説明

精密ホットプレス用金型とその製造方法

【課題】 本発明は、金属粉末を金型内に充填して300℃以上の高温に保持しつつ、ギアや部品などの形状に精密ホットプレス加工する際に用いる金型およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 300℃以上の温度に保持して金属粉末の固化成形を行う際に用いる精密金型において、金型素材中に析出している炭化物の最大円換算粒径が該金型を放電加工する際に用いるワイヤ直径の1/5以下であることを特徴とする精密ホットプレス用金型、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末を金型内に充填して300℃以上の高温に保持しつつ、ギアや部品などの形状に精密ホットプレス加工する際に用いる金型およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体微細加工技術の発達に伴い、それを部品加工に応用して医療用などのマイクロマシンやセンサー用の機械部品の開発やそれらを半導体技術と融合させたMEMS開発が盛んになっている。これらの精密部品では高耐久性、低コスト化を実現すべく金属部品への要求が根強く、また将来の医療高度化や機器の精密化に対応するために、さらなる小型化、高精度化が要求されるようになってきており、超精密金属部品を経済的に製造する方法が求められている。
【0003】
これまでのマイクロマシンや精密機械部品の製造方法としては、例えば、特開平6−194832号公報(特許文献1)に開示されているように、液状感光性樹脂を硬化させた母型に無電解メッキ膜を形成させ、その母型をマスターとして表面に電気化学反応で厚メッキを施した後、マスターを剥離させる方法(電鋳)によってバルク金属部品を製造する方法や放射光を利用したX線リソグラフィーと電鋳とを組み合わせた(LIGA)方法などが提案されている。しかし、これらの方法では電鋳部品を取り出すために樹脂やLIGAで作製したモールド型は酸等によって溶融除去させるために再利用ができず、量産プロセスとしては煩雑でコスト高になるといった課題があった。
【0004】
これらの課題に対し、近年では金属ガラス粉末を精密加工素材として利用することが提案されている。金属ガラスは金属溶湯を超急冷せずとも非晶質組織が得られる合金で、その非晶質金属固体を加熱すると明確なガラス遷移温度と結晶化温度を示すことが特徴である。金属ガラスを精密加工するには特開平11−71602号公報(特許文献2)に開示されているように、金属ガラス素材をガラス遷移温度以上、結晶化温度以下の極めて粘性流動性に優れた温度領域で加工することがポイントである。その方法として、精密加工された金型に金属ガラス粉末を充填して該金型全体をガラス遷移温度以上、結晶化温度以下の温度に保持することによって充填された金属ガラス粉末を粘性流動性に優れた状態にして固化成形する方法などがある。
【特許文献1】特開平6−194832号公報
【特許文献2】特開平11−71602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、Fe基、Ni基、Co基など工業的に安価な金属を合金成分とする金属ガラス粉末は、殆どの成分が300℃以上のガラス遷移温度を示すため、ホットプレスで該粉末を固化成形する場合は300℃以上で高荷重の繰返し使用に耐える物性と、ワイヤ放電加工によって所望の部品形状に従った金型形状に加工できるという優れた放電加工性を有する金型材を用いることが求められている。
【0006】
一般的に金型材として使用される超硬材(WC−Co)は、300℃以上の高温ではタングステンが酸化されるため高温での繰返し使用には不適である。そのため高温・高荷重ホットプレス用金型としては高温でも軟化し難い合金組織中に耐摩耗性を有する炭化物が分散したFe基合金である熱間金型用工具鋼やCo基合金であるCo−Cr−W−C系合金鋼(ステライト合金)が一般的に使用されている。
【0007】
しかし、工具鋼をはじめとする特殊鋼は所望の合金成分を電気炉で溶解した後、鋳型中で固める。さらに塑性加工が可能な成分については該鋳塊を圧延する。いずれの製造方法においても、鋼中に存在する炭化物は大半が10μm以上の大きさであり、さらには、100μm以上の巨大炭化物も存在する場合がある。大きな炭化物が存在する箇所をワイヤ放電加工すると合金組織と炭化物との被放電加工速度差が生じるため、特に精密加工するために直径の細いワイヤを用いた場合にはワイヤの断線が起こり易く加工効率が極めて悪い。また、加工できた場合でも、金属組織と炭化物組織との放電面段差や加工面粗さの違いなどが生じるなど、大きな炭化物はワイヤ放電によって金型を精密加工する際の障害になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述したような問題を解消するために、発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、金型素材中の炭化物円換算直径を金型加工に用いるワイヤ直径の1/5以下にすることによって、極めて優れたワイヤ放電加工性が発揮できることを見出した。これによって、高温・高荷重での繰返し使用に適した熱間金型用工具鋼やCo−Cr−W−C系合金鋼を工業的に精密金型に加工でき、金属ガラス粉末などの精密ホットプレス金型として使用できる。
【0009】
その発明の要旨とするところは、
(1)300℃以上の温度に保持して金属粉末の固化成形を行う際に用いる精密金型において、金型素材中に析出している炭化物の最大円換算粒径が該金型を放電加工する際に用いるワイヤ直径の1/5以下であることを特徴とする精密ホットプレス用金型。
【0010】
(2)前記(1)に記載の精密金型の製造において、該金型合金成分の金属粉末を金属製カプセルに充填した後、熱間押出し、または熱間静水圧プレス(HIP)で固化成形した素材であることを特徴とする精密ホットプレス用金型の製造方法。
(3)前記(1)に記載の金型によって精密ホットプレス成形される金属粉末が金属ガラス合金粉末であることを特徴とする精密ホットプレス用金型。
【0011】
(4)前記(2)に記載の固化成形された鋼中に存在する炭化物の最大円換算粒径が10.0μm未満であることを特徴とする精密ホットプレス用金型の製造方法にある。ここで、円換算粒径とは、不定形状の炭化物について顕微鏡写真等を使って画像処理等によってその面積を計算し、同じ面積を持つ円の直径を算出した値であり、最大円換算粒径とは、前述の方法で算出した多くの炭化物円換算粒径のうちの最大値である。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明により、金属ガラス合金粉末などの精密ホットプレス成形する際に用いる金型において、高温・高荷重に耐える物性を持つ金属金型素材をワイヤ放電加工することによって被成形形状に合わせた精密なダイやパンチ形状に加工することができる。また、これによって、金型素材の課題から困難であった精密ホットプレス成形部材の工業化が容易に図られる極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、300℃以上の温度に限定した理由は、Fe基、Ni基、Co基など工業的に安価な金属を合金成分とする金属ガラス粉末は、殆どの成分が300℃以上のガラス遷移温度を示すため、ホットプレスで該粉末を固化成形する際に用いる金型は300℃以上で高荷重の繰返し使用に耐える物性が必要であることから、その下限を300℃とした。
【0014】
また、金型素材中に析出している炭化物の最大円換算粒径が該金型を放電加工する際に用いるワイヤ直径の1/5以下とした理由は、ワイヤ直径の1/5を超えると、ワイヤ切れが頻繁に発生し、また、放電面の平滑度も悪いことから、ワイヤ放電加工性を十分に発揮することが出来ないことから、その上限を1/5とした。好ましくは1/10とする。さらに、ワイヤ径を300μm以下としたのは、300μmを超えるとワイヤが太すぎて、本発明が対象としているような精密部品成形が可能な金型の加工ができないためであり、また、30μm未満のワイヤは機械的強度が不足しているためワイヤ放電加工に適した素材を加工する場合でもワイヤ切れが頻発するため、30〜300μmとした。好ましくは、30〜100μmとする。
【0015】
さらに、固化成形された鋼中に存在する炭化物の最大円換算粒径が10.0μm未満とした理由は、10.0μm以上の大きな炭化物が存在する箇所が存在する箇所をワイヤ放電加工すると合金組織と炭化物との被放電加工速度差が生じるため、特に精密加工するために直径の細いワイヤを用いた場合にはワイヤの断線が起こり易く加工効率が極めて悪い。また、加工できた場合でも、金属組織と炭化物組織との放電面段差や加工面粗さの違いなどが生じるなど、大きな炭化物はワイヤ放電によって金型を精密加工する際の障害になることから、10.0μm未満とした。好ましくは8.0μm未満とする。
【実施例】
【0016】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
ステライトNo.1相当の合金(Co−30Cr−12W−2.5C)について、溶解容量2kgのアルミナ坩堝中に、その合金組成になるように調整した各原料を挿入し、誘導溶解炉にて溶解した後、そのまま冷却して鋳造品を作製した。一方、アルミナ坩堝中で同様に溶解した後、下部に設けた直径2mmの穴から出した溶湯にアルゴンガスを吹き付けることによって、上記合金組成の粉末を作製した。作製された粉末の平均粒径は80μmであった。
【0017】
上記して得られた合金組成の粉末を熱間静水圧プレスして得られた粉末を内径50mm、深さ50mm、カプセルの肉厚2mmの軟鋼製カプセルに充填した後、熱間静水圧装置に該カプセルを挿入し、1050℃で2時間保持することによって100%密度の成形耐を得た。また、熱間押出しプレス品は外形150mm、長さ400mmの軟鋼製ビレット中に作られた内径50mm、長さ50mmの空間中に得られた粉末を充填封入し、ビレットを1050℃に加熱して直径50mmに押出し成形した後、ビレットから粉末成形部分を切出しすることによって成形体を得た。得られた成形体を回転エメリー歯で切断、断面観察した写真を図1に示す。
【0018】
図1は、熱間押出し材、熱間静水圧プレス材から粉末成形部分を切出し得られた成形体を切断、鋳造材と比較して断面観察した組織顕微鏡写真である。図1(a)、(b)は本発明に係る粉末成形品であって、図1(a)は粉末押出し品の場合の組織断面であり、図1(b)は熱間静水圧プレス品の場合の組織断面である。これに対し、図1(c)は、従来の鍛造品の場合の組織断面であり、大きな炭化物が存在していることが分かる。本発明の粉末押出および熱間静水圧プレスの場合は、いずれも従来の鍛造品に比べて炭化物が微細状態であり、特に粉末押出品の組織断面の場合には、炭化物が最も微細化されていることが分かる。
【0019】
【表1】

また、各成形体の炭化物の粒径とワイヤ直径並びに炭化物の最大円換算粒径とワイヤ直径比の場合におけるワイヤ放電結果を表1に示す。
【0020】
表1に、得られた各成形体と各種直径の異なるワイヤを用いてワイヤ放電切断した結果について各成形体の炭化物の状況について示す。ワイヤ放電したときのワイヤ切れ状況については、全く発生しない場合を◎、発生が殆ど見られなかった場合を○、散発した場合を△、頻繁に発生した場合を×で評価した。また、放電面の平滑度については、良好なものを○、やや劣るものを△、悪いものを×で評価した。
【0021】
表1に示すように、No.1〜11を本発明例とし、No.12〜17は比較例とした。比較例No.12は、熱間静水圧プレスであるが、炭化物の最大円換算粒径とワイヤ直径の比が1/5以上であるために、ワイヤ切れが散発した。比較例No.13、14は、固化成形方法が鋳造法のため、炭化物の最大粒径が600μmと大きく、かつ炭化物の最大円換算粒径とワイヤ直径の比が1/5以上であるために、ワイヤ切れが散発し、また、放電面の平滑度も悪かった。
【0022】
比較例No.15〜17は、比較例No.13、14と同様に、固化成形方法が鋳造法のため、炭化物の最大粒径が600μmと大きく、平均粒径も300μm以上と大きく、かつ炭化物の最大円換算粒径とワイヤ直径の比が1/5以上から大きくはずれているために、ワイヤ切れが頻発し、また、放電面の平滑度もやや劣る。これに対し、本発明例であるNo.1〜11は、本発明の条件を満たしていることから、いずれの特性も優れていることが分かる。
【0023】
以上のように、熱間金型用工具鋼、ステライト合金等をガスアトマイス粉末を軟鋼カプセル中に封入して熱間押出し、熱間静水圧プレス等で固化成形し、所望の素材形状に切出した成形材をワイヤ放電で精密加工を行い、金属ガラス粉末などの熱間精密固化成形用金型として使用する場合に、精密加工部品加工用金型に加工するためにワイヤ放電加工を行うとステライト合金等の中の巨大炭化物がワイヤ放電を阻害するためにワイヤ切れや加工精度が悪くなるこもなく、耐熱摩耗性と精密加工性を兼ね備えることができるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】熱間押出し材、熱間静水圧プレス材から粉末成形部分を切出し得られた成形体を切断、鋳造材と比較して断面観察した組織顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
300℃以上の温度に保持して金属粉末の固化成形を行う際に用いる精密金型において、金型素材中に析出している炭化物の最大円換算粒径が該金型を放電加工する際に用いるワイヤ直径の1/5以下であることを特徴とする精密ホットプレス用金型。
【請求項2】
請求項1に記載の精密金型の製造において、該金型合金成分の金属粉末を金属製カプセルに充填した後、熱間押出し、または熱間静水圧プレス(HIP)で固化成形した素材であることを特徴とする精密ホットプレス用金型の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の金型によって精密ホットプレス成形される金属粉末が金属ガラス合金粉末であることを特徴とする精密ホットプレス用金型。
【請求項4】
請求項2に記載の固化成形された鋼中に存在する炭化物の最大円換算粒径が10.0μm未満であることを特徴とする精密ホットプレス用金型の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−149048(P2011−149048A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10774(P2010−10774)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省 東北経済産業局「平成21年度戦略的基盤技術高度化支援事業(継続事業)高精度マイクロ単分散粒子を用いた高機能マイクロ部品の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【出願人】(505014775)デジタルパウダー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】