説明

粘着シートの製造方法及び粘着シート

【課題】軟質ポリ塩化ビニル樹脂を含有する基材を備えた粘着シートの柔軟性が時間の経過にしたがって低下するのを抑制する粘着シートの製造方法及びその粘着シートを提供する。
【解決手段】ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有する基材10を準備する工程と、粘着剤と可塑剤とを含有する粘着塗料を準備する工程と、前記粘着塗料を用いて粘着層20を前記基材10上に形成する工程とを備えることを特徴とする粘着シート1の製造方法。粘着層20内に可塑剤が含有されるため、基材10内の可塑剤が粘着層20内に移動しにくい。そのため、粘着シート1の柔軟性の経時変化をある程度抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートの製造方法及び粘着シートに関し、さらに詳しくは、軟質ポリ塩化ビニル樹脂を含有する基材を備えた粘着シートの製造方法及びその粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハのダイシング工程では、ダイシングテープと呼ばれる粘着シートが利用される。この粘着シートは、基材と、基材上に形成される粘着層とを備える。粘着層は紫外線により硬化する紫外線硬化樹脂を含有する。紫外線により紫外線硬化樹脂が硬化すると、粘着層の粘着力が低下する。そのため、ダイシング工程で形成されたチップを粘着シートから外しやすくなる。
【0003】
粘着シートの基材は柔軟性を求められる。チップを粘着シートから外すために、粘着シートを引き伸ばして粘着シート上で隣接するチップ間に隙間を生じさせるためである。柔軟性を得るために、最近では、軟質ポリ塩化ビニル(Poly-Vinyl Chloride:以下、PVCという)樹脂が基材として利用されている。軟質PVC樹脂は、PVC樹脂と可塑剤とを含有する。PVC樹脂は硬質である。可塑剤はPVCに柔軟性を与える。そのため、軟質PVCは優れた柔軟性を有する。
【0004】
しかしながら、基材として軟質PVCを利用した場合、時間の経過にしたがって基材の柔軟性が低下するという問題が生じる。基材中の可塑剤が粘着層に移動し、基材から抜け出てしまうためである。
【0005】
このような基材の柔軟性の経時変化を抑制するための対策として、以下の技術が開示されている。
(1)軟質PVC樹脂以外の、柔軟性を有する他の樹脂を基材として使用する。
(2)軟質PVC樹脂からなる基材と粘着層との間に中間層を挟む。
【0006】
上記(1)の技術は、特開2004−338290号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1では、軟質PVC樹脂に代えて、ポリオレフィン系樹脂を基材として使用する。ポリオレフィン系樹脂は可塑剤を含有しない。そのため、可塑剤に起因した基材の柔軟性の経時変化は生じない。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は軟質PVC樹脂と比較して柔軟性に劣る。
【0007】
上記(2)の技術は、特開2006−188607号公報(特許文献2)及び特開2008−050406号公報(特許文献3)に開示されている。中間層は、2軸延伸ポリエステルフィルム(特許文献2)や、ガラス遷移温度が20℃以上のアクリル系ポリマー(特許文献3)である。基材内の可塑剤は、中間層に遮られて粘着層に移動しにくい。そのため、基材から可塑剤が抜け出にくい。しかしながら、中間層により基材の柔軟性が制限されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−338290号公報
【特許文献2】特開2006−188607号公報
【特許文献3】特開2008−050406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、軟質ポリ塩化ビニル樹脂を含有する基材を備えた粘着シートの柔軟性が時間の経過にしたがって低下するのを抑制する粘着シートの製造方法及びその粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明による粘着シートの製造方法は、以下の工程を備える。
(A)ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有する基材を準備する工程と、粘着剤と可塑剤とを含有する粘着塗料を準備する工程、及び
(B)粘着塗料を用いて粘着層を基材上に形成する工程。
【0011】
本発明による粘着シートの製造方法では、可塑剤を含有する粘着塗料を用いて粘着層を基材上に形成する。そのため、製造された粘着シートは、予め粘着層中に可塑剤を含有する。粘着層中に可塑剤が含有されているため、基材中の可塑剤は粘着層中に移動しにくい。その結果、粘着シートの柔軟性が時間の経過にしたがって低下しにくい。
【0012】
好ましくは、基材中の可塑剤の質量含有率に対する前記粘着層中の可塑剤の質量含有率の比は0.5以上である。
【0013】
この場合、従来の粘着シートと比較して、時間の経過に伴う粘着シートの柔軟性の低下をより抑制できる。
【0014】
好ましくは、基材中の可塑剤の質量含有率に対する前記粘着層中の可塑剤の質量含有率の比は1以上である。
【0015】
この場合、粘着層中の可塑剤の質量含有率が基材中の可塑剤の質量含有率以上となる。そのため、基材中の可塑剤が粘着層に移動するのを有効に抑制できる。
【0016】
本発明による粘着シートは、基材と、粘着層とを備える。基材は、ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有する。粘着層は、粘着剤と可塑剤とを含有する粘着塗料を用いて基材上に形成される。
【0017】
本発明による粘着シートは、基材と、粘着層とを備える。基材は、ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有する。粘着層は、粘着剤と可塑剤とを含有する。基材中の可塑剤の質量含有率に対する粘着層中の可塑剤の質量含有率の比は0.5以上である。
【0018】
好ましくは、基材中の可塑剤の質量含有率に対する粘着層中の可塑剤の質量含有率の比は1以上である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態による粘着シートの断面図である。
【図2】可塑剤を含有しない粘着層を備えた粘着シートの構成を示す模式図である。
【図3】図2の粘着シートの柔軟性の経時変化を説明するための模式図である。
【図4】実施例中のシート番号1の粘着シートの荷重−伸び線図である。
【図5】実施例中のシート番号2の粘着シートの荷重−伸び線図である。
【図6】実施例中のシート番号3の粘着シートの荷重−伸び線図である。
【図7】実施例中のシート番号4の粘着シートの荷重−伸び線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[粘着シートの構成]
図1を参照して、粘着シート1は、シート状またはフィルム状であり、基材10と粘着層20とを備える。図示していないが、粘着層20上に剥離シートが貼り付けられていてもよい。粘着シート1が利用されるときに剥離シートは剥がされる。
【0022】
基材10は、実質的に軟質ポリ塩化ビニル樹脂(以下軟質PVC樹脂という)からなる。軟質PVC樹脂は、優れた柔軟性を有する。軟質PVC樹脂は、ポリ塩化ビニル樹脂と、可塑剤とを含有する。基材10に対する可塑剤の質量含有率は10〜50%である。好ましい可塑剤の質量含有率は20〜40%である。ここでいう質量含有率は、以下の式(1)で定義される。
質量含有率(%)=可塑剤の質量/基材10の質量×100 (1)
可塑剤の質量含有率は、たとえば、赤外分光法や、ガスクロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ質量分析法、溶解再沈法等の分析方法により求めることができる。
【0023】
可塑剤は、軟質ポリ塩化ビニル樹脂の柔軟性を向上する。可塑剤は公知のものが使用される。可塑剤はたとえば、ポリエステル系可塑剤や、エポキシ可塑剤である。ポリエステル系可塑剤はたとえば、フタル酸エステルや、アジピン酸エステル、セバシン酸エステルである。エポキシ可塑剤はたとえば、エポキシ化大豆油である。
【0024】
フタル酸エステルは、たとえば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジノルマルオクチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジピロリル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ブチルベンジル等である。
【0025】
アジピン酸エステルはたとえば、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジノルマルアルキル、アジピン酸ジアルキル等である。セバシン酸エステルはたとえば、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル等である。
【0026】
基材10は、粘着層20を活性エネルギ線で硬化させるために、活性エネルギ線を透過する程度の透過性を有するのが好ましい。活性エネルギ線はたとえば、紫外線や、電子線、X線等である。基材10はさらに、軟質PVC樹脂の他に、公知の安定剤や酸化防止剤、滑剤及び加工助剤等を含有してもよい。
【0027】
粘着層20は、粘着剤を含有し、必要に応じて活性エネルギ線硬化樹脂や光重合開始剤を含有する。活性エネルギ線が照射されると、粘着剤の一部又は活性エネルギ線硬化樹脂が硬化する。粘着剤又は活性エネルギ線硬化樹脂の硬化により粘着層20の粘着性は低下する。そのため、粘着層20に付着されたチップが粘着層20から外れやすくなる。
【0028】
粘着剤は公知のものが使用される。粘着剤はたとえば、ゴム系粘着剤や、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤である。好ましくは、アクリル系粘着剤を用いる。
【0029】
アクリル系粘着剤は、アクリル系ポリマーから構成される。アクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーが重合したものである。アクリル系モノマーはたとえば、炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルはたとえば、(メタ)アクリル酸メチルや、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等である。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0030】
アクリル系ポリマーは、上述したアクリル系モノマーと、官能基を有するモノマーとが共重合した共重合体でもよい。この場合、架橋剤によりアクリル系ポリマーが架橋される。
【0031】
官能基を有するモノマーはたとえば、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、ヒドロキシル基を有するアクリル酸−2−ヒドロキシエチルエステル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピルエステル、2−ヒドロキシビニルエーテル、アミノ基を有するN,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N−ターシャリーブチルアミノエチルアクリレート、エポキシ基を有するグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等である。
【0032】
アクリル系粘着剤はさらに、不飽和二重結合を有する多官能モノマーを含有してもよい。このような多官能モノマーは活性エネルギ線である紫外線が照射されると、上述のアクリル系ポリマーと重合し、硬化する。したがって、粘着剤が不飽和二重結合を有する多官能モノマーを含有する場合、上述の活性エネルギ線硬化樹脂を含有しなくてよい。
【0033】
不飽和二重結合を有する多官能モノマーはたとえば、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等である。
【0034】
活性エネルギ線硬化樹脂は、活性エネルギ線により硬化する樹脂である。活性エネルギ線硬化樹脂はたとえば、ポリエステル系アクリレート樹脂、ウレタン系アクリレート樹脂、ポリエーテル系アクリレート樹脂、エポキシ系アクリレート樹脂、ポリエステル系メタクリレート樹脂、ウレタン系メタクリレート樹脂、ポリエーテル系メタクリレート樹脂、エポキシ系メタクリレート樹脂である。
【0035】
粘着層20が活性エネルギ線硬化樹脂を含有する場合、光重合開始剤も含有される。光重合開始剤はたとえば、ベンジル、ジアセチル等のα−ジケトン類、ベンゾイン等のアシロイン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のアシロインエーテル類、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、チオキサントン−4−スルホン酸等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、アセトフェノン、2−(4−トルエンスルホニルオキシ)−2−フェニルアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、α,α'−ジメトキシアセトキシベンゾフェノン、2,2'−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン類、アントラキノン、1,4−ナフトキノン等のキノン類、フェナシルクロライド、トリハロメチルフェニルスルホン、トリス(トリハロメチル)−s−トリアジン等のハロゲン化合物、アシルホスフィンオキシド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物等である。これらの光重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。なお、粘着剤は必要に応じて界面活性剤等を含有してもよい。
【0036】
粘着層20はさらに、可塑剤を含有する。可塑剤の種類は、上述の基材10に含有される可塑剤と同様である。粘着層20中の可塑剤は基材10中の可塑剤と同種であってもよいし、異なる種類であってもよい。
粘着層20は、上述の粘着剤と可塑剤と溶剤とを含有する粘着塗料を用いて形成される。粘着シート1の製造方法については後述する。要するに、粘着層20は予め可塑剤を含有した粘着塗料からつくられる。粘着層20内の可塑剤は、基材10内の可塑剤が粘着層20内に移動するのを抑制する。
【0037】
[作用]
図2を参照して、従来の粘着シート100では、可塑剤を含有しない粘着塗料から粘着層200が形成される。そのため、製造後の粘着層200は可塑剤を含有しない。一方、基材10は可塑剤を含有する。したがって、基材10中の可塑剤の質量含有率と粘着層中の可塑剤の質量含有率(ここでは0%)との差は大きい。なお、図2及び後述する図3では、可塑剤分子150を模式的に円形状で示す。
【0038】
図2の場合、粘着シート100を製造してから時間が経過するにしたがって、図3に示すように、基材10内の一部の可塑剤分子150が粘着層20に徐々に移動する。基材10内の可塑剤濃度と粘着層20内の可塑剤濃度との差が大きいためと推定される。一部の可塑剤分子150の移動の結果、基材10での可塑剤150の含有率が低下し、基材10の柔軟性が低下する。図4は、粘着シート100の柔軟性の経時変化を示す荷重−伸び線図である。図中の実線は、製造直後の粘着シート100に相当する試験片の荷重−伸び曲線であり、図中の破線は、所定期間経過後(製造時から30日経過後)の粘着シートの荷重−伸び曲線である。図4中の2つの曲線(実線及び破線)を比較して、両者の降伏時の伸び量はほぼ同じであるにもかかわらず、破線の降伏時の荷重41の方が実線の降伏時の荷重40よりも1.5kgf/25mm程度上昇している。つまり、粘着シート100では、経時変化により粘着シートの柔軟性が大幅に低下している。
【0039】
これに対して、本発明による粘着シート1内の粘着層20は予め可塑剤を含有する。基材10の可塑剤の質量含有率と粘着層20の可塑剤の質量含有率との差は図2の場合よりも小さい。そのため、製造されてから時間が経過しても、基材10内の可塑剤が粘着層20内に移動しにくい。したがって、基材10の柔軟性の低下を抑制できる。
【0040】
粘着層20の可塑剤の質量含有率は以下の式(2)で定義される。
質量含有率(%)=粘着層中の可塑剤の質量/粘着層の質量×100(2)
このとき、以下の式(3)で定義される含有率比は、0.5以上であるのが好ましい。
含有率比=粘着層20の可塑剤の質量含有率/基材10の可塑剤の質量含有率 (3)
ここで、含有率比の有効数字は1桁とする。算出して得られた含有率比の2桁目は四捨五入する。
【0041】
たとえば、基材10の可塑剤の質量含有率が30%である場合、粘着層20の可塑剤の好ましい質量含有率は15%以上である。この場合、粘着シート1の柔軟性の経時変化を従来よりも、より抑えることができる。
【0042】
さらに好ましくは、含有率比が1以上である。この場合、粘着層20の可塑剤の質量含有率は、基材10の可塑剤の質量含有率と同等以上となる。そのため、時間が経過しても粘着シート1の柔軟性がより低下しにくくなる。
【0043】
図5及び図6はそれぞれ、含有率比が0.5、1.0の粘着シート1の荷重−伸び線図である。図5及び図6中の実線は製造直後の粘着シート1に相当する試験片の荷重−伸び曲線であり、破線は製造後30日経過後の粘着シート1の荷重−伸び曲線である。図5を参照して、破線の降伏時の荷重51の方が実線の降伏時の荷重50よりも上昇しているものの、その上昇幅は0.5kgf/25mm程度に抑えられている。したがって、従来の粘着シート100と比較して、柔軟性の経時変化が抑制されている。さらに、図6では、破線の降伏時の荷重は実線の降伏時の荷重とほぼ同じである。したがって、含有率比が1以上であれば、柔軟性の低下がより防止される。
なお、粘着層20内の可塑剤の質量含有率が高すぎれば、粘着層20の粘着性が低下する場合がある。そのため、好ましい粘着層20内の可塑剤の質量含有率の上限は60%であり、より好ましくは50%である。さらに好ましくは45%である。
【0044】
上述のとおり、粘着層20内の可塑剤は、基材10内の可塑剤と同種であってもよいし、異なる種類であってもよい。粘着層20内の可塑剤が基材10内の可塑剤と異なる種類であっても、上述の効果を奏することができる。
【0045】
[製造方法]
粘着シート1の製造方法の一例は以下のとおりである。
【0046】
まず、基材10を準備する。基材10は公知の製膜方法で製造される。公知の製膜方法とはたとえば、溶融流延法(キャスティング法)や、溶融押出法(エキストルージョン法)、カレンダ法である。
【0047】
また、粘着層20の原料である粘着塗料を準備する。粘着塗料は、上述の粘着剤と可塑剤とを含有し、必要に応じて活性エネルギ線硬化樹脂、光重合開始剤を含有する。粘着塗料はさらに、溶剤を含有する。溶剤は、塗布後の乾燥時に除去できるものであればよい。溶剤はたとえば、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールアルキルエーテルやグリコールアルキルエステル類等である。
【0048】
準備した粘着塗料を図示しない剥離シート上に塗布して塗膜を形成する。剥離シートはたとえば、シリコーン剥離処理がされたポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムである。粘着塗料の塗布には、公知の塗布装置が用いられる。塗布装置はたとえば、バーコータやダイコータ、グラビアコータである。
【0049】
塗膜を形成後、塗膜を公知の方法により乾燥及び加熱して溶剤を揮発し、粘着層20を形成する。粘着層20の厚さは特に制限はないが、たとえば5〜50μm程度である。そして、形成された粘着層20に基材10を貼り付ける。以上の工程により粘着シート1が製造される。なお、粘着塗料を基材10に直接塗布して粘着層20を形成してもよい。
【実施例】
【0050】
種々の粘着シートを製造した。そして、製造された粘着シートの柔軟性の経時変化を調査した。
【0051】
[調査に用いた粘着シート]
表1に示すシート番号1〜4の粘着シートを準備した。
【表1】

いずれの粘着シートも、図1又は図2に示すように基材と、基材上に形成された粘着層とを備えた。
【0052】
シート番号1の粘着シートでは、基材として軟質PVC樹脂を用いた。軟質PVC樹脂は可塑剤を含有した。可塑剤はフタル酸ジ−2−エチルヘキシルであった。基材中の可塑剤の質量含有率(式(1)により算出)は30%であった。シート番号1の粘着層は、アクリル系粘着剤を含有したが、可塑剤を含有しなかった。つまり、粘着層中の可塑剤の質量含有率(式(2)により算出)は0%であった。シート番号1の粘着シートは、公知の製造方法により製造された。
【0053】
シート番号2〜4の粘着シートでは、粘着層がアクリル系粘着剤と可塑剤とを含有した。その他の構成はシート番号1の粘着シートと同じであった。シート番号2〜4の粘着層中の可塑剤は、基材中の可塑剤と同じくフタル酸ジ−2−エチルヘキシルであった。シート番号2の粘着層中の可塑剤の質量含有率は15%であった。シート番号3の粘着層中の可塑剤の質量含有率は30%であった。シート番号4の粘着層中の可塑剤の質量含有率は45%であった。シート番号2〜4の粘着シートは、上述の製造方法により製造された。
なお、各シート番号の基材中の可塑剤の質量含有率及び粘着層の可塑剤の質量含有率は、溶解再沈法により測定された。
【0054】
[調査方法]
各シート番号1〜4の粘着シートを40℃の恒温槽内に収納し、所定期間(10日又は30日)保存した。所定期間経過後、各シート番号の粘着シートを恒温槽から取り出した。そして、取り出した粘着シートから引張試験片を作成した。引張試験片の幅は25mmであり、標点間距離は80mmであった。引張試験はJIS K7127に準じて行われた。
【0055】
一方、製造直後の粘着シートを想定した基材試験片を準備した。基材試験片の素材はシート番号1〜4の粘着シートの基材と同じ軟質PVCであり、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルを可塑剤として含有した。基材試験片の可塑剤の質量含有率は30%であった。基材試験片の幅及び標点間距離は、各シート番号1〜4の試験片と同じとした。
【0056】
準備された試験片(基材試験片、各シート番号の試験片)を用いて、常温(25℃)大気中で引張試験を実施し、各試験片の荷重−伸び曲線を求めた。
【0057】
[調査結果]
引張試験の結果を図4〜図7に示す。図4は基材試験片と、恒温槽内に30日間保存したシート番号1の試験片との荷重−伸び線図である。図5は基材試験片と、恒温層内に30日間保存したシート番号2の試験片との荷重−伸び線図である。図6は基材試験片と、恒温層内に10日間保存したシート番号3の試験片と、30日間保存したシート番号3の試験片との荷重−伸び線図である。図7は基材試験片と、恒温槽内に10日間及び30日間保存したシート番号4の試験片との荷重−伸び線図である。
【0058】
図4を参照して、シート番号1の試験片(図4中破線)の降伏時の荷重は、基材試験片(図4中実線)よりも1.5kgf/25mm程度上昇した。一方で、試験番号1の降伏時の伸びは、基材試験片の降伏時の伸びと同等であった。このことは、30日経過後の粘着シートは、製造直後の粘着シートと比較して、同じ量だけ伸ばすのにより大きな力が必要であることを示している。要するに、シート番号1の粘着シートは、時間の経過にしたがって柔軟性が低下した。
【0059】
一方、図5〜図7を参照して、シート番号2〜4の粘着シートでは、柔軟性の経時変化がシート番号1の粘着シートよりも抑制された。図5を参照して、シート番号2の試験片(図中破線)の降伏時の荷重は、基材試験片(図中実線)よりも0.5kgf/25mm程度上昇したものの、シート番号1の試験片よりも上昇幅が抑えられた。つまり、従来の粘着シートよりも柔軟性の経時変化を抑えることができた。
【0060】
図6を参照して、10日間保存したシート番号3の試験片(図6中一点鎖線)の降伏時の荷重及び30日間保存したシート番号3の試験片(図6中破線)の降伏時の荷重は、基材試験片(図6中実線)と同程度であった。つまり、シート番号3の粘着シートでは、柔軟性の経時変化がほぼ発生しなかった。シート番号3の粘着シートでは、粘着層中の可塑剤の質量含有率が基材中の可塑剤の質量含有率と同じであった。そのため、基材中の可塑剤が粘着層中に移動するのを抑制されたと推定される。
【0061】
図7を参照して、10日間(図中一点鎖線)及び30日間(図中破線)保存したシート番号4の試験片の降伏時の荷重は基材試験片(図中実線)よりも若干低下した。つまり、シート番号4の粘着シートでは、時間の経過にともなう硬化を防止でき、むしろ時間の経過にしたがって柔軟性が向上した。シート番号4の粘着シートでは、粘着層中の可塑剤の含有率が基材中の可塑剤の含有率よりも多かった。そのため、粘着層中の可塑剤の一部が基材中に移動し、柔軟性が向上したと推定される。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明による粘着シートの製造方法は、基材の柔軟性の経時変化の抑制が求められる分野に利用される粘着シートに適用可能である。特に、半導体ウエアのダイシング工程で利用される粘着シートの製造方法に好適である。
【符号の説明】
【0064】
1,100 粘着シート
10 基材
20,200 粘着層
100 粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有する基材を準備する工程と、
粘着剤と可塑剤とを含有する粘着塗料を準備する工程と、
前記粘着塗料を用いて粘着層を前記基材上に形成する工程とを備えることを特徴とする粘着シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の粘着シートの製造方法であって、
前記基材中の可塑剤の質量含有率に対する前記粘着層中の可塑剤の質量含有率の比は0.5以上であることを特徴とする粘着シートの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の粘着シートの製造方法であって、
前記基材中の可塑剤の質量含有率に対する前記粘着層中の可塑剤の質量含有率の比は1以上であることを特徴とする粘着シートの製造方法。
【請求項4】
ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有する基材と、
粘着剤と可塑剤とを含有する粘着塗料を用いて前記基材上に形成される粘着層とを備えることを特徴とする粘着シート。
【請求項5】
ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とを含有する基材と、
前記基材上に形成され、粘着剤と可塑剤とを含有する粘着層とを備え、
前記基材中の可塑剤の質量含有率に対する前記粘着層中の可塑剤の質量含有率の比は0.5以上であることを特徴とする粘着シート。
【請求項6】
請求項4に記載の粘着シートであって、
前記基材中の可塑剤の質量含有率に対する前記粘着層中の可塑剤の質量含有率の比は1以上であることを特徴とする粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−32324(P2011−32324A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177973(P2009−177973)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】