立体画像撮像装置
【課題】立体画像撮像装置により仮想的に形成される瞳の間隔を変化させることなく、輻輳位置を調整できるようにする。
【解決手段】被写体を実像または虚像として形成する機能を有する対物光学系を備える。また、複数の独立した光学系により、対物光学系10の異なる経路から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させる複数の結像光学系20を備える。さらに、複数の結像光学系20により結像された視差画像を画像信号に変換する複数の撮像素子202を備える。その上で、結像光学系20および/または撮像素子202の配置位置に対する対物光学系10の相対的な配置位置または、対物光学系10の配置位置に対する、結像光学系20および/または撮像素子202の相対的な配置位置を変化させることにより輻輳位置を調整する。
【解決手段】被写体を実像または虚像として形成する機能を有する対物光学系を備える。また、複数の独立した光学系により、対物光学系10の異なる経路から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させる複数の結像光学系20を備える。さらに、複数の結像光学系20により結像された視差画像を画像信号に変換する複数の撮像素子202を備える。その上で、結像光学系20および/または撮像素子202の配置位置に対する対物光学系10の相対的な配置位置または、対物光学系10の配置位置に対する、結像光学系20および/または撮像素子202の相対的な配置位置を変化させることにより輻輳位置を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立体画像の撮影を行う立体画像撮像装置に関し、特に、立体画像撮影時のフォーカス調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3D(立体)映像を撮影できるカメラ(立体画像撮像装置)へのニーズが高まっている。立体画像の撮像方法としては、ハーフミラーを使用して撮影を行うビームスプリッタ方式(ハーフミラー方式)や、物理的に並べて設置した2台の撮像装置で撮影を行うサイドバイサイド方式(並立2眼式)等の方法が知られている。これらの方式では、撮像装置をリグ(Rig)と称される架台に搭載して撮影を行うため、撮像装置の装着の自由度が高くなる。例えば、立体映像を撮影する2つのレンズのレンズ間距離(基線長;以下、IAD:InterAxial Distanceと称する)や、輻輳(Convergence)や、画角などを高い自由度で選ぶことができる。
【0003】
ところが、自由度が高い一方、立体画像撮像装置をリグに搭載するために、撮影毎の設定および調整に非常な労力と時間を要するという問題点があった。また、特にビームスプリッタ方式のリグは大変に大掛かりな装置となり、フィールドでの撮影や取材用途には適さないといった問題もある。
【0004】
こういった問題を解決するために、サイドバイサイド方式で撮影を行う2台の2D映像撮影用カメラを一つの筐体に作り込んだ、いわゆる一体型の2眼3Dカメラを構成することも行われている。このように構成された一体型2眼3Dカメラは、組み立てる必要が無くアライメントの調整(左右のカメラの光軸調整)も必要がない。さらに、コンパクトであるため、フィールドでの撮影や取材時においても持ち運びが容易であり、また短時間のセットアップで直ぐに撮影に入れるといったメリットがある。
【0005】
しかしながら、このような一体型2眼3Dカメラは、基本的にはサイドバイサイド方式であるので、IADの調整に限界が生ずる。すなわち、2眼のそれぞれの光学系やイメージャがお互いに物理的に干渉するため、IADを、光学系やイメージャの配置位置により定まる一定の距離より短くすることができない。このため、例えば被写体に非常に近接して撮影を行うようなケースにおいては、被写体に輻輳を合わせることで視差量をゼロに調整しても、被写体の後方にある背景画像の視差量が過大となるため、人が快適に3D映像を視聴できるときの視差の範囲を超えてしまう。
【0006】
被写体と立体撮像装置との距離が非常に近接するケースとしては、例えば人物のインタビュー撮影や、スポーツ中継におけるバックヤードでの撮影時等が考えられる。このような場合、被写体と撮像装置との距離は1〜2m程度となり、輻輳点も1〜2mの距離に合わせることになる。このような場合の、人が快適に3D映像を視聴できる範囲内に視差を収めるのに最も有用なIADは、10mm〜40mmであると言われている。しかし、現状の一体型2眼3Dカメラでは、そのような短いIADを、画質や機能を保ったまま、すなわちレンズの径やイメージャのサイズを小さくすることなく実現することは困難な状況にある。
【0007】
前述したビームスプリッタ方式で撮影を行う場合は、2台の撮像装置が互いに物理的に干渉しないため、IADを非常に短くすることも可能となる。ところが、上述したように、撮影毎の設定および調整に非常な労力と時間を要するという問題があり、人物のインタビュー撮影や、スポーツ中継におけるバックヤードでの撮影に適さないという問題は依然として残る。
【0008】
例えば特許文献1には、カメラのフォーカス点が2眼の輻輳点に合致した状態のまま輻輳点を任意の位置に調整可能な立体画像撮影装置が記載されている。このような装置を使用すれば、IADを人の眼幅と同じ広さとして撮影をすることも可能となり、近接での撮影を行う場合にも、自然な立体感を得られる映像を撮影することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−5313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1で開示された内容を解析すると、対物光学系を具備したことにより、結像光学系の瞳に対応する仮想的な瞳が、結像光学系の瞳より被写体側(物体側)に形成されると考えられる。仮想的な瞳とは、被写体から出射される光線のうち、対物光学系を通過して結像光学系のレンズ中心を通過するすべての光線が通過する点である。すなわち、結像光学系の撮像素子に形成される映像は、その仮想的な瞳を瞳として撮影された映像と等価な映像となる。(以下、この仮想的な瞳のことを「実効瞳」と称する)したがって、2つの実効瞳間の距離が、この立体画像撮像装置の実質的なIAD(以下、実効IADと称する)であると言える。
【0011】
実効IADは、対物光学系の焦点距離や、対物光学系の後側主点から結像光学系の前側主点までの距離等のパラメータの値によって変化する。そして、実効IADが大きく変化した場合には、立体画像撮像装置によって取得される視差画像における視差量も大きく変化することになる。特許文献1には、像の立体感を調整する手法が記載されているが、そもそも実効IADという概念自体についての記載がない。よって、実効IADを大きく変化させないように輻輳点の形成位置の調整を行う手法も記載されていない。このため、特許文献1に記載の手法で輻輳位置の調整を行った場合には、その調整に伴って実効IADが大きく変化してしまう可能性もあり得る。すなわち、視聴中に像の立体感が大きく変化するような、視聴者に負荷を与えるような立体画像が撮影されてしまう可能性がある。
【0012】
本開示はかかる点に鑑みてなされたものであり、立体画像撮像装置により形成される仮想的な瞳の間隔を殆ど変化させることなく、輻輳点の形成位置を調整できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の立体画像撮像装置は、被写体を実像または虚像として形成する機能を有する対物光学系を備える。また、複数の独立した光学系により、対物光学系の異なる経路から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させる複数の結像光学系を備える。さらに、複数の結像光学系に対応して設けられ、複数の結像光学系により結像された視差画像を画像信号に変換する複数の撮像素子を備える。その上で、結像光学系および/または撮像素子の配置位置に対する対物光学系の相対的な配置位置または、対物光学系の配置位置に対する、結像光学系および/または撮像素子の相対的な配置位置を変化させることにより輻輳点の形成位置を調整する。輻輳点は、複数の結像光学系の各光軸が交差する位置または、複数の結像光学系の前側主点と撮像素子の中心とを結ぶ線同士が交差する位置に形成される。この輻輳点の形成位置の調整は、対物光学系の後側主点から結像光学系の前側主点までの間の対物光学系の光軸方向の距離における、対物光学系の焦点距離と、対物光学系の焦点から結像光学系の前側主点までの対物光学系の光軸方向における距離との比率が略一定となるように行う。
【0014】
このように構成および制御することで、輻輳点の形成位置を変化させた場合にも、仮想的な瞳の間隔を定めるパラメータである、対物光学系の後側主点と結像光学系の前側主点までの距離に対する、対物光学系の焦点距離の比率は変化しなくなる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、仮想的な瞳の間隔を殆ど変化させずに輻輳位置の調整を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本開示の立体画像撮像装置の概要を示す概略図である。
【図2】本開示の立体画像撮像装置により形成される実効瞳および実効IADについて説明する説明図である。
【図3】本開示の一実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図である。
【図4】本開示の第1の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は対物光学系を撮像部に近い位置に配置した例を示し、(b)は、(a)に示した位置から撮像部から離れる方向に、対物光学系を移動させた例を示す。
【図5】本開示の第2の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は可変焦点光学素子の曲率半径を大きくした例を示し、(b)は、可変焦点光学素子の曲率半径を(a)に示したものより小さく変化させた例を示す。
【図6】本開示の第3の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は、空間像の一番後ろ側に輻輳点が形成されるような位置に撮像部を配置した例を示し、(b)は、撮像部を(a)に示した位置より前方に移動させた例を示す。
【図7】本開示の第4の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は、空間像の一番前側に輻輳点が形成されるような角度に撮像部を配置した例を示し、(b)は、撮像部を、(a)に示した角度より対物光学系の光軸から乖離する方向に傾けた例を示す。
【図8】本開示の第5の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は、撮像素子の配置における結像光学系の光軸からのシフト量を少なくした場合の例を示し、(b)は、結像光学系の光軸からのシフト量を(a)に示した量よりも大きくした場合の例を示す。
【図9】本開示の第6の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は輻輳角可変レンズを結像光学系の光軸から離れた位置にシフトさせた例を示し、(b)は、輻輳角可変レンズを(a)に示した位置より対物光学系の光軸側にシフトさせた例を示し、(c)は、撮像素子を、結像光学系から離れる方向に(a)および(b)に示した位置から移動させた例を示す。
【図10】本開示の変形例による、対物光学系の光軸以外の軸上に輻輳点を設定する場合の立体画像撮像装置の構成例を示す概略図である。
【図11】本開示の変形例による、対物光学系の光軸以外の軸上に輻輳点を設定する場合の立体画像撮像装置の構成例を示す概略図である。
【図12】本開示の変形例による、撮像部を複数設けた場合の立体画像撮像装置の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.立体画像撮像装置の構成例
2.立体画像撮像装置により形成される実効瞳について
3.実効IADを殆ど変化させずに輻輳位置および/またはフォーカス位置を調整する手法について
4.第1の実施の形態(対物光学系をその光軸方向に移動することで輻輳位置の調整を行う例)
5.第2の実施の形態(対物光学系のレンズに可変焦点光学素子を使用し、その焦点距離可変機能を用いて輻輳位置の調整を行う例)
6.第3の実施の形態(撮像部全体を移動させることにより輻輳位置の調整を行う例)
7.第4の実施の形態(撮像部の姿勢を制御することにより輻輳位置の調整を行う例)
8.第5の実施の形態(結像光学系のレンズ位置に対して撮像素子の位置をシフトさせて配置した上で、撮像素子の位置のみを移動させることにより輻輳位置の調整を行う例)
9.第6の実施の形態(輻輳角を可変できるレンズを使用して輻輳点の調整を行い、撮像素子の位置を移動させることでフォーカス位置の調整を行う構成の例)
10.第1〜第6の実施の形態の変形例
【0018】
<1.立体画像撮像装置の構成例>
図1に、本開示の立体画像撮像装置1の構成例を示す。まず、図1に示す立体画像撮像装置1を参照して、以下に説明する第1〜第4の実施の形態に共通する立体画像撮像装置1の基本的な構成について説明する。図1に示す立体画像撮像装置1は、対物光学系10と、2つの撮像部2Rと2Lとを備える。対物光学系10は、図示しない被写体Sを実像として結像する機能を有する。撮像部2Rと2Lは、対物光学系10の異なる位置から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させ、結像した画像を画像信号に変換する。撮像部2Rは、結像光学系20Rと撮像素子202Rとを有し、撮像部2Lは、結像光学系20Lと撮像素子202Lとを有する。
【0019】
なお、図1に示す例では説明をわかり易くするために、対物光学系10を、焦点距離fの薄肉レンズであるものとしている。実際の対物光学系10は、多数枚・多群のレンズやフィルタ、絞り、レンズ駆動機構などから構成されているものとする。さらに、これらの機構に加えて、ズーム機能や焦点調節機能、その他の機能があってもよい。結像光学系20R,20Lも、実際は多数枚・多群のレンズやフィルタや絞り、またモータなどのレンズ駆動機構などから構成されており、ズーム機能や焦点調節機能やその他の機能があってもよい。
【0020】
図1に示す構成では、対物光学系10の光軸Ax1と、結像光学系20Rの光軸Ax2Rおよび結像光学系20Lの光軸Ax2Lとが同一平面上に存在するように、対物光学系10と結像光学系20R,20Lとを配置している。撮像部2Rと撮像部2Lとは、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとが、対物光学系の光軸Ax1上で交差するように配置している。また、撮像部2Rと撮像部2Lとは、対物光学系10の光軸Ax1を挟んで対称な位置に配置されている。
【0021】
そして、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとが空間像S′上で交差する点が、各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2の輻輳点cとなる。図1に示した例では、対物光学系10の焦点Fから距離δだけずれた位置に輻輳点cが設定されている。撮像部2R(2L)における結像光学系20R(20L)と撮像素子202R(202L)との位置関係は、輻輳点cの位置に最適な結像が得られるような位置に予め調整されているものとする。なお、以下の説明において、撮像部内のそれぞれの構成について、左(L)と右(R)における配置または動作が同一の場合等、左右を特に区別して説明する必要がない場合には、単に撮像部2、結像光学系20、撮像素子202、結像光学系20の前側主点s、光軸Ax2のように表記して説明する。
【0022】
また、立体画像撮像装置1は、結像光学系20R(20L)のレンズを駆動するモータ210R(210L)と、撮像素子202R(202L)の位置を移動させる撮像素子位置制御部211R(211L)を備える。また、撮像部2R(2L)の姿勢を可変させるカメラ姿勢制御部212R(212L)を備える。さらに、レンズ駆動用のモータ210Rと210Lや撮像素子位置制御部211Rと211L、カメラ姿勢制御部212Rと212Lに対して制御信号を供給する制御部5を備える。なお、立体画像撮像装置1がこれらの各部をすべて備えるように構成してもよいが、後述する実施の形態に応じて最小限の構成のみを備えるようにしてもよい。
【0023】
このように構成した立体画像撮像装置1によれば、無限遠に在る被写体Sの像は対物光学系10の後ろ側の焦点位置Fに結像し、有限距離にある被写体Sの像は、その対物光学系10からの距離に応じて焦点Fより後方(撮像素子202R,202L側)に結像する。なお、説明の便宜上、対物光学系10と結像光学系20Rおよび20Lによって実像が形成される場合を例に挙げているが、これに限定されるものではない。
【0024】
<2.立体画像撮像装置1によって形成される実効瞳について>
次に、立体画像撮像装置1によって形成される実効瞳について、図2を参照して説明する。図2は、被写体Sから放射される光線のうちの、結像光学系20R,20Lのレンズの主点を通過する光線の辿る経路を示す光路図である。図2では、これらの光線を、被写体Sの異なる3つの位置から放射される3本の光線で代表して示している。結像光学系20Rの前側主点sRを通過する光線は破線で示してあり、結像光学系20Lの前側主点sLを通過する光線は実線で示してある。
【0025】
被写体Sから放射された光線は、対物光学系10を通過すると、対物光学系10と結像光学系20R,20Lとの間で結像する。結像光学系20R,20Lのレンズを視点にして眺めると、あたかもその位置に物体があるように見えるため、この位置にできる像は空間像S′と称される。この空間像S′の形成位置を通過した光線は、2つの結像光学系20R,20Lに導かれて撮像素子202Rおよび撮像素子202Lの撮像面(図示略)上に結像し、それぞれが視差画像となる。
【0026】
また、被写体Sから放射された光線は、もし結像光学系20R,20Lのレンズの中心から光線が放射されるとすると、その光線が辿る経路と同じ経路を辿る。このため、結像光学系20R,20Lのレンズの中心から放射された光線についても考えてみると分かりやすい。結像光学系20R,20Lのレンズの中心から放射された光線は、空間像S′のある一点を通過した後に対物光学系10のレンズに到達し、そこから「空間像S′のある一点」に対応する被写体Sのある一点に向かって進行する。このとき、対物光学系10のレンズを通過した光線は、被写体Sに到達するまでの間に再びある一点で交わっていることが分かる。
【0027】
つまり、この一点は、結像光学系20R,20Lのレンズ中心を通過することになるすべての光線が通過する点であると言える。このため、結像光学系20Rの撮像素子202Rの撮像面および、に結像光学系20Lの撮像素子202Lの撮像面結像される映像は、この「一点」を実質的な瞳として撮影された画像と等価なものとなる。つまり、この「一点」は立体画像撮像装置1における実質的な瞳(実効瞳EP)であると考えられる。したがって、左右の結像光学系20Rと20Lによって形成される各実効瞳EP間の距離は、立体画像撮像装置1における実質的なIAD(以下、実効IADedと称する)であると言える。
【0028】
実効IADedは、下記の式1で表現される。
実効IADed=f/(L−f)×d …(式1)
上記式1において、“f”は対物光学系10の焦点距離であり、“L”は対物光学系10の後側主点rと、結像光学系20Rの前側主点sRおよび結像光学系20Lの前側主点sLまでの、対物光学系10の光軸Ax1方向における距離である。なお、図2で示したように、対物光学系10のレンズを薄肉レンズとして理想化した場合は前側主点と後側主点の区別はなく、前側主点と後側主点は一致する。“d”は、結像光学系20Rと結像光学系20Lの配置位置により定まる物理的なIAD(以下、IADdと称する)である。
【0029】
例えば、対物光学系10の焦点距離fが70mmであり、距離Lが370mmであるとする。また、結像光学系20Rと結像光学系20Lとを、対物光学系10の光軸Ax1を対称軸として距離d=60mmだけ離して配置したものとする(IADd=60mm)。この場合、実効IADedは、上記式1により14mmと算出される。つまり、本開示の立体画像撮像装置1によれば、実効IADedが、物理的なIADd(60mm)に比べてf/(L−f)倍だけ短く(14mm)なる。
【0030】
したがって、対物光学系10の焦点距離fと距離Lとを、以下の式2を満たす値に設定すれば、結像光学系20Rと20Lの配置位置により求まる物理的なIADdよりも、実効IADedを短くすることができる。なお、以下の式では、対物光学系10のレンズとして凸レンズを使用しており、その焦点距離fが正(f>0)であることを前提としている。
f/(L−f)≦1 …(式2)
【0031】
<3.実効IADを変化させずに輻輳位置(および/またはフォーカス位置)を調整する手法について>
図1に戻って、立体画像撮像装置1による輻輳点の形成位置(以下、輻輳位置とも称する)の調整方法について説明する。ここでは、実効IADを変化させずに輻輳位置(および/またはフォーカス位置)の調整を行う手法の概要を説明し、輻輳位置調整方法の具体的な例については、第1〜第6の実施の形態として後述する。
【0032】
図1において、結像光学系20Rの前側主点sRと結像光学系20Lの前側主点sLとの間の距離(物理的なIAD)を距離dとし、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)から対物光学系10の光軸Ax1に下ろした垂線の、光軸Ax1との交点を交点xとしてある。また、対物光学系10の焦点Fと交点xとの間の距離は、距離Aとしてある。
【0033】
また、対物光学系10の焦点Fと結像光学系20R(20L)のレンズの前側主点sR(sL)とを結ぶ線を実線で示してあり、この線と対物光学系10の光軸Ax1とのなす角をθとしている。結像光学系20R(20L)の光軸Ax2R(Ax2L)と、対物光学系10の光軸Ax1とのなす角は、θ′としてある。
【0034】
結像光学系20Rの前側主点sRと結像光学系20Lの前側主点sLの位置は、ある撮影距離にある被写体Sを撮影する際に最適な視差量が得られる位置に調整されているものとする。つまり、両結像光学系の主点間距離により定まる物理的なIADdは、任意の距離に設定されているものとする。この状態で、空間像S′の任意の位置に輻輳位置を調整する場合を考える。
【0035】
結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとがなす角度である輻輳角θ′を変化させることによって、輻輳点cの形成位置を変化させる場合には、以下の制御を行う。それにより、実効IADedを変化させずに輻輳位置を変更できる。つまり、結像光学系20R(20L)の光軸Ax2R(Ax2L)と対物光学系10の光軸Ax1とのなす角θ′を、以下の(式3)を満たす角度に調整する。
角θ′=arctan(d/2(A−δ)) …(式3)
【0036】
なお、輻輳点cを所望の位置に調整した場合にも、その後にフォーカスの調整が行われることで、実効IADedが変化してしまうことがある。実効IADedを変化させないためには、フォーカスの調整によって、“tanθ=d/2A”が変化しないような制御を行えばよい。つまり、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)から対物光学系10の光軸Ax1に下ろした垂線の長さ(d/2)と、対物光学系10の光軸Ax1とその垂線との交点xから対物光学系10の焦点Fまでの長さ(距離A)との比が一定となるように、フォーカス調整を行えばよい。
【0037】
例えば、結像光学系20Rの前側主点sRと結像光学系20Lの前側主点sLの位置を固定としてフォーカスの調整を行えば、距離Aや垂線d/2の長さも変化することがなくなる。もしくは、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)の位置を移動させてフォーカスの調整を行う場合には、その移動を、対物光学系10の焦点Fと各結像光学系20の前側主点sとを結ぶ直線に沿って行うようにする。これにより、“tanθ=d/2A”を一定に保つことができる。
【0038】
なお、図3に示すように、各結像光学系20の各光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行となるように立体画像撮像装置1を構成した場合にも、同様の制御を行うことで、実効IADed(図2参照)を変化させずに輻輳位置の調整を行うことができる。図3に示す構成は、第5の実施の形態および第6の実施の形態に共通するものである。図3に示した構成では、各結像光学系20の主面が対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直となるように、各結像光学系20のレンズを配置している。また、各撮像素子202を、その撮像面を対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直とした状態で、かつ、各結像光学系20の各光軸Ax2からシフト量vだけシフトした位置に配置している。このシフトは、対物光学系10の光軸Ax1から離れる方向に行っている。
【0039】
立体画像撮像装置1をこのように構成した場合には、結像光学系20Rの前側主点sRと撮像素子202Rの中心を通る光線と、結像光学系20Lの前側主点sLと撮像素子202Lの中心を通る光線とが交差する位置に、輻輳点cが形成される。したがって、輻輳角を変化させることによる輻輳位置の調整は、例えば、各撮像素子202のシフト量vを調整することによって実現可能となる。この場合は、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)と撮像素子202R(202L)の中心を通る光線と、対物光学系10の光軸Ax1とがなす角度θ′が、上述した式3を満たすよう制御する。これにより、実効IADedを変化させることなく輻輳位置を変化させることができる。
【0040】
図3に示す構成においても、輻輳位置の調整後にフォーカス調整が行われた場合には、図1に示した例と同様に実効IADedが変化してしまう。したがって、実効IADedを変化させないためには、以下に示すような手法でフォーカス調整を行う必要がある。
【0041】
図3に示す構成においてフォーカス調整を行う手法としては、例えば、各撮像素子202を動かして、各結像光学系20の前側主点sから撮像素子の撮像面までの距離である距離wを可変させる手法が考えられる。すなわち、各撮像素子202を、結像光学系20の前側主点sと撮像素子202の中心を通る線上で移動させることにより、フォーカスの位置が変化する。このとき、各撮像素子202の移動を、各結像光学系20の前側主点sの位置を固定した状態で行えば、上述した“tanθ=d/2A”が変化することがなくなる。すなわち、実効IADedを変化させることなくフォーカス調整を行うことができる。
【0042】
各撮像素子202のシフト量vの調整による輻輳位置の調整と、距離wの調整によるフォーカス調整を同時に行う場合には、シフト量v/距離wの比率を守った上で調整を行う必要がある。具体的には、まず、輻輳点cの形成位置により定まる、対物光学系10の焦点Fから輻輳点cまでの距離δに基づいて、距離wとシフト量vを算出する。そして、これらの距離wとシフト量vにより定まる位置に、各撮像素子202を移動させる。距離wは、以下の式4により算出することができる。
1/w=1/fr−1/(A−δ)… (式4)
上記式4において、“fr”は各結像光学系20の焦点距離を示す。なお、上記式4では、(A−δ)>frであることを前提としている。距離δは、輻輳点cを形成したい空間像S′上の位置を決めることにより定まる。また、距離δと、あらかじめ定められている距離Aと距離d/2を上述した式3に代入することにより、各結像光学系20の主点sと撮像素子202の中心とを通る直線と、対物光学系10の光軸Ax1とのなす角θ′が求まる。そして、式4により算出される距離wに角θ′を乗算することで、シフト量vが求められる。このようにして求められた距離wとシフト量vにより定まる位置に各撮像素子202を移動させることで、実効IADedを変化させることなく、フォーカス位置と輻輳位置とを同時に変えることができる。
【0043】
図1と図3に示した構成のいずれにおいても、フォーカス調整を行う際には、結像光学系20Rにおける距離Aと結像光学系20Lにおける距離Aとが常に同じ値となるように、結像光学系20Rと結像光学系20Lとの調整を連動して行うようにする。ここでいう(すなわち、各結像光学系20における)フォーカス調整とは、物体面(フォーカス面)を有限距離の範囲内で移動させる調整を指す。すなわち、対物光学系10を含んだトータル(全体)の光学系ではなく、結像光学系20(および/または撮像素子202)で行える範囲の調整を指す。これは、以下で説明する各実施の形態にも共通するものとする。
【0044】
次に、本開示の立体画像撮像装置1による輻輳位置調整方法について説明する。輻輳位置の調整方法としては、大きく2つの方法が考えられる。一つは、所定の位置に設定された輻輳点に対して、空間像S′の形成位置の方を移動させることにより、結果として空間像S′に対する輻輳点の相対的な位置を変化させる方法である。もう一つは、輻輳角を可変させることにより、輻輳位置を変化させる方法である。前者の手法の実現手段を第1〜第3の実施の形態として説明し、後者の手法の実現手段を第4〜第6の実施の形態として説明する。
<4.第1の実施の形態(対物光学系をその光軸方向に移動することで輻輳位置の調整を行う例)>
図4(a)および図4(b)は、本開示の第1の実施の形態による立体画像撮像装置1−1の構成例を示す概略図である。立体画像撮像装置1−1の構成および配置は、図1に示したものと同一である。すなわち、1つの対物光学系10と2つの撮像部2R,2Lで構成され、撮像部2Rと撮像部2Lとを、互いの光軸Ax2Rと光軸Ax2Lとが対物光学系の光軸Ax1上の空間像S′の形成位置上で交差するような位置に配置している。これらの光軸の交点は、対物光学系10の焦点Fから距離δだけ離れた位置に形成されている。空間像S′においてこの交点と対応する位置に形成された像は、両眼視差ゼロの画像として左右の撮像部2Lと2Rによって取得される。つまり、この交点が、各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2の輻輳点cとなる。対物光学系10は、凹レンズと凸レンズとを含むレンズ群で構成されている。詳細については後述するが、対物光学系10の焦点距離fを短くすることを目的として、このような構成をとっている。
【0045】
なお、立体画像撮像装置1−1の配置を、図3に示したような配置としてもよい。すなわち、各結像光学系20の各光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行となるように配置してもよい。本実施の形態においては、各結像光学系20の光軸Ax2または、各結像光学系20の前側主点sと各撮像素子202の中心を結ぶ線が、対物光学系10の光軸Ax1上で交差するように立体画像撮像装置1−1が構成されていればよい。つまり、各撮像部2の構成等については、その形態を問わない。
【0046】
次に、同じく図4(a)と図4(b)を参照して、立体画像撮像装置1−1による輻輳位置調整動作について説明する。対物光学系10のレンズの一部または対物光学系10全体を対物光学系10の光軸Ax1の方向に移動すると、これに伴い、空間像S′の形成位置も対物光学系10の光軸Ax1上を移動する。例えば、対物光学系10の全体を被写体S側(物体側)に移動させる(対物光学系10のレンズ鏡筒(図示略)を繰り出す)と、図4(b)に示すように、空間像S′の形成位置も同じく物体側に移動する。各結像光学系20および、各結像光学系20に対応する各撮像素子202により構成される各撮像部2の配置に変化が無ければ、交点(輻輳点c)の形成位置は変わらない。このため、この輻輳点cに対する空間像S′の形成位置は、被写体(物体)側に移動する。言い換えると、空間像S′の形成位置に対して、輻輳点cが相対的に後方(光の出射側)に移動することになる。
【0047】
つまり、対物光学系10の繰り出し動作に追従して空間像S′の形成位置が移動するため、対物光学系10の繰り出し量を制御することで、輻輳点cの形成される位置(輻輳位置)を空間像S′上の任意の位置に調整することが可能となる。なお、対物光学系10の繰り出し量は、対物光学系10により形成された空間像S′の奥行き方向の長さの範囲内で、空間像S′の形成位置を移動させる程度の量となる。例えば、焦点距離fが50mmのレンズであれば、1〜2mm程度の繰り出し量で、空間像S′を任意の位置に移動させることができる。すなわち、輻輳位置を任意の位置に調整することができる。
【0048】
上述した第1の実施の形態による輻輳位置調整方法では、厳密に言うと、実効IADedはわずかながらも変化する。対物光学系10を繰り出す動作によって、実効IADedを定めるパラメータの一つである「距離L」が変化するためである。「距離L」とは、前述したように、各結像光学系20の前側主点sから対物光学系10の光軸Ax1に下ろした垂線と光軸Ax1との交点から、対物光学系10の焦点Fまでの距離である。実効IADedは、上述した式1によって算出できる。しかし、立体画像撮像装置1−1による輻輳位置調整の際に対物光学系10のレンズを繰り出す量は1〜2mm程度であるため、実効IADedに与える影響は非常に小さいものと考えられる。
【0049】
輻輳位置調整が実効IADedに与える影響をより小さくするには、焦点距離fが短くなるように対物光学系10を構成するとよい。焦点距離fが短くなることで、空間像S′の奥行き方向の長さを短くすることができるため、対物光学系10のレンズの繰り出し量をより少なくすることが可能となる。もしくは、各撮像部2における撮影距離を長くとって撮影を行うことで、繰り出し量の変化が与える距離Lに対する影響をより小さくすることができる。また、対物光学系10のレンズとして、フォーカス調整によって前側主点sの位置が殆ど変化しないレンズを採用すれば、「距離L」を変化させずに空間像S′の形成位置を変えることができる。フォーカス調整によって前側主点sの位置が殆ど変化しないレンズには、インナーフォーカス方式のレンズやリアフォーカス方式のレンズ等がある。
【0050】
上述した第1の実施の形態によれば、対物光学系10の全体または一部のレンズを移動させる(レンズ鏡筒を繰り出す操作を行う)ことで、輻輳位置を容易に調整することができる。つまり、対物光学系10による結像位置の調整動作を行うだけで、輻輳位置を任意の位置に調整することができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、対物光学系10の全体または一部のレンズを移動させるため、輻輳位置とフォーカス位置とが同時に可変される。これにより、撮影者が立体画像を撮影する際の設定に必要な工数を減らすことができるため、立体画像の撮影を容易に行えるようになる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、対物光学系10の全体または一部のレンズを移動させるため、被写体Sと撮像部2の間の距離を変化させることなく、任意の位置に輻輳位置を調整することができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、実効IADedを殆ど変化させることなく、輻輳位置を調整することができる。すなわち、撮影される画像の立体感を変えることなく、輻輳位置を可変させることができる。
【0054】
また、本実施の形態の立体画像撮像装置1−1によれば、物理的なIADdだけでなく、対物光学系10の焦点距離fや各結像光学系20の配置位置等の様々なパラメータを選ぶことによって、立体画像撮像装置の実質的なIADを選ぶことができる。さらに、対物光学系10の焦点距離fと距離Lとを、上述した式2を満たす値に設定すれば、結像光学系20Rと20Lの配置位置により求まる物理的なIADdよりも、実効IADedを短くすることができる。
【0055】
<5.第2の実施の形態(対物光学系のレンズに可変焦点光学素子を使用し、その焦点距離可変機能を用いて輻輳位置の調整を行う例)>
本開示の第2の実施の形態による立体画像撮像装置1−2について、図5(a)と図5(b)を参照して説明する。図5(a)と図5(b)において、図1や図4と対応する箇所には同一の符号を付してあり、詳細な説明は省略する。立体画像撮像装置1−2では、対物光学系10−1を、1枚の凸レンズ10−1aと可変焦点光学素子10−1bとで構成している。可変焦点光学素子10−1bとしては、例えば、流す電気の電圧によって光の屈折率を変えることができる液体レンズ等を用いることができる。
【0056】
撮像部2Rと撮像部2Lとは、互いの光軸Ax2Rと光軸Ax2Lとが対物光学系の光軸Ax1上の空間像S′の形成位置上で交差するような位置に配置している。すなわち、2つの光軸Ax2が交差してできる交点が、各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2における輻輳点cとなる。なお、立体画像撮像装置1−2においても、撮像部2Rと2Lの配置は図5(a)および(b)に示した例に限定されるものではない。図3に示した配置のように、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行になるように配置してもよい。つまり、各結像光学系20の光軸Ax2または、各結像光学系20の前側主点sと各撮像素子202の中心を結ぶ線が、対物光学系10の光軸Ax1上で交差するように各撮像部2が配置されていればよい。
【0057】
次に、同じく図5(a)と図5(b)を参照して、立体画像撮像装置1−2による輻輳位置調整方法について説明する。立体画像撮像装置1−2では、可変焦点光学素子10−1bの曲率を変化させて対物光学系10−1の焦点距離fを可変することにより、空間像S′の形成位置を移動させる。対物光学系10−1の焦点距離fは、凸レンズ10−1aの焦点距離f1と可変焦点光学素子10−1bの焦点距離f2の合成焦点距離fとして示される。したがって、対物光学系10−1の焦点距離fは、以下の式5で表される。
焦点距離f=(f1*f2)/(f1+f2−ds) …(式5)
上記式において、“ds”は、凸レンズ10−1aの主面と可変焦点光学素子10−1bの主面との間の距離を示す。
【0058】
図5(b)には、可変焦点光学素子10−1bの曲率半径を、図5(a)に示した状態から小さく変化させた場合の例を示している。曲率を変化させた場合の可変焦点光学素子10−1bの焦点距離をf2′とすると、焦点距離f2′は焦点距離f2よりも短くなる。凸レンズ10−1aとの焦点距離fは、上述したように、上記の式5により算出される。したがって、2つのレンズの主点間の距離dsが固定であるとすると、可変焦点光学素子10−1bの曲率半径が小さくなる(レンズが厚くなる)ことによって、対物光学系10−1の合成焦点距離fも短くなる。
【0059】
そして、対物光学系10−1の焦点距離fが短くなることにより、空間像S′の形成位置が、対物光学系10の光軸Ax1上を被写体S側に移動する。撮像部2Rと2Lの配置は固定であり、輻輳点cの位置も移動しないため、輻輳点cに対する空間像S′の相対的な位置が変化することで、輻輳点cの空間像S′における位置が可変する。
【0060】
上述した第2の実施の形態の立体画像撮像装置1−2によれば、第1の実施の形態により得られる効果として説明した効果と同様の効果を得ることができる。また、立体画像撮像装置1−2では、レンズ位置を移動させて結像位置を変化するのではなく、可変焦点光学素子10−1bの曲率を変化させて対物光学系10−1の焦点距離fを変えることにより、結像位置を可変する。つまり、レンズ位置を移動させる場合と比較して、焦点距離fを変化させるために必要な「可変」の絶対量が、非常に少なくなる。したがって、焦点距離fの可変を実現するための可動部の等価質量が、第1の実施の形態に示したレンズ位置を移動させる構成に比べて、大幅に小さくなる。これにより、フォーカス制御の応答周波数を高くすることができるため、フォーカスの可変や輻輳位置の可変を非常に高速に行えるようになる。すなわち、動きの速い被写体Sにも、フォーカスと輻輳位置を追従させることが可能となる。
【0061】
<6.第3の実施の形態(撮像部全体を移動させることにより輻輳位置の調整を行う例)>
本開示の第3の実施の形態による立体画像撮像装置1−3ついて、図6(a)と図6(b)を参照して説明する。立体画像撮像装置1−3の構成および配置は、図1や図4に示したものと同一である。すなわち、1つの対物光学系10と2つの撮像部2R,2Lで構成され、撮像部2Rと撮像部2Lとを、互いの光軸Ax2Rと光軸Ax2Lとが対物光学系の光軸Ax1上の空間像S′の形成位置上で交差するような位置に配置している。すなわち、2つの光軸Ax2が交差する交点が各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2における輻輳点cとなる。なお、立体画像撮像装置1−3においても、図3に示した配置のように、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行になるように、各撮像部2を配置してもよい。つまり、各結像光学系20の光軸Ax2または、各結像光学系20の前側主点sと各撮像素子202の中心を結ぶ線が、対物光学系10の光軸Ax1上で交差するように各撮像部2が配置されていればよい。
【0062】
次に、同じく図6(a)と図6(b)を参照して、立体画像撮像装置1−3による輻輳位置調整方法について説明する。本実施の形態では、各撮像部2全体を前後方向に移動させることにより空間像S′の形成位置を変化させ、輻輳点cの被写体(空間像S′)における位置を可変する。各撮像部2の移動は、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)を通る、対物光学系10の光軸Ax1に平行な線Lnに沿って行うようにする。この線Lnは、図6においては破線で示してある。
【0063】
対物光学系10は動かさずに固定とすることで、空間像S′の位置も固定となる。その状態で、上述した手法で各撮像部2を前後方向に移動させることにより、輻輳点cの形成位置もそれに追従して移動する。図6(a)は、輻輳点cが、空間像S′の後側(結像光学系20側)に形成されている状態を示したものである。この状態から、各撮像部2を被写体側に移動させることにより、輻輳点cの形成位置も同様に被写体側に移動する。
【0064】
上述した第3の実施の形態によれば、フォーカス調整作業とは独立して輻輳位置調整作業を行えるようになる。また、フォーカス調整作業だけでなく、物理的なIADdの調整やズーミング調整等の他の調整とも独立して、輻輳位置の調整を行うことができる。
【0065】
さらに、本実施の形態によれば、実効IADedを変化させずに輻輳位置を調整することができる。また、第1の実施の形態により得られる効果と同様の効果として、様々なパラメータを選ぶことにより実効IADedを決定することができる効果や、実効IADedを物理的なIADdより短くできる効果も得ることができる。
【0066】
なお、立体画像撮像装置1−3において、各撮像部2をパンフォーカス(ディープフォーカス)カメラとして構成することで、フォーカス位置調整動作を行う必要がなくなる。このように構成することで、立体画像撮像装置1−3の構成をより簡略化することができる。また、各撮像部2をパンフォーカス(ディープフォーカス)カメラとして構成すれば、被写界深度が深い状態で撮影が行われるため、フォーカスが合っている範囲も非常に広くなる。これにより、フォーカスが合っていないボケた状態の被写体が融像されてしまうことを防げる。さらに、左右の撮像部2で取得される視差画像において、同一の被写体Sに対するフォーカス状態の差異が発生しないという効果も得られる。
【0067】
<7.第4の実施の形態(撮像部の姿勢を制御することにより輻輳位置の調整を行う例)>
本開示の第4の実施の形態による立体画像撮像装置1−4について、図7(a)と図7(b)を参照して説明する。立体画像撮像装置1−4の構成は、図1に示した構成と基本的に同一である。すなわち、1つの対物光学系10と2つの撮像部2R,2Lで構成され、撮像部2Rと撮像部2Lとを、互いの光軸Ax2Rと光軸Ax2Lとが対物光学系の光軸Ax1上の空間像S′の形成位置上で交差するような位置に配置している。すなわち、2つの光軸Ax2が交差した交点が、各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2における輻輳点cとなる。輻輳点cは、対物光学系の焦点Fより距離δだけ離れた位置に設定されている。各結像光学系20の前側主点sの位置は、対物光学系焦点Fから光軸Ax1上を距離Aだけ離れた位置であり、かつ、光軸Ax1から垂直方向に距離d/2だけ離れた位置に配置されている。
【0068】
立体画像撮像装置1−4による輻輳位置調整は、撮像部2の姿勢を制御することにより行う。具体的には、各結像光学系20の前側主点sを中心に各カメラ姿勢制御部212が各撮像部2を回動させることにより、輻輳位置を調整する。図7(b)には、撮像部2Rと2Lの姿勢が、それぞれ図7(a)に示した状態よりも内側(対物光学系10の光軸Ax1側)に傾いた状態が示されている。このように各撮像部2を回動させることにより、輻輳点cの形成位置が、図7(a)に示した位置より後側に移動する。これに伴って、対物光学系10の焦点Fからの輻輳点cまでの距離δも長くなっている。
【0069】
空間像S′上の任意の点に輻輳位置が合うように距離δの値を調整するには、各撮像部2を回動させる角度も制御する必要がある。具体的には、各結像光学系20の光軸Ax2と対物光学系10の光軸Ax1とがなす角θ′を、前述した式3(角θ′=arctan(d/2(A−δ)))により定まるθ′となるように、各撮像部2の回動を制御する。フォーカスを最短撮影距離に合わせる場合には距離δの値が大きくなるため、上記式に示される関係により角θ′も大きくなる。フォーカスを無限遠に合わせる場合には距離δはゼロとなるため、角θ′は最も小さな角度となる。
【0070】
上述した第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態により得られる効果と同様の効果を得ることができる。すなわち、実効IADedをまったく変化させることなく、輻輳位置の調整を行うことができる。また、各各撮像部2をパンフォーカス(ディープフォーカス)カメラとして構成すれば、各撮像部2を回動させることにより各撮像部2の姿勢を変化させる制御を行うのみで、輻輳位置を可変できるようになる。このように構成することで、輻輳位置を可変させる可動部を直動案内機構として構成した場合と比べて、可動部の駆動に必要なパワーも少なくすることができる。したがって、立体画像撮像装置1−4における消費電力量も減少させることができるため、バッテリー(図示略)の消費量も少なく抑えることができる。
【0071】
なお、立体画像撮像装置1−4を、手ぶれ補正機能を有する撮像装置に適用してもよい。この場合には、各撮像素子202を物理的にシフトさせるのではなく、撮像素子202が画像を撮像面から読み出す読み出し範囲を電気的にシフトすることにより、輻輳位置の調整を行うことができる。
【0072】
<8.第5の実施の形態(結像光学系のレンズ位置に対して撮像素子の位置をシフトさせて配置した上で、撮像素子の位置のみを移動させることにより輻輳位置の調整を行う例)>
第5の実施の形態による立体画像撮像装置1−5について、図8(a)と図8(b)とを参照して説明する。立体画像撮像装置1−5の構成および配置は、図3に示したものと同一である。つまり、一枚の理想レンズで示した対物光学系10と、2つの撮像部2R,2Lとを備える構成としてあり、各結像光学系20の配置を、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行になる位置に配置している。さらに、各撮像素子202は、その撮像面が対物光学系10の光軸Ax1に垂直となるようにその角度が調整されている。さらに、各撮像素子202の中心位置が、結像光学系20の光軸Ax2からシフトさせた位置に配置されるように、各撮像素子202を配置している。シフトの方向は、対物光学系10の光軸Ax1から乖離する方向としてある。各撮像素子202のシフトの量vは、各結像光学系20の後側主点sと撮像素子202の中心とを結ぶ直線が、対物光学系10の光軸Ax1上の交点cで交差するような量に調整されている。
【0073】
次に、同じく図8(a)および図8(b)を参照して、立体画像撮像装置1−5による輻輳位置調整動作について説明する。輻輳点位置の制御は、各結像光学系20に対して各撮像素子202をシフトすることで行われる。つまり、図3を参照して説明したように、各撮像素子202の結像光学系20の光軸Ax2に対するシフト量vを可変することで、輻輳点cの形成位置(対物光学系10の焦点Fからの距離δ)を可変することができる。
【0074】
上述した第5の実施の形態によれば、第3(第4)の実施の形態により得られる効果と同様の効果が得られる。すなわち、実効IADedをまったく変化させることなく、輻輳位置の調整を行うことができる。また、本実施の形態によれば、各撮像素子202の位置を変化させるのみで輻輳位置を可変できるため、第3の実施の形態で示した例のように、各撮像部2全体を移動させる場合と比べて、輻輳位置を可変させるための可動部の等価質量を小さくすることができる。すなわち、可動部の駆動に必要なパワーも少なくすることができるため、立体画像撮像装置1−5における消費電力量も減少させることができる。これにより、バッテリーの消費量も少なく抑えることができる。
【0075】
また、上述した第5の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様に、左右の視差画像においてそのフォーカス面が同一となるという効果が得られる。左右の視差画像においてそのフォーカス面が同一となれば、輻輳角がついた状態でも、左右の撮像部2Lと2Rの取得画像における台形歪みの発生がなくなる。したがって、台形歪みを取るための画像処理を行うことなく、良好な視差画像を得ることができる。
【0076】
<9.第6の実施の形態(輻輳角を可変できるレンズを使用して輻輳点の調整を行い、撮像素子の位置を移動させることでフォーカス位置の調整を行う構成の例)>
第6の実施の形態による立体画像撮像装置1−6について、図9(a)〜図9(c)を参照して説明する。立体画像撮像装置1−6は、一枚の理想レンズで示した対物光学系10と、2つの撮像部2Rα,2Lαとを備える構成としてある。各撮像部2αは、結像光学系20αと撮像素子202とで構成される。各結像光学系20の配置は、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行になる配置としている。
【0077】
結像光学系20R(20L)は、凹レンズよりなる輻輳角可変レンズ204R(204L)と、2つの凸レンズとを含む構成としている。輻輳角可変レンズ204R(204L)は、結像光学系20の光軸Ax2に対して、対物光学系10の光軸Ax1から垂直方向に所定の距離だけシフトした位置に配置されている。シフトの方向は、対物光学系10の光軸Ax1から乖離する方向としてある。この輻輳角可変レンズ204R(204L)で結像光学系20の光軸が屈曲することにより、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとが、対物光学系10の光軸Ax1上の交点cで交差している。輻輳角可変レンズ204R(204L)のシフト量は、任意の値に設定できるようになっている。
【0078】
次に、同じく図9(a)〜図9(c)を参照して、立体画像撮像装置1−6による輻輳位置調整動作について説明する。各結像光学系20の光軸Ax2の屈曲量は、各輻輳角可変レンズ204の配置位置のシフト量に比例する。つまり、各輻輳角可変レンズ204の配置位置を変化させることで、各結像光学系20の光軸Ax2の屈曲量、すなわち、各結像光学系20の光軸Ax2と対物光学系10の光軸Ax1とのなす角度が変化する。この角度が変化することで、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとの交点に形成される輻輳点cの、対物光学系10の光軸Ax1上での形成位置も変わる。したがって、立体画像撮像装置1−6では、輻輳角可変レンズ204の配置位置を変えることで、そのシフト量に応じて輻輳位置を変化させることができる。
【0079】
図9(a)と図9(b)は、各結像光学系20の輻輳角可変レンズ204をシフトさせた場合の、各結像光学系20の光軸Ax2上での輻輳角可変レンズ204の位置の変化を示した図である。図9(a)では、各輻輳角可変レンズ204の位置を、結像光学系20Rの光軸Ax2に対して、対物光学系10の光軸Ax1から大きく離れた位置に配置している。このように配置したことにより、光線が凹レンズで構成される輻輳角可変レンズ204の下端近くを通るようになるため、光の屈折率が大きくなる。これにより、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と交差する位置が、空間像S′の後方(結像光学系20側)となる。
【0080】
図9(b)に示すように、各輻輳角可変レンズ204の配置位置を、対物光学系10の光軸Ax1に近づく方向(下方向)にシフトさせると、輻輳角は小さくなり、輻輳点cも空間像S′の前方(被写体S側)に形成されるようになる。つまり、輻輳角可変レンズ204の位置を対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直方向に上下にシフトさせることで、そのシフト量に応じて輻輳点cの形成位置を調整することができる。なお、輻輳角可変レンズ204のシフト量は、輻輳点cの形成位置が、空間像S′の形成される範囲内となるように調整するものとする。つまり、本実施の形態による立体画像撮像装置1−6によれば、輻輳点cの可変範囲vrは、空間像S′の形成される奥行き方向の長さと同一となる。
【0081】
また、立体画像撮像装置1−6では、各撮像素子202が、その撮像面が各結像光学系20の光軸Ax2に対して垂直となる角度で配置されている。このため、フォーカスの調整も、各撮像素子202の位置を結像光学系20の光軸Ax2上で前後させる動作により実現することができる。図9(c)には、各撮像素子202の位置を、図9(b)に示した位置より後方に移動させた場合の例を示してある。このように、各撮像素子202の位置を後方に移動させることにより、この移動に伴って、フォーカス面fpも空間像S′上を後方に移動する。
【0082】
上述した第6の実施の形態によれば、第3〜第5の実施の形態により得られる効果と同様の効果を得ることができる。すなわち、実効IADedをまったく変化させることなく、輻輳位置の調整を行うことができる。また、本実施の形態によれば、輻輳角可変レンズ204のみを駆動させることにより輻輳位置の調整が行えるため、輻輳位置の調整に必要な可動部の等価質量を小さくすることができる。すなわち、可動部の駆動に必要なパワーも少なくすることができるため、立体画像撮像装置1−6における消費電力量も減少させることができる。これにより、バッテリーの消費量も少なく抑えることができる。
【0083】
また、本実施の形態では、フォーカス調整の際に、各撮像素子202を同一姿勢で同一方向へ移動させる制御を行う。つまり、左右の撮像素子202Lと202Rとを一体的に移動させることが可能である。そのため、同一の部材上に撮像素子202Rと202Lとを固着して、対物光学系10の光軸Ax1及び結像光学系20αの光軸Ax2と平行に移動することが可能となる。これにより、立体画像撮像装置の機構を簡略化することができるだけでなく、左右の撮像素子202Lと202Rの撮像面を同一の面上に維持することも容易となる。したがって、経時変化等に対する信頼性の確保が容易となるという効果も得られる。
【0084】
さらに、第2の実施の形態や第5の実施の形態と同様に、撮像素子202の撮像面が対物光学系10の光軸Ax1と結像光学系20の光軸Ax2に対して垂直を維持するので、フォーカス面fpも同様に、光軸Ax1および光軸Ax2に対して垂直となる。これにより、左右の視差画像のフォーカス面が同一となる。このため、輻輳がついた状態で撮影を行っていても、撮像部2Rαと2Lαによる左右の各取得画像において台形歪みが発生することが無くなる。したがって、後段での特別な画像処理を必要することなく、良好な視差画像を得ることができる。
【0085】
<10.第1〜第6の実施の形態の変形例>
なお、上述した各実施の形態では、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとを、対物光学系10の光軸Ax1上で交差させる場合を例に挙げたが、これに限定されるものではない。図10に示すように、結像光学系20Rの光軸Ax2と結像光学系20Lの光軸Ax2Lとを、対物光学系10の光軸Ax1と平行な軸Ax3上で交差させるように立体画像撮像装置1′を構成してもよい。軸Ax3は、図10において長破線で示してある。この軸Ax3は、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)と対物光学系10の光軸Axとを含む平面上にあるものとする。
【0086】
なお、対物光学系10の光軸Ax1と軸Ax3との間の距離であるΔは、結像光学系20Rの光軸Ax2と結像光学系20Lの光軸Ax2Lとの交点である輻輳点cを配置する位置(光軸Ax1に対して垂直の方向における上下の位置)によって、その値が変化する。各結像光学系20の光軸Ax2が軸Ax3に平行になるように各結像光学系20を配置した場合には、各結像光学系20の後側主点と各撮像素子202の中心とを結ぶ各直線が軸Ax3上で交わった点が、輻輳点cとなる。
【0087】
立体画像撮像装置1′をこのように構成した場合には、上述した各実施の形態で説明した各部の配置位置や移動の調整(輻輳位置調整)を、軸Ax3に対して行うようにすればよい。具体的には、対物光学系10の焦点Fから軸Ax3上に降ろした垂線(第2の垂線)と軸Ax3とが交わる交点x′(第2の交点)と、各結像光学系20の前側主点sとを結ぶ線分の長さが互いに同じ値となるように、ペアとなる各結像光学系20および/または、各撮像素子202を連動させてフォーカスの調整を行う。
【0088】
また、結像光学系20R(20L)の光軸Ax2R(Ax2L)と軸Ax3とのなす角度θ′を可変させてフォーカスの調整を行う場合には、角度θ′が上述した式3の式を満たすように各撮像部2の姿勢の調整または、各結像光学系20の位置または各撮像素子202の位置を調整する。なお、各結像光学系20の光軸Ax2が軸Ax3に平行になるように各結像光学系20を配置した場合には、角度θ′は、結像光学系20の前側主点sと撮像素子202の中心とを通る直線と、軸Ax3とがなす角度として示される。
【0089】
上記式において、“d”は対をなす各結像光学系20のレンズ間距離である。したがって、“d/2”は、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)から軸Ax3へ下ろした垂線(第3の垂線)の長さとなる。また、“A”は、第3の垂線と軸Ax3とが交わる交点x′′(第3の交点)と交点x′とを結ぶ線分の長さである。“δ”は、輻輳点cと交点x′とを結ぶ線分の長さである。
【0090】
なお、図10では、軸Ax3を、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)と対物光学系10の光軸Axとを含む平面上に設けた例を挙げたが、これに限定されるものではない。つまり、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)とを含む平面と、軸Ax3と対物光学系10の光軸Ax1とを含む平面とが、同一とならないような位置に、軸Ax3を配置してもよい。すなわち、軸Ax3は、対物光学系10の光軸Ax1と平行となる位置であれば、光軸Ax1を中心とした360°のいずれの位置に配置してもよい。
【0091】
図11には、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)とを含む三角形で示した平面p1と、対物光学系10の光軸Ax1と軸Ax3とを含む平面p2とが直交するような位置に、軸Ax3を配置した例を示してある。図11においては、撮像部2Rと2Lおよび対物光学系10を、筒状の形状で簡略的に示している。なお、図11に示す対物光学系10は、凸レンズで形成されているものとする。
【0092】
図11では、対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直方向で上の方向に距離Δだけ離れた位置に、軸Ax3を設定している。つまり、軸Ax3上に輻輳点(交点c)が形成されるように、結像光学系20Rと20Lとを配置している。このように配置した場合には、撮像部2Rに対応する実効瞳EpRおよび撮像部2Lに対応する実効瞳EpLは、対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直方向の下方向にずれた位置に形成される。対物光学系10の光軸Ax1から距離Δ′だけ平面p2上を下方向にずれた位置に形成される軸を軸Ax4とすると、例えば撮像部2Rに対応する実効瞳EpRであれば、軸Ax4から右側の方向に距離ed′だけずれた位置に形成される。図11に示す例では、対物光学系10に凸レンズを使用した場合を想定しているため、各実効瞳Epが形成される位置は、軸Ax4を挟んで、実際の撮像部2Rと2Lの配置位置とは左右反対の位置となる。
【0093】
また、上述した実施の形態では、撮像部2を左右の視差画像取得用に2台設けた例を挙げているが、これに限定されるものではない。3つ以上の複数の撮像部2を設ける構成に適用することも可能である。図12は、撮像部2を8個設けた例を挙げたものである。対物光学系10の光軸Ax1上に撮像部2−1を配置してあり、撮像部2−1を挟んで左右対称の位置に、撮像部2−2と撮像部2−3とを配置している。さらに、撮像部2−2と撮像部2−3の外側(光軸Ax1から離れる方向)にも、撮像部2−4と撮像部2−5を配置している。これらの各撮像部2の各結像光学系20の前側主点sは、すべて同一の平面上に配置されている。すなわち、これらの前側主点sと輻輳点cとを含む平面p3上に配置されている。また、撮像部2−1を挟んで上下対称の位置にも、撮像部2−6と撮像部2−7とを配置している。撮像部2−6と撮像部2−7におけるそれぞれの主点sは、平面3に対して垂直な角度をなす同一の平面p4上に配置されているものとする。また、平面p3にも平面p4にも属さない位置(図面の左上の位置)にも、撮像部2−8を配置している。
【0094】
これらの撮像部2−1〜2−8の配置(角度)は、その光軸Ax2あるいは、その前側主点sと撮像素子202の中心とを結ぶ線が、交点(輻輳点c)で交わるような位置に調整されている。このように配置することにより、例えば撮像部2−2に対応する実効瞳Ep−2は、対物光学系10の光軸Ax1から右斜め下の方向に距離ed′だけずれた位置に形成される。
【0095】
複数の撮像部2をこのように配置した場合には、フォーカス調整を行う際は、撮像部2−2と2−3、撮像部2−4と2−5、撮像部2−6と2−7を、それぞれ対にして連動して制御させればよい。
【0096】
また、上述した各実施の形態では、対物光学系10の光軸Ax1または、軸Ax3を挟んで対称の位置にある撮像部2同士をペアとして、各撮像部2内の各結像光学系20および/または、それに対応する各撮像素子202を連動して制御する場合を例に挙げた。しかし、本開示を、これらを連動せずに制御する形態に適用してもよい。ただしこの場合も、上述したような、垂線d/2と線分Aの長さの比が一定となるようにフォーカス調整を行う必要がある。この制御を行うことにより、各撮像部2に対応する各実効瞳Epの形成位置が、フォーカスの調整に伴って変化してしまうことがなくなる。
【0097】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)被写体を実像または虚像として形成する機能を有する対物光学系と、
複数の独立した光学系により、前記対物光学系の異なる経路から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させる複数の結像光学系と、
前記複数の結像光学系に対応して設けられ、前記複数の結像光学系により結像された視差画像を画像信号に変換する複数の撮像素子と、
前記対物光学系の後側主点から前記結像光学系の前側主点までの間の前記対物光学系の光軸方向の距離における、前記対物光学系の焦点距離と、前記対物光学系の焦点から前記結像光学系の前側主点までの前記対物光学系の光軸方向における距離との比率が略一定となるように、前記結像光学系および/または前記撮像素子の配置位置に対する前記対物光学系の相対的な配置位置または、前記前記対物光学系の配置位置に対する、前記結像光学系および/または前記撮像素子の相対的な配置位置を変化させることによって、前記複数の結像光学系の各光軸が交差する位置または、前記複数の結像光学系の前側主点と前記撮像素子の中心とを結ぶ線同士が交差する位置に形成される輻輳点の位置を調整する制御部とを備えた
立体画像撮像装置。
(2)前記対物光学系が前記被写体を前記実像として結像する場合の焦点距離の値を正とし、前記対物光学系が前記被写体を前記虚像として結像する場合の焦点距離の値を負とした場合に、前記対物光学系の焦点距離(f)と、前記対物光学系の後側主点と前記結像光学系の前側主点までの水平方向における距離(L)とが、下記式を満たす値に設定される
|f/(L−f)|≦1
(1)に記載の立体画像撮像装置。
(3)前記制御部は、前記対物光学系を、当該対物光学系の光軸上を前後方向に移動させることにより、前記輻輳点の形成位置を調整する
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
(4)前記対物光学系は、複数のレンズ群により構成され、
前記制御部は、前記対物光学系のレンズ群全体またはその一部の位置を調整することにより前記輻輳点の形成位置を調整する
(1)〜(3)のいずれかに記載の立体画像撮像装置。
(5)前記対物光学系のレンズの一部に、焦点距離を変更可能な可変焦点光学素子を用い、
前記制御部は、前記可変焦点光学素子の焦点距離変更機能によって前記輻輳点の形成位置を調整する
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
(6)前記制御部は、前記複数の結像光学系と前記撮像素子とを含む撮像部の姿勢を、前記結像光学系の前側主点を中心に回動させることにより前記輻輳点の形成位置を調整する
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
(7)前記制御部は、前記複数の結像光学系のレンズ間距離をdとし、前記複数の結像光学系の各前側主点から前記対物光学系の光軸へ下ろした垂線の長さをd/2とし、前記垂線と前記対物光学系の光軸とが交わる交点と前記対物光学系の焦点とを結ぶ線分の長さをAとし、前記各結像光学系の各光軸が前記対物光学系の光軸上で交わった点に形成される輻輳点と、前記対物光学系の焦点とを結ぶ線分の長さをδとした場合に、前記撮像部の回動を、前記各結像光学系の各光軸と前記対物光学系の光軸とのなす角度である角θ′が以下の式を満たすように制御する
角θ′=arctan(d/2(A−δ))
(6)記載の立体画像撮像装置。
(8)前記複数の結像光学系の光軸同士が、前記対物光学系の光軸と平行な所定の位置に設けられた軸上で交わるように前記複数の結像光学系が配置され、
前記制御部は、前記複数の結像光学系のレンズ間距離をdとし、前記各結像光学系の各光軸が前記軸上で交わった点に形成される輻輳点と、前記対物光学系の焦点から前記軸に下ろした第2の垂線と前記軸との交点である第2の交点とを結ぶ線分の長さをδとし、前記複数の結像光学系の各前側主点から前記軸へ下ろした第3の垂線の長さをd/2とし、前記第2の交点と前記第3の垂線と前記軸との交点である第3の交点とを結ぶ線分の長さをAとした場合に、前記撮像部の回動を、前記各結像光学系の各光軸と前記対物光学系の光軸とのなす角度である角θ′が以下の式を満たすように制御する
角θ′=arctan(d/2(A−δ))
(6)記載の立体画像撮像装置。
(9)前記複数の結像光学系は、その光軸が前記対物光学系の光軸と並行になるように配置され、前記複数の撮像素子は、その撮像面が前記対物光学系の光軸と垂直となる角度で、前記結像光学系の光軸から所定量シフトした位置に配置され、
前記制御部は、前記撮像素子の位置を前記結像光学系の光軸に対して垂直方向に移動させることにより前記輻輳点の形成位置の調整を行う
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
(10)前記各結像光学系のレンズの一つとして凹レンズを使用し、
前記制御部は、前記凹レンズを前記対物光学系の光軸に対して垂直方向に移動させることにより前記輻輳点の形成位置の調整を行う
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
【符号の説明】
【0098】
1,1−1〜1−6,1′…立体画像撮像装置、2,2−1〜2−8,2L,2R…撮像部、5…制御部、10,10−1…対物光学系、10−1a…凸レンズ,10−1b…可変焦点光学素子、20,20L,20R…結像光学系、202,202L,202R…撮像素子、204,204L,204R…輻輳角可変レンズ、205…フォーカシングレンズ、210L,210R…モータ、211L,211R…撮像素子位置制御部、212L,212R…カメラ姿勢制御部、Ax1,Ax2,Ax2L,Ax2R…光軸、Ax3,Ax4…軸、f1,f2,f2′…焦点距離、p1〜p4…平面、x,x′,x′′…交点
【技術分野】
【0001】
本開示は、立体画像の撮影を行う立体画像撮像装置に関し、特に、立体画像撮影時のフォーカス調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3D(立体)映像を撮影できるカメラ(立体画像撮像装置)へのニーズが高まっている。立体画像の撮像方法としては、ハーフミラーを使用して撮影を行うビームスプリッタ方式(ハーフミラー方式)や、物理的に並べて設置した2台の撮像装置で撮影を行うサイドバイサイド方式(並立2眼式)等の方法が知られている。これらの方式では、撮像装置をリグ(Rig)と称される架台に搭載して撮影を行うため、撮像装置の装着の自由度が高くなる。例えば、立体映像を撮影する2つのレンズのレンズ間距離(基線長;以下、IAD:InterAxial Distanceと称する)や、輻輳(Convergence)や、画角などを高い自由度で選ぶことができる。
【0003】
ところが、自由度が高い一方、立体画像撮像装置をリグに搭載するために、撮影毎の設定および調整に非常な労力と時間を要するという問題点があった。また、特にビームスプリッタ方式のリグは大変に大掛かりな装置となり、フィールドでの撮影や取材用途には適さないといった問題もある。
【0004】
こういった問題を解決するために、サイドバイサイド方式で撮影を行う2台の2D映像撮影用カメラを一つの筐体に作り込んだ、いわゆる一体型の2眼3Dカメラを構成することも行われている。このように構成された一体型2眼3Dカメラは、組み立てる必要が無くアライメントの調整(左右のカメラの光軸調整)も必要がない。さらに、コンパクトであるため、フィールドでの撮影や取材時においても持ち運びが容易であり、また短時間のセットアップで直ぐに撮影に入れるといったメリットがある。
【0005】
しかしながら、このような一体型2眼3Dカメラは、基本的にはサイドバイサイド方式であるので、IADの調整に限界が生ずる。すなわち、2眼のそれぞれの光学系やイメージャがお互いに物理的に干渉するため、IADを、光学系やイメージャの配置位置により定まる一定の距離より短くすることができない。このため、例えば被写体に非常に近接して撮影を行うようなケースにおいては、被写体に輻輳を合わせることで視差量をゼロに調整しても、被写体の後方にある背景画像の視差量が過大となるため、人が快適に3D映像を視聴できるときの視差の範囲を超えてしまう。
【0006】
被写体と立体撮像装置との距離が非常に近接するケースとしては、例えば人物のインタビュー撮影や、スポーツ中継におけるバックヤードでの撮影時等が考えられる。このような場合、被写体と撮像装置との距離は1〜2m程度となり、輻輳点も1〜2mの距離に合わせることになる。このような場合の、人が快適に3D映像を視聴できる範囲内に視差を収めるのに最も有用なIADは、10mm〜40mmであると言われている。しかし、現状の一体型2眼3Dカメラでは、そのような短いIADを、画質や機能を保ったまま、すなわちレンズの径やイメージャのサイズを小さくすることなく実現することは困難な状況にある。
【0007】
前述したビームスプリッタ方式で撮影を行う場合は、2台の撮像装置が互いに物理的に干渉しないため、IADを非常に短くすることも可能となる。ところが、上述したように、撮影毎の設定および調整に非常な労力と時間を要するという問題があり、人物のインタビュー撮影や、スポーツ中継におけるバックヤードでの撮影に適さないという問題は依然として残る。
【0008】
例えば特許文献1には、カメラのフォーカス点が2眼の輻輳点に合致した状態のまま輻輳点を任意の位置に調整可能な立体画像撮影装置が記載されている。このような装置を使用すれば、IADを人の眼幅と同じ広さとして撮影をすることも可能となり、近接での撮影を行う場合にも、自然な立体感を得られる映像を撮影することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−5313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1で開示された内容を解析すると、対物光学系を具備したことにより、結像光学系の瞳に対応する仮想的な瞳が、結像光学系の瞳より被写体側(物体側)に形成されると考えられる。仮想的な瞳とは、被写体から出射される光線のうち、対物光学系を通過して結像光学系のレンズ中心を通過するすべての光線が通過する点である。すなわち、結像光学系の撮像素子に形成される映像は、その仮想的な瞳を瞳として撮影された映像と等価な映像となる。(以下、この仮想的な瞳のことを「実効瞳」と称する)したがって、2つの実効瞳間の距離が、この立体画像撮像装置の実質的なIAD(以下、実効IADと称する)であると言える。
【0011】
実効IADは、対物光学系の焦点距離や、対物光学系の後側主点から結像光学系の前側主点までの距離等のパラメータの値によって変化する。そして、実効IADが大きく変化した場合には、立体画像撮像装置によって取得される視差画像における視差量も大きく変化することになる。特許文献1には、像の立体感を調整する手法が記載されているが、そもそも実効IADという概念自体についての記載がない。よって、実効IADを大きく変化させないように輻輳点の形成位置の調整を行う手法も記載されていない。このため、特許文献1に記載の手法で輻輳位置の調整を行った場合には、その調整に伴って実効IADが大きく変化してしまう可能性もあり得る。すなわち、視聴中に像の立体感が大きく変化するような、視聴者に負荷を与えるような立体画像が撮影されてしまう可能性がある。
【0012】
本開示はかかる点に鑑みてなされたものであり、立体画像撮像装置により形成される仮想的な瞳の間隔を殆ど変化させることなく、輻輳点の形成位置を調整できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示の立体画像撮像装置は、被写体を実像または虚像として形成する機能を有する対物光学系を備える。また、複数の独立した光学系により、対物光学系の異なる経路から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させる複数の結像光学系を備える。さらに、複数の結像光学系に対応して設けられ、複数の結像光学系により結像された視差画像を画像信号に変換する複数の撮像素子を備える。その上で、結像光学系および/または撮像素子の配置位置に対する対物光学系の相対的な配置位置または、対物光学系の配置位置に対する、結像光学系および/または撮像素子の相対的な配置位置を変化させることにより輻輳点の形成位置を調整する。輻輳点は、複数の結像光学系の各光軸が交差する位置または、複数の結像光学系の前側主点と撮像素子の中心とを結ぶ線同士が交差する位置に形成される。この輻輳点の形成位置の調整は、対物光学系の後側主点から結像光学系の前側主点までの間の対物光学系の光軸方向の距離における、対物光学系の焦点距離と、対物光学系の焦点から結像光学系の前側主点までの対物光学系の光軸方向における距離との比率が略一定となるように行う。
【0014】
このように構成および制御することで、輻輳点の形成位置を変化させた場合にも、仮想的な瞳の間隔を定めるパラメータである、対物光学系の後側主点と結像光学系の前側主点までの距離に対する、対物光学系の焦点距離の比率は変化しなくなる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、仮想的な瞳の間隔を殆ど変化させずに輻輳位置の調整を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本開示の立体画像撮像装置の概要を示す概略図である。
【図2】本開示の立体画像撮像装置により形成される実効瞳および実効IADについて説明する説明図である。
【図3】本開示の一実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図である。
【図4】本開示の第1の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は対物光学系を撮像部に近い位置に配置した例を示し、(b)は、(a)に示した位置から撮像部から離れる方向に、対物光学系を移動させた例を示す。
【図5】本開示の第2の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は可変焦点光学素子の曲率半径を大きくした例を示し、(b)は、可変焦点光学素子の曲率半径を(a)に示したものより小さく変化させた例を示す。
【図6】本開示の第3の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は、空間像の一番後ろ側に輻輳点が形成されるような位置に撮像部を配置した例を示し、(b)は、撮像部を(a)に示した位置より前方に移動させた例を示す。
【図7】本開示の第4の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は、空間像の一番前側に輻輳点が形成されるような角度に撮像部を配置した例を示し、(b)は、撮像部を、(a)に示した角度より対物光学系の光軸から乖離する方向に傾けた例を示す。
【図8】本開示の第5の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は、撮像素子の配置における結像光学系の光軸からのシフト量を少なくした場合の例を示し、(b)は、結像光学系の光軸からのシフト量を(a)に示した量よりも大きくした場合の例を示す。
【図9】本開示の第6の実施の形態による立体画像撮像装置の構成例を示す概略図であり、(a)は輻輳角可変レンズを結像光学系の光軸から離れた位置にシフトさせた例を示し、(b)は、輻輳角可変レンズを(a)に示した位置より対物光学系の光軸側にシフトさせた例を示し、(c)は、撮像素子を、結像光学系から離れる方向に(a)および(b)に示した位置から移動させた例を示す。
【図10】本開示の変形例による、対物光学系の光軸以外の軸上に輻輳点を設定する場合の立体画像撮像装置の構成例を示す概略図である。
【図11】本開示の変形例による、対物光学系の光軸以外の軸上に輻輳点を設定する場合の立体画像撮像装置の構成例を示す概略図である。
【図12】本開示の変形例による、撮像部を複数設けた場合の立体画像撮像装置の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.立体画像撮像装置の構成例
2.立体画像撮像装置により形成される実効瞳について
3.実効IADを殆ど変化させずに輻輳位置および/またはフォーカス位置を調整する手法について
4.第1の実施の形態(対物光学系をその光軸方向に移動することで輻輳位置の調整を行う例)
5.第2の実施の形態(対物光学系のレンズに可変焦点光学素子を使用し、その焦点距離可変機能を用いて輻輳位置の調整を行う例)
6.第3の実施の形態(撮像部全体を移動させることにより輻輳位置の調整を行う例)
7.第4の実施の形態(撮像部の姿勢を制御することにより輻輳位置の調整を行う例)
8.第5の実施の形態(結像光学系のレンズ位置に対して撮像素子の位置をシフトさせて配置した上で、撮像素子の位置のみを移動させることにより輻輳位置の調整を行う例)
9.第6の実施の形態(輻輳角を可変できるレンズを使用して輻輳点の調整を行い、撮像素子の位置を移動させることでフォーカス位置の調整を行う構成の例)
10.第1〜第6の実施の形態の変形例
【0018】
<1.立体画像撮像装置の構成例>
図1に、本開示の立体画像撮像装置1の構成例を示す。まず、図1に示す立体画像撮像装置1を参照して、以下に説明する第1〜第4の実施の形態に共通する立体画像撮像装置1の基本的な構成について説明する。図1に示す立体画像撮像装置1は、対物光学系10と、2つの撮像部2Rと2Lとを備える。対物光学系10は、図示しない被写体Sを実像として結像する機能を有する。撮像部2Rと2Lは、対物光学系10の異なる位置から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させ、結像した画像を画像信号に変換する。撮像部2Rは、結像光学系20Rと撮像素子202Rとを有し、撮像部2Lは、結像光学系20Lと撮像素子202Lとを有する。
【0019】
なお、図1に示す例では説明をわかり易くするために、対物光学系10を、焦点距離fの薄肉レンズであるものとしている。実際の対物光学系10は、多数枚・多群のレンズやフィルタ、絞り、レンズ駆動機構などから構成されているものとする。さらに、これらの機構に加えて、ズーム機能や焦点調節機能、その他の機能があってもよい。結像光学系20R,20Lも、実際は多数枚・多群のレンズやフィルタや絞り、またモータなどのレンズ駆動機構などから構成されており、ズーム機能や焦点調節機能やその他の機能があってもよい。
【0020】
図1に示す構成では、対物光学系10の光軸Ax1と、結像光学系20Rの光軸Ax2Rおよび結像光学系20Lの光軸Ax2Lとが同一平面上に存在するように、対物光学系10と結像光学系20R,20Lとを配置している。撮像部2Rと撮像部2Lとは、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとが、対物光学系の光軸Ax1上で交差するように配置している。また、撮像部2Rと撮像部2Lとは、対物光学系10の光軸Ax1を挟んで対称な位置に配置されている。
【0021】
そして、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとが空間像S′上で交差する点が、各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2の輻輳点cとなる。図1に示した例では、対物光学系10の焦点Fから距離δだけずれた位置に輻輳点cが設定されている。撮像部2R(2L)における結像光学系20R(20L)と撮像素子202R(202L)との位置関係は、輻輳点cの位置に最適な結像が得られるような位置に予め調整されているものとする。なお、以下の説明において、撮像部内のそれぞれの構成について、左(L)と右(R)における配置または動作が同一の場合等、左右を特に区別して説明する必要がない場合には、単に撮像部2、結像光学系20、撮像素子202、結像光学系20の前側主点s、光軸Ax2のように表記して説明する。
【0022】
また、立体画像撮像装置1は、結像光学系20R(20L)のレンズを駆動するモータ210R(210L)と、撮像素子202R(202L)の位置を移動させる撮像素子位置制御部211R(211L)を備える。また、撮像部2R(2L)の姿勢を可変させるカメラ姿勢制御部212R(212L)を備える。さらに、レンズ駆動用のモータ210Rと210Lや撮像素子位置制御部211Rと211L、カメラ姿勢制御部212Rと212Lに対して制御信号を供給する制御部5を備える。なお、立体画像撮像装置1がこれらの各部をすべて備えるように構成してもよいが、後述する実施の形態に応じて最小限の構成のみを備えるようにしてもよい。
【0023】
このように構成した立体画像撮像装置1によれば、無限遠に在る被写体Sの像は対物光学系10の後ろ側の焦点位置Fに結像し、有限距離にある被写体Sの像は、その対物光学系10からの距離に応じて焦点Fより後方(撮像素子202R,202L側)に結像する。なお、説明の便宜上、対物光学系10と結像光学系20Rおよび20Lによって実像が形成される場合を例に挙げているが、これに限定されるものではない。
【0024】
<2.立体画像撮像装置1によって形成される実効瞳について>
次に、立体画像撮像装置1によって形成される実効瞳について、図2を参照して説明する。図2は、被写体Sから放射される光線のうちの、結像光学系20R,20Lのレンズの主点を通過する光線の辿る経路を示す光路図である。図2では、これらの光線を、被写体Sの異なる3つの位置から放射される3本の光線で代表して示している。結像光学系20Rの前側主点sRを通過する光線は破線で示してあり、結像光学系20Lの前側主点sLを通過する光線は実線で示してある。
【0025】
被写体Sから放射された光線は、対物光学系10を通過すると、対物光学系10と結像光学系20R,20Lとの間で結像する。結像光学系20R,20Lのレンズを視点にして眺めると、あたかもその位置に物体があるように見えるため、この位置にできる像は空間像S′と称される。この空間像S′の形成位置を通過した光線は、2つの結像光学系20R,20Lに導かれて撮像素子202Rおよび撮像素子202Lの撮像面(図示略)上に結像し、それぞれが視差画像となる。
【0026】
また、被写体Sから放射された光線は、もし結像光学系20R,20Lのレンズの中心から光線が放射されるとすると、その光線が辿る経路と同じ経路を辿る。このため、結像光学系20R,20Lのレンズの中心から放射された光線についても考えてみると分かりやすい。結像光学系20R,20Lのレンズの中心から放射された光線は、空間像S′のある一点を通過した後に対物光学系10のレンズに到達し、そこから「空間像S′のある一点」に対応する被写体Sのある一点に向かって進行する。このとき、対物光学系10のレンズを通過した光線は、被写体Sに到達するまでの間に再びある一点で交わっていることが分かる。
【0027】
つまり、この一点は、結像光学系20R,20Lのレンズ中心を通過することになるすべての光線が通過する点であると言える。このため、結像光学系20Rの撮像素子202Rの撮像面および、に結像光学系20Lの撮像素子202Lの撮像面結像される映像は、この「一点」を実質的な瞳として撮影された画像と等価なものとなる。つまり、この「一点」は立体画像撮像装置1における実質的な瞳(実効瞳EP)であると考えられる。したがって、左右の結像光学系20Rと20Lによって形成される各実効瞳EP間の距離は、立体画像撮像装置1における実質的なIAD(以下、実効IADedと称する)であると言える。
【0028】
実効IADedは、下記の式1で表現される。
実効IADed=f/(L−f)×d …(式1)
上記式1において、“f”は対物光学系10の焦点距離であり、“L”は対物光学系10の後側主点rと、結像光学系20Rの前側主点sRおよび結像光学系20Lの前側主点sLまでの、対物光学系10の光軸Ax1方向における距離である。なお、図2で示したように、対物光学系10のレンズを薄肉レンズとして理想化した場合は前側主点と後側主点の区別はなく、前側主点と後側主点は一致する。“d”は、結像光学系20Rと結像光学系20Lの配置位置により定まる物理的なIAD(以下、IADdと称する)である。
【0029】
例えば、対物光学系10の焦点距離fが70mmであり、距離Lが370mmであるとする。また、結像光学系20Rと結像光学系20Lとを、対物光学系10の光軸Ax1を対称軸として距離d=60mmだけ離して配置したものとする(IADd=60mm)。この場合、実効IADedは、上記式1により14mmと算出される。つまり、本開示の立体画像撮像装置1によれば、実効IADedが、物理的なIADd(60mm)に比べてf/(L−f)倍だけ短く(14mm)なる。
【0030】
したがって、対物光学系10の焦点距離fと距離Lとを、以下の式2を満たす値に設定すれば、結像光学系20Rと20Lの配置位置により求まる物理的なIADdよりも、実効IADedを短くすることができる。なお、以下の式では、対物光学系10のレンズとして凸レンズを使用しており、その焦点距離fが正(f>0)であることを前提としている。
f/(L−f)≦1 …(式2)
【0031】
<3.実効IADを変化させずに輻輳位置(および/またはフォーカス位置)を調整する手法について>
図1に戻って、立体画像撮像装置1による輻輳点の形成位置(以下、輻輳位置とも称する)の調整方法について説明する。ここでは、実効IADを変化させずに輻輳位置(および/またはフォーカス位置)の調整を行う手法の概要を説明し、輻輳位置調整方法の具体的な例については、第1〜第6の実施の形態として後述する。
【0032】
図1において、結像光学系20Rの前側主点sRと結像光学系20Lの前側主点sLとの間の距離(物理的なIAD)を距離dとし、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)から対物光学系10の光軸Ax1に下ろした垂線の、光軸Ax1との交点を交点xとしてある。また、対物光学系10の焦点Fと交点xとの間の距離は、距離Aとしてある。
【0033】
また、対物光学系10の焦点Fと結像光学系20R(20L)のレンズの前側主点sR(sL)とを結ぶ線を実線で示してあり、この線と対物光学系10の光軸Ax1とのなす角をθとしている。結像光学系20R(20L)の光軸Ax2R(Ax2L)と、対物光学系10の光軸Ax1とのなす角は、θ′としてある。
【0034】
結像光学系20Rの前側主点sRと結像光学系20Lの前側主点sLの位置は、ある撮影距離にある被写体Sを撮影する際に最適な視差量が得られる位置に調整されているものとする。つまり、両結像光学系の主点間距離により定まる物理的なIADdは、任意の距離に設定されているものとする。この状態で、空間像S′の任意の位置に輻輳位置を調整する場合を考える。
【0035】
結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとがなす角度である輻輳角θ′を変化させることによって、輻輳点cの形成位置を変化させる場合には、以下の制御を行う。それにより、実効IADedを変化させずに輻輳位置を変更できる。つまり、結像光学系20R(20L)の光軸Ax2R(Ax2L)と対物光学系10の光軸Ax1とのなす角θ′を、以下の(式3)を満たす角度に調整する。
角θ′=arctan(d/2(A−δ)) …(式3)
【0036】
なお、輻輳点cを所望の位置に調整した場合にも、その後にフォーカスの調整が行われることで、実効IADedが変化してしまうことがある。実効IADedを変化させないためには、フォーカスの調整によって、“tanθ=d/2A”が変化しないような制御を行えばよい。つまり、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)から対物光学系10の光軸Ax1に下ろした垂線の長さ(d/2)と、対物光学系10の光軸Ax1とその垂線との交点xから対物光学系10の焦点Fまでの長さ(距離A)との比が一定となるように、フォーカス調整を行えばよい。
【0037】
例えば、結像光学系20Rの前側主点sRと結像光学系20Lの前側主点sLの位置を固定としてフォーカスの調整を行えば、距離Aや垂線d/2の長さも変化することがなくなる。もしくは、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)の位置を移動させてフォーカスの調整を行う場合には、その移動を、対物光学系10の焦点Fと各結像光学系20の前側主点sとを結ぶ直線に沿って行うようにする。これにより、“tanθ=d/2A”を一定に保つことができる。
【0038】
なお、図3に示すように、各結像光学系20の各光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行となるように立体画像撮像装置1を構成した場合にも、同様の制御を行うことで、実効IADed(図2参照)を変化させずに輻輳位置の調整を行うことができる。図3に示す構成は、第5の実施の形態および第6の実施の形態に共通するものである。図3に示した構成では、各結像光学系20の主面が対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直となるように、各結像光学系20のレンズを配置している。また、各撮像素子202を、その撮像面を対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直とした状態で、かつ、各結像光学系20の各光軸Ax2からシフト量vだけシフトした位置に配置している。このシフトは、対物光学系10の光軸Ax1から離れる方向に行っている。
【0039】
立体画像撮像装置1をこのように構成した場合には、結像光学系20Rの前側主点sRと撮像素子202Rの中心を通る光線と、結像光学系20Lの前側主点sLと撮像素子202Lの中心を通る光線とが交差する位置に、輻輳点cが形成される。したがって、輻輳角を変化させることによる輻輳位置の調整は、例えば、各撮像素子202のシフト量vを調整することによって実現可能となる。この場合は、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)と撮像素子202R(202L)の中心を通る光線と、対物光学系10の光軸Ax1とがなす角度θ′が、上述した式3を満たすよう制御する。これにより、実効IADedを変化させることなく輻輳位置を変化させることができる。
【0040】
図3に示す構成においても、輻輳位置の調整後にフォーカス調整が行われた場合には、図1に示した例と同様に実効IADedが変化してしまう。したがって、実効IADedを変化させないためには、以下に示すような手法でフォーカス調整を行う必要がある。
【0041】
図3に示す構成においてフォーカス調整を行う手法としては、例えば、各撮像素子202を動かして、各結像光学系20の前側主点sから撮像素子の撮像面までの距離である距離wを可変させる手法が考えられる。すなわち、各撮像素子202を、結像光学系20の前側主点sと撮像素子202の中心を通る線上で移動させることにより、フォーカスの位置が変化する。このとき、各撮像素子202の移動を、各結像光学系20の前側主点sの位置を固定した状態で行えば、上述した“tanθ=d/2A”が変化することがなくなる。すなわち、実効IADedを変化させることなくフォーカス調整を行うことができる。
【0042】
各撮像素子202のシフト量vの調整による輻輳位置の調整と、距離wの調整によるフォーカス調整を同時に行う場合には、シフト量v/距離wの比率を守った上で調整を行う必要がある。具体的には、まず、輻輳点cの形成位置により定まる、対物光学系10の焦点Fから輻輳点cまでの距離δに基づいて、距離wとシフト量vを算出する。そして、これらの距離wとシフト量vにより定まる位置に、各撮像素子202を移動させる。距離wは、以下の式4により算出することができる。
1/w=1/fr−1/(A−δ)… (式4)
上記式4において、“fr”は各結像光学系20の焦点距離を示す。なお、上記式4では、(A−δ)>frであることを前提としている。距離δは、輻輳点cを形成したい空間像S′上の位置を決めることにより定まる。また、距離δと、あらかじめ定められている距離Aと距離d/2を上述した式3に代入することにより、各結像光学系20の主点sと撮像素子202の中心とを通る直線と、対物光学系10の光軸Ax1とのなす角θ′が求まる。そして、式4により算出される距離wに角θ′を乗算することで、シフト量vが求められる。このようにして求められた距離wとシフト量vにより定まる位置に各撮像素子202を移動させることで、実効IADedを変化させることなく、フォーカス位置と輻輳位置とを同時に変えることができる。
【0043】
図1と図3に示した構成のいずれにおいても、フォーカス調整を行う際には、結像光学系20Rにおける距離Aと結像光学系20Lにおける距離Aとが常に同じ値となるように、結像光学系20Rと結像光学系20Lとの調整を連動して行うようにする。ここでいう(すなわち、各結像光学系20における)フォーカス調整とは、物体面(フォーカス面)を有限距離の範囲内で移動させる調整を指す。すなわち、対物光学系10を含んだトータル(全体)の光学系ではなく、結像光学系20(および/または撮像素子202)で行える範囲の調整を指す。これは、以下で説明する各実施の形態にも共通するものとする。
【0044】
次に、本開示の立体画像撮像装置1による輻輳位置調整方法について説明する。輻輳位置の調整方法としては、大きく2つの方法が考えられる。一つは、所定の位置に設定された輻輳点に対して、空間像S′の形成位置の方を移動させることにより、結果として空間像S′に対する輻輳点の相対的な位置を変化させる方法である。もう一つは、輻輳角を可変させることにより、輻輳位置を変化させる方法である。前者の手法の実現手段を第1〜第3の実施の形態として説明し、後者の手法の実現手段を第4〜第6の実施の形態として説明する。
<4.第1の実施の形態(対物光学系をその光軸方向に移動することで輻輳位置の調整を行う例)>
図4(a)および図4(b)は、本開示の第1の実施の形態による立体画像撮像装置1−1の構成例を示す概略図である。立体画像撮像装置1−1の構成および配置は、図1に示したものと同一である。すなわち、1つの対物光学系10と2つの撮像部2R,2Lで構成され、撮像部2Rと撮像部2Lとを、互いの光軸Ax2Rと光軸Ax2Lとが対物光学系の光軸Ax1上の空間像S′の形成位置上で交差するような位置に配置している。これらの光軸の交点は、対物光学系10の焦点Fから距離δだけ離れた位置に形成されている。空間像S′においてこの交点と対応する位置に形成された像は、両眼視差ゼロの画像として左右の撮像部2Lと2Rによって取得される。つまり、この交点が、各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2の輻輳点cとなる。対物光学系10は、凹レンズと凸レンズとを含むレンズ群で構成されている。詳細については後述するが、対物光学系10の焦点距離fを短くすることを目的として、このような構成をとっている。
【0045】
なお、立体画像撮像装置1−1の配置を、図3に示したような配置としてもよい。すなわち、各結像光学系20の各光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行となるように配置してもよい。本実施の形態においては、各結像光学系20の光軸Ax2または、各結像光学系20の前側主点sと各撮像素子202の中心を結ぶ線が、対物光学系10の光軸Ax1上で交差するように立体画像撮像装置1−1が構成されていればよい。つまり、各撮像部2の構成等については、その形態を問わない。
【0046】
次に、同じく図4(a)と図4(b)を参照して、立体画像撮像装置1−1による輻輳位置調整動作について説明する。対物光学系10のレンズの一部または対物光学系10全体を対物光学系10の光軸Ax1の方向に移動すると、これに伴い、空間像S′の形成位置も対物光学系10の光軸Ax1上を移動する。例えば、対物光学系10の全体を被写体S側(物体側)に移動させる(対物光学系10のレンズ鏡筒(図示略)を繰り出す)と、図4(b)に示すように、空間像S′の形成位置も同じく物体側に移動する。各結像光学系20および、各結像光学系20に対応する各撮像素子202により構成される各撮像部2の配置に変化が無ければ、交点(輻輳点c)の形成位置は変わらない。このため、この輻輳点cに対する空間像S′の形成位置は、被写体(物体)側に移動する。言い換えると、空間像S′の形成位置に対して、輻輳点cが相対的に後方(光の出射側)に移動することになる。
【0047】
つまり、対物光学系10の繰り出し動作に追従して空間像S′の形成位置が移動するため、対物光学系10の繰り出し量を制御することで、輻輳点cの形成される位置(輻輳位置)を空間像S′上の任意の位置に調整することが可能となる。なお、対物光学系10の繰り出し量は、対物光学系10により形成された空間像S′の奥行き方向の長さの範囲内で、空間像S′の形成位置を移動させる程度の量となる。例えば、焦点距離fが50mmのレンズであれば、1〜2mm程度の繰り出し量で、空間像S′を任意の位置に移動させることができる。すなわち、輻輳位置を任意の位置に調整することができる。
【0048】
上述した第1の実施の形態による輻輳位置調整方法では、厳密に言うと、実効IADedはわずかながらも変化する。対物光学系10を繰り出す動作によって、実効IADedを定めるパラメータの一つである「距離L」が変化するためである。「距離L」とは、前述したように、各結像光学系20の前側主点sから対物光学系10の光軸Ax1に下ろした垂線と光軸Ax1との交点から、対物光学系10の焦点Fまでの距離である。実効IADedは、上述した式1によって算出できる。しかし、立体画像撮像装置1−1による輻輳位置調整の際に対物光学系10のレンズを繰り出す量は1〜2mm程度であるため、実効IADedに与える影響は非常に小さいものと考えられる。
【0049】
輻輳位置調整が実効IADedに与える影響をより小さくするには、焦点距離fが短くなるように対物光学系10を構成するとよい。焦点距離fが短くなることで、空間像S′の奥行き方向の長さを短くすることができるため、対物光学系10のレンズの繰り出し量をより少なくすることが可能となる。もしくは、各撮像部2における撮影距離を長くとって撮影を行うことで、繰り出し量の変化が与える距離Lに対する影響をより小さくすることができる。また、対物光学系10のレンズとして、フォーカス調整によって前側主点sの位置が殆ど変化しないレンズを採用すれば、「距離L」を変化させずに空間像S′の形成位置を変えることができる。フォーカス調整によって前側主点sの位置が殆ど変化しないレンズには、インナーフォーカス方式のレンズやリアフォーカス方式のレンズ等がある。
【0050】
上述した第1の実施の形態によれば、対物光学系10の全体または一部のレンズを移動させる(レンズ鏡筒を繰り出す操作を行う)ことで、輻輳位置を容易に調整することができる。つまり、対物光学系10による結像位置の調整動作を行うだけで、輻輳位置を任意の位置に調整することができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、対物光学系10の全体または一部のレンズを移動させるため、輻輳位置とフォーカス位置とが同時に可変される。これにより、撮影者が立体画像を撮影する際の設定に必要な工数を減らすことができるため、立体画像の撮影を容易に行えるようになる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、対物光学系10の全体または一部のレンズを移動させるため、被写体Sと撮像部2の間の距離を変化させることなく、任意の位置に輻輳位置を調整することができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、実効IADedを殆ど変化させることなく、輻輳位置を調整することができる。すなわち、撮影される画像の立体感を変えることなく、輻輳位置を可変させることができる。
【0054】
また、本実施の形態の立体画像撮像装置1−1によれば、物理的なIADdだけでなく、対物光学系10の焦点距離fや各結像光学系20の配置位置等の様々なパラメータを選ぶことによって、立体画像撮像装置の実質的なIADを選ぶことができる。さらに、対物光学系10の焦点距離fと距離Lとを、上述した式2を満たす値に設定すれば、結像光学系20Rと20Lの配置位置により求まる物理的なIADdよりも、実効IADedを短くすることができる。
【0055】
<5.第2の実施の形態(対物光学系のレンズに可変焦点光学素子を使用し、その焦点距離可変機能を用いて輻輳位置の調整を行う例)>
本開示の第2の実施の形態による立体画像撮像装置1−2について、図5(a)と図5(b)を参照して説明する。図5(a)と図5(b)において、図1や図4と対応する箇所には同一の符号を付してあり、詳細な説明は省略する。立体画像撮像装置1−2では、対物光学系10−1を、1枚の凸レンズ10−1aと可変焦点光学素子10−1bとで構成している。可変焦点光学素子10−1bとしては、例えば、流す電気の電圧によって光の屈折率を変えることができる液体レンズ等を用いることができる。
【0056】
撮像部2Rと撮像部2Lとは、互いの光軸Ax2Rと光軸Ax2Lとが対物光学系の光軸Ax1上の空間像S′の形成位置上で交差するような位置に配置している。すなわち、2つの光軸Ax2が交差してできる交点が、各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2における輻輳点cとなる。なお、立体画像撮像装置1−2においても、撮像部2Rと2Lの配置は図5(a)および(b)に示した例に限定されるものではない。図3に示した配置のように、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行になるように配置してもよい。つまり、各結像光学系20の光軸Ax2または、各結像光学系20の前側主点sと各撮像素子202の中心を結ぶ線が、対物光学系10の光軸Ax1上で交差するように各撮像部2が配置されていればよい。
【0057】
次に、同じく図5(a)と図5(b)を参照して、立体画像撮像装置1−2による輻輳位置調整方法について説明する。立体画像撮像装置1−2では、可変焦点光学素子10−1bの曲率を変化させて対物光学系10−1の焦点距離fを可変することにより、空間像S′の形成位置を移動させる。対物光学系10−1の焦点距離fは、凸レンズ10−1aの焦点距離f1と可変焦点光学素子10−1bの焦点距離f2の合成焦点距離fとして示される。したがって、対物光学系10−1の焦点距離fは、以下の式5で表される。
焦点距離f=(f1*f2)/(f1+f2−ds) …(式5)
上記式において、“ds”は、凸レンズ10−1aの主面と可変焦点光学素子10−1bの主面との間の距離を示す。
【0058】
図5(b)には、可変焦点光学素子10−1bの曲率半径を、図5(a)に示した状態から小さく変化させた場合の例を示している。曲率を変化させた場合の可変焦点光学素子10−1bの焦点距離をf2′とすると、焦点距離f2′は焦点距離f2よりも短くなる。凸レンズ10−1aとの焦点距離fは、上述したように、上記の式5により算出される。したがって、2つのレンズの主点間の距離dsが固定であるとすると、可変焦点光学素子10−1bの曲率半径が小さくなる(レンズが厚くなる)ことによって、対物光学系10−1の合成焦点距離fも短くなる。
【0059】
そして、対物光学系10−1の焦点距離fが短くなることにより、空間像S′の形成位置が、対物光学系10の光軸Ax1上を被写体S側に移動する。撮像部2Rと2Lの配置は固定であり、輻輳点cの位置も移動しないため、輻輳点cに対する空間像S′の相対的な位置が変化することで、輻輳点cの空間像S′における位置が可変する。
【0060】
上述した第2の実施の形態の立体画像撮像装置1−2によれば、第1の実施の形態により得られる効果として説明した効果と同様の効果を得ることができる。また、立体画像撮像装置1−2では、レンズ位置を移動させて結像位置を変化するのではなく、可変焦点光学素子10−1bの曲率を変化させて対物光学系10−1の焦点距離fを変えることにより、結像位置を可変する。つまり、レンズ位置を移動させる場合と比較して、焦点距離fを変化させるために必要な「可変」の絶対量が、非常に少なくなる。したがって、焦点距離fの可変を実現するための可動部の等価質量が、第1の実施の形態に示したレンズ位置を移動させる構成に比べて、大幅に小さくなる。これにより、フォーカス制御の応答周波数を高くすることができるため、フォーカスの可変や輻輳位置の可変を非常に高速に行えるようになる。すなわち、動きの速い被写体Sにも、フォーカスと輻輳位置を追従させることが可能となる。
【0061】
<6.第3の実施の形態(撮像部全体を移動させることにより輻輳位置の調整を行う例)>
本開示の第3の実施の形態による立体画像撮像装置1−3ついて、図6(a)と図6(b)を参照して説明する。立体画像撮像装置1−3の構成および配置は、図1や図4に示したものと同一である。すなわち、1つの対物光学系10と2つの撮像部2R,2Lで構成され、撮像部2Rと撮像部2Lとを、互いの光軸Ax2Rと光軸Ax2Lとが対物光学系の光軸Ax1上の空間像S′の形成位置上で交差するような位置に配置している。すなわち、2つの光軸Ax2が交差する交点が各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2における輻輳点cとなる。なお、立体画像撮像装置1−3においても、図3に示した配置のように、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行になるように、各撮像部2を配置してもよい。つまり、各結像光学系20の光軸Ax2または、各結像光学系20の前側主点sと各撮像素子202の中心を結ぶ線が、対物光学系10の光軸Ax1上で交差するように各撮像部2が配置されていればよい。
【0062】
次に、同じく図6(a)と図6(b)を参照して、立体画像撮像装置1−3による輻輳位置調整方法について説明する。本実施の形態では、各撮像部2全体を前後方向に移動させることにより空間像S′の形成位置を変化させ、輻輳点cの被写体(空間像S′)における位置を可変する。各撮像部2の移動は、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)を通る、対物光学系10の光軸Ax1に平行な線Lnに沿って行うようにする。この線Lnは、図6においては破線で示してある。
【0063】
対物光学系10は動かさずに固定とすることで、空間像S′の位置も固定となる。その状態で、上述した手法で各撮像部2を前後方向に移動させることにより、輻輳点cの形成位置もそれに追従して移動する。図6(a)は、輻輳点cが、空間像S′の後側(結像光学系20側)に形成されている状態を示したものである。この状態から、各撮像部2を被写体側に移動させることにより、輻輳点cの形成位置も同様に被写体側に移動する。
【0064】
上述した第3の実施の形態によれば、フォーカス調整作業とは独立して輻輳位置調整作業を行えるようになる。また、フォーカス調整作業だけでなく、物理的なIADdの調整やズーミング調整等の他の調整とも独立して、輻輳位置の調整を行うことができる。
【0065】
さらに、本実施の形態によれば、実効IADedを変化させずに輻輳位置を調整することができる。また、第1の実施の形態により得られる効果と同様の効果として、様々なパラメータを選ぶことにより実効IADedを決定することができる効果や、実効IADedを物理的なIADdより短くできる効果も得ることができる。
【0066】
なお、立体画像撮像装置1−3において、各撮像部2をパンフォーカス(ディープフォーカス)カメラとして構成することで、フォーカス位置調整動作を行う必要がなくなる。このように構成することで、立体画像撮像装置1−3の構成をより簡略化することができる。また、各撮像部2をパンフォーカス(ディープフォーカス)カメラとして構成すれば、被写界深度が深い状態で撮影が行われるため、フォーカスが合っている範囲も非常に広くなる。これにより、フォーカスが合っていないボケた状態の被写体が融像されてしまうことを防げる。さらに、左右の撮像部2で取得される視差画像において、同一の被写体Sに対するフォーカス状態の差異が発生しないという効果も得られる。
【0067】
<7.第4の実施の形態(撮像部の姿勢を制御することにより輻輳位置の調整を行う例)>
本開示の第4の実施の形態による立体画像撮像装置1−4について、図7(a)と図7(b)を参照して説明する。立体画像撮像装置1−4の構成は、図1に示した構成と基本的に同一である。すなわち、1つの対物光学系10と2つの撮像部2R,2Lで構成され、撮像部2Rと撮像部2Lとを、互いの光軸Ax2Rと光軸Ax2Lとが対物光学系の光軸Ax1上の空間像S′の形成位置上で交差するような位置に配置している。すなわち、2つの光軸Ax2が交差した交点が、各結像光学系20と対応する撮像素子202を含む撮像部2における輻輳点cとなる。輻輳点cは、対物光学系の焦点Fより距離δだけ離れた位置に設定されている。各結像光学系20の前側主点sの位置は、対物光学系焦点Fから光軸Ax1上を距離Aだけ離れた位置であり、かつ、光軸Ax1から垂直方向に距離d/2だけ離れた位置に配置されている。
【0068】
立体画像撮像装置1−4による輻輳位置調整は、撮像部2の姿勢を制御することにより行う。具体的には、各結像光学系20の前側主点sを中心に各カメラ姿勢制御部212が各撮像部2を回動させることにより、輻輳位置を調整する。図7(b)には、撮像部2Rと2Lの姿勢が、それぞれ図7(a)に示した状態よりも内側(対物光学系10の光軸Ax1側)に傾いた状態が示されている。このように各撮像部2を回動させることにより、輻輳点cの形成位置が、図7(a)に示した位置より後側に移動する。これに伴って、対物光学系10の焦点Fからの輻輳点cまでの距離δも長くなっている。
【0069】
空間像S′上の任意の点に輻輳位置が合うように距離δの値を調整するには、各撮像部2を回動させる角度も制御する必要がある。具体的には、各結像光学系20の光軸Ax2と対物光学系10の光軸Ax1とがなす角θ′を、前述した式3(角θ′=arctan(d/2(A−δ)))により定まるθ′となるように、各撮像部2の回動を制御する。フォーカスを最短撮影距離に合わせる場合には距離δの値が大きくなるため、上記式に示される関係により角θ′も大きくなる。フォーカスを無限遠に合わせる場合には距離δはゼロとなるため、角θ′は最も小さな角度となる。
【0070】
上述した第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態により得られる効果と同様の効果を得ることができる。すなわち、実効IADedをまったく変化させることなく、輻輳位置の調整を行うことができる。また、各各撮像部2をパンフォーカス(ディープフォーカス)カメラとして構成すれば、各撮像部2を回動させることにより各撮像部2の姿勢を変化させる制御を行うのみで、輻輳位置を可変できるようになる。このように構成することで、輻輳位置を可変させる可動部を直動案内機構として構成した場合と比べて、可動部の駆動に必要なパワーも少なくすることができる。したがって、立体画像撮像装置1−4における消費電力量も減少させることができるため、バッテリー(図示略)の消費量も少なく抑えることができる。
【0071】
なお、立体画像撮像装置1−4を、手ぶれ補正機能を有する撮像装置に適用してもよい。この場合には、各撮像素子202を物理的にシフトさせるのではなく、撮像素子202が画像を撮像面から読み出す読み出し範囲を電気的にシフトすることにより、輻輳位置の調整を行うことができる。
【0072】
<8.第5の実施の形態(結像光学系のレンズ位置に対して撮像素子の位置をシフトさせて配置した上で、撮像素子の位置のみを移動させることにより輻輳位置の調整を行う例)>
第5の実施の形態による立体画像撮像装置1−5について、図8(a)と図8(b)とを参照して説明する。立体画像撮像装置1−5の構成および配置は、図3に示したものと同一である。つまり、一枚の理想レンズで示した対物光学系10と、2つの撮像部2R,2Lとを備える構成としてあり、各結像光学系20の配置を、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行になる位置に配置している。さらに、各撮像素子202は、その撮像面が対物光学系10の光軸Ax1に垂直となるようにその角度が調整されている。さらに、各撮像素子202の中心位置が、結像光学系20の光軸Ax2からシフトさせた位置に配置されるように、各撮像素子202を配置している。シフトの方向は、対物光学系10の光軸Ax1から乖離する方向としてある。各撮像素子202のシフトの量vは、各結像光学系20の後側主点sと撮像素子202の中心とを結ぶ直線が、対物光学系10の光軸Ax1上の交点cで交差するような量に調整されている。
【0073】
次に、同じく図8(a)および図8(b)を参照して、立体画像撮像装置1−5による輻輳位置調整動作について説明する。輻輳点位置の制御は、各結像光学系20に対して各撮像素子202をシフトすることで行われる。つまり、図3を参照して説明したように、各撮像素子202の結像光学系20の光軸Ax2に対するシフト量vを可変することで、輻輳点cの形成位置(対物光学系10の焦点Fからの距離δ)を可変することができる。
【0074】
上述した第5の実施の形態によれば、第3(第4)の実施の形態により得られる効果と同様の効果が得られる。すなわち、実効IADedをまったく変化させることなく、輻輳位置の調整を行うことができる。また、本実施の形態によれば、各撮像素子202の位置を変化させるのみで輻輳位置を可変できるため、第3の実施の形態で示した例のように、各撮像部2全体を移動させる場合と比べて、輻輳位置を可変させるための可動部の等価質量を小さくすることができる。すなわち、可動部の駆動に必要なパワーも少なくすることができるため、立体画像撮像装置1−5における消費電力量も減少させることができる。これにより、バッテリーの消費量も少なく抑えることができる。
【0075】
また、上述した第5の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様に、左右の視差画像においてそのフォーカス面が同一となるという効果が得られる。左右の視差画像においてそのフォーカス面が同一となれば、輻輳角がついた状態でも、左右の撮像部2Lと2Rの取得画像における台形歪みの発生がなくなる。したがって、台形歪みを取るための画像処理を行うことなく、良好な視差画像を得ることができる。
【0076】
<9.第6の実施の形態(輻輳角を可変できるレンズを使用して輻輳点の調整を行い、撮像素子の位置を移動させることでフォーカス位置の調整を行う構成の例)>
第6の実施の形態による立体画像撮像装置1−6について、図9(a)〜図9(c)を参照して説明する。立体画像撮像装置1−6は、一枚の理想レンズで示した対物光学系10と、2つの撮像部2Rα,2Lαとを備える構成としてある。各撮像部2αは、結像光学系20αと撮像素子202とで構成される。各結像光学系20の配置は、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と平行になる配置としている。
【0077】
結像光学系20R(20L)は、凹レンズよりなる輻輳角可変レンズ204R(204L)と、2つの凸レンズとを含む構成としている。輻輳角可変レンズ204R(204L)は、結像光学系20の光軸Ax2に対して、対物光学系10の光軸Ax1から垂直方向に所定の距離だけシフトした位置に配置されている。シフトの方向は、対物光学系10の光軸Ax1から乖離する方向としてある。この輻輳角可変レンズ204R(204L)で結像光学系20の光軸が屈曲することにより、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとが、対物光学系10の光軸Ax1上の交点cで交差している。輻輳角可変レンズ204R(204L)のシフト量は、任意の値に設定できるようになっている。
【0078】
次に、同じく図9(a)〜図9(c)を参照して、立体画像撮像装置1−6による輻輳位置調整動作について説明する。各結像光学系20の光軸Ax2の屈曲量は、各輻輳角可変レンズ204の配置位置のシフト量に比例する。つまり、各輻輳角可変レンズ204の配置位置を変化させることで、各結像光学系20の光軸Ax2の屈曲量、すなわち、各結像光学系20の光軸Ax2と対物光学系10の光軸Ax1とのなす角度が変化する。この角度が変化することで、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとの交点に形成される輻輳点cの、対物光学系10の光軸Ax1上での形成位置も変わる。したがって、立体画像撮像装置1−6では、輻輳角可変レンズ204の配置位置を変えることで、そのシフト量に応じて輻輳位置を変化させることができる。
【0079】
図9(a)と図9(b)は、各結像光学系20の輻輳角可変レンズ204をシフトさせた場合の、各結像光学系20の光軸Ax2上での輻輳角可変レンズ204の位置の変化を示した図である。図9(a)では、各輻輳角可変レンズ204の位置を、結像光学系20Rの光軸Ax2に対して、対物光学系10の光軸Ax1から大きく離れた位置に配置している。このように配置したことにより、光線が凹レンズで構成される輻輳角可変レンズ204の下端近くを通るようになるため、光の屈折率が大きくなる。これにより、各結像光学系20の光軸Ax2が対物光学系10の光軸Ax1と交差する位置が、空間像S′の後方(結像光学系20側)となる。
【0080】
図9(b)に示すように、各輻輳角可変レンズ204の配置位置を、対物光学系10の光軸Ax1に近づく方向(下方向)にシフトさせると、輻輳角は小さくなり、輻輳点cも空間像S′の前方(被写体S側)に形成されるようになる。つまり、輻輳角可変レンズ204の位置を対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直方向に上下にシフトさせることで、そのシフト量に応じて輻輳点cの形成位置を調整することができる。なお、輻輳角可変レンズ204のシフト量は、輻輳点cの形成位置が、空間像S′の形成される範囲内となるように調整するものとする。つまり、本実施の形態による立体画像撮像装置1−6によれば、輻輳点cの可変範囲vrは、空間像S′の形成される奥行き方向の長さと同一となる。
【0081】
また、立体画像撮像装置1−6では、各撮像素子202が、その撮像面が各結像光学系20の光軸Ax2に対して垂直となる角度で配置されている。このため、フォーカスの調整も、各撮像素子202の位置を結像光学系20の光軸Ax2上で前後させる動作により実現することができる。図9(c)には、各撮像素子202の位置を、図9(b)に示した位置より後方に移動させた場合の例を示してある。このように、各撮像素子202の位置を後方に移動させることにより、この移動に伴って、フォーカス面fpも空間像S′上を後方に移動する。
【0082】
上述した第6の実施の形態によれば、第3〜第5の実施の形態により得られる効果と同様の効果を得ることができる。すなわち、実効IADedをまったく変化させることなく、輻輳位置の調整を行うことができる。また、本実施の形態によれば、輻輳角可変レンズ204のみを駆動させることにより輻輳位置の調整が行えるため、輻輳位置の調整に必要な可動部の等価質量を小さくすることができる。すなわち、可動部の駆動に必要なパワーも少なくすることができるため、立体画像撮像装置1−6における消費電力量も減少させることができる。これにより、バッテリーの消費量も少なく抑えることができる。
【0083】
また、本実施の形態では、フォーカス調整の際に、各撮像素子202を同一姿勢で同一方向へ移動させる制御を行う。つまり、左右の撮像素子202Lと202Rとを一体的に移動させることが可能である。そのため、同一の部材上に撮像素子202Rと202Lとを固着して、対物光学系10の光軸Ax1及び結像光学系20αの光軸Ax2と平行に移動することが可能となる。これにより、立体画像撮像装置の機構を簡略化することができるだけでなく、左右の撮像素子202Lと202Rの撮像面を同一の面上に維持することも容易となる。したがって、経時変化等に対する信頼性の確保が容易となるという効果も得られる。
【0084】
さらに、第2の実施の形態や第5の実施の形態と同様に、撮像素子202の撮像面が対物光学系10の光軸Ax1と結像光学系20の光軸Ax2に対して垂直を維持するので、フォーカス面fpも同様に、光軸Ax1および光軸Ax2に対して垂直となる。これにより、左右の視差画像のフォーカス面が同一となる。このため、輻輳がついた状態で撮影を行っていても、撮像部2Rαと2Lαによる左右の各取得画像において台形歪みが発生することが無くなる。したがって、後段での特別な画像処理を必要することなく、良好な視差画像を得ることができる。
【0085】
<10.第1〜第6の実施の形態の変形例>
なお、上述した各実施の形態では、結像光学系20Rの光軸Ax2Rと結像光学系20Lの光軸Ax2Lとを、対物光学系10の光軸Ax1上で交差させる場合を例に挙げたが、これに限定されるものではない。図10に示すように、結像光学系20Rの光軸Ax2と結像光学系20Lの光軸Ax2Lとを、対物光学系10の光軸Ax1と平行な軸Ax3上で交差させるように立体画像撮像装置1′を構成してもよい。軸Ax3は、図10において長破線で示してある。この軸Ax3は、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)と対物光学系10の光軸Axとを含む平面上にあるものとする。
【0086】
なお、対物光学系10の光軸Ax1と軸Ax3との間の距離であるΔは、結像光学系20Rの光軸Ax2と結像光学系20Lの光軸Ax2Lとの交点である輻輳点cを配置する位置(光軸Ax1に対して垂直の方向における上下の位置)によって、その値が変化する。各結像光学系20の光軸Ax2が軸Ax3に平行になるように各結像光学系20を配置した場合には、各結像光学系20の後側主点と各撮像素子202の中心とを結ぶ各直線が軸Ax3上で交わった点が、輻輳点cとなる。
【0087】
立体画像撮像装置1′をこのように構成した場合には、上述した各実施の形態で説明した各部の配置位置や移動の調整(輻輳位置調整)を、軸Ax3に対して行うようにすればよい。具体的には、対物光学系10の焦点Fから軸Ax3上に降ろした垂線(第2の垂線)と軸Ax3とが交わる交点x′(第2の交点)と、各結像光学系20の前側主点sとを結ぶ線分の長さが互いに同じ値となるように、ペアとなる各結像光学系20および/または、各撮像素子202を連動させてフォーカスの調整を行う。
【0088】
また、結像光学系20R(20L)の光軸Ax2R(Ax2L)と軸Ax3とのなす角度θ′を可変させてフォーカスの調整を行う場合には、角度θ′が上述した式3の式を満たすように各撮像部2の姿勢の調整または、各結像光学系20の位置または各撮像素子202の位置を調整する。なお、各結像光学系20の光軸Ax2が軸Ax3に平行になるように各結像光学系20を配置した場合には、角度θ′は、結像光学系20の前側主点sと撮像素子202の中心とを通る直線と、軸Ax3とがなす角度として示される。
【0089】
上記式において、“d”は対をなす各結像光学系20のレンズ間距離である。したがって、“d/2”は、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)から軸Ax3へ下ろした垂線(第3の垂線)の長さとなる。また、“A”は、第3の垂線と軸Ax3とが交わる交点x′′(第3の交点)と交点x′とを結ぶ線分の長さである。“δ”は、輻輳点cと交点x′とを結ぶ線分の長さである。
【0090】
なお、図10では、軸Ax3を、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)と対物光学系10の光軸Axとを含む平面上に設けた例を挙げたが、これに限定されるものではない。つまり、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)とを含む平面と、軸Ax3と対物光学系10の光軸Ax1とを含む平面とが、同一とならないような位置に、軸Ax3を配置してもよい。すなわち、軸Ax3は、対物光学系10の光軸Ax1と平行となる位置であれば、光軸Ax1を中心とした360°のいずれの位置に配置してもよい。
【0091】
図11には、結像光学系20R(20L)の前側主点sR(sL)とを含む三角形で示した平面p1と、対物光学系10の光軸Ax1と軸Ax3とを含む平面p2とが直交するような位置に、軸Ax3を配置した例を示してある。図11においては、撮像部2Rと2Lおよび対物光学系10を、筒状の形状で簡略的に示している。なお、図11に示す対物光学系10は、凸レンズで形成されているものとする。
【0092】
図11では、対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直方向で上の方向に距離Δだけ離れた位置に、軸Ax3を設定している。つまり、軸Ax3上に輻輳点(交点c)が形成されるように、結像光学系20Rと20Lとを配置している。このように配置した場合には、撮像部2Rに対応する実効瞳EpRおよび撮像部2Lに対応する実効瞳EpLは、対物光学系10の光軸Ax1に対して垂直方向の下方向にずれた位置に形成される。対物光学系10の光軸Ax1から距離Δ′だけ平面p2上を下方向にずれた位置に形成される軸を軸Ax4とすると、例えば撮像部2Rに対応する実効瞳EpRであれば、軸Ax4から右側の方向に距離ed′だけずれた位置に形成される。図11に示す例では、対物光学系10に凸レンズを使用した場合を想定しているため、各実効瞳Epが形成される位置は、軸Ax4を挟んで、実際の撮像部2Rと2Lの配置位置とは左右反対の位置となる。
【0093】
また、上述した実施の形態では、撮像部2を左右の視差画像取得用に2台設けた例を挙げているが、これに限定されるものではない。3つ以上の複数の撮像部2を設ける構成に適用することも可能である。図12は、撮像部2を8個設けた例を挙げたものである。対物光学系10の光軸Ax1上に撮像部2−1を配置してあり、撮像部2−1を挟んで左右対称の位置に、撮像部2−2と撮像部2−3とを配置している。さらに、撮像部2−2と撮像部2−3の外側(光軸Ax1から離れる方向)にも、撮像部2−4と撮像部2−5を配置している。これらの各撮像部2の各結像光学系20の前側主点sは、すべて同一の平面上に配置されている。すなわち、これらの前側主点sと輻輳点cとを含む平面p3上に配置されている。また、撮像部2−1を挟んで上下対称の位置にも、撮像部2−6と撮像部2−7とを配置している。撮像部2−6と撮像部2−7におけるそれぞれの主点sは、平面3に対して垂直な角度をなす同一の平面p4上に配置されているものとする。また、平面p3にも平面p4にも属さない位置(図面の左上の位置)にも、撮像部2−8を配置している。
【0094】
これらの撮像部2−1〜2−8の配置(角度)は、その光軸Ax2あるいは、その前側主点sと撮像素子202の中心とを結ぶ線が、交点(輻輳点c)で交わるような位置に調整されている。このように配置することにより、例えば撮像部2−2に対応する実効瞳Ep−2は、対物光学系10の光軸Ax1から右斜め下の方向に距離ed′だけずれた位置に形成される。
【0095】
複数の撮像部2をこのように配置した場合には、フォーカス調整を行う際は、撮像部2−2と2−3、撮像部2−4と2−5、撮像部2−6と2−7を、それぞれ対にして連動して制御させればよい。
【0096】
また、上述した各実施の形態では、対物光学系10の光軸Ax1または、軸Ax3を挟んで対称の位置にある撮像部2同士をペアとして、各撮像部2内の各結像光学系20および/または、それに対応する各撮像素子202を連動して制御する場合を例に挙げた。しかし、本開示を、これらを連動せずに制御する形態に適用してもよい。ただしこの場合も、上述したような、垂線d/2と線分Aの長さの比が一定となるようにフォーカス調整を行う必要がある。この制御を行うことにより、各撮像部2に対応する各実効瞳Epの形成位置が、フォーカスの調整に伴って変化してしまうことがなくなる。
【0097】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)被写体を実像または虚像として形成する機能を有する対物光学系と、
複数の独立した光学系により、前記対物光学系の異なる経路から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させる複数の結像光学系と、
前記複数の結像光学系に対応して設けられ、前記複数の結像光学系により結像された視差画像を画像信号に変換する複数の撮像素子と、
前記対物光学系の後側主点から前記結像光学系の前側主点までの間の前記対物光学系の光軸方向の距離における、前記対物光学系の焦点距離と、前記対物光学系の焦点から前記結像光学系の前側主点までの前記対物光学系の光軸方向における距離との比率が略一定となるように、前記結像光学系および/または前記撮像素子の配置位置に対する前記対物光学系の相対的な配置位置または、前記前記対物光学系の配置位置に対する、前記結像光学系および/または前記撮像素子の相対的な配置位置を変化させることによって、前記複数の結像光学系の各光軸が交差する位置または、前記複数の結像光学系の前側主点と前記撮像素子の中心とを結ぶ線同士が交差する位置に形成される輻輳点の位置を調整する制御部とを備えた
立体画像撮像装置。
(2)前記対物光学系が前記被写体を前記実像として結像する場合の焦点距離の値を正とし、前記対物光学系が前記被写体を前記虚像として結像する場合の焦点距離の値を負とした場合に、前記対物光学系の焦点距離(f)と、前記対物光学系の後側主点と前記結像光学系の前側主点までの水平方向における距離(L)とが、下記式を満たす値に設定される
|f/(L−f)|≦1
(1)に記載の立体画像撮像装置。
(3)前記制御部は、前記対物光学系を、当該対物光学系の光軸上を前後方向に移動させることにより、前記輻輳点の形成位置を調整する
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
(4)前記対物光学系は、複数のレンズ群により構成され、
前記制御部は、前記対物光学系のレンズ群全体またはその一部の位置を調整することにより前記輻輳点の形成位置を調整する
(1)〜(3)のいずれかに記載の立体画像撮像装置。
(5)前記対物光学系のレンズの一部に、焦点距離を変更可能な可変焦点光学素子を用い、
前記制御部は、前記可変焦点光学素子の焦点距離変更機能によって前記輻輳点の形成位置を調整する
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
(6)前記制御部は、前記複数の結像光学系と前記撮像素子とを含む撮像部の姿勢を、前記結像光学系の前側主点を中心に回動させることにより前記輻輳点の形成位置を調整する
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
(7)前記制御部は、前記複数の結像光学系のレンズ間距離をdとし、前記複数の結像光学系の各前側主点から前記対物光学系の光軸へ下ろした垂線の長さをd/2とし、前記垂線と前記対物光学系の光軸とが交わる交点と前記対物光学系の焦点とを結ぶ線分の長さをAとし、前記各結像光学系の各光軸が前記対物光学系の光軸上で交わった点に形成される輻輳点と、前記対物光学系の焦点とを結ぶ線分の長さをδとした場合に、前記撮像部の回動を、前記各結像光学系の各光軸と前記対物光学系の光軸とのなす角度である角θ′が以下の式を満たすように制御する
角θ′=arctan(d/2(A−δ))
(6)記載の立体画像撮像装置。
(8)前記複数の結像光学系の光軸同士が、前記対物光学系の光軸と平行な所定の位置に設けられた軸上で交わるように前記複数の結像光学系が配置され、
前記制御部は、前記複数の結像光学系のレンズ間距離をdとし、前記各結像光学系の各光軸が前記軸上で交わった点に形成される輻輳点と、前記対物光学系の焦点から前記軸に下ろした第2の垂線と前記軸との交点である第2の交点とを結ぶ線分の長さをδとし、前記複数の結像光学系の各前側主点から前記軸へ下ろした第3の垂線の長さをd/2とし、前記第2の交点と前記第3の垂線と前記軸との交点である第3の交点とを結ぶ線分の長さをAとした場合に、前記撮像部の回動を、前記各結像光学系の各光軸と前記対物光学系の光軸とのなす角度である角θ′が以下の式を満たすように制御する
角θ′=arctan(d/2(A−δ))
(6)記載の立体画像撮像装置。
(9)前記複数の結像光学系は、その光軸が前記対物光学系の光軸と並行になるように配置され、前記複数の撮像素子は、その撮像面が前記対物光学系の光軸と垂直となる角度で、前記結像光学系の光軸から所定量シフトした位置に配置され、
前記制御部は、前記撮像素子の位置を前記結像光学系の光軸に対して垂直方向に移動させることにより前記輻輳点の形成位置の調整を行う
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
(10)前記各結像光学系のレンズの一つとして凹レンズを使用し、
前記制御部は、前記凹レンズを前記対物光学系の光軸に対して垂直方向に移動させることにより前記輻輳点の形成位置の調整を行う
(1)または(2)に記載の立体画像撮像装置。
【符号の説明】
【0098】
1,1−1〜1−6,1′…立体画像撮像装置、2,2−1〜2−8,2L,2R…撮像部、5…制御部、10,10−1…対物光学系、10−1a…凸レンズ,10−1b…可変焦点光学素子、20,20L,20R…結像光学系、202,202L,202R…撮像素子、204,204L,204R…輻輳角可変レンズ、205…フォーカシングレンズ、210L,210R…モータ、211L,211R…撮像素子位置制御部、212L,212R…カメラ姿勢制御部、Ax1,Ax2,Ax2L,Ax2R…光軸、Ax3,Ax4…軸、f1,f2,f2′…焦点距離、p1〜p4…平面、x,x′,x′′…交点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を実像または虚像として形成する機能を有する対物光学系と、
複数の独立した光学系により、前記対物光学系の異なる経路から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させる複数の結像光学系と、
前記複数の結像光学系に対応して設けられ、前記複数の結像光学系により結像された視差画像を画像信号に変換する複数の撮像素子と、
前記対物光学系の後側主点から前記結像光学系の前側主点までの間の前記対物光学系の光軸方向の距離における、前記対物光学系の焦点距離と、前記対物光学系の焦点から前記結像光学系の前側主点までの前記対物光学系の光軸方向における距離との比率が略一定となるように、前記結像光学系および/または前記撮像素子の配置位置に対する前記対物光学系の相対的な配置位置または、前記前記対物光学系の配置位置に対する、前記結像光学系および/または前記撮像素子の相対的な配置位置を変化させることによって、前記複数の結像光学系の各光軸が交差する位置または、前記複数の結像光学系の前側主点と前記撮像素子の中心とを結ぶ線同士が交差する位置に形成される輻輳点の位置を調整する制御部とを備えた
立体画像撮像装置。
【請求項2】
前記対物光学系が前記被写体を前記実像として結像する場合の焦点距離の値を正とし、前記対物光学系が前記被写体を前記虚像として結像する場合の焦点距離の値を負とした場合に、前記対物光学系の焦点距離(f)と、前記対物光学系の後側主点と前記結像光学系の前側主点までの水平方向における距離(L)とが、下記式を満たす値に設定される
|f/(L−f)|≦1
請求項1に記載の立体画像撮像装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記対物光学系を、当該対物光学系の光軸上を前後方向に移動させることにより、前記輻輳点の形成位置を調整する
請求項2に記載の立体画像撮像装置。
【請求項4】
前記対物光学系は、複数のレンズ群により構成され、
前記制御部は、前記対物光学系のレンズ群全体またはその一部の位置を調整することにより前記輻輳点の形成位置を調整する
請求項3に記載の立体画像撮像装置。
【請求項5】
前記対物光学系のレンズの一部に、焦点距離を変更可能な可変焦点光学素子を用い、
前記制御部は、前記可変焦点光学素子の焦点距離変更機能によって前記輻輳点の形成位置を調整する
請求項2に記載の立体画像撮像装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記複数の結像光学系と前記撮像素子とを含む撮像部の姿勢を、前記結像光学系の前側主点を中心に回動させることにより前記輻輳点の形成位置を調整する
請求項2記載の立体画像撮像装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記複数の結像光学系のレンズ間距離をdとし、前記複数の結像光学系の各前側主点から前記対物光学系の光軸へ下ろした垂線の長さをd/2とし、前記垂線と前記対物光学系の光軸とが交わる交点と前記対物光学系の焦点とを結ぶ線分の長さをAとし、前記各結像光学系の各光軸が前記対物光学系の光軸上で交わった点に形成される輻輳点と、前記対物光学系の焦点とを結ぶ線分の長さをδとした場合に、前記撮像部の回動を、前記各結像光学系の各光軸と前記対物光学系の光軸とのなす角度である角θ′が以下の式を満たすように制御する
角θ′=arctan(d/2(A−δ))
請求項6記載の立体画像撮像装置。
【請求項8】
前記複数の結像光学系の光軸同士が、前記対物光学系の光軸と平行な所定の位置に設けられた軸上で交わるように前記複数の結像光学系が配置され、
前記制御部は、前記複数の結像光学系のレンズ間距離をdとし、前記各結像光学系の各光軸が前記軸上で交わった点に形成される輻輳点と、前記対物光学系の焦点から前記軸に下ろした第2の垂線と前記軸との交点である第2の交点とを結ぶ線分の長さをδとし、前記複数の結像光学系の各前側主点から前記軸へ下ろした第3の垂線の長さをd/2とし、前記第2の交点と前記第3の垂線と前記軸との交点である第3の交点とを結ぶ線分の長さをAとした場合に、前記撮像部の回動を、前記各結像光学系の各光軸と前記対物光学系の光軸とのなす角度である角θ′が以下の式を満たすように制御する
角θ′=arctan(d/2(A−δ))
請求項6記載の立体画像撮像装置。
【請求項9】
前記複数の結像光学系は、その光軸が前記対物光学系の光軸と並行になるように配置され、前記複数の撮像素子は、その撮像面が前記対物光学系の光軸と垂直となる角度で、前記結像光学系の光軸から所定量シフトした位置に配置され、
前記制御部は、前記撮像素子の位置を前記結像光学系の光軸に対して垂直方向に移動させることにより前記輻輳点の形成位置の調整を行う
請求項2に記載の立体画像撮像装置。
【請求項10】
前記各結像光学系のレンズの一つとして凹レンズを使用し、
前記制御部は、前記凹レンズを前記対物光学系の光軸に対して垂直方向に移動させることにより前記輻輳点の形成位置の調整を行う
請求項2に記載の立体画像撮像装置。
【請求項1】
被写体を実像または虚像として形成する機能を有する対物光学系と、
複数の独立した光学系により、前記対物光学系の異なる経路から出射された複数の被写体光束を視差画像としてそれぞれ改めて結像させる複数の結像光学系と、
前記複数の結像光学系に対応して設けられ、前記複数の結像光学系により結像された視差画像を画像信号に変換する複数の撮像素子と、
前記対物光学系の後側主点から前記結像光学系の前側主点までの間の前記対物光学系の光軸方向の距離における、前記対物光学系の焦点距離と、前記対物光学系の焦点から前記結像光学系の前側主点までの前記対物光学系の光軸方向における距離との比率が略一定となるように、前記結像光学系および/または前記撮像素子の配置位置に対する前記対物光学系の相対的な配置位置または、前記前記対物光学系の配置位置に対する、前記結像光学系および/または前記撮像素子の相対的な配置位置を変化させることによって、前記複数の結像光学系の各光軸が交差する位置または、前記複数の結像光学系の前側主点と前記撮像素子の中心とを結ぶ線同士が交差する位置に形成される輻輳点の位置を調整する制御部とを備えた
立体画像撮像装置。
【請求項2】
前記対物光学系が前記被写体を前記実像として結像する場合の焦点距離の値を正とし、前記対物光学系が前記被写体を前記虚像として結像する場合の焦点距離の値を負とした場合に、前記対物光学系の焦点距離(f)と、前記対物光学系の後側主点と前記結像光学系の前側主点までの水平方向における距離(L)とが、下記式を満たす値に設定される
|f/(L−f)|≦1
請求項1に記載の立体画像撮像装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記対物光学系を、当該対物光学系の光軸上を前後方向に移動させることにより、前記輻輳点の形成位置を調整する
請求項2に記載の立体画像撮像装置。
【請求項4】
前記対物光学系は、複数のレンズ群により構成され、
前記制御部は、前記対物光学系のレンズ群全体またはその一部の位置を調整することにより前記輻輳点の形成位置を調整する
請求項3に記載の立体画像撮像装置。
【請求項5】
前記対物光学系のレンズの一部に、焦点距離を変更可能な可変焦点光学素子を用い、
前記制御部は、前記可変焦点光学素子の焦点距離変更機能によって前記輻輳点の形成位置を調整する
請求項2に記載の立体画像撮像装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記複数の結像光学系と前記撮像素子とを含む撮像部の姿勢を、前記結像光学系の前側主点を中心に回動させることにより前記輻輳点の形成位置を調整する
請求項2記載の立体画像撮像装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記複数の結像光学系のレンズ間距離をdとし、前記複数の結像光学系の各前側主点から前記対物光学系の光軸へ下ろした垂線の長さをd/2とし、前記垂線と前記対物光学系の光軸とが交わる交点と前記対物光学系の焦点とを結ぶ線分の長さをAとし、前記各結像光学系の各光軸が前記対物光学系の光軸上で交わった点に形成される輻輳点と、前記対物光学系の焦点とを結ぶ線分の長さをδとした場合に、前記撮像部の回動を、前記各結像光学系の各光軸と前記対物光学系の光軸とのなす角度である角θ′が以下の式を満たすように制御する
角θ′=arctan(d/2(A−δ))
請求項6記載の立体画像撮像装置。
【請求項8】
前記複数の結像光学系の光軸同士が、前記対物光学系の光軸と平行な所定の位置に設けられた軸上で交わるように前記複数の結像光学系が配置され、
前記制御部は、前記複数の結像光学系のレンズ間距離をdとし、前記各結像光学系の各光軸が前記軸上で交わった点に形成される輻輳点と、前記対物光学系の焦点から前記軸に下ろした第2の垂線と前記軸との交点である第2の交点とを結ぶ線分の長さをδとし、前記複数の結像光学系の各前側主点から前記軸へ下ろした第3の垂線の長さをd/2とし、前記第2の交点と前記第3の垂線と前記軸との交点である第3の交点とを結ぶ線分の長さをAとした場合に、前記撮像部の回動を、前記各結像光学系の各光軸と前記対物光学系の光軸とのなす角度である角θ′が以下の式を満たすように制御する
角θ′=arctan(d/2(A−δ))
請求項6記載の立体画像撮像装置。
【請求項9】
前記複数の結像光学系は、その光軸が前記対物光学系の光軸と並行になるように配置され、前記複数の撮像素子は、その撮像面が前記対物光学系の光軸と垂直となる角度で、前記結像光学系の光軸から所定量シフトした位置に配置され、
前記制御部は、前記撮像素子の位置を前記結像光学系の光軸に対して垂直方向に移動させることにより前記輻輳点の形成位置の調整を行う
請求項2に記載の立体画像撮像装置。
【請求項10】
前記各結像光学系のレンズの一つとして凹レンズを使用し、
前記制御部は、前記凹レンズを前記対物光学系の光軸に対して垂直方向に移動させることにより前記輻輳点の形成位置の調整を行う
請求項2に記載の立体画像撮像装置。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−177747(P2012−177747A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39557(P2011−39557)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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