説明

端子及び端子と電線の接続方法

【課題】導体素線間及び導体と端子間の接続抵抗が低減でき、低コストで、接続強度が高い端子及び端子と電線の接続方法を提供する。
【解決手段】電線2の導体3に接合させて電気的に接続するための接合子部4と、接合子部4と一体的に形成され相手端子に接触させて電気的に接続するための接触子部5とを備えた端子1であって、接合子部4は、電線2の導体3と接合される面に所定の温度で溶融する溶融性接合層6を有し、溶融性接合層6の反対面に上記温度で溶融しない母材層7を有し、母材層7に溶融性接合層6があらかじめ複合一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体素線間及び導体と端子間の接続抵抗が低減でき、低コストで、接続強度が高い端子及び端子と電線の接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、HEV(Hybrid Electric Vehicle;ハイブリッド自動車)において、電気ケーブルを電気部材に電気的に接続するとき、端子が使用される。端子は、電気ケーブルの電線に取り付けた状態で使用される。
【0003】
端子と電線の接続方法に関する従来技術として、以下のものが知られている。
【0004】
特許文献1においては、Cu又はCu合金からなる端子及びAl又はAl合金からなる端子の両方を用いて、圧着方式によりこれら端子をAl導体と接続する。この接続方法は、Cu又はCu合金端子のスプリングバックによるAl導体との接続抵抗の増加を、Al導体とのスプリングバック特性がほぼ同じであるAl又はAl合金端子を用いることで抑制する。
【0005】
特許文献2においては、Al又はCu、Cu合金からなる導体とAl端子との接続方法として、導体素線間及び導体と端子間の隙間にニッケルペーストを充填することにより、接続抵抗の低減及び防水性の向上を図る。
【0006】
特許文献3においては、端子金具の導体挟持内面と非接続導体との間に多孔質の金属シートを介在させ一括圧着する。
【0007】
特許文献4においては、圧着部の変形に伴って容易に塑性変形しうる導電性金属層を圧着部の内側に設ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−305356号公報
【特許文献2】特開2004−200094号公報
【特許文献3】特開昭56−48079号公報
【特許文献4】特開昭64−14883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術では、Cu又はCu合金端子とAl又はAl合金端子を必要とするため、部品点数が多くなると共に、圧着工程数が増加するため、コストが高くなる。また、特許文献1の技術では、導体素線間の接続抵抗は低減できない。
【0010】
特許文献2の技術では、導体素線間及び導体と端子間の接続抵抗は低減できるが、使用するバインダーが液性であるため、取り扱いに難点があり、工程が煩雑となる。また、特許文献2の技術では、ペーストの導電性を確保するためには、高価なNi粉末を高濃度に添加する必要があるため、材料コストが高い。
【0011】
特許文献3の技術では、導体と端子間の接続抵抗の低減と接続強度の向上を目的としているが、端子金具の導体挟持内面と非接続導体との間に多孔質の金属シートを介在させ一括圧着するので、部品点数が多くなると共に圧着工程が煩雑化し、コストが高くなる。
【0012】
特許文献4の技術では、導電性金属層を塑性変形させることによって、加熱工程を行うことなしに導線との電気的接触を行うことを目的としているが、圧着部の変形に伴って容易に塑性変形しうる導電性金属層を圧着部の内側に設けるので、部品点数が多くなると共に圧着工程が煩雑化し、コストが高くなる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、導体素線間及び導体と端子間の接続抵抗が低減でき、低コストで、接続強度が高い端子及び端子と電線の接続方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明の端子は、電線の導体に接合させて電気的に接続するための接合子部と、該接合子部と一体的に形成され相手端子に接触させて電気的に接続するための接触子部とを備えた端子であって、上記接合子部は、上記電線の導体と接合される面に所定の温度で溶融する溶融性接合層を有し、該溶融性接合層の反対面に上記温度で溶融しない母材層を有し、該母材層に上記溶融性接合層があらかじめ複合一体化されているものである。
【0015】
上記溶融性接合層がZn−Al合金(Alが0〜30mass%;0%は除く)、Sn−Zn合金(Znが0〜40mass%;0%は除く)、Cd−Zn合金(Znが0〜90mass%;0%は除く)のいずれかからなってもよい。
【0016】
上記母材層がAl又はAl合金からなってもよい。
【0017】
また、本発明の端子と電線の接続方法は、電線の導体に接合させて電気的に接続するための接合子部と該接合子部と一体的に形成され相手端子に接触させて電気的に接続するための接触子部とを備えた端子と、上記電線とを接続する方法であって、上記接合子部の上記電線の導体に接合される面に所定の温度で溶融する溶融性接合層を上記温度で溶融しない母材層とあらかじめ複合一体化させて設けておき、上記接合子部の溶融性接合層を上記電線の導体に臨ませ、これら溶融性接合層及び導体を上記温度以上に加熱しながら圧縮加工することにより、上記接合子部の溶融性接合層と上記電線の導体とを接合させるものである。
【0018】
上記圧縮加工の際に、上記接合子部を上記電線の導体の輪郭に倣う形状に整形してもよい。
【0019】
上記電線の導体がAl又はAl合金からなってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0021】
(1)導体素線間及び導体と端子間の接続抵抗が低減できる。
【0022】
(2)低コストである。
【0023】
(3)接続強度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態を示す端子と電線の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す端子と電線の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す端子と電線の斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態を示す端子と電線の斜視図である。
【図5】本発明の端子と電線を接続した後の接合子部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0026】
図1〜図4に示されるように、本発明に係る端子1は、電線2の導体3に接合させて電気的に接続するための接合子部4と、接合子部4と一体的に形成され相手端子(図示せず)に接触させて電気的に接続するための接触子部5とを備えた端子1であって、接合子部4は、電線2の導体3と接合される面(以下、内面という)に所定の温度で溶融する溶融性接合層6を有し、溶融性接合層6の反対面(以下、外面という)に上記温度で溶融しない母材層7を有し、母材層7に溶融性接合層6があらかじめ複合一体化されているものである。
【0027】
本発明の端子1は、内面に溶融性接合層6を有しており、その溶融性接合層6が外面の母材層7にあらかじめ複合一体化されていることを特徴とする。溶融性接合層6は所定の溶融温度(=固相線の温度)で溶融する材料からなり、母材層7は溶融性接合層6の溶融温度では溶融しない材料からなる。溶融性接合層6の材料は、いわゆるろう材である。
【0028】
本発明の端子1は、溶融性接合層6と母材層7とを複合一体化させたクラッド材を作製し、そのクラッド材を加工して端子1を製造したものである。
【0029】
本発明の端子1と電線2とを接続する方法は、接合子部4の溶融性接合層6を電線2の導体3に臨ませ、溶融性接合層6及び導体3を溶融性接合層6の溶融温度以上に加熱しながら圧縮加工することにより、溶融性接合層6と導体3とを接合、一体化させることを特徴とする。圧縮加工の方法は、プレス加工、ロータリスエージ加工などがある。例えば、所定の温度に加熱した圧縮金型を用いて熱間プレスをすることにより、圧縮加工を行うとよい。
【0030】
溶融性接合層6の材料は、所定の溶融温度で溶融する材料であり、Zn−Al合金(Alが0〜30mass%;0%は除く)、Sn−Zn合金(Znが0〜40mass%;0%は除く)、Cd−Zn合金(Znが0〜90mass%;0%は除く)などが好ましい。
【0031】
母材層7の材料は、Al又はAl合金が好ましい。
【0032】
端子1は、溶融性接合層6と母材層7とで構成される複合材である。溶融性接合層6と母材層7を複合一体化する方法としては、冷間あるいは熱間圧着によるクラッド法、めっき法、スパッタ法などが適用でき、その他の方法でも良い。
【0033】
母材層7の材料と溶融性接合層6の材料の組み合わせとして、母材層7の材料がCuに対して溶融性接合層6の材料がリン銅ろう、母材層7の材料がAlに対して溶融性接合層6の材料が低温用のZn−Al合金、Sn−Zn合金、Cd−Zn合金などがある。また、AlにSi、Fe、Cu、Mn、Mg、Znのうち1種以上の元素を含む材料と、Al母材があらかじめ複合一体化されたアルミニウムブレージングシートを用いてもよい。
【0034】
電線2の導体3には、Al導体、Al合金導体などが適用できる。Cu導体、Cu合金導体でもよい。比重の軽いAl導体又はAl合金導体を使用した場合、Cu導体又はCu合金導体を使用した場合と比べて軽量化が可能である。
【0035】
電線2は、複数本のAl導体素線9を撚り合わせた導体3と、導体3を覆う絶縁層10とからなる。絶縁層10には、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素系樹脂などを用いる。
【0036】
図1〜図4に示した端子1の接触子部5は、中央に貫通穴(ボルト穴)11を有する円盤状に形成される。その接触子部5の一部から径方向に所定の長さ接合子部4が延びている。端子1に接続する電線2は、絶縁層10が剥かれて導体3が所定の長さ露出される。
【0037】
図1に示した端子1は、上端子片1aと下端子片1bに分割形成されている。上端子片1aと下端子片1bは、それぞれ接合子部4と接触子部5を有する。接合子部4は平板状に形成される。この端子1と電線2を接続する際には、上端子片1aは溶融性接合層6が導体3に接するよう溶融性接合層6の面を下に向け、下端子片1bは溶融性接合層6が導体3に接するよう溶融性接合層6の面を上に向ける。上端子片1aと下端子片1bで導体3を挟み、図示しない加熱圧縮手段により、上端子片1aと下端子片1bを上下から加圧することにより、接合子部4を導体3の輪郭に倣う形状に整形しつつ、同時に、溶融性接合層6を固相線温度以上の温度に加熱し、溶融性接合層6を溶融させることにより、上端子片1aと下端子片1bと導体3とを接合させる。加圧と加熱は同時に行ってもよいし、加圧後に加熱してもよい。
【0038】
図2に示した端子1は、上端子片1aと下端子片1bに分割形成されており、さらに、上端子片1aと下端子片1bは接合子部4の溶融性接合層6の面が凹面となるように、接合子部4が長軸に沿って導体3の外周の曲率に合わせて円弧状に曲げられている。これにより、上端子片1aと下端子片1bは、導体3に対して位置ずれがし難くなり、導体3の中心線と端子1の接合子部4の中心線が重なるように位置決めすることができる。また、図2の上端子片1aと下端子片1bは、導体3との接触面積が図1のものより大きい。
【0039】
図3に示した端子1は、接合子部4が中空管状に形成されている。この接合子部4となる中空管12の接触子部5側の端部は開放されている。図3の端子1と電線2を接続するとき、中空管12の接触子部5とは反対側の端部から中空管12内へ導体3を挿入し、図示しない加熱圧縮手段により、中空管12を周囲から加圧しつつ、同時に、溶融性接合層6を固相線温度以上の温度に加熱し、溶融性接合層6を溶融させることにより、中空管12と導体3とを接合させる。中空管12の接触子部5側の端部は開放されているが、導体3の周囲で溶融性接合層6が溶融して導体素線9間に浸透するので、接触子部5側から電線2の内部に水が浸入することが防止され、防水性が向上する。
【0040】
図4に示した端子1は、接合子部4が中空管状に形成されており、さらに、接合子部4となる中空管12の接触子部5側の端部はあらかじめ潰すなどして閉塞されている。図示しない中空管12の反対側の端部は開放されている。図4の端子1と電線2を接続するとき、中空管12の反対側の端部から中空管12内へ導体3を挿入し、図示しない加熱圧縮手段により、中空管12を周囲から加圧しつつ、同時に、溶融性接合層6を固相線温度以上の温度に加熱し、溶融性接合層6を溶融させることにより、中空管12と導体3とを接合させる。中空管12の接触子部5側の端部が閉塞されているため、接触子部5側から電線2の内部に水が浸入することが防止され、防水性が向上する。
【0041】
図5に、端子1と電線2を接続した後の接合子部4の断面を示す。端子1は、接合子部4の内面に溶融性接合層6を有するため、溶融した溶融性接合層6が端子1と導体3の間に浸透して固まる。このため、接続後は、端子1と導体3が密に接合され、端子1と導体3との接続抵抗が低減されると共に、接続強度が高くなる。また、溶融した溶融性接合層6が導体素線9同士の間に浸透して固まることから、導体素線9同士間が密に接合され、導体素線9同士間の接続抵抗が低減される。したがって、導体3が接続抵抗増大の原因となる強固な酸化膜を形成するAl導体又はAl合金導体であったり、母材層7がAl又はAl合金であっても、本発明の端子1を用いれば接続抵抗が低減されるという高い効果が発揮される。
【0042】
さらに、接続後の端子1と導体3との接合界面は、圧縮による接合に加え、溶融して固まった溶融性接合層6を介した強固な金属接合が形成されるため、接続強度が高くなり、機械的耐久性などの信頼性が向上する。
【0043】
また、本発明では、溶融性接合層6が母材層7にあらかじめ複合一体化されているため、作業性に優れていると共に、ペースト材などを塗布する工程を必要とせず、低コストで端子1と電線2を接続することができる。また、端子1の圧縮と溶融性接合層6の溶融が同時に行われるため、低コストで端子1と電線2を接続することができる。
【0044】
図1〜図3の端子1では、溶融性接合層6と母材層7とを複合一体化させたクラッド材を作製し、そのクラッド材を加工して端子1を製造しているため、端子1の片面全面に溶融性接合層6があることになり、相手端子に接触させる接触子部5にも溶融性接合層6が表れる。図1、図2の端子1では、2つの端子1で相手端子を上下から挟んで端子1と相手端子とを圧着するとき、加熱をすることにより、溶融性接合層6を溶融させて強固に接合させることができる。図3の端子1では、溶融性接合層6が相手端子に直接接するようにする。例えば、溶融性接合層6の材料をSn−Zn合金とし、母材層7の材料をAlとしたとき、溶融性接合層6の接続抵抗がAlよりも低いため、相手端子への接続信頼性を高めることができる。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
母材層7となる純Al条(厚さ4.0mm)と溶融性接合層6となるZn−Al合金条(厚さ2.5mm)を熱間圧延法により一体化させてクラッド材を作製した。このクラッド材を総板厚1.5mmになるように圧延加工を行った。その圧延したクラッド材を60mm×25mmに切り出した。このクラッド材切り出し片に、接触子部5のための貫通穴11を加工した。その後、この貫通穴11を加工したクラッド材切り出し片の接合子部4となる部分を湾曲加工し、図2の端子1を得た。導体3は、導体素線9であるφ1.0mmの純Al素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。端子1の溶融性接合層6が導体3と接するように上端子片1aと下端子片1bで導体3を挟んだ後、Zn−Al合金の固相線温度(382℃)以上の390℃で加熱しながら、圧縮加工を行った。圧縮加工は、所定の温度に加熱した圧縮金型を用いて熱間プレスすることにより行った。
【0046】
[実施例2]
母材層7となる純Al条(厚さ4.0mm)と溶融性接合層6となるSn−Zn合金条(厚さ2.5mm)を熱間圧延法により一体化させてクラッド材を作製した。このクラッド材を総板厚1.5mmになるように圧延加工を行った。その圧延したクラッド材を60mm×25mmに切り出した。このクラッド材切り出し片に、接触子部5のための貫通穴11を加工した。その後、この貫通穴11を加工したクラッド材切り出し片の接合子部4となる部分を湾曲加工し、図2の端子1を得た。導体3は、導体素線9であるφ1.0mmの純Al素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。端子1の溶融性接合層6が導体3と接するように上端子片1aと下端子片1bで導体3を挟んだ後、Sn−Zn合金の固相線温度(198℃)以上の210℃で加熱しながら、圧縮加工を行った。
【0047】
[実施例3]
母材層7となる純Al条(厚さ4.0mm)と溶融性接合層6となるSn−Zn合金条(厚さ2.5mm)を熱間圧延法により一体化させてクラッド材を作製した。このクラッド材を総板厚1.5mmになるように圧延加工を行った。その圧延したクラッド材を外径がφ10mmの管状に加工した。このクラッド材管を60mmの長さに切り出した後、その片端を潰して接触子部5とし、接触子部5に貫通穴11を加工し、図4の端子1を得た。導体3は、導体素線9であるφ1.0mmの純Al素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。端子1の溶融性接合層6が導体3と接するように上端子片1aと下端子片1bで導体3を挟んだ後、Sn−Zn合金の固相線温度(198℃)以上の210℃で加熱しながら、圧縮加工を行った。
【0048】
[実施例4]
母材層7となる純Al条(厚さ4.0mm)と溶融性接合層6となるCd−Zn合金条(厚さ2.5mm)を熱間圧延法により一体化させてクラッド材を作製した。このクラッド材を総板厚1.5mmになるように圧延加工を行った。その圧延したクラッド材を60mm×25mmに切り出した。このクラッド材切り出し片に、接触子部5のための貫通穴11を加工した。その後、この貫通穴11を加工したクラッド材切り出し片の接合子部4となる部分を湾曲加工し、図2の端子1を得た。導体3は、導体素線9であるφ1.0mmの純Al素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。端子1の溶融性接合層6が導体3と接するように上端子片1aと下端子片1bで導体3を挟んだ後、Cd−Zn合金の固相線温度(266℃)以上の280℃で加熱しながら、圧縮加工を行った。
【0049】
[実施例5]
母材層7となる純Cu条(厚さ4.0mm)と溶融性接合層6となるCu−P−Ag合金条(厚さ2.5mm)を熱間圧延法により一体化させてクラッド材を作製した。このクラッド材を総板厚1.5mmになるように圧延加工を行った。その圧延したクラッド材を60mm×25mmに切り出した。このクラッド材切り出し片に、接触子部5のための貫通穴11を加工した。その後、この貫通穴11を加工したクラッド材切り出し片の接合子部4となる部分を湾曲加工し、図2の端子1を得た。導体3は、導体素線9であるφ1.0mmの純Cu素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。端子1の溶融性接合層6が導体3と接するように上端子片1aと下端子片1bで導体3を挟んだ後、Cu−P−Ag合金の固相線温度(645℃)以上の660℃で加熱しながら、圧縮加工を行った。
【0050】
[比較例1]
図3の端子1と同様の形状をした純Al製の端子(肉厚1.5mm)の中空管状の接合子部内に純Al導体を挿入し、圧縮加工を行った。導体は、φ1.0mmの純Al素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。
【0051】
[比較例2]
図3の端子1と同様の形状をした純Cu製の端子(肉厚1.5mm)の中空管状の接合子部内に純Cu導体を挿入し、圧縮加工を行った。導体は、φ1.0mmの純Cu素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。
【0052】
[従来例1]
特許文献1と同様の片面が開放型のオープンタイプの純Cu製端子(肉厚1.5mm)上に純Cu導体を設置し、圧着により、純Cu製端子と純Cu導体を接続した。さらに、純Cu製端子のスプリングバック抑制を目的としたAl製端子を、上記純Cu製端子を上から覆うように圧着した。導体は、φ1.0mmの純Al素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。
【0053】
[従来例2]
図3の端子1と同様の形状をした純Cu製の端子(肉厚1.5mm)の中空管状の接合子部内に導電性接着材(Niペースト)を注入し、その後、接合子部内に純Al導体を挿入し、圧縮加工を行った。導体は、φ1.0mmの純Al素線を19本撚り合わせたもの(導体断面積15mm2)を用いた。
【0054】
表1は、上記の各実施例、比較例、従来例に基づく端子及び端子と電線の接続方法について、端子と導体の接続強度(初期値、塩水噴霧試験後の値)、接続抵抗(初期値、塩水噴霧試験後の値)、接続に関わる材料・工程を含めたコストを比較し、総合評価を行った結果を示したものである。端子と導体の接続強度の試験は、引っ張り試験機で端子と導体を掴み、引っ張り試験にて導体が破断するかまたは端子から導体が引き抜けるときの引っ張り応力を測定し、導体のみを引っ張り試験したときの引っ張り応力に対して90%以上の引っ張り応力であれば◎、85%以上90%未満であれば○、75%以上85%未満であれば△という判定をした。接続抵抗測定は、直流4端子法を用い、接続部に10Aの通電条件で行った。接続抵抗が30μΩ以下であれば◎、30μΩより大60μΩ以下であれば○、60μΩより大90μΩ以下であれば△、90μΩより大であれば×という判定をした。これらの端子と導体の接続強度の試験と接続抵抗測定を塩水噴霧試験を行う前と行った後に実施し、初期値と塩水噴霧試験後の値とを得た。塩水噴霧試験は、JIS C60068−2−11に準拠した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1によれば、溶融性接合層6と母材層7とが一体となっている本発明の端子1を導体3と接続した実施例1〜5では、初期の接続強度が高いだけでなく、塩水噴霧試験後も高い接続強度が保たれていた。さらに、接続抵抗に関しても、実施例1〜5では、初期及び塩水噴霧試験後で優れた値を示した。これは、実施例1〜5では、端子1の導体3と接合される面に溶融性接合層6を有し、溶融性接合層6の反対面に母材層7を有し、母材層7に溶融性接合層6があらかじめ複合一体化されており、溶融性接合層6及び導体3を固相線温度以上に加熱しながら圧縮加工することにより、溶融性接合層6と導体3とを金属的に接合させたためである。特に、強固な酸化膜を形成しやすいAl又はAl合金を母材層7に用いる場合やAl導体又はAl合金導体を用いる場合、端子1が溶融性接合層6を有する効果は高い。
【0057】
これに対し、溶融性接合層6を有さない比較例1、2及び従来例1は、初期の接続強度はある程度確保できるものの、塩水噴霧試験により、端子と導体の界面に塩水成分が浸入し、Alの酸化あるいは腐食を進行させ、接続強度低下を引き起こす。また、同様の理由で、接続抵抗の増加を引き起こす。従来例2のようNiペーストを用いた場合、接続部への塩水の浸入が防止できるので、接続強度低下、接続抵抗増加を比較的抑えることができる。
【0058】
コストに関しては、端子が金属単体からなる比較例1、2は優れている。実施例1〜5は、端子1の材料が複合材であるため、材料コストが比較例1、2より大きくなるものの、母材層7と溶融性接合層6が一体化しているため、複合材としての加工性及び取り扱い性が優れており、端子1の加工及び端子1と導体3の接続工程は簡易であり、コスト高を抑制できる。従来例1は、端子の部品点数が多いため、材料コストが高いのに加え、端子の製造コスト及び接続工程のコストが高くなる。従来例2は、端子に加え取り扱い性に難のあるNiペーストを用いるため、材料コスト及び接続工程のコストが著しく高くなる。また、高い導電性を確保するためには、ペースト中に高価なNi粉末を高濃度で添加する必要があり、また、Niをペースト中に均一に分散させることは技術的に問題が大きい。
【0059】
これらの判断により、コストの◎○×を評価し、総合評価の○△×を評価した。表1中の総合評価の欄に示される通り、接続強度、接続抵抗、コストの全てに優れた特性を示す端子及び端子と電線の接続方法は実施例1〜5である。
【0060】
以上説明したように、本発明によれば、導体素線間及び導体と端子間の接続抵抗が低減でき、低コストで、接続強度が高い端子及び端子と電線の接続方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 端子
2 電線
3 導体
4 接合子部
5 接触子部
6 溶融性接合層
7 母材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の導体に接合させて電気的に接続するための接合子部と、該接合子部と一体的に形成され相手端子に接触させて電気的に接続するための接触子部とを備えた端子であって、 上記接合子部は、上記電線の導体と接合される面に所定の温度で溶融する溶融性接合層を有し、該溶融性接合層の反対面に上記温度で溶融しない母材層を有し、該母材層に上記溶融性接合層があらかじめ複合一体化されていることを特徴とする端子。
【請求項2】
上記溶融性接合層がZn−Al合金(Alが0〜30mass%;0%は除く)、Sn−Zn合金(Znが0〜40mass%;0%は除く)、Cd−Zn合金(Znが0〜90mass%;0%は除く)のいずれかからなることを特徴とする請求項1記載の端子。
【請求項3】
上記母材層がAl又はAl合金からなることを特徴とする請求項1又は2記載の端子。
【請求項4】
電線の導体に接合させて電気的に接続するための接合子部と該接合子部と一体的に形成され相手端子に接触させて電気的に接続するための接触子部とを備えた端子と、上記電線とを接続する方法であって、
上記接合子部の上記電線の導体に接合される面に所定の温度で溶融する溶融性接合層を上記温度で溶融しない母材層とあらかじめ複合一体化させて設けておき、
上記接合子部の溶融性接合層を上記電線の導体に臨ませ、これら溶融性接合層及び導体を上記温度以上に加熱しながら圧縮加工することにより、上記接合子部の溶融性接合層と上記電線の導体とを接合させることを特徴とする端子と電線の接続方法。
【請求項5】
上記圧縮加工の際に、上記接合子部を上記電線の導体の輪郭に倣う形状に整形することを特徴とする請求項4記載の端子と電線の接続方法。
【請求項6】
上記電線の導体がAl又はAl合金からなることを特徴とする請求項4又は5記載の端子と電線の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−182492(P2010−182492A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23765(P2009−23765)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】