説明

粗面密着性に優れた蓄光再帰反射シート

【課題】
災害停電時に避難誘導のための案内表示が視認でき、さらに懐中電灯などの光源からの光を照射すると再帰反射により高い視認性を発揮する施工性に優れた、駅のプラットホーム、建築物の出入口部、通路等の凹凸のある床面や壁面で利用できる蓄光再帰反射シートを提供することを目的とする。
【解決手段】
再帰反射層を有するシートにおいて、前記再帰反射層の下面側に蓄光層を、透明基材層を介して積層し、さらに、前記再帰反射層の上面側に表面保護層を積層し、前記再帰反射層の蓄光層側に粘着剤層を介してアルミシートを積層し、前記表面保護層の全光線透過率が80%以上であり、前記アルミシートを積層後の前記蓄光再帰反射シートの全層における引裂強度が50N/mm以上であることを特徴とする蓄光再帰反射シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駅のプラットホーム、建築物の出入口部、通路等の床面や壁面で利用できる蓄光再帰反射シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、暗がりで発光する蓄光材料や蛍光顔料を含有するシートが知られている。例えば、特許文献1では、少量の蓄光材で蓄光輝度が上がり、蓄光時間が長い蓄光シートとして、耐熱性透明シリコン剤中にセラミック蓄光材と再帰反射性ガラスビーズ粒を混合した蓄光シートを開示している。しかしながら、セラミック蓄光材とガラスビーズ粒とをシート全体に混合し、特に災害時の停電に備え周囲の状況を視認でき、避難できる時間と明るさを目的としたものであって、シートの耐久性および舗装路などの凹凸面への追従性や接着性の点では不十分であった。
【特許文献1】特開2005−115300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、災害停電時に避難誘導のための案内表示が視認でき、さらに懐中電灯などの光源からの光を照射すると再帰反射により高い視認性を発揮する施工性に優れた、駅のプラットホーム、建築物の出入口部、通路等の凹凸のある床面や壁面で利用できる蓄光再帰反射シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
[1]再帰反射層を有するシートにおいて、前記再帰反射層の下面側に蓄光層を、透明基材層を介して積層し、さらに、前記再帰反射層の上面側に表面保護層を積層し、前記再帰反射層の蓄光層側に粘着剤層を介してアルミシートを積層し、前記表面保護層の全光線透過率が80%以上であり、前記アルミシートを積層後の前記蓄光再帰反射シートの全層における引裂強度が50N/mm以上であることを特徴とする蓄光再帰反射シート。
【0005】
[2]再帰反射層を有するシートにおいて、前記再帰反射層の上面側に印刷層を、下面側に蓄光層をそれぞれ透明基材層を介して積層し、さらに、前記再帰反射層の印刷層側に表面保護層を積層し、前記再帰反射層の蓄光層側に粘着剤層を介してアルミシートを積層し、前記表面保護層の全光線透過率が80%以上であり、前記アルミシートを積層後の前記蓄光再帰反射シートの全層における引裂強度が50N/mm以上であることを特徴とする蓄光再帰反射シート。
【0006】
[3]前記アルミシートの厚さが20μm〜100μmであることを特徴とする前項1または2に記載の蓄光再帰反射シート。
【発明の効果】
【0007】
[1]の発明では、下記の効果を有する。
ア、蓄光再帰反射シートを構成する再帰反射層の下面側に透明基材層を介して蓄光層が積層されているので、災害停電時など暗闇でも蓄光層が発光するので視認性を発揮することができる。
イ、前記再帰反射層の上面側に表面保護層を積層しているので、再帰反射層の損傷を保護することができる。
ウ、蓄光再帰反射シートは、再帰反射層が積層されているので、懐中電灯などの光源からの光を照射すると再帰反射により高い視認性を発揮することができる。
エ、再帰反射層の蓄光層側に粘着剤層を介してアルミシートを積層しているので、床面に不陸がある場合にも、床面への追従性が良く、施工性に優れる蓄光再帰反射シートとなる。
オ、前記表面保護層の全光線透過率が80%以上であるので、前期表面保護層の下面側に積層される層の意匠をそのまま表現することができる。
カ、前記アルミシートを積層した後の前記蓄光再帰反射シートの全層における引裂強度が50N/mm以上であるので、頻繁な歩行により、前記蓄光再帰反射シートが裂けたり、破れたりする問題が生じない。
【0008】
[2]の発明では、[1]の発明による効果に加えて、印刷層が積層されているので、線、文字、図形、記号等を表示でき、さらに、前記表面保護層の下面側に印刷層を積層しているので、表面の摩擦等により、印刷された文字や図形がかすれる事がないものとすることができる。
【0009】
[3]の発明では、厚さが20μm〜100μmの前記アルミシートが積層された蓄光再帰反射シートであるので、敷設の際に、ハンマーやローラー等の適当な手段で上から叩いたり、押圧したりすることにより、駅のプラットホーム、建築物の出入口部、通路等の床面や壁面にある凹凸に沿って容易に変形させることができ、密着させた状態で施工することができる。また、厚すぎて躓いたりする歩行の妨げにもならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して更に詳しく説明する。図1は、本発明の一実施形態を示す蓄光再帰反射シート(1)の模式的断面図であり、(2)は表面保護層、(3)は印刷層、(4)、(6)は透明基材層、(5)は再帰反射層、(7)は蓄光層、(8)はアルミシートを示している。(粘着層は図示せず。)
【0011】
本発明における表面保護層(2)及び透明基材層(4)、(6)としては、特に限定はされないが、例えば、オレフィン系樹脂組成物で構成され、オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリブテン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンメチルアクリレート、ポリスチレン樹脂等を例示できる。また、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの薬剤を、本発明の効果をそこなわない範囲で添加することができる。なお、積層する形態は、シート、フィルム、あるいは塗布するなど、適宜選択すればよい。
【0012】
表面保護層(2)のシート形成、フィルム形成は、例えばカレンダー加工、Tダイ押出機等公知の方法でそれぞれ形成することができる。表面保護層(2)の塗布による形成は、透明基材層(4)の上、あるいは透明基材層(4)上の印刷層(3)の上に、表面保護層(2)の組成物を直接塗工すればよい。該組成物は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等を紫外線又は熱で硬化させることができる。中でも、硬化後の樹脂の伸張率10〜30%の範囲にある柔軟性のあるものが好ましい。
【0013】
印刷層(3)を積層した蓄光再帰反射シート(1)においては、特に本発明の表面保護層(2)の全光線透過率は80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であることで、印刷層(3)がよく見えるように透明にするとともに反射性能の減衰を抑制する効果がある。
【0014】
本発明における印刷層(3)は透明基材層(4)の上、又は表面保護層(2)の下に印刷することによって形成される。印刷方法としては、例えばスクリーン印刷機、インクジェット印刷機等により柄を描くことにより形成することができる。また、柄としては、どのような柄を描いてもかまわないが、例えば、駅のプラットホームで用いる蓄光再帰反射シートであれば、緊急避難時の誘導用案内として図形や文字など、また、建築物で用いる場合は、非常口を示す図形や文字、誘導用案内などが考えられる。
【0015】
本発明における再帰反射層(5)としては、透明球を1層に並べてなる層及び反射材を設けてあればよく、例えば、透明球としてガラスビーズを用いる。前記ガラスビーズの粒径は、用途に合わせて適宜選定すればよい。再帰反射層(5)として市販品を利用してもよい。また、再帰反射層(5)に蓄光層(7)を積層した市販品を利用してもよい。
【0016】
本発明における蓄光層(7)は前記透明基材層(6)の下に印刷することによって形成される。印刷方法としては、例えばスクリーン印刷機により、蓄光インクで蓄光層(7)を形成することができる。蓄光インクは、蓄光性のあるインクであれば特に限定はしないが、発光時間が長い点でアルミン酸ストロンチウムを含有する蓄光インクが好ましい。
【0017】
本発明における粘着剤層は、通常使用される粘着剤、例えばアクリル系粘着剤、天然ゴムラテックス系粘着剤などが挙げられる。好ましくは、アクリル系粘着剤が挙げられ、接着力が強く、また凝集力も強いことからベタツキもなく好ましい。粘着剤の塗布量は50〜300g/m(乾燥時)が好ましい。積層方法として、予めアルミシート(8)の片面または両面にコーティングすることで容易に再帰反射層(5)の蓄光層(7)面と積層することができる。
【0018】
本発明におけるアルミシート(8)は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属からなるシートである。アルミシート(8)を蓄光再帰反射シート(1)の裏面に積層することにより、アルミシート(8)の可撓性により、蓄光再帰反射シート(1)を敷設施工の際に、ハンマーやローラー等の適当な手段で上から叩いたり、押圧したりすることにより、駅のプラットホーム、建築物の出入口部、通路等の床面や壁面にある凹凸に沿って容易に変形させることができ、簡単な作業で、蓄光再帰反射シート(1)を床面や壁面と密着させた状態で、強い接着力で施工することができる。施工後蓄光再帰反射シート(1)の剥離強度も強く、またアルミシート(8)は収縮も腐食もなく、寸法安定性に優れ、さらに不陸のある床面にも施工が容易で、めくれ等のない耐久性のある蓄光再帰反射シート(1)とすることができる。
【0019】
前記アルミシート(8)の厚さは、20μm〜100μmであることが好ましい。それよりも薄い場合は、強度が十分でなくなり、一方、それよりも厚い場合には、床面に対するなじみが悪くなり、十分な剥離強度が得られない。
【0020】
前記アルミシート(8)を積層後の蓄光再帰反射シート(1)の全層における引裂強度は50N/mm以上が必要である。50N/mm以上であれば、十分な強度を有し、頻繁な歩行により、蓄光再帰反射シート(1)が裂けたり、破れたりする問題が生じることが無い。
【0021】
また、本発明の蓄光再帰反射シート(1)を床材に貼着する方法は、床材に接着剤を塗り、蓄光再帰反射シート(1)を貼ってもよいし、予め蓄光再帰反射シートのアルミシート(8)の面に、粘着剤層をコーティングして離型紙を貼っておき、施工時に離型紙を剥がして床材に貼着する方法にしてもよい。また、粘着剤としては接着力が強いアクリル系粘着剤が好ましい。さらに、本発明の蓄光再帰反射シート(1)を床材に貼着したときの剥離強度としては、25N/25mm以上あることが望ましい。
【実施例】
【0022】
次に、この発明の実施例について説明する。全光線透過率及び剥離強度は次の測定方法に基づいて測定した。
<全光線透過率の測定方法>
JIS K 7361に準拠し、全光線透過率の測定をした。
<剥離強度測定方法>
JIS A 5536に準拠し、剥離強度を測定した。
<実施例1>
ポリプロピレン樹脂59.8重量%、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体)樹脂35重量%(オレフィン系熱可塑性エラストマー系相容化樹脂)、テルペン樹脂(天然樹脂系の低分子量域の樹脂)5重量%を混合し、加熱溶融してカレンダー機にて0.2mm厚の表面保護層のシートを得た。「避難経路」と印刷された印刷層のあるアクリルフィルムと再帰反射層とがアクリル系粘着層を介して積層された市販品と、蓄光層が積層されたPETフィルム市販品とを用意した。次に、別の工程で、アクリル系粘着剤層を厚さ50μmのアルミシートの両面に塗布し、片面に離型紙を貼った厚さ200μmの粘着層付きアルミシートを得た。続いて、表面保護層シートの下側に粘着剤層を塗布し、表面保護層、印刷層、アクリルフィルム、再帰反射層、PETフィルム、蓄光層の順になるように積層し、前記粘着層付きアルミシートの粘着剤側を蓄光層側に積層し、シートの形状に裁断し蓄光再帰反射シートを作製した。積層後の厚みは0.8mmであった。全層における引裂強度は61N/mmであった。表面保護層の全光線透過率は82%の結果を得た。また、剥離強度は32N/25mmで施工性も良かった。
【0023】
<実施例2>
アルミシートの厚さを30μmとした以外は実施例1と同様にして蓄光再帰反射シートを得た。積層後の全層における引裂強度は55N/mmであった。また、剥離強度は27N/25mmで施工性も良かった。
【0024】
<実施例3>
アルミシートの厚さを80μmとした以外は実施例1と同様にして蓄光再帰反射シートを得た。積層後の全層における引裂強度は66N/mmであった。また、剥離強度は33N/25mmで施工性も良かった。
【0025】
<比較例1>
実施例1と同様にして0.2mm厚の表面保護層のシートを得た。次に、表面保護層のシートの下面に無水マレイン酸変性したポリプロピレン樹脂を10g/m(乾燥時)塗布し乾燥してから、インクジェット印刷機で「避難経路」と印刷し、印刷層を形成した。次に、別の工程で、アクリル系粘着剤層を厚さ50μmのアルミシートの両面に塗布し、片面に離型紙を貼った厚さ200μmの粘着層付きアルミシートを得た。続いて、表面保護層のシートの印刷層側と前記粘着層付きアルミシートをアクリル系粘着層を介して積層して滑り止めシートを得た。夜間に照明を消灯し、案内表示を視認できなかった。さらに、懐中電灯の光を照射したが、「避難経路」を視認することはできるものの、再帰反射ほどの高い視認性は発揮しなかった。また、剥離強度は34N/25mmで施工性は良かった。
【0026】
<比較例2>
アルミシートを省いた以外は実施例1と同様にして蓄光再帰反射シートを得た。また、剥離強度は15N/25mmで、密着性が悪く施工性は悪かった。
【0027】
<比較例3>
アルミシートの厚さを5μmとした以外は実施例1と同様にして蓄光再帰反射シートを得た。積層後の全層における引裂強度は45N/mmであった。アルミシートに破断が生じ、剥離強度は20N/25mmで密着性が悪くて、施工性は不十分だった。
【0028】
<比較例4>
アルミシートの厚さを150μmとした以外は実施例1と同様にして蓄光再帰反射シートを得た。積層後の全層における引裂強度は68N/mmであった。しかし、床面になじみ難く、剥離強度は24N/25mmで密着性が悪く施工性は不十分だった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態を示す蓄光再帰反射シートを示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 蓄光再帰反射シート
2 表面保護層
3 印刷層
4 透明基材層
5 再帰反射層
6 透明基材層
7 蓄光層
8 アルミシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再帰反射層を有するシートにおいて、前記再帰反射層の下面側に蓄光層を、透明基材層を介して積層し、さらに、前記再帰反射層の上面側に表面保護層を積層し、前記再帰反射層の蓄光層側に粘着剤層を介してアルミシートを積層し、前記表面保護層の全光線透過率が80%以上であり、前記アルミシートを積層後の前記蓄光再帰反射シートの全層における引裂強度が50N/mm以上であることを特徴とする蓄光再帰反射シート。
【請求項2】
再帰反射層を有するシートにおいて、前記再帰反射層の上面側に印刷層を、下面側に蓄光層をそれぞれ透明基材層を介して積層し、さらに、前記再帰反射層の印刷層側に表面保護層を積層し、前記再帰反射層の蓄光層側に粘着剤層を介してアルミシートを積層し、前記表面保護層の全光線透過率が80%以上であり、前記アルミシートを積層後の前記蓄光再帰反射シートの全層における引裂強度が50N/mm以上であることを特徴とする蓄光再帰反射シート。
【請求項3】
前記アルミシートの厚さが20μm〜100μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄光再帰反射シート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−118123(P2012−118123A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265413(P2010−265413)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】