説明

等速ジョイント及びそれを用いた揺動斜板型圧縮機

【課題】 摺動部の面圧上昇を招くことなく、摺動部の潤滑状態を良好に保ち、信頼性の向上した等速ジョイントを回り止め機構として用いた揺動斜板型圧縮機を提供する。
【解決手段】 内輪73、外輪71、ボール74及びケージ72より構成される等速ジョイント7の内輪とケージ又はケージと外輪との間の非摺動部である球面摺接部の軸方向略中央部にオイル保持溝75を設けることで、ケージと内・外輪との摺動状態を良好にしており、この改善された等速ジョイントを揺動斜板型圧縮機100の回り止め機構として採用し、外輪71をワッブルプレート6に嵌合固定し、内輪73を中心軸8に移動可能に支持させている。これにより、信頼性の高い圧縮機が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイント及びそれを回り止め機構として用いた、容積型ポンプや空調装置の冷媒圧縮に用いられる圧縮機、特に揺動斜板型の圧縮機に関するものであって、バス等の大容量を必要とする揺動斜板型圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、揺動斜板(ワッブルプレート)の回り止め機構として等速ジョイントを用い、これを揺動斜板の中央に配置する構造は、よく知られている。この場合、等速ジョイントはグリス潤滑中で使用されるのが一般的であるが、圧縮機に使用する場合グリス潤滑では使用できないので、信頼性を確保するために、特許文献1に記載されているように摺動部に油貯めを設けることが知られている。
【0003】
【特許文献1】実願昭57−28451号(実開昭58−132226号)のマイクロフィルム
【0004】
即ち、この特許文献1に示される等速ジョイントでは、内輪の外周面と外輪の内周面とに摺接状態で介装されたボールを支持するケージの内周面か若しくは内輪の外周面の少なくとも一方と、ケージの外周面か若しくは外輪の内周面の少なくとも一方とにそれぞれ油貯めを形成している。このように、この等速ジョイントでは内輪の外周面、外輪の内周面又はケージの内外周面に、非摺動部、摺動部に関係なく油貯めが形成されているものである。
【0005】
しかしながら、この特許文献1による等速ジョイントの構成では、摺動部に油貯めが形成されているので、摺動部の面圧の上昇、或いは摺動部にエッジができて摺動部を引っ掻いてしまい、摺動面が荒れて良好な摺動状態を保つことができず、圧縮機の回り止め機構の信頼性が悪化し、最終的には摺動部の焼付きが発生し、圧縮機がロックして停止してしまうという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、摺動部の面圧の上昇を招くことなく、かつ摺動部に余分なエッジ形状を形成して本来の摺動状態を阻害することがなく、摺動部の潤滑状態を良好に保ち、信頼性の向上した等速ジョイント及びこの等速ジョイントを回り止め機構として用いた揺動斜板型圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、特許請求の範囲の各請求項に記載の等速ジョイント及び揺動斜板型圧縮機を提供する。
請求項1に記載の等速ジョイントは、内輪73、外輪71、ボール74及びケージ72により構成されていて、内輪73とケージ72との間、又はケージ72と外輪71との間の軸方向略中央部にオイル保持溝75を設けたものであり、これにより、内輪73とケージ72及びケージ72と外輪71との接触面積を大きくとれ、面圧の上昇を防止でき、かつ摺動部に溝等がなく、引っ掻きの心配がなく、安定した摺動状態が得られる。
【0008】
請求項2の等速ジョイントは、ケージ72が内輪73と外輪71との間に摺接状態で介装されて球面摺接部を形成していて、この球面摺接部のうちの非摺動部にオイル保持溝75を設けるようにしたものであり、これにより、摺動部に余分なエッジ形状を形成して本来の摺動状態を阻害することなく、摺動部の潤滑状態を良好に保つことができる。
請求項3の等速ジョイントは、球面摺接部が、内輪73の外周面とケージ72の内周面及び外輪71の内周面とケージ72の外周面とで形成されていて、この球面摺接部を形成しているいずれか一方の内又は外周面にオイル保持溝75を設けたものであり、オイル保持溝75の形成される部位を具体的に特定したものである。
請求項4の等速ジョイントは、オイル保持溝75の溝形状を、凸球面を平面状にカットした形状にしたものであり、これにより、溝加工が容易であると共に、オイルのケージ72と内・外輪73,71との摺動部への供給がスムーズに行われる。
請求項5の等速ジョイントは、オイル保持溝75の縁部75aを、エッジを形成することなくR(丸み)形状としたものであり、これにより、ケージ72と内・外輪73,71の摺動部を引っ掻くこともなく、摺動面の荒れも防止でき、良好な摺動を行うことができる。
【0009】
請求項6に記載の揺動斜板型圧縮機は、ワッブルプレート6の回り止め機構として請求項1〜5のいずれか一項に記載の等速ジョイント7を使用したものであり、これにより、回り止め機構として採用した等速ジョイント7の摺動部の潤滑不足を解消でき、その焼付きを防止でき、圧縮機100の信頼性の向上が図れる。
請求項7の揺動斜板型圧縮機は、可変容量型の圧縮機に適用したものであり、これにより、圧縮機100の吐出量を変えることができ、エンジンより動力を得ている圧縮機に好適である。
【0010】
請求項8の揺動斜板型圧縮機は、オイルセパレータ35が内蔵されていて、このオイルセパレータ35によって分離したオイルを等速ジョイント7の揺動部に直接給油できるようにしたものであり、これにより、摺動部を狙ってオイルセパレータ35で分離したオイルを積極的に給油でき、回り止め機構の良好な摺動状態を得ることができる。
請求項9の揺動斜板型圧縮機は、等速ジョイント7を支持する中心軸8を、一端が自由端で、他端がハウジング2に固定されている片持ち支持にしたものであり、このように中心軸8をハウジングの一部を構成しているシリンダブロック2の中心部に圧入固定することで、片持ち支持であっても中心軸8の十分な剛性を確保することができる。
【0011】
請求項10の揺動斜板型圧縮機は、等速ジョイント7を支持する中心軸8を、その一端が駆動軸4に配置したベアリング44で支持され、他端がハウジング2に回転不能に支持されている両持ち支持にしたものであり、これにより、中心軸8に作用する荷重を両側で受けることができ、信頼性の向上、振動・騒音を低減することが可能である。
請求項11の揺動斜板型圧縮機は、フロン系冷媒であるHFC134aの冷媒換算で300cc以上の能力を確保できるようにしたものであり、これにより、バス等の大型車両の空調装置に適用可能な大容量の圧縮機が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に従って本発明の実施の形態の等速ジョイント及びそれを使用した揺動斜板型圧縮機について説明する。図1は、最大の吐出容量(100%容量)をもたらす運動状態における第1実施形態の回り止め機構として等速ジョイントを使用した揺動斜板型可変容量圧縮機の全体構造を示す縦断面図であり、図2は、図1の圧縮機の最小吐出容量(0%容量)をもたらす運転状態を示している。これらの図面において、符号1は圧縮機100のフロントハウジングを、符号3は圧縮機100のリアハウジングを示しており、フロントハウジング1とリアハウジング3との間に挟まれる形でミドルハウジングとしてのシリンダブロック2が配置され、これらは図示しないスルーボルトのような締結手段によって一体化されて、圧縮機100のハウジングを形成している。シリンダブロック2には、図1において横方向(後述の駆動軸の軸方向)に複数個(例えば5個)のシリンダボア21が、中心線の周りに概ね均等に配置されるように形成されている。リアハウジング3の後部の外周部分には、概ね環状の空間としての吐出室31が形成されていると共に、中心部分の空間には吸入室32が形成されている。また、このリアハウジング3には、後述するオイルセパレータ及び高圧貯油室が設けられている。
【0013】
符号4は外部の動力源(例えばエンジン)から回転動力を受け入れるための駆動軸であり、この駆動軸4と直交するように円板部40が一体的に形成されている。また、円板部40の外周寄りの一部から所定の間隔をあけて平行に2枚のアーム41が後方に向かって突出するように形成されている。この駆動軸4は、2個のラジアルベアリング11及び13を介してハウジングの一部であるフロントハウジング1によって軸承されていると共に、円板部40の背面を支持するスラストベアリング14を介して、軸方向にもフロントハウジング1によって軸承されている。また、ラジアルベアリング11及び13の間には、軸封装置12が設けられて、駆動軸4の周囲から流体が外部へ漏洩するのを防止している。なお、ラジアルベアリング11,13は、サークリップ15及び17により、また軸封装置12は、サークリップ16によって軸方向に移動しないようにそれぞれ固定されている。
【0014】
符号5は、概ね円環状のドライブプレートであって、その一部が前方に突出するアーム部分50を備えている。アーム部分50には、カムとして作動する所定の形状の長孔51が設けられていて、駆動軸4側の平行な2枚のアーム41を橋絡するようにそれらの間に取り付けられたピン42が、長孔51内に挿入されて係合している。このように駆動軸4のアーム41とドライブプレート5のアーム部分50とが、2面幅で嵌合してピン42によって連結されることによってリンク機構を形成しており、ドライブプレート5が駆動軸4と共に回転することができると共に、駆動軸4やその円板部40に対して角度可変の状態で傾斜する(揺動する)ことができる。ドライブプレート5には、後述の手段によって回転を阻止されて揺動のみをする概ね円環状のワッブルプレート(揺動斜板)6が、ラジアルベアリング52とスラストベアリング53を介して支持されている。なお、上述したリンク機構は、それと同等の作用する斜面とアーム、球座と球などの他のリンク機構によって置き換えることができることは言うまでもない。
【0015】
ワッブルプレート6の開口61には、後に詳述する回り止め機構として採用した等速ジョイント7の構成の一部である概ね円筒形の外輪71が嵌合していて、ワッブルプレート6と一体化されていると共に、外輪71の小径部分71aでラジアルベアリング52を支持している。また、ラジアルベアリング52は、円環状のドライブプレート5の開口内面によって支持され、かしめ等で固定されている。外輪71の小径部分71aの図1における左端部には螺子部が形成されていて、それに螺合するナット54及びワッシャ55によって、ラジアルベアリング52が外輪71に取り付けられている。
【0016】
このようにして、ラジアルベアリング52がドライブプレート5と外輪71及びワッブルプレート6とを相対回転可能に結合していると共に、前述のスラストベアリング53がドライブプレート5とワッブルプレート6との間に挟み込まれているので、これらの構成によって、ワッブルプレート6と外輪71とがドライブプレート5と共に揺動運動はするものの、ドライブプレート5の回転運動とは無関係に回転をしないで停止していることが可能である。
【0017】
外輪71とワッブルプレート6の回転運動を阻止する回り止め機構として、本実施形態においては、それ自体は公知の等速ジョイント7を使用しているが、この回り止め機構及びその周辺の構成は、本実施形態の特徴をなすものであるので、後に詳述する。
【0018】
ドライブプレート5及びワッブルプレート6を支持する中心軸8は、駆動軸4の延長線上において回転しないようにシリンダブロック2によって固定支持される。そのため、例えば、シリンダブロック2の中心部に軸方向のスプライン溝を有する穴22を形成する一方、それに挿入される中心軸8の外面にも対応するスプライン突条を形成してそれらを噛み合わせるとか、中心軸8及びシリンダブロック2の穴22の断面形状を正方形その他の多角形にするとか、或いは中心軸8とシリンダブロック2の穴22をキー23とキー溝によって連結するというように、それ自体は公知の様々な手段を利用することができる。このようにして、本実施形態の圧縮機100においては、等速ジョイント7と回転を阻止された中心軸8とによって、ワッブルプレート6のための回り止め機構が構成される。
【0019】
ワッブルプレート6の周辺部には、前述のシリンダボア21と同数の球形の窪み62が形成されており、それに対して同数のコネクティングロッド91の一端に形成された球形端部91aが係合している。また、それぞれのシリンダボア21内に摺動可能に挿入されているピストン9にも球形の窪み92が形成されていて、それらに対してコネクティングロッド91の他端に形成された球形端部91bが係合している。
【0020】
なお、ワッブルプレート6の球形の窪み62は、コネクティングロッド91の球形端部91aの周りにかしめ加工されることにより抜け止めを施されており、同様に、ピストン9の球形の窪み92もまた、球形端部91bの周りにかしめ加工されることによって抜け止めを施されている。なお、本実施形態においては、ワッブルプレート6及びピストン9をかしめ加工によってコネクティングロッド91の球形端部91a,91bに連結しているが、本発明におけるこの部分の連結手段が「かしめ加工」のみに限定される訳ではなく、それ以外の連結手段を採る場合もあり得る。
【0021】
符号19は厚板からなるバルブプレートであって、各シリンダボア21に対応する位置において、バルブプレート19を貫通するように少なくとも1個ずつ吐出口19aと吸入口19bが開口している。バルブプレート19の各吸入口19bには、1枚の薄いばね鋼板からなる吸入バルブ(図示せず)の各一部に形成されたリード弁状の吸入バルブによって、シリンダボア21の側から閉塞されている。また、各吐出口19aには、同様に薄いばね鋼板からなるリード弁状の吐出バルブ(図示せず)が配置され、吐出室31の側から閉塞されている。バルブプレート19、吸入バルブ、吐出バルブは、シリンダブロック2とリアハウジング3とが図示しない手段によって固定されて一体化されるときに、それらの間に挟み込まれて固定される。なお、吐出バルブのリフト量を規制するストッパ(図示せず)がボルト等によってバルブプレート41に取り付けられている。また、バルブプレート19がシリンダブロック2とリアハウジング3とによって挟持固定される際には、ガスケット20も一緒に挟持される。なお、ガスケットは、フロントハウジング1とシリンダブロック2との間、シリンダブロック2とバルブプレート19との間及びバルブプレート19とリアハウジング3との間の3個所に使用されている。
【0022】
リアハウジング3の後端には制御弁33が取り付けられており、図示しない電子式制御装置によって制御されて、吸入室32にある流体(冷媒)の圧力、即ち吸入圧と、吐出室31にある流体(冷媒)の圧力、即ち吐出圧との間の任意の高さの流体圧を作り出して、それを制御圧としてドライブプレート5やワッブルプレート6のある制御圧室(クランク室)18へ供給している。この制御圧室18内に導入される制御圧によって、ワッブルプレート6の傾斜が制御される。
【0023】
次に本実施形態の特徴である回り止め機構とその周囲の構成について詳述する。本実施形態においては、回り止め機構として自動車用又は産業機械用の等速ジョイント7を使用している。等速ジョイント7は、外輪71、ケージ72、内輪73及び複数個のボール74とで構成されている。等速ジョイント7の外輪71は、ワッブルプレート6の開口61に一体的に嵌合し、また内輪73は、前記した中心軸8に軸方向に移動可能に取り付けられている。中心軸8は、一端側が自由端で、他端側がシリンダブロック2に固定されていて、回転しないだけでなく軸方向にも移動しない。従って、中心軸8の自由端の外周面に形成されたスプライン突条81が、等速ジョイント7の内輪73に形成されたスプライン溝にスプライン係合して、等速ジョイント7の軸方向における移動を許すと共に、内輪73を介してワッブルプレート6の回転を阻止するようになっている。
【0024】
図3〜6に示されるように、一方の揺動側であるワッブルプレート6に取り付けられた、等速ジョイント7の外輪71の球面状の内周面には、中心軸8と平行に複数のボール溝71aが形成されており、他方の軸側である中心軸8に支持された内輪73の球面状の外周面には、球面状の内周面の前記複数のボール溝71aに対応した、中心軸8と平行な複数のボール溝73aが形成されている。これら外輪71と内輪73とは、外輪71の内周面と内輪73の外周面に摺接する球環状のケージ72を介すると共にこのケージ72に保持された複数のボール74がボール溝71a,73aに接触する状態で連結されている。即ち、等速ジョイント7は、外輪71と内輪73とがケージ72の内外周面を内輪73の外周面及び外輪71の内周面と極めて小さなクリアランスのもとに摺接嵌合されている。そして、図3に示すようにワッブルプレート6の傾斜に伴い、ボール74はボール溝71a,73aを往復転動すると共にケージ72は外輪71と内輪73との間を摺動し、常にその位置関係を維持するように相互間に相対的運動がなされる。
【0025】
この場合、ケージ72と外輪71及び内輪73とが主に摺動する摺動部は、ケージ72の内外周面の軸方向の両側部であり、軸方向略中央部は、ほとんど摺動が行われない非摺動部である。そこで、本実施形態では、この非摺動部にオイル保持溝75を形成している。即ち、図5に示すものでは、内輪73の外周面の軸方向略中央部にオイル保持溝75を形成すると共に、ケージ72の外周面の軸方向略中央部にオイル保持溝75を形成している。オイル保持溝75の溝形状は、図4に拡大して示すように、内輪73の外周面の凸球面及びケージ72の外周面の凸球面を平面状にカットした形状をしている。この場合、オイル保持溝75の両縁部75aは、球面から平面に移行する部分にエッジを形成しないようにR(丸み)形状にされている。なお、オイル保持溝75は、ケージ72の内周面の軸方向略中央部及び外輪71の内周面の軸方向略中央部に設けるようにしてもよい。この場合は、両者の内周面は凹球面であるので、適宜の形状のオイル保持溝75を形成する。
【0026】
図3は、(a)ワッブルプレート6が右側に傾斜した場合と、(b)略垂直状態にある場合、(c)左側に傾斜した場合における摺動部へのオイルの補給状況を示している。即ち、ワッブルプレート6が右側の傾斜(a)から左側の傾斜(c)に移行するとき、ケージ72の外周面側の外側摺動部Aは、外輪71から外れた部分のオイルで潤滑されるようになり、ケージ72の内周面側の内側摺動部Bは、オイル保持溝75に保持されたオイルがこの摺動部Bに供給され潤滑されるようになる。また、ワッブルプレート6が左側の傾斜(c)から右側の傾斜(a)に移行するときは、ケージ72の外周面側の外側摺動部Aは、オイル保持溝75に保持されたオイルで潤滑されるようになり、ケージ72の内周面側の内側摺動部Bは、ケージ72から外れた部分の内輪73のオイルで潤滑されるようになる。
【0027】
このように、本実施形態では、等速ジョイント7のオイル保持溝75を、ケージ72と外輪71及び内輪73との球面摺接部の非摺動部に相当する軸方向略中央部に設けることにより、摺動部の接触面積を大きくすることができる。また、球面摺接部の摺動部に相当する部分に溝等がないので、引っ掻き等の恐れがなく、安定した摺動状態が得られる。
【0028】
中心軸8は、シリンダブロック2に固定される側は、大径に形成され、等速ジョイント7の内輪73を摺動自在に嵌合する側は、小径に形成されていて、その移行部分に段差82が形成され、これが最小容量規制部分82として機能する。これにより、内輪73がこの最小容量規制部分82に当接することでワッブルプレート6の傾斜角度を規制し、図2に示すように圧縮機100の最小容量を規制している。
【0029】
また最小容量規制部分82に隣接した中心軸8の大径部分に止められてバネ等の付勢部材83が軸上に設けられ、ワッブルプレート6を最大容量側に付勢する。この付勢部材83は、容量復帰時の制御をアシストする。他方で、中心軸8のシリンダブロック2に固定支持された側と反対の自由端側の端面に止められて、バネ等の付勢部材84が軸上に設けられ、等速ジョイント7の内輪73をリア側に押している。この付勢部材84によって、圧縮機運転時は、圧縮機容量の最小側への制御をアシストし、圧縮機停止時は常に容量の少ない側にワッブルプレート6を保つ役割をし、再起動時の動力を低減することが可能となる。
【0030】
また、本実施形態では、リアハウジング3には、吐出室31の下流に、これと連通する垂直円筒室34が設けられている。この垂直円筒室34には、オイルセパレータ35が圧入され、図7に示すように吐出室31から垂直円筒室34に入ってくるオイルと冷媒ガスとの混合流体を遠心分離して、オイルと冷媒ガスとに分離される。分離された冷媒ガスは、オイルセパレータ35上方から冷凍サイクル内に排出され、オイルはリアハウジング3とシリンダブロック2間に跨がって設けられた高圧貯油室36に蓄えられる。
【0031】
この高圧貯油室36内に蓄えられたオイルは、図7に示すようにリアハウジング3とバルブプレート19の間に配置されたガスケット20に設けられた溝(図示せず)を介して、中心軸8に設けられたオイル導入路85を通って、等速ジョイント7の摺動部に向かってオイルを噴出する。即ち、オイル導入路85は、中心軸8の略中央部分をシリンダブロック2側から延在し、段差82近辺で制御圧室18に開口している。このように、オイルセパレータ35で分離したオイルを、等速ジョイント7の摺動部を狙って積極的に噴出することで、等速ジョイント7の良好な摺動状態を得ることができる。
【0032】
上記構成よりなる本実施形態の揺動斜板型圧縮機100の作動について説明する。圧縮機100の最も好適な用途は車両用空調装置の冷媒圧縮機として使用されることであるから、この場合も圧縮機100が車両用空調装置に使用されるものとして説明する。
【0033】
駆動軸4が車両に搭載された内燃機関やモータのような外部の動力源によって、ベルト、伝動装置等を介して、或いは直接に回転駆動されると、駆動軸4の円板部40に対してアーム41、ピン42、長孔51、アーム部分50を介して連結されるドライブプレート5が駆動軸4と共に回転する。しかし、ワッブルプレート6はドライブプレート5に対しラジアルベアリング52及びスラストベアリング53を介して連結されているのと、中心部が等速ジョイント7を介して回転しない中心軸8によって支持されているので回転することはなく、駆動軸4と直交している仮想の平面に対してドライブプレート5が傾斜している場合には、その傾斜角度に応じた大きさの振幅を有する揺動運動のみをする。それによって、ワッブルプレート6に対してコネクティングロッド91を介して連結されている複数個のピストン9がそれぞれのシリンダボア21内で往復運動をする。
【0034】
その結果、複数個のピストン9の頂面にそれぞれ形成される作動室の中でも吸入行程にあるものは拡大して低圧となるので、その中へ吸入室32内にある圧縮すべき冷媒がバルブプレート19の吸入口19bに設けられた吸入バルブを押し開いて流入する。これと反対に、圧送行程にあるピストン9の頂面に形成される作動室は縮小するため、その内部にある冷媒は圧縮されて高圧となり、バルブプレート19の吐出口19aに設けられた吐出バルブを押し開いて吐出室31に吐出される。駆動軸4の1回転当りの圧縮機100の吐出量は、ドライブプレート5及びワッブルプレート6の傾斜角度θによって決まるピストン9のストローク長さに概ね比例している。
【0035】
このように、ドライブプレート5及びワッブルプレート6の傾斜角度θを変化させると圧縮機100の吐出容量が変化するので、吐出容量を制御するために、本実施形態の圧縮機100においては、全てのピストン9の背圧となる制御圧室18内の圧力を制御弁33によって図示しない制御装置が指令する任意の高さに変化させる。制御圧室18内には、吐出室31内の高圧と吸入室32内の低圧との中間の任意の高さの圧力が制御弁33から導入される。
【0036】
例えば、制御圧室18内の圧力、即ちピストン9の背圧を高めると、各ピストン9の頂面に形成される作動室内の圧力との釣り合い状態が変化するので、新たな釣り合い状態が得られるところまで、複数個のピストン9に共通な下死点の位置がバルブプレート19に近い位置に向かって移動する。それに伴ってワッブルプレート6の揺動中心もバルブプレート19に近い位置に向かって移動するため、ワッブルプレート6とドライブプレート5の傾斜角度θ(θの定義:中心軸に対して垂直な線をθ=0とする。そのため100%容量時の図1がθ最大、最小容量時の図2がθ最小)が小さくなって、全てのピストン9のストロークが一斉に小さくなるので、圧縮機100の吐出容量が無段階に減少する。
【0037】
図2は、制御圧室18内の圧力が最大とされることによって、ピストン9の下死点がバルブプレート19に最も接近した位置において上死点と概ね一致して、ピストン9のストロークが実質的に零になる結果、吐出容量が実質的に零になった状態を示している。この場合は、ドライブプレート5及びワッブルプレート6の傾斜角度θが実質的に0度になっているから、ドライブプレート5が駆動軸4と共に回転しても、ワッブルプレート6が回転は勿論揺動運動もしないで実質的に静止している。そのため、全てのピストン9が実質的に上死点の位置にあって、シリンダボア21内で実質的に往復運動をすることがない。しかし、本実施形態では、中心軸8の最小容量規制部分82を等速ジョイント7の内輪73に当接すると共に、最小容量規制部分82に隣接して付勢部材83を設けることによって、傾斜角度θが厳密な0度になるのを防止し、吐出容量を完全に零(0%容量)にはしないで僅かに残して、次の制御の応答性を高めている。
【0038】
これと反対に、図示しない制御装置によって制御弁33を作動させて制御圧室18内の圧力を吸入圧までの任意の高さまで低下させると、ピストン9に作用する背圧が小さくなるために、作動室内で冷媒を圧縮することにより発生する圧縮反力によって、全てのピストン9の往復運動の下死点が、ピストン9の背圧(制御圧室18内の圧力)による軸方向力が圧縮反力による軸方向力に釣り合う位置まで、バルブプレート19から遠ざかる方向へ移動する。
【0039】
その結果、ワッブルプレート6とドライブプレート5の傾斜角度θが大きくなると共に揺動運動の振幅が大きくなるので、全てのピストン9のストロークが一斉に大きくなって、圧縮機100の吐出容量が無段階に大きくなる。図1は、制御圧室18内の圧力を最小とすることによって、ドライブプレート5とワッブルプレート6の傾斜角度θが大きくなって、ピストン9のストロークと圧縮機100の吐出容量が最大(100%容量)となった状態を示している。
【0040】
このように作動する圧縮機100においては、圧縮機100内の様々な摺動部、例えば、ピストン9とピストンボア21、コネクティングロッド91の球形端部91aとワッブルプレート6の窪み62、等速ジョイント7の外輪71とケージ72及び内輪73とケージ72等、を潤滑するためのオイルが内蔵されていて、冷媒と一緒になって運ばれ各摺動部に供給されるようになっている。
【0041】
本実施形態においては、等速ジョイント7の外輪71の内周面及びケージ72の外周面、或いはケージ72の内周面及び内輪73の外周面とで形成される球面摺接部の軸方向略中央部の非摺動部にオイル保持溝75を形成している。即ち、図5では、内輪73の凸状球面の外周面の軸方向略中央部にオイル保持溝75を形成し、またケージ72の凸状球面の外周面の軸方向略中央部にオイル保持溝75を形成している。したがって、オイル保持溝75に保持されたオイルが、球面摺接部の軸方向略中央部を挟んでいる両側部の摺動部に供給されるようになり、内・外輪73,71及びケージ72との良好な摺動状態が得られる。
【0042】
また、本実施形態においては、リアハウジング3にオイルセパレータ35を備えた垂直円筒室34を設けると共に、リアハウジング3とシリンダブロック2間に跨がって高圧貯油室36を設けていて、圧縮機100から吐出されるオイルと冷媒ガスの混合流体を遠心分離してオイルと冷媒ガスとを分離して、このオイルを高圧貯油室36からオイル導入路85を通って等速ジョイント7の摺動部に噴出するようにしているので、等速ジョイント7の摺動性を高めることができる。
【0043】
図8は、最大の吐出容量(100容量)をもたらす運転状態における第2実施形態の揺動斜板型圧縮機の全体構成を示す縦断面図であり、図9は、最小の吐出容量をもたらす運転状態における第2実施形態の揺動斜板型圧縮機の全体構成を示す縦断面図である。この第2実施形態では、駆動軸4の中心軸8に面する側の中央部に凹部43を形成し、この凹部43内にラジアルベアリング(すべり軸受)44を配置し、ここに中心軸8の端部を挿入し支持するようにしたものである。即ち、第1実施形態では、中心軸8がシリンダブロック(ハウジング)2によって一端側のみが固定・支持された片持ち支持であったのに対し、第2実施形態では、中心軸8は、一端側がシリンダブロック2によって、他端側が駆動軸4によって支持されている両持ち支持構造にしたものである。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0044】
このように中心軸8を両端側で支持することにより、中心軸8に作用する荷重を両側で受けることができ、片持ち支持よりも剛性が高くなり、信頼性が一層向上し、また振動・騒音の一層の低減を図ることができる。なお、中心軸8を支持するベアリング(軸受)としては、ラジアルベアリング44ではなくボールベアリング(転がり軸受)にしてもよい。
【0045】
以上説明した本実施形態では、フロン系冷媒であるHFC(ハイドロフルオロカーボン)134aの冷媒換算で300cc以上の能力を確保できるようにすることが好ましい。これにより、バス等の空調装置に適用可能な大容量の圧縮機が得られる。なお、HFC134aの冷媒換算で300cc以上とは、例えばCO2冷媒の場合、100cc以上である。
また、上記説明においては、揺動斜板型可変容量圧縮機を例として説明しているが、本発明は可変容量型に限定するものではなく、固定容量型の圧縮機にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態の揺動斜板型圧縮機の全体構成を示す縦断面図であり、その100%(最大)容量時を示している。
【図2】最小容量時における第1実施形態の揺動斜板型圧縮機の縦断面図である。
【図3】本発明の揺動斜板型圧縮機に用いている等速ジョイントの作用を説明する図である。
【図4】等速ジョイントのオイル保持溝の拡大図である。
【図5】等速ジョイントの内輪とケージの斜視図である。
【図6】等速ジョイントを軸方向から見た図である。
【図7】等速ジョイントの摺動部へのオイルの噴出を説明する図である。
【図8】本発明の第2実施形態の揺動斜板型圧縮機の100%(最大)容量時の縦断面図である。
【図9】最小容量時における第2実施形態の揺動斜板型圧縮機の縦断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 フロントハウジング
2 シリンダブロック
3 リアハウジング
31 吐出室
32 吸入室
33 制御弁
34 垂直円筒室
35 オイルセパレータ
36 高圧貯油室
4 駆動軸
43 凹部
44 ラジアルベアリング
5 ドライブプレート
6 ワッブルプレート(揺動斜板)
7 等速ジョイント(回り止め機構)
71 外輪
72 ケージ
73 内輪
74 ボール
75 オイル保持溝
8 中心軸
83,84 付勢部材
85 オイル導入路
9 ピストン
91 コネクティングロッド
18 制御圧室(クランク室)
19 バルブプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸側に支持された内輪(73)と、
揺動部材に支持され、前記内輪(73)の周囲に配置された外輪(71)と、
前記内輪(73)の外周面と前記外輪(71)の内周面とに形成された複数対のボール溝に介装されたボール(74)と、
前記内輪(73)の外周面と前記外輪(71)の内周面との間に配置され、前記ボール(74)を支持するケージ(72)と、
から構成されている等速ジョイント(7)において、
前記内輪(73)と前記ケージ(72)との間、又は前記ケージ(72)と前記外輪(71)との間の軸方向略中央部にオイル保持溝(75)を設けたことを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
前記ケージ(72)が、前記内輪(73)と前記外輪(71)との間に摺接状態で介装されて球面摺接部を形成しており、前記球面摺接部のうちの非摺動部に前記オイル保持溝(75)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記球面摺接部が、前記内輪(73)の外周面と前記ケージ(72)の内周面及び前記外輪(71)の内周面と前記ケージ(72)の外周面とで形成されていて、前記球面摺接部を形成しているいずれか一方の内又は外周面に前記オイル保持溝(75)が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の等速ジョイント。
【請求項4】
前記オイル保持溝(75)の溝形状が、凸球面を平面状にカットした形状をしていることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の等速ジョイント。
【請求項5】
前記オイル保持溝(75)の縁部(75a)が、エッジを形成することなくR(丸み)形状となっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の等速ジョイント。
【請求項6】
ベアリングを介してハウジングによって軸承されて動力源からの回転動力を受け入れる駆動軸(4)と、
前記駆動軸(4)に連結されて回転すると共に、前記駆動軸(4)に対して傾斜することができるドライブプレート(5)と、
ベアリング(52,53)を介して前記ドライブプレート(5)に連結され、前記ドライブプレート(5)と同じ傾斜角度をとるが、回り止め機構により回転は阻止されるワッブルプレート(6)と、
前記ワッブルプレート(6)に連結されて前記駆動軸(4)の軸方向に往復運動をすると共に、前記ハウジング内に形成されたシリンダボア(21)内に挿入されて流体を吸入及び圧縮するピストン(9)と、
前記ドライブプレート(5)と前記ワッブルプレート(6)を支持するために、前記駆動軸(4)の延長線上において前記ハウジング(2)に支持される中心軸(8)と、
を備えている揺動斜板型圧縮機(100)が、
前記回り止め機構として請求項1〜5のいずれか一項に記載の等速ジョイント(7)を使用していて、前記等速ジョイント(7)の外輪(71)が前記ワッブルプレート(6)に固定され、内輪(73)が前記中心軸(8)に支持されていることを特徴とする揺動斜板型圧縮機。
【請求項7】
前記揺動斜板型圧縮機が可変容量型であることを特徴とする請求項6に記載の揺動斜板型圧縮機。
【請求項8】
前記揺動斜板型圧縮機には、オイルセパレータ(35)が内蔵されており、前記オイルセパレータによって分離したオイルを前記等速ジョイント(7)の揺動部に直接給油していることを特徴とする請求項6又は7に記載の揺動斜板型圧縮機。
【請求項9】
前記等速ジョイント(7)を支持する前記中心軸(8)が、一端が自由端で、他端が前記ハウジング(2)に固定されている片持ち支持であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の揺動斜板型圧縮機。
【請求項10】
前記等速ジョイント(7)を支持する前記中心軸(8)が、その一端が前記駆動軸(4)に配置されたベアリング(44)で支持され、他端が前記ハウジング(2)に回転不能に支持されている両持ち支持であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の揺動斜板型圧縮機。
【請求項11】
フロン系冷媒であるHFC(ハイドロフルオロカーボン)134aの冷媒換算で300cc以上の能力を確保することができることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の揺動斜板型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−336562(P2006−336562A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163054(P2005−163054)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】