説明

空調システム

【課題】温度が異なる2系統の熱媒体が空調風を加熱する加熱用熱交換器に供給される空調システムにおいて、空調フィーリングの悪化を抑制する。
【解決手段】内部を熱媒体が通過するとともに、熱媒体と空調風を熱交換して空調風を加熱する加熱用熱交換器21と、熱媒体を第1所定温度に加熱する第1加熱手段10と、加熱用熱交換器に供給される熱媒体を第2所定温度に加熱する第2加熱手段20と、加熱用熱交換器21に供給される熱媒体を、第1所定温度に加熱された熱媒体または第2所定温度に加熱された熱媒体に切り替る切替手段25とを備えた空調システムにおいて、加熱用熱交換器21における熱媒体が通過する部位の少なくとも上流側に、熱媒体の熱を蓄熱可能な蓄熱材21を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調風を加熱する加熱用熱交換器を備える空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ヒータコアの空気流れ下流側に温熱用蓄熱シートを設け、熱交換器へのエンジン冷却水の供給が停止された後、蓄熱材の潜熱を利用して所定時間だけ車室内の暖房等の補完を行うことができる車両用空気調和装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−126730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、燃料電池を電源とする電気自動車(燃料電池車両)では、燃料電池の冷却系に電気ヒータを設け、電気ヒータのみで加熱された冷却水がヒータコアに流入する状態と燃料電池で加熱された冷却水がヒータコアに流入する状態とが切替可能になっている場合がある。このような構成で、燃料電池から流出した冷却水温度(例えば70℃)と電気ヒータで加熱された冷却水温度(例えば50℃)が異なる場合には、電気ヒータのみで加熱された冷却水がヒータコアに流入する状態から燃料電池で加熱された冷却水がヒータコアに流入する状態に切り替わった場合に、ヒータコアに流入する冷却水温度が急激に変化する。
【0005】
このような場合、上記特許文献1に記載の装置では、ヒータコアに流入する冷却水温度が急激に変化して、空調風温度が急激に変化することが避けられず、空調フィーリングが悪化することとなる。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、温度が異なる2系統の冷却水が空調風を加熱する加熱用熱交換器に供給される空調システムにおいて、空調フィーリングの悪化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の発明では、内部を熱媒体が通過するとともに、熱媒体と空調風を熱交換して空調風を加熱する加熱用熱交換器(21)と、加熱用熱交換器に供給される熱媒体を第1所定温度に加熱する第1加熱手段(10)と、加熱用熱交換器に供給される熱媒体を第1所定温度と異なる第2所定温度に加熱する第2加熱手段(20)と、加熱用熱交換器(21)に供給される熱媒体を、少なくとも第1加熱手段(10)によって加熱された熱媒体または第2加熱手段のみで加熱された熱媒体に切り替る切替手段(25)とを備え、加熱用熱交換器(21)における熱媒体が通過する部位の少なくとも上流側に、熱媒体の熱を蓄熱可能な蓄熱材(21g)が設けられていることを特徴としている。
【0008】
このように、温度が異なる2系統の熱媒体が流入可能な加熱用熱交換器(21)に蓄熱材(21g)を設けることで、加熱用熱交換器(21)に供給される熱媒体温度が上昇した場合には吸熱し、加熱用熱交換器(21)に供給される熱媒体温度が下降した場合には放熱して、空調風吹出温度の変化を穏やかにすることができる。これにより、空調フィーリングが悪化することを抑制することができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明のように、蓄熱材(21g)として、融解により蓄熱し、凝固により放熱する潜熱蓄熱材を用いることで、蓄熱材(21g)の蓄熱量を大きくすることができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、蓄熱材(21g)の融解温度が第1所定温度と第2所定温度の間に設定されていることを特徴としている。
【0011】
これにより、加熱用熱交換器(21)に高温の熱媒体が供給された場合には蓄熱材(21g)に吸熱させ、加熱用熱交換器(21)に低温の熱媒体が供給された場合には蓄熱材(21g)で放熱させることができ、蓄熱材(21g)を有効に用いることができる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、加熱用熱交換器(21)は、チューブ(21a)とフィン(21b)を備えており、蓄熱材(21g)は、チューブ(21a)とフィン(21b)の隙間に充填されていることを特徴としている。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、蓄熱材(21g)は、加熱用熱交換器(21)における熱媒体と空調風とを熱交換する部位の表面に設けられていることを特徴としている。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、加熱用熱交換器(21)は、空調風の流れ方向に沿って積層された二層構造となっており、一端側から流入した熱媒体が他端側で折り返して一端側から流出するように構成され、二層構造のうち熱媒体流入側が空調風流れ上流側に位置し、熱媒体流出側が空調風流れ下流側に位置しており、蓄熱材(21g)は、加熱用熱交換器(21)における空調風流れ上流側に設けられていることを特徴としている。
【0015】
これにより、加熱用熱交換器(21)の空調風流れ上流側を通過する一部の空調風が高温になったしても、温度変動が抑制された加熱用熱交換器(21)の空調風流れ上流側でなまされるため、空調風吹出口温度の急激な上昇を抑えることができる。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、第1加熱手段(10)は燃料電池であり、第2加熱手段(20)は電気ヒータであり、第1所定温度の方が第2所定温度より高いことを特徴としている。
【0017】
このような構成では、燃料電池(10)で加熱される熱媒体温度と電気ヒータ(20)で加熱される熱媒体温度が異なる可能性があり、これらを切り替えた場合には加熱用熱交換器(21)に供給される熱媒体温度が急激に変化することがある。このため、本発明の加熱用熱交換器(21)を用いることで、空調風吹出温度の変化を抑えることができ、空調フィーリングが悪化することを抑制することができる。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、燃料電池(10)から流出した熱媒体温度が上限温度以上の場合に、燃料電池(10)から流出した熱媒体を加熱用熱交換器(21)に供給し、燃料電池(10)から流出した熱媒体温度が下限温度以下の場合に、電気ヒータ(20)で加熱された熱媒体を加熱用熱交換器(21)に供給するとともに、燃料電池(10)から流出した熱媒体を加熱用熱交換器(21)に供給しないことを特徴としている。
【0019】
これにより、燃料電池(10)で加熱された熱媒体と電気ヒータ(20)で加熱された熱媒体の連携を図りつつ、燃料電池(10)の温度を一定に保持できる。
【0020】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態の空調システムの概念図である。
【図2】第1実施形態のヒータコアを示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図3】ヒータコア放熱量とヒータコア入口冷却水温度の関係を示す説明図である。
【図4】第2流路切替弁による冷却水流路の切り替えを説明するための図である。
【図5】燃料電池出口冷却水温度と、ヒータコア入口冷却水温度と、空調風温度の関係を示す説明図である。
【図6】第2実施形態のヒータコアを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は背面図、(d)は平面図である。
【図7】第3実施形態のヒータコアを示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1〜図5に基づいて説明する。本実施形態は、本発明の空調システムを、燃料電池10を電源として走行する電気自動車(燃料電池車両)に適用した例である。
【0023】
図1は、本実施形態の空調システムの概念図である。本実施形態の空調システムは、燃料電池10の冷却水を用いて空調風の加熱を行う。燃料電池10は、任意の種類のものを用いることができ、本実施形態では固体高分子型燃料電池を用いている。
【0024】
燃料電池10は発電効率確保のために運転中一定の第1所定温度(例えば70℃程度)に維持する必要がある。このため、燃料電池10を冷却するための冷却システムが設けられている。冷却システムには、燃料電池10に冷却水(熱媒体)を循環させる冷却用経路11、冷却用経路11に冷却水を循環させる第1冷却水循環ポンプ12、ファン13を備え、冷却水を介して燃料電池10の熱を外部に放出するラジエータ14等が設けられている。第1冷却水循環ポンプ12は、冷却用流路11におけるラジエータ14の下流側であって燃料電池10の上流側に設けられている。なお、燃料電池10が本発明の第1加熱手段に相当している。
【0025】
さらに、冷却用流路11には、冷却水をラジエータ14をバイパスさせるためのラジエータバイパス流路15が設けられている。冷却用流路11とラジエータバイパス流路15との合流部には、第1流路切替弁16が設けられている。第1流路切替弁16によって、ラジエータ14を通過する冷却水流量割合とラジエータバイパス流路15を通過する冷却水流量割合を調整することで、ラジエータ14の放熱量を調整することができる。また、冷却用流路11における燃料電池10からの出口近傍には、燃料電池10から流出した冷却水温度(燃料電池出口冷却水温度)を検出する温度センサ17が設けられている。定常運転中の燃料電池出口冷却水温度は、第1所定温度(70℃程度)となる。
【0026】
冷却用流路11には、空調用流路18が設けられている。空調用流路18は、冷却用流路11における燃料電池10の下流側であってラジエータ14の上流側で、冷却用流路11から分岐した後に合流している。空調用流路18には、空調用流路18に冷却水を循環させるための第2冷却水循環ポンプ19が設けられている。空調用流路18における下流側には電気ヒータ20とヒータコア21が設けられている。
【0027】
電気ヒータ20は、通電により空調用流路18を流れる冷却水を第2所定温度に加熱するように構成されている。本実施形態では、冷却水が電気ヒータ20によって加熱される第2所定温度を50℃程度としている。電気ヒータ20に対する電源供給は、燃料電池10の発電電力や図示しない2次電池から供給される電力を用いることができる。なお、電気ヒータ20が本発明の第2加熱手段に相当している。
【0028】
ヒータコア21は、空調風が通過する空調用ダクト22に設けられており、冷却水の熱によって空調風を加熱する。空調用ダクト22には、エアミックスドア23が設けられている。エアミックスドア23は、ヒータコア21の上流側に設けられており、図示しない電気モータ等によって作動するように構成されている。エアミックスドア23は、開度調整によりヒータコア21を通過する風量割合を調整できる。なお、ヒータコア21が本発明の加熱用熱交換器に相当している。
【0029】
空調用流路18には、閉ループ形成流路24が設けられている。空調用流路18における第2冷却水循環ポンプ19より上流側の閉ループ形成流路24との分岐点には、第2流路切替弁25が設けられている。第2流路切替弁25によって冷却水流路を切り替えることで、電気ヒータ20のみで加熱された冷却水をヒータコア21に流入させるか、あるいは燃料電池10と電気ヒータ20で加熱された冷却水をヒータコア21に流入させるかを切り替えることができる。この点については後述する。なお、第2流路切替弁が本発明の切替手段に相当している。
【0030】
本実施形態の空調システムには、冷凍サイクル26〜30が設けられている。冷凍サイクルには、冷媒が循環する冷媒流路26が設けられている。冷媒流路26は、内部に冷媒が封入された配管として構成されている。冷媒としては、例えばHFC−134aなどを用いることができる。
【0031】
冷媒流路26の流路内には、圧縮機27、コンデンサ28、減圧器29、エバポレータ30等が設けられている。圧縮機27は、気体状態の冷媒を圧縮して吐出するように構成されている。コンデンサ28は、圧縮機27から吐出された高温高圧冷媒と外気との間で熱交換を行い、冷媒を凝縮液化させるように構成されている。コンデンサ28は、ラジエータ14と重なるように配置されている。減圧器29は、液体状態の冷媒を低圧に減圧し、低圧の気液2相状態とするように構成されている。減圧器29からの低圧冷媒はエバポレータ30に流入し、空調風から吸熱して蒸発する。空調風は、エバポレータ30を通過することで冷却される。
【0032】
エバポレータ30は、ヒータコア21の上流側に設けられている、また、エバポレータ30の空調風流れ上流側には、空調風を送風するための空調ファン31が設けられている。エバポレータ30で一旦冷却された空調風は、ヒータコア21で加熱される。このとき、エアミックスドア23でヒータコア21を通過する風量割合を調整することで空調風の温度調整をすることができる。
【0033】
なお、図1では図示を省略しているが、空調システムには、各種制御を行う制御部(ECU)が設けられている。制御部は、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。制御部には、各種センサからのセンサ信号等が入力される。また、制御部は、演算結果に基づいてラジエータファン13、第1冷却水循環ポンプ12、第1流路切替弁16、第2冷却水循環ポンプ19、電気ヒータ20、エアミックスドア23、第2流路切替弁25、圧縮機27、空調ファン31等に制御信号を出力する。
【0034】
次に、本実施形態のヒータコア21を図2に基づいて説明する。図2は本実施形態のヒータコア21の構成を示しており、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【0035】
図2に示すように、ヒータコア21は、その内部を冷却水が流通する断面扁平状に形成された複数のチューブ21aと、チューブ21aの扁平面に接合されたフィン21bとを有している。フィン21bは、チューブ21a周りを流通する空気と冷却水との熱交換を促進するもので、波状に湾曲させることによって形成されている。
【0036】
チューブ21aの長手方向両端部には、チューブ21aの長手方向と直交する方向であり、かつ、チューブ21aおよびフィン21bの並設方向に延びて複数のチューブ21aに連通するヘッダタンク21c、21dが設けられている。図2では、上側が冷却水が流入する流入口21eが設けられた流入側ヘッダタンク21cとなっており、下側が冷却水が流出する流出口21fが設けられた流出側ヘッダタンク21dとなっている。
【0037】
ヒータコア21には、蓄熱材21gが設けられている。本実施形態の蓄熱材21gは、ヒータ21における冷却水流入側に設けられている。図2に示す例では、蓄熱材21gが充填されている割合は、ヒータ21の流路長の2/5程度となっている。蓄熱材21gは、チューブ21aとフィン21bの隙間に充填されている。本実施形態では、蓄熱材21gとして潜熱蓄熱材であるパラフィン(例えばn−トリアコンタン(C3062))を用いている。そして、パラフィンが封入されたマイクロカプセルを熱伝導性の高い樹脂に練り込んだ状態で、チューブ21aとフィン21bの隙間に充填され固定されている。
【0038】
本実施形態では、ヒータコア21における蓄熱材21gが充填された部位は、空調風が通過できない。このため、ヒータコア21における充填材21gが設けられた部位(冷却水流入側の部位)では、チューブ21aとフィン21bを介して冷却水と充填材21gとの間で熱交換が行われる。一方、ヒータコア21における充填材21gが設けられていない部位(冷却水流出側の部位)では、チューブ21aとフィン21bを介して冷却水と空気との間で熱交換が行われる。
【0039】
充填材21gとして用いられるパラフィンは、融点が上述の第1冷却水温度(70℃程度)と第2冷却水温度(50℃程度)の間にあるものを選択する。本実施形態では、融点が60℃程度のパラフィンを用いている。このため、ヒータコア流入冷却水温度が60℃未満の場合は、蓄熱材21gは融解しないため顕熱分以外は蓄熱しない。一方、ヒータコア流入冷却水温度が上昇して60℃以上になった場合には、蓄熱材21gが融解して吸熱する。これにより、高温の冷却水がヒータコア21に流入した場合には、蓄熱材21gで吸熱することで、冷却水温度を低下させ、空調風が急激に高温となることを防止できる。また、ヒータコア流入冷却水温度が低下して60℃未満になった場合には、蓄熱材21が凝固して放熱する。これにより、低温の冷却水がヒータコア21に流入した場合には、蓄熱材21gで放熱することで、冷却水温度を上昇させ、空調風が急激に低温となることを防止できる。
【0040】
図3は、ヒータコア21の放熱量とヒータコア21に流入するヒータコア入口冷却水温度との関係を示している。図3に示す例では、ヒータコア流入冷却水温度が第2所定温度(50℃程度)から第2所定温度(70℃程度)に変化した場合を示している。本実施形態のヒータコア21では、ヒータコア入口冷却水温度が50℃の場合には、ヒータコア21の放熱量が6.0kWとなる。そして、ヒータコア入口冷却水温度が70℃に上昇した場合には、ヒータコア21の放熱量が8.5kWに上昇する。
【0041】
このとき、ヒータコア21に蓄熱材21gを設けていない場合には、図3の破線で示すようにヒータコア21の放熱量が6.5kWから8.5kWに急激に上昇する。これに対し、本実施形態のようにヒータコア21に蓄熱材21gを設けることで、図3の実線で示す熱量を蓄熱材21gで吸収することができ、ヒータコア21の放熱量の上昇を穏やかなものにすることができる。
【0042】
次に、第2流路切替弁25で冷却水流路を切り替えた場合の燃料電池出口冷却水温度、ヒータコア入口冷却水温度、空調風温度の変化について説明する。
【0043】
図4は、第2流路切替弁25による冷却水流路の切り替えを説明するための図である。また、図5は、燃料電池出口冷却水温度と、ヒータコア入口冷却水温度と、空調風温度の関係を示している。
【0044】
まず、燃料電池10の起動直後は、燃料電池出口冷却水温度が低いので、電気ヒータ20のみで加熱された冷却水をヒータコア21に流入させる。このため、図4(a)に示すように、第2流路切替弁25によって、燃料電池10からの冷却水の流れを遮断し、ヒータコア21を通過した冷却水が閉ループ形成流路24を介して空調用流路18に再度流入する流れを許容する。図4(a)に示す状態では、循環ポンプ19、電気ヒータ20、ヒータコア21からなる閉ループを形成され、電気ヒータ20で第2所定温度(50℃程度)に加熱された冷却水のみがヒータコア21に流入することができる。
【0045】
この状態では、燃料電池10から流出する冷却水は冷却用流路11のみを循環する。このため、ヒータコア加熱用の冷却水と燃料電池冷却用の冷却水とが分離しており、温度の異なる2系統の冷却水が存在することとなる。
【0046】
図5に示すように、燃料電池10の起動時には、燃料電池出口冷却水温度とヒータコア入口冷却水温度は共に低温となっている。その後、ヒータコア21には電気ヒータ20で加熱された冷却水が流入するので、ヒータコア入口冷却水温度は第2所定温度(50℃程度)まで昇温して維持される。燃料電池出口冷却水温度は徐々に昇温し、第1所定温度(70℃程度)に到達したときに、第2流路切替弁25によって冷却水流路を図4(a)の状態から図4(b)の状態に切り替える。なお、第1所定温度(70℃程度)が本発明の上限温度に相当している。
【0047】
図4(b)に示す状態では、第2流路切替弁25によって、燃料電池10からの冷却水の流れを許容し、ヒータコア21を通過した冷却水が閉ループ形成流路24を介して空調用流路18に再度流入する流れを遮断している。これにより、燃料電池10から流出した冷却水が電気ヒータ20とヒータコア21に流れる。このため、燃料電池10から流出した第1所定温度(70℃程度)の冷却水が閉ループを流れていた第2所定温度(50℃程度)の冷却水に合流することとなり、ヒータコア流入冷却水温度と燃料電池出口冷却水温度が略同一温度となる。この結果、ヒータコア流入冷却水温度が上昇する。
【0048】
ヒータコア21で加熱される空調風の吹き出し温度は、ヒータコア流入冷却水温度の上昇に伴って上昇する。図5の破線は、ヒータコア21が蓄熱材21gを備えていない場合の空調風吹出温度の変化を示しており、ヒータコア流入冷却水温度の急激な上昇に伴って、空調風吹出温度も急激に上昇する。これに対し、本実施形態のヒータコア21は蓄熱材21gを備えているので、空調風吹出温度が急激に上昇することを抑制できる。
【0049】
そして、ヒータコア流入冷却水温度の上昇にともなって、燃料電池出口冷却水温度が低下する。上述のように、燃料電池10は発電効率確保のために運転中一定温度に維持する必要があるため、燃料電池出口冷却水温度が第3所定温度(65℃程度)まで低下した場合に、第2流路切替弁25によって、冷却水流路を図4(b)の状態から図4(a)の状態に切り替える。これにより、ヒータコア加熱用の冷却水と燃料電池冷却用の冷却水とが分離され、燃料電池出口冷却水温度が上昇することとなる。なお、第3所定温度(65℃程度)が本発明の下限温度に相当している。
【0050】
以上説明した本実施形態では、温度が異なる2系統の冷却水が流入可能なヒータコア21に蓄熱材21gを設けることで、ヒータコア流入冷却水温度が上昇した場合には吸熱し、ヒータコア流入冷却水温度が下降した場合には放熱して、空調風吹出温度の変化を穏やかにすることができる。これにより、空調フィーリングが悪化することを抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、ヒータコア21における冷却水流入側に蓄熱材21gを設けているので、ヒータコア21における冷却水流入側で蓄熱材21gでの吸熱または放熱によって冷却水の温度変化を緩和し、ヒータコア21における冷却水流入側で温度変化が緩和された冷却水と空調風を熱交換させることができる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図6に基づいて説明する。本第2実施形態は、上記第1実施形態と比較して、ヒータコア21の構成が異なる。以下、上記第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0053】
図6は、本第2実施形態のヒータコア21の構成を示しており、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は背面図、(d)は平面図である。図6に示すように、本実施形態のヒータコア21は二層構造となっており、図6の上端から流入した冷却水は、下端で折り返した後、上端から流出する。
【0054】
図6(a)は、空調風流れ上流側に位置する面を示し、図6(c)は、空調風流れ下流側に位置する面を示している。また、図6(b)に示すように、冷却水流入側の面(図6(b)の左側の面)が空調風流れ上流側に位置している。
【0055】
チューブ21aとフィン21bは、冷却水流入側と冷却水流入側のそれぞれに設けられている。図6の上側のヘッダタンク21cの内部は、内部が流入側の冷却水が通過する部位と流出側の冷却水が通過する部位に分離されている。図6の下側のヘッダタンク21dは内部は連通している。
【0056】
図6(a)に示すように、本実施形態のヒータコア21では、蓄熱材21gは冷却水流入側において、隣り合うチューブ21aに間に充填されている。つまり、ヒータコア21における冷却水流入側は、フィン21bと蓄熱材21gが交互に設けられている。なお、フィン21bと蓄熱材21gの比率は1:1でなくてもよく、要求される蓄熱量に応じて蓄熱材21gの量を調整すればよい。
【0057】
以上説明した本第2実施形態の構成によっても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、本実施形態のヒータコア21は二層構造となっているため、ヒータコア21の冷却水流入側(風上側)を通過する一部の空調風が高温になったしても、温度変動が抑制されたヒータコア21の冷却水流出側(風下側)でなまされるため、空調風吹出口温度の急激な上昇を抑えることができる。
【0059】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図7に基づいて説明する。本第2実施形態は、上記各実施形態と比較して、ヒータコア21の構成が異なる。以下、上記各実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
図7は、本第3実施形態のヒータコア21の構成を示しており、(a)は正面図、(b)は側面図である。図7に示すように、本実施形態のヒータコア21は、蓄熱材21gがチューブ21aとフィン21bの表面に設けられている。パラフィンが封入されたマイクロカプセルを熱伝導性の高い樹脂に練り込んだ状態で、チューブ21aとフィン21bの表面にコーティングされ固定されている。
【0061】
以上の本第3実施形態の構成によっても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、図7に示す例では、チューブ21aとフィン21bの全面に蓄熱材21gをコーティングしたが、これに限らず、チューブ21aとフィン21bの一部に蓄熱材21gをコーティングするようにしてもよい。この場合には、ヒータコア21における冷却水流入側に蓄熱材21gをコーティングする。
【0062】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。
【0063】
例えば、上記各実施形態では、本発明を燃料電池車両に適用したが、ハイブリッド車両にも適用可能である。この場合、上記実施形態の燃料電池10が内燃機関に置き換わることになる。
【0064】
また、上記各実施形態は適宜組み合わせて実施することができる。例えば、上記第2実施形態の二層構造のヒータコア21において、チューブ21a間に充填した蓄熱材21gに代えて、上記第3実施形態のようにチューブ21aとフィン21bの表面に蓄熱材21gをコーティングするようにしてもよい。
【0065】
また、上記各実施形態では、空調用流路に冷却水を加熱するために電気ヒータ20を設けたが、電気ヒータ20に代えて、燃焼式ヒータ等の他の種類のヒータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 燃料電池(第1加熱手段)
11 冷却用流路
12 第1冷却水循環ポンプ
18 空調用流路
19 第2冷却水循環ポンプ
20 電気ヒータ(第2加熱手段)
21 ヒータコア(加熱用熱交換器)
25 第2流路切替弁(切替手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を熱媒体が通過するとともに、熱媒体と空調風を熱交換して空調風を加熱する加熱用熱交換器(21)と、
前記加熱用熱交換器に供給される熱媒体を第1所定温度に加熱する第1加熱手段(10)と、
前記加熱用熱交換器に供給される熱媒体を前記第1所定温度と異なる第2所定温度に加熱する第2加熱手段(20)と、
前記加熱用熱交換器(21)に供給される熱媒体を、少なくとも前記第1加熱手段(10)によって加熱された熱媒体または前記第2加熱手段のみで加熱された熱媒体に切り替る切替手段(25)とを備え、
前記加熱用熱交換器(21)における熱媒体が通過する部位の少なくとも上流側に、熱媒体の熱を蓄熱可能な蓄熱材(21g)が設けられていることを特徴とする空調システム。
【請求項2】
前記蓄熱材(21g)は、融解により蓄熱し、凝固により放熱する潜熱蓄熱材であることを特徴とする請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記蓄熱材(21g)の融解温度は、前記第1所定温度と前記第2所定温度の間に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の空調システム。
【請求項4】
前記加熱用熱交換器(21)は、チューブ(21a)とフィン(21b)を備えており、
前記蓄熱材(21g)は、前記チューブ(21a)と前記フィン(21b)の隙間に充填されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の空調システム。
【請求項5】
前記蓄熱材(21g)は、前記加熱用熱交換器(21)における熱媒体と空調風とを熱交換する部位の表面に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の空調システム。
【請求項6】
前記加熱用熱交換器(21)は、空調風の流れ方向に沿って積層された二層構造となっており、一端側から流入した熱媒体が他端側で折り返して前記一端側から流出するように構成され、
前記二層構造のうち熱媒体流入側が空調風流れ上流側に位置し、熱媒体流出側が空調風流れ下流側に位置しており、
前記蓄熱材(21g)は、前記加熱用熱交換器(21)における空調風流れ上流側に設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の空調システム。
【請求項7】
前記第1加熱手段(10)は燃料電池であり、前記第2加熱手段(20)は電気ヒータであり、前記第1所定温度の方が前記第2所定温度より高いことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の空調システム。
【請求項8】
前記燃料電池(10)から流出した熱媒体温度が上限温度以上の場合に、前記燃料電池(10)から流出した熱媒体を前記加熱用熱交換器(21)に供給し、
前記燃料電池(10)から流出した熱媒体温度が下限温度以下の場合に、前記電気ヒータ(20)で加熱された熱媒体を前記加熱用熱交換器(21)に供給するとともに、前記燃料電池(10)から流出した熱媒体を前記加熱用熱交換器(21)に供給しないことを特徴とする請求項7に記載の空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197012(P2012−197012A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61862(P2011−61862)
【出願日】平成23年3月21日(2011.3.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】