説明

筆跡記録システム、位置情報生成装置、位置情報生成方法及びプログラム

【課題】
簡易な構成で筆跡をデータ化し得る筆跡記録システム、位置情報生成装置、位置情報生成方法及びプログラムを提案する。
【解決手段】
筆動作時に紙に当接される当接点の周囲に設けられた複数の電極と、当該筆動作するユーザとの電位に基づいて、紙の紙面に対して所定の区画ごとに定着された複数の帯電パターンのうち当接点が当接する帯電パターンを検出し、その帯電パターンに基づいて絶対位置を表すデータを復号するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆跡記録システム、位置情報生成装置、位置情報生成方法及びプログラムに関し、例えば紙に書く内容を情報としても記憶する場合に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙に書く内容を情報としても記憶する筆跡記録システムとして、赤外光に特異的に反応する特殊インクで紙表面の所定位置に対応する座標が印刷された紙(以下、これを特殊紙と呼ぶ)と、通常のペン機能に赤外線カメラ、メモリ及び信号処理部を搭載したデジタルペンと、データ記憶メモリが搭載された端末機とからなるものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この筆跡記録システムのデジタルペンは、特殊紙の紙面から発せられる赤外光を赤外線カメラを介して画像データとして生成し、この画像データに基づいて現在のペン先の位置を所定周期で検出するようになされている。
【特許文献1】特開2004−86273公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところがかかる構成の筆跡記録システムでは、デジタルペンに赤外線カメラを搭載するため、当該デジタルペン自体が大型化するという問題があった。
【0005】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、簡易な構成で筆跡をデータ化し得る筆跡記録システム、位置情報生成装置、位置情報生成方法及びプログラムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明は、位置情報生成装置と、端末装置とによって構成される筆跡記録システムであって、位置情報生成装置には、所定の区画ごとに複数の帯電パターンが定着された紙面に当接される当接点の近傍に設けられた複数の電極と、紙面を運筆するユーザの身体との電位に基づいて、当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する検出手段と、当該検出手段により検出された帯電パターンに基づいて、当接点の絶対位置を表す絶対位置データを復号する復号手段と、当該復号手段により復号された絶対位置データを端末装置に送信する送信手段と設け、端末装置には、当該送信手段から送信された絶対位置データを受信する受信手段と、その受信手段により受信された絶対位置データを記憶する記憶手段とを設けるようにした。
【0007】
従って、この筆跡記録システムでは、ユーザと紙面上の帯電パターンとの電位から直接的に帯電パターンを検出することができるため、光学カメラで撮像する場合に比して、マクロレンズやCCD(Charge Coupled Device)などの必須構成要素を要することなく、当接点の絶対位置を検出することができる。
【0008】
また本発明は、位置情報生成装置であって、所定の区画ごとに複数の帯電パターンが定着された紙面に当接される当接点の近傍に設けられた複数の電極と、紙面を運筆するユーザの身体との電位に基づいて、当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する検出手段と、当該検出手段により検出された帯電パターンに基づいて、当接点の絶対位置を表す絶対位置データを復号する復号手段とを設けるようにした。
【0009】
従って、この位置情報生成装置では、ユーザと紙面上の帯電パターンとの電位から直接的に帯電パターンを検出することができるため、光学カメラで撮像する場合に比して、マクロレンズやCCDなどの必須構成要素を要することなく、当接点の絶対位置を検出することができる。
【0010】
さらに本発明は、位置情報生成方法であって、所定の区画ごとに複数の帯電パターンが定着された紙面に当接される当接点の近傍に設けられた複数の電極と、紙面を運筆するユーザの身体との電位に基づいて、当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する第1のステップと、当該第1のステップで検出された帯電パターンに基づいて、当接点の絶対位置を表す絶対位置データを復号する第2のステップとを設けるようにした。
【0011】
従って、この位置情報生成方法では、ユーザと紙面上の帯電パターンとの電位から直接的に帯電パターンを検出することができるため、光学カメラで撮像する場合に比して、マクロレンズやCCDなどの必須構成要素を要することなく、当接点の絶対位置を検出することができる。
【0012】
さらに本発明は、プログラムであって、コンピュータに対して、所定の区画ごとに複数の帯電パターンが定着された紙面に当接される当接点の近傍に設けられた複数の電極と、紙面を運筆するユーザの身体との電位に基づいて、当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する第1の処理と、規定範囲における帯電パターンに基づいて、当接点の絶対位置を表す絶対位置データを復号する第2の処理とを実行させるようにした。
【0013】
従ってこのプログラムでは、ユーザと紙面上の帯電パターンとの電位から直接的に帯電パターンを検出することができるため、光学カメラで撮像する場合に比して、マクロレンズやCCDなどの必須構成要素を要することなく、当接点の絶対位置を検出させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、運筆時に紙に当接される当接点の周囲に設けられた複数の電極と、当該運筆するユーザの身体との電位に基づいて、紙面に対して所定の区画ごとに定着された複数の帯電パターンのうち当接点の存在する帯電パターンを検出し、その帯電パターンに基づいて絶対位置を表すデータを復号するようにしたことにより、ユーザと紙面上の帯電パターンとの電位から直接的に帯電パターンを検出することができるため、光学カメラで撮像する場合に比して、マクロレンズやCCDなどの必須構成要素を要することなく、当接点の絶対位置を検出することができ、かくして簡易な構成で筆跡をデータ化し得る筆跡記録システム、位置情報生成装置、位置情報生成方法及びプログラムを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0016】
(1)本実施の形態による筆跡記録システムの構成
図1において、1は本実施の形態による筆跡記録システムを示し、紙2と、当該紙2に文字や図表等を筆記するペン3と、当該ペン3のペン先の位置を表すデータ(以下、これを絶対位置データと呼ぶ)として記憶する端末機4とによって構成される。
【0017】
この紙2は、所定の帯電パターンで帯電するように紙面PFが加工されている。一方、ペン3は、ボールペン、サインペン又はマーカーペン等でなり、紙面PFにおける帯電パターンに基づいて絶対位置データを所定周期ごとに生成すると共に、当該絶対位置データを端末機4に所定のタイミングで順次無線送信する。
【0018】
他方、端末機4は、例えば携帯電話機、ノート型若しくはデスクトップ型のパーソナルコンピュータ又はPDA(Personal Digital Assistants)等でなり、ペン3から順次無線送信される絶対位置データを受信し、これら絶対位置データの集合を筆跡データとしてメモリに記憶するようになされている。
【0019】
従って、この筆跡記録システム1では、紙2に書く内容を紙面に物理的に保持すると同時に、当該内容を情報(筆跡データ)として端末機4に保持することができるようになされている。
【0020】
(2)紙の構成
次に、紙2の具体的な構成について説明する。この紙2の紙面PFには、所定の帯電パターンが無色透明でなるインクで印刷される。実際上、紙面PFには、例えば図2に示すように、縦方向6個及び横方向6個のドットDtを単位とするマトリックスSCが、1ドット分の隙間を介して格子状に区画される。そしてこのマトリックスSCにおける各ドットDtには、プラス又はマイナスのいずれかの極性に帯電した粒子が定着されている。
【0021】
ここで、この紙2のサイズをA4サイズ(210[mm]×300[mm])とし、当該紙2に対して1[mm2]ごとに63000個のマトリックスSCを形成するものと仮定した場合、2通りの極性が定着されるドットDtが36個あることから、1つのマトリックスSCにつき、「236=6.8×1010」通りの帯電パターンを表現することができることとなる。
【0022】
この実施の形態の場合、かかる「236=6.8×1010」通りの帯電パターンのうち、63000通りの帯電パターンは、ペン先の絶対位置を検出するための帯電パターン(以下、これを位置検出用帯電パターンと呼ぶ)として、16ビットの座標コードが割り当てられている。さらにこの実施の形態では、位置検出用帯電パターン以外の帯電パターンの一部は、座標コードの誤りを検出及び訂正するための帯電パターン(以下、これを誤り訂正用帯電パターンと呼ぶ)として、所定ビットの誤り訂正コードが割り当てられている。従って、この筆跡記録システム1におけるペン3は、これら帯電パターン基づいて正確なペン先の絶対位置を検出し得るようになされている。
【0023】
ところで、筆記時には、例えば図3(A)に示すように、ペン軸PAに対するドットDtの配置状態が変化する場合がある。この場合、図3(A)及び図3(B)からも明らかなように、ペン3のペン先が同じドットDtをさしている場合であっても位置検出用帯電パターンの配置状態が異なるため、ペン3が正確なペン先の絶対位置を検出できないといった事態が生じる。
【0024】
そこでこの紙面PFには、例えば図3に示したように、マトリックスSCにおける4隅のドットのうち、A4サイズの紙2が縦の状態時に左上隅となるドット(以下、これを基準ドットと呼ぶ)SDtを他の3つのドットの極性と相違させたパターンが、ペン軸PAに対するドットDtの配置状態を検出するための帯電パターン(以下、これをドット配置状態検出用帯電パターンと呼ぶ)として、マトリックスSCごとに定められている。
【0025】
従って、この筆跡記録システム1におけるペン3は、基準ドットSDtと他の3つのドットとの位置関係(ドット配置状態検出用帯電パターン)からペン軸PAに対するドットDtの配置状態を一定にすることによって正確なペン先の絶対位置を常に検出し得るようになされている。
【0026】
なお、帯電パターンの具体的な印刷手法としては、プラス側に帯電した粒子とマイナス側に帯電した粒子とを含むインクを、当該帯電パターンを表すデータに基づいて適切な電圧を印加しながら紙面PFに印刷し、プラスの極性とすべきドットDtには、図4に示すようにプラス側に帯電する粒子を定着させ、これに対してマイナスの極性とすべきドットDtには、図示しないマイナス側に帯電する粒子を定着させる。このようにして所定の帯電パターンを無色透明でなるインクで紙面PFに印刷することができるようになされている。
【0027】
(3)ペンの構成
(3−1)ペンの外観的構成
次に、ペン3の外観的な構成を図5に示す。この図5において、ペン3は、円錐台状の筒部10と、当該筒部10に収納されたペンレフィル11と、当該ペンレフィル11のペン先PPを筒部10のペン出入口PGを介して出し入れするペン先出入機構部12とによって構成される。
【0028】
この実施の形態の場合、ペン先出入機構部12においては、ペン先出入機構の動作方式としてノック式が採用されており、ノック操作によりペン先PPを先端口PGから突出させた状態で保持する一方、当該ノック操作によりペン出入口PGから突出されるペン先PPを筒部10に収納するようになされている。
【0029】
かかる構成に加えて、ペン先PPの傾斜面には、当該ペン先PPの断面図でなる図6(A)に示すように、紙面から発生する帯電パターンを検出するための針状でなる複数の電極(以下、これを検出電極と呼ぶ)DEk(k=1、2、3、……、n(nは整数))が、その先端を傾斜面から僅かに露出させた状態で穿設されている。
【0030】
またこれら検出電極DEkは、ペン先PPの正面図でなる図6(B)に示すように、ペン軸PA(図6(A))を中心として、互いに大きさの異なる同心円状に並べられた状態で配置されており、当該中心から最外層の検出電極DEまでの範囲(以下、これを検出範囲と呼ぶ)は、4つのマトリックスSCを検出可能となるように選定されている。具体的には、図7に示すように、互いに隣接するマトリックスSC(6ドット×6ドット)間には1ドットの隙間があるため、この隙間を考慮して縦横7ドット×7ドットをそれぞれ2倍した14ドット×14ドットの計196個のドットDtが検出可能となるように検出範囲EARが選定される。
【0031】
従って、このペン3では、紙面PF上のどの位置にペン先PPが存在した場合であっても、少なくとも1つのマトリックスSCにおける帯電パターンが検出可能となる。
【0032】
一方、筒部10(図5)の外周側面には、導電性ゴム等の導電性滑止グリップGRが所定位置に設けられており、この導電性滑止グリップGRと、上述した各検出電極DEkとは、筒部10の内周側面における所定位置に配置された信号処理部20にそれぞれ接続される。
【0033】
他方、ペン先出入機構部12のノック操作面には、絶対位置データを送信するための電極(以下、これを送信電極と呼ぶ)TEが設けられ、当該ペン先出入機構部12の底面とペンレフィル11との間には、圧電素子SNが介挿されている。これら送信電極TE及び圧電素子SNも信号処理部20にそれぞれ接続される。因みに、図5では便宜上ペン3外部に接続線が記載されているが、この接続線は実際にはペン3内部に設けられている。
【0034】
圧電素子SNは、筆記時における筆圧により変形し、当該変形量に応じた電気信号を信号処理部20に送出する。信号処理部20は、この電気信号に基づいて紙面に対するペン先PPの接触を検知しているとき、導電性滑止グリップGRを把持するユーザをグランドとして、そのグランドと各検出電極DEkとの電位からペン先の絶対位置を所定周期ごとに検出し、当該絶対位置を表す絶対位置データを搬送波信号を介して送信電極TEから端末機4に送信するようになされている。
【0035】
なお、各検出電極DEkが穿設されるペン先PPの材質は金属に選定されている。従って、このペン3では、ペン先PPの金属部分がシールドとして働くため、信号処理部20は、各検出電極DEkと導電性滑止グリップGR(グランド)との間の電位以外のノイズの影響を低減することができるようになされている。
【0036】
(3−2)信号処理部の具体的な構成
実際上、この信号処理部20は、図8に示すように、複数のプリアンプ(以下、これをプリアンプ群と呼ぶ)PAGと、複数のA/D(Analog/Digital)変換部(以下、これをAD変換群と呼ぶ)ADGと、制御部30とによって構成される。
【0037】
プリアンプ群PAGにおける圧電素子用プリアンプ21は、圧電素子SN及び導電性滑止グリップGR(グランド)間の電位を増幅し、当該増幅された電位は筆圧検知信号S10として対応するADC22に送出される。ADC22は、筆圧検知信号S10を筆圧検知データD10として生成し、これを制御部30に送出する。
【0038】
一方、プリアンプ群PAGにおける検出電極用プリアンプ23k(23〜23n)は、対応する検出電極DEk(DE〜DEn)及び導電性滑止グリップGR(グランド)間の電位を増幅し、当該増幅された電位は帯電信号S20k(D20〜D20n)として対応するADC24k(24〜24n)にそれぞれ送出される。ADC24k(24〜24n)は、帯電信号S20k(D20〜D20n)を帯電データD20k(D20〜D20n)として生成し、これを制御部30に送出する。
【0039】
この制御部30は、信号処理部20全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)と、各種プログラムが格納されるROM(Read Only Memory)と、当該CPUのワークメモリとしてのRAM(Random Access Memory)とを含むコンピュータ構成でなる。制御部30は、このROMに格納されたプログラムと、帯電データD20kとに基づいてペン先PPの絶対位置を表す絶対位置データを生成すると共に、当該絶対位置データに応じて搬送波信号を変調し、この結果得られた変調信号S30を送信用プリアンプ25に送出する。
【0040】
送信用プリアンプ25は、変調信号S30を増幅し、送信電極TEを介して端末機4に送信するようになされている。
【0041】
(3−2−1)ペン先の絶対位置の検出
ここで、制御部30におけるペン先の絶対位置の検出手法について具体的に説明する。
【0042】
i行(i=1、2、3、……、l(lは整数))及びj列(j=1、2、3、……、m)のドットの位置を(x,y)とし、当該ドットの電位をu(i,j)とした場合、紙面PFからある高さzにおける電位V(x,y,z)は、次式
【0043】
【数1】

【0044】
として表すことができる。なお、この(1)式における「i=1、……(6+1)×2」及び「j=1、……(6+1)×2」は、図7において上述したように、i行及びj列がマトリックスSC間の1ドット分の隙間を考慮した14ドットを検出可能であることを意味するものである。
【0045】
従って、ペン先PP(図5)に穿設された各検出電極DEk(k=1、2、3、……、n)の先端(xp1,yp1,zp1)、(xp2,yp2,zp2)、……、(xpn,ypn,zpn)における電位V(xpk,ypk,zpk)は、次式
【0046】
【数2】

【0047】
という196個の連立一次方程式から得ることができる。なお、この(2)式は、紙面PFのドットDtをモノポールとみなすことができ、当該モノポールから所定の距離だけ隔てた位置での電位を表わす関係式を変形したものである。
【0048】
制御部30は、この(2)式に従って、ADC24k(24〜24n)から供給される帯電信号S20k(D20〜D20n)から(2)式における連立一次方程式の解を算出し、これら解から検出範囲EAR(図7)における画像を生成する。そして制御部30は、この検出範囲EARにおける画像に含まれる各マトリックスSCの面積比から、ペン先PPが当接されるマトリックスSCを検出する。なお、検出範囲EARにおける画像には、図7で上述したように、全体を捉えたマトリックスSCが1つ含まれるため、当該マトリックスSCが、ペン先PPが当接されるマトリックスSCとして制御部30に検出されることとなる。
【0049】
次いで制御部30は、検出したマトリックスSCにおけるドット配置状態検出用帯電パターン(即ち、図3において上述した基準ドットSDtと他の3つのドットの位置関係)に基づいてペン軸PAに対するドットDtの配置状態を識別する。この際、制御部30は、必要に応じて、基準ドットSDtがマトリックスSCの左上隅にある定状態となるように画像を回転補正する。
【0050】
この状態において制御部30は、かかるマトリックスSC(図2)における位置検出用帯電パターンに対応する座標コードを、誤り訂正用帯電パターンに対応する誤り訂正コードを用いて誤り検出及び訂正し、当該ペン先の絶対位置を表す絶対位置データを生成するようになされている。
【0051】
また制御部30は、検出範囲EARにおける例えば中心位置等の基準位置に対する、ペン先PPが当接されるマトリックスSCのずれ量を検出するようになされており、当該ずれ量に応じて絶対位置データ(ペン先の絶対位置)を補正する。従って、制御部30は、マトリックスSC内におけるペン先PPの移動をも考慮してペン先の絶対位置を表現することができるため、単に絶対位置データを生成する場合に比して、実際のペン先位置に一段と近似する絶対位置を検出することができるようになされている。
【0052】
このようにして制御部30は、帯電パターンからペン先の絶対位置を検出することができるようになされている。
【0053】
(3−2−2)ペン状態に起因する紙面に対する検出電極の高さの補正
ところで、筆記時における紙面PFに対するペン3の状態として、図9に示すように、紙面PFに対するペン軸PAの傾きΦと、当該紙面PFに対するペン軸PAの回転Ψとがあり、これらは、通常、筆記時に変化する。つまり、紙面PFからペン先PP(図5)に穿設された各検出電極DEkの先端との距離(高さ)が筆記時に変化するため、当該変化に応じて、ペン先PP(図5)に穿設された各検出電極DEkの先端における電位も変化し、この結果、ペン先の絶対位置における検出精度が低下することが想定される。
【0054】
そこで制御部30には、(2)式に基づいて検出範囲EAR(図7)における画像データを生成する前に、紙面PFに対するペン軸PAの傾きΦ及びペン軸PAの回転Ψに応じた、紙面PFに対する各検出電極DEkの高さを補正する手法が採用されている。
【0055】
実際上、紙面PFに対してペン先PPが当接してから離れるまでの筆動作(以下、これを1ストロークと呼ぶ)は短時間であり、この短時間に紙面PFに対するペン軸PAの傾きΦ及びペン軸PAの回転Ψが急激に変化することは想定し難い。従ってこの制御部30では、かかる想定のもとで、各検出電極DEkそれぞれにおける単位時間当たりの電位平均(移動平均)が、対応する検出電極DEでの紙面PFに対する距離(高さ)として算出される。
【0056】
具体的に制御部30は、各検出電極DEkから対応するADC24k(24〜24n)を介して供給される帯電信号S20k(D20〜D20n)をサンプルとして所定数だけ保持する。
【0057】
そして制御部30は、ペン先の絶対位置の検出時において、内部メモリに保持された所定数のサンプルから各検出電極DEkにおける電位平均(移動平均)を求め、当該電位平均に基づいて紙面PFに対する各検出電極DEkの高さを算出し、当該算出した紙面PFに対する各検出電極DEkの高さを、(2)式に代入する値として用いるようになされている。
【0058】
このように制御部30は、1ストローク中に紙面PFに対するペン軸PAの傾きΦ及びペン軸PAの回転Ψが急激に変化することは想定し難いということを考慮して、各検出電極DEkそれぞれにおける電位変化の平均を、対応する検出電極DEでの紙面PFに対する距離(高さ)とすることによって、当該ペン軸PAの傾きΦ及びペン軸PAの回転Ψに起因する、紙面PFに対する各検出電極DEkの高さを補正することができるようになされている。
【0059】
(3−2−3)ペン先の移動先の推測
かかる構成に加えて、この制御部30には、紙面PFの一部が汚れる等してマトリックスSCにおける帯電パターンのうちの一部が欠落するといったことを考慮して、ペン先の移動先を推測する手法が採用されている。
【0060】
実際上、制御部30では、マトリックスSCにおける帯電パターンのうち、欠落した一部の帯電パターン(以下、これを欠落帯電パターン部と呼ぶ)が、正常に表された残りの帯電パターン(以下、これを正常パターン部と呼ぶ)と、当該検出時点に対して過去にマトリックスSCにおける全てについて正常に表された帯電パターンとに基づいて生成される。
【0061】
具体的に制御部30は、各検出電極DEkから対応するADC24k(24〜24n)を介して供給される帯電信号S20kに基づいて検出範囲EAR(図7)における画像データを生成する。そして制御部30は、この画像上のマトリックスSCに欠落帯電パターン部が存在し、かつその欠落帯電パターン部を誤り訂正により訂正できなかった場合には、この以前に生成された1又は2以上の画像データと比較することによって、当該欠落帯電パターン部が存在する画像と類似する画像を検索する。
【0062】
ここで、欠落帯電パターン部が存在する画像と、その画像に類似する画像とが平行移動している関係にある場合、このことはその移動方向と逆方向にペン3が移動したことを意味しているため、制御部30は、欠落帯電パターン部が存在する画像と、その画像に類似する画像とに基づいてペン先PPの絶対位置を推測することができる。
【0063】
これに対して、欠落帯電パターン部が存在する画像と、その画像に類似する画像とが平行移動している関係にない場合、このことはペン3が移動していないことを意味しており、この場合であっても、制御部30は、欠落帯電パターン部が存在する画像と、その画像に類似する画像とに基づいてペン先PPの絶対位置を推測することができる。
【0064】
なお、制御部30は、欠落帯電パターン部が存在する画像と類似する画像が検索されなかった場合には、例えば、ペン3が移動していないとしてペン先PPの絶対位置を推測するようになされている。
【0065】
このようにして制御部30は、既に正常なものとして検出された最新の帯電パターンを基準としてペン先の移動先を推測することができるようになされている。
【0066】
従って、この制御部30は、(3−2−1)において上述したようにマトリックスSC内におけるペン先PPの移動を考慮してペン先の絶対位置を表現することのみならず、当該マトリックスSC相互間におけるペン先PPの移動をも考慮してペン先の絶対位置を表現することができることとなる。
【0067】
(3−2−4)絶対位置データの具体的な送信手法
この実施の形態の場合、絶対位置データを含む準静電界により人体をアンテナとして作用させ、当該絶対位置データを端末機4に対して送信する送信手法が採用されている。
【0068】
ここで、この送信手法を説明する前に、まず準静電界について説明する。電界は、発生源からの距離に線形に反比例する放射電界と、発生源からの距離の2乗に反比例する誘導電磁界と、発生源からの距離の3乗に反比例する準静電界との合成電界として発生している。
【0069】
これら放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度と、距離との関係をグラフ化すると図10に示すような結果となる。但し、この図10では、1[MHz]における各電界それぞれの相対的な強度と距離との関係を対数尺度により示している。
【0070】
この図10からも明らかなように、放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度が等しくなる距離(以下、これを強度境界点と呼ぶ)が存在する。この場合、強度境界点よりも遠方の空間では放射電界が優位(誘導電磁界や準静電界の強度よりも大きい状態)となり、これに対して強度境界点よりも近傍の空間では準静電界が優位(放射電界や誘導電磁界の強度よりも大きい状態)となる。
【0071】
この強度境界点は、マックスウェルの方程式を電界強度の観点から導いていった場合に、当該距離をr[m]、波数をk[1/m]とすると次式
【0072】
【数3】

【0073】
として表すことができる。
【0074】
そして、(3)式における波数kは、電界の媒質中の伝播速度をv[m/s]とし、周波数をf[Hz]とすると次式
【0075】
【数4】

【0076】
として表すことができ、また電界の伝播速度vは、光速をc[m/s](c=3×10)とし、媒質の比誘電率をεとすると次式
【0077】
【数5】

【0078】
として表すことができることから、強度境界点は、(3)式に(4)式及び(5)式を代入して整理した次式
【0079】
【数6】

【0080】
として表すことができる。
【0081】
この(6)式からも分かるように、放射電界及び誘導電磁界に比して強度の大きい状態にある準静電界の空間(以下、これを準静電界優位空間と呼ぶ)を広くする場合には周波数が密接に関係しており、低い周波数であるほど、準静電界優位空間が大きくなる(即ち、図10に示した強度境界点までの距離は、周波数が低いほど長くなる(つまり右に移ることになる))。これに対して高い周波数であるほど、準静電界優位空間が狭くなる(即ち、図10に示した強度境界点までの距離は、周波数が高いほど短くなる(つまり左に移ることになる))。
【0082】
例えば10[MHz]を選定した場合、人体の比誘電率が一様に50であるものと仮定すると、上述の(6)式により、0.675[m]よりも近傍では準静電界が優位な空間となる。かかる10[MHz]を選定した場合に放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度と、距離との関係をグラフ化すると図11に示す結果となる。
【0083】
この図11からも明らかなように、電界発生源から0.01[m]地点の準静電界の強度は、誘導電磁界に比しておよそ18.2[dB]大きくなる。従ってこの場合の準静電界は、誘導電磁界及び放射電界の影響がないものとみなすことができる。
【0084】
ところで、人体に放射電界や誘導電磁界を発生させようとするならば当該人体に電流を流す必要があるが、人体はインピーダンスが非常に高いので、当該人体に電流を効率的に流すことは物理的に困難であり、また生理的にも好ましくない。しかしながら静電気については全く様相が異なってくる。
【0085】
すなわち、日常我々が静電気を体感するという経験的事実からも示唆されるように、人体は非常に良く帯電する。また動作に応じた人体表面の帯電により準静電界が発生することも知られていることから、人体へ準静電界を発生させる場合には当該人体に通電する必要はなく帯電させればよい。
【0086】
つまり、人体では極めて少ない電荷の移動(電流)により帯電し、当該帯電変化が瞬間的に人体表面周囲に伝わってその周囲からほぼ等方向へ準静電界の等電位面として形成されると共に、準静電界優位空間内では放射電界や誘導電磁界の影響も少ないのでアンテナとして効率的に機能することとなる。このことは本出願人による実験結果により既に確認されており、詳細については、例えば特願2004−55500を参照されたい。
【0087】
従って、所定の低周波数でなる搬送波信号を送信すべき情報に応じて変調し、得られた変調信号に対応させて人体を帯電させれば、人体近傍における空間は準静電界優位空間となるため、当該準静電界を情報伝送媒体として情報が伝達されることとなる。
【0088】
実際上、制御部30は、ADC24k(24〜24n)から供給される帯電信号S20k(D20〜D20n)に基づいて絶対位置データを生成し、当該絶対位置データで、(6)式を充足するように選定された低周波でなる搬送波信号を変調する。具体的に搬送波信号は、端末機4がポケットに挿入されている場合や、かばん等に収納されている場合における人体表面から端末機4までの距離を規定し、当該規定した距離との関係で(6)式を充足する周波数に選定される。
【0089】
制御部30は、かかる搬送波信号を変調した結果として得られた変調信号S30(図8)を送信用プリアンプ25を介して送信電極TEに印加する。この場合、この変調信号S30に応じて送信電極TEが振動し、当該送信電極TEを発信源とする準静電界優位空間において、絶対位置データを含む準静電界が放射電界及び誘導電磁界に比して優位に発生すると共に、ペン3を把持する人体表面周囲に伝わってその周囲からほぼ等方向へ等電位面が形成され、この結果、ペン先の絶対位置を表す情報(絶対位置データ)が準静電界を情報伝送媒体として端末機4に伝達される。
【0090】
このようにして制御部30は、絶対位置データを含む準静電界により人体をアンテナとして作用させ、当該絶対位置データを端末機4に対して送信することができるようになされている。
【0091】
なお、この端末機4は、図12に示すように、準静電界から情報を抽出するための受信処理部31と、当該端末機4に有する機能を実現するための各種処理を実行する本体部32とによって構成される。受信処理部31は、ペン3の送信電極TEから発信される準静電界に応じて一対の受信電極RE1、RE2間に生じる電位差を検出し、これをプリアンプ31aで増幅する。そして端末機4は、プリアンプ31での増幅結果として得られる電位信号の変化から絶対位置データを復調部31bで復調し、これを本体部32に送出する。本体部32は、絶対位置データの集合を筆跡データとして内部のメモリに記憶する。このようにして紙2に対する筆動作の内容が情報(筆跡データ)として端末機4に保持されることとなる。
【0092】
(3−3)位置データ送信処理手順
次に、ペン先PPの絶対位置データを送信する制御部30の位置データ送信処理手順を、図13に示すフローチャートを用いて説明する。
【0093】
すなわち、制御部30は、この位置データ送信処理手順RTをステップSP0から開始し、続くステップSP1において、圧電素子用プリアンプ21(図8)からADC22(図8)を介して供給される筆圧検知データD10(図8)に基づいて紙面PF(図1)にペン先PP(図5)が当接しているか否かを判定する。
【0094】
ここで否定結果が得られた場合、制御部30は、ステップSP2において、紙面PF(図1)にペン先PP(図5)が当接していないことを表す未筆記データを生成し、この未筆記データで、(6)式を充足するように選定された低周波でなる搬送波信号を変調し、得られた変調信号S30(図8)に基づく準静電界を送信電極TEを介して発信し、ステップSP1に戻る。
【0095】
この場合、送信電極TEを発信源とする準静電界優位空間において、未筆記データを含む準静電界が放射電界及び誘導電磁界に比して優位に発生すると共に、ペン3を把持するユーザ表面周囲に伝わってその周囲からほぼ等方向へ等電位面が形成され、当該絶対位置データが準静電界を情報伝送媒体として端末機4に伝達される。
【0096】
このようにして制御部30は、ペン先PP(図5)が当接していない場合には、当該ペン3を把持するユーザをアンテナとして未筆記データを送信するようになされている。
【0097】
これに対して肯定結果が得られた場合、制御部30は、ステップSP3において、各検出電極DEk(図5)における所定サンプル数の電位を検出し、続くステップSP4において、各検出電極DEkにおける所定サンプル数に基づいて電位の平均を検出電極DEkごとに求め、続くステップSP5において、これら電位の平均に基づいて紙面PF(図1)に対する各検出電極DEkの先端位置までの高さを算出する。
【0098】
そして制御部30は、次のステップSP6において、紙面PFに対する各検出電極DEkの高さと、当該検出電極DEkにおいてそれぞれ検出される電位とから(2)式における連立一次方程式の解を算出し、これら解から検出範囲EAR(図7)における画像を生成し、当該画像のうちペン先PPの存在するマトリックスSCを検出し、続くステップSP7において、当該検出範囲EAR(図7)における画像を内部メモリに保持した後、ステップSP8において、このマトリックスSCにおける帯電パターンに欠落帯電パターン部が存在するか否かを判定する。
【0099】
ここで、制御部30は、欠落帯電パターン部が存在していないと判定した場合にはステップSP9に移り、このステップSP9において、画像上のマトリックスSCにおけるドット配置状態検出用帯電パターン(即ち、図3において上述した基準ドットSDtと他の3つのドットの位置関係)のうち、当該基準ドットSDtがマトリックスSCにおける左上隅に存在しない場合には左上隅となるように画像を回転補正し、続くステップSP10において、当該帯電パターンに対応する絶対位置データを生成する。そして制御部30は、次のステップSP11において、絶対位置データの値を、画像上における基準位置に対するマトリックスSCのずれ量に応じて補正し、続くステップSP12に移る。
【0100】
一方、制御部30は、欠落帯電パターン部が存在していると判定した場合にはステップSP13に移り、このステップSP13において、このとき内部メモリに保持された検出範囲EAR(図7)に欠落帯電パターン部を有する画像と、この画像に類似する類似画像として、当該時点以前にステップSP7で検出された1又は2以上の検出範囲EAR(図7)における画像とを比較する。そして制御部30は、次のステップSP14において、比較した画像同士が平行移動している関係にあるか否かに応じてペン先PPの絶対位置を推測し、当該推測した絶対位置を表す絶対位置データを生成した後、続くステップSP12に移る。
【0101】
次いで、制御部30は、このステップSP12において、絶対位置データで、(6)式を充足するように選定された低周波でなる搬送波信号を変調し、この結果得られる変調信号S30(図8)に基づく準静電界を送信電極TEを介して発信することによって、当該ペン3を把持するユーザをアンテナとして絶対位置データを端末機4に送信し、ステップSP1に戻って上述の処理を繰り返すようになされている。
【0102】
このようにして制御部30は、位置データ送信処理を実行することができるようになされている。
【0103】
(4)本実施の形態による動作及び効果
以上の構成において、この筆跡記録システム1は、紙2に当接されるボールBLの近傍に設けられた複数の検出電極DEk(図6)と、当該筆動作するユーザ(グランド)との電位に基づいて、紙面PFに対して所定の区画ごとに定着された複数の帯電パターン(図2)のうちペン先PP(ボールBL)が当接する帯電パターンを検出し、当該検出した帯電パターンからボールBLの絶対位置データを復号する。
【0104】
従ってこの筆跡記録システム1では、ユーザと紙面上の帯電パターンとの電位から直接的に帯電パターンを検出することができるため、光学カメラで撮像する場合に比して、マクロレンズやCCDなどの必須構成要素を要することなく、かつ単純化した状態でペン先PP(ボールBL)の絶対位置を検出することができ、この結果、小型化を実現できる。
【0105】
これに加えて、光学カメラで撮像する場合には、一定の画質を確保するため紙面からある程度離間した位置に設けることが必須となる一方で、当該離間したことに伴って干渉や外光の回り込みを避け得ない状態となるといった事態が想定される。これに対してこの筆跡記録システム1では、ボールBLの近傍に設けられた検出電極DEkと、ユーザ(グランド)との電位に基づいて絶対位置を検出するため、かかる事態は確実に回避することができる。
【0106】
またこの筆跡記録システム1では、ペン先PP(ボールBL)が当接する帯電パターンに欠落部分があった場合、そのペン先の絶対位置を予測する。具体的には現時点で検出した帯電パターンと、この以前に生成された1又は2以上の帯電パターンと比較することによって、当該欠落部分があった帯電パターン部と類似する帯電パターンを検索する。
【0107】
従ってこの筆跡記録システム1では、帯電パターンよりも細かい分解能で絶対位置を検出することができるため、当該検出精度の信頼性を向上することができる。
【0108】
さらにこの筆跡記録システム1では、ペン先PP(ボールBL)が当接する帯電パターンから、当該帯電パターンの配列状態を定状態に補正する。具体的には基準ドットSDtがマトリックスSCの左上隅にある定状態となるように帯電パターンを回転する。
【0109】
従ってこの筆跡記録システム1では、図3で上述したように、ペン3のペン先が同じドットDtをさしている場合であっても帯電パターンの配置状態が異なるといったことを回避することができるため、紙面PF上のある位置でペン先を回転させる等といった態様で筆記したとしても正確に絶対位置を検出することができ、当該検出精度の信頼性を向上することができる。
【0110】
さらにこの筆跡記録システム1は、検出電極DEkを、ボールBLを中心として、少なくとも1以上の帯電パターンを包含し得る範囲内に設け(図7)、当該検出電極DEk及びユーザ(グランド)間の電位に基づいてその範囲からペン先PP(ボールBL)が当接する帯電パターンを検出し、当該検出した帯電パターンに基づいて復号した絶対位置データの値を、当該範囲における基準位置に対する帯電パターンの位置に応じて補正するようにした。
【0111】
従ってこの筆跡記録システム1では、帯電パターン内におけるペン先PP(ボールBL)の絶対位置も表現することができるため、一段と正確に絶対位置を検出することができ、当該検出精度の信頼性を向上することができる。
【0112】
以上の構成によれば筆動作時に紙2に当接されるボールBLの近傍に設けられた複数の検出電極DEk(図6)と、当該筆動作するユーザ(グランド)との電位に基づいて、紙面PFに対して所定の区画ごとに定着された複数の帯電パターン(図2)のうちペン先PP(ボールBL)が当接する帯電パターンを検出し、当該検出した帯電パターンからボールBLの絶対位置データを復号するようにしたことにより、ユーザと紙面上の帯電パターンとの電位から直接的に帯電パターンを検出することができるため、光学カメラで撮像する場合に比して、マクロレンズやCCDなどの必須構成要素を要することなく絶対位置を検出することができ、かくして、簡易な構成で筆跡をデータ化し得る筆跡記録システム1を実現できる。
【0113】
(5)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、紙の紙面に対して所定の区画ごとに定着された複数の帯電パターンとして、図2で述べたように、所定の隙間を介して格子状に区画したマトリックスSC(縦方向6個及び横方向6個のドットDt)ごとに帯電パターンを形成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、当該マトリックスの大きさ及び形状や、区画の仕方を変更するようにしても良い。このようにしても上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0114】
またマトリックスSCにおける各ドットDt(図3)には、プラス又はマイナスのいずれかの極性に帯電した粒子を定着させるようにしたが、本発明はこれに限らず、図3との対応部分に同一符号を付した図14に示すように、プラス及びマイナスの両極性をもつ粒子を、一方の極性が紙面と対向するように配向させた状態で定着させるようにしても良い。
【0115】
この場合、制御部30では、(1)式に代えて、当該(1)式の分母におけるルートを除いた次式
【0116】
【数7】

【0117】
を用いて電位を表現することになるため、(2)式に代えて、当該(2)式の分母におけるルートを除いた次式
【0118】
【数8】

【0119】
を採用すれば、検出範囲EARにおける画像を得ることができる。
【0120】
また上述の実施の形態においては、紙に当接される当接点から規定範囲内に設けられた複数の電極として、図6で述べたように、ペン軸PA(ボールBL)を中心として互いに大きさの異なる同心円状に並べられた状態で、ペン先PPの傾斜面に穿設された針状の検出電極DEkを適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、ペン軸PAに対して水平方向に検出電極DEkを設けるようにしても良く、またランダムに設けるようにしても良い。要は、当接点から、規定された範囲に複数の電極を設ければ、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0121】
さらに上述の実施の形態においては、筆動作するユーザの身体をグランドとした各電極との電位に基づいて、規定範囲における帯電パターンのうち当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する検出手段として、当該電位に基づいて(2)式における連立一次方程式の解を算出し、これら解からペン先PPが当接されるマトリックスSCを検出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、当該(2)式に実際の使用状況を想定した条件を加えるようにしても良い。この(2)式は、帯電パターンを有する紙が自由空間に浮いているおり、当該帯電パターンの近傍にペン先が存在しない場合を想定した理論式であるため、実際の使用状況を想定した条件を加えることによって一段と真値に近い解を得ることができる。
【0122】
さらに上述の実施の形態においては、絶対位置データを、準静電界を介して送信するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、誘導電磁界又は放射電界を介して送信するようにしても良い。また絶対位置データを無線で送信するようにしたが、有線で送信するようにしても良い。さらに絶対位置データを送信することに代えて、ペン3に対して装脱着自在の記憶媒体を設け、当該記憶媒体に絶対位置データを記憶するようにしても良い。
【0123】
さらに上述の実施の形態においては、ペン先PPの絶対位置を表すデータを送信するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、当該データに筆圧の程度を表すデータも加えて送信するようにしても良い。このようにすれば、筆圧に応じて筆記線の太さをも表現可能となるため、より一段と実際の筆記状態に近似する状態を情報として保持することができる。
【0124】
さらに上述の実施の形態においては、筆記可能である(紙面PFにインクを塗布する)ペン3を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、当該筆記できない(紙面PFにインクを塗布しない)ペンを適用するようにしても良い。この場合であっても、紙面PFにペン先PPを当接した状態で筆を運ぶ動作(即ち運筆動作)をすれば、ペン先PPの近傍に設けられた検出電極DEkと、当該運筆動作するユーザの身体との電位に基づいて絶対位置を検出することができるため、上述の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0125】
また、ペン3におけるペン先出入機構の動作方式として、上述の実施の形態ではノック式のペン先出入機構部12を採用するようにしたが、本発明はこれに限らず、回転式やスライド式を採用するようにしても良い。またペン先出入機構を搭載していないペンを適用するようにしても良く、当該ペンであっても上述と同様の効果を得ることができる。
【0126】
なお、ペン3は、ボールペン、サインペン又はマーカーペン等でなると上述したが、当該ペン3におけるインクは、導電性の材質を含むインクを選定すると、帯電パターンを誤検出する可能性が高くなることが想定されるため、導電性の材質を含まないものを選定することが好ましい。
【0127】
さらに、ペン3に代えて、図15に示すように、指サック式の筆具100を用いるようにしても良い。この筆具100は、指サック部101と、上述したペン先PPと同一構成のペン先部102とからなる。この筆具100において、ペン3における導電性滑止部材グリップGRに想到する導電性滑止部(図示せず)を指サック部101の内周面に設けると共に、ペン3における信号処理部20、送信電極TE及び圧電素子SNを指サック部101の所定位置に設けるようにすれば、上述の実施の形態と同様にして、ペン先部102に設けられた検出電極DEk(図6)と、当該筆動作するユーザ(グランド)との電位に基づいて、紙面PFに対して所定の区画ごとに定着された複数の帯電パターン(図2)のうちペン先PP(ボールBL)が当接する帯電パターンを検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、紙に対する筆跡をデータとして携帯電話機等の電子機器に記憶させ、当該データを電子機器で加工する場合などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本実施の形態による筆跡記録システムの全体構成を示す略線図である。
【図2】帯電パターン例を示す略線図である。
【図3】ペン軸と、ドットの配置状態との関係を示す略線図である。
【図4】プラスに帯電する粒子の定着の説明に供する略線図である。
【図5】ペンの構成を示す断面図である。
【図6】ペン先と検出電極との関係を示す略線図である。
【図7】検出電極の検出範囲の説明に供する略線図である。
【図8】信号処理部の構成を示すブロック図である。
【図9】紙面に対するペンの傾きと回転の説明に供する略線図である。
【図10】距離に応じた各電界の相対的な強度変化(1[MHz])を示す略線図である。
【図11】距離に応じた各電界の相対的な強度変化(10[MHz])を示す略線図である。
【図12】端末機の構成を示すブロック図である。
【図13】筆跡データ送信処理手順を示すフローチャートである。
【図14】極性帯電する粒子の定着の説明に供する略線図である。
【図15】他の実施の形態による筆具を示す略線図である。
【符号の説明】
【0130】
1……筆跡記録システム、2……紙、3……ペン、4……端末機、10……筒部10……ペンレフィル、12……ペン先出入機構部、20……信号処理部、30……制御部、31……受信処理部、PP……ペン先、BB……ボール、PG……ペン出入口、DEk……検出電極、GR……導電性滑止グリップ、SN……圧電素子、TE……送信電極、PF……紙面、Dt……ドット、SDt……基準ドット、SC……マトリックス、EAR……検出範囲、RT……位置データ送信処理手順。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置情報生成装置と、端末装置とによって構成される筆跡記録システムであって、
上記位置情報生成装置は、
所定の区画ごとに複数の帯電パターンが定着された紙面に当接される当接点の近傍に設けられた複数の電極と、
各上記電極と、上記紙面を運筆するユーザの身体との電位に基づいて、上記当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する検出手段と、
上記検出手段により検出された帯電パターンに基づいて、上記当接点の絶対位置を表す絶対位置データを復号する復号手段と、
上記復号手段により復号された上記絶対位置データを上記端末装置に送信する送信手段と
を具え、
上記端末装置は、
上記送信手段から送信された上記絶対位置データを受信する受信手段と、
上記受信手段により受信された上記絶対位置データを記憶する記憶手段と
を具えることを特徴とする筆跡記録システム。
【請求項2】
所定の区画ごとに複数の帯電パターンが定着された紙面に当接される当接点の近傍に設けられた複数の電極と、
各上記電極と、上記紙面を運筆するユーザの身体との電位に基づいて、上記当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する検出手段と、
上記検出手段により検出された帯電パターンに基づいて、上記当接点の絶対位置を表す絶対位置データを復号する復号手段と
を具えることを特徴とする位置情報生成装置。
【請求項3】
上記検出手段により検出された現時点の帯電パターンと、当該現時点の帯電パターンよりも前に検出された過去の帯電パターンとに基づいて、上記現時点での上記当接点の絶対位置を推測する推測手段
を具えることを特徴とする請求項2に記載の位置情報生成装置。
【請求項4】
上記検出手段により検出された上記帯電パターンから、当該帯電パターンの配列状態を定状態に補正する補正手段
を具えることを特徴とする請求項2に記載の位置情報生成装置。
【請求項5】
各上記電極は、上記当接点を中心として、上記帯電パターンを少なくとも1以上含む範囲に設けられ、
上記復号手段は、
上記絶対位置データを復号し、当該絶対位置データを、上記当接点が当接する帯電パターンにおける上記範囲での位置関係に応じて補正する
ことを特徴とする請求項2に記載の位置情報生成装置。
【請求項6】
上記復号手段により復号された上記データを、上記ユーザをアンテナとして送信する送信手段
ことを特徴とする請求項2に記載の位置情報生成装置。
【請求項7】
所定の区画ごとに複数の帯電パターンが定着された紙面に当接される当接点の近傍に設けられた複数の電極と、上記紙面を運筆するユーザの身体との電位に基づいて、上記当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する第1のステップと、
上記第1のステップで検出された帯電パターンに基づいて、上記当接点の絶対位置を表す絶対位置データを復号する第2のステップと
を具えることを特徴とする位置情報生成方法。
【請求項8】
コンピュータに対して、
所定の区画ごとに複数の帯電パターンが定着された紙面に当接される当接点の近傍に設けられた複数の電極と、上記紙面を運筆するユーザの身体との電位に基づいて、上記当接点が当接する帯電パターンを所定周期で検出する第1の処理と、
上記第1の処理で検出された帯電パターンに基づいて、上記当接点の絶対位置を表す絶対位置データを復号する第2の処理と
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−72584(P2007−72584A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256570(P2005−256570)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】