説明

立軸回転電機の軸受装置

【課題】立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、回転軸の軸振動を抑制する立軸回転電機の軸受装置を提供する。
【解決手段】回転軸1に取り付けたスラストカラー2と、スラストカラー2の側面に配置されたガイド軸受3と、スラストカラー2とガイド軸受3との間に設けた軸受ギャップ5と、スラストカラー2とガイド軸受3とを収納する油槽4と、油槽4に充填され冷却される潤滑油11と、を備えた立軸回転電機の軸受装置において、立軸回転電機の起動時に弁12を制御して潤滑油11の冷却を停止し、立軸回転電機の定常運転移行時に弁12を制御して潤滑油11の冷却を開始してスラストカラー2の熱収縮を防ぐものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発電電動機及び可変速発電電動機などの立軸回転電機の軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電設備に使用されるポンプ水車や水車等の水力機械や発電機は、高速、高圧及び高荷重下での過酷な運転にさらされ、電力需要の要求に応じて素早い起動、停止と、種々の負荷条件の下で運転される状況下にあり、安定した電力供給のために高い信頼性が要求されている。
水力機械などの立軸回転電機に使用される軸受装置は、下面に回転板が設けられたスラストカラーが回転軸に取り付けられ、スラストカラーの側面にはガイド軸受が取り付けられていると共に、回転軸の外側を取囲むように潤滑油が封入された油槽が配設され、この油槽の潤滑油にスラストカラーとガイド軸受とが浸かっている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
このガイド軸受は、定常運転時における回転軸の軸振動を抑制させるという観点で、スラストカラーとガイド軸受との間に設けられた軸受ギャップを、出来るだけ小さくするように据え付けられている。
しかし、この軸受ギャップが小さすぎると、定常運転時におけるスラストカラーの回転による自身の遠心力による回転軸の半径方向外側への変位及びガイド軸受部での発熱による回転軸の半径方向内側への熱膨張等により、軸受ギャップが減少して、スラストカラーとガイド軸受との接触によりガイド軸受が損傷する可能性がある。
したがって、軸受ギャップは、定常運転時におけるギャップの減少量を考慮して、据付時に必要最小限な広めの設定とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−46955号公報(第2頁、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の立軸回転電機の軸受装置では、立軸回転電機の起動時に、油温度の低い潤滑油が、油槽に備えられた油冷却器で、更に冷却された。
その冷却された潤滑油によりスラストカラーが回転軸の半径方向内側に熱収縮して、軸受ギャップが据付時より広くなり、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、回転軸の軸振動が大きくなるという問題があった。
【0006】
この発明は、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、回転軸の軸振動を抑制する立軸回転電機の軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の立軸回転電機の軸受装置は、回転軸に取り付けたスラストカラーと、スラストカラーの側面に配置されたガイド軸受と、スラストカラーとガイド軸受との間に設けた軸受ギャップと、スラストカラーとガイド軸受とを収納する油槽と、油槽に充填され冷却される潤滑油と、を備えた立軸回転電機の軸受装置において、立軸回転電機の起動時に潤滑油の冷却を停止し、立軸回転電機の定常運転移行時に潤滑油の冷却を開始してスラストカラーの熱収縮を防ぐものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、回転軸に取り付けたスラストカラーと、スラストカラーの側面に配置されたガイド軸受と、スラストカラーとガイド軸受との間に設けた軸受ギャップと、スラストカラーとガイド軸受とを収納する油槽と、油槽に充填され冷却される潤滑油と、を備えた立軸回転電機の軸受装置において、立軸回転電機の起動時に潤滑油の冷却を停止し、立軸回転電機の定常運転移行時に潤滑油の冷却を開始してスラストカラーの熱収縮を防ぐことで、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、回転軸の軸振動を抑制する立軸回転電機の軸受装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1における立軸回転電機の軸受装置の構造図である。
【図2】この発明の実施の形態における軸受ギャップの変化の説明図である。
【図3】この発明の実施の形態2における立軸回転電機の軸受装置の構造図である。
【図4】この発明の実施の形態3における立軸回転電機の軸受装置の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1は、立軸回転電機の起動時に潤滑油の冷却を停止して、立軸回転電機の定常運転移行時に潤滑油の冷却を開始するものである。
図1は、この発明の実施の形態1における立軸回転電機の軸受装置の構造図である。図1において、(a)は軸受装置周りの部分側面図であり、(b)は(a)のI−IIでの水平方向の部分断面図である。図2は、立軸回転電機が停止時から起動時、定常運転にいたる過程で、軸受ギャップの変化を説明する図である。図2において、(a)は停止時(起動前)であり、(b)は起動時(従来)であり、(c)は定常運転時であり、(d)は起動時(実施の形態1)であり、(e)は起動時(実施の形態2、3)の説明図である。
【0011】
この発明の実施の形態1における立軸回転電機の軸受装置の構造について、図1をもとに説明する。
回転軸1に取り付けられたスラストカラー2が、回転軸1の周りに放射状に配置された複数のスラスト軸受6で摺動可能に支持され、スラストカラー2の側面に複数のガイド軸受3が間隔をあけて配置されている。スラストカラー2とスラスト軸受6とガイド軸受3とは、回転軸1の外周を取囲むように配置され、油冷却器8を備えた油槽4に収納されている。
矢印で示す軸受ギャップ5は、スラストカラー2と、ガイド軸受3との間に設けられたギャップである。この軸受ギャップ5は、図2(c)のように、定常運転時に必要な空間分Bの間隙と、回転によるスラスト軸受6との間の摩擦熱によるスラストカラー2の熱膨張分Dの間隙と、遠心力によるスラストカラー2の拡がり分Eの間隙とを合計した間隙である。このギャップを、図2(a)のように、据付時の設定分Aの間隙とする。
なお、軸受ギャップ5は、遠心力によるスラストカラー2の拡がり分Eの間隙だけでなく、水力発電機に水の力が作用することによりブラケット(図示せず)の変形分の間隙など、様々な変化要因を考慮しても良い。
【0012】
油槽4は、油面7まで潤滑油11が封入されている。
油冷却器8は、水と油との熱交換器であり、油冷却用冷却水配管10に冷却水を通すことで、油冷却器用油配管9を通る潤滑油11を冷却する。
油冷却用冷却水配管10を通る冷却水の流量は、弁12で制御する。
油冷却用油配管9は、油槽4と油冷却器8を繋ぎ、油冷却器8を経由して油槽4の外周内側に沿って配置され、ガイド軸受3の間でスラストカラー2近傍に油冷却用油配管9の出口13が配置される。
回転軸1によるスラストカラー2とスラスト軸受6との間の摩擦熱により加熱された潤滑油11は、油槽4から抜き取られて油冷却器8で冷却され、油冷却用油配管9の出口13から噴き出してスラストカラー2に当たり、油槽4に戻るように循環している。
【0013】
この発明の実施の形態1における立軸回転電機の軸受装置の動作について、図1をもとに説明する。
立軸回転電機の起動時は、弁12を制御して油冷却用冷却水配管10の冷却水を止めることで、冷却されていない潤滑油11がスラストカラー2に当たる。
次に、立軸回転電機の定常運転移行時に、弁12を制御して油冷却用冷却水配管10に冷却水を通すことで、冷却された潤滑油11によりスラストカラー2が冷却される。
【0014】
この発明の実施の形態1における軸受ギャップ5の変化を、従来と対比して、図2をもとに説明する。
この発明の実施の形態1の場合、停止時(起動前)には、図2(a)のように、軸受ギャップ5が据付時の設定分Aの間隙となる。
起動時には、図2(d)のように、軸受ギャップ5が据付時の設定分Aの間隙となる。
定常運転時には、図2(c)のように、回転によるスラスト軸受6との間の摩擦熱によりスラストカラー2が半径方向外側に熱膨張分Dの間隙ほど拡がることと、遠心力によるスラストカラー2の拡がり分Eの間隙ほど拡がることとで、軸受ギャップ5が定常運転時に必要な空間分Bの間隙となる。
【0015】
従来の起動時から潤滑油11を冷却する場合、停止時(起動前)には、図2(a)のように、この発明の実施の形態1と同様となる。
起動時には、図2(b)のように、冷却された潤滑油11によりスラストカラー2が半径方向内側に熱収縮分Fの間隙ほど変化することで、軸受ギャップ5が据付時の設定分Aの間隙と熱収縮分Fの間隙とを合計した間隙となり、回転軸1の軸振動が大きくなる。
定常運転時には、図2(c)のように、この発明の実施の形態1と同様となる。
したがって、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、軸受ギャップ5の変化量に含まれるスラストカラー2の熱収縮分Fの間隙が無くなるように調節されることで、回転軸1の軸振動が小さくなる。
【0016】
この発明の実施の形態1によれば、軸受ギャップの変化量に含まれるスラストカラーの熱収縮分の間隙が無くなるように調節できるので、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、回転軸の軸振動を抑制する立軸回転電機の軸受装置を提供できる。
【0017】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2は、立軸回転電機の起動時に加熱された潤滑油によりスラストカラーを加熱し、立軸回転電機の定常運転移行時に潤滑油の加熱を停止するものである。
図3は、この発明の実施の形態2における立軸回転電機の軸受装置の構造図である。図3において、(a)は軸受装置周りの部分側面図であり、(b)は(a)のI−IIでの水平方向の部分断面図である。
【0018】
この発明の実施の形態2における立軸回転電機の軸受装置の構造について、図3をもとに説明する。
この発明の実施の形態1と同様の構造の説明は、省略する。
ヒータ14は、油槽4の外側で、油冷却器用油配管9の出口13と油冷却器8との間にある油冷却器用油配管9に配置して、油冷却器用油配管9の中にある潤滑油11を加熱する。
なお、この発明の実施の形態2では、ヒータ14を、油冷却器用油配管9に配置したが、油冷却器用油配管9とは別の油配管にヒータ14を配置してその油配管の出口をスラストカラー2近傍に配置する構造でも良い。
【0019】
この発明の実施の形態2における立軸回転電機の軸受装置の動作について、図3をもとに説明する。
立軸回転電機の起動時は、油冷却器用油配管9に配置したヒータ14で加熱された潤滑油11がスラストカラー2に当たる。
次に、立軸回転電機の定常運転移行時に、ヒータ14の加熱を停止することで、冷却された潤滑油11によりスラストカラー2が冷却される。
【0020】
この発明の実施の形態2における軸受ギャップ5の変化を、この発明の実施の形態1と対比して、図2をもとに説明する。
停止時(起動前)には、図2(a)のように、この発明の実施の形態1と同様となる。
起動時には、図2(e)のように、ヒータ14で加熱された潤滑油11によりスラストカラー2が早く半径方向外側に熱膨張分Cの間隙ほど拡がることで、軸受ギャップ5が、この発明の実施の形態1に比べて、スラストカラー2の熱膨張分Cの間隙ほど、定常運転時に必要な空間分Bの間隙に早く近くなる。
定常運転時には、図2(c)のように、この発明の実施の形態1と同様となる。
したがって、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、軸受ギャップ5の変化量に含まれるスラストカラー2の熱膨張分が、この発明の実施の形態1に比べて、スラストカラー2の熱膨張分Cの間隙ほど、早く調節されることで、回転軸1の軸振動が早く小さくなる。
【0021】
この発明の実施の形態2によれば、軸受ギャップの変化量に含まれるスラストカラーの熱膨張分が、この発明の実施の形態1に比べて、早く調節できるので、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、回転軸の軸振動を早く抑制する立軸回転電機の軸受装置を提供できる。
【0022】
実施の形態3.
この発明の実施の形態2は、ヒータを油配管に配置して潤滑油を加熱しており、ヒータの容量が大きくないと、加熱された潤滑油によりスラストカラーが早く熱膨張しない。
この発明の実施の形態3は、ヒータを油槽内のスラストカラー近傍に配置するものである。
図4は、この発明の実施の形態3における立軸回転電機の軸受装置の構造図である。図4において、(a)は軸受装置周りの部分側面図であり、(b)は(a)のI−IIでの水平方向の部分断面図である。
【0023】
この発明の実施の形態3における立軸回転電機の軸受装置の構造について、図4をもとに説明する。
この発明の実施の形態1と同様の構造の説明は、省略する。
ヒータ15は、油槽4内で、スラストカラー2近傍のガイド軸受3の間に配置して、スラストカラー2を加熱する。
【0024】
この発明の実施の形態3における立軸回転電機の軸受装置の動作について、図4をもとに説明する。
立軸回転電機の起動時は、スラストカラー2近傍に配置されたヒータ15によりスラストカラー2が加熱される。
次に、立軸回転電機の定常運転移行時に、ヒータ15の加熱を停止することで、冷却された潤滑油11によりスラストカラー2が冷却される。
【0025】
この発明の実施の形態3における軸受ギャップ5の変化を、この発明の実施の形態2と対比して、図2をもとに説明する。
停止時(起動前)には、図2(a)のように、この発明の実施の形態2と同様となる。
起動時には、図2(e)のように、スラストカラー2近傍に配置されたヒータ15によりスラストカラー2が、この発明の実施の形態2に比べて、更に早く半径方向外側に熱膨張分Cの間隙ほど拡がることで、軸受ギャップ5が、スラストカラー2の熱膨張分Cの間隙ほど、定常運転時に必要な空間分Bの間隙に、この発明の実施の形態2に比べて、更に早く近くなる。
定常運転時には、図2(c)のように、この発明の実施の形態2と同様となる。
したがって、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、軸受ギャップ5の変化量に含まれるスラストカラー2の熱膨張分が、スラストカラー2の熱膨張分Cの間隙ほど、この発明の実施の形態2に比べて、更に早く調節されることで、回転軸1の軸振動が、更に早く小さくなる。
【0026】
この発明の実施の形態3によれば、軸受ギャップの変化量に含まれるスラストカラーの温度変化分が、この発明の実施の形態2に比べて、更に早く調節できるので、立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、回転軸の軸振動を、更に早く抑制する立軸回転電機の軸受装置を提供できる。
また、この発明の実施の形態3によれば、ヒータを油槽内部に設置したので、油槽外部に設置する場合に比べて、設置スペースを小さくできる。
【符号の説明】
【0027】
1...回転軸、
2...スラストカラー、
3...ガイド軸受、
4...油槽、
5...軸受ギャップ、
6...スラスト軸受、
7...停止時の潤滑油の油面、
8...油冷却器、
9...油冷却器用油配管、
10...油冷却用冷却水配管、
11...潤滑油、
12...弁、
13...出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けたスラストカラーと、前記スラストカラーの側面に配置されたガイド軸受と、前記スラストカラーと前記ガイド軸受との間に設けた軸受ギャップと、前記スラストカラーと前記ガイド軸受とを収納する油槽と、前記油槽に充填され冷却される潤滑油と、を備えた立軸回転電機の軸受装置において、
前記立軸回転電機の起動時に前記潤滑油の冷却を停止し、前記立軸回転電機の定常運転移行時に前記潤滑油の冷却を開始して前記スラストカラーの熱収縮を防ぐことで、前記立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、前記回転軸の軸振動を抑えることを特徴とする立軸回転電機の軸受装置。
【請求項2】
回転軸に取り付けたスラストカラーと、前記スラストカラーの側面に配置されたガイド軸受と、前記スラストカラーと前記ガイド軸受との間に設けた軸受ギャップと、前記スラストカラーと前記ガイド軸受とを収納する油槽と、前記油槽に充填され冷却される潤滑油と、を備えた立軸回転電機の軸受装置において、
前記立軸回転電機の起動時に前記潤滑油の加熱を開始し、前記立軸回転電機の定常運転移行時に前記潤滑油の加熱を停止して前記スラストカラーを早く熱膨張させることで、前記立軸回転電機の起動時から定常運転までの期間、前記回転軸の軸振動を抑えることを特徴とする立軸回転電機の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−140984(P2012−140984A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292342(P2010−292342)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】