説明

粉末冶金用混合物及びこれを用いた粉末冶金部品の製造方法

【課題】比較的高密度を形成し、なおかつ一段プレス及び/又は一段焼結法しか必要としない新規粉末冶金用混合物を提供する。
【解決手段】上記課題は、次の成分組成からなる粉末冶金用混合物により達成される:
質量基準で、バルブ鋼粉末 15〜30%、Ni粉末 0〜10%、Cu粉末0〜5%、
フェロアロイ粉末 5〜15%、工具鋼粉末 0〜15%、固体滑剤 0.5〜5%、グラファイト 0.5〜2.0%、一時滑剤 0.3〜1.0%及び残部としてMoを0.6〜2.0%含む低合金鋼粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な粉末冶金用混合物及びこれを用いる粉末冶金部品の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の運転サイクルは当該技術分野で十分に公知である。燃焼の封止において効果的に相互作用させるための吸気及び排気バルブ、バルブガイド、及びバルブシートインサートの物理的要求は包括的に研究されている。
【0003】
耐磨耗性は内燃機関で使用されるバルブシートインサートに対する第一の要求である。良好な耐熱耐腐食性と、耐磨耗性に結びついた機械加工性との組合せを達成する努力において、排気バルブシートインサートはコバルト、ニッケル又はマルテンサイト鉄ベースの合金鋳物から製造されてきた。これらの合金は一般に、鋳造合金に耐磨耗性カーバイドが存在するために、クロム及びニッケル含量の高いオーステナイト系耐熱鋼がより好ましいとされてきた。
【0004】
粉末冶金は、正確な最終形状がかなり容易に達成されるので、バルブシートインサートならびにその他のエンジン部品の製造に使用されてきた。粉末冶金は、種々の金属組成物を又はセラミック組成物でさえも選択する際に、ならびに設計柔軟性を付与する際に寛容度を許している。
【0005】
特許文献1は、粉末冶金を用いて製造された耐磨耗性製品を記載している。この特許は特にバルブシートインサートに関するものである。
【0006】
また特許文献2は、粉末冶金部品及び粉末珪酸マグネシウム水和物の添加の有益な影響に関する。
【0007】
注目される他の特許としては、特許文献3〜12が挙げられる。
【0008】
内燃機関用のバルブシートインサートには、長期間の高温でも高耐磨耗性を与えることができる高耐磨耗性材料を必要とする。バルブシートインサートはさらに、高温で繰り返される衝撃負荷の下でも耐高温性、高クリープ強度及び高疲労強度を併せ持つ必要がある。
【0009】
典型的には、高合金粉末製のバルブシートインサート材は圧縮率に劣る。従って所望の密度レベルを達成するために、二段プレス、二段焼結、高温焼結、銅溶浸、及び熱鍛造などの方法が使用される。残念ながらこれは材料を極端に高価なものにする可能性がある。
【0010】
このように、比較的高密度となる粉末冶金用混合物の必要性が依然として存在し、なお一段プレス及び/又は一段焼結法しか使用されない。かかる材料の混合物は6.7〜7.1g/cm3の範囲の最小密度まで圧縮成形して、厳しいエンジン環境において働き得る部品とすることができよう。かかる粉末冶金用混合物はかなりコスト的に有効であり、なお有意な耐磨耗性、耐高温性、機械加工性、高いクリープ強度及び高い疲労強度を付与するであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,724,000号
【特許文献2】米国特許第5,041,158号
【特許文献3】米国特許第4,546,737号
【特許文献4】米国特許第4,671,491号
【特許文献5】米国特許第4,734,968号
【特許文献6】米国特許第5,000,910号
【特許文献7】米国特許第5,032,353号
【特許文献8】米国特許第5,051,232号
【特許文献9】米国特許第5,064,610号
【特許文献10】米国特許第5,154,881号
【特許文献11】米国特許第5,271,683号
【特許文献12】米国特許第5,286,311号
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】バルブアセンブリ部品及びそのアセンブリ環境を示す断面図である。
【図2】より詳細なバルブアセンブリ部品を示す断面図である。
【図3】バルブシートインサート及び封止関係におけるバルブ取付け面のより詳細な断面図である。
【図4】本発明と従来材料との高温硬さの比較を示すグラフである。
【図5】本発明と従来材料とのシート磨耗リグ比較試験データを示すグラフである。
【図6】本発明と従来材料とのシート磨耗限界試験データを示すグラフである。
【図7】本発明と従来材料との機械加工性比較のデータを示すグラフである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高温磨耗及び腐食抵抗のためのバルブ鋼粉末と、高温硬さ(「高温硬さ」とは、高温で測定される硬度を意味する)のためのフェロモリブデン、フェロバナジウム及びフェロニオビウム粉末などのフェロアロイ粉末と、機械加工性及び熱伝導性のための銅との独自な組合せを使用する新規粉末冶金用混合物を提供することによって、前記の問題ならびに他の問題を解決することにある。本発明の混合物には、耐磨耗性のための工具鋼粉末と、低い摩擦及び摺動磨耗を提供し、同時に機械加工性を向上させるために固形滑剤が含まれる。
【0014】
従って、本発明の1つの目的は、比較的高密度を形成し、なおかつ一段プレス及び/又は一段焼結法しか必要としない新規粉末冶金用混合物にある。
【0015】
本発明のもう1つの目的は、バルブ鋼粉末、ニッケル、銅、フェロアロイ粉末、工具鋼粉末、固形滑剤、グラファイト及び一時滑剤又は不安定滑剤、残部として実質的に選択量のモリブデンを含有する低合金鋼粉末の混合物を含有する粉末冶金混合物にある。
【0016】
本発明のさらなる目的は、通常、硬度、高温硬さ、アブレシブ磨耗、凝着磨耗、かじり、高温酸化性及び耐熱クリープ性に優れた特性を与える耐磨耗性用途に使用される粉末冶金エンジン部品を提供することにある。
【0017】
本発明のさらにもう1つの目的は、バルブシートインサートなどのエンジン部品を製造するための粉末冶金用混合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、下記表1の成分組成からなる、粉末冶金用混合物である:
【0019】
【表1】

【0020】
また、本発明は、下記工程からなる粉末冶金部品の製造方法である:
・下記表2の成分組成の金属粉末混合物を準備する工程;
・均一に混合するために該混合物を混合する工程;
・少なくとも1段階で選択された緻密化圧縮にて、該混合された混合物を最小密度6.7g/cm3まで、少なくとも概略成形体へ生の緻密体を圧縮する工程;及び
・圧縮した生の緻密体を1段階で焼結させて、粉末冶金部品を製造する工程。
【0021】
【表2】

【発明の効果】
【0022】
本発明の粉末冶金用混合物は先行技術の材料よりも、得られる成形品の耐高温磨耗性及び耐腐食性が向上しているとともに、機械加工性も向上している。そして、本発明の混合物は、一段プレス・焼結法により、容易に比較的高密度の材料を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を特徴づける新規な種々の特徴は、本開示に添付され本開示の一部をなす請求の範囲で詳細に示されている。本発明は、その取扱いの利点及びその使用によって達成される特定の目的をよりよく理解するために、添付の実施例及び説明が記載され、その中で本発明の好ましい具体例を例示する。
【0024】
15万マイル(24.1万km)以上に達し得るエンジン耐久性を備えた車両を製造することが望ましい。かかる車両のエンジン部品を設計する際、部品には有意な耐磨耗性、耐高温性及び機械加工性を与える材料が必要とされる。
【0025】
本明細書では特に明示されない限り、温度はすべてセ氏(℃)であり、パーセンテージ(%)はすべて質量基準である。
【0026】
本発明は、バルブシートインサートのようなエンジン部品に特に適した粉末冶金部品を提供する。本発明の粉末冶金用混合物は特に窒化エンジンバルブ用のバルブシートインサートの製造に適している。本発明の粉末冶金部品は他の用途にも同じように適していることが直ちに明白になるはずである。バルブシートインサートなど本発明の粉末冶金用混合物で構成されたエンジンバルブ系統部品は、吸気バルブシートインサートならびに排気バルブシートインサート部品として使用してもよい。
【0027】
図1〜3を参照すると、エンジンでの使用のために一般に設計されたバルブアセンブリ10が示されている。バルブアセンブリ10は各々バルブステムガイド14の内径内で往復機関として支えられている複数のバルブ12を含んでいる。バルブステムガイド14は管状構造で、シリンダーヘッド24に挿入されている。これらのエンジン部品は当業者に十分に公知の装置である。本発明は、改良や代替構造が種々の製造業者により提供されているので、いずれの特定の構造に限定されるものではない。これらのバルブアセンブリ部品の図面は、本発明のよりよい理解を助けるための例示の目的で提供されている。
【0028】
バルブ12は、バルブ12のキャップ26と丸み28に間に挿入されているバルブシート面16を含んでいる。バルブステム30は通常は頸部28の上方に位置し、普通バルブステムガイド14内で支えられている。バルブシートインサート18は通常はエンジンのシリンダーヘッド24内に取り付けられている。インサート18は示された断面を持つ環状であり、ともにバルブシート面16を支えていることが好ましい。
【0029】
粉末冶金部品が厳しいエンジン環境など厳しい環境下で働くためには、粉末冶金部品が6.7〜7.1グラム/立方センチメートル(g/cm3)の最小密度まで圧縮成形できなければならない。混合物は、より好ましくは6.8〜7.0g/cm3、最も好ましくは最小密度約6.9g/cm3まで圧縮成形される。
【0030】
本発明の粉末冶金用混合物は、バルブ鋼粉末、ニッケル、銅、フェロアロイ粉末、工具鋼粉末、固形滑剤、グラファイト、及び粉末一時滑剤又は不安定滑剤を、残部としての低合金鋼粉末とともに含む。本発明では、この混合物は前記成分を以下の表3の量で含んでいる。
【0031】
【表3】

【0032】
低合金鋼粉末は、0.6〜2.0%のモリブデンを含有する低合金鋼粉末であり、好ましくは、0.6〜2.0%のモリブデン、0〜5%のニッケル及び0〜3%の銅を含有する。
【0033】
本発明の粉末冶金用混合物では、耐高温磨耗性及び耐腐食性のためのバルブ鋼粉末と高温硬さのためのフェロアロイ粉末を併用する。耐磨耗性及び高温硬さのためには工具鋼粉末が添加される。固形滑剤は滑り磨耗を少なくするため、ならびに機械加工性を向上させるために摩擦を小さくする。モリブデンやクロムのような合金元素は固溶体の耐磨耗性及び耐腐食性を強化する。ニッケル及びオーステナイト系バルブ鋼粉末は面心立方(FCC)格子を安定化させ、耐熱性を達成する。フェロモリブデン硬粒子は磨耗及び高温硬さを与える。グラファイト、及び粉末珪酸マグネシウム水和物(タルク)、二硫化モリブデン(MoS2)又はフッ化カルシウム(CaF2)などの固形滑剤は耐磨耗性と機械加工性をよりよくする。ACRAWAX Cなどの粉末不安定滑剤又は一時滑剤は圧縮成形中の工具の磨損を防ぐことによりダイ寿命を長くする。
【0034】
粉末が所望の合金化学をもたらす合金成分の混合物であり得る限り、その粉末はプレアロイ粉末であることが好ましい。
【0035】
本発明の混合物の第1の成分はバルブ鋼粉末であり、これは混合物の15〜30%であり、好ましくは17〜25%であり、より好ましくは19〜21%であり、最も好ましくは、バルブ鋼粉末は、混合物の約20%を占めることである。好適なバルブ鋼粉末は、限定されるものではないが、OMG Americasから市販されている21−2N、23−8N又は21−4Nがある。これらは鉄ベースの粉末であり、21−2Nは基本的に21%のCrと2%のNiを意味し、21−4Nとは21%のCrと4%のNiを意味し、同様に23−8Nという表示は基本的に23%のCrと8%のNiを意味している。
【0036】
典型的な21−2N、23−8N及び21−4Nの金属粉末の化学組成はそれぞれ以下の表4の範囲内にある:
【0037】
【表4】

【0038】
本発明の混合物の第2の成分はニッケルである。ニッケルは、混合物の0〜10%、好ましくは5〜9%、より好ましくは6.0〜8.0%、最も好ましくは約7.0%で混合物に添加される。ニッケル粉末とは、限定されるものではないが、母合金として実質的に純粋なニッケル粒子、または合金元素と混合したニッケル粒子をはじめとする粉末を含有するいずれのニッケルも含むことを意味する。ニッケル成分は所定のパーセント範囲内にあるべきである。
【0039】
銅粉末が本混合物の第3の成分である。銅は、混合物の0〜5%で添加され、より好ましくは1〜3%で添加され、最も好ましくは混合物の約2.0%の添加である。同様に、銅粉末は、限定されるものではないが、実質的に純粋な銅粒子、合金元素及び/又は他の強化元素と混合した銅粒子、及び/又はプレアロイ銅粒子などの粉末を含有するいずれの銅も含むことを意味する。実質量(約20%まで)の銅は、密度、熱伝導性及び機械加工性を高める目的で銅溶浸工程中に添加される。
【0040】
本発明の混合物の第4の成分は、好ましくはフェロモリブデンを含有するフェロアロイ粉末である。フェロアロイ粉末は混合物の5〜15%を占め、より好ましくは混合物の7〜12%を占め、混合物の約9%であることが最も好ましい。本発明での使用のためのモリブデン含有鉄ベースの粉末は、ShieldAlloyから市販されている。これは鉄と約60質量%の溶解モリブデンとのプレ合金であり、約2.0質量%未満の他のプレアロイ元素を含有している。この鉄ベースの粉末は鉄とプレアロイ化されているモリブデンの他に元素を含んでもよいが、本発明のこの成分がモリブデン以外に鉄とのプレアロイ元素を実質的に含んでいなければ、一般に本発明の実施に有益である。
【0041】
本発明の混合物の第5の成分は工具鋼粉末であり、これは混合物の0〜15%を占める。この成分もまたプレアロイ粉末であることが好ましく、それは鉄、炭素、及び少なくとも1種の遷移元素のフェロアロイである。また、他の成分については、この成分を形成している鉄が実質的に冶金炭素又は遷移元素以外の不純物又は介在物を含まないことが好ましい。好適な工具鋼粉末としては、特に限定されるものではないが、Powdrexから市販されているM系工具鋼粉末がある。
【0042】
本発明の混合物の第6の成分は、粉末珪酸マグネシウム水和物(タルクとして市販)、MoS2又はCaF2などの固形滑剤である。もちろん、限定されるものではないが二硫化物又はフッ化物系の固形滑剤をはじめとする通常の固形滑剤を本発明の混合物とともに使用してもよい。
【0043】
本発明の混合物の第7の成分はグラファイトであり、これは混合物の0.5〜2%を占める。グラファイトは、好ましくは圧縮成形用混合物に炭素を添加する好ましい手段である。グラファイト粉末の好適な供給源の1つとしてSouthwestern 1651級があり、これはSouthwestern Industries Incorporatedの製品である。
【0044】
本発明の混合物の第8の成分として粉末滑剤があり、これは混合物の0.3〜1.0%に相当する。粉末滑剤は焼結工程中に焼却又は熱分解されるので、本明細書では一時滑剤又は不安定滑剤と呼ばれている。好適な滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ワックス類、専売ではあるが市販の焼結時に揮発するエチレンステアリン酸アミド組成物など通常のワックス又は脂肪系材料が挙げられる。かかる好適な粉末滑剤の1つとして、Glyco Chemical Co.から市販されているACRAWAX Cがある。
【0045】
本発明の混合物の残部は、好ましくは0.6〜2.0%のMo、0〜5%のNi及び0〜3%のCuを含有する低合金鋼粉末である。好適な低合金鋼粉末ブレンドとしては、Hoeganaes Corporationから入手できる85HP又は150HPがある。
【0046】
粉末冶金用混合物は均一な混合物を得るのに十分な時間、十分に混合される。通常、混合物は30分〜2時間、より好ましくは45分〜1時間半、最も好ましくは約1時間混合され、均一な混合物が得られる。ボールミキサーなどいずれの好適な混合手段を用いてもよい。
【0047】
次いでこの混合物を、好ましくは50〜65トン/平方インチ(TSI)(689〜896MPa)の圧縮成形圧、より好ましくは57〜63TSI(786〜869MPa)で、最も好ましくは約60TSI(827MPa)の圧力で圧縮成形する。この圧縮成形はプレスして生の圧縮成形体を形成し、6.7〜7.1g/cm3の所望の未加工密度、より好ましくは6.8〜7.0g/cm3、最も好ましくは約6.9g/cm3の密度を有する略成形体又はさらに成形体とするのに十分である。圧縮成形は通常所望の形のダイを用いて行われる。インサート部品製造用の鉄ベースの金属粉末の場合、滑らかにされた粉末混合物を少なくとも20TSI(276MPa)までプレスするが、通常はより高い圧力であり、例えば40〜60TSI(552〜827MPa)までプレスする。通常、35TSI(483MPa)より小さい圧力はほとんど用いられない。また、65TSI(896MPa)を越える圧力が有用ではあるが、極端に高価になる可能性がある。そして、圧縮成形は一軸または平衡のいずれかで実施できる。
【0048】
生の圧縮成形体は処理され、通常、圧縮成型体の焼結が起きる焼結炉に運ばれる。焼結とは、圧縮成型体の大部分の成分の液相温度以下に圧縮成型体を加熱することによる圧縮成型体中の隣接面の結合である。
【0049】
本発明の焼結条件には、通常の焼結温度、例えば1040〜1150℃(最も好ましくは約1100℃)が使用される。より高い焼結温度(1250〜1350℃、より好ましくは1270〜1320℃、最も好ましくは約1300℃)は選択的に、窒素(N2)と水素(H2)のガス混合物の還元雰囲気下で、20分〜1時間、好ましくは約30分間用いられる。焼結は1100℃より高い温度で、それらの接触点で粉末粒子の拡散結合を達成し、完全な焼結塊を形成させるに十分な時間行われる。焼結は好ましくはN2/H2又は約−40℃のオーダーの露点を有する、関連した乾燥アンモニアなどの還元雰囲気下で行われる。焼結はまた、アルゴンのような不活性ガスを用いて行ってもよいし、また真空下で行ってもよい。
【0050】
有利には、得られた製品は焼結したままの条件及び/又は熱処理条件の双方で使用してよい。好適な熱処理条件としては、限定されるものではないが、圧縮粉末冶金部品のさらなる窒化、浸炭、浸炭窒化、又は蒸気処理がある。また、得られた製品を銅溶浸して熱伝導性を向上させてもよい。
【0051】
顕微鏡写真により、微細構造が、20〜30%、最も好ましくは約25%のオーステナイトマトリックス内に微細カーバイドを含有する相、5〜10%、好ましくは約7%のモリブデンリッチな硬質相、1〜5%、より好ましくは約2%の固形滑剤、及び残部として焼戻マルテンサイトからなることが明らかである。
【0052】
最終品の化学組成は以下の表5の通りである。
【0053】
【表5】

【0054】
好ましい具体例では、最終品の化学組成は以下の表6の通りである。
【0055】
【表6】

【0056】
また好ましい具体例では、銅溶浸による最終品の化学組成は以下の表7の通りである。
【0057】
【表7】

【0058】
図4には「新規」とみなされる本発明を用いて製造されたインサート材料(図中“NEW”と記載)と、「従来」とみなされる従来使用されていた材料(図中“CURRENT”と記載)のそれとの高温硬さ比較が示されている。従来材料はこれまでエンジンで使用されおり、次のような化学物質含量を有する市販の製品である:C 1.05〜1.25%、Mn 1.0〜2.7%、Cr 4.0〜6.5%、Cu 2.5〜4.0%及びNi 1.6〜2.4%。また、硬さHvは、標準的なビッカース硬度試験に関して示される。試験手順の説明はY.S.Wangら,“The Effect of Operating Conditions on Heavy Duty Engine Valve Seat Wear",WEAR201(1996)に明らかである。
【0059】
図5はシート磨耗リグ比較試験結果を示し、図6はシート磨耗リグ試験データを示している。シート磨耗リグ限界はリグ試験を通過した材料明示限界である。リグ磨耗試験法の説明はY.S.Wangら,"The Effect of Operating Conditions on Heavy Duty Engine Valve Seat Wear" ,WEAR201(1996)に明らかである。図6では、固形滑剤(図中“SOLID LUBRICANT”と記載)はMoS2である。硬質相(図中“HARD PHASE”と記載)はFe−Mo粒子を表す。
【0060】
図7は本発明と先行技術間の機械加工性比較のグラフである。機械加工性試験法の説明は、H.Rodrigues,"Sintered Valve Seat Inserts and Valve Guides:Factors Affecting Design,Performance,and Machinability,"Proceedings of the International Symposium on Valvetrain System and Design Materials,(1997)に示されている。
【0061】
これらの図を注意深くみると、本発明で達成される所望の特性が向上していることがわかる。本発明は長時間高温であっても高い耐磨耗性を与える。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、これらに限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
以下の処方に従い、ダブルコーンミキサー中で粉末を30分間混合する。混合物はバルブ鋼粉末20%(OMG Americasから入手できる23−8N、21−4N又は21−2Nなど)、Incoから入手できるニッケル5%、OMG Americasから入手できる銅2%、フェロアロイ粉末10%(ShieldAlloy製のFe−Mo粉末など)、工具鋼粉末10%(Powdrex製のM系工具鋼粉末など)、固形滑剤3%(Hohman Plating製の二硫化モリブデンなど)、Southwestern Graphite製のグラファイト1%、固形滑剤1%(Millwhite製の粉末珪酸マグネシウム水和物又はタルクなど)、Baychem製の不安定粉末滑剤ACRAWAX C 1%、及び残部として0.85〜1.5%のモリブデンを含有するHoeganaes製の低合金鋼粉末からなる。
【0064】
次いで、この混合物を6.8〜7.0g/cm3の密度まで圧縮成形する。焼結は90%窒素及び残部水素からなる還元雰囲気下で、2100°F(1149℃)で20〜30分間行う。焼結後、1.0の炭素ポテンシャルで1600°F(871℃)にて2時間浸炭させ、次いで油中で焼き入れする。浸炭後、窒素雰囲気下、800°F(427℃)にて1時間焼戻す。
【0065】
<実施例2>
以下の処方に従い、ダブルコーンミキサー中で粉末を30分間混合する。混合物はバルブ鋼粉末20%(OMG Americasから入手できる23−8N、21−4N又は21−2N等)、Inco製のニッケル5%、OMG Americas製の銅2%、フェロアロイ粉末10%(ShieldAlloy製のFe−Mo粉末等)、工具鋼粉末10%(Powdrex製のM系工具鋼粉末等)、固形滑剤3%(Hohman Plating製の二硫化モリブデン等)、Southwestern Graphite製のグラファイト1%、固形滑剤1%(Millwhite製の粉末珪酸マグネシウム水和物又はタルク等)、Baychem製の不安定粉末滑剤ACRAWAX C 1%、及び残部として1.5%のモリブデンを含有するHoeganaes製の低合金鋼粉末からなる。
【0066】
次いでこの混合物を6.8〜7.0g/cm3の密度まで圧縮成形し、Greenback 681粉末から銅スラッグを作製し、7.1〜7.3g/cm3の密度まで圧縮成形する。溶浸物を部品の上に置き、それらを90%の窒素及び残部水素からなる還元雰囲気下、2100°F(1149℃)で20〜30分間同時に焼結させて、最小7.3g/cm3の密度を達成する。焼結後、1.0の炭素ポテンシャルで1600°F(871℃)にて2時間浸炭させ、次いで油中で焼き入れする。浸炭後、窒素雰囲気下、800°F(427℃)にて1時間焼戻す。
【0067】
本発明の原理の応用を例示するために本発明の特定の具体例を示し、詳細に説明したが、本発明はかかる原理から逸脱しない限り他の方法でも具体化され得ることが理解されよう。
【符号の説明】
【0068】
10 バルブアセンブリ
12 バルブ
14 バルブステムガイド
16 バルブシート
18 インサート
24 シリンダーヘッド
26 キャップ
28 丸み
30 バルブステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分組成である粉末冶金用混合物。
【表1】

但し、バルブ鋼粉末は、Cr 19.3〜24.0質量%、Ni 1.5〜9.0質量%を含むバルブ鋼粉末であり、フェロアロイ粉末は、少なくともMo 60質量%を含むフェロモリブデンアロイ粉末であり、低合金鋼粉末はMo 0.6〜2.0質量%、Ni 0〜5質量%及びCu 0〜3質量%を含む低合金Mo鋼粉末である。
【請求項2】
前記粉末冶金用混合物が、圧力50〜65トン/平方インチ(689〜896MPa)で圧縮成形される請求項1記載の粉末冶金用混合物。
【請求項3】
前記一時滑剤が、ステアリン酸塩、ステアリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、エチレンビスステアリン酸アミド、及び合成ワックス滑剤からなる群より選択される請求項1記載の粉末冶金用混合物。
【請求項4】
前記固形滑剤が、水和マグネシウム珪酸塩鉱物、スルフィド滑剤、MnS、CaF2、WS2、MoS2、セレン化物滑剤、テルル化物滑剤及び雲母からなる群より選択される請求項1記載の粉末冶金用混合物。
【請求項5】
下記の工程を含む粉末冶金部品の製造方法:
・下記の成分組成の金属粉末混合物を準備する工程;
・均一に混合するために該混合物を混合する工程;
・少なくとも1段階で選択された緻密化圧縮にて、該混合された混合物を最小密度6.7g/cm3まで、少なくとも概略成形体へ生の緻密体を圧縮する工程;及び
・圧縮した生の緻密体を1段階で焼結させて、粉末冶金部品を製造する工程。
【表2】

【請求項6】
さらに、熱処理、蒸気処理及び銅溶浸処理からなる群より選択される処理工程を含む請求項5記載の粉末冶金部品の製造方法。
【請求項7】
熱処理工程が、粉末冶金部品を浸炭させる工程を含む請求項6記載の粉末冶金部品の製造方法。
【請求項8】
熱処理工程が、粉末冶金部品を浸炭窒化させる工程を含む請求項6記載の粉末冶金部品の製造方法。
【請求項9】
さらに粉末冶金部品を機械加工してバルブシートインサートとする工程を含む請求項6記載の粉末冶金部品の製造方法。
【請求項10】
低合金鋼粉末が、Mo 0.6〜2.0質量%、Ni 0〜5質量%及び銅 0〜3質量%を含む請求項6記載の粉末冶金部品の製造方法。
【請求項11】
フェロアロイ粉末が、フェロモリブデン粉末である請求項6記載の粉末冶金部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−216016(P2010−216016A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103580(P2010−103580)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【分割の表示】特願平11−329599の分割
【原出願日】平成11年11月19日(1999.11.19)
【出願人】(390033020)イートン コーポレーション (290)
【氏名又は名称原語表記】EATON CORPORATION
【Fターム(参考)】