説明

筋交い及び耐震構造

【課題】塑性変形して長さが伸びても、塑性変形前の長さに戻ることが可能な筋交いを提供すること。
【解決手段】構造部材14の固定金具22、23に取り付けられる筋交い20であって、筒状部材30と、一端側が筒状部材30に挿入され軸方向中間部で且つ筒状部材30に挿入された部分に他の部分よりも引張りによる塑性変形が生じやすい塑性変形部46が構成され且つ塑性変形部46よりも一端側に第1雄ねじ部42が構成された棒状部材40と、筒状部材30に構成され第1雄ねじ部42と係合して棒状部材40の抜け出し方向への移動を阻止すると共に棒状部材40の挿入方向への移動を許容する第2雌ねじ部60と、棒状部材40の塑性変形部46よりも他端側に設けられ筒状部材30の他端部34Aに当接して棒状部材40の挿入方向への移動を阻止するストッパ部材50と、を備えることで塑性変形して長さが伸びても塑性変形前の長さに戻ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋交い、及びこの筋交いを備えた耐震構造に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一対の柱及び一対の梁で構築される矩形状の構造部材に筋交いを設けて、地震などによる構造部材の変形を抑える技術が種々提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、木造軸組みの筋交いを、棒状の筋交い本体と、筋交い本体の一端側に接続され振動吸収体として塑性変形可能な金属を用いた振動エネルギー吸収機構と、筋交い本体の他端側に接続された伸縮可能な長さ調整機構と、で構成している。この筋交いでは、地震時の揺れが振動エネルギー吸収機構で吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−171646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、地震時の揺れが大きい場合には、筋交いが塑性変形して矩形状の構造部材が菱形状に変形する。その後、構造部材が元の形状(矩形状)に戻っても塑性変形した筋交いの形状は初期の形状(初期状態)に戻らなくなる。特に、塑性変形により筋交いの長さが伸びた場合、それ以後の揺れに対して構造部材がある程度菱形状に変形するまで、すなわち、筋交いが初期状態より伸びた分伸びるまで、筋交いが構造部材の変形を抑える効果が発揮されなくなる。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、塑性変形して長さが伸びても、塑性変形前の長さに戻ることが可能な筋交い、及びこの筋交いを備える耐震構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の筋交いは、構造部材の第1の支持部に一端部が取り付けられ、前記構造部材の第2の支持部に他端部が取り付けられる筋交いであって、筒軸方向の一端部が前記第1の支持部に取り付けられる筒状部材と、軸方向の一端側が前記筒状部材に挿入され、軸方向の他端部が第2の支持部に取り付けられ、軸方向の中間部で且つ前記筒状部材に挿入された部分に他の部分よりも引張りによる塑性変形が生じやすい塑性変形部が構成され、且つ、前記塑性変形部よりも軸方向の一端側に第1の係合部が構成された棒状部材と、前記筒状部材に構成され、前記第1の係合部と係合して前記棒状部材の前記筒状部材からの抜け出し方向への移動を阻止すると共に前記棒状部材の前記筒状部材への挿入方向への移動を許容する第2の係合部と、前記棒状部材の前記塑性変形部よりも軸方向の他端側に設けられ、前記筒状部材の筒軸方向の他端部に当接して前記棒状部材の前記挿入方向への移動を阻止するストッパ部材と、を備えている。
【0008】
請求項1の筋交いでは、地震時の揺れなどで、第1の支持部と第2の支持部が互いに平行に相対移動する方向の力を受けて筋交いに圧縮力が作用した場合、筒状部材の筒軸方向の他端部が棒状部材に設けられたストッパ部材に当接して棒状部材の筒状部材への挿入方向への移動が阻止される。
【0009】
一方、地震時の揺れなどで、第1の支持部と第2の支持部が互いに平行に相対移動する方向の力を受けて筋交いに引張力が作用した場合、第2の係合部が第1の係合部と係合して、棒状部材の筒状部材からの抜け出し方向への移動が阻止される。
以上のことから、第1の支持部と第2の支持部が互いに平行に相対移動するのが抑制され、構造部材の変形が抑制される。
【0010】
ここで、筋交いに作用する引張力が所定値以上の場合には、棒状部材の中で最も引張りによる塑性変形が生じやすい塑性変形部が塑性変形して伸びる。このため、筋交いの長さが塑性変形前よりも長くなる。
【0011】
その後、第1の支持部と第2の支持部が元の位置へ戻り始めると、これにともなって筋交いに圧縮力が作用し、棒状部材が前記挿入方向へ移動する。このとき、塑性変形部は、圧縮力を受けて撓むが、撓み部分が筒状部材の内周面に当接して支持されるため、折れ曲がるなどの塑性変形が抑制される。
【0012】
そして、第1の支持部と第2の支持部が元の位置へ戻ると、筒状部材の筒軸方向の他端部が棒状部材に設けられたストッパ部材に当接して、棒状部材の前記挿入方向への移動が阻止される。これにより、塑性変形部が塑性変形して伸びた分が調整され、筋交いの長さが塑性変形前の長さに戻る。
【0013】
つまり、筋交いは、塑性変形して長さが伸びても、塑性変形前の長さに戻すことができる。
そして、再び、第1の支持部と第2の支持部が互いに平行に相対移動する方向の力を受けて筋交いに引張力が作用した場合、第2の係合部が第1の係合部と係合して、棒状部材の前記抜け出し方向への移動が阻止されることから、筋交いは、塑性変形前の長さに戻った後でも、塑性変形前と略同等の抵抗力を発揮して、第1の支持部と第2の支持部が互いに平行に相対移動するのを抑制することができる。
【0014】
請求項2の筋交いは、請求項1の筋交いにおいて、前記筒状部材の内周部には、前記筒状部材の径方向外側へ弾性変形可能とされた複数の板バネ部を環状に配置して構成された弾性リングを備え、前記第1の係合部は、前記棒状部材の外周面に形成された第1の雄ねじ部であり、前記第2の係合部は、前記弾性リングの内周面に形成され、前記第1の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部であり、前記弾性リングは、前記棒状部材の前記挿入方向への移動時には前記板バネ部が前記筒状部材の径方向外側へ弾性変形して内径が大きくなる。
【0015】
請求項2の筋交いでは、棒状部材の前記挿入方向への移動時には、板バネ部が筒状部材の径方向外側へ弾性変形して弾性リングの内径が大きくなることから、第1の雄ねじ部と雌ねじ部との螺合状態が解除されて、棒状部材の前記挿入方向への移動が許容される。
【0016】
一方、棒状部材の前記抜け出し方向への移動時には、板バネ部が筒状部材の径方向外側へ弾性変形しないため、弾性リングの内径が大きくならず、第1の雄ねじ部と雌ねじ部との螺合状態が維持され、棒状部材の前記抜け出し方向への移動が阻止される。
【0017】
つまり、請求項2の筋交いによれば、棒状部材の前記抜け出し方向への移動の阻止、及び、前記挿入方向への移動の許容を、棒状部材の外周面に形成された第1の雄ねじ部と弾性リングの内周面に形成された雌ねじ部という簡易な構成で達成することができる。
【0018】
請求項3の筋交いは、請求項1又は請求項2の筋交いにおいて、前記棒状部材は、他端側の外周面に第2の雄ねじ部が形成され、前記ストッパ部材は、筒状とされ、内周面に雌ねじ部が形成され、前記ストッパ部材の雌ねじ部が前記第2の雄ねじ部に螺合している。
【0019】
請求項3の筋交いでは、ストッパ部材を棒状部材に対して回すことで、ストッパ部材の位置を棒状部材の軸方向に沿って移動させることができる。すなわち、筒状部材の筒軸方向の他端部とストッパ部材とが当接する位置を調整することができる。これにより、筋交いの長さを自由に調整することができる。
【0020】
請求項4の筋交いは、請求項1〜3のいずれか1項の筋交いにおいて、前記塑性変形部の引張り強度が490MPa以上を満たす。
【0021】
請求項4の筋交いでは、塑性変形部の引張り強度が490MPa以上を満たすことで、第1の支持部と第2の支持部が互いに平行に相対移動するのを抑制する効果が向上する。
【0022】
請求項5の耐震構造は、第1の支持部と第2の支持部とを有する構造部材と、前記第1の支持部に一端部が取り付けられ、前記第2の支持部に他端部が取り付けられた請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の筋交いと、を備えている。
【0023】
請求項5の耐震構造では、塑性変形して長さが伸びても塑性変形前の長さに戻ることができる筋交いを構造部材に取り付けていることから、地震時の揺れに対する構造部材の変形が、常に効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の筋交いは、塑性変形して長さが伸びても、塑性変形前の長さに戻すことができる。また、本発明の耐震構造は、塑性変形して長さが伸びても塑性変形前の長さに戻すことができる筋交いを構造部材に取り付けていることから、地震時の揺れに対する構造部材の変形を常に効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る耐震構造を備えた建物の概略正面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る筋交い及び耐震構造を示す正面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る筋交いの組み立て図である。
【図4】第1実施形態の特殊ナットの側断面を示す断面図である。
【図5】第1実施形態の特殊ナットの弾性リングを示す平面図である。
【図6】第1実施形態の弾性リングの雌ねじ部に棒状部材の雄ねじ部が螺合している状態を示す、特殊ナット周囲の側断面図である。
【図7】第1実施形態の棒状部材を筒状部材に挿入し、筋交いの長さを設定した状態を示す、筋交いの側断面図である。
【図8】第1実施形態の筋交いに引張力が作用し、塑性変形部が塑性変形して筋交いの長さが伸びた状態を示す、筋交いの側断面図である。
【図9】第1実施形態の筋交いの長さが塑性変形前の長さに戻った状態を示す、筋交いの側断面図である。
【図10】その他の実施形態の筋交いの側断面図である。
【図11】(A)その他の実施形態の筋交いの側断面図である。 (B)スライド突起部が棒状部材の径方向内側にスライドする状態を示す、側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る筋交い20、及びこの筋交い20を備えた耐震構造10について図1〜図9を参照しながら説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の耐震構造10は、戸建ての建物12の洋室の壁や、和室の壁に収まるような厚みと幅を持った枠状の構造部材14と、この構造部材14を補強する筋交い20と、を備えている。
【0028】
図2に示すように、構造部材14は、平行に配置され垂直方向へ延びる一対の柱16と平行に配置され水平方向へ延びる一対の梁18を備えている。この柱16の上下端は、一対の梁18に接合金物(図示省略)によって固定されている。なお、建物12(図1参照)の一階の下側の梁18については、土台と呼ばれるが、本実施形態では、これらを一括して梁18と称する。
【0029】
また、構造部材14は、柱16及び梁18によって矩形状に構成されている。この構造部材14の対角となる一対の隅部には、平板を折り曲げて形成された固定金具22、23がそれぞれねじを用いて固定されている。なお、本実施形態では、固定金具22、23をねじ固定する構成としたが、固定金具22、23を固定することができれば、釘を用いて固定しても、ボルトを用いて固定してもよい。また、固定金具22は、第1の支持部の一例であり、固定金具23は、第2の支持部の一例である。
【0030】
図2に示すように、固定金具22には、筋交い20の一端部(後述する取付部32)が取り付けられ、固定金具23には、筋交い20の他端部(後述する取付部44)が取り付けられている。
【0031】
図3に示すように、筋交い20は、筒状部材30と、棒状部材40と、を備えている。
筒状部材30は、筒軸方向の一端側に固定金具22との取付部32を備えている。この取付部32は、固定金具22に回動自在に取り付けられている。具体的には、取付部32は、固定金具22に対して1組のボルト及びナットで一点止めされている。なお、ナットとボルトのゆるみ防止を考慮してナットをダブルナットとしてもよい。
【0032】
一方、筒状部材30は、筒軸方向の他端側に円筒部34を備えている。この円筒部34には、後述する棒状部材40の軸方向の一端側が挿入されている。
また、筒状部材30は、円筒部34の筒軸方向の一端部に設けられた特殊ナット36を備えている。なお、特殊ナット36の詳細については後述する。
【0033】
図3に示すように、棒状部材40は、軸方向の一端側に第1雄ねじ部42を備え、軸方向の他端側に固定金具23との取付部44を備えている。この取付部44は、固定金具23に回動自在に取り付けられている。具体的には、取付部44は、固定金具23に対して1組のボルト及びナットで一点止めされている。なお、ナットとボルトのゆるみ防止を考慮してナットをダブルナットとしてもよい。
【0034】
また、棒状部材40は、軸方向の中間部に、棒状部材40の他の部分よりも引張りによる塑性変形が生じやすい塑性変形部46を備えている。この塑性変形部46は、棒状部材40の他の部分よりも小径とされ、且つ、円筒部34よりも長さが短くされている(図7参照)。なお、本実施形態では、筒状部材30及び棒状部材40のどちらも金属材料で構成されている。また、塑性変形部46は、引張り強度が490MPaを満たす金属材料(例えば、高張力鋼)で構成されてもよい。
【0035】
さらに、棒状部材40は、塑性変形部46と取付部44との間に、第2雄ねじ部48を備えている。この第2雄ねじ部48には、ストッパ部材50が捩じ込まれている。
【0036】
このストッパ部材50は、筒状とされ、内周面に雌ねじ部51が形成されている。この雌ねじ部51が第2雄ねじ部48と螺合している。また、ストッパ部材50は、棒状部材40に対して回すことで、ストッパ部材50の位置を棒状部材40の軸方向に沿って移動させることができる。さらに、ストッパ部材50は、円筒部34の筒軸方向の他端部34Aに当接できるように外形が設定されている。なお、本実施形態では、ストップ部材として、一般的なナットを用いている。この構成により、専用ナットを用いるよりも筋交い20のコストを下げられる。
【0037】
次に、特殊ナット36について説明する。
図4に示すように、特殊ナット36は、筒状のナットボディー52と、ナットボディー52の内周側に設けられる弾性リング54と、弾性リング54の内周面に形成され、第1雄ねじ部42と螺合可能な雌ねじ部60と、を備えている。
【0038】
ナットボディー52は、外輪郭形状が六角形、すなわち、六角ナットと同様の形状とされ、内輪郭形状が円形とされている。このナットボディー52の内周面に円環状の弾性リング54が取り付けられている。
【0039】
図4及び図5に示すように、弾性リング54は、円環状のリング部56と、リング部56の端部56Aから内周側へ断面V字形上となるように折り曲げられた板バネ部58と、を備えている。この板バネ部58は、リング部56の周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では、4つ)形成され、それぞれがリング部56の径方向外側に弾性変形できるようになっている。また、複数の板バネ部58の内面によって弾性リング54の内周面は、構成されており、雌ねじ部60は、すべての板バネ部58の内面に跨って形成されている。
【0040】
また、特殊ナット36は、リング部56の端部56Aが筒軸方向の一端側となる向きで円筒部34に固定されている。これにより、棒状部材40の筒状部材30への挿入方向への移動時には、雌ねじ部60が第1雄ねじ部42によって押圧され、複数の板バネ部58が径方向外側に弾性変形して弾性リング54の内径が大きくなる。一方、棒状部材40の筒状部材30からの抜け出し方向への移動時には、雌ねじ部60が第1雄ねじ部42によって押圧されるが、複数の板バネ部58は径方向外側に弾性変形しないため、弾性リング54の内径が大きくならない。
【0041】
次に、筋交い20の組立手順について図に基づいて説明する。
図3に示すように、まず、筒状部材30の円筒部34に棒状部材40の一端側を挿入する。
【0042】
そして、棒状部材40の第1雄ねじ部42が特殊ナット36に到達し、さらに、棒状部材40が筒状部材30に挿入されると、雌ねじ部60が第1雄ねじ部42によって押圧されて複数の板バネ部58が径方向外側に弾性変形して弾性リング54の内径が大きくなる。このように弾性リング54の内径が大きくなると、第1雄ねじ部42が特殊ナット36の雌ねじ部60を乗り越え、棒状部材40の筒状部材30への挿入方向への移動が許容される。なお、棒状部材40の筒状部材30への挿入が完了した後は、第1雄ねじ部42と雌ねじ部60とが螺合した状態となる(図6参照)。このようにして筒状部材30と棒状部材40とが接続されて、筋交い20が組立てられる(図7参照)。
【0043】
一方、第1雄ねじ部42と雌ねじ部60とが螺合した状態で、棒状部材40を筒状部材30から引き抜こうとしても、複数の板バネ部58が径方向外側に弾性変形しないため、弾性リング54の内径が大きくならず、第1雄ねじ部42と雌ねじ部60との螺合状態を解除できない。このため、第1雄ねじ部42が雌ねじ部60に引っ掛かり、棒状部材40の筒状部材30への抜け出し方向への移動が阻止される。
【0044】
なお、特殊ナット36に対して棒状部材40を回すことで、筒状部材30と棒状部材40を相対的に移動させることができるため、筋交い20の長さLを調整することができる。
【0045】
次に、筋交い20を構造部材14に取り付ける手順について図に基づいて説明する。
図2に示すように、まず、構造部材14の対角となる一対の隅部にそれぞれ固定金具22、23を固定する。
【0046】
次に、上述の組立手順で組み立てた筋交い20の取付部32及び取付部44をそれぞれ対応する固定金具22、23に取り付ける。このとき、筋交い20が構造部材14の変形を抑制できるように、筋交い20の長さを調整する。長さ調整後、ストッパ部材50を棒状部材40に対して回し、棒状部材40の軸方向に沿って移動させて、筒状部材30の他端部34Aに当接させる。このようにして、構造部材14に筋交い20が取り付けられて耐震構造10が構成される。
【0047】
次に、本実施形態の耐震構造10及び筋交い20の作用効果について説明する。
なお、以下では、図7図示状態の筋交い20の長さをLとし、特殊ナット36から棒状部材40の軸方向の一端までの長さをL1として説明する。
【0048】
図2に示されるように、地震時の揺れなどで、一対の梁18が互いに平行に相対移動する方向の力(固定金具22と固定金具23が互いに平行に相対移動する方向の力)を受けて一対の固定金具22を介して筋交い20に圧縮力Cが作用した場合、筒状部材30の他端部34Aがストッパ部材50に当接して、棒状部材40の筒状部材30への挿入方向への移動が阻止される。
【0049】
一方、地震時の揺れなどで、一対の梁18が互いに平行に相対移動する方向の力を受けて一対の固定金具22を介して筋交い20に引張力Tが作用した場合、複数の板バネ部58が径方向外側に弾性変形しないため、弾性リング54の内径が大きくならず、第1雄ねじ部42が雌ねじ部60に引っ掛かり、棒状部材40の筒状部材30からの抜け出し方向への移動が阻止される。
これにより、一対の梁18が互いに平行に相対移動するのが抑制される。すなわち、構造部材14の変形が抑制される。
【0050】
ここで、筋交い20に作用する引張力Tが所定値以上の場合には、棒状部材40の中で最も引張りによる塑性変形が生じやすい塑性変形部46が塑性変形して伸び、筋交い20の長さLが塑性変形前よりも塑性変形部46の伸び分L2だけ長くなる(図8参照)。
【0051】
その後、一対の梁18が元の位置へ戻り始めると、これにともなって筋交い20に圧縮力Cが作用し、雌ねじ部60が第1雄ねじ部42によって押圧されて複数の板バネ部58が径方向外側に弾性変形して弾性リング54の内径が大きくなる。そして、第1雄ねじ部42が特殊ナット36の雌ねじ部60を乗り越え、棒状部材40は、棒状部材40の筒状部材30への挿入方向へ移動する。このとき、塑性変形部46は、圧縮力Cを受けて撓むが、撓み部分が筒状部材30の内周面に当接して支持されるため、折れ曲がるなどの塑性変形が抑制される。
【0052】
そして、一対の梁18が元の位置へ戻ると、筒状部材30の筒軸方向の他端部34Aが棒状部材40のストッパ部材50に当接して、棒状部材40の筒状部材30への挿入方向への移動が阻止される。このとき、図9に示すように、特殊ナット36から棒状部材40の軸方向の一端までの長さL1に塑性変形部46の伸び分L2が加えられている。このようにして、塑性変形部46が塑性変形して伸びた伸び分L2が調整され、筋交い20の長さLが塑性変形前の長さに戻る。
【0053】
つまり、筋交い20は、塑性変形して長さが伸びても、塑性変形前の長さに戻すことができる。そして、再び、一対の梁18が互いに平行に相対移動する方向の力を受けて筋交い20に引張力Tが作用した場合、複数の板バネ部58が径方向外側に弾性変形しないため、弾性リング54の内径が大きくならず、第1雄ねじ部42が雌ねじ部60に引っ掛かり、棒状部材40の筒状部材30からの抜け出し方向への移動が阻止される。これにより、筋交い20は、塑性変形前の長さに戻った後でも、塑性変形前と略同等の抵抗力を発揮して、一対の梁18が互いに平行に相対移動するのを抑制することができる。
【0054】
以上のことから、地震時の揺れに対して、筋交い20は、常に十分な抵抗力を発揮して、一対の梁18が互いに平行に相対移動するのを効果的に抑制することができるため、この筋交い20を構造部材14に取り付けて構成された耐震構造10は、構造部材14の変形が常に効果的に抑制される。
【0055】
また、ストッパ部材50は、棒状部材40に対して回すことで、ストッパ部材50の位置を棒状部材40の軸方向に沿って移動させることができる。すなわち、筒状部材30の他端部34Aとストッパ部材50とが当接する位置を調整することができる。これにより、筋交いの長さを自由に調整することができる。
一方、塑性変形部46の引張り強度が490MPa以上を満たすことで、一対の梁18が互いに平行に相対移動するのを抑制する効果が向上する。
【0056】
(その他の実施形態)
第1実施形態では、特殊ナット36の内周側に弾性リング54を配置する構成としているが、本発明はこれに限らず、円筒部34の内周側に弾性リング54を配置する構成としてもよい。このような構成とすることで、筒状部材30の構造を簡易なものとすることができる。また、図10に示すように、円筒部34の内周側に弾性リング70を配置する構成としてもよい。この弾性リング70は、内周面に雌ねじ部60の代わりに、断面形状が略逆三角形の突起72が軸方向に複数形成されている。なお、棒状部材40の第1雄ねじ部42も、弾性リング70の突起72に対応させた断面形状が略三角形の環状の突起74とすることが好ましい。
【0057】
また、上述の実施形態では、筒状部材30側に弾性力を有する部材(弾性リング54、70)を配置する構成としたが、本発明はこれに限らず、棒状部材40側に弾性力を有する部材を配置する構成としてもよい。例えば、図11(A)に示すように、円筒部34の内周面に断面形状が略逆三角形の環状の突起82を形成し、棒状部材40の外周面にスライド突起部84が出入りする凹部86を形成し、このスライド突起部84を突起82と係合する構成としてもよい。具体的には、スライド突起部84は、断面形状が略三角形とされ、凹部86との間に配設されたスプリング88によって棒状部材40の径方向外側へ付勢されている。また、図11(B)に示すように棒状部材40の筒状部材30への挿入方向への移動時には、スライド突起部84は、傾斜面84Aが突起82の傾斜面82Aから径方向内側への力を受け、スプリング88が弾性変形して棒状部材40の径方向内側へスライドする。なお、棒状部材40の筒状部材30への抜け出し方向への移動時には、スライド突起部84は、径方向内側への力を受けず、平坦面84Bが突起82の平坦面82Bに当接するため、棒状部材40の筒状部材30への抜け出し方向への移動が阻止される。
【0058】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0059】
10 耐震構造
14 構造部材
20 筋交い
22 固定金具(第1の支持部)
23 固定金具(第2の支持部)
30 筒状部材
34A 他端部
36 特殊ナット
40 棒状部材
42 第1雄ねじ部(第1の係合部)
46 塑性変形部
48 第2雄ねじ部
50 ストッパ部材
51 雌ねじ部
54 弾性リング
58 板バネ部
60 雌ねじ部(第2の係合部)
70 弾性リング
72 突起(第2の係合部)
74 突起(第1の係合部)
82 突起(第2の係合部)
84 スライド突起部(第1の係合部)
L 筋交いの長さ
L2 塑性変形部の伸び分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造部材の第1の支持部に一端部が取り付けられ、前記構造部材の第2の支持部に他端部が取り付けられる筋交いであって、
筒軸方向の一端部が前記第1の支持部に取り付けられる筒状部材と、
軸方向の一端側が前記筒状部材に挿入され、軸方向の他端部が第2の支持部に取り付けられ、軸方向の中間部で且つ前記筒状部材に挿入された部分に他の部分よりも引張りによる塑性変形が生じやすい塑性変形部が構成され、且つ、前記塑性変形部よりも軸方向の一端側に第1の係合部が構成された棒状部材と、
前記筒状部材に構成され、前記第1の係合部と係合して前記棒状部材の前記筒状部材からの抜け出し方向への移動を阻止すると共に前記棒状部材の前記筒状部材への挿入方向への移動を許容する第2の係合部と、
前記棒状部材の前記塑性変形部よりも軸方向の他端側に設けられ、前記筒状部材の筒軸方向の他端部に当接して前記棒状部材の前記挿入方向への移動を阻止するストッパ部材と、
を備える筋交い。
【請求項2】
前記筒状部材の内周部には、前記筒状部材の径方向外側へ弾性変形可能とされた複数の板バネ部を環状に配置して構成された弾性リングを備え、
前記第1の係合部は、前記棒状部材の外周面に形成された第1の雄ねじ部であり、
前記第2の係合部は、前記弾性リングの内周面に形成され、前記第1の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部であり、
前記弾性リングは、前記棒状部材の前記挿入方向への移動時には前記板バネ部が前記筒状部材の径方向外側へ弾性変形して内径が大きくなる請求項1に記載の筋交い。
【請求項3】
前記棒状部材は、他端側の外周面に第2の雄ねじ部が形成され、
前記ストッパ部材は、筒状とされ、内周面に雌ねじ部が形成され、
前記ストッパ部材の雌ねじ部が前記第2の雄ねじ部に螺合している請求項1又は請求項2に記載の筋交い。
【請求項4】
前記塑性変形部の引張り強度が490MPa以上を満たす請求項1〜3のいずれか1項に記載の筋交い。
【請求項5】
第1の支持部と第2の支持部とを有する構造部材と、
前記第1の支持部に一端部が取り付けられ、前記第2の支持部に他端部が取り付けられた請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の筋交いと、
を備える耐震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−202366(P2011−202366A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68167(P2010−68167)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】