説明

糖尿病関連遺伝子、およびその利用

【課題】 糖尿病の素因の検査に利用可能なマーカー遺伝子を同定することを目的とする。さらに本発明は、同定されたマーカー遺伝子を用いた糖尿病の素因の検査方法、および、該遺伝子の発現を指標とする糖尿病の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法、並びに、糖尿病の予防もしくは治療のための薬剤の提供を課題とする。
【解決手段】 糖尿病の発症を早期に正確かつ簡便に検出できる方法を開発すべく鋭意研究を行い、糖尿病の判定に利用可能な遺伝子マーカーを新たに同定することに成功した。さらに、該遺伝子マーカーの発現レベルを指標とした糖尿病素因の検査方法を開発した。具体的には、正常ラットおよびII型糖尿病モデルのGK(Goto-Kakizaki)ラットについて、それぞれの血液内で発現している遺伝子転写量の比較を行い、糖尿病特異的に発現変動が認められた遺伝子を多数選抜した。これら遺伝子は、糖尿病の素因の検査のための遺伝子マーカーとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の素因の検査に利用可能なマーカー遺伝子、および該遺伝子を用いた糖尿病の素因の検査方法、並びに、該遺伝子の発現を指標とする糖尿病の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化、環境の変化、ストレス及び生活習慣などの変化により、日本国内の糖尿病患者数は急速に増加している。2004年度における厚生労働省の調査によると、糖尿病が強く疑われる人は約740万人に達し、糖尿病の可能性が否定できない人(糖尿病予備軍)を含めると1620万人以上に及んでいる。この5年間で、糖尿病が強く疑われる人は50万人も増加しており、現在の増加傾向がそのまま続くと仮定すると2015年には1000万人を超えるであろうと試算されている。
【0003】
糖尿病が増加の一途をたどっている原因として、発症の初期段階では痛みなどの自覚症状が乏しく、表面的な変化が認められないため患者本人が気付き難いことや、糖尿病患者であると診断されていても、発症初期では血糖値が一時的に正常値に近づくケースがあり、患者本人が完治したと思い治療を中断してしまうことなどが挙げられる。しかし、症状が乏しくても血糖値の高い状態を放置すると、糖尿病特有の3大合併症である腎症、網膜症、神経障害などを惹起し、さらに、虚血性心疾患等の心血管疾患や脳卒中の発症・進展を促進する。糖尿病はひとたび発症すると治癒することはなく、これらの合併症により患者のQOL(生活の質・生命の質)は著しく低下する。合併症の中で最も初期に発症する神経障害は、四肢の痛み、しびれ、冷感等の知覚異常による壊疽の進行をもたらし、切断に至る場合が多い。糖尿病性腎症による人口透析を受けている患者数は現在3万人以上で、全透析患者数の中で最多を占める。また糖尿病性網膜症により年間約4000人以上が失明しており、成人の失明原因の第一位になっている。
【0004】
糖尿病によって引き起こされるこの様な合併症を防ぐためには、糖尿病を早期に発見することが最も重要な課題である。現在、糖尿病の診断は、血液検査や尿検査等を組み合わせて、複数のマーカー物質の測定結果を総合的に判断することにより行われている。この診断方法は、発症初期または軽度の糖尿病を検出しにくいという問題点があるため、数回にわたる検査が必要とされる。例えば尿糖は、一般的に血糖値が約160〜180mg/dL以上にならないと検出されない為、それ以下の場合はすべて陰性と診断されてしまう。血糖値については、糖尿病発症初期の段階では空腹時血糖が正常の範囲まで低下するケースがあり、糖尿病であることを見逃してしまう可能性が高い。
【0005】
また、これまでのところ、糖尿病の診断方法、あるいは糖尿病の診断マーカー等に関して以下のような技術が開示されている(特許文献1〜20参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−140398号公報
【特許文献2】特表平9−511398号公報
【特許文献3】特開平11−221077号公報
【特許文献4】特開2001−204476号公報
【特許文献5】特開平8−103280号公報
【特許文献6】特開2003−259870号公報
【特許文献7】特開2004−49033号公報
【特許文献8】特開2004−283086号公報
【特許文献9】特開2004−121245号公報
【特許文献10】特開2004−105167号公報
【特許文献11】特開2004−81156号公報
【特許文献12】特開2004−81196号公報
【特許文献13】特開2004−57199号公報
【特許文献14】特開2004−57169号公報
【特許文献15】特開2003−235573号公報
【特許文献16】特表2002−537775号公報
【特許文献17】特開2004−215647号公報
【特許文献18】特開2003−245087号公報
【特許文献19】WO98/54361
【特許文献20】特開2004−154136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、糖尿病の素因の検査に利用可能なマーカー遺伝子を同定することを目的とする。さらに本発明は、同定されたマーカー遺伝子を用いた糖尿病の素因の検査方法、および、該遺伝子の発現を指標とする糖尿病の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法、並びに、糖尿病の予防もしくは治療のための薬剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、糖尿病の発症を早期に正確かつ簡便に検出できる方法を開発すべく鋭意研究を行い、糖尿病の判定に利用可能な遺伝子マーカーを新たに同定することに成功した。さらに本発明者らは、該遺伝子マーカーの発現レベルを指標とした糖尿病素因の検査方法を開発した。
【0009】
具体的には、正常ラットおよびII型糖尿病モデルのGK(Goto-Kakizaki)ラットについて、それぞれの血液内で発現している遺伝子転写量の比較を行い、糖尿病特異的に発現変動が認められた遺伝子を多数選抜した。これら遺伝子は、糖尿病の素因の検査のための遺伝子マーカーとして有用である。
【0010】
さらに、これら選抜した遺伝子群の中から、膵ランゲルハンス島を選択的に破壊し、I型糖尿病を引き起こす薬剤であるストレプトゾトシン(STZ)を投与したI型糖尿病モデルラットでも発現変動が認められる遺伝子を選抜した。これら複数の遺伝子の発現量を数値化することにより、血液検査等による診断方法では検出が困難であった初期の糖尿病検査や糖尿病予備軍の検出が可能となった。
【0011】
本発明者らによって開発された糖尿病マーカー遺伝子、または該遺伝子と相同性の高い遺伝子(ホモログ遺伝子)を利用すれば、ヒトやその他の哺乳動物においても糖尿病の早期検査、発症予測が可能であるものと期待される。更に、これら遺伝子の発現レベルを指標とすることで、糖尿病をターゲットとした医薬品、機能性食品等となり得る化合物を適宜スクリーニングすることが可能である。
【0012】
また、マウス等の実験動物において、本発明のマーカー遺伝子の発現を人工的に改変することにより、糖尿病モデル動物を作出することも可能である。該動物を利用することにより、上記スクリーニング方法を実施することも可能である。
【0013】
本発明は、糖尿病の素因の検査に利用可能なマーカー遺伝子、該マーカー遺伝子を用いた糖尿病の素因の検査方法、および、該遺伝子の発現を指標とする糖尿病の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法、並びに、糖尿病の予防もしくは治療のための薬剤に関し、より具体的には、
〔1〕 被検動物について、配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または、該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを指標とする、II型糖尿病の素因の検査方法、
〔2〕 前記遺伝子の発現レベルが下記(a)または(b)の場合に、被検動物はII型糖尿病の素因を有するものと判定する、〔1〕に記載の検査方法、
(a)配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して低下している
(b)配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して上昇している
〔3〕 被検動物について、配列番号:3、6、7、または17のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを指標とする、I型糖尿病の素因の検査方法、
〔4〕 前記遺伝子の発現レベルが下記(a)または(b)の場合に、被検動物はI型糖尿病の素因を有するものと判定する、〔3〕に記載の検査方法、
(a)配列番号:3または7に記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して低下している
(b)配列番号:6または17に記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して上昇している
〔5〕 被検動物由来の生体試料を被検試料として検査に供する、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の検査方法、
〔6〕 以下の(a)〜(d)のいずれかの物質を有効成分として含む、糖尿病の素因の検査薬、
(a) 〔1〕の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド
(b) 〔1〕の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相
(c) 〔1〕の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチド
(d) 〔1〕の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体
〔7〕 以下の(a)〜(d)のいずれかを構成成分として含む、II型糖尿病の素因の検査用キット、
(a) 〔1〕の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド
(b) 〔1〕の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相
(c) 〔1〕の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチド
(d) 〔1〕の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体
〔8〕 配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を亢進させる物質を有効成分として含有する、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤、
〔9〕 配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤、
〔10〕 配列番号:3または7に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を亢進させる物質を有効成分として含有する、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤、
〔11〕 配列番号:6または17に記載の遺伝子の発現もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤、
〔12〕 遺伝子の発現を抑制する物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物である、〔9〕または〔11〕に記載の薬剤、
(a)前記遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)前記遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)前記遺伝子の発現をRNAi効果によって阻害する作用を有する核酸
〔13〕 前記タンパク質の機能を抑制する物質が、以下の(a)または(b)の化合物である、〔9〕または〔11〕に記載の薬剤、
(a)前記タンパク質に結合する抗体
(b)前記タンパク質に結合する低分子化合物
〔14〕 〔1〕に記載の遺伝子の発現レベルが人工的に改変されていることを特徴とする、遺伝子改変糖尿病モデル非ヒト動物、
〔15〕 〔1〕に記載のいずれかの遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択することを特徴とする、II型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物(治療もしくは予防のための候補化合物)のスクリーニング方法、
〔16〕 〔3〕に記載のいずれかの遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択することを特徴とする、I型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物(治療もしくは予防のための候補化合物)のスクリーニング方法、
〔17〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、〔15〕または〔16〕に記載のスクリーニング方法、
(a)〔1〕または〔3〕に記載のいずれかの遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
〔18〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、〔15〕または〔16〕に記載のスクリーニング方法、
(a)〔1〕または〔3〕に記載のいずれかの遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
〔19〕 非ヒト動物を用いたスクリーニング方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を含む、〔15〕または〔16〕に記載のスクリーニング方法、
(a)〔1〕または〔3〕に記載のいずれかの遺伝子を発現する非ヒト動物に被検化合物を投与する工程
(b)前記動物における、前記遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、前記遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
〔20〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、II型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物(治療もしくは予防のための候補化合物)のスクリーニング方法、
(a)配列番号:2、13、14のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記タンパク質の活性を変化させる化合物を選択する工程、を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
現在、病院等で行われている糖尿病診断は血糖値による判断が主流であるが、糖尿病初期の段階においては、空腹時血糖が正常値まで低下するケースが多く、糖尿病であることを見逃してしまう可能性が高い。このように、血糖値を指標とした診断法は、生体内で実際に起こっている微妙な変化を検出することが困難である。
【0015】
しかし、本発明で開発した糖尿病マーカー遺伝子を指標とする解析法(糖尿病の素因の検査方法)を用いることにより、糖尿病の早期診断及び発症予測が正確かつ簡便に行えることが期待でき、被検動物に対して早期に糖尿病治療を行うことが可能となる。また本発明によって提供される糖尿病マーカー遺伝子、あるいは該遺伝子と相同性の高い遺伝子を利用することによって、ヒトやその他の哺乳動物においても糖尿病の早期診断や発症予測が可能であるものと期待される。またこれらの糖尿病マーカー遺伝子は、糖尿病をターゲットとした機能性食品の有効性の有無や薬効解析等の評価等にも幅広く適用できる可能性がある。
【0016】
またこれらの糖尿病の関連する遺伝子が提供されたことによって、糖尿病発症メカニズムの解明、および、糖尿病の予防または治療のための薬剤の開発が大いに期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らによって、糖尿病のマーカーとして有用である遺伝子がそれぞれ同定された。これらの遺伝子、および該遺伝子の塩基配列自体は既に知られているものの、糖尿病と関連性を有し、該糖尿病の検査の用途に利用できることは本発明者らによって初めて示された。
【0018】
本発明は、被検動物について、本発明者らによって同定された遺伝子マーカーの発現レベルを指標とする、糖尿病の素因の検査方法を提供する。
本発明において糖尿病とは、通常、I型糖尿病あるいはII型糖尿病を指す。
本発明の検査方法に利用可能なI型糖尿病あるいはII型糖尿病のマーカー遺伝子26個の塩基配列を、それぞれ配列番号:1〜8、10〜27に示す。
また、該糖尿病マーカー遺伝子の名称、該遺伝子のTigr Definition番号およびNCBI Definition番号、ラットにおける配列情報、およびその他の動物における相同性配列情報について、表1〜3に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表2は表1の続きの表である。
【表2】

【0021】
表3は表2の続きの表である。
【表3】

【0022】
なお、通常用いられる名称(正式あるいは慣用名称)が、特に知られていない遺伝子については、上記の表中の「糖尿病マーカー遺伝子名」の欄において「unknown」と記載した。また、上述の各種マーカー遺伝子を、本明細書において「本発明のマーカー遺伝子」と記載する場合がある。
【0023】
本発明のマーカー遺伝子の単離が可能なプライマー配列を以下に示す。従って、名称が「unknown」である場合であっても、当業者であれば、下記のプライマーセットを利用してこれら本発明のマーカー遺伝子について、適宜取得(単離)することが可能である。また、遺伝子を特定するための名称も併せて記載した。
糖尿病マーカー遺伝子1:Rattus norvegicus 13 BAC CH230-151K3 (Children's Hospital Oakland Research Institute)(プライマー配列番号:145、146)
糖尿病マーカー遺伝子2:R.norvegicus mRNA for cathepsin B(プライマー配列番号:147、148)
糖尿病マーカー遺伝子3:Mus musculus cyclin I, mRN(プライマー配列番号:149、150)
糖尿病マーカー遺伝子4:Mus musculus RIKEN cDNA 1110032C13 gene, mRNA(プライマー配列番号:151、152)
糖尿病マーカー遺伝子5:Mus musculus mitochondrial ribosomal protein S7, mRNA(プライマー配列番号:153、154)
糖尿病マーカー遺伝子6:Mouse DNA sequence from clone RP23-423P8 on chromosome 4 contains the 3' end of the Astn2 gene for astrotactin 2 and the 3' end of the Pappa gene for pregnancy-associated plasma protein A(プライマー配列番号:155、156)
糖尿病マーカー遺伝子7:Mus musculus nuclear receptor coactivator 4, mRNA(プライマー配列番号:157、158)
糖尿病マーカー遺伝子8:Rat mRNA for the cysteine proteinase inhibitor cystatin C(プライマー配列番号:159、160)
糖尿病マーカー遺伝子9:Mus musculus Sac domain-containing inositol phosphatase 3, mRNA(プライマー配列番号:161、162)
糖尿病マーカー遺伝子10:R.norvegicus mRNA for coupling factor 6 of mitochondrial ATP synthase complex.(プライマー配列番号:163、164)
糖尿病マーカー遺伝子11:Rattus norvegicus Chymotrypsinogen B (Ctrb), mRNA(プライマー配列番号:165、166)
糖尿病マーカー遺伝子12:Rattus norvegicus clone RP31-249D7 strain Brown Norway(プライマー配列番号:167、168)
糖尿病マーカー遺伝子13:Rat carboxypeptidase B gene, exons 1 and 2. (プライマー配列番号:169、170)
糖尿病マーカー遺伝子14:Rat C1-tetrahydrofolate synthase mRNA(プライマー配列番号:171、172)
糖尿病マーカー遺伝子15:Rattus norvegicus AIF mRNA for apoptosis-inducing factor(プライマー配列番号:173、174)
糖尿病マーカー遺伝子16:Rattus norvegicus LIS1-interacting protein NUDE2 mRNA(プライマー配列番号:175、176)
糖尿病マーカー遺伝子17:Mus musculus chromosome 3 clone RP24-344F8(プライマー配列番号:177、178)
糖尿病マーカー遺伝子18:Mus musculus ring-box 1, mRNA(プライマー配列番号:179、180)
糖尿病マーカー遺伝子19:Mus musculus Brca1 associated protein 1(BAP1), mRNA(プライマー配列番号:181、182)
糖尿病マーカー遺伝子20:Mus musculus chromosome 14 clone RP23-187G1(プライマー配列番号:183、184)
糖尿病マーカー遺伝子21:Messenger RNA for rat preproalbumin. (プライマー配列番号:185、186)
糖尿病マーカー遺伝子22:Mus musculus mRNA for resistin-like molecule gamma (retn1g gene).(プライマー配列番号:187、188)
糖尿病マーカー遺伝子23:Rattus norvegicus 1 BAC CH230-362O18 (Children's Hospital Oakland Research Institute) (プライマー配列番号:189、190)
糖尿病マーカー遺伝子24:Mus musculus RAB24, member RAS oncogene family, mRNA(プライマー配列番号:191、192)
糖尿病マーカー遺伝子25:Mus musculus chromosome 7 clone RP24-344N22(プライマー配列番号:193、194)
糖尿病マーカー遺伝子26:Rat angiotensin receptor (AT1) gene, single exon. (プライマー配列番号:195、196)
糖尿病マーカー遺伝子27:Rattus norvegicus Nphs2 mRNA for podocin(プライマー配列番号:197、198)
【0024】
配列番号:1〜27に記載の塩基配列からなるDNAに対応する他の生物におけるホモログ遺伝子、それらホモログ遺伝子の公共遺伝子データベースにおけるアクセッション番号、およびそれらホモログ遺伝子のラット配列に対する相同性について、上記表1〜3に示す。
【0025】
これらホモログ遺伝子の塩基配列、および該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報は、表1〜3に示されたデータベースのアクセッション番号から、容易に取得することが可能である。また、当業者においては、表1〜3に示す遺伝子名(遺伝子表記)をもとに、公共の遺伝子データベースあるいは文献データベース等から遺伝子の塩基配列、および該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報を容易に入手することが可能である。
【0026】
なお、ゲノムにおけるDNAは、通常互いに相補的な二本鎖DNA構造を有している。従って、本明細書においては便宜的に一方の鎖におけるDNA配列を開示した場合であっても、当然の如く当該配列(塩基配列)に相補的な配列も開示したものと解釈される。当業者にとって、一方のDNA配列(塩基配列)が分かれば、該配列(塩基配列)に相補的な配列は自明である。
【0027】
本発明の上述の各マーカー遺伝子(配列番号:1〜8、10〜27に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ)は、II型糖尿病の検査に利用可能である。また、上述のマーカー遺伝子において、配列番号:3、6、7、または17のいずれかに記載の遺伝子もしくはそのホモログは、I型糖尿病の検査にも利用可能である。
【0028】
本発明の検査方法の好ましい態様においては、被検動物(対象動物)に内在する配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベル(発現量)を指標とすることを特徴とする、II型糖尿病の素因の検査方法である。即ち、被検動物に内在する配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子について、その発現レベルを検出することにより、該被検動物がII型糖尿病の素因の検査を行うことができる。
【0029】
なお、本明細書においては、「配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子」をまとめて「本発明のマーカー遺伝子」と記載する場合がある。
【0030】
また本発明の別の態様としては、被検動物に内在する、配列番号:3、6、7、または17のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを指標とする、I型糖尿病の素因の検査方法である。即ち、被検動物に内在する配列番号:3、6、7、または17のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを検出することにより、該被検動物についてI型糖尿病の素因を有するか否かの検査を行うことができる。
【0031】
一般的に「I型糖尿病」とはインスリン依存性の糖尿病を指し、「II型糖尿病」とはインスリン非依存性の糖尿病を指す。本発明において、単に「糖尿病」と記載する場合は、I型糖尿病およびII型糖尿病の双方、もしくはいずれか一方を指すもの解される。
【0032】
本発明において、「糖尿病の素因の検査」とは、被検動物(被検対象)について、通常、糖尿病の先天的な素因(遺伝的素因)を有するか否かの検査もしくは糖尿病に罹患しやすい体質であるか否かの検査を指すが、これらに限定されず、例えば、後天的な原因によって現在、糖尿病に罹患しやすい状態にあるか否か、あるいは、既に糖尿病に罹患しているか否か、もしくは将来罹患する可能性が高いか否かの検査等も本発明の検査に含まれる。従って本発明の検査方法は、例えば、「糖尿病の素因の有無の検査方法」、「糖尿病に罹患しやすさの度合いの検査方法」、「糖尿病に罹患する蓋然性の高低の判定方法」等と換言することができる。
【0033】
従って、本発明において「糖尿病の素因を有する」とは、糖尿病の先天的な素因(遺伝的素因)を有すること、糖尿病に罹患しやすい体質であること、現在、糖尿病に罹患しやすい状態にあること、あるいは、既に糖尿病に罹患していること、もしくは将来罹患する可能性が高いこと等を指す。
【0034】
また本発明によって、被検動物がすでに糖尿病に罹患している場合に、その糖尿病の病型を予測することも可能である。即ち、被検動物において発現が変化している遺伝子マーカーの種類を決定することにより、罹患している糖尿病がI型かII型かを高い蓋然性をもって予測することが可能であり、治療方針の決定等に有益である。
【0035】
糖尿病はひとたび発症すると治癒することはなく、糖尿病の引き起こす様々な合併症によって患者のQOLが著しく低下してしまう。そのため本発明の検査方法を用いて、被検動物が糖尿病の素因の検査を行い、糖尿病に素因を有すると判定された被検動物については、糖尿病が発症する前に適切な治療を選択し、糖尿病の発症および糖尿病によって引き起こされる各種合併症を未然に防ぐことができると考えられる。
【0036】
本発明の検査方法において発現の指標となる遺伝子は、配列番号:1〜8、10〜27に記載の遺伝子から選択される少なくとも1以上の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子である。即ち、本発明の方法に用いられる遺伝子の種類は、必ずしも1種に限定されず、複数種の遺伝子を適宜選択して本発明の方法を実施することが可能である。例えば、本発明の上記遺伝子の複数種の遺伝子について、その発現レベルを評価することにより、より検査の信頼性を高めることが可能である。
【0037】
本発明において「被検動物」とは、本発明の検査対象動物を指し、通常、哺乳動物である。本発明の被検動物は、本発明のマーカー遺伝子(配列番号:1〜8、10〜27に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ)を内在する動物であれば特に制限されない。例えば、ヒト、チンパンジー、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等の哺乳動物であり、より好ましくはマウス、ラット等のげっ歯動物である。
【0038】
例えば、本発明の被検動物がラットである場合には、配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子の発現レベルを指標として、本発明の方法を実施することが可能である。即ち、配列番号:1〜8、10〜27に記載の遺伝子は、後述の実施例において示すように、ラットに内在する遺伝子であり、これらマーカー遺伝子を用いて好適に本発明を実施することができる。
【0039】
また、本発明の被検動物がラット以外の動物である場合には、該動物に内在する本発明のマーカー遺伝子(例えば、配列番号:1〜8、10〜27に記載の遺伝子、もしくは該遺伝子のホモログ)の発現レベルを指標として、本発明の方法を実施することができる。
【0040】
ラット以外の動物における「ホモログ遺伝子」に関する情報について、上記表1〜3に例示する。ただし、該表に例示されていない場合であっても、当業者においては、被検動物について指標となる内在性のマーカー遺伝子の存在の有無あるいは該遺伝子に関する塩基配列情報を、例えば、本明細書(配列表)に開示された情報を基に、公知文献、あるいはデータベースを利用して適宜知ることが可能である。
【0041】
本発明において上記「ホモログ遺伝子」は、通常、配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子において、1もしくは複数の塩基が付加、欠失、置換した構造のDNAである。また、本発明の「ホモログ遺伝子」は、通常、配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子(DNA)の塩基配列と高い相同性を有する。高い相同性とは、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば95%以上、さらには96%、97%、98%または99%以上)の相同性を意味する。この相同性はmBLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。また、上記「ホモログ遺伝子」は、配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子(DNA)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすると考えられる。ここで「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2 x SSC、0.1% SDS、50℃」、「2 x SSC、0.1% SDS、42℃」、「1 x SSC、0.1% SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として、「2 x SSC、0.1% SDS、65℃」、「0.5 x SSC、0.1% SDS、42℃」および「0.2 x SSC、0.1% SDS、65℃」の条件を挙げることができる。
【0042】
当業者においては、他の生物における配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子に相当する内在性の遺伝子を、配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の塩基配列をもとにして適宜取得することが可能である。
【0043】
本発明において遺伝子の「発現」には、遺伝子からの「転写」、あるいは転写産物からのポリペプチドへの「翻訳」の双方が含まれる。
遺伝子の発現レベルを、該遺伝子の翻訳産物(タンパク質)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からタンパク質試料を調製し、該タンパク質試料に含まれる本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質の量を測定する。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えば、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、プロテインチップによる解析法(蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.5(2002)、蛋白質 核酸 酵素 Vol.47 No.8(2002))、2次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
遺伝子の発現レベルを、該遺伝子の転写産物(mRNA)の生成量を指標として測定する場合、例えば、被検試料からRNA試料を調製し、該RNA試料に含まれる本発明のマーカー遺伝子をコードするRNAの量を測定する。また、被検試料からcDNA試料を調製し、該cDNA試料に含まれる本発明のマーカー遺伝子をコードするcDNAの量を測定することによって、発現レベルを評価することも可能である。被検試料からのRNA試料やcDNA試料は、被検動物由来の生体試料から、当業者に周知の方法で調製することができる。このような方法としては、当業者に周知の方法、例えばノーザンブロッティング法、RT-PCR法、DNAアレイ法等を挙げることができる。
【0045】
また、上記「対照」とは、通常、健常動物由来の生体試料における本発明のマーカー遺伝子の発現レベルを指す。なお、本発明において、「マーカー遺伝子の発現」とは、該マーカー遺伝子から転写されるmRNAの発現(転写産物の生成)、あるいは、該マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質の発現(翻訳産物の生成)の両方を意味する。また、本発明において「健常動物」とは、通常、糖尿病素因を有しない動物であり、例えば、現在あるいは過去において糖尿病に罹患していない動物であり、好ましくは糖尿病罹患歴を有しない現在健常状態にある動物である。
【0046】
本発明の検査方法の好ましい態様においては、上述のようにして測定された本発明のマーカー遺伝子の発現レベルが下記(a)または(b)の場合に、被検動物はII型糖尿病の素因を有するものと判定される。
(a)配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して低下している
(b)配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して上昇している
【0047】
また本発明の検査方法の好ましい態様においては、配列番号:3、6、7、または17のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが下記(a)または(b)の場合に、被検動物がI型糖尿病の素因を有するものと判定される。
(a)配列番号:3または7に記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して低下している
(b)配列番号:6または17に記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して上昇している
【0048】
本発明の検査方法に供する被検試料は、通常、被検動物に由来する試料であり、予め被検動物から分離された試料であることが好ましい。生体試料としては、例えば被検動物の血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液等の試料、または該生体試料から抽出されるcDNA、RNA、タンパク質試料等を例示することができる。
生体試料からのcDNA、RNA、タンパク質試料の調製は、当業者においては、公知の技術を用いて適宜行うことができる。
【0049】
また本発明は、本発明の検査方法に用いられる物質を構成要素とする、本発明の検査方法のための試薬(検査薬)、および、本発明の検査方法のためのキットに関する。
【0050】
本発明の好ましい態様においては、以下の(a)〜(d)のいずれかの物質を有効成分として含む、糖尿病の素因の検査のための試薬(検査薬)、および糖尿病の素因の検査用キットを提供する。
(a)配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログのDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド
(b)配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログのDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相
(c)配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログのDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチド
(d)配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログによってコードされるタンパク質に対する抗体
【0051】
上記オリゴヌクレオチド、固相、またはタンパク質は、本発明のマーカー遺伝子の発現量の測定に利用することができる。
上記(a)のオリゴヌクレオチドは、本発明のマーカー遺伝子(配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ)のDNAに特異的にハイブリダイズするものであることが好ましい。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、検出する遺伝子の塩基配列に対し、必ずしも完全に相補的である必要はない。
【0052】
本発明においてハイブリダイゼーションの条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」及び「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid-hyb buffer (Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回行い、続いて1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を3回行い、最後に1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分間の洗浄を2回行うことができる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、標識プローブを添加して37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度をより高く設定することにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、プローブの塩基配列構成、反応時間等のその他の条件を加味し、条件を設定することができる。
【0053】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明のマーカー遺伝子のDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
【0054】
また、本発明の各種スクリーニング方法に利用可能なポリヌクレオチド、抗体、細胞株、あるいはモデル動物は、予め組み合わせてキットとすることができる。これらのキットには、標識の検出に用いられる試薬、細胞の培養のための培地や容器、陽性や陰性の標準試料、更にはキットの使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
【0055】
本発明は、本発明のマーカー遺伝子のDNAを増幅するためのプライマー、および該DNAにハイブリダイズするプローブを提供する。
当業者においては、本発明のマーカー遺伝子のDNAについての塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。本発明のプライマーを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
【0056】
本発明のプライマーには、ゲノムの塩基配列に相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば塩基配列を修飾したプライマーは、本発明のプライマーに含まれる。更に、本発明のプライマーは、修飾することができる。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシゲニンのような結合親和性物質で標識したプライマーが各種ジェノタイピング方法において利用される。これらの修飾を有するプライマーも本発明に含まれる。
【0057】
本発明のプライマーの好ましい具体例としては、表4および表5に記載されたプライマー(配列番号:145〜198)を挙げることができる。該プライマーは、本発明の被検動物がラットである場合に、好適に使用することができる。
【0058】
また本発明のプライマーとして、本発明のマーカー遺伝子のDNAとハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであって、配列番号:145〜198のいずれかに記載された塩基配列において、1もしくは少数の塩基が置換、欠失、付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを挙げることができる。該「少数」とは、例えば、2〜5程度の数値、好ましくは、2〜3程度の数値を表す。
【0059】
ラット以外の動物を被検動物とする際、本発明の方法に利用されるオリゴヌクレオチドを、配列番号:145〜198に記載されたオリゴヌクレオチドを基に、適宜改変を施すことにより、作製することも可能である。
【0060】
一方本発明において、本発明のマーカー遺伝子のDNAにハイブリダイズするプローブとは、該マーカー遺伝子のDNAの塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるプローブを言う。より具体的には、プローブの塩基配列中にマーカー遺伝子のDNAの全部もしくは一部を含むプローブは本発明のプローブとして好ましい。本発明のプローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。
【0061】
本発明のプローブを構成する塩基配列は、ゲノムにおける本発明のマーカー遺伝子のDNAの塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
【0062】
本発明のプライマーまたはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。本発明のプライマーまたはプローブの、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
【0063】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合には、適宜、放射性同位体または非放射性化合物などで標識して用いられる。また、プライマーとして使用する場合には、例えば、オリゴヌクレオチドの3'末端側の領域を標的とする配列に対して相補的にし、5'末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加した形態に設計することができる。このような少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドは、本発明のマーカー遺伝子のmRNAに対してハイブリダイズすることができる。
【0064】
本発明のオリゴヌクレオチドは、天然以外の塩基、例えば、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2’-O-メチルシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2’-O-メチルプソイドウリジン、β-D-ガラクトシルキュェオシン、2’-O-メチルグアノシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアノシン、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、3-メチルシチジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、β-D-マンノシルキュェオシン、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルリオプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)トレオニン、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステル、ウリジン-5-オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジン、キュェオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、2’-O-メチル-5-メチルウリジン、2’-O-メチルウリジン、ワイブトシン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン等を必要に応じて含んでいてもよい。
【0065】
さらに本発明における検査薬(試薬)および検査用キットの別の態様は、本発明のマーカー遺伝子のDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相を有効成分として含有する、糖尿病の素因の検査薬(試薬)および検査用キットに関する。
【0066】
上記のヌクレオチドプローブが固定された固相は、例えば、公知のマイクロアレイ法による発現量解析に利用することができる。具体的には、上記ヌクレオチドプローブが固定された固相を作製した後、被検試料を該固相と接触させ、固相に固定されたヌクレオチドプローブにハイブリダイズした核酸を検出することにより、本発明の検査方法を実施することができる。
【0067】
本発明において「固相」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な材料を意味する。本発明の固相は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、具体的には、マイクロプレートウェル、プラスチックビーズ、磁性粒子、基板などを含む固相等を例示することができる。本発明の「固相」としては、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。また、本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。
【0068】
さらに本発明における検査薬(試薬)および検査用キットの別の態様は、本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体(配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログによってコードされるタンパク質を認識する抗体)を有効成分として含有する、糖尿病の素因の検査薬(試薬)および検査用キットである。
【0069】
本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。マーカー遺伝子によってコードされる天然のタンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナント(組み換え)タンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質もしくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0070】
本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質と結合する、あるいは認識する限り、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかに、ヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらにその抗体断片や抗体修飾物も含まれる。
【0071】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質は、その由来となる動物種について制限されないが、被検対象となる動物種に由来することが好ましい。
【0072】
本発明において、感作抗原として使用されるタンパク質は、完全なタンパク質あるいはタンパク質の部分ペプチドであってもよい。タンパク質の部分ペプチドとしては、例えば、タンパク質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片あるいは中央部のキナーゼ活性部位等が挙げられる。本明細書における「抗体」とはタンパク質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0073】
本発明における抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFv)(Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83; The Pharmacology of Monoclonal Antibody, Vol. 113, Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag (1994) pp. 269-315)、ヒト化抗体、多特異性抗体(LeDoussal et al. (1992) Int. J. Cancer Suppl. 7: 58-62; Paulus (1985) Behring Inst. Mitt. 78: 118-32; Millstein and Cuello (1983) Nature 305: 537-9; Zimmermann (1986) Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol. 105: 176-260; VanDijk et al. (1989) Int. J. Cancer 43: 944-9)、並びに、Fab、Fab’、F(ab')2、Fc、Fv等の抗体断片が含まれる。このような抗体は必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。また、β‐ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、GST、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質として製造して、二次抗体を用いずに検出できるようにすることも可能である。また、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の検出、回収を行い得るように改変することもできる。
【0074】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球、例えばEBウィルスに感染したヒトリンパ球をin vitroでタンパク質、タンパク質発現細胞又はその溶解物で感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分裂能を有するミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、タンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることもできる。
【0075】
本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体は、上述のように、本発明の検査に好適に利用することができ、本発明の検査薬あるいは検査用キットの構成成分として有用である。
【0076】
また、後述の実施例で示すように、II型糖尿病のモデル動物においては、配列番号:1〜3、7、8、11に記載の遺伝子の発現レベルが、対照と比較して低いレベルであることが分かった。従って、配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現(発現レベル)を亢進させる物質は、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤となることが期待される。
【0077】
本発明は、配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能(活性)を亢進させる物質を有効成分として含有する、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
【0078】
本発明はより具体的には、ラットを対象とする場合には、ラットに内在する配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子の発現亢進物質を有効成分とし、ラット以外の動物を対象とする場合には、該動物に内在する該遺伝子のホモログ遺伝子の発現亢進物質を有効成分として含有する、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤・医薬組成物を提供する。
【0079】
また、I型糖尿病の病態を呈する実験動物においては、配列番号:3または7に記載の遺伝子の発現レベルが、対照と比較して低いレベルであることが分かった。従って、配列番号:3または7に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現(発現レベル)を亢進させる物質は、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤となるものと期待される。
【0080】
本発明は、配列番号:3または7に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能(活性)を亢進させる物質を有効成分として含有する、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
【0081】
本発明はより具体的には、ラットを対象とする場合には、ラットに内在する配列番号:3または7に記載の遺伝子の遺伝子の発現亢進物質を有効成分とし、ラット以外の動物を対象とする場合には、該動物に内在する該遺伝子のホモログ遺伝子の発現亢進物質を有効成分として含有する、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤・医薬組成物を提供する。
【0082】
また、II型糖尿病のモデル動物においては、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子の発現レベルが、対照と比較して高いレベルであることが分かった。従って、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現(発現レベル)を抑制する物質は、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤となるものと期待される。
【0083】
本発明は、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能(活性)を抑制する物質を有効成分として含有する、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
【0084】
本発明はより具体的には、ラットを対象とする場合には、ラットに内在する配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子の発現抑制物質を有効成分とし、ラット以外の動物を対象とする場合には、該動物に内在する該遺伝子のホモログ遺伝子の発現抑制物質を有効成分として含有する、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤(医薬組成物)を提供する。
【0085】
また、I型糖尿病の病態を呈する実験動物においては、配列番号:6または17に記載の遺伝子の発現レベルが、対照と比較して高いレベルであることが分かった。従って、配列番号:6または17に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現(発現レベル)を抑制する物質は、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤となるものと期待される。
【0086】
本発明は、配列番号:6または17に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能(活性)を抑制する物質を有効成分として含有する、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
【0087】
本発明はより具体的には、ラットを対象とする場合には、ラットに内在する配列番号:6または17に記載の遺伝子もしくは該遺伝子の発現抑制物質を有効成分とし、ラット以外の動物を対象とする場合には、該動物に内在する該遺伝子のホモログ遺伝子の発現抑制物質を有効成分として含有する、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤(医薬組成物)を提供する。
【0088】
本明細書で用いられる「治療」とは、通常、薬理学的なおよび/または生理学的な効果を得ることを意味する。効果とは、疾患や症状を完全にあるいは部分的に抑制(改善)する点で予防的であってもよく、疾患の症状を完全にあるいは部分的に治療する点で治療的であっても良い。本明細書における「治療」とは、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはげっ歯動物、さらに好ましくはラットにおける疾患の治療すべてを含んでいる。そしてさらに、疾患の素因があるが未だ発病していると診断されていない被検動物の発病の予防、疾患の進行を抑制すること、または疾患を軽減させること、発症を遅らせることなどもこの「治療」に含まれる。
【0089】
本発明の発現抑制物質には、本発明のマーカー遺伝子(例えば、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子)の転写もしくは該転写産物からの翻訳を抑制し得る物質が含まれる。
【0090】
本発明の発現抑制物質の好ましい態様としては、例えば以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物(核酸)を挙げることができる。
(a)配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現をRNAi効果によって阻害する作用を有する核酸
【0091】
本発明における「核酸」とはRNAまたはDNAを意味する。また、所謂PNA (peptide nucleic acid)等の化学合成核酸アナログも、本発明の核酸に含まれる。PNAは、核酸の基本骨格構造である五単糖・リン酸骨格を、グリシンを単位とするポリアミド骨格に置換したもので、核酸によく似た3次元構造を有する。
【0092】
特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。即ち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエクソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人, 1993, 319-347.)。
【0093】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用により本発明のマーカー遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、本発明のマーカー遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、本発明のマーカー遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで、所望の動物へ形質転換できる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物が持つ内在性のマーカー遺伝子、もしくはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子(例えば、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子)の発現を効果的に抑制するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は、必ずしもこの長さに限定されない。
【0094】
本発明のアンチセンスは、特に制限されないが、例えば、配列番号:4〜6、10、12〜27に記載遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の塩基配列を基に作成することができる。
【0095】
また、本発明のマーカー遺伝子の発現の抑制は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.)。
【0096】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 228, 228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.、Koizumi, M. et al., Nucl Acids Res, 1989, 17, 7059.)。
【0097】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y. & Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、リボザイムを用いて本発明のマーカー遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0098】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interferance;RNAi)によっても行うことができる。本発明のRNAi効果による抑制作用を有する核酸は、一般的にsiRNAとも言われる。RNAiは、標的遺伝子のmRNAと相同な配列からなるセンスRNAとこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAとからなる二本鎖RNAを細胞等に導入することにより、標的遺伝子mRNAの破壊を誘導し、標的遺伝子の発現を抑制し得る現象である。このようにRNAiは、標的遺伝子の発現を抑制し得ることから、従来の煩雑で効率の低い相同組み換えによる遺伝子破壊方法に代わる簡易な遺伝子ノックアウト方法として、または、遺伝子治療への応用可能な方法として注目を集めている。RNAiに用いるRNAは、本発明のマーカー遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と必ずしも完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。
【0099】
本発明の上記(c)の核酸の好ましい態様として、本発明のマーカー遺伝子に対してRNAi(RNA interference;RNA干渉)効果を有する二本鎖RNA(siRNA)を挙げることができる。より具体的には、本発明のマーカー遺伝子における塩基配列の部分配列に対するセンスRNAおよびアンチセンスRNAからなる二本鎖RNA(siRNA)を挙げることができる。
【0100】
RNAi機構の詳細については未だに不明な部分もあるが、DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)が二本鎖RNAと接触し、二本鎖RNAがsmall interfering RNAまたはsiRNAと呼ばれる小さな断片に分解されるものと考えられている。本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、このようにDICERによって分解される前の二本鎖RNAも含まれる。即ち、そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞においてRNAi効果を有するsiRNAへ分解されることが期待されるため、本発明における二本鎖RNAの長さは、特に制限されない。
【0101】
例えば、本発明のマーカー遺伝子のmRNAの全長もしくはほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物を本発明の薬剤として利用することが可能である。この分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれることが期待される。この方法によれば、RNAi効果を有することが期待されるmRNA上の領域を、特に選択しなくともよい。即ち、RNAi効果を有する本発明のマーカー遺伝子のmRNA上の領域は、必ずしも正確に規定される必要はない。
【0102】
なお、上記RNA分子において一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(shRNA)も本発明に含まれる。即ち、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る一本鎖RNA分子もまた本発明に含まれる。
【0103】
本発明の上記「RNAi効果により抑制し得る二本鎖RNA」は、当業者においては、該二本鎖RNAの標的となる本発明のマーカー遺伝子の塩基配列を基に、適宜作製することができる。一例を示せば、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の塩基配列をもとに、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。即ち、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の塩基配列をもとに、該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。また、一方の鎖(例えば、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の塩基配列)が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。siRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。
【0104】
さらに、本発明の上記RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、本発明のマーカー遺伝子の発現を抑制し得る化合物の好ましい態様に含まれる。例えば、本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0105】
また、本発明の発現抑制物質には、例えば、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現調節領域(例えば、プロモーター領域)と結合することにより、該遺伝子の発現を抑制する化合物が含まれる。該化合物は、例えば、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子のプロモーターDNA断片を用いて、該DNA断片との結合活性を指標とするスクリーニング方法により、取得することが可能である。また、当業者においては、所望の化合物について、本発明のマーカー遺伝子の発現を抑制するか否かの判定を、公知の方法、例えば、レポーターアッセイ法等により適宜実施することができる。
【0106】
また本発明は、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤を提供する。
【0107】
上記機能抑制物質としては、例えば以下の(a)または(b)の化合物を挙げることができる。
(a)配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体
(b)配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物
【0108】
本発明の上記抗体は、本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質と結合することにより、該タンパク質の機能を抑制し、例えば糖尿病の治療、予防、または改善効果が期待される。得られた抗体を人体に投与する目的(抗体治療)で使用する場合には、免疫原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型抗体が好ましい。
【0109】
また、上記機能抑制物質として、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制し得る物質として、該タンパク質に結合する低分子化合物(低分子量物質)を挙げることができる。本発明の配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する低分子化合物は、天然または人工の化合物であってもよい。通常、当業者に公知の方法を用いることによって製造または取得可能な化合物である。また本発明の化合物は、後述のスクリーニング方法によって、取得することも可能である。
【0110】
上記(b)の低分子化合物には、例えば上記タンパク質に対して親和性の高い化合物が含まれる。
【0111】
さらに、本発明の上記機能抑制物質として、例えば、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質に対してドミナントネガティブの性質を有する、該タンパク質の変異体(ドミナントネガティブ変異体)を挙げることができる。該ドミナントネガティブ変異体は、発現させることによって、内在性の野生型タンパク質の活性を消失もしくは低下させる機能を有するタンパク質を指す。
【0112】
また、既に本発明のマーカー遺伝子(例えば、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子)によってコードされるタンパク質の機能を阻害することが知られている物質(化合物)は、本発明の上記機能抑制物質として好適に用いることができる。
【0113】
例えば、本発明の配列番号:14に記載のマーカー遺伝子(C1-tetrahydrofolate synthase)によってコードされるタンパク質の機能を阻害し得る物質として、Pemetrexed(LY231514)(参考文献;Shih C, Habeck LL, Mendelsohn LG, Chen VJ, Schultz RM., Multiple folate enzyme inhibition: mechanism of a novel pyrrolopyrimidine-based antifolate LY231514 (MTA)., Adv Enzyme Regul. 1998;38:135-52.)が知られている。
【0114】
また本発明の配列番号:26に記載のマーカー遺伝子(angiotensin II receptor, type 1)によってコードされるタンパク質の機能を阻害し得る物質として、Losartan(EXP 3174), Valsartan, Irbesartan, Candesartan cilexetil, Telmisaetan, Eprosartanなど(参考文献;M. Burnier, Angiotensin II Type 1 Receptor Blockers, Circulation, February13, 2001; 103(6): 904-912.)が知られている。これらの化合物は、本発明の上記機能抑制物質の好ましい具体例である。これらの化合物は、糖尿病との関連性はこれまでのところ知られておらず、本発明者らによって初めて糖尿病の予防もしくは治療のための薬剤としての新規用途の可能性が見出された。
【0115】
また本発明は、本発明のマーカー遺伝子(配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子)の発現レベルが人工的に改変されていることを特徴とする、遺伝子改変糖尿病モデル非ヒト動物(本明細書においては、「遺伝子改変非ヒト動物」あるいは単に「本発明の動物」と記載する場合あり)を提供する。
【0116】
本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、例えば糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤のスクリーニングに用いることが可能である。また、糖尿病のメカニズムを解明するための病態モデル動物として大いに有用である。
【0117】
例えば、本発明のマーカー遺伝子の発現が変化しているモデル動物は、該遺伝子の発現レベルを正常に戻す作用を有する物質のスクリーニングに利用することができる。該物質は、糖尿病の予防もしくは治療のための医薬となることが期待される。
【0118】
本発明の遺伝子改変糖尿病モデル動物の好ましい態様としては、例えば、以下のような動物を挙げることができる。
(a) 配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現を抑制させた、II型糖尿病モデル動物
(b) 配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現を上昇させた、II型糖尿病モデル動物
(c) 配列番号:3または7に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現を抑制させた、I型糖尿病モデル動物
(d) 配列番号:6または17に記載の遺伝子の発現もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現を上昇させた、I型糖尿病モデル動物
【0119】
従って、本発明における遺伝子改変非ヒト動物には、本発明のマーカー遺伝子の発現が人為的に抑制されている、遺伝子ノックアウト非ヒト動物も含まれる。このノックアウト非ヒト動物には、アンチセンスRNAもしくはsiRNA等の作用により、本発明のマーカー遺伝子の発現が抑制された所謂「ノックダウン動物」も含まれる。
【0120】
また、本発明のマーカー遺伝子の発現が人為的に抑制されているとは、具体的には、
(1)モデル動物に内在する配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子の遺伝子対の一方または双方に、ヌクレオチドの挿入、欠失、置換等の遺伝子変異を有することにより該遺伝子の発現が抑制されている状態、
(2)本発明における核酸(例えばアンチセンスRNAまたはsiRNA等)の作用により本発明のマーカー遺伝子の発現が抑制されている状態、等を挙げることができる。
【0121】
本発明における上記「抑制」には、本発明のマーカー遺伝子の発現が完全に抑制されている場合、および該遺伝子の発現レベルが野生型動物における該遺伝子の発現レベルと比較して有意に低下している場合、が含まれる。
【0122】
上記(1)には、本発明のマーカー遺伝子の遺伝子対のうち、一方の遺伝子の発現のみが抑制されている場合も含まれる。本発明における遺伝子変異の存在する部位は、該遺伝子の発現が抑制されるような部位であれば特に制限されず、例えばエクソン部位、プロモーター部位等を挙げることができる。
【0123】
本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、当業者においては一般的に公知の遺伝子工学技術により作製することができる。例えば遺伝子ノックアウトマウスは以下のようにして作製することができる。まず、マウスから本発明のマーカー遺伝子のエクソン部分を含むDNAを単離し、このDNA断片に適当なマーカー遺伝子を挿入し、ターゲッティングベクターを構築する。このターゲッティングベクターをエレクトロポレーション法などによりマウスのES細胞株に導入し、相同組み換えを生じた細胞株を選抜する。挿入するマーカー遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が好ましい。抗生物質耐性遺伝子を挿入した場合には、抗生物質を含む培地で培養するだけで相同組み換えを生じた細胞株を選抜することができる。また、より効率的な選抜を行うためには、ターゲッティングベクターにチミジンキナーゼ遺伝子などを結合させておくことも可能である。これにより、非相同組み換えを起こした細胞株を排除することができる。また、PCRおよびサザンブロットにより相同組み換え体の検定を行い、本発明のマーカー遺伝子の遺伝子対のうち、一方が不活性化された細胞株を効率よく得ることもできる。
【0124】
相同組み換えを生じた細胞株を選抜する場合、相同組み換え箇所以外にも、遺伝子挿入による未知の遺伝子破壊の恐れがあることから、複数のクローンを用いてキメラ作製を行うことが好ましい。得られたES細胞株をマウス胚盤葉にインジェクションし、キメラマウスを得ることができる。このキメラマウスを交配させることで、本発明のマーカー遺伝子の遺伝子対のうち、一方を不活性化したマウスを得ることができる。さらに、このマウスを交配させることで、遺伝子の遺伝子対の双方を不活性化したマウスを取得することができる。マウス以外のES細胞が樹立された動物においても、同様の手法により、遺伝子改変を行うことができる。
【0125】
さらに本発明の遺伝子改変糖尿病モデル動物には、本発明のマーカー遺伝子の発現を上昇させた動物、あるいは、外来の本発明のマーカー遺伝子を導入した動物も含まれる。
【0126】
当該動物の作製方法としては、例えば、顕微鏡下で受精卵前核へDNA(例えば、プロモーターの下流に本発明のマーカー遺伝子が機能的に結合した構造のDNA)をマイクロインジェクションする方法が一般的である。この場合、DNAを注入した受精卵は偽妊娠状態にした雌マウスの卵管に移植することにより、トランスジェニックマウスを得る。その際、生体内の特定の組織に目的の遺伝子を発現させるために、組織特異的なプロモーターの支配下で目的遺伝子を発現させるようなコンストラクトを利用することも可能である。
【0127】
本発明の遺伝子改変非ヒト動物の種類は、非ヒト動物であれば特に制限されないが、通常哺乳動物であり、好ましくはげっ歯動物である。より具体的には、本発明の遺伝子改変非ヒト動物として、好ましくは、ラット、マウス、チンパンジー、ブタ、ウシ、イヌ等の哺乳動物であり、より好ましくはラットまたはマウス等のげっ歯動物であり、最も好ましくはラットである。
【0128】
また本発明は、本発明のマーカー遺伝子(配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子)の発現レベル指標とし、該発現レベルを変化させる化合物を選択することを特徴とする、糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法を提供する。上記「糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物」には、該効果を有する薬剤(医薬品)だけでなく、例えば該効果や機能を有する(機能性)飲食品も含まれる。
【0129】
また本発明は、本発明のマーカー遺伝子の発現レベルを指標とする、糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法を提供する。該化合物は、糖尿病の予防薬もしくは治療薬となることが期待される。また、該化合物は、糖尿病の予防効果を有する機能性飲食品としても有用である。
【0130】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様としては、本発明のマーカー遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択することを特徴とする、II型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法が挙げられる。
【0131】
より好ましくは、上記方法は、配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを測定し、該発現レベルを対照と比較して上昇させるような物質を選択する方法である。
【0132】
また別の態様においては、上記方法は、配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを測定し、該発現レベルを対照と比較して低下させる物質を選択する方法である。
【0133】
また、本発明のスクリーニング方法の別の態様においては、本発明のマーカー遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択することを特徴とする、I型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法に関する。
【0134】
該方法は、好ましくは、配列番号:3または7に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを測定し、該発現レベルを対照と比較して上昇させる物質を選択する方法である。
【0135】
さらに該方法は、配列番号:6または17に記載の遺伝子の発現もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを測定し、該発現レベルを対照と比較して低下させる物質を選択する方法である。
【0136】
本発明の上記スクリーニング方法は、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法である。
(a)本発明のマーカー遺伝子(配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子)を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
【0137】
本スクリーニング方法においては、まず本発明のマーカー遺伝子(配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子)を発現する細胞に被検化合物を接触させる。用いられる「細胞」の由来としては、マウス、ラット、ヒト、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、トリなどペット、家畜等に由来する細胞が挙げられるが、これらに特に制限されない。「本発明のマーカー遺伝子を発現する細胞」としては、内在性の上記遺伝子を発現している細胞、または外来性の上記遺伝子が導入され、上記遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外来性の上記遺伝子が発現した細胞は、通常、上記遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
【0138】
本スクリーニング方法に用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、ならびに化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発行微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0139】
本発明のマーカー遺伝子を発現する細胞への被検化合物の「接触」は、通常上記遺伝子を発現する細胞の培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物がタンパク質等の場合には、該タンパク質の発現するDNAベクターを該細胞へ導入することにより、「接触」を行うことができる。
【0140】
本スクリーニング方法においては、次いで本発明のマーカー遺伝子の発現レベルを測定する。ここで「遺伝子の発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば上記遺伝子を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。また上記遺伝子を発現する細胞からタンパク質画分を回収し、上記遺伝子によってコードされるタンパク質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。
【0141】
さらに本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施することにより該タンパク質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。上記遺伝子によってコードされるタンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
【0142】
本スクリーニング方法においては、次いで被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、上記遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する。変化させる化合物は、糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤となる。
【0143】
本発明のスクリーニング方法の別の好ましい態様は、本発明のマーカー遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を、レポーター遺伝子の発現を指標として同定する方法である。該方法は、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法である。
(a)本発明のマーカー遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
【0144】
本スクリーニング方法においては、まず本発明のマーカー遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。ここで「機能的に結合した」とは、上記遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、上記遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをさす。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、上記遺伝子の転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。上記遺伝子のcDNA塩基配列に基づいて、当業者においてはゲノム中に存在する上記遺伝子の転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
【0145】
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、LacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「本発明のマーカー遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターへの細胞への導入は、一般的な方法、例えばリン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェクトアミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「本発明のマーカー遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば相同組換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
【0146】
「本発明のマーカー遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、該遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0147】
本方法における「接触」は、「本発明のマーカー遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば該タンパク質を発現するDNAベクターを該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0148】
本方法においては、次いで該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて当業者に公知の方法により測定することができる。例えばレポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0149】
本方法においては、次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、変化させる(上昇あるいは低下を含む)化合物を選択する。変化させる化合物は、糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤となることが期待される。
【0150】
また、本発明のスクリーニング方法の別の態様としては、本発明のマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を指標とする方法である。
【0151】
上記方法の好ましい態様としては、例えば、以下の(a)〜(c)の工程を含む、II型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法である。
(a)本発明のマーカー遺伝子(好ましくは、配列番号:2、13、14のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子)によってコードされるタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記タンパク質の活性を変化させる化合物を選択する工程
【0152】
本方法においては、まず本発明のマーカー遺伝子(好ましくは、配列番号:2、13、14のいずれかに記載の遺伝子または該遺伝子のホモログ遺伝子)によってコードされるタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞もしくは細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。次いで、該タンパク質の活性を測定する。該タンパク質の活性および該活性の測定方法についての情報は、当業者においては、本明細書において開示された内容を基に、公知文献、公共のデータベースから適宜取得することが可能である。
【0153】
上記方法においては、例えば、既に活性が判明しているタンパク質(例えば、配列番号:2、13、14のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質)を好適に利用することができる。
【0154】
一例を示せば、指標とされるタンパク質が、配列番号:2に記載の遺伝子もしくはそのホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質(cathepsin B)である場合は、例えば、100 mM sodium phosphate (pH 6.0), 1 mM EDTA, 10 mM dithiothleitol, 0.8 mM N-bezyloxycarbonyl-L-arginyl-L-arginine-p-nitroanilide(Z-Arg-Arg-pNA)を含む反応溶液中でcathepsin Bの作用によってZ-Arg-Arg-pNAから生じるp-nitroanilineを光波長410 nmにおける吸光度変化として検出することによって、該タンパク質の活性を評価(測定)することができる(S Hasnain, T Hirama, A Tam, and JS Mort、Characterization of recombinant rat cathepsin B and nonglycosylated mutants expressed in yeast.、New insights into the pH dependence of cathepsin B-catalyzed hydrolyses、J. Biol. Chem., Mar 1992; 267: 4713 - 4721)。
【0155】
指標とされるタンパク質が、配列番号:13に記載の遺伝子もしくはそのホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質(carboxypeptidase B)である場合は、例えば、25 mM Tris-HCl (pH 7.65), 100 mM NaCl, 1 mM hippuryl-L-arginineを含む反応溶液中でcarboxypeptidase Bの作用により生じるhippuric acidを光波長254 nmで検出することによって、該タンパク質の活性を評価(測定)することができる(J. E. Folk, Karl A. Piez, William R. Carroll, and Jules A. Gladner、Carboxypeptidase B. IV. PURIFICATION AND CHARACTERIZATION OF THE PORCINE ENZYME、J. Biol. Chem., Aug 1960; 235: 2272 - 2277)。
【0156】
指標とされるタンパク質が、配列番号:14に記載の遺伝子もしくはそのホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質(C1-tetrahydrofolate synthase)である場合は、例えば、50 mM sodium 2-(N-morpholino) sthanesulfonate (pH 6.0), 0.1 mM tetrahydrofolate, 2.5 mM Mg-ATP, 50 mM sodium formate, 25 mM ammonium sulfate, 5 mM 2-mercaptoethanol, 10μg cyclohydrolaseを含む反応溶液中でC1-tetrahydrofolate synthaseによって生成する10-formyltetrahydrofolateをcyclohydrolaseにより5, 10-methyltetrahydrofolateへ変換し、その変化を光波長355 nmにおける吸光度の増加量として検出することによって、該タンパク質の活性を評価(測定)することができる(E Villar, B Schuster, D Peterson, and V Schirch、C1-Tetrahydrofolate synthase from rabbit liver. Structural and kinetic properties of the enzyme and its two domains、J. Biol. Chem., Feb 1985; 260: 2245 - 2252 .)。
【0157】
本発明の上記方法においては、次いで、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、活性を変化させる化合物を選択する。活性を変化させる化合物は、糖尿病の治療もしくは予防のための候補薬剤となる。
【0158】
さらに本発明のスクリーニング方法は、本発明の遺伝子改変動物を利用して行うことも可能である。
即ち、本発明のマーカー遺伝子の発現が正常レベルよりも低下もしくは上昇しているような改変動物を利用して、該マーカー遺伝子の発現を正常レベルに変化させる物質をスクリーニングすることが可能である。
【0159】
本発明の上記方法の好ましい態様においては、以下の(a)〜(c)の工程を含む方法である。
(a)本発明の遺伝子改変非ヒト動物に被検化合物を投与する工程
(b)前記動物における、前記遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、前記遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
【0160】
本方法においてはまず、該非ヒト動物に被検化合物を投与する。被検化合物の投与は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、被検化合物がペプチドである場合には、非経口投与が好ましい。具体的には、血管投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与等が挙げられる。血管投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等が挙げられ、全身または局部的に投与することができる。
【0161】
被検化合物がDNAである場合、生体内に投与する場合には、レトロウイルス、アデノウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターを利用することができる。投与方法としては、in vivo法およびex vivo法を例示することができる。
【0162】
次いで、該非ヒト動物における本発明のマーカー遺伝子の発現量もしくは活性を測定する。次いで、被検化合物を投与しない場合(対照)と比較して、本発明のマーカー遺伝子の発現量もしくは活性を変化させる(例えば、野生型動物における遺伝子発現レベルへ回復させる)化合物を選択する。
【0163】
より具体的には、上記方法において遺伝子改変非ヒト動物として以下の(a)の動物を用いた場合には、発現量を上昇させる化合物を選択する。該化合物は、II型糖尿病の治療もしくは予防のための候補化合物となることが期待される。
(a) 配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現を抑制させた、II型糖尿病モデル動物
【0164】
遺伝子改変非ヒト動物として以下の(b)の動物を用いた場合には、発現量を低下させる化合物を選択する。該化合物は、II型糖尿病の治療もしくは予防のための候補化合物となることが期待される。
(b) 配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現を上昇させた、II型糖尿病モデル動物
【0165】
遺伝子改変非ヒト動物として以下の(c)の動物を用いた場合には、発現量を上昇させる化合物を選択する。該化合物は、I型糖尿病の治療もしくは予防のための候補化合物となることが期待される。
(c) 配列番号:3または7に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現を抑制させた、I型糖尿病モデル動物
【0166】
遺伝子改変非ヒト動物として以下の(d)の動物を用いた場合には、発現量を低下させる化合物を選択する。該化合物は、I型糖尿病の治療もしくは予防のための候補化合物となることが期待される。
(d) 配列番号:6または17に記載の遺伝子の発現もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現を上昇させた、I型糖尿病モデル動物
【0167】
本発明の薬剤は、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等と混合し、医薬組成物として経口、あるいは非経口的に投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型とすることができる。非経口剤としては、注射剤、点滴剤、外用薬剤、あるいは座剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を示すことができる。外用薬剤には、経鼻投与剤、あるいは軟膏剤等を示すことができる。主成分である本発明の薬剤を含むように、上記の剤型とする製剤技術は公知である。
【0168】
例えば、経口投与用の錠剤は、本発明の薬剤に賦形剤、崩壊剤、結合剤、および滑沢剤等を加えて混合し、圧縮整形することにより製造することができる。賦形剤には、乳糖、デンプン、あるいはマンニトール等が一般に用いられる。崩壊剤としては、炭酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウム等が一般に用いられる。結合剤には、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、あるいはポリビニルピロリドンが用いられる。滑沢剤としては、タルクやステアリン酸マグネシウム等が公知である。
【0169】
本発明の薬剤を含む錠剤は、マスキングや、腸溶性製剤とするために、公知のコーティングを施すことができる。コーティング剤には、エチルセルロースやポリオキシエチレングリコール等を用いることができる。
【0170】
また注射剤は、主成分である本発明の薬剤を適当な分散剤とともに溶解、分散媒に溶解、あるいは分散させることにより得ることができる。分散媒の選択により、水性溶剤と油性溶剤のいずれの剤型とすることもできる。水性溶剤とするには、蒸留水、生理食塩水、あるいはリンゲル液等を分散媒とする。油性溶剤では、各種植物油やプロピレングリコール等を分散媒に利用する。このとき、必要に応じてパラベン等の保存剤を添加することもできる。また注射剤中には、塩化ナトリウムやブドウ糖等の公知の等張化剤を加えることができる。更に、塩化ベンザルコニウムや塩酸プロカインのような無痛化剤を添加することができる。
【0171】
また、本発明の薬剤を固形、液状、あるいは半固形状の組成物とすることにより外用剤とすることができる。固形、あるいは液状の組成物については、先に述べたものと同様の組成物とすることで外用剤とすることができる。半固形状の組成物は、適当な溶剤に必要に応じて増粘剤を加えて調製することができる。溶剤には、水、エチルアルコール、あるいはポリエチレングリコール等を用いることができる。増粘剤には、一般にベントナイト、ポリビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはポリビニルピロリドン等が用いられる。この組成物には、塩化ベンザルコニウム等の保存剤を加えることができる。また、担体としてカカオ脂のような油性基材、あるいはセルロース誘導体のような水性ゲル基材を組み合わせることにより、座剤とすることもできる。
【0172】
本発明の薬剤は、安全とされている投与量の範囲内において、ヒトを含む哺乳動物に対して、必要量が投与される。本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
【実施例】
【0173】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
〔実施例1〕II型糖尿病で発現が変動する遺伝子群の探索
II型糖尿病モデルラットである自然発症糖尿病ラット(GKラット)(日本クレア株式会社)及び正常ラットとしてWisterラット(日本クレア株式会社)のオス8週齢から血液を採取し、以下の実験に使用した。
【0174】
血液からの全RNA抽出にはPAXgene Blood RNA Kit(QIAGEN)を使用し、付属のプロトコールに従い全RNAを得た。mRNAの精製は得られた全RNAを用い、Oligotex-MAG mRNA Purification Kit(TaKaRa)を使用し、付属のプロトコールに従って行った。本発明者らによって作製されたラットの3’末端特異的cDNAライブラリーから約3000クローンを選び、鋳型として大腸菌培養液を3μl、反応液の全量を100μlとし、96ウェルプレート(ABgene)でPCRを行った。反応液は終濃度が10 mM Tris-HCl(pH8.3)、50 mM KCl、0.2 mM dNTPs、1.5 mM MgCl2、0.2μM Primer Mix、0.025 U/μl AmpliTaq Gold DNA polymerase(Applied Biosystems)になるように調製した。PCR条件は95℃で10分間熱変性後、95℃:30秒、55℃:1分、72℃:1分の反応を40回繰り返し、最後に72℃:7分間の反応を行った。反応後、等量のイソプロパノールを加え、混合した後-20℃に一晩静置後、4℃で3000 rpm×1時間遠心分離を行った。上清を捨て乾燥後、50%DMSOに溶解した。これをSpotArray24(PerkinElmer)を用いてDNAマイクロアレイ用コートグラスDMSO対応TYPE1高密度化アミノ基導入タイプ(松浪硝子)に個々のクローンを2回ずつスポットした。スポット後、室温で30分間以上放置し、完全に乾燥させた後、UVクロスリンカー(STRATAGENE)を用いて250 mJoulesのエネルギーでUVクロスリンクし、cDNAをスライドに固定した。スライドをスライドラックに移し、1%SDSを含む3×SSCで1分間穏やかに振とう洗浄した。スライドを滅菌蒸留水中に移し、室温で5分間静置して洗浄した。この操作を2回行った後、スライドを沸騰させた蒸留水に2分間浸した。スライドを速やかに取り出し、室温で遮光しながら完全に乾くまで静置した。これをrat cDNA Chipとし、使用するまで遮光・乾燥させ、室温で保存した。
【0175】
GKラット血液およびWisterラット血液から抽出したmRNA 0.5μgを鋳型として、これらをLabel Star Array Kit(QIAGEN)のプロトコールに従い、それぞれCy3(PerkinElmer)およびCy5、又はその逆の組み合わせで蛍光標識を行った。標識後、キット内の精製カラムを使用してプローブを精製し、24μlの蛍光標識cDNAプローブを得た。これに20×SSC(300 mM塩化ナトリウム、300 mMクエン酸ナトリウム)を終濃度が5×SSCになるように加え、95℃で3分間熱変性を行った。熱変性後直ちに4℃で急冷し、終濃度が0.5%になるように10%(w/v)SDSを加え、よく混合した。エタノールで洗浄したギャップカバーガラス(24×50 mm)(松浪硝子)をrat cDNA Chipのスポットした表面全体を覆うように載せた。ギャップカバーガラスの隙間から空気が入らないように注意して精製したプローブ液を注いだ。SYNTHETECH OVEN HA-1(BM機器)で65℃、18時間インキュベーションした後、0.1% SDSを含む2×SSC溶液内でギャップカバーガラスを静かにはがし、0.1%SDSを含む2×SSCで20分間、0.1%SDSを含む0.2×SSCで20分間、0.2×SSCで数十秒、0.05×SSCで数十秒の順に洗浄した。洗浄は全て暗室で行った。洗浄後300 rpmで軽く遠心分離を行い室温で乾燥させた。その後ScanArray Express(PerkinElmer)で蛍光パターンを読み取りそれぞれのシグナル強度を数値化した。その結果、正常ラットとII型糖尿病モデルラット間で2倍以上の遺伝子発現量の差が認められた遺伝子を27個選抜した。これら27個の遺伝子名および各遺伝子のプライマー配列の配列番号を以下に示す。プライマー配列については、プライマー名と共に表4および5にまとめて示す。
【0176】
<マイクロアレイにより選抜された遺伝子>(相同性検索結果)
糖尿病マーカー遺伝子1:Rattus norvegicus 13 BAC CH230-151K3 (Children's Hospital Oakland Research Institute)(プライマー配列番号:145、146)
糖尿病マーカー遺伝子2:R.norvegicus mRNA for cathepsin B(プライマー配列番号:147、148)
糖尿病マーカー遺伝子3:Mus musculus cyclin I, mRN(プライマー配列番号:149、150)
糖尿病マーカー遺伝子4:Mus musculus RIKEN cDNA 1110032C13 gene, mRNA(プライマー配列番号:151、152)
糖尿病マーカー遺伝子5:Mus musculus mitochondrial ribosomal protein S7, mRNA(プライマー配列番号:153、154)
糖尿病マーカー遺伝子6:Mouse DNA sequence from clone RP23-423P8 on chromosome 4 contains the 3' end of the Astn2 gene for astrotactin 2 and the 3' end of the Pappa gene for pregnancy-associated plasma protein A(プライマー配列番号:155、156)
糖尿病マーカー遺伝子7:Mus musculus nuclear receptor coactivator 4, mRNA(プライマー配列番号:157、158)
糖尿病マーカー遺伝子8:Rat mRNA for the cysteine proteinase inhibitor cystatin C(プライマー配列番号:159、160)
糖尿病マーカー遺伝子9:Mus musculus Sac domain-containing inositol phosphatase 3, mRNA(プライマー配列番号:161、162)
糖尿病マーカー遺伝子10:R.norvegicus mRNA for coupling factor 6 of mitochondrial ATP synthase complex.(プライマー配列番号:163、164)
糖尿病マーカー遺伝子11:Rattus norvegicus Chymotrypsinogen B (Ctrb), mRNA(プライマー配列番号:165、166)
糖尿病マーカー遺伝子12:Rattus norvegicus clone RP31-249D7 strain Brown Norway(プライマー配列番号:167、168)
糖尿病マーカー遺伝子13:Rat carboxypeptidase B gene, exons 1 and 2. (プライマー配列番号:169、170)
糖尿病マーカー遺伝子14:Rat C1-tetrahydrofolate synthase mRNA(プライマー配列番号:171、172)
糖尿病マーカー遺伝子15:Rattus norvegicus AIF mRNA for apoptosis-inducing factor(プライマー配列番号:173、174)
糖尿病マーカー遺伝子16:Rattus norvegicus LIS1-interacting protein NUDE2 mRNA(プライマー配列番号:175、176)
糖尿病マーカー遺伝子17:Mus musculus chromosome 3 clone RP24-344F8(プライマー配列番号:177、178)
糖尿病マーカー遺伝子18:Mus musculus ring-box 1, mRNA(プライマー配列番号:179、180)
糖尿病マーカー遺伝子19:Mus musculus Brca1 associated protein 1(BAP1), mRNA(プライマー配列番号:181、182)
糖尿病マーカー遺伝子20:Mus musculus chromosome 14 clone RP23-187G1(プライマー配列番号:183、184)
糖尿病マーカー遺伝子21:Messenger RNA for rat preproalbumin. (プライマー配列番号:185、186)
糖尿病マーカー遺伝子22:Mus musculus mRNA for resistin-like molecule gamma (retn1g gene).(プライマー配列番号:187、188)
糖尿病マーカー遺伝子23:Rattus norvegicus 1 BAC CH230-362O18 (Children's Hospital Oakland Research Institute) (プライマー配列番号:189、190)
糖尿病マーカー遺伝子24:Mus musculus RAB24, member RAS oncogene family, mRNA(プライマー配列番号:191、192)
糖尿病マーカー遺伝子25:Mus musculus chromosome 7 clone RP24-344N22(プライマー配列番号:193、194)
糖尿病マーカー遺伝子26:Rat angiotensin receptor (AT1) gene, single exon. (プライマー配列番号:195、196)
糖尿病マーカー遺伝子27:Rattus norvegicus Nphs2 mRNA for podocin(プライマー配列番号:197、198)
【0177】
【表4】

【0178】
表5は表4の続きの表である。
【表5】

【0179】
mRNA100 ngを用いてReverTra Dash(TOYOBO)に付属のプロトコールに従って逆転写反応を行い(Oligo(dT)プライマーを使用)、cDNAを合成した。マイクロアレイの実験から選抜した27遺伝子についてそれぞれ特異的なプライマーを設計し、このcDNAを5倍希釈したものを鋳型として、ABI PRISM 7900 Sequence Detection System(Applied Biosystems)でリアルタイムPCRを行った。プライマー設計にはプライマー設計支援サイトPrimer3(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3_www.cgi)を利用した。反応液の組成は終濃度が10 mM Tris-HCl(pH 8.3)、50 mM KCl、0.2 mM dNTPs、2.5 mM MgCl2、0.3μM Primer mix、0.2×SYBR Green I(SIGMA)、0.16 pmol/μl 5-ROX、0.0225 U/μl AmpliTaq Gold DNA Polymerase(Applied Biosystems)となるように調製した。PCR条件は95℃で10分熱変性後、94℃:30秒、60℃:40秒、72℃:1分間の反応を40回繰り返した。反応後、同社の解析ソフトABI PRISM 7000 SDS Softwareで遺伝子発現の解析を行った。目的遺伝子の発現量は内部標準遺伝子β-globinの発現量で標準化し、この値を正常ラットとII型糖尿病ラットとの間で比較した。
その結果、6遺伝子はII型糖尿病ラット血液中で発現レベルが低下しており、20遺伝子は発現レベルが上昇していることを確認した(図1参照)。
【0180】
《II型糖尿病ラットで発現レベルが低い遺伝子》
糖尿病マーカー遺伝子1:Rattus norvegicus 13 BAC CH230-151K3 (Children's Hospital Oakland Research Institute)
糖尿病マーカー遺伝子2:R.norvegicus mRNA for cathepsin B
糖尿病マーカー遺伝子3:Mus musculus cyclin I, mRNA
糖尿病マーカー遺伝子7:Mus musculus nuclear receptor coactivator 4, mRNA
糖尿病マーカー遺伝子8:Rat mRNA for the cysteine proteinase inhibitor cystatin C
糖尿病マーカー遺伝子11:Rattus norvegicus Chymotrypsinogen B (Ctrb), mRNA
【0181】
《II型糖尿病ラットで発現レベルが高い遺伝子》
糖尿病マーカー遺伝子 4:Mus musculus RIKEN cDNA 1110032C13 gene, mRNA
糖尿病マーカー遺伝子5:Mus musculus mitochondrial ribosomal protein S7, mRNA
糖尿病マーカー遺伝子 6:Mouse DNA sequence from clone RP23-423P8 on chromosome 4 contains the 3' end of the Astn2 gene for astrotactin 2 and the 3' end of the Pappa gene for pregnancy-associated plasma protein A
糖尿病マーカー遺伝子10:R.norvegicus mRNA for coupling factor 6 of mitochondrial ATP synthase complex.
糖尿病マーカー遺伝子12:Rattus norvegicus clone RP31-249D7 strain Brown Norway
糖尿病マーカー遺伝子13:Rat carboxypeptidase B gene, exons 1 and 2.
糖尿病マーカー遺伝子14:Rat C1-tetrahydrofolate synthase mRNA
糖尿病マーカー遺伝子15:Rattus norvegicus AIF mRNA for apoptosis-inducing factor
糖尿病マーカー遺伝子16:Rattus norvegicus LIS1-interacting protein NUDE2 mRNA
糖尿病マーカー遺伝子17:Mus musculus chromosome 3 clone RP24-344F8
糖尿病マーカー遺伝子18:Mus musculus ring-box 1, mRNA
糖尿病マーカー遺伝子19:Mus musculus Brca1 associated protein 1(BAP1), mRNA
糖尿病マーカー遺伝子20:Mus musculus chromosome 14 clone RP23-187G1
糖尿病マーカー遺伝子21:Messenger RNA for rat preproalbumin.
糖尿病マーカー遺伝子22:Mus musculus mRNA for resistin-like molecule gamma (retn1g gene).
糖尿病マーカー遺伝子23:Rattus norvegicus 1 BAC CH230-362O18 (Children's Hospital Oakland Research Institute)
糖尿病マーカー遺伝子24:Mus musculus RAB24, member RAS oncogene family, mRNA
糖尿病マーカー遺伝子25:Mus musculus chromosome 7 clone RP24-344N22
糖尿病マーカー遺伝子26:Rat angiotensin receptor (AT1) gene, single exon.
糖尿病マーカー遺伝子27:Rattus norvegicus Nphs2 mRNA for podocin
【0182】
〔実施例2〕糖尿病マーカー遺伝子によるI型糖尿病モデルラット(STZ投与ラット)の発症診断
上記の実験で選抜した遺伝子がII型糖尿病だけでなくI型糖尿病においても発症の診断に利用できないかを検討した。
I型糖尿病は生活習慣や遺伝的要因によって引き起こされる非インスリン依存性のII型糖尿病とは異なり、膵臓のβ細胞の破壊によって生じるインスリン分泌量の低下が原因で引き起こされる。そこで、本発明者らは膵臓β細胞の破壊作用を持つストレプトゾトシン(STZ)をオス8週齢Wisterラットに体重1 Kg当たり25 mg、45 mg、65 mgと段階的に投与し、糖尿病発症レベルが異なるラットを作製した。糖尿病発症レベルの確認は空腹時に尾部静脈から採血し、血糖値測定により判断した。その結果、最終的に4段階の発症レベルの異なるI型糖尿病モデルラットが作製できた(表6「STZ投与前後の平均血糖値(mg/dl)」参照)。
【0183】
【表6】

【0184】
水は自由飲水で与え、餌は1日当たり12 g (CE-2 日本クレア株式会社)を自由摂餌させた。14日間飼育後、解剖し血液のサンプリングを行った。血液からのmRNA抽出、およびリアルタイムPCRによる解析は前述の方法に従った。
【0185】
その結果、糖尿病発症レベルと遺伝子発現レベルが連動する糖尿病マーカー遺伝子を4個特定した(図2参照)。
糖尿病マーカー遺伝子3:Mus musculus cyclin I, mRNA
糖尿病マーカー遺伝子7:Mus musculus nuclear receptor coactivator 4, mRNA
糖尿病マーカー遺伝子6:Mouse DNA sequence from clone RP23-423P8 on chromosome 4 contains the 3' end of the Astn 2 gene for astrotactin 2 and the 3' end of the Pappa gene for pregnancy-associated plasma protein A
糖尿病マーカー遺伝子17:Mus musculus chromosome 3 clone RP24-344F8
【0186】
糖尿病が重度になるに従い、糖尿病マーカー遺伝子3および7は遺伝子発現量が段階的に低下し、一方、糖尿病マーカー遺伝子6および17は上昇するという傾向が認められた(図2参照)。本実験では、正常ラットと超軽度糖尿病ラットとの間に血糖値の差は認められなかったが、遺伝子発現量を指標とした本方法では両者の間に明確な差を検出することができた。このことから、上記の4つの糖尿病マーカー遺伝子はII型糖尿病の発症を診断できるだけでなく、I型糖尿病において血糖値に反映されないような初期段階の糖尿病に対して診断が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】図1は、II型糖尿病モデルラットにおける糖尿病マーカー遺伝子の発現レベルを示すグラフである。目的遺伝子の発現量を内部標準遺伝子β-globinの発現量で標準化し、この値を正常ラットとII型糖尿病ラットとの間で比較した。グラフAおよびBに示す遺伝子はII型糖尿病モデルラットで発現量が低い遺伝子であり、C〜Gに示す遺伝子はII型糖尿病モデルラットで発現量が高い遺伝子である。
【図2】図2は、I型糖尿病モデルSTZ投与ラットにおける糖尿病マーカー遺伝子(3、6、7、および17)発現量の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検動物について、配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子、または、該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを指標とする、II型糖尿病の素因の検査方法。
【請求項2】
前記遺伝子の発現レベルが下記(a)または(b)の場合に、被検動物はII型糖尿病の素因を有するものと判定する、請求項1に記載の検査方法。
(a)配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して低下している
(b)配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して上昇している
【請求項3】
被検動物について、配列番号:3、6、7、または17のいずれかに記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルを指標とする、I型糖尿病の素因の検査方法。
【請求項4】
前記遺伝子の発現レベルが下記(a)または(b)の場合に、被検動物はI型糖尿病の素因を有するものと判定する、請求項3に記載の検査方法。
(a)配列番号:3または7に記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して低下している
(b)配列番号:6または17に記載の遺伝子、または該遺伝子のホモログ遺伝子の発現レベルが対照と比較して上昇している
【請求項5】
被検動物由来の生体試料を被検試料として検査に供する、請求項1〜4のいずれかに記載の検査方法。
【請求項6】
以下の(a)〜(d)のいずれかの物質を有効成分として含む、糖尿病の素因の検査薬。
(a) 請求項1の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド
(b) 請求項1の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相
(c) 請求項1の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチド
(d) 請求項1の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体
【請求項7】
以下の(a)〜(d)のいずれかを構成成分として含む、II型糖尿病の素因の検査用キット。
(a) 請求項1の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド
(b) 請求項1の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相
(c) 請求項1の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子のDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチド
(d) 請求項1の配列番号:1〜8、10〜27のいずれかに記載の遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体
【請求項8】
配列番号:1〜3、7、8、11のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を亢進させる物質を有効成分として含有する、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤。
【請求項9】
配列番号:4〜6、10、12〜27のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、II型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤。
【請求項10】
配列番号:3または7に記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を亢進させる物質を有効成分として含有する、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤。
【請求項11】
配列番号:6または17に記載の遺伝子の発現もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子の発現、または、該遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を抑制する物質を有効成分として含有する、I型糖尿病の治療もしくは予防のための薬剤。
【請求項12】
遺伝子の発現を抑制する物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物である、請求項9または11に記載の薬剤。
(a)前記遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸
(b)前記遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸
(c)前記遺伝子の発現をRNAi効果によって阻害する作用を有する核酸
【請求項13】
前記タンパク質の機能を抑制する物質が、以下の(a)または(b)の化合物である、請求項9または11に記載の薬剤。
(a)前記タンパク質に結合する抗体
(b)前記タンパク質に結合する低分子化合物
【請求項14】
請求項1に記載の遺伝子の発現レベルが人工的に改変されていることを特徴とする、遺伝子改変糖尿病モデル非ヒト動物。
【請求項15】
請求項1に記載のいずれかの遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択することを特徴とする、II型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法。
【請求項16】
請求項3に記載のいずれかの遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択することを特徴とする、I型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法。
【請求項17】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、請求項15または16に記載のスクリーニング方法。
(a)請求項1または3に記載のいずれかの遺伝子を発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
【請求項18】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、請求項15または16に記載のスクリーニング方法。
(a)請求項1または3に記載のいずれかの遺伝子の転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該レポーター遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
【請求項19】
非ヒト動物を用いたスクリーニング方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を含む、請求項15または16に記載のスクリーニング方法。
(a)請求項1または3に記載のいずれかの遺伝子を発現する非ヒト動物に被検化合物を投与する工程
(b)前記動物における、前記遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を投与していない場合と比較して、前記遺伝子の発現レベルを変化させる化合物を選択する工程
【請求項20】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、II型糖尿病の治療もしくは予防効果を有する化合物のスクリーニング方法。
(a)配列番号:2、13、14のいずれかに記載の遺伝子もしくは該遺伝子のホモログ遺伝子によってコードされるタンパク質、または該タンパク質を発現する細胞と、被検化合物を接触させる工程
(b)前記タンパク質の活性を測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、前記タンパク質の活性を変化させる化合物を選択する工程

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−29019(P2007−29019A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218293(P2005−218293)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(500301371)株式会社植物ゲノムセンター (16)
【Fターム(参考)】