説明

糖化阻害剤

【課題】 生体内の糖化反応によって生成する最終糖化産物は、糖尿病合併症、動脈硬化症、アルツハイマー病、皮膚の老化、炎症反応などの多種の疾患に関与することが知られている。また、飲食品中で起こる糖化反応は、褐変等を引き起こし、品質を低下させる。本発明は、多種の疾患に関与する最終糖化産物の生成抑制、ならびに飲食品の褐変防止のための、優れた糖化反応阻害能を持ち、かつ安全性の高い糖化阻害剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明による糖化阻害剤は、栗の渋皮抽出物を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栗渋皮の抽出物からなる糖化阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質中に存在するアミノ基とグルコースなどの還元糖のアルデヒド基とが、非酵素的に反応すると、糖化産物が形成される。この反応はメイラード反応または糖化反応と称され、古くより食品化学の分野において利用されてきた。この反応は、生体内においても起きており、糖化されたタンパク質は常に形成されている。
【0003】
糖化反応は、シッフ塩基を経てアマドリ転位生成物が形成される前期反応と、複雑な開裂や縮合などが起こる後期反応がある。後期反応では、最終糖化産物(AGEs)と呼ばれる、単一ではなく様々な物質が生成する。
【0004】
これらAGEsは、加齢とともに生体内に蓄積し、加齢で認められる種々の組織障害、例えば、皮膚、血管壁、関節等の結合組織の硬化(例えば、非特許文献1〜3参照)に関連することが示唆されており、皮膚の肥厚やしわの形成、動脈硬化、関節炎等の原因になると考えられている。また、白内障(例えば、非特許文献4参照)にも関連していると考えられている。また、糖化反応は加齢による組織障害の原因となるだけではなく、日光性弾力繊維症、アルツハイマー病、糖尿病合併症等の疾病に関与することが推測されている。例えば、日光性弾力線維症の皮膚組織にはAGEsの一種であるNε−(カルボキシメチル)リジン(Nε-(carboxymethyl)lysine:CML)が検出されており、CMLの蓄積が深いしわや皮膚組織の硬化等の病変に関わっていることが示唆されている(例えば、非特許文献5参照)。また、アルツハイマー病におけるβ-アミロイドペプチドの脳内蓄積にAGEsが関与していることが示唆されている(例えば、非特許文献6参照)。
【0005】
更に、糖尿病における腎障害、網膜症にAGEsの蓄積が関係していることも示唆されている(例えば、非特許文献7参照)。このようなAGEsの蓄積に対し、その元となる糖化反応を阻害する薬剤としてアミノグアニジンが知られている。この化合物は、糖尿病合併症である網膜症、腎障害、神経障害に有効であることがモデル動物で確認された(例えば、非特許文献8参照)。しかし、糖尿病合併症の治療薬としての臨床試験においては、アミノグアニジン服用により頭痛、悪心等の副作用が報告されており、長期の使用が困難であるという問題がある。
【0006】
このような背景から、副作用の問題が少ない天然物由来の糖化阻害剤の開発が期待されている。
【0007】
また、タンパク質および糖を含む飲食品においては、保存中に糖化反応により褐変や沈殿等を生じるといった問題がある。これを防ぐためには、例えば、糖として糖アルコールを使用することなどが考えられるが、この方法では使用する原料が制限されるという問題があった。
【0008】
本発明は、後述するように、栗渋皮の抽出物を利用した技術であるが、栗渋皮抽出物は、これまでに抗酸化作用があることが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、糖化反応阻害作用については検討がなされていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】BaiP. et al., Conn Tissue Res1992; 28:1-12
【非特許文献2】SakataN. et al., Atherosclerosis 1995 ;116:63-75
【非特許文献3】Verzijl N. et al., Biochem J 2000 ;350 Pt 2:381-7
【非特許文献4】PrabhakaramM. et al., Mech Ageing Dev 1996 ;91(1):65-78
【非特許文献5】MizutariK. et al., J Invest Dermatol 1997 ;108(5):797-802
【非特許文献6】VitekMP. et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994;91(11):4766-70
【非特許文献7】McCanceDR. et al., J Clin Invest 1993; 91: 2470-8
【非特許文献8】BrownleeM., Diabetes Care 1992;15:1835-43
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−131916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述のような事情の下に考え出されたものであり、糖化反応を阻害することで糖化反応が進行することにより人体に与える悪影響を抑制することを目的としている。また、飲食品中の糖化反応抑制方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、様々な食品の抽出物について、糖化阻害作用を調べた結果、栗の渋皮抽出物に極めて優れた糖化阻害作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0013】
本発明の糖化阻害剤は、その阻害活性が高く、天然成分である栗渋皮より抽出される、極めて安全な糖化阻害剤である。本発明は、糖尿病合併症、動脈硬化、アルツハイマー病、老化および炎症反応等、AGEsが関与する多くの疾患に対する予防または治療の目的に利用することができる。さらに、飲食品中の糖化を抑制することで、褐変や沈殿を防止し、品質保持に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0015】
本発明の糖化阻害剤は栗渋皮の抽出物を主成分とするものである。本発明の糖化阻害剤は、天然物由来のため、人体に悪影響を与える可能性が低い。また、栗渋皮の有効利用に資する点でも好ましい。
【0016】
本発明に使用する栗の品種や大きさは、特に限定するものではなく、一般に用いられているものから適宜選択して用いればよい。例えば、日本栗、中国栗、欧州栗およびアメリカ栗等が挙げられる。渋皮は、鬼皮または実が付いた状態であってもよい。栗の加工の際の廃棄物として出された渋皮を用いてもよい。渋皮はそのまま抽出に用いてもよいし、凍結乾燥または70℃程度の熱風乾燥で乾燥させたものを用いることもできる。抽出にあたっては、抽出効率を考慮し、粉末化等により細かくすることが好ましい。
【0017】
抽出方法は、抽出溶媒、抽出温度等、特に限定されるものではない。抽出溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて使用することができる。好ましくはエタノールを用いるとよい。抽出温度は室温でよく、抽出時間は4時間以上が好ましい。得られた抽出液はそのまま、あるいは通常の手段により濃縮または乾固したものを用いることができる。
【0018】
また、抽出液または抽出物に対して適当な精製処理、例えばシリカゲルやイオン交換樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィー等の精製処理を施して、精製したものを使用しても良い。
【0019】
本発明の糖化阻害剤は、飲食品、化粧品、医薬品、飼料等に配合して、体内に取り込ませることで、生体内での糖化反応に起因する前記疾患の予防または改善が期待できる。
【0020】
また、飲食品中に配合することで、飲食品中の糖化反応が抑制され、飲食品の褐変等の品質低下を防ぐことができる。
【0021】
飲食品等に配合する場合、配合量は、それらの種類、目的、形態および利用法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、飲食品全量中に0.0001〜50質量%程度とすることができる。特に、保健用飲食品等として利用する場合には、本発明の糖化阻害剤を所定の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましい。
【0022】
飲食品や飼料等の形態としては、顆粒状、ゲル状、固形状または液体状等に任意に形成することができる。これらには、飲食品等に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、増粘剤、界面活性剤、乳化剤およびpH調整剤等を適宜含有させることができる。
【0023】
化粧品や医薬品等の形態としては、粉剤、液剤、シロップ剤等の内服剤や、クリーム、軟膏、発布剤、入浴剤等の外用剤の形とすればよい。
【0024】
本発明の糖化阻害剤を飲食品、化粧品、医薬品、飼料等として用いる場合、AGEsが関与する種々の症状や疾患等の治療、予防、改善等に役立つ。具体的適用例としては、糖尿病合併症、アルツハイマー病、骨疾患、皮膚のたるみ、しわ、弾力の低下などの予防、治療等に好適に用いられる。
【実施例】
【0025】
本発明の栗渋皮抽出物を主成分とする糖化阻害剤の調製及び該糖化阻害剤を用いた糖化害試験の実施例を以下に示す。
【0026】
〔糖化阻害剤の調製〕
70℃で乾燥させた栗の渋皮を粉末化し、20倍量のエタノールを加えて室温で4時間抽出し、減圧乾固して本発明に係る糖化阻害剤である栗渋皮抽出物を得た。
【0027】
〔実施例1:AGEs生成阻害能の測定〕
牛血清アルブミン10mg/mLを50mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し、さらに0.02%アジ化ナトリウム、グルコース20mM及びフラクトース20mMを加えて、反応溶液を調整した。この反応溶液にジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した渋皮抽出物を加え、37℃で1週間インキュベートした。対照は反応溶液にDMSOのみを加えたものとした。そして、蛍光スペクトロメーターにて励起350nm/蛍光450nmでの蛍光強度を測定した。AGEs生成阻害能はAGEsの生成率に基づいて評価した。生成率は次式により求めた。
AGEs生成率(%)={(A−B)/(C−D)}×100
A=インキュベート後の被験物質を添加した反応液の蛍光度
B=インキュベート前の被験物質を添加した反応液の蛍光度
C=インキュベート後の被験物質を添加していない反応液の蛍光度
D=インキュベート前の被験物質を添加していない反応液の蛍光度
また、比較のためにアミノグアニジンを用いた実験も同様に行った。
その結果を図1に示す。
【0028】
図1が示すように、被験物質を加えていないコントロールと比較して、アミノグアニジン100μg/mlでは生成率が20.2%、渋皮エタノール抽出物100μg/mlでは生成率が31.5%に減少しており、渋皮エタノール抽出物にはアミノグアニジンと同程度の糖化反応を抑制する効果があることが確認された。
【0029】
渋皮水抽出物100μg/mlでは、生成率が72.0%に減少した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の糖化阻害剤は、食品である栗の渋皮に由来する抽出物であるため、安全性が高く日常的に使用可能であり、AGEs生成に関連する糖尿病合併症、動脈硬化およびアルツハイマー病等の疾患の予防または治療に有用である。また、加齢に伴う現象であるしわ、たるみ及びくすみ等の形成抑制に有用である。
さらに、飲食品中での糖化反応による褐変や沈殿の防止目的に利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の渋皮エタノール抽出物のAGEs生成阻害能を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栗の渋皮抽出物を含むことを特徴とする糖化阻害剤。
【請求項2】
飲食品、化粧品、医薬品又は飼料用に用いられる組成物に、請求項1記載の栗渋皮抽出物が含有されていることを特徴とする組成物。
【請求項3】
飲食品に請求項1記載の栗渋皮抽出物を配合し、前記飲食品中での糖化を抑制することを特徴とする飲食品中の糖化抑制方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−171909(P2012−171909A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35271(P2011−35271)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(391001619)長野県 (64)
【Fターム(参考)】