説明

立体映像表示装置及びその制御方法

【課題】ライン順次又はブロック順次で発光するディスプレイの映像を液晶シャッター眼鏡で観測した場合に生じる、色や明るさの空間的なばらつきを抑制し、高品質な立体映像の表示を可能にする。
【解決手段】フレームシーケンシャル方式で表示される左眼用映像と右眼用映像を液晶シャッター眼鏡を通して観測させる立体映像表示装置であって、ライン順次又はブロック順次で発光するように駆動される表示部と、前記表示部の各原色の光に対する前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化に関する特性情報を記憶する特性記憶部と、原色ごとに前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化が異なることに起因する、観測映像におけるライン間又はブロック間での色のばらつきを低減するように、前記特性情報を用いて各原色の入力映像信号を補正する補正部と、を有し、前記表示部は、前記補正部で生成された補正映像信号に基づく補正映像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャッター眼鏡を通して映像を視聴する立体映像表示装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
視差のある右眼用映像と左眼用映像を交互に表示し、シャッター眼鏡を通して右眼と左眼に異なる映像を見せることで、立体映像(3次元映像)を構成する、フレームシーケンシャル方式の立体映像表示装置が知られている(特許文献1参照)。シャッター眼鏡の方式としては、液晶素子板と偏光板とを重ね合わせてシャッターの開閉動作を行う液晶シャッターを、左眼用および右眼用に配置した液晶方式のシャッターが主に用いられている。
【0003】
図9(a)、図9(b)、図9(c)を用いて、フレームシーケンシャル方式の立体映像表示装置における、シャッター眼鏡の透過応答特性と映像の表示タイミングの理想的な関係を説明する。図9(a)は理想的なシャッター眼鏡の透過応答特性(透過率の時間変化)を示し、横軸は時間、縦軸はシャッター眼鏡の透過率である。実線12は左眼用のシャッターの透過応答特性であり、点線13は右眼用のシャッターの透過応答特性である。シャッターの開閉には、液晶の応答速度に起因する遅延が存在することが知られている。実線12及び点線13における、「開」から「閉」、「閉」から「開」の斜め部分がその遅延を表している。図9(b)は左眼用映像と右眼用映像の表示を模式的に示しており、横軸は時間、縦軸は表示輝度である。実線14は左眼用の発光特性を示し、斜線部分は左眼用の映像の輝度を模式的に示す。点線15は右眼用の発光特性を示し、斜線部分は右眼用の映像の輝度を模式的に示す。なお説明を簡単にするため、図9(b)では均一輝度の映像を表示した例を示している。
【0004】
図9(b)で示す特性の映像を図9(a)の特性を持つシャッター眼鏡を通して観測者が観測した場合の輝度を図9(c)に示す。図9(c)の縦軸は観測される輝度を示す。左眼用映像14の発光期間(t2〜t3)では、左眼用シャッターが開状態、右眼用シャッターが閉状態となるため、左眼用映像の光16は左眼用シャッターのみを透過する。逆に、右眼用映像の発光期間では、右眼用映像の光17は右眼用シャッターのみを透過する。したがって、観測者は、左眼で左眼用映像のみを観測し、右眼で右眼用映像のみを観測することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−275575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シャッター眼鏡が図9(a)に示すような理想的な透過応答特性を有している場合は、図9(c)に示すように、表示映像が観測者に正しく観測される。しかしながら、シャッター眼鏡に一般的に用いられているTN方式やSTM方式などの液晶シャッターの実際の透過応答特性は、図9(a)のような理想的な特性にはならない。しかも、本発明者らの実験によると、以下に述べるように、透過光の波長(色)ごとに液晶シャッターの透過応答特性に違いがあることもわかった。
【0007】
R(赤)、G(緑)、B(青)の3色の発光原色の画像表示装置を用いて、R、G、Bそれぞれの単色の映像を表示し、各色について液晶シャッターの光の透過率の変化を計測
した結果を図10(a)に示す。図10(a)は上段から順にR光、G光、B光に対する透過応答特性を示しており、横軸は時間、縦軸は透過率を示している。なお、時刻t1がシャッターを開くタイミング、時刻t3がシャッターを閉じるタイミング、t2〜t3が1フィールド期間を示している。
【0008】
R光に対する透過応答特性20は、前半の透過率が低く、1フィールド期間の開始時刻t2では最大透過率の50%程度の透過率しか得られないことがわかる。G光に対する透過応答特性21も前半の透過率が低く、R光の透過率より若干高いものの、時刻t2では最大透過率の60%程度の透過率しか得られない。また、B光に対する透過応答特性22は、R光およびG光とは逆の特性を示し、透過率の立ち上がりは早いが、後半に透過率が低下し、時刻t3では最大透過率の70%程度となる。このように色ごとに透過特性が異なるのは、波長分散によるものと考えられる。
【0009】
図9(b)で示す特性の映像14を図10(a)の特性を持つシャッター眼鏡を通して観測した場合の輝度を示したものが図10(b)である。1フィールド期間にわたり均一輝度で映像表示を行っても、R映像とG映像は前半暗く見え、B映像は後半暗く見える。そのため、例えばホールド駆動の液晶ディスプレイにおいて白映像(RGBの輝度比が同じ映像)を表示した場合に、1フィールド期間のなかでRGBの輝度比が時間的に変化するという現象が起きる。すなわち、1フィールド期間の最初はややシアン色っぽい白色映像が観測され、次第に純白色となり、最後はやや黄色っぽい白色に変化するのである。ただし、1フィールド期間という極めて短い時間のなかでの色の時間変動はヒトの眼にはほとんど観測されないために、ホールド駆動の液晶ディスプレイを用いた従来の立体映像表示装置では、上記現象が問題となることはなかった。
【0010】
しかしながら、ライン順次又はブロック順次で発光する駆動方式のディスプレイを用いた立体映像表示装置の場合は、液晶シャッター眼鏡における波長ごとの透過応答特性の違いが表示映像の品質に大きく影響を及ぼし得る。図9(d)を参照して、ライン順次発光のディスプレイで生じる問題について説明する。例えば1080pのHDTVの場合、1フィールド期間の中で1080本の走査線が画面上から下へ順番に発光する。したがって、図10(a)の特性を持つシャッター眼鏡を通して図9(d)の表示映像を観測すると、最初に発光する画面上端のライン18は、画面中央部に比べてシアン色っぽく見え、最後に発光する画面下端のライン19は、画面中央部に比べて黄色っぽく見えてしまう。このように、ライン順次発光のディスプレイの場合は、波長ごとの透過応答特性の違いが色や明るさの空間的なばらつきとして観測されてしまうため、表示品質の低下として認識されやすい。画面を複数のブロックに分割し各ブロックを順番に発光させる方式(ブロック順次発光)のディスプレイの場合も同様の問題が生じる。
【0011】
なお、ライン順次発光のディスプレイとしては電界放出ディスプレイ(FED)などがある。また、ブロック順次発光のディスプレイとしては、電界放出ディスプレイ、バックライトスキャニング液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイなどがある。
【0012】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ライン順次又はブロック順次で発光するディスプレイの映像を液晶シャッター眼鏡で観測した場合に生じる、色や明るさの空間的なばらつきを抑制し、高品質な立体映像の表示を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1態様は、フレームシーケンシャル方式で表示される左眼用映像と右眼用映像を液晶シャッター眼鏡を通して観測させる立体映像表示装置であって、ライン順次又はブロック順次で発光するように駆動される表示部と、前記表示部の各原色の光に対する前
記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化に関する特性情報を記憶する特性記憶部と、原色ごとに前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化が異なることに起因する、観測映像におけるライン間又はブロック間での色のばらつきを低減するように、前記特性情報を用いて各原色の入力映像信号を補正する補正部と、を有し、前記表示部は、前記補正部で生成された補正映像信号に基づく補正映像を表示する立体映像表示装置を提供する。
【0014】
本発明の第2態様は、ライン順次又はブロック順次で発光するように駆動される表示部を有し、フレームシーケンシャル方式で表示される左眼用映像と右眼用映像を液晶シャッター眼鏡を通して観測させる立体映像表示装置の制御方法であって、前記表示部の各原色の光に対する前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化に関する特性情報を記憶する特性記憶部から特性情報を読み込むステップと、原色ごとに前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化が異なることに起因する、観測映像におけるライン間又はブロック間での色のばらつきを低減するように、前記特性情報を用いて各原色の入力映像信号を補正するステップと、前記補正するステップで生成された補正映像信号に基づく補正映像を前記表示部に表示するステップと、を有する立体映像表示装置の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ライン順次又はブロック順次で発光するディスプレイの映像を液晶シャッター眼鏡で観測した場合に生じる、色や明るさの空間的なばらつきを抑制し、高品質な立体映像の表示が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における各色の補正映像信号と観測輝度の例を示す図。
【図2】本発明の実施形態に係る立体映像表示システムの構成を示す図。
【図3】実施例1における補正処理のフローチャート。
【図4】シャッター眼鏡の特性情報テーブルの一例を示す図。
【図5】実施例2における各色の補正映像信号と観測輝度の例を示す図。
【図6】実施例2における補正処理のフローチャート。
【図7】実施例3における各色の補正映像信号と観測輝度の例を示す図。
【図8】実施例3における補正処理のフローチャート。
【図9】シャッター眼鏡の透過応答特性と映像の表示タイミングを説明する図。
【図10】各原色に対するシャッター眼鏡の透過率の時間変化を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0018】
(システム構成)
図2は本発明の実施形態に係る立体映像表示システムの構成を模式的に示している。立体映像表示システムは、立体映像表示装置1とシャッター眼鏡8から構成される。立体映像表示装置1は、映像信号入力端子2、映像信号処理部3、同期送信部4、映像表示部5、制御部6、記憶部7、シャッター眼鏡透過応答特性記憶部(以下「特性記憶部」と呼ぶ)10を備える。映像信号処理部3は映像信号に補正処理を施す補正部11を有する。またシャッター眼鏡8は、左眼用及び右眼用の液晶シャッターと同期信号受信部9とを備える液晶シャッター眼鏡である。ここで、映像表示部5は、ライン順次又はブロック順次で発光する駆動方式の表示パネルであり、例えば、電界放出ディスプレイ、バックライトスキャニング液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどである。
【0019】
図2の構成において、入力端子2から入力される立体映像信号は、映像信号処理部3で左映像信号、右映像信号、同期信号などに分離される。そして、これらの映像信号は、補正部11により、シャッター眼鏡8の波長ごとの透過応答特性の違いに因る色や明るさの
空間的なばらつきを低減するための補正処理が施された後、映像表示部5に出力される。補正処理の詳細は後述する。映像表示部5は補正された左映像信号及び右映像信号に基づいて、左眼用映像(以下単に「左映像」と呼ぶ)及び右眼用映像(以下単に「右映像」と呼ぶ)を交互に表示する。このように左映像と左映像が交互に表示される方式はフレームシーケンシャル方式と呼ばれる。
【0020】
一方、映像信号処理部3は、映像表示部5の表示タイミングに同期するシャッター眼鏡用同期信号を生成して、同期送信部4に出力する。同期送信部4は、シャッター眼鏡用同期信号をシャッター眼鏡8に対して送信する。この同期信号は、例えば赤外線や電波などの無線通信により送信することが好適である。シャッター眼鏡8は、同期信号受信部9で受信した同期信号に従って、映像表示部5の左映像、右映像の表示に同期して左右の液晶シャッターの開閉を制御する。これにより、シャッター眼鏡8を通して映像表示部5に表示される映像を観測すると、左眼には左映像のみ、右眼には右映像のみが観測されることとなる。
【0021】
本実施形態のように、ライン順次又はブロック順次で発光する表示部を用い、フレームシーケンシャル方式で立体映像を表示する場合には、観測映像においてシャッター眼鏡の透過応答性に起因する色や明るさのライン間又はブロック間でのばらつきが発生し得る。そこで本実施形態では、以下のように映像信号に対して補正処理を施し、色や明るさのばらつきを低減する。
【0022】
まず、実験により計測したシャッター眼鏡8の原色ごとの透過応答特性(透過率の時間変化)に関する特性情報を特性記憶部10にあらかじめ記憶しておく。シャッター眼鏡8の種類や映像表示部5の駆動周波数などの各種条件に応じて透過応答特性が異なる場合には、条件ごとの特性情報を特性記憶部10に記憶しておくとよい。そして、映像表示を開始する際に、制御部6が適切な特性情報を特性記憶部10から読み出し、その特性情報により映像処理部3を制御する。映像処理部3の補正部11は、発光原色ごとの特性情報を用いて、液晶シャッターによる透過光の減衰を補償する補正映像信号を生成する。すなわち、図10(a)、(b)に示したように、光の透過率は時間変化するため、発光する順番に応じてライン毎又はブロック毎に透過光の減衰量が異なる。そこで、減衰量が相対的に大きいライン(若しくはブロック)に対応する映像信号の値を大きくし、又は/且つ、減衰量が相対的に小さいライン(若しくはブロック)に対応する映像信号の値を小さくすることで、減衰量の差を可及的にゼロにする。これにより、色と明るさを復元し、あるいは、色を均一にすることができ、表示映像の品質を向上することができる。
【0023】
以下、補正処理の具体的な実施例について説明する。なお、以下の実施例では、RGBの3つの発光原色を持つライン順次発光ディスプレイでの補正処理を示しているが、ブロック順次発光方式や4つ以上の発光原色を持つディスプレイに対しても本発明を適用することが可能である。
【0024】
(実施例1)
実施例1は、透過率の逆数に相当するゲイン(補償値)を映像信号に乗算することにより、液晶シャッターによる減衰量と発光輝度の増加量を相殺する方法である。この方法によれば、入力映像信号どおりの色及び明るさを復元することができる。
【0025】
図4は、特性記憶部10に記憶されている特性情報の一例である。特性情報は、ラインごとの透過率を表す値を減衰係数として格納しているテーブルである。図10(a)に示す透過応答特性20〜22を各ラインの発光タイミングに基づき数値化したものであり、実測値、又は実測値に基づく近似式から求められる。R、G、Bそれぞれで透過応答特性が異なるため、色ごとに特性情報テーブルが用意されている。
【0026】
図3のフローチャートに沿って、補正部11による補正処理の流れを説明する。補正部11は、まず、ライン番号を示す変数nを1で初期化する(ステップS30)。次に、補正部11は、R、G、Bの各特性情報テーブルから、nラインの減衰係数Lxnを読み込み(ステップS31)、以下の計算により補償値G1xnを求める(ステップS32)。なお、添え字のxは発光原色を表し(x=R、G、B)、nはライン番号を表している(1080pの場合は、1≦n≦1080)。

G1xn=1/Lxn

【0027】
例えば第1ラインの場合は、LR1=0.50、LG1=0.60、LB1=1.00であるから、補償値は、G1R1=2.00、G1G1=1.67、G1B1=1.00と求まる。
【0028】
次に、補正部11は、各色のnラインの映像信号に対し補償値G1xnを乗算して補正映像信号を求め、補正映像信号を映像表示部5に出力する(ステップS33)。以上の処理を、全てのラインについて行う(ステップS34、S35)。
【0029】
全白映像の入力映像信号、すなわちRGBのいずれも全画面にわたり最大階調をとる映像信号に対し、上記補正処理を施した結果を図1(a)に示す。図1(a)は上段から順にR、G、Bの補正映像信号を示している。液晶シャッターによる減衰量が大きいほど映像信号の値が大きくなっていることがわかる。具体的には、RとG(第1の原色)については透過率が徐々に増加するため、発光する順番の早いラインほど補正映像の輝度が高くなるようにしている。一方、B(第2の原色)については透過率が徐々に低下するため、発光する順番の遅いラインほど補正映像の輝度が高くなるようにしている。
【0030】
図1(b)は、図1(a)の補正映像信号に基づき表示した映像(補正映像)をシャッター眼鏡8を通して観測したときの観測輝度を示している。液晶シャッターによる減衰量と補正による発光輝度の増加量とが相殺し、RGBの観測輝度の比が元の入力映像信号のRGBの値の比と同じになり、ライン間での色のばらつきが低減される。また、図1(b)から分かるように、RGBそれぞれの観測輝度が入力映像信号の値に対応する輝度と同じになるため、ライン間での明るさのばらつきも低減されると共に、入力映像信号どおりの明るさも復元される。したがって、高品質な立体映像表示が実現される。
【0031】
(実施例2)
実施例1の方法は、補正映像信号の値が入力映像信号の最大値を超える場合があるため、映像表示部5には、入力映像信号の最大輝度よりも更に明るい映像を表示可能な能力が要求される。言い換えると、映像表示部5の表示能力が低く高輝度表示ができない場合には、実施例1の方法を適用することは難しい。そこで、実施例2では、補正映像信号の値を全体的に一律に低下させることにより、補正映像信号の値が入力映像信号の取り得る値の最大値を超えないようにする。
【0032】
図6のフローチャートに沿って、補正部11による補正処理の流れを説明する。補正部11は、前処理として、特性情報テーブルから全色、全ラインの減衰係数LR1〜LR1080、LG1〜LG1080、LB1〜LB1080を読み込み(ステップS60)。それらの減衰係数の中から最小値Lmin2を検知する(ステップS61)。
【0033】
そして補正部11は、ライン番号を示す変数nを1で初期化する(ステップS62)。次に、補正部11は、R、G、Bの各特性情報テーブルから、nラインの減衰係数Lxn
を読み込み(ステップS63)、以下の計算により補償値G2xnを求める(ステップS64)。

G2xn=Lmin2/Lxn

【0034】
例えば第1ラインの場合は、LR1=0.50、LG1=0.60、LB1=1.00であり、図4ではLmin2=0.50であるから、補償値は、G2R1=1.00、G2G1=0.83、G2B1=0.50と求まる。本実施例の補償値G2xnは、実施例1の補償値G1xnを最大値が1.00となるよう規格化したものといえる。
【0035】
次に、補正部11は、各色のnラインの映像信号に対し補償値G2xnを乗算して補正映像信号を求め、補正映像信号を映像表示部5に出力する(ステップS65)。以上の処理を、全てのラインについて行う(ステップS66、S67)。
【0036】
全白映像の入力映像信号、すなわちRGBのいずれも全画面にわたり最大階調をとる映像信号に対し、上記補正処理を施した結果を図5(a)に示す。図5(a)は上段から順にR、G、Bの補正映像信号を示している。液晶シャッターによる減衰量が小さいほど映像信号の値が小さくなっていること、補正映像信号の値が入力映像信号の最大値以下に収まっていることがわかる。図5(b)は、図5(a)の補正映像信号に基づき表示した映像(補正映像)をシャッター眼鏡8を通して観測した場合の輝度を示している。本実施例の方法においても、RGBの観測輝度の比が元の入力映像信号のRGBの値の比と同じになり、ライン間での色のばらつきが低減される。また、映像全体の輝度は低下するものの、ライン間での明るさのばらつきは低減される。したがって、高品質な立体映像表示が実現される。
【0037】
(実施例3)
実施例3の方法も、実施例2と同様、補正映像信号の値が入力映像信号の取り得る値の最大値を超えないようにする方法の一つである。実施例2との違いは、実施例2では、画面全体の中の最小減衰係数を基準に補正映像信号の値を調整したのに対し、実施例3では、ラインごとの最小減衰係数を基準に補正映像信号の値を調整する点である。
【0038】
図8のフローチャートに沿って、補正部11による補正処理の流れを説明する。補正部11は、ライン番号を示す変数nを1で初期化する(ステップS80)。次に、補正部11は、R、G、Bの各特性情報テーブルから、nラインの減衰係数LRn、LGn、LBnを読み込み(ステップS81)、それらの減衰係数の中から最小値Lmin3を検知する(ステップS82)。
【0039】
そして補正部11は、各色のnラインの減衰係数LxnとLmin3とから、以下の計算により補償値G3xnを求める(ステップS83、S84)。

G3xn=Lmin3/Lxn

【0040】
例えば第1ラインの場合は、LR1=0.50、LG1=0.60、LB1=1.00であり、Lmin3=0.50であるから、補償値は、G3R1=1.00、G3G1=0.83、G3B1=0.50と求まる。また第1080ラインの場合は、LR1080=1.00、LG1080=1.00、LB1080=0.70であり、Lmin3=0.70であるから、補償値は、G3R1080=0.70、G3G1080=0.70、G3B1080=1.00と求まる。
【0041】
次に、補正部11は、各色のnラインの映像信号に対し補償値G3xnを乗算して補正映像信号を求め、補正映像信号を映像表示部5に出力する(ステップS85)。以上の処理を、全てのラインについて行う(ステップS86、S87)。
【0042】
全白映像の入力映像信号、すなわちRGBのいずれも全画面にわたり最大階調をとる映像信号に対し、上記補正処理を施した結果を図7(a)に示す。図7(a)は上段から順にR、G、Bの補正映像信号を示している。図7(b)は、図7(a)の補正映像信号に基づき表示した映像(補正映像)をシャッター眼鏡8を通して観測した場合の輝度を示している。図7(b)から分かるように、RGBの輝度比がライン毎に均一化されているので、色のばらつきが低減される。また実施例2(図5(b))に比べて補正による輝度低下が抑えられていることもわかる。なお、本実施例の方法をブロック順次発光のディスプレイに適用する場合には、各ブロック内の減衰係数の中の最小値を映像信号に乗じるようにすればよい。
【0043】
以上、実施例1〜実施例3を挙げて本発明の具体例を説明したが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されることはない。例えば、上記実施例では、特性情報テーブルに減衰係数Lxnを格納したが、特性情報テーブルに補償値そのものを格納することもできる。その場合には、減衰係数の最小値を検知する処理と減衰係数から補償値を求める処理を省略することができる。
【符号の説明】
【0044】
1:立体映像表示装置、3:映像信号処理部、5:映像表示部、6:制御部、8:シャッター眼鏡、10:特性記憶部、11:補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームシーケンシャル方式で表示される左眼用映像と右眼用映像を液晶シャッター眼鏡を通して観測させる立体映像表示装置であって、
ライン順次又はブロック順次で発光するように駆動される表示部と、
前記表示部の各原色の光に対する前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化に関する特性情報を記憶する特性記憶部と、
原色ごとに前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化が異なることに起因する、観測映像におけるライン間又はブロック間での色のばらつきを低減するように、前記特性情報を用いて各原色の入力映像信号を補正する補正部と、を有し、
前記表示部は、前記補正部で生成された補正映像信号に基づく補正映像を表示することを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項2】
前記液晶シャッター眼鏡は、第1の原色の光に対する透過率が徐々に増加する特性を有しており、
前記補正部は、前記第1の原色のみの映像信号が入力された場合に、発光する順番の早いライン又はブロックほど補正映像の輝度が高くなるように、前記補正映像信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の立体映像表示装置。
【請求項3】
前記液晶シャッター眼鏡は、第2の原色の光に対する透過率が徐々に低下する特性を有しており、
前記補正部は、前記第2の原色のみの映像信号が入力された場合に、発光する順番の遅いライン又はブロックほど補正映像の輝度が高くなるように、前記補正映像信号を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の立体映像表示装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記補正映像を前記液晶シャッター眼鏡を通して観測したときの各原色の観測輝度の比が前記入力映像信号の各原色の値の比と同じになるように、前記補正映像信号を生成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の立体映像表示装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記補正映像を前記液晶シャッター眼鏡を通して観測したときの各原色の観測輝度が前記入力映像信号の各原色の値に対応する輝度と同じになるように、前記補正映像信号を生成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の立体映像表示装置。
【請求項6】
前記特性情報は、ラインごと若しくはブロックごとの各原色の光に対する透過率、又は透過率の逆数のテーブルであり、
前記補正部は、前記入力映像信号の各原色の値に、対応する透過率の逆数を乗算することにより、前記補正映像信号の値を求めることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の立体映像表示装置。
【請求項7】
前記特性情報は、ラインごと若しくはブロックごとの各原色の光に対する透過率、又は透過率の逆数のテーブルであり、
前記補正部は、前記入力映像信号の各原色の値に、対応する透過率の逆数と全ての透過率の中の最小値とを乗算することにより、前記補正映像信号の値を求めることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の立体映像表示装置。
【請求項8】
前記特性情報は、ラインごと若しくはブロックごとの各原色の光に対する透過率、又は透過率の逆数のテーブルであり、
前記補正部は、前記入力映像信号の各原色の値に、対応する透過率の逆数と、対応する
ライン若しくはブロック内での全ての透過率の中の最小値とを乗算することにより、前記補正映像信号の値を求めることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の立体映像表示装置。
【請求項9】
ライン順次又はブロック順次で発光するように駆動される表示部を有し、フレームシーケンシャル方式で表示される左眼用映像と右眼用映像を液晶シャッター眼鏡を通して観測させる立体映像表示装置の制御方法であって、
前記表示部の各原色の光に対する前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化に関する特性情報を記憶する特性記憶部から特性情報を読み込むステップと、
原色ごとに前記液晶シャッター眼鏡の透過率の時間変化が異なることに起因する、観測映像におけるライン間又はブロック間での色のばらつきを低減するように、前記特性情報を用いて各原色の入力映像信号を補正するステップと、
前記補正するステップで生成された補正映像信号に基づく補正映像を前記表示部に表示するステップと、
を有することを特徴とする立体映像表示装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−145656(P2012−145656A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2488(P2011−2488)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】