説明

窒素酸化物浄化触媒及び窒素酸化物除去方法

【課題】
窒素酸化物を含む排ガスより窒素酸化物を除去する窒素酸化物浄化触媒の、排ガス中に含まれるリン化合物による触媒の被毒を防止する。耐久性の優れた排ガス浄化触媒および排ガス浄化方法を提供する。
【解決手段】
窒素酸化物及びリン化合物を含有する排ガスのリン化合物をトラップするトラップ材と窒素酸化物浄化触媒を組み合わせた排ガス浄化触媒を用いることにより、窒素酸化物浄化触媒の上流側で排ガス中のリン化合物除去する排ガス浄化方法が好ましい。さらに、排ガス浄化触媒に用いられるトラップ材に関しては、メソ多孔体の内部に金属酸化物が担持されており、メソ多孔体は窒素吸着温線測定法により計測される総細孔容積に対して5〜10nmの細孔容積の合計が50%以上であり、かつ金属酸化物の等電点は3より大きいことが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物とリン化合物を含有する排ガスから、窒素酸化物を除去するための触媒と、その触媒を用いた窒素酸化物浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中の窒素酸化物(NOx)をアンモニア(NH3)で還元して除去する方法はシステムが簡単で効率が良いため、ボイラ燃焼排ガスをはじめとする各種固定発生源排ガスの脱硝プロセスの主流となっている。このプロセスにはNOxとNH3との反応を促進するための脱硝触媒が必要である。
【0003】
一方、近年では、鉱物質を多く含有する低品位石炭や低品位原油が燃料に用いられる傾向にある。このような低品位石炭や低品位原油を燃焼した場合には、鉱物質から主に生成する揮発性の金属化合物、特にセレン,テルル,タリウム,ヒ素などの酸化物が排ガスに含まれるようになり、これら酸化物による触媒の被毒が問題となる。
【0004】
また、低品位石炭は燃焼性が悪く灰中の未燃分が多いため、このような低品位石炭を用いる場合には、ボイラに灰を戻して再燃焼させる方式が採られることが多い。しかし、この方式では、ボイラで飛散した上記の触媒毒物質は、排ガス温度の低下にともないフライアッシュに析出し、灰がボイラに戻されてリサイクルされることにより排ガス中に再飛散することになる。そのため、排ガス中の触媒毒物質の濃度が、本来の燃料中の含有量から予測される値よりも高くなり、触媒の劣化が一段と進み易くなるという問題がある。
【0005】
排ガスに含まれる揮発性の金属化合物、特にセレン,テルル,タリウム,ヒ素などの酸化物の被毒による触媒の劣化を防止するために、平均細孔径が8Å以下でシリカ/アルミナ比が10以上のゼオライトと、酸化チタンを混合し、さらに銅,モリブデン,タングステン,バナジウム,鉄から選ばれる1種以上の元素を酸化チタンの部分に比べ、ゼオライトの部分に高濃度で存在させた触媒を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、排ガス中に含まれるヒ素化合物により脱硝触媒が被毒されるのを防止するために、細孔径が3.6〜5.8Åである担体に活性成分を担持した触媒とすることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−12350号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭63−51948号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近では、燃料にPを含有する石炭も使用されるようになった。この場合、石炭燃焼排ガスにリン化合物が含まれるので、リン化合物による触媒の被毒防止が必要になる。特許文献1及び2は、リン化合物による触媒の被毒防止については考慮されていない。
【0008】
また、ボイラの窒素酸化物排出規制の強化にともない、空燃比調整によってボイラでの窒素酸化物の生成を低減する試みが行われている。この場合、ボイラの燃焼温度が増加するので、排ガス中のリン化合物濃度は従来よりも増加することが予測される。
【0009】
本発明の目的は、排ガス中に含まれるリン化合物による触媒の被毒を防止できる、耐久性の優れた窒素酸化物浄化触媒および窒素酸化物除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決する排ガス浄化触媒及び排ガス浄化方法について鋭意検討した結果、排ガスが窒素酸化物浄化触媒に接触する前に排ガス中のリン化合物除去する排ガス浄化方法が好ましいことを見出した。そして、細孔径が制御されたナノ多孔体と、ナノ多孔体の細孔内部にリン化合物をトラップするための酸化物が担持された、トラップ材と窒素酸化物を除去するための活性成分を有する窒素酸化物浄化触媒を組み合わせた排ガス浄化触媒を見出した。
【0011】
本発明は、窒素酸化物及びリン化合物を含有する排ガスのリン化合物をトラップするトラップ材と窒素酸化物浄化触媒を組み合わせた排ガス浄化触媒であって、トラップ材はメソ多孔体の内部に酸化物が担持されており、メソ多孔体は窒素吸着温線測定法により計測される総細孔容積に対して5〜10nmの細孔容積の合計が50%以上であり、かつ酸化物は等電点が3より大きい、ことを特徴とする。
【0012】
金属酸化物の等電点が3より大きいことにより、リン化合物はメソ多孔体の細孔内部より入口付近にトラップされる。さらに、メソ多孔体の細孔径が5nmより大きいことにより、トラップされたリン化合物が原因による細孔閉塞を免れることができる。即ち、リン化合物によりインク壺型の細孔(図1)が形成される。
【0013】
従って、リン化合物のメソ多孔体内部への拡散が防止され、かつ排ガス中の窒素酸化物はメソ多孔体内部へ拡散できる。
【0014】
以上のことから、トラップ材の細孔内部に窒素酸化物浄化触媒成分が含まれている場合(図2)、リン化合物による窒素酸化物浄化触媒成分の被毒を回避しつつ、高い窒素酸化物浄化性能を維持することが可能である。
【0015】
また、排ガス浄化触媒の構造として、排ガスがトラップ材,窒素酸化物浄化触媒の順に接触することが好ましい。
【0016】
例えば、窒素酸化物浄化触媒の上層にトラップ材を配置させた2層構造とする。また、
トラップ材を窒素酸化物浄化触媒粒子の外部に配置させた2重構造(図3)とする。さらに、窒素酸化物の上流側にトラップ材を配置した2段配置構造とする。
【0017】
いずれの構造においても、排ガス中のリン化合物はトラップ材にてトラップされ、窒素酸化物はナノ多孔体の細孔を通過して窒素酸化物浄化触媒に到達する。なお、トラップ材のナノ多孔体の細孔がリン化合物をトラップして閉塞されると、2層構造及び2重構造内部の窒素酸化物浄化触媒と、2段配置構造後流の窒素酸化物浄化触媒への窒素酸化物の到達が著しく抑制されるため好ましくない。
【0018】
なお、一般的にゼオライトの場合、細孔径は1nm未満であり、比表面積は300〜600m2/gであるのに対し、メソ多孔体の場合には、2〜50nmの細孔径を有しており、また比表面積は数百〜1000m2/gであることから、ゼオライトに代る新材料として期待されていると、報告されている((社)日本セラミックス協会編集,環境調和型材料シリーズ 触媒材料,日刊工業新聞社発行、(2007)p188−200)。
【0019】
窒素吸着等温線法による総細孔容積は以下の方法で得る。
【0020】
液体窒素温度における窒素の吸着等温線を測定し、BJH(Barrett, Joyner, Halenda)法を適用して細孔分布を得る。この細孔分布は細孔径に対する細孔容積をプロットしたものである。次に、2〜50nmの細孔径範囲における細孔容積の総量と5〜10nmの細孔径範囲における細孔容積の総量を各々算出する。
【0021】
本発明におけるナノ多孔体の場合、5〜10nmの細孔径範囲における細孔容積の総量の割合は2〜50nmの総細孔容積に対して50%以上であることが好ましい。一方、5〜10nmの細孔径範囲における細孔容積の総量の割合が2〜10nmの総細孔容積に対して50%未満となると、リン化合物をトラップした時に細孔閉塞が顕著となり好ましくない。
【0022】
特に、7〜10nmの細孔径範囲における細孔容積の総量の割合は2〜10nmの総細孔容積に対して50%以上であることが好適である。
【0023】
メソ多孔体の内部には等電点が3より大きい酸化物が含有されている。等電点には、触媒の辞典(小野嘉夫,御薗生誠,諸岡良彦編集、朝倉書店(2000)p411−412)において、下記のように定義されている。
【0024】
金属酸化物と「水との接触に伴う水和反応によって、金属酸化物の表面は水酸化される。pHが低い領域では、プロトンにより金属酸化物表面は正に帯電する。一方、pHが高い領域では、金属酸化物表面の水酸基が脱プロトン化されることで、表面は負に帯電する。この固体表面の帯電が0となるpHを等電点という。(中略)等電点は金属酸化物の種類によって大きく異なる。」
また、等電点の測定法として電気泳動法がある。即ち、水溶液中の金属酸化物の移動速度を種々のpHにおいて測定し、移動速度が0となるときのpHを求めることで等電点が得られる。
【0025】
排ガス中のリン化合物は、等電点が1付近のリン酸として存在していると考えられている。
【0026】
従って、メソ多孔体の内部に含有する酸化物の等電点が3以下の場合には、リン化合物と金属酸化物との等電点の差が小さいため、リン化合物はメソ孔担体の内部に拡散すると考えられる。
【0027】
一方、メソ多孔体の内部に含有する酸化物の等電点が3より大きくなると、リン化合物は酸化物に吸着されやすくなり、リン化合物はメソ孔担体の入り口付近にトラップされやすくなると考えられる。
【0028】
等電点が3より大きい金属酸化物として、U,Mn,Sn,Ti,Fe,Zr,Ce,Al,Y,Zn,La,Mgから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物がある。
【0029】
例えば、触媒の辞典(小野嘉夫,御薗生誠,諸岡良彦編集、朝倉書店(2000)p411−412)では、UO2:4.7〜6.7(等電点),ZrO2:4〜11,α−Al23:9.1〜9.5,γ−Al23:7.4〜8.6,ZnO:8.2〜9.7,MgO:12.4、と記載されている。さらに、化学総説 No.34 触媒設計(学会出版センター、昭和57年、p33)において、MnO2:3.9〜4.5,SnO2:5.5,TiO2:4.7〜6.7,γ−Fe23:6.5〜6.9,CeO2:6.75,Cr23:6.5〜7.5,Y23:8.9,La23:10.4、と記載されている。
【0030】
なお、等電点が3以下の金属酸化物として、WO3:0.5以下,SiO2:1.0,Sb25:0.4以下、などがある。
【0031】
本発明のメソ多孔体としては、メソポーラスシリカ,メソポーラスチタニア,メソポーラスアルミナ,リン酸アルミニウムなどがある。また、メソポーラスシリカやメソポーラスチタニアなどの一部をAl,チタン,Siなどで置換したメソ多孔体がある。これらのメソ多孔体は、界面活性剤などの鋳型を用いて合成することにより、規則的な細孔が形成され、細孔制御された材料となる。そこで、合成方法を調整することにより、細孔径を制御できる。
【0032】
さらに、鋳型を取り除いた後のメソ多孔体は、二次元形状を有する細孔,三次元形状を有する細孔を有している。
【0033】
即ち、長い筒が並んだような二次元貫通孔を有するメソポーラスシリカ、X,Y,Z方向に開口した三次元の貫通孔を有するメソポーラスシリカがある。例えば、二次元六方構造のMCM−41,SBA−15,FMS−16,立方構造のMCM−48,SBA−1,ラメラ構造のMCM−50などがある。
【0034】
活性成分は、窒素酸化物を還元する作用を奏するものであり、窒素酸化物浄化反応に応じて適宜選択することができる。
【0035】
本発明の窒素酸化物浄化触媒は、ボイラ等より排出される排ガスの窒素酸化物を除去する脱硝装置に用いることができる。窒素酸化物浄化触媒は、適宜基材等にコートし、触媒プレートとして使用することが可能である。脱硝装置には必要に応じて窒素酸化物浄化触媒に還元剤を供給する。
【0036】
窒素酸化物浄化触媒成分として、チタンとバナジウムを用いると、アンモニア脱硝反応を生じさせることにより高い活性を有する。チタンの含有量は、酸化物(TiO2)で換算して、活性成分全体のうち18.0から60.0wt%であることが望ましい。TiO2はアンモニア脱硝反応活性を有するがバナジウムを分散させる担体の役目も有する。TiO2担時量が18wt%より少ないと、メソ多孔体の細孔内部や表面をTiO2で十分覆うことができず、バナジウムがTiO2上に分散できなくなり、窒素酸化物除去性能が悪くなる。TiO2担時量が60.0wt%より多くなると、TiO2がメソ多孔体の細孔を閉塞するなどして、制御された細孔径を有する担体材料が有効に作用しなくなる。また、バナジウムの含有量は、酸化物(V25)で換算して、1.0から17wt%であることが望ましい。バナジウムの含有量は、V25換算で1.0から12wt%が好適である。V25担時量が1%より少ないと、活性成分の量が少なく窒素酸化物除去性能が不十分である。V25担時量が17wt%より多くなると、バナジウム酸化物粒子が大きくなり、分散性が悪くなり、窒素酸化物浄化性能が悪くなる。また、V25担時量が17wt%より十分多くなると、V25によりメソ多孔体の細孔が閉塞されるなどして、制御された細孔径を有する担体材料として有効に作用しなくなる。
【0037】
チタンとバナジウムの含有量の比率は、酸化物に換算した場合の重量比V25/TiO2で、0.07から0.60であることが望ましい。特に0.18から0.45が最適である。V25/TiO2が0.1より少ない場合は、即ちV25の含有量が非常に少なく、活性成分の量が少ないため窒素酸化物浄化性能が不十分である。V25/TiO2が0.6より大きい場合は、即ちTiO2に対しV25の含有量が非常に多いため、バナジウム酸化物粒子が大きくなり、分散性が悪くなり、窒素酸化物浄化性能が悪くなる。活性成分に含まれるバナジウムは、電荷が4価と5価のものの混合物であり、4価と5価のモル比V4+/V5+が0.5から0.7であることが望ましい。バナジウムの価数は4価と5価の両者が並存することが好ましく、さらに多少5価のバナジウムが多い方が触媒活性が高いためである。NH3を還元剤として用いた窒素酸化物浄化反応においては、NH3が4価のバナジウム上のOH基に吸着することが知られており、V4+/V5+が0.5から0.7の範囲にあるとき窒素酸化物浄化触媒として、有効に作用する。
【0038】
バナジウムと同様に窒素酸化物浄化活性のある活性成分としては、モリブデン,タングステン,鉄,マンガン等の金属が挙げられる。また、これらをチタンとバナジウムの触媒活性成分にさらに追加の活性成分として加えてもよい。
【0039】
本発明を機関からの排ガス浄化装置に適用した実施の形態例として以下がある。
【0040】
石炭を燃料とする発電所の場合、ボイラからの排ガスには、窒素酸化物,硫黄酸化物,粉塵などが含まれている。ボイラからの排ガス中に共存する窒素酸化物を浄化した後、硫黄酸化物と粉塵除去を実施して、排ガス中の窒素酸化物,硫黄酸化物及び粉塵などを極力除外した後、大気に排出される。石炭燃焼排ガスにリン化合物や砒素化合物が含まれるので、リン化合物及び砒素化合物による触媒の被毒防止が必要になる。
【0041】
以上のことから、本発明の排ガス浄化触媒を窒素酸化物浄化として用いた機関からの排ガス浄化装置が有効である。
【発明の効果】
【0042】
上記構成によれば、リン化合物による窒素酸化物浄化触媒成分の被毒を防止し、耐久性に優れた排ガス浄化触媒を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
上記本願発明について、さらに詳細を説明する。ボイラ等より排出される排ガス中の窒素酸化物を除去するため、ボイラの後段の排気流路には脱硝装置が設けられる。なお、通常、ボイラと脱硝装置の間の流路には、熱交換器等の他の機器が設けられている。脱硝装置には、窒素酸化物を除去するための排ガス浄化触媒が配置されている。
【0044】
排ガス浄化触媒は、そのまま、あるいはTiO2,SiO2,Al23などの結合剤や水を添加した後、成型する。成型物の形状は、粒状,ペレット状,ハニカム,板状など、適用する反応器やガス流通条件により任意に選定することができる。成型物は、100℃以上で乾燥後、更に不活性ガスあるいは空気雰囲気下、800℃未満好ましくは300℃〜700℃の範囲で、1時間ないし10時間焼成すると、強度を向上することができる。
【0045】
例えば、板状の場合には、排ガス浄化触媒を付着させた板状の触媒プレートを枠部材に多数枚固定した触媒ユニットを複数個設け、メンテナンスが容易となるよう工夫されている。
【0046】
以下、本発明について実施例により説明する。
【実施例1】
【0047】
本発明の排ガス浄化触媒は、単独で使用することもできるが、他の窒素酸化物浄化触媒と組み合わせて使用することもできる。ハニカム触媒や板状触媒において、従来の窒素酸化物浄化触媒の上層に本発明の排ガス浄化触媒からなる触媒層を形成し、反応ガスが従来触媒よりも先に本発明の排ガス浄化触媒層と接触する構成とする。それによって、従来の触媒成分単独から構成される触媒よりも、劣化を軽減し、長寿命化が可能である。
【0048】
排ガス浄化触媒を使用して排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去するには、窒素酸化物を含有する排ガスと還元剤であるアンモニアガスの混合ガスを300℃以上の温度で流通して排ガス浄化触媒に接触させればよい。還元剤としてアンモニア以外の化合物、例えば分解してアンモニアを発生する尿素などの物質あるいは炭化水素,一酸化炭素(CO)などを流通しても良い。
【0049】
本発明の排ガス浄化触媒は、排ガス中の触媒毒であるリン化合物によって劣化しにくく、長時間高い活性を維持する。本発明の排ガス浄化触媒がリン化合物に対して劣化しにくい理由は、細孔が制御されたメソ多孔体の細孔入口付近にリン化合物をインク壺型にトラップすることにより、細孔内部の窒素酸化物浄化成分のリン被毒が防止されるためである。
【0050】
排ガス中に含まれるリン化合物による触媒の劣化の詳細なメカニズムは不明であるが、リン化合物が触媒反応の活性点である窒素酸化物浄化成分に吸着する、または吸着後に化合物を形成するなどにより、反応物質である窒素酸化物,アンモニア,酸素などとの反応が阻害されて、活性が低下するものと考えられる。従って、劣化を抑制するには、窒素酸化物浄化触媒成分は反応物質と接触できるが、触媒毒物質であるリン化合物と接触できない構造にすればよい。
【0051】
燃焼排ガス中のリン化合物の具体的な形態と触媒上で付着したときの化合物形態は、酸化物,有機化合物,リン酸,リン酸塩,金属との化合物など様々な形態が考えられる。もっとも代表的なのは酸化物(P25)で、P25は2分子のP410の形態で存在する。
【0052】
金属酸化物を含有させたメソ多孔体において、金属酸化物の等電点が3以下の場合、リン酸化物は金属酸化物へトラップされ難くなり、メソ多孔体の内部まで拡散する。一方、金属酸化物の等電点が3より大きくなると、リン酸化物は金属酸化物へトラップされやすくなり、メソ多孔体の内部への拡散が防止される。
【0053】
ただし、メソ多孔体の細孔径が5nm以下の場合には、トラップされたリン化合物により細孔閉塞を招く。一方、細孔径が5nmより大きくなると、リン化合物による細孔閉塞が免れることが判った。
【0054】
以上のことから、金属酸化物を含有するメソ多孔体において、メソ多孔体は窒素吸着等温線法により計測される総細孔容積において5〜10nmの細孔容積の合計が50%以上であり、かつ金属酸化物の等電点は3より大きくすることで、窒素酸化物浄化触媒成分の被毒劣化が防止可能となる。
【0055】
なお、本発明は、リン化合物による触媒劣化抑制に効果があるが、リン化合物と共に揮発性の金属化合物、例えばセレン,テルル,タリウム,ヒ素などの酸化物を含有している排ガスの処理にも適用可能である。
【0056】
上記の触媒の実施例触媒1〜4と、比較例触媒1〜6を調製した。
【0057】
(実施例触媒1)
メソ多孔体として、シリカで構成されるメソポーラスシリカを用いた。このメソポーラスシリカに金属酸化物と窒素酸化物浄化成分を担持する方法として、細孔内部に活性成分を導入できる担持法であるTMP(Thermolytic Molecular Precursor)法を用いた。TMP法は、担持する金属元素を含む金属アルコキシドとメソポーラスシリカの表面水酸基を反応させて前駆体を形成するため、細孔内に確実に活性成分が担持される有効な方法である。
【0058】
メソポーラスシリカの細孔分布は、(株)島津製作所製ASAP2010を用いて測定した。液体窒素温度における窒素ガス吸着の吸着等温線を測定し、そのデータからBJH法で触媒の有する細孔の各平均細孔径に対する微分細孔容積をもとめた。図4に測定結果を示す。
【0059】
微分細孔容積には、細孔径7nmにおいて極大値となった。また、メソポーラスシリカの細孔径5〜10nmにおける細孔容積は、総細孔容積(細孔径:2〜50nm)に対して65%であった。
【0060】
金属酸化物として等電点が3より大きなチタニアをTMP法でメソポーラスシリカに担持した。シュレンクナス型フラスコにメソポーラスシリカ(15g)を入れ、これをシュレンクラインに接続してオイルバスで180℃に加熱して5時間真空乾燥した。次に、このナス型フラスコに窒素ガスを導入し、窒素ガス流通下でテトラヒドロフラン脱水110ccとチタンテトライソプロポキシド2.98gを添加した。この混合液を、窒素ガス流通下室温で15時間攪拌した。攪拌終了後、静置して固形物を沈降させた後、上澄み液を注射器で除去した。ナス型フラスコ内に残った固形物をシュレンクラインにて室温で5時間真空乾燥した。この乾燥粉末を大気中150℃で2時間乾燥した。最後に大気中500℃で2時間焼成した。このTMP法の操作を3回繰り返した。最終的にメソポーラスシリカに対しTiO2は18wt%担持された実施例触媒1を得た。
【0061】
(実施例触媒2)
実施例触媒1のTMP法の操作を4回繰り返して、メソポーラスシリカに対してTiO2を25wt%担持した実施例触媒2を得た。実施例触媒2で用いたメソポーラスシリカの細孔径5〜10nmにおける細孔容積は、実施例触媒1と同様に、総細孔容積(細孔径:2〜10nm)に対して65%であった。
【0062】
(実施例触媒3)
実施例触媒1に、窒素酸化物浄化触媒成分としてVを、TMP法を用いて担持した。シュレンクナス型フラスコに得られた粉末を15g入れ、これをシュレンクラインに接続してオイルバスで180℃に加熱して5時間真空乾燥した。次に、このナス型フラスコに窒素ガスを導入し、窒素ガス流通下でテトラヒドロフラン脱水110ccとバナジウムトリ−n−ブトキシドオキシド3.3gを添加した。この混合液を、窒素ガス流通下室温で15時間攪拌した。攪拌終了後、静置して固形物を沈降させた後、上澄み液を注射器で除去した。ナス型フラスコ内に残った固形物をシュレンクラインにて室温で5時間真空乾燥した。この乾燥粉末を大気中150℃で2時間乾燥した。最後に大気中500℃で2時間焼成し、実施例触媒3を得た。最終的に実施例触媒1対V25の重量比で94対6となるようにバナジウムを担持した。
【0063】
(実施例触媒4)
実施例触媒3と同様の方法で、実施例触媒2に1対V25の重量比で94対6となるようにバナジウムを担持した。
【0064】
(比較例触媒1)
実施例触媒1のメソポーラスシリカを下記に変更した。メソポーラスシリカの微分細孔容積は、細孔径4nmにおいて極大値となった。また、細孔径5〜10nmにおける細孔容積は、総細孔容積(細孔径:2〜10nm)に対して28%であった。
【0065】
(比較例触媒2)
実施例触媒1のメソポーラスシリカを下記に変更した。メソポーラスシリカの微分細孔容積は、細孔径5nmにおいて極大値となった。また、細孔径5〜10nmにおける細孔容積は、総細孔容積(細孔径:2〜10nm)に対して48%であった。
【0066】
(比較例触媒3)
実施例触媒3と同様の方法で、比較例触媒1対V25の重量比で94対6となるようにバナジウムを担持した。
【0067】
(比較例触媒4)
実施例触媒3と同様の方法で、比較例触媒2対V25の重量比で94対6となるようにバナジウムを担持した。
【0068】
(比較例触媒5)
実施例触媒1で用いたメソポーラスシリカのみとした。微分細孔容積は、細孔径7nmにおいて極大値となった。また、メソポーラスシリカの細孔径5〜10nmにおける細孔容積は、総細孔容積(細孔径:2〜50nm)に対して65%であった。ただし、シリカの等電点は3より小さく、1.0〜2.5と報告されている(小野嘉夫,御薗生誠,諸岡良彦編集、朝倉書店(2000)p411−412)。
【0069】
(比較例触媒6)
過酸化水素水水溶液30gにNH4VO31.54gを溶解した溶液を、TiO2粉末(ローヌ・プーラン社,G5,比表面積330m3/g)20gに含浸し、30分放置した。これを120℃で乾燥後、空気中500℃で2時間焼成し、TiO2にバナジウムを担持した比較例触媒5を得た。TiO2対V25の重量比は、95対5とした。
【0070】
TiO2粉末の微分細孔容積は、細孔径3.5nmにおいて極大値となった。また、メソポーラスシリカの細孔径5〜10nmにおける細孔容積は、総細孔容積(細孔径:2〜50nm)に対して29%であった。
【0071】
〔実験例1〕
実施例触媒1〜4と比較例触媒1〜5の触媒について、リン化合物を含有する燃焼排ガスによるリン被毒を模擬したリン被毒処理を行い、液体窒素温度における窒素の吸着等温線測定を実施した。測定には、粉末試料を用いた。吸着等温線の測定には、(株)島津製作所製ASAP2010を用いた。
【0072】
吸着等温線は窒素導入圧力(P0)に対する平衡圧力(P)の比である相対分圧(P/P0)に対する窒素吸着量をプロットしたものである。
【0073】
実施例触媒1のリン被毒処理前後の吸着等温線を図5に示す。
【0074】
まず、リン被毒処理前の場合、吸着操作では相対分圧が0.4までは触媒表面への窒素分子の吸着が起こり、0.4以上では多分子層吸着が起こる。相対分圧が0.7以上となると、メソ孔への毛管凝縮が起こる。シリンダー形の細孔(図6)の場合には相対分圧を下げて脱着操作を行っても、吸着操作と同等の等温線パターンとなる。
【0075】
一方、リン被毒処理後の場合、吸着操作時に比べて脱着操作時の吸着等温線は、相対分圧が1.0から0.5になるまで緩やかに吸着量が低下し、0.5において急激に吸着量が低下する。この吸着等温線のヒシテリシスはインク壺形の細孔(図7)に分類される。
【0076】
従って、実施例触媒1はリン被毒処理によりシリンダー形からインク壺形の細孔へ変化したことは明らかである。即ち、図1のように、チタニア2が担持されたメソポーラスシリカ1の入口付近にリン化合物3が担持されて細孔を狭めているモデルとなる。
【0077】
比較例触媒2のリン被毒処理前後の吸着等温線を図8に示す。
【0078】
リン被毒処理前及び処理後の吸着等温線のヒステリシスはシリンダー形となった。従って、細孔径5〜10nmにおける細孔容積が総細孔容積(細孔径:2〜10nm)に対して48%となると、リン被毒処理後の細孔はインク壺形とはならないことは明らかである。さらに、比較例触媒2のリン被毒処理前に対する処理後の細孔容積の減少量は、細孔閉塞が無い場合の理論値の8倍程度であった。
【0079】
以上のことから、比較例触媒2の場合には、リン化合物3によってメソ多孔体1の細孔の一部が閉塞しているモデル(図9)と判断される。
【0080】
上記の解析法に基づいて実施例触媒1〜4と比較例触媒1〜5の触媒の解析を行った。表1に解析結果をまとめた。
【0081】
実施例触媒1〜4はリン被毒処理によりメソ多孔体にインク壺形の細孔が形成されることが判った。
【0082】
一方、比較例触媒1〜5ではメソ多孔体の細孔閉塞が起こることが判った。
【0083】
【表1】

【0084】
〔実験例2〕
実施例触媒3及び4と比較例触媒3,4及び6の触媒について、リン化合物を含有する燃焼排ガスによるリン被毒を模擬したリン被毒処理を行い、リン被毒処理前後の触媒の窒素酸化物除去性能を比較した。
【0085】
触媒粉末をプレス成型後粉砕し、これを10〜20mesh(1.7mm〜870μm)に分級し、粒状触媒とした。触媒重量に対しP25換算で4wt%相当と同量のリンを含むリン酸水溶液を、粒状触媒に含浸した。室温で30分放置した後、120℃で乾燥後、350℃で2時間焼成して、リン被毒処理後の触媒を得た。
【0086】
上記のリン被毒処理前後の触媒の窒素酸化物除去性能を、常圧流通式反応装置にて、以下の条件で測定した。
【0087】
1.ガス組成
NO :200ppm
NH3:240ppm
CO2:12%
2 :3%
2O:12%
2 :バランス
2.空間速度(SV):120,000h-1
3.反応温度:350℃
上記条件によるリン被毒処理前後の窒素酸化物の浄化性能を調べて、リン被毒処理による劣化率(α)を求めた。劣化率(α)は、リン被毒処理前の反応速度定数(k0)とリン被毒処理後の反応速度定数(k)との比(式(1))で定義される。
【0088】
α=k/k0 …(1)
さらに、k/k0は、リン被毒処理前の窒素酸化物除去率(η0)とリン被毒処理後の窒素酸化物除去率(η)との比から求めることができる。式(2)に示す。
【0089】
α=k/k0=ln(1/(1−η))/ln(1/(1−η0)) …(2)
η=(入口NOx濃度−出口NOx濃度)÷入口NOx濃度
k/k0=1の場合は触媒の劣化が無いことを、k/k0の値が大きいほど劣化が少ないことを示している。
【0090】
表2に測定結果を示す。リン処理後にインク壺形細孔となる実施例触媒3及び4の場合、k/k0=1となり、劣化が無いことが明らかである。一方、細孔閉塞が起こる比較例触媒3,4及び6の場合、劣化が起こることは明らかである。
【0091】
【表2】

【実施例2】
【0092】
実施例触媒3のVに換えて、Co,CuまたはFeを担持した。担持量は実施例触媒1対Co,CuまたはFe酸化物の重量比で94対6となるようにした。Coを担持した触媒を実施例触媒5,Cuを担持した触媒を実施例触媒6,Feを担持した触媒を実施例触媒7とした。
【0093】
実験例1に順じてリン被毒処理前後の吸着等温線の測定を行った結果、実施例触媒5,6及び7に於いても、細孔の形はリン被毒処理によりシリンダー形からインク壺形へ変化した。即ち、図1のようにメソポーラスシリカ1の入口付近にリン化合物3が担持されて細孔を狭めているモデルとなった。
【0094】
次に、実験例2に順じてリン被毒処理前後の触媒の窒素酸化物除去性能を調べた。実施例触媒5,6及び7に於いても、k/k0=1となり、劣化が無いことが判った。
【実施例3】
【0095】
(実施例触媒5)
酸化チタン(石原産業製,比表面積250m2/g)1200g,メタタングステン酸アンモニウム425g,シリカゾル(日産化学製,OXSゾル)810gと水をニーダに入れて20分混練後、メタバナジン酸アンモニウム39.9gを添加して20分混練し、シリカアルミナ系セラミックス繊維(東芝ファインスレックス社製)320gを徐々に添加しながら30分間混練して水分29%の触媒ペーストを得た。得られたペーストを厚さ0.2mmのSUS430製鋼板をメラルラス加工した基材の上に置き、これを二枚のポリエチレンシートに挟んで一対の加圧ローラを通して、メタルラス基材の網目間及び表面にコーティング。これを風乾後、500℃で2時間乾燥してTi/W/V系触媒プレートを調製した。触媒プレートへの触媒のコート量は、800g/m2である。さらに、実施例触媒1の粉末425g、シリカゾル(日産化学製,OXSゾル)810gと水をニーダに入れて20分混練後、Ti/W/V系触媒プレート上にコーティングした。コート量は800g/m2とした。
【0096】
Ti/W/V系触媒の上層に実施例触媒1をコーティンした触媒を実施例触媒5とした。
【0097】
実験例2に順じてリン被毒処理前後の触媒の窒素酸化物除去性能を調べた。k/k0=1となり、劣化が無いことが判った。なお、リン被毒処理前の窒素酸化物浄化率(η0)は0.75であった。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】リン化合物により形成されたインク壺型の細孔の例である。
【図2】トラップ材の細孔内部に窒素酸化物浄化触媒成分が含まれている排ガス浄化触媒の例である。
【図3】トラップ材を窒素酸化物浄化触媒の外部に配置させた2重構造の排ガス浄化触媒の例である。
【図4】実施例触媒の微分細孔容積の図である。
【図5】実施例触媒のリン被毒処理前後の吸着等温線である。
【図6】実施例触媒のシリンダー形の細孔モデルである。
【図7】実施例触媒のインク壺形の細孔モデルである。
【図8】比較例触媒のリン被毒処理前後の吸着等温線である。
【図9】リン化合物によってメソ多孔体の細孔の一部が閉塞しているモデルである。
【符号の説明】
【0099】
1 メソ多孔体
2 金属酸化物
3 リン化合物
4 窒素酸化物浄化成分
5 窒素酸化物浄化触媒
6 トラップ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物及びリン化合物を含有する排ガスのリン化合物をトラップするトラップ材と窒素酸化物浄化触媒を組み合わせた排ガス浄化触媒であって、トラップ材はメソ多孔体の内部に金属酸化物が担持されており、メソ多孔体は窒素吸着温線測定法により計測される総細孔容積に対して5〜10nmの細孔容積の合計が50%以上であり、かつ金属酸化物の等電点は3より大きい、ことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
請求項1記載の金属酸化物はU,Mn,Sn,Ti,Fe,Zr,Ce,Al,Y,Zn,La,Mgから選ばれる少なくとも一つを有する金属酸化物であることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項3】
請求項1または2記載のトラップ材の細孔内部に窒素酸化物浄化触媒成分を含有させることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項4】
請求項1または2記載のトラップ材を窒素酸化物浄化触媒粒子の外部に配置ささせた2重構造の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
請求項1または2記載のトラップ材の下層に窒素酸化物浄化触媒層を設けた多層型の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のトラップ材のメソ多孔体は二次元形状を有する細孔,三次元形状を有する細孔を有することを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の排ガス浄化触媒であって、窒素酸化物浄化触媒の担体はメソポーラスシリカであることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の排ガス浄化触媒であって、窒素酸化物浄化触媒成分は、Cu,Fe,Co,バナジウム,モリブデン,タングステンから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項9】
窒素酸化物とリン化合物とを含む排ガスと還元剤とを窒素酸化物浄化触媒に接触させ、排ガス中の窒素酸化物を還元除去する窒素酸化物除去方法であって、トラップ材により排ガス中のリン化合物を除去した後、窒素酸化物浄化触媒において窒素酸化物を還元除去することを特徴とする排ガス浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−51836(P2010−51836A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216096(P2008−216096)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】