説明

籾殻成形体の製造方法

【課題】少量の接着剤で充分な強度を有する籾殻成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】籾殻と水とポリビニルアルコールとの混合物を加熱してなる塊状物を砕いて粉粒体となし、あるいは、湿潤された籾殻を攪拌しつつポリビニルアルコールの粉末とポリビニルアルコールより吸水率の低い素材からなる微粉末との混合物を投入、攪拌中に乾燥して粉粒体となし、表面にポリビニルアルコールが付着された籾殻の粒子を含む粉粒体となし、この粉粒体を型に充填して造形体となし、造形体に水または水蒸気を送り込んで籾殻の粒子の表面に付着させたポリビニルアルコールを水溶液化し、次いでゲル化し乾燥する籾殻成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、籾殻をバインダで固着し成形した籾殻成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒状物の粒子同士が接着剤を介して結合されてなる成形体としてはパーティクルボードなどが知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
このような成形体においては、かさだかな成形体、すなわち、粒子間にある程度空隙が確保された成形体を得ようとすると接着剤の量を少なくする必要があり、この場合はそのために成形体は充分な強度が得られない。また、構造が密な成形体においても、接着剤の量を少なくすると成形体中の接着剤の分布の不均一さに起因して、充分な強度が得られない。
【0004】
一方、成形体用の粒状物としては、籾殻のような副産物の利用が考えられる。籾殻はそれ自体もかさだかであり、防音性や衝撃エネルギー吸収性能を要求される自動車用部材として、多孔質の成形体を得るうえで好適と考えられる。さらに、自動車用部材として籾殻を用いることは、地球環境の保護に寄与するところが大である。
【0005】
籾殻を接着剤で固化してなる成形体に関しては、籾殻に水を噴射して表面を濡らした後、小麦粉、米粉、ゴムパウダーなどの接着剤となる植物性接着剤粉を散布し、次いで水を噴射して植物性接着剤粉を液状化してから、撹拌機で撹拌混合し、次いでこの籾殻を加圧してブロックに成型した後、このブロックを加熱乾燥して接着剤を固化させて、籾殻の繊維方向を横方向に揃えた断熱緩衝材を形成することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法においては、液状化された接着剤が加熱乾燥の際にマイグレーションにより成形体の表面など高温がわに移行する傾向があり、均一な接着構造が得られないおそれがある。また、未粉砕の籾殻の集合体はかさだか過ぎて強度不足となるおそれがある。
【0006】
さらに、籾殻に破砕を加えることなく接着剤その他の固化材料を添加し、撹拌した上で、固化材料が硬化する以前に型へ入れて40〜70%の容量に圧縮し、その状態に保持して材料の固化を待ち、型を外して取り出す籾殻壁材の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、この方法においては、圧縮により籾殻粒子間の空隙が潰されて、成形体は連続気孔を有しないものとなり、十分な防音性と衝撃エネルギー吸収性能を有するものとはならない。
【0007】
また、多数の籾殻が硬化剤によって一体的に固化されていることを特徴とする籾殻を用いた建設資材が開示されている(例えば、特許文献4参照)。この建設資材は、例えば、籾殻及び接着剤を大型の攪拌機やミキサー車等を用いて攪拌し、次に地盤上に混合された籾殻及び接着剤を流し込み、大型の平板状治具で平らに均し養生することによって得られるものであり、建設資材の50重量%ほどが接着剤であり、通気性はあるものの、十分な衝撃エネルギー吸収性能を有するものとはならない。また、このような籾殻及び接着剤を流し込む態様においては、接着剤の含有比率が10重量%ほどでは資材に十分な強度が得られない。
【特許文献1】特開平5−162104号公報
【特許文献2】特開平6−8968号公報
【特許文献3】特開平11−159055号公報
【特許文献4】特開2003−13512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、少量の接着剤で充分な強度を有する籾殻成形体の製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨とするところは、籾殻の粒子を主成分とする粉粒体Aと水とポリビニルアルコールとの混合物を加熱して塊状物を得た後、該塊状物を砕いて表面にポリビニルアルコールが付着された籾殻の粒子を主成分とする粉粒体Bを得る工程、
粉粒体Bを型に充填して造形体を得る充填工程、
該造形体の内部の籾殻の粒子間の隙間に水または水蒸気を送り込んで、該籾殻の粒子の表面に付着させたポリビニルアルコールを水溶液化する造形体処理工程、
次いで水溶液化した前記付着用物をゲル化するゲル化工程、
次いで造形体を乾燥する乾燥工程を含む籾殻成形体の製造方法であることにある。
【0010】
また、本発明の要旨とするところは、籾殻の粒子を主成分とする粉粒体A、粒径2mm以下のポリビニルアルコールの粉末、およびポリビニルアルコールより吸水率の低い素材からなる粒径2mm以下の粉粒体Cを準備する工程、
前記ポリビニルアルコールの粉末と前記粉粒体Cとを混合して粉粒体Dを得る工程、
粉粒体Aに給水して湿潤された粉粒体Aを得る工程、
該湿潤された粉粒体Aを攪拌しつつ粉粒体Dと混合する攪拌混合工程、
該攪拌混合工程で吸水したポリビニルアルコールを、前記攪拌混合工程における攪拌中に乾燥して、表面にポリビニルアルコールが付着された籾殻の粒子を含む粉粒体B´を得る付着工程、
該粉粒体B´を型に充填して造形体を得る充填工程、
該造形体の内部の籾殻の粒子間の隙間に水または水蒸気を送り込んで、該籾殻の粒子の表面に付着させたポリビニルアルコールを水溶液化する造形体処理工程、
次いで水溶液化した前記付着用物をゲル化するゲル化工程、
次いで造形体を乾燥する乾燥工程を含む籾殻成形体の製造方法であることにある。
【0011】
さらに、本発明の要旨とするところは、籾殻の粒子を主成分とする粉粒体Aを準備する工程、
前記籾殻の粒子の表面に、ポリビニルアルコール、該ポリビニルアルコールの水溶液、の群から選択される付着用物を付着させ、表面に該付着用物が付着された籾殻の粒子を主成分とする粉粒体B´´を得る付着工程、
該粉粒体B´´を型に充填して造形体を得る充填工程、
該造形体の内部の籾殻の粒子間の隙間に水または水蒸気を送り込んで、該籾殻の粒子の表面に付着させた前記付着用物を希釈または水溶液化する造形体処理工程、
次いで希釈または水溶液化した前記付着用物をゲル化するゲル化工程、
次いで造形体を乾燥する乾燥工程を含み、
前記ポリビニルアルコールの20℃の水へ1時間浸漬後の溶解度が5重量%以上である籾殻成形体の製造方法であることにある。
【0012】
前記籾殻成形体の製造方法においては、前記ゲル化工程が、処理された前記造形体を冷凍し次いで解凍する工程を含み得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、少量の接着剤で充分な強度を有する成形体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の籾殻成形体の製造方法は、
籾殻の粒子を主成分とする粉粒体(粉粒体A)を準備する工程、
前記籾殻の粒子の表面に、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール水溶液、の群から選択される付着用物を付着させ、表面に該付着用物が付着された籾殻の粒子を主成分とする粉粒体を得る付着工程、
この粉粒体を型取り用の型に充填して造形体を得る充填工程、
該造形体の内部の籾殻の粒子間の隙間に水または水蒸気を送り込んで、該籾殻の粒子の表面に付着させた前記付着用物を希釈または水溶液化する造形体処理工程、
次いで希釈または水溶液化した前記付着用物をゲル化するゲル化工程、
次いで造形体を乾燥する乾燥工程を含む籾殻成形体の製造方法を基本とするものである。
【0015】
本発明の籾殻成形体の製造方法の一例においては、
前記付着用物を希釈または水溶液化する工程に次いで、前記ゲル化工程と前記乾燥工程が、
前記造形体を前記型から取り外す取り外し工程、
取り外された前記造形体をフィルムからなる梱包袋で梱包し、次いで前記造形体が内包された前記梱包袋の内部を減圧した状態で、前記梱包袋を密閉し、減圧密閉梱包体を得る工程、
該減圧密閉梱包体を冷凍し、冷凍体を得る工程、
該冷凍体を解凍し解凍体を得る工程、
次いで、前記造形体を前記梱包袋から取出して乾燥する工程
で構成されることができる。
【0016】
粉粒体の原料素材
この製造方法における粉粒体Aの主成分としての籾殻は、粉砕されないもの、あるいは粉砕されて粒子が細かくされたものが必要に応じて所定の比率に混合されたもの、が用いられる。この粉粒体には、そのほかに若干の増量剤が含まれていてもよい。増量剤としてはおがくず、そばがらなどが挙げられる。無機の増量剤であってもよい。増量剤の含有量は10重量%以下であることが好ましい。
【0017】
付着工程
本発明においては、まず、この籾殻の粒子の表面にポリビニルアルコールを付着させる。この付着は、例えば、この籾殻を主成分とする粉粒体Aとポリビニルアルコール水溶液とを攪拌混合してなる混合物を乾燥することにより行うことができる。この乾燥も混合体を攪拌しつつ行われることが好ましい。このポリビニルアルコール水溶液の濃度は8〜12重量%であることが好ましい。9〜11重量%であることが籾殻の粒子の表面に均一にポリビニルアルコールの被膜が形成されるうえでさらに好ましい。粉粒体とポリビニルアルコール水溶液との混合比率は重量比1:1〜1:3であることが好ましい。4:10〜6:10であることが籾殻の粒子の表面に均一にポリビニルアルコールの被膜が形成されるうえでさらに好ましい。混合体における籾殻とポリビニルアルコールとの乾燥重量比は4:1〜6:1であることが高強度の成形体を得るうえで好ましい。籾殻はポリビニルアルコール水溶液と混合する前に予め湿潤状態にしておいてもよい。
【0018】
籾殻の粒子の表面にポリビニルアルコールを付着させる方法としては、粉粒体Aとポリビニルアルコールの微粒子粉体とさらに好ましくは展着剤とを攪拌混合させるものであってもよい。この場合、籾殻の粒子の表面にポリビニルアルコールの微粒子がまぶされた状態で付着する。また、籾殻を予め湿潤状態にしたうえでポリビニルアルコールの微粒子粉体を加えて混合してもよい。
【0019】
籾殻の粒子の表面に付着したポリビニルアルコールは吸湿した状態あるいは水溶液の状態になっていてもよい。
【0020】
付着工程の他の態様としては、粉粒体Aと水とポリビニルアルコールとの混合物を加熱して塊状物を得て、その塊状物を砕いて表面にポリビニルアルコールが付着された籾殻の粒子を主成分とする粉粒体(粉粒体B)を得る工程が挙げられる。この方法は、多量のポリビニルアルコールが表面に均一に付着した籾殻の粒子を得るうえで好ましい。
【0021】
付着工程のさらに他の態様は、籾殻の粒子を主成分とする粉粒体A、籾殻の粒子の短径を超えない粒径である粒径2mm以下のポリビニルアルコールの粉末、およびポリビニルアルコールより吸水率の低い素材からなり、籾殻の粒子の短径を超えない粒径である粒径2mm以下の粉粒体Cを準備する工程、
前記ポリビニルアルコールの粉末と前記粉粒体Cとを混合して粉粒体Dを得る工程、
粉粒体Aに給水して湿潤された粉粒体Aを得る工程、
該湿潤された粉粒体Aを攪拌しつつ粉粒体Dと混合する攪拌混合工程、を経て、
該攪拌混合工程で吸水したポリビニルアルコールを、前記攪拌混合工程における攪拌中に乾燥して、表面にポリビニルアルコールが付着された籾殻の粒子を含む粉粒体B´を得る付着工程が挙げられる。
【0022】
湿潤された粉粒体Aは、粉粒体A100重量部に対して水が35〜55重量部含まれていることが好ましい。粉粒体Aと粉粒体Dとの混合は例えば、回転容器を用いて行うことが好ましい。回転容器を用いる場合、最初に湿潤された粉粒体Aを回転容器に投入し、回転容器を回転させつつ粉粒体Dを徐々に回転容器に投入することが均一な付着を実現するうえで好ましい。ポリビニルアルコールの乾燥は、粉粒体Aと粉粒体Dとを攪拌しつつ行うことが好ましい。乾燥は例えば、攪拌中の粉粒体Aと粉粒体Dに熱風を吹きかけることにより行うことができる。なお上記の吸水率 とは、試料を110℃で1時間乾燥させた後の質量を乾燥質量とし、この乾燥後、温度25℃の水に1時間浸漬した後の質量を吸水後質量として、下記の式、
吸水率 (%)=[(吸水後質量−乾燥質量)/(乾燥質量)]×100
で求められる値である。
【0023】
粉粒体Aと粉粒体Dとの混合攪拌には粉体用の公知の攪拌装置を用いることができるが、回転容器を用いる場合、回転容器としては例えば特開平11−196615に記載されているコーティング装置を用いることができる。回転容器を用いた攪拌時間は10〜60分あるいはそれ以上が好ましい。回転容器の回転数は、50〜200rpmが好ましい。処理中の籾殻が加熱されていてもよい。
【0024】
粉粒体Cとしては、植物や石炭等の焼却灰、炭酸カルシウム粉末、石膏粉末、酸化チタン等の金属酸化物の粉末、セラミックの粉末、コロイダルシリカ、石英ガラスの粉末、籾殻の粉末、籾殻焼成灰、籾殻燻炭、樹脂ビーズ、樹脂発泡ビーズなどが挙げられる。ポリビニルアルコールおよび粉粒体Cの粒径は1〜1000μmであることが籾殻へのポリビニルアルコールの均一な付着のうえで好ましい。粉粒体Dにおけるポリビニルアルコールと粉粒体Cの混合重量比率は1:0.1〜1であることが籾殻へのポリビニルアルコールの均一な付着のうえで好ましい。1:0.15〜0.25であることがさらに好ましい。
【0025】
また、粉粒体Cとして発泡性の粒子からなる粉体を用いて造形体に発泡性の粒子を混在させることができる。造形体に発泡性の粒子が混入していると造形体が熱水や水蒸気により加熱されたときにこの粒子が発泡し、よりかさ高で低比重の成形体が得られる。発泡は造形体の乾燥時の加熱によりなされてもよい。発泡性の粒子としてはポリスチレンの発泡ビーズなどが挙げられる。
【0026】
充填工程
充填工程においては、籾殻の粒子の表面にポリビニルアルコールを付着させた、籾殻を主成分とする粉粒体(粉粒体B´や後述の粉粒体B粉粒体B´´など)を所定の形状の型内に、例えば、圧空で送り込んで造形体を得る。次いで、この型内に水蒸気を送り込むことにより、造形体の内部の籾殻の粒子の間の隙間を水蒸気及びこの水蒸気のドレインで充満させる。水蒸気に代えて、水を型内に送り込んでもよい。水は50℃以上の高温であることが好ましいが、水に対して高溶解性のポリビニルアルコールを籾殻に付着させた粉粒体(粉粒体B´´)を用いる場合は常温水であることが好ましい。
【0027】
高溶解性のポリビニルアルコールは、20℃の水へ20間浸漬後の溶解度が1重量%以上であるポリビニルアルコールをいう。このようなポリビニルアルコールは、鹸化度と分子量の調整、粒子のサイズの微小化、親水性側鎖の導入による結晶化度の低下などの公知の手段を適宜組み合わせて得ることができる。例えば、重合度400〜600、鹸化度95モル%以上、粒度300メッシュ以下とすることができる。
【0028】
型内に送り込む流体が常温水であることにより、型の材質の制約が少なくなり、例えば、樹脂製の型の使用も可能となる。また、造形体を冷却せずとも型から容易に取り出すことができるので、この取り出しの操作手順が簡略になる。
【0029】
この充填と型内への水蒸気や水の送り込みは、例えば、特開2000−176956に記載の加圧圧縮充填法による金型装置により好適に行うことができる。
【0030】
この金型装置を用いる充填方法は、(1)金型を型閉してキャビティ5を形成し、このキャビティ5内に、充填用粉粒体を充填する充填工程、(2)造形体に水蒸気を送り込んで加熱する加熱工程。(3)その後、造形体を冷却させる冷却工程、(4)冷却後、型開して、所定形状の造形体として金型装置から取り出す取り出し工程、という手順からなる。
【0031】
充填工程についてさらに述べるならば、充填工程は、外部の原料サービスタンク(不図示)に収容した充填用粉粒体(粉粒体B、粉粒体B´、粉粒体B´´など)を、キャビティ内に送入し充填する工程である。充填用粉粒体は圧縮エアによりベンチュリー効果でキャビティ内に送入される。充填する工程にはクラッキング充填法、加圧充填法あるいは加圧圧縮充填法などがあるが、いずれも充填用粉粒体とともに送り込まれた圧縮エアは、キャビティからベントホールなどを通じて外部に排出される。
【0032】
また、この充填方法においては、中間型閉してキャビティを形成し、さらに型閉してこのキャビティより容積の小さいキャビティを形成するような金型を用いることができる。このような金型を用いて、(1)金型を中間型閉して形成したキャビティ内に充填用粉粒体を充填し、(2)造形体に水蒸気を送り込んで加熱し、(3)その後、この金型をさらに型閉して造形体を圧縮し、次いで冷却し、(4)冷却後、型開して、所定形状の造形体として金型装置から取り出す、という手順をとることができる。このような態様によれば、より高密度の造形体を得ることができる。
【0033】
あるいは、このような金型を用いて、(1)金型を中間型閉して形成したキャビティ内に充填用粉粒体を充填し、(2)この金型をさらに型閉して造形体を圧縮し、(3)その後造形体に水蒸気を送り込んで加熱し、次いで冷却し、(4)冷却後、型開して、所定形状の造形体として金型装置から取り出す、という手順をとることができる。このような態様によっても、より高密度の造形体を得ることができる。
【0034】
造形体を構成する粉粒体(粉粒体B、粉粒体B´、粉粒体B´´など)が乾燥状態である場合は、造形体処理工程における水蒸気の送り込みにより籾殻の粒子に付着しているポリビニルアルコールが含水して水溶液化し、またこのため籾殻の粒子の表面に粘着性が発現し、籾殻の粒子同士が接着されて造形体に自立の形態保持性が与えられる。これにより、造形体を型開した金型から比較的容易に取出すことができる。送り込まれる水蒸気は大気圧の水蒸気、いわゆる生蒸気であってよい。生蒸気より高圧の水蒸気であってもよい。さらに、上述のように水蒸気のかわりにあるいは水蒸気とともに水が造形体に送り込まれてもよい。
【0035】
造形体を構成する粉粒体(、粉粒体B、粉粒体B´粉粒体B´´など)が湿潤状態である場合は、充填工程における水蒸気や水の送り込みにより籾殻の粒子に付着しているポリビニルアルコールが水溶液化する。あるいは、ポリビニルアルコールがすでに水溶液として籾殻の粒子に付着している場合は、その水溶液が希釈される。
【0036】
金型装置を用いた態様においては、キャビティに送り込む粉粒体(粉粒体B、粉粒体B´、粉粒体B´´など)は乾燥状態であることが粉粒体の空気による移送が円滑に行われて好ましい。粉粒体が湿潤状態である場合は、器具による押し込みなどの機械的な充填方法が用いられることが好ましい。
【0037】
本発明の他の態様においては、多孔質の材料あるいは孔あきの材料からなる型に充填用粉粒体を充填し、その造形体の籾殻の粒子の間隙に、その材料の連通孔を経由して水を流入させることにより、籾殻の粒子の表面のポリビニルアルコールを含水させて水溶液化してもよい。この流入は、例えば、型に充填されている造形体を型ごと水に浸漬することにより行うことができる。あるいは造形体を充填した状態の型の内部にその材料の連通孔を経由して水を圧入することにより造形体の籾殻の粒子の間隙に水を流入させてもよい。水蒸気を造形体の籾殻の粒子の間隙に吹き込んでドレン化させてもよい。
【0038】
このようにして造形体を処理したのち、籾殻表面の希釈または水溶液化したポリビニルアルコールをゲル化する。ゲル化はこの造形体を冷凍しついで解凍することによりなされる。
【0039】
減圧密閉梱包体
金型から取り外された造形体を真空包装用のフィルム袋に入れてその袋の内部を減圧して密封し、減圧密閉梱包体を得る。減圧密閉梱包体を得る工程は真空包装用の公知の器具や装置、と公知の真空包装用フィルムを用いて行うことができる。減圧密閉梱包体中の造形体は大気圧で加圧されて圧縮状態になっている。袋の中の内圧を所定の圧に設定することにより、造形体にかかる圧縮圧を調整して造形体の密度を制御することができる。
【0040】
冷凍行程
減圧密閉梱包体は冷凍される。本発明のさらに他の態様においては、型に充填された充填用粉粒体(造形体)を型ごと冷凍してもよい。この場合は、充填用粉粒体を型ごと真空包装して冷凍してもよい。あるいは、型を閉められた状態に固定することにより造形体を圧縮し、造形体を袋に入れることなく型ごと冷凍してもよい。
【0041】
本発明のまたさらに他の態様においては、型に充填された充填用粉粒体(造形体)を脱型して第2の型に収め、次いで造形体を第2の型ごと冷凍してもよい。この場合は、充填用粉粒体を型ごと真空包装して冷凍してもよい。あるいは、型を閉められた状態に固定することにより造形体を圧縮し、造形体を袋に入れることなく第2の型ごと冷凍してもよい。
【0042】
減圧密閉梱包体、あるいは型や第2の型ごと冷凍された造形体は公知の冷凍装置を用いて冷凍処理して冷凍体を得ることができる。例えば、冷凍食品用の冷凍装置を用いて連続的に減圧密閉梱包体を供給して連続的に冷凍処理することができる。冷凍温度は−10〜−30℃であることが好ましい。減圧密閉梱包体を冷凍することにより、減圧密閉梱包体中の造形体を圧縮状態で冷凍することができる。あるいは造形体を型や第2の型ごと冷凍することにより、型中の造形体を圧縮状態で冷凍することができる。
【0043】
解凍体
解凍体は、冷凍された減圧密閉梱包体,あるいは型や第2の型ごと冷凍された造形体を公知の加熱装置を用いて解凍処理して得ることができる。例えば、ヒートポンプ方式の加熱装置が好適に用いられる。減圧密閉梱包体は連続的に加熱装置に供給して連続的に解凍することもできる。なお、減圧密閉梱包体の冷凍、解凍は複数回繰り返して行われてもよい。この凍結、解凍により造形体中のポリビニルアルコール水溶液がゲル化される。とくに、籾殻中のシリカがポリビニルアルコールのゲル化反応を促進させることにより、強固なゲル体が生成される。また、この解凍処理により、減圧密閉梱包体中の造形体を圧縮状態で解凍することができる。この造形体は、圧縮状態で冷凍、解凍されているので構造は安定した緻密さを実現できる。
【0044】
なお、本発明において、造形体の内部の籾殻の粒子間の隙間に水または水蒸気を送り込んで籾殻の粒子の表面に付着させた付着用物を希釈または水溶液化する工程は、造形体中のポリビニルアルコール水溶液の濃度をゲル化に適した濃度にするために行われる。
【0045】
乾燥工程
乾燥工程においては、解凍された造形体をフィルム袋から取出してあるいは型や第2の型を開放して、造形体を加熱乾燥する。乾燥は50〜120℃で加熱して行うことが好ましい。例えば、1〜10℃/minの昇温速度で50〜120℃まで昇温して加熱することにより行うことができる。この乾燥により、強固に3次元化したSi/ポリビニルアルコールのゲルに含まれている水分が除去されて、ポーラスなスポンジ状の構造物となり、籾殻の粒子がその構造体に堅固に捕捉された構造体が得られる。
【0046】
本発明のかかる製造方法により、籾殻の粒子同士がポリビニルアルコールをバインダとして強固に接合された籾殻成形体が得られる。
【0047】
籾殻とポリビニルアルコール水溶液とを混合して成形した成形体を単に加熱した場合は、前述のように、液状化された接着剤が加熱乾燥の際にマイグレーションにより成形体の表面など高温がわに移行する傾向があり、均一な接着構造が得られないそれがあるが、本発明においては、造形体中の含水ポリビニルアルコールを凍結、解凍することにより含水ポリビニルアルコールがゲル化され、これにより、ポリビニルアルコール分子同士がSiを反応促進剤として3次元的に結びつき、含水ポリビニルアルコールの自然流動が阻害されて、乾燥時のマイグレーションが防止されて成形体全体にわたり均一な接着がなされる。
【0048】
このような効果を得るうえでは、本発明のさらに別の態様にあっては、造形体を凍結せずに冷却することによりゲル化させてもよい。このためには水に対して高溶解性のポリビニルアルコールを使用することが好ましい。
【0049】
さらに、籾殻に含まれるシリカ成分が遊離して含水ポリビニルアルコールに架橋剤として3次元的に作用してゲル化を促進するとともに、乾燥後の接着力の向上にも寄与するものと考えられる。この結果、高強度の成形体が得られる。
【0050】
従って、本発明においては、充填用粉粒体にシリカ成分を含む微粉末を含有させることがゲル化の促進にとっても有効である。このシリカ成分を含む微粉末に含まれるシリカ成分も遊離して含水ポリビニルアルコールに架橋剤として作用してゲル化をさらに促進するとともに、乾燥後の接着力の向上にも寄与すると考えられる。シリカ成分を含む微粉末としては微粉砕された籾殻、コロイダルシリカ、石英ガラスの粉末、籾殻焼成灰などが挙げられる。微粉末の粒子径は100μm以下であることがゲル化を促進させるうえで好ましい。微粉末はナノオーダーの微粉末であってもよい。
【0051】
また、本発明の態様の一例においては、前述の付着工程におけるように、籾殻の粒子にポリビニルアルコール水溶液を付着させたのち乾燥し、表面に乾燥されたポリビニルアルコールが付着した籾殻の粒子を得て、その後ふたたびその付着したポリビニルアルコールを湿潤させて水溶液状態とする。従来のように、単にポリビニルアルコール水溶液と籾殻とを混合したのち乾燥してポリビニルアルコールをバインダとして籾殻の粒子同士を接着する場合は、この混合により籾殻の粒子表面に付着したポリビニルアルコール水溶液中の水分が籾殻の粒子に吸収されて、この水溶液が濃縮され、高濃度のポリビニルアルコール水溶液が籾殻の粒子表面に付着している状態となる。
【0052】
このような状態では十分なゲル化が行われず、籾殻の粒子同士の上述の強固な結合を得ることができない。これに対して、本発明においては、籾殻の粒子表面に付着した乾燥されたポリビニルアルコールにふたたび水分を供給することにより、ゲル化が十分に行われる濃度のポリビニルアルコール水溶液を籾殻の粒子表面に存在させることができる。さらに、このとき供給する水分の量を調節することにより水溶液の濃度をゲル化が十分に行われる濃度に制御することができる。さらには、籾殻の粒子表面の水溶液の濃度を、籾殻の粒子表面に粘着性を与えるのに適した濃度に制御することもできる。
【0053】
本発明の態様の他の一例においては、籾殻の粒子に吸水したポリビニルアルコールあるいはポリビニルアルコール水溶液を付着させたのちふたたび水分を供給することにより、ゲル化が十分に行われる濃度のポリビニルアルコール水溶液を籾殻の粒子表面に存在させることができる。単に籾殻の粒子に吸水したポリビニルアルコールあるいはポリビニルアルコール水溶液を付着させた場合は、水分が籾殻に吸収されてポリビニルアルコールの濃度が高くなり、ゲル化が十分に行われる濃度のポリビニルアルコール水溶液を籾殻の粒子表面に安定して存在させることができない。
【0054】
本発明においては、このようにして得られた籾殻成形体をさらにフィルムで包装することにより、元来耐水性に劣るものとされる籾殻の成形体に優れた耐水性を付与できる。また、籾殻特有の匂いをほぼ遮断することができる。この包装はシュリンク包装方式により好適に行うことができる。
【0055】
さらに、本発明の籾殻成形体は、籾殻を加熱炭化させた籾殻燻炭を含有させることによって籾殻特有の匂いをほぼ解消することができる。また、これにより、籾殻成形体に脱臭能を付与することができる。例えば、籾殻燻炭を粉粒体Aに混入させておくことにより籾殻燻炭を含有した籾殻成形体が得られる。籾殻燻炭に代えて活性炭の粉粒物を用いても脱臭能が得られるが、籾殻燻炭はポリビニルアルコールのゲル化を促進させて成形体の強度向上に寄与するので好ましい。
【0056】
また、本発明における冷凍、解凍というバッチ式の工程は、連続的に冷凍室や解凍室に送り込むことにより工業的に効率よく実施することも可能である。
【0057】
本発明におけるポリビニルアルコールは側鎖に各種の有機基が導入されて変性されたポリビニルアルコールをも意味するものとする。
【0058】
本発明の製造方法により得られた籾殻成形体は、高強度であり、かつ衝撃吸収性に優れる。また、吸音性に優れる。この特長を活かして、自動車用の内装分野や外装分野の部材として好適に使用される。とくには嵩上げボード用デッキボード用の部材や、ニーボルスター用部材として好適に用いることができる。また、吸音性や調湿性や天然の触感や色目に優れた建材として好適に用いることができる。さらには、ヘルメットの芯材や電子装置用の衝撃吸収材としても好適に用いることができる。また、音波吸収能を有するインテリア用材、音波吸収能や調湿機能を有するパネル、として好適に用いることができる。
【実施例】
【0059】
[実施例1]
籾殻1.5kg、籾殻を粉砕分級した平均粒径100μmの籾殻微粉末0.5kg、平均粒径500μmのポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業製:Gグレード)0.4kg、水1.7kgを混練して混練物を得た。この混練物を80℃に加熱して乾燥し、塊状物を得た。この塊状物を粉砕して籾殻表面にポリビニルアルコールが均一に付着された粉粒体を得た。この粉粒体120gを縱10cm横14.5cm、厚さ2.4cmのキャビティを有する型に入れて加圧成形し造形体とした。造形体を加圧状態でキャビティ内に0.2MPaの水蒸気源から水蒸気を3分間導入して造形体を処理した。処理後の造形体は自立性の成形体であった。開型してこの成形体を型から取出して真空包装用フィルムを用いて真空包装機で真空包装し、減圧密閉梱包体を得た。この減圧密閉梱包体の内部の圧力は76mmHgであった。この減圧密閉梱包体を−20℃で20分間冷凍したのち室温で解凍した。解凍後袋から造形体を取出して80℃20分の加熱により加熱乾燥し籾殻成形体を得た。この籾殻成形体の曲げ強度は0.55MPaであり、自動車内装材として充分な強度を有していた。
【0060】
[実施例2]
籾殻(粉粒体A)、籾殻を粉砕分級した平均粒径200μmの籾殻微粉末(粉粒体C)、平均粒径500μmのポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業製:Gグレード)を用意し、まず、籾殻1.5kgに水0.7リットルを加えて湿潤された籾殻を作った。また、籾殻微粉末0.06kgとポリビニルアルコール粉末0.35kgとを混合して粉粒体Dとした。湿潤された籾殻を斜め回転ドラムに投入し、次いでドラムを60rpmで回転させつつ粉粒体Dを少量づつ投入し20分で全量を投入し終わった。回転ドラムの回転中に120℃の熱風を投入されている投入物に吹きかけて投入物を乾燥した。これにより、表面にポリビニルアルコールが均一に付着された籾殻を主成分とする粉粒体を得た。この粉粒体120gから実施例1と同様にして籾殻成形体を得た。この籾殻成形体の曲げ強度は0.5MPaであり、自動車内装材として充分な強度を有していた。この籾殻成形体を厚さ40μmのポリエチレン系フィルムで密封包装した包装体は耐水性が良くかつ吸音性に優れ、とくにデッキボード用の部材として好適に使用できるものであった。
【0061】
[実施例3]
籾殻1.5kg、籾殻を粉砕分級した平均粒径100μmの籾殻微粉末0.5kg、ポリビニルアルコール粉末(鹸化度98%、重合度500)0.4kg、水1.7kgを混練して混練物を得た。この混練物を80℃に加熱して乾燥し、塊状物を得た。この塊状物を粉砕して籾殻表面にポリビニルアルコールが均一に付着された粉粒体を得た。この粉粒体120gを実施例1ど同様にして加圧成形し造形体とした。造形体を加圧状態でキャビティ内に常温水を導入して造形体を処理し成形体を得た。この成形体を型から取出して実施例1と同様に真空包装し、減圧密閉梱包体を得た。この減圧密閉梱包体を実施例1と同様にして冷凍したのち解凍し、解凍後袋から造形体を取出して加熱乾燥し籾殻成形体を得た。この籾殻成形体の曲げ強度は0.3MPaであり、緩衝用の自動車部材として必要な強度を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
籾殻の粒子を主成分とする粉粒体Aと水とポリビニルアルコールとの混合物を加熱して塊状物を得た後、該塊状物を砕いて表面にポリビニルアルコールが付着された籾殻の粒子を主成分とする粉粒体Bを得る付着工程、
粉粒体Bを型に充填して造形体を得る充填工程、
該造形体の内部の籾殻の粒子間の隙間に水または水蒸気を送り込んで、該籾殻の粒子の表面に付着させたポリビニルアルコールを水溶液化する造形体処理工程、
次いで水溶液化した前記付着用物をゲル化するゲル化工程、
次いで造形体を乾燥する乾燥工程を含む籾殻成形体の製造方法。
【請求項2】
籾殻の粒子を主成分とする粉粒体A、粒径2mm以下のポリビニルアルコールの粉末、およびポリビニルアルコールより吸水率の低い素材からなる粒径2mm以下の粉粒体Cを準備する工程、
前記ポリビニルアルコールの粉末と前記粉粒体Cとを混合して粉粒体Dを得る工程、
粉粒体Aに給水して湿潤された粉粒体Aを得る工程、
該湿潤された粉粒体Aを攪拌しつつ粉粒体Dと混合する攪拌混合工程、
該攪拌混合工程で吸水したポリビニルアルコールを、前記攪拌混合工程における攪拌中に乾燥して、表面にポリビニルアルコールが付着された籾殻の粒子を含む粉粒体B´を得る付着工程、
該粉粒体B´を型に充填して造形体を得る充填工程、
該造形体の内部の籾殻の粒子間の隙間に水または水蒸気を送り込んで、該籾殻の粒子の表面に付着させたポリビニルアルコールを水溶液化する造形体処理工程、
次いで水溶液化した前記付着用物をゲル化するゲル化工程、
次いで造形体を乾燥する乾燥工程を含む籾殻成形体の製造方法。
【請求項3】
籾殻の粒子を主成分とする粉粒体Aを準備する工程、
前記籾殻の粒子の表面に、ポリビニルアルコール、該ポリビニルアルコールの水溶液、の群から選択される付着用物を付着させ、表面に該付着用物が付着された籾殻の粒子を主成分とする粉粒体B´´を得る付着工程、
該粉粒体B´´を型に充填して造形体を得る充填工程、
該造形体の内部の籾殻の粒子間の隙間に水または水蒸気を送り込んで、該籾殻の粒子の表面に付着させた前記付着用物を希釈または水溶液化する造形体処理工程、
次いで希釈または水溶液化した前記付着用物をゲル化するゲル化工程、
次いで造形体を乾燥する乾燥工程を含み、
前記ポリビニルアルコールの20℃の水へ1時間浸漬後の溶解度が5重量%以上である籾殻成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ゲル化工程が、処理された前記造形体を冷凍し次いで解凍する工程を含む請求項1から3のいずれかに記載の籾殻成形体の製造方法。


【公開番号】特開2010−36363(P2010−36363A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198603(P2008−198603)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(393029136)角一化成株式会社 (8)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】