説明

窒化物半導体発光素子および窒化物半導体発光素子の製造方法

【課題】窒化物半導体発光素子の高出力動作時における長期安定動作を実現させる。
【解決手段】窒化物半導体発光素子は、窒化物半導体の多層膜を備えている。窒化物半導体の多層膜は、基板上に設けられ、窒化物半導体結晶からなり、発光層を含んでいる。この窒化物半導体の多層膜には共振器の端面が形成されており、この端面の少なくとも一方には窒化アルミニウム結晶からなる保護膜が設けられている。保護膜は、保護膜が設けられている共振器の端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子および窒化物半導体発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスク装置用の光源として、各種の半導体レーザ素子が広範に利用されている。その中でも、窒化ガリウム(GaN)などのIII-V族窒化物半導体を使用した青紫色半導体レーザは、次世代高密度光ディスク(Blue-Ray-Disc)への光源として、赤色域および赤外域の光に比べ光ディスク上での集光スポット径を小さくする事が可能となる短波長域(400nm帯)を発振させることができるので、光ディスクの再生および記録密度の向上に有効であり、世の中に広まりつつあり、必要不可欠なものとなってきている。
【0003】
青紫色半導体レーザを使用した新規ディスクには、高密度化及び高速書き込みを可能とするために、信頼性の高い高出力青紫色半導体レーザが必要とされている。従来のCD(Compact Disc)およびDVD(Digital Versatile Disk)に使用するAlGaAs系またはAlGaInP系半導体レーザでは、共振器の端面の劣化および光学的損傷を防ぐために保護膜としてSiO2またはAl2O3等からなる誘電体膜を共振器の端面に形成している。
【0004】
しかしながら、GaN系レーザの場合、酸化物からなる端面保護膜を共振器の端面に形成すると、端面保護膜中の酸素が共振器の端面または密着層を酸化または劣化させる原因となる。
【0005】
そこで、GaN系レーザの端面保護膜に関しては、端面保護膜として窒化アルミニウムからなる層を設けることにより、共振器の端面から酸素を分離することができ、酸化による端面の劣化を改善することができるという試みが、例えば、特許文献1などに開示されている。
【0006】
また、端面保護膜をアルミニウムの窒化物結晶またはアルミニウムの酸窒化物結晶とすることで、アモルファス状の保護膜と比較して保護膜の結晶性を向上させることができ、酸素が保護膜中を透過することを抑制できるという試みが、例えば、特許文献2などに開示されている。
【特許文献1】特開2007-103814号公報
【特許文献2】特開2007-273951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
GaN系レーザ素子を高出力で安定して動作させるためには、共振器の端面での非発光再結合による光の吸収を低減し、且つ高光出力に耐えうる安定な端面保護膜を形成する必要がある。
【0008】
我々が検討を重ねた結果、共振器の端面と保護膜との界面に形成されるシリコン(Si)の凝集(パイルアップ)が、GaN系レーザ素子の高出力での安定動作に大きな影響を与え、このSi量を抑制することがGaN系レーザ素子の高信頼化を実現させるために非常に重要であることを見出した。また、上記Siパイルアップは、従来のGaAs系赤外及び赤色レーザ素子では顕著でなかったが、GaN系レーザ素子では顕著に出現することもわかった。この詳細な機構は不明であるが、GaN系レーザ素子の共振器の端面には窒素原子(N)が欠落して空孔のような点欠陥が形成されており、その点欠陥にSiが結合されやすいためにSiパイルアップが顕著になる可能性が推測される。
【0009】
しかしながら、従来の窒化物半導体発光素子は、以下のような課題を有していた。
【0010】
上記特許文献1に記載されている従来技術の窒化アルミニウム(AlN)からなる保護膜については、通常、保護膜内で窒化アルミニウムが色々な配向を有し、窒化アルミニウムの配向方位によっては酸素が透過しやすい面もあり、共振器の端面の劣化、及び光学的損傷を引き起こしやすい。
【0011】
同時に、共振器の端面とAlN膜(保護膜)との界面の清浄化が重要である。なぜならば、その端面と保護膜との界面にSi等の異物が付着する可能性があり、その界面に付着したSi等の異物が酸素と結合して光を吸収するSiOxを形成し、その結果、信頼性評価中に端面の劣化が進行する可能性がある。
【0012】
また、上記特許文献2に記載されている従来技術のアルミニウムの窒化物結晶(AlN)またはアルミニウムの酸窒化物結晶(AlON)からなる保護膜については、AlN層、及びAlON層と窒化物半導体結晶の光出射部とで結晶軸が揃っている。共振器の光出射端面における窒化物半導体結晶の結晶面はM面(101-0)であるため、保護膜の結晶面もM面となる。M面では、結晶を構成する原子間のボンド長が長く、粗い結晶構造である。よって、元素がM面を透過しやすく酸素も同様にM面を透過しやすいことから、共振器の端面の劣化、及び光学的損傷を引き起こしやすい。
【0013】
また、特許文献2では、特許文献1で示したように、共振器の端面と保護膜との界面にSi等の不純物が存在することにより、信頼性評価中に端面の劣化が進行する可能性がある。
【0014】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、目的とするところは、高出力動作での長期信頼性を保証し、高歩留まりで製造可能である窒化物半導体発光素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明における第1の窒化物半導体発光素子は、基板上に設けられ、窒化物半導体結晶からなり、発光層を含む窒化物半導体の多層膜を備えている。窒化物半導体の多層膜は、共振器の端面を有し、共振器の端面の少なくとも一方の端面上には、窒化アルミニウム結晶からなる保護膜が設けられている。保護膜は、保護膜が設けられている共振器の端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面を有している。
【0016】
このような構成とすることにより、保護膜を緻密な構造とすることができるので、信頼性試験中に酸素が保護膜内を透過することを抑制でき、共振器の端面における劣化を低減することが可能となる。
【0017】
本発明における第2の窒化物半導体発光素子は、基板上に設けられ、窒化物半導体結晶からなり、発光層を含む窒化物半導体の多層膜を備えている。窒化物半導体の多層膜は、共振器の端面を有し、共振器の端面の少なくとも一方の端面上には、窒化物結晶または酸窒化物結晶からなる保護膜が設けられている。保護膜上には、窒化アルミニウム結晶からなる第2の保護膜が設けられており、第2の保護膜は、第2の保護膜が設けられている共振器の端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面を有している。
【0018】
このような構成とすることにより、共振器の端面上に形成された保護膜のうち最表面の保護膜(第2の保護膜)を緻密な構造とすることができるので、第2の保護膜が酸素の透過を抑制するための膜として機能する。よって、酸化が第2の保護膜を透過して共振器の端面に到達することを抑制できるので、信頼性評価中における端面の劣化を防ぐことが可能となる。
【0019】
後述の好ましい実施形態では、本発明における第2の窒化物半導体発光素子における保護膜は、窒化アルミニウム結晶からなる。
【0020】
本発明における第3の窒化物半導体発光素子は、基板上に設けられ、窒化物半導体結晶からなり、発光層を含む窒化物半導体の多層膜を備えている。窒化物半導体の多層膜は、共振器の端面を有し、共振器の端面の少なくとも一方の端面上には、窒化アルミニウム結晶からなる保護膜を備えている。保護膜は、保護膜が設けられている共振器の端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに平行である結晶面と、窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面とを有している。
【0021】
このような構成とすることにより、保護膜の成膜条件のウインドウを広くすることができる。よって、保護膜を緻密な構造とすることにより酸素が保護膜を透過しにくくなるだけでなく、保護膜を安定して形成することができる。
【0022】
本発明における第1乃至第3の窒化物半導体発光素子では、保護膜と保護膜が設けられた共振器の端面との界面におけるシリコン量が1×1020atoms/cm3以下であることが好ましい。
【0023】
このような構成では、共振器の端面と保護膜との界面におけるシリコン量を抑制することができるので、光を吸収するSiOxの形成が抑制され、よって、信頼性評価中における端面の劣化を防ぐことが可能となる。
【0024】
共振器の端面と保護膜との界面におけるシリコンの量が1×1020atoms/cm3以下であるとき、二次イオン質量分析法を用いて界面におけるシリコン量を面積換算した場合には、界面におけるシリコン量が2×1014atoms/cm以下であることが好ましい。
【0025】
このような構成とすることにより、上述のように、共振器の端面と保護膜との界面におけるシリコン量を抑制することができるので、光を吸収するSiOxがその界面に形成されることを抑制でき、信頼性評価中における端面の劣化を防ぐことが可能となる。
【0026】
本発明における第1および第3の窒化物半導体発光素子では、保護膜上に、酸化物または酸窒化物を含む保護膜が設けられていることが好ましい。
【0027】
このような構成とすることにより、信頼性評価中において共振器の端面と保護膜との界面の劣化を抑制することができる。また、保護膜の設計自由度を向上させることができるので、保護膜の反射率を自由に調整することが可能となり、所望のデバイス特性を実現することが可能となる。
【0028】
同じく、本発明における第2の窒化物半導体発光素子では、第2の保護膜上に、酸化物または酸窒化物を含む保護膜を備えることが好ましい。
【0029】
このような構成とすることにより、信頼性評価中において共振器の端面と保護膜との界面の劣化を抑制することができる。また、保護膜の設計自由度を向上させることができるので、保護膜の反射率を自由に調整することが可能となり、所望のデバイス特性を実現することが可能となる。
【0030】
本発明における第1乃至第3の窒化物半導体発光素子における酸化物または酸窒化物を含む保護膜は、Al、Si、Zr、Ti、Ta、Ga、NbおよびHfのうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0031】
このような構成とすることにより、第2の保護膜に使用する誘電体材料を自由に選択することができ、その結果、共振器の端面の反射率を自由に調整することが可能となり、所望のデバイス特性を実現することが可能となる。
【0032】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、窒化物半導体結晶からなる窒化物半導体の多層膜に形成された共振器の端面の少なくとも一方の端面に、端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面を有し窒化アルミニウム結晶からなる保護膜が形成された窒化物半導体発光素子の製造方法であり、分圧が20%以上の窒素ガスを含むプラズマ雰囲気中で、共振器の端面のうちの少なくとも一方の端面に保護膜を形成する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の構造においては、窒化物半導体の多層膜に形成された共振器の端面における窒化物半導体結晶の結晶面(M面(101-0))と結晶軸が90度異なるC面(0001)を有する窒化アルミニウム結晶からなる膜を保護膜としている。ここで、C面では結晶を構成する原子間のボンド長が短いため、より緻密な保護膜を形成することが可能となり、信頼性試験中に共振器の端面と保護膜との界面を酸素が透過することを抑制できる。
【0034】
また、共振器の端面と保護膜との界面におけるシリコン濃度を低減させることができるので、共振器の端面と保護膜との界面に存在するシリコンがSiOxを形成することを抑制でき、その結果、界面での光の吸収を抑制できる。よって、共振器の端面の劣化、及び光学的損傷の発生を抑制することが可能となる。
【0035】
これらにより、高出力動作時の窒化物半導体発光素子の長期信頼性を大幅に改善させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。
【0037】
(発明の実施形態1)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら、説明を行う。
【0038】
図1は本発明の第1の実施形態における窒化物半導体発光素子の断面図(共振器方向に垂直な方向における断面図)である。
【0039】
本実施形態の窒化物半導体発光素子は、厚さが約80μm、n型不純物(Si)が約1x1018atoms/cm3ドープされたn型GaN基板10の表面上に設けられている。n型GaN基板10の表面上に、n型AlGaNクラッド層11(1.5μm, Si:5x1017)、n型GaN光ガイド層12(160nm, Si:5x1017)、InGaN多重量子井戸活性層13(ウエル層7nm/バリア層13nm)、InGaN光ガイド層14(60nm)、p型AlGaN光ガイド層15(Mg:1x1019)、p型AlGaNクラッド層16(0.5μm, Mg:1x1019)およびp型GaNコンタクト層17(0.1μm, Mg:1x1020)が順次設置されている。
【0040】
なお、上記括弧内において、(厚さ(単位がμmまたはnm)、不純物の材料;不純物濃度)または(厚さ(単位がnm))である。また、不純物の濃度の単位はatoms/cm3である。なお、括弧内の数値および不純物の材料は一例にすぎず本発明を限定するものではない。
【0041】
上記のうち、p型AlGaNクラッド層16の一部、及びp型GaNコンタクト層17は、共振器方向に沿って伸びるリッジストライプ形状に加工されている。リッジストライプの幅は例えば1.4μm程度であり、共振器長は例えば800μmであり、チップ幅は例えば200μmである。
【0042】
リッジストライプ部の上面には、p型GaNコンタクト層17と接するようにp側Pd/Ptコンタクト電極19が設けられている。また、リッジストライプ部以外においてp型AlGaNクラッド層16が表面に露出した部分の上面上に誘電体膜18が設けられており、p側Pd/Ptコンタクト電極19上、及び誘電体膜18上にp側Ti/Pt/Au配線電極20が設けられている。
【0043】
また、n型GaN基板10の裏面上に、n側Ti/Pt/Auコンタクト電極21が設けられている。
【0044】
以下、本実施形態で示した窒化物半導体発光素子の製造方法を説明する。
【0045】
窒化物半導体の多層膜(n型AlGaNクラッド層11、n型GaN光ガイド層12、InGaN多重量子井戸活性層13、InGaN光ガイド層14、p型AlGaN光ガイド層15、p型AlGaNクラッド層16およびp型GaNコンタクト層17)をn型GaN基板10の表面上に有機金属気相成長法(MOCVD;Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により結晶成長させる。
【0046】
次に、窒化物半導体の多層膜の上面上に、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)などによりリッジストライプ構造を形成するためののマスクとして使用するSiO2等の誘電体膜を形成し、フォトリソグラフィー法によりリッジストライプ部となる部分以外が開口されるようにその誘電体膜をフッ酸(HF)などにより除去する。リッジストライプ部となる部分に残った誘電体膜をマスクにして、例えばISM(Inductively Super Magneron)ドライエッチング装置などを用いてp型AlGaNクラッド層16を途中までエッチングし、リッジストライプ部を形成する。
【0047】
その後、マスクとして使用した誘電体膜を除去し、p型AlGaNクラッド層16の上面全体に例えばSiO2などで構成された誘電体膜を形成する。その後、フォトリソグラフィー法でリッジストライプ部のみが開口されるように誘電体膜をフッ酸(HF)などにより除去する。これにより、電流阻止層としての誘電体膜18が形成される。続いて、金属蒸着により、p側Pd/Ptコンタクト電極19を構成するPd/Ptをp型GaNコンタクト層17の上面上に形成し、その後リフトオフ法でリッジストライプ部以外の金属(Pd/Pt)を除去してp側Pd/Ptコンタクト電極19を形成する。誘電体膜18の上面上およびp側Pd/Ptコンタクト電極19の上面上に金属を蒸着させ、これにより、p側Ti/Pt/Au配線電極20が形成される。
【0048】
続いて、n型GaN基板10の裏側を研磨し、厚さが約80μmとなるまでn型GaN基板10を削った後、n型GaN基板10の裏面に金属を蒸着させ、n側Ti/Pt/Auコンタクト電極21を形成する。以上の工程で図1に示すような構造の窒化物半導体発光素子を作製することが可能となる。
【0049】
続いて、スクライブ装置、及びブレーキング装置などにより、n型GaN基板10の(101-0)面に沿って一次へき開を行い、本実施形態では800μmの共振器を形成する。この際に、粘着シート上に窒化物半導体発光素子を固定しさらに窒化物半導体発光素子の上面に保護シートを配置して窒化物半導体発光素子を保護し、窒化物半導体発光素子を一次へき開させる。このようにして窒化物半導体発光素子をへき開させると、窒化物半導体発光素子の共振器の端面は、一次へき開を実施する際に粘着シート及び保護シートで挟まれた雰囲気にさらされる可能性があり、へき開実施後に粘着シートまたは保護シートに触れる可能性があり、その結果、粘着シートまたは保護シートに含まれる成分が共振器の端面に付着するということが起こりうる。粘着シートまたは保護シートに含まれる成分としてはシロキサン系物質が考えられ、シロキサン系物質にはSiが含有されている。よって、一次へき開中または一次へき開後に粘着シートまたは保護シート中に存在するSiが共振器の端面に付着する虞があり、その結果、窒化物半導体発光素子の長期信頼性に大きな影響を与える虞がある。そのため、本実施形態では、粘着シートおよび保護シートとしてSiが含有されていないシートを採用して、窒化物半導体発光素子を一次へき開させている。
【0050】
続いて、一次へき開された窒化物半導体発光素子を含むレーザバーをECR(electron cyclotron resonance )装置に搬入し、真空排気した後、共振器の端面に誘電体膜からなる保護膜を形成する。
【0051】
図2に、ECR装置の断面構造図を示す。本装置は、ECRプラズマを発生させるプラズマ室104と、成膜室105と、ターゲット110と、プラズマ室104の周囲に設けられ磁場を形成するための磁気コイル112とを備えている。ターゲット110はRF電源113に接続されており、スパッタ量がRF電源113により制御可能である。本実施形態においては、ターゲット110には高純度のAlを使用している。マイクロ波導入口103からマイクロ波が導入され、さらにプラズマ室104には導入窓106を通じてマイクロ波が導入される。マイクロ波と磁気コイル112による磁場とにより、ECRプラズマが生成される。また、成膜室105は、排気口102を通じて真空排気され、さらにガス導入口101を通じてアルゴン(Ar)ガス、酸素(O2)ガス、及び窒素(N2)ガスが導入される。さらに、成膜室105内の試料台111の上には、共振器の端面にECRプラズマが照射されるようにレーザバーが配置される。プラズマ室104の内側は、ECRプラズマからプラズマ室104を保護する目的で石英からなる部材で覆われており、エンドプレート107、インナーチューブ108およびインナーチューブ108の上下に配置された窓プレート109などが石英から形成されている。
【0052】
保護膜を形成する前にArガスからなるプラズマクリーニング処理を実施することで、共振器の端面の清浄化処理を実施する方が好ましい。ECR装置において、ターゲット110にバイアスを印加しない状態でプラズマを照射するのみであればターゲット110がスパッタされない状態になるため、清浄化処理は、無バイアスの状態でプラズマを発生させることで実現可能となる。この清浄化処理は、Arガスのみでなく、ArガスとN2ガスとの混合ガスで実施しても良い。
【0053】
まず、共振器の出射端面上に保護膜を形成する方法を説明する。保護膜を形成する前に上述の清浄化処理(Arガスによるプラズマクリーニング処理)を実施し、その後、ArガスとN2ガスとを成膜室105に導入してプラズマを発生させ且つターゲット110にバイアスを印加することにより、共振器の端面30に保護膜31として窒化アルミニウム(AlN)膜を堆積させる。なお、本実施形態では、保護膜31として窒化アルミニウムを形成するのでターゲット110はAlであり、Alターゲット室で保護膜31を成膜する。
【0054】
この際に、図4に示すようにN2分圧が高い状態で保護膜31を形成することで、成膜レートの低減を実現できる。成膜レートを低減させることで、共振器の端面の結晶軸の状態が反映されることなく保護膜31を形成することができる。これにより、保護膜31を形成する際には窒化アルミニウム結晶が成長しやすい結晶軸での成長モードが支配的になるので、共振器の端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が90度異なるC軸(0001)方向に配向した結晶膜(保護膜31)を得ることができる。よって、共振器の出射端面上には、より緻密な保護膜31を形成することができる。このように保護膜31がC軸に配向された窒化アルミニウム結晶膜であるので、窒化アルミニウム結晶を構成する原子間のボンド長が短くなり、保護膜31が緻密となる。従って、信頼性試験中において共振器の端面と保護膜31との界面を酸素が透過することを抑制することが可能となる。
【0055】
また同時に、N2分圧が高いすなわちAr分圧が低い条件で保護膜31を形成するので、プラズマ室104内のArガスによるプラズマダメージが抑制され、石英からなる部材(エンドプレート107、インナーチューブ108および窓プレート109)のエッチングによる磨耗を抑制することが可能となる。その理由としては、Arの質量が比較的大きいためAr分圧が高ければ石英からなる部材がプラズマにさらされてエッチングされるが、Ar分圧が低ければ石英からなる部材がエッチングされること(またはArによるエッチング量)を抑制できるからである。その結果、プラズマクリーニング中に石英からなる部材の主成分であるSi、及びOが共振器の端面上に付着することを抑制できる。この共振器の端面におけるSi濃度を低減することで、その端面でのSiOxの形成によるレーザ光の吸収を抑制でき、よって、共振器の端面での発熱、及び端面劣化の誘発を抑制することが可能となる。
【0056】
なお、ArとN2の混合ガスの窒素分圧としては、図4から、20%以上に設定することが好ましい。
【0057】
窒化アルミニウム結晶からなる保護膜31を形成した後に、保護膜32(酸化物または酸窒化物を含む保護膜)として酸化アルミニウム(Al2O3)膜を保護膜31上に堆積する。共振器の出射端面における反射率は上記保護膜31および保護膜32の膜厚の調整により制御可能であり、本実施形態ではレーザ光に対する反射率を18%とした。
【0058】
なお、本実施形態では、共振器の出射端面上に保護膜31および保護膜32を順に形成したが、反射率が18%となるように膜厚を設定すれば保護膜31のみで光出射端面上に形成された保護膜としても上記効果を実現可能である。また、同様に反射率を18%とする膜厚に設定すれば、保護膜32は酸化アルミニウム膜だけでなく、酸化ニオブ(Nb2O5)膜、二酸化ジルコニウム(ZrO2)膜または二酸化珪素(SiO2)膜などであっても問題はない。また、保護膜32は、Ti、Ta、GaもしくはHfの酸化物または酸窒化物からなる膜であってもよい。
【0059】
次に、共振器の反射端面上に反射膜を形成する方法を説明する。光出射端面上に保護膜31を形成する場合と同様に、共振器の反射端面の清浄化処理を実施した後、ArガスとO2ガスとを成膜室105に導入して第1膜である例えばAl2O3膜を共振器の反射端面上に堆積させる。引き続き、成膜室を変更し、SiO2、及びZrO2の多層膜にて構成される反射膜を形成する。Al2O3膜、SiO2膜及びZrO2膜の各膜厚を調整することで、レーザ光に対する反射率を90%以上とする。
【0060】
続いて、レーザバーを二次へき開させることで、レーザチップを得ることができる。
【0061】
次に、実装工程について説明する。上述したレーザチップを、半田のついた例えばAlNまたはSiCで形成されたサブマウントに実装させた後にステムに実装させる。続いて、電流供給のためのAuワイヤーを、p側Ti/Pt/Au配線電極20と、n側Ti/Pt/Auコンタクト電極21に接続されるサブマウントの配線電極とに接続する。最後に、レーザチップを外気と遮断させるために、レーザ光を取出すための窓が付いたキャップをレーザチップに融着させる。
【0062】
本実施形態において作成された窒化物半導体発光素子を室温で動作させたところ、閾値電流が30mAであり、スロープ効率が1.5W/Aであり、発振波長が405nmであり、連続発振した。また、高温且つ高出力条件(70℃、160mW)でCW(Continuous Wave)駆動により窒化物半導体発光素子の信頼性試験を実施したところ、1000時間以上の安定動作が可能であった。
【0063】
次に、本実施形態で製造された窒化物半導体発光素子のSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry )を実施した。なお、SIMSを実施する際には、窒化物半導体発光素子からキャップを外し、共振器の出射端面を保護膜31、保護膜32の表面から分析した。分析結果を図5に示す。分析結果に示すように、共振器の端面と保護膜31との界面にSiのパイルアップが確認された。Siパイルアップはその界面で最大となっており、その最大値は8x1019atoms/cm3であった。また、共振器の端面と保護膜31との界面でのSi系物質による光の吸収度合いを考えた場合、Si量の体積割合も重要であり、SIMSの分析結果を数値解析することで面積換算ができ、本実施形態ではSi量の体積割合は1.2x1014cm-2程度となった。
【0064】
このようなSiパイルアップはレーザ光の吸収媒体になるため、COD(Catastrophic Optical Damage)レベル、特に信頼性評価中のCODレベル低下に大きな影響を及ぼすことがわかっており、Si量は、最大値で1x1020atoms/cm3であり、面積換算で2x1014cm-2以下である必要がある。
【0065】
以上、共振器の出射端面上に、保護膜31として、窒化アルミニウム結晶からなり、且つ、共振器の端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が90度異なる結晶面を有する膜を形成すると、その保護膜31では、結晶構造を構成する原子間のボンド長さが短く且つ緻密である。よって、信頼性試験中に、共振器の端面と保護膜31との界面を酸素が透過することを抑制することが可能となった。また、同時に共振器の端面と保護膜31との界面におけるSi濃度を低減することが可能であることから、CODレベルの向上、及び信頼性評価中のCODレベル低下を抑制でき、高出力レーザにおいて重要な課題であるCODレベル改善に大きく寄与することが明確になり、窒化物半導体発光素子の信頼性及び耐久性を飛躍的に向上することが可能となった。
【0066】
(発明の実施形態2)
以下、本発明の第2の実施形態について図3を参照しながら、説明を行う。
【0067】
本実施形態は、一次へき開後に共振器の出射端面上に保護膜を形成する方法のみが実施形態1と異なる。以下では、実施形態1とは異なる内容を主に説明する。
【0068】
共振器の出射端面上に保護膜を形成する方法を説明する。保護膜を形成する前に共振器の出射端面に対して清浄化処理を実施し、その後、ArガスとN2ガスとを成膜室105に導入してプラズマを発生させ且つターゲット110にバイアスを印加することにより、共振器の端面30に保護膜31として窒化アルミニウム(AlN)膜を堆積する。なお、本実施形態では、保護膜31として窒化アルミニウムを形成するのでターゲット110はAlであり、また、Alターゲット室内で保護膜31を形成する。
【0069】
この際に、図4に示すようにN2分圧が高い状態で保護膜31を形成することで、成膜レートの低減を実現できる。成膜レートを低減させることで、共振器の端面の結晶軸の状態が反映されることなく保護膜31を形成することができる。これにより、保護膜31を形成する際には窒化アルミニウム結晶が成長しやすい結晶軸での成長モードが支配的になるので、共振器の端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が90度異なるC軸(0001)方向に配向した結晶膜(保護膜31)を得ることができる。よって、共振器の出射端面上には、結晶を構成する原子間のボンド長が短く、且つ、より緻密な保護膜31を形成することができる。このように光出射端面上に形成する保護膜をC軸に配向された緻密な窒化アルミニウム結晶膜とすることにより、信頼性試験中において共振器の端面と保護膜31との界面を酸素が透過することを抑制することが可能となる。
【0070】
また同時に、N2分圧が高いすなわちAr分圧が低い条件で保護膜31を形成するので、プラズマ室104内のArガスによるプラズマダメージが抑制され、石英からなる部材(エンドプレート107、インナーチューブ108および窓プレート109)のエッチングによる磨耗を抑制することが可能となる。その理由としては、Arの質量が比較的大きいためAr分圧が高ければ石英からなる部材がプラズマにさらされてエッチングされるが、Ar分圧が低ければ石英からなる部材がエッチングされること(またはArによるエッチング量)を抑制できるからである。その結果、プラズマクリーニング中に石英からなる部材の主成分であるSi、及びOが共振器の端面上に付着することを抑制できる。この共振器の端面におけるSi濃度を低減することで、その端面でのSiOxの形成によるレーザ光の吸収を抑制でき、よって、共振器の端面での発熱、及び端面劣化の誘発を抑制することが可能となる。同時に、共振器の端面においてSi濃度を低減させることができるので、共振器の端面での清浄度を高めることができる、すなわち共振器の端面に不純物が付着することを抑制することが可能となるので、配向された結晶膜を共振器の端面に作製しやすくなり、その結果、共振器の端面と保護膜31との界面を酸素が透過することを抑制することが可能となる。
【0071】
なお、ArとN2の混合ガスの窒素分圧としては、図4から、20%以上に設定することが好ましい。
【0072】
窒化アルミニウムからなる保護膜31を形成した後に、保護膜32(酸化物または酸窒化物を含む保護膜)として酸窒化アルミニウム(AlON)膜を保護膜31上に堆積する。共振器の出射端面における反射率は上記保護膜31および保護膜32の膜厚の調整により制御可能であり、本実施形態ではレーザ光に対する反射率を18%とした。
【0073】
なお、本実施形態では、共振器の出射端面上に保護膜31および保護膜32を順に形成したが、反射率が18%となるように膜厚を設定すれば保護膜31のみで光出射端面上に形成された保護膜としても上記効果を実現可能である。また、同様に反射率を18%とする膜厚に設定すれば、保護膜32は酸窒化アルミニウム膜だけでなく、酸化ニオブ(Nb2O5)、ZrO2、SiO2などであっても問題はない。また、保護膜32は、Ti、Ta、GaもしくはHfの酸化物または酸窒化物からなる膜であってもよい。
【0074】
(発明の実施形態3)
以下、本発明の第3の実施形態について図6を参照しながら、説明を行う。
【0075】
本実施形態は、一次へき開後に共振器の出射端面上に保護膜を形成する方法のみが実施形態1と異なる。以下では、実施形態1とは異なる内容を主に説明する。
【0076】
共振器の出射端面上に保護膜を形成する方法を説明する。保護膜を形成する前に共振器の出射端面に対して清浄化処理を実施し、その後、ArガスとN2ガスとを成膜室105に導入してプラズマを発生させ且つターゲット110にバイアスを印加することにより、共振器の端面30に保護膜33として窒化アルミニウム(AlN)膜を堆積させる。なお、本実施形態では、保護膜33として窒化アルミニウム膜を形成するのでターゲット110はAlであり、また、Alターゲット室内で保護膜33を形成する。
【0077】
また、保護膜33は、酸窒化アルミニウム(AlON)膜でもよい。保護膜33がAlON膜であれば、保護膜33として窒化膜を用いる場合に比べて応力が小さくなるため、保護膜33をより分厚く形成することができる。よって、設計の自由度が向上するため好ましい。
【0078】
続いて、第2の保護膜34として同様に窒化アルミニウム(AlN)膜を保護膜33上に堆積させる。第2の保護膜34を形成する際に、図4に示すようにN2分圧が高いプラズマを用いて第2の保護膜34を保護膜33上に堆積させれば、成膜レートの低減を実現できる。
【0079】
成膜レートを低減させることで、共振器の出射端面を構成する結晶面の結晶軸の状態が第2の保護膜34には反映されず、よって、窒化アルミニウム膜が成長しやすい結晶軸での成長モードが支配的になることにより、共振器の出射端面を構成する結晶面とは結晶軸が90度異なるC軸(0001)方向に配向した結晶膜(第2の保護膜34)を得ることができる。これにより、第2の保護膜34を構成する原子間のボンド長が短く、より緻密な第2の保護膜34を形成することができる。
【0080】
第2の保護膜34をC軸に配向された窒化アルミニウム結晶からなる膜とすることにより、第2の保護膜34を緻密な膜にすることができるので、信頼性試験中に酸素が第2の保護膜34を透過することを抑制することができる。また、第2の保護膜34を緻密な膜とすることで、共振器の出射端面からより離れた位置において酸素の透過を抑制できるので、素子間による信頼性評価中のCODレベル低下のばらつきを低減でき、安定した信頼性を実現することが可能となる。
【0081】
最後に、保護膜(酸化物または酸窒化物を含む保護膜)35として酸化アルミニウム(Al2O3)膜を第2の保護膜34上に堆積させる。共振器の出射端面における反射率は上記保護膜33、第2の保護膜34および保護膜35の膜厚を調整することにより制御することが可能であり、本実施形態では、レーザ光に対する反射率が18%となるようにこれらの保護膜の膜厚を調整している。
【0082】
なお、本実施形態では、保護膜33、第2の保護膜34および保護膜35を形成して共振器の出射端面上に形成する保護膜としたが、反射率が18%となるように保護膜の膜厚を設定すれば、保護膜33および第2の保護膜34のみで共振器の出射端面上に形成する保護膜を構成しても上記効果を得ることができる。また、同様に反射率が18%となるように保護膜の膜厚を設定すれば、保護膜35は酸化アルミニウム膜だけでなく、酸窒化アルミニウム(AlON)膜、酸化ニオブ(Nb2O5)膜、ZrO2膜またはSiO2膜などであっても問題はない。また、保護膜35は、Ti、Ta、GaもしくはHfの酸化物または酸窒化物からなる膜であってもよい。さらに、第2の保護膜34は、窒化アルミニウム結晶からなる膜に限定されず、窒化物結晶または酸素窒化物結晶からなる膜であってもよい。
【0083】
(発明の実施形態4)
以下、本発明の第4の実施形態について図3を参照しながら、説明を行う。
【0084】
本実施形態は、一次へき開後の共振器の出射端面上に保護膜を形成する工程のみが実施形態1とは異なる。
【0085】
まず、共振器の出射端面上に保護膜を形成する方法について説明する。共振器の出射端面上に保護膜を形成する前に清浄化処理を実施し、その後、ArガスとN2ガスとを成膜室105に導入してプラズマを発生させ且つターゲット110にバイアスを印加することにより、共振器の端面30に保護膜31として窒化アルミニウム(AlN)膜を堆積させる。なお、本実施形態では、保護膜31として窒化アルミニウムを形成するのでターゲット110はAlであり、Alターゲット室で保護膜31を共振器の出射端面上に形成する。
【0086】
ここで、本実施形態では、保護膜31の成膜レートは上記実施形態1から3よりも速い。このように高速の成膜レートで保護膜31を形成すると、結晶軸が混在した状態の窒化アルミニウム結晶の膜を形成することが可能である。また、保護膜31の成膜中にN2分圧を変更することにより、窒化アルミニウム結晶の配向をコントロールすることも可能である。例えば、共振器の端面付近では速い成膜レートで混在した窒化アルミニウム結晶の膜を作製し、共振器の端面から離れた位置では遅い成膜レートで共振器の端面を構成する結晶面とは結晶軸が90度異なるC軸(0001)方向に窒化アルミニウム結晶が配向した緻密な結晶膜を作製する。これにより、共振器の端面から離れた位置で酸素が絶縁膜を透過することを抑制できるので、素子間による信頼性評価中のCODレベル低下のばらつきを低減でき、安定した信頼性を実現することが可能となる。
【0087】
なお、ArガスとN2ガスとの混合ガスの窒素分圧としては、5%から15%程度に設定することで結晶軸が混在した保護膜31を形成することが可能となり、20%以上に設定することで共振器の端面とは結晶軸が90度異なる保護膜31を実現することが可能となる。
【0088】
共振器の出射端面上に窒化アルミニウム結晶からなる保護膜31を形成した後、保護膜32(酸化物または酸窒化物を含む保護膜)として酸化アルミニウム(Al2O3)膜を保護膜31上に堆積させる。共振器の出射端面での端面反射率は上記保護膜31および保護膜32の膜厚を調整することにより制御され、本実施形態では、レーザ光に対する反射率が18%となるように上記保護膜31および保護膜32の膜厚を調整すればよい。
【0089】
なお、本実施例では、保護膜31および保護膜32を形成して共振器の出射端面上に形成するとしたが、その出射面での反射率が18%となるように保護膜の膜厚を設定すれば、保護膜31のみを共振器の出射端面上に形成しても良い。また、同様に共振器の出射端面における反射率が18%となるように保護膜の膜厚を設定すれば、保護膜32は酸化アルミニウム膜だけでなく、酸窒化アルミニウム(AlON)、酸化ニオブ(Nb2O5)、ZrO2またはSiO2などであっても問題はない。また、保護膜32は、Ti、Ta、GaもしくはHfの酸化物または酸窒化物からなる膜であってもよい。
【0090】
なお、上記実施形態1から実施形態4に関して以下のことが言える。
【0091】
p側Pd/Ptコンタクト電極19は、窒化物半導体発光素子を動作させるための電圧を低減させるために、p型GaNコンタクト層17とのコンタクト抵抗を低減でき、またp型GaNコンタクト層17との密着性に良好な材料からなる電極が設けられていることが好ましい。本実施形態では、p側コンタクト電極としては、p側Pd/Ptコンタクト電極19としているが、Ni/Au、Ni/Pt/Au、Pd、Pd/MoまたはPd/Au等からなるp側コンタクト電極としても、p型GaNコンタクト層17とのコンタクト抵抗を低減でき、またp型GaNコンタクト層17との密着性を良好にすることができる。
【0092】
また、上記実施形態1から実施形態4では、基板としてn型GaN基板の例を示したが、他の材料からなる基板、例えばサファイア基板、サファイア基板上にELOG(Epitaxial Lateral Over Growth)もしくはABLEG(Air Bridge Lateral Epitaxial Growth)を行った低転位基板、GaN基板上にELOGを行った低転位基板、レーザリフトオフによりサファイアが除去されたGaNテンプレート基板、SiC基板、Si基板、GaAs基板、InP基板、NGO(NbGaO3)からなる基板、または、LGO(LiGaO3)からなる基板などを用いても同様の効果を得ることができる。
【0093】
また、上記実施形態1から実施形態4では、窒化物半導体からなる発光素子を例にとって説明したが、他の材料からなる発光素子、例えばAlGaInP系、AlGaAs系またはInGaAsP系の半導体発光素子にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の窒化物半導体発光素子は、共振器の端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面と結晶軸が互いに90度異なる結晶面を有し、窒化アルミニウム結晶からなる端面保護膜を備えており、この端面保護膜を構成原子間のボンド長さが短く且つ緻密な膜とすることができる。よって、信頼性試験中に共振器の端面と端面保護膜との界面を酸素が透過することを抑制できる。これにより、共振器の端面の劣化、及び光学的損傷の発生を抑制することができるため、安定した高出力特性を有する窒化物半導体発光素子を実現することが可能となり、光ピックアップ光源を中心とする窒化物半導体発光素子として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1〜第3の実施形態における窒化物半導体発光素子の断面図であり、共振器方向に垂直な方向における窒化物半導体発光素子の断面図
【図2】ECRスパッタ装置の断面図
【図3】本発明の第1、第2および第4の実施形態における窒化物半導体発光素子の断面図であり、共振器方向に平行な方向における窒化物半導体発光素子の断面図
【図4】本発明の第1〜第4の実施形態におけるN2分圧と成膜レートとの相関図
【図5】本発明の第1の実施形態におけるSIMSの分析結果図
【図6】本発明の第3の実施形態における窒化物半導体発光素子の断面図であり、共振器方向に平行な方向における窒化物半導体発光素子の断面図
【符号の説明】
【0096】
10 n型GaN基板
11 n型AlGaNクラッド層
12 n型GaN光ガイド層
13 InGaNMQW活性層
14 InGaN光ガイド層
15 p型AlGaN光ガイド層
16 p型AlGaNクラッド層
17 p型GaNコンタクト層
18 誘電体膜
19 p側Pd/Ptコンタクト電極
20 p側Ti/Pt/Au配線電極
21 n側Ti/Pt/Auコンタクト電極
30 共振器端面
31 窒化アルミニウム第1保護膜(保護膜)
32 酸化アルミニウム第2保護膜(酸化物または酸窒化物を含む保護膜)
33 窒化アルミニウム第1保護膜(保護膜)
34 窒化アルミニウム第2保護膜(第2の保護膜)
35 酸化アルミニウム第3保護膜(酸化物または酸窒化物を含む保護膜)
101 ガス導入口
102 排気口
103 マイクロ波導入口
104 プラズマ室
105 成膜室
106 導入窓
107 エンドプレート
108 インナーチューブ
109 窓プレート
110 ターゲット
111 試料台
112 磁気コイル
113 RF電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられ、窒化物半導体結晶からなり、発光層を含む窒化物半導体の多層膜を備えた窒化物半導体発光素子であって、
前記窒化物半導体の多層膜は、共振器の端面を有し、
前記共振器の前記端面の少なくとも一方の端面上には、窒化アルミニウム結晶からなる保護膜が設けられており、
前記保護膜は、前記保護膜が設けられている前記共振器の前記端面を構成する前記窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面を有していることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
基板上に設けられ、窒化物半導体結晶からなり、発光層を含む窒化物半導体の多層膜を備えた窒化物半導体発光素子であって、
前記窒化物半導体の多層膜は、共振器の端面を有し、
前記共振器の前記端面の少なくとも一方の端面上には、窒化物結晶または酸窒化物結晶からなる保護膜が設けられており、
前記保護膜上には、窒化アルミニウム結晶からなる第2の保護膜が設けられており、
前記第2の保護膜は、前記第2の保護膜が設けられている前記共振器の前記端面を構成する前記窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面を有していることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記保護膜は、窒化アルミニウム結晶からなることを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
基板上に設けられ、窒化物半導体結晶からなり、発光層を含む窒化物半導体の多層膜を備えた窒化物半導体発光素子であって、
前記窒化物半導体の多層膜は、共振器の端面を有し、
前記共振器の前記端面の少なくとも一方の端面上には、窒化アルミニウム結晶からなる保護膜を備え、
前記保護膜は、前記保護膜が設けられている前記共振器の前記端面を構成する窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに平行である結晶面と、前記窒化物半導体結晶の前記結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面とを有していることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記保護膜と前記保護膜が設けられた前記共振器の前記端面との界面におけるシリコン量が1×1020atoms/cm3以下であることを特徴とする請求項1から4の何れか一つに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
二次イオン質量分析法を用いて前記界面におけるシリコン量を面積換算した場合には、前記界面における前記シリコン量が2×1014atoms/cm以下であることを特徴とする請求項5に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記保護膜上に、酸化物または酸窒化物を含む保護膜が設けられていることを特徴とする請求項1または4に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
前記第2の保護膜上に、酸化物または酸窒化物を含む保護膜を備えることを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
前記酸化物または酸窒化物を含む保護膜は、Al、Si、Zr、Ti、Ta、Ga、NbおよびHfのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項7または8に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
窒化物半導体結晶からなる窒化物半導体の多層膜に形成された共振器の端面の少なくとも一方の端面に、前記端面を構成する前記窒化物半導体結晶の結晶面とは結晶軸が互いに90度をなす結晶面を有し窒化アルミニウム結晶からなる保護膜が形成された窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
分圧が20%以上の窒素ガスを含むプラズマ雰囲気中で、前記共振器の前記端面のうちの少なくとも前記一方の端面に前記保護膜を形成することを特徴とする窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−231470(P2009−231470A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73911(P2008−73911)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】