説明

窒化物半導体発光素子およびその製造方法

【課題】 長寿命であって信頼性に優れた窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板上に形成されたn型窒化物半導体層と発光層とp型窒化物半導体層とを含む窒化物半導体層と、を含み、窒化物半導体基板の表面は、複数の溝が形成されている溝領域と溝領域以外の平坦領域とを有しており、平坦領域の上方に発光層中の発光領域が位置している窒化物半導体発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子およびその製造方法に関し、特に長寿命であって信頼性に優れた窒化物半導体発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、GaN、AlN、InNまたはこれらの混晶などからなる窒化物半導体材料を用いて、紫外から可視領域の光を発光する窒化物半導体レーザ素子や発光ダイオードなどの窒化物半導体発光素子の研究および開発が盛んに行なわれている。
【0003】
このような窒化物半導体発光素子に用いられる基板としては、従来、サファイア基板が多く用いられてきた。しかしながら、窒化物半導体発光素子を構成する窒化物半導体結晶には特に高品質のものが求められることから、近年、窒化物半導体発光素子に用いられる基板として窒化物半導体結晶と格子定数差のより小さいGaN基板を用いることが検討されている。
【0004】
たとえば、非特許文献1には、GaN基板を用いた窒化物半導体レーザ素子が開示されている。この窒化物半導体レーザ素子は以下のようにして製造される。まず、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて、サファイア基板上に2.0μmの厚みの下地GaN層を成長させる。次に、この下地GaN層上に0.1μmの厚みの周期的なストライプ状の開口部を有するSiO2からなるマスクパターンを形成する。そして、再びMOCVD法を用いて、20μmの厚みのGaN層を形成することによりウエハが得られる。これは、ELOG(Epitaxially Lateral Over-Grown)と呼ばれる技術であり、GaN結晶のラテラル成長の利用により、成長したGaN層中の欠陥を低減する手法である。
【0005】
そして、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法を用いて200μmの厚みのGaN層を形成した後、サファイア基板などが除去されて約150μmの厚みのGaN基板が得られ、GaN基板の表面が平坦に研磨される。このGaN基板の欠陥密度は106cm-2以下であって、かなり低いことが知られている。続いて、MOCVD法により、この平坦に研磨されたGaN基板の表面上に窒化物半導体層が順次積層され、窒化物半導体レーザ素子が製造される。
【非特許文献1】Applied Physics Letters, Vol.73, No.6, 1998, pp.832-834
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の非特許文献1に記載されているような方法を始めとして、低い欠陥密度を有するGaN基板を得る技術は開発されてきている。しかしながら、MOCVD法などによりこのようなGaN基板上に窒化物半導体層をエピタキシャル成長させて窒化物半導体レーザ素子などの窒化物半導体発光素子を製造する技術を実用化するには問題が存在する。それは、MOCVD法などによりエピタキシャル成長させた窒化物半導体層にクラックが多数(たとえば、1mm幅に数本以上)発生するという問題である。
【0007】
たとえば、このようなクラックが多数発生している窒化物半導体層を用いた窒化物半導体レーザ素子においては、レーザ光が発振しなかったり、たとえレーザ光が発振しても窒化物半導体レーザ素子の寿命が極めて短いという問題があった。このようなクラックの発生は、Alを含む窒化物半導体結晶を用いた窒化物半導体レーザ素子において特に顕著であり、窒化物半導体レーザ素子には通常Alを含む窒化物半導体層を用いるので、クラックの発生を防止することは非常に重要であった。
【0008】
そこで、クラックの発生を防止させる方法として、GaNなどの窒化物半導体基板の表面に1本のストライプ状の溝を周期的に形成し、この溝が形成された窒化物半導体基板上に窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる方法が考えられる。しかしながら、この方法ではクラックの発生を抑制することができるものの、窒化物半導体基板の表面上にエピタキシャル成長した窒化物半導体層に層厚のばらつきが発生するという問題があった。
【0009】
図8は、この状況を図解するための模式的な平面図である。ここでは、1つの窒化物半導体レーザ素子について1本の溝402が形成されるように構成されたGaN基板上に、MOCVD法により、複数の異なる組成を有する窒化物半導体層(たとえば全層厚5μm)をエピタキシャル成長させたウエハ401が示されている。そして、溝402の近傍の領域403には窒化物半導体レーザ素子のストライプ状の光導波路404が形成されている。ここで、隣り合う溝402同士の間の間隔Pは100μm以上1000μm以下である。
【0010】
このウエハ401の表面を光学顕微鏡で観察してみると、図8に示すような波線状のモフォロジー405が観察される。これは、溝402の近傍の領域403における窒化物半導体結晶の状態が溝402の影響を受けているためと考えられる。このようなモフォロジー405が観察される箇所に相当する箇所に光導波路404が設置された窒化物半導体レーザ素子においては、光導波路404に沿った層厚のばらつきにより、発振するレーザ光の輝度、発振効率、波長または発振閾値電流などの特性にばらつきが生じるだけでなく、窒化物半導体レーザ素子ごとの特性にもばらつきが生じてしまうため、信頼性が良好でないという問題があった。
【0011】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、長寿命であって信頼性に優れた窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板上に形成されたn型窒化物半導体層と発光層とp型窒化物半導体層とを含む窒化物半導体層と、を含み、窒化物半導体基板の表面は、複数の溝が形成されている溝領域と溝領域以外の平坦領域とを有しており、平坦領域の上方に発光層中の発光領域が位置している窒化物半導体発光素子である。
【0013】
本発明の窒化物半導体発光素子においては、複数の溝を構成するそれぞれの溝が互いに平行に形成されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の窒化物半導体発光素子においては、複数の溝が、平行する2本以上4本以下の溝から構成されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の窒化物半導体発光素子においては、複数の溝を構成する隣り合う溝同士の間の間隔が1μm以上100μm未満であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の窒化物半導体発光素子においては、発光領域が窒化物半導体基板の表面における溝領域と平坦領域との境界から平坦領域側に20μm以上離れた領域の上方に位置していることが好ましい。
【0017】
また、本発明の窒化物半導体発光素子は窒化物半導体レーザ素子であって、発光領域が光導波路であり得る。
【0018】
また、本発明は、上記の窒化物半導体発光素子を製造する方法であって、複数の溝が形成されている溝領域と溝領域以外の平坦領域とを有する窒化物半導体基板の表面上にn型窒化物半導体層と発光層とp型窒化物半導体層とを含む窒化物半導体層を形成する工程と、窒化物半導体基板の表面における平坦領域の上方に発光層中の発光領域を位置させる工程と、を含む、窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0019】
ここで、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法においては、複数の溝を構成するそれぞれの溝が互いに平行に形成されていることが好ましい。
【0020】
また、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法においては、複数の溝が、平行する2本以上4本以下の溝から構成されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法においては、複数の溝を構成する隣り合う溝同士の間の間隔が1μm以上100μm未満であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法においては、窒化物半導体基板の表面上における溝領域が形成される周期が100μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0023】
また、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法においては、平坦領域の幅が200μm以上900μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、長寿命であって信頼性に優れた窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、結晶の面や方位を示す指数が負の場合には、その指数の絶対値の上に横線を付して表記するのが結晶学の決まりであるが、本明細書ではそのような表記はできないので、その指数の絶対値の前に「−」を付して負の指数を表わすものとする。また、本願の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0026】
(窒化物半導体基板)
本発明に用いられる窒化物半導体基板の材質は、窒素を含む半導体結晶であれば特に限定はされず、たとえばGaN、InGaN、AlGaNまたはInAlGaNなどが用いられる。また、本発明に用いられる窒化物半導体基板としては、サファイア基板や窒化物半導体基板上に窒化物半導体層が形成された多層の基板を用いてもよく、この多層の基板からサファイア基板や窒化物半導体基板などの下地が除去された後のフリースタンディングの窒化物半導体基板を用いてもよい。
【0027】
(溝領域、平坦領域)
図1の模式的平面図に、本発明に用いられる窒化物半導体基板の一例を示す。この窒化物半導体基板の表面には、1つの窒化物半導体発光素子について形成される複数の溝が1つの溝群aを構成して、複数の溝群aが周期的に形成されている。この1つの溝群aの両端にある溝の最も外側の端同士の間の窒化物半導体基板の表面の領域を溝領域といい、それ以外の領域を平坦領域という。なお、図1において、溝領域は参照符号106で示される領域であり、平坦領域は参照符号105で示される領域である。
【0028】
このように従来の図8に示すような1本の溝を周期的に形成するのではなく、図1に示すように複数の溝からなる溝群を周期的に形成することによって、窒化物半導体基板の表面上に成長する窒化物半導体層に生じるクラックを低減できるだけでなく、平坦領域の上方に成長する窒化物半導体層の層厚のばらつきも低減することができる。
【0029】
また、平坦領域の上方に発光領域を容易に位置させる観点からは、溝領域106の幅D1は、平坦領域105の幅D2の1/2以下であることが好ましく、1/3であることがより好ましい。また、歩留まり良く窒化物半導体発光素子を歩留まり良く製造する観点からは、平坦領域105の幅D2は、100μm以上1000μm以下であることが好ましく、300μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0030】
(溝)
図2の模式的拡大断面図に、窒化物半導体基板の表面に形成された1つの溝群の一例を示す。溝群を構成する溝の形状は特に限定されないが、ストライプ状であることが好ましい。溝がストライプ状に形成されている場合には、格子定数差および熱膨張係数差に起因する応力を伴う窒化物半導体層の成長の会合を窒化物半導体基板の表面上の広い範囲にわたって抑制することができるため、窒化物半導体基板の表面の平坦領域の上方に成長する窒化物半導体層の平坦性をより向上させることができる傾向にある。
【0031】
また、1つの溝群中における隣り合う溝と溝との間の間隔f1、f2は1μm以上100μm未満であることが好ましい。一般的に、溝の形成による窒化物半導体層の平坦性を向上させる効果は溝からの距離に依存するが、溝の間隔f1、f2を1μm以上100μm未満とすることで平坦領域を広範囲にすることができる。これにより、発光領域の位置を規定することが容易になるため、窒化物半導体発光素子の製造歩留まりを向上させることができる。なお、隣り合う溝同士の間隔f1、f2は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0032】
また、それぞれの溝の幅dは3μm以上20μm以下であることが好ましい。溝の幅dが3μm未満である場合には窒化物半導体層の成長の初期に溝が埋まってしまって窒化物半導体層の平坦性を向上させることができない傾向にあり、溝の幅が20μmよりも広い場合には窒化物半導体基板の表面の平坦領域が狭くなって平坦領域の上方に発光領域を位置させることが困難になるため、窒化物半導体発光素子の製造歩留まりが低下する傾向にある。
【0033】
また、それぞれの溝の深さhは2μm以上10μm以下であることが好ましい。溝の深さが2μm未満である場合には窒化物半導体層の成長の初期に溝が埋まってしまう傾向にあり、溝の深さhが2μm以上である場合にはクラックを有効に防止することができる傾向にある。他方、溝が深すぎる場合には、溝を形成するのが困難となり、窒化物半導体基板の機械的強度も低下してしまうので、溝の深さhは10μm以下とすることが好ましい。なお、それぞれの溝の幅dおよび深さhは同一であってもよく、溝ごとに異なっていてもよい。
【0034】
また、窒化物半導体基板の表面上に形成される1つの溝群を構成する溝の本数は2本以上4本以下とすることが好ましい。溝の本数が2本未満である場合、すなわち1本である場合には平坦領域における窒化物半導体層の層厚のばらつきが大きくなる傾向にある。これは、窒化物半導体層の形成時に、1本の溝を挟んで隣接する第1の平坦領域と第2の平坦領域との間でマイグレーションによって原子が往来するため、溝を越えてくる原子によってこれらの平坦領域における窒化物半導体層の層厚が影響されることによるものである。ここで、溝はエッチングなどにより形成されているので、溝の形成プロセス上の変動により、溝は場所によって表面状態が異なる。そして、原子のマイグレーションは溝の表面状態に非常に敏感であるため、溝を越えてくる原子の存在確率は平坦領域内においてばらついてしまう。これにより、溝の本数が1本である場合には窒化物半導体層の層厚のばらつきが大きくなってしまうものと考えられる。しかしながら、2本以上の溝からなる溝群を形成することによって窒化物半導体層の形成時に溝を越えてくる原子が大幅に減少するため、平坦領域における窒化物半導体層の層厚のばらつきを低減することができる。他方、1つの溝群を構成する溝の本数を4本よりも多くしても平坦領域における窒化物半導体層の層厚のばらつきを低減する効果が4本の場合と変わらないため、1つの溝群を構成する溝の本数は2本以上4本以下とすることが好ましい。
【0035】
(窒化物半導体層)
上記のように複数の溝からなる溝群が周期的に形成されている窒化物半導体基板の表面上には窒化物半導体層が形成される。ここで、窒化物半導体層は、n型窒化物半導体層と発光層とp型窒化物半導体層とを含んでおり、窒化物半導体層の材質としては窒素を含む半導体結晶であれば特に限定されず、たとえばGaN、InGaN、AlGaNまたはInAlGaNなどが用いられる。また、窒化物半導体層の形成方法も特に限定されず、たとえば従来から公知のMOCVD法やMBE(Molecular Beam Epitaxy;分子線エピタキシー)法などが用いられる。
【0036】
本発明に用いられるn型窒化物半導体層は上記の窒化物半導体層にn型不純物がドープされた層のことであり、p型窒化物半導体層は上記の窒化物半導体層にp型不純物がドープされた層のことである。
【0037】
また、本発明に用いられる発光層は、1以上の量子井戸層またはそれと交互に積層された1以上の障壁層とを含んでおり、発光作用を生じさせる層のことである。発光層としては、たとえばSQW(Single Quantum Well;単一量子井戸)構造またはMQW(Multi Quantum Well;多重量子井戸)構造の発光層が用いられる。SQW構造の発光層は1つの井戸層を含み、MQW構造の発光層は複数の井戸層を含んでいる。
【0038】
(発光領域)
本発明における発光領域は、n型窒化物半導体層またはp型窒化物半導体層を介して実質的に電流が注入される発光層中の領域のことである。ここで、本発明における発光領域の位置は窒化物半導体基板の表面の平坦領域の上方の領域であるが、発光領域のすべてが窒化物半導体基板の表面の平坦領域の上方の領域に含まれている必要がある。
【0039】
本発明における発光層中における発光領域の位置は、たとえばリッジストライプ部を有する窒化物半導体レーザ素子の場合には、図3の模式的断面図に示すように、リッジストライプ部Rsの下方の発光層中の領域に規定され、発光領域の幅はリッジストライプ部Rsの幅kと同一になる。また、電流狭窄層を有する窒化物半導体レーザ素子の場合には、図4の模式的断面図に示すように、2つの電流阻止層の間の下方の発光層中の領域に規定され、発光領域の幅は2つの電流阻止層の間の幅mと同一になる。
【0040】
本発明における発光領域は、上記の窒化物半導体基板の表面における溝領域と平坦領域との境界から平坦領域側に20μm以上離れた領域の上方に位置していることが好ましく、その境界から平坦領域側に100μm以上離れた領域の上方に位置していることがより好ましい。この場合には、発光領域が溝の形成による窒化物半導体層の層厚のばらつきによる影響をさらに受けにくくなり、より窒化物半導体発光素子の特性が安定する傾向にある。
【0041】
(実施の形態)
図5の模式的断面図に、本発明の窒化物半導体レーザ素子が複数含まれているウエハの一部の一例を示す。ここで、n型GaN基板101には、ストライプ状の第一溝102aと第二溝102bとが近接して互いに平行に形成されている。このような第一溝102aと第二溝102bとが形成されている溝領域106がn型GaN基板101の表面に所定の間隔をあけて周期的に形成されている。
【0042】
また、n型GaN基板101上にはエピタキシャル成長したn型窒化物半導体層、発光層およびp型窒化物半導体層を含む窒化物半導体層103が形成されている。そして、図5には、窒化物半導体レーザ素子から発振されるレーザ光の光導波路である発光領域104の位置が示されている。
【0043】
なお、図5においては、説明の便宜上、第一溝102aと第二溝102bとからなる1つの溝群と1つの発光領域しか記載されていないが、実際には溝群と発光領域とは図5に示す位置関係で1つのウエハにそれぞれ複数形成されている。
【0044】
ここで、図5に示すように、窒化物半導体レーザ素子の光導波路である発光領域104は、n型GaN基板101の表面の溝領域106以外の領域である平坦領域105の上方に位置している。溝領域106および溝領域106の上方においては様々な方向から窒化物半導体層103の成長が進むため層厚にばらつきが生じる。したがって、n型GaN基板101の表面の溝領域106の上方に発光領域104を位置させた場合には、この層厚のばらつきにより発光領域104が影響を受けるため窒化物半導体レーザ素子の特性にもばらつきが生じる。一方、窒化物半導体層103の成長の際に生じる格子定数差や熱膨張係数差に起因する応力は、n型GaN基板101の表面の溝領域106および溝領域106の上方の領域において吸収されるため、n型GaN基板101の表面の平坦領域105の上方の領域における層厚のばらつきが非常に少ない。したがって、n型GaN基板101の表面の平坦領域105の上方に発光領域104を位置させた場合には、層厚のばらつきによる影響が少ないため、窒化物半導体レーザ素子の特性が安定する。また、n型GaN基板101の表面に第一溝102aおよび第二溝102bが形成されていることによって、エピタキシャル成長した窒化物半導体層103のクラックの発生を抑制することができるため、窒化物半導体レーザ素子の寿命を向上させることができる。したがって、本発明においては、長寿命であって信頼性に優れた窒化物半導体レーザ素子が歩留まり良く得られるのである。
【0045】
図5に示すウエハは、たとえば以下のようにして作製される。まず、表面が平坦なn型GaN基板が用意される。ここで、n型GaN基板は、たとえば非特許文献1に記載の方法などを利用した従来から公知の方法によって作製される。ここで、表面が平坦なn型GaN基板としてはその表面全体がほぼ均一な欠陥密度を有しているものを用いることが好ましい。次に、このn型GaN基板の表面全体にたとえばSiO2膜を厚さ1μmでスパッタリング法などを用いて蒸着させる。その後、一般的なフォトリソグラフィ工程によって、n型GaN基板の表面の[1−100]方向にストライプ状の2本の開口部が周期的に形成されたレジストを形成する。ここで、レジストのそれぞれの開口部の幅は5μmであり、それぞれの開口部の間の間隔は80μmである。また、これらの2本の開口部は300〜400μmの周期でレジストに配置されており、これらの開口部は互いに平行となっている。
【0046】
そして、ICP(Induction Coupling Plasma)エッチングまたはRIE(Reactive Ion Etching)エッチングなどにより、SiO2膜の全部およびn型GaN基板の一部が除去されて、n型GaN基板の表面に深さ5μmの第一溝102aと第二溝102bとからなる溝群が形成される。ここでは、第一溝102aおよび第二溝102bは、n型GaN基板の表面の[1−100]方向に形成されているが、たとえば[11−20]方向に形成されてもよく、特に第一溝102aおよび第二溝102bの形成方向については限定されない。
【0047】
その後、このn型GaN基板上に残っているレジストおよびSiO2膜を除去することによって、図5に示すn型GaN基板101が得られる。そして、第一溝102aおよび第二溝102bが形成されたn型GaN基板101の表面上にMOCVD法などを用いて窒化物半導体層103をエピタキシャル成長させ、さらに発光領域104の位置を上記のように規定することによって、図5に示すウエハが形成される。そして、n型GaN基板101および窒化物半導体層103の一部に電極が形成された後、このウエハを分割することによって、本発明の窒化物半導体レーザ素子を複数得ることができる。
【0048】
図6に、上記のようにして得られた本発明の窒化物半導体レーザ素子のより詳細な構造を示す模式的な断面図を示す。この窒化物半導体レーザ素子は、n型GaN基板101の表面上に層厚1.0μmのn型GaN層203、層厚1.5μmのn型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層204、層厚0.2μmのn型Al0.1Ga0.9N第2クラッド層205、層厚0.1μmのn型Al0.062Ga0.938N第3クラッド層206、層厚0.1μmのn型GaNガイド層207、層厚8nmのGaN層とこのGaN層上に形成された層厚4nmのInGaN層とからなる層が3層積層されてなるMQW構造の発光層208、層厚20nmのp型Al0.3Ga0.7N第2クラッド層209、層厚0.05μmのp型GaNガイド層210、層厚0.5μmのp型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層211および層厚0.1μmのp型GaNコンタクト層212が順次形成された構造を有している。
【0049】
また、p型GaNコンタクト層212上にはp電極214が形成されており、n型GaN基板101の裏面にはn電極215が形成されている。また、p型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層211およびp型GaNコンタクト層212の一部がエッチングにより除去されてリッジストライプ部Rsが形成されており、そのリッジストライプ部Rsの幅から発光層208中における発光領域104の位置が規定される。なお、リッジストライプ部Rsの形成に必要なエッチング量は1μm程度以下であり、またリッジストライプ部Rsの幅は、単一横モードのレーザ光を発振させるためには0.5〜3μm程度にすることができ、多モードのレーザ光を発振させるためには2〜200μm程度とすることができる。ここで、窒化物半導体レーザ素子の特性を安定させる観点からは、図6に示す平坦領域105の幅が200μm以上900μm以下であることが好ましい。
【0050】
図6に示す構成の窒化物半導体レーザ素子においては、n型GaN基板101上に形成された窒化物半導体層にはクラックが全く発生しておらず、n型GaN基板101の表面に複数の溝(第一溝102aおよび第二溝102b)を形成した効果が確認された。また、発光領域104と最近接する第二溝102bから100μm離れた位置におけるp型層(p型Al0.3Ga0.7N第2クラッド層209、p型GaNガイド層210、p型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層211およびp型GaNコンタクト層212)の総層厚(設定:0.67μm)を第一溝102aおよび第二溝102bのストライプの方向に沿ってSEM(走査型電子顕微鏡)を用いた観察により数十点測定し、その標準偏差を求めたところ0.008μmと非常にばらつきが少なかった。
【0051】
一方、n型GaN基板101の表面に形成された溝の本数が1本であること以外は図6と同様の構成を有する窒化物半導体レーザ素子についても上記と同様にしてp型層の層厚を測定し、その標準偏差を求めたところ0.03μm程度となり、本発明の場合と比べて層厚のばらつきが大きいことが確認された。このように層厚のばらつきは、窒化物半導体レーザ素子の特性のばらつきに直結するだけでなく、発光領域である導波路を進行するレーザ光の散乱を引き起こし、レーザ光のロスが生じるので好ましくない。しかし、本発明のように溝が複数形成された窒化物半導体基板の表面の平坦領域の上方に発光領域を位置させた場合には、窒化物半導体層にクラックが発生するのを抑制することができるだけでなく、素子の特性も安定化させることができる。
【0052】
また、本発明においては、図7の模式的断面図に示すように、n型GaN基板101の表面上に3本の溝(第一溝102a、第二溝102bおよび第三溝102c)からなる溝群を形成してもよい。ここで、第一溝102aと第二溝102bとの間の間隔と、第二溝102bと第三溝102cとの間の間隔と、は同一であってもよく異なっていてもよい。また、これらの3本の溝の幅および深さも同一であってもよく、異なっていてもよい。たとえば、中央の第二溝102bの幅を広く、外側の第一溝102aおよび第三溝102cの幅を狭くすることができる。
【0053】
なお、上記においては、窒化物半導体レーザ素子の場合について説明したが、発光ダイオードのような発光素子においても発光領域の位置を窒化物半導体基板の表面の平坦領域の上方のみに制限することで本発明の効果が得られる。また、FET(Field-Effect Transistor;電界効果型トランジスタ)やHBT(Hetero-junction Bipolar Transistor;ヘテロ接合バイポーラトランジスタ)などの電子デバイスの能動領域を上記の発光領域と同様の位置に設置することによって本発明の効果が得られる。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、複数の溝が形成された窒化物半導体基板の表面の溝領域以外の平坦領域の上方に発光領域を位置させているので、長寿命であって信頼性に優れた窒化物半導体発光素子を提供することができる。また、このような構成の窒化物半導体発光素子はその製造歩留まりが良好である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に用いられる窒化物半導体基板の一例の模式的な平面図である。
【図2】本発明に用いられる窒化物半導体基板の表面に形成された1つの溝群の一例の模式的な拡大断面図である。
【図3】本発明における発光領域の位置を規定する方法の一例を図解する模式的な断面図である。
【図4】本発明における発光領域の位置を規定する方法の他の一例を図解する模式的な断面図である。
【図5】本発明の窒化物半導体レーザ素子が複数含まれているウエハの一部の一例の模式的な断面図である。
【図6】本発明の窒化物半導体レーザ素子の一例の模式的な断面図である。
【図7】本発明の窒化物半導体レーザ素子が複数含まれているウエハの一部の他の一例の模式的な断面図である。
【図8】従来において、エピタキシャル成長した窒化物半導体層に層厚のばらつきが生じている状況を図解するための模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0057】
101 n型GaN基板、102a 第一溝、102b 第二溝、103 窒化物半導体層、104 発光領域、105 平坦領域、106 溝領域、203 n型GaN層、204 n型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層、205 n型Al0.1Ga0.9N第2クラッド層、206 n型Al0.062Ga0.938N第3クラッド層、207 n型GaNガイド層、208 発光層、209 p型Al0.3Ga0.7N第2クラッド層、210 p型GaNガイド層、211 p型Al0.062Ga0.938N第1クラッド層、212 p型GaNコンタクト層、213 絶縁層、214 p電極、215 n電極、401 ウエハ、402 溝、403 領域、404 光導波路、405 モフォロジー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体基板と、前記窒化物半導体基板上に形成されたn型窒化物半導体層と発光層とp型窒化物半導体層とを含む窒化物半導体層と、を含み、前記窒化物半導体基板の表面は、複数の溝が形成されている溝領域と前記溝領域以外の平坦領域とを有しており、前記平坦領域の上方に前記発光層中の発光領域が位置していることを特徴とする、窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記複数の溝を構成するそれぞれの溝が互いに平行に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記複数の溝が、平行する2本以上4本以下の溝から構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記複数の溝を構成する隣り合う溝同士の間の間隔が1μm以上100μm未満であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記発光領域が前記窒化物半導体基板の表面における前記溝領域と前記平坦領域との境界から前記平坦領域側に20μm以上離れた領域の上方に位置していることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記窒化物半導体発光素子は窒化物半導体レーザ素子であって、前記発光領域が光導波路であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子を製造する方法であって、複数の溝が形成されている溝領域と前記溝領域以外の平坦領域とを有する窒化物半導体基板の表面上にn型窒化物半導体層と発光層とp型窒化物半導体層とを含む窒化物半導体層を形成する工程と、前記窒化物半導体基板の表面における前記平坦領域の上方に前記発光層中の発光領域を位置させる工程と、を含む、窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記複数の溝を構成するそれぞれの溝が互いに平行に形成されていることを特徴とする、請求項7に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記複数の溝が、平行する2本以上4本以下の溝から構成されていることを特徴とする、請求項8に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記複数の溝を構成する隣り合う溝同士の間の間隔が1μm以上100μm未満であることを特徴とする、請求項7から9のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記窒化物半導体基板の表面上における前記溝領域が形成される周期が100μm以上1000μm以下であることを特徴とする、請求項7から10のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記平坦領域の幅が200μm以上900μm以下であることを特徴とする、請求項7から10のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−66583(P2006−66583A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246467(P2004−246467)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】