説明

粒子または原材料上に被覆物を形成させる方法および属する製品

本発明は、被覆物(3)の少なくとも1つの成分への物体(2)の少なくとも1つの成分の化学的変換によって物体(2)の少なくとも1つの表面区間(4)上に少なくとも1つの被覆物(3)を形成させる方法に関する。この方法は、物体の成分として非金属の化合物を使用することによって特徴付けられている。この方法は、”固有”被覆(coating)と呼ばれてよい。それというのも、この被覆は、外部からの表面区間上への材料の塗布によって実施されるのではなく、粒子の成分の材料の変換によって実施されるからである。この方法によれば、被覆物の少なくとも1つの成分への物体の少なくとも1つの化学的変化によって形成された少なくとも1つの被覆物を有する、少なくとも1つの表面区間を有する物体を得ることができる。この物体は、物体の成分が非金属の化合物であることによって特徴付けられている。この物体の成分は、例えばクロリド−珪酸塩であり、このクロリド−珪酸塩は、発光物質として発光物質粒子の形で、光を放出するダイオード(LED)のルミネセンス変換体(7)に使用されている。この被覆物は、水和または加水分解によって発光物質を分解から保護する。この発光物質は、公知技術水準と比較して改善された長時間安定性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光物質粒子の少なくとも1つの成分を被覆物の少なくとも1つの成分に化学的に変性させることによって被覆物を粒子、例えば発光物質粒子または材料の表面上に形成させる方法に関する。それと共に、属する製品、例えば元来の材料の少なくとも1つの成分を被覆物の少なくとも1つの成分に化学的に変換することによって形成される、少なくとも1つの被覆を有する発光物質粉末が記載される。この製品は、粒子であるかまたは粒子からなる粉末または材料である。
【0002】
背景技術
冒頭に記載された方法および冒頭に記載された物体は、例えばアルミニウムの”不動態化”により公知である。この場合、この物体は、元素状アルミニウムからなる。酸素と接触される、物体の表面区間では、酸化アルミニウム(Al)への元素状アルミニウムの酸化が生じる。物体の成分のアルミニウムは、被覆物の成分である酸化アルミニウム化学的に変換される。この被覆物は、物体のアルミニウムを酸素によるさらなる酸化から保護する。
【0003】
欧州特許出願公開第1199757号明細書の記載から、耐水性被覆を有する発光物質粒子の形の物体は、公知である。この物体は、一次電磁波を二次電磁波に変換するための発光物質を有する発光物質粒子である。発光物質は、光を放出するダイオード(Light Emitting Diode, LED)から発せられる一次放射線を吸収し、その側で二次放射線を放出する。この場合、多数の発光物質粒子(発光物質粉末)は、LEDのエポキシ−ケーシング中に注入されている。
【0004】
この場合、発光物質粒子の被覆の成分は、有機材料、無機材料およびガラス状材料であることができる。前記物体の成分は、酸化物発光物質、硫化物発光物質、アルミン酸塩発光物質、硼酸塩発光物質、バナジン酸塩発光物質および珪酸塩発光物質から選択されていてよい。発光物質粒子の被覆は、それぞれ耐水性フィルムであり、この耐水性フィルムは、水の攻撃、ひいては発光物質の崩壊を阻止する。
【0005】
被覆を形成させるために、被覆の成分または被覆の成分の前駆物質は、外部から発光物質粒子の表面上に塗布される。例えば、そのために、ゾルゲル法またはCVD(Chemical Vapour Deposition)法が使用される。被覆を形成させるための前記方法は、時間がかかり、高価である。その上、この被覆が発光物質粒子の表面を完全に被覆することは、必ずしも保証されていない。その結果、発光物質粉末のルミネセンス能の減少をまねく。
【0006】
米国特許第5156885号明細書、欧州特許出願公開第753545号明細書、米国特許第6447908号明細書、米国特許第5593782号明細書、米国特許第4585673号明細書および欧州特許出願公開第928826号明細書の記載から、被覆された発光物質粒子は、公知である。被覆が外側から過剰に添加されることは、これらの全ての明細書の記載に共通することである。この被覆のための材料は、せいぜい発光物質粒子と一緒に唯一の反応器中で製造されるが、しかし、固有の前駆物質材料の添加を必要とする。
【0007】
発明の開示
本発明の課題は、簡単で安価である、請求項1記載の上位概念の記載の方法を記載することである。もう1つの課題は、被覆を発光物質粒子または顔料粒子上に簡単で安価に形成させうることを提示することである。
【0008】
この課題を解決させるために、請求項1の特徴が採用される。好ましい実施態様は、従属請求項に見出される。殊に、粒子の少なくとも1つの成分を被覆物の少なくとも1つの成分に変換することによって、被覆物を製造する方法が記載されている。この方法は、粒子の成分として非金属の化合物を使用することによって特徴付けられている。
【0009】
もう1つの課題は、被覆物を材料上に簡単で安価に形成させうることを提示することである。
【0010】
この課題を解決させるために、請求項19の特徴が採用される。好ましい実施態様は、従属請求項に見出される。
【0011】
殊に、被覆物を非金属材料上に形成させる方法が記載されており、この場合この被覆物またはその前駆物質は、反応性媒体との化学反応で材料を処理することによって1つ以上の工程で生成され、その際に、前記材料の少なくとも1つの成分は、被覆物の本質的な成分に変換される。
【0012】
例えば、被覆物は、設けられた使用条件からの材料の保護および/または好ましい光学的性質、例えば反射率の最少の増加、電磁線(色)および/または干渉色の好ましい吸収範囲および/または材料を被覆しおよび/または材料を分散させる媒体に対する改善された親和性を有する。
【0013】
この場合、前記材料は、殊にアルミン酸塩および/または硼酸塩および/または珪酸塩の群から選択された化合物、例えばアルカリ金属珪酸塩および/またはアルカリ土類金属珪酸塩またはアルカリ金属アルミン酸塩および/またはアルカリ土類金属アルミン酸塩、またはこれらの混合物である。この場合、アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素は、主族元素、例えばSb、Snおよび/またはPb、副族元素、例えばMn、Znおよび/またはCdまたは希土類元素(SE)、例えばユーロピウムによって部分的または完全に置換されていてよい。記載された珪酸塩またはアルミン酸塩のAlまたはSiは、GaもしくはInまたはGe、Sn、P、Pbによっておよび/または副族元素Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Moおよびタングステンによって部分的または完全に置換されていてよい。更に、記載された化合物の酸素Oは、N、P、PO3−、S、SO2−、SO2−、F、Cl、BrまたはIによって部分的または完全に置換されていてよい。
【0014】
この方法は、それぞれ”固有”被覆(coating)と呼ばれてよい。それというのも、公知技術水準と異なり、被覆は、外部からの表面区間上への材料の塗布によって実施されるのではなく、粒子の成分の材料の変換によって実施されるからである。この場合には、固有の粒子(元来の粒子)と被覆物との間に相境界が生じる。粒子の材料の化学的性質および/または物理的性質と被覆物の材料の化学的性質および/または物理的性質とは、互いに区別される。
【0015】
また、前記課題の解決のために、被覆物の少なくとも1つの成分への元来の材料の少なくとも1つの成分の化学的変換によって形成される少なくとも1つの被覆物を有する顔料または発光物質の粉末が記載される。この粉末は、前記成分が非金属の化合物であることによって特徴付けられる。この場合には、発光物質と一緒に殊に基礎材料に対してppmないし10%超の範囲内の少量のドーピング剤の添加によって入射光の波長を変換しうる顔料が考えられる。例えば、YAG:Ceの場合には、YAGが基礎材料(純粋な顔料)であり、Ceがドーピング剤である。双方の物質は、粉末としてかまたは単結晶としてかまたは材料として経済的に重要である。
【0016】
非金属の化合物は、最小単位が種々の化学元素の少なくとも2個の原子から構成されている物質である。この場合、この化合物の原子は、共有結合および/またはイオン結合、即ち非金属結合により互いに結合されている。有機化合物または金属有機化合物も考えられうる。しかし、有利には、無機の非金属化合物が使用される。
【0017】
1つの好ましい実施態様において、非金属の化合物は、アルミン酸塩および/または硼酸塩および/または珪酸塩の群から選択された少なくとも1つの混合酸化物である。このような化合物は、例えばアルカリ金属珪酸塩および/またはアルカリ土類金属珪酸塩またはアルカリ土類金属アルミン酸塩および/またはアルカリ土類金属アルミン酸塩、またはこれらの混合物である。この場合、アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素は、主族元素、例えばSb、Snおよび/またはPb、副族元素、例えばMn、Znおよび/またはCdまたは希土類元素(SE)、例えばユーロピウムによって部分的または完全に置換されていてよい。記載された珪酸塩またはアルミン酸塩のAlまたはSiは、GaもしくはInまたはGe、Sn、P、Pbによっておよび/または副族元素Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Moおよびタングステンによって部分的または完全に置換されていてよい。更に、記載された化合物のOは、N、P、S、F、Cl、BrまたはIによって置換されていてよい。前記に記載された物質種は、殊に全てが粒子およびその被覆物のために使用することができ、顔料ならびに発光物質のために使用されてもよい。
【0018】
化学的変換は、被覆物の成分への物体の成分の任意の化学反応を含む。化学反応としては、例えば酸化または還元を考えることができる。また、化学反応は、被覆物の成分への物体の成分の縮合であってもよい。全ての場合に、化学結合の破断および/または形成を生じる。
【0019】
被覆物の成分への物体の成分の化学結合は、唯一の工程で行なうことができる。特に、化学的変換は、少なくとも1つの中間工程を介して行なわれる。1つの特殊な実施態様において、被覆物の成分への物体の成分の化学的変換は、次の工程:a)被覆物の成分の少なくとも1つの前駆物質への物体の成分の化学的変換およびb)被覆物の成分への被覆物の成分の前駆物質の化学的変換を有する。前記物体の成分の化学的変換は、中間体工程としての被覆物の成分の前駆物質より行なわれる。この場合には、化学的変換がこの種の中間体工程により進行することが考えられる。
【0020】
好ましくは、被覆物の成分の前駆物質への物体の成分の化学的変換および/または反応性媒体の存在での被覆物の成分への被覆物の成分の前駆物質の化学的変換が行なわれる。反応性媒体または反応性媒体の成分は、物体の成分および/または被覆物の成分の前駆物質と反応される。反応性媒体は、液状であってもよいし、ガス状であってもよい。
【0021】
例えば、物体は、クロリド−珪酸塩からなる発光物質粒子である。鉱酸、例えば塩酸もしくは硝酸または有機酸、例えば酢酸の攻撃によって、表面的にクロリドイオンおよびアルカリ土類金属イオンは、クロリド−珪酸塩から溶解される。記載された攻撃のために、反応性媒体は、例えば記載された酸の水溶液からなる。この溶液は、水を溶剤として有する。しかし、殊にプロトゲン(プロトン性)の有機溶剤、例えばエタノールまたはエチレングリコールを有する十分に無水の溶液も考えられる。十分に無水であるとは、溶剤に対する水の含量が5容量%未満であることを意味する。しかし、また、水および/または多数のプロトゲンの有機溶剤からなる混合物も考えられる。これは、多数の利点を含む。水の含量および/または最高の解離定数を有する溶剤の含量の変動により、保護層の形成速度を制御することができる。高粘稠な溶剤を添加することによって、混合物の粘度、ひいては媒体の反応物質に対する拡散定数を調節することができる。それによって、化学的変換は、十分に拡散調節される。それによって、物体の表面区間での隆起部は、有利に攻撃され、その結果、平坦化される。この表面区間は、被覆物を備えていないだけでなく、その上、研磨されている。特に平滑な被覆物が生じる。平滑な被覆物は、比較的に小さな反応性表面のために、反応性物質の攻撃に対して特に安定性を有している。
【0022】
クロリドイオンおよびアルカリ土類金属イオンの溶解によって、物体の表面区間では、オルト珪酸(HSiO)またはオルト珪酸の小さな縮合生成物(オリゴマー)、例えばオルト二珪酸(HSi)を有する層が生じる。オルト珪酸またはその小さな縮合生成物は、物体の表面上に不溶性の層または難溶性の層として留まる。次に、この物質は、水分子の分離下に反応して縮合された珪酸に変わる。縮合された珪酸は、例えばポリ珪酸(H2n+2Si3n+1)またはメタ珪酸(HSiOである。縮合された珪酸からなる、物体の被覆物が生じる。クロリド−珪酸塩、即ち物体の成分から、オルト珪酸、即ち被覆物の成分の前駆物質を経て縮合された珪酸、即ち被覆物の成分は、形成される。
【0023】
記載された方法は、反応性媒体の長時間の作用時に物体の表面区間の粗面化を生じる。この粗面化は、物体、被覆物または被覆物の前駆物質の他の成分が部分的に反応性媒体中に溶解されることによって惹起される。それによって、表面区間は、不均一に浸食されうる。粗面化は、所望されうる。例えば、それによって、被覆物の表面性状は、被覆物と被覆物の周囲との間で特に良好な付着力(Adhaesion)が達成されるように変化される。例えば、発光物質粒子からなる発光物質粉末は、エポキシ樹脂中に注入される。被覆物の荒さの意図的な影響によって、エポキシ樹脂と発光物質粒子との間の付着力は、改善されうる。これは、発光物質粒子とエポキシ樹脂とからなる複合体の改善された長時間安定性を生じうる。
【0024】
被覆物の粗面化に意図的に影響を及ぼすために、1つの特殊な実施態様において、反応性媒体は、物体の他の成分、被覆物の成分の前駆物質および/または被覆物の成分のさらなる化学的変性を抑制する抑制剤と一緒に使用される。抑制剤は、有利に反応性媒体中で可溶性である。抑制剤の存在は、さらなる化学的変性の十分な中断を生じる。それによって、被覆物の均一な成長を生じる。例えば、抑制剤は、被覆物の他の成分、被覆物の成分の前駆物質または被覆物の成分であるかまたはこれらの誘導体である。この誘導体は、簡単に記載された構成成分に変化されうる。
【0025】
珪酸塩の場合には、他の成分は、酸化珪素残基または珪酸である。特に、物体の他の成分としては、珪酸塩が使用され、抑制剤としては、珪酸、殊にオルト珪酸が使用される。オルト珪酸を形成させるために、水性媒体中で可溶性の任意の珪酸塩が使用されうる。特に、オルト珪酸の形成のために、抑制剤として水ガラスが使用される。水ガラスは、NaSiOおよび/またはKSiOからなる。水ガラスは、水のプロトンを有する水溶液中でオルト珪酸を形成する。オルト珪酸の形成は、酸性媒体中で促進される。この場合、反応性媒体中でのオルト珪酸の存在は、物体の珪酸塩残基からの溶解または被覆物の珪酸からの溶解のみを抑制しうるのではない。反応性媒体中に存在するオルト珪酸は、付加的に被覆物中に貯蔵されうる。反応性媒体は、組み入れられる成分と一緒に使用される。この場合には、特に緻密で安定した被覆物が生じる。
【0026】
1つの特殊な実施態様において、被覆物の成分の前駆物質への物体の成分の化学的変換のためおよび/または被覆物の成分への被覆物の成分の前駆物質の化学的変換のために、物体および/または被覆物の少なくとも1回の熱処理が実施される。例えば、物体の表面区間は、熱い反応性媒体に晒される。この場合には、固有に物体の熱処理が行なわれる。例えば、クロリド−珪酸塩からのクロリドイオンおよびアルカリ土類金属イオンの溶解は、酸の熱い溶液での物体の処理によって促進されうる。この熱処理の場合には、同時にポリ珪酸へのオルト珪酸の縮合も促進される。
【0027】
更に、付加的に、クロリドイオンおよびアルカリ土類金属イオンの溶解後の物体の熱処理によって、ポリ珪酸へのオルト珪酸の縮合が促進されうる。この後熱処理は、殊にオルト珪酸またはその少量の縮合生成物からなる層でのクロリド−珪酸塩からなる物体のか焼を含む。物体の緻密な保護層が生じる。十分に無水の溶剤を使用した場合には、直接にオルト珪酸の形成によって、物体の表面区間上でのオルト珪酸の大きな縮合生成物の形成を生じる。比較的に緻密な被覆物が直ちに形成され、したがって次のか焼は、低い温度で実施されてもよいし、場合によっては中断されてもよい。これは、物体がか焼によって損なわれないという利点を有する。
【0028】
好ましくは、化合物としてクロリド−珪酸塩が使用され、被覆物の成分として縮合された珪酸が使用される。殊に、クロリド−珪酸塩は、形式的組成式Ca8−XSEMg(SiO)Cl、但し、Xは、0以上、1以下であるものとし、を有する。この場合SEは、任意の希土類元素である。もう1つの実施態様において、希土類元素は、少なくとも部分的にMnによって置換されている。
【0029】
好ましくは、物体の表面区間は、物体の全表面積を含む。被覆物は、物体の全表面積上に配置されている。被覆物が外側からもたらされるのではなく、物体の成分から形成されることによって、簡単な方法で、物体の全表面積に亘って十分な被覆物を得ることができる。
【0030】
殊に、前記被覆物は、ナノメートルの範囲から選択された層厚を有する。これは、被覆物が数十分の一nmないし数百nm、殊に50〜500nmの厚さであることができることを意味する。層厚は、種々の処理パラメーター、例えば反応性媒体、温度、反応時間等により影響を及ぼされうる。即ち、マイクロメートルの範囲、即ち数十分の一μmないし数百μmの層厚を得ることもできる。
【0031】
殊に、前記被覆物は、物体の成分および/または物体の他の成分と物体の環境中の少なくとも1つの成分との化学反応を阻止するための保護層である。この環境は、例えば空気であり、この空気の成分は、水であり、前記物体は、加水分解可能な材料からなる。前記方法によって、撥水性の被覆物が物体の表面上に製造される。撥水性の被覆物は、水和および場合によっては次の加水分解、ひいては加水分解可能な材料の分解を阻止する。従って、前記物体は、湿った環境中で貯蔵されてもよいし、使用されてもよい。
【0032】
1つの特殊な実施態様において、前記物体は、一次電磁波を二次電磁波に変換するための発光物質を有する。この物体は、発光物質粉末の発光物質粒子である。発光物質粉末の発光物質粒子は、例えばエポキシ樹脂からなるLEDの変換層中に注入される。LEDは、一次電磁波を発し、この一次電磁波は、発光物質によって吸収され、二次電磁波に変換される。LEDは、例えばUVスペクトル領域または可視スペクトル領域からの波長を有する一次放射線を放出する。殊に、青色のスペクトル領域からの波長を有する一次放射線を考えることができる。この種の一次放射線を有するLEDは、例えば”活性”層としてガリウムインジウム窒化物(GaInN)からなる半導体層を有する。一次放射線の強度の最大は、約450nmである。
【0033】
発光物質粒子の被覆物は、一次放射線および二次放射線にとって十分に透明である。一次放射線および二次放射線は、被覆物を透過しうる。これは、殊に予め設けられた製造方法によれば、被覆物の極めて僅かな層厚を得ることができることによって達成される。僅か層厚のために、一次放射線および二次放射線に対して被覆物の吸光度は、低い(透過率は、高い)。
【0034】
総括的に、本発明によれば、次の利点が生じる:
・ 被覆物は、物体の表面区間での物体の成分の化学的変換によって形成される。それによって、公知技術水準と比較して物体の表面区間での均一な被覆物を得ることができる。
・ ナノメートル範囲での層厚を有する薄手で均一の緻密な被覆物を得ることができる。
・ 薄手の被覆物によって、環境の反応成分と比較して物体の化学的安定性(不活性)を明らかに改善することができる。
・ 反応性媒体を水の乏しいかまたは無水の溶剤または抑制剤と一緒に使用する場合には、被覆物の表面性状は、意図的に影響を及ぼされうる。
・ 記載された方法は、物体の表面性状の被覆物を形成させるための方法と極めて簡単に組み合わせることができ、この場合この被覆物は、外側から物体の表面上に塗布される。
・ 殊に、被覆された発光物質粒子を有する発光物質粉末を得ることができる。発光物質粒子は、空気の湿分に対して安定性である。発光物質粒子のルミネセンス特性は、被覆物によって殆んど影響を及ぼされず、長時間に亘って十分に低減されないままである。
・ 本方法は、任意の物体の存在する製造方法に簡単に組み込むことができる。例えば、発光物質粒子の製造の経過中に数回洗浄処理は、実施される。この洗浄処理は、発光物質の湿式化学的処理によって補充されうる。
【0035】
多数の実施例およびそれに属する図につき、物体の表面区間上に被覆物を形成させる方法および被覆物を有する物体が説明される。図は、略示されており、正確な尺度の図ではない。
【0036】
発明を実施するための最良の形態
被覆された物体1は、発光物質粉末の発光物質粒子である(図1)。この物体(発光物質粒子)2は、表面区間4上に被覆物3を有する。この表面区間は、物体2の全表面積を含む。物体2は、完全に被覆物3によって包囲されている。物体2の成分は、形式的組成式Ca8−XSEMg(SiO)Cl、但し、Xは、0以上、1以下であるものとし、を有する化合物クロリド−珪酸塩である。被覆物3は、縮合された珪酸からなる。この被覆物の層厚5は、ナノメートル範囲内にある。
【0037】
被覆物3は、発光物質粒子2の表面区間4上に、オルト珪酸への発光物質粒子2のクロリド−珪酸塩の化学的変性またはオルト珪酸の小さな縮合生成物への発光物質粒子2のクロリド−珪酸塩の化学的変性によって形成される(被覆物3の成分の前駆物質、図3参照、参照符号31)。そのために、クロリド−珪酸塩から最初にCa含量、Mg含量、Eu含量およびCl含量は、酸の作用によって溶解される。この場合には、”原位置で”発光物質粒子2の表面区間4上でオルト珪酸からなる層またはオルト珪酸の小さな縮合生成物が形成される。次に、オルト珪酸が縮合された珪酸からなる被覆物3に変換されるかまたはオルト珪酸の少量の縮合生成物が縮合された珪酸からなる被覆物3に変換される(図3、参照符号32参照)。化学的変性として、被覆物3の成分の前駆物質の縮合が行なわれる。縮合は、前駆物質で被覆された発光物質粒子2のか焼によって予め行なわれる。
【0038】
被覆された発光物質粒子1は、LED6のルミネセンス変換体7中で使用される。LED6の活性の半導体層は、GaInNである。ルミネセンス変換体7は、エポキシ樹脂からなり、このエポキシ樹脂中には、発光物質粒子1が埋設されている。発光物質粒子1の発光物質は、LEDによって放出される、青色のスペクトル領域(約450nmで放出最大)からの一次電磁波8を吸収し、その側で緑色のスペクトル領域からの二次電磁波9を放出する。一次放射線8は、部分的にルミネセンス変換体7を透過するので、一次放射線および二次放射線からなる青緑色の混合色が生じる。発光物質粒子1は、被覆物3に基づく高い貯蔵安定性を有する。従って、ルミネセンス変換体7を用いてのLED6の遅速な運転の場合にも、色の位置の移動は、殆んど生じない。GaInNチップと一緒の白色のLEDへの使用のためには、例えば米国特許第5998925号明細書の記載と同様の構造が使用される。
【0039】
実施例1:
被覆物3をもたらすために、発光物質粉末10gを攪拌しながら80℃の熱い水200mlと一緒にガラス容器中に入れる。この温度で、約3モルの鉱酸(塩酸)を添加することによって、pH値を調節する。このために選択的に、pH値を有機酸(酢酸)を用いて調節する。pH値を8.3に維持する。約2mlの酸の添加および2分間の処理時間の後、このpH値は、近似的に達成される。更に、極めて遅速にさらに酸を前記pH値で添加する。20分後、処理を中断する。得られた発光物質粉末を濾別し、乾燥する。引続き、発光物質粉末を熱処理する。この粉末を300℃で2時間真空下にか焼する。
【0040】
図4には、発光物質粉末が水性の環境内に存在する場合に、%での加水分解されたクロリド−珪酸塩の含量40が秒での反応時間41(加水分解の時間)と共に変化することを示す。加水分解されたクロリド−珪酸塩の含量40は、加水分解速度、ひいては発光物質粉末の長時間安定性のための1つの基準である。クロリド−珪酸塩からなる被覆されていない発光物質粒子の加水分解されたクロリド−珪酸塩の含量42の時間的変化およびクロリド−珪酸塩からなる被覆された発光物質粒子の加水分解されたクロリド−珪酸塩の含量43の時間的変化がプロットされている。加水分解速度は、被覆物3によって明らかに減少されている。図5には、被覆された発光物質粉末が種々の倍率で示されている。表面は、平滑でなく、均一でなく、元来の層の変性および部分的な溶解に基づき不均一に構造化されている。生じる層は、カリフラワー状に作用する腫れ物を思い出させる。この層は、粗く砕けやすく、一定の層厚を全く有していない。本明細書中に記載された層厚は、常に最大の層厚に関連する。別の材料の場合および本明細書中に記載されたような別の添加剤を使用する場合には、砕けやすい表面の代わりに、多少とも平滑な表面が使用されてもよい。達成可能な層厚は、全体的に1000nmまでである。
【0041】
実施例2:
発光物質粉末10gを攪拌しながら60℃の熱い無水エチレングリコール200mlと一緒にガラス容器中に入れる。微少量の無水酢酸を連続的に添加しながら、被覆物3の形成を制御する。酢酸の全体量を発光物質粉末約10%が30分間で反応される程度に定める。酢酸の添加の終結後に得ることができる発光物質粒子2は、既に被覆物3を有している。この被覆された発光物質粒子を濾別し、エタノールで洗浄し、空気で約125℃で数時間乾燥させ、真空中で250℃で数時間乾燥させる。
【0042】
実施例3:
実施例1を拡張した場合に、付加的に塩酸に20%の水ガラス溶液1g〜3gを添加する。それによって、反応性媒体中には、発光物質粒子の表面区間からの珪酸の溶解を抑制剤として抑制するオルト珪酸が存在する。同時に、オルト珪酸を被覆物3中に組み込む。これは、被覆物の均一な成長を促進する。
【0043】
実施例4:
固有の酸化ガリウム被覆を次の基本原理によりチオ没食子酸塩発光物質上に形成させる。チオ没食子酸塩発光物質を定義されかつ制御されたpH条件下で部分的に表面的に加水分解する(工程1)。この場合には、表面上に処理条件に依存して水酸化ガリウムの定義された調節可能な層厚が生じる。引続き(工程2)、この層を温度処理工程で酸化ガリウムに変換する:
1)SrGaS+3HO+2HCOOH→2Ga(OH)↓+4HO↑+Sr+2COOH−
2)2Ga(OH)→Ga+3HO↑
実施:ガス導入管/フリット、攪拌機、ヒーターおよびpH電極を備えた反応容器中に0.5N酢酸ナトリウム溶液500mlを入れ、40〜80℃、有利に55℃に加熱する。チオ没食子酸塩発光物質、例えばチオ没食子酸ストロンチウム10gの添加後、強力に攪拌しながらガス導入管(窒素)および計量供給装置を用いて、例えば蟻酸(また、酢酸または塩酸)を、3〜6、特に4.6のpH値が達成されるまで供給する。蟻酸の供給を3.5〜5.5、特に4.4〜4.8のpH値が維持されるように調節する。望ましい層厚(これは、反射率の最少の増加の際に安定性の要求によって定められる)に応じて、処理を15分間ないし6時間、特に30分間ないし60分間実施する。こうして被覆された発光物質を濾別し、アルコール、特に97%のエタノールで洗浄し、80℃〜250℃、特に150℃で場合によっては真空下に乾燥させる。乾燥された発光物質を、保護ガス(特に窒素)の流動下に1〜100ml/分、特に10〜20ml/分の貫流量で、250℃〜800℃、特に650℃〜700℃の温度で1〜12時間、特に2〜3時間に亘って灼熱する。次に、生成される被覆された発光物質は、既に直ちに使用可能である。
【0044】
1つの具体的な例は、図6に示されており、この場合には、型(Ba、Ca、Mg)−チオ没食子酸塩の発光物質の量子効率および反射率が示されており、実際に一方で、放出スペクトル(被覆されていない発光物質粉末と被覆された発光物質粉末)および反射スペクトル(同様に被覆されていない発光物質粉末と被覆された発光物質粉末)の比較が示されている。この被覆物は、発光物質の特性を次のように改善する:この効率は、400nmでの励起に対して82.1%から84.9%に上昇し;反射率は、再び400nmでの励起に対して15.4%から27%の上昇する。
【0045】
実施例5:
殊にクロリド−珪酸塩を基礎とする、珪酸塩含有の発光物質粒子の場合と同様に、SiOからなる保護層を取得することができ、アルミン酸塩含有の発光物質粒子の場合には、Alからなる保護層を形成させることができる。硼酸塩の場合には、酸化硼素が層として形成されうる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】被覆された発光物質粒子の1つの区間を示す断面図。
【図2】発光物質粒子を有するルミネセンス変換層を備えたLEDの1つの区間を示す断面図。
【図3】被覆物を発光物質粒子の表面区間上に形成させる方法を示すブロック図。
【図4】被覆物なしおよび被覆物ありの発光物質粒子からなる発光物質粉末の加水分解速度を示す線図。
【図5a】被覆された発光物質粉末の粒子構造を1000倍の倍率で示す略図。
【図5b】被覆された発光物質粉末の粒子構造を4000倍の倍率で示す略図。
【図6a】被覆された発光物質粉末と被覆されていない発光物質粉末との量子収量の比較を示す線図。
【図6b】被覆された発光物質粉末と被覆されていない発光物質粉末との反射率の比較を示す線図。
【符号の説明】
【0047】
1 被覆された物体、 2 発光物質粒子、 3 被覆物、 4 表面区間、 5 被覆物の層厚、 6 LED、 7 ルミネセンス変換体、 8 一次電磁波、 9 二次電磁波、 40 加水分解されたクロリド−珪酸塩の含量、 41 秒での反応時間、 42 被覆されていない発光物質粒子の加水分解されたクロリド−珪酸塩の含量、 43 被覆された発光物質粒子の加水分解されたクロリド−珪酸塩の含量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子または発光物質粒子の表面上に被覆物(3)を形成させる方法において、発光物質粒子(2)の少なくとも1つの元来の成分を被覆物(3)の少なくとも1つの成分中に化学的に変性させることによって被覆物を形成させ、その際に発光物質粒子(2)の元来の成分として非金属の化合物を使用することを特徴とする、顔料粒子または発光物質粒子の表面上に被覆物(3)を形成させる方法。
【請求項2】
被覆物(3)の成分への粒子(2)の成分の変換は、次の工程:
a)被覆物の成分の少なくとも1つの前駆物質への粒子の成分の化学的変換(31)および
b)被覆物の成分への被覆物の成分の前駆物質の化学的変換(32)を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反応性媒体の存在での被覆物の成分の前駆物質への粒子の成分の化学的変換および/または被覆物の成分への被覆物の成分の前駆物質の化学的変換が行なわれる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
被覆物の成分の前駆物質への粒子の成分の化学的変換のためおよび/または被覆物の成分への被覆物の成分の前駆物質の化学的変換のために、粒子および/または被覆物の少なくとも1回熱処理、殊に温度処理を実施する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
反応性媒体を、物体のもう1つの成分、被覆物の成分の前駆物質および/または被覆物のさらなる化学的変換を抑制する抑制剤と一緒に使用する、請求項3記載の方法。
【請求項6】
粒子の成分として珪酸塩を使用し、抑制剤として珪酸を使用する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
被覆物中に組み入れられる成分を有する反応性媒体を使用する、請求項3記載の方法。
【請求項8】
被覆物(3)の少なくとも1つの成分への物体(2)の少なくとも1つの成分の化学的変換によって形成された被覆物(3)を有する顔料または発光物質の粒子からなる粉末において、粒子(2)の成分が非金属の化合物であることを特徴とする、粉末。
【請求項9】
粒子の全表面が変化する層厚で被覆物で被覆されており、この被覆物の構造が殊に粗く砕けやすく、カリフラワーの場合に類似している、請求項8記載の粉末。
【請求項10】
被覆物(3)がnmの範囲、殊に50〜1000nm、殊に500nmまでから選択された層厚(5)を有する、請求項8記載の粉末。
【請求項11】
被覆物(3)が保護層である、請求項8記載の粉末。
【請求項12】
非金属の化合物がアルミン酸塩および/または硼酸塩および/または珪酸塩の群から選択された少なくとも1つの混合酸化物である、請求項8記載の粉末。
【請求項13】
珪酸塩がクロリド−珪酸塩である、請求項12記載の粉末。
【請求項14】
クロリド−珪酸塩が形式的組成式Ca8−XSEMg(SiO)Cl、但し、Xは、0以上、1以下であるものとし、を有し、この場合SEは、希土類元素である、請求項13記載の粉末。
【請求項15】
希土類元素SEが少なくとも部分的にMnによって置換されている、請求項14記載の粉末。
【請求項16】
希土類元素がEuである、請求項15記載の粉末。
【請求項17】
被覆物(3)の成分が縮合された珪酸である、請求項8記載の粉末。
【請求項18】
請求項8から17までのいずれか1項に記載の発光物質粉末を有するLEDにおいて、この発光物質が一次電磁波に晒されており、二次電磁波へのLEDの一次電磁波の部分的または完全な変換のために使用されていることを特徴とする、請求項8から17までのいずれか1項に記載の発光物質粉末を有するLED。
【請求項19】
被覆物(3)またはその前駆物質を反応性媒体との化学反応での非金属材料の処理によって1つ以上の工程で生成することにより、非金属の材料の表面(4)上に被覆物(3)を形成させる方法において、前記材料の少なくとも1つの成分を被覆物の本質的な成分に変換することを特徴とする、非金属の材料の表面(4)上に被覆物(3)を形成させる方法。
【請求項20】
被覆物(3)の少なくとも1つの成分への材料(2)の表面の少なくとも1つの元来の成分の化学的変換によって被覆物を形成させ、その際に発光物質粒子(2)の元来の成分として非金属の化合物を使用する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記材料がアルミン酸塩および/または硼酸塩および/または珪酸塩から選択された化合物、殊にアルカリ金属珪酸塩および/またはアルカリ土類金属珪酸塩もしくはアルカリ金属アルミン酸塩および/またはアルカリ土類金属アルミン酸塩またはこれらの混合物である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
アルカリ金属元素および/またはアルカリ土類金属元素が主族元素、例えばSb、Snおよび/またはPb、副族元素、例えばMn、Znおよび/またはCdまたは希土類元素(SE)、例えばユーロピウムによって部分的または完全に置換される、請求項20記載の方法。
【請求項23】
記載された珪酸塩またはアルミン酸塩のAlまたはSiがGaもしくはInまたはGe、Sn、P、Pbによっておよび/または副族元素Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Moおよびタングステンによって部分的または完全に置換される、請求項21記載の方法。
【請求項24】
記載された化合物の酸素OがN、P、PO3−、S、SO2−、SO2−、F、Cl、BrまたはIによって部分的または完全に置換される、請求項21記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6a】
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【図6b】
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【公表番号】特表2006−523245(P2006−523245A)
【公表日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504274(P2006−504274)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/DE2004/000632
【国際公開番号】WO2004/087831
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(599133716)オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (586)
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
【住所又は居所原語表記】Wernerwerkstrasse 2, D−93049 Regensburg, Germany
【Fターム(参考)】