説明

第四級化アンモニウムシクロデキストリン化合物

【課題】抗感染薬の製造における、シクロデキストリン誘導体の使用。
【解決手段】抗感染薬の製造における、保存剤および浸透促進剤としての式(I):


[式中、hは0または1であり、Rはアルキレン、ヒドロキシアルキレン、ハロゲノアルキレン、単環式アラルキレン、シクロアルキレンおよびフェニレンから選択される二価基であり、R、RおよびRは、各々互いに独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキルおよびシクロヘテリルから選択される基であり、Xm−は、m倍負に荷電したアニオンであり、mは1またはそれより大きい整数であり、そしてkはn/mである]で示される化合物の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I):
【化1】

を有する第四級化アンモニウムシクロデキストリン化合物(以後、QACD化合物とも称す)の新規使用および上記化合物を含む新規医薬、特に眼用組成物およびそれらの使用に関するものである。
【0002】
式(I)において、
【化2】

が、そのヒドロキシル基をn個除去することによりシクロデキストリン(=CD)化合物から誘導されるn−価残基を表し、
nが0より大きい数であって、上記化合物1分子当たりの式
【化3】

で示される置換基の平均数を表し、
hが、0または1であり、
が、アルキレン、ヒドロキシアルキレン、ハロゲノアルキレン、単環式アラルキレン、シクロアルキレンおよびフェニレンから選択される二価基であり、
、RおよびRが、各々互いに独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキルおよびシクロヘテリルから選択される基であり、
m−が、m倍負に荷電したアニオンであり、
mが、1またはそれより大きい整数であり、そして
kがn/mである
化合物は、公知であり、たとえば米国特許第3453257号(インデックスh=1)または米国特許第5241059号(インデックスh=0)に記載されている。
【背景技術】
【0003】
式(I)の化合物は、上記参考文献において、たとえばベータ−シクロデキストリン自体のような非カチオン性シクロデキストリン化合物よりも水によく溶け得るものとして報告されている。これらの発見に基づいて、米国特許第5241059号は、漠然とたとえば、式(I)の化合物が医薬製造に有用であり得ると主張している。より最近の研究(T.Loftsson et al.、Drug Development and Industrial Pharmacy、24(4)、365−370(1998))において、カチオン性シクロデキストリン誘導体、たとえば2−ヒドロキシ−3−トリメチル−アンモニオプロピル−ベータ−シクロデキストリンが、非荷電シクロデキストリン、たとえば2−ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリンまたはランダムにメチル化されたベータ−シクロデキストリンの場合と比べて、水中での有機化合物に対して、特に双性イオン化合物、特に下式:
【化4】

を有する抗炎症性薬剤ETH−615に対して示す可溶化効果は低いことがさらに見出された。
【発明の概要】
【0004】
第一の局面において、本発明は、式(I)の化合物が強力な抗菌剤であり、特に細菌および真菌に対して有効であるという驚くべき発見に基いている。さらに、上記化合物はまた、ウイルスに対しても有用である。式(I)の化合物は、たとえば、750〜1500mg/kgのマウスにおけるLD50により示されている通り、毒性が非常に低く、優れた認容性を呈する。それらの抗菌活性に基き、式(I)の化合物は、一面では、細菌、真菌またはウイルスの存在により誘発される感染疾患の処置用の抗感染剤として、そして他面では、保存を必要とするあらゆるタイプの組成物、特に医薬組成物についての強力な保存剤として使用され得る。
【0005】
従って、第一の局面において、本発明は、処置を必要とする哺乳類、特にヒトの細菌、真菌およびウイルス感染症、特に細菌および真菌感染症を処置するための医薬を意味する抗感染医薬の製造における前記式(I)の化合物の使用に関するものである。
【0006】
式(I)の化合物は、新種の抗感染剤を表し、従って、現在使用されている抗感染剤の1種またはそれ以上、たとえば抗生物質に対して耐性を示す微生物の感染を制御する故に特に貴重であり得る。さらに、新規化合物は、1種またはそれ以上の既知抗感染性化合物を耐容し得ないかまたは既知化合物に対してアレルギーを示す患者を処置するさらに別の方法を提供し得る。
【0007】
式(I)の化合物は、一群の相同オリゴ糖である、公知シクロデキストリンから誘導される物質である。また、よく知られている通り、シクロデキストリンは、アミロースにおける場合と同様1、4位で一緒に結合された6個またはそれ以上、特に6、7または8個のアルファ−D−グルコピラノース単位を含む相同環状分子である。アルファ−D−グルコピラノース単位の数が6であるとき、分子はアルファ−シクロデキストリンとして知られ、アルファ−D−グルコピラノース単位の数が7であるとき、分子はベータ−シクロデキストリンとして知られ、そしてこの数が8であるとき、分子はガンマ−シクロデキストリンとして知られている。本出願の目的の場合、「シクロデキストリン」の語は、前記形態、並びに分子中にさらに大きな数のアルファ−D−グルコピラノース単位を有する他の対応する環状分子および同じくこれらのおよび所望により他の相同物の混合物を包含するものとする。6〜8単位またはそれ以上を有する様々な相同シクロデキストリンおよびそれらの混合物は、本発明の目的についての均等内容材料として使用され得る。実際、様々なフラクションを分離する理由はほとんどあり得ず、使用されるシクロデキストリンは、圧倒的多数の特定シクロデキストリン、たとえばベータ−シクロデキストリンを含み得る。「シクロデキストリン」の語を使用するとき、特記しない場合、様々な相同シクロデキストリンまたはそれらの混合物の間で区別は為されないものとする。
【0008】
本発明の第四級化アンモニウムシクロデキストリン化合物の語はまた、遊離ヒドロキシル基の1個またはそれ以上がエーテル化された対応する誘導体、特に対応するメチルエーテル誘導体を包含する。
【0009】
本発明による好ましいシクロデキストリン化合物は、式(Ia):
【化5】

[式中、Xは一荷電のアニオンであり、他の残基およびhおよびnは式(I)の場合と同じ意味を有する]
の化合物を包含する。
【0010】
式(I)および(Ia)において、Rは、アルキレン、ヒドロキシアルキレン、他の形態の置換アルキレン、アラルキレン、シクロアルキレン、またはフェニレン基であり得る。すなわち、Rは、たとえば、分枝状または直鎖C−Cアルキレン、たとえばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレンまたはオクチレン基等であり得る。前記および他のアルキレン基はまた、1個またはそれ以上の場所が、たとえば、シクロプロパン、シクロブタンおよび高級相同体から誘導されたヒドロキシル、アルコキシル、アリールまたはシクロアルキレン基により置換され得る。Rはまた、所望ならばたとえばアルコキシ、アルキル、好ましくはC−Cアルキルまたはハロゲンにより置換され得るフェニレン基を表し得る。
【0011】
、RおよびRは、異なるかまたは同一であり得、アルキル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、シクロヘテリルであり得る。
【0012】
すなわち、R、RおよびRは、たとえば、C−C18アルキル、たとえばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、分枝状または直鎖ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシルまたはオクタデシルおよび同様のアルキル基であり得、また、1個またはそれ以上の置換基、好ましくは1個またはそれ以上のヒドロキシルまたはハロゲン置換基により置換され得る。好ましくは、アルキルは、C−C10アルキル、たとえばC−Cアルキル、特にC−Cアルキル、さらに特定すればメチルを包含する。
【0013】
シクロアルキルの意味である場合、R、RおよびRは、好ましくは、C−Cシクロアルキル、たとえばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルを表し得、これらはまた、1個またはそれ以上の置換基、たとえばC−Cアルキル、ヒドロキシルまたはハロゲンにより置換され得る。
【0014】
アリール基として、R、RおよびRは、好ましくは、たとえばアルキル、特にC−Cアルキルまたはハロゲンにより置換され得るフェニルである。
【0015】
シクロヘテリルの意味である場合、R、RおよびRは、複素環基の残基、たとえばモルホリニル、ピリジル、ピロリジル、フルフリル、イミダゾリジル、イミダゾリルなどを表す。
【0016】
m−は、m倍負に荷電したアニオン、好ましくは臭素、塩素およびヨウ素を含むハロゲン、硝酸、リン酸、硫酸、蟻酸、酢酸、酪酸、オレイン酸、ステアリン酸、安息香酸のアニオンなどであり、[X]は一荷電アニオン、好ましくは上記から選択されるものである。
【0017】
式(I)または(Ia)の好ましい化合物において、R、RおよびRは、同一または異なるC−C18アルキル基を表す。従って、特に好ましいのは、既に上記で列挙したアルキル基である。
【0018】
公知の通り、式(I)または(Ia)の化合物の各シクロデキストリン分子は、異なる度合の置換を有し得る。指数nに対応する分子における第四級化アンモニウム基の総数は、1〜ベースのシクロデキストリンのヒドロキシル基の最大数、すなわち理論的にアルファ−シクロデキストリンの場合には18、ベータ−シクロデキストリンの場合には21およびガンマ−シクロデキストリンの場合には24までの範囲であり得る。しかしながら、所定量のシクロデキストリン誘導体においては、一般的に、異なる数の第四級化アンモニウム置換基を有する他の分子と一緒に、全く置換されていないシクロデキストリン分子も存在する。したがって、統計的平均を用いることにより、全体量のシクロデキストリン(分子)の第四級化アンモニウム基の数を特性検定する。本発明は、0より僅かに上の値、たとえば約0.1〜上記で示した理論的上限値の範囲に及ぶ指数nを有する式(I)または(Ia)のQACD化合物を包含する。これは、QACD誘導体が他の物質、たとえば未反応シクロデキストリンとの混合物形態およびそれに加えて、実質的に純粋な形態で使用され得ることを必然的に意味する。文献によると、アンヒドログルコース基における第一の6位ヒドロキシル基は最も反応性が高いと思われ、次いで2位にあるヒドロキシル基は次に反応性が高いと考えられ、3位にあるヒドロキシル基は最も反応性が低いと考えられる。反応の実際の配列または順序または関与するアンヒドログルコース単位の数とは関係無く、式(I)および(Ia)は、第四級化アンモニウム置換が、シクロデキストリンにおける全アンヒドログルコース単位とは全くまたはそれ未満での異なる置換度で行なわれ得るQACD誘導体を表すものとする。好ましくは、nは約1〜8、さらに好ましくは約1〜4、たとえば1〜3の範囲である。
【0019】
式(I)または(Ia)(ただし、指数hは1である)のQACD誘導体は、たとえば、米国特許第3453257号に詳述された要領または類推によって製造され得る。式(I)および(Ia)(ただし、hは0である)の化合物は、たとえば、米国特許第5241059号に記載された要領で製造され得る。
【0020】
本発明にとって有用な化合物の実施態様は、式(Ia)(ただし、hは1であり、Rは分枝状または直鎖C−Cアルキレンまたはフェニレンであって、両方とも1つまたはそれ以上の場所が置換され得、R、RおよびRは、異なるかまたは同一であって、置換または非置換C−C18アルキル、C−Cシクロアルキル、フェニル、モルホリニル、ピリジル、ピロリジル、フルフリル、イミダゾリジルまたはイミダゾリルであり、Xは、ハロゲン、硝酸、蟻酸、酢酸、酪酸、オレイン酸、ステアリン酸、安息香酸アニオンである)で示される化合物を含む。
【0021】
特に好ましいのは、式(Ia)(ただし、Rは、分枝状または直鎖C−Cアルキレン、特にC−Cアルキレン、さらに好ましくはエチレンまたはプロピレンであり、R、RおよびRは、異なるかまたは同一であって、置換または非置換C−C18アルキル、さらに特定すればC−Cアルキル、特にC−Cアルキルである)で示される化合物の使用である。
【0022】
同じく好ましいのは、式(I)または(Ia)(ただし、記号
【化6】

は、対応する部分的または完全エーテル化化合物を含むアルファ−、ベータ−またはガンマ−シクロデキストリンのn−価残基を表す)で示される化合物の使用である。
【0023】
さらに本発明は、上記の式(I)および特に式(Ia)で示される化合物から選択される抗菌活性薬剤を含む抗感染性医薬組成物に関するものである。
【0024】
本発明による上記医薬組成物は、ヒトを含む哺乳類への経腸的、たとえば経口または直腸、非経口的、たとえば静脈内、筋肉内または経皮投与に適切であり、それに応答する感染疾患の処置に有用であり、医薬活性化合物として式(I)または好ましくは式(Ia)で示されるQACD化合物の抗菌有効量を、単独または経腸または非経口適用に適切な1種またはそれ以上の医薬上許容される担体および/または賦形剤と組み合わせて含む。
【0025】
上記組成物は、たとえば、錠剤またはゼラチンカプセル剤形態であり、a)希釈剤、たとえば乳糖、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン、b)滑沢剤、たとえばシリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムまたはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコール、また錠剤についてはc)結合剤、たとえば珪酸アルミニウムマグネシウム、澱粉ペースト、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン、所望ならばd)崩壊剤、たとえば澱粉、寒天、アルギン酸またはそのナトリウム塩、または発泡性混合物、および/またはe)吸着剤、着色剤、香味料および甘味料と一緒に、有効成分としてたとえば、式(I)または(Ia)で示される1種またはそれ以上のQACD化合物を含有し得る。本発明による注射可能組成物は、好ましくは等張性水溶液または懸濁液であり、坐剤は、有利には脂肪性エマルションまたは懸濁液から製造される。上記組成物は、所望ならば滅菌され、そしてアジュバント、たとえば安定、湿潤または乳化剤、浸透圧調節用塩類および/または緩衝液を含み得る。所望ならば、上記組成物はまた、追加の保存剤および/または可溶化剤を含み得るが、通常これは必要ではない。経皮適用に適切な処方物は、担体と共に式(I)または(Ia)で示される1種またはそれ以上のQACD化合物の有効量を含む。有利な担体は、吸収され易い薬理学的に許容される溶媒を含むことにより、宿主の皮膚への浸透を助ける。特徴的に、経皮装置は、裏当て部材、所望により担体と共に化合物を含むリザーバー、長時間にわたって予め定められた制御速度で宿主の皮膚へ化合物を送達するための所望による速度制御バリアー、および装置を皮膚に固定する手段を含む包帯形態をしている。
【0026】
本発明医薬組成物の他形態には、吸入処方物、エマルション、懸濁液、ロッド、挿入物、インプラントがある。
【0027】
特に皮膚および目に限定されるわけではないが、局所適用に適切な処方物には、当業界でよく知られている水溶液、軟膏、クリームまたはゲルがある。式(I)および(Ia)で示されるQACD化合物は、予想外にもそれらの抗菌効果に加えて、第一に優れた局所認容性および第二に特に改善されたたとえば皮膚組織および特に目の組織、特に角膜および/または結膜組織への浸透性を呈することが見出されたため、局所用本発明組成物は特に有利である。従って、本発明組成物の特に有利な実施態様は、式(I)または(Ia)で示される1種またはそれ以上の化合物を含む眼用組成物である。
【0028】
上記本発明組成物はまた、他の治療上貴重な化合物を含み得、一般的に、慣用的な混合、造粒またはコーティング方法に従ってそれぞれ製造され、約0.1〜75%、好ましくは約1〜50%の割合で有効成分を含む。
【0029】
さらなる態様において、本発明は、式(I)で示される化合物から、および特に式(Ia)で示される化合物から選択される保存剤および追加的に上記式(I)および(Ia)で示される化合物以外の1種またはそれ以上の医薬活性の好ましくは眼用薬剤を含む医薬組成物に関するものである。上記組成物は、式(I)または(Ia)で示される化合物を保存上有効な量で、たとえば組成物の全重量に基いて0.01〜10%、好ましくは0.1〜10%、たとえば0.1〜5%の割合で含む。所望ならば、上記組成物はまた、式(I)および(Ia)で示される化合物に加えて、慣用的保存剤、たとえば他の第四級アンモニウム化合物、たとえば塩化ベンザルコニウム(N−ベンジル−N−(C−C18アルキル)−N,N−ジメチルアンモニウムクロリド)、塩化ベンゾオキソニウムまたは第四級アンモニウム塩類とは異なる保存剤、たとえばチオサリチル酸のアルキル−水銀塩類、たとえばチオマーサル、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀またはホウ酸フェニル水銀、パラベン、たとえばメチルパラベンまたはプロピルパラベン、アルコール、たとえばクロロブタノール、ベンジルアルコールまたはフェニルエタノール、グアニジン誘導体、たとえばクロロヘキシジンまたはポリヘキサメチレンビグアニド、過ホウ酸ナトリウム、ゲルマル(Germal、登録商標)IIまたはソルビン酸を、特にこれらを組み合わせたものの保存効力が、1種のみの保存剤を同量で用いる場合と比べて増す場合に含み得る。本発明による組成物のさらなる実施態様は、上記慣用的保存剤を含まない。
【0030】
式(I)および(Ia)で示されるQACD化合物のさらなる予想外の利点は、医薬、特に眼用組成物の繁用される貴重な処方成分ではあるが、特に眼用組成物の非常に一般的な保存剤である塩化ベンザルコニウムと不適合性であり、一緒にすると不可逆的に沈澱物を形成することが知られているヒアルロン酸化合物、特にヒアルロン酸塩類、たとえばヒアルロン酸ナトリウムの水溶液と適合し得ることである。式(I)または式(Ia)で示されるQACD化合物は、それらが塩化ベンザルコニウムとは不適合性であるヒアルロン酸誘導体との良好な適合性と組合わされて塩化ベンザルコニウムのように優れた保存効力を提供することから、このジレンマから抜け出す精密で簡潔な方法を提示する。
【0031】
既に上記で述べた通り、式(I)および(Ia)で示されるQACD化合物は、さらに、他の薬剤、具体的には各QACD化合物と封入錯体を形成する薬剤について、ヒトまたは動物組織、特に対応する眼および粘膜組織の浸透性を高めることが証明されている。従って、さらなる局面において、本発明は、組織への薬剤の浸透性を高め、組織への薬剤の透過性を高めるための式(I)または(Ia)で示される化合物の使用に関するもので、その場合上記薬剤は、好ましくは典型的に上記組織へ局所投与される薬剤であり、また、さらなる局面において、式(I)または(Ia)で示される化合物以外の1種またはそれ以上の医薬およびヒトまたは動物組織、特に眼または粘膜組織への上記薬剤の浸透性増強剤であって、上記式(I)の化合物および式(Ia)の化合物から選択される増強剤を含む組成物に関するものである。
【0032】
上記組成物の一実施態様は、総じて双性イオン性薬剤、および/または具体的には上記薬剤ETH−615を含まない。
【0033】
適切な薬剤には、抗脈管形成剤、抗炎症剤、抗アレルギー薬剤、麻酔薬、近視予防/阻止薬剤、縮瞳薬、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤、アルファ遮断薬、酸化防止剤、ビタミン類、および生物学的材料、たとえばペプチド、タンパク質、DNA、RNAおよび類似物質があるが、これらに限定はされない。
【0034】
さらに、特に適切な薬剤は、眼病用として、および/または眼に認容され得るものを含み、たとえば、以下の薬剤およびそれらの組合せから選択され得る:
−抗炎症剤、たとえばステロイド類、たとえばデキサメタゾン、フルオロメトロン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン;またはいわゆる非ステロイド抗炎症薬剤(NSAID)、たとえばCOX阻害剤、たとえばジクロフェナク、ケトロラック、またはインドメタシン;
−たとえばFK506、33−エピ−クロロ−33−デスオキシ−アスコマイシン、クロモリン、エマジン、ケトチフェン、レボカバスチン、ロドキサミド、ノルケトチフェン、オロパタジンおよびリザベンから選択される抗アレルギー薬剤;
−たとえばラタノプロスト、15−ケト−ラタノプロスト、ウノプロストンイソプロピル、ベタキソロール、クロニジン、レボブノロールおよびチモロールから選択される、緑内障(特に眼内圧処置)治療剤;
−たとえばコカイン塩酸塩、リドカイン、オキシブプロカインおよびテトラカイン塩酸塩から選択される、麻酔薬;
−近視予防/阻止薬、たとえばピレンゼピン、アトロピンなど;
−たとえばカルバコール、ピロカルピンおよびフィソスチグミンから選択される縮瞳薬;
−たとえばアセタゾラミドおよびドルゾラミドから選択される、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤;
−たとえばアプラクロニジンおよびブリモニジンから選択される、アルファ遮断剤;および
−たとえばアスコルビン酸、レチノール、レチノールアセテート、レチノールパルミテートおよび天然および合成トコフェロール類、特にアルファ−トコフェロールおよびアルファトコフェロールアセテートから選択される、酸化防止剤および/またはビタミン類;および
−生物材料、たとえばペプチド、タンパク質、DNAまたはRNAおよび類似物質、
および所望により
−たとえばアンフォテリシンB、フルコナゾールおよびナタマイシンから選択される抗真菌薬、および
−抗ウイルス薬剤、たとえばアシクロビル、ホミビルセン、ガンシクロビルおよびトリフルリジン。
【0035】
上記薬剤は、感染性疾患、真菌関連疾患、ウイルス疾患以外の病気の局所的処置、たとえば緑内障、炎症、アレルギー(たとえば枯草熱)、痛覚脱失(例、手術、眼への機械的衝撃等)などの処置に特に有用である。従って、特に好ましい眼用薬剤は、抗炎症剤、抗アレルギー薬剤および緑内障治療薬から選択される。
【0036】
特定シクロデキストリン化合物が、所望され得る無作為に選択された他の化合物との封入複合体を自動的に形成するわけではないことは、当業者には公知である。従って、上記の場合では、他の一成分または複数成分、たとえば一医薬/複数医薬の空洞必要性を満たすシクロデキストリン化合物、たとえばアルファ、ベータまたはガンマシクロデキストリンから誘導されるQACD誘導体の使用が好ましい。
【0037】
上記眼用組成物に存在する式(I)または式(Ia)で示される化合物の量は、一般的に、使用されている眼用薬剤により異なり、典型的には0.01〜35%、好ましくは0.5〜25%、たとえば5〜10%、10〜15%および15〜20%の範囲である。また、好ましいのは、対応する眼用組成物の総重量に対して、0.1〜5%の式(I)または(Ia)で示される化合物、特に0.5〜5%および最も特定すれば1〜5%の上記化合物の量である。
【0038】
局所投与用組成物および/または眼用組成物は、有利には局所投与に適切な担体、たとえば水、水および水混和性溶媒、たとえばC−Cアルカノール類、植物油または鉱油(重量にして0.05〜10%、好ましくは0.5〜5%)の混合物、ヒドロキシエチルセルロース、エチルオレエート、カルボキシメチルセルロース、および他の眼用非毒性水溶性ポリマー、たとえばセルロース誘導体、たとえばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースのアルカリ金属塩類、アクリレートまたはメタクリレート、たとえばポリアクリル酸の塩類またはアクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、天然生成物、たとえばゼラチン、アルギネート、ペクチン、トラガカントゴム、カラヤゴム、キサンタンガム、カラゲーニン、寒天およびアラビアゴム、澱粉誘導体、たとえば澱粉アセテートおよびヒドロキシプロピル澱粉、および同じく他の合成生成物、たとえばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、好ましくは架橋ポリアクリル酸、たとえば中性カルボポール、またはそれらのポリマーの混合物を含む。好ましい担体は、水、セルロース誘導体、たとえばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースのアルカリ金属塩類、中性カルボポール、またはそれらの混合物である。非常に好ましいのは水である。担体の濃度は、たとえば、有効成分の1〜100000倍濃度である。
【0039】
本発明の眼用組成物は、さらに等張化剤を含み得る。等張化剤は、たとえば、イオン性化合物、たとえばホウ酸、またはアルカリ金属またはアルカリ土類金属ハロゲン化物、たとえばCaCl、KBr、KCl、LiCl、NaI、NaBrまたはNaClである。非イオン性等張化剤は、たとえば尿素、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、プロピレングリコールまたはデキストロースである。たとえば、充分な等張化剤を加えることにより、即使用可能な眼用組成物に約50〜1000mOsmol、好ましくは100〜400mOsmol、さらに好ましくは200〜400mOsmolおよびさらに好ましくは280〜350mOsmolの重量オスモル濃度が付与される。
【0040】
pHを好ましくは生理学的pHに調節するために、緩衝液は特に有用であり得る。緩衝物質の例には、酢酸、アスコルビン酸、ホウ酸、炭酸水素/炭酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リン酸、プロピオン酸およびトリス(トロメタミン)緩衝液がある。トロメタミンおよびホウ酸緩衝液は、好ましい緩衝液である。加えられる緩衝物質の量は、典型的には、生理学的に認容し得るpH範囲を確保し、維持するのに必要なものである。pH範囲は、一般的に4〜9、好ましくは4.5〜8.5、さらに好ましくは5.0〜8.2の範囲である。
【0041】
本発明組成物は、たとえば貯蔵時またはかかる組成物を保管する密閉容器を開け、かかる組成物を空気にさらした後の微生物増殖を阻止するための追加的保存剤をさらに含み得るが、式(I)および(Ia)で示されるQACD化合物の抗菌効果故にこれは通常必要ではない。「抗菌効果」の語は、抗菌、抗真菌および抗ウイルス効果、特に抗菌および抗真菌効果を包含するものとする。
【0042】
特に活性または不活性成分が懸濁液またはエマルションを形成する傾向を有する場合、本発明組成物はさらに可溶化剤の存在を必要とし得る。
【0043】
本発明組成物に適切な可溶化剤は、たとえば、チロキサポール、脂肪酸グリセリンポリエチレングリコールエステル、脂肪酸ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコール、グリセリンエーテル、他のシクロデキストリン化合物(たとえば、アルファ−、ベータ−またはガンマ−シクロデキストリン、たとえばアルキル化、ヒドロキシアルキル化、カルボキシアルキル化またはアルキルオキシカルボニル−アルキル化誘導体、またはモノ−もしくはジグリコシル−アルファ−、−ベータ−またはガンマ−シクロデキストリン、モノ−もしくはジマルトシル−アルファ−、−ベータ−または−ガンマ−シクロデキストリンまたはパノシル−シクロデキストリン)、ポリソルベート20、ポリソルベート80またはそれらの化合物の混合物から成る群から選択され得る。特に好ましい可溶化剤の具体例は、ひまし油およびエチレンオキシドの反応生成物、たとえば市販製品クレモフォーEL(登録商標)またはクレモフォーRH40(登録商標)である。ひまし油およびエチレンオキシドの反応生成物は、眼による認容性が非常に良い特に優れた可溶化剤であると思われる。別の好ましい可溶化剤は、チロキサポールおよびシクロデキストリンから選択される。使用される濃度は、特に有効成分濃度により異なる。加えられる量は、典型的には有効成分を可溶性にするのに十分なものである。たとえば、可溶化剤の濃度は、典型的には有効成分濃度の0.1〜5000倍である。
【0044】
さらに本発明組成物は、非毒性賦形剤、たとえば乳化剤、湿潤剤または充填剤、たとえば200、300、400および600の平均分子量を有するたとえばポリエチレングリコール、高級ポリエチレングリコール、たとえばカーボワックス1000、1500、4000、6000および10000を含み得る。所望ならば使用され得る他の賦形剤を下記に列挙するが、ただし可能な賦形剤の範囲を何らかの点で制限するものではない。それらは、特に錯化剤、たとえば二ナトリウムEDTAまたはEDTA、酸化防止剤、たとえばアスコルビン酸、アセチルシステイン、システイン、亜硫酸水素ナトリウム、ブチル−ヒドロキシアニソール、ブチル−ヒドロキシトルエンまたはアルファ−トコフェロールアセテート、安定剤、たとえばチオ尿素、チオソルビトール、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムまたはモノチオグリセリン、または他の賦形剤、たとえばラウリン酸ソルビトールエステル、トリエタノールアミンオレエートまたはパルミチン酸エステルである。好ましい賦形剤は、錯化剤、たとえば二ナトリウムEDTAである。加えられる賦形剤の量およびタイプは、特定必要条件によって異なり、一般に約0.0001〜約90重量%の範囲である。
【0045】
薬剤を局所投与するとき、さらなる問題、すなわち許容できないほど短時間の間にそれが適用されている組織から再び洗い落とされることが多いという問題が頻繁に生じる。1種またはそれ以上の医薬、上記式(I)または(Ia)の化合物およびポリマーを含む担体を含む組成物は、驚くべきことにこの問題に対する解決策を提供する。すなわち、上記組成物は投与場所での持続的または長時間薬剤送達を可能にすることが見出された。
【0046】
従って、本発明は、さらなる局面、持続送達用薬剤投薬システムとしての1種またはそれ以上の医薬、式(I)または(Ia)の化合物およびポリマーを含む担体組成物の使用を含む。
【0047】
持続送達用薬剤投薬システムとして特に適切である本発明による組成物は、好ましくは半固体(ペースト様)またはさらに好ましくは固形状であり、たとえば、フィルム、ロッド、バー、カプセル、角膜シールド、角膜リング、インプラント、挿入物、眼内レンズ、治療用コンタクトレンズ、錠剤、たとえばミニ錠剤、ミニディスクまたはペレットの形態である。
【0048】
本発明による持続的薬剤送達用投薬システムを代表する固形状医薬に適切な担体は、たとえば
−好ましくはポリヒドロキシ−酸、たとえばポリ乳酸およびポリグリコール酸;ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリシアノアクリレート、天然ゴム、たとえばアカシアゴムおよびアラビアゴム;セルロース、たとえばカルボキシメチルセルロース;メタクリレート(コ)ポリマー、たとえばユードラジット、たとえばユードラジットRL PO、ユードラジットRS POから成る群から選択される生物腐食性ポリマーのマトリックス;および/または
−好ましくはマルトデキストリン、セルロース、たとえばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース;キトサン;ヒアルロン酸;ポリアクリレート、たとえばカルボポール;ポリカルボフィル、たとえばノベオンAA−1;ポリビニルアルコール、たとえばモヴィオール26−88;ポリビニルピロリドン、たとえばポビドンK30から成る群から選択される生物付着性ポリマー
から選択される。
【0049】
従って、本発明は、医薬有効薬剤、式(I)または(Ia)の化合物および固形状医薬の製造に適切な担体を含むフィルム、ロッド、バー、カプセル、角膜シールド、角膜リング、インプラント、挿入物、眼内レンズ、治療用コンタクトレンズ、錠剤、たとえばミニ錠剤、ミニディスクまたはペレットから選択される固形状医薬に関するものである。固形状医薬は、特に、持続的薬剤送達と改善された薬剤浸透性との相乗的利点を提供する。
【0050】
本発明による固形状医薬の物理的特性/様相は使用担体によって異なり、その物理的様相は、たとえば、軟性から硬性、水溶性から水不溶性、透明から不透明などの範囲に及び得る。
【0051】
上記担体の濃度は、たとえば、有効成分濃度の1〜100000倍である。
【0052】
本発明のさらに特異的な局面は、式(I)または(Ia)で示されるQACD化合物、少なくともさらなる医薬活性成分、たとえば眼用薬剤を含み、薬剤送達の改良、認容性の改良および優れた保存効力の相乗的特性を提供する新規薬剤送達システムである眼用組成物である。本明細書で使用されている薬剤送達は、特に眼への局所適用をいう。
【0053】
本発明のさらに別の局面は、以下のものである:
・式(I)の化合物から選択される、好ましくは式(Ia)の化合物から選択される保存剤の有効量を上記医薬組成物に加えることを含む医薬組成物の保存方法;
【0054】
・皮膚、口腔、粘膜、肺(pulmonal)、膣または眼、特に結膜組織への医薬組成物に含まれる薬剤の浸透性を高める、さらに特定すれば眼の組織への眼用組成物に含まれる薬剤の浸透性、特に角膜浸透性を高める方法であって、上記組成物に式(I)の化合物から選択される、好ましくは式(Ia)の化合物から選択される化合物を加えることを含む方法;
【0055】
・皮膚、口腔、粘膜、肺、膣または眼、特に結膜組織への医薬組成物に含まれる薬剤の浸透性を相乗的に高める、さらに特定すれば眼の組織への眼用組成物に含まれる薬剤の浸透性、特に角膜浸透性を高め、そして上記組成物を保存する方法であって、上記組成物に式(I)の化合物から選択される、好ましくは式(Ia)の化合物から選択される化合物を加えることを含む方法;および
【0056】
・投与場所での有機化合物、特に医薬活性薬剤の制御された、特に持続的または長時間送達方法であって、以下の段階:
上記薬剤を少なくとも請求項1に対応する式(I)の化合物から選択される、特に請求項2記載の式(Ia)から選択される化合物および、特に一つまたはそれ以上の生物腐食性ポリマーおよび/または一つまたはそれ以上の生物付着性ポリマーと混合し、そして
それによって得られた組成物を投与する
ことを含む方法。
【実施例】
【0057】
実施例1:角膜透過性の増加
角膜透過装置:
使用される装置は、温度制御用の2個の水ジャケットを取付けたセル(小室)から成る修正バリア−チエン(Valia-Chien)システムである。各セルをGBR緩衝液(下記参照)で満たし、マグネットにより攪拌し、オキシカーボン(5%CO/95%O)を連続的に供給する。実験中、セルを角膜により分割し、一方のセルは、GBRに溶かした試験物質を含み、ドナー(涙液側)として作用するものとし、他方のセルはアクセプター(房水側)とする。
【0058】
角膜:
ブタの眼を屠殺場から入手する。氷上のグルタマックス−I(ギブコ)を含むダルベッコMEM(最少必須培地)中でそれらを保管し、受取った後数時間以内に使用する。
【0059】
緩衝液:
インビトロ角膜透過性試験用緩衝液を、グルタチオン−重炭酸リンゲル(GBR)溶液から適合化させる。「GBR房水」をアクセプターセルで使用し、「GBR涙液」をドナー側で使用して平衡状態にする。それらの組成を表1に列挙する。
【0060】
角膜透過性の検定:
屠殺場から受取った時点で、眼を解剖台に載せ、角膜を表向きにする。角膜の無欠状態をチェック後、強膜を角膜の縁から約1〜2mmメスで切開し、前区を摘出する。角膜構造に損傷を与えずに虹彩および水晶体をピンセットで注意深く除去する。次いで、角膜を浸透装置の2つのセル間にピンチクランプの助けを借りて取付ける。直ちに、3mlの予熱およびガス処理した屠GBR緩衝液3mlを各セルに加え、セル中に閉じ込められた気泡があれば注意深く取り除く。このシステムをガス処理し、35℃で約30分間攪拌する。平衡到達後、ドナー側を空にし、同量の活性物質の予熱処方物をt=0時点で加える。300μl「GBR房水」のアリコートを、アクセプターセルからt=0時点で採取し、失われた体積を同体積の新鮮な緩衝液と交換する。それに続いて、この手順を、予め定められた時点でアクセプターセルにおいて反復し、HPLCにより活性についてアリコートを分析する。両区画を、小マグネットでの一定攪拌下におく。実験の通常持続時間は180分であり、これは角膜と処方物の接触時間でもある。
【0061】
【表1】

* 5%CO/95%O供給時
【0062】
A)ジクロフェナク処方物による角膜浸透性実験
1)ジクロフェナクナトリウム0.1%、チオマーサル不含有(市販されているボルタレン・オフタ処方物、SDU)
【表2】

【0063】
2)ジクロフェナクナトリウム0.1%、2%HP−ガンマ−シクロデキストリン、BAC不含有
【表3】

【0064】
3)ジクロフェナクナトリウム0.1%、0.1%QA−ベータ−CD、BAC不含有
【表4】

【0065】
BAC=塩化ベンザルコニウム
HP−ガンマ−シクロデキストリン=ヒドロキシプロピル−ガンマ−シクロデキストリン
QA−ベータ−CD=3−(トリメチルアンモニオ)−2−ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリンクロリド
【0066】
上記実験において、本発明実施態様(QA−ベータ−CD[項目3])の薬剤浸透性における効力は、先行技術の状況(HP−ガンマ−シクロデキストリン;[項目2])に関して直接比較され得る。
【0067】
B)5−メチル−2−(2'−クロロ−6'−フルオロアニリノ)フェニル酢酸(化合物B)による角膜浸透性実験
1)化合物B0.1%、チオマーサル不含有(市販のボルタレン・オフタ処方物と同様、SDU)
【表5】

【0068】
2)化合物B0.1%、2%HP−ガンマ−シクロデキストリン、BAC不含有
【表6】

【0069】
3)化合物B0.1%、0.1%QA−ベータ−シクロデキストリン、BAC不含有
【表7】

【0070】
BAC=塩化ベンザルコニウム
HP−ガンマ−シクロデキストリン=ヒドロキシプロピル−ガンマ−シクロデキストリン
QA−ベータ−CD=3−(トリメチルアンモニオ)−2−ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリンクロリド、実験式:(C10−n(C15ONCl) n=2−5。
【0071】
また、本発明実施態様(QA−ベータ−CD[項目3])の薬剤浸透性における効力は、これらの実験において、先行技術の状況(HP−ガンマ−シクロデキストリン;[項目2])に関して直接比較され得る。
【0072】
実施例2:保存剤有効性試験
QA−ベータ−CD(QA−ベータ−CD=3−(トリメチルアンモニオ)−2−ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリンクロリド、実験式:(C10−n(C15ONCl) n=2−5)0.2gを170mlの水(ナノピュア)に加える。次いで、10.10gのソルビトールおよび0.2gのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを加え、pHを7.0〜7.4の値に調節し、水を加えて200mlの溶液を生成させる。溶液を、無菌条件下コーニングのボトルトップフィルターユニット0.22μmCAにより濾過する。溶液は、7.35のpHおよび307mOsm/kg(270〜330)の重量オスモル濃度を有する。
【0073】
溶液の試料に、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)ATCC8739;シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)ATCC9027、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphyloccocus aureus)ATCC6538;カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)ATCC10231およびアスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)ATCC16404をそれぞれ接種し、表2に与えられた時点での存在/増殖について検定する。
【0074】
【表8】

【0075】
試験溶液は、眼用調製物についてのヨーロッパ薬局方(Eur.Ph.)基準Aとして定義された、たとえばEur.Ph.Supplement 2001、5.1.3、293〜295頁に記載された必要条件を満たす。
【0076】
実施例3:
眼用挿入物としての機能を果たし得るフィルムを製造し、試験する。フィルムの組成を表3に開示する。
【0077】
室温で磁石攪拌(400rpm)しながら全調製物を製造する。まず、グリセリンを、組成物AおよびB用に5mlの再蒸留水または別法として5mlの水性リン酸緩衝液(pH=7)に溶かす。次いで、モヴィオール26−88を、上記グリセリンを含む上記の水またはリン酸緩衝液に加えて完全に溶解させる。D−マンニトールまたはQA−ベータ−CDを生成した溶液に溶かし、これらの成分が完全に溶解した後、ポリビニルピロリドンを混合物に加える。最後に、ケトチフェン水素フマル酸塩を攪拌下で加え、次いで生成した溶液を遠心分離(500×g、25分、25℃)にかけることにより、不純物を除去する。溶液は全て非常に澄んでいた。
【0078】
次いで、溶液をペトリ皿に流し込み、真空下(13mbar)デシケーター(五酸化リン含有)で乾燥する。乾燥時、表4の半定量的尺度に従って生成した薄層フィルムを評価する。2個体について上記評価を盲検的および独立的に実施した。
【0079】
表5は、ペトリ皿で鋳造した薄層フィルムの全体的評点(可能な範囲0〜9)の平均値を示す。
【0080】
乾燥後、モヴィオール26〜88、グリセリンおよびQA−ベータ−CDを含む調製物は、優れた結果をもたらす。最大評点は、QA−ベータ−CDを添加した塩基性調製物(E)について得られる。この評点は、調製物にD−マンニトールを添加したときに得られたもの(B)よりも著しく高い。生成した薄層フィルムは透明度が高く、鋳造支持体から取り除き易いもので、それは一定の様相を呈し、本質的に均一である。調製物におけるポリビニルピロリドンの添加は有効であり、生成したフィルムは良い評点を呈する。調製物にQA−ベータ−CDを添加したとき(D)これは特に当てはまる。
【0081】
さらに、組成物F〜Kを、組成物AおよびDと同様に製造するが、ただし異なる量のケトチフェン水素フマル酸塩(ザジテン)、すなわちそれぞれ6.75、12.5および20%の割合で添加する。生成した層は、6.75および12.5%の薬剤(それぞれFおよびIおよびGおよびJ)により良好で均等内容の評点を示す。フィルムに40mg(20%)のザジテンを添加すると(H、K)、結晶構造の存在がD−マンニトールに基いたフィルムで見出される。恐らくはQACD化合物および薬剤間におけるある種の相互作用故に、この再結晶化はQA−ベータ−CDの存在下では起こらない。
【0082】
QA−ベータ−CDを含む本発明組成物により、適切な薄層フィルムが得られる。
【0083】
【表9】

【0084】
【表10】

【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗感染薬の製造における、式(I):
【化1】

[式中、
記号
【化2】

は、そのヒドロキシル基をn個除去することによりシクロデキストリン化合物から誘導されるn価残基を表し、
nは0より大きい数であって、上記化合物1分子当たりの式
【化3】

で示される置換基の平均数を表し、
hは、0または1であり、
は、アルキレン、ヒドロキシアルキレン、ハロゲノアルキレン、単環式アラルキレン、シクロアルキレンおよびフェニレンから選択される二価基であり、
、RおよびRは、各々互いに独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキルおよびシクロヘテリルから選択される基であり、
m−は、m倍負に荷電したアニオンであり、
mは、1またはそれより大きい整数であり、そして
kはn/mである]
で示される化合物の使用。
【請求項2】
式(Ia):
【化4】

[式中、Xは一荷電のアニオンであり、他の残基およびhおよびnは式(I)の場合と同じ意味を有する]
で示される化合物の請求項1記載の使用。
【請求項3】
が、分枝状または直鎖C−Cアルキレンまたはフェニレンであり、両方とも1個またはそれ以上の場所が置換され得、そして
、RおよびRが、異なるかまたは同一であって、置換または非置換C−C18アルキル、C−Cシクロアルキル、フェニル、モルホリニル、ピリジル、ピロリジル、フルフリル、イミダゾリジルまたはイミダゾリルであり、そして
が、ハロゲン化物、硝酸、蟻酸、酢酸、酪酸、オレイン酸、ステアリン酸、安息香酸アニオンである、請求項2記載の使用。
【請求項4】
、RおよびRが、異なるかまたは同一であって、置換または非置換C−C18アルキルである、請求項3記載の使用。
【請求項5】
が、分枝状または直鎖C−Cアルキレンであり、そして
、RおよびRが、異なるかまたは同一であって、置換または非置換C−Cアルキルである、請求項4記載の使用。
【請求項6】
が、分枝状または直鎖C−Cアルキレンであり、そして
、RおよびRが、異なるかまたは同一であって、非置換C−Cアルキルである、請求項5記載の使用。
【請求項7】
記号
【化5】

が、アルファ−、ベータ−またはガンマ−シクロデキストリンまたは上記シクロデキストリンの誘導体の残基を表す、請求項1〜5のいずれか1項記載の化合物。
【請求項8】
nが0.1〜24、好ましくは約1〜8である、請求項1〜7のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
hが1である、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
hが0である、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
請求項1に対応する式(I)の化合物から選択される、特に請求項2記載の式(Ia)の化合物から選択される抗菌活性薬物を含む抗感染医薬組成物。
【請求項12】
好ましくは水溶液、軟膏、クリームまたはゲル形態である、特に皮膚および眼への局所投与用の請求項11記載の組成物。
【請求項13】
請求項12記載の眼用組成物。
【請求項14】
請求項1に対応する式(I)の化合物から選択される、特に請求項2記載の式(Ia)の化合物から選択される保存剤および追加的に式(I)または(Ia)で示される化合物以外の1種またはそれ以上の医薬活性薬物を含む医薬組成物。
【請求項15】
保存剤が、組成物全体の0.01〜10重量%の濃度で存在する、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
1種またはそれ以上の眼用薬物を含む、請求項14または15記載の眼用組成物。
【請求項17】
1種またはそれ以上の眼用薬物および請求項1に対応する式(I)の化合物から選択される、特に請求項2記載の式(Ia)の化合物から選択される、眼の組織へ上記薬物を浸透させ得る、特に上記薬物を角膜に浸透させる促進剤を含む眼用組成物。
【請求項18】
促進剤が、眼用組成物の全重量に対し0.01〜35%、好ましくは0.5〜25%、さらに好ましくは5〜10%、および15〜20%、同じく好ましくは0.1〜5%、0.5〜5%および1〜5%の範囲の濃度で存在する、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
−ステロイド類および非ステロイド抗炎症剤(NSAID)から選択される抗炎症薬;
−特にFK506、33−エピ−クロロ−33−デスオキシ−アスコマイシン、クロモリン、エマジン、ケトチフェン、レボカバスチン、ロドキサミド、ノルケトチフェン、オロパタジンおよびリザベンから選択される抗アレルギー薬;
−特にラタノプロスト、15−ケト−ラタノプロスト、ウノプロストンイソプロピル、ベタキソロール、クロニジン、レボブノロールおよびチモロールから選択される、緑内障(特に眼内圧処置)治療薬;
−特にコカイン塩酸塩、リドカイン、オキシブプロカインおよびテトラカイン塩酸塩から選択される、麻酔薬;
−近視予防/阻止薬;
−特にカルバコール、ピロカルピンおよびフィソスチグミンから選択される縮瞳薬;
−特にアセタゾラミドおよびドルゾラミドから選択される、カルボニックアンヒドラーゼ阻害薬;
−特にアプラクロニジンおよびブリモニジンから選択されるアルファ遮断薬;および
−特にアスコルビン酸、レチノール、レチノールアセテート、レチノールパルミテートおよび天然および合成トコフェロール類、特にアルファ−トコフェロールおよびアルファトコフェロールアセテートから選択される、酸化防止剤および/またはビタミン類;および
−生物材料、特にペプチド、タンパク質、DNAまたはRNA
から選択される1種またはそれ以上の眼用薬物を含む、請求項16〜18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
眼用薬物が、抗炎症剤、抗アレルギー剤および緑内障治療剤から選択される、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
1種またはそれ以上の眼用として許容される賦形剤を含む、請求項16〜20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
賦形剤がヒアルロン酸の塩を含む、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
実質的に塩化ベンザルコニウムを含まない、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
持続送達用薬物投薬システムとしての1種またはそれ以上の医薬活性薬物、式(I)の化合物およびポリマーを含む担体を含む組成物の使用。
【請求項25】
持続送達用薬物投薬システムが半固体(ペースト様)または好ましくは固体状態である、請求項24記載の使用。
【請求項26】
担体が、一つまたはそれ以上の生物腐食性ポリマーおよび/または一つまたはそれ以上の生物付着性ポリマーのマトリックスである、請求項24または25記載の使用。
【請求項27】
生物腐食性ポリマーが、ポリヒドロキシ酸、特にポリ乳酸およびポリグリコール酸、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリシアノアクリレート、天然ゴム、特にアカシアゴムおよびアラビアゴム、セルロース、および(メタ)アクリレート(コ)ポリマーから選択される、請求項26記載の使用。
【請求項28】
生物付着性ポリマーが、マルトデキストリン、セルロース、キトサン、ヒアルロン酸、ポリアクリレート、ポリカルボフィル、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選択される、請求項26または好ましくは27記載の使用。
【請求項29】
本質的に、1種またはそれ以上の医薬活性薬物、式(I)の化合物およびポリマーを含む担体を含む組成物から成り、フィルム、ロッド、バー、カプセル、角膜シールド、角膜リング、インプラント、挿入物、眼内レンズ、治療用コンタクトレンズ、錠剤、ミニ錠剤、ミニディスクおよびペレットから選択される持続送達用薬物投薬システム。
【請求項30】
医薬組成物に、請求項1に対応する式(I)の化合物から選択される、好ましくは請求項2に対応する式(Ia)の化合物から選択される有効量の保存剤を医薬組成物に加えることを含む、医薬組成物の保存方法。
【請求項31】
皮膚、口内、粘膜、肺、膣または眼、特に結膜組織への医薬組成物に含まれる薬物の浸透性を高める、さらに特定すれば眼の組織への眼用組成物に含まれる薬物の浸透性、特に角膜浸透性を高める方法であって、請求項1に対応する式(I)の化合物から選択される、特に請求項2記載の式(Ia)の化合物から選択される化合物を組成物に加えることを含む方法。
【請求項32】
皮膚、口内、粘膜、肺、膣または眼、特に結膜組織への医薬組成物に含まれる薬物の透過性を相乗的に高める、さらに特定すれば眼の組織への眼用組成物に含まれる薬物の浸透性、特に角膜浸透性を高め、そして上記組成物を保存する方法であって、請求項1記載の式(I)の化合物から選択される、特に請求項2記載の式(Ia)の化合物から選択される化合物を上記組成物に加えることを含む方法。
【請求項33】
投与場所における有機化合物、特に医薬活性薬物の制御された、特に持続または長時間送達方法であって、
上記薬物を、少なくとも請求項1に対応する式(I)の化合物から選択される、特に請求項2記載の式(Ia)の化合物から選択される化合物およびポリマー、特に一つまたはそれ以上の生物腐食性ポリマーおよび/または一つまたはそれ以上の生物付着性ポリマーと混合し、そして
それにより得られた組成物を投与する
段階を含む方法。

【公開番号】特開2011−6448(P2011−6448A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185238(P2010−185238)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【分割の表示】特願2004−512769(P2004−512769)の分割
【原出願日】平成15年6月12日(2003.6.12)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】