説明

紫外域発光体を用いた光触媒ガラス部材

【課題】機能を発揮するために紫外域の光が必要な光触媒性材料に対する紫外線や近紫外線の照射が中断又は停止しても、光触媒性材料のもつ超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を持続することが可能な光触媒ガラス部材を提供すること。
【解決手段】機能を発揮するために紫外域の光が必要な光触媒層と、該光触媒層の下面に設けた蓄光材層とからなる光触媒ガラス部材。蓄光材層は、可視光の波長以下の光を透過するガラスに、紫外域に発光スペクトルの極大値がある光を発光する蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末を混合・分散してなる発光ガラスであり、光触媒層は、前記蓄光材層から発光される光により光励起される光触媒性材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暗い所でも光触媒機能を発揮することのできる光触媒ガラス部材に関し、特に紫外域の光の照射が中断又は停止されても、光触媒のもつ超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を持続することが可能な光触媒ガラス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒性材料は、紫外線を照射することにより有機物を分解したり、超親水性等の機能を発現する、光触媒機能を有する物質である。抗菌、脱臭、防汚等の機能を奏するので、種々の分野で利用されつつある。光触媒性材料としては、アナターゼ型二酸化チタン等が知られている。
【0003】
この酸化チタン系の光触媒性材料は、紫外線を吸収して、空気中の酸素や水から、活性酸素を生成するため、強い酸化力を有する。このため、酸化チタン系の光触媒性材料は、抗菌作用、脱臭作用といった機能が期待でき、殺菌、たばこのヤニ又は窒素酸化物等の汚染物質の分解、防かび、防曇等を目的とし各種構造部材の表面に光触媒を備えた構成が、例えば、特開平9−111022号公報、特開平9−217028号公報、特開平9−207263号公報、特開平9−173865号公報等に提案されている。
【0004】
この光触媒性材料の光触媒層は、通常、ガラスや金属板あるいは陶器等基材の表面に光触媒性材料の粒子を溶液に混合した、いわゆるゾルを吹き付けやディッピング等によってコーティングした後、焼き付け(50〜500C°)することで形成され、基材と共に光触媒層を構成している。基材表面に対する光触媒層の形成には蒸着、溶射、スパッタリングの手段を用いることもある。そして、光触媒層は、光触媒性材料の表面に接触したり、付着した有機化合物を光触媒機能によって分解し、脱臭、殺菌、防汚染等の機能を奏する。このため、光触媒層に十分な太陽光を受けられるようにしたり、発光スペクトル中に紫外線、近紫外線領域を有する蛍光管や水銀管あるいは紫外線放射管(ブラックライトと呼ばれる)を用いて光触媒層の表面を照射するようにしている。
【0005】
しかしながら、光触媒性材料は、光照射が中断又は停止された暗所では光触媒機能を失ってしまい、抗菌、脱臭といった機能を奏することができないという問題があった。
【0006】
このため、例えば特許文献5には、酸化チタン系光触媒層とその下面に設けた蓄光材層からなる、夜間、暗所おいても、抗菌作用、脱臭作用を発揮できる抗菌製品が開示されている。
【特許文献1】特開平9−111022号公報
【特許文献2】特開平9−217028号公報
【特許文献3】特開平9−207263号公報
【特許文献4】特開平9−217028号公報
【特許文献5】特開平11−12114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献5に記載の抗菌製品は、蓄光材層の蓄光材料に賦活剤としてユウロピウムを用いているため、蓄光材料は発光スペクトルの極大値が紫外領域にある発光をすることができない。このため400nm以下の光を必要とする酸化チタン系光触媒の触媒作用を光照射が中断又は停止された後に十分に発揮させることができないという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたもので、太陽光、蛍光ランプ、ブラックライト等からの光触媒性材料に対する紫外線や近紫外線の照射が中断又は停止されても、光触媒性材料のもつ超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を持続するために十分な紫外域の光を与え続けることができる紫外域発光体を用いた蓄光材層を持つ光触媒ガラス部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した課題の解決のために鋭意研究した結果、可視光の波長以下の光を透過するガラスに、紫外域に発光スペクトルの極大値がある光を発光する蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末を混合及び/又は分散してなる発光ガラスの表面に光触媒層を設けることで、光触媒性材料に対する紫外線や近紫外線の照射が中断又は停止されても、その機能を発揮するために紫外域の光が必要な光触媒層は、前記蓄光材層から発光される光により光励起されて、超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を十分に発揮し続けることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 光触媒層と、該光触媒層の一方の面に設けた蓄光材層を有し、前記蓄光材層は、可視光の波長以下の光を透過するガラスに、400nm以下に発光ピーク波長のある光を発光する発光性粉末及び/又は蓄光性粉末を混合及び/又は分散した発光ガラスで、前記光触媒層は、前記蓄光材層から発光される光により光励起される光触媒性材料を前記発光ガラスの少なくとも一面に配置した光触媒ガラス部材。
【0012】
(1)の態様によれば、光照射時のみならず、光照射が中断又は停止されても、紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光が供給され続けるため、機能を発揮するために紫外域の光が必要な光触媒性材料のもつ超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を持続することができる。又、蓄光材層中に可視光の波長以下の光が透過することによって、光照射時においても、蓄光材層中に分散されている蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末は光励起されて紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光するため光触媒層の光触媒機能がより増強される。
【0013】
ここで、蛍光とは、外部からの刺激(励起)によって物質が可視域付近の光を発光する現象であり、蓄光とは,励起光を中断又は停止した後に少なくとも一定時間発光し続ける現象をいう。
【0014】
(2) 前記発光ガラスは、波長300nmでの透過光強度が10%以上である(1)に記載の光触媒ガラス部材。
【0015】
(2)の態様によれば、可視光の波長より短い波長の光(近紫外線、紫外線等)の透過率が高く、光触媒性材料の光触媒機能を励起する紫外線等の光が発光ガラスの内部まで透過できる。このため、発光ガラスの中に分散されている蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末にも光が十分に照射されることになる。これによって、蓄光材層の内部に分散している蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末も紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光し、光触媒層の光触媒機能がより増強される。
【0016】
(3) 前記発光ガラスは、ガラス転移温度Tgが500℃以下である(1)又は(2)に記載の光触媒ガラス部材。
【0017】
(3)の態様によれば、発光ガラスは比較的低い温度で軟化するので、ガラス、陶磁器、ほうろう等といったセラミックスや、金属等の基材に複合して複合材とする際の作業性に優れる。又、基材や発光ガラスの表面に形成された光触媒層が高温により損傷や結晶転位することなく複合化することができる。
【0018】
(4) 前記光触媒性材料は、アナターゼ型結晶系を含む酸化チタンである(1)から(3)のいずれかに記載の光触媒ガラス部材。
【0019】
(4)の態様によれば、アナターゼ型結晶系の酸化チタンは光触媒活性が高いので、この光触媒性材料からなる光触媒層は高い光触媒機能を有する。
【0020】
(5) 前記発光性粉末及び/又は前記蓄光性粉末は、賦活剤としてCe成分を含有する酸化物であって、当該酸化物の結晶の空間群が下記(式1)の空間対称性を有する紫外域発光体を含有する(1)から(4)のいずれかに記載の光触媒ガラス部材。
【0021】
【数1】

【0022】
(5)の態様によれば、賦活剤としてCe成分を含有する酸化物であって、当該酸化物の結晶の空間群が(式1)の空間対称性を有する紫外域発光体を、前記発光性粉末及び/又は前記蓄光性粉末として用いることで、この紫外域発光体は太陽光や昼光色蛍光灯等の200〜400nmの波長を含む光を照射すると励起され、紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光する蓄光作用を有し、そしてこの発光は、高輝度で、残光時間が長いので、紫外域の光を発光する前記蛍光性粉末及び/又は前記蓄光性粉末として特に好ましい。
【0023】
(6) 前記紫外域発光体がオケルマナイト型の結晶構造であり、以下の(式2)で表されるものである、(5)に記載の光触媒ガラス部材。
【化1】

【0024】
(6)の態様によれば、前記紫外域発光体がオルケマナイト型の結晶構造であり、Zn成分の置換量を調整することで、波長200〜300nmの励起光における発光スペクトルの極大値を300nm以上400nm以下の範囲内で調整することができる。このため、必要な光を発光する発光層を備えた光触媒ガラス部材を作製することができる。
【0025】
(7) 前記ガラスは、Bi−SiO系のガラス組成物である(1)から(6)のいずれかに記載の光触媒ガラス部材。
【0026】
(7)の態様によれば、発光ガラスの母材となるガラスがBi−SiO系のガラス組成であるので、ガラス転位温度Tgが低い。このため、この組成のガラスに前記蛍光性粉末及び/又は前記蓄光性粉末を混合及び/又は分散してなる発光ガラスもガラス転位温度Tgが低いものとなる。
【0027】
(8) (1)から(7)のいずれかに記載の光触媒ガラス部材を基材の表面に形成して光触媒機能を備えた光触媒付き複合材。
【0028】
(9) 前記基材はガラスである(8)に記載の光触媒付き複合材。
【0029】
(8)及び(9)の態様によれば、(1)から(7)のいずれかに記載の光触媒ガラス部材は、光照射時のみならず、光照射が中断又は停止されても、紫外域の光を機能発揮のために必要とする光触媒性材料のもつ超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を持続することができるので、この光触媒ガラス部材を基材の表面に備えた複合材は、同様に光照射時のみならず、光照射が中断又は停止されても、光触媒性材料のもつ超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を持続し、光触媒機能に優れる。基材としては、ガラス、陶磁器、ほうろう等といったセラミックスや、金属等であってよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の光触媒ガラス部材は、光触媒層と紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光する蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末を含有する発光ガラスの蓄光材層とを有し、光が照射されている場合のみならず、光照射が中断又は停止されても、機能を発揮するために紫外域の光が必要な光触媒性材料のもつ超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を持続することができる。また、光照射時において、光触媒機能がより増強される。
【0031】
また、蓄光材層を化学組成式が(式2)で表される組成物等の蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末を混合及び/又は分散してなる発光ガラスとしているので、蓄光材層は紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光し、残光輝度が高く残光時間が長く、又、Zn成分及び/又はSr成分の置換量によって発光スペクトルの極大値の位置を調整できる。ガラス溶解の段階で蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末を添加・撹拌するので、蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末が均一に分散されて物性のバラツキが少ない。紫外域でも透明なので、外部からの励起光がガラス内部に分散した蛍光材及び/又は蓄光材粉末に伝達することができ、ガラス深部からの光も光触媒に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0033】
本発明の光触媒ガラス部材は、可視光の波長以下の光を透過するガラスに、紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光する蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末(以下、蓄光材料と称する)を混合及び/又は分散してなる発光ガラスである蓄光材層の少なくとも一面に該蓄光材層から発光される光により光励起される光触媒性材料を膜付けしたものであることを特徴とする。
【0034】
本発明は、太陽光や昼光色蛍光灯光等の200〜400nmの波長を含む光で励起させることにより紫外域、特に300〜400nmに発光スペクトルの極大値を持つ光で発光する作用を有する蓄光材料を用いている。300〜400nmに発光スペクトルの極大値を持つ光を発することにより、光触媒層の中の光触媒性材料は、その光触媒機能により超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能が生じ、優れた抗菌作用及び脱臭作用、汚水等の水処理、環境中窒素酸化物の除去、光半導体作用による電気化学的太陽電池作用、超親水化作用等、種々の触媒機能を発揮する。このため、本発明の光触媒ガラス部材は、光触媒性材料に対する光照射が中断又は停止された暗所等においても、光触媒層は、前記蓄光材層から発光される光によって光励起されて、超親水性や酸化分解活性といった諸活性を持続し、種々の光触媒機能を発揮することができる。
【0035】
又、光触媒層は、蓄光材層が発光している間、触媒機能を発揮し続ける。光触媒層に十分な太陽光を受けられる昼間や、発光スペクトル中に紫外線領域を有する蛍光管や水銀管あるいは紫外線放射管(ブラックライトと呼ばれる)を用いて光触媒層の表面に光を照射している場合も蓄光材料の励起、発光は行われるため、光触媒層は、この発光効果により、蓄光材層がない場合と比べて、光触媒機能がより増強される。特に、蓄光材層を発光ガラスとすることで、光が蓄光材層の内部まで透過し、内部に分散されている蓄光材料も励起、発光され、光触媒層の光触媒性材料を光励起することになるので、光触媒機能がより一層増強される。
【0036】
一方、蓄光材料が太陽光や昼光色蛍光灯等の200〜400nmの波長を含む光の照射によって発光しない場合には、光触媒性材料の光触媒機能を発揮し得る波長が得られず、光触媒性材料の光触媒機能を発揮し難い。このため、上記蓄光材層は、上記波長の励起光の照射が中断又は停止された後にも、紫外域の光を発する性質を有することが好ましい。暗所における蓄光材層の紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光の発光は、光触媒性材料の触媒機能を確実に発揮させることができるからである。一方、蓄光材料が紫外域に発光スペクトルの極大値を持たない光で発光する場合には、光触媒層の光触媒機能が低下する虞がある。
【0037】
上記蓄光材料としては、蓄光材料が賦活剤としてCe成分を含有する酸化物であって、当該酸化物の結晶の空間群が(式1)の空間対称性を有することにより、紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光する蓄光作用を有するものであれば特に限定されない。賦活剤としてCe成分を含有し、空間群が(式1)に属する結晶として、例えば、オケルマナイト型の結晶等をあげることができる。
【0038】
なお、鉱物のオケルマナイト(CaMgSi)は、ソロケイ酸塩の中のメリライト族に属し、アルカリ土類ケイ酸塩結晶である。本明細書中において、オケルマナイト型の結晶(式2)とは、オケルマナイトと同じ結晶構造を有する結晶を示すものを指す。
【0039】
xはCaに対するSrの置換率を示すもので、Srの置換率の増加に伴ない、発光波長ピークは大きくなり、yはCaに対するCeの置換率を示し、これが大きくなると発光輝度が大きくなり、zはMgをZnで置換するときの置換率を示すのもで、Znの置換率増加に伴いCeの配位環境が小さくなる。このためCeの配位多面体の歪が変化し、発光に関係する遷移準位が変わる。その結果、用途に応じ、発光スペクトルの極大値を300nm以上400nm以下の範囲内で調整することができる。置換率は0以上であると、発光スペクトルの波長を調整できるので好ましく0.1以下であると異相が生じないので好ましい。
【0040】
オケルマナイト型結晶の構造は、図1及び図2に示すように、MgO四面体及び2つのSiO四面体の各角の酸素を共有することにより、c軸に垂直な層を構成している。c軸に垂直な層は、c軸方向に積層してなる層状ケイ酸塩であり、この層間をCaイオンが結合している。なお、本発明では、Caの一部をCe及び/又はSrに置き換えたものであり、また、鉱物のオケルマナイトのMgに相当する箇所をMg1−zZnに置き換えたものである。なお、図1及び図2中の破線は、紙面に向かって下方向に結合していることを表し、実線は、紙面に向かって上方向に結合していることを表す。また、図中黒丸は、酸素を示し、白丸はマグネシウムを示し、二重丸はケイ素を示す。
【0041】
蓄光材料の中、Ca1.998Ce0.002MgSiの励起スペクトル及び発光スペクトルを図3に、又、これの残光輝度特性曲線を図4に示す。これらの図より知られるように、CaMgSi:Ce3+で表される組成物は、蓄光材料が太陽光や昼光色蛍光灯等の200〜400nmの波長を含む光を照射すると励起され、これにより紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光する蓄光作用を有し、又、高輝度で、残光時間が長いので、400nm以下の波長を含む光を発光する蓄光材料として特に好ましい。
【0042】
蓄光材層は、上記の蓄光材料を含んでなる発光ガラスである。蓄光材層を発光ガラスにすることで、ガラス溶解の段階で蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末を添加・撹拌するので、蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末が均一に分散されて物性のバラツキが少ない。又、熱処理条件の制御等により透明のものが得られるという効果を有する点で好ましい。
【0043】
蓄光材料を含有させる発光ガラスとしては、可視光の波長以下の波長を透過するものであればよいが、ガラス組成がBi−SiO系のガラスがガラス転位温度Tgを低くできることから好適に用いられる。ガラス転移温度Tgが500℃以下であるのが好ましい。又、波長300nmでの透過光強度が10%以上であるのが好ましい。ガラス転位温度が500℃以下であると、比較的低い温度で軟化するので、ガラス、陶磁器、ほうろう、又は耐火物のいずれかからなるセラミックス等の基材の表面に設ける際に取り扱い易い。又、光触媒層の光触媒性材料の分解や結晶転位を生じない。又、波長300nmでの透過光強度が10%以上とすることで、太陽光や昼光色蛍光灯等の200〜400nmの波長を含む光を透過するので、発光ガラス中の内部に分散された蓄光材料も光が照射されて発光し、発光強度がより強くなるので好ましい。
【0044】
上記蓄光材料は、発光ガラスの中に1〜50重量%含まれていることが好ましい。これにより、蓄光材料の蓄光性能を十分に発揮することができる。一方、1重量%未満の場合には、蓄光性能が弱く、酸化チタン系光触媒の触媒機能を低下させる虞がある。50重量%を超える場合には、機械的性質が弱くなる虞がある。又、蓄光材料の粒径は、特に限定されるものではないが、10〜0.05μmの範囲が適している。これより粒径が小さいと、光を発光する蓄光作用が十分に発揮され難く、逆にこれより粒径が大きいと、ガラス中に均一に分散され難い、又、ガラスの透明性を損ね易い。なお「粒径」とはレーザー回折散乱法で得られる粒子径をいう。
【0045】
光触媒層は光触媒性材料を含んでなる層である。光触媒性材料としては、アナターゼ型結晶を含む二酸化チタンが好適に用いられる他、ルチル型二酸化チタン、ブルッカイト型二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化鉛、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム等を用いることもできる。これらの複数種を適宜混合して用いてもよい。表面処理を施したものであってもよい。光触媒性材料の粒径は、特に限定されるものではないが、10〜0.05μmの範囲が適している。これより粒径が小さいと、製造時に取り扱いが難しく、逆にこれより粒径が大きいと、光触媒層の膜強度が得られ難い。
【0046】
本発明に係る光触媒ガラス部材の製造は、可視光の波長以下の光を透過するガラスとなるガラス原料を所定温度で溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスに紫外域に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光する蛍光性粉末及び/又は蓄光性粉末を添加して混合・分散し、鋳込み成形して発光ガラスを製造する工程と、当該発光ガラスの少なくとも一面に光触媒性材料を塗布して焼き付ける工程と、を含む方法で行われる。
【0047】
蓄光材層である発光ガラスの製造は、可視光の波長以下の波長を透過するガラスの製造とし通常に行われている方法と同様にして行われる。すなわち、所定のガラス原料を配合し、これを溶融してガラスを形成する際に、溶融された溶融ガラスに上記の蓄光材料を所定量、例えば発光ガラスに対して1〜50重量%配合し、混合・分散させた後、金型に鋳込むことで製造することができる。尚、蓄光材料を溶融ガラスに添加する際には、溶融ガラスの温度を蓄光材料が分解等を起さない温度、例えば600℃までに下げることが好ましい。これによって、蓄光材料が熱による分解等が起きないため、蓄光作用が低減されない。また、母材となるガラスとしては、ガラス組成がBi−SiO系のガラスであるのが好ましい。これによって、製造された発光ガラスは、ガラス転位温度Tgが500℃以下とすることができる。又、波長300nmでの透過光強度が10%以上となるガラスであるのが好ましい。これによって、製造された発光ガラスは、蓄光材料が太陽光や昼光色蛍光灯等の200〜400nmの波長を含む光の透過性に優れることになる。
【0048】
光触媒層の形成は、蓄光材層の表面に光触媒性材料を塗布、焼き付けにより薄膜化することで行われる。この光触媒性材料を成膜する手段として、光触媒性材料の酸化チタン粉末スラリー等を蓄光材層に塗布後、焼成する塗布法、市販のアナターゼゾルを蓄光材層に塗布する法、金属アルコキシドの加水分解で作製したゾルを蓄光材層に塗布後、焼成するゾルゲル法等の酸化チタンの原料となる溶液を蓄光材層である蓄光材層に塗布して焼き付ける溶液(ウェットプロセス)法や、高真空中で酸化物のターゲットをスパッタリングして成膜するスパッタリング法、有機物やハロゲン化物を揮発させ、電気炉の中で分解して成膜するCVD法、固体粒子を大気中で発生させたプラズマ中等で溶融し、発光ガラス表面に叩き付ける溶射法等の乾式(ドライプロセス)法といった公知の方法が、光触媒層を形成しようとする基材等に応じて適宜採用されるが、発光ガラスの蓄光材層表面に光触媒層を形成するには、発光ガラスは耐熱性を有するので、例えば、アーク溶射機の溶接ガン先にスプレー装置を取り付けて、エアーにより光触媒性材料粉末をアーク噴流中に吹付け、発光ガラス表面に固定化する溶射法等の乾式法で形成する方法が例示される。この方法による限り、有機溶剤等を使用しないことや比較的短時間に厚い膜が形成されるからである。
【0049】
又、蓄光材層と光触媒層との間には、両層の密着強度を高めるため、適宜のプライマー層を設けてもよい。プライマー層としては、アクリル樹脂を主成分とするものが好ましい例として挙げられる。シリカゾルやシリコーン樹脂、アルコキシシラン類、アルコキシシラン類の縮合物(アルキルシリケート)等の有機シリコン化合物をアクリル樹脂に混合して使用することもできる。また、アクリル樹脂に代えてアクリル変性シリコン樹脂化合物、シリコン変性アクリル樹脂化合物も使用できる。プライマー層は、通常、前記樹脂化合物を含む溶液を塗布することにより形成する。溶液はトルエン、キシレン、ケトン、アルコール等の溶媒に樹脂を分散させたものでも、水系のエマルションタイプでもよい。
【0050】
特に、発光ガラスがソーダライムガラス等といったアルカリを含むガラス組成物であると、熱処理の過程でアルカリ成分が光触媒層に拡散して、酸化チタンと反応して、チタン酸ナトリウムNaTiOが生成される。このため、有効な酸化チタン量が少なくなり、あるいは、再結合中心が増加するので光触媒機能が低下することになるので、ナトリウムの拡散を防ぐために、プライマー層を設けるのが好ましい。
【0051】
このようにして製造された本発明の光触媒ガラス部材は、光が照射されている時のみならず、光照射が中断又は停止されても、光触媒性材料のもつ超親水性や酸化分解活性といった光触媒機能を持続することができる。このため、本発明の光触媒ガラス部材を単独、又は、ガラス、陶磁器、ほうろう等といったセラミックスや、金属等の基材に複合した複合材とすることによって、光触媒機能を活かした設備・装置に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
(蓄光材料の作製)
酸化物基準のモル%でCaOを40%、MgOを20%、SiOを40%、Ceを2%となるように原料を秤量し、乳鉢中でよく混合し、混合した粉末を1300℃で6時間焼成して粉末結晶状である焼成体を得た。この焼成体の結晶構造をX線回析により同定したところ、目的のオケルマナイト相の結晶相以外の回折ピークがあったため、異相を消失させるために、この焼成体を再度粉砕・混合した後、同条件で再度焼成した。得られた焼成体について、再度、X線回析で結晶構造を同定したところ、目的のオケルマナイト結晶相のみが示された。ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、該生成酸化物の質量の総和を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0054】
得られた焼成体をガラスに混入するために、更に粉砕して粉末の蓄光材料とした。得られた蓄光材料のX線回析の結果を図5に示した。尚、X線回析にはフィリップス社製X線回析計X‘pertシステムを使用した。CaMgSi:Ce3+の励起スペクトル及び発光スペクトルを図3に、又、これの残光特性曲線を図4に示した。
【0055】
(発光ガラス(蓄光材層)の作製)
酸化物基準のモル%でBを32%、SiOを10%、Biを12%、ZnOを10%、BaOを10%、CaOを10%、LiOを10%、Laを6%の組成比でガラス400gになるように原料を秤量し、均一に混合した後、石英坩堝を用いて1000℃で3時間溶解した後、800℃に下げて、更に1時間程度保温し、更に600℃に下げ、上記で得られた蓄光材料粉末を10g添加し、混合及び/又は分散した後、速やかに金型に鋳込み、厚み10mmで100mm×100mmの大きさの発光ガラスを作製した。
【0056】
発光スペクトル測定及び、励起スペクトル測定には分光蛍光光度計(日本分光社製FP750)を用いた。励起スペクトル測定は、分光光度計の出力側の分光波長を380nmに固定し、励起波長を走査してプロットした。
【0057】
残光輝度測定は、励起光として東芝ライテック社のD65規格の蛍光ランプ(FL20S/DEDL−D65:定格20W)を用い、1昼夜脱光した試料に1000ルクス、30分間照射して励起した。輝度測定にはミノルタ社製輝度計LS−100を用いた。励起停止1分後から200分後までを測定した。
【0058】
図3から図5より、オケルマナイト型の結晶構造を持つ紫外域発光体は、波長200〜300nmの励起光で、発光スペクトルの極大値が300nm以上400nm以下にある光を発光する蓄光作用を有し、又、高輝度で、残光が3時間と長時間に亘って観察された。
【0059】
図6及び図7より、発光ガラスは400nm以下の波長に発光スペクトルの極大値を持つ光を発光する蓄光作用を有し、又、高輝度で、残光が3時間と長時間に亘って観察された。
【0060】
又、波長300nmでの透過光強度とガラス転移温度Tgについて測定した。透過光強度については、紫外可視分光光度計により、波長300nmの光について透過した光の量を測定した。又、ガラス転位温度Tgについては、熱膨張測定機で昇温速度を8℃/minにして測定した。測定結果は、波長300nmでの透過光強度が80%以上であり、ガラス転位温度Tgは500℃であった。
【0061】
(光触媒ガラス部材の作製)
上記のようにして作製した発光ガラスを鏡面研磨し、洗浄・乾燥した。次いで、アーク溶射機の溶射ガン先にスプレー装置を取り付け、エアーにより市販のアナターゼ型酸化チタン粉末(日本高純度化学研究所社製TIO17PB)をアーク噴流中に吹き付け、発光ガラスの研磨面に固定化し、光触媒ガラス部材を作製した。発光ガラスの研磨面に固定化されたナターゼ型酸化チタンの膜厚は1μmであった。
【0062】
得られた光触媒ガラス部材について、以下に説明する方法で光触媒機能の効果を測定した。
【0063】
光触媒ガラス部材が入った密閉容器にアセトアルデヒドを加え、アナターゼ型酸化チタン粉末を固定化したガラスの裏面(光触媒層の無い側)から352nmの紫外線を照射しながらアセトアルデヒドの濃度を測定した。その結果は、初期アルデヒド濃度は4630ppmであったが、30分後には1960ppm、3時間後にすべて分解された。
【0064】
また、光触媒ガラス部材にアナターゼ型酸化チタン粉末を固定化したガラスの裏面(光触媒層の無い側)から352nmの紫外線を30分照射した後、密閉容器に入れ、次いで、密閉容器内にアセトアルデヒドを加えて、暗所の中で静置して、暗所中でのアセトアルデヒドの濃度の低下を測定した。その結果は、初期アルデヒド濃度は4630ppmであったが、30分後には2200ppm、3時間後にすべて分解された。
【0065】
[比較例1]
実施例1において、発光ガラスを作製する際に蓄光材料を混入しないでガラスを作製し、得られたガラスの表面に実施例1と同様にアナターゼ型酸化チタン粉末をアーク溶射機を用いて溶射して、光触媒層を形成した。
【0066】
得られた光触媒ガラス部材について、実施例1と同様の方法で紫外線照射時における光触媒機能の効果を測定した。
【0067】
352nmの紫外線を照射しながらアセトアルデヒドの濃度を測定した結果は、初期アルデヒド濃度は4630ppmであったのが、30分後には2750ppm、1時間後に1850ppm、2時間後に700ppm、4時間後にはすべて分解された。
【0068】
又、実施例1と同様の方法で、暗所の中でのアセトアルデヒドの濃度の低下を測定した。その結果は、アルデヒド濃度の低下は認められなかった。
【0069】
これらの結果より、実施例の光触媒ガラス部材は、比較例の光触媒ガラス部材に比べ、紫外線が照射されている場合は、アセトアルデヒドの濃度の低減が速い。これは、光を照射することによっても蓄光材料の励起、発光が行われるため、その発光効果により蓄光材層がない場合と比べて、光触媒機能の効率が向上するためである。また、照射を止めた後でも、残光によって光触媒機能が持続していることが確認された。
【0070】
このように、光触媒ガラス部材は、光照射時や、光照射が中断又は停止された暗所時においても、本発明の紫外域発光体を蓄光材層に使用することで優れた触媒機能を発揮することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】オケルマナイト型結晶の構造を[001]軸方向から見た図である。
【図2】オケルマナイト型結晶の構造を[001]に垂直な方向から見た図である。
【図3】CaMgSi:Ce3+の励起スペクトル及び発光スペクトルを示す図である。
【図4】CaMgSi:Ce3+の残光特性曲線を示す図である。
【図5】CaMgSi:Ce3+のX線解析の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒層と、該光触媒層の一方の面に設けた蓄光材層を有し、前記蓄光材層は、可視光の波長以下の光を透過するガラスに、400nm以下に発光ピーク波長のある光を発光する発光性粉末及び/又は蓄光性粉末を混合及び/又は分散した発光ガラスで、
前記光触媒層は、前記蓄光材層から発光される光により光励起される光触媒性材料を前記発光ガラスの少なくとも一面に配置した光触媒ガラス部材。
【請求項2】
前記発光ガラスは、波長300nmでの透過光強度が10%以上である請求項1に記載の光触媒ガラス部材。
【請求項3】
前記発光ガラスは、ガラス転移温度Tgが500℃以下である請求項1又は2に記載の光触媒ガラス部材。
【請求項4】
前記光触媒性材料は、アナターゼ型結晶系を含む酸化チタンである請求項1から3のいずれかに記載の光触媒ガラス部材。
【請求項5】
前記発光性粉末及び/又は前記蓄光性粉末は、賦活剤としてCe成分を含有する酸化物であって、当該酸化物の結晶の空間群が下記(式1)の空間対称性を有する紫外域発光体を含有する請求項1から4のいずれかに記載の光触媒ガラス部材。
【数1】

【請求項6】
前記紫外域発光体がオケルマナイト型の結晶構造であり、以下の(式2)で表されるものである、請求項5に記載の光触媒ガラス部材。
【化1】

【請求項7】
前記ガラスは、Bi−SiO系のガラス組成物である請求項1から6のいずれかに記載の光触媒ガラス部材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の光触媒ガラス部材を基材の表面に形成して光触媒機能を備えた光触媒付き複合材。
【請求項9】
前記基材はガラスである請求項8に記載の光触媒付き複合材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−266091(P2008−266091A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113974(P2007−113974)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】