説明

粘着シート

【課題】水分散型粘着剤組成物により形成され、基材に十分な投錨力を発現する粘着剤層を有する粘着シートを提供する。
【解決手段】本発明の粘着シートは、基材の少なくとも片面側に、アクリルエマルション系重合体A、及び、分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bを含有する水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層を電子線にて硬化することにより得られる粘着剤層を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。より詳しくは、基材の少なくとも片面側に、水分散型粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、基材上に粘着剤層を有するタイプの粘着シート(基材付きタイプの粘着シート、基材付き粘着シート)では、両面接着シート用途において、被着体への貼付後に浮きや剥がれが起こると、その機能が維持できなくなる。また、近年、光学製品用途の粘着シートは、光学製品の需要増大に伴い、その使用量が急増している。特に、光学製品用途においては低汚染性が重視されるので、光学製品用途の粘着シートでは、被着体への貼付後に剥離した際に被着体への糊残りが発生すると、このことが致命的な欠陥となる。このため、粘着剤層が基材に十分な投錨力を発現する基材付きタイプの粘着シートが要求されている。
【0003】
また、基材付き粘着シートとして、環境性や安全性の点から、水分散型粘着剤組成物を塗布して乾燥することにより形成される粘着剤層を基材上に有する粘着シートが用いられている(特許文献1及び特許文献2参照)。上記基材付き粘着シートでは、基材上に水分散型粘着剤組成物により粘着剤層を形成するに際して、コロナ処理や下塗り処理などの表面処理を別工程で行った基材が用いられている。しかしながら、上記基材付き粘着シートでは、水分散型粘着剤組成物に含有された乳化剤により、粘着剤層と基材との投錨力が十分に得られない場合があった。このため、上記基材付き粘着シートを被着体へ貼付してから剥離すると被着体への糊残りが発生する場合があり、また、上記基材付き粘着シートを被着体へ貼付すると被着体からの浮きやはがれが発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−152116号公報
【特許文献2】特開2007−171892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、水分散型粘着剤組成物により形成され、基材に十分な投錨力を発現する粘着剤層を有する粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、アクリルエマルション系重合体と特定の化合物とを少なくとも含有する水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して得られる層を基材上に設けてから電子線照射すると、基材に対して十分な投錨力を発現する粘着剤層を有する粘着シートが得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、基材の少なくとも片面側に、アクリルエマルション系重合体A、及び、分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bを含有する水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層を電子線にて硬化することにより得られる粘着剤層を有することを特徴とする粘着シートを提供する。
【0008】
上記電子線反応基はラジカル重合性基であることが好ましい。また、上記ラジカル重合性基は、不飽和結合基であることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明は、基材の少なくとも片面側に粘着剤層を形成することにより粘着シートを得る粘着シートの製造方法であって、下記の工程1、工程2及び工程3を含むことを特徴とする粘着シートの製造方法を提供する。
工程1:アクリルエマルション系重合体A及び分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bを含有する水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成する工程
工程2:前記水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して層を形成する工程
工程3:基材の少なくとも片面側に設けられた、前記水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層に、電子線を照射して粘着剤層を形成する工程
【0010】
さらに、本発明は、基材の少なくとも片面側に、アクリルエマルション系重合体A及び分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bとを含有する水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成した後、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥し、さらに電子線照射して、粘着剤層を形成することを特徴する粘着シートの製造方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、セパレーター上に、アクリルエマルション系重合体A及び分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bとを含有する水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成した後、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して層を形成し、さらに、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して形成された層を基材の少なくとも片面側に転写してから、電子線照射して、粘着剤層を形成することを特徴する粘着シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粘着シートは、上記構成を有しているので、水分散型粘着剤組成物により形成された粘着剤層であっても、基材と粘着剤層との投錨力に優れる。このため、本発明の粘着シートは、糊残りの防止性、浮きや剥がれの防止性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の粘着シートは、基材の少なくとも片面側に、水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層を電子線にて硬化することにより得られる粘着剤層(感圧性接着剤層)を有する。上記水分散型粘着剤組成物は、アクリルエマルション系重合体A、及び、分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bを少なくとも含有する。なお、本願では、「アクリルエマルション系重合体A、及び、分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bを含有する水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層を電子線にて硬化することにより得られる粘着剤層」を「本発明の粘着剤層」と称する場合がある。また、「分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物B」を「イソシアネート化合物B」と称する場合がある。さらに、水分散型粘着剤組成物の層を「水分散型粘着剤組成物層」と称する場合がある。さらにまた、水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層(水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して形成される層)を「照射前粘着剤層」と称する場合がある。
【0014】
本発明の粘着シートは、基材の少なくとも片面側に上記本発明の粘着剤層を有する基材付きタイプの粘着シートである。
【0015】
本発明の粘着シートは、基材の片面側に上記本発明の粘着剤層を有する構成の片面粘着シートであってもよい。また、本発明の粘着シートは、基材の両面側に上記本発明の粘着剤層を有する構成の両面粘着シートや、基材の一方の面側に上記本発明の粘着剤層を有し、基材の他方の面側にその他の粘着剤層(上記本発明の粘着剤層以外の粘着剤層)を有する構成の両面粘着シートであってもよい。
【0016】
(本発明の粘着剤層)
上記本発明の粘着剤層は、アクリルエマルション系重合体A及びイソシアネート化合物Bを含有する水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層に、電子線を照射することにより形成される。
【0017】
上記アクリルエマルション系重合体Aは、アクリル系モノマーを必須の原料モノマー(原料モノマー成分)として構成された重合体である。また、上記アクリルエマルション系重合体Aは、アクリル系モノマーを必須成分とするモノマー混合物により形成された重合体であってもよい。また、上記モノマー混合物は、モノマー成分のみから構成され、少なくとも1以上のモノマーを含む組成物である。なお、上記水分型粘着剤組成物では、アクリルエマルション系重合体Aは、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。また、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」のことをいう。
【0018】
特に、上記アクリル系モノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0019】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、上記アクリルエマルション系重合体Aの主たるモノマー成分として用いられ、主に接着性、剥離性などの粘着剤(又は粘着剤層)としての基本特性を発現する役割を担う。中でも、アクリル酸アルキルエステルは粘着剤層を形成するポリマーに柔軟性を付与し、粘着剤層に密着性、粘着性を発現させる効果を発揮する傾向があり、メタクリル酸アルキルエステルは粘着剤層を形成するポリマーに硬さを与え、粘着剤層の再剥離性を調節する効果を発揮する傾向がある。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されないが、炭素数が2〜16(より好ましくは2〜10、さらに好ましくは4〜8)の、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0020】
上記アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数が2〜14(より好ましくは4〜9)のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、アクリル酸ブチル(アクリル酸n−ブチル)、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソノニルなどの直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルなどが好ましく挙げられる。中でも、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチルが特に好ましい。
【0021】
上記メタクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数が2〜16(より好ましくは2〜10)のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチルなどの直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルやメタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸イソボルニル等の脂環式のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0022】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0023】
上記アクリルエマルション系重合体Aの全原料モノマー(モノマー混合物全量)(100重量%)に対する上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、特に限定されないが、50重量%以上が好ましく、より好ましくは60重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上である。
【0024】
また、上記アクリルエマルション系重合体Aの原料モノマーには、エマルション粒子の安定化、粘着剤層の基材に対する密着性の向上、被着体への初期接着性の向上などを目的として、必要に応じて、共重合性モノマーが含まれていてもよい。なお、共重合性モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0025】
上記共重合性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレートなどのカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロパン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシルなどの水酸基含有モノマーなどが挙げられる。
【0026】
さらに、上記共重合性モノマーとしては、エマルション粒子内架橋および凝集力向上の目的で用いられる、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能モノマーも挙げられる。
【0027】
中でも、上記共重合性モノマーは、上記アクリルエマルション系重合体Aの機械的安定性の点から、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0028】
上記アクリルエマルション系重合体Aの全原料モノマー(モノマー混合物全量)(100重量%)に対する上記共重合性モノマーの割合は、特に限定されないが、60重量%以下(例えば、0.5〜60重量%)が好ましく、より好ましくは25重量%以下(例えば、0.7〜25重量%)である。
【0029】
上記アクリルエマルション系重合体Aは、上記の原料モノマー(モノマー混合物)を、乳化剤、重合開始剤によりエマルション重合することによって得られる。
【0030】
上記エマルション重合に用いられる乳化剤としては、ラジカル重合性官能基を含まない乳化剤(以下、「非反応性乳化剤」と称する場合がある)、ラジカル重合性官能基を含む乳化剤(以下、「反応性乳化剤」と称する場合がある)が挙げられる。なお、乳化剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。また、乳化剤は、非反応性乳化剤と反応性乳化剤とが組み合わせて用いられてもよい。
【0031】
上記非反応性乳化剤としては、例えば、アルキルもしくはアルキル硫酸塩、アルキルもしくはアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸等のアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル等のノニオン性乳化剤が挙げられる。
【0032】
さらに、上記非反応性乳化剤としては、アニオン型として、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムが挙げられる。また、ノニオン型として、例えば、ポリオキシエチレンアルキル型、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレングリコール型、ポリオキシエチレンプロピレングリコール型のものが挙げられる。
【0033】
上記反応性乳化剤は、分子中(1分子中)に少なくとも1つのラジカル重合性官能基を含む乳化剤である。上記反応性乳化剤は、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等のラジカル重合性官能基を有する種々の反応性乳化剤から、1種又は2種以上が選択され使用される。上記エマルション重合に用いられる乳化剤が反応性乳化剤であると、乳化剤が重合体中にとりこまれ、形成された粘着剤において乳化剤由来の汚染が低減する。
【0034】
また、上記反応性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどのノニオンアニオン系乳化剤(非イオン性の親水性基を持つアニオン系乳化剤)に、プロペニル基やアリルエーテル基等のラジカル重合性官能基(ラジカル反応性基)が導入された形態を有する(又は該形態に相当する)反応性乳化剤が挙げられる。
【0035】
上記乳化剤の使用量(配合量)は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体Aを構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー、モノマー混合物全量)100重量部に対して、0.1〜7重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜4重量部である。上記使用量が7重量部を超えると、粘着剤の凝集力が低下して被着体への汚染量が増加し、また乳化剤自身による汚染も起こる場合がある。一方、上記使用量が0.1重量部未満であると、安定した乳化が維持できない場合がある。
【0036】
上記アクリルエマルション系重合体Aのエマルション重合に用いる重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2´−アゾビス(N,N´−ジメチレンイソブチルアミジン)などのアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系重合開始剤;過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤、例えば、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩との組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせによるレドックス系重合開始剤などが挙げられる。なお、光重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0037】
上記重合開始剤の配合量(使用量)は、開始剤や原料モノマーの種類などに応じて適宜決定することができ、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体Aを構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー、モノマー混合物全量)100重量部に対して、0.001〜0.1重量部が好ましい。
【0038】
上記アクリルエマルション系重合体Aの重合においては、アクリルエマルション系重合体の分子量を調整するために、連鎖移動剤が用いられていてもよい。上記連鎖移動剤は、公知乃至慣用の連鎖移動剤が用いられる。例えば、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメチルカプト−1−プロパノールなどが挙げられる。なお、連鎖移動剤は、単独で用いられてもよく、2種以上を併用して用いられてもよい。連鎖移動剤の配合量(使用量)は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体を構成する原料モノマーの総重量(全原料モノマー、モノマー混合物全量)100重量部に対して、0.001〜0.1重量部が好ましい。
【0039】
上記アクリルエマルション系重合体Aのエマルション重合の重合法としては、特に限定されないが、例えば、一括重合、連続滴下重合、分割滴下重合などが挙げられる。
【0040】
なお、上記水分散型粘着剤組成物におけるアクリルエマルション系重合体Aの含有量は、特に限定されないが、水分散型粘着剤組成物の固形分全量(固形分の総重量)(100重量%)に対して、50〜99.8重量%であることが好ましく、より好ましくは70〜99.5重量%である。つまり、上記水分散型粘着剤組成物は、水分散型アクリル系粘着剤組成物であることが好ましい。
【0041】
上記水分型粘着剤組成物に含有されるイソシアネート化合物Bは、分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物である。なお、イソシアネート化合物Bは、単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0042】
イソシアネート化合物B中の上記電子線反応基は、電子線の照射により反応点(活性部位)が生じる基(官能基)のこという。
【0043】
上記電子線反応基としては、例えば、活性エネルギー線の照射により活性種としてのアニオンもしくはカチオンが生じるイオン反応性基;活性エネルギー線の照射により活性種としてのフリーラジカルが生じるラジカル重合性基などが挙げられる。中でも、活性効率の点から、ラジカル重合性基が好ましく、不飽和結合基(ラジカル重合性不飽和結合基)がより好ましい。なお、上記不飽和結合基(ラジカル重合性不飽和結合基)は、不飽和結合(炭素炭素二重結合、エチレン性不飽和結合)を有する基(官能基)のことをいう。
【0044】
上記不飽和結合基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アルケニル基など挙げられる。なお、上記アルケニル基としては、ビニル基、アリル基が好ましく挙げられる。中でも、上記不飽和結合基は、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。
【0045】
上記イソシアネート化合物B中の電子線反応基の数は、特に限定されないが、1以上(例えば1〜30)が好ましく、より好ましくは1又は2である。電子線反応基の数が30を超えると、電子線照射後に粘着剤の弾性率が上昇しすぎて、硬くなりすぎる場合がある。なお、硬くなりすぎると粘着剤として使用できなくなる。
【0046】
イソシアネート化合物B中のイソシアネート基は、通常のイソシアネート基(非ブロックイソシアネート基)であってもよいし、ブロックイソシアネート基(イソシアネートブロック体)であってもよい。ブロックイソシアネート基(イソシアネートブロック体)とは、通常の条件ではイソシアネート基を他の官能基でマスク(保護)することによりイソシアネート基の反応性を抑える一方、加熱により脱ブロックして、活性なイソシアネート基を再生させることができる基をいう。なお、本願では、イソシアネート基が通常のイソシアネート基であるイソシアネート化合物Bを「非ブロックイソシアネート化合物B」と称し、イソシアネート基がブロックイソシアネート基であるイソシアネート化合物Bを「ブロックイソシアネート化合物B」と称する場合がある。
【0047】
また、上記非ブロックイソシアネート化合物B中のイソシアネート基の数や、上記ブロックイソシアネート化合物B中のブロックイソシアネート基の数は、特に限定されないが、1以上(例えば1〜50)が好ましく、より好ましくは1である。なお、50を超えると、化合物の分子量が大きくなりすぎて、相溶性が低下する場合がある。また、水との反応が起こりやすくなり、発泡等の問題が発生する可能性がある。
【0048】
特に、上記本発明の粘着剤層の基材に対する投錨力をより向上させる点から、上記イソシアネート化合物Bは、1又は2の電子線反応基と1のイソシアネート基(あるいはブロックイソシアネート基)を有する化合物Bであることが好ましい。
【0049】
また、上記非ブロックイソシアネート化合物Bとしては、例えば、イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、イソシアナトブチル(メタ)アクリレートなどのイソシアナトアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0050】
さらに、上記非ブロックイソシアネート化合物Bとしては、公知の方法で形成された化合物が挙げられる。このような公知の方法で形成された化合物としては、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノアルコールと下記イソシアネート化合物との反応生成物が挙げられる。
【0051】
上記ラジカル重合性不飽和結合を有するモノアルコールとしては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコールなどが挙げられる。
【0052】
また、上記イソシアネート化合物としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が好ましく、例えば、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)などの脂環式ポリイソシアネート;1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,2′−又は2,4′−又は4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、3−クロロ−4−メチルフェニルジイソシアネート、4−クロロフェニルジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;m−又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α′,α′−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香脂肪族ポリイソシアネート;ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート;トリメチロ−ルプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業社製)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(商品名「コロネートHL」、日本ポリウレタン工業社製)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(商品名「コロネートHX」、日本ポリウレタン工業社製)などのイソシアネート付加物;上記各ポリイソシアネートの変性物などが挙げられる。
【0053】
上記非ブロックイソシアネート化合物Bとしては、分子中にラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを有する化合物Bの市販品も挙げられる。このような市販品としては、例えば、2−イソシアナトエチルメタクリレート(商品名「カレンズMOI」、昭和電工株式会社製、分子中に1のラジカル重合性不飽和結合と1のイソシアネート基とを有する化合物)、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(商品名「カレンズBEI」、昭和電工株式会社製、分子中に2のラジカル重合性不飽和結合と1のイソシアネート基とを有する化合物)などが挙げられる。
【0054】
一方、上記ブロックイソシアネート化合物Bとしては、公知の方法で形成された化合物が挙げられる。このような公知の方法で形成された化合物としては、例えば、ラジカル重合性不飽和結合を有しているイソシアネート化合物とブロック剤とを溶媒中0〜200℃程度の温度で撹拌し、濃縮、濾過、抽出、晶析、蒸留等の公知の分離精製手段を用いて分離することにより得られる化合物が挙げられる。
【0055】
上記ブロックイソシアネート化合物Bの形成の際に用いられる、ラジカル重合性不飽和結合を有しているイソシアネート化合物としては、例えば、上記イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートや、上記のラジカル重合性不飽和結合を有するモノアルコールとイソシアネート化合物との反応生成物が挙げられる。
【0056】
また、上記ブロック剤としては、例えば、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム類;メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルイソアミルケトオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、ノニルフェノール、カテコール、ニトロフェノールなどのフェノール類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、シクロヘキサノール、トリメチロールプロパンなどのアルコール類;ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン化合物;アセトアニリド、酢酸アミドなどのアミド類;コハク酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド類;3,5−ジメチルピラゾールなどのピラゾール類;1,2,4−トリアゾールなどのトリアゾール類;重亜硫酸ソーダなどの亜硫酸塩類;N,N′−ジフェニルホルムアミジン、N,N′−ビス(2−メチルフェニル)ホルムアミジン、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)ホルムアミジン、N,N′−ビス(4−メチルフェニル)ホルムアミジン、N,N′−ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホルムアミジンなどのN,N′−ジアリールホルムアミジン類などが挙げられる。これらのブロック剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。上記のブロック剤の中でも、粘着剤組成物のポットライフが長く、しかも比較的低温(例えば、80〜120℃)で架橋反応が進行するという点で、N,N′−ジアリールホルムアミジン類などが好ましい。
【0057】
さらに、上記ブロックイソシアネート化合物Bとしては、分子中にラジカル重合性不飽和結合とブロックイソシアネート基とを有する化合物の市販品も挙げられる。このような市販品としては、例えば、2−[(3,5−ジメチルピラゾリル)カルボキシアミノ]エチルメタクリレート(商品名「カレンズMOI−BP」、昭和電工株式会社製、分子中に1のラジカル重合性不飽和結合と1のブロックイソシアネート基を有する化合物、3,5−ジメチルピラゾリルのようなピラゾール系のブロックイソシアネート基を有する化合物)、メタクリル酸2−(0−[1’メチルプロビリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル(商品名「カレンズMOI−BM」、昭和電工株式会社製、分子中に1のラジカル重合性不飽和結合と1のブロックイソシアネート基を有する化合物、メチルエチルケトンオキシムのようなオキシム系のブロックイソシアネート基を有する化合物)などが挙げられる。
【0058】
上記水分型粘着剤組成物中の上記イソシアネート化合物Bの含有量は、特に限定されないが、上記アクリルエマルション系重合体A100重量部に対して、0.1〜30重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜10重量部である。含有量が0.1重量部未満であると、粘着剤層の基材に対する投錨性が向上しない場合がある。一方、含有量が30重量部を超えると、粘着剤層が非常に高弾性となり、十分な粘着性が得られない場合がある。
【0059】
なお、上記水分型粘着剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤が含有されていてもよい。各種添加剤としては、例えば、架橋剤、顔料、充填剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、老化防止剤、防腐剤などが挙げられる。
【0060】
上記水分散型粘着剤組成物は、上記アクリルエマルション系重合体A及び上記イソシアネート化合物Bを混合することにより作製される。また、必要に応じて、他にも、各種添加剤が混合されていてもよい。なお、上記混合方法は、公知慣用のエマルションの混合方法が用いられ、特に限定されないが、例えば、攪拌機を用いた攪拌が好ましい。攪拌条件は、特に限定されないが、例えば、温度は10〜50℃が好ましく、より好ましくは20〜35℃である。攪拌時間は5〜30分が好ましく、より好ましくは10〜20分である。攪拌回転数は、10〜2000rpmが好ましく、より好ましくは30〜1000rpmである。
【0061】
上記本発明の粘着剤層は、上記水分散型粘着剤組成物より形成される水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して得られる照射前粘着剤層に、電子線を照射して、硬化することにより、形成される。
【0062】
上記本発明の粘着剤層の厚さは、特に限定されないが、1〜1000μmが好ましく、より好ましくは3〜200μmである。なお、上記本発明の粘着剤層は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
【0063】
(基材)
本発明の粘着シートの基材は、適宜な薄葉体である限り、特に限定されない。例えば、上記基材としては、プラスチック系基材、繊維系基材、紙系基材、金属系基材などが好ましく挙げられる。また、基材は、1種又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0064】
特に、上記基材としては、電子機器、光学分野では、粘着シートに低汚染性、厚み精度が求められ、また透明性も求められる点から、プラスチック基材が好ましい。
【0065】
上記プラスチック基材の素材としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン(ポリオレフィン系樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル(ポリエステル系樹脂)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、アクリル、ポリスチレン、アセテート、ポリエーテルスルホン、トリアセチルセルロースなどの樹脂(透明樹脂)が用いられる。これらの樹脂は、1種または2種以上を組み合わせて用いられてもよい。上記の中でも、ポリエステル系樹脂やポリオレフィン系樹脂が好ましく、さらに、PET、ポリプロピレン、ポリエチレンが、生産性、成型性の面からより好ましい。すなわち、上記基材としては、ポリエステル系フィルムやポリオレフィン系フィルムが好ましく、PETフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムがより好ましい。
【0066】
上記基材の厚さは、特に限定されないが、各工程におけるハンドリング性や耐熱性などの点から、5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。
【0067】
なお、上記基材は、粘着剤層との密着力の向上を目的に、コロナ処理やプラズマ処理等の物理的処理、下塗り剤による処理等の化学的処理などの適宜な表面処理が施されていてもよい。
【0068】
また、本発明の粘着シートは、粘着剤層の保護のために、粘着剤層上に剥離フィルム(セパレーター)が積層されていてもよい。上記剥離フィルムとしては、特に限定されないが、公知の剥離フィルムが挙げられ、剥離フィルム用基材の少なくとも一方の面に剥離層が形成されたものが好ましく挙げられる。
【0069】
上記剥離フィルム用基材としては、特に限定されないが、例えば、プラスチックフィルム、紙、発泡体、金属箔などが挙げられる。中でも、上記剥離フィルム用基材としては、プラスチックフィルムが好ましい。また、上記剥離フィルム用基材の厚みは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。上記剥離フィルム用基材としてのプラスチックフィルムの素材としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。なお、プラスチックフィルムは、無延伸フィルム及び延伸(一軸延伸又は二軸延伸)フィルムの何れであってもよい。
【0070】
剥離フィルム用基材に形成される上記剥離層としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系剥離剤による剥離層、フッ素系剥離剤による剥離層、長鎖アルキル系剥離剤による剥離層などが挙げられる。なお、剥離層は、剥離フィルム用基材の片面のみに形成されていてもよいし、剥離フィルム用基材の両面に形成されていてもよい。
【0071】
さらに、本発明の粘着シートは、ロール状に巻き取られた巻回体であってもよい。具体的には、本発明の粘着シートは、粘着面が剥離フィルム(セパレータ)で保護された状態でロール状に巻き取られた巻回体であってもよいし、基材の背面が離型処理され、その離型処理された基材背面により粘着面が保護されるようにロール状に巻き取られた巻回体であってもよい。なお、基材背面の剥離処理に用いられる剥離剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、長鎖アルキル系剥離剤などが挙げられる。
【0072】
本発明の粘着シートの作製方法としては特に限定されないが、本発明の粘着シートは、基材の少なくとも片面側に設けられた、上記水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される照射前粘着剤層に、電子線を照射して、照射前粘着剤層を硬化させて、本発明の粘着剤層を形成することにより作製されることが好ましい。照射前粘着剤層への電子線照射に伴い、イソシアネート化合物Bがアクリルエマルション系重合体A及び基材の両方と反応することにより、粘着剤層と基材との間で十分な投錨性が発現すると推定されるためである。
【0073】
本発明の粘着シートの作製方法としては、例えば、下記の工程1、工程2及び工程3を少なくとも含み、基材の少なくとも片面側に粘着剤層を形成することにより粘着シートを得る方法が好ましい。
工程1:アクリルエマルション系重合体A及び分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bを含有する水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成する工程
工程2:上記水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して層を形成する工程
工程3:基材の少なくとも片面側に設けられた、上記水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層に、電子線を照射して粘着剤層を形成する工程
【0074】
また、本発明の粘着シートの作製方法では、直写法が用いられていてもよいし、転写法が用いられていてもよい。
【0075】
本発明の粘着シートの作製方法として直写法を用いる場合、例えば、基材の少なくと片面側に、上記水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成した後、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥し、さらに電子線照射して、粘着剤層を形成する粘着シートの作製方法が好ましく挙げられる。なお、この作製方法では、基材の少なくと片面側に形成された水分散型粘着剤層を加熱乾燥させることにより、基材の少なくとも片面側に水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層(照射前粘着剤層)が設けられている。
【0076】
また、本発明の粘着シートの作製方法として転写法を用いる場合、例えば、セパレーター(工程セパレーター)上に、上記水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成した後、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して層を形成し、さらに、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して形成された層を基材の少なくとも片面側に転写してから、電子線照射して、粘着剤層を形成する粘着シートの製造方法が好ましく挙げられる。
【0077】
上記水分散型粘着剤組成物により塗布層(水分散型粘着剤組成物層)を設ける際には、公知のコーティング法が用いられてもよい。例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、コンマコーター、ダイレクトコーターなどのコーターが用いられてもよい。
【0078】
また、上記加熱乾燥としては、例えば、80〜170℃(好ましくは80〜160℃)の温度雰囲気下での0.5〜20分間(好ましくは1〜10分間)の加熱乾燥が挙げられる。
【0079】
上記加熱乾燥には、特に限定されないが、例えば、熱風循環式オーブンなどの公知の装置が用いられてもよい。
【0080】
上記照射前粘着剤層に照射される電子線の照射エネルギーは、特に限定されないが、5〜5000kGyが好ましく、より好ましくは10〜300kGyであり、さらに好ましくは20〜200kGyである。照射エネルギーが5kGy未満であると、粘着剤層の硬化が不十分になる場合や粘着剤層の基材に対する投錨力が不十分となる場合がある。一方、照射エネルギーが5000kGyを超えると、粘着剤層や基材へのダメージが大きくなり、粘着シートの劣化を引き起こす場合がある。
【0081】
本発明の粘着シートは、上記本発明の粘着剤層を有するので、被着体への貼着時に粘着剤層から被着体表面への汚染が生じず、低汚染性に優れる。また、被着体への接着性に優れる。また、本発明の粘着シートは、基材と本発明の粘着剤層との投錨性に優れるので、被着体に貼付して使用した後被着体から剥離しても糊残りが生じず、糊残り防止性に優れる。さらに、使用中に被着体からの浮きや剥がれが生じず、浮きや剥がれの防止性に優れる。
【0082】
本発明の粘着シートは、上記特性を有するので、低汚染性が重視される光学製品用途や両面接着シート用途に好適に用いられる。上記光学製品用途としては、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、フィールドエミッションディスプレイなどのパネルを構成する偏光板、位相差板、反射防止板、波長板、光学補償フィルム、輝度向上フィルムなど光学部材(光学プラスチック、光学ガラス、光学フィルム等)の表面保護用途(光学部材用の表面保護フィルム等)や固定用途などが挙げられる。さらに、本発明の粘着シートは、半導体、回路、各種プリント基板、各種マスク、リードフレームなどの微細加工部品の製造の際の表面保護や破損防止、あるいは異物等の除去、マスキング等に用いられる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0084】
実施例1
(水分散型アクリル系粘着剤組成物の形成)
アクリル酸ブチル48.7重量部、アクリル酸2重量部、エーテルサルフェート型の非反応性アニオン系界面活性剤(花王株式会社製、商品名「ラテムル E118−B」、有効成分26重量%)3.9重量部、ラウリルメルカプタン(1−ドデカンチオール)(和光純薬工業株式会社製)0.025重量部及び水12.6重量部を、乳化機で乳化分散して得られたモノマーエマルションを得た。
冷却管、窒素導入管、温度計、攪拌装置を備えた反応容器に、水22.8重量部及び水溶性アゾ系重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名「VA−057」)0.051重量部を計量しておき、上記モノマーエマルションを窒素置換下において4時間かけて滴下した。重合中は内浴温度を60±1℃に保持した。重合開始4時間後、さらに3時間、内浴温度を60±1℃に保ちながら反応を持続し、熟成を行った。その後、濃度10重量%のアンモニア水でpH8に調整して、アクリルエマルション系重合体の分散液を形成した。
次いで、上記で得られた分散液に、ラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを有する化合物(2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、商品名「カレンズMOI」、昭和電工株式会社製)5重量部を添加して、水分散型アクリル系粘着剤組成物を形成した。
【0085】
(粘着剤層の形成及び粘着シートの作製)
次いで、上記で得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物を、PETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラーS−10」、厚さ38μm)上に、アプリケ−ター(テスタ−産業株式会社製)を用いて、乾燥後の厚さが20μmになるように塗布(コーティング)し、PETフィルム及び水分散型アクリル系粘着剤組成物層の積層構成を有するシート得た。
次に、上記シートを熱風循環式オーブンに投入し、120℃で2分間乾燥させた。その後、乾燥終了後の上記シートに、EB照射装置(株式会社アイ・エレクトロンビーム製、商品名「EC250/30/20mA」)により、照射線量30kGyの電子線を照射して、PETフィルム/粘着剤層の積層構成を有する基材付き粘着シートを得た。
【0086】
実施例2〜6
ラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを有する化合物(2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、商品名「カレンズMOI」、昭和電工株式会社製)の量を、表1で示した量としたこと以外は、実施例1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物を形成した。なお、各実施例のラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを有する化合物の量は、表1のMOI量の欄に示されている。
次に、EB照射装置により照射する電子線の照射線量を、表1で示した照射線量としたこと以外は、実施例1と同様にして、粘着剤層の形成及び粘着シートの作製をした。なお、各実施例の電子線の照射線量は、表1の照射線量の欄に示されている。
【0087】
比較例1及び2
ラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを有する化合物(2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、商品名「カレンズMOI」、昭和電工株式会社製)の量を、表1で示した量としたこと以外は、実施例1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物を形成した。なお、各比較例のラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを有する化合物の量は、表1のMOI量の欄に示されている。
次いで、上記で得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物を、PETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラーS−10」、厚さ38μm)上に、アプリケ−ター(テスタ−産業株式会社製)を用いて、乾燥後の厚さが20μmになるように塗布(コーティング)し、PETフィルム及び水分散型アクリル系粘着剤組成物層の積層構成を有するシート得た。
次に、上記シートを熱風循環式オーブンに投入し、120℃で2分間乾燥させて、PETフィルム/粘着剤層の積層構成を有する基材付き粘着シートを得た。
【0088】
比較例3
ラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを有する化合物(2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、商品名「カレンズMOI」、昭和電工株式会社製)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物を形成した。
次いで、上記で得られた水分散型アクリル系粘着剤組成物を、PETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラーS−10」、厚さ38μm)上に、アプリケ−ター(テスタ−産業株式会社製)を用いて、乾燥後の厚さが20μmになるように塗布(コーティング)し、PETフィルム及び水分散型アクリル系粘着剤組成物層の積層構成を有するシート得た。
次に、上記シートを熱風循環式オーブンに投入し、120℃で2分間乾燥させて、PETフィルム/粘着剤層の積層構成を有する基材付き粘着シートを得た。
【0089】
比較例4、5及び6
ラジカル重合性不飽和結合とイソシアネート基とを有する化合物(2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、商品名「カレンズMOI」、昭和電工株式会社製)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物を形成した。
次に、EB照射装置により照射する電子線の照射線量を、表1で示した照射線量としたこと以外は、実施例1と同様にして、粘着剤層の形成及び粘着シートの作製をした。なお、各比較例の電子線の照射線量は、表1の照射線量の欄に示されている。
【0090】
(評価)
実施例及び比較例について、投錨力を測定することにより、粘着剤層の相対投錨力を求めた。相対投錨力の結果を表1に示した。
【0091】
(相対投錨力)
実施例及び比較例で得られた基材付き粘着シートから、20mm幅、100mm長さの試験片を得た。
次に、試験片の粘着剤層側表面を、貼り合わせ機(小型貼り合わせ機、テスター産業株式会社製)を用いて、貼付圧力:0.25Mpa、貼付速度:0.3m/分の条件で、アクリル系粘着テープ(日東電工株式会社製、商品名「No.315」)に貼り合わせた。そして、試験片を貼り合わせたアクリル系粘着テープを、23℃、50%RHの環境下で、30分間放置した。
放置後、試験片を貼り合わせたアクリル系粘着テープを用い、下記の条件で180°剥離試験を行い、試験片の基材と試験片の粘着剤層との層間剥離力(=投錨力)(N/20mm)を測定した。
180°剥離試験の測定条件
剥離角度:180°
引張速度:300mm/分
試験環境:常態(23℃、50%RHの環境下)
【0092】
次に、下記式から、相対投錨力を求めた。
相対投錨力=(電子線を照射した試験片の投錨力)/(電子線を照射していない試験片の投錨力)
相対投錨力は、電子線を照射していない試験片の投錨力を1としたときの、電子線を照射した試験片の投錨力の相対値である。
相対投錨力は、電子線照射の有無以外は共通する基材付き粘着シートを用いて求められる。実施例1〜3について、電子線照射の有無以外は共通する基材付き粘着シートは、比較例1である。実施例4〜6について、電子線照射の有無以外は共通する基材付き粘着シートは、比較例2である。比較例4〜6について、電子線照射の有無以外は共通する基材付き粘着シートは、比較例3である。
【0093】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面側に、アクリルエマルション系重合体A、及び、分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bを含有する水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層を電子線にて硬化することにより得られる粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記電子線反応基がラジカル重合性基である請求項1記載の粘着シート。
【請求項3】
前記ラジカル重合性基が、不飽和結合基である請求項2記載の粘着シート。
【請求項4】
基材の少なくとも片面側に粘着剤層を形成することにより粘着シートを得る粘着シートの製造方法であって、下記の工程1、工程2及び工程3を含むことを特徴とする粘着シートの製造方法。
工程1:アクリルエマルション系重合体A及び分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bを含有する水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成する工程
工程2:前記水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して層を形成する工程
工程3:基材の少なくとも片面側に設けられた、前記水分散型粘着剤組成物を加熱乾燥して形成される層に、電子線を照射して粘着剤層を形成する工程
【請求項5】
基材の少なくとも片面側に、アクリルエマルション系重合体A及び分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bとを含有する水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成した後、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥し、さらに電子線照射して、粘着剤層を形成することを特徴する粘着シートの製造方法。
【請求項6】
セパレーター上に、アクリルエマルション系重合体A及び分子中に1以上の電子線反応基と1以上のイソシアネート基を有する化合物Bとを含有する水分散型粘着剤組成物により水分散型粘着剤組成物層を形成した後、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して層を形成し、さらに、該水分散型粘着剤組成物層を加熱乾燥して形成された層を基材の少なくとも片面側に転写してから、電子線照射して、粘着剤層を形成することを特徴する粘着シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−229375(P2012−229375A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99881(P2011−99881)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】