説明

等速ジョイント用グリース組成物及び等速ジョイント

【課題】耐ジョイントフレーキング特性に優れた等速ジョイント用として好適なグリース組成物、及びこれを封入した等速ジョイントを提供すること。
【解決手段】下記の成分を含有する等速ジョイント用グリース組成物及びこれを封入した等速ジョイント。
(a)基油、
(b)次式で表されるジウレア系増ちょう剤、
1NH−CO−NH−C64−p−CH2−C64−p−NH−CO−NHR2
(R1及びR2は、炭素原子数8のアルキル基である)
(c)二硫化モリブデン
(d)次式で表される硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、
(R34N−CS−S)2−Mo2mn
(式中、R3、R4は独立して、炭素数1〜24のアルキル基を表し、mは0〜3、nは4〜1であり、m+n=4である。)
(e)石油スルホン酸のカルシウム塩、
(f)硫黄系極圧剤、
(g)ひまし油又はなたね油及び
(h)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイント(CVJ)用グリース組成物、特にプランジング型等速ボールジョイント用または固定型等速ボールジョイント用として好適なグリース組成物及びこれを封入した等速ジョイントに関する。潤滑される等速ジョイント部分には、極めて高い面圧が発生し、ジョイント部分は、複雑なころがりすべり作用を受ける。このため、異常摩耗や金属疲労が発生し、剥離現象、すなわち、ジョイントのフレーキングが発生する。本発明は、このような等速ジョイントを潤滑し、ジョイントの摩耗を効果的に低減し、潤滑部分のフレーキングの発生を効果的に防止することのできる等速ジョイント用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような等速ジョイントに用いられている潤滑グリースとしては、二硫化モリブデンを含有しリチウム石けんを増ちょう剤とした極圧グリースや、二硫化モリブデンに硫黄−リン系極圧剤やナフテン酸の鉛塩を添加しリチウム石けんを増ちょう剤とした極圧グリースが挙げられる。しかしながらこれらの等速ジョイント用グリースは、近年の高性能自動車において発生する厳しい作用条件の下では、必ずしも満足なものとはいえない。
最近、4輪駆動(FFタイプ)自動車の数が急激に増加している。これらの自動車に使用する等速ジョイントはできるだけ軽量かつ小型のものにすることが必要である。プランジング型等速ボールジョイントとして用いられているダブルオフセット型等速ジョイントやクロスグルーブ型等速ジョイント等、また固定型等速ボールジョイントとして用いられているバーフィールドジョイント等は、いずれも6個のボールでトルクを伝達する構造を持つ。これらの等速ジョイントでは、回転時高面圧下で複雑なころがりすべりの往復運動により、ボールおよびボールと接触する金属表面に繰り返し応力が加わり、金属疲労によるフレーキング現象が発生し易い。また、近年、車両の環境対策(CO2削減)を目的に自動車の軽量化が進められている。軽量化のためにはCVJのサイズを小型化する必要があるが、この場合、内部の接触面圧は高面圧となるため従来のグリースではフレーキング現象を十分に防止することができない。
【0003】
このため、ウレア系増ちょう剤、二硫化モリブデン、及び 酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、サリシレートのカルシウム塩、フェネートのカルシウム塩、酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、サリシレートの過塩基性カルシウム塩、及びフェネートの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有する等速ジョイント用グリース組成物(特許文献1)や、さらにこれらの成分に加え、金属を含まない硫黄−リン系極圧剤、及びモリブデンジチオカーバメートを含有する等速ジョイント用グリース組成物(特許文献2)が提案されている。
また、基油、ジウレア系増ちょう剤、二硫化モリブデン、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、石油スルホン酸のカルシウム塩、硫黄−リン系極圧剤、及び植物性油脂を含有する等速ジョイント用組成物も提案されている(特許文献3)。
しかし、従来の等速ジョイント用グリース組成物は、その耐フレーキング特性は必ずしも十分とはいえない。
【0004】
【特許文献1】特開平9−194871
【特許文献2】特開平9−324189
【特許文献3】特開2006−96949
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、等速ジョイント用グリース組成物、特に従来の等速ジョイント用グリース組成物と比較して耐ジョイントフレーキング特性に優れたグリース組成物、及びこれを封入した等速ジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の等速ジョイント用グリース組成物にジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛を添加することにより、耐久性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記の等速ジョイント用グリース組成物及びこれを封入した等速ジョイントを提供するものである。
1.下記の成分を含有する等速ジョイント用グリース組成物。
(a)基油、
(b)次式で表されるジウレア系増ちょう剤、
1NH−CO−NH−C64−p−CH2−C64−p−NH−CO−NHR2
(R1及びR2は、炭素原子数8のアルキル基である)
(c)二硫化モリブデン
(d)次式で表される硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、
(R34N−CS−S)2−Mo2mn
(式中、R3、R4は独立して、炭素数1〜24のアルキル基を表し、mは0〜3、nは4〜1であり、m+n=4である。)
(e)石油スルホン酸のカルシウム塩、
(f)硫黄系極圧剤、
(g)ひまし油及びなたね油からなる群から選ばれる少なくとも1種の植物性油脂、及び
(h)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛。
2.全組成物中、ジウレア系増ちょう剤の含有量が1〜25質量%、二硫化モリブデン
の含有量が0.1〜5質量%、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量が0.1〜5質量%、石油スルホン酸のカルシウム塩の含有量が0.1〜5質量%、硫黄系極圧剤の含有量が0.1〜5質量%、植物性油脂の含有量が0.1〜5質量%及びジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の含有量が0.1〜5質量%である上記1記載の等速ジョイント用グリース組成物。
3.等速ジョイントが固定型等速ジョイントである上記1又は2記載の等速ジョイント用グリース組成物。
4.上記1〜3のいずれか1項記載の等速ジョイント用グリース組成物を封入した等速ジョイント。
【発明の効果】
【0007】
本発明の等速ジョイント用グリース組成物は、等速ジョイントの耐フレーキング特性を顕著に向上させ、等速ジョイントの寿命を顕著に延長することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の等速ジョイント用グリース組成物について詳述する。
本発明のグリース組成物は、下記成分(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)及び(h)を含有する。
(a)基油、
(b)次式で表されるジウレア系増ちょう剤、
1NH−CO−NH−C64−p−CH2−C64−p−NH−CO−NHR2
(R1及びR2は、炭素原子数8のアルキル基である)
(c)二硫化モリブデン
(d)次式で表される硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、
(R34N−CS−S)2−Mo2mn
(式中、R3、R4は独立して、炭素数1〜24のアルキル基を表し、mは0〜3、nは4〜1であり、m+n=4である。)
(e)石油スルホン酸のカルシウム塩、
(f)硫黄系極圧剤、
(g)ひまし油及びなたね油からなる群から選ばれる少なくとも1種の植物性油脂、及び
(h)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛。
【0009】
上記(a)成分の基油としては、鉱物油、エーテル系合成油、エステル系合成油及び炭化水素系合成油等の通常に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。コストの点から、鉱物油を用いるのが好ましく、また、鉱物油を主成分とし、これに合成油を混合した基油を用いるのが好ましい。
上記基油の100℃における動粘度は、好ましくは5〜30mm2/sであり、さらに好ましくは7〜20mm2/sである。5mm2/s未満では、等速ジョイント(CVJ)内で油膜を形成せず高速耐久性が不充分である傾向があり、30mm2/sを超えるとCVJ内の発熱のため高速耐久性が低下する傾向がある。
【0010】
上記(b)成分のジウレア系増ちょう剤は、ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとの反応により得られる。上記ジイソシアネートとアミンとを反応させる方法には特に制限はなく、従来公知の方法により実施することができる。
【0011】
上記(c)成分の二硫化モリブデンは、一般に極圧添加剤として広く用いられ、その潤滑機構としては、層状格子構造を持つことから、すべり運動下で薄層状に容易にせん断し、摩擦を低減させる他、ジョイントの焼き付き防止にも効果がある。種々の粒径の二硫化モリブデンが知られており、フィッシャー法として知られる、Fisher Sub-sieve sizerによる平均粒径で、0.25〜10μmの粒径を有するもの、特に0.55〜0.85μmの平均粒径を有するものが適している。
【0012】
上記(e)成分の石油スルホン酸のカルシウム塩は、エンジン油等の潤滑油に用いられる金属系清浄分散剤や防錆剤として知られている、潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分のスルホン化によって得られる。
【0013】
上記(f)成分の、硫黄系極圧剤として好ましいものは、ポリオレフィンサルファイドである。
上記(g)成分の植物性油脂としては、特にひまし油が好ましい。
【0014】
本発明の高面圧ボールタイプ等速ジョイント用グリース組成物において、等速ジョイント用グリース組成物の全質量に対して、(b)成分のジウレア系増ちょう剤の含有量は、好ましくは1〜25質量%、さらに好ましくは3〜15質量%、(c)成分の二硫化モリブデンの含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%、(d)成分の硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%、(e)成分のカルシウム塩の含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%、(f)成分の硫黄系極圧剤の含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%、(g)成分の植物性油脂の含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%、(h)成分のジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。
上記(b)成分のジウレア系増ちょう剤の含有量が1質量%未満であると、増ちょう効果が少なくなり、グリース化しにくくなり、25質量%を越えると、得られた組成物が硬くなりすぎ所期の効果が得られなくなる場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
上記(c)成分の二硫化モリブデンの含有量が0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になり、5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0015】
上記(d)成分の硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量が0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になり、5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
上記(e)成分のカルシウム塩の含有量が0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になり、5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
上記(f)成分の硫黄系極圧剤の含有量が0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になり、5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
上記(g)成分の植物性油脂の含有量が0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になり、5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
上記(h)成分のジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の含有量が0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になり、5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0016】
本発明の等速ジョイント用グリース組成物には、上記(a)〜(h)成分に加え、更に各種潤滑油やグリースに一般的に用いられている酸化防止剤、防錆剤、ポリマー添加剤を添加することができる。また、上記(c)、(d)、(e)、(f)及び(h)成分以外の極圧剤、摩擦緩和剤、耐摩耗剤及び固体潤滑剤等の添加剤を添加することができる。上記添加剤を含有させる場合、その含有量は、等速ジョイント用グリース組成物の全質量中、好ましくは0.1〜10質量%である。
【0017】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
実施例1
容器に基油440gとジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート58.9gをとり、混合物を70〜80℃に加熱した。別容器に基油440gとオクチルアミン61.1gをとり、70〜80℃に加熱後、先の容器に加え、よく攪拌しながら、30分間反応させた。その後攪拌しながら、160℃まで昇温し、放冷後、ベース脂肪族アミンジウレアグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合で、添加剤を添加し、適宜基油を加え、得られる混合物を、三段ロールミルにて、ちょう度No. 1 グレードに調整した。
グリースの基油として、以下の特性を有する鉱油を使用した。
粘度 40℃ 157 mm2/s
100℃ 14 mm2/s
粘度指数 88
【0018】
比較例1〜6
実施例1において、成分(c)を添加しなかった他は同様にして比較例1のグリースを調製した。
実施例1において、成分(d)を添加しなかった他は同様にして比較例2のグリースを調製した。
実施例1において、成分(e)を添加しなかった他は同様にして比較例3のグリースを調製した。
実施例1において、成分(f)を添加しなかった他は同様にして比較例4のグリースを調製した。
実施例1において、成分(g)を添加しなかった他は同様にして比較例5のグリースを調製した。
実施例1において、成分(h)を添加しなかった他は同様にして比較例6のグリースを調製した。
なお、表中に示す各成分は以下のとおりであり、表中の数字は質量%を示す。
硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(商品名:Molyvan A R.T.Vanderbilt社製)
石油スルホン酸のカルシウム塩(商品名:Nasul 729 KING INDUSTRIES)
硫黄系極圧剤 ポリオレフィンサルファイド(アングラモル33 日本ルーブリゾール社製)
植物性油脂 ひまし油
ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛 (Vanlube AZ R.T.Vanderbilt社製)
【0019】
上記等速ジョイント用グリース組成物につき、以下に示す試験方法で物性の評価を行った。
ジョイント耐久試験
下記条件にて実ジョイントでの台上耐久試験を行い、フレーキングの発生の有無を評価した。
試験条件
回転数:1500rpm
トルク: 200Nm
ジョイント角度:7°
運転時間:500h
ジョイントタイプ:固定型等速ボールジョイント
測定項目:500h運転後のジョイント各部フレーキング発生の有無
評価
○:フレーキング発生なし ×:フレーキング発生有り
【0020】
【表1】

【0021】
成分(c)〜(h)を含有する本発明の実施例1のグリース組成物は、成分(c)〜(h)のいずれか1成分を含まない比較例1〜6のグリース組成物と比較して耐フレーキング特性が顕著に向上していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含有する等速ジョイント用グリース組成物。
(a)基油、
(b)次式で表されるジウレア系増ちょう剤、
1NH−CO−NH−C64−p−CH2−C64−p−NH−CO−NHR2
(R1及びR2は、炭素原子数8のアルキル基である)
(c)二硫化モリブデン
(d)次式で表される硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、
(R34N−CS−S)2−Mo2mn
(式中、R3、R4は独立して、炭素数1〜24のアルキル基を表し、mは0〜3、nは4〜1であり、m+n=4である。)
(e)石油スルホン酸のカルシウム塩、
(f)硫黄系極圧剤、
(g)ひまし油及びなたね油からなる群から選ばれる少なくとも1種の植物性油脂、及び
(h)ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛。
【請求項2】
全組成物中、ジウレア系増ちょう剤の含有量が1〜25質量%、二硫化モリブデンの含有量が0.1〜5質量%、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量が0.1〜5質量%、石油スルホン酸のカルシウム塩の含有量が0.1〜5質量%、硫黄系極圧剤の含有量が0.1〜5質量%、植物性油脂の含有量が0.1〜5質量%及びジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛の含有量が0.1〜5質量%である請求項1記載の等速ジョイント用グリース組成物。
【請求項3】
固定型等速ジョイントである請求項1又は2記載の等速ジョイント用グリース組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の等速ジョイント用グリース組成物を封入した等速ジョイント。

【公開番号】特開2010−90243(P2010−90243A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260847(P2008−260847)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】