説明

突発性難聴治療用の医薬組成物

本発明の大豆胚芽由来のイソフラボンアグリコンを有効成分として含有する突発性難聴治療用の医薬組成物は構成され作用するものであるから、人間における突発性難聴の治療に有効な作用を発揮することにより、人間の病気の予防等を良好に行なわせることができる。本発明の突発性難聴治療用の医薬組成物は、原料としての大豆胚芽を麹菌によって発酵させて蛋白質を分解し、その後に加水分解することによって得られた生成物を更に溶媒を用いて抽出濃縮することによりイソフラボンアグリコンの濃縮物とした生成物を有効成分として含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、人間における突発性難聴の治療に有効な作用を備えた大豆胚芽由来のイソフラボンアグリコン等のイソフラボンアグリコンを含有した突発性難聴治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
本出願人は、すでに大豆由来のイソフラボンアグリコンについて、その製造方法を特許第3014145号公報において、豆類を原料として麹菌によって発酵させて蛋白質を分解し、その後に加水分解することによって得られた生成物には大豆イソフラボングリコシドが麹菌の酵素(β−グリコシダーゼ)でイソフラボンアグリコンに変化されるため、イソフラボンアグリコンがリッチに含有されており、この生成物が人間や哺乳類に対して薬効等の生体活性を促進する作用をなすことを提案している。
この薬効等としては、イソフラボン化合物について近年報告されているものが挙げられる。例えば、イソフラボン化合物については、エストロゲン作用、抗エストロゲン作用、酸化防止作用、抗溶血作用、抗菌作用、抗脂血作用、抗コレステロール作用、鎮痙作用、ガン細胞の分化誘導作用、癌遺伝子阻害作用、制癌効果、動脈硬化予防作用、免疫賦活作用、造血幹細胞増強作用などが有していることが知られており、特にイソフラボンアグリコンはイソフラボン化合物の中でも体内吸収率が高いので、その機能性に関する報告は多くあるが、突発性難聴の治療に対する機能の報告は今までなかった。
一方、突発性難聴に関しては、わが国において1973年に、厚生省に難病対策の特定疾患としての研究班が発足され、下記のようなその診断の手引きが出された。
<主症状>
1.突然の難聴(文字どおり即時的な難聴、または朝、目が覚めて気づくような難聴)
2.高度な感音難聴(必ずしも「高度」である必要はないが、実際問題としては「高度」でないと突然難聴になったことに気づかないことが多い。)
3.原因が不明、または不確実(つまり、原因が明白でないこと)
<副症状>
1.耳鳴り(難聴の発生と前後して耳鳴りを生ずることがある。)
2.めまい、吐き気、嘔吐(難聴の発生と前後してめまいや吐き気、嘔吐を伴うことがあるが、めまい発作を繰り返すことはない。)
<診断の基準>
1.確実例は主症状および副症状の全事項をみたすもの。
2.疑い例は主症状の1および2の事項をみたすもの。
このような突発性難聴という名称は急激に生じた感音難聴すべてを意味する広義のこともあるが、この場合には“突発難聴”または“急性感音難聴”という名称が一般的であり、原因が不明または不確実のものに限定されている。すなわち、外傷性疾患、薬物・薬品中毒、多疾患の合併、医原性、メニュール病・反復性聴覚障害などは突発性難聴とは区別される。
また、突発性難聴の原因については、内耳循環障害、ウイルス感染、内リンパ水腫、内耳窓膜破裂、アレルギーなどがあげられているが、なお不明な点が多く、一元的なものではないといわれている。これらの原因のうち、循環障害をきたすこともある。内耳循環障害では病理学的な本態は現在のところ(梗塞、出血、血栓等)が考えられている。
突発性難聴の治療方法としては次のものがあげられる。
1.内耳循環の改善
a)直接血管に作用するもの:
ニコチン酸系剤、循環系ホルモン剤、メイロン(7%重曹水)、炭酸ガス吸入療法、パパベリン系剤
b)自律神経作用を期待するもの:
星状神経節遮断、ヒスタミン、ピロカルビン療法
2.脳代謝賦活ならびに抗紳経炎療法:
ビタミンB群、ニコチン、エンボール、ルシドリール、ソルコセリル、チトクロームC、ATP、CoQ10(コエンザイムQ10)
3.血液沈殿現象の緩解:
低分子デキストラン、ヘパリン
4.抗ウイルス療法:
γグロブリン、抗生物質、インターフェロン
5.迷路水腫に対する治療:
利尿剤、メイロン(7%重曹水)、メリスリン
6.手術療法迷路膜破裂の閉鎖術
7.最近話題の治療法:
高気圧酸素療法、アミドトリゾート、極超短波療法
これらの治療方法において、大豆由来のイソフラボンアグリコンはその治療目的用途として全く検討されていなかった。
突発性難聴の全国年間推計受療者数は、1987年度においては、年間14,000〜19,000人(平均約16,700人)であり1972年度の3〜4倍の増加が推定されており、1993年度においては、年間21,000〜27,000人(約24,000人)とさらに増加がみられた。1993年度の調査においては、性比は男性:女性=0.94:1.00であったが、他の調査結果から見ても男女による差異はないといわれている。発症年齢は男性は40〜70才台にわたって増加しているのに対して、女性の方は20才後半から70才台までに全体に大きく増加している。特に、50〜70才台の女性に増加していることにより、環境的要員や社会的因子の変化が推定できる。生死にかかわる疾患ではないが、今まで健康に生活していた働き盛りの人が突然「難聴」「耳鳴り」を来し、時にはひどい眩暈が伴うという本人にとって切実といえる疾患である。女性の社会的進出、ストレスの増加が突発性難聴の発症に影響している可能性もある。今日の社会的な環境が改善されない限り、今後も突発性難聴の発症者数は増加すると思われる。さらには海外においても先進国では同じように突発性難聴の発症者数は増加しているといわれている。
このように大きく問題視される突発性難聴の治療に優れた薬効等を発揮できるものが望まれている。
【発明の開示】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、人間における突発性難聴の治療に有効な作用を備えた大豆胚芽由来のイソフラボンアグリコン等のイソフラボンアグリコンを含有した突発性難聴治療用の医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意研究し、本発明者が特許第3014145号において既に提案している生成物であって、「原料となる大豆等の豆類に大豆胚芽を用いて、この大豆胚芽に対して麹菌を用いて製麹処理を施すとともにその生成物に対して加水分解処理を施して、イソフラボンアグリコンを多量に含有する生成物やフイチン酸が完全に分解除去された生成物」を生成し、この生成物に対して本発明者等が特開2000−281673号公報において提案している生成方法に従って、更に溶媒を用いて抽出濃縮することによりイソフラボンアグリコンが30重量%以上の濃縮物とした生成物(アグリマックス:ニチモウ株式会社の登録商標、以下「アグリマックス」という)を生産し、このアグリマックスを突発性難聴を患っている被検者に投与したところ、突発性難聴が快復されたことを確認して本発明を完成させたものである。また、イソフラボンアグリコンとしては、大豆胚芽に含有されているものに限られず、大豆の胚芽以外の部分や、豆類やその他の植物に含有されているイソフラボンアグリコンを含むものであり、更に化学的合成手段等によって生成されたものも含むものである。
更に、本発明者らが鋭意研究した結果、アグリマックスには非常に高いスーパーオキシド消去活性を備えていることがわかり、このスーパーオキシド消去活性が突発性難聴を快復させているものであることを確認して本発明を完成させたものである。
このスーパーオキシド消去活性について更に説明すると、スーパーオキシド(O’)は活性酸素の一種であり、好中球やマクロファージで生産され異物に対する生体防御を担う一方で、肺気腫、白内障、動脈硬化、乾癬などの発症の原因にもなり、もろ刃の剣ともいえる存在である。食品におけるO’を消去する能力にはスーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide dismutase=SOD)の酵素活性を示す場合と、スーパーオキシド消去活性(Superoxide Scavenging Activity=SOSAあるいはSOD様活性)を示す場合がある。前者は酵素であるため、経口摂取すると消化酵素で分解し、ほとんど体内に吸収されないといわれている。したがって、後者が食品として期待される。アグリマックスは後者のSOD様活性を有している。このアグリマックスのO’を消去する能力としてのSOD様活性を評価する方法はESR法で測定した。この方法はO’発生をヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系を用い、スピントラップ剤はDMPO(5,5−Dimethyl−1−pyrroline−N−oxide)を用いたスピンアダクトであるDMPO−OOH(DMPO−OHも混在)を測定する方法であり、スピントラップ法とも呼ばれている。
このスピントラップ法による調製においては、0.1Mリン酸緩衝液によって試料中のSOD様活性成分を抽出するために水溶性成分のみしか抽出されない。したがって、アグリマックス(AglyMax−70:70%アグリコン型イソフラボン濃度品)をそのまま0.1Mリン酸緩衝液によって抽出・調製し、スーパーオキシド消去活性した場合には、スーパーオキシド消去活性は12,000単位/gであった。しかしながら、アグリマックスは発酵大豆胚芽からアグリコン型イソフラボンを抽出・濃縮する工程で水溶性成分は除去されているので、0.1Mリン酸緩衝液には溶けないために、正確にスーパーオキシド消去活性を測定できないことを発明者らは気が付いた。そのために予め少量の油脂と乳化させた状態で測定することに想到し、乳化剤(Tween−80など)を加えてアグリマックスを乳化させた後にスーパーオキシド消去活性測定した所、アグリマックスのスーパーオキシド消去活性は160,000単位/gと非常に高いことがわかった。
アグリマックスのSOD様活性分析値を比較するために試薬であるイソフラボンアグリコンであるダイゼインおよびゲニステインについて分析した所、乳化するしないにかかわらずSOD様活性は300単位/g以下ときわめて低い数値であった(その結果は表1の通りである)。このことから大豆胚芽を麹菌によって発酵し、イソフラボンアグリコンを濃縮したアグリマックスでSOD様活性が高まったのはイソフラボンアグリコンによるのではなく、発酵によって生じた成分によることが推測できた。次いで、大豆胚芽を発酵させないで、大豆胚芽からイソフラボングリコシドを濃縮・抽出したF社製剤(商品名:フジフラボン、(株)フジッコ製)についてもSOD様活性を分析したが、300単位/g以下であった。すなわち、麹菌発酵をしていない大豆胚芽にはSOD様活性が高い成分は存在しないことが分かった。さらに、丸大豆を麹菌発酵し、イソフラボンアグリコンにし、濃縮・抽出したK社製剤(商品名:ソイアクト、キッコーマン(株)製)についてもSOD様活性を測定したが、やはり300単位/g以下と低かった。このことから、発酵によってSOD様活性がきわめて高まる成分は大豆胚芽に存在することがいえる。

一方、従来、食品におけるスーパーオキシド消去活性(SOD様活性)は水溶性成分がほとんどで、水溶性であるポリフェノールには高いSOD様活性を有していると言われている。ブドウ種子エキス、イチョウ葉エキス、グアバ葉エキスのSOD様活性も100,000〜200,000単位/gと高いが、それらはポリフェノールによるといわれている。
以上のように、アグリマックスにこれらと同レベルのSOD様活性を有していることが確認できたが、アグリマックスに含まれる高いSOD様活性を持つ成分は水溶性でなく、脂溶性に近い成分であることからブドウ種子エキス、イチョウ葉エキス、グアバ葉エキスとは異なる有効な機能があることが期待できる。
我々の身体でスーパーオキシド(O’)が悪さをするのは細胞外ではなく、むしろ、細胞にある遺伝子などに傷害を与えて疾患の発症原因となることが分かっている。すなわち、脂質層で覆われた細胞膜を通過し、細胞内でスーパーオキシド消去活性として機能できるのは水溶性でなく、脂溶性の成分であることが理解できるが、天然成分でそのようなものが今までなかった。
今回、治療が非常に難しい難病に指定されている突発性難聴で治療効果が得られたことは、アグリマックスの今までに知られている天然成分にはない脂溶性の成分に基づく特徴的な高いSOD様活性によって治療効果が発揮されたことが充分に考えられる。
このようにしてなされた本発明の突発性難聴治療用の医薬組成物は、イソフラボンアグリコンを有効成分として含有することを特徴とする。
また、本発明の大豆胚芽由来のイソフラボンアグリコンを含有する突発性難聴治療用の医薬組成物は、原料としての大豆胚芽を麹菌によって発酵させて蛋白質を分解し、その後に加水分解することによって得られた生成物を更に溶媒を用いて抽出濃縮することによりイソフラボンアグリコンの濃縮物とした生成物を有効成分として含有することを特徴とする。
また、濃縮物中のイソフラボンアグリコンの組成は、少なくとも70重量%のダイゼインを含有することを特徴とする。
また、イソフラボンアグリコンの濃縮物とした生成物は、高いスーパーオキシド消去活性を有することを特徴とする。
このようにして形成されている本発明のイソフラボンアグリコンを有効成分として含有する突発性難聴治療用の医薬組成物並びに大豆胚芽由来のイソフラボンアグリコンを含有する突発性難聴治療用の医薬組成物は、人間の突発性難聴の治療に有効な作用を発揮するので、種々の原因によって発生する突発性難聴の治療に用いることができる。
すなわち、このイソフラボンアグリコンは下記の通り突発性難聴の主因とみなされている内耳循環障害の改善効果が期待される。さらに、女性ホルモンのアンバランスおよび免疫を賦活し、ストレスを防ぐ機能性にも関係する可能性が高い。
1)アグリマックスが赤血球の変形能を高めることにより、内耳蝸牛の血流を改善させる機能
2)血管内皮細胞にあるNO(一酸化窒素)合成酵素(eNOS)を活性化させ、内耳蝸牛の動脈血管を弛緩させ、血流を改善させる機能
3)女性の場合においては、女性ホルモン(エストロゲン)のアンバランスを防ぎ、ホルモンのアンバランスから来る自律神経系の失調を改善する機能(エストロゲン分泌の高い場合は抗エストロゲン作用が期待でき、閉経後エストロゲン分泌がなくなった場合にはエストロゲン様作用として働く。)
4)免疫を賦活し、ストレスを防ぐ機能
このように本発明の突発性難聴治療用の医薬組成物によれば、イソフラボンアグリコンだけを用いて、突発性難聴に対する治療効果を期待できるが、例えば、脳代謝賦活ならびに抗紳経炎療法として期待されているビタミンB群、ニコチン、エンボール、ルシドリール、ソルコセリル、チトクロームC、ATP、CoQ10(コエンザイムQ10)などと組み合せて製剤化することも可能である。
このように本発明の大豆胚芽由来のイソフラボンアグリコンを有効成分として含有する突発性難聴治療用の医薬組成物は構成され作用するものであるから、人間における突発性難聴の治療に有効な作用を発揮することにより、人間の病気の予防等を良好に行なわせることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の大豆胚芽中のイソフラボン化合物のうち薬理作用の高いアグリコンを生成する製造方法の1実施例を示す工程図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態においては、本発明者が特許第3014145号において既に提案している生成物であって、「原料となる大豆等の豆類に対して麹菌を用いて製麹処理を施すとともにその生成物に対して加水分解処理を施して、イソフラボンアグリコンを多量に含有する生成物やフイチン酸が完全に分解除去された生成物」において、原料として大豆胚芽をイソフラボンアグリコンを用い、本発明者等が提案している特開2000−281673号公報に示す生成方法に従って、更に溶媒を用いて抽出濃縮することによりイソフラボンアグリコンが例えば30重量%以上の濃縮物とした生成物とする。
図1は前記特許第3014145号において提案している生成物であって、豆類の1種である大豆胚芽のイソフラボン化合物の配糖体を分解して、アグリコンを多量に含むイソフラボン化合物を生成した生成物の製造方法の1実施形態および同時に大豆粕中のフィチン酸を除去した生成物の製造方法の1実施形態を示す工程図である。
まず、アグリコンを多量に含むイソフラボン化合物を生成した生成物を製造する場合について説明する。
図1の工程に沿って説明すると、先ず大豆胚芽を蒸煮する。この蒸煮を施すことにより、麹菌の増殖が容易となる。また、この大豆胚芽の蒸煮は製造目的等に応じてバッチ式や連続式で行うと良い。
そして、この蒸煮が終了した大豆胚芽を一旦冷却して、大豆胚芽中の水分量を麹菌が増殖可能な量(例えば、37重量%)とさせる。
このようにして水分量を整えられた大豆胚芽に対して、本発明方法が以下のようにして行なわれる。
即ち、蒸煮が終了した大豆胚芽を殺菌し、冷却した後、大豆胚芽と麹菌との配合割合を、例えば大豆胚芽を400kgに対して麹菌胞子を8×10個/gに調整した種麹(精白米にて調整)を200gを混合した。更に、製麹のスタート時には32℃に冷却した後、品温が40℃になるまで通風しないで40℃になった時点で通風しながら、温度上昇を抑えた。スタートから約17時間後の最初の撹拌(盛工程)を行った。大豆胚芽の熱を冷まし、撹拌後品温が35℃前後になるように通風しながら、温度をコントロールをした。次いで約8時間後に2回目の撹拌(仲工程)を行い、熱を冷ました。再び品温を通風で35℃前後にコントロールし、更に約16時間後に3回目の撹拌(仕舞工程)を前回同様に行った。その後は品温が約38℃になるように通風しながら、温度コントロールし、スタートから48時間後に製麹を終了させた。製麹終了後、水分含量が50%になるように撹拌しながら、水分調整を行い、品温が約50℃になるように加温後、48時間以上麹菌の酵素で大豆胚芽中のイソフラボン化合物の大部分がアグリコン体になるまで加水分解した。表2の通り本発明による処理により大豆胚芽のイソフラボン化合物はアグリコン体のダイゼインが主体となるように多量に得られた。

この製麹に用いる麹菌としては、古くからの日本独特の発酵食品やテンペに用いられている麹菌であり、食品として安全なアスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ニガー等アスペルギルス属およびリゾープス属等からなる麹菌を用いるとよい。
この発酵時間については、使用する麹菌の種類に応じて、少なくとも24時間以上であり、大豆粕中のイソフラボン化合物の配糖体を十分に分解させるに十分な発酵時間とするとよい。
この蛋白質の加水分解については、使用する麹菌の種類に応じて、大豆胚芽中のイソフラボン化合物の配糖体を十分に低減させるに十分な加水分解時間ならびに加水分解温度とするとよい。
このようにすれば、発酵の初期において有機酸を生成して大豆胚芽中の雑菌の増殖を抑制し、2次汚染の心配がなくなり、大豆胚芽を原料とした生成物を大量生産することができる。また、低水分としなくともイソフラボン化合物の配糖体を十分に低減させる処理を施すことができる。
続いて、本実施形態においては加水分解によって得られた生成物を、特開2000−281673号公報に示す方法に従って、(1)親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出し、(2)抽出して得た親水性有機溶液に疎水性有機溶媒を用いて液液分離し、(3)液液分離して得た親水性有機溶液に疎水性有機溶媒を用いて液液分離し、そして(4)必要に応じて、液液分離して得た疎水性有機溶液を濃縮乾燥することにより、表3のようなイソフラボンアグリコンが30重量%以上の濃縮物としてのアグリマックスを得た。この場合のイソフラボンアグリコンとしては、ダイゼインが約70重量%含有されている。なお、表3には、イソフラボンアグリコン量に対するダイゼイン、グリシテイン、ゲニステインの比の値を示した。このアグリマックスのスーパーオキシド消去活性は160,000単位/gであった。

【実施例】
次に、本発明の大豆胚芽由来のイソフラボンアグリコンを含有する突発性難聴治療用の医薬組成物による突発性難聴の治療作用を説明する。
【実施例1】
本実施例においては、突発性難聴を患っている被験者(30才台の女性)に対して、1日にイソフラボンアグリコンとして40mgを摂取できるようにアグリマックスを錠剤化したサプリメントを投与した。試験期間は3ケ月間行ない、摂取前後の症状改善の状態を表4に示す質問表で確認した。また、聴力の改善については聴力計を用いて検査した。
その結果、試験期間経過時において、突発性難聴が改善された。具体的には、眩暈の症状が大きく和らぐこととなった。更に、聴力も大きく改善された。

【実施例2】
本実施例においては、突発性難聴を患っており、ステロイド点滴を行っても聴力の回復のない被験者(男性7名、女性19名:平均年齢54.9±13.8才(男性:54.7±13.7(27〜70)才、女性:55.9±15.2(36〜79才))に対して、1日にイソフラボンアグリコンとして40mgを摂取できるようにアグリマックスを錠剤化したサプリメントを投与した。試験期間は3ケ月間行ない、耳鳴りおよび眩暈について摂取前後のQOLの状態を表4に示す質問表に基づいて医師による問診で評価した。また、聴力の改善については聴力計を用いて検査した。更に被験者の血液の生化学性状変化も調べた。
結果
1)聴力の回復
5dB回復者数:7/26(26.9%)
2dB回復者数:6/26(23.1%)
回復せず :13/26(50.0%)
被験者の半数が聴力の改善があり、改善者の約半数が5dBに回復があり、難聴が完治された。
2)眩暈の回復
眩暈を感じる被験者数:13/26(50%)
完全回復者数:10/13(76.9%)
一部回復者数:3/13(32.19%)
眩暈を感じる被験者の全員に眩暈の改善があり、完全回復者は76.9%に達した。
3)耳鳴りの回復
耳鳴りを感じる被験者数:19/26(73.1%)
完全回復者数:8/19(42.1%)
一部回復者数:8/19(42.1%)
回復せず :3/19(15.8%)
耳鳴りを感じる被験者の改善者は84.2%であり、完全回復者は42.1%に達した。
4)血中脂質代謝の回復(総コレステロール値対応)
異常値のある被験者数:13/26(50.0%)
ここで、総コレステロール値の異常値は219mg/dl以上をいう。
回復者数:9/13(69.2%)
回復せず:4/13(30.8%)
血中脂質代謝の異常を感じる被験者の69.2%に血中脂質代謝の回復(総コレステロール値対応)があった。
5)血中脂質代謝の回復(中性脂肪値対応)
異常値のある被験者数:11/26(42.3%)
ここで、中性脂肪値の異常値は149mg/dl以上をいう。
回復者数:7/11(63.6%)
回復せず:4/11(36.4%)
血中脂質代謝の異常を感じる被験者の63.6%に血中脂質代謝の回復(中性脂肪値対応)があった。
6)血糖値の回復
異常値のある被験者数:8/26(30.8%)
ここで、血糖値の異常値は110mg/dl以上をいう。
回復者数:5/8(62.5%)
回復せず:3/8(37.5%)
血糖値の異常を感じる被験者の62.8%に血糖値の回復があった。
7)QOLの改善
女性の被験者のうち、61.2%が改善され、16.5%が改善されず、その他の者が問診したけれども明確に改善・非改善の判定できなかった。このように女性の被験者の62.8%にQOLの改善があった。
本実施例2においては、突発性難聴治療の効果は、男性に比較して女性の方が有効であった。
このような極めて優れた治療効果が発揮されることは、このアグリマックスのサプリメントの効能であり、特にアグリマックスが有する高いスーパーオキシド消去活性が作用していると考えられる。
なお、本発明は前記実施の形態並びに実施例に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。本発明の大豆胚芽由来のイソフラボンアグリコンを有効成分として含有する突発性難聴治療用の医薬組成物は前記実施例のように経口投与の他に点滴によって体内に吸収させるようにしてもよい。
なお、本発明は前記実施の形態や実施例に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。例えば、イソフラボンアグリコンとしては、大豆胚芽に含有されているものに限られず、大豆の胚芽以外の部分や、豆類やその他の植物に含有されているイソフラボンアグリコンを、大豆胚芽の場合と同様にして生成してもよい。更に、化学的合成手段等によってイソフラボンアグリコンを生成してもよく、種々のものを含めることができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソフラボンアグリコンを有効成分として含有する突発性難聴治療用の医薬組成物。
【請求項2】
原料としての大豆胚芽を麹菌によって発酵させて蛋白質を分解し、その後に加水分解することによって得られた生成物を更に溶媒を用いて抽出濃縮することによりイソフラボンアグリコンの濃縮物とした生成物を有効成分として含有する突発性難聴治療用の医薬組成物。
【請求項3】
濃縮されたイソフラボンアグリコンの組成は、少なくとも70重量%のダイゼインを含有することを特徴とする請求項2に記載の突発性難聴治療用の医薬組成物。
【請求項4】
イソフラボンアグリコンの濃縮物とした生成物は、高いスーパーオキシド消去活性を有することを特徴とする請求項2に記載の突発性難聴治療用の医薬組成物。

【国際公開番号】WO2004/045603
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【発行日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553227(P2004−553227)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014891
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】