説明

糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解方法、分解阻害方法および分解阻害剤

m−カルパインまたはμ−カルパインが、膵臓β細胞において糖代謝関連遺伝子の発現に関与する転写因子ネットワークを形成する、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)、ヘパトサイトヌクレアーファクター1α(HNF−1α)およびインシュリンプロモーターファクター1(IPF−1)を分解することを見出し、これら転写因子の分解方法;分解阻害方法;分解阻害剤;これらが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物産生促進剤および産生促進方法;これら転写因子の分解に起因する疾患の防止剤および/または治療剤並びに防止方法および/または治療方法;カルパインによるこれら転写因子分解を阻害する化合物の同定方法;該同定方法で得られた化合物;さらにカルパイン、これら転写因子、これら転写因子をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターを含んでなる試薬キットを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解方法、分解剤、分解阻害方法および分解阻害剤に関する。より詳しくは、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α(hepatocyte nuclear factor 4α、以下HNF−4αと略称する。)、ヘパトサイトヌクレアーファクター1α(hepatocyte nuclear factor 1α、以下HNF−1αと略称する。)およびインシュリンプロモーターファクター1(insulin promoter factor 1、以下IPF−1と略称する。)の分解方法、分解剤、分解阻害方法および分解阻害剤に関する。より具体的にはカルパイン(calpain)、好ましくはm−カルパインまたはμ−カルパインを用いることを特徴とするHNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1の分解方法および分解剤に関する。また、カルパイン、好ましくはm−カルパインまたはμ−カルパインによるHNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1の分解阻害方法および分解阻害剤に関する。さらに、HNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1のうちの少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法および産生促進剤に関する。また、HNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1のうちの少なくとも1つの分解に起因する疾患、例えば糖尿病の防止方法および/または治療方法並びに防止剤および/または治療剤に関する。さらに、HNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1のカルパインによる分解を阻害する化合物の同定方法および該同定方法により同定された化合物に関する。また、カルパイン、HNF−4α、HNF−1α、IPF−1、これらのいずれかをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターを含んでなる試薬キットに関する。
【背景技術】
カルパイン(EC 3.4.22.17)は、カルシウム依存性システインプロテアーゼであり、蛋白質を限定的に切断してその構造や機能を変化させる酵素である。カルパインには、構造的特徴、組織局在およびカルシウム要求性などによって分類される多くのアイソザイムが知られており、これらからなるスーパーファミリーを構成している。
m−カルパインは、カルパインスーパーファミリーの1つであり、カルパイン2とも呼ばれ、多くの組織で発現している(非特許文献1)。m−カルパインは1mM程度のカルシウム濃度で活性化され、酵素活性を発現する。
μ−カルパインは、カルパイン1とも呼ばれ、m−カルパインと同様に多くの組織で発現している(非特許文献1および2)。μ−カルパインは、m−カルパインと比較してカルシウム要求性が低く、数十μM程度のカルシウム濃度で活性化され、その酵素活性を発現する。
m−カルパインおよびμ−カルパインにより分解される蛋白質としては、p53やレチノイドXレセプター(RXR)など多くの転写因子が報告されている(非特許文献3〜5)。カルパインにより分解される蛋白質には、カルパインによって優先的に切断されるアミノ酸モチーフが存在する(非特許文献6)。例えば、ロイシン残基(Leu)またはバリン残基(Val)などの疎水性アミノ酸残基に続く、チロシン残基(Tyr)、メチオニン残基(Met)またはアルギニン残基(Arg)とそれに続くアミノ酸残基との間で切断される。現在、いくつかのカルパイン阻害剤が市販されているが、このような切断モチーフを含むアミノ酸配列からなるペプチドN−Acetyl−Leu−Leu−Met−CHOがm−カルパインの競合阻害剤として知られている(CALBIOCHEM社、非特許文献7)。またN−Acetyl−Leu−Leu−Nle−CHOは、μ−カルパインの競合阻害剤として知られている(CALBIOCHEM社、非特許文献8)。その他、不可逆的カルパイン阻害剤であるZ−Leu−Leu−Tyr−CHF(非特許文献9)、Mu−Val−HPh−CHF(非特許文献10)およびLeu−Leu−Pro−クロロメチルケトン(Chloromethyl ketone)(非特許文献11)、可逆的カルパイン阻害剤である4−フルオロフェニルスルホニル(Fluorophenylsulfonyl)−Val−Leu−CHO(非特許文献12)などが市販されている(CALBIOCHEM社)。
カルパインは細胞機能の調節に関与しているため、カルパインの活性制御の不全やその遺伝子の欠損などにより種々の疾患が引き起こされる。例えば、いくつかの糖尿病モデル動物では組織のカルパイン活性が亢進している(非特許文献13および14)。カルパイン阻害剤により膵島におけるグルコースに対するインシュリン分泌応答が増強されたことから、インシュリンの分泌と作用の調節へのカルパインの関与が示唆されている(非特許文献15)。また、カルパイン10遺伝子の変異と2型糖尿病罹患率との間の関連性が指摘されている(非特許文献16および17)。
m−カルパインおよびμ−カルパインについては、外傷性脳損傷、アルツハイマー病、脳卒中および白内障に関与していることが示唆されている(非特許文献2)。
一方、HNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1はいずれも転写因子としての機能を有し、種々の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサーに結合し、当該遺伝子の転写を活性化することが知られている。これらは例えば、膵臓のβ細胞において転写因子ネットワークを形成し(非特許文献18)、グルコーストランスポーター2(以下GLUT2と略称することもある。)、インシュリンおよびグルコキナーゼなどの糖代謝関連遺伝子の発現を制御すると考えられる。
HNF−4αは核内レセプターであり、膵臓のβ細胞、肝臓、腎臓および小腸で発現し、コレステロール、脂肪酸およびグルコースなどの代謝や肝臓の発生および分化に関与する物質をコードする種々の遺伝子の転写因子であることが知られている。HNF−4αは、膵臓のβ細胞における上記転写因子ネットワークにおいて、特にHNF−1αのポジティブレギュレーターとして機能し、インシュリン、GLUT2およびグルコキナーゼなどの糖代謝関連遺伝子の発現を制御する(非特許文献18〜23)。従来、HNF−4αのインシュリン遺伝子発現に対する作用は、HNF−1αレベルの上昇を介した間接的なものであると考えられてきた。しかし、HNF−4αが、インシュリン遺伝子プロモーター内で新規に見出されたシスエレメント(cis element)に結合し、直接的にその発現を調節することが報告された(非特許文献24)。
HNF−4α遺伝子については、遺伝性2型糖尿病MODY1(Maturity−onset diabetes of the young 1)の原因遺伝子であることが明らかにされている(非特許文献25および26)。
さらに、HNF−4α結合部位に自然変異を有するヒト遺伝子が、今までに複数同定されている。プロモーター内のHNF−4α結合部位に変異を有する変異体が見出されている遺伝子の1つは、上述のHNF−1αをコードする遺伝子である。HNF−1αプロモーターにおけるHNF−4α結合部位の変異によりHNF−4αがプロモーターに結合せず、その結果HNF−1αの発現が低減し、遺伝性2型糖尿声MODY3が惹起される(非特許文献27)。
かかる遺伝子としてはその他に、血液凝固に関与する因子である第VII因子および第IX因子をそれぞれコードする遺伝子が挙げられる。第IX因子遺伝子のプロモーターにおけるHNF−4α結合部位の変異は血友病の原因となる(非特許文献28および29)。また、第VII因子遺伝子のプロモーターにおけるHNF−4α結合部位の変異は重症第VII因子欠損症(severe factor VII deficiency)の患者で認められている(非特許文献30)。
HNF−1αはトランスクリプションファクター1(TCF−1)とも呼ばれ、膵臓のβ細胞、肝臓および腎臓などで発現し、多くの肝特異的遺伝子、例えばアルブミン、フィブリノーゲンやα1アンチトリプシンなどの遺伝子発現を調節していることが知られている。HNF−1αは、膵臓のβ細胞における上記転写因子ネットワークにおいて、IPF−1やHNF−4αの転写を制御している(非特許文献21)。また、HNF−1αが、GLUT2およびインシュリンなどの糖代謝関連遺伝子の発現を制御していることを示唆するデータが開示されている(非特許文献22)。例えば、HNF−1αはGLUT2遺伝子のプロモーター領域に結合してその転写活性を亢進した(非特許文献22)。また、HNF−1αはインシュリン遺伝子のプロモーターのA3領域に結合してその転写活性を亢進した(非特許文献31)。その他、ドミナントネガティブ体のHNF−1αが膵臓β細胞株でインシュリン分泌を低下させたことが報告されている(非特許文献32)。
HNF−1α遺伝子については、遺伝性2型糖尿病MODY3(Maturity−onset diabetes of the young 3)の原因遺伝子であることが明らかにされている(非特許文献33)。
HNF−1αはまた、肝細胞腺腫(liver adenoma)との関連も指摘されている。例えば、アミノ変異によるHNF−1αの不活性化が肝細胞腺腫の原因となることが示された(非特許文献34)。また、HNF−1αのノックアウトマウスにおいて肝細胞の異常増殖による著しい肝肥大が認められた(非特許文献35)。肝細胞腺腫は肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)へ形質転換する危険性を有する腫瘍なので、HNF−1αの不活性化は肝細胞腺腫、ひいては肝細胞癌を誘発すると考えられる。
IPF−1はパンクレアス・デュオディナムホメオボックス1(Pancreas/duodenum homeobox 1;PDX−1)などとも呼ばれ、膵臓のβ細胞およびδ細胞で発現している。HNF−4αのプロモーター領域P2にはIPF−1結合部位が存在し、その変異が糖尿病の発症と相関することが報告されている(非特許文献36)。また、IPF−1がGLUT2(非特許文献37)、インシュリン(非特許文献38)、およびグルコキナーゼ(非特許文献39)などの糖代謝関連遺伝子の発現を制御していることを示唆するデータが開示されている。GLUT2遺伝子にはIPF−1が直接作用してその発現に関与する(非特許文献37)。
IPF−1遺伝子については、遺伝性2型糖尿病MODY4(Maturity−onset diabetes of the young 4)の原因遺伝子であることが明らかにされている(非特許文献40)。
以下に、本明細書で引用した文献を列記する。
特許文献1:国際公開第WO01/67299号パンフレット。
非特許文献1:反町洋之、「生化学」2000年、第72巻、第11号、p.1297−1315。
非特許文献2:Huang,Y.et al.,「TRENDS in Molecular Medicine」2001年,第7巻,p.355−362。
非特許文献3:Matsusima−Nishiwaki,R.et al.,「Biochemical and Biophysical Research Communications」1996年,第225巻,p.946−951。
非特許文献4:Pariat,M.,et al.,「Molecular and Cellular Biology」1997年,第17巻,p.2806−2815。
非特許文献5:Watt F.et al,,「Nucleic Acids Research」1993年,第21巻,p.5092−5100。
非特許文献6:Sasaki,T.et al.,「Journal of Biological Chemistry」1984年,第259巻,p.12489−12494。
非特許文献7:Ravid,T.et al.,「Journal of Biological Chemistry」2000年,第275巻,p.35840−35847。
非特許文献8:Debiasi,R.L.et al.,「Journal of Virology」1999年,第73巻,p.695−701。
非特許文献9:Dutt,p.et al.,「FEBS Letter」1998年,第436巻,p.367−371。
非特許文献10:Esser,R.E.et al.,「Arthritis and Rheumatism」1994年,第37巻,p.236−247。
非特許文献11:Sasaki,T.et al.,「Journal of Biochemistry」1986年,第99巻,p.173−179。
非特許文献12:Nath,R.et al.,「Biochemical and Biophysical Research Communications」2000年,第274巻,p.16−21。
非特許文献13:Brooks,B.A.et al.,「American Journal of Physiology」1983年,第244巻,第3号,p.C175−181。
非特許文献14:Kobayashi,S.et al.,「Endocrinologia Japonica」1989年,第36巻,第6号,p.833−844。
非特許文献15:Sreeman,S.K.et al.,「Diabets」2001年,第50巻,p.2013−2020。
非特許文献16:Horikawa,Y.et al.,「Nature Genetics」2000年,第26巻,p.163−175。
非特許文献17:Baier,L.J.et al.,「Journal ofClinical Investigation」2000年,第106巻,p.R69−73。
非特許文献18:Shih,D.Q.et al.,「Proceedings of The National Academy of Sciencesof The United States of America」2001年,第98巻,p.14189−14191。
非特許文献19:「BIO Clinica」2002年,第17巻,p.410−414。
非特許文献20:Stoffel,M.et al.,「Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America」1997年,第94巻,p.13209−13214。
非特許文献21:Shih,D.Q.et al.,「Diabetes」2001年,第50巻,p.2472−2480。
非特許文献22:Ban,N.et al.,「Diabetes」2002年,第51巻,p.1409−1418。
非特許文献23:Cah,J.Y.et al.,「Experimental and Molecular Medicine」2001年,第33巻,第2号,p.59−63。
非特許文献24:Bartoov−Shifman,R.et al.,「Journal of Biological Chemistry」2002年,第277巻,第29号,p.25914−25919。
非特許文献25:Ryffel,G.U.et al.,「Journal of Molecular Endocrinology」2001年,第27巻,p.11−29。
非特許文献26:「臨床病理」2001年、第49巻、第2号、p.161−164。
非特許文献27:Gragnoli,C.et al.,「Diabetes」1997年,第46巻,p.1648−1651。
非特許文献28:Sladek,F.M.et al.,「In Nuclear Receptors and Genetic Disease」2001年,p.309−361 Eds.TB Burris & ERB McCabe,San Diego;Academic Press。
非特許文献29:Marlene,J.R.et al.,「Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America」1992年,第89巻,p.6300−6303。
非特許文献30:Carew,J.A.et al.,「BLOOD」2000年,第15巻,p.4370−4372。
非特許文献31:Okita,K.et al.,「Biochemical Biophysical Research communications」1999年,第263巻,p.566−569。
非特許文献32:Wang,H.et al.,「EMBO Journal」1998年,第17巻,第22号,p.6701−6713。
非特許文献33:Yamagata,K.et al.,「Nature」1996年,第384巻,p.455−457。
非特許文献34:Bluteau,O.et al.,「Nature genetics」2002年,第32巻,p.312−315。
非特許文献35:Pontoglio,M.et al.,「Cell」1996年,第84巻,p.575−585。
非特許文献36:Thomas,H.et al,,「Human Molecular Genetics」2001年,第10巻,第19号,p.2089−2097。
非特許文献37:Waeber,G.et al.,「Molecular Endocrinology」1996年,第10巻,p.1327−1334。
非特許文献38:Ohlsson,H.et al.,「EMBO Journal」1993年,第12巻,p.4251−4259。
非特許文献39:Watada,H,et al.,「Diabetes」1996年,第45巻,p.1478−1488。
非特許文献40:Stoffers,D.A.et al.,「Nature genetics」1997年,第17巻,p.138−141。
非特許文献41:Ulmer,K.M.「Science」1983年,第219巻,p.666−671。
非特許文献42:「ペプチド合成」(日本国)、丸善株式会社、1975年。
非特許文献43:「ペプチド合成(Peptide Synthesis)」(米国)、インターサイエンス、1996年。
非特許文献44:Bjorklund,A.et al.,「Diabetes」2000年,第49巻,p.1840−1848。
非特許文献45:Maruyama,K.et al.,「International Journal of Molecular Medicine」2000牟,第5巻,p.269−273。
【発明の開示】
本発明においては、カルパインと相互作用する蛋白質を見出し、カルパインによる当該蛋白質の分解に起因する疾患の防止手段および/または治療手段を提供すべく種々の検討を重ねた。その結果、カルパインが転写因子の1つであるHNF−4αと相互作用することをインシリコで予測し、さらにカルパインによるHNF−4αの分解を実験的に証明した。さらに、HNF−4αと膵臓β細胞において転写因子ネットワークを形成するHNF−1αおよびIPF−1がカルパインにより分解されることを見出して、本発明を完成した。
すなわち本発明の一態様は、カルシウムの存在下、カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを共存させることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解方法に関する。
また本発明の一態様は、カルシウム濃度により糖代謝関連遺伝子の転写因子分解程度を変えることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解方法に関する。
さらに本発明の一態様は、カルシウムの存在下、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを共存させることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである、前記いずれかの分解方法に関する。
また本発明の一態様は、カルシウムの存在下、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインとヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を共存させることを特徴とする、HNF−4αの分解方法に関する。
さらに本発明の一態様は、カルシウムの存在下、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインとヘパトサイトヌクレアーファクター1α(HNF−1α)を共存させることを特徴とする、HNF−1αの分解方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルシウムの存在下、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインとインシュリンプロモーターファクター1(IPF−1)を共存させることを特徴とする、IPF−1の分解方法に関する。
また本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害することを特徴とする糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらに本発明の一態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子切断を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子との結合を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
また本発明の一態様は、少なくともカルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを含む生体外試料をカルパイン活性を阻害する物質で処理することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらに本発明の一態様は、少なくともカルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを発現している細胞をカルパイン活性を阻害する物質で処理することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、細胞が哺乳動物に担持されている細胞である前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
また本発明の一態様は、哺乳動物に担持されている細胞が膵臓β細胞である前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらに本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害する物質が、カルパインを認識する抗体、糖代謝関連遺伝子の転写因子を認識する抗体およびカルパインインヒビターから選ばれる1つ以上の物質である前記いずれかの糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインインヒビターが、N−Acetyl−Leu−Leu−Met−CHO、N−Acetyl−Leu−Leu−Nle−CHO、Z−Leu−Leu−Tyr−CHF、Mu−Val−HPh−CHF、4−フルオロフェニルスルホニル(Fluorophenylsulfonyl)−Val−Leu−CHO、Leu−Leu−Phe−CHClまたはZ−Val−Phe−CHOである前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
また本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害する物質がカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドである前記いずれかの糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらに本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害する物質が、配列表の配列番号1から3のいずれかに記載のアミノ酸配列のうちの連続する3つ以上のアミノ酸残基からなり、且つカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドである前記いずれかの糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位がLeu−Tyr、Leu−Met、Leu−Arg、Val−Tyr、Val−MetおよびVal−Argからなる群より選ばれるものである前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
また本発明の一態様は、カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである前記いずれかの糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらに本発明の一態様は、糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである、前記いずれかの糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とするヘパトサイトヌクレアーファクター4αの分解阻害方法に関する。
また本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはAt−カルパインの活性を阻害することを特徴とするヘパトサイトヌクレアーファクター1αの分解阻害方法に関する。
さらに本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とするインシュリンプロモーターファクター1の分解阻害方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインを活性成分として有効量含んでなる糖代謝関連遺伝子の転写因子分解剤に関する。
また本発明の一態様は、カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解剤に関する。
さらに本発明の一態様は、糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである、前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインを活性成分として有効量含んでなるヘパトサイトヌクレアーファクター4αの分解剤に関する。
また本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインを活性成分として有効量含んでなるヘパトサイトヌクレアーファクター1αの分解剤に関する。
さらに本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインを活性成分として有効量含んでなるインシュリンプロモーターファクター1の分解剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害することを特徴とする糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
また本発明の一態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子切断を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
さらに本発明の一態様は、カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子との結合を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害する物質を活性成分として有効量含んでなる、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
また本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害する物質が、カルパインを認識する抗体、糖代謝関連遺伝子の転写因子を認識する抗体およびカルパインインヒビターから選ばれる1つ以上の物質である前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
さらに本発明の一態様は、カルパインインヒビターが、N−Acetyl−Leu−Leu−Met−CHO、N−Acetyl−Leu−Leu−Nle−CHO、Z−Leu−Leu−Tyr−CHF、Mu−Val−HPh−CHF、4−フルオロフェニルスルホニル(Fluorophenylsulfonyl)−Val−Leu−CHO、Leu−Leu−Phe−CHClまたはZ−Val−Phe−CHOである前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害する物質がカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドである前記糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解阻害剤に関する。
また本発明の一態様は、カルパイン活性を阻害する物質が、配列表の配列番号1から3のいずれかに記載のアミノ酸配列のうちの連続する3つ以上のアミノ酸残基からなり且つカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドである前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
さらに本発明の一態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位がLeu−Tyr、Leu−Met、Leu−Arg、Val−Tyr、Val−MetおよびVal−Argからなる群より選ばれるものである前記糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである前記いずれかの糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤に関する。
また本発明の一態様は、糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである、前記いずれかの分解阻害剤に関する。
さらに本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α分解阻害剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター1α分解阻害剤に関する。
また本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とする、インシュリンプロモーターファクター1分解阻害剤に関する。
さらに本発明の一態様は、糖代謝関連遺伝子の転写因子をカルパインを用いて分解することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである前記糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法に関する。
また本発明の一態様は、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの転写因子をm−カルパインおよび/またはμ−カルパインを用いて分解することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法に関する。
さらに本発明の一態様は、糖代謝関連遺伝子がインシュリン遺伝子またはグルコーストランスポーター2遺伝子である前記いずれかの糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子分解を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法に関する。
また本発明の一態様は、カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである前記糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法に関する。
さらに本発明の一態様は、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解を阻害することを特徴とする糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、糖代謝関連遺伝子がインシュリン遺伝子またはグルコーストランスポーター2遺伝子である前記いずれかの糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法に関する。
また本発明の一態様は、カルシウム濃度により糖代謝関連遺伝子の分解程度を変えることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生調節方法に関する。
さらに本発明の一態様は、カルシウム濃度によりヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解程度を変えることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生調節方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進剤に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクタ−1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生促進剤に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の産生促進剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる医薬組成物に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解に起因する疾患の防止剤および/または治療剤に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解に起因する疾患の防止剤および/または治療剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止剤および/または治療剤に関する。
また本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止剤および/または治療剤に関する。
さらに本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止剤および/または治療剤に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、糖尿病の防止剤および/または治療剤に関する。
また本発明の一態様は、前記分解阻害方法を用いることを特徴とする、肝細胞腺腫または肝細胞癌の防止方法および/または治療方法に関する。
さらに本発明の一態様は、前記分解阻害剤を用いることを特徴とする、肝細胞腺腫または肝細胞癌の防止方法および/または治療方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記分解阻害剤を有効量含んでなる、肝細胞腺腫または肝細胞癌の防止剤および/または治療剤に関する。
また本発明の一態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子分解を阻害する化合物の同定方法であって、カルパインによる該転写因子切断を可能にする条件下、カルパインおよび/または該転写因子と被検化合物を接触させ、カルパインによる該転写因子の分解を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、被検化合物がカルパインによる該転写因子の切断を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらに本発明の一態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を阻害する化合物の同定方法であって、カルパインによる該転写因子の切断を可能にする条件下、カルパインおよび/または該転写因子と被検化合物を接触させ、該転写因子量または該転写因子分解物量を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、被検化合物がカルパインによる該転写因子の切断を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を阻害する化合物の同定方法であって、カルパインと該転写因子の結合を可能にする条件下、カルパインおよび/または該転写因子と被検化合物を接触させ、カルパインと該転写因子の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、被検化合物がカルパインと該転写因子の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法に関する。
また本発明の一態様は、カルパインが、m−カルパインまたはμ−カルパインである前記いずれかの同定方法に関する。
さらに本発明の一態様は、糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである前記いずれかの同定方法に関する。
さらにまた本発明の一態様は、前記いずれかの同定方法で同定された化合物に関する。
また本発明の一態様は、カルパイン、カルパインをコードするポリヌクレオチドおよびカルパインをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つと、カルパインにより分解される糖代謝関連遺伝子の転写因子、該転写因子をコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つとを含んでなる試薬キットに関する。
さらに本発明の一態様は、カルパイン、カルパインをコードするポリヌクレオチドおよびカルパインをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つ、並びにヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1およびこれらいずれかをコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キットに関する。
さらにまた本発明の一態様は、カルパインが、m−カルパインまたはμ−カルパインである前記試薬キットに関する。
【図面の簡単な説明】
第1図はm−カルパインまたはμ−カルパインによるHNF−4α(配列番号1)の切断認識部位を示す。アミノ酸配列は1文字表記し、切断認識部位は下線で示した。
第2図はm−カルパインまたはμ−カルパインによるHNF−1α(配列番号2)の切断認識部位を示す。アミノ酸配列は1文字表記し、切断認識部位は下線で示した。
第3図はm−カルパインまたはμ−カルパインによるIPF−1(配列番号3)の切断認識部位を示す。アミノ酸配列は1文字表記し、切断認識部位は下線で示した。
第4図はm−カルパインとHNF−4αの相互作用をインシリコで予測した結果を示す。第4図Aはヒトm−カルパインとヒトHNF−4α(配列番号1)とのローカルアライメントの結果、高いスコアを示した領域を表示した。第4図Bはウサギm−カルパインとヒトHNF−4α(配列番号1)とのローカルアライメントの結果、高いスコアを示した領域を表示した。アミノ酸配列は1文字表記した。
第5図はウサギm−カルパインがインビトロでヒトHNF−4αをカルシウム存在下で分解したことを説明する。第5図Aおよび第5図Bはそれぞれ、抗HNF−4α抗体および抗Xpress抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果を示す。図中の+および−は各組成の有無を示す。矢頭はHNF−4αのバンドを示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第6図はヒトm−カルパインとヒトHNF−4αが細胞内で結合したことを説明する。レーン1はm−カルパイン(FLAG−tag付加)とHNF−4α(Xpress−tag付加)を共発現させた細胞試料、レーン2はm−カルパイン(FLAG−tag付加)のみを発現させた細胞試料である。第6図Aおよび第6図Bはそれぞれ、抗FLAG M2抗体および抗Xpress抗体を用いたウエスタンブロッティング(Blot)の結果を示す。図中、IPは抗HNF−4α抗体を用いて免疫沈降を行なったことを、lysateは免疫沈降していない細胞試料を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第7図はヒトm−カルパインがインビトロでヒトHNF−4αをカルシウム存在下で分解したことを説明する。ヒトm−カルパインとカルパインスモールサブユニット1とを共発現させた昆虫細胞のライセートをヒトm−カルパインとして用いた。陰性対照としてカルパイン非発現の昆虫細胞ライセートおよびライセート無添加試料(図中では対照と表示。)を用い、陽性対照としてラットm−カルバインを用いた。図中の+および−はカルシウムの有無を示している。図は抗HNF−4α抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果であり、矢頭はHNF−4αのバンドを示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第8図はヒトμ−カルパインがインビトロでヒトHNF−4αをカルシウム存在下で分解したことを説明する。図中の+および−はカルシウムの有無を示している。陽性対照としてウサギm−カルパインおよびラットm−カルパインを用いた。図は抗HNF−4α抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果であり、矢頭はHNF−4αのバンドを示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第9図はイオノフォアの添加により細胞内でHNF−4αが分解されたことを説明する。第9図Aおよび第9図Bはそれぞれ、核画分および細胞質画分におけるHNF−4αの分解を示す。図は抗HNF−4α抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果であり、矢頭はHNF−4αの分解物のバンドを示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第10図はヒトμ−カルパイン、ウサギm−カルパインおよびラットm−カルパインが、インビトロでヒトHNF−1αをカルシウム存在下で分解したことを説明する。対照は、カルパイン無添加の試料を表わす。図中の+および−はカルシウムの有無を示している。上図および下図はそれぞれ、抗Omni/M21抗体および抗HNF−1α抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果であり、矢頭はHNF−1αのバンドを示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第11図はヒトm−カルパインがインビトロでヒトHNF−1αをカルシウム存在下で分解したことを説明する。ヒトm−カルパインとカルパインスモールサブユニット1とを共発現させた昆虫細胞のライセートをヒトm−カルパインとして用いた。陰性対照としてカルパイン非発現の昆虫細胞ライセート(図中ではコントロールsf−9細胞ライセートと表示。)およびライセート無添加試料(図中では対照と表示。)を用い、陽性対照としてラットm−カルパインを用いた。図中の+および−はカルシウムの有無を示している。図は抗HNF−1α抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果であり、矢頭はHNF−1αのバンドを示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第12図はイオノフォアの添加により細胞内でHNF−1αが分解されたことを説明する。図は抗HNF−1α抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果であり、アスタリスク(*)はHNF−1αの分解物のバンドを示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第13図はヒトμ−カルパイン、ウサギm−カルパインおよびラットm−カルパインが、インビトロでヒトIPF−1をカルシウム存在下で分解したことを説明する。対照は、カルパイン無添加の試料を表わす。図中の+および−はカルシウムの有無を示す。第13図Aおよび第13図Bはそれぞれ、抗Xpress抗体および抗IPF−1抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果である。矢頭およびアスタリスク(*)はそれぞれ、IPF−1のバンドおよびカルパインによるIPF−1の分解物を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第14図はヒトm−カルパインがインビトロでヒトIPF−1をカルシウム存在下で分解したことを説明する。ヒトm−カルパインとカルパインスモールサブユニット1とを共発現させた昆虫細胞のライセートをヒトm−カルパインとして用いた。陰性対照としてカルパイン非発現の昆虫細胞ライセート(図中ではコントロールsf−9細胞ライセートと表示。)およびライセート無添加試料(図中では対照と表示。)を用い、陽性対照としてラットm−カルパインを用いた。図中の十および−はカルシウムの有無を示している。図は抗IPF−1抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果である。矢頭およびアスタリスク(*)はそれぞれ、IPF−1のバンドおよびカルパインによるIPF−1の分解物を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
第15図はイオノフォアの添加により細胞内でIPF−1が分解されたことを説明する。図は抗IPF−1抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果であり、アスタリスク(*)はIPF−1の分解物のバンドを示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、参照によりここに援用されるところの、日本国特許出願番号第2002−254973号、同第2003−96370号、同第2003−96371号および同第2003−96372号からの優先権を請求するものである。
本明細書中で使用されている技術的および科学的用語は、別途定義されていない限り、当業者により普通に理解される意味を持つ。本明細書中では当業者に既知の種々の方法が参照されている。そのような引用されている公知の方法を開示する刊行物などの資料は、引用により、本明細書中にそれらの全体が完全に記載されているものと見なす。
以下、本発明について、発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。以下の詳細な説明は例示であり、説明のためのものに過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
本発明においては、m−カルパインとHNF−4αが相互作用することを特許文献1記載の方法に従ってインシリコ(in silico)で予測した。さらに実験的に、m−カルパインがHNF−4αと結合すること、およびm−カルパインがHNF−4αを分解することを初めて明らかにした。また、m−カルパインと同じくカルパインスーパーファミリーに属するμ−カルパインが同様にHNF−4αを分解することを見出した。m−カルパインがHNF−4αと結合してこれを分解すること、およびμ−カルパインがHNF−4αを分解することから、μ−カルパインもHNF−4αに結合すると考えられる。
さらに、HNF−4αと同様、糖代謝関連遺伝子の転写因子として作用するHNF−1αおよびIPF−1がm−カルパインおよびμ−カルパインのいずれによっても分解されることを見出した。
カルパインによる切断認識部位のアミノ酸モチーフから、HNF−4α(配列番号1)はm−カルパインまたはμ−カルパインにより、下記4箇所の切断認識部位で切断されると推定した(第1図):アミノ酸配列第79番目のバリン(V)に続くアルギニン(R)とそれに続くリジン(K)との間;第211番目のロイシン(L)に続くアルギニン(R)とそれに続くアラニン(A)との間;第302番目のロイシン(L)に続くアルギニン(R)とそれに続くセリン(S)との間;および第384番目のロイシン(L)に続くメチオニン(M)とそれに続くグルタミン(Q)との間。
HNF−1α(配列番号2)はm−カルパインまたはμ−カルパインにより、下記9箇所の切断認識部位で切断されると推定した(第2図):アミノ酸配列第162番目のロイシン(L)に続くチロシン(Y)とそれに続くトレオニン(T)との間;第167番目のバリン(V)に続くアルギニン(R)とそれに続くリジン(K)との間;第262番目のバリン(V)に続くアルギニン(R)とそれに続くバリン(V)との間;第264番目のバリン(V)に続くチロシン(Y)とそれに続くアスパラギン(N)との間;第320番目のバリン(V)に続くアルギニン(R)とそれに続くアミノ酸残基(不確定であるが、チロシンであるという報告がある)との間;第411番目のバリン(V)に続くメチオニン(M)とそれに続くトレオニン(T)との間;第476番目のロイシン(L)に続くメチオニン(M)とそれに続くプロリン(P)との間;第502番目のロイシン(L)に続くチロシン(Y)とそれに続くセリン(S)との間;および第597番目のロイシン(L)に続くチロシン(Y)とそれに続くグルタミン(Q)との間。
IPF−1(配列番号3)はm−カルパインまたはμ−カルパインにより、下記3箇所の切断認識部位で切断されると推定した(第3図):アミノ酸配列第13番目のロイシン(L)に続くチロシン(Y)とそれに続くリジン(K)との間;第36番目のロイシン(L)に続くチロシン(Y)とそれに続くメチオニン(M)との間;および第181番目のバリン(V)に続くメチオニン(M)とそれに続くロイシン(L)との間。
本明細書においては、アミノ酸を1文字表記または3文字表記することがある。また、ペプチドとは、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合により互いに結合している2個またはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドを意味し、オリゴマーとも称する単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドなどの短鎖ペプチド、並びに単離された若しくは合成の完全長ポリペプチドや単離された若しくは合成の完全長蛋白質などの長鎖ペプチドを包含する。
このように本発明においては、転写因子としての機能を有するHNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1が、カルパインにより分解されることを明らかにした。HNF−4αは、コレステロール、脂肪酸およびグルコースの代謝や血液凝固などの様々な機能に関与する物質をコードする種々の遺伝子発現を調節している。HNF−1αは、多くの肝特異的遺伝子、例えばアルブミン、フィブリノーゲンやα1アンチトリプシンなどの遺伝子発現を調節している。また、IPF−1は、GLUT2、インシュリンおよびグルコキナーゼなどの糖代謝関連遺伝子の発現を制御していることが報告されている。転写因子の分解による減少は、それが作用する遺伝子の発現を低減させ、ひいては該遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患に繋がる生体機能の異常を引き起こす。したがって、これら転写因子がそれぞれ作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止および治療が、カルパインによる該転写因子の分解を阻害することにより可能になる。
HNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1は、それら機能の1つにおいて、膵臓β細胞における転写因子ネットワークを形成し、糖代謝関連遺伝子発現に関与していることが知られている。糖代謝関連遺伝子とは、生体において糖代謝(糖吸収、糖輸送および糖分解など)を調節している物質をコードする遺伝子のことであり、例えばインシュリン、グルコキナーゼ、GLUT2などが挙げられる。これら糖代謝関連遺伝子の発現に係わる転写因子の減少や機能欠損は、膵臓β細胞において転写因子ネットワークの破綻を招き、その結果糖代謝異常を引き起こして糖尿病などの疾患の原因になると考えられる。
糖代謝関連遺伝子の転写因子の減少や機能欠損の原因の1つとして、例えばその分解が挙げられる。糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を阻害することにより、該転写因子の減少や機能欠損に起因する疾患、あるいは該転写因子が作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止および/または治療が可能になる。
これら知見により達成した本発明の1態様は、カルパインを用いることを特徴とする糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解方法および分解剤に関する。
糖代謝関連遺伝子の発現に係わる転写因子としては、HNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1が例示できる。本発明に係る分解方法を適用し得る糖代謝関連遺伝子の転写因子はこれら具体例に限らず、カルパインにより分解されるものである限りにおいて、何れにも適用可能である。カルパインによる分解の検出は、カルパインと転写因子とをカルシウム存在下で接触させた後にウエスタンブロット法などの公知方法を使用して実施可能である。
カルパインはカルパインスーパーファミリーに属するプロテアーゼを全て包含する。カルパインスーパーファミリーに属するプロテアーゼとしては、m−カルパイン、μ−カルパイン、カルパイン3、カルパイン5、カルパイン8、カルパイン9、カルパイン10、カルパイン11、カルパイン12およびカルパイン13などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくはm−カルパインまたはμ−カルパインである。μ−カルパインはm−カルパインと比較してカルシウム要求性が低く、より低濃度のカルシウムで活性化される。そのため、μ−カルパインはm−カルパインと比較してカルシウム濃度上昇により活性化され易く、生体内で主に作用している可能性が考えられることから、より好ましくはμ−カルパインである。これら各プロテアーゼを使用するときは、これらを単独で用いてもよいし、2つ以上を組合せて用いることもできる。またカルパインは、1種類の蛋白質を特異的に分解するものに限らず、複数の蛋白質、例えば複数の転写因子の分解に関与するものであってもよい。
本発明に係る糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解剤は、カルパインをその活性成分として有効量含んでなる。
本発明に係る糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解方法は、カルパインと該転写因子を共存させることを特徴とする。
カルパインはカルシウム依存性プロテアーゼであるため、カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子の共存はカルシウム存在下で行なうことが好ましい。カルシウム濃度は、カルパインのカルシウム要求性を考慮し、カルパインを活性化してそれらの酵素活性を誘発できる濃度を用いる。例えば、m−カルパインを活性化するためには、好ましくは約1mM以上のカルシウム濃度が好適である。μ−カルパインを活性化するためには、好ましくは約10μM以上、より好ましくは約20μM以上、さらに好ましくは約30μM以上のカルシウム濃度が好適である。また、カルパインによるHNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1の分解はカルシウム依存性であったことから、カルシウム濃度を調節することによりカルパインによるこれら糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を所望の程度に調節することができる。かかるカルシウム濃度の調節を特徴とする糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解方法も本発明の範囲に包含される。また、カルパインと転写因子の1つまたは2つ以上とを少なくとも含んでなり、カルパインと該転写因子とを共存させることを特徴とする該転写因子の分解系の構築およびその利用も、本発明において可能である。
糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解方法および分解系は、インビトロのものであってよく、インビボのものであってもよい。より具体的には、カルパインと転写因子を、例えば試験管内やマルチウエルプレート内で、カルシウムの存在下で共存させて分解させる分解方法および分解系が例示できる。あるいは、カルパインと転写因子を共発現させた細胞を用いた分解方法および分解系を例示できる。発現に用いる細胞は、蛋白質の発現のために一般的に使用されている細胞を使用可能である。これら蛋白質の発現は、公知の遺伝子工学的手法を用いて実現することができる。かかる細胞を用いた分解方法および分解系において、細胞内カルシウム濃度を調節する、例えばカルパインが活性化する濃度に調節するためには、イオノフォアの使用が好適である。イオノフォアは、A23187など公知のものを用いることができる。また、非ヒト動物にカルパインをコードする遺伝子、さらに糖代謝関連遺伝子の転写因子をコードする各遺伝子を自体公知の遺伝子工学的手法を用いて導入することにより、非ヒト動物における該転写因子の分解方法および分解系を提供することが可能である。
本発明において使用するカルパインおよび糖代謝関連遺伝子の転写因子は、これらの1つまたは2つ以上を遺伝子工学的手法で発現させた細胞、無細胞系合成産物、化学合成産物、または該細胞や生体試料から調製したものであってよく、これらからさらに精製されたものであってもよい。また、これら蛋白質は、それらのN末端側やC末端側に別の蛋白質やペプチドなどを、直接的にまたはリンカーペプチドなどを介して間接的に、遺伝子工学的手法などを用いて付加することにより標識化したものであってもよい。好ましくは、カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子との相互作用およびこれら蛋白質の機能、例えばカルパインと該転写因子の接触、カルパインの酵素活性および転写因子の機能などが阻害されないような標識化が望ましい。標識物質としては、例えば酵素類(グルタチオン S−トランスフェラーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたはβ−ガラクトシダーゼなど)、タグペプチド類(His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tagなど)、蛍光蛋白質類〔グリーン蛍光蛋白質、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)など〕、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片、またはビオチンなどが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは放射性同位元素による標識も可能である。標識化するとき、1種類の標識物質を付加してもよいし複数を組合せて付加することもできる。これら標識物質自体またはその機能を測定することにより、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を検出することが可能である。遺伝子導入に用いるカルパインおよび転写因子をそれぞれコードする遺伝子は、ヒトcDNAライブラリーから自体公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。これら遺伝子を適当な発現ベクターDNA、例えば細菌プラスミド由来のベクターなどに自体公知の遺伝子工学的手法で導入し、上記各遺伝子を含有するベクターを得て、遺伝子導入に利用することができる。遺伝子導入は、自体公知の遺伝子工学的手法を用いて実施可能である。
糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解剤、分解方法および分解系は、該転写因子の機能解明や該転写因子が関与する転写因子ネットワークについての研究、および該転写因子の分解に起因する疾患、例えば糖尿病における該転写因子やカルパインの関与についての分子レベルでの研究などに有用である。また、当該分解方法および分解系を用いて、当該転写因子の分解を阻害する化合物の同定方法を構築することも可能である。
本発明の別の1態様は、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解阻害剤および阻害方法に関する。当該阻害剤および阻害方法は、カルパイン活性を阻害すること、またはカルパインによる当該転写因子の切断を阻害すること、あるいはカルパインと当該転写因子の結合を阻害することを特徴とする。
カルパイン活性の阻害またはカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子切断の阻害は例えば、カルパインの酵素活性を阻害することにより実施できる。本発明に係る糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解阻害剤は、1態様において、カルパイン活性を阻害する物質の少なくとも1つを活性成分として有効量含んでなる。また、本発明に係る糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解阻害方法は、1態様において、カルパイン活性を阻害する物質の少なくとも1つを用いることを特徴とする。本発明に係る阻害剤および阻害方法を適用する対象物としては、少なくともカルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを含む対象物、例えば少なくともこれらを含む生体外試料が挙げられる。転写因子としては、HNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1が好ましく例示でき、これらのうち少なくとも1つとカルパインとを含む生体外試料が対象物としてより好ましい。また、少なくともカルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを発現している細胞、例えば膵臓β細胞など、並びにかかる細胞を担持している哺乳動物なども当該対象物に含まれる。
カルパイン活性を阻害する効果を有する物質としては、拮抗阻害効果を有するペプチド類、抗体および低分子化合物などが例示できる。具体的には、カルパインインヒビターとして知られているN−Acetyl−Leu−Leu−Met−CHO、N−Acetyl−Leu−Leu−Nle−CHO、Z−Leu−Leu−Tyr−CHF、Mu−Val−HPh−CHF、4−フルオロフェニルスルホニル−Val−Leu−CHO、Leu−Leu−Phe−CHClまたはZ−Val−Phe−CHOなどが例示できる。抗体としては、カルパインまたは糖代謝関連遺伝子の転写因子を認識して結合する抗体であって、カルパインによる該転写因子の分解を阻害する抗体が挙げられる。かかる抗体としてさらに好ましくは、当該転写因子の機能、例えば転写因子活性を阻害しないものが好適である。抗体は、カルパインまたは当該転写因子自体、これら由来の部分ペプチド、あるいはこれらが相互作用する部位のアミノ酸配列からなるペプチドを抗庫として自体公知の抗体作製法により得ることができる。低分子化合物としては、カルパインの酵素活性を阻害する化合物、好ましくは該酵素活性を特異的に阻害する化合物が挙げられる。かかる化合物は、例えば、本発明に係る分解方法または分解系を利用して、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を阻害するものを同定することにより得ることができる。カルパインを特異的に阻害するとは、カルパインを強く阻害するが、他の酵素は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子切断の阻害はまた、カルパインと該転写因子との結合を阻害することにより実施できる。本発明に係る糖代謝関連遺伝子の転写因子分解の阻害剤は、1態様において、カルパインと該転写因子との結合を阻害する物質の少なくとも1つを活性成分として有効量含んでなる。本発明に係る糖代謝関連遺伝子の転写因子分解の阻害方法は、1態様において、カルパインと該転写因子との結合を阻害する物質の少なくとも1つを用いることを特徴とする。カルパインと当該転写因子との結合の阻害は、例えば両蛋白質が相互作用する部位のアミノ酸配列からなるペプチドを用いて実施可能である。かかるペプチドとして、当該転写因子のアミノ酸配列においてカルパインにより切断される部位、すなわち切断部認識位のアミノ酸配列を含むペプチドが例示できる。例えば、m−カルパインまたはμ−カルパインの切断認識部位のアミノ酸配列は、LY、LM、LR、VY、VMまたはVRであると考えられる。このような切断認識部位のアミノ酸配列を少なくとも1つ含むペプチドが好ましい。かかるペプチドは、カルパインによる当該転写因子分解を競合的に阻害すると考えられる。より好ましくは、当該転写因子のアミノ酸配列、例えば配列番号1、配列番号2または配列番号3に記載のアミノ酸配列のうちの連続する3つ以上のアミノ酸残基からなり、且つカルパインの切断認識部位のアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。
カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子との結合の阻害はまた、カルパインと該転写因子の結合部位のアミノ酸配列からなるペプチドを用いて実施可能である。具体的には、m−カルパインの基質となるHNF−4α由来のかかるペプチド、例えばペプチドYKLLPG(配列番号5、実施例1および第4図を参照)または該ペプチドを含むペプチドは、両蛋白質の相互作用を競合的に阻害すると考えられる。
上記ペプチドは、カルパインまたは糖代謝関連遺伝子の転写因子のアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成法により合成したものから、カルパインによる該転写因子の切断および/またはカルパインと該転写因子の結合を阻害するものを選択することにより得ることができる。
このように特定されたペプチドに1個乃至数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入などの変異を導入したものも、カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子の結合を阻害する限りにおいて、本発明の範囲に包含される。このような変異を導入したペプチドは、さらにカルパインによる当該転写因子の切断を阻害するものが好ましい。変異を有するペプチドは天然に存在するものであってよく、また変異を導入したものであってもよい。欠失、置換、付加または挿入などの変異を導入する手段は自体公知であり、例えばウルマーの技術(非特許文献41)を利用できる。このような変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能または免疫学的活性など)を変化させないという観点から、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸など)の間での相互置換は容易に想定される。
カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子との結合を阻害し得るペプチドは、その構成アミノ基またはカルボキシル基などを、例えばアミド化修飾するなど、機能の著しい変更を伴わない程度に改変が可能である。特に、ペプチドと他の蛋白質との結合を安定化し、ペプチドを解離し難くするために通常よく使用される修飾、例えばC末端のアルデヒド化またはN末端のアセチル化などの修飾は、カルパインと当該転写因子の結合を阻害するペプチドの有効性を高めるために有用である。
上記ペプチドは、ペプチド化学において知られる一般的な方法で製造できる。例えば、公知文献に記載の方法(非特許文献42および非特許文献43)が例示されるが、これらに限らず公知の方法が広く利用可能である。
本発明に係る糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解阻害剤は、その1態様において、該転写因子とカルパインとの結合阻害物質、該転写因子のカルパインによる切断阻害物質、およびカルパイン活性阻害物質の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなる。このとき、当該転写因子分解の阻害剤は、1種類の転写因子とカルパインとの結合阻害物質、該転写因子のカルパインによる切断阻害物質、およびカルパイン活性阻害物質の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなる阻害剤であることができる。また、各転写因子に対するかかる阻害物質を複数組合せて含有する阻害剤であることもできる。より具体的には、例えばHNF−4α、HNF−1αまたはIPF−1αとカルパインとの結合阻害物質、HNF−4α、HNF−1αまたはIPF−1αのカルパインによる切断阻害物質、カルパイン活性阻害物質の少なくとも1つを活性成分として有効量含有してなることが好ましい。
本発明に係る糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解阻害方法は、その1態様において、該転写因子とカルパインとの結合阻害物質、該転写因子のカルパインによる切断阻害物質、およびカルパイン活性阻害物質の少なくとも1つを用いることを特徴とする。このとき、当該転写因子分解の阻害方法においては、1種類の転写因子とカルパインとの結合阻害物質、該転写因子のカルパインによる切断阻害物質、およびカルパイン活性阻害物質の少なくとも1つを用いることができ、また、各転写因子に対するかかる阻害物質を複数組合せて用いることもできる。より具体的には、例えばHNF−4α、HNF−1αまたはIPF−1αとカルパインとの結合阻害物質、HNF−4α、HNF−1αまたはIPF−1αのカルパインによる切断阻害物質、カルパイン活性阻害物質の少なくとも1つを用いることが好ましい。
本発明のまた別の1態様は、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の産生調節方法に関する。本発明に係る糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の産生調節方法は、それらをコードする遺伝子の発現に係る転写因子のカルパインによる分解を調節して、該遺伝子の遺伝子産物の産生を調節することを特徴とする。
糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生調節方法の1態様は、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法であり、該遺伝子発現に係る転写因子のカルパインによる分解を阻害することを特徴とする。当該産生促進方法は具体的には、当該転写因子の分解阻害剤または当該転写因子の分解阻害方法を使用することにより達成できる。上記分解阻害剤を含んでなる、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進剤も本発明の範囲に包含される。
糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生調節方法の別の1態様としては、カルシウム濃度を調節して該因子の発現に係る転写因子の分解程度を所望の程度に調節することにより、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生を調節する方法が挙げられる。カルシウム濃度を高濃度にしてカルパインを活性化させることにより糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子を分解することができるため、該転写因子が作用する遺伝子の遺伝子産物の産生を低下させることができる。カルシウム濃度を低濃度にしてカルパインの酵素活性を減弱させることにより、該転写因子の分解を阻害することができるため、当該遺伝子産物の産生を促進することができる。
糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子が作用する遺伝子の遺伝子産物としては、例えば、該転写因子の結合部位をプロモーターまたはエンハンサー内に有する遺伝子の遺伝子産物が挙げられる。具体的には、HNF−4αが作用する遺伝子として、HNF−4α結合部位をプロモーターまたはエンハンサー内に有する遺伝子、例えばインシュリン遺伝子、HNF−1α遺伝子、血液凝固第VII因子遺伝子、および血液凝固第IX因子遺伝子などが挙げられる。HNF−1αが作用する遺伝子として、HNF−1α結合部位をプロモーターまたはエンハンサー内に有する遺伝子、例えば、インシュリン遺伝子、GLUT2遺伝子、HNF−4α遺伝子およびIPF−1遺伝子などが挙げられる。IPF−1が作用する遺伝子として、IPF−1結合部位をプロモーターまたはエンハンサー内に有する遺伝子、例えば、GLUT2遺伝子などが挙げられる。
本発明のさらに別の1態様は、糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子の分解に起因する疾患の防止剤および/または治療剤、並びに当該疾患の防止方法および/または治療方法に関する。当該疾患の防止剤および/または治療剤は、上記分解阻害剤を含んでなる。当該疾患の防止方法および/または治療方法は、上記分解阻害剤または上記分解阻害方法を使用することにより達成できる。
糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子の分解に起因する疾患としては、例えば該転写因子が作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患が挙げられる。例えばHNF−4αはインシュリン遺伝子に作用し該遺伝子の遺伝子産物産生に寄与している。HNF−1αはインシュリン遺伝子およびGLUT2遺伝子に作用し、これら遺伝子の遺伝子産物産生に寄与している。また、HNF−1αとHNF−4αは互いの遺伝子に転写因子として作用し、その遺伝子産物産生を促進することにより、さらにインシュリン遺伝子の遺伝子産物産生に寄与している。また、IPF−1は、GLUT2遺伝子に作用し遺伝子の遺伝子産物産生に寄与している。また、IPF−1はHNF−4αに転写因子として作用してその発現を促進するため、HNF−4αの産生促進を介してインシュリン遺伝子の遺伝子産物産生に寄与している。
糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子の分解に起因する疾患として具体的には、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患、例えばインシュリンやGLUT2の減少に起因する疾患などが例示できる。より具体的には、糖代謝異常による疾患、例えば糖尿病などが挙げられる。
実際、マウスの膵臓ランゲルハンス島にカルパイン阻害剤を暴露させるとグルコース刺激によるインシュリン分泌が増加することが報告されている(非特許文献15)。しかし、この報告においては、カルパインと糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子との関連については開示されていない。また、膵島においては、高血糖状態が持続すると細胞内カルシウム濃度が上昇し、グルコース刺激性インシュリン分泌の脱感作が起こる(非特許文献44)。
本発明における知見とこれら情報から、長期の高血糖による細胞内カルシウム濃度の上昇によりカルパインが活性化され、その結果糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子が分解されるために、膵臓β細胞での転写因子ネットワークが破綻して糖代謝の異常が起き、ひいては2型糖尿病と同様の病態が誘発されるというカスケードが存在すると考えられる。
したがって本発明によれば、上記カスケードにおいてカルパインによる糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子の分解を阻害できるため、糖代謝の正常化を図り、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患、例えば糖尿病を防止および/または治療可能である。
HNF−4αは、糖代謝関連遺伝子以外の遺伝子にも転写因子として作用することが知られている。例えば、HNF−4α結合部位が血液凝固第VII因子遺伝子または第IX因子遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー部位に存在することが知られている。このことから、これら各遺伝子の遺伝子産物欠乏に起因する出血性疾患、例えば血友病や重症第VII因子欠損症がHNF−4α分解により引き起こされると考えられ、これら疾患の防止および/または治療に本発明に係る分解阻害剤または分解阻害方法が有用である。
HNF−1αは、その不活化が肝細胞腺腫の原因となることが報告されている(非特許文献34)。このことから、肝細胞腺腫ひいてはそれが形質転換した肝細胞癌がHNF−1α分解により引き起こされると考えられ、これら疾患の防止および/または治療に本発明に係る分解阻害剤または分解阻害方法が有用である。
本発明のまた別の1態様は、カルパインによる糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子の分解を阻害する化合物の同定方法に関する。該同定方法は、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して構築可能である。また、本発明に係る分解系または分解方法を利用して、該同定方法を実施可能である。被検化合物としては、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、またはカルパインおよび糖代謝関連遺伝子の転写因子の一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物などが挙げられる。あるいは、当該転写因子のカルパインによる切断認識部位のペプチドの構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物なども被検化合物として好適である。
具体的には、カルパインによる糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子の切断を可能にする条件を選択し、当該条件下でカルパインおよび/または該転写因子と被検化合物を接触させ、該転写因子の分解を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、カルパインによる該転写因子の分解を阻害する化合物を同定できる。カルパインによる転写因子の切断を可能にする条件としては、例えばカルパインを活性化する濃度のカルシウムの存在下であることが挙げられる。また、該条件はインビトロのものであってよく、インビボのものであってもよい。例えば、カルパインと当該転写因子を共発現させた細胞を用いることもできる。カルパインおよび/または当該転写因子と被検化合物の接触は、カルパインによる当該転写因子の分解反応の前に行なってもよいし、分解反応に共存させることにより行なってもよい。ここでシグナルとは、そのもの自体がその物理的または化学的性質により直接検出され得るものを指し、マーカーとはそのものの物理的または生物学的性質を指標として間接的に検出され得るものを指す。シグナルとしてはルシフェラーゼ、グリーン蛍光蛋白質、および放射性同位体など、マーカーとしては、レポーター遺伝子、例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子など、または検出用のエピトープタグ、例えば6×His−tagなど、一般的に化合物の同定方法に用いられている標識物質であれば、いずれを用いることもできる。これらシグナルまたはマーカーは、単独で使用してもよく、2つ以上を組合せて用いてもよい。これらシグナルまたはマーカーの検出方法は当業者には周知のものである。簡便には、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解は、該転写因子または該転写因子分解物量の存在若しくは不存在および/または変化の測定により検出できる。当該転写因子量または当該転写因子分解物量の定量は、自体公知の蛋白質またはペプチドの検出方法、例えばウェスタンブロッティング法などを用いて実施できる。あるいは、当該転写因子の分解の検出は、当該転写因子活性の存在若しくは不存在および/または変化の測定により行なうことができる。具体的には、例えば、インシュリン遺伝子に作用する転写因子であるときには、該転写因子とカルパインとを発現している細胞に、インシュリン遺伝子のプロモーター領域をその上流に組み込んだレポーター遺伝子を含むプラスミドをトランスフェクションし、被検化合物とこの細胞を接触させた場合のレポーター遺伝子の発現量を、当該被検化合物と接触させなかった場合のレポーター遺伝子の発現量と比較することにより、所望の化合物の同定を行なうことができる。GLUT2遺伝子に作用する転写因子であるときには、該転写因子とカルパインとを発現している細胞に、GLUT2遺伝子のプロモーター領域をその上流に組み込んだレポーター遺伝子を含むプラスミドをトランスフェクションし、同様に化合物の同定を実施できる。これら具体例に限らず、カルパインにより分解される転写因子が作用する遺伝子のプロモーター領域を組込んだレポーター遺伝子を用いて、化合物の同定が可能である。
その他、カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子の結合を可能にする条件を選択し、当該条件下でカルパインおよび/または転写因子と被検化合物を接触させ、カルパインと該転写因子の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、カルパインによる該転写因子の分解を阻害する化合物を同定できる。カルパインと当該転写因子の結合の検出は、自体公知の検出方法、例えばウェスタンブロッティング法などを用いて実施できる。
かかる同定方法で得られた化合物は、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解阻害剤あるいは該転写因子が作用する遺伝子の遺伝子産物産生促進剤として利用可能である。当該転写因子の分解阻害剤または該転写因子が作用する遺伝子の遺伝子産物産生促進剤は、生物学的有用性と毒性のバランスを考慮して選別することにより、医薬組成物として調製可能である。医薬組成物の調製において、これら阻害剤および促進剤は、単独で使用することもできるし、複数を組合せて使用することも可能である。
本発明に係る医薬組成物は、通常は1種または2種以上の医薬用担体を用いて製造することが好ましい。医薬用担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤や賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択使用される。例えば水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。これらは、本発明に係る剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合せて使用される。所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜使用して調製することもできる。
本発明に係る医薬組成物は、糖代謝関連遺伝子発現に係る転写因子の分解に起因する疾患の防止剤および/または治療剤として使用することができる。また、当該疾患の防止方法および/または治療方法に使用することができる。
医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無など)、および担当医師の判断などに応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg乃至100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いて用量を変更することができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
本発明に係る医薬組成物を投与するときには、該医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状などに応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与のほか、皮下、皮内、筋肉内などへの投与を挙げることができる。あるいは経口による投与も可能である。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。腫瘍疾患に用いる場合は、腫瘍に注射などにより直接投与することが好ましい。
投与形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリンなどの包接体、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態が含まれる。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
散剤、丸剤、カプセル剤および錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトールなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いて製造できる。錠剤やカプセルを製造するには、固体の製薬担体が用いられる。
懸濁剤は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトースなどの糖類、PEGなどのグリコール類、油類を使用して製造できる。
注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液、または塩水とグルコース溶液の混合物からなる担体を用いて調製可能である。
リポソーム化は、例えばリン脂質を有機溶媒(クロロホルムなど)に溶解した溶液に、当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液を加えた後、溶媒を留去し、これにリン酸緩衝液を加え、振とう、超音波処理および遠心処理した後、上清をろ過処理して回収することにより行い得る。
脂肪乳剤化は、例えば当該物質、油成分(大豆油、ゴマ油、オリーブ油などの植物油、MCTなど)、乳化剤(リン脂質など)などを混合、加熱して溶液とした後に、必要量の水を加え、乳化機(ホモジナイザー、例えば高圧噴射型や超音波型など)を用いて、乳化・均質化処理して行い得る。また、これを凍結乾燥化することも可能である。なお、脂肪乳剤化するとき、乳化助剤を添加してもよく、乳化助剤としては、例えばグリセリンや糖類(例えばブドウ糖、ソルビトール、果糖など)が例示される。
シクロデキストリン包接化は、例えば当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液に、シクロデキストリンを水などに加温溶解した溶液を加えた後、冷却して析出した沈殿をろ過し、滅菌乾燥することにより行い得る。このとき、使用されるシクロデキストリンは、当該物質の大きさに応じて、空隙直径の異なるシクロデキストリン(α、β、γ型)を適宜選択すればよい。
本発明のさらに別の1態様は、カルパイン、カルパインをコードするポリヌクレオチド、カルパインをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つと、糖代謝関連遺伝子発現に関与する転写因子、該転写因子をコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つとを含んでなる試薬キットに関する。試薬キットに含まれる転写因子としては好ましくは、HNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1が例示できる。当該転写因子は複数種類を組合せて試薬キットに含有させることもできる。当該試薬キットは、例えば本発明に係る同定方法に使用可能である。
また、上記ペプチドおよび上記同定方法で得られた化合物からなる試薬およびこれらを含む試薬キットも本発明の範囲に包含される。
試薬キットは、カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を検出するためのシグナルおよび/またはマーカー、これらの検出剤、反応希釈液、緩衝液、洗浄剤および反応停止液など、測定の実施に必要とされる物質を含むことができる。さらに、安定化剤および/または防腐剤などの物質を含んでいてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質それぞれに応じた製剤化手段を導入すればよい。
これら試薬および試薬キットは、例えば糖代謝関連遺伝子の転写因子ネットワークについての研究および該転写因子の機能不全や分解に起因する疾患、例えば糖尿病における該転写因子やカルパインの関与についての分子シベルでの研究などに有用である。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例1】
(m−カルパインと相互作用する蛋白質のインシリコでの探索)
m−カルパインと相互作用する蛋白質を、特許文献1記載の方法に従って予測した。まず、m−カルパインのアミノ酸配列をある長さのペプチドに分解し、各ペプチドのアミノ酸配列あるいはそのアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を持つた蛋白質をデータベース中で検索した。ついで、得られた蛋白質とm−カルパインとの間でローカルアライメントを行い、ローカルアライメントのスコアの高いものをm−カルパインと相互作用すると予測した。
解析の結果、m−カルパイン由来の6アミノ酸残基からなるペプチドFKLPPG(配列番号4)と相同性のあるペプチドYKLLPG(配列番号5)が、肝遺伝子の発現を制御することが知られている核転写因子の一つであるHNF−4αのアミノ酸配列中に存在することが分かった(第4図AおよびB)。第4図Aはヒトm−カルパインとヒトHNF−4αとのローカルアライメントの結果を、第4図Bはウサギm−カルパインとヒトHNF−4αとのローカルアライメントの結果を示す。ここにおいて、アミノ酸配列は1文字表記するものである。この結果から、HNF−4αはm−カルパインと相互作用する蛋白質であると予測された。なお、ウサギm−カルパインについてNCBIデータベースに登録された配列情報には、ヒトm−カルパインの279番目のアミノ酸残基以降の配列に相当する領域しか記載がないが、この領域での同一性は94%であることから、278番目以前のアミノ酸配列についてもウサギm−カルパインはヒトm−カルパインとほぼ同等と考えられる。
【実施例2】
(ウサギm−カルパインによるヒトHNF−4αの分解)
HNF−4αのm−カルパインによる分解を、ウサギm−カルパインを用いたインビトロ分解試験で検討した。
<材料>
HNF−4α発現プラスミドを以下のように構築した。まず、ヒトHNF−4α cDNAを、ヒト脳polyARNAから逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により獲得した。PCRエラーと思われる塩基置換はQuik Change Site−Directed Mutagenesis kit(STARATAGENE社)により修正した。その後、N末端にHis−tagおよびXpress−tagを付加させる動物細胞用発現プラスミドpcDNA3.1/His(Invitrogen社)にEcoRIサイトで組込み、HNF−4α発現プラスミドを構築した。クローニングしたHNF−4α cDNAのアミノ酸翻訳配列は、NCBIデータベースのアクセッション番号XP_009514(登録遺伝子名はHNF4A。)と同一であった。なお、アクセッション番号XP_009514は、2003年よりSwiss−Protデータベースのアクセッション番号P41235に変更されている。
HNF−4α発現プラスミドを用い、インビトロでのHNF−4α蛋白質の合成を、TNT T7 Quick Coupled Transcription/Translation System(Promega社)を使用して行なった。すなわち、HNF−4α発現プラスミドとTNT T7 Quick Master Mixを混合し、メチオニン存在下で30℃にて1.5時間インキュベーションしてHNF−4αを合成した。
<方法>
インビトロにおける蛋白質分解試験は、合成したHNF−4αにウサギの筋肉より抽出したm−カルパイン(PROTEASE,Calcium Activated Neutral,calpain,Sigma社)を最終濃度50μg/mLとなるように添加し、200mM Tris−HCl(pH7.8)/1mMジチオスレイトール(DTT)/6mM CaCl存在下で37℃にて1時間インキュベーションすることにより行なった。また、カルシウム非存在下での分解試験を行なうために、6mM CaClの代わりに10mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加した試料を作製して同様にインキュベーションした。インキュベーション後の試料は、等容量の2×ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプルバッファー〔4% SDS/125mM Tris−HCl,pH6.8/20% グリセロール/0.01% ブロムフェノールブルー(BPB)/10% β−メルカプトエタノール(mercaptoethanol)〕を加えて5分間加熱し、10% SDS−PAGEにより分離した。その後、抗HNF−4α抗体/HNF−4α(C−19)抗体(Santa Cruz Biotechnology社)および抗Xpress抗体(Invitrogen社)を用いてウェスタンブロッティング法によりHNF−4αを検出した。検出はECL western blotting detectionkit(Amersham Pharmacia Biotech社)を使用して行なった。
<結果>
第5図AおよびBに示したように、ウサギm−カルパインによるHNF−4αの分解が認められた。一方、HNF−4αはカルシウム非存在下またはm−カルパイン無添加では分解されなかった。ウサギm−カルパインとヒトm−カルパインは約94%の高い相同性を有することから、ヒトm−カルパインも同様にHNF−4αを分解すると考えられる。以上の結果から、HNF−4αはm−カルパインによりカルシウム存在下で分解されることが明らかになった。
【実施例3】
(ヒトm−カルパインとヒトHNF−4αの結合解析)
m−カルパインとHNF−4αの結合を、細胞内共発現/免疫沈降法による結合試験により検討した。
<材料>
m−カルパイン発現プラスミドの構築は以下のように行なった。まず、カルパイン cDNAを、ヒト肝polyARNA(Clontech社)からRT−PCRにより獲得した。PCRエラーと思われる塩基置換はQuik Change Site−Directed Mutagenesis kitにより修正した。その後、C末端にFLAG−tagを付加させる動物細胞用発現プラスミド、pCMV−Tag4(STARATAGENE社)へSal−Iサイトで組込み、m−カルパイン発現プラスミドを構築した。クローニングしたm−カルパイン cDNAのアミノ酸翻訳配列は、NCBIデータベースのアクセッション番号AAA35645(登録遺伝子名はCAPN2。)と、73番目および74番目のアミノ酸がメチオニン−アルギニン(MR)からイソロイシン−グルタミン酸(IE)に置換されている以外は同一であった。このIEへの置換はSwiss−Prot(P17655)においてコンフリクト(Conflict)の記載がある。
ヒトHNF−4α発現プラスミドは、実施例2で調製したものを用いた。
<方法>
まず、m−カルパイン遺伝子とHNF−4α遺伝子をHEK293T細胞に共遺伝子導入した。具体的には、細胞数1.3×10のHEK293T細胞を37℃にて5%COの存在下で4時間培養した後(直径60mmシャーレ)、5μgのHNF−4α発現プラスミドまたは陰性対照としてpcDNA3.1/Hisプラスミドを5μgのm−カルパイン発現プラスミドと共に、FuGENE6 Transfection Reagent(Roche社)を用いてトランスフェクションした。2日間培養後、冷却したリン酸緩衝生理食塩水(−)〔以下、PBS(−)と称する。〕で細胞を洗浄し、500μlの細胞溶解バッファー〔20mM HEPES,pH7.5/150mM NaCl/1mMEDTA/1% TritonX−100/1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)〕に懸濁し、氷上で20分間放置した。その後、4℃にて15,000rpmで20分間遠心処理し、その上清を回収して細胞ライセート(celllysate)とした。次に、採取したライセートに、0.1%の牛血清アルブミンを含むTBS(pH8.0)で前処理したProtein G Sepharose 4 Fast Flow(Amersham Pharmacia Biotech社)を18μl添加し、4℃にて2時間転倒混和した後、遠心処理により上清を回収した。回収した上清に抗HNF−4α抗体/HNF−4α(C−19)抗体を0.6μg添加し、4℃で1時間転倒混和後、Protein G Sepharose 4 Fast Flowを20μl加え、さらに4℃で1時間転倒混和した。その後、遠心処理によりProtein G Sepharoseを回収し、500μlの洗浄バッファー〔50mM Trsi−HCl,pH7.5/150mM NaCl/0.2% ノニデットP−40(Nonidet P−40)〕で3回洗浄した後、30μlの2×SDS サンプルバッファーを加えて5分間加熱後、上清を10% SDS−PAGEにより分離した。その後、抗FLAG M2抗体(Sigma社)および抗Xpress抗体を用いてウェスタンブロッティング法により結合した蛋白質を検出した。検出はECL western blotting detection kitを使用して行なった。
<結果>
第6図Aに示したように、抗HNF−4α抗体による免疫沈降(図中IPと表示)において、m−カルパイン(FLAG−tag付加)は、HNF−4α(Xpress−tag付加)と共発現させた試料(図中レーン1)でのみ共沈した。HNF−4α非発現細胞ではm−カルパインの共沈降は認められなかった。このことから、この共沈降はアガロースビーズへの非特異的結合によるものではなく、HNF−4αとm−カルパインの結合を示すものであることが明らかになった。両試料におけるm−カルパインの発現が同程度であることは、抗FLAG M2抗体によるウェスタンブロッティングの結果により確認した(第6図Aのlysate参照)。また、細胞内のXpress−HNF−4αが抗HNF−4α抗体により回収されることは、第6図Bに示した結果から確認できた。
【実施例4】
(ヒトm−カルパインによるHNF−4αの分解)
ヒトm−カルパインによるヒトHNF−4αの分解について検討するために、ヒトm−カルパイン発現昆虫細胞ライセートを用いてインビトロ分解試験を実施した。
<材料>
ヒトHNF−4αは、実施例2と同様の方法で、HNF−4α発現プラスミドを用いて作製したものを用いた。
ヒトm−カルパインは、昆虫細胞で発現させたものを用いた。まず、ヒトm−カルパイン cDNAを実施例3と同様に調製した。また、カルパインスモールサブユニット1 cDNA(calpain small subunit 1 cDNA)をヒト骨格筋cDNA(Clontech社)からPCRにより獲得し、シーケンスにより配列を確認した。カルパインスモールサブユニット1 cDNAのアミノ酸翻訳配列は、NCBIデータベースのアクセッション番号NP_001740(登録遺伝子名はCAPNS1。)と同一であった。蛋白質発現はバキュロウイルスを用いた昆虫細胞(夜盗蛾sf−9細胞)発現系にて行なった。すなわち、各々のcDNAをpFastBac DUALプラスミド(Invitrogen社)に組込み、Bac−to−Bac Baculovirus Expression Systems(Invitrogen社)を用いて、sf−9細胞にm−カルパインおよびカルパインスモールサブユニット1を共発現させた。これら蛋白質を発現させたsf−9細胞は、冷却したPBS(−)で洗浄後、凍結融解により破砕した。ついで、20mM Tris−HCl(pH7.5)/5mM EDTA/10mM β−メルカプトエタノールを添加し、氷中で超音波処理した後に遠心処理(15,000rpmで30分間)し、その上清を活性体試料(細胞ライセートと称する。)とした。また、蛋白質非発現sf−9細胞のライセートを同様に調製し、陰性対照として使用した。ライセートのm−カルパイン活性の有無は、基質としてカゼインを用いて確認した(非特許文献45)。また、陽性対照としてラットm−カルパイン(Calpain 2、rat recombinant、E.coli、Calbiochem社)を用いた。
<方法>
インビトロ蛋白質分解試験は、HNF−4αにm−カルパイン、ラットm−カルパインまたはカルパイン非発現sf−9細胞ライセートを添加し、200mM Tris−HCl(pH7.8)/1mM DTT/6mM CaCl存在下で37℃にて1時間インキュベーションすることにより行なった。ヒトm−カルパインの反応系での最終濃度は、蛋白質を発現させたsf−9細胞ライセートの蛋白質濃度で2.33mg/mLとした。ラットm−カルパインの反応系での最終濃度は59unit/mLとした。さらに、カルパイン無添加の条件下で、上記同様に分解試験を行なった。また、カルシウム非存在下条件として6mM CaClの代わりに10mM EDTAを添加した試料を作成し、該試料について同様に分解試験を行なった。インキュベーション後の試料は、等容量の2×SDS サンプルバッファーを加え5分間加熱し、5−20% SDS−PAGEにより分離した。その後、抗HNF−4α抗体/HNF−4α(C−19)抗体を用いたウェスタンブロッティングによりHNF−4αを検出した。検出はECL western blotting detection kitを使用した。
<結果>
第7図に示すように、ヒトm−カルパインによるヒトHNF−4αの分解が認められた。一方、カルシウム非存在下、非発現sf−9細胞ライセートおよびカルパイン無添加ではいずれもHNF−4αの分解が認められなかった。これらから、HNF−4αはヒトm−カルパインによりカルシウム存在下で分解されることが明らかになった。
【実施例5】
(ヒトμ−カルパインによるHNF−4αの分解)
ヒトμ−カルパインによるヒトHNF−4αの分解試験を、ヒトμ−カルパインを用いてインビトロで実施した。
<材料>
HNF−4α蛋白質は、実施例2と同様の方法で、HNF−4α発現プラスミドを用いて調製したものを用いた。
μ−カルパインは、ヒト赤血球より抽出したもの(Calpain 1、ヒトerythrocytes、Calbiochem社)を用いた。
<方法>
インビトロ蛋白質分解試験は、HNF−4αにμ−カルパインを最終濃度50unit/mLとなるように添加し、200mM Tris−HCl(pH7.8)/1mM DTT/6mM CaCl存在下で37℃にて1時間インキュベーションすることにより行なった。対照実験としてウサギm−カルパイン(実施例2参照)を最終蛋白質濃度50μg/mL、またはラットm−カルパイン(実施例4参照)を最終濃度59unit/mLとなるように添加し、上記同様の条件下でインキュベーションした。また、カルシウム非存在下条件として6mM CaClの代わりに10mM EDTAを添加した試料を作成し、該試料について同様に分解試験を行なった。インキュベーション後の試料は、等容量の2×SDS サンプルバッファーを加え5分間加熱し、5−20% SDS−PAGEにより分離した。HNF−4αの検出は、実施例4と同様の方法で行なった。
<結果>
第8図に示したように、ヒトμ−カルパインによるHNF−4αの分解が認められた。一方、HNF−4αはカルシウム非存在下、あるいはμ−カルパイン無添加試料では分解は認められなかった。これらから、HNF−4αはμ−カルパインによりカルシウム存在下で分解されることが判明した。
【実施例6】
(イオノフォア添加によるヒトHNF−4αの分解)
細胞内におけるHNF−4αのカルパインによる分解を検討するため、カルシウムイオノフォア添加によるHNF−4α分解試験を実施した。
<方法>
細胞数0.7×10のHEK293T細胞を37℃にて5%CO存在下で22時間培養した後(直径60mmシャーレ)、2μgのHNF−4α発現プラスミド(実施例2参照)をFuGENE6 Transfection Reagentを用いてトランスフェクションした。2日間培養後、イオノフォア A23187(4−bromo−calcium ionophore A23187、Sigma社)を10μg/mL添加した培地と交換し、3時間培養した。陰性対照群はイオノフォアの代わりにジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した培地と交換した。所定時間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、300μlの低張細胞溶解バッファー(10mM HEPES,pH7.5/10mM MgCl/42mM KCl/1mM PMSF)に懸濁した後、氷上で20分間放置した。細胞をホモジナイザーで破砕後、4℃にて600gで10分間遠心処理し、その上清を細胞質画分、沈殿を核画分として回収した。核画分はさらに2×PBS/1% ノニデットP−40/0.1% SDSからなる溶液に縣濁し、超音波処理にて破砕した。等容量の2×SDSサンプルバッファーを加え、5分間加熱後、その上清を5−20% SDS−PAGEにより分離した。HNF−4αの検出は、実施例4と同様の方法で行なった。
<結果>
第9図AおよびBに示したように、イオノフォア添加によりHNF−4αの分解が認められた。このことから、HNF−4αは、細胞内においてカルシウム濃度の上昇に伴い、カルシウム依存性システインプロテアーゼであるカルパインによって分解されたと考えられる。
【実施例7】
(カルパインによるヒトHNF−1αの分解)
m−カルパインおよびμ−カルパインによるHNF−1αの分解を、インビトロ蛋白質分解試験で検討した。
<材料>
μ−カルパインはヒト由来のもの(実施例5参照)を使用した。m−カルパインはウサギ由来のもの(実施例2参照)およびラット由来のもの(実施例4参照)を使用した。
ヒトHNF−1αは、HNF−1α発現プラスミドを下記のように構築し、該プラスミドを用いて蛋白質の合成を行なうことにより得た。まず、ヒトHNF−1α cDNAを、ヒト肝polyARNAから逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により獲得し、シーケンスにより塩基配列を確認した。その後、N末端にHis−tagおよびXpress−tagを付加させる動物細胞用発現プラスミドpcDNA3.1/HisにEcoRIおよびNotIサイトで組込み、HNF−1α発現プラスミドを構築した。クローニングしたHNF−1αcDNAのアミノ酸翻訳配列は、NCBIデータベースのアクセッション番号NP_000536(登録遺伝子名はTCF1)と同一であった。
HNF−1α発現プラスミドを用い、HNF−1α蛋白質の合成を、TNT T7 Quick Coupled Transcription/Translation Systemを使用してインビトロで行なった。すなわち、HNF−1α発現プラスミドとTNT T7 Quick Master Mixを混合し、メチオニン存在下で30℃にて1.5時間インキュベーションしてHNF−1αを合成した。合成したHNF−1αに、抗Xpress抗体を添加して4℃で1時間転倒混和後、Protein G Sepharose 4 Fast Flowを加え、4℃でさらに1時間転倒混和することにより免疫沈降を行なった。ついで、遠心処理によりProtein G Sepharoseを回収し、洗浄バッファー(50mM Tris−HCl,pH7.5/150mM NaCl/0.2% ノニデットP−40)で3回洗浄した後に、200mM Tris−HCl(pH7.8)でリンスして20% スラリーとし、HNF−1α試料とした(以下HNF−1αスラリーと称する。)。
<方法>
インビトロにおける蛋白質分解試験は、HNF−1αスラリーにμ−カルパインまたはm−カルパインを添加し、200mM Tris−HCl(pH7.8)/1mM DTT/6mM CaCl存在下で37℃にて1時間インキュベーションすることにより行なった。各カルパインの反応系での最終濃度は、ヒトμーカルパインは50unit/mL、ウサギm−カルパインは蛋白質濃度として50μg/mL、およびラットm−カルパインは59unit/mLとした。対照実験として、HNF−1αスラリーをカルパインを添加せずにカルシウム存在下で同様にインキュベーションした。また、カルシウム非存在下での蛋白質分解試験を行なうために、6mM CaClの代わりに10mM EDTAを添加した試料を作製して同様にインキュベーションした。インキュベーション後の試料は、等容量の2×SDS サンプルバッファーを加えて5分間加熱し、5−20% SDS−PAGEにより分離した。その後、His−Xpress領域を認識する抗Omni/M21抗体(Santa Cruz Biotechnology社)および抗HNF−1α抗体/HNF−1α(C−19)抗体(Santa Cruz Biotechnology社)を用いてウェスタンブロッティング法によりHNF−1αを検出した。検出はECL western blotting detection kitを使用して行なった。
<結果>
第10図に示したように、ヒトμ−カルパイン、ウサギm−カルパインおよびラットm−カルパインによるHNF−1αのインビトロでの分解が認められた。一方、カルシウム非存在下またはm−カルパイン無添加ではHNF−1αは分解されなかった。以上の結果から、HNF−1αはμ−カルパインおよびm−カルパインによりカルシウム存在下で分解されることが明らかになった。
【実施例8】
(ヒトm−カルパインによるHNF−1αの分解)
ヒトm−カルパインによるヒトHNF−1αの分解について検討するために、昆虫細胞で発現させたヒトm−カルパインを用いてインビトロ蛋白質分解試験を実施した。
<材料>
ヒトHNF−1αは、実施例7で作製したもの(HNF−1αスラリー)を用いた。
ヒトm−カルパインは、実施例4に記載の方法により昆虫細胞sf−9発現系で発現させ、該昆虫細胞ライセートをヒトm−カルパインとして用いた。また、蛋白質非発現sf−9細胞のライセートを同様に調製し、陰性対照として使用した。ライセートのm−カルパイン活性の有無は、基質としてカゼインを用いて確認した(非特許文献45)。また、陽性対照としてラットm−カルパインを用いた。
<方法>
インビトロ蛋白質分解試験は、m−カルパインとして、m−カルパインおよびカルパインスモールサブユニット1を共発現させたsf−9細胞のライセートを用いた以外は、実施例7と同様の方法で行なった。これら蛋白質を発現させたsf−9細胞ライセートの反応系における最終濃度は、蛋白質濃度として1.75mg/mLとした。ラットm−カルパインの反応系での最終濃度は59unit/mLとした。HNF−1αの検出は、抗HNF−1α抗体/HNF−1α(C−19)抗体のみを用いた以外は実施例7と同様の方法で行なった。
<結果>
第11図に示すように、ヒトm−カルパインによるヒトHNF−1αの分解が認められた。一方、カルシウム非存在下、非発現sf−9細胞ライセート(図中、コントロールsf−9細胞ライセートと表示)およびカルパイン無添加(図中、対照と表示)ではいずれもHNF−1αの分解が認められなかった。これらから、HNF−1αはヒトm−カルパインによりカルシウム存在下で分解されることが明らかになった。
【実施例9】
(イオノフォア添加によるヒトHNF−1αの分解)
細胞内におけるHNF−1αのカルパインによる分解を検討するため、カルシウムイオノフォア添加によるHNF−1α分解試験を実施した。
<方法>
細胞数0.8×10のHEK293T細胞を37℃にて5%CO存在下で5時間培養した後(直径60mmシャーレ)、2μgのHNF−1α発現プラスミド(実施例7参照)をFuGENE6 Transfection Reagentを用いてトランスフェクションした。2日間培養後、イオノフォア A23187(Sigma社)10μg/mLおよび0.2% DMSOを含有する培地と交換し、4時間培養した。陰性対照群は0.2% DMSO含有培地と交換した。所定時間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、350μlの低張細胞溶解バッファーに懸濁した後、氷上で20分間放置した。細胞をホモジナイザーで破砕後、4℃にて600gで10分間遠心処理し、その上清を細胞質画分、沈殿を核画分として回収した。核画分はさらに2×PBS/1% ノニデットP−40/0.1% SDSからなる溶液に縣濁し、超音波処理にて破砕した。細胞画分は、Coomassie Plus Protein Assay Reagent Kit(PIERCE社)により蛋白質濃度を測定した。作成した各試料は等容量の2×SDSサンプルバッファーを加え、5分間加熱後、その上清を5−20% SDS−PAGEにより分離した。HNF−1αの検出は、実施例8と同様の方法で行なった。
<結果>
第12図に示したように、イオノフォア添加によりHNF−1αの分解が認められた。このことから、HNF−1αは、細胞内においてカルシウム濃度の上昇に伴い、カルシウムイオン依存性システインプロテアーゼであるカルパインによって分解されたと考えられる。
【実施例10】
(カルパインによるヒトIPF−1の分解)
m−カルパインおよびμ−カルパインによるIPF−1の分解を、インビトロ蛋白質分解試験で検討した。
<材料>
μ−カルパインはヒト由来のもの(実施例5参照)を使用した。m−カルパインはウサギ由来のもの(実施例2参照)およびラット由来のもの(実施例4参照)を使用した。
ヒトIPF−1は、IPF−1発現プラスミドを下記のように構築し、該プラスミドを用いて蛋白質の合成を行なうことにより得た。まず、ヒトIPF−1 cDNAを、ヒト肝polyARNAからRT−PCRにより獲得し、シーケンスにより塩基配列を確認した。その後、N末端にHis−tagおよびXpress−tagを付加させる動物細胞用発現プラスミドpcDNA3.1/HisにBamHIおよびEcoRIサイトで組込み、IPF−1発現プラスミドを構築した。クローニングしたIPF−1 cDNAのアミノ酸翻訳配列は、NCBIデータベースのアクセッション番号NP_000200(登録遺伝子名はIPF)と同一であった。
IPF−1発現プラスミドを用い、IPF−1蛋白質の合成を、TNT T7 Quick Coupled Transcription/Translation Systemを使用してインビトロで行なった。すなわち、IPF−1発現プラスミドとTNT T7 Quick Master Mixを混合し、メチオニン存在下で30℃にて1.5時間インキュベーションしてIPF−1を合成した。
<方法>
インビトロにおける蛋白質分解試験は、IPF−1にμ−カルパインまたはm−カルパインを添加し、200mM Tris−HCl(pH7.8)/1mMDTT/6mM CaCl存在下で37℃にて1時間インキュベーションすることにより行なった。各カルパインの反応系での最終濃度は、ヒトμ−カルパインは50unit/mL、ウサギm−カルパインは蛋白質濃度として50μg/mL、およびラットm−カルパインは59unit/mLとした。対照実験として、IPF−1をカルパインを添加せずにカルシウム存在下で同様にインキュベーションした。また、カルシウム非存在下での蛋白質分解試験を行なうために、6mM CaClの代わりに10mM EDTAを添加した試料を作製して同様にインキュベーションした。インキュベーション後の試料は、等容量の2×SDS サンプルバッファーを加えて5分間加熱し、5−20% SDS−PAGEにより分離した。その後、抗Xpress抗体および抗IPF−1(PDX−1)抗体/N−18(Santa Cruz Biotechnology社)を用いてウェスタンブロッティング法によりIPF−1を検出した。検出はECL western blotting detection kitを使用して行なった。
<結果>
第13図AおよびBに示したように、ヒトμ−カルパイン、ウサギm−カルパインおよびラットm−カルパインによるIPF−1のインビトロでの分解が認められた。一方、カルシウム非存在下またはm−カルパイン無添加ではIPF−1は分解されなかった。以上の結果から、IPF−1はμ−カルパインおよびm−カルパインによりカルシウム存在下で分解されることが明らかになった。
【実施例11】
(ヒトm−カルパインによるIPF−1の分解)
ヒトm−カルパインによるヒトIPF−1の分解について検討するために、昆虫細胞で発現させたヒトm−カルパインを用いてインビトロ蛋白質分解試験を実施した。
<材料>
ヒトIPF−1は、実施例10で作製したものを用いた。
ヒトm−カルパインは、実施例4に記載の方法により昆虫細胞sf−9発現系で発現させ、該昆虫細胞ライセートをヒトm−カルパインとして用いた。また、蛋白質非発現sf−9細胞のライセートを同様に調製し、陰性対照として使用した。ライセートのm−カルパイン活性の有無は、基質としてカゼインを用いて確認した(非特許文献45)。また、陽性対照としてラットm−カルパインを用いた。
<方法>
インビトロ蛋白質分解試験は、m−カルパインとして、m−カルパインおよびカルパインスモールサブユニット1を共発現させたsf−9細胞のライセートを用いた以外は、実施例10と同様の方法で行なった。これら蛋白質を発現させたsf−9細胞ライセートの反応系における最終濃度は、蛋白質濃度として2.33mg/mLとした。ラットm−カルパインの反応系での最終濃度は59unit/mLとした。IPF−1の検出は、抗IPF−1抗体/N−18のみを用いた以外は実施例10と同様の方法で行なった。
<結果>
第14図に示すように、ヒトm−カルパインによるヒトIPF−1の分解が認められた。一方、カルシウム非存在下、非発現sf−9細胞ライセート(図中、コントロールsf−9細胞ライセートと表示)およびカルパイン無添加(図中、対照と表示)ではいずれもIPF−1の分解が認められなかった。これらから、IPF−1はヒトm−カルパインによりカルシウム存在下で分解されることが明らかになった。
【実施例12】
(イオノフォア添加によるヒトIPF−1の分解)
細胞内におけるIPF−1のカルパインによる分解を検討するため、カルシウムイオノフォア添加によるIPF−1分解試験を実施した。
<方法>
細胞数0.5×10のHEK293T細胞を37℃にて5%CO存在下で24時間培養した後(直径60mmシャーレ)、2μgのIPF−1発現プラスミド(実施例10参照)をFuGENE6 Transfection Reagentを用いてトランスフェクションした。2日間培養後、イオノフォア A23187(Sigma社)10μg/mLを添加した培地と交換し、4時間培養した。陰性対照群は0.2% DMSO含有培地と交換した。所定時間培養後、細胞を冷却したPBS(−)で洗浄し、350μlの低張細胞溶解バッファーに懸濁した後、氷上で20分間放置した。細胞をホモジナイザーで破砕後、4℃にて600gで10分間遠心処理し、その上清を細胞質画分、沈殿を核画分として回収した。核画分はさらに2×PBS/1% ノニデットP−40/0.1% SDSからなる溶液に縣濁し、超音波処理にて破砕した。核画分および細胞画分は、等容量の2×SDS サンプルバッファーを加えて5分間加熱後、5−20%SDS−PAGEにより分離した。IPF−1の検出は、実施例10と同様の方法で行なった。
<結果>
第15図に示したように、イオノフォア添加によりIPF−1の分解が認められた。このことから、IPF−1は、細胞内においてカルシウム濃度の上昇に伴い、カルシウムイオン依存性システインプロテアーゼであるカルパインによって分解されたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
本発明においては、転写因子としての作用を有するHNF−4α、HNF−1αおよびIPF−1が、カルパインにより分解されることを見出したことに基づき、カルパインによるこれら転写因子の分解方法、分解阻害方法および分解阻害剤を提供した。これら転写因子は、膵臓のβ細胞において転写因子ネットワークを形成しており、インシュリンやGLUT2などの糖代謝関連遺伝子発現に関与していること、および遺伝性2型糖尿病の原因遺伝子であることが知られている。これらから、カルパインの分解による糖代謝関連遺伝子発現に関与する転写因子の減少や機能欠損は糖尿病の原因になると考えられる。したがって、本発明において提供する糖代謝関連遺伝子発現に関与する転写因子分解阻害剤および/または該転写因子分解阻害方法により、該転写因子が作用する遺伝子の遺伝子産物の産生促進、例えばインシュリン遺伝子のインシュリンの産生促進が可能になる。また、該転写因子が作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止および/または治療が可能になる。具体的には、例えばインシュリンの減少に起因する疾患、より具体的には糖尿病などの防止および/または治療が可能である。このように本発明は、糖代謝関連遺伝子発現に関与する転写因子の過剰な分解に起因する疾患の防止および/または治療のために非常に有用である。
【配列表フリーテキスト】
配列番号4:ヒトm−カルパインまたはウサギm−カルパインとヒトHNF−4α(配列番号1)のローカルアライメントにおいて高いスコアを示す、ヒトm−カルパインまたはウサギm−カルパインの部分ペプチド。
配列番号5:ヒトm−カルパインまたはウサギm−カルパインとヒトHNF−4α(配列番号1)のローカルアライメントにおいて高いスコアを示す、ヒトHNF−4α(配列番号1)の部分ペプチド。
【配列表】








【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムの存在下、カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを共存させることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解方法。
【請求項2】
カルシウム濃度により糖代謝関連遺伝子の転写因子分解程度を変えることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解方法。
【請求項3】
カルシウムの存在下、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを共存させることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解方法。
【請求項4】
糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである、請求の範囲第1項から第3項のいずれか1項に記載の分解方法。
【請求項5】
カルシウムの存在下、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインとヘパトサイトヌクレアーファクター4α(HNF−4α)を共存させることを特徴とする、HNF−4αの分解方法。
【請求項6】
カルシウムの存在下、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインとヘパトサイトヌクレアーファクター1α(HNF−1α)を共存させることを特徴とする、HNF−1αの分解方法。
【請求項7】
カルシウムの存在下、m−カルパインおよび/またはμ−カルパインとインシュリンプロモーターファクター1(IPF−1)を共存させることを特徴とする、IPF−1の分解方法。
【請求項8】
カルパイン活性を阻害することを特徴とする糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項9】
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子切断を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項10】
カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子との結合を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項11】
少なくともカルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを含む生体外試料をカルパイン活性を阻害する物質で処理することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項12】
少なくともカルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子とを発現している細胞をカルパイン活性を阻害する物質で処理することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項13】
細胞が哺乳動物に担持されている細胞である請求の範囲第12項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項14】
哺乳動物に担持されている細胞が膵臓β細胞である請求の範囲第13項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項15】
カルパイン活性を阻害する物質が、カルパインを認識する抗体、糖代謝関連遺伝子の転写因子を認識する抗体およびカルパインインヒビターから選ばれる1つ以上の物質である請求の範囲第11項から第14項のいずれか1項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項16】
カルパインインヒビターが、N−Acetyl−Leu−Leu−Met−CHO、N−Acetyl−Leu−Leu−Nle−CHO、Z−Leu−Leu−Tyr−CHF、Mu−Val−HPh−CHF、4−フルオロフェニルスルホニル(Fluorophenylsulfonyl)−Val−Leu−CHO、Leu−Leu−Phe−CHClまたはZ−Val−Phe−CHOである請求の範囲第15項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項17】
カルパイン活性を阻害する物質がカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドである請求の範囲第11項から第14項のいずれか1項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項18】
カルパイン活性を阻害する物質が、配列表の配列番号1から3のいずれかに記載のアミノ酸配列のうちの連続する3つ以上のアミノ酸残基からなり、且つカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドである請求の範囲第11項から第14項のいずれか1項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項19】
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位がLeu−Tyr、Leu−Met、Leu−Arg、Val−Tyr、Val−MetおよびVal−Argからなる群より選ばれるものである請求の範囲第18項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項20】
カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである請求の範囲第8項から第19項のいずれか1項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項21】
糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである、請求の範囲第8項から第20項のいずれか1項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害方法。
【請求項22】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とするヘパトサイトヌクレアーファクター4αの分解阻害方法。
【請求項23】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とするヘパトサイトヌクレアーファクター1αの分解阻害方法。
【請求項24】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とするインシュリンプロモーターファクター1の分解阻害方法。
【請求項25】
カルパインを活性成分として有効量含んでなる糖代謝関連遺伝子の転写因子分解剤。
【請求項26】
カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである請求の範囲第25項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解剤。
【請求項27】
糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである、請求の範囲第25項または第26項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解剤。
【請求項28】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインを活性成分として有効量含んでなるヘパトサイトヌクレアーファクター4αの分解剤。
【請求項29】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインを活性成分として有効量含んでなるヘパトサイトヌクレアーファクター1αの分解剤。
【請求項30】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインを活性成分として有効量含んでなるインシュリンプロモーターファクター1の分解剤。
【請求項31】
カルパイン活性を阻害することを特徴とする糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項32】
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子切断を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項33】
カルパインと糖代謝関連遺伝子の転写因子との結合を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項34】
カルパイン活性を阻害する物質を活性成分として有効量含んでなる、糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項35】
カルパイン活性を阻害する物質が、カルパインを認識する抗体、糖代謝関連遺伝子の転写因子を認識する抗体およびカルパインインヒビターから選ばれる1つ以上の物質である請求の範囲第34項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項36】
カルパインインヒビターが、N−Acetyl−Leu−Leu−Met−CHO、N−Acetyl−Leu−Leu−Nle−CHO、Z−Leu−Leu−Tyr−CHF、Mu−Val−HPh−CHF、4−フルオロフェニルスルホニル(Fluorophenylsulfonyl)−Val−Leu−CHO、Leu−Leu−Phe−CHClまたはZ−Val−Phe−CHOである請求の範囲第35項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項37】
カルパイン活性を阻害する物質がカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドである請求の範囲第34項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解阻害剤。
【請求項38】
カルパイン活性を阻害する物質が、配列表の配列番号1から3のいずれかに記載のアミノ酸配列のうちの連続する3つ以上のアミノ酸残基からなり且つカルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位の少なくとも1つのアミノ酸配列を含むペプチドである請求の範囲第34項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項39】
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の切断認識部位がLeu−Tyr、Leu−Met、Leu−Arg、Val−Tyr、Val−MetおよびVal−Argからなる群より選ばれるものである請求の範囲第38項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項40】
カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである請求の範囲第31項から第39項のいずれか1項に記載の糖代謝関連遺伝子の転写因子分解阻害剤。
【請求項41】
糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである、請求の範囲第31項から第40項のいずれか1項に記載の分解阻害剤。
【請求項42】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α分解阻害剤。
【請求項43】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター1α分解阻害剤。
【請求項44】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインの活性を阻害することを特徴とする、インシュリンプロモーターファクター1分解阻害剤。
【請求項45】
糖代謝関連遺伝子の転写因子をカルパインを用いて分解することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項46】
カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである請求の範囲第45項に記載の糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項47】
ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの転写因子をm−カルパインおよび/またはμ−カルパインを用いて分解することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項48】
糖代謝関連遺伝子がインシュリン遺伝子またはグルコーストランスポーター2遺伝子である請求の範囲第45項から第47項のいずれか1項に記載の糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生阻害方法。
【請求項49】
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子分解を阻害することを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項50】
カルパインがm−カルパインおよび/またはμ−カルパインである請求の範囲第49項に記載の糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項51】
m−カルパインおよび/またはμ−カルパインによるヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解を阻害することを特徴とする糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項52】
糖代謝関連遺伝子がインシュリン遺伝子またはグルコーストランスポーター2遺伝子である請求の範囲第49項から第51項のいずれか1項に記載の糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項53】
カルシウム濃度により糖代謝関連遺伝子の分解程度を変えることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生調節方法。
【請求項54】
カルシウム濃度によりヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解程度を変えることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生調節方法。
【請求項55】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項56】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法。
【請求項57】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法。
【請求項58】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項59】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項60】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項61】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項62】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項63】
請求の範囲第8項から第24項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害方法を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法。
【請求項64】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進方法。
【請求項65】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法。
【請求項66】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の産生促進方法。
【請求項67】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項68】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項69】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項70】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項71】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止方法および/または治療方法。
【請求項72】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を用いることを特徴とする、糖尿病の防止方法および/または治療方法。
【請求項73】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物産生促進剤。
【請求項74】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の産生促進剤。
【請求項75】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の産生促進剤。
【請求項76】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる医薬組成物。
【請求項77】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項78】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つの分解に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項79】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、糖代謝関連遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項80】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つが転写因子として作用する遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項81】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、インシュリン遺伝子および/またはグルコーストランスポーター2遺伝子の遺伝子産物の減少に起因する疾患の防止剤および/または治療剤。
【請求項82】
請求の範囲第31項から第44項のいずれか1項に記載の転写因子分解阻害剤を有効量含んでなる、糖尿病の防止剤および/または治療剤。
【請求項83】
請求の範囲第23項に記載の分解阻害方法を用いることを特徴とする、肝細胞腺腫または肝細胞癌の防止方法および/または治療方法。
【請求項84】
請求の範囲第43項に記載の分解阻害剤を用いることを特徴とする、肝細胞腺腫または肝細胞癌の防止方法および/または治療方法。
【請求項85】
請求の範囲第43項に記載の分解阻害剤を有効量含んでなる、肝細胞腺腫または肝細胞癌の防止剤および/または治療剤。
【請求項86】
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子分解を阻害する化合物の同定方法であって、カルパインによる該転写因子切断を可能にする条件下、カルパインおよび/または該転写因子と被検化合物を接触させ、カルパインによる該転写因子の分解を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、被検化合物がカルパインによる該転写因子の切断を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
【請求項87】
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を阻害する化合物の同定方法であって、カルパインによる該転写因子の切断を可能にする条件下、カルパインおよび/または該転写因子と被検化合物を接触させ、該転写因子量または該転写因子分解物量を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、被検化合物がカルパインによる該転写因子の切断を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
【請求項88】
カルパインによる糖代謝関連遺伝子の転写因子の分解を阻害する化合物の同定方法であって、カルパインと該転写因子の結合を可能にする条件下、カルパインおよび/または該転写因子と被検化合物を接触させ、カルパインと該転写因子の結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、被検化合物がカルパインと該転写因子の結合を阻害するか否かを決定することを含む同定方法。
【請求項89】
カルパインが、m−カルパインまたはμ−カルパインである請求の範囲第86項から第88項のいずれか1項に記載の同定方法。
【請求項90】
糖代謝関連遺伝子の転写因子が、ヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1から選ばれる少なくとも1つである請求の範囲第86項から第89項のいずれか1項に記載の同定方法。
【請求項91】
請求の範囲第86項から第90項のいずれか1項に記載の同定方法で同定された化合物。
【請求項92】
カルパイン、カルパインをコードするポリヌクレオチドおよびカルパインをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つと、カルパインにより分解される糖代謝関連遺伝子の転写因子、該転写因子をコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つとを含んでなる試薬キット。
【請求項93】
カルパイン、カルパインをコードするポリヌクレオチドおよびカルパインをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つ、並びにヘパトサイトヌクレアーファクター4α、ヘパトサイトヌクレアーファクター1αおよびインシュリンプロモーターファクター1およびこれらいずれかをコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドを含有するベクターのうちの少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キット。
【請求項94】
カルパインが、m−カルパインまたはμ−カルパインである請求の範囲第92項または第93項に記載の試薬キット。

【国際公開番号】WO2004/019983
【国際公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−532774(P2004−532774)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011046
【国際出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】