説明

紙葉類の識別装置及び識別方法

【課題】磁気センサにより紙幣などの紙葉類の識別を行う装置において、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できるようにする。
【解決手段】 磁気インクが印刷された印刷媒体1の搬送路上で、印刷媒体1に磁界を印加して着磁し、搬送路の後段で着磁された磁気インクの残留磁気による磁界を検出する磁気センサ4と、挿入口2から挿入された印刷媒体1の進入を進入センサ3からの信号により検知する媒体進入検知手段5とを備える。そして、磁気センサ4は、媒体進入検知手段5が印刷媒体1の進入を検知したときに、印刷媒体1に印加する磁界を印刷媒体1の搬送方向と直交する方向に発生する電磁石を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体を有する紙幣や薄板状の媒体などの紙葉類の識別装置及び識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気インク等で印刷された紙幣や磁気カードなど、磁性体を有する紙葉類に磁界を印加して着磁を行い、その磁性体が帯びる残留磁気によって発生する残留磁界を検出し、その検出結果に基づいて紙葉類の真贋を識別する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。図22はその磁気センサ100の構成を示す斜視図である。
【0003】
この磁気センサ100は、ホルダ111内に着磁体112と、磁気シールド部材113を介して配置された2つの磁気検出部114a,114bを持つ磁気検出素子114が一体に収納されたもので、着磁体112は磁石115とこれを覆う軟磁性体116からなり、磁気検出素子114は非磁性基板117内に収められ、その上方にバイアス用のマグネット118が配置されている。119は検出信号を取り出すための端子である。
【0004】
図23は上記着磁体112と磁気検出素子114との配置関係を示す図であり、着磁体112の磁極面(ハッチングされた四角形の部分)と磁気検出素子114と印刷媒体101の相対位置関係を示している。図24に着磁体112による着磁磁界を示す。
【0005】
着磁体112は、磁気センサ100と印刷媒体101とが相対移動方向Yに対して相対移動する際、印刷媒体101上の帯状の着磁部101aに着磁磁界を印加する。つまり、印刷媒体101の表面の着磁部101a内に付された磁気インクをその検出に先立って着磁する。磁気検出素子114は、その着磁により着磁部101a内の磁気インクが帯びる残留磁気による磁界H1,H2を検出する。その際、着磁体112の強い着磁磁界が磁気検出素子114の検出対象の弱磁界に影響を与えないようにする必要がある。
【0006】
この磁気センサ100では、ホルダ111の下端面である媒体検知面Sdに垂直に、媒体検知面Sd側をS極とする4角柱状の磁石115が設けられ、コの字形で断面が4角形のパーマロイ、フェライト等の軟磁性体116が磁石115の媒体検知面Sdと反対側N極に跨るように組み合わされ、磁石115を内側にして全体として概ねE字形となる着磁体112が設けられている。
【0007】
そして、この着磁体112のE字形の開放側の3箇所の4角形の端面である磁極面(磁石115の1箇所のS極と軟磁性体116の2箇所のN極の面)が媒体検知面Sd上にあって印刷媒体101の表面に対し平行に接触もしくは近接し、且つ上記3箇所の磁極面が相対移動方向Yに垂直な方向に並ぶように着磁体112が配置されている。
【0008】
この着磁体112の構成により、磁石115からの磁束を上記E字形の開放側端面としての磁極面を相互に結ぶ方向(相対移動方向Yに直交する方向)に集中させることで磁石115から磁気検出素子114へ及ぶ磁界成分を極めて少なくでき、また、印刷媒体101の磁気インク検知面(表面)に沿った磁界成分を強めることで着磁後の着磁部101aからの磁界H1,H2を強めることができる。
【0009】
なお、この例では図24に示すように、着磁体112の磁極面は磁石115がS極、軟磁性体116がN極となり、このN極からS極に向かう磁界を印刷媒体101に及ぼして磁気インクを磁化するので、着磁体112のN極に近い磁気インク側はS極に、着磁体112のS極に近い磁気インク側はN極にそれぞれ磁化される。これにより、磁化された後の磁気インクの残留磁気は、図の矢印方向の磁界H1,H2を形成することになる。
【0010】
また、着磁体112から磁気検出素子114への磁界波及を更に抑える必要がある場合には、図22に示すように、衝立状のパーマロイ、アモルファス等の磁気シールド部材113を着磁体112と磁気検出素子114との間に配置する。
【0011】
磁気インピーダンス素子からなる磁気検出素子114は、ガラス、セラミック等の非磁性基板117上にアモルファス、パーマロイ等の高透磁率磁性薄膜からなるつづら折りのパターンに形成された2つの磁気検出部114a,114bが電気的に直列に接続されている。この磁気検出部114a,114bのつづら折りの線状パターンは、磁石115の媒体検知面側の端面である着磁側磁極面の中心と磁気検出部114a,114bの接続点として磁気検出素子114の中心とを結ぶ直線Lに対して線対称となるように、つまり磁気検出部114a,114bの特性をほぼ同一にできるようにしている。また、直線Lの方向は相対移動方向Yに一致するように磁石115と磁気検出素子114が配置され、着磁部101aの磁界に対する磁気検出部114a,114bの感度がほぼ等しくできるように構成されている。
【0012】
そして、検出対象部分の必要な検出幅に応じて磁気検出部114a,114bのつづら折り部の長手方向(相対移動方向Yに直交する方向)の長さが選択され、また分解能に応じてつづら折りの回数及びパターンの線の幅や間隔が選択されている。この磁気検出部114a,114bのつづら折り部分は、印刷媒体101の媒体検知面Sdとはコンマ(.)数ミリオーダーの間隔で平行になるように保持されている。そして、磁気検出部114a,114bは、磁界検出方向となるつづら折りの各部の長手方向が同一方向を向いて、印刷媒体101の表面に平行な面内で相対移動方向Yに直交するように、互いに磁界検出方向に沿って並ぶように構成されている。
【0013】
磁気検出素子114の上方近傍に設置されたバイアス用のマグネット118は、図23に示すバイアス磁界Hbを発生し、磁気検出素子114を感度の良い動作点にセットする。これにより、着磁部101aの磁界に対する磁気検出部114a,114bの感度をほぼ等しくしている。すなわち、磁気検出素子114がバイアス磁界Hbによってバイアスされ、このバイアス磁界Hbに重畳するその他の外部磁界が存在しない状態では、磁気検出部114a,114bのインピーダンスはほぼ等しく、且つ微小な外部磁界に対してはそのインピーダンスがほぼ等しい勾配で直線的に変化するように構成されている。なお、磁気検出部114a,114bの直列接続の両端と中点のそれぞれに接続された端子119を通して、磁気検出部114a,114bの検出信号が媒体検知面Sdと反対側から取り出される。
【0014】
このような構成で、磁気インク検出時には磁気センサ100が印刷媒体101に対して相対移動方向Yに相対的に移動され、その移動に伴って上述のように着磁体112により印刷媒体101が着磁され、その着磁された部分の磁気インクの量に応じて発生する磁界を磁気検出素子114の磁気検出部114a,114bによって差動検出する。このとき、磁気インクの残留磁気による磁界H1,H2がバイアス磁界Hbに重畳するので、磁気検出部114aは(Hb−H1)の磁界を受け、磁気検出部114bは(Hb+H2)の磁界を受ける。
【0015】
したがって、バイアス磁界Hbのみで外部磁界が存在しない状態のインピーダンスを基準にしたとき、磁気検出部114aのインピーダンスは(−H1)に比例した量の変化(ここでは減少)をし、磁気検出部114bのインピーダンスは(+H2)に比例した量の変化(ここでは増加)をする。このため、磁気検出部114a,114bの直列接続の一端(例えば磁気検出部114a側)を接地し、他端に所定の電圧を印加すると、その直列接続の中点の電圧は、外部磁界が存在しない場合の基準電圧に対し、外部磁界(H1+H2)に比例した電圧分の変化をする。
【0016】
この原理を用い、実際には例えば上記の直列接続に加える電圧を高周波電圧とし、直列接続の中点の電圧の検波出力Vsの波形中のベースラインを示す比較電圧Vrefが外部磁界の存在しない場合の基準電圧に相当するので、ピークホールド回路やミニマムホールド回路を介して検波出力Vsから比較電圧Vrefを取り出し、更に直流差動増幅回路を介して比較電圧Vrefと検波出力Vsとの差電圧を取り出すことにより、上記外部磁界(H1+H2)に比例した電圧分、つまり印刷媒体101に印刷された磁気インクの量に応じた磁界を検出することができる。
【0017】
なお、上述の磁気センサ100の構成では、外乱磁界はバイアス磁界Hbの変化の形で磁気検出部114a,114bにともに影響するが、磁気検出部114a,114bの直列接続の中点から取り出される外部磁界(H1+H2)に比例した電圧分はほとんど変わらず、微小な外乱磁界の影響はキャンセルされる。
【0018】
上述の外部磁界(H1+H2)の検出方法は、原理的に磁気検出部114aと114bの両端電圧の差を求める、いわゆる差動検出の方法である。このような差動検出を行う方法としては、例えば磁気検出部114a,114bの直列接続の中点を接地し、その直列接続の両端からそれぞれの磁気検出部114a,114bに等しい高周波電流を流し込み、このとき磁気検出部114a,114bに発生する電圧をそれぞれ検波した上、その検波電圧同士を直流差動増幅する方法もある。
【0019】
また、磁気センサとして非接触磁気センサの一類型である薄膜フラックスゲート型磁気センサを用いた紙幣の識別装置も提案されている(例えば特許文献2参照)。図25はその構成例を示すブロック図である。この装置は、磁気センサ121を制御する磁気センサ制御手段122と、その検出信号から出力信号を生成する判定手段123から構成され、磁気センサ制御手段122は、発振手段122a、分周手段122b、励磁駆動手段122c、交流増幅手段122d、同期検波手段122e、及び増幅手段122fを備えている。
【0020】
磁気センサ121は、閉磁路コアに励磁コイルと検出コイルを巻装した構成を有しており、その動作原理は、閉磁路コアに巻装された励磁コイルによって高周波励振磁界を閉磁路コアに与えておき、その励振磁界による誘起電流を閉磁路コアに巻装された検出コイルによって検出するもので、外磁場による閉磁路コア内の電磁作用の変化、つまり励振状態の変化を検出コイルにより検出するものである。そして、磁気センサ制御手段122と協働して磁気センサ121に対する外磁場の作用による影響を検出した検出信号を判定手段123に与える。判定手段123は、比較判定手段123a及び基準値信号発生手段123bを有し、磁気センサ121の検出信号に応じた出力信号を生成する。
【0021】
また、磁気インクの種類を判別して紙幣の真贋を識別することも提案されている(例えば特許文献3参照)。図26はその磁気センサの構成を示す断面図である。
この磁気センサは、2つの異なるリングヘッドを使用するもので、まず第1の差動型のリングヘッド131に駆動コイル132から正弦波を印加して交流変調磁界を発生させ、検出コイル133に出力される交流変調波のピークから最大磁束密度を検出し、次に磁石134により紙幣102を磁化させ、残留磁化を第2のリングヘッド135の検出コイル136から検出する。そして、第1の差動型のリングヘッド131の検出コイル133からの出力Bmと第2のリングヘッド135の検出コイル136からの出力Brを割算器に入力し、Bm/Brを求める。第1の差動型のリングヘッド131は、これに替えてバイアス型リングヘッドでも良い。
【0022】
上記の磁気センサでは、磁気インクの濃度が一定となっている部分については第2のリングヘッド135から信号が出力されないため、積分器により積分値を求めることが必要であるが、データ処理が複雑になり、また積分による誤差を含むので、直接的に正確な残留磁気を検出することができない。また、磁気インクの種類と磁気パターンを組み合わせて識別する場合でも、磁気パターンの検出に積分値を求める必要があり、同様に直接的に正確な残留磁気を検出することができない。
【0023】
更に、磁気センサに半導体磁気抵抗素子を用いることも知られている(例えば特許文献1参照)。図27はその識別装置の構成を示す図であり、同図は半導体磁気抵抗素子141の印刷媒体101との矢印で示す相対移動方向に対して垂直な方向から見た断面図である。
【0024】
半導体磁気抵抗素子141は、通常印刷媒体101との相対移動方向の前後に並んだ2つの磁気検出部141a,141bを有し、これを差動動作させている。これは、磁気検出部141a,141bの素子単体では温度特性が悪く、その温度特性を補償するためである。また、半導体磁気抵抗素子141の背面にはバイアスマグネット142が設置され、そのNSの磁極を結ぶ方向は印刷媒体101の磁気インク部101bの検出面(印刷媒体101の表面)に対して垂直になっている。このような半導体磁気抵抗素子141では、進行方向の前後に2つの磁気検出部141a,141bを持っているため、検出出力は微分的な波形となる。
【0025】
しかし、上記のような磁気インク部101bのエッジを検出する方法では、例えば印刷媒体101に磁気テープを貼り付けてそのエッジ情報を再現したり、磁性を持つトナーを用いた複写機で偽造(複製)した場合に、媒体が識別装置をパスしてしまう恐れがある。これは、磁気インクの微分的なパターンしか捕らえていないためであり、識別精度が不十分となっている。
【0026】
したがって、上記のパターンの他に、磁気インクの量に応じた信号を扱うことにより、磁気インクの強度を捕らえることができ、より高度な識別を行うことができ、識別精度を上げることができる。
【0027】
なお、半導体磁気抵抗素子も2つの磁気検出部の内片方だけを動作させると、磁気インクのパターンと量に応じた強度を捉えることができるが、温度特性の悪さが露呈し、安定したレベルを確保することが困難となる。また、外乱磁界に対して弱く、S/Nが悪くなる。
【0028】
そこで、磁気インクの量に応じた磁界を正確に検出できる磁気センサを用い、同センサの磁気インクの量に応じた検出信号の検知を正確に行えるようにするため、磁気インピーダンス型薄膜磁気センサを使用して磁気インクの残留磁気を測定する方法が開示されている(例えば特許文献4参照)。また、フラックスゲート型磁気センサを使用して、磁気インクの残留磁気を測定する方法も提案されている。
【特許文献1】特開2000−105847号公報(図4、図10)
【特許文献2】特開平11−7565号公報(図1)
【特許文献3】特開昭59−120857号公報
【特許文献4】特開2000−242824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
上記のような従来の紙葉類の識別装置では、着磁用の磁石が1Kガウス以上の磁力を持っているため、実際の環境では鉄粉を吸いつけて検出誤差が発生したり、付着した鉄粉等により紙葉類を傷付けることがある。更に、磁石の磁気量は温度による変動が大きく、経年変化もあり、磁気センサの検出出力の信頼性が低いという問題がある。これを補うために、強力な磁界を発生可能な磁気コアと励磁コイルを持つリングヘッドを用いた場合、リングヘッドの着磁部の溝幅(ギャップ)は300μm以下で非常に狭く、磁気検出素子の感磁方向の長さを満足するほどの着磁を行うことができず、正確な磁気検出ができない。
【0030】
また、磁気インクの種類を判別する場合には、磁気インクの濃度が一定となっている部分についてはリングヘッドから検出信号が出力されないので、積分器により積分値を求める必要があるが、この場合データ処理が複雑になるとともに、積分による誤差を含んでしまい、直接的に正確な残留磁気を検出することができないという問題がある。磁気パターンを検出する場合も同様である。
【0031】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できる紙葉類の識別装置及び識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明では上記課題を解決するために、磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に磁界を印加して着磁する着磁手段と、前記搬送路の後段で前記着磁された磁性体の残留磁気による磁界を検出する磁気検出手段と、前記紙葉類の進入を検知する検知手段と、を備え、前記着磁手段は、前記検知手段が紙葉類の進入を検知したときに前記磁性体に印加する磁界を前記紙葉類の搬送方向と直交する方向に発生する電磁石を有することを特徴とする紙葉類の識別装置が提供される。
【0033】
このような紙葉類の識別装置によれば、紙葉類の進入を検知して電磁石による着磁を行うので、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できる。
【0034】
また、本発明では上記課題を解決するために、磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に磁界を印加して着磁するとともに着磁された前記磁性体の磁束密度を検出するバイアス型リングヘッドと、前記着磁された磁性体の残留磁界を検出する磁気検出手段と、前記バイアス型リングヘッドと前記磁気検出手段の検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、前記検出信号が前記基準信号に対して許容範囲内にある場合に前記紙葉類が真のものと判定する比較判定手段と、を備えたことを特徴とする紙葉類の識別装置が提供される。
【0035】
このような紙葉類の識別装置によれば、バイアス型リングヘッドにより着磁を行うため、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できる。
【0036】
また、本発明では上記課題を解決するために、磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に磁界を印加して着磁する着磁手段と、前記搬送路の後段で前記着磁された磁性体の残留磁気による磁界を検出する磁気検出手段と、前記磁気検出手段からの検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、前記検出信号が前記基準信号に対して許容範囲内にある場合に前記紙葉類が真のものと判定する比較判定手段と、を備えたことを特徴とする紙葉類の識別装置が提供される。
【0037】
このような紙葉類の識別装置によれば、磁性体に磁界を印加して着磁するため、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の紙葉類の識別装置及び識別方法は、紙葉類の進入を検知したときに紙葉類の磁性体に印加する磁界を紙葉類の搬送方向と直交する方向に発生する電磁石を備えたため、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できるという利点がある。
【0039】
また、本発明の紙葉類の識別装置及び識別方法は、紙葉類の磁性体に磁界を印加して着磁するとともに着磁された磁性体の磁束密度を検出するバイアス型リングヘッドを備えたため、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できるという利点がある。
【0040】
また、本発明の紙葉類の識別装置及び識別方法は、紙葉類の磁性体に磁界を印加して着磁する着磁手段を備えたため、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態を示す構成図であり、ここでは紙葉類の磁性体を検出する磁気検出装置の構成を示している。
【0042】
同図において、1は挿入口2から挿入される印刷媒体で、紙幣あるいは磁気インクで印刷された小切手など、磁界の印加により着磁されて残留磁界を発生する磁性体を表面あるいは内部に保持した紙葉状ないし薄板状の紙葉類であり、図示しない搬送ローラや搬送ベルトなどの搬送手段によりY方向に相対的に搬送される。
【0043】
搬送された印刷媒体1の上面側には印刷媒体1の進入を検知するための進入センサ3が設けられている。この進入センサ3は、例えば反射型フォトインタラプタのような非接触で印刷媒体1を検出できる光センサからなり、印刷媒体1の相対移動方向Yに対して前段側に配置され、相対移動方向Yの後段側の上面側には磁気検出手段としての磁気センサ4が配置されている。
【0044】
また、進入センサ3には印刷媒体1の進入を検知して磁気センサ4を付勢する媒体進入検知手段5が接続されている。6は後述する磁気センサ4内の着磁用のコイルを駆動する着磁コイル駆動手段、7は同じく磁気センサ4内の磁気検出素子を駆動する磁気検出素子駆動手段、8は磁気センサ4からの検出信号から印刷媒体1の磁気を検出する磁気検出回路である。
【0045】
図2は磁気センサ4の構成例を示す斜視図である。同図に示す磁気センサ10は、図22に示すものと基本的な構成は変わらないが、ホルダ11内に、印刷媒体1の搬送路上で磁性体である磁気インクに磁界を印加して着磁する着磁用の電磁石(着磁手段)12と、この電磁石12と磁気シールド部材13により仕切られ、上記搬送路の後段で着磁された磁気インクの残留磁気による磁界を検出する上述の磁気検出素子(磁気検出手段)14が設けられている。電磁石12は、磁気コアである軟磁性体15とこれに巻回された上述の着磁用のコイル(励磁コイル)16から構成され、磁気検出素子14には薄膜フラックスゲート型磁気検出素子が用いられているが、高周波電流が印加されると外部磁界に応じてインピーダンスが変化する磁気インピーダンス素子であっても良い。この磁気検出素子14は、非磁性基板17に設けられており、バイアス用のマグネットは設けられていない。18は図1の着磁コイル駆動手段6に接続されたコイル16のコイル端子、19は磁気検出素子駆動手段7に接続された磁気検出素子14の駆動端子である。
【0046】
着磁用の電磁石12は、断面が4角形で全体としてE字形をなす軟磁性体15の3つの4角柱状の脚部のうち中央の脚部にコイル16が巻装されている。そして、3つの4角柱状の脚部の開放側の端面である磁極面が印刷媒体1の表面に対して平行に接触もしくは近接し、相対移動方向Yに垂直な方向に並ぶように配置されている。
【0047】
上記のように構成された磁気検出装置において、挿入口2から挿入された印刷媒体1が図示しない搬送手段により搬送されて進入センサ3の下側を通過すると、媒体進入検知手段5は進入センサ3の出力信号から印刷媒体1の到来を検知し、その到来を示す検知信号を着磁コイル駆動手段6及び磁気検出素子駆動手段7に伝送する。これにより、着磁コイル駆動手段6及び磁気検出素子駆動手段7は、コイル端子18及び駆動端子19を介してコイル16及び磁気検出素子14に通電し、電磁石12及び磁気検出素子14を付勢駆動する。
【0048】
その後、印刷媒体1は、磁気センサ10(磁気センサ4に相当)に到達するが、ここでまず電磁石12により図2に示す着磁磁界Hx,−Hxの方向に磁化される。更に印刷媒体1が搬送され、磁気検出素子14に至ると、磁気検出素子14は、印刷媒体1の残留磁気によって作られバイアス磁界Hbに重畳する外部磁界H1,H2の影響を受ける。そして、磁気検出回路8は、図22に示す磁気センサ100と同様、磁気検出素子14の2つの磁気検出部によって得られる信号電圧から印刷媒体1の残留磁気によって作られる外部磁界H1とH2の和(H1+H2)に比例した値を差動検出する。
【0049】
このようにして、外乱磁界をキャンセルし、印刷媒体1に印刷された磁気インクの量に応じた磁界が正確に検出される。本実施の形態では、印刷媒体1が搬送されたときのみ着磁用磁界が発生するので、鉄粉や砂鉄などが存在する環境で電磁石12の磁極面に鉄粉などが付着したとしても、これらの影響を排除することができる。すなわち、鉄粉などが付着しても印刷媒体1が通過していないときに除去できるので、印刷媒体1を傷つけることなく、高い信頼性で安定して印刷媒体1上の磁気パターンを検出することができる。
【0050】
したがって、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できる。また、着磁用の電磁石12が磁気検出素子14と同一の筐体であるホルダ11内に一体化されているので、磁気検出装置へ取り付けたときの器差の影響を受けにくい。更に、サーミスタや熱電対のような周囲の温度を測定する手段を追加して設け、電磁石12のコイル16の電流を温度補正して制御することで、電磁石12による発生磁界を温度に無関係に安定化することもできる。
【0051】
また、図2に示す電磁石12の形状はこの例に限らず、例えば図3に示すような構成であっても良い。同図に示す電磁石12は、E字型の軟磁性体15の3つの脚部を連結する2箇所の部分にそれぞれ着磁用のコイル16a,16bが巻装された構成を有している。この構成の場合、印刷媒体1に対する着磁磁界Hx,−Hxの方向の着磁量をそれぞれコイル16a,16bへ印加する電流により制御することが可能であり、器差によるばらつきなどを補正することができ、精密に印刷媒体1上の磁気パターンを検出することができる。
【0052】
図4は本発明の第2の実施の形態を示す斜視図であり、図1の磁気センサ4の他の構成例を示している。磁気検出装置全体の構成は図1と同様であるので、説明は省略する。
本実施の形態の磁気センサ20は、ホルダ21内に、印刷媒体1の搬送方向と同方向及び逆方向に着磁する2個のリングヘッド(着磁手段)22a,22bと、これと磁気シールド部材23により仕切られて配置され、2個のリングヘッド22a,22bにより着磁された磁気インクの残留磁気によるそれぞれの磁界を検出する2個の磁気検出素子(磁気検出手段)24a,24bが設けられている。リングヘッド22a,22bは、それぞれ磁気コアである軟磁性体25a,25bとこれに巻回された着磁用のコイル(励磁コイル)26a,26bから構成され、磁気検出素子24a,24bには薄膜フラックスゲート型磁気検出素子が用いられているが、高周波電流が印加されると外部磁界に応じてインピーダンスが変化する磁気インピーダンス素子であっても良い。この磁気検出素子24a,24bは、非磁性基板27a,27bに設けられており、バイアス用のマグネットは設けられていない。28は図1の着磁コイル駆動手段6に接続されたコイル26a,26bのコイル端子、29は磁気検出素子駆動手段7に接続された磁気検出素子24a,24bの駆動端子である。
【0053】
着磁用のリングヘッド22a,22bは、それぞれリング形状をなす軟磁性体25a,25bにコイル26a,26bが巻装された構成となっている。そして、それぞれの開放側の溝部の磁極面が印刷媒体1の相対移動方向Yの表面に対して媒体検知面Sd内で垂直に接触もしくは近接し、相対移動方向Yに垂直な方向に並ぶように配置されている。
【0054】
図5は磁気センサ20による着磁及び磁気検出の動作を示す図である。1a,1bは印刷媒体1の着磁部を示している。リングヘッド22a,22bは印刷媒体1の搬送方向と平行な方向に着磁を行い、一方の着磁方向は印刷媒体1の搬送方向と同方向で、他方の着磁方向は逆方向である。磁気検出素子24a,24bも印刷媒体1の搬送方向と平行な方向の磁界を検出し、一方の感磁方向は印刷媒体1の搬送方向と同方向で、他方の感磁方向は逆方向である。図6はリングヘッド22a,22bの構成例を示す図であり、リングヘッド22に巻装したコイル26による磁界の方向を示している。
【0055】
上記のように構成された磁気検出装置において、図1の挿入口2から挿入された印刷媒体1が図示しない搬送手段により搬送されて進入センサ3の下側を通過すると、上述の第1の実施の形態と同様、媒体進入検知手段5は進入センサ3の出力信号から印刷媒体1の到来を検知し、その到来を示す検知信号を着磁コイル駆動手段6及び磁気検出素子駆動手段7に伝送する。これにより、着磁コイル駆動手段6及び磁気検出素子駆動手段7は、コイル端子28及び駆動端子29を介してコイル26a,26b及び磁気検出素子24a,24bに通電し、リングヘッド22a,22b及び磁気検出素子24a,24bを付勢駆動する。
【0056】
その後、印刷媒体1は、磁気センサ20(図1の磁気センサ4に相当)に到達するが、ここでまず着磁用のリングヘッド22a,22bにより図4及び図5に示す着磁磁界Hx,−Hxの方向に磁化される。このとき着磁用のリングヘッド22は、図6に示すように、非常に狭い溝部(一般に300μm以下)の近傍において印刷媒体1に対して磁化を行う。
【0057】
更に印刷媒体1が搬送され、磁気検出素子24a,24bに至ると、磁気検出素子24a,24bは、印刷媒体1の残留磁気によって作られバイアス磁界Hbに重畳する外部磁界H1,H2の影響を受ける。そして、磁気検出回路8は、図22に示す磁気センサ100と同様、磁気検出素子24a,24bの2つの磁気検出部によって得られる信号電圧から印刷媒体1の残留磁気によって作られる外部磁界H1とH2の和(H1+H2)に比例した値を差動検出する。
【0058】
このようにして、外乱磁界をキャンセルし、印刷媒体1に印刷された磁気インクの量に応じた磁界が正確に検出される。本実施の形態では、印刷媒体1が搬送されたときのみ着磁用磁界が発生するので、鉄粉や砂鉄などが存在する環境で電磁石12の磁極面に鉄粉などが付着したとしても、これらの影響を排除することができる。すなわち、鉄粉などが付着しても印刷媒体1が通過していないときに除去できるので、印刷媒体1を傷つけることなく、高い信頼性で安定して印刷媒体1上の磁気パターンを検出することができる。
【0059】
したがって、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などの付着を防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別できる。また、着磁用のリングヘッド22a,22bが磁気検出素子24a,24bと同一の筐体であるホルダ21内に一体化されているので、磁気検出装置へ取り付けたときの器差の影響を受けにくい。
【0060】
図7は本発明の第3の実施の形態を示す図であり、図5と同様、磁気センサ(図1の磁気センサ4に相当)30による着磁及び磁気検出の動作を示している。本実施の形態では、着磁用の2個のリングヘッド32a,32bを紙葉類である紙幣9の相対移動方向Yと平行な方向に対して傾けて配置している。また、2個の磁気検出素子34a,34bの感磁方向も紙幣9の相対移動方向Yに対して傾いている。すなわち、リングヘッド32a,32bは着磁方向が紙幣9の搬送方向に対して一定の角度を持ち、互いに180度逆方向で平行に着磁し、且つ着磁部9a,9bの紙幣9の搬送方向に対する直角方向成分が磁気検出素子34a,34bの検出幅より広くなっている。また、磁気検出素子34a,34bも感磁方向が互いに180度逆方向で平行となるように配置されている。
【0061】
図7の例では、2個のリングヘッド32a,32bの着磁用磁界を発生する溝部をそれぞれ平行になるように配置し、また相対移動方向Yに対しては傾けて配置する。このとき、リングヘッド32a,32bの溝部の相対移動方向Yに対する紙幣面上の垂直成分が紙幣9の着磁部9a,9bの幅となる。そして、この着磁部9a,9bの幅が磁気検出素子34a,34bの相対移動方向Yに対する紙幣面上の垂直方向の幅より大きくなるように配置する。
【0062】
このように構成された磁気検出装置において、紙幣9はまずリングヘッド32a,32bにより図7に示す着磁磁界Hxy,−Hxyの方向に磁化される。更に紙幣9が搬送され、磁気検出素子34a,34bに至ると、磁気検出素子34a,34bは、紙幣9の残留磁気によって作られバイアス磁界Hbの相対移動方向成分に重畳する外部磁界H1,H2の影響を受ける。
【0063】
そして、磁気検出回路8は、図22に示す磁気センサ100と同様、磁気検出素子34a,34bの2つの磁気検出部によって得られる信号電圧から紙幣9の残留磁気によって作られる外部磁界H1とH2の和(H1+H2)に比例した値を差動検出する。このようにして、外乱磁界をキャンセルし、紙幣9に印刷された磁気インクの量に応じた磁界が正確に検出される。
【0064】
図8は本発明の第4の実施の形態を示す図であり、ここでは磁気センサ(図1の磁気センサ4に相当)40の構成を示している。(A)は側面断面図、(B)は下面図である。
この磁気センサ40は、図9に示す紙幣9の搬送路上で、紙幣9に印刷された磁気インクに磁界を印加して着磁するとともに着磁された磁気インクの磁束密度を検出するバイアス型のリングヘッド41と、着磁された磁気インクの残留磁界を検出する磁気検出手段としての磁気インピーダンス素子42を備えている。リングヘッド41は磁界を発生させるためのバイアス駆動コイル43と検出コイル44を有し、磁気インピーダンス素子42の上方にはバイアス磁界をかけるためのバイアス用コイルが設けられ、磁気インピーダンス素子42とともに外部磁界の変化からシールドするための磁気シールド部材46で包囲されている。そして、バイアス型のリングヘッド41と磁気インピーダンス素子42の検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、その検出信号が基準信号に対して許容範囲内にある場合に紙幣9が真のものと判定する。
【0065】
図9は本実施の形態における着磁及び磁気検出の動作を示す図であり、(A)は側面断面図、(B)は下面図である。リングヘッド41による着磁方向は、リングヘッド41の隙間方向に対して同方向になり、図に示すような方向となる。これに対し、磁気インピーダンス素子42の感磁方向は、着磁方向と平行にならないようにしている。
【0066】
紙幣9の磁気インクの材質及び磁気パターンの検出の際、磁気センサ40または紙幣9を図9の矢印方向に相対移動させ、それに伴ってリングヘッド41により紙幣9を帯状に着磁し、そのときの最大磁束密度を検出コイル44で検出し、またその着磁部9aの磁気インクによる磁界を磁気インピーダンス素子42で検出する。このとき、リングヘッド41により着磁された着磁部9aの幅が磁気インピーダンス素子42の感磁方向の長さよりも広くなるようにリングヘッド41と磁気インピーダンス素子42の大きさが決められている。
【0067】
紙幣9に印刷されている磁気インクは、元々決まった磁気量を持っているわけではなく、このため、磁気インクの検出に応じた方向に磁界を印加し、磁化を行うようにしている。また、一旦磁化された磁気インクも紙幣9の流通過程で強磁界にさらされるなどして磁化が消失することもあるので、安定動作のためには磁気インクの検出直前に着磁を行うことが必要である。
【0068】
図10は上記の磁気センサ40を用いた識別装置の構成例を示すブロック図である。紙幣9が挿入されたことを挿入検知センサ51が検知すると、その検知信号により制御回路52は、駆動回路53及び信号処理部57に動作開始の指令を与える。この指令に従い、駆動回路53はリングヘッド54に直流電流を流して着磁動作を開始させ、またバイアスコイル56に電流を流してバイアス磁界を発生させ、更に磁気センサ(図8の磁気センサ40に相当)55を駆動する。そして、リングヘッド54の出力信号及び磁気センサ55の出力信号は信号処理部57に入力されて信号変換され、比較判定手段58に送られる。比較判定手段58では、入力された信号と予め取得、記憶しておいた真券の出力信号を比較し、真偽判定を行う。この判定結果は、判定値として出力される。その際、磁気インクの種類判別はBm/Brの式から判別でき、磁気パターンは磁気センサ55の出力Brからも読むことができる。
【0069】
図11の(A)、(B)に種類の異なる磁気インクの磁化曲線例を示す。また、図12の(A)、(B)にその磁気インクの検出結果(センサの信号波形)を示す。
磁気インクの種類が異なるA部とB部の出力がそれぞれリングヘッド41及び磁気センサ40の出力の違いとして検出される。つまり、紙幣9に印刷された磁気インクの量及び種類に応じた最大磁束密度及び残留磁気パターンを正確に検出でき、その結果から磁気インクの種類と磁気量を検出することができる。
【0070】
図13は磁気インクの磁化特性例と飽和後の残留磁化を示す図である。初期状態においては、残留磁化はBrから−Brの間の何処かの値を示す。そこで、磁気インクの量に従った残留磁化の出力を得るために、飽和磁化までの磁化を行う。一般には1kOe程度の磁化を与えることにより飽和させることができる。このように、磁気インクを飽和状態まで磁化することにより、磁気インクの量に従った残留磁化を得ることができる。
【0071】
図14は本発明の第5の実施の形態を示す図であり、磁気センサ(図8の磁気センサ40に相当)60の構成を示している。(A)は側面断面図、(B)は下面図である。本実施の形態では、磁気検出手段として薄膜フラックスゲート型磁気検出素子62を用いている。他の構成は図8に示すものと同様であるが、バイアス用コイルは設けていない。すなわち、リングヘッド61は、バイアス駆動コイル63及び検出コイル64を有し、薄膜フラックスゲート型磁気検出素子62は磁気シールド部材65に包囲されている。そして、リングヘッド61による着磁方向は、リングヘッド61の隙間方向に対して同方向になり、図に示すような方向となる。これに対し、薄膜フラックスゲート型磁気検出素子62の感磁方向は、着磁方向と平行にならないようにしている。
【0072】
紙幣9の磁気インクの材質及び磁気パターンの検出の際、磁気センサ60または紙幣9を図15の矢印方向に相対移動させ、それに伴ってリングヘッド61により紙幣9を帯状に着磁し、そのときの最大磁束密度を検出コイル64で検出し、またその着磁部9aの磁気インクによる磁界を薄膜フラックスゲート型磁気検出素子62で検出する。このとき、リングヘッド61により着磁された着磁部9aの幅が薄膜フラックスゲート型磁気検出素子62の感磁方向の長さよりも広くなるようにリングヘッド61と薄膜フラックスゲート型磁気検出素子62の大きさが決められている。
【0073】
紙幣9に印刷されている磁気インクは、元々決まった磁気量を持っているわけではなく、このため、磁気インクの検出に応じた方向に磁界を印加し、磁化を行うようにしている。また、一旦磁化された磁気インクも紙幣9の流通過程で強磁界にさらされるなどして磁化が消失することもあるので、安定動作のためには磁気インクの検出直前に着磁を行うことが必要である。
【0074】
図16は上記の磁気センサ60を用いた識別装置の構成例を示すブロック図である。紙幣9が挿入されたことを挿入検知センサ71が検知すると、その検知信号により制御回路72は、駆動回路73及び信号処理部76に動作開始の指令を与える。この指令に従い、駆動回路73はリングヘッド74に直流電流を流して着磁動作を開始させ、また磁気センサ(図14の磁気センサ60に相当)75を駆動する。そして、リングヘッド74の出力信号及び磁気センサ75の出力信号は信号処理部76に入力されて信号変換され、比較判定手段77に送られる。比較判定手段77では、入力された信号と予め取得、記憶しておいた真券の出力信号を比較し、真偽判定を行う。この判定結果は、判定値として出力される。その際、磁気インクの種類判別はBm/Brの式から判別でき、磁気パターンは磁気センサ75の出力Brからも読むことができる。
【0075】
本実施の形態における出力結果は上述の第4の実施の形態と同様であり、図11の(A)、(B)に示す磁化曲線を持った種類の異なる磁気インクの出力結果は図12の(A)、(B)に示すようになる。すなわち、磁気インクの種類が異なるA部とB部の出力がそれぞれリングヘッド61及び磁気センサ60の出力の違いとして検出される。つまり、紙幣9に印刷された磁気インクの量及び種類に応じた最大磁束密度及び残留磁気パターンを正確に検出でき、その結果から磁気インクの種類と磁気量を検出することができる。
【0076】
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。本実施の形態の磁気センサの構成とその着磁及び磁気検出の動作は、図8及び図9に示す第4の実施の形態と同様であるので、説明は省略するが、リングヘッド41の着磁方向と磁気インピーダンス素子42の感磁方向の角度は0度以上90度未満である。また、リングヘッド41の幅方向の紙幣9の搬送方向に対する紙幣面内での直角方向の寸法が、磁気インピーダンス素子42の感磁方向の紙幣9の搬送方向に対する紙幣面内での直角方向の寸法より大きい。
【0077】
図17は本実施の形態の磁気センサを用いた識別装置の構成例を示すブロック図である。第4の実施の形態と同様、紙幣9が挿入されたことを挿入検知センサ81が検知すると、その検知信号により制御回路82は、駆動回路83及び信号処理部87に動作開始の指令を与える。この指令に従い、駆動回路83はリングヘッド84に直流電流を流して着磁動作を開始させ、またバイアスコイル85に電流を流してバイアス磁界を発生させ、更に磁気センサ(図8の磁気センサ40に相当)86を駆動する。そして、リングヘッド84の出力信号及び磁気センサ86の出力信号は信号処理部87に入力されて信号変換され、比較判定手段88に送られる。比較判定手段88では、入力された信号と予め取得、記憶しておいた真券の出力信号を比較し、真偽判定を行う。この判定結果は、判定値として出力される。
【0078】
図18は本実施の形態における磁気インクの検出結果を示す図である。磁気インクの濃度の異なるA部とB部の出力がそれぞれ磁気センサ86の出力の違いとして検出される。つまり、紙幣9に印刷された磁気インクの量に応じた磁界を正確に検出することができる。
【0079】
次に、本発明の第7の実施の形態について説明する。本実施の形態の磁気センサの構成とその着磁及び磁気検出の動作は、図14及び図15に示す第5の実施の形態と同様であるので、説明は省略するが、リングヘッド61の出力を1kOe以上にして着磁を行い、磁気インクを飽和させる。また、リングヘッド61の出力を磁気インクの保磁力以上にして着磁を行う。
【0080】
図19は本実施の形態の磁気センサを用いた識別装置の構成例を示すブロック図である。第5の実施の形態と同様、紙幣9が挿入されたことを挿入検知センサ91が検知すると、その検知信号により制御回路92は、駆動回路93及び信号処理部96に動作開始の指令を与える。この指令に従い、駆動回路93はリングヘッド94に直流電流を流して着磁動作を開始させ、また磁気センサ(磁気センサ60に相当)95を駆動する。そして、リングヘッド94の出力信号及び磁気センサ95の出力信号は信号処理部96に入力されて信号変換され、比較判定手段97に送られる。比較判定手段97では、入力された信号と予め取得、記憶しておいた真券の出力信号を比較し、真偽判定を行う。この判定結果は、判定値として出力される。
【0081】
図20は磁気インクの磁化特性例を示す図である。初期状態においては、残留磁化はBrから−Brの間の何処かの値を示す。そこで、磁気インクの量に従った残留磁化の出力を得るために、飽和磁化までの磁化を行う。一般には1kOe程度の磁化を与えることにより飽和させることができる。このように、磁気インクを飽和状態まで磁化することにより、磁気インクの量に従った残留磁化を得ることができる。
【0082】
図21は磁気インクの磁化特性例と着磁後の残留磁化を示す図である。磁気インクの保磁力以上の磁化を与えることで、初期状態で磁化が消失していても、残留磁化を得ることができる。この場合、初期状態の違いによる影響で磁気インクの量に従った出力を得ることはできないが、磁気インクの有無は検出することができる。
【0083】
以上、各実施の形態について説明したが、本発明では次のような識別工程を有しており、耐環境性に優れ、鉄粉や砂鉄などのセンサへの付着を防止でき、傷が付くのを防止でき、安定して且つ正確に紙葉類の真贋を識別することができる。
【0084】
(1)磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に電磁石により磁界を印加して着磁する着磁工程と、前記搬送路の後段で前記着磁された磁性体の残留磁気による磁界を検出する磁気検出工程と、前記紙葉類の進入を検知する検知工程とを有し、前記着磁工程では、前記検知工程で紙葉類の進入を検知したときに前記磁性体に印加する磁界を前記紙葉類の搬送方向と直交する方向に発生させる。
【0085】
(2)磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体にバイアス型リングヘッドにより磁界を印加する印加工程と、前記着磁された磁性体の磁束密度を検出する検出工程と、前記磁性体の残留磁界を検出する検出工程と、前記各検出工程での検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、前記検出信号が前記基準信号に対して許容範囲内にある場合に前記紙葉類が真のものと判定する比較判定工程とを有する。
【0086】
(3)磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に磁界を印加して着磁する着磁工程と、前記搬送路の後段で前記着磁された磁性体の残留磁気による磁界を検出する磁気検出工程と、前記磁気検出工程での検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、前記検出信号が前記基準信号に対して許容範囲内にある場合に前記紙葉類が真のものと判定する比較判定工程とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す構成図である。
【図2】第1の実施の形態の磁気センサの構成例を示す斜視図である。
【図3】図2の電磁石の他の形状を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図5】第2の実施の形態における着磁及び磁気検出の動作を示す図である。
【図6】第2の実施の形態のリングヘッドの構成例を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態を示す図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態を示す図である。
【図9】第4の実施の形態における着磁及び磁気検出の動作を示す図である。
【図10】第4の実施の形態の磁気センサを用いた識別装置の構成例を示すブロック図である。
【図11】種類の異なる磁気インクの磁化曲線例を示す図である。
【図12】種類の異なる磁気インクの検出結果を示す図である。
【図13】磁気インクの磁化特性例と飽和後の残留磁化を示す図である。
【図14】本発明の第5の実施の形態を示す図である。
【図15】第5の実施の形態における着磁及び磁気検出の動作を示す図である。
【図16】第5の実施の形態の磁気センサを用いた識別装置の構成例を示すブロック図である。
【図17】本発明の第6の実施の形態の磁気センサを用いた識別装置の構成例を示すブロック図である。
【図18】第6の実施の形態における磁気インクの検出結果を示す図である。
【図19】本発明の第7の実施の形態の磁気センサを用いた識別装置の構成例を示すブロック図である。
【図20】磁気インクの磁化特性例を示す図である。
【図21】磁気インクの磁化特性例と着磁後の残留磁化を示す図である。
【図22】従来の磁気センサの構成を示す斜視図である。
【図23】図22の着磁体と磁気検出素子との配置関係を示す図である。
【図24】図22及び図23の着磁体による着磁磁界を示す図である。
【図25】従来の紙幣の識別装置の構成例を示すブロック図である。
【図26】従来の磁気センサの構成を示す断面図である。
【図27】従来の半導体磁気抵抗素子を用いた識別装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 印刷媒体
1a,1b,9a,9b 着磁部
2 挿入口
3 進入センサ
4,10,20,30,40,55,60,75,86,95 磁気センサ
5 媒体進入検知手段
6 着磁コイル駆動手段
7 磁気検出素子駆動手段
8 磁気検出回路
9 紙幣
11,21 ホルダ
12 電磁石
13,23,46,65 磁気シールド部材
14,24a,24b,34a,34b 磁気検出素子
15,25a,25b 軟磁性体
16,16a,16b,26,26a,26b コイル
17,27a,27b 非磁性基板
18,28 コイル端子
19,29 駆動端子
22,22a,22b,32a,32b,41,54,61,74,84,94 リングヘッド
42 磁気インピーダンス素子
43,63 バイアス駆動コイル
44,64 検出コイル
51,71,81,91 挿入検知センサ
52,72,82,92 制御回路
53,73,83,93 駆動回路
56,85 バイアスコイル
57,76,87,96 信号処理部
58,77,88,97 比較判定手段
62 薄膜フラックスゲート型磁気検出素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に磁界を印加して着磁する着磁手段と、
前記搬送路の後段で前記着磁された磁性体の残留磁気による磁界を検出する磁気検出手段と、
前記紙葉類の進入を検知する検知手段と、を備え、
前記着磁手段は、前記検知手段が紙葉類の進入を検知したときに前記磁性体に印加する磁界を前記紙葉類の搬送方向と直交する方向に発生する電磁石を有することを特徴とする紙葉類の識別装置。
【請求項2】
前記磁気検出手段は、前記紙葉類の搬送方向と平行な方向の磁界を検出することを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項3】
前記着磁手段の電磁石は、前記磁界を発生する磁気コアと前記磁気コアを励磁する励磁コイルを有していることを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項4】
前記着磁手段は、前記磁界を発生する磁気コアと前記磁気コアを励磁する励磁コイルを有したリングヘッドからなることを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項5】
前記磁気検出手段は、薄膜フラックスゲート型磁気検出素子を用いたことを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項6】
前記磁気検出手段は、高周波電流が印加されると外部磁界に応じてインピーダンスが変化する磁気インピーダンス素子を用いたことを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項7】
前記磁気検出手段は、前記検知手段による前記紙葉類の進入の検知により付勢されて動作することを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項8】
前記着磁手段は、前記紙葉類の搬送方向と同方向及び逆方向に着磁する2個のリングヘッドからなり、
前記磁気検出手段は、前記2個のリングヘッドにより着磁された磁性体の残留磁気によるそれぞれの磁界を検出する2個の磁気検出素子からなり、
前記紙葉類に対する相対的な移動に伴って前記2個のリングヘッドにより着磁を行い、着磁した部分の磁界を前記2個の磁気検出素子によって差動検出することを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項9】
前記着磁手段は、着磁方向が前記紙葉類の搬送方向に対して一定の角度を持ち、互いに逆方向に着磁し、且つ着磁部の前記紙葉類の搬送方向に対する直角方向成分が前記磁気検出手段の検出幅より広い2個のリングヘッドからなり、
前記磁気検出手段は、前記2個のリングヘッドにより着磁された磁性体の残留磁気によるそれぞれの磁界を検出する2個の磁気検出素子からなり、
前記紙葉類に対する相対的な移動に伴って前記2個のリングヘッドにより着磁を行い、着磁した部分の磁界を前記2個の磁気検出素子によって差動検出することを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項10】
前記着磁手段と前記磁気検出手段は、同一の筐体内に一体化されていることを特徴とする請求項1記載の紙葉類の識別装置。
【請求項11】
磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に磁界を印加して着磁するとともに着磁された前記磁性体の磁束密度を検出するバイアス型リングヘッドと、
前記着磁された磁性体の残留磁界を検出する磁気検出手段と、
前記バイアス型リングヘッドと前記磁気検出手段の検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、前記検出信号が前記基準信号に対して許容範囲内にある場合に前記紙葉類が真のものと判定する比較判定手段と、
を備えたことを特徴とする紙葉類の識別装置。
【請求項12】
磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に磁界を印加して着磁する着磁手段と、
前記搬送路の後段で前記着磁された磁性体の残留磁気による磁界を検出する磁気検出手段と、
前記磁気検出手段からの検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、前記検出信号が前記基準信号に対して許容範囲内にある場合に前記紙葉類が真のものと判定する比較判定手段と、
を備えたことを特徴とする紙葉類の識別装置。
【請求項13】
前記着磁手段は、前記磁界を発生する磁気コアと前記磁気コアを励磁する励磁コイルを有したリングヘッドからなり、
前記磁気検出手段は、高周波電流が印加されると外部磁界に応じてインピーダンスが変化する磁気インピーダンス素子からなることを特徴とする請求項12記載の紙葉類の識別装置。
【請求項14】
前記リングヘッドの着磁方向と前記磁気インピーダンス素子の感磁方向の角度が0度以上90度未満であることを特徴とする請求項13記載の紙葉類の識別装置。
【請求項15】
前記リングヘッドの幅方向の前記紙葉類の搬送方向に対する紙葉類面内での直角方向の寸法が、前記磁気インピーダンス素子の感磁方向の前記紙葉類の搬送方向に対する紙葉類面内での直角方向の寸法より大きいことを特徴とする請求項13記載の紙葉類の識別装置。
【請求項16】
前記リングヘッドの出力を1kOe以上にして着磁を行い、前記磁性体を飽和させることを特徴とする請求項13記載の紙葉類の識別装置。
【請求項17】
前記リングヘッドの出力を前記磁性体の保磁力以上にして着磁を行うことを特徴とする請求項13記載の紙葉類の識別装置。
【請求項18】
磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に電磁石により磁界を印加して着磁する着磁工程と、
前記搬送路の後段で前記着磁された磁性体の残留磁気による磁界を検出する磁気検出工程と、
前記紙葉類の進入を検知する検知工程と、を有し、
前記着磁工程では、前記検知工程で前記紙葉類の進入を検知したときに前記磁性体に印加する磁界を前記紙葉類の搬送方向と直交する方向に発生させることを特徴とする紙葉類の識別方法。
【請求項19】
磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体にバイアス型リングヘッドにより磁界を印加する印加工程と、
前記着磁された磁性体の磁束密度を検出する検出工程と、
前記磁性体の残留磁界を検出する検出工程と、
前記各検出工程での検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、前記検出信号が前記基準信号に対して許容範囲内にある場合に前記紙葉類が真のものと判定する比較判定工程と、
を有することを特徴とする紙葉類の識別方法。
【請求項20】
磁性体を有する紙葉類の搬送路上で前記磁性体に磁界を印加して着磁する着磁工程と、
前記搬送路の後段で前記着磁された磁性体の残留磁気による磁界を検出する磁気検出工程と、
前記磁気検出工程での検出信号を予め記憶された基準信号と比較し、前記検出信号が前記基準信号に対して許容範囲内にある場合に前記紙葉類が真のものと判定する比較判定工程と、
を有することを特徴とする紙葉類の識別方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−293575(P2006−293575A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111500(P2005−111500)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000237710)富士電機リテイルシステムズ株式会社 (1,851)
【Fターム(参考)】