紙葉類識別装置
【課題】劣化券が少数しかない場合、または、非劣化券しかない場合、において、高精度の紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置を提供する。
【解決手段】紙葉類を識別する紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置であって、紙葉類識別装置は、紙葉類の画像を入力する画像入力部と、紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定するためのデータを入力する入力部と、劣化した紙葉類の画像である紙葉類劣化画像を生成する紙葉類劣化画像生成部と、を備え、紙葉類劣化画像生成部は、入力されたデータに基づいて、紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定し、決定されたパラメタに基づいて、画素値が非一様な画像を生成し、生成された画素値が非一様な画像を、画像入力部に入力された紙葉類の画像に加えることによって、紙葉類劣化画像を生成することを特徴とする。
【解決手段】紙葉類を識別する紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置であって、紙葉類識別装置は、紙葉類の画像を入力する画像入力部と、紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定するためのデータを入力する入力部と、劣化した紙葉類の画像である紙葉類劣化画像を生成する紙葉類劣化画像生成部と、を備え、紙葉類劣化画像生成部は、入力されたデータに基づいて、紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定し、決定されたパラメタに基づいて、画素値が非一様な画像を生成し、生成された画素値が非一様な画像を、画像入力部に入力された紙葉類の画像に加えることによって、紙葉類劣化画像を生成することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類識別装置に関し、特に、劣化のない紙葉類から生成された画像データを用いて紙葉類識別器を学習させる紙葉類識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行の自動預金預け払い機(ATM)などの紙葉類自動取引装置は、紙葉類を識別する紙葉類識別器を備えており、紙葉類自動取引装置に挿入された紙葉類の種類および真贋などを紙葉類識別器が判定する。
【0003】
紙葉類識別器に紙葉類を学習させる手法として、統計的学習がある。統計的学習は、紙葉類の紙面上の複数の位置から画素値の統計的特性(以下、統計的特性と記す。)を抽出し、紙葉類識別器に抽出された統計的特性を学習させる。
【0004】
紙葉類識別器は、紙葉類自動取引装置に挿入された紙葉類の紙面上の複数の位置から統計的特性を抽出し、抽出された統計的特性と学習した統計的特性とを比較することによって紙葉類を識別する。以下、印刷されたばかりの状態とあまり変わりがなく、劣化の度合いが小さい綺麗な紙葉類を非劣化券と呼び、市場に出回って、劣化した紙葉類を劣化券と呼ぶ。
【0005】
前述した統計的学習を行う場合、多数の学習用の紙葉類サンプルを必要とする。また、高精度の識別を行うためには、非劣化券および劣化券の両方を学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させる必要がある。
【0006】
学習用の紙葉類サンプルとして非劣化券のみを用いた場合、非劣化券および劣化券の両方を学習用の紙葉類サンプルとして用いた場合と比べ、紙葉類識別器の識別精度は、著しく下がる。識別精度の著しい低下の理由は、紙葉類が市場に流通する間に、経年劣化および物理的接触などによって、紙葉類の統計的特性が多様化し、紙葉類識別器に学習させた紙葉類の統計的特性と市場に流通した紙葉類(劣化券)の統計的特性とに相違が生じるためである。
【0007】
しかし、従来から、非劣化券を用いて紙葉類識別器を学習させることを可能にしたいというニーズがある。その理由として、第一に、非劣化券は劣化券に比べ収集が容易であり、短期間で収集可能であること。例えば、非劣化券は、紙葉類の印刷所で容易に手に入る。一方、劣化券は市場から回収しなければならず、多数入手するのは困難であり、収集にはコストと時間がかかる。第二に、新しい種類の紙葉類の発行に合わせて紙葉類識別器を学習される場合、非劣化券しか存在しないため、劣化券を入手することは不可能であり、非劣化券のみを学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させなければならない。以下、紙葉類の真贋判定を例に識別精度を説明する。
【0008】
図1は、従来の非劣化券および劣化券を学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させた場合の非類似度値の分布を示した説明図である。
【0009】
横軸は学習用の紙葉類サンプルとの非類似度を表す。非類似度の値が小さいほど、つまり、左側に位置する分布ほど真券(学習用に用いた紙葉類サンプル)に近いと判定され、非類似度の値が大きいほど、つまり、右側に位置する分布ほど偽券に近いと判定される。縦軸は頻度を表し、ある類似度の紙葉類の頻度(数)を表す。
【0010】
非類似度値分布100は、非劣化券および劣化券を学習用の紙葉類サンプルとして用いた場合の非類似度値の分布である。非類似度分布101は、未知の劣化券の非類似度値の分布であり、非類似度値分布100と重なっている。また、非類似度値分布102は偽券の非類似度値の分布であり、非類似度値分布101は、非類似度値分布102と離れている。
【0011】
真贋判定において、非類似度値分布100の右側のすその終端値あたりを真券であるこことを示す閾値とすることによって、紙葉類識別器は、未知の劣化券(非類似度値分布101)を正しく識別できる。
【0012】
図2は、従来の非劣化券のみを学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させた場合の非類似度値の分布を示した説明図である。
【0013】
非類似度値分布200は、非劣化券のみを学習用の紙葉類サンプルとして用いた場合の非類似度値の分布である。非類似度値分布201は未知の劣化券の非類似度値の分布であり、非類似度値分布200と離れている。非類似度値分布202は、偽券の非類似度値の分布であり、非類似度値分布201は非類似度値分布202と隣接している。
【0014】
この場合、真贋判定を行うための閾値を決定することができない。例えば、真券であることを示す閾値を大きめに設定しても、紙葉類識別器は、未知の劣化券(非類似値分布201)を偽券と判定してしまう可能性がある。
【0015】
図3は、従来の真贋判定において、真券であることを示す閾値のマージンを示した説明図である。
【0016】
真贋判定において、紙葉類の劣化に対する耐性を向上させる従来技術は現在のところほとんど知られていない。一般的には、図3にように、学習用の紙葉類サンプルの非類似度値分布300に対し、閾値301に示すように真券であることを示す閾値を決定し、紙葉類の劣化に対する許容度を広げる方法がある。しかし、前述した方法は、マージンの大きさを直感に頼らねばならず、偽券が真券と判定されるなど、紙葉類識別器の信頼性を低下させる。また、図2に示すように、未知の劣化券の非類似度値分布201と偽券の非類似度値分布202とが隣接する場合、前述の方法を用いることができない。
【0017】
紙葉類の劣化に対する耐性を向上させる方法として、文字認識における文字の劣化に対する識別精度を向上させる方法を用いることが考えられる。
【0018】
例えば、学習用の文字データにノイズを加え、ノイズに対して影響を受けないような識別関数を文字認識装置に学習させる方法が考えられる(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、ランダムに画素値「1」を「0」にしたり、画素値「0」を「1」にしたりすることによって、学習用文字データを劣化させている。しかし、特許文献1は、文字画像の読み取り時または印刷時における文字パタンの欠損および損傷を表現することを目的としており、市場に流通することによって劣化する紙葉類に対応するものではない。
【0019】
また、文字の辞書データを部分的に拡大、縮小、または、平行移動を行い、学習用の文字データを生成し、生成された文字データを用いて学習させることによって、文字の劣化に対する識別精度を向上させる方法が考えられる(例えば、特許文献2を参照)。また、辞書データを拡大、縮小、または、ぼかし処理を行い、学習用の文字データを生成し、生成された文字データを用いて学習させることによって、文字の劣化に対する識別精度を向上させる方法が考えられる(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開平10−63789号公報
【特許文献2】特開平07−049927号公報
【特許文献3】特開2006−05935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、前述した従来技術は、いずれも文字の幾何学的変形、および、ぼかしを用いるもので、市場に流通することによって劣化する紙葉類を再現したものではない。
【0021】
本発明は、劣化券が少数しかない場合、または、非劣化券しかない場合、において、多数の劣化券を用いた統計的学習と同等の紙葉類の識別が可能な紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、紙葉類を識別する紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置であって、前記紙葉類識別装置は、紙葉類の画像を入力する画像入力部と、紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定するためのデータを入力する入力部と、劣化した紙葉類の画像である紙葉類劣化画像を生成する紙葉類劣化画像生成部と、を備え、前記紙葉類劣化画像生成部は、前記入力されたデータに基づいて、前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定し、前記決定されたパラメタに基づいて、画素値が非一様な画像を生成し、前記生成された画素値が非一様な画像を、前記画像入力部に入力された紙葉類の画像に加えることによって、前記紙葉類劣化画像を生成し、前記紙葉類劣化画像生成部によって生成された画素値が非一様な画像は、紙葉類の紙面上の空間的な統計特性と、前記画像入力部に入力された複数の劣化した紙葉類の統計特性と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
劣化した紙葉類がない場合、または、劣化した紙葉類が少数ある場合において、高い識別精度を有する紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態は、任意の種類の紙葉類において非劣化券しかない場合、非劣化券に画像処理を行うことによって劣化券に相当する画像が生成され、生成された劣化券に相当する画像を用いて紙葉類識別器を学習させる。これによって、非劣化券および劣化券の両方を学習用の紙葉類サンプルとして用いた場合と同様の識別精度が得られる。画像処理は、具体的には、画素値が非一様な画像を非劣化券の画像に加えることによって、劣化券に相当する画像を生成する。以下、劣化券に相当する画像を紙葉類劣化画像と呼ぶ。また、画素値が非一様な画像をムラ画像と呼び、ムラ画像の画素値の非一様性をムラと呼ぶ。
【0025】
図4は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類のムラ画像を示す説明図である。
【0026】
本発明におけるムラは、目に見える黄ばみ、または汚れなどを指すものではなく、紙葉類にある波長の光を照射し、照射された光の反射光または透過光から得られた画素値を指す。前述の画素値は、例えば、輝度値などである。図4は、画素値が等しい点を結んだムラ画像を示す。劣化した紙葉類にムラが生じる原因としては、手垢、部分的な経年劣化、機械による摩耗、および、部分的に付着した汚れなどが考えられ、紙葉類の劣化の度合いにしたがって、ムラの程度が大きくなる。
【0027】
なお、本発明のムラ画像は、一つの波長から取得する場合に限定されず、複数の異なる波長の光をそれぞれ紙葉類に照射し、複数の画像を取得し、該複数の画像の画素値加えてムラ画像を取得する場合、または、複数の波長を含む光から一枚のムラ画像を取得する場合であってもよい。この場合、画素値としては、輝度値以外に色なども考えられる。
【0028】
図5は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0029】
紙葉類識別装置500は、画像入力部501、テキスト入力部502、画像出力部503、テキスト出力部504、CPU505、主記憶部506、補助記憶部507、および画像表示部508を備える。これらは、バスによって509に接続されている。
【0030】
画像入力部501は、ムラ画像を生成するための紙葉類または識別するための紙葉類を入力する。テキスト入力部502は、生成されるムラ画像のパラメタおよび紙葉類識別器に所定の閾値を設定するためのパラメタを入力する。テキスト入力部502は、例えば、キーボードなどである。なお、生成されるムラ画像のパラメタについては図15を用いて後述する。また、紙葉類識別器に所定の閾値を設定するためのパラメタについては図18を用いて後述する。
【0031】
画像出力部503は、生成された紙葉類劣化画像を出力する。テキスト出力部504は、生成された紙葉類劣化画像を用いて紙葉類識別器を学習させた後の識別精度の結果を出力する。
【0032】
CPU505は、画像処理などの一連の処理を行う。以下、本明細書で説明する処理は、CPU505で行われる。主記憶部506は、入力された紙葉類のデータ、生成されたムラ画像のデータ、および画像処理を行うためのプログラム等を記憶している。主記憶部506は、例えば、HDDまたはフラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体である。補助記憶部507には、主記憶部506が記憶するプログラム等が格納される。補助記憶部507は、例えば、RAMである。CPU505は、補助記憶部507に格納されているプログラムを実行する。
【0033】
以下、本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置について説明する。特に、紙葉類の真贋判定を行う紙葉類識別装置を例に説明する。
【0034】
図6は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置の構成を示すブロック図である。
【0035】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された非劣化券画像600に画像処理を行い紙葉類劣化画像602を生成する。生成された紙葉類劣化画像602は、紙葉類識別器603に出力される。紙葉類識別器603は、入力された紙葉類劣化画像602を用いて、紙葉類識別器603に統計的学習をさせる。これによって、紙葉類識別器603の識別精度が向上し、紙葉類識別器603に所望の閾値(この場合は、真券であることを示す閾値)を決定できる。
【0036】
本実施の形態において、紙葉類劣化画像生成部601は、非劣化券画像600とは異なる複数の種類の紙葉類の劣化券の画像から算出されたムラの空間的な統計特性を記憶しており、算出されたムラの空間的な統計特性を用いてムラ画像を生成する。前述のムラの空間的な統計特性は、紙葉類劣化画像602が生成される前に算出される。算出されたムラの空間的な統計特性は、紙葉類の種類によらず、普遍的な特性である。
【0037】
本実施の形態は、前述のムラの空間的な統計特性を用いることによって、任意の種類の紙葉類において非劣化券しかない場合でも、紙葉類識別器603の識別精度を向上させることができる。以下、劣化券のムラの空間的な統計特性について説明する。
【0038】
図7は、本発明の第1の実施の形態の劣化券のムラの空間的な統計特性を算出する処理を説明するブロック図である。
【0039】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された劣化券画像700にムラ画像抽出処理701を行い、劣化券のムラ画像702を抽出する。入力される劣化券画像700は、非劣化券とは異なる種類の紙葉類であり、かつ、複数枚の画像が入力される。したがって、劣化券のムラ画像702も複数抽出される。なお、ムラ画像抽出処理701は、図8を用いて後述する。
【0040】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、抽出された劣化券のムラ画像702に統計分析処理703を行い、ムラ基底画像704とムラ射影画像705とを算出する。なお、統計分析処理703は、図9を用いて後述する。
【0041】
算出されたムラ基底画像704およびムラ射影画像705が、本実施の形態におけるムラの空間的な統計特性である。
【0042】
紙葉類劣化画像生成部601は、算出されたムラ基底画像704およびムラ射影画像705のデータを保持する。以下、ムラ画像抽出処理701および統計分析処理703について説明する。
【0043】
図8は、本発明の第1の実施の形態のムラ画像抽出処理701を説明するブロック図である。
【0044】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された劣化券画像700の中から一つ基準画像800を選択する。紙葉類劣化画像生成部601は、選択された基準画像800と入力された劣化券画像700との差分を算出する差分処理801を行い、差分画像A802を複数抽出する。差分処理801は、具体的には、選択された基準画像800と劣化券画像700との位置を合わせ、画素ごとに画素値の差を算出する。これによって、紙葉類上に描かれているデザインを除去することができる。
【0045】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された複数の差分画像A802のエッジを除去するエッジ除去処理803を行い、差分画像B804を抽出する。なお、差分画像A802にエッジが生じる原因としては、前述の差分処理801において、選択された基準画像800と劣化券画像700との位置を合わせが不完全であることが考えられる。
【0046】
紙葉類劣化画像生成部601は、抽出された複数の差分画像B804に、変色による紙面全体の輝度変動の除去処理805を行い、ムラ画像702を抽出する。変色による紙面全体の輝度変動の除去処理805は、例えば、一画像内の輝度の平均が0になるように補正する処理、または、紙葉類を経年劣化の程度に基づいて差分画像B804をクラスに分類し、各クラスに分類された差分画像B804と各クラスに分類された差分画像B804が所属しているクラスの平均画像との差分を算出する処理が考えられる。
【0047】
図9は、本発明の第1の実施の形態の統計分析処理703を説明するブロック図である。統計分析処理703は、例えば、主成分分析処理、または独立成分分析処理などが考えられる。
【0048】
ステップ900〜ステップ902までが主成分分析処理を表し、ステップ900〜ステップ904までが独立成分分析処理を表す。
【0049】
はじめに、主成分分析処理について説明する。
【0050】
ステップ900において、統計分析処理703で用いるデータの次元を減らすため、紙葉類劣化画像生成部601は、抽出された劣化券のムラ画像702をサンプリングする。具体的には、劣化券のムラ画像702内の任意の位置の画素を抜き出す。例えば、縦、横それぞれ3ピクセルおきに画素を抜き出す。劣化券のムラ画像702の全画素数が900である場合、サンプリングした後の画素数は100となる。
【0051】
ステップ901において、紙葉類劣化画像生成部601は、抜き出した画素を一列に並べてベクトルとして、共通分散行列を算出する。
【0052】
ステップ902において、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された共通分散行列から固有値および固有ベクトルを算出する。なお、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された固有値および固有ベクトルの全てを後述する処理に用いる必要はなく、予め紙葉類劣化画像生成部601が決定した数だけ、後述する処理に用いる固有値を大きい順に選択し、選択された固有値と、選択された固有値に対応する固有ベクトルとが後述する処理に用いられる。選択された固有値は大きい順に並べられる。以下、算出される固有値の数はN個とする。また、k番目の固有値をλkとし、固有値λkに対応する固有ベクトルをvkとする。なお、kは、1〜Nまでのいずれかの値をとることができる。
【0053】
紙葉類劣化画像生成部601は、√λk×vkを画像形式に並び替える。画像形式とは、画素を一列に並べてベクトルとしたので、vkの各成分は画像上の画素に対応する。画像形式に並び替えられたものをIk[x,y]とし、これをムラ基底画像704とする。以下、ムラ基底画像704をムラ基底画像Ik[x,y]704とも記す。また、紙葉類劣化画像生成部601は、vi/√λiを画像形式に並び替え、並び替えられたものをJk[x,y]とし、これをムラ射影画像705とする。以下、ムラ射影画像705をムラ射影画像Jk[x,y]705とも記す。なお、[x,y]は座標(x,y)を示す添え字であり、例えば、ムラ基底画像Ik[x,y]704は、座標(x,y)の劣化券のムラ基底画像704の画素値を表す。なお、紙葉類の左上を座標の原点とする。
【0054】
ここで、ムラ基底画像Ik[x,y]704とムラ射影画像Jk[x,y]705とは、逆写像の関係にある。
【0055】
次に、独立成分分析処理について説明する。
【0056】
ステップ900〜ステップ901までは主成分分析処理と同様である。
【0057】
ステップ902において、紙葉類劣化画像生成部601は、固有値および固有ベクトルを算出する。なお、算出する固有値および固有ベクトルの数は主成分分析処理と同様にN個である。
【0058】
ステップ903において、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された固有値および固有ベクトルを用いて、サンプリングされた劣化券のムラ画像702を中心化および白色化する。
【0059】
ステップ904において、紙葉類劣化画像生成部601は、中心化および白色化された劣化券のムラ画像702から互いに直交する独立な軸を算出する。互いに直交する独立な軸を算出する方法としては、例えば、fastICAを用いることができる。
【0060】
算出された互いに直交する独立な軸において、i番目の独立な軸をwkとする。また、各行成分がwkである行列をWとする。また、各行成分がvkである行列をVとし、対角成分が√λkである行列をDとする。ここで、行列Wおよび行列Vは直行行列であり、行列Dは対角行列である。
【0061】
独立成分分析処理において、行列の積WDVの各行を画像形式に並び替えて算出されたものをムラ基底画像Ik[x,y]704とする。
【0062】
また、行列の積WD-1Vの各行を画像形式に並び替えて算出されたものをムラ射影画像Jk[x,y]705とする。
【0063】
ここで、ムラ基底画像Ik[x,y]704とムラ射影画像Jk[x,y]705は、
逆写像の関係にある。主成分分析処理によって算出されたムラ基底画像Ik[x,y]704、およびムラ射影画像Jk[x,y]705と、独立成分分析処理によって算出されたムラ基底画像Ik[x,y]704、およびムラ射影画像Jk[x,y]705は、同様の数学的な関係を満たす。
【0064】
本実施の形態において、劣化券のムラ画像702は、数学的なモデルであらわされる。具体的には、劣化券のムラ画像702をH[x,y]とすると、劣化券のムラ画像702は、
(式1)H[x,y]=Σk βk×Ik[x,y]
によってモデル化されている。なお、βkは、後述する劣化券のムラ重み係数1200である(図12B参照)。以下、劣化券のムラ画像702を劣化券のムラ画像H[x,y]702とも記す。また、劣化券のムラ重み係数1200を劣化券のムラ重み係数βk1200とも記す。
【0065】
紙葉類劣化画像生成部601は、前述の処理によって算出されたムラ基底画像Ik[x,y]704、およびムラ射影画像Jk[x,y]705を用いて紙葉類劣化画像602を生成する。以下、具体的な処理について説明する。
【0066】
図10は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類劣化画像生成部601の構成を示す説明図である。
【0067】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された非劣化券画像600から、非劣化券のムラ統計特性算出処理1000を行い、非劣化券のムラ統計特性1001を算出する。なお、非劣化券のムラ統計特性算出処理1000、および非劣化券のムラ統計特性1001は、図11を用いて後述する。
【0068】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、入力された非劣化券画像600、および算出された非劣化券のムラ統計特性1001を用いて、劣化画像処理1002を行い、紙葉類劣化画像602を生成する。なお、劣化画像処理1002については、図13を用いて後述する。
【0069】
図11は、本発明の第1の実施の形態の非劣化券のムラ統計的特性算出処理1000を説明するブロック図である。
【0070】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された非劣化券画像600にムラ画像抽出処理701を行い、非劣化券のムラ画像1100を抽出する。
【0071】
紙葉類劣化画像生成部601は、抽出された非劣化券のムラ画像1100を用いて非劣化券のムラ重み係数算出処理1101を行い、非劣化券のムラ重み係数1102を算出する。
【0072】
ここで、本実施の形態において、前述の劣化券のムラ画像H[x,y]702と同様に、非劣化券のムラ画像1100は、数学的なモデルで表わされる。具体的には、非劣化券のムラ画像1100をHb[x,y]とすると、非劣化券のムラ画像1100は、
(式2)Hb[x,y]=Σk γk×Ik[x,y]
でモデル化されている。なお、γkは、非劣化券のムラ重み係数1102を表す。以下、非劣化券のムラ画像1100を非劣化券のムラ画像Hb[x,y]1100とも記し、非劣化券のムラ重み係数1102を非劣化券のムラ重み係数γk1102とも記す。
【0073】
非劣化券のムラ重み係数γk1102は、具体的には、ムラ画像Hb[x,y]1100とムラ射影画像Jk[x,y]705との内積によって算出される。
【0074】
紙葉類劣化画像生成部601は、算出された非劣化券のムラ重み係数γk1102を用いて非劣化券のムラ統計特性算出処理1103を行い、非劣化券のムラ統計特性1001を算出する。非劣化券のムラ統計特性算出処理1103は、例えば、非劣化券のムラ重み係数γk1102の平均を用いることが考えられる。また、非劣化券のムラ重み係数γk1102の平均以外に高次モーメントを用いることも考えられる。算出された非劣化券のムラ統計特性1001をmkと記し、以下、非劣化券のムラ統計特性1001を非劣化券のムラ統計特性mk1001とも記す。
【0075】
図12Aは、本発明の第1の実施の形態の非劣化券のムラ画像1100、非劣化券のムラ重み係数1102、ムラ基底画像704、ムラ射影画像705の数学的な関係を示す説明図である。
【0076】
(式2)に示すように、ムラ基底画像704と非劣化券のムラ重み係数1102との線形和によって、非劣化券のムラ画像1100が算出される。また、非劣化券のムラ画像1100とムラ射影画像705との内積によって、ムラ重み係数1102が算出される。
【0077】
図12Bは、本発明の第1の実施の形態の劣化券のムラ画像702、劣化券のムラ重み係数1200、ムラ基底画像704、ムラ射影画像705の数学的な関係を示す説明図である。
【0078】
図12Bに示すように、劣化券についても非劣化券と同様の数学的関係を満たす。
【0079】
図13は、本発明の第1の実施の形態の劣化画像処理1002を説明するブロック図である。
【0080】
紙葉類劣化画像生成部601は、劣化度補助入力1300、および紙葉類劣化画像適用事例データベース1302を用いて、劣化度パラメタ決定処理1301を行い。劣化度パラメタ1400(図14参照)を算出する。劣化度パラメタ1400は、紙葉類劣化画像602を生成するときに用いるパラメタであり、劣化度合いを具体化した量である。劣化度を指定するパラメタがn個あった場合、劣化度パラメタ1400は、n次元のベクトルとなる。以下、劣化度パラメタ1400、紙葉類劣化画像適用事例データベース、および劣化度パラメタ決定処理1301について説明する。
【0081】
図14は、本発明の第1の実施の形態の劣化度パラメタ1400の構成例を示す説明図である。
【0082】
図14に示すように、劣化度パラメタ1400は、6次元ベクトルである。劣化度パラメタ1400の具体的な成分は、紙面全体の黄ばみの度合いを表すパラメタ1401、紙面全体の黒ずみの度合いを表すパラメタ1402、ムラの程度を表すパラメタ1403、しみの度合いを表すパラメタ1404、落書きの度合いを表すパラメタ1405、および、破れまたは紙面上にあいた穴の度合いを表すパラメタ1406である。なお、劣化度パラメタ1400は、前述の形式に限定されない。また、6次元以上、または6次元以下の場合もありうる。
【0083】
図15は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類劣化画像適用事例データベース1302の一例を示す説明図である。
【0084】
紙葉類劣化画像適用事例データベース1302は、劣化度パラメタ1400が決定される以前に紙葉類劣化画像生成部601が生成した紙葉類劣化画像602に関するデータを格納している。具体的には、紙葉類劣化画像適用事例データベース1302には、紙葉類の種類1500、劣化度パラメタ1501、評価値1502、画像データ1503、および紙葉類の特徴1504が格納される。
【0085】
紙葉類の種類1500は、紙葉類劣化画像602を生成するときに入力された紙葉類の種類を格納する。劣化度パラメタ1501は、紙葉類劣化画像602を生成するときに用いた劣化度パラメタ1400を格納する。評価値1502は、生成された紙葉類劣化画像602を紙葉類識別器603に学習させたときの識別精度を格納する。例えば、学習させた紙葉類の非類似度分布のグラフと実際に識別された紙葉類の非類似度分布のグラフとの重なり程度を表す。学習させた紙葉類の非類似度分布のグラフが、実際に識別された紙葉類の非類似度分布のグラフと重なっているほど識別精度が高いことを示す。画像データ1503は、紙葉類劣化画像602を生成するときに入力された紙葉類の画像データを格納する。紙葉類の特徴1504は、紙葉類が使用されている国・地域、紙葉類全体の色、紙質、およびインクの種類を格納する。
【0086】
図16は、本発明の第1の実施の形態の劣化度パラメタ決定処理1301を示すフローチャートである。
【0087】
紙葉類劣化画像生成部601は、劣化度パラメタ1400の入力方法について判定する(1600)。具体的には、紙葉類劣化画像生成部601は、劣化度パラメタ1400が直接入力されたか、紙葉類の画像が入力されたか、または、紙葉類の特徴が入力されたかを判定する。なお、紙葉類の特徴は図15の紙葉類の特徴1504と同様のデータである。なお、紙葉類の画像は、テキスト入力部502から入力されてもよいし、または、画像入力部501から入力されてもよい。
【0088】
劣化度パラメタ1400が直接入力されたと判定された場合(1601)、紙葉類劣化画像生成部601は、入力された劣化度パラメタ1400を劣化券画像を生成するときに使用する劣化度パラメタ1400に決定する(1602)。
【0089】
紙葉類の画像が入力されたと判定された場合(1603)、紙葉類劣化画像生成部601は、入力された紙葉類の画像から画像データを抽出し、抽出された画像データと紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納される画像データとの差分を算出する(1604)。次に、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された差分の値が小さいデータの中から値を決定する(1605)。
【0090】
算出された差分の値が小さいデータの中から劣化度パラメタ1400を決定する場合、例えば、差分の値で紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納されているデータを並び替え、紙葉類識別装置を操作している人に提示し、紙葉類識別装置を操作している人が提示されたデータから劣化度パラメタ1400を決定する方法が考えられる。また、例えば、評価値1502と、抽出された画像データと紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納される画像データとの差分値の値が、最も大きいデータを劣化度パラメタ1400に決定する方法も考えられる。
【0091】
紙葉類の特徴が入力されたと判定された場合(1606)、紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納される紙葉類の特徴を参照し、入力された紙葉類の特徴と一致するデータを検索する(1607)。
【0092】
紙葉類劣化画像生成部601は、検索されたデータの中から評価値が最も大きいデータを劣化度パラメタ1400に決定する(1608)。
【0093】
図13の説明に戻る。
【0094】
紙葉類劣化画像生成部601は、非劣化券画像600および算出された劣化度パラメタ1400とに基づいて、紙葉類劣化画像602を生成する。
【0095】
まず、紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類の紙面全体の輝度を変化させる、輝度変動生成処理1303を行う。具体的には、紙葉類の紙面全体の黄ばみ度合いを表すパラメタ1401、および紙葉類の紙面全体の黒ずみの度合いを表すパラメタ1402に基づいて画素値を変化させる。例えば、
(式3)v+Y×p1+B×p2
に示すように画素値を変化させる。ただし、vは各画素の画素値を表し、Yは黄ばみによる輝度変動の変位量を表し、Bは黒ずみによる輝度変動の変位量を表す。また、p1は黄ばみの度合いを表すパラメタ1401であり、p2は黒ずみの度合いを表すパラメタ1402である。YおよびBはアルゴリズムに固有の値であり、紙葉類劣化画像生成部601に最初から設定されている。例えば、Yが10、Bが−5と設定されている場合、p1が+1変化すると画素値が+10変化し、また、p2が+1変化すると画素値が−5変化する。
【0096】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、ムラ基底画像Ik[x,y]704、ムラ射影画像Jk[x,y]705、および非劣化券のムラ統計特性mk1001を用いて、ムラ生成処理1304を行う。具体的には、紙葉類劣化画像生成部601は、劣化券のムラ重み係数βk1200を算出し、算出された劣化券のムラ重み係数βk1200とムラ基底画像Ik[x,y]704を(式1)に代入し劣化券のムラ画像H[x,y]702を生成する。なお、ムラ生成処理1304については、図17を用いて後述する。
【0097】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、非劣化券画像I[x,y]600と劣化券のムラ画像H[x,y]702の和により、ムラを生成する。
【0098】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、局所的な損傷・汚れ生成処理1305を行う。
【0099】
紙葉類の紙面上に局所的な損傷を生成する方法としては、例えば、紙葉類劣化画像生成部601は、物理的な損傷(破れまたは紙面上にあいた穴など)を決定し、破れまたは紙面上にあいた穴の度合いを表すパラメタ1406にしたがって、物理的な損傷の度合いの確率分布を算出し、算出された物理的な損傷の度合いの確率分布に基づいて紙葉類に局所的な損傷を生成する方法が考えられる。
【0100】
また、紙葉類の紙面上に汚れを生成する方法としては、例えば、紙葉類劣化画像生成部601は、紙面全体の黄ばみの度合いを表すパラメタ1401、紙面全体の黒ずみの度合いを表すパラメタ1402、および、しみの度合いを表すパラメタ1404にしたがって、汚れの度合いの確率分布を算出し、算出された汚れの度合いの確率分布に基づいて、紙葉類に汚れを生成する方法が考えられる。
【0101】
以上の処理によって生成された紙葉類劣化画像602は紙葉類識別器603に出力される。
【0102】
図17は、本発明の第1の実施の形態のムラ生成処理1304を示すフローチャートである。
【0103】
ステップ1700〜ステップ1703は、ループ処理になっており、k=1からk=Nまで同様の処理が行われる。
【0104】
紙葉類劣化画像生成部601は、図8により説明した方法によって、入力された非劣化券のムラ画像Hb[x,y]702を算出する(1700)。次に、紙葉類劣化画像生成部601は、前述の方法を用いて非劣化券のムラ重み係数γkを算出する(1701)。
【0105】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、非劣化券のムラ統計特性mk1001を用いて、非劣化券のムラ重み係数γk1102の確率分布Pk(βk|γk、r)を決定する(1702)。ここで、rは、ムラの程度を表すパラメタ1403を表す。確率分布Pk(βk|γk、r)は、例えば、ムラ重み係数γk1102と非劣化券のムラ統計特性mk1001の差と、ムラの程度rとの積を平均とする正規分布とする。
【0106】
紙葉類劣化画像生成部601は、決定された確率分布Pk(βk|γk、r)にしたがって、劣化券のムラ重み係数βk1200を算出する(1703)。
【0107】
前述のループ処理を終了した紙葉類劣化画像生成部601は、算出された劣化券のムラ重み係数βk1200を用いて、ムラを生成する(1704)。具体的には、(式1)にしたがって劣化券のムラ画像H[x,y]702が生成される。
【0108】
以上の処理によって、紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類劣化画像602を生成することができる。生成された紙葉類劣化画像602を用いて、紙葉類識別器603を学習させることによって、非劣化券と劣化券との両方を用いて学習させた場合と同様の識別精度が得られる。
【0109】
次に、学習させた紙葉類識別器603の閾値の決定方法について説明する。
【0110】
図18は、本発明の第1の実施の形態の閾値の決定方法の一例を示した説明図である。
【0111】
分布1800は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度分布である。分布1801は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類を生成するときに用いた劣化度パラメタ1400と同一のパラメタを用いて生成された紙葉類劣化画像602の非類似度分布である。分布1802は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類を生成するときの用いた劣化度パラメタ1400よりも大きな値の劣化度パラメタ1400を用いて生成した紙葉類劣化画像602の非類似度分布である。分布1803は、落書きを多く発生された紙葉類劣化画像602の非類似度分布である。
【0112】
例えば、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の画像と同程度の劣化までを許容する場合、紙葉類識別器603は、閾値を閾値1804に決定する。紙葉類識別器603に学習させた紙葉類より少し劣化の程度が大きい紙葉類も許容する場合、紙葉類識別器603は、閾値を閾値1805に決定する。落書きが多い紙葉類を除去したい場合、紙葉類識別器603は、閾値を閾値1806に決定する。また、紙葉類識別器603は、局所的な汚れおよび損傷がある紙葉類を許容するように閾値を決定することもできる。
【0113】
また、図18に示す非類似度分布のグラフを用いて紙葉類識別器603の識別精度を評価することができる。
【0114】
第1の実施の形態によれば、入力される非劣化券のムラ重み係数γk1102から劣化券のムラ重み係数βk1200を算出し、算出された劣化券のムラ重み係数βk1200とムラ基底画像Ik[x、y]とを用いてムラ画像を生成し、劣化券のムラ画像H[x,y]702を生成し、入力された非劣化券画像600に劣化券のムラ画像H[x,y]702を足し合わせることによって、ムラを生成し、紙葉類劣化画像602を生成する。入力される非劣化券のムラ重み係数γk1102と確率分布Pk(βk|γk、r)とを用いて劣化券のムラ重み係数βk1200を算出することによって、劣化券の統計特性と入力される非劣化券の統計特性とが反映され、より所望の劣化券に近い紙葉類劣化画像602が生成される。
【0115】
また、生成された紙葉類劣化画像602を用いて紙葉類識別器603に学習させることによって、劣化券と非劣化券との両方を用いて学習させた場合と同程度の識別精度を実現できる。
【0116】
[第2の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態では、識別する紙葉類の劣化券がない場合について説明した。本発明の第2の実施の形態では、識別する紙葉類の劣化券(以下、劣化券Aと記す。)が数枚だけある場合について説明する。この場合、劣化度パラメタ決定処理1301が異なる。なお、装置構成および他の処理は、第1の実施の形態と同一である。以下、劣化度パラメタ決定処理1301の決定方法について説明する。
【0117】
図19は、本発明の第2の実施の形態の劣化度パラメタ決定処理1301のフローチャートを示す図である。ステップ1900から1904まではループ処理になっており、事前に指定された回数(この場合は、T回)だけ同様の処理を行う。
【0118】
まず、紙葉類劣化画像生成部601は、ランダムに劣化度パラメタ1400を決定し(1900)、決定された劣化度パラメタ1400にしたがって、紙葉類劣化画像602を生成する(1901)。なお、紙葉類劣化画像602は、第1の実施の形態と同様の処理を行って生成する。
【0119】
紙葉類劣化画像生成部601は、生成された紙葉類劣化画像602を用いて紙葉類識別器603に学習させたときの非類似度の分布を算出し、また、劣化券Aの非類似度の分布を算出する(1902)。
【0120】
図20は、本発明の第2の実施の形態の非類似度の分布を示す説明図である。
【0121】
分布2000は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布であり、分布2001は、劣化券Aの非類似度の分布である。以下、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000と記し、劣化券Aの非類似度の分布2001と記す。
【0122】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000が、劣化券Aの非類似度の分布2001に含まれるか否かを判定する(1903)。つまり、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000が劣化券Aの非類似度の分布2001と重なっているか否かを判定する。
【0123】
紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000が、劣化券Aの非類似度の分布2001に含まれると判定された場合、紙葉類劣化画像生成部601は、ステップ1900で決定した劣化度パラメタ1400を劣化度パラメタの採用候補リストに追加する(1904)。なお、劣化度パラメタの候補リストは、紙葉類劣化画像生成部601に保持される。
【0124】
紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000が、劣化券Aの非類似度の分布2001に含まれないと判定された場合、紙葉類劣化画像生成部601は、ステップ1900で決定した劣化度パラメタ1400を劣化度パラメタの候補リストに追加しない。
【0125】
ステップ1900からステップ1905までのループ処理が終了したら、紙葉類劣化画像生成部601は、劣化度パラメタの候補リストのノルム値を算出し、算出されたノルム値が小さいものを劣化度パラメタ1400に決定する(1905)。
【0126】
本発明の第2の実施の形態によれば、収集された劣化券が少数の場合であっても、紙葉類識別器603の識別精度を向上させることができる。
【0127】
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態は、GUIを用いて劣化度パラメタ1400を決定する。
【0128】
本発明の第3の実施の形態の装置構成は、本発明の第1の実施の形態と同一の構成である。
【0129】
図21は、本発明の第3の実施の形態のGUIを用いた劣化度パラメタ1400の決定方法を示す説明図である。
【0130】
本発明の第3の実施の形態の画像出力部503は、図21に示すようなGUI画面2100である。図21に示すように、GUI画面2100には、識別紙葉類2101、紙葉類A2102、紙葉類B2103、紙葉類C2104、紙葉類D2105、紙葉類E2106、および紙葉類F2107が表示される。
【0131】
識別紙葉類2101は、実際に識別する紙葉類の画像である。紙葉類A2102、紙葉類B2103、紙葉類C2104、紙葉類D2105、紙葉類E2106、および紙葉類F2107は、紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納されたデータであり、GUI画面2100には、識別紙葉類2101との類似度が高い順に紙葉類A2102から紙葉類F2107が表示される。画像の類似度は、例えば、HLACを用い、画像の特徴量を算出し、ユークリッド距離によって類似度を算出する。認識対象となる紙葉類の画像である。2101〜2106は過去に本発明の紙葉類劣化画像生成装置を適用した紙葉類の画像である。2101〜2106の各画像の下には、画像に対応する紙葉類劣化画像生成装置適用事例データベース内の例えば図14に示すようなデータである。2101〜2106の画像は2101の画像に対する類似度が高い順に表示される。
【0132】
紙葉類識別装置500を操作する人が、GUI画面2100に表示されている紙葉類A2102から紙葉類F2107にいずれかを選択することによって、選択された紙葉類の劣化度パラメタ1400を実際に使用する劣化度パラメタ1400に決定する。
【0133】
本発明の第3の実施によれば、劣化度パラメタ1400を数値で表示するよりも直観的に劣化度パラメタ1400を確認し、所望の劣化度を再現する劣化度パラメタ1400を決定することができる。
【0134】
[第4の実施の形態]
本発明の第4の実施は、紙葉類識別装置500を備える紙葉類自動取引装置(ATM)において、紙葉類自動取引装置のメンテナンス担当の係員が紙葉類自動取引装置が設置されている現地で紙葉類を入力して識別精度を確認しながら劣化度パラメタ1400を決定する。なお、入力される紙葉類は、現地で入手した紙葉類である。
【0135】
図22は、本発明の第4の実施の形態の自動取引装置の構成を示すブロック図である。
【0136】
紙葉類自動取引装置2200は、紙葉類入力部2201、画像抽出部2202、入力部2203、表示部2204、記憶部2205、紙葉類劣化画像生成部601、および紙葉類識別器603を備える。
【0137】
紙葉類入力部2201は、紙葉類劣化画像602を生成するために使用する紙葉類または識別させる紙葉類を入力する。画像抽出部2202は、紙葉類入力部2201に入力された紙葉類の画像を抽出する。入力部2203は、劣化度パラメタ1400を決定するための補助入力をする、タッチパネル、またはキーボードなどである。表示部2204は、紙葉類劣化画像602などを表示するディスプレイなどである。記憶部2205は、識別対象の紙葉類の非劣化券画像600などを記憶するHDDなどである。紙葉類劣化画像生成部601、および紙葉類識別器603は、第1の実施の形態と同様のものである。
【0138】
まず、入力部2203から入力された補助入力と記憶部2205に記憶されている識別対象の紙葉類の非劣化券画像600とが紙葉類劣化画像生成部601に出力され、紙葉類劣化画像生成部601は紙葉類劣化画像602を生成する。紙葉類自動取引装置2200は、生成された紙葉類劣化画像602を用いて、紙葉類識別器603に学習させる。学習が終了すると、表示部2204が学習が終了したことを示す内容をメンテナンス担当者に表示する。
【0139】
学習が終了したことを確認したメンテナンス担当者は、現地で入手した劣化券を紙葉類自動取引装置2200の紙葉類入力部2201に入力する。入力された劣化券のデータは画像抽出部2202に入力され、劣化券の画像データが抽出される。
【0140】
抽出された画像データは、紙葉類識別器603に入力され、紙葉類の識別がされる。紙葉類の識別結果は、識別精度として表示部2204に表示される。
【0141】
メンテナンス担当者は表示部2204に表示される識別結果を確認し、所望の識別精度になるように入力部2203に劣化度パラメタを補助するデータを入力する。改めて入力されたデータに基づいて紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類劣化画像602を生成し、生成された紙葉類劣化画像602を用いて紙葉類識別器603に学習させる。
【0142】
メンテナンス担当者は、再度、紙葉類の識別をさせ、識別精度を確認する。以後、所望の識別精度が得られるまで、メンテナンス担当の係員は同様の処理を繰り返す。
【0143】
本発明の第4の実施の形態によれば、現地で入手した紙葉類を用いて紙葉類識別器603の識別精度をすることによって、各自動取引装置それぞれに適切な学習を行わせ、所望の識別精度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】従来の非劣化券および劣化券を学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させた場合の非類似度値の分布を示した説明図である。
【図2】従来の非劣化券のみを学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させた場合の非類似度値の分布を示した説明図である。
【図3】従来の真贋判定において、真券であることを示す閾値のマージンを示した説明図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の紙葉類のムラ画像を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態の劣化券のムラの空間的な統計特性を算出する処理を説明するブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態のムラ画像抽出処理を説明するブロック図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態の統計分析処理を説明するブロック図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態の紙葉類劣化画像生成部の構成を示す説明図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態の非劣化券のムラ統計的特性算出処理を説明するブロック図である。
【図12A】本発明の第1の実施の形態の非劣化券のムラ画像、非劣化券のムラ重み係数、ムラ基底画像、ムラ射影画像の数学的な関係を示す説明図である。
【図12B】本発明の第1の実施の形態の劣化券のムラ画像、劣化券のムラ重み係数、ムラ基底画像、ムラ射影画像の数学的な関係を示す説明図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態の劣化画像処理を説明するブロック図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態の劣化度パラメタの構成例を示す説明図である。
【図15】本発明の第1の実施の形態の紙葉類劣化画像適用事例データベースの一例を示す説明図である。
【図16】本発明の第1の実施の形態の劣化度パラメタ決定処理を示すフローチャートである。
【図17】本発明の第1の実施の形態のムラ生成処理を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第1の実施の形態の閾値の決定方法の一例を示した説明図である。
【図19】本発明の第2の実施の形態の劣化度パラメタ決定処理のフローチャートを示す図である。
【図20】本発明の第2の実施の形態の非類似度の分布を示す説明図である。
【図21】本発明の第3の実施の系他のGUIを用いた劣化度パラメタの決定方法を示す説明図である。
【図22】本発明の第4の実施の形態の自動取引装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0145】
501 画像入力部
502 テキスト入力部
503 画像出力部
504 テキスト出力部
505 CPU
506 主記憶部
507 補助記憶部
508 画像表示部
509 バス
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類識別装置に関し、特に、劣化のない紙葉類から生成された画像データを用いて紙葉類識別器を学習させる紙葉類識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行の自動預金預け払い機(ATM)などの紙葉類自動取引装置は、紙葉類を識別する紙葉類識別器を備えており、紙葉類自動取引装置に挿入された紙葉類の種類および真贋などを紙葉類識別器が判定する。
【0003】
紙葉類識別器に紙葉類を学習させる手法として、統計的学習がある。統計的学習は、紙葉類の紙面上の複数の位置から画素値の統計的特性(以下、統計的特性と記す。)を抽出し、紙葉類識別器に抽出された統計的特性を学習させる。
【0004】
紙葉類識別器は、紙葉類自動取引装置に挿入された紙葉類の紙面上の複数の位置から統計的特性を抽出し、抽出された統計的特性と学習した統計的特性とを比較することによって紙葉類を識別する。以下、印刷されたばかりの状態とあまり変わりがなく、劣化の度合いが小さい綺麗な紙葉類を非劣化券と呼び、市場に出回って、劣化した紙葉類を劣化券と呼ぶ。
【0005】
前述した統計的学習を行う場合、多数の学習用の紙葉類サンプルを必要とする。また、高精度の識別を行うためには、非劣化券および劣化券の両方を学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させる必要がある。
【0006】
学習用の紙葉類サンプルとして非劣化券のみを用いた場合、非劣化券および劣化券の両方を学習用の紙葉類サンプルとして用いた場合と比べ、紙葉類識別器の識別精度は、著しく下がる。識別精度の著しい低下の理由は、紙葉類が市場に流通する間に、経年劣化および物理的接触などによって、紙葉類の統計的特性が多様化し、紙葉類識別器に学習させた紙葉類の統計的特性と市場に流通した紙葉類(劣化券)の統計的特性とに相違が生じるためである。
【0007】
しかし、従来から、非劣化券を用いて紙葉類識別器を学習させることを可能にしたいというニーズがある。その理由として、第一に、非劣化券は劣化券に比べ収集が容易であり、短期間で収集可能であること。例えば、非劣化券は、紙葉類の印刷所で容易に手に入る。一方、劣化券は市場から回収しなければならず、多数入手するのは困難であり、収集にはコストと時間がかかる。第二に、新しい種類の紙葉類の発行に合わせて紙葉類識別器を学習される場合、非劣化券しか存在しないため、劣化券を入手することは不可能であり、非劣化券のみを学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させなければならない。以下、紙葉類の真贋判定を例に識別精度を説明する。
【0008】
図1は、従来の非劣化券および劣化券を学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させた場合の非類似度値の分布を示した説明図である。
【0009】
横軸は学習用の紙葉類サンプルとの非類似度を表す。非類似度の値が小さいほど、つまり、左側に位置する分布ほど真券(学習用に用いた紙葉類サンプル)に近いと判定され、非類似度の値が大きいほど、つまり、右側に位置する分布ほど偽券に近いと判定される。縦軸は頻度を表し、ある類似度の紙葉類の頻度(数)を表す。
【0010】
非類似度値分布100は、非劣化券および劣化券を学習用の紙葉類サンプルとして用いた場合の非類似度値の分布である。非類似度分布101は、未知の劣化券の非類似度値の分布であり、非類似度値分布100と重なっている。また、非類似度値分布102は偽券の非類似度値の分布であり、非類似度値分布101は、非類似度値分布102と離れている。
【0011】
真贋判定において、非類似度値分布100の右側のすその終端値あたりを真券であるこことを示す閾値とすることによって、紙葉類識別器は、未知の劣化券(非類似度値分布101)を正しく識別できる。
【0012】
図2は、従来の非劣化券のみを学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させた場合の非類似度値の分布を示した説明図である。
【0013】
非類似度値分布200は、非劣化券のみを学習用の紙葉類サンプルとして用いた場合の非類似度値の分布である。非類似度値分布201は未知の劣化券の非類似度値の分布であり、非類似度値分布200と離れている。非類似度値分布202は、偽券の非類似度値の分布であり、非類似度値分布201は非類似度値分布202と隣接している。
【0014】
この場合、真贋判定を行うための閾値を決定することができない。例えば、真券であることを示す閾値を大きめに設定しても、紙葉類識別器は、未知の劣化券(非類似値分布201)を偽券と判定してしまう可能性がある。
【0015】
図3は、従来の真贋判定において、真券であることを示す閾値のマージンを示した説明図である。
【0016】
真贋判定において、紙葉類の劣化に対する耐性を向上させる従来技術は現在のところほとんど知られていない。一般的には、図3にように、学習用の紙葉類サンプルの非類似度値分布300に対し、閾値301に示すように真券であることを示す閾値を決定し、紙葉類の劣化に対する許容度を広げる方法がある。しかし、前述した方法は、マージンの大きさを直感に頼らねばならず、偽券が真券と判定されるなど、紙葉類識別器の信頼性を低下させる。また、図2に示すように、未知の劣化券の非類似度値分布201と偽券の非類似度値分布202とが隣接する場合、前述の方法を用いることができない。
【0017】
紙葉類の劣化に対する耐性を向上させる方法として、文字認識における文字の劣化に対する識別精度を向上させる方法を用いることが考えられる。
【0018】
例えば、学習用の文字データにノイズを加え、ノイズに対して影響を受けないような識別関数を文字認識装置に学習させる方法が考えられる(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、ランダムに画素値「1」を「0」にしたり、画素値「0」を「1」にしたりすることによって、学習用文字データを劣化させている。しかし、特許文献1は、文字画像の読み取り時または印刷時における文字パタンの欠損および損傷を表現することを目的としており、市場に流通することによって劣化する紙葉類に対応するものではない。
【0019】
また、文字の辞書データを部分的に拡大、縮小、または、平行移動を行い、学習用の文字データを生成し、生成された文字データを用いて学習させることによって、文字の劣化に対する識別精度を向上させる方法が考えられる(例えば、特許文献2を参照)。また、辞書データを拡大、縮小、または、ぼかし処理を行い、学習用の文字データを生成し、生成された文字データを用いて学習させることによって、文字の劣化に対する識別精度を向上させる方法が考えられる(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開平10−63789号公報
【特許文献2】特開平07−049927号公報
【特許文献3】特開2006−05935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、前述した従来技術は、いずれも文字の幾何学的変形、および、ぼかしを用いるもので、市場に流通することによって劣化する紙葉類を再現したものではない。
【0021】
本発明は、劣化券が少数しかない場合、または、非劣化券しかない場合、において、多数の劣化券を用いた統計的学習と同等の紙葉類の識別が可能な紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、紙葉類を識別する紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置であって、前記紙葉類識別装置は、紙葉類の画像を入力する画像入力部と、紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定するためのデータを入力する入力部と、劣化した紙葉類の画像である紙葉類劣化画像を生成する紙葉類劣化画像生成部と、を備え、前記紙葉類劣化画像生成部は、前記入力されたデータに基づいて、前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定し、前記決定されたパラメタに基づいて、画素値が非一様な画像を生成し、前記生成された画素値が非一様な画像を、前記画像入力部に入力された紙葉類の画像に加えることによって、前記紙葉類劣化画像を生成し、前記紙葉類劣化画像生成部によって生成された画素値が非一様な画像は、紙葉類の紙面上の空間的な統計特性と、前記画像入力部に入力された複数の劣化した紙葉類の統計特性と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
劣化した紙葉類がない場合、または、劣化した紙葉類が少数ある場合において、高い識別精度を有する紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態は、任意の種類の紙葉類において非劣化券しかない場合、非劣化券に画像処理を行うことによって劣化券に相当する画像が生成され、生成された劣化券に相当する画像を用いて紙葉類識別器を学習させる。これによって、非劣化券および劣化券の両方を学習用の紙葉類サンプルとして用いた場合と同様の識別精度が得られる。画像処理は、具体的には、画素値が非一様な画像を非劣化券の画像に加えることによって、劣化券に相当する画像を生成する。以下、劣化券に相当する画像を紙葉類劣化画像と呼ぶ。また、画素値が非一様な画像をムラ画像と呼び、ムラ画像の画素値の非一様性をムラと呼ぶ。
【0025】
図4は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類のムラ画像を示す説明図である。
【0026】
本発明におけるムラは、目に見える黄ばみ、または汚れなどを指すものではなく、紙葉類にある波長の光を照射し、照射された光の反射光または透過光から得られた画素値を指す。前述の画素値は、例えば、輝度値などである。図4は、画素値が等しい点を結んだムラ画像を示す。劣化した紙葉類にムラが生じる原因としては、手垢、部分的な経年劣化、機械による摩耗、および、部分的に付着した汚れなどが考えられ、紙葉類の劣化の度合いにしたがって、ムラの程度が大きくなる。
【0027】
なお、本発明のムラ画像は、一つの波長から取得する場合に限定されず、複数の異なる波長の光をそれぞれ紙葉類に照射し、複数の画像を取得し、該複数の画像の画素値加えてムラ画像を取得する場合、または、複数の波長を含む光から一枚のムラ画像を取得する場合であってもよい。この場合、画素値としては、輝度値以外に色なども考えられる。
【0028】
図5は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0029】
紙葉類識別装置500は、画像入力部501、テキスト入力部502、画像出力部503、テキスト出力部504、CPU505、主記憶部506、補助記憶部507、および画像表示部508を備える。これらは、バスによって509に接続されている。
【0030】
画像入力部501は、ムラ画像を生成するための紙葉類または識別するための紙葉類を入力する。テキスト入力部502は、生成されるムラ画像のパラメタおよび紙葉類識別器に所定の閾値を設定するためのパラメタを入力する。テキスト入力部502は、例えば、キーボードなどである。なお、生成されるムラ画像のパラメタについては図15を用いて後述する。また、紙葉類識別器に所定の閾値を設定するためのパラメタについては図18を用いて後述する。
【0031】
画像出力部503は、生成された紙葉類劣化画像を出力する。テキスト出力部504は、生成された紙葉類劣化画像を用いて紙葉類識別器を学習させた後の識別精度の結果を出力する。
【0032】
CPU505は、画像処理などの一連の処理を行う。以下、本明細書で説明する処理は、CPU505で行われる。主記憶部506は、入力された紙葉類のデータ、生成されたムラ画像のデータ、および画像処理を行うためのプログラム等を記憶している。主記憶部506は、例えば、HDDまたはフラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体である。補助記憶部507には、主記憶部506が記憶するプログラム等が格納される。補助記憶部507は、例えば、RAMである。CPU505は、補助記憶部507に格納されているプログラムを実行する。
【0033】
以下、本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置について説明する。特に、紙葉類の真贋判定を行う紙葉類識別装置を例に説明する。
【0034】
図6は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置の構成を示すブロック図である。
【0035】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された非劣化券画像600に画像処理を行い紙葉類劣化画像602を生成する。生成された紙葉類劣化画像602は、紙葉類識別器603に出力される。紙葉類識別器603は、入力された紙葉類劣化画像602を用いて、紙葉類識別器603に統計的学習をさせる。これによって、紙葉類識別器603の識別精度が向上し、紙葉類識別器603に所望の閾値(この場合は、真券であることを示す閾値)を決定できる。
【0036】
本実施の形態において、紙葉類劣化画像生成部601は、非劣化券画像600とは異なる複数の種類の紙葉類の劣化券の画像から算出されたムラの空間的な統計特性を記憶しており、算出されたムラの空間的な統計特性を用いてムラ画像を生成する。前述のムラの空間的な統計特性は、紙葉類劣化画像602が生成される前に算出される。算出されたムラの空間的な統計特性は、紙葉類の種類によらず、普遍的な特性である。
【0037】
本実施の形態は、前述のムラの空間的な統計特性を用いることによって、任意の種類の紙葉類において非劣化券しかない場合でも、紙葉類識別器603の識別精度を向上させることができる。以下、劣化券のムラの空間的な統計特性について説明する。
【0038】
図7は、本発明の第1の実施の形態の劣化券のムラの空間的な統計特性を算出する処理を説明するブロック図である。
【0039】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された劣化券画像700にムラ画像抽出処理701を行い、劣化券のムラ画像702を抽出する。入力される劣化券画像700は、非劣化券とは異なる種類の紙葉類であり、かつ、複数枚の画像が入力される。したがって、劣化券のムラ画像702も複数抽出される。なお、ムラ画像抽出処理701は、図8を用いて後述する。
【0040】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、抽出された劣化券のムラ画像702に統計分析処理703を行い、ムラ基底画像704とムラ射影画像705とを算出する。なお、統計分析処理703は、図9を用いて後述する。
【0041】
算出されたムラ基底画像704およびムラ射影画像705が、本実施の形態におけるムラの空間的な統計特性である。
【0042】
紙葉類劣化画像生成部601は、算出されたムラ基底画像704およびムラ射影画像705のデータを保持する。以下、ムラ画像抽出処理701および統計分析処理703について説明する。
【0043】
図8は、本発明の第1の実施の形態のムラ画像抽出処理701を説明するブロック図である。
【0044】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された劣化券画像700の中から一つ基準画像800を選択する。紙葉類劣化画像生成部601は、選択された基準画像800と入力された劣化券画像700との差分を算出する差分処理801を行い、差分画像A802を複数抽出する。差分処理801は、具体的には、選択された基準画像800と劣化券画像700との位置を合わせ、画素ごとに画素値の差を算出する。これによって、紙葉類上に描かれているデザインを除去することができる。
【0045】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された複数の差分画像A802のエッジを除去するエッジ除去処理803を行い、差分画像B804を抽出する。なお、差分画像A802にエッジが生じる原因としては、前述の差分処理801において、選択された基準画像800と劣化券画像700との位置を合わせが不完全であることが考えられる。
【0046】
紙葉類劣化画像生成部601は、抽出された複数の差分画像B804に、変色による紙面全体の輝度変動の除去処理805を行い、ムラ画像702を抽出する。変色による紙面全体の輝度変動の除去処理805は、例えば、一画像内の輝度の平均が0になるように補正する処理、または、紙葉類を経年劣化の程度に基づいて差分画像B804をクラスに分類し、各クラスに分類された差分画像B804と各クラスに分類された差分画像B804が所属しているクラスの平均画像との差分を算出する処理が考えられる。
【0047】
図9は、本発明の第1の実施の形態の統計分析処理703を説明するブロック図である。統計分析処理703は、例えば、主成分分析処理、または独立成分分析処理などが考えられる。
【0048】
ステップ900〜ステップ902までが主成分分析処理を表し、ステップ900〜ステップ904までが独立成分分析処理を表す。
【0049】
はじめに、主成分分析処理について説明する。
【0050】
ステップ900において、統計分析処理703で用いるデータの次元を減らすため、紙葉類劣化画像生成部601は、抽出された劣化券のムラ画像702をサンプリングする。具体的には、劣化券のムラ画像702内の任意の位置の画素を抜き出す。例えば、縦、横それぞれ3ピクセルおきに画素を抜き出す。劣化券のムラ画像702の全画素数が900である場合、サンプリングした後の画素数は100となる。
【0051】
ステップ901において、紙葉類劣化画像生成部601は、抜き出した画素を一列に並べてベクトルとして、共通分散行列を算出する。
【0052】
ステップ902において、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された共通分散行列から固有値および固有ベクトルを算出する。なお、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された固有値および固有ベクトルの全てを後述する処理に用いる必要はなく、予め紙葉類劣化画像生成部601が決定した数だけ、後述する処理に用いる固有値を大きい順に選択し、選択された固有値と、選択された固有値に対応する固有ベクトルとが後述する処理に用いられる。選択された固有値は大きい順に並べられる。以下、算出される固有値の数はN個とする。また、k番目の固有値をλkとし、固有値λkに対応する固有ベクトルをvkとする。なお、kは、1〜Nまでのいずれかの値をとることができる。
【0053】
紙葉類劣化画像生成部601は、√λk×vkを画像形式に並び替える。画像形式とは、画素を一列に並べてベクトルとしたので、vkの各成分は画像上の画素に対応する。画像形式に並び替えられたものをIk[x,y]とし、これをムラ基底画像704とする。以下、ムラ基底画像704をムラ基底画像Ik[x,y]704とも記す。また、紙葉類劣化画像生成部601は、vi/√λiを画像形式に並び替え、並び替えられたものをJk[x,y]とし、これをムラ射影画像705とする。以下、ムラ射影画像705をムラ射影画像Jk[x,y]705とも記す。なお、[x,y]は座標(x,y)を示す添え字であり、例えば、ムラ基底画像Ik[x,y]704は、座標(x,y)の劣化券のムラ基底画像704の画素値を表す。なお、紙葉類の左上を座標の原点とする。
【0054】
ここで、ムラ基底画像Ik[x,y]704とムラ射影画像Jk[x,y]705とは、逆写像の関係にある。
【0055】
次に、独立成分分析処理について説明する。
【0056】
ステップ900〜ステップ901までは主成分分析処理と同様である。
【0057】
ステップ902において、紙葉類劣化画像生成部601は、固有値および固有ベクトルを算出する。なお、算出する固有値および固有ベクトルの数は主成分分析処理と同様にN個である。
【0058】
ステップ903において、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された固有値および固有ベクトルを用いて、サンプリングされた劣化券のムラ画像702を中心化および白色化する。
【0059】
ステップ904において、紙葉類劣化画像生成部601は、中心化および白色化された劣化券のムラ画像702から互いに直交する独立な軸を算出する。互いに直交する独立な軸を算出する方法としては、例えば、fastICAを用いることができる。
【0060】
算出された互いに直交する独立な軸において、i番目の独立な軸をwkとする。また、各行成分がwkである行列をWとする。また、各行成分がvkである行列をVとし、対角成分が√λkである行列をDとする。ここで、行列Wおよび行列Vは直行行列であり、行列Dは対角行列である。
【0061】
独立成分分析処理において、行列の積WDVの各行を画像形式に並び替えて算出されたものをムラ基底画像Ik[x,y]704とする。
【0062】
また、行列の積WD-1Vの各行を画像形式に並び替えて算出されたものをムラ射影画像Jk[x,y]705とする。
【0063】
ここで、ムラ基底画像Ik[x,y]704とムラ射影画像Jk[x,y]705は、
逆写像の関係にある。主成分分析処理によって算出されたムラ基底画像Ik[x,y]704、およびムラ射影画像Jk[x,y]705と、独立成分分析処理によって算出されたムラ基底画像Ik[x,y]704、およびムラ射影画像Jk[x,y]705は、同様の数学的な関係を満たす。
【0064】
本実施の形態において、劣化券のムラ画像702は、数学的なモデルであらわされる。具体的には、劣化券のムラ画像702をH[x,y]とすると、劣化券のムラ画像702は、
(式1)H[x,y]=Σk βk×Ik[x,y]
によってモデル化されている。なお、βkは、後述する劣化券のムラ重み係数1200である(図12B参照)。以下、劣化券のムラ画像702を劣化券のムラ画像H[x,y]702とも記す。また、劣化券のムラ重み係数1200を劣化券のムラ重み係数βk1200とも記す。
【0065】
紙葉類劣化画像生成部601は、前述の処理によって算出されたムラ基底画像Ik[x,y]704、およびムラ射影画像Jk[x,y]705を用いて紙葉類劣化画像602を生成する。以下、具体的な処理について説明する。
【0066】
図10は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類劣化画像生成部601の構成を示す説明図である。
【0067】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された非劣化券画像600から、非劣化券のムラ統計特性算出処理1000を行い、非劣化券のムラ統計特性1001を算出する。なお、非劣化券のムラ統計特性算出処理1000、および非劣化券のムラ統計特性1001は、図11を用いて後述する。
【0068】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、入力された非劣化券画像600、および算出された非劣化券のムラ統計特性1001を用いて、劣化画像処理1002を行い、紙葉類劣化画像602を生成する。なお、劣化画像処理1002については、図13を用いて後述する。
【0069】
図11は、本発明の第1の実施の形態の非劣化券のムラ統計的特性算出処理1000を説明するブロック図である。
【0070】
紙葉類劣化画像生成部601は、入力された非劣化券画像600にムラ画像抽出処理701を行い、非劣化券のムラ画像1100を抽出する。
【0071】
紙葉類劣化画像生成部601は、抽出された非劣化券のムラ画像1100を用いて非劣化券のムラ重み係数算出処理1101を行い、非劣化券のムラ重み係数1102を算出する。
【0072】
ここで、本実施の形態において、前述の劣化券のムラ画像H[x,y]702と同様に、非劣化券のムラ画像1100は、数学的なモデルで表わされる。具体的には、非劣化券のムラ画像1100をHb[x,y]とすると、非劣化券のムラ画像1100は、
(式2)Hb[x,y]=Σk γk×Ik[x,y]
でモデル化されている。なお、γkは、非劣化券のムラ重み係数1102を表す。以下、非劣化券のムラ画像1100を非劣化券のムラ画像Hb[x,y]1100とも記し、非劣化券のムラ重み係数1102を非劣化券のムラ重み係数γk1102とも記す。
【0073】
非劣化券のムラ重み係数γk1102は、具体的には、ムラ画像Hb[x,y]1100とムラ射影画像Jk[x,y]705との内積によって算出される。
【0074】
紙葉類劣化画像生成部601は、算出された非劣化券のムラ重み係数γk1102を用いて非劣化券のムラ統計特性算出処理1103を行い、非劣化券のムラ統計特性1001を算出する。非劣化券のムラ統計特性算出処理1103は、例えば、非劣化券のムラ重み係数γk1102の平均を用いることが考えられる。また、非劣化券のムラ重み係数γk1102の平均以外に高次モーメントを用いることも考えられる。算出された非劣化券のムラ統計特性1001をmkと記し、以下、非劣化券のムラ統計特性1001を非劣化券のムラ統計特性mk1001とも記す。
【0075】
図12Aは、本発明の第1の実施の形態の非劣化券のムラ画像1100、非劣化券のムラ重み係数1102、ムラ基底画像704、ムラ射影画像705の数学的な関係を示す説明図である。
【0076】
(式2)に示すように、ムラ基底画像704と非劣化券のムラ重み係数1102との線形和によって、非劣化券のムラ画像1100が算出される。また、非劣化券のムラ画像1100とムラ射影画像705との内積によって、ムラ重み係数1102が算出される。
【0077】
図12Bは、本発明の第1の実施の形態の劣化券のムラ画像702、劣化券のムラ重み係数1200、ムラ基底画像704、ムラ射影画像705の数学的な関係を示す説明図である。
【0078】
図12Bに示すように、劣化券についても非劣化券と同様の数学的関係を満たす。
【0079】
図13は、本発明の第1の実施の形態の劣化画像処理1002を説明するブロック図である。
【0080】
紙葉類劣化画像生成部601は、劣化度補助入力1300、および紙葉類劣化画像適用事例データベース1302を用いて、劣化度パラメタ決定処理1301を行い。劣化度パラメタ1400(図14参照)を算出する。劣化度パラメタ1400は、紙葉類劣化画像602を生成するときに用いるパラメタであり、劣化度合いを具体化した量である。劣化度を指定するパラメタがn個あった場合、劣化度パラメタ1400は、n次元のベクトルとなる。以下、劣化度パラメタ1400、紙葉類劣化画像適用事例データベース、および劣化度パラメタ決定処理1301について説明する。
【0081】
図14は、本発明の第1の実施の形態の劣化度パラメタ1400の構成例を示す説明図である。
【0082】
図14に示すように、劣化度パラメタ1400は、6次元ベクトルである。劣化度パラメタ1400の具体的な成分は、紙面全体の黄ばみの度合いを表すパラメタ1401、紙面全体の黒ずみの度合いを表すパラメタ1402、ムラの程度を表すパラメタ1403、しみの度合いを表すパラメタ1404、落書きの度合いを表すパラメタ1405、および、破れまたは紙面上にあいた穴の度合いを表すパラメタ1406である。なお、劣化度パラメタ1400は、前述の形式に限定されない。また、6次元以上、または6次元以下の場合もありうる。
【0083】
図15は、本発明の第1の実施の形態の紙葉類劣化画像適用事例データベース1302の一例を示す説明図である。
【0084】
紙葉類劣化画像適用事例データベース1302は、劣化度パラメタ1400が決定される以前に紙葉類劣化画像生成部601が生成した紙葉類劣化画像602に関するデータを格納している。具体的には、紙葉類劣化画像適用事例データベース1302には、紙葉類の種類1500、劣化度パラメタ1501、評価値1502、画像データ1503、および紙葉類の特徴1504が格納される。
【0085】
紙葉類の種類1500は、紙葉類劣化画像602を生成するときに入力された紙葉類の種類を格納する。劣化度パラメタ1501は、紙葉類劣化画像602を生成するときに用いた劣化度パラメタ1400を格納する。評価値1502は、生成された紙葉類劣化画像602を紙葉類識別器603に学習させたときの識別精度を格納する。例えば、学習させた紙葉類の非類似度分布のグラフと実際に識別された紙葉類の非類似度分布のグラフとの重なり程度を表す。学習させた紙葉類の非類似度分布のグラフが、実際に識別された紙葉類の非類似度分布のグラフと重なっているほど識別精度が高いことを示す。画像データ1503は、紙葉類劣化画像602を生成するときに入力された紙葉類の画像データを格納する。紙葉類の特徴1504は、紙葉類が使用されている国・地域、紙葉類全体の色、紙質、およびインクの種類を格納する。
【0086】
図16は、本発明の第1の実施の形態の劣化度パラメタ決定処理1301を示すフローチャートである。
【0087】
紙葉類劣化画像生成部601は、劣化度パラメタ1400の入力方法について判定する(1600)。具体的には、紙葉類劣化画像生成部601は、劣化度パラメタ1400が直接入力されたか、紙葉類の画像が入力されたか、または、紙葉類の特徴が入力されたかを判定する。なお、紙葉類の特徴は図15の紙葉類の特徴1504と同様のデータである。なお、紙葉類の画像は、テキスト入力部502から入力されてもよいし、または、画像入力部501から入力されてもよい。
【0088】
劣化度パラメタ1400が直接入力されたと判定された場合(1601)、紙葉類劣化画像生成部601は、入力された劣化度パラメタ1400を劣化券画像を生成するときに使用する劣化度パラメタ1400に決定する(1602)。
【0089】
紙葉類の画像が入力されたと判定された場合(1603)、紙葉類劣化画像生成部601は、入力された紙葉類の画像から画像データを抽出し、抽出された画像データと紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納される画像データとの差分を算出する(1604)。次に、紙葉類劣化画像生成部601は、算出された差分の値が小さいデータの中から値を決定する(1605)。
【0090】
算出された差分の値が小さいデータの中から劣化度パラメタ1400を決定する場合、例えば、差分の値で紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納されているデータを並び替え、紙葉類識別装置を操作している人に提示し、紙葉類識別装置を操作している人が提示されたデータから劣化度パラメタ1400を決定する方法が考えられる。また、例えば、評価値1502と、抽出された画像データと紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納される画像データとの差分値の値が、最も大きいデータを劣化度パラメタ1400に決定する方法も考えられる。
【0091】
紙葉類の特徴が入力されたと判定された場合(1606)、紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納される紙葉類の特徴を参照し、入力された紙葉類の特徴と一致するデータを検索する(1607)。
【0092】
紙葉類劣化画像生成部601は、検索されたデータの中から評価値が最も大きいデータを劣化度パラメタ1400に決定する(1608)。
【0093】
図13の説明に戻る。
【0094】
紙葉類劣化画像生成部601は、非劣化券画像600および算出された劣化度パラメタ1400とに基づいて、紙葉類劣化画像602を生成する。
【0095】
まず、紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類の紙面全体の輝度を変化させる、輝度変動生成処理1303を行う。具体的には、紙葉類の紙面全体の黄ばみ度合いを表すパラメタ1401、および紙葉類の紙面全体の黒ずみの度合いを表すパラメタ1402に基づいて画素値を変化させる。例えば、
(式3)v+Y×p1+B×p2
に示すように画素値を変化させる。ただし、vは各画素の画素値を表し、Yは黄ばみによる輝度変動の変位量を表し、Bは黒ずみによる輝度変動の変位量を表す。また、p1は黄ばみの度合いを表すパラメタ1401であり、p2は黒ずみの度合いを表すパラメタ1402である。YおよびBはアルゴリズムに固有の値であり、紙葉類劣化画像生成部601に最初から設定されている。例えば、Yが10、Bが−5と設定されている場合、p1が+1変化すると画素値が+10変化し、また、p2が+1変化すると画素値が−5変化する。
【0096】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、ムラ基底画像Ik[x,y]704、ムラ射影画像Jk[x,y]705、および非劣化券のムラ統計特性mk1001を用いて、ムラ生成処理1304を行う。具体的には、紙葉類劣化画像生成部601は、劣化券のムラ重み係数βk1200を算出し、算出された劣化券のムラ重み係数βk1200とムラ基底画像Ik[x,y]704を(式1)に代入し劣化券のムラ画像H[x,y]702を生成する。なお、ムラ生成処理1304については、図17を用いて後述する。
【0097】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、非劣化券画像I[x,y]600と劣化券のムラ画像H[x,y]702の和により、ムラを生成する。
【0098】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、局所的な損傷・汚れ生成処理1305を行う。
【0099】
紙葉類の紙面上に局所的な損傷を生成する方法としては、例えば、紙葉類劣化画像生成部601は、物理的な損傷(破れまたは紙面上にあいた穴など)を決定し、破れまたは紙面上にあいた穴の度合いを表すパラメタ1406にしたがって、物理的な損傷の度合いの確率分布を算出し、算出された物理的な損傷の度合いの確率分布に基づいて紙葉類に局所的な損傷を生成する方法が考えられる。
【0100】
また、紙葉類の紙面上に汚れを生成する方法としては、例えば、紙葉類劣化画像生成部601は、紙面全体の黄ばみの度合いを表すパラメタ1401、紙面全体の黒ずみの度合いを表すパラメタ1402、および、しみの度合いを表すパラメタ1404にしたがって、汚れの度合いの確率分布を算出し、算出された汚れの度合いの確率分布に基づいて、紙葉類に汚れを生成する方法が考えられる。
【0101】
以上の処理によって生成された紙葉類劣化画像602は紙葉類識別器603に出力される。
【0102】
図17は、本発明の第1の実施の形態のムラ生成処理1304を示すフローチャートである。
【0103】
ステップ1700〜ステップ1703は、ループ処理になっており、k=1からk=Nまで同様の処理が行われる。
【0104】
紙葉類劣化画像生成部601は、図8により説明した方法によって、入力された非劣化券のムラ画像Hb[x,y]702を算出する(1700)。次に、紙葉類劣化画像生成部601は、前述の方法を用いて非劣化券のムラ重み係数γkを算出する(1701)。
【0105】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、非劣化券のムラ統計特性mk1001を用いて、非劣化券のムラ重み係数γk1102の確率分布Pk(βk|γk、r)を決定する(1702)。ここで、rは、ムラの程度を表すパラメタ1403を表す。確率分布Pk(βk|γk、r)は、例えば、ムラ重み係数γk1102と非劣化券のムラ統計特性mk1001の差と、ムラの程度rとの積を平均とする正規分布とする。
【0106】
紙葉類劣化画像生成部601は、決定された確率分布Pk(βk|γk、r)にしたがって、劣化券のムラ重み係数βk1200を算出する(1703)。
【0107】
前述のループ処理を終了した紙葉類劣化画像生成部601は、算出された劣化券のムラ重み係数βk1200を用いて、ムラを生成する(1704)。具体的には、(式1)にしたがって劣化券のムラ画像H[x,y]702が生成される。
【0108】
以上の処理によって、紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類劣化画像602を生成することができる。生成された紙葉類劣化画像602を用いて、紙葉類識別器603を学習させることによって、非劣化券と劣化券との両方を用いて学習させた場合と同様の識別精度が得られる。
【0109】
次に、学習させた紙葉類識別器603の閾値の決定方法について説明する。
【0110】
図18は、本発明の第1の実施の形態の閾値の決定方法の一例を示した説明図である。
【0111】
分布1800は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度分布である。分布1801は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類を生成するときに用いた劣化度パラメタ1400と同一のパラメタを用いて生成された紙葉類劣化画像602の非類似度分布である。分布1802は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類を生成するときの用いた劣化度パラメタ1400よりも大きな値の劣化度パラメタ1400を用いて生成した紙葉類劣化画像602の非類似度分布である。分布1803は、落書きを多く発生された紙葉類劣化画像602の非類似度分布である。
【0112】
例えば、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の画像と同程度の劣化までを許容する場合、紙葉類識別器603は、閾値を閾値1804に決定する。紙葉類識別器603に学習させた紙葉類より少し劣化の程度が大きい紙葉類も許容する場合、紙葉類識別器603は、閾値を閾値1805に決定する。落書きが多い紙葉類を除去したい場合、紙葉類識別器603は、閾値を閾値1806に決定する。また、紙葉類識別器603は、局所的な汚れおよび損傷がある紙葉類を許容するように閾値を決定することもできる。
【0113】
また、図18に示す非類似度分布のグラフを用いて紙葉類識別器603の識別精度を評価することができる。
【0114】
第1の実施の形態によれば、入力される非劣化券のムラ重み係数γk1102から劣化券のムラ重み係数βk1200を算出し、算出された劣化券のムラ重み係数βk1200とムラ基底画像Ik[x、y]とを用いてムラ画像を生成し、劣化券のムラ画像H[x,y]702を生成し、入力された非劣化券画像600に劣化券のムラ画像H[x,y]702を足し合わせることによって、ムラを生成し、紙葉類劣化画像602を生成する。入力される非劣化券のムラ重み係数γk1102と確率分布Pk(βk|γk、r)とを用いて劣化券のムラ重み係数βk1200を算出することによって、劣化券の統計特性と入力される非劣化券の統計特性とが反映され、より所望の劣化券に近い紙葉類劣化画像602が生成される。
【0115】
また、生成された紙葉類劣化画像602を用いて紙葉類識別器603に学習させることによって、劣化券と非劣化券との両方を用いて学習させた場合と同程度の識別精度を実現できる。
【0116】
[第2の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態では、識別する紙葉類の劣化券がない場合について説明した。本発明の第2の実施の形態では、識別する紙葉類の劣化券(以下、劣化券Aと記す。)が数枚だけある場合について説明する。この場合、劣化度パラメタ決定処理1301が異なる。なお、装置構成および他の処理は、第1の実施の形態と同一である。以下、劣化度パラメタ決定処理1301の決定方法について説明する。
【0117】
図19は、本発明の第2の実施の形態の劣化度パラメタ決定処理1301のフローチャートを示す図である。ステップ1900から1904まではループ処理になっており、事前に指定された回数(この場合は、T回)だけ同様の処理を行う。
【0118】
まず、紙葉類劣化画像生成部601は、ランダムに劣化度パラメタ1400を決定し(1900)、決定された劣化度パラメタ1400にしたがって、紙葉類劣化画像602を生成する(1901)。なお、紙葉類劣化画像602は、第1の実施の形態と同様の処理を行って生成する。
【0119】
紙葉類劣化画像生成部601は、生成された紙葉類劣化画像602を用いて紙葉類識別器603に学習させたときの非類似度の分布を算出し、また、劣化券Aの非類似度の分布を算出する(1902)。
【0120】
図20は、本発明の第2の実施の形態の非類似度の分布を示す説明図である。
【0121】
分布2000は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布であり、分布2001は、劣化券Aの非類似度の分布である。以下、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000と記し、劣化券Aの非類似度の分布2001と記す。
【0122】
次に、紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000が、劣化券Aの非類似度の分布2001に含まれるか否かを判定する(1903)。つまり、紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000が劣化券Aの非類似度の分布2001と重なっているか否かを判定する。
【0123】
紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000が、劣化券Aの非類似度の分布2001に含まれると判定された場合、紙葉類劣化画像生成部601は、ステップ1900で決定した劣化度パラメタ1400を劣化度パラメタの採用候補リストに追加する(1904)。なお、劣化度パラメタの候補リストは、紙葉類劣化画像生成部601に保持される。
【0124】
紙葉類識別器603に学習させた紙葉類の非類似度の分布2000が、劣化券Aの非類似度の分布2001に含まれないと判定された場合、紙葉類劣化画像生成部601は、ステップ1900で決定した劣化度パラメタ1400を劣化度パラメタの候補リストに追加しない。
【0125】
ステップ1900からステップ1905までのループ処理が終了したら、紙葉類劣化画像生成部601は、劣化度パラメタの候補リストのノルム値を算出し、算出されたノルム値が小さいものを劣化度パラメタ1400に決定する(1905)。
【0126】
本発明の第2の実施の形態によれば、収集された劣化券が少数の場合であっても、紙葉類識別器603の識別精度を向上させることができる。
【0127】
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態は、GUIを用いて劣化度パラメタ1400を決定する。
【0128】
本発明の第3の実施の形態の装置構成は、本発明の第1の実施の形態と同一の構成である。
【0129】
図21は、本発明の第3の実施の形態のGUIを用いた劣化度パラメタ1400の決定方法を示す説明図である。
【0130】
本発明の第3の実施の形態の画像出力部503は、図21に示すようなGUI画面2100である。図21に示すように、GUI画面2100には、識別紙葉類2101、紙葉類A2102、紙葉類B2103、紙葉類C2104、紙葉類D2105、紙葉類E2106、および紙葉類F2107が表示される。
【0131】
識別紙葉類2101は、実際に識別する紙葉類の画像である。紙葉類A2102、紙葉類B2103、紙葉類C2104、紙葉類D2105、紙葉類E2106、および紙葉類F2107は、紙葉類劣化画像適用事例データベース1302に格納されたデータであり、GUI画面2100には、識別紙葉類2101との類似度が高い順に紙葉類A2102から紙葉類F2107が表示される。画像の類似度は、例えば、HLACを用い、画像の特徴量を算出し、ユークリッド距離によって類似度を算出する。認識対象となる紙葉類の画像である。2101〜2106は過去に本発明の紙葉類劣化画像生成装置を適用した紙葉類の画像である。2101〜2106の各画像の下には、画像に対応する紙葉類劣化画像生成装置適用事例データベース内の例えば図14に示すようなデータである。2101〜2106の画像は2101の画像に対する類似度が高い順に表示される。
【0132】
紙葉類識別装置500を操作する人が、GUI画面2100に表示されている紙葉類A2102から紙葉類F2107にいずれかを選択することによって、選択された紙葉類の劣化度パラメタ1400を実際に使用する劣化度パラメタ1400に決定する。
【0133】
本発明の第3の実施によれば、劣化度パラメタ1400を数値で表示するよりも直観的に劣化度パラメタ1400を確認し、所望の劣化度を再現する劣化度パラメタ1400を決定することができる。
【0134】
[第4の実施の形態]
本発明の第4の実施は、紙葉類識別装置500を備える紙葉類自動取引装置(ATM)において、紙葉類自動取引装置のメンテナンス担当の係員が紙葉類自動取引装置が設置されている現地で紙葉類を入力して識別精度を確認しながら劣化度パラメタ1400を決定する。なお、入力される紙葉類は、現地で入手した紙葉類である。
【0135】
図22は、本発明の第4の実施の形態の自動取引装置の構成を示すブロック図である。
【0136】
紙葉類自動取引装置2200は、紙葉類入力部2201、画像抽出部2202、入力部2203、表示部2204、記憶部2205、紙葉類劣化画像生成部601、および紙葉類識別器603を備える。
【0137】
紙葉類入力部2201は、紙葉類劣化画像602を生成するために使用する紙葉類または識別させる紙葉類を入力する。画像抽出部2202は、紙葉類入力部2201に入力された紙葉類の画像を抽出する。入力部2203は、劣化度パラメタ1400を決定するための補助入力をする、タッチパネル、またはキーボードなどである。表示部2204は、紙葉類劣化画像602などを表示するディスプレイなどである。記憶部2205は、識別対象の紙葉類の非劣化券画像600などを記憶するHDDなどである。紙葉類劣化画像生成部601、および紙葉類識別器603は、第1の実施の形態と同様のものである。
【0138】
まず、入力部2203から入力された補助入力と記憶部2205に記憶されている識別対象の紙葉類の非劣化券画像600とが紙葉類劣化画像生成部601に出力され、紙葉類劣化画像生成部601は紙葉類劣化画像602を生成する。紙葉類自動取引装置2200は、生成された紙葉類劣化画像602を用いて、紙葉類識別器603に学習させる。学習が終了すると、表示部2204が学習が終了したことを示す内容をメンテナンス担当者に表示する。
【0139】
学習が終了したことを確認したメンテナンス担当者は、現地で入手した劣化券を紙葉類自動取引装置2200の紙葉類入力部2201に入力する。入力された劣化券のデータは画像抽出部2202に入力され、劣化券の画像データが抽出される。
【0140】
抽出された画像データは、紙葉類識別器603に入力され、紙葉類の識別がされる。紙葉類の識別結果は、識別精度として表示部2204に表示される。
【0141】
メンテナンス担当者は表示部2204に表示される識別結果を確認し、所望の識別精度になるように入力部2203に劣化度パラメタを補助するデータを入力する。改めて入力されたデータに基づいて紙葉類劣化画像生成部601は、紙葉類劣化画像602を生成し、生成された紙葉類劣化画像602を用いて紙葉類識別器603に学習させる。
【0142】
メンテナンス担当者は、再度、紙葉類の識別をさせ、識別精度を確認する。以後、所望の識別精度が得られるまで、メンテナンス担当の係員は同様の処理を繰り返す。
【0143】
本発明の第4の実施の形態によれば、現地で入手した紙葉類を用いて紙葉類識別器603の識別精度をすることによって、各自動取引装置それぞれに適切な学習を行わせ、所望の識別精度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】従来の非劣化券および劣化券を学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させた場合の非類似度値の分布を示した説明図である。
【図2】従来の非劣化券のみを学習用の紙葉類サンプルとして紙葉類識別器に学習させた場合の非類似度値の分布を示した説明図である。
【図3】従来の真贋判定において、真券であることを示す閾値のマージンを示した説明図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態の紙葉類のムラ画像を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態の紙葉類識別装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態の劣化券のムラの空間的な統計特性を算出する処理を説明するブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態のムラ画像抽出処理を説明するブロック図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態の統計分析処理を説明するブロック図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態の紙葉類劣化画像生成部の構成を示す説明図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態の非劣化券のムラ統計的特性算出処理を説明するブロック図である。
【図12A】本発明の第1の実施の形態の非劣化券のムラ画像、非劣化券のムラ重み係数、ムラ基底画像、ムラ射影画像の数学的な関係を示す説明図である。
【図12B】本発明の第1の実施の形態の劣化券のムラ画像、劣化券のムラ重み係数、ムラ基底画像、ムラ射影画像の数学的な関係を示す説明図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態の劣化画像処理を説明するブロック図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態の劣化度パラメタの構成例を示す説明図である。
【図15】本発明の第1の実施の形態の紙葉類劣化画像適用事例データベースの一例を示す説明図である。
【図16】本発明の第1の実施の形態の劣化度パラメタ決定処理を示すフローチャートである。
【図17】本発明の第1の実施の形態のムラ生成処理を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第1の実施の形態の閾値の決定方法の一例を示した説明図である。
【図19】本発明の第2の実施の形態の劣化度パラメタ決定処理のフローチャートを示す図である。
【図20】本発明の第2の実施の形態の非類似度の分布を示す説明図である。
【図21】本発明の第3の実施の系他のGUIを用いた劣化度パラメタの決定方法を示す説明図である。
【図22】本発明の第4の実施の形態の自動取引装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0145】
501 画像入力部
502 テキスト入力部
503 画像出力部
504 テキスト出力部
505 CPU
506 主記憶部
507 補助記憶部
508 画像表示部
509 バス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類を識別する紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置であって、
前記紙葉類識別装置は、
紙葉類の画像を入力する画像入力部と、
紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定するためのデータを入力する入力部と、
劣化した紙葉類の画像である紙葉類劣化画像を生成する紙葉類劣化画像生成部と、を備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記入力されたデータに基づいて、前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定し、
前記決定されたパラメタに基づいて、画素値が非一様な画像を生成し、
前記生成された画素値が非一様な画像を、前記画像入力部に入力された紙葉類の画像に加えることによって、前記紙葉類劣化画像を生成し、
前記紙葉類劣化画像生成部によって生成された画素値が非一様な画像は、紙葉類の紙面上の空間的な統計特性と、前記画像入力部に入力された複数の劣化した紙葉類の統計特性と、を備えることを特徴とする紙葉類識別装置。
【請求項2】
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記画像入力部に入力された複数の劣化した紙葉類の画像から画素値が非一様な画像を抽出し、
前記抽出された画素値が非一様な画像から、前記紙葉類の紙面上の空間的な統計特性を求める統計的手法を用いて、基底画像を算出し、
前記基底画像の重み付き線形和によって、前記紙葉類の画素値が非一様な画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項3】
前記基底画像の重み付き線形和における重みは、前記画像入力部に入力された複数の劣化した紙葉類の統計特性であることを特徴とする請求項2に記載の紙葉類識別装置。
【請求項4】
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記基底画像の逆ベクトルである射影画像を用いて、前記画像入力部に入力された複数の劣化していない紙葉類から画素値の非一様性の度合いを定量化し、
前記定量化された画素値の非一様性の度合いに、統計的手法を用いて、前記画像入力部に入力された複数の紙葉類の統計特性を算出することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項5】
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記画像入力部に入力された紙葉類の画像の輝度を変動させた画像を生成し、
前記画素値が非一様な画像を生成し、
局所的な損傷および汚れを伴う画像を生成し、
前記生成された紙葉類の輝度を変動させた画像と、前記生成された画素値が非一様な画像と、前記局所的な損傷および汚れを伴う画像と、を前記前記入力された紙葉類の画像に加えることによって、前記紙葉類劣化画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項6】
前記紙葉類識別装置は、
前記生成された紙葉類劣化画像を用いて学習し、
前記画像入力部に入力された紙葉類の紙面中から複数の位置の画素値の統計的な特性を用いて紙葉類を識別することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項7】
前記紙葉類識別装置は、前記紙葉類識別器の識別結果を出力する出力部を備えることを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項8】
前記紙葉類識別装置は、
紙葉類劣化画像生成部によって生成された紙葉類劣化画像に関するデータ、および生成された前記紙葉類劣化画像を用いて学習した前記紙葉類識別器に関するデータを格納する紙葉類劣化画像適用事例データベースを備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記入力部に紙葉類の画像が入力された場合、前記入力された紙葉類の画像と前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納されている紙葉類劣化画像との類似度を算出し、
前記算出結果に基づいて、前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納されている紙葉類劣化画像を生成するときに用いた前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタの中から、使用する前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項9】
前記紙葉類識別装置は、
紙葉類劣化画像生成部によって生成された紙葉類劣化画像に関するデータ、および生成された前記紙葉類劣化画像を用いて学習した前記紙葉類識別器に関するデータを格納する紙葉類劣化画像適用事例データベースを備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記入力部に入力された紙葉類の特徴と一致するデータを前記紙葉類劣化画像適用事例データベースから検索し、
前記検索されたデータの前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを、前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタに決定することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項10】
前記紙葉類識別装置は、
前記紙葉類識別器の識別結果を出力する出力部を備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタをランダムに決定し、
前記紙葉類識別器は、
前記決定されたパラメタに基づいて生成された前記紙葉類劣化画像を用いて学習し、
前記紙葉類識別装置は、
第1の非類似度分布を学習結果として、前記出力部に表示し、
また、識別対象の劣化した紙葉類を識別して、前記出力部に、第2の非類似度分布を識別結果を、前記出力部に表示し、
前記第1の非類似度分布と前記第2の非類似度分布とを比較し、前記比較結果に基づいて、使用する前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタに決定することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項11】
前記紙葉類識別装置は、
画像を出力する画像出力部と、
前記紙葉類劣化画像生成部によって生成された前記紙葉類劣化画像に関するデータ、および生成された前記紙葉類劣化画像を用いて学習した前記紙葉類識別器に関するデータを格納する前記紙葉類劣化画像適用事例データベースと、を備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記画像入力部に入力された紙葉類の画像と前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納される紙葉類劣化画像との類似度を算出し、
前記算出された類似度に基づいて、類似度の大きい順に、複数の前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納される紙葉類劣化画像を前記画像出力部に表示し、
前記表示された前記紙葉類劣化画像の選択を受け付け、
前記選択された前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納される紙葉類劣化画像の前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを、使用する前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタに決定することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項12】
前記紙葉類識別装置は、
前記紙葉類識別器の識別結果を出力する出力部を備え、
ユーザの指示に基づいて、前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを変更し、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記変更された紙葉類の劣化度合いを表すパラメタに基づいて、紙葉類劣化画像を生成し、
前記紙葉類識別器は、前記生成された紙葉類劣化画像を用いて学習することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項1】
紙葉類を識別する紙葉類識別器を備える紙葉類識別装置であって、
前記紙葉類識別装置は、
紙葉類の画像を入力する画像入力部と、
紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定するためのデータを入力する入力部と、
劣化した紙葉類の画像である紙葉類劣化画像を生成する紙葉類劣化画像生成部と、を備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記入力されたデータに基づいて、前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定し、
前記決定されたパラメタに基づいて、画素値が非一様な画像を生成し、
前記生成された画素値が非一様な画像を、前記画像入力部に入力された紙葉類の画像に加えることによって、前記紙葉類劣化画像を生成し、
前記紙葉類劣化画像生成部によって生成された画素値が非一様な画像は、紙葉類の紙面上の空間的な統計特性と、前記画像入力部に入力された複数の劣化した紙葉類の統計特性と、を備えることを特徴とする紙葉類識別装置。
【請求項2】
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記画像入力部に入力された複数の劣化した紙葉類の画像から画素値が非一様な画像を抽出し、
前記抽出された画素値が非一様な画像から、前記紙葉類の紙面上の空間的な統計特性を求める統計的手法を用いて、基底画像を算出し、
前記基底画像の重み付き線形和によって、前記紙葉類の画素値が非一様な画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項3】
前記基底画像の重み付き線形和における重みは、前記画像入力部に入力された複数の劣化した紙葉類の統計特性であることを特徴とする請求項2に記載の紙葉類識別装置。
【請求項4】
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記基底画像の逆ベクトルである射影画像を用いて、前記画像入力部に入力された複数の劣化していない紙葉類から画素値の非一様性の度合いを定量化し、
前記定量化された画素値の非一様性の度合いに、統計的手法を用いて、前記画像入力部に入力された複数の紙葉類の統計特性を算出することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項5】
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記画像入力部に入力された紙葉類の画像の輝度を変動させた画像を生成し、
前記画素値が非一様な画像を生成し、
局所的な損傷および汚れを伴う画像を生成し、
前記生成された紙葉類の輝度を変動させた画像と、前記生成された画素値が非一様な画像と、前記局所的な損傷および汚れを伴う画像と、を前記前記入力された紙葉類の画像に加えることによって、前記紙葉類劣化画像を生成することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項6】
前記紙葉類識別装置は、
前記生成された紙葉類劣化画像を用いて学習し、
前記画像入力部に入力された紙葉類の紙面中から複数の位置の画素値の統計的な特性を用いて紙葉類を識別することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項7】
前記紙葉類識別装置は、前記紙葉類識別器の識別結果を出力する出力部を備えることを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項8】
前記紙葉類識別装置は、
紙葉類劣化画像生成部によって生成された紙葉類劣化画像に関するデータ、および生成された前記紙葉類劣化画像を用いて学習した前記紙葉類識別器に関するデータを格納する紙葉類劣化画像適用事例データベースを備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記入力部に紙葉類の画像が入力された場合、前記入力された紙葉類の画像と前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納されている紙葉類劣化画像との類似度を算出し、
前記算出結果に基づいて、前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納されている紙葉類劣化画像を生成するときに用いた前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタの中から、使用する前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを決定することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項9】
前記紙葉類識別装置は、
紙葉類劣化画像生成部によって生成された紙葉類劣化画像に関するデータ、および生成された前記紙葉類劣化画像を用いて学習した前記紙葉類識別器に関するデータを格納する紙葉類劣化画像適用事例データベースを備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記入力部に入力された紙葉類の特徴と一致するデータを前記紙葉類劣化画像適用事例データベースから検索し、
前記検索されたデータの前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを、前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタに決定することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項10】
前記紙葉類識別装置は、
前記紙葉類識別器の識別結果を出力する出力部を備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタをランダムに決定し、
前記紙葉類識別器は、
前記決定されたパラメタに基づいて生成された前記紙葉類劣化画像を用いて学習し、
前記紙葉類識別装置は、
第1の非類似度分布を学習結果として、前記出力部に表示し、
また、識別対象の劣化した紙葉類を識別して、前記出力部に、第2の非類似度分布を識別結果を、前記出力部に表示し、
前記第1の非類似度分布と前記第2の非類似度分布とを比較し、前記比較結果に基づいて、使用する前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタに決定することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項11】
前記紙葉類識別装置は、
画像を出力する画像出力部と、
前記紙葉類劣化画像生成部によって生成された前記紙葉類劣化画像に関するデータ、および生成された前記紙葉類劣化画像を用いて学習した前記紙葉類識別器に関するデータを格納する前記紙葉類劣化画像適用事例データベースと、を備え、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記画像入力部に入力された紙葉類の画像と前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納される紙葉類劣化画像との類似度を算出し、
前記算出された類似度に基づいて、類似度の大きい順に、複数の前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納される紙葉類劣化画像を前記画像出力部に表示し、
前記表示された前記紙葉類劣化画像の選択を受け付け、
前記選択された前記紙葉類劣化画像適用事例データベースに格納される紙葉類劣化画像の前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを、使用する前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタに決定することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項12】
前記紙葉類識別装置は、
前記紙葉類識別器の識別結果を出力する出力部を備え、
ユーザの指示に基づいて、前記紙葉類の劣化度合いを表すパラメタを変更し、
前記紙葉類劣化画像生成部は、
前記変更された紙葉類の劣化度合いを表すパラメタに基づいて、紙葉類劣化画像を生成し、
前記紙葉類識別器は、前記生成された紙葉類劣化画像を用いて学習することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−26848(P2010−26848A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188305(P2008−188305)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]