説明

竹抽出物/シクロデキストリン複合物、これよりなる抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、および甲殻類の黒変防止剤

【課題】 竹植物から、安定で、取り扱いのし易い形態とし、さらにこれを用いて有効性が高められた抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤を提供する。
【解決手段】 竹植物からの抽出成分をシクロデキストリンに包接および/または含浸された竹抽出物/シクロデキストリン複合物とする。竹植物は、好ましくはモウソウチク(孟宗竹)、特に竹の茎の表皮部分であり、好ましくは竹植物を(1)水蒸気の存在下、120〜180℃で水蒸気処理し、(2)これを冷却し、(3)炭素数1〜4のアルコールを含む抽出溶剤で抽出する。この竹抽出物/シクロデキストリン複合物を含んで抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹植物からの抽出成分をシクロデキストリンに包接および/または含浸させた竹抽出物/シクロデキストリン複合物、およびこれよりなる抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
竹や笹は漢方薬の成分として古くから知られ、また竹や笹のもつ特異な薬理作用、殺菌作用、抗酸化作用を巧みに利用した寿司、かまぼこ、団子などの包装など食品関連で広く使用されている。さらに、竹や笹のもつ特異な作用効果を広い範囲で、しかも簡単に使用できるように竹や笹から活性成分を抽出することも行われている。
【0003】
竹や笹の活性成分を抽出する利用に関しては、竹植物を粉砕して蒸気式高圧釜で処理した後、6〜8%程度のエチルアルコールに浸漬して得られた抽出物よりなる外用脱臭除菌剤〔特許文献1参照〕、モウソウチクを100℃以上で処理して得られる高温処理エキスからなる抗菌剤〔特許文献2参照〕、竹から水系溶剤で抽出された成分からなる食品の鮮度保持剤〔特許文献3参照〕、竹の溶剤抽出物からなる抗酸化剤組成物〔特許文献4、特許文献5参照〕、竹の乾燥粉末を超臨界CO条件で抽出する方法、および抗菌性、抗酸化性をもつ化合物〔特許文献6参照〕などの提案がある。また、本発明の出願人は、竹や笹の活性成分を効率的に抽出できる方法、およびその方法により効果の高い抗菌剤、抗酸化剤を提案した〔特許文献7参照〕。
【0004】
【特許文献1】特開平5−306232号公報
【特許文献2】特開昭63−290825号公報
【特許文献3】特開2002−17248号公報
【特許文献4】特開2000−104063号公報
【特許文献5】特開2001−98262号公報
【特許文献6】特開2004−143106号公報
【特許文献7】特願2004−307291号(出願日:2004.10.21)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、竹からの抽出物は、天然物由来であることから、安心して使用できる抗菌剤、抗酸化剤として注目され、その要求が増えつつある。しかし、竹からの抽出物は多くの成分の混合物でなっており、しかもいずれの成分も非常に微量である。従ってこれら微量成分をより有効に利用できるようにするとともに、安定に保存できることが望まれる。係る観点から本発明の目的は、竹や笹の植物からの抽出物を、安定な取り扱いの容易な形態にして、有効性が高められた抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達すべく本発明は竹抽出物/シクロデキストリン複合物に係り、竹植物からの抽出成分をシクロデキストリンに包接および/または含浸されてなっている。ここで竹植物は、好ましくはモウソウチク(孟宗竹)であり、特に竹の茎の表皮部分である。
【0007】
竹植物からの抽出成分は、好ましくは竹植物を(1)水蒸気の存在下、120〜180℃で水蒸気処理し、(2)これを冷却し、(3)炭素数1〜4のアルコールを含む抽出溶剤で抽出されたものである。ここで、炭素数1〜4のアルコールを含む抽出溶剤は、好ましくはエタノール、またはエタノールと水の混合液、とりわけ含水率40%(容積比)以下のエタノールである。
【0008】
本発明の竹抽出物/シクロデキストリン複合物を含んで抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤が製造される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、竹や笹の植物からの抽出物をシクロデキストリン複合物とすることで、安定な、かつ取り扱いが容易な形態となり、抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤としたときその有効性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、竹植物からの抽出成分をシクロデキストリンに包接されたもの、シクロデキストリンに含浸されたもの、あるいはこれらの混合物である。
【0011】
竹植物は、イネ科タケ亜科のマダケ属、ナリヒラダケ属、トウチク属、オカメザサ属、ササ属、アズマザサ属、ヤダケ属、メダケ属、カンチク属、ホウライチク属などに属する竹、笹であり、特に好ましくはマダケ属に属するモウソウチク、マダケ、ハチクである。
【0012】
本発明の竹抽出物は、竹植物を水、有機溶剤、あるいは水と有機溶剤の混合溶剤で抽出されたものであり、好ましくは竹植物の茎部分を用い、可能な限り細分化してチップ状、あるいは粉体状にしてから抽出されたものである。竹植物の茎部分のうち、特に表面から0.5mm以内の表皮部分から抽出されたものは、抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤として特に有効である。表皮部分を利用するには、乾燥した竹を円筒研磨機で切削刃に対して竹を回転させつつ移動して茎の外周囲部分を研磨して研磨粉を集めることで達成できる。しかし、表皮以外の部分にも活性成分は含まれており、従って竹植物の茎部分全体からの抽出物であっても何ら差し支えない。特に、細い竹、あるいは笹の場合には、表皮部分だけを分けることは実用的でなく、茎部分、あるいは茎と葉を含めた全体を用いて抽出することでよい。
【0013】
竹の抽出方法は、特に限定されるものではないが、好ましくは竹植物を水蒸気の存在下、120〜180℃で水蒸気処理し、これを冷却した後、炭素数1〜4のアルコールを含む抽出溶剤で抽出する。
水蒸気処理は、竹植物を耐圧容器に密封して水蒸気の存在下で行われる。このとき、容器内は120〜180℃、好ましくは130〜170℃とし、圧力は、好ましくは3〜7kg/cmとする。水蒸気処理は、耐圧容器に竹植物を入れて高圧水蒸気を吹き込む、あるいは耐圧容器に竹植物とともに少量の水を加えて密閉し空気あるいは窒素で所定圧力に上げて加熱してもよい。水蒸気処理の所要時間は、圧力や温度により異なるが30分〜5時間、好ましくは1〜4時間である。これら操作条件の範囲は、活性成分が効率良く抽出され、かつ経済性の観点から選ばれたものであり、この範囲の外でもそれなりの効果は見られるのはいうまでもない。
【0014】
水蒸気処理の後、室温に戻してから竹植物を抽出溶剤によって抽出する。抽出は、水蒸気処理した後の竹植物を抽出溶剤に浸漬することで行われる。抽出溶剤は、炭素数1〜4のアルコール、あるいは炭素数1〜4のアルコールと水の混合液が好ましい。とりわけ、炭素数1〜4のアルコールとしてエタノールを用い、水40%(容量%)以下、さらに好ましくは水15〜20%(容量%)を含む含水エタノールとする。炭素数1〜4のアルコール、あるいは含水の炭素数1〜4のアルコールは、クロロホルム、酢酸エチルなど非水溶性溶剤、アセトンなどの水溶性溶剤を用いての抽出と較べたとき、抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤として一段と優れた効果が期待できる。この効果の差は、抽出溶剤により抽出物の組成、組成比が異なることに由来するものと推測される。
【0015】
抽出操作は、室温〜70℃で、好ましくは攪拌しつつ行う。抽出時間は抽出温度により異なるが、通常30分以上、好ましくは1〜2時間である。抽出時間がこれより長くなっても性能には何ら悪い影響はない。抽出溶剤の量は、水蒸気処理した竹植物が完全に浸る程度であればよいが、代表的には、被抽出物が粉体状であるとき竹植物被抽出物が100gに対し抽出溶剤500〜1000mL程度である。
【0016】
水蒸気処理により竹植物の、特に茎部の硬い繊維組織が膨膨され、同時に活性成分が竹植物繊維組織から分裂され、次いで抽出溶剤により竹植物繊維組織より活性成分が抽出溶剤に移動してくる。炭素数1〜4のアルコール、あるいは含水の炭素数1〜4のアルコールは、他の溶剤に較べて竹植物繊維組織の中への浸透性がよく、かつ抗菌性、抗酸化性など活性成分に対して溶解性がよいので、それにより抽出効果が向上したものと推測される。
【0017】
抽出液は、そのままシクロデキストリンに包接および/または含浸されてもよいが、濃縮して竹抽出物を高濃度にしてから包接および/または含浸させてもよい。
【0018】
シクロデキストリンは、ブドウ糖が構成単位で6〜8個環状につながって分子内に空洞を持ち、外側は親水性、内側は親油性を示す環状オリゴ糖である。特に空洞内に各種化合物の分子を包み込む包接性を有する特徴があり、この性質を利用して種々の化合物の安定化や品質改善などが行われている。シクロデキストリンには、ブドウ糖が6個環状に結合したα−シクロデキストリン、ブドウ糖が7個環状に結合したβ−シクロデキストリン、ブドウ糖が8個環状に結合したγ−シクロデキストリンなど特定構造のシクロデキストリン、あるいは分岐構造のシクロデキストリンなどがあるが、本発明ではいずれのシクロデキストリンでもよく、また二種以上混合されていてもよい。
【0019】
本発明は、竹抽出物をシクロデキストリンに包接および/または含浸された竹抽出物/シクロデキストリン複合物として使用される。竹抽出物は、複数の成分で構成されており、これら成分の全てが理想的にシクロデキストリンに包接されることは確認されていない。しかし、シクロデキストリンの環状構造の外側は親水性が強く、内側は親油性が強い性状であり、かつ環状立体的構造の故に非結晶性で内部に浸透し易くなっており、包接されない場合にもシクロデキストリン中に吸着などにより竹抽出物が取り込まれ易くなっている。
【0020】
竹抽出物/シクロデキストリン複合物における竹抽出物とシクロデキストリンの構成割合は、竹抽出物中の活性成分に対し、シクロデキストリンを10〜100倍(重量比)とする。ここで、竹抽出物中の活性成分とは、竹植物を抽出した後に共存する抽出溶剤を実質的に全て蒸発除去した後の残留物である。竹抽出物/シクロデキストリン複合物を製造するには、竹を抽出した後の抽出液混合物をそのまま、あるいは必要により抽出液から溶剤を一部蒸発除去させ、一方シクロデキストリンも溶液にし、これら溶液を混合してから溶剤を蒸発除去して残った固形分を乾燥させる方法がある。その他、竹抽出物を含む溶液に粉体状のシクロデキストリンを浸漬させた後乾燥させる方法、粉体状のシクロデキストリンに竹抽出物を含む溶液をスプレーして後乾燥させる方法などでも目的は達することができる。後者のように、粉体状のシクロデキストリンに竹抽出物を含む溶液を接触させる方法では、竹抽出物の包接化は不完全であると推測されるが、上記したように竹抽出物がシクロデキストリンの非結晶性部分に取り込まれて本発明の目的が達せられる。
【0021】
竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、竹抽出物を多く含んでいても乾燥粉末状態を維持でき(実施例2参照)、抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤などに使用し易くなる。さらに、シクロデキストリンのもつ親水性が都合よく寄与して、水分のある対象物表面に広く分散され、かつ竹抽出物の活性成分が対象物表面に密に接するようになり、竹抽出物のもつ効果が効率よく発揮されるようになる。竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、これらの優れた効果とともに、天然素材であることから人体に対しても安全であり、広い用途が期待できる。例えば、抗菌剤として食品の日持向上、調理器具の消毒などに、抗酸化剤として食味向上、変色防止、酸化防止、鮮度保持に、チロシナーゼ活性阻害剤として、皮膚のアザやシミのような褐色調のメラニン色素沈着を抑制し、甲殻類の黒変防止剤として海老や蟹の色相保持に有効である。
【実施例1】
【0022】
〔竹抽出物/シクロデキストリン複合物の調製〕
1)竹植物
・モウソウチクの茎表皮部:モウソウチクの茎部分を円筒研磨機〔アミテック(株)製、「SKC−10」(商品名)〕で茎の外周囲0.5mm以下の表皮部を研磨して研磨粉を集めた。これを分級して粒径が約0.4mm以下のものを使用した。
・モウソウチクの茎肉質部:上記表皮部を除いた後さらに研磨して、表皮部分から離れて中心部に近い内部の研磨粉を集めた。これを分級して粒径が約0.4mm以下のものを使用した。
・熊笹:熊笹の葉と茎部分の全体を粉砕機〔日機装(株)製、「トルネードミル400S」(商品名)〕で粉砕し、分級して粒径が約0.4mm以下のものを使用した。
【0023】
2)水蒸気処理
竹植物粉体を耐圧容器に入れて密封し、水蒸気を吹き込み所定圧力、所定温度とし、2時間保持した。内容物を取り出し、室温に戻した。
【0024】
3)抽出溶剤による抽出
抽出溶剤1000mLに、水蒸気処理した竹植物粉体150gを浸漬し、40〜50℃で3時間攪拌(1000〜2000rpm)した。遠心分離した後固液分離して、液部分を抽出溶液とし、竹抽出物/シクロデキストリン複合物に用いた。尚、この抽出溶液は、活性成分(抽出溶剤を除去した後の残留物)を約1重量%含んでいた。各抽出物溶液の調製条件を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
4)シクロデキストリン
・シクロデキストリン;(株)横浜国際バイオ研究所製、分岐シクロデキストリン〔「イソエリートP」(商品名)〕を用いた。
5)竹抽出物/シクロデキストリン複合物の調製
上記活性成分約1重量%を含む竹抽出物の溶液と、シクロデキストリン溶液を所定割合で混合し、0℃にて1時間保持した。170℃でスプレー乾燥〔大川原化工機(株)製、スプレー乾燥機「OC−30」(型番)を使用〕して粉体状の竹抽出物/シクロデキストリン複合物とした。ここでは、竹抽出物活性成分をシクロデキストリンに対して1重量%、5重量%、10重量%となるようにした。
【実施例2】
【0027】
〔竹抽出物複合物の外観観察〕
1)竹植物抽出物
モウソウチク茎表皮部の粉体を、5.5kgf/cm、155℃で水蒸気処理し、エタノール/水(85/15、容積比)にて抽出した抽出物(抽出物−E)を用いた。
2)その他担体
・デキストリン;松谷化学工業(株)製、デキストリン〔「パインデックス100」(商品名)〕を用いた。
・トレハロース;(株)林原商事製、テラハロースを用いた。
3)試験方法
担体(シクロデキストリン、デキストリン、トレハロース)それぞれの水溶液を準備し、各担体水溶液と竹植物抽出物溶液とを混合して0℃にて1時間保持した後、170℃でスプレー乾燥した。得られた固形物を竹抽出物/担体複合物として外観を観察した。
【0028】
4)試験結果
竹抽出物/担体複合物の外観観察の結果を表2に示す。
【表2】

【0029】
竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、竹植物抽出物を吸着(または包接)して見掛けは乾燥粉末状になっている。一方、デキストリン、トレハロースを用いた竹抽出物/担体複合物では吸着が不充分で、竹植物抽出物が多くなると塊状になってきた。この結果から、シクロデキストリンは、竹植物抽出物を多量に吸着(または包接)しても乾燥粉末状が維持されることがわかる。
【実施例3】
【0030】
〔抗菌性の評価〕
1)感受性測定用平板の調製;
感受性測定用培地としてミューラー ヒントン培地(Mueller Hinton Medium)〔ディフコ研究所(Difco Laboratories)製〕を用いた。竹抽出物/シクロデキストリン複合物あるいは比較の試料を滅菌水で2倍に希釈し、この試料希釈液を感受性測定用培地に所定濃度(w/v%)になるように混合して、滅菌シャーレに分注、固化させて感受性測定用平板とした。
【0031】
2)接種用菌液の調製;
試験菌として、エシェリキア コリ(Escherichia coli)NBRC−3301(大腸菌)、スタフィロコッカス アウレウス(Staphlococcus aureus)NBRC−13276(黄色ブドウ状球菌)を用い、それぞれを普通寒天培地〔日水製薬(株)製〕で、35℃にて18〜20時間培養し、滅菌水を用いて菌数を約10/mLとした。
【0032】
3)抗菌性の測定
上記菌数調整した接種用菌液を、感受性測定用平板に白金耳で2cm×2cmの区画に塗布し、35℃にて18〜20時間培養した。所定時間経過後、菌の発育を観察し、最小発育阻止濃度を求めた。
【0033】
4)測定結果
大腸菌、黄色ブドウ状球菌に対しての最小発育阻止濃度の測定結果を表3に示す。
【表3】

【0034】
この結果から、竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、少ない量で大腸菌、黄色ブドウ状球菌を死滅させており、殺菌作用があることが認められた。
【実施例4】
【0035】
〔抗酸化性の評価〕
1)試料の準備
・試料水溶液:竹植物抽出物中活性成分を1重量%、5重量%、10重量%含む竹抽出物/シクロデキストリン複合物をそれぞれ試料として、これを精製水に溶解して20μg/mL、200μg/mL、2000μg/mL濃度の水溶液とした。
・1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)溶液:DPPHを特級エタノールに溶解して200μM溶液を調製した。
【0036】
2)測定
96穴マイクロプレートに、試料水溶液100μL、DPPH溶液100μLをそれぞれ入れた。これにより、試料を10μg/mL、100μg/mL、1000μg/mL含むDPPH溶液となる。DPPH溶液を加えて30分後に、DPPHに由来する520nmの吸光度(ABS)を測定した。ラジカル捕捉活性は、試料を含まないDPPH溶液の吸光度に対して試料を含むDPPH溶液の吸光度差(減少率%)をその尺度とした。すなわち、吸光度差の大きいもの程、ラジカル捕捉活性が大きい。尚、吸光度の測定は、マルチラベルプレートリーダー〔パーキンエルマージャパン社製、「ワラック(Wallac)1420 ARVOSX」(商品名)〕を用いた。
【0037】
3)測定結果
吸光度差の測定結果を表4に示す。
【表4】

この結果から、竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、ラジカル捕捉能があり、抗酸化剤として作用することが認められた。
【実施例5】
【0038】
〔チロシナーゼ活性阻害率の測定1〕
1)測定に用いた各種溶液の調製
・試料溶液:竹植物抽出物中活性成分を1重量%、5重量%、10重量%含む竹抽出物/シクロデキストリン複合物をそれぞれ試料として、それぞれ竹抽出物/シクロデキストリン複合物を0.05重量%含む水溶液として用いた。
・リン酸バッファー溶液(pH7):0.2M・リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)水溶液82.2mLと、0.1M・クエン酸水溶液17.8mLを混合した。
・ チロシン・バッファー溶液:チロシン181.7mgを、水10mLに加え、少量のNaOHを加えて溶解し、この溶液1mLをさらに水100mLで希釈した。さらに、この溶液1mLをリン酸バッファー溶液(pH7)にて希釈した。
・チロシナーゼ溶液:チロシナーゼ1mgをリン酸バッファー溶液(pH7)2mLにて希釈した。
【0039】
2)測定方法
チロシン・バッファー溶液840μL、リン酸バッファー溶液(pH7)50μL、試料溶液あるいはジメチルスルホキシド(DMSO)50μLを混合して試料を含む溶液あるいは試料を含まない溶液を準備した。10mL試験管に、この試料を含む溶液あるいは試料を含まない溶液それぞれに、チロシナーゼ溶液60μLを加えてよく混合して測定溶液とし、25℃に設定した恒温槽に浸け、所定時間経過毎に紫外線吸収装置のセルに採り、475nmでの吸光度を測定した。吸光度の測定値から、次の式によりチロシナーゼ活性阻害率(%)を求めた。
【0040】
【数1】

【0041】
3)測定結果
チロシナーゼ活性阻害率の測定結果を表5に示す。
【表5】

【0042】
この結果から、竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、従来から用いられているコウジ酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、次亜硫酸ナトリウムに劣らず、高いチロシナーゼ活性阻害率を示した。シクロデキストリンそのものには、チロシナーゼ活性阻害効果は実質みられない。
【実施例6】
【0043】
〔チロシナーゼ活性阻害率の測定2〕
1)試料
竹抽出物/シクロデキストリン複合物;実施例2における、抽出物−Eを用いた竹抽出物活性成分10%の複合物を用いた。
竹抽出物/担体複合物;実施例2における、抽出物−Eとトレハロース、デキストリンそれぞれとからなり、竹抽出物活性成分0.25%の複合体(吸着物)を用いた。
【0044】
2)試料溶液の調製
竹抽出物/シクロデキストリン複合物を0.05重量%含む水溶液、および竹抽出物/担体(トレハロース、デキストリン)複合物を10重量%含む水溶液をそれぞれ調製して試料溶液とした。これにより、試料溶液中の活性成分は、竹抽出物/シクロデキストリン複合物は5×10−3重量%、その他竹抽出物/担体複合物は2.5×10−2重量%となる。
【0045】
3)チロシナーゼ活性阻害率測定
竹抽出物/シクロデキストリン複合物および竹抽出物/担体(トレハロース、デキストリン)複合物の各試料について、調製直後、および空気中、温度35℃、湿度75%の雰囲気に30日間置いた後に、試料溶液を調製してチロシナーゼ活性阻害率(%)を測定した。尚、ここではチロシナーゼ溶液を加えてから、30分後、60分後についてのチロシナーゼ活性阻害率(%)を求めた。チロシナーゼ活性阻害率(%)の測定方法は、実施例5と同様にして行った。
【0046】
4)測定結果
チロシナーゼ活性阻害率の測定結果を表6に示す。
【表6】

この結果から、竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、他の竹抽出物/担体(トレハロース、デキストリン)複合物に比べて安定であり、長期保存しても作用効果の劣化が少ないことがわかる。
【実施例7】
【0047】
〔クルマエビの黒変観察〕
竹抽出物/シクロデキストリン複合物の0.05重量%生理食塩水(0.85%)溶液、およびその他比較試料の0.1重量%生理食塩水(0.85%)溶液を調製して処理液とした。生きたクルマエビ(沖縄県産)を処理液に10分間浸漬した後、水切りし、−30℃に急速冷凍した。次いで、解凍して8℃とし、解凍直後、8〜9℃にて所定時間放置した後のクルマエビ表面の黒変の状況を目視観察した
【0048】
クルマエビの黒変観察結果を表7に示す。
【表7】

この結果から、竹抽出物/シクロデキストリン複合物はクルマエビの黒変を防止して、クルマエビの商品価値を高めていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の竹抽出物/シクロデキストリン複合物は、安定で、かつ取り扱いが容易であり、抗菌剤、抗酸化剤、チロシナーゼ活性阻害剤、甲殻類の黒変防止剤として長期に高い有効性を期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹植物からの抽出成分がシクロデキストリンに包接および/または含浸されてなることを特徴とする竹抽出物/シクロデキストリン複合物。
【請求項2】
前記竹植物が、モウソウチク(孟宗竹)であることを特徴とする請求項1に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物。
【請求項3】
前記竹植物が、竹の茎の表皮部分であることを特徴とする請求項1に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物。
【請求項4】
前記竹植物からの抽出成分が、竹植物を(1)水蒸気の存在下、120〜180℃で水蒸気処理し、(2)これを冷却し、(3)炭素数1〜4のアルコールを含む抽出溶剤で抽出されたものであることを特徴とする請求項1に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物。
【請求項5】
前記炭素数1〜4のアルコールを含む抽出溶剤が、エタノール、またはエタノールと水の混合液であることを特徴とする請求項4に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物。
【請求項6】
前記エタノールと水の混合液が、含水率40%(容積比)以下のエタノールであることを特徴とする請求項5に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物を含んでなることを特徴とする抗菌剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物を含んでなることを特徴とする抗酸化剤。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物を含んでなることを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の竹抽出物/シクロデキストリン複合物を含んでなることを特徴とする甲殻類の黒変防止剤。

【公開番号】特開2006−315969(P2006−315969A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137886(P2005−137886)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(304049075)株式会社タケックス・ラボ (8)
【Fターム(参考)】