説明

細胞から蛋白質、DNA、RNAを調製する方法

【課題】本発明の目的は、DNAとRNA、蛋白質を同一の細胞から調製することであり、再現性の高い簡便な調製法の提供することである。
【解決手段】細胞から蛋白質、DNA、RNAを調製する際に、核と細胞質を分離してから、蛋白質、DNA、RNAを抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞から蛋白質、DNA、RNAを調製する方法に関し、特に、同一の細胞から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製する方法に関する。さらに、本発明は、細胞から簡便に効率よく核酸等を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームなどの研究分野を総称して、または、これらを統合した研究分野を近年「オミックス」「オミックス研究」などという。
ゲノムの対象はゲノムDNAである。ゲノム解析により、DNAの多型、遺伝子疾患の保因子が発見され、疾病と多型、変異、あるいは保因子との関連が解明される。
トランスクリプトームの対象は転写されたRNAである。トランスクリプトーム解析により、遺伝子発現量と疾患や生体現象等との相関が解明される。
さらには、プロテオームの対象は蛋白質である。プロテオーム解析により、特定の蛋白質の同定・定量することで、蛋白質の発現量と疾患や生体現象等の関連の知見が得られる。
これら、すべてのゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、そして血漿中の代謝物によるメタボロームなどの生体情報を総合的に解析して研究を効率的に進め、さらに得られた知見を利用すれば、基礎研究、疾患の診断、治療において非常に有効であると考えられ、オミックス研究の飛躍が期待される。
また、近年、体内の様々な組織に生じる生理的病理的変容が、末梢血の血球細胞の分子プロファイルに反映されているという報告がなされている。これに伴い、血液等の細胞の蛋白質、代謝物、及び遺伝子発現の解析による診断が試みられている。
【0003】
ところで、例えば血球細胞から、DNA,RNA、タンパク質を単離することを例にとると、まず、血球細胞の回収を行ない、それ以降、さらに煩雑な操作が必要である。ゲノム解析の対象となるDNAは核膜の内部に、トランスクリプトーム解析の対象となるRNAは細胞質のリボソーム内に、プロテオーム解析の対象となる蛋白質は、細胞膜、細胞質、核膜内などに存在するため、現在のところ、DNA,RNA、タンパク質を細胞から調製する際は、各々別の経路で調製されることが一般的である。例えば、DNAやRNAの核酸の調製の際は核酸のみを対象として、他の成分、特に蛋白質は強力な変性剤で変性させてしまう場合が多い。また、それぞれの調製は煩雑であり、簡便で効率的な抽出方法は開発されていない。
【0004】
従来の核酸調製方法について以下に述べる。従来の核酸調製においては、まず、細胞を回収し、その後、細胞を物理的に、又は界面活性剤等で処理して破壊後、水飽和フェノールやクロロホルム等の有機溶剤を用いて不純物を除去し、ついでアルコールで溶液中の核酸画分を沈殿し、必要に応じてさらにカラムクロマトグラフィーにより精製する方法が一般的である(非特許文献1、2)この方法では、細胞膜中の蛋白質は、細胞を破壊する際の界面活性剤の処理で多くの場合変性する。界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が利用されている。一方、細胞質中の蛋白質についても、従来方法では、フェノール、クロロホルム処理で変性してしまう。なお、フェノール、クロロホルム処理については、遠心操作により有機溶媒層と核酸層を分離操作する手間、あるいはカラムクロマトグラフィーを行う手間を要する、また、フェノールには毒性があり、皮膚に接触すると薬傷を引き起こし、クロロホルムは麻酔作用を有することから、これらの取り扱い、あるいは廃棄方法が問題になるといった欠点も存在する。
【0005】
さらに、RNAの調製においては、RNAが分解酵素により極めて容易に分解されてしまうため、分解を抑制する必要がある。このため、RNA分解酵素の阻害剤、あるいはチオシアン酸グアニジンのようなカオトロピックイオンを用いて蛋白質を変性させ、その後シリカとの吸着を利用して分離する方法が一般的にとられ、実際多くの市販キットはこの方法を採用している。カオトロピック剤は、水溶液に添加した際にカオトロピックイオン(イオン半径の大きな1価の陰イオン)を生成し、疎水性分子の水溶性を増加させる作用を有しているもので、具体的には、よう化アルカリ、チオシアン酸グアニジン、過塩素酸のアルカリ金属塩、トリフルオロ酢酸のアルカリ金属塩、トリクロロ酢酸のアルカリ金属塩、及びチオシアン酸のアルカリ金属塩等が上げられる。これらのカオトロピック剤を使用する場合は、フェノールやクロロホルム等の有機溶媒を用いる必要がなく、フェノールクロロホルムの取り扱いに関する問題点は解消する。しかし、カオトロピック剤を用いた場合であっても、蛋白質は強力に変性することに変わりはない。
【0006】
次に、DNAとRNAの分離について述べる。DNAは核膜内に存在し、RNAは細胞質に存在する。従って、細胞膜を破壊して、核膜を破壊しない条件で細胞を処理して、核のみを回収することによって、DNAとRNAを分離することが可能である。細胞膜の破壊について、上記で、イオン性界面活性剤が使用されることを述べたが、イオン性界面活性剤のうち、特に陰イオン性界面活性剤は、核膜及び核蛋白質を破壊するため、DNAとRNAの分離に用いることはできない。
【0007】
非特許文献3は核膜を壊さずに、細胞膜のみを破壊する方法を開示する。この方法では、最終濃度0.3%NP-40、あるいはTriton X-100により細胞の処理を行う。さらに、核分離の条件として、TritonX-100の濃度として0.3%、1%、NP40の濃度として0.1−0.5%、Tween20では1%の記載がある。しかし、しかし、発明者らが同様の実験を行った結果では、得られたRNAサンプルには、DNAの混入が見られることがあり、核膜が一部は溶解していると考えられる。特に、細胞数が少ない場合にはこの傾向が顕著であった。そのため非特許文献3はDNAとRNAが相互に混入していないサンプルを得ることは難しい。
【0008】
また、特許文献1は細胞質のmRNAを直接RT−PCRする方法を示すものであり、核膜を溶解せずに細胞膜のみを溶解し、細胞質のmRNAを分離する方法が記載されている。具体的には、界面活性剤として0.1−0.5% NP-40を含む10mMトリス塩酸塩(pH7.6)溶液に培養細胞を5分程度懸濁した後、遠心処理を行い(1200g、5分)沈殿として核画分を回収する方法が開示されている。しかしながら、あくまでもRT−PCR反応の効率を上げるために、混入するDNAの量を減らすことを目的とするものであり、完全にDNAとRNAを分離するものではない。
【0009】
また、その他、核の分離の方法を開示するものとして、特許文献2、及び3を参照することができる。特許文献2は、全血に0.32Mサッカロース、5mM塩化マグネシウム、1%TritonX−100、0.2%アジ化ナトリウムを含む緩衝液を加え、その後12000rpm、20秒遠心分離することで核を回収し、更に界面活性剤と蛋白質分解酵素で処理して核膜及び核蛋白質を破壊後、カオトロピック剤との接触によりDNA鎖を分離する方法を開示する。
また、特許文献3には、1%Tween20を含む10mM重炭酸アンモニウム(pH9.0)溶液が核の分離に有効であることを開示する。
【0010】
以上のとおり、従来方法では、同一試料から核酸と蛋白質の検出・同定・定量を行うことは困難であった。また、いずれの方法も、煩雑であり、細胞から簡便に効率よく核酸等を調製することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−51042号公報
【特許文献2】特開平6−205676号公報
【特許文献3】米国特許第6718742号
【特許文献4】特開平9−187277号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】生化学実験講座2(東京化学同人)、「核酸の化学I」74−80頁、262−270頁
【非特許文献2】遺伝子操作マニュアル(講談社)20−23頁、1985
【非特許文献3】新生化学実験講座2((社)日本生化学会編集)核酸I、分離精製、49頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、DNA、RNA、蛋白質を同一細胞から調製する方法、及び、細胞から簡便に効率よく核酸等を調製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、細胞から核を分離し、その後に蛋白質や核酸を分離する方法を考案し、さらに、この方法が従来の細胞全体を破壊してから調製する従来法に比べて、高い回収量及び純度を確保できることを見出した。また、本発明者は、2つのフィルターを連結して用いて、血液等の液中の細胞から核酸等を調製する方法を考案し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は同一の細胞から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製する方法であって、核と細胞質を分離してから、蛋白質、DNA、RNAを抽出することを特徴とする調製方法を提供する。
【0016】
また、本発明は同一の細胞から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製する方法であって、細胞を、細胞膜は破壊するが核膜は破壊しない界面活性剤溶液で処理する工程、前記工程で得られた細胞処理溶液を、核は通過しないが、細胞質に存在するリボソームは通過させるような孔径サイズを有する膜を備えたフィルターを通過させる工程、を含むことを特徴とする調製方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、細胞は通さないが、核を通す径の孔を有する第1のフィルターを用いて該第1のフィルター上に細胞を捕捉する工程と、該第1のフィルター上に界面活性剤を含む溶液を注入し、該フィルター上に捕捉された細胞と反応させる工程と、核が通過しない孔径を有する第2のフィルターを該第1のフィルターの先に連結する工程と、液体を該第1のフィルターおよび該第2のフィルターを通過するように加圧注入することにより、該第2のフィルターに核を捕捉させ、細胞質画分を通過させる工程、を有する細胞の可溶化液の調製方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、同一の細胞から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製することが可能となった。本発明によれば、従来行われている成分ごとの調製に比べて、サンプル量が格段に少なくてよいのみならず、遠心分離のような経験やスキルを必要とする作業がなくなり、短時間に、簡便に、オミックスに適した再現性の高い試料を調製できる。また、細胞採取から各成分の調製が短時間でできるため、それぞれの成分が変性や分解を受ける可能性が低く、その結果、その後の解析が容易になることが期待される。
【0019】
さらに本発明は、フェノール、クロロホルムのような有毒溶媒、カオトロピック剤のような腐食性溶媒を使用せず、作業環境、作業者、環境にとって優しい手法を提供できる。
【0020】
従来、比重や溶解度を利用する遠心操作やエタノール沈殿は、その細胞が置かれている環境(例えば、血液の場合には、細胞数や塩濃度、血糖量など)に大きな影響を受ける。本発明では、器官のサイズによるフィルターでの分離を行うため、再現性高く、安定な調製が可能となる。
【0021】
更に、従来技術は、遠心操作やエタノール沈殿のような作業者が介在する手作業が複数回必要となり、機械化による対応、すなわち自動調製は事実上困難であった。これに対し、本発明ではフィルターを用いて前処理を行うため、フィルターの組み合わせによる連続操作を処理工程に組み込むことで自動化が可能であり、さらにマイクロフルイディクス技術への応用によりデバイスを志向することも可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、血液等の試料中の細胞の回収から、核酸や蛋白質の調製までを簡便に一貫して行うことができる。このため、特にmRNAについて、従来法と比較して、その抽出を効率的に行うことが可能となる。
mRNAは環境中に存在するRNA分解酵素により容易に分解されるために発現解析が困難であった。しかし、本発明によれば、mRNAを数分で抽出できるため、例えば血液であれば、採血直後に前処理が可能となり、分解のない再現性の高いサンプルを入手することが可能となる。また、本発明によれば、核内の遺伝子発現を、核と細胞質画分に分離して評価することが可能となり、詳細な発現解析による精度の高い診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のフロー図
【図2】本発明の概念図
【図3】本発明の概念図
【図4】従来法または本発明の方法により調製されるRNA回収量(pg/μl)
【図5】核分離を遠心操作で行う場合と、フィルターを使用した場合のRNAの回収量を示す。Aは10の5乗、Bでは10の4乗の細胞を用いた結果である。
【図6】従来法(遠心分離)及び本方法により調製されるRNAの評価の結果を示す。従来法ではDNAが混入していることが分かる。
【図7】従来法または本発明の方法により得られるRNA画分の回収量(pg/μl)、得られたRNA画分中のrRNAの含量割合(%)を示す。
【図8】各種界面活性剤のCMCに対する倍率と、その濃度で処理された細胞からのRNA抽出量を示す。
【図9】RNAの完全度の指標である28SrRNA/18SrRNA比率を示す。
【図10】ダブルフィルター法(実施例7)により得られたRNAの収量(pg/μl)
【図11】実施例8の結果得られたPCR増幅産物量(μg/μl)
【図12】実施例9の結果得られたPCR増幅産物量(μg/μl)
【図13】実施例10の結果得られたPCR増幅産物量(μg/μl)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は同一の細胞から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製する方法であって、核と細胞質を分離してから、蛋白質、DNA、RNAを抽出することを特徴とする調製方法を提供する。
【0025】
さらに本発明は、同一の細胞から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製する方法であって、細胞を、細胞膜は破壊するが核膜は破壊しない界面活性剤溶液で処理する工程、前記工程で得られた細胞処理溶液を、核は通過しないが細胞質に存在するリボソームは通過させるような孔径サイズを有する膜を備えたフィルターを通過させる工程を含むことを特徴とする。
【0026】
同一の細胞から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製する、とは、単一試料中の細胞あるいは細胞群から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製することをいう。従来は、同種類の細胞から、蛋白質、DNA、およびRNAを調製する際は、同種類の細胞であっても、それぞれ、別途に、細胞試料を準備することが一般的であった。
【0027】
本発明が対象とする細胞は、核を有する細胞であれば何ら制限されるものではなく、動物細胞、植物細胞、細菌、真菌、組織由来の細胞、培養細胞、白血球などの血液由来細胞、ES細胞などの幹細胞、遺伝子組み換え細胞、iPS細胞などの誘導幹細胞、など、あらゆる細胞が対象となる。なお、対象となる細胞をあらかじめ分離、濃縮することができる。たとえば、血液は多数の赤血球を含むため、対象となる細胞が白血球であれば、白血球を血液から分離することができる。たとえば、遠心処理によりバフィコート(白血球フラクション)を得る、または、溶血操作後、白血球を沈殿として遠心分離する方法とが一般的である。溶血操作は、核を有しないが血液中に多量に存在する赤血球を破壊することにより、その後の遠心分離による白血球の分離を容易にするものであり、溶血剤としては、塩化アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、サポニンなどが利用される。
【0028】
本発明において、核と細胞質を分離する方法として、細胞膜は破壊するが核膜は破壊しない界面活性剤溶液で処理することができる。
【0029】
界面活性剤の例として以下のものを挙げることができる。陽イオン性界面活性剤としては、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド等、陰イオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、コール酸ナトリウム、ドデシルコール酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム等、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(例えばローム アンド ハース社商品名:Triton X-100等)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウエート(例えば花王(株)商品名:Tween20等)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(例えば花王(株)商品名:Tween80等)、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−オクチルチオ−β−D−チオグルコピラノシド、オクチルフェニル−エトキシエタノール(例えば商品名:ノニデットP−40(NP40))、ポリエチレン−ラウリルエステル(例えば商品名:Brij35)、ポリエチレン−グリコールヘキサデシル−エステル(例えば商品名:Brij58)等、両性界面活性剤としては、3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート、ホスファチジルエタノールアミン等、が挙げられる。
【0030】
これらの界面活性剤の中では、陰イオン性界面活性剤は核膜及び核蛋白質を破壊することが知られており、陽イオン性界面活性剤も蛋白質や遺伝子の電荷と相互作用し、生体本来の分布にバイアスをかけてしまう可能性がある。従って、最終的に全ての蛋白質、遺伝子、低分子化合物を網羅的に調製する為には、非イオン性界面活性剤が好ましく、細胞膜と核膜との選択的な分離工程でも非イオン性界面活性剤が最も好ましい。但し、本発明は、非イオン性界面活性剤に限定されるものではなく、検査対象である物質を特定した後には、より効率的な調製方法として、陰イオン性界面活性剤、あるいは陽イオン性界面活性剤を使用することも可能である。また、界面活性剤の濃度は、それぞれの臨界ミセル濃度(CMC)以上であり、臨界ミセル濃度の10倍以内であることが好ましく、特に、界面活性剤の濃度がそれぞれの臨界ミセル濃度(CMC)の1−5倍であることが好ましい。
【0031】
本発明に用いられる細胞と界面活性剤の処理は、遠心分離などにより回収した細胞を界面活性剤溶液に懸濁しても良いし、生理食塩水などに細胞を懸濁し、最終濃度が所望の濃度になるよう界面活性剤の量を調製しても良い。ただし、高濃度の界面活性剤を加える場合には、一時的に細胞溶液中の界面活性剤濃度が不均一であり、高濃度の部分が細胞膜のみならず核膜を破壊してしまう恐れがあるため注意が必要である。また、細胞の回収は、上記のように遠心分離により回収する他、細胞の径より小さな孔径のフィルターを通すことによりフィルター上に捕捉し、その後細胞をフィルター上から剥がして懸濁液として回収することも可能である。
【0032】
また、核と細胞質を分離するためには、界面活性剤溶液で処理した後に、さらに処理した溶液をフィルターで分離することができる。
上記分離のためのフィルターの素材及び孔径は、特に限定はされないが、核は通過しないが細胞質に存在するリボソーム等の器官は通過させるような孔径サイズを有することが好ましい。食細胞の径が好中球で7μm以上、リンパ球、マクロファージでも6μm以上で、その中にある核は6μm以下であるから、核を回収し細胞質を通過させるフィルター孔径は5μm以下であれば十分である。また、細胞質中に含まれるリボソーム自体は直径20nm程度であるが、mRNAにつながれたポリゾームとして10−20個の集合体として存在することが多いため、フィルターを通過するには最低0.1−0.2μm以上であることが望ましい。すなわち、フィルターの孔径は0.2μm〜5μmが好ましく、より好ましくは、0.2〜1μmである。フィルターの材質は親水性のものであれば問題はなく、例えば、ポリビニリデンフルオライド、ポリエーテルスルホン酸、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース混合エステル等が利用できる。
【0033】
また、本発明の調製方法は、特に核と細胞質を分離する前に、細胞処理溶液を均質にする工程を含むことができる。細胞処理溶液が均質であるとは、固形物などは十分に細かく破砕され、内容物が均一な状態であることをいう。
細胞処理溶液を均質にする工程は、細胞処理溶液を注射針を複数回通過させることにより行うことができる。この場合、注射針の径は、特に限定されないが、21G(内径0.57mm)、ツベルクリン用25G(内径0.32mm)などが好適に使用できる。
また、細胞処理溶液を均質にする工程は、細胞は通さないが、核を通す径の孔をもつ流路を通して行うこともできる。そのような流路として、マイクロ流路または、フィルターを挙げることができ、例として孔径1.0−8.0μm、好ましくは、孔径1.0-5.0μmのフィルターを挙げることができる。このように、界面活性剤で処理された細胞の処理溶液を、核と細胞質溶液とにフィルター分離を行う前に、細胞のサイズより小さく、細胞内の核よりも大きな径の流路を通すことにより、核と細胞質溶液との分離が良好になるように均質にすることが可能となる。なお、細胞は通さないが、核を通す径の孔をもつ流路は、核は通過しないが、細胞質に存在するリボソームは通過させるような径の孔を有する膜を備えたフィルターに連結してもよい。
【0034】
また、本発明は、細胞は通さないが、核を通す径の孔を有する第1のフィルターを用いて該第1のフィルター上に細胞を捕捉する工程と、該第1のフィルター上に界面活性剤を含む溶液を注入し、該フィルター上に捕捉された細胞と反応させる工程と、核が通過しない孔径を有する第2のフィルターを該第1のフィルターの先に連結する工程と、液体を該第1のフィルターおよび該第2のフィルターを通過するように加圧注入することにより、該第2のフィルターに核を捕捉させ、細胞質画分を通過させる工程、を有する細胞の調製方法を提供する。
【0035】
ここでいう細胞とは、液中に含まれる細胞である。すなわち、血液、リンパ液、その他体液等に含まれる細胞、液体培養された細胞、あるいは、培地、緩衝液、その他の溶液などに懸濁された細胞などが想定される。細胞の種類は核を有する細胞であれば何ら制限されるものではなく、前述の細胞が例として挙げられる。ただし、本発明の目的に照らし合わせると、液体としては、血液を対象とすることが考えられ、とりわけ、血液中の白血球が対象となり得る。
【0036】
細胞は通さないが、核を通す径の孔を有する第1のフィルターについては、例として孔径1.0−8.0μm、好ましくは、孔径1.0−5.0μmのフィルターを挙げることができる。フィルターの材質は親水性であれば問題なく、前述したものが例として挙げられる。
【0037】
また、該第1のフィルター上に細胞を捕捉するとは、例えば、細胞を含む溶液をフィルター上に充填し、シリンジ、あるいはポンプなどによって圧力をかけることにより、フィルターを通過させ、その結果、細胞をフィルター上に留まらせることをいう。
【0038】
界面活性剤を含む溶液を注入し、該フィルター上に捕捉された細胞と反応させる工程とは、細胞膜は破壊するが核膜は破壊しない界面活性剤溶液を第1のフィルターと接触するように注入し、第1のフィルター上に捕捉された細胞と接触させ、処理することをいう。界面活性剤の例としては前述のものを例として挙げることができる。また、界面活性剤の濃度は、それぞれの臨界ミセル濃度(CMC)以上であり、臨界ミセル濃度の10倍以内であることが好ましく、特に、界面活性剤の濃度がそれぞれの臨界ミセル濃度(CMC)の1−5倍であることが好ましい。また、反応の際には、適宜、撹拌するなどして、反応を促すことができる。
【0039】
核が通過しない孔径を有する第2のフィルターについては、例として孔径0.2−5.0μm、好ましくは、孔径0.2−1.0μmのフィルターを挙げることができる。フィルターの材質は親水性であれば問題なく、前述したものが例として挙げられる。
【0040】
核が通過しない孔径を有する第2のフィルターを該第1のフィルターの先に連結する工程とは、第1のフィルターの、下流に第2のフィルターを連結することをいい、この際、第1のフィルターと第2のフィルターの間に、活栓、シリンジ、チューブ、フィルター、その他連結のための器具などを介してもよい。なお、第1のフィルターと第2のフィルターが連結されたものを、本明細書中で「ダブルフィルター」と呼ぶ場合がある。
【0041】
液体を該第1のフィルターおよび該第2のフィルターを通過するように加圧注入するとは、緩衝液、培地、生理食塩水、その他の溶液を、連結された第1のフィルター及び第2のフィルターの上流、すなわち第1のフィルターの上流から、加圧により注入することを言う。これにより、前記のとおり、第1のフィルター上に捕捉され、細胞膜を破壊された細胞中の核が、第2のフィルター上に捕捉され、細胞質画分は第2のフィルターを通過する。この工程により核と細胞質が分離される。
【0042】
また、第2のフィルターを通過することは、細胞処理溶液を均質にする効果が期待される。すなわち、細胞膜に比べて核膜が堅牢であることから、第2のフィルターを通過させることで、界面活性剤の処理では十分破壊されない細胞膜が十分に破壊され、より効率よく、核と細胞質が分離される。
【0043】
なお、本発明で使用される2つのフィルターの大きさは、同程度か、あるいは第2のフィルターの方が面積が小さいことが好ましい。なぜなら、上記の均質化の効果は、加圧の際に多少抵抗が生じる方が好ましいからである。ただし面積比は50%以下であることが好ましい。
【0044】
細胞の遺伝子発現解析は非常に有用である。一方、核内のmRNAと細胞質にあるmRNAとは機能が異なり、これらを分離して評価する必要がある場合がある。本発明においては、核と細胞質画分に分離して核内の遺伝子発現を評価することが可能となり、詳細な発現解析による精度の高い診断等が可能となる。
【0045】
また、液体に含まれる細胞を分離する際、遠心分離により分離すると、細胞画分に液体成分が共存してしまう。核と細胞質分離のために正確に界面活性剤濃度を設定するためには、溶液の持ち込みは再現性や収率に大きく影響を与える。また、試料が血液の場合は溶血剤を使用しなければならないが、溶血剤が試料調製に悪影響をもたらすことが懸念される。混在する液体を完全に除去するためには細胞分離にフィルターを用いる方法が考えられるが、細胞球を界面活性剤溶液に懸濁するためには、フィルターに捕捉された白血球細胞をフィルターから剥がす作業が発生し、その効率が再現性を左右する。本発明では、フィルター上に捕捉させた細胞を剥がすことなくフィルター上で界面活性剤と反応させることにより、上記問題が解消される。
【0046】
また、本発明においては、さらに、前記2つのフィルターを通過した細胞質画分をオリゴdT結合支持体と反応させることにより、mRNAを回収する工程を有することができる。
【0047】
本発明では、鋭意検討の結果、細胞質画分中のmRNAが、適切な界面活性剤濃度では、蛋白質とは分離して存在していることを発見し、該mRNAのポリAを利用することで、mRNAを直接オリゴdT支持体を用いて回収することができることを見出した。その結果、従来法では、全RNA画分を抽出するのに10工程以上、そして、その後にmRNAをオリゴdTビーズにより回収していたのに対し、単に、界面活性剤溶液を細胞が固定された2つの連続するフィルターに通し、通過画分をオリゴdTビーズに結合し回収するという、非常に簡便で所要時間の少ない方法が可能となった。この方法によれば、フィルターにより核と分離された細胞質溶液を、RNA画分を抽出することなく、直接オリゴdTが結合した支持体と反応させることにより、mRNAを効率的に、且つ極めて短時間に回収することができるのである。
【0048】
なお、ここで使用される界面活性剤の濃度は、CMCの5倍以内が適切である。高濃度の場合には核の破壊が起こり、フィルターの孔がDNAで塞がれるために収率が低下する。なお、オリゴdT結合支持体とは、オリゴdTを結合した支持体であり、磁性ビーズあるいは樹脂ビーズなどを例に挙げることができる。
【0049】
また、さらには、前記2つのフィルターを通過した細胞質画分を用いて蛋白質の分析を行うことができ、さらには、上記オリゴdTと結合しなかった画分を用いて蛋白質の分析を行うことができる。ここでいう分析とは、特に限定されるものではなく、例えば、蛋白質の定量、特定の蛋白質の定量あるいは定性的な解析、蛋白質の網羅的解析などを指す。
【0050】
また、本発明は、ここまでに述べた方法を実施するためのキット、あるいはマイクロデバイス構成を提供する。
【0051】
図1、図2、図3は本発明の原理と手順を示す。図1について説明する。細胞を、細胞膜を破壊するが核膜は破壊しない界面活性剤溶液で処理し、さらに、これを、溶液を核は通過しないが、細胞質に存在するリボゾームは通過させるような孔径サイズを有する膜を備えたフィルターを通過させることにより、フィルター捕捉画分と、通過画分に分けられる。フィルター捕捉画分は核であり、通過画分は細胞質を含む。核からは、核酸が抽出され、核酸からDNAを抽出することができる。一方、細胞質からは、蛋白質成分とRNAを得ることができる。
【0052】
次に図2について説明をする。図2は核と細胞質とを分離する原理図である。本発明の方法では、従来法のような細胞破壊や遠心処理を経ず、核膜を破壊することなく細胞膜を破壊し、さらに、これを、フィルターを通過させることにより、核をフィルター上に捕捉し、リボゾーム及び細胞質を通過画分として得る。
【0053】
図3には末梢血を例にとり、第1のフィルター及び第2のフィルターを利用して末梢血中の細胞から、白血球と核を分離する方法の概念図を示す。
【0054】
本図において、末梢血は、先ず、蒸留水等を加えて低張液にすることにより溶血し、それを白血球を捕捉可能なサイズのフィルター(第1のフィルター)を通すことにより白血球のみを回収する。第1のフィルターの孔径として適する範囲は、1.0〜8.0μm、好適には、3.0〜5.0μmである。その後、フィルターを生理食塩水、あるいは緩衝液により洗浄することにより、赤血球のグロビン等、発現解析上ノイズになる成分は洗い流すことができる。ここで、フィルターに捕捉された細胞を一端回収してその後の処理を行うことは原理的には可能であるが、実際には、完全に全量回収することは困難であり、定量性に欠ける。そこで、本発明では、フィルター上で細胞と界面活性剤との反応を行う。
【0055】
次に、界面活性剤で処理された溶液を、細胞のサイズより小さく、核のサイズより大きな径の第2のフィルターを通す。加圧などによりフィルターの孔を通すことで、界面活性剤で溶解された細胞膜を破壊し、界面活性剤で溶解されず、しかも加圧などの物理的刺激に対して比較的堅牢な核膜を破壊せずにフィルター孔を通過する。これにより、核と細胞質とは分離され、核のみが第2のフィルターに捕捉され、細胞質は第2のフィルターを通過することになる。この際、第2のフィルターを通過させることで、処理溶液は均質化され、細胞膜は完全に破壊される。この効果は、細胞膜に比べて核膜が物理的刺激に対して堅牢であるといった特徴に着目し、本発明者らが見出したものである。注射針を通すことにより細胞膜を破壊する場合には、内径数百ミクロンの注射針は細胞のサイズよりも数十倍太いため、注射針を往復させる速度や細胞の濃度に依存して細胞膜の破壊の度合いが変化したが、この方法によれば、より安定に破壊することができる。第2のフィルターの孔径は、細胞よりは小さく、核よりも大きい径であり、具体的には1.0-8.0μm、好ましくは1.0-5.0μmであることが特徴である。なお、本図ではフィルターを用いる方法を説明するが、細胞よりも狭い空間を移動させる方法であれば、マイクロフルイディクスを利用した方法等、他の方法も可能である。
【0056】
さらに本発明では、鋭意検討の結果、細胞質画分中のmRNAが、適切な界面活性剤濃度では、蛋白質とは分離して存在していることを発見し、該mRNAのポリAを利用することで、mRNAを直接オリゴdTが結合したビーズ(磁性ビーズあるいは樹脂ビーズ)を用いて回収することができることを見出した。その結果、従来法では、全RNA画分を抽出するのに10工程以上、そして、その後にmRNAをオリゴdTビーズにより回収していたのに対し、単に、界面活性剤溶液を細胞が固定された2つの連続するフィルターに通し、通過画分をオリゴdTビーズに結合し回収すると言う非常に簡便で所要時間の少ない方法を開発した。その時に使用される界面活性剤の濃度は、CMCの5倍以内が適切である。高濃度の場合には核の破壊が起こり、フィルターの孔がDNAで塞がれるために収率が低下する。
【0057】
本発明は以下に示す実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0058】
従来の核を分離する方法は非特許文献1に記されている。非特許文献1の方法では、0.3%NP40、あるいは0.3%Triton X-100で細胞を処理することにより、核膜を保持したまま細胞膜が溶解し、その後、低速遠心操作により核画分を回収する。しかし、この方法では核は確かに回収されるが、全ての核が完全に保持されているわけではない。一部の核が破壊し、DNAが流出しているケースも見られる。この方法は、無傷な核のみを取り出して核や核膜の研究を行う目的には適しても、核と細胞質を完全に分画すると言う目的では細胞質に核の成分が混入してしまう可能性があり適切ではない。Tween20のような他の界面活性剤に関する開示もあるが、いずれも界面活性剤の種類に関係なく好適な濃度範囲を重量%で規定しているもので、界面活性剤選択やその濃度決定の根拠に関する記載はない。また、各種界面活性剤のCMCとの関連性を示す記載もない。従って、核と細胞質の分離条件の決定には、その評価法も含めてより詳細な研究及び試行錯誤が必要である。
【0059】
本発明の発明者らは以下の実施例で、界面活性剤の希釈系列を作成し、界面活性剤の各濃度における細胞の形状を観察し、さらに細胞質から抽出される全RNA量、混入しているDNA量、全RNAの大部分を占めるrRNAの質を評価基準に、核膜は保持したままで細胞膜を溶解する濃度を推定した。先ず、各種非イオン性界面活性剤と細胞の相互作用を、界面活性剤の濃度を変化させた溶液中の細胞の形態観察により把握した。つまり、各種界面活性剤と細胞との相互作用を、その環境下での細胞の形態観察を行い、どの界面活性剤でも、濃度変化に伴い3種類の形態を示すことを見出した。その変化は、(i)細胞膜も核膜も保持されている状態、(ii)細胞膜は溶解するが、核膜は保持されている状態、(iii)細胞膜も核膜も溶解している状態、の3つの状態と推定された。(ii)の状態を示す界面活性剤の濃度は、界面活性剤の種類によって大きく異なるが、濃度が低い領域から高い領域に移行する際に、(ii)の状態が検出できる最低の界面活性剤濃度は、各界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)と極めて良好な相関関係にあることを発見した。臨界ミセル濃度とは、それぞれの界面活性剤がミセルを形成するのに必要な界面上の最低限の界面活性剤濃度である。代表的な界面活性剤のCMCは、Triton X-100では0.015%、NP 40では0.018%、Tween20では0.007%ある。
【0060】
実施例の結果、核分離に適する界面活性剤濃度は、先行技術として開示されている他の方法での核分離の条件とされる濃度よりもかなり低濃度であることが分かった。先行技術では界面活性剤の濃度は、Triton X-100は0.3%であるからCMCの20倍、NP40は0.1−0.5%であるから、CMCの5〜27倍、Tween20は1%であるからCMCの143倍に相当する濃度で使用されている。各界面活性剤の特性の違いはあるものの、単なる重量%での表示ではいずれも0.1−1%(特に0.1−0.5%とするものが多い)であるが、CMCの観点で見ると5〜143倍まで大きく幅のある数値を示している。
【0061】
本実施例により、細胞はその界面活性剤のCMC以上で細胞膜が溶解し始め、CMCの10倍程度までは核膜の溶解は見られないことから、細胞膜の溶解に適した界面活性剤の濃度はCMCの10倍以下の濃度が適していることが判明した。
【0062】
細胞膜のみが溶解し核膜が溶解しない界面活性剤濃度領域は界面活性剤ごとに異なるが、多くの場合、10倍までは(ii)の状態を示し、10倍以上になると、核膜も可溶となるリスクを伴う。核膜の研究が目的の場合には細胞質成分を混入させないことが目的となるが、細胞質に核内のDNAを混入させないためには核膜を完全に保持することが重要であり、界面活性剤の濃度を適切に設定することが重要であることが分かった。以下実施例についてより詳細に記載する。
【実施例1】
【0063】
培養細胞;K562細胞を10%FBS,500ユニット/mlペニシリン、500μg/mlストレプトマイシンを含むRPMI 1640中で増殖させて、約1:10の比で週に2回継代培養した。細胞を回収しPBS溶液で洗浄後、10 細胞/mlとなるようPBS溶液に懸濁した。
【0064】
界面活性剤;PIERCE社のSurfact−Pak Detergent Sampler Kitを購入し、各界面活性剤の10%、1%、0.1%、0.01%溶液を調製した。
【0065】
マイクロタイタープレートの各ウェルに上記界面活性剤の溶液とPBSとを加えて、各界面活性剤の希釈系列(0.0025、0.005、0.0075、0.025、0.05、0.075、0.25、0.5、0.75、2.5、5、そして7.5%の12段階、各100μl)を作成した。これらの界面活性剤溶液に細胞懸濁液(約10/ml)を100μlずつ加え、マイクロタイタープレートを軽く振りながら、細胞と界面活性剤を混合した。
【0066】
その後、各ウェル内の細胞の形状を,位相差顕微鏡で観察した。
【0067】
尚、界面活性剤を加えていない細胞を対照として用いた。
【0068】
結果は表1に示す。細胞は、界面活性剤がない場合、あるいは極めて低濃度である場合には、細胞の輪郭が明瞭であり、中心部にコントラストの異なる核と思われる部分が存在する(表1に+で表示)。界面活性剤濃度が高くなるにつれて、中心部のコントラストは低下するが、不鮮明ながら細胞の輪郭は検出することができる(表1に無表示)。さらに高濃度になると、細胞及び核の輪郭が周りの溶液から区別できなくなり、細胞は周囲の溶液と一体化し検知できない(表1に−で表示)。これらの細胞の形状変化と共に、界面活性剤の影響が小さい領域では細胞は互いに集まり局在傾向にあるが、界面活性剤の濃度が上昇するにつれて、細胞は分散する。
【0069】
これらの状態は(i)細胞膜も核膜も保持されている状態(表1に+で表示)、(ii)細胞膜は溶解するが、核膜は保持されている状態(表1に無表示)、(iii)細胞膜も核膜も溶解している状態(表1に−で表示)、の3つの状態と推定された。(ii)の状態を示す界面活性剤の濃度は、界面活性剤の種類によって大きく異なるが、濃度が低い領域から高い領域に移行する際に、細胞中心のコントラストが不明確になり始めるポイント(界面活性剤濃度)は各臨界ミセル濃度CMC値と非常に高い相関にあることがわかった。これらの傾向は、細胞数を変化させた場合でも再現した。しかし、TritonX-114では、高いクラウドポイントのために、観察ができず、またTween系列はCMCが極めて低いために、希釈の際の精度が確保できていない。
【0070】
この現象は、CMC付近で、例えば、細胞膜が溶解し、その結果、細胞の形状が崩れ、核の盛り上がりが平坦になったと推定できる。
【0071】
【表1】

【実施例2】
【0072】
上記推定が正しければ、(ii)の状態の細胞溶液に低速遠心処理を施すことにより、核は沈殿し、細胞質画分は上清として回収されることが予想される。もし、細胞膜と核膜とが共に溶解していない場合には、細胞は沈殿として存在し、その上清からはRNAが抽出されないはずであるし、共に溶解している場合には、その上清は細胞を完全に溶解した場合と同様な結果が得られるはずである。
【0073】
そこで、実施例1で用いた界面活性剤の中から、Triton X-100、Brij35、Brij58、Octylthioglucopyranoside(OTG)、CHAPSを選択し、それぞれ0.025、0.11、0.01、0.28、0.5%を含むPBS溶液を用意し、その中に、細胞K562を細胞数10加えた。表2に実験に加えた各種溶液量を示す。
【0074】
【表2】

【0075】
その後、500g、3分遠心分離を行い、その上清を回収した。キアゲン社 RNeasyTMMiniKit を用いて、上清からRNAを回収した。具体的には、遠心により得られた200μlの上清にキットに含まれるRLT溶液200μlを加え、70%エタノールを350μl加えてカラムに吸着させる。その後カラムを添付の洗浄液を用いて推奨される手順に従い洗浄し、最後に30μlのRNaseを含まない蒸留水でRNAを溶出し回収した。
【0076】
一方、比較実験として、核を分画せず細胞から直接RNAを抽出する汎用的な試薬キットによるRNA抽出量との比較を行った。つまり、RNeasyTM MiniKitを用いて、その手順どおりにRNAを抽出した。その手順とは、100μlの細胞懸濁液を300g、5分の遠心により細胞を回収し、RLT溶液350μlを加えてホモジナイズし、その溶液に70%エタノール350μlを加えてカラムに吸着し、洗浄液での洗浄後、蒸留水での溶出を行うものである。
【0077】
溶出されたRNAを、Agilent社 BioAnalyzerTM RNA 6000ピコキットにより分析した。その結果を図4に示す。
【0078】
いずれの界面活性剤でも、細胞全体からRNAを抽出した場合に比べて高い回収率を示した。つまり、核を分画したことにより、核に含まれているDNAという巨大分子が大量に混入するのを防ぐことが可能となり、RNAが回収し易くなった結果と考えることができる。
【実施例3】
【0079】
次に、実施例2で行った遠心操作をフィルター処理に置き換えることを検討した。実施例2で実施した界面活性剤処理後の細胞を、(i)実施例2と同様に遠心処理、(ii)注射針を通してホモジナイズ後、ミリポア社のマイレクスLG(親水性 PTFE、孔径0.2μm)を通し通過画分を回収した。その後、実施例2と同様200μlのRLT溶液、350μlの70%エタノールを加え、キットに含まれるカラムに吸着させ、添付溶液で洗浄し、全RNAを回収した。細胞数は、実施例2と同様、細胞K562を用い、細胞数10の場合と、細胞数10の場合について検討した。細胞数を変化させたのは、白血球数が疾患患者の場合10倍程度変動するからであり、さらに、細胞数の少ない場合の遠心操作では、細胞が壁に衝突して破壊され易くなるのではないかと考えたからである。
【0080】
但し、本実施例では、界面活性剤濃度は、全ての界面活性剤でCMCの2倍になるように調製した。(実施例2では、Triton X-100のみCMCの2倍で、他はCMCの一倍値を用いていた。)表3に加えた溶液量を示す。結果を図5に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
BioAnalyzerTM RNA 6000ピコキットでの評価結果は、フィルターによる回収はいずれの場合も遠心操作に比べて高いRNAの回収率を示した。核酸量としては同じ程度、あるいは遠心処理による方が多い場合でも、これらの回収物がRNAのみではなくDNAが混入していることが示されており(rRNA比率、及び、28S/18S比率)、特に、細胞数の細胞数の少ない場合の遠心処理での最終回収物では、DNAのバックグランドの上に多少のRNAのピークが見られる程度の含量であった。
【0083】
Triton X-100で処理した後の遠心操作、フィルター処理の結果を図6に示す。33秒での溶出物が18SrRNAであり、40秒付近の溶出物が28SrRNAである。遠心処理後のサンプルで検出される長めの核酸成分は、DNase I処理により消失することから、これらはDNAとして帰属できると考える。
【実施例4】
【0084】
他の従来法(核分画なし)と本発明の方法によるRNA回収の比較を行った。RNA抽出法として最も一般的な方法は、グアニジンチオシアネートを用いて細胞破壊後のサンプル中のRNA分解酵素をも含む全ての蛋白質を強力に変性し、RNAの分解を阻害した上で、フェノール・クロロホルムでの抽出を行う方法であり、最も安定にRNAを抽出可能といわれている。この方法と本発明の方法の比較を行った。
【0085】
Ambion社のmirVana PARISTMキットは、細胞を破壊する溶液に細胞を溶解後、グアニジンチオシアネートで蛋白質を変性させ、その後フェノール・クロロホルム抽出を行い、水溶液画分にエタノールを加えてグラスファイバーカラムに吸着させ、数段階の洗浄を経てRNAを溶出するものである。
【0086】
また、Ambion社のPARISTMキットは、グアニジンチオシアネート処理まではmirVana PARISTMキットと同様であるが、フェノール抽出を行わずに、エタノールを加えてRNAを含む画分をグラスファイバーカラムに吸着させ、洗浄後、溶出するものである。
【0087】
これらのキットを用い、推奨手順に従ってK562細胞(細胞数10)よりRNAを抽出した。さらに実施例3で実施した手順に従ってTriton X-100、Brij35、Brij58処理後の細胞をホモジナイズ後、フィルターを通してその通過画分を得、カラム吸着によりRNA画分を抽出した。これらの方法によって得られたRNA画分の回収量、抽出されたRNA画分中のrRNA含量割合(ほぼ全RNA量に対応する)、及び28S/18S比率(高いほどRNAが分解されずに抽出されていることを示す)を比較した。このうち、RNA画分の回収量、調製された核酸画分中のrRNA含量の結果を図7に示す。
【0088】
本発明による方法では、RNA画分の回収量は必ずしも最大ではなく、mirVana PARISTMキットでの抽出の方が回収量が高いことを示している。しかし、mirVana PARISTMキットでの溶出物は、得られたRNA画分のrRNA含量割合が低く、PARISTM キット、mirVana PARISTMキット共に30%以下であるのに対して、本発明の方法で抽出したRNAでは50%以上と、rRNAの含有割合が高く、得られたRNA画分中に占める実際のRNAの割合が高いことが分かる。
【0089】
以上より、細胞全体を破壊してから所望の画分を抽出する既存の方法は、抽出効率が悪いこと、さらに、抽出されたもののRNA量及び質が劣ることが判明し、本発明の核を界面活性剤処理及びフィルター処理による分画後RNAを抽出する方法の方が量・質共に良好であることが明らかになった。
【実施例5】
【0090】
核と細胞質を分離する際の界面活性剤濃度として、これまで報告されている条件は、0.3%NP40、0.3%Triton X-100、1%Tween20である。それぞれのCMCは、0.018%(NP40)、0.015%(Triton X-100)、0.0074%(Tween20)であるから、報告されている条件は、それぞれCMCの17倍、20倍、135倍に相当する。
【0091】
核膜は保存され、細胞壁が溶解するといった分別融解に有効なCMC範囲を知る目的で、界面活性剤の濃度を変化させて実験3と同様な実験を行った。界面活性剤の濃度は、1、2、5、10、20、そして30倍の条件で実施した。
【0092】
実験の結果を図8、9に示す。図8は回収量を、図9は28SrRNA/18SrRNA量比を示す。28SrRNAと18SrRNAの塩基長はそれぞれ4800bp、1900bpであるので、28SrRNA/18SrRNA量比は理論的には2.5と算出される。
【0093】
確かに、界面活性剤濃度が高い方が、抽出率が向上する傾向がある(Triton X-100、NP40)。しかし、rRNAの18Sと28Sの比率はCMCの5倍までは2以上であるが、CMCの5倍から10倍付近で減少に転じ、分解産物が増えることを示している。これらのことから、最適な界面活性剤濃度はCMCの1倍から10倍で、好ましくは5倍以下である。
【実施例6】
【0094】
実施例3と同様、細胞を3種の界面活性剤Triton X-100、Brij35、Brig58でそれぞれ処理した後、フィルター通過画分として得られた細胞質溶解液からmRNAを抽出した。つまり、TAKARA社のOligotex-dT30 super mRNA Purification Kitを用い、その推奨プロトコルに従ってmRNAを抽出し、Agilent社のBioAnalyzerTMによる分析で、mRNAが抽出されていることを確認した。
【実施例7】
【0095】
培養細胞;K562細胞を10%FBS、500ユニット/mlペニシリン、500μg/mlストレプトマイシンを含むRPMI 1640中で増殖させて、約1:10の比で週に2回継代培養した。細胞を回収しPBS溶液で洗浄後、106 細胞/mlとなるようPBS溶液に懸濁した。この懸濁液をミリポア社製フィルター マイレクスSV(フィルター径 25mm、孔径 5μm)に細胞数が106、5x10、10、5x10なるように細胞懸濁液を注入し、フィルター上に細胞を固定した。次に、このフィルターの下部にミリポア社製フィルター マイレクスHV(フィルター径 13mm、孔径 0.45μm)を連結し、マイレクスSVの注入口から界面活性剤のPBS溶液をシリンジで400μl加圧注入した。界面活性剤は、0.075%Triton X-100、0.55%Brij35、0.043%Brij58で、いずれもそれぞれの界面活性剤のCMCの5倍に相当する濃度である。
【0096】
二つのフィルターを通過した成分約400μlを回収し、400μlのRLT溶液、700μlの70%エタノールを加え、実施例2と同様、RNeasyTM MiniKit中のカラムに吸着させ、キットの手順に従い全RNAを回収した。
【0097】
溶出された全RNAを、Agilent BioAnalyzerTM RNA 6000ピコキットにより分析した。その結果を図10に示す。
【0098】
TritonX-100を用いた場合、約5000pg/μl以上のRNAが得られ、ダブルフィルターでの均質化が有効であることを示している。
【実施例8】
【0099】
mRNAの抽出
実施例7で得られたRNA画分からキアゲン社 Fast TrackTM MAG Micro mRNA Isolation Kitを用いてmRNAの抽出を行った。つまり、RNeasyで抽出されたRNA30μlに蒸留水170μlを加え、バインディング緩衝液200μl、及びMAG Beads 30μlを加えてMAG Beadsに結合されたオリゴdTとmRNAとを結合させた。添付の洗浄液にてビーズを洗浄後、30μlのRnase-free waterによりmRNAを回収した。さらに抽出されたmRNA 4μlを元に、インビトロジェン社 SuperScriptTM First-Strand Synthesis SuperMixを用いてその手順に従いcDNA合成を行った。
【0100】
次にcDNAが合成されたか否かを、GAPDH及びβ-アクチン遺伝子のプライマー(キアゲン社製 QuantiTest Primer Assay)を用いてPCR反応により確認した。TritonX-100抽出物のcDNA3μlをテンプテートとして95℃、5秒、及び、60℃、10秒のPCRサイクルを40回行い、BioAnalyzerTMにより増幅量を評価した。最初の細胞数5x10、10、5x10、106の増加に対してPCR増幅産物(GAPDH)の濃度は9−22ng/ulに単調増加した。Brij35、Brij58についてもPCR増幅が確認され(Triton X−100と同程度)、ダブルフィルターによるRNA抽出法で抽出されたRNA画分にmRNAが存在していることが確認できた(図11)。
【実施例9】
【0101】
実施例7でのダブルフィルターを通過した界面活性剤溶出液からRNA画分を抽出せずに、溶出液にFast TrackTM MAG beads 30μlを加え、直接mRNAを回収することを試みた。実験に用いた細胞数は10である。手順は実施例8と同様である。また、その後のcDNA合成、PCR増幅反応も実施例8と同様に実施した。PCR増幅産物(β―アクチン)の濃度はTriton X-100で14ng/ul、GAPDHでは25ng/ulであった。Brij35では、それぞれ26、29ng/ul、Brij58では25、34ng/ulであり、実施例8と同程度のmRNAが抽出できていることが確認できた(図12)。
【実施例10】
【0102】
血液を用いてmRNA抽出を行った。マイレクスSVフィルター(フィルター径 25mm、孔径 5μm)に末梢血100μl(冷蔵保存)に等量の蒸留水を加えたものを注入した。その後、PBS 1mlでフィルターを洗浄し、マイレクスHVフィルター(フィルター径 13mm、孔径 0.45μm)と連結した。
【0103】
マイレクスSVの注入口から界面活性剤のPBS溶液をシリンジで500μl加圧注入した。界面活性剤は、0.075%Triton X-100、0.55%Brij35、0.043%Brij58で、いずれも界面活性剤のCMCの5倍に相当する濃度である。
【0104】
溶出された溶液にFast TrackTM MAG beads 30μlを加え、さらにバインディング緩衝液の代わりに3M NaCl溶液を50μl(1/10容量)加えた。70℃で5分加熱し、その後室温で10分攪拌しながらビーズ上のオリゴdTとmRNAとを結合させた。添付の洗浄液で洗浄後、RNase-free waterでmRNAを回収し、さらに実施例8と同様、cDNAを合成し、PCR反応によりGAPDH、β―アクチン遺伝子の増幅を確認することにより、mRNAの存在を確認した。増幅量はいずれの界面活性剤でも、GAPDHで2-4ng/ul、β―アクチンで5-6ng/ulであった(図13)。
【0105】
このことは、溶血させた血液をフィルター(マイレクスSV)に通し、PBSで白血球成分以外を洗い流した後、核を分離するためのフィルター(マイレクスHV)を連結し、マイレクスSVの上部からCMCの5倍の濃度の界面活性剤をシリンジで加圧注入して通過した界面活性剤溶液にオリゴdTが結合した磁性ビーズを加えることで、mRNAが回収できることを示すものである。
【実施例11】
【0106】
実施例6で核画分が捕捉されているフィルターに、1%SDS、1mMEDTAを含む10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)200μlと20mg/mlのプロティナーゼK 10μlを添加し、通常とは逆の方向に空気を注入した注射筒で押し出すことにより、フィルター上の核画分を回収した。この画分を37℃60分反応させた後、最終濃度4.5Mのよう化ナトリウムを加え混和し、0.5mlイソプロパノールを加え混和した。12000rpmにて、10分間遠心分離し、DNAを沈殿として回収した。得られたDNAを40%イソプロパノールにより洗浄した後、乾燥後、TE緩衝液(EDTAを1mM含む、10mMトリス−塩酸緩衝液、pH8.0)に溶解しDNAを得た。
【実施例12】
【0107】
末梢血1mlにRNase-free の蒸留水を1ml加え、 実施例10と同様、マイレクスSVを通し、白血球を捕捉した。その後、PBS5mlでフィルターを洗浄した。該マイレクスSVに、実施例と同様、マイレクスHVを連結し、マイレクスSVの上部より、CMCの5倍の濃度に相当する0.075%濃度のTriton X-100をシリンジで加圧注入した。
【0108】
抽出物に対して二倍の希釈系列を作製し、マイクロタイタープレートに100μlずつ注入し4℃で一昼夜固定した。プレートを0.05%Tween20を含むPBSで2回洗浄し、一次抗体としてマウスGAPDH抗体(LFR社製)の1/100希釈液と室温で2時間反応させた。再度0.05%Tween20を含むPBSで二回洗浄した後、二次抗体としてHorseradish Peroxidase Conjugate ヤギ抗マウスIgGと反応させた後、定法に従い発色の程度により定量を行った。
【0109】
希釈系列の1/8〜1/64で有意な発色が観察され、抗原抗体反応による蛋白質の検出が可能であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の細胞から、蛋白質、DNAおよびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製する方法であって、核と細胞質を分離してから、蛋白質、DNAおよびRNAの少なくとも2つをそれぞれ抽出することを特徴とする調製方法。
【請求項2】
同一の細胞から蛋白質、DNA、およびRNAからなる群より選ばれる少なくとも2つを調製する方法であって、
細胞を、細胞膜は破壊するが核膜は破壊しない界面活性剤溶液で処理する工程、
前記工程で得られた細胞処理溶液を、核は通過しないが、細胞質に存在するリボソームは通過させるような孔径を有する膜を備えたフィルターを通過させる工程
を含むことを特徴とする調製方法。
【請求項3】
該界面活性剤が非イオン性界面活性剤であり、その濃度がそれぞれの臨界ミセル濃度(CMC)以上であり、臨界ミセル濃度の10倍以内であることを特徴とする請求項2記載の調製方法。
【請求項4】
該界面活性剤の濃度がそれぞれの臨界ミセル濃度(CMC)の1−5倍であることを特徴とする請求項3記載の調製方法。
【請求項5】
該孔径が0.2−5.0μmであることを特徴とする請求項2記載の調製方法。
【請求項6】
前記細胞処理溶液を均質にする工程を更に有する請求項2に記載の調製方法。
【請求項7】
前記細胞処理溶液を均質にする工程が、細胞は通さないが、核を通す径の孔をもつ流路を通すことを特徴とする請求項6記載の調製方法。
【請求項8】
前記細胞処理溶液を均質にする工程において、細胞処理溶液を孔径1.0−8.0μmのフィルターを通過させることを特徴とする請求項6記載の調製方法。
【請求項9】
前記細胞処理溶液を均質にする工程において、細胞処理溶液を孔径1.0−5.0μmのフィルターを通過させることを特徴とする請求項6記載の調製方法。
【請求項10】
細胞は通さないが、核を通す径の孔をもつ流路を、核は通過しないが、細胞質に存在するリボソームは通過させるような径の孔を有する膜を備えたフィルターに連結することを特徴とする請求項2記載の調製方法。
【請求項11】
細胞は通さないが、核を通す径の孔を有する第1のフィルターを用いて該第1のフィルター上に細胞を捕捉する工程と、
該第1のフィルター上に界面活性剤を含む溶液を注入し、該フィルター上に捕捉された細胞と反応させる工程と、
核が通過しない孔径を有する第2のフィルターを該第1のフィルターの先に連結する工程と、
液体を該第1のフィルターおよび該第2のフィルターを通過するように加圧注入することにより、該第2のフィルターに核を捕捉させ、細胞質画分を通過させる工程、を有する細胞の調製方法。
【請求項12】
さらに、該2つのフィルターを通過した細胞質画分をオリゴdT結合支持体と反応させることにより、mRNAを回収する工程を有する請求項11記載の細胞の調製方法。
【請求項13】
該2つのフィルターを通過した細胞質画分を用いて蛋白質の分析を行うことを特徴とする請求項11記載の細胞の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−10650(P2011−10650A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297548(P2009−297548)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】