説明

紫外線赤外線吸収合成シリカガラス及びその製造方法

【課題】金属不純物を含有させることなく、紫外域と赤外域の光線透過率を低下させ、且つ可視域の透過率が高い紫外線赤外線吸収合成シリカガラス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属不純物濃度の総和が1ppm以下であり、波長250nmにおける酸素欠損型欠陥量が吸収係数で0.1〜2/cmであり、波長250nm以下の光線の内部透過率が0%/cm以上80%/cm以下であり、波長500nmから1100nmまでの光線の内部透過率が50%/cm以上92%/cm以下であり、波長1500nm以上の光線の内部透過率が0%/cm以上85%/cm以下であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線赤外線吸収合成シリカガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカガラスは、赤外線から真空紫外線までの広い波長範囲において透明であるばかりでなく、耐熱性、耐薬品性にも優れ、様々な製造装置、実験装置において、多用されてきた。反面、透明性が高いことによって、例えば発光源からの紫外線を遮断したり、高温発光源からの赤外線を遮蔽して保熱する用途には、不適であった。
【0003】
これらの問題を解決する為に、特許文献1においては、金属不純物を高濃度に含有させて紫外と赤外域の光線を吸収する紫外線赤外線吸収ガラスを提案している。但し、このようにして作られた紫外線赤外線吸収ガラスは、1000℃を超えるような高温用途では耐熱性が不足し、また、金属不純物による汚染が問題視される用途には、使用することができなかった。
【0004】
例えば、半導体製造工程で使用されるシリカガラス部材に要求される金属不純物の純度レベルは、極めて高い。天然シリカガラス中に含まれる金属不純物は、ppmレベルであるにも関わらず、近年の半導体製造工程では、許容されず、より高純度である合成シリカガラスの必要性が高まっている。但し、シリカガラスは、紫外から赤外まで光透過率が極めて高く、特に、紫外線の遮蔽や、赤外線を遮蔽しての保熱しが必要な半導体製造装置用途には適さず、製造される半導体素子の収率が大幅に低下する問題があった。
【特許文献1】特開平6−92678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした現状を踏まえて、本発明者等は鋭意研究した結果、金属不純物を含有させることなく、紫外域と赤外域の光線透過率を低下させた、合成シリカガラスを作成することに成功した。
本発明は、金属不純物を含有させることなく、紫外域と赤外域の光線透過率を低下させ、且つ可視域の透過率が高い紫外線赤外線吸収合成シリカガラス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明の紫外線赤外線吸収合成シリカガラスは、金属不純物濃度の総和が1ppm以下であり、波長250nmにおける酸素欠損型欠陥量が吸収係数で0.1〜2/cmであり、波長250nm以下の光線の内部透過率が0%/cm以上80%/cm以下であり、波長500nmから1100nmまでの光線の内部透過率が50%/cm以上92%/cm以下であり、波長1500nm以上の光線の内部透過率が0%/cm以上85%/cm以下であることを特徴とする。
【0007】
この紫外線赤外線吸収合成シリカガラス中に、常磁性欠陥が、1×1013spins/g以上1×1020spins/g以下存在することが好適である。
【0008】
本発明の紫外線赤外線吸収合成シリカガラスの製造方法は、本発明の合成シリカガラスの製造方法であって、多孔質合成シリカガラス体を還元性を有する雰囲気中で加熱する還元処理を行った後、水素を含む雰囲気中で加熱処理し、その後焼成して緻密なシリカガラス体とすることを特徴とする。
【0009】
前記還元性を有する雰囲気が揮発性有機珪素化合物を含む還元性雰囲気であることが好ましい。前記焼成処理を加圧雰囲気で行うことが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の合成シリカガラスは、紫外域と赤外域の光線透過率が低く、一方で可視域の透過率は高く保持されるので、紫外線を遮蔽しつつ、保熱しながら、可視光線による光透過確認が可能である。また、金属不純物が含有されない合成シリカガラス素材であるため、半導体製造工程で適用されるには、最も適した素材である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これらは例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0012】
本発明の紫外線赤外線吸収合成シリカガラスは、金属不純物濃度の総和が1ppm以下であり、且つ波長250nmでの酸素欠損型欠陥量が吸収係数で0.1〜2/cmであり、波長250nm以下の光線の内部透過率が0%/cm以上80%/cm以下であり、波長500nmから1100nmまでの光線の内部透過率が50%/cm以上92%/cm以下であり、波長1500nm以上の光線の内部透過率が0%/cm以上85%/cm以下であることを特徴とする。
【0013】
シリカガラス中の金属不純物濃度の総和が1ppmを越えると、シリカガラス表面から含有金属不純物が微量に放出され、放出された金属不純物は、半導体素材あるいは半導体素子上に飛散して、特性劣化の原因となる。この金属不純物としては、特にアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移元素が挙げられ、具体的には、Li、Na、K、Ca、Mg、Al、Tiなどが挙げられる。
【0014】
本発明の紫外線赤外線吸収合成シリカガラスの製造方法としては、多孔質シリカガラス体を、還元性を有する雰囲気中で加熱する還元処理した後、水素を含む雰囲気中で加熱処理し、その後焼成して緻密なシリカガラス体とする方法が挙げられる。
【0015】
前記多孔質シリカガラス体の製造方法は特に制限はなく、スート法やゾルゲル法等の公知の方法により得ることができるが、スート法が好適である。例えば、多重管構造の石英ガラス製バーナーの中心からSiClなどの原料ガスを供給し、その外側の管から水素やメタン及び酸素を供給し、前記原料を火炎加水分解してシリカ粒子を得、それをターゲット上に堆積させて、多孔質合成シリカガラス体(スート体)を得ることが好ましい。
【0016】
前記多孔質合成石英ガラス体は、水酸基を多く含んでいるものが好ましい。水酸基を含むことで還元処理におけるガス反応が促進される。還元反応にはOH基を約50から1000ppm含有することが必要で、好ましくは100から500ppm含有するとよい。これ以下では、反応種の量が少なく、効果が見られず、これ以上では、反応が追いつかず、ゲル化する。
【0017】
多孔質合成シリカガラス体を、還元性を有する雰囲気中、好ましくは揮発性有機珪素化合物を含む還元性雰囲気中で加熱する還元処理を行うことによって、合成シリカガラスの中に、約250nm(5.0eV)の酸素欠損型欠陥量を、その吸収係数で0.1〜2/cmの範囲に作成して、250nm以下の光線の内部透過率が80%/cm以下とする。
【0018】
前記還元処理において、還元性を有する雰囲気に含まれる気体としては、ヘキサメチルジシラザン([(CHSi]NH)、トリクロロメチルシラン((CHCl)SiH)、ヘキサメチルジシロキサン[(CHSi]O等の揮発性有機珪素化合物や、アンモニア(NH)、ヒドラジン(N)、エタノール(COH)、一酸化炭素(CO)、塩素(Cl)、四塩化ケイ素(SiCl)が挙げられ、揮発性有機珪素化合物がより好ましい。
【0019】
前記還元処理における加熱温度は、100〜1300℃が好ましく、より好ましくは400〜1000℃である。処理時間は加熱温度に応じて適宜選択すればよいが、10時間〜100時間が好ましい。
【0020】
本発明で規定する酸素欠損型欠陥は、シリカガラスの構造欠陥の1つである酸素原子の欠損に基づく欠陥であるが、この酸素欠損型欠陥が存在すると、Si−Si結合が増大し、その吸収性により波長250nm以下の光線の透過率が低下する。
前記酸素欠損型欠陥量はその吸収係数で0.1〜2/cmの範囲が良い。吸収係数が0.1/cm未満では、酸素欠損型欠陥による波長250nm以下の光線の透過率の低減効果がなく、また、2/cmを越えると可視光線の透過率が必要以上に低下する。
【0021】
酸素欠損型欠陥の吸収係数は、酸素欠損型欠陥が約250nm(5.0eV)の吸収帯としてあらわれる(H. Imai et at. (1988) Two types of oxygen-deficient centers in synthetic silica glass. physical Review B. Vol. 38, No.17, pp12772~12775)。この250nmの吸収係数を測定し、下記式(1)に当て嵌めることにより内部透過率が算出できる。
T=10−kd ・・・(1)
(前記式(1)において、Tは内部透過率(%)、dは測定試料の厚さ(cm)、kは物質固有の吸収係数である。)
【0022】
前記還元処理後、さらに、上記水素を含む雰囲気中で加熱処理することによって、合成シリカガラスの中に、赤外線を吸収するSi−O結合を所望量作成して、該波長1500nm以上の光線の内部透過率を85%/cm以下とする。
【0023】
前記水素を含む雰囲気中での加熱処理の温度条件は、300〜1900℃が好ましく、より好ましくは500〜1500℃である。処理時間は加熱温度に応じて適宜選択すればよいが、1時間〜500時間が好ましく、30時間〜500時間がより好ましい。圧力条件は、0.1Paから加圧雰囲気、好ましくは大気圧又は加圧雰囲気、より好ましくは加圧雰囲気の圧力範囲が好適である。前記水素を含む雰囲気での加熱処理を加圧雰囲気で行うことにより、シリカガラス中のSi−Oの生成量を増大させることができる。上記加圧雰囲気における加圧範囲としては、0を超える圧力以上0.9MPa以下であることが好ましい。
【0024】
Si−O結合は、3300〜3400ガウスの磁場を掛けたときに観察される、常磁性欠陥の一種で、スピン密度の総量が、1×1013spins/g以上1×1020spins/g以下の範囲にあることが好ましく、2×1013spins/g以上1×1019spins/g以下の範囲がより好ましい。常磁性欠陥が1×1013spins/g未満では、赤外線吸収が小さくなりすぎ、効果がなく、1×1020spins/gを超える場合では、余分なSi−O結合が気泡発生原因となって、使用に適さなくなる。
【0025】
上記2つの吸収要因によって、波長500nmから1100nmまでの光線の内部透過率は、上記2つの光吸収因子の影響を受けて若干低下するが、50%/cm以上に保持される。
【0026】
前記焼成処理としては特に制限はないが、0.1Paから加圧雰囲気、好ましくは大気圧又は加圧雰囲気、より好ましくは加圧雰囲気の圧力範囲において、1100〜1900℃、好ましくは1200〜1800℃の温度で焼成して緻密化シリカガラス体を作ることが好適である。上記加圧雰囲気における加圧範囲としては、0を超える圧力以上0.9MPa以下であることが好ましい。前記焼成処理を加圧雰囲気で行うことにより、特に赤外線の吸収因子であるSi−Oをガラス体内に保持し、大きな赤外線吸収を発生させることができる。
前記焼成処理の雰囲気としては、不活性ガスが好ましく、N、Ar、Heがより好ましい。処理時間は加熱温度に応じて適宜選択すればよいが、10分〜500時間が好ましく、1時間〜100時間がより好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0028】
各物性値の測定方法は下記の通りである。
(1)アルミニウム,アルカリ金属、およびアルカリ土類金属元素各含有量の測定;原子吸光光度法。
(2)吸収係数の測定;紫外線分光光度法。
(3)内部透過率(2面鏡面10t)の測定;紫外線分光光度法。
(4)常時性欠陥の測定:ESR分光測定法。
【0029】
(実施例1)
テトラクロロシランの火炎加水分解によって得た、外径100mm×内径60mm×長さ300mmの円筒状で密度が0.7g/cmの多孔質合成シリカガラス体(OH基約300ppm含有)約1kgを電気炉内に装着されたシリカガラス製の炉心管(直径200mm)内にセットし、次いで、炉心管内を排気した後、500℃に加熱し、この温度で約60分間予熱した。
【0030】
その後、ヘキサメチルジシラザン蒸気を大気圧で、Nガスで希釈しながら供給し、ヘキサメチルジシラザンと多孔質合成シリカガラス体中のOH基とを反応させた。前記ヘキサメチルジシラザンによる還元処理の条件を表1に示す。なお、ヘキサメチルジシラザン蒸気及びNガスの流量はそれぞれ1mol/hrである。
還元処理終了後、多孔質合成シリカガラス体を加熱炉内に移し、炉内温度を800℃に昇温し、Hガスを1mol/hr掛け流しながら、0.1MPa加圧した圧力条件で1時間保持した。
次いで、炉内をN雰囲気中にて0.4MPaとし、1500℃に昇温し、1時間保持した。それを室温まで冷却して緻密化された外径100mm×内径90mm×長さ300mmの透明なシリンダー状シリカガラスを得た。水素処理及び焼成処理の条件を表2に示す。
【0031】
得られたシリンダー状シリカガラスについてその物性値を測定し、それを表3に示した。また、このシリンダー状シリカガラスについて波長200nmから2500nmの光線の内部透過率を調べた。その結果を図1に示す。
作成されたシリカガラスを用い、半導体製造装置の赤外線保温板を作成し、装置に取り付けて、半導体素子の製造を行った。半導体素子製造エリア各部の保温状況が一定、且つ、安定化し、その結果、半導体素子の製造収率も向上した。結果を表3に示す。なお、半導体製造装置内保温性の測定は、装置内反応エリアの加熱処理中の温度均一性が10%以内の場合をOK、10%を超える場合をN.G.として評価した。
【0032】
(実施例2)
表1及び表2に示した如く、ヘキサメチルジシラザンの代わりにトリクロロメチルシラン((CHCl)SiH)を用いた以外、実施例1と同様にしてシリンダー状シリカガラスを得た。得られたシリンダー状シリカガラスについてその物性値を測定し、それを表3に示した。また、このシリカガラスについても波長200nmから2500nmの光線の透過率を調べた。その結果を図1に示す。半導体素子試作結果を表3に示す。
【0033】
(実施例3)
表1及び表2に示した如く、ヘキサメチルジシラザンの代わりにヘキサメチルジシロキサン[(CHSi]を用いた以外、実施例1と同様にしてシリンダー状シリカガラスを得た。得られたシリンダー状シリカガラスについてその物性値を測定し、それを表2に示した。また、このシリカガラスについて波長200nmから2500nmの光線の透過率を調べた。その結果を図1に示す。半導体素子試作結果を表3に示す。
【0034】
(比較例1)
テトラクロロシランの火炎加水分解によって得た、外径100mm×内径60mm×長さ300mmの円筒状で密度が0.7g/cmの多孔質合成シリカガラス体(OH基約300ppm含有)約1kgを電気炉内に装着されたシリカガラス製の炉心管(直径200mm)内にセットした。次いで、炉心管内を排気した後、500℃に加熱し、この温度で60分間予熱した。その後、Nガスを供給し、表1の条件で加熱処理を行った。
【0035】
その後、多孔質合成シリカガラス体を加熱炉内に移し、炉内温度を800℃に昇温し、Nガスを1mol/hr掛け流しながら、1時間保持した。炉内を0.1Paに減圧するとともに、1500℃に昇温し、1時間保持した。室温まで冷却し、緻密化され外径100mm×内径90mm×長さ300mmの透明なシリンダー状シリカガラスを得た。
【0036】
得られたシリンダー状シリカガラスについて物性値を測定し、それを表3に示した。また、このシリンダー状シリカガラスについて波長200nmから2500nmの光線の内部透過率を調べた。その結果を図1に示す。半導体素子試作結果を表3に示す。
【0037】
(比較例2)
天然シリカガラスについて物性値を測定し、それを表3に示した。また、天然シリカガラスについて波長200nmから2500nmの光線の内部透過率を調べた。その結果を図1に示す。半導体素子試作結果を表3に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1〜3、比較例1及び2のシリカガラスの内部透過率の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属不純物濃度の総和が1ppm以下であり、波長250nmにおける酸素欠損型欠陥量が吸収係数で0.1〜2/cmであり、波長250nm以下の光線の内部透過率が0%/cm以上80%/cm以下であり、波長500nmから1100nmまでの光線の内部透過率が50%/cm以上92%/cm以下であり、波長1500nm以上の光線の内部透過率が0%/cm以上85%/cm以下であることを特徴とする紫外線赤外線吸収合成シリカガラス。
【請求項2】
前記紫外線赤外線吸収合成シリカガラス中に、常磁性欠陥が、1×1013spins/g以上1×1020spins/g以下存在することを特徴とする請求項1記載の紫外線赤外線吸収合成シリカガラス。
【請求項3】
請求項1又は2記載の紫外線赤外線吸収合成シリカガラスの製造方法であって、
多孔質合成シリカガラス体を還元性を有する雰囲気中で加熱する還元処理を行った後、水素を含む雰囲気中で加熱処理し、その後焼成して緻密なシリカガラス体とすることを特徴とする紫外線赤外線吸収合成シリカガラスの製造方法。
【請求項4】
前記還元性を有する雰囲気が揮発性有機珪素化合物を含む還元性雰囲気であることを特徴とする請求項3記載の紫外線赤外線吸収合成シリカガラスの製造方法。
【請求項5】
前記焼成処理を加圧雰囲気で行うことを特徴とする請求項3又は4記載の紫外線赤外線吸収合成シリカガラスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−18481(P2010−18481A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180404(P2008−180404)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】