説明

籾殻ガス化残渣の循環利用システム

【課題】籾殻から熱分解処理によってエネルギーを回収し、その後に残るガス化残渣の有効活用手段を開発し、水田地帯で完結する籾殻ガス化残渣の循環利用システムを提供すること。
【解決手段】籾殻を熱分解処理して、分解ガスとガス化残渣を得るガス化炉16と、分解ガスを電気、熱又は液体燃料等のエネルギー源に転換するエネルギー転換設備であるガスエンジン発電機18と、ガス化残渣の粒径を整える粒度調整設備である粉砕機22と分級機24を具えた籾殻ガス化残渣循環利用システム10を用いる。そのシステムが、穀物の協同乾燥施設であるカントリーエレベーター12と併設、又は、隣接され、エネルギー転換設備で得られる電気、及び/又は、熱エネルギーを、システムの設備、及び/又は、共同乾燥施設で利用する一方、ガス化残渣を、水稲用農薬の吸着剤として潅水後の水田へ散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、籾殻を熱分解処理してガス化してエネルギー回収すると共に、ガスを回収した後に残るガス化残渣も活用する、籾殻ガス化残渣の循環利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
籾殻は、今日その利用が盛んに行なわれるようになった、所謂バイオマスの一種である。ここで、バイオマスとは、原料、燃料として利用することのできる生物起源の有機物であり、樹木、草、海草、農産廃棄物、林産廃棄物、動物の糞尿、生ゴミ等が含まれる。
地球温暖化、或いは、化石資源の枯渇を背景に、各地域に存在するバイオマスのエネルギー利用に係わる技術開発が活発になっている。中でも、バイオマスが一箇所に多量に存在しているのではなく、薄く広く分布しているという状況から、小規模でもエネルギー回収効率が極めて高い熱分解技術、例えば、ガス化発電や分解ガスからのメタノール合成技術が注目されている。
【0003】
又、近年では、バイオマスの効率的な利活用手段として熱分解によって得られるガスを利用するだけでなく、ガスを回収した後に残るガス化残渣についても利用方法が検討されている。
【0004】
例えば、特開2006−191876号公報では、木質系バイオマスを熱分解処理して分解ガスを生成させ、この分解ガスを燃焼させることで熱あるいは電気エネルギーを回収する一方、熱分解処理時に分解ガスと同時に生成する炭化物から土壌改良剤を製造し、発生させた熱あるいは電気エネルギーと共に、野菜などを栽培する施設園芸用設備内で利用するバイオマス利活用システムが開示されている。
【特許文献1】特開2006−191876号公報
【0005】
又、特開2004−339360号公報では、粗破砕した木質系バイオマス原料を、300〜600℃の温度で熱分解処理して熱分解ガスと共に多孔質炭化物を得て、その多孔質炭化物を粉砕、粒度調整して固体燃料、活性炭等に利用する手段が開示されている。
【特許文献2】特開2004−339360号公報
【0006】
ところで、バイオマスの一つとして稲作由来の籾殻がある。稲は一年草の作物で木材に比べ生産サイクルが早いうえに栽培量がほぼ安定しているため、米を収穫した後の非食部である籾殻は発生量が安定したバイオマスといえる。特に、籾殻は共同乾燥施設で発生している場合が多く、他のバイオマスに比べ、一箇所に集める手間がかからないことから、前記ガス化発電や分解ガスからのメタノール合成用としても利用しやすい材料である。
もっとも、稲は成長過程でケイ酸を多量に吸収する禾本科植物であり、木質系バイオマスに比べて、籾殻はケイ酸を多く含むため、熱分解処理後の残渣、即ち、炭化物あるいは灰の量も多いという問題を持っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
籾殻の利活用システムの構築を考えた場合、特許文献1の発明は、残渣の利用場所が狭く限られた施設園芸用設備をその対象としており、熱分解処理後の残渣発生量が多いと、土壌改良剤として施設内土壌に投入して消費するには量的な限界がある。
又、籾殻は原料としては見かけ比重が0.1前後と小さい上、施設園芸用設備に収集し、ストックすることは経済性が悪く、施設園芸用設備のエネルギー源として利用したのでは最適な活用システムを構築することは難しい。
【0008】
又、特許文献2は、熱分解処理後の残渣の用途を紹介したに過ぎず、仮に、籾殻から得られた残渣を粒度調整して固体燃料、活性炭にしたとしても、具体的な活用場面が提示されておらず、それらの全量を消費できることを提案したものではない。
さらに、籾殻から得られた残渣は、灰分が極めて多いためエネルギー価値が低く、そもそも燃料として利用することは困難である。
【0009】
以上のように、籾殻、特に共同乾燥施設で発生し集積している籾殻はエネルギー利用しやすいバイオマスであるが、経済的にも実施可能な利活用システムの提案はなされていない。
【0010】
上記のような問題点に鑑み、本発明は、ケイ酸を多く含む籾殻から熱分解処理によってエネルギーを回収した後に残るガス化残渣の有効活用手段を開発し、水田地帯で完結する籾殻ガス化残渣の循環利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、先に特開2004−115430号公報及び特開2006−158346号公報に開示するように、籾殻炭化物の農薬の吸着作用を利用した水稲用農薬の系外流出防止システム及び、そのシステムを利用した水稲の栽培方法を提案している。今回、農薬の吸着という視点から、初めて、籾殻ガス化残渣の物性及び吸着特性を明らかにし、鋭意検討を重ねた結果、籾殻ガス化残渣が前記水稲用農薬の系外流出防止システム、及び、そのシステムを利用した水稲の栽培方法に利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、籾殻を熱分解処理して、分解ガスとガス化残渣を得るガス化炉と、前記分解ガスを電気、熱又は液体燃料等のエネルギー源に転換するエネルギー転換設備と、前記ガス化残渣の粒径を整える粒度調整設備とを具えたシステムであって、粒度調整された前記ガス化残渣を、水稲用農薬の吸着剤として潅水後の水田へ散布することを特徴とする籾殻ガス化残渣の循環利用システムにより前記課題を解決した。
【0013】
又、本発明は、籾殻を熱分解処理して、分解ガスとガス化残渣を得るガス化炉と、前記分解ガスを電気、熱又は液体燃料等のエネルギー源に転換するエネルギー転換設備と、前記ガス化残渣の粒径を整える粒度調整設備とを具えたシステムであって、該システムが、穀物の共同乾燥施設と併設、又は、隣接され、前記エネルギー転換設備で得られる電気、及び/又は、熱エネルギーを、前記システムの設備、及び/又は、前記共同乾燥施設で利用する一方、粒度調整された前記ガス化残渣を、水稲用農薬の吸着剤として潅水後の水田へ散布することを特徴とする籾殻ガス化残渣の循環利用システムにより前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0014】
上記の本発明によれば、小規模でもエネルギー回収効率が極めて高い熱分解技術、例えば、ガス化発電や分解ガスからのメタノール合成技術の原料として籾殻を利用し、水田地帯で利用可能な効率的なエネルギー利用システムが構築できるだけでなく、それに伴って発生する多量のガス化残渣を、水田用農薬の系外流出防止用の資材として活用することによって、籾殻を発生場所である水田に戻すという最良の物質循環を実施する作業を通して、河川の生態系保全に貢献できる。又、本発明の実施により、地球温暖化あるいは化石資源の枯渇に対応し、且つ、水環境の保全にも貢献する、付加価値の高い環境保全型の米の生産が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の各構成要素につき説明する。
【0016】
請求項1及び2のガス化炉は、固定床、砂等の流動床、又はロータリーキルン型の間接加熱方式の炉で構成される。
特に、ガス化残渣が飛散し難い固形物で回収できる固定床のガス化炉が好ましい。
【0017】
請求項1及び2のエネルギー転換設備は、発生したガスを燃料とするガスエンジン発電機、ディーゼルエンジン発電機または廃熱ボイラを使用した蒸気タービン発電機等で構成される。これにより電気の供給が可能となり、さらに、ガス化炉の廃熱や分解ガスを燃焼させて得られる熱を直接利用したり、ボイラにより温水又は水蒸気等の熱エネルギーとして供給することも出来る。
又、エネルギー転換設備が、熱分ガス中の一酸化炭素と水素を原料とするメタノール合成設備であってもよい。
なお、エネルギー変換設備によって得られる電気あるいは熱エネルギーは、本発明のシステムを構成する設備を稼動させるための動力だけでなく、周辺の公共施設或いは、ハウス等の農業施設で使用する冷暖房用のエネルギーとして利用できることは当然である。
【0018】
請求項1及び2のガス化残渣は、ケイ酸の吸収量が多い禾本系植物を燃料としているため、未燃のカーボンを含むケイ酸主体の無機物であり、特に、本発明では未燃のカーボン量の割合が30%以下、BET比表面積が100cm2/g以
上の物を使用する。
【0019】
請求項2の共同乾燥施設は、穀物を共同で乾燥・調整し貯蔵するためのカントリーエレベータやライスセンター等であり、エネルギー変換設備から得られる電気エネルギーは、その施設で使用される電動機や照明等に使用し、熱エネルギーは穀物の乾燥に使用することで、エネルギー効率の高いシステムとなる。
【0020】
請求項3の粒度調整装置は、粉砕又は造粒手段の他に分級手段を備え、前記ガス化残渣の粒度調整が、前記粉砕又は造粒手段によって粒状化し、次いで、分級手段によって積極的に約1.2mm以下の粒子を除去するものである。約1.2mm以下の粒子を除去することで、水稲用農薬、特に除草剤の効果を低下させることなく、農薬の系外への流出防止を達成することが可能となる。
一方、分級によって除かれる約1.2mm以下のガス化残渣についても、植物の成長に必要なケイ酸及びカリウム等の成分を多く含むため、田植えあるいは直播前の水田土壌に鋤き込んだり、水稲用育苗培土に混合することで、ガス化残渣の全量を水田で利用することが可能である。このため、ガス化残渣の余剰分が生じることはない。
【0021】
請求項4の籾殻は、成形手段によって固形化されている。籾殻の固形化は、籾殻のエネルギー密度を高めるだけでなく、輸送や貯蔵効率を高める働きも持つ。 特に、本発明のエネルギー変換設備から離れた場所で発生する籾殻を成形し貯蔵することで、経済的に利用可能な籾殻の供給範囲が広がり、又、前記エネルギー変換設備に付属する籾殻貯蔵庫を最小限のスペースにすることが可能となる。
【0022】
請求項5の水稲用農薬には除草剤、水溶性の殺菌剤及び水溶性の殺虫剤が挙げられる。
ここで、本発明のガス化残渣による水稲用農薬の系外流出防止メカニズムを説明すると、例えば、多くの除草剤は水田に散布されると、一旦、田面水中に溶け出すが、速やかに水田表層土に吸着され除草効果を有する処理層を形成する。ところが、除草剤の全てが表層土に吸着されるわけではなく、表層土に対する吸着平衡により一定量の除草剤は田面水に溶解し続け、不適切な水管理や大量の降雨等により河川に流出する。水田から河川に流出した除草剤は、河川流域の動植物に影響を与え、河川の生態系を破壊する危険を持っている。
これに対し本発明のガス化残渣は、除草効果を有する処理層上に点在するように散布することで、田面水中に溶けている除草剤を吸着し、田面水中の除草剤濃度を下げることで河川に流出する農薬量を押える作用を持つ。又、結果的に田面水中に溶け出す除草剤を前記処理層上に留めることから、除草剤の使用量を半減しても同等の除草効果が得られる。
【0023】
さらに、殺菌剤及び殺虫剤は田植え後の稲の成長過程で葉面上に散布されるが、これらの農薬についても葉面上に付着せず田面水上に落下して溶け出すものがあり、河川に流出する危険性持っている。
本発明の籾殻ガス化残渣は、除草剤散布と同時あるいは散布後に1回施用することで、田面水中の除草剤だけでなく、遅れて散布され田面水に落下し溶け出した殺菌剤及び殺虫剤についても吸着し、田面水中のこれらの農薬濃度を低下させ、河川への流出を抑制する。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
図1に、籾殻を原料とした、本発明の籾殻ガス化残渣の循環利用システム10のモデル図を示す。
本実施例は、カントリーエレベータ12に隣接させた籾殻ガス化残渣の循環利用システム10で、籾殻成形機14、エネルギー変換設備として固定床ガス炉16、ガスエンジン発電機18、廃熱ボイラ20、ガス化残渣破砕機22、及び、振動篩式分級機24を主要構成要素とする。
【0026】
水田から収穫された籾30は、カントリーエレベータ12に運ばれ、乾燥された後にサイロに貯蔵される。貯蔵された籾30は定期的に籾摺りされ、市場に流通する玄米と、副産物としてカントリーエレベータ12に残る籾殻32に分けられる。籾殻32は、籾殻成形機14に運ばれ、圧縮密度約1.2g/cm3、直径50mm程度、長さ10〜50mm程度のコイル状の成形品とする。成形品は固定床ガス化炉16の上部ホッパーから投入し、上部から下部方向に移動する過程で熱分解し、可燃性ガスの水素、一酸化炭素、メタン等を生成させ、同時に発生するガス化残渣は炉の下部より排出される。熱分解ガスは、エネルギー変換設備を構成するガスエンジン発電機18で電気エネルギーに変えられ、カントリーエレベータ12、籾殻成形機14、固定床ガス化炉16、廃熱ボイラ20、ガス化残渣破砕機22、振動篩式分級機24等、本発明の設備の動力、制御、或いは照明用の電源として利用し、余剰電力は周辺の公共施設、農業施設に供給する。又、ガスエンジン発電機18から出る熱は、廃熱ボイラ20で熱交換し水蒸気を生成させ、カントリーエレベータ12での籾の乾燥、及び周辺の公共施設、農業用ハウス等の空調用の熱源として利用する。
【0027】
一方、固定床ガス化炉16の下部から排出されるガス化残渣は、ガス化残渣破砕機22と振動篩式分級機24を組み合せることで、最終的に1.2mmより大きく5mm以下の粒子径、好ましくは1.2mmより大きく2.5mm以下の粒子径に粒度調整する。なお、このようにして得られたガス化残渣は、固定床ガス化炉16の形状及び運転条件によって、その比表面積、ケイ酸及び未燃カーボンの量等が変化するが、概ね、下記の表1に示すような性状となる。ここで、従来の成形籾殻の炭化では、比表面積140〜150m2/gの炭化物が得られるが、この値ですら窒素雰囲気下、一定の温度処理で得られる最高レベルの値である。一方、ガス化残渣について分析した結果、比表面積が170〜240m2/gと非常に高いこと、炭化に比べて炭素分が極めて少なく、ケイ酸の割合が高いこと(表1)、更に、細孔直径40Å付近の細孔容量が炭化に比べ大きいこと(図7)
等、籾殻ガス化残渣が、従来の籾殻成形炭とは異なる物性を有するものであった。
【0028】
【表1】

【0029】
粒度調整されたガス化残渣は、フレコンバッグに貯蔵しておき、水稲用農薬の系外への流出を防止する資材として、田植え後の除草剤散布の翌日に水田用乗用管理機等を用いて散布する。ガス化残渣の散布量は、除草剤を慣行量散布した際の田面水中の農薬濃度を半分程度に低減できる量が好適であり、概ね、ガス化残渣の総比表面積が10a当たり約7,000,000m2程度となる散布量が目
安となる。例えば、粒度調整したガス化残渣のBET比表面積が200m2/g
の場合、散布量は10a当たり35kgとなる。この時、ガス化残渣の散布量が多すぎると田面水中の農薬濃度が目標の50%を大幅に下回り、農薬と水田土壌との間の吸着平衡が崩れ、水田表層土上に形成される薬剤処理層の農薬濃度が低くなるため、除草効果を低下させる危険性がある。又、散布量が少なすぎると農薬の吸着量が少なく、田面水中の農薬濃度が目標の半分を大幅に上回るようになるため、農薬濃度の高い田面水が河川へ流出する危険性を持つ事になる。
【0030】
散布の仕方としては、ガス化残渣を水田表層土上に形成された薬剤処理層の上に点在するように散布する。これにより除草剤の効果が低下することなく、田面水中の農薬濃度を下げることが可能となり、仮に田面水が河川に流出しても、河川の生態系に及ぼす影響が小さくなる。
【0031】
図2(a)及び(b)は、水田表層土上に形成された薬剤処理層の上に散布したガス化残渣と、除草効果の関係を示したイメージ図である。
【0032】
図2(a)は、粒子径が1.2mm以下の粉粒体のガス化残渣を散布した場合を表している。薬剤処理層の上に散布されたガス化残渣は、粒子が細かく重量当りの粒子個数が多いため、粒子間が狭くなり薬剤処理層を膜状に覆うように分散するが、この場合、ガス化残渣の薬剤吸着能力が高いために、田面水中の薬剤だけでなく、ガス化残渣粒子の直下の薬剤処理層の農薬も吸着され、薬剤処理層の田面水側に農薬濃度が低い部分が形成されるため、防除対象の雑草が薬剤処理層に接触しても薬剤処理が不十分となり除草効果が低下する危険性がある。
【0033】
一方、図2(b)は、粒子径が1.2mmより大きい粒状のガス化残渣を散布した場合を表しており、散布されたガス化残渣は、粉粒体に比べ重量当たりの粒子個数が少ないため、粒子間が広くなり薬剤処理層の上に点在するように分散する。この場合もガス化残渣粒子の直下の薬剤処理層の農薬濃度を低下させる可能性はあるが、薬剤処理層の農薬濃度の低い部分は点在して形成され、大部分の薬剤処理層は影響を受けないため、薬剤処理の不十分な雑草が出現する確立が極めて少なくなる。
又、ガス化残渣は、密度の高い籾殻成形品を原料として得られるため、残渣自体の比重が重くなり、雨や潅水で水田から田面水が流れ出ても、ガス化残渣は流されることなく水田表層土上に留まる。そのため、稲の成長過程で葉面散布される殺菌剤あるいは殺菌剤は、田面水に落下すると溶け出すものもあるが、ガス化残渣は、引き続きこれらの農薬についても吸着し、田面水中の濃度を下げ河川流出を防止する働きも持つ。
【0034】
以下、本発明の効果を確認するために行なった比較試験結果につき説明する。
【0035】
まず、籾殻成形品を原料とし、固定床ガス化炉から回収したBET比表面積約235m2/gのガス化残渣を粉砕、分級し、粒子径0.3mm以上1.2mm
以下の小粒品(以下、「吸着剤S」と称する。)、粒子径1.2mmより大きく2.5mm以下の中粒品(以下、「吸着剤M」と称する。)、粒子径2.5mmより大きく5mm以下の大粒品(以下、「吸着剤L」と称する。)を得た。
【0036】
そして、比較試験1として、田植え後の試験水田土壌に調査用の雑草種子を入れた後に、除草剤としてプレチラクロール1キロ粒剤を慣行量散布した区域(以下、「P1」と称する。)及び半量を散布した区域(以下、「P1/2」と称する。)を設けた。除草剤散布24時間後に、吸着剤Sまたは吸着剤Lを、それぞれ30kg(総比表面積7,050,000m2)/10a相当になる様に散布
し、比較区域としてP1−S(「P1に吸着剤Sを散布」したことを意味し、以下の表示も同様とする。)、P1/2−S、P1−L、及びP1/2−L、吸着剤S及びLを散布しない対照区域としてP1及びP1/2を設けた。この時、吸着剤Sを散布した区域は粒子間隔が緻密で薬剤処理層を覆うような分散状態で、吸着剤Lを散布した区域は薬剤処理層上を点在するような分散状態であった。
【0037】
除草剤散布後からの田面水中の農薬成分プレチラクロール(以下、「PTC」と称する。)の濃度の経時変化、及び雑草の発生状況、及び稲への影響の有無を調査した。なお、各比較試験は2反復ずつ行い、除草剤及び吸着剤の両方を散布しない無処理区域を設けた。ここで、「試験を2反復ずつ行なう」とは、試験結果の信頼性をより高めるために、一つの試験条件について試験区画を2つ設けて試験を行なうということを意味する。
又、除草剤処理時湛水深約5cm、除草剤処理時の減水深0.5cm以下/日、除草剤処理後は適宜給水して3〜5cmの水深を維持した。その結果を表2、図3に示す。図3は、比較試験1のPTCの濃度変化を示す図である。
【0038】
【表2】

【0039】
表2の「N.T.」は「Not Treatment」の略であり、除草剤も吸着剤も散布していない無処理区を示す。
又、「C.W.」は「Control Weed」の略であり、「手で除草して管理した」ことを示す。除草剤も吸着剤も散布しないところは無処理区と同様であるが、発生した雑草を手で抜きながら管理したところが異なる。これは、除草剤を散布していないと雑草が生えるが、この場合、稲の正常な成長状況が分からなくなるため、手で雑草を取り除き、稲の正常な生育を確認できるようにしたものである。
【0040】
図3に示すように、吸着剤Sを散布した区域(P1/2−S)では、対照区域(P1/2)に比べて田面水中のPTC濃度が大幅に低下し、一方、雑草の発生状況の調査では、表2に示すように、吸着剤を投入しなかった無処理区域に比べてコナギ及びイヌホタルイの残草量が明らかに多くなり、除草効果が低下した。 吸着剤Lを散布した区(P1/2−L)では、除草効果の低下は見られなかっ
たが、田面水中のPTC濃度が対照区域(P1/2)に比べて余り下がっておらず、農薬の河川流出防止効果が低いものであった。
【0041】
次に、比較試験2として、田植え後の試験水田土壌に調査用の雑草種子を入れた後に、除草剤としてシェリフ1キロ粒剤(S)を慣行量散布した区域(以下、「S1」と称する。)及び半量を散布した区域(以下、「S1/2」と称する。)を設けた。除草剤散布24時間後に、吸着剤Mを、30kg(総比表面積7,050,00m2)/10a相当になる様に散布し、比較区域としてS1−M及びS1/2−M、吸着剤Mを散布しない対照区域としてS1及びS1/2を設けた。この時、吸着剤Mを散布した区域は薬剤処理層上を点在するような分散状態であった。
【0042】
除草剤散布後からの田面水中の農薬成分であるPTC、イマゾスルフロン(以下、「IMS」と称する。)及びジメタメトリン(以下、「DIM」と称する。)の濃度の経時変化、及び雑草の発生状況、及び稲への影響の有無を調査した。なお、各試験は、比較試験1と同様に2反復ずつ行い、除草剤及び吸着剤の両方を散布しない無処理区域を設けた。また、除草剤処理時湛水深約5cm、除草剤処理時の減水深0.5cm以下/日、除草剤処理後は適宜給水して3〜5cmの水深を維持した。その結果を表3、及び、図4、5、6に示す。図4は比較試験2のPTCの濃度変化を示す図、図5は比較試験2のIMSの濃度変化を示す図、図6は比較試験2のDIMの濃度変化を示す図である。
【0043】
【表3】

【0044】
表3、及び、図4、5、6に示すように、吸着剤Mを散布した区域(P1/2−M)は、除草効果の低下が見られず、更に、田面水中のPTC、IMS及びDIMの濃度は、常に対照区(P1/2)の半分程度に維持されており、田面水が河川に流出しても河川生態系への影響が小さいことが分かる。
【0045】
さらに、比較試験3として、試験水田3区画について田植え後7日目に除草剤シェリフ1キロ粒剤を慣行量の1/2を散布した。24時間後に、その内の1区画に本発明のガス化残渣(BET比表面積166m2/g)からなる吸着剤を30Kg/10a相当を散布した。続いて、吸着剤の無施用区を含む3区画全てに、吸着剤散布後から37日目に稲紋枯れ病殺菌剤モンカット(有効成分:フルトラニル)の慣行量を葉面散布した。
【0046】
モンカット散布から1日、3日、5日、7日、及び10日後に田面水中のフルトラニル濃度を分析した比較試験3の結果を図8に示す。
なお、結果には示さないが、ガス化残渣からなる吸着剤を散布した試験水田は、除草剤濃度が吸着剤無施用区の半分程度に抑えられていた。
図8から、葉面散布した殺菌剤が田面水に溶け出していることが分かる。また、本発明の吸着剤を散布した区画では、常に田面水中のフルトラニル濃度が低く抑えられていた。このことから、本発明のガス化残渣は、1回の散布で除草剤散布後に稲の生育過程で使用される殺菌剤等の農薬も吸着して田面水中の濃度を下げるため、仮に田面水が河川に流出した場合も河川生態系への影響が小さい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、ケイ酸を多く含む籾殻を原料とするエネルギー変換設備、例えば、ガス化発電や分解ガスからのメタノール合成を行う設備において、有用に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】籾殻ガス化残渣の循環利用システム10のモデル図。
【図2】(a)及び(b)は水田表層土上に形成された薬剤処理層の上に散布したガス化残渣と、除草効果の関係を示したイメージ図。
【図3】比較試験1のPTCの濃度変化を示す図。
【図4】比較試験2のPTCの濃度変化を示す図。
【図5】比較試験2のIMSの濃度変化を示す図。
【図6】比較試験2のDIMの濃度変化を示す図。
【図7】本発明のガス化残渣と籾殻成形炭の細孔分布を示す図。
【図8】比較試験3のフルトラニルの濃度変化を示す図。
【符号の説明】
【0049】
12:カントリーエレベーター(共同乾燥施設)
16:ガス化炉
18:ガスエンジン発動機(エネルギー転換設備)
22:粉砕機(粒度調整施設)
24:分級機(粒度調整施設)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
籾殻を熱分解処理して、分解ガスとガス化残渣を得るガス化炉と、
前記分解ガスを電気、熱又は液体燃料等のエネルギー源に転換するエネルギー転換設備と、
前記ガス化残渣の粒径を整える粒度調整設備とを具えたシステムであって、
粒度調整された前記ガス化残渣を、水稲用農薬の吸着剤として潅水後の水田へ散布することを特徴とする、
籾殻ガス化残渣の循環利用システム。
【請求項2】
籾殻を熱分解処理して、分解ガスとガス化残渣を得るガス化炉と、
前記分解ガスを電気、熱又は液体燃料等のエネルギー源に転換するエネルギー転換設備と、
前記ガス化残渣の粒径を整える粒度調整設備とを具えたシステムであって、
該システムが、穀物の共同乾燥施設と併設、又は、隣接され、前記エネルギー転換設備で得られる電気、及び/又は、熱エネルギーを、前記システムの設備、及び/又は、前記共同乾燥施設で利用する一方、
粒度調整された前記ガス化残渣を、水稲用農薬の吸着剤として潅水後の水田へ散布することを特徴とする、
籾殻ガス化残渣の循環利用システム。
【請求項3】
前記粒度調整設備が、粉砕又は造粒手段の他に分級手段を具え、該粉砕又は造粒手段により前記ガス化残渣を粒状化し、次いで、分級手段によって約1.2m
m以下の粒子を除去する、請求項1又は2の籾殻ガス化残渣の循環利用システム。
【請求項4】
前記籾殻が、成形手段によって固形化される、請求項1又は2の籾殻ガス化残渣の循環利用システム。
【請求項5】
前記水稲用農薬が、除草剤、水溶性の殺菌剤及び、水溶性の殺虫剤のうちの、少なくとも1つである、請求項1から4のいずれかの籾殻ガス化残渣の循環利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−23965(P2009−23965A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189817(P2007−189817)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(599126316)株式会社欣膳 (2)
【出願人】(000154901)株式会社北川鉄工所 (63)
【出願人】(598064451)
【Fターム(参考)】