下方に付勢する力を弱めることができ、外部への噴出を生じないというものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−166649号公報
【特許文献2】特開2007−138987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図9に示される従来の排気弁は、遊動弁体が設けられていないため、充水時に配管内の空気を排気することはできるが圧力下排気をすることができない。そのため、充水完了後、時間が経つと配管内の空気が空気弁に溜まるような使用条件や、流体が空気を巻き込みやすいような使用条件では、排気弁内部に空気が溜まりやすく配管内の空気を効果的に排出することができない。特に水圧の低い流体が排気弁内部に急激に流入するような使用条件では流体中に空気を巻き込んでいることが多く、充水時における排気だけでは空気を完全に排出することはできないという問題があった。
【0009】
また、上記従来の技術を組み合わせて図8の遊動弁体102を有する従来の空気弁に図9の従来の排気弁の連通路211と同じ位置に開口113を設けた場合、開口113の下端が遊動弁体102の下側に位置するため排気される空気や流入する流体が遊動弁体102の下側に勢い良く流入するようになる。そのため、遊動弁体102が浮きやすくなるため大空気孔105が閉塞されやすくなり、管路内の空気が完全に排出される前に空気弁が閉塞して十分な排気作業ができなくなるという問題があった。
【0010】
また、開口113の大きさが大きい程空気を速やかに排出することができるが、開口113が大きすぎると流体が外部に噴出しやすくなる。また、開口113の大きさが小さい程流体の外部への噴出を防止することができるが、開口113が小さすぎると空気が抜けにくくなり空気の排出に時間を要するだけでなく、空気が導水口112からガイド104に流入しやすくなり、流入した空気によって遊動弁体102が浮き上がり十分な排気作業ができないまま空気弁を閉塞させる恐れがある。
【0011】
本発明は以上のような理由に基づき、大きな排気能力を維持したまま、水などの流体が流入口から弁室内に急激に流入してきても外部に流体が噴出することを防止できる空気弁を提供することを目的としている。ここで、本発明における説明において「急激に流入する」とは、管路内の流体圧が低い状態で流体が通常空気弁で使用されている流速を超えた状態で流入口から弁室内に流入することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
内部に弁室を有し、下部に流入口を上部に開口部を有した弁箱と、前記弁室内に配置され上部に連通口を底部に導水口を有し、その外周面と弁箱内周面との間に流路間隙が設けられている有底の案内筒と、中央に大径空気孔を有し、弁箱の開口部を含む上面に装着されることにより弁箱との間に前記案内筒を挟持固定している蓋体と、前記案内筒内に昇降自在に配置され小径空気孔を有し、上限位置で前記蓋体の大径空気孔を閉止する遊動弁体と、前記案内筒内に昇降自在に配置され上限位置で前記遊動弁体の小径空気孔を閉止するフロート弁体と、蓋体に装着されたカバーとを具備する空気弁において、上端が、その上方位置で前記案内筒の外周面と前記弁箱の内周面とで環状間隙が形成される位置に、また下端が、下限位置にある前記遊動弁体の外周に設けられた肩部とほぼ同じ位置となるように連通口が形成されていることを第一の特徴とする。
【0013】
前記大径空気孔の開口面積Sと前記連通口の開口面積Sとの関係が0.6S<S<1.2Sであることを第二の特徴とする。
【0014】
前記流入口の開口面積Aと前記導水口の開口面積Aとの関係が0.08A≦A<0.12Aであることを第三の特徴とする。
【0015】
本発明における説明において閉塞とは、管路充水時に配管内の空気が十分に排出される前に、フロート弁体および遊動弁体が浮上し大径空気孔および小径空気孔を閉止することである。
【0016】
本発明において、空気弁の材質は、ポリ塩化ビニル(以下、PVCと記す)、ポリプロピレン(以下、PPと記す)、ポリビニリデンフルオライド、ポリスチレン、ABS樹脂などの合成樹脂、鉄、銅合金、アルミニウム、ステンレス、チタンなどの金属のいずれでもよく特に限定されないが、弁箱、蓋体及びカバーがポリジシクロペンタジエン(以下、PDCPDと記す。)のようなノルボルネン系モノマーとメタセシス触媒系とを反応原液とする反応射出成形材料からなるものであることが好ましい。弁箱、蓋体及びカバーがPDCPDによって製造された場合、このPDCPDの比重が鋳鉄の約7分の1であることから、鋳鉄製の空気弁と比較して大幅な軽量化が可能で、施工性及び耐震性に優れ、さらに耐衝撃性、耐寒性及び耐腐食性に優れた空気弁が得られる。
【0017】
本発明において、蓋体内周側下面に嵌合装着されている弁座の材質はゴム状の弾性体であれば良く、エチレンプロピレンジエンゴム(以下、EPDMと記す)、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ゴム、二トリルゴム、スチレンブタジエンゴム、塩素化ポリエチレン、フッ素ゴムなどが好適なものとして挙げられ、特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0018】
本発明は以上のような構造をしており、以下の優れた効果が得られる。
1.流体が流入口から弁室内に急激に流入しても外部に流体が噴出することを防止できる。
2.連通口と導水口の面積を最適な値にすることによって、流体が流入口から弁室内に急激に流入しても空気弁が閉塞することがなく、大きな排気能力が維持される。
3.空気弁の外部に流体が噴出することを防止できるので、流体の噴出によってピットやマンホールの内部に流体が滞留したり、周囲の道路を水浸しにさせるなどの二次災害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の空気弁の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の大径空気孔を閉止した状態を示す縦断面図である。
【図3】図1のカバーを外した状態を示す平面図である。
【図4】図1の底面図である。
【図5】図1の案内筒の斜視図である。
【図6】漏水量の測定に使用した試験設備を示す図である。
【図7】比較例1の空気弁を示した縦断面図である。
【図8】従来の空気弁を示した縦断面図である。
【図9】従来の排気弁を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明が本実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0021】
PDCPD製の弁箱1は下部に流入口2及び上部に開口部3を有する略円筒形状に形成されている。弁箱1内部に設けられた弁室4内には有底筒状の後記案内筒5が装着され、この案内筒5の外周面と弁箱1の内周面とで流路間隙7が形成されている。
【0022】
PVC製の案内筒5は、内部に後記遊動弁体8とフロート弁体9を収納しており、上部には案内筒5の内部と流路間隙7とを連通する連通口10が形成されている。連通口10の上端は案内筒5の上端部に形成された鍔部6より一定距離下方になる位置にあり、連通口10より上方位置にある案内筒5の外周面と弁箱1の内周面とで環状間隙12が形成されている。急激に流入した水が環状間隙12に一旦流入することによって流れの勢いが弱められ、案内筒5内に流入した水が遊動弁体8を下方に付勢し、遊動弁体8の浮上を妨げることが防止される。
【0023】
ここで、連通口10の上端は、鍔部6の上端面から連通口10の上端までの軸線方向距離dと鍔部6上端面から連通口10の下端までの軸線方向距離Dとの関係が0.1D≦d≦0.6Dとなる位置にあり、急激に流入した水の勢いを効果的に弱めるためには0.3D≦dであることが望ましく、連通口10の開口面積が小さくなり過ぎないようにするためにはd≦0.5Dであることが望ましい。
【0024】
また、連通口10の下端は下限位置にある遊動弁体8の肩部11と高さがほぼ同じ位置にある。連通口10の下端が遊動弁体8の肩部11よりも高い位置にあると連通口10の開口面積が減少し、遊動弁体8の肩部11よりも低い位置にあっても連通口10の一部は遊動弁体8の側面により塞がれた状態となるため実質的に連通口10の開口面積を減少させるので、連通口10の開口面積を大きくし、効率的に管路内の空気を排気するためには連通口10の下端が遊動弁体8の肩部11とほぼ同じ位置にする必要がある。
【0025】
また、案内筒5の底部は半球状に形成されており、この底部略中央には案内筒5の外部と内部とを連通する導水口13が形成されている。また、案内筒5の内面底部には導水口13を中心にして軸線方向にフロート弁体9の保持部となる4個の突条14が90度間隔で設けられている。
【0026】
PP製の遊動弁体8は、案内筒5の内部に昇降自在に配置されており、この遊動弁体8の中心部には少量の吸気、排気作用を行う小径空気孔20が設けられている。遊動弁体8は後記フロート弁体9の略上半部を内包する形状に形成されている。本実施形態においては、小径空気孔20は遊動弁体8の中央部に設けられているが、特に中央部に限定されるものではなく、例えば小口径の空気弁等に採用されているように、中心部から外周方向に少しずらした位置に設けてもよく、圧力下排気を行うことができれば形状は特に限定されない。
【0027】
PP製のフロート弁体9は、案内筒5の内部に遊動弁体8に略上半部を内包された状態で、昇降自在に配置され、その上限位置では遊動弁体8の小径空気孔20を閉止する。フロート弁体9は弁開時には案内筒5の突条14に接触して支承されており、導水口13を塞がないようになっている。すなわち、導水口13と案内筒5の内部は常に連通状態になっている。ここで、フロート弁体9の形状は、本実施形態においては球状となっているが、特にこの形状に限定されるものではなく、上面が平坦となった円柱状、逆円錐台状、逆円錐状などに形成されてもよい。
【0028】
PDCPD製の蓋体15は弁箱1の開口部3を含む上面にボルトで固定されている。中央部には空気を大量に排気するための大径空気孔16が設けられており、蓋体15の下面の大径空気孔16の周縁側にはEPDM製のシート状の弁座17が嵌合装着されている。弁座17は遊動弁体8が上限位置にあるときに遊動弁体8と当接して押圧されることで大径空気孔16を閉止している。
【0029】
PDCPD製のカバー18は大径空気孔16を十分に覆う大きさに形成され、蓋体15に互いに隙間が形成された状態でボルト・ナットで固定されている。この隙間が吸排気口19となる。
【0030】
また、大径空気孔16の開口面積S(図3参照)と、連通口10の開口面積S(図5参照)との関係が0.6S<S<1.2Sの範囲内である必要がある。これは、大きな空気排出量を維持し空気弁の閉塞を防ぐためには、連通口10の開口面積Sを0.6Sより大きくする必要があり、水が流入口2から弁室4内に急激に流入してきても外部に噴出させないためには1.2S未満にする必要がある。
【0031】
また、弁箱1の流入口2の開口面積A(図4参照)と案内筒5の底部略中央に形成された導水口13の開口面積A(図4参照)との関係が0.08A≦A<0.12Aの範囲内である必要がある。これは、案内筒5内に水を流入させやすくし、フロート弁体9および遊動弁体8を速やかに上昇させるためには、導水口13の開口面積Aを0.08A以上にする必要があり、空気弁の閉塞を防ぐためには0.12A未満にする必要がある。
【0032】
次に、本実施形態の空気弁を開閉させた時の作動について説明する。管路内に通水が行われていない状態においては、遊動弁体8およびフロート弁体9は案内筒5内の下部位置にある(図1の状態)。図1の状態から管路内に通水が開始されると、管路内の空気は流入口2から流路間隙7および案内筒5の連通口10を通過し、大径空気孔16を通って吸排気口19から外部へと排出される。
【0033】
上記排気作用の進行に伴い、管路内の水が流入口2より弁室4内に流入すると、水の大部分は流路間隙7へと進み、同時に、その一部は案内筒5底部の導水口13から案内筒5内へと流入する。水が案内筒5内に流入するにつれて弁箱1内の空気は大径空気孔16から外部へと排出されて行く。
【0034】
一方、案内筒5内に流入した水の水位が増すにつれて、該水の浮力および動圧によって、フロート弁体9および遊動弁体8が上昇する。水位が弁箱1内を満たすまで上昇して、弁箱1内から空気がほぼ完全に排出されると、遊動弁体8は蓋体15の下部に設けられた弁座17に当接して押圧することで大径空気孔16が閉止される。同時にフロート弁体9はその上限位置に達し、遊動弁体8に設けられた小径空気孔20の下端部に当接して押圧することで小径空気孔20が閉止される。これら一連の作用により、空気の排出が完了するとともに、空気弁が閉止され外部への漏水が阻止される(図2の状態)。
【0035】
図2の状態から、管路内を流れる水中の空気が流入口2から弁室4に入り遊動弁体8の下方に溜まったとき、フロート弁体9の自重が、水によるフロート弁体9の浮力と弁室4の水の圧力が小径空気孔20の閉止部に作用する上向きの荷重との和に打ち勝つと、フロート弁体9は下降し、小径空気孔20下端部が開放される。これにより、遊動弁体8の下方に溜まった空気は、小径空気孔20から外部へと排出される。この空気の排出につれて、水の水位は再び上昇し、それにともなって、フロート弁体9も浮力の作用を受けて上昇する。空気がほぼ完全に排出されると、フロート弁体9は小径空気孔20下端部を押圧することで小径空気孔20が閉止され、水の外部への漏水が阻止される。以後、弁室4に所定量の空気が溜まるにつれて、上記のような圧力下排気が繰り返される。
【0036】
次に、図2の状態において管路内の水を落水させると、弁室4の水も下降し、これに伴って上記した排気及び止水作用とは逆の原理で遊動弁体8及びフロート弁体9も順次下降し、大径空気孔16が開放される(図1の状態)。これによって、空気は弁室4から管路内へとスムースに導入されるので管路内が負圧になることがなく、落水操作が抵抗なく行われると同時に水撃現象が発生することもない。またこの時、案内筒5内に侵入したごみや砂等の異物も落水に伴って導水口13から配管内に排出される。つまり、フロート弁体9が突条14の下端部と接触しても導水口13は案内筒5の内部と連通状態になっているため、ごみや砂等の異物が案内筒5の内部に溜まることが防止される。
【0037】
次に、水圧が低い管路において、管路内の水が流入口2から弁室4に急激に流入した時の本実施形態の空気弁の作動について説明する。
【0038】
空気弁に管路内の水が急激に流入すると、空気弁から排出される空気も急激に流入するが、本実施形態の空気弁は十分な排気量を維持し、閉塞を生じさせない程度に連通口10および導水口13が大きく設けられているため、管路内の空気は連通口10、大径空気孔16を経て吸排気口19からスムースに外部へと排出される。
【0039】
次いで、弁室4に急激に流入した水の一部は導水口13から案内筒5内に流入する。導水口13から流入しない残りの水は急激に弁室4に流入し流路間隙7で勢いを増して流れるが、連通口10より上方に位置する案内筒5の外周面と弁箱1の内周面とで形成された環状間隙12に一旦流入することで流れの勢いが弱められる。勢いが弱められた水は連通口10から案内筒5内に流入しても遊動弁体8を下方に付勢する流れは少なく、フロート弁体9および遊動弁体8の浮上を妨げる流れが生じにくいので、水が外部に噴出する前に大径空気孔16が遊動弁体8によって閉止される。
【0040】
また、管路内の水が空気弁に急激に流入するときは水中に空気が巻き込まれていることが多いが、本実施形態の空気弁においては、大径空気孔16が閉止された後に圧力下排気によって小径空気孔20から水中の空気がほぼ完全に排出される。
【0041】
次に、本実施形態の空気弁の漏水量、閉塞の有無、排気量について、以下に示す試験方法で評価した。
【0042】
1.漏水量の測定
図6に示すように、直径2m、高さ3.5mのタンク21の排水口にボールバルブ22を取り付け、ボールバルブ22の二次側に水平方向の出口をフランジ23で封鎖したT字管24を介して空気弁25を取り付けた試験設備を用いた。タンク21内には空気弁25に対して水頭が2mになるように貯水されている。漏水量の測定は、ボールバルブ22を開いてから空気弁25が閉止するまでの間に空気弁25の外部に漏れた水の量を測定することによって行われた。
2.閉塞の有無
JWWA B 125「水道用急速空気弁―附属書1 多量排気試験方法」における多量排気試験の試験方法に準拠し、空気弁の差圧が10kPaに達するまでに、遊動弁体8及びフロート弁体9が排気によって吸い上げられ、大径空気孔16および小径空気孔20を閉塞するかを確認した。
3.排気量の測定
JWWA B 125「水道用急速空気弁−附属書1 多量排気試験方法」における多量排気試験の試験方法に準じて、空気弁差圧5kPaにおける排気量を測定した。ただし、空気弁差圧5kPaに達する前に閉塞が発生した場合は排気量の測定を実施していない。
【0043】
なお、本試験は口径75mmの空気弁を使用した。また、漏水量については、20L以下を好適な範囲とし、10L以下をより好適な範囲とする。また、排気量については、管路内の空気を排気し速やかな充水・落水作業を可能にするために、JWWA B137「水道用急速空気弁−多量排気性」に定められた多量排気量の最小値の2倍である22m/min以上を好適な範囲とする。
【0044】
まず、環状間隙12の有無が漏水量、閉塞の有無、排気量に及ぼす影響を確認するための試験を行った。
【0045】
[試験例1]
流入口2の開口面積Aと、導水口13の開口面積Aとの関係がA=0.08Aであり、大径空気孔16の開口面積Sと、連通口10の開口面積Sとの関係がS=1.0Sである本実施形態の空気弁を用いて、漏水量の測定、閉塞の有無、排気量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
図7に示すような、連通口10の下端を下限位置にある遊動弁体8の肩部11よりも高い位置に形成し、かつ、上端を案内筒5の鍔部6の下面とほぼ同じ位置に形成することにより環状間隙12を無くし、流入口2の開口面積Aと、導水口13の開口面積Aとの関係がA=0.08Aであり、大径空気孔16の開口面積Sと、連通口10の開口面積Sとの関係がS=1.0Sである空気弁を用いて、漏水量の測定、閉塞の有無、排気量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかなように、排気量では試験例1、比較例1ともに好適な範囲の22m/min以上をクリアした。試験例1、比較例1の排気量に差がなかったことから、環状間隙12の有無が排気量に及ぼす影響はほとんどないことが確認された。
【0049】
また、漏水量では試験例1は好適な範囲の20L以下をクリアしているが比較例1では試験例1の約3倍もの量であった。これは、比較例1は環状間隙12が形成されておらず、水が流路間隙7から連通口10に流入しやすくなっているためである。そのため、水が急激に弁室4に流入すると、導水口13から水が案内筒5内に流入しフロート弁体9および遊動弁体8が浮力によって浮上する前に、流路間隙7で勢いが増した水が連通口10から大径空気孔16を経て吸排気口19から噴出する。また、連通口10から勢い良く案内筒5内に流入した水がフロート弁体9および遊動弁体8を下方に付勢し、フロート弁体9および遊動弁体8の浮上を妨げることにより、空気弁外部への水の噴出を促進させる。
【0050】
一方、試験例1は環状間隙12が形成されており、急激に流入した水は連通口10を通る前に一旦環状間隙12に流入し衝突するため、水の勢いが弱められる。そのため、水が勢いを維持または加速させた状態で連通口10を通過することはなく、フロート弁体9および遊動弁体8の浮上を妨げる流れが発生しないので、フロート弁体9および遊動弁体8がスムースに浮上し、水が空気弁の外部に噴出する前に大径空気孔16を閉止することができる。また、連通口10から案内筒5内への流れが抑えられるため、導水口13から案内筒5内に水が流入しやすくなりフロート弁体9および遊動弁体8の浮上を速めることができ、水が空気弁の外部に噴出する前に応答性よく大径空気孔16を閉止することができる。
【0051】
次に、大径空気孔16の開口面積Sと連通口10の開口面積Sとの比率が漏水量、閉塞の有無、排気量に及ぼす影響を確認するための試験を行った。(試験例2〜5)。
【0052】
[試験例2〜5]
面積S2を表2に示したように変化させて、試験例1と同様にして試験を行った。その結果を表2に示す。表2には比較を容易にするために、試験例1の結果も示してある。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から明らかなように試験例1〜4では閉塞が発生しなかったのに対して、試験例5では閉塞が発生した。これは試験例5では連通口10の開口面積を小さくすることで空気が連通口10を通過しにくくなり、導水口13から案内筒5内に流入する空気が多くなり、空気圧によってフロート弁体9および遊動弁体8が浮上し閉塞が発生したものである。
【0055】
排気量については、空気弁差圧が5kPaに到達する前に閉塞が発生し排気量の測定できなかった試験例5を除く全ての試験例において、好適な範囲である22m/min以上の排気量が確認された。
【0056】
また、漏水量については、試験例2、3では好適な範囲である20L以下に達しなかったものの、比較例1に比べ13〜42%ほど漏水量が減少しており、試験例1、4では、好適な範囲である20L以下をクリアし、比較例1に比べ65〜85%ほど漏水量が減少した。また、実施例5については閉塞が発生したものの漏水量としては2Lと極めて小さい値を示した。
【0057】
また、試験例1〜4では連通口10の開口面積が小さくなるにつれて、すなわちSが小さくなるにつれて漏水量、排気量がともに減少する傾向にあるが、試験例2(S=1.3S)と試験例4(S=0.8S)を比較すると、漏水量は約80%減少しているのに対して、排気量は約10%しか減少していないことから、連通口10の開口面積が排気量に及ぼす影響は連通口10の開口面積が漏水量に及ぼす影響に比べて小さいことがわかる。従って、閉塞の発生がなく、大きな排気量を維持したまま漏水量を低下させるには0.8S<S<1.2Sであることが望ましく、0.8S≦S≦1.0Sであることがより望ましいことが確認された。
【0058】
次に、流入口2の開口面積Aと、導水口13の開口面積Aとの比率が漏水量、閉塞の有無、排気量に及ぼす影響を確認するための試験を行った。(試験例6〜9)。
[試験例6〜9]
【0059】
面積Aを表3に示したように変化させて、試験例1と同様にして試験を行った。その結果を表3に示す。表3には表2と同様に試験例1の結果も示してある。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から明らかなように試験例6〜8では閉塞が発生しなかったのに対して、試験例9では閉塞が発生した。これは試験例9では導水口13の開口面積を大きくすることで空気が導水口13を通過しやすくなり、空気が過剰に導水口13から案内筒5内に流入し、空気圧によってフロート弁体9および遊動弁体8が浮上し閉塞が発生したものである。
【0062】
排気量については、空気弁差圧が5kPaに到達する前に閉塞が発生し排気量の測定できなかった試験例9を除く全ての試験例において、好適な範囲である22m/min以上の排気量が確認された。また、導水口13の開口面積が排気量に及ぼす影響はほとんどなかった。
【0063】
また、漏水量については、試験例6〜8では好適な範囲である20L以下をクリアし、試験例7、8についてはより好適な範囲である10L以下をクリアしており、比較例1に比べ65〜88%ほど漏水量が減少した。また、試験例9については閉塞が発生したものの漏水量としては4Lと極めて小さい値を示した。
【0064】
試験例1、6〜8では導水口13の開口面積を大きくするにつれて漏水量が減少する傾向にあるが、これは、導水口13の開口面積を大きくすることによって水が案内筒5内に流入しやすくなり、浮力によってフロート弁体9および遊動弁体8をよりスムーズに浮上させることができ、速やかに大空気孔を閉止することができるためである。
【0065】
従って、閉塞の発生がなく、大きな排気量を維持したままより漏水量を減少させるには0.08A≦A<0.12Aであることが望ましく、0.10A≦A≦0.11Aであることがより望ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0066】
1 弁箱
2 流入口
3 開口部
4 弁室
5 案内筒
6 鍔部
7 流路間隙
8 遊動弁体
9 フロート弁体
10 連通口
11 肩部
12 環状間隙
13 導水口
14 突条
15 蓋体
16 大径空気孔
17 弁座
18 カバー
19 吸排気口
20 小径空気孔
21 タンク
22 ボールバルブ
23 フランジ
24 T字管
25 空気弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に弁室を有し、下部に流入口を上部に開口部を有した弁箱と、前記弁室内に配置され上部に連通口を底部に導水口を有し、その外周面と弁箱内周面との間に流路間隙が設けられている有底の案内筒と、中央に大径空気孔を有し、弁箱の開口部を含む上面に装着されることにより弁箱との間に前記案内筒を挟持固定している蓋体と、前記案内筒内に昇降自在に配置され小径空気孔を有し、上限位置で前記蓋体の大径空気孔を閉止する遊動弁体と、前記案内筒内に昇降自在に配置され上限位置で前記遊動弁体の小径空気孔を閉止するフロート弁体と、蓋体に装着されたカバーとを具備する空気弁において、上端が、その上方位置で前記案内筒の外周面と前記弁箱の内周面とで環状間隙が形成される位置に、また下端が、下限位置にある前記遊動弁体の外周に設けられた肩部とほぼ同じ位置となるように連通口が形成されていることを特徴とする空気弁。
【請求項2】
前記大径空気孔の開口面積Sと前記連通口の開口面積Sとの関係が0.6S<S<1.2Sであることを特徴とする請求項1に記載の空気弁。
【請求項3】
前記流入口の開口面積Aと前記導水口の開口面積Aとの関係が0.08A≦A<0.12Aであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空気弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−21636(P2011−21636A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165376(P2009−165376)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】