説明

細胞シグナリングをモジュレートする化合物を同定するための方法およびこのような化合物を使用する方法

本発明は、細胞シグナリングをモジュレートする化合物を同定するための方法、およびこのような化合物を使用する治療方法を提供する。本発明は、(i)ホールアニマル(例えば、ゼブラフィッシュ)スクリーニングの開発、(ii)細胞ベースのELISAスクリーニングの開発、および(iii)BMPインヒビターの新規クラスの同定に基づく。上記方法は、ゼブラフィッシュ胚と候補化合物とを接触させる工程および上記胚の表現型を観察する工程を包含し得る。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、細胞シグナリングをモジュレートする化合物を同定するための方法、およびこのような化合物を使用する方法に関連する。
【0002】
リガンドのトランスホーミング増殖因子(TGF)スーパーファミリー含むシグナリングは、細胞増殖、分化、およびアポトーシスを含む広範な細胞プロセスにとって中心的なものである。TGFシグナリングは、II型レセプター(セリン/トレオニンキナーゼ)に対するTGFリガンドの結合を含み、その結合は、I型レセプターを補充およびリン酸化する。次いで、上記I型レセプターは、共有型SMADに結合する特異型(receptor−regulated)SMAD(R−SMAD;例えば、SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、SMAD8またはSMAD9)をリン酸化し、次いでSMAD複合体は、SMAD複合体が転写調節において役割を果たす核に進入する。リガンドのTGFスーパーファミリーは、TGF−β/アクチビン/nodalおよび骨形成タンパク質(BMP)によって特徴付けられる2つの主要な分岐を含む。
【0003】
骨形成タンパク質(BMP)リガンドによって媒介されるシグナルは、脊椎動物の寿命を通して種々の役割を果たす。胚発生の間に、背腹軸は、リガンド、レセプター、補助レセプター、および可溶性アンタゴニストの協調した発現によって形成されるBMPシグナリング勾配によって確立される(非特許文献1)。過剰なBMPシグナリングは、腹側化(背側構造の犠牲における腹側の拡大)をもたらすが、減少したBMPシグナリングは、背側化(腹側構造の犠牲における背側の拡大)をもたらす(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。BMPは、原腸陥入、中胚葉誘導、器官形成、および軟骨内の骨形成の重要な調節因子であり、そして多分化能細胞集団の運命を調節する(非特許文献6)。BMPシグナルもまた、生理機能および疾患において重要な役割を果たし、そして原発性肺高血圧症、遺伝性出血性毛細管拡張症候群、進行性骨化性線維形成異常症、および若年性ポリポーシス症候群に関与する(非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9)。
【0004】
BMPシグナリングファミリーは、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)スーパーファミリーの多様なサブセット(非特許文献10)である。20種を超える公知のBMPリガンドが、3種の異なるII型(BMPRII、ActRIIa、およびActRIIb)レセプターおよび少なくとも3種のI型(ALK2、ALK3、およびALK6)レセプターによって認識される。二量体のリガンドは、レセプターヘテロマーの構築を容易にし、構成的に活性なII型レセプターセリン/トレオニンキナーゼにI型レセプターセリン/トレオニンキナーゼをリン酸化させる。活性化I型レセプターは、BMP反応性(BR−)SMADエフェクター(SMAD1、SMAD5、およびSMAD8)をリン酸化して、SMAD4(TGFシグナリングをも容易にする共有型)との複合体における核移行を容易にする。さらに、BMPシグナルは、SMAD依存性様式で細胞内エフェクター(例えば、MAPK p38)を活性化し得る(非特許文献11)。可溶性BMPアンタゴニスト(例えば、ノギン、コーディン、グレムリン(gremlin)、およびフォリスタチン)は、リガンド隔離によってBMPシグナリングを制限する。補助レセプター(例えば、RGMa、DRAGON(RGMb)、およびヘモジュベリン(hemojuvelin)(HJV,RGMc)を含む反発性ガイダンス分子(repulsive guidance molecule)(RGM)ファミリーのメンバー)は、補助レセプターが発現される標的組織における低レベルのBMPリガンドに対する応答を増強する(非特許文献12;非特許文献13)。
【0005】
ヘプシジン、ペプチドホルモンおよび全身の鉄バランスの中心的な調節因子の発現を調節することにおいてBMPシグナルが果たす役割が、示唆されている(非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17)。ヘプシジンは、結合し、そしてフェロポーチン(脊椎動物における唯一の鉄輸送体)の分解を促進する。フェロポーチン活性の喪失は、腸細胞、マクロファージ、および肝細胞における細胞内貯蔵からの血流に対する鉄の動員を妨害する(非特許文献18)。肝臓のヘプシジン発現は、鉄の欠乏または過負荷、炎症、および低酸素の状態に応答性であるが、肝臓がこれらの刺激を感知し、そしてヘプシジン発現を調節する機構は、特に、HAMP遺伝子(ヘプシジンをコードする)に対するプロモーター鉄のレベルによってモジュレートされることが公知であるエレメントを有さないようであるので、不明確なままである。SMAD4が条件的に欠損したマウスは、鉄またはインターロイキン−6(IL−6)のチャレンジ(challenge)後にヘプシジンを誘導できず(非特許文献18)、このことは、BMP経路および/またはTGF−β経路が鉄または炎症によって媒介されるシグナルを伝達することを示唆する。さらに、Hfe2(BMP補助レセプターHJVをコードする)の変異は、若年性ヘモクロマトーシス(鉄の過負荷がヘプシジン発現を誘発できない疾患)において同定されている(非特許文献19)。この知見は、BMPシグナリングと鉄代謝との間の関連をさらに示唆するが、鉄または炎症によるヘプシジン発現のモジュレーションにおけるBMPの役割は、依然として完全に理解されていない。
【0006】
異常なTGF−βシグナリングは、多数のヒト疾患にも関与している。例えば、TGF−βアップレギュレーションは、マルファン症候群患者の大動脈における病態生理学的な変化の基礎をなし得、そしてTGF−βは、腎臓、肝臓、および肺の線維性疾患において見られる線維症の重要なメディエーターであると考えられる。したがって、TGF−βシグナリングを特異的に阻害する能力は、これらの状態を処置するためのアプローチおよびそれらの原因を決定することを提供する。
【0007】
リガンド(現在、25種より多い異なるリガンド)およびレセプター(BMPを認識する3種のI型レセプター;3種のII型レセプター)のレベルにおけるBMPスーパーファミリーおよびTGF−βスーパーファミリーのおびただしい構造多様性、ならびにレセプター結合のヘテロ四量体様式を考慮すると、可溶性レセプター、内因性インヒビター、または中和抗体を介するBMPシグナルを阻害するための伝統的なアプローチは、実用的でも有効でもない。内因性インヒビター(例えば、ノギンおよびフォリスタチン)は、リガンドサブクラスに対する限定的な特異性を有する。シグナルレセプターが、リガンドに対する限定的な親和性を有するが、リガンドヘテロ四量体は、特定のリガンドに対するいくぶん的確な特異性を示す。中和抗体は、特定のリガンドまたはレセプターに特異的であり、そしてまた、このシグナリング系の構造多様性によって制限される。
【0008】
BMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路を特異的に拮抗する薬理学的因子は、治療用途または実験用途においてこれらの経路を操作するために使用され得る。しかし、TGF−β経路またはBMP経路のいずれかに対する特異性を有する低分子を同定するための伝統的な生物化学アプローチは、TGF−β/BMPレセプターの全体的な構造類似性によって阻まれている。例外は、SB−431542であり、SB−431542は、BMPシグナリングを媒介するレセプターに対する作用を有さないTGF−β1アクチビンレセプター様キナーゼ(ALK)の選択的インヒビターである。BMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路に特異的である化合物の同定を可能にするアプローチは、これらの経路に関連する疾患および状態(例えば、上に記載されるもの)を処置することに使用するための治療剤の開発において有益である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Massagueら,Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.1:169−178,2000
【非特許文献2】Nguyenら,Dev.Biol.199:93 −110,1998
【非特許文献3】Furthauerら,Dev.Biol.214:181−196,1999
【非特許文献4】Mintzerら,Development 128:859−869,2001
【非特許文献5】Schmidら,Development 127:957−967,2000
【非特許文献6】Zhao,Genesis 35:43−56,2003
【非特許文献7】Waiteら,Nat.Rev.Genet.4:763−773,2003
【非特許文献8】Papanikolaouら,Nat.Genet.36:77−82,2004
【非特許文献9】Shoreら,Nat.Genet.38:525−527,2006
【非特許文献10】Sebaldら,Biol.Chem.385:697−710,2004
【非特許文献11】Noheら,Cell Signal 16:291−299,2004
【非特許文献12】Babittら,Nat.Genet.38:531−539,2006
【非特許文献13】Babittら,J.Biol.Chem.280:29820−29827,2005
【非特許文献14】Pigeonら,J.Biol.Chem.276:7811−7819,2001
【非特許文献15】Fraenkelら,J.Clin.Invest.115:1532−1541,2005
【非特許文献16】Nicolasら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99:4596−4601,2002
【非特許文献17】Nicolasら,Nat.Genet.34:97−101,2003
【非特許文献18】Nemethら,Science 306:2090−2093,2004
【非特許文献19】Papanikolaouら,Nat.Genet.36:77−82,2004
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
本発明は、(i)ホールアニマル(whole−animal)(例えば、ゼブラフィッシュ)スクリーニングの開発、(ii)細胞ベースのELISAスクリーニングの開発、および(iii)BMPインヒビターの新規クラスの同定に基づく。したがって、第1の局面において、本発明は、骨形成タンパク質(BMP)シグナリングまたはトランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナリングを阻害する化合物を同定する方法を提供する。上記方法は、ゼブラフィッシュ胚と候補化合物とを接触させる工程および上記胚の表現型を観察する工程を包含し得る。このような方法において、未処理のコントロールと比較した場合の上記胚の背側化の検出が、BMPシグナリングを阻害する化合物の同定を示し、一方で、未処理のコントロールと比較した場合の単眼症または頭のサイズの減少の検出が、TGF−βシグナリングを阻害する化合物の同定を示す。
【0011】
第2の局面において、本発明は、BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングをモジュレートする化合物を同定する方法を提供し、その方法は、以下の工程を包含する:(i)細胞と候補化合物とを接触させる工程;(ii)メタノール処理(例えば、氷冷メタノール処理および/または10〜15分間のメタノール処理を使用する)によって上記細胞の原形質膜および核膜を透過性にし、そして上記細胞中のタンパク質を沈殿させる工程;(iii)グルタルアルデヒド(例えば、0.25%〜2%グルタルアルデヒドの溶液および/または10〜15分間の処理を使用する)によって沈殿したタンパク質を架橋する工程;(iv)二官能性アミン(例えば、25〜200mMの濃度および8〜10のpHにおいて使用されるリジン、エチレンジアミン、およびフェニレンジアミン)によって上記グルタルアルデヒドをクエンチ(quench)する工程;ならびに(v)未処理の細胞と比較した場合の化合物処理した細胞におけるSMAD2またはSMAD1/5/8のリン酸化に対する上記候補化合物の効果を(例えば、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)分析を使用して)決定する工程。このような方法において、SMAD1/5/8の増大したリン酸化の検出が、BMPシグナリングを活性化する化合物の同定を示し、SMAD1/5/8の減少したリン酸化の検出が、BMPシグナリングを阻害する化合物の同定を示し、SMAD2の増大したリン酸化の検出が、TGF−βシグナリングを活性化する化合物の同定を示し、そしてSMAD2の減少したリン酸化の検出が、TGF−βシグナリングを阻害する化合物の同定を示す。
【0012】
第3の局面において、本発明は、BMPシグナリングの阻害によって利益を得る被験体における疾患または状態を処置または予防する方法を含み、その方法は、TGF−βシグナリングと比較してBMPシグナリングを選択的に阻害する1種以上の化合物を被験体に投与する工程を包含する。1つの例において、上記化合物は、6−[4−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−フェニル)]−3−ピリジン−4−イル−ピラゾロ[1,5−a]−ピリミジン(本明細書中で「化合物C」および「ドルソモルフィン(dorsomorphin)」と称される)であるが、他の例において、上記化合物は、図16に示される化合物から選択される。これらの方法に従って処置または予防される疾患または状態は、例えば、からなる群より選択される家族性または散発性の原発性肺高血圧症、心臓弁奇形、癌(例えば、乳癌、前立腺癌、腎細胞癌、骨転移、骨肉腫、および多発性骨髄腫)、貧血、血管の石灰化、アテローム性動脈硬化症、弁の石灰化、腎性骨形成異常症、炎症性障害(例えば、強直性脊椎炎)、および進行性骨化性線維形成異常症であり得る。本発明はまた、疾患および状態(例えば、本明細書に記載されるもの)の予防および処置における本明細書に記載されるようなBMPシグナリングモジュレーターおよびTGF−βシグナリングモジュレーターの使用を含む。
【0013】
第4の局面において、本発明は、TGF−βシグナリングの阻害によって利益を得る被験体における疾患または状態を処置または予防する方法を含み、その方法は、BMPシグナリングと比較してTGF−βシグナリングを選択的に阻害する1種以上の化合物を被験体に投与する工程を包含する。これらの方法に従って処置または予防される疾患または状態は、例えば、線維性疾患(例えば、肝臓、腎臓、または肺の線維性疾患)あるいはマルファン症候群の弁または大動脈の異常であり得る。
【0014】
本発明はまた、疾患および状態(例えば、本明細書に記載されるもの)の予防および処置における本明細書に記載されるようなBMPシグナリングモジュレーターおよびTGF−βシグナリングモジュレーターの使用を含む。
【0015】
第5の局面において、本発明は、本明細書に記載されるようなBMPシグナリングおよびTGF−βシグナリングをモジュレートする化合物を含む薬学的組成物を含む。1つの例において、上記化合物は、BMPを阻害する6−[4−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−フェニル)]−3−ピリジン−4−イル−ピラゾロ[1,5−a]−ピリミジン(化合物C/ドルソモルフィン)である。
【0016】
第6の局面において、本発明は、細胞(例えば、胚性幹細胞または成体幹細胞)の表現型を改変する方法を提供する。これらの方法は、上記細胞と骨形成タンパク質(BMP)インヒビター(例えば、本明細書に記載される方法を使用して同定されるBMPインヒビター(例えば,6−[4−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−フェニル)]−3−ピリジン−4−イル−ピラゾロ[1,5−a]−ピリミジン(化合物C/ドルソモルフィン)))とを接触させる工程を包含する。特定の条件下で、BMP4シグナリングは、多能性を維持するために作用するので、胚性幹細胞におけるBMPシグナリングの阻害は、分化を促すために使用され得る(Qiら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.101:6027−6032,2004)。また、他の条件下で、胚性幹細胞におけるBMPシグナリングの阻害は、BMPシグナリングが分化を誘導するように作用する場合、多能性の維持を支援するために使用され得る(Xuら,Nat.Methods 2:185−190,2005;Xuら,Nat.Biotechnol.20:1261−1264,2002)。
【0017】
本発明は、いくつかの利点を提供する。例えば、本発明のスクリーニング方法は、BMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路に特異的である化合物の同定を容易にする。本明細書中の他の場所で考察される通り、BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングに対する特異性を有する化合物を同定することは、これらの経路の複雑性および高度の類似性に起因して、過去に挑戦されている。しかし、このような特異性を得ることは、これらの経路がいくつかの状況において反対の活性を有するので重要である。
【0018】
BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングに特異的である化合物の同定を容易にすることに加えて、本発明のスクリーニング方法はまた、他の利点を提供する。例えば、処理された胚において観察される古典的な形態学の分析を含むホールアニマルベースの方法を使用すると、BMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路に対する特異性の程度がインビボで特異的作用を達成するために充分であるが、リード化合物の開発段階において早期に確保される。さらに、以下で詳細に考察される通り、細胞培養ベースの方法は、特異性、速度、および費用に関する利点を提供する。
【0019】
本発明によって同定され得るようなBMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングの低分子モジュレーターは、ノギンおよびフォリスタチンなどの組換え内因性BMPインヒビターを上回る利点を提供する。なぜならば、組換え内因性BMPインヒビターは、インビボで投与するためには非常に高価であり、グラム量のタンパク質の静脈内投与を必要とし、疎水性であり得るか、または溶液中での安定性の懸案事項を有し得るからである。さらに、組換え内因性BMPインヒビターは、それらの特異性が多様なBMPリガンドのうちの小さいサブセットに対するものに限定される。さらに、治療剤としての組換えタンパク質の使用に対する別の制限は、免疫応答を誘発する可能性であり、このことは、その組換えタンパク質の効力を制限しそして/またはレシピエントにおいて疾病を急激に引き起こす。低分子モジュレーターのさらなる利点は、その低分子モジュレーターが経口的に利用可能であり得、したがって、投与および処置のコンプライアンスを促進し得ることである。治療方法における化合物C/ドルソモルフィンの使用は、BMPシグナリングに対するその特異性だけでなく、マウスは1日あたり10〜30mg/kgの用量を明らかな毒性を伴わずに許容し得ることが示されていることにも起因して、有利である(Kimら,J.Biol.Chem.279:19970−19976,2004)。
【0020】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、図面および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ゼブラフィッシュ胚の背側化を示す一連の画像である(パネルD〜Eは、Kramerら,Dev.Biol.250:263−279,2002Sから複製および適用されている)。受精後の時間(hpf)で36時間における野生型胚は、正常な頭、尾、および腹びれの構造を示す(B〜C)。選択的BMPインヒビターによって処理された胚は、背側化およびBMPシグナリングの特異的阻害の両方と一致して、36hpfにおける腹びれの発達の低下を示すか、または他の例において、24hpfの非常に減弱した尾の発達を示す(D〜E)。異なるsmad5対立遺伝子を有する背側化した胚。選択的BMPインヒビターによって処理された胚は、smad5遺伝子中の変異によってもたらされた背側化の範囲をかなり模倣する。
【図2】図2は、単眼症の表現型を示す一連の画像である(パネルA〜Bは、それぞれ、Tianら,Development 130:3331−3342,2003;およびFeldmanら,Nature 395:181−185,1998から複製および適用されている)。A.単眼体(TGF−β遺伝子)遺伝子の変異を有する胚。B.斜視および単眼体の二重変異胚。斜視遺伝子はまた、TGF−β遺伝子ファミリーのメンバーをコードする(C〜D)。選択的TGF−βインヒビターによって処理された胚は、単眼症および重度の頭のサイズの減少を示す。
【図3】図3は、野生型(WT)およびBMP II型レセプターノックアウト(KO)細胞(左のパネル)における、細胞ELISAによるBMP−4媒介性SMAD作用の高感度な検出を示す2つのグラフである。KO細胞は、先に示される(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005)通り、BMP7の作用に対する選択性の増大を示す(右のパネル)。
【図4】図4は、細胞ELISAによってアッセイされたBMP4によるSMAD1/5/8の活性化が化合物C/ドルソモルフィンによって強力かつ優先的に阻害されることを示すグラフである。化合物C/ドルソモルフィンは、0.2μM未満のIC50でBMPシグナリング経路の活性化を強力に阻害する。
【図5】図5は、化合物C/ドルソモルフィンの構造の概略図である。この化合物は、約15〜30μMのIC50をその経路に対して有するAMPキナーゼのインヒビターとして先に記載されている(Zhouら,J.Clin.Invest.108:1167−1174,2001)。
【図6】図6は、BMP4によるSMAD1/5/8の活性化が化合物C/ドルソモルフィンによって優先的に阻害されることを示す。
【図7】図7は、化合物C/ドルソモルフィンがTGF−βシグナリング経路に影響を及ぼさないことを示す。
【図8】図8は、化合物C/ドルソモルフィンがBMPによって媒介されるMAPキナーゼ活性化を阻害しないことを示す。BMP4(20ng/ml)は、SMAD1/5/8のリン酸化を誘導し、そして先に示される(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005)通り、p38はPASMCにおけるウェスタンブロットによって測定される。化合物C/ドルソモルフィン(0.2μM〜40μM)は、p38活性化を阻害することなく用量依存的にSMAD1/5/8の活性化を阻害した。
【図9】図9は、ゼブラフィッシュ胚の発生における化合物C/ドルソモルフィンが背側化を誘導することを示す一連の画像である(パネルA〜Cは、Nguyenら,Dev.Biol.199:93−110,1998、およびFurthauerら,Dev.Biol.214:181−196,1999から複製および適用されている)。A.受精後の時間(hpf)で36時間の野生型胚は、正常な頭、尾、および腹びれの構造を示す。B.BMP2bの過剰発現は、36hpfにおいて、尾および尾びれの構造の過剰な発生を伴う腹側化、および減少した腹側の発生を示す。C.ノギン(BMP2およびBMP4の選択的インヒビター)の過剰発現は、36hpfにおいて、腹側の構造が保存されているが、減少した尾および腹びれの発生を伴う背側化を誘導する。D.36hpfにおける正常な野生型胚(E〜F)。5〜20μMの化合物C/ドルソモルフィンによって処理された胚は、背側化およびBMPシグナリングの特異的阻害の両方と一致して、36hpfにおいて低下した腹びれの発生を示すか、または別の例において、24hpfにおいて重度に減弱した尾の発生を示す。
【図10】図10は、化合物C/ドルソモルフィンが細胞毒性を伴わずにC2C12細胞におけるBMP媒介性の骨形成分化を阻害することを示す2つのグラフである。
【図11】図11は、化合物C/ドルソモルフィンがC2C12細胞の骨芽細胞分化転換を阻害することを示す一連のグラフである。
【図12】図12は、化合物C/ドルソモルフィンがI型レセプターALK2およびALK3の活性形態を阻害することを示す一連のグラフである。
【図13】図13は、ゼブラフィッシュにおけるカルセイン染色を示す画像である。
【図14】図14は、化合物C/ドルソモルフィンがゼブラフィッシュにおける椎骨の鉱化作用を破壊することを示す画像である。
【図15】図15は、化合物C/ドルソモルフィンがゼブラフィッシュにおける脳顔面頭蓋骨の鉱化作用を破壊することを示す画像である。
【図16】図16は、化合物C/ドルソモルフィンが受精後10日目のゼブラフィッシュにおいて全体の形態を破壊することなく骨の鉱化作用を阻害することを示す画像である。
【図17】図17は、化合物C/ドルソモルフィンおよびアナログ構造の概略図である。化合物C/ドルソモルフィン(中央)は、群が他のキナーゼ活性(VEGFR2またはKDR)の阻害について同様のプロフィールを有することが先に記載されているようないくつかの誘導体構造と一緒に示される。
【図18】図18は、化合物C/ドルソモルフィンがゼブラフィッシュ胚において背側化を誘導することを示す。(a)化合物C/ドルソモルフィンの構造が示される。(b)36hpfにおけるビヒクル処置の野生型(wt)ゼブラフィッシュ胚は、正常な背腹軸パターン形成を示す。胚(b〜e)は、側面図(左前方および右後方)において示される。(c)6〜8hpfにおける10μMの化合物C/ドルソモルフィン(dm)によって処理されたゼブラフィッシュ胚は、36hpfにおいて明らかな腹側尾びれ(ventral tail fin)の喪失を伴う軽度の背側化を示す。(d)6hpfにおける10μMの化合物C/ドルソモルフィンによって処理された偶発的な野生型胚は、48hpfにおいて異所性の尾(*)を発生した。(e)1〜2hpfにおける10μMの化合物C/ドルソモルフィンによって処理された胚は、腹側性に誘導された後方の組織を48hpfにおいて非常に欠く重度の背側化を示す。(f〜g)芽期(bud stage)(fは野生型である)において、2hpfにおいて化合物C/ドルソモルフィンによって処理された胚の腹側の図は、卵形状を示す(g)。(h〜i、左前方の側面図)10体節期(hは野生型である)において、2hpfにおいて化合物C/ドルソモルフィンによって処理された胚は、異常な尾芽形態を示す(i)。(l〜o)側面図から示される18体節期の野生型胚のインサイチュハイブリダイゼーションは、遠位の尾における腹側マーカーeve1の代表的な発現(矢印)を示す(j)。1hpfにおける化合物C/ドルソモルフィン(10μM)によって処理された胚は、遠位の尾におけるeve1発現を示さない(k)。(l〜m)6体節期(12hpf)の胚のインサイチュハイブリダイゼーションは、左前方および右後方の背面図によって示される。pax2.1によって表示された中脳・後脳境界(矢印)は、1hpfにおける化合物C/ドルソモルフィン処理によって横方向に拡大する(l、野生型と比較したm)。Krox2によって表示された菱脳節3および菱脳節5(矢印)、およびMyoDによって表示された体節中胚葉は、化合物C/ドルソモルフィン処理において横方向に拡大する(n、野生型と比較したo)。(p)単細胞期に1ngのコーディンモルホリノを注射された胚は、腹側化と一致して、36hpfにおいて拡大した尾部構造および内部細胞塊(矢印)を伴う低形質の頭部構造を示す。(q)対照的に、2hpfにおいて化合物C/ドルソモルフィン(20μM)によって処理されたコーディンモルファント胚は、ほとんど腹側化を示さないか、全く腹側化を示さない。
【図19】図19は、化合物C/ドルソモルフィンが処置の段階によって変化するゼブラフィッシュ胚における背側化表現型の範囲を誘導することを示す。背側化の程度の変化は、発生初期(0〜8hpf)の間の化合物C/ドルソモルフィン(10μM)による処理後に、受精後の時間(hpf)で48時間においてゼブラフィッシュ胚で観察された。(a)6〜8hpfにおいて処置され始めた胚は、軽度の背側化を示し、その背側化は、文脈において記載される尾びれの欠損に加えて、腹側尾びれの部分的な欠如(矢印)を誘導した。(b)4〜6hpfにおいて処理された胚は、やや湾曲した遠位の尾を有する胚の1/3の長さよりも大きい短縮された尾の計測によって特徴付けられる中程度の背側化欠損を示した。(c)2〜4hpfに処理された胚は、胚の1/3の長さよりも短い短縮かつ湾曲した尾の計測によって特徴付けられる重度の背側化欠損を示した。発生の異なる段階における化合物C/ドルソモルフィン処理の背側化効果の浸透度および重篤度は、表1に示される。
【図20】図20は、AMPK α−サブユニットノックダウンがゼブラフィッシュ胚において背側化を引き起こさないことを示す。ゼブラフィッシュの発生における不十分なAMPK活性の効果を評価するために、1細胞期の胚は、ヒトAMPK、αA(CACCCTGGAAAGTTTTACCTTTGAC)(エキソン1−イントロン1境界)およびαB(TAAATGAACAGACTTAACTCTTCAC)(エキソン1−イントロン1境界)の触媒性α−サブユニットのゼブラフィッシュオルソログに対するスプライス標的モルホリノを注射され、そして24hpfの表現型について試験された。8ngのいずれかのモルホリノを単独で注射された胚は、任意の表現型を示さなかった。(a〜e)4ngの両方のモルホリノの各々を用いた胚の注射は、共に、軽度の発達遅延を引き起こすか(c〜d、対コントロールa〜b)、またはいくつかの場合において(8%未満の胚)、壊死性の頭および尾の表現型を引き起こした(e)。上記表現型は、化合物C/ドルソモルフィン処理によって示された背側化と類似していなかった。(f)AMPK αA+αBモルホリノの両方を注射された胚におけるAMPK α−サブユニットの発現は、正常にスプライシングされた転写物の存在についてRT−PCRによって試験された。コントロールとしてβ−アクチン発現を使用すると、これらのモルホリノは、AMPK αA(97%ノックダウン)転写物およびAMPK αB(99%ノックダウン)転写物の発現を効率的に抑制した。
【図21】図21は、化合物C/ドルソモルフィンがBMP I型レセプター機能を阻害することによってSMADのBMP媒介性の活性化を阻害することを示す。(a)30分間にわたるBMP4(20ng/ml)によるPASMCの処理は、イムノブロットによって検出されるBR−SMAD(1、5、および8)およびMAPK p38のリン酸化を誘導した。30分間にわたる0.2〜40μMの化合物C/ドルソモルフィン(DM)による前処理は、BMP4媒介性SMAD1/5/8リン酸化の用量依存性の阻害を誘導したが、同じ条件下で、MAPK p38のBMP4媒介性リン酸化に影響を及ぼさなかった。等価のタンパク質負荷は、総SMAD1およびα−チューブリンの検出によって確認された。(b)PASMCを化合物C/ドルソモルフィン(0.1〜50μM)と一緒にインキュベートすることによるBMP4刺激性のSMAD1/5/8リン酸化の阻害のヒルプロットは、0.47μMの機能的IC50を示す。(c)化合物C/ドルソモルフィンとは対照的に、30分間にわたるノギン(100〜200ng/ml)による細胞の前処理は、MAPK p38およびSMAD1/5/8のBMP4媒介性リン酸化を阻害した。(d)化合物C/ドルソモルフィン(4μM)による前処理は、30分間のPASMCにおいてBMP2、4、6、および7(10ng/ml)によるSMAD1/5/8の活性化を阻害し、そしてリン酸化されたSMAD/1/5/8のレベルを、BMPによって処理されなかった細胞における基礎レベルを下回って減少させた。(e)TGF−β1(0.5ng/ml)によるPASMCの処理は、SMAD2リン酸化を誘導した。化合物C/ドルソモルフィン(0.1〜20μM)による前処理は、30分間におけるSMAD2のTGF−β1媒介性活性化を阻害しなかった。(f)アクチビンA(80ng/ml)によるPASMCの処理は、SMAD2のリン酸化を誘導した。化合物C/ドルソモルフィンは、SMAD2のアクチビンA媒介性活性化を10μM以上の濃度で中程度にのみ阻害した。(g)構成的に活性なI型レセプターcDNA(caALK2、caALK3、またはcaALK6)によるBMPR−II欠損PASMCの一過性トランスフェクションは、イムノブロットによって検出される細胞抽出物におけるリン酸化されたSMAD1/5/8のレベルを増大させた。化合物C/ドルソモルフィン(10μM)との同時インキュベーションは、caALKトランスフェクションによって見られるホスホ−SMAD1/5/8の増大を阻害した。(h)caALK2、caALK3、またはcaALK6によるBMPR−II欠損PASMCの一過性トランスフェクションは、Id1プロモーター活性の5倍〜12倍の増大をもたらした(BRE−Luc)。構成的に活性なI型レセプターの各々によって媒介されるId1プロモーター活性は、用量依存様式における化合物C/ドルソモルフィン(caALK2については0.1〜5μM、caALK3については0.25〜10μM、およびcaALK6については0.5〜20μM)による同時処理によって低下した。
【図22】図22は、化合物C/ドルソモルフィンがMAPK p38、TGF−βおよびアクチビンシグナリングの存在においてSMADのBMP媒介性活性化を阻害することを示す。(a)30分間にわたるBMP4(20ng/ml)によるPASMCの処理は、イムノブロットによって検出されるBR−SMAD(1、5、および8)およびMAPK p38のリン酸化を誘導した。30分間にわたる0.2〜40μMにおける化合物C/ドルソモルフィン(DM)による前処理は、BMP4媒介性SMAD1/5/8リン酸化の用量依存性の阻害を誘導したが、同じ条件下でMAPK p38のBMP4媒介性リン酸化に影響を及ぼさなかった。等価のタンパク質負荷は、α−チューブリンの検出によって確認された。(b)化合物C/ドルソモルフィンとは対照的に、30分間にわたるノギン(100〜200ng/ml)による細胞の前処理は、MAPK p38およびSMAD1/5/8のBMP4媒介性リン酸化を阻害した。(c)化合物C/ドルソモルフィン(4μM)による前処理は、30分間のPASMCにおいて2、4、6、および7(10ng/ml)によるSMAD1/5/8の活性化を阻害し、そしてリン酸化されたSMAD/1/5/8のレベルを、BMPによって処理されなかった細胞における基礎レベルを下回って減少させた。(d)TGF−β1(0.5ng/ml)によるPASMCの処理は、SMAD2リン酸化を誘導した。化合物C/ドルソモルフィン(0.1〜20μM)による前処理は、30分間においてSMAD2のTGF−β1媒介性活性化を阻害しなかった。(e)アクチビンA(80ng/ml)によるPASMCの処理は、SMAD2のリン酸化を誘導した。化合物C/ドルソモルフィンは、SMAD2のアクチビンA媒介性活性化を10μM以上の濃度で中程度にのみ阻害した。
【図23】図23は、BMPR−II欠損細胞におけるBMPシグナリングに対する化合物C/ドルソモルフィンの効果を示す。BMPR−II欠損PASMCは、化合物C/ドルソモルフィンの存在または非存在において種々のBMPによって処理された。抽出物は、SDS−PAGEによって分画され、次いでリン酸化されたSMAD1/5/8およびα−チューブリンに特異的な抗体を使用してイムノブロットされた。BMP2、4、6、および7(10ng/ml)は、BMPR−II欠損PASMCにおいて30分間でSMAD1/5/8の活性化を誘導した。化合物C/ドルソモルフィン(4μM)による前処理は、BMPR−II欠損細胞においてBMPリガンドによるSMAD1/5/8の活性化を阻害し、このことは、化合物C/ドルソモルフィンによるBMPシグナリングの阻害がBMPR−IIを必要としなかったことを示す。
【図24】図24は、化合物C/ドルソモルフィンが活性なI型レセプターALK4、ALK5、およびALK7によって媒介される転写を阻害しないことを示す。構成的に活性なI型レセプター(caALK4、caALK5、またはcaALK7)をコードするcDNAによるPASMCの一過性トランスフェクションは、PAI−1プロモーター活性(CAGA−Luc)の2倍〜5倍の増大をもたらした。cDNAトランスフェクション単独によるCAGA−Luc活性の最大レベルの%として示されるPAI−1プロモーター活性は、20μMまでの濃度で化合物C/ドルソモルフィンを用いた同時処理によって低下しなかった。
【図25】図25は、化合物C/ドルソモルフィンがインビトロで骨形成分化を阻害し、インビボで骨鉱化作用を阻害することを示す。(a)BMP4またはBMP6によるC2C12細胞の処理は、骨芽細胞の分化と一致して、5日間の培養後にアルカリホスファターゼ活性の発現をもたらした。化合物C/ドルソモルフィン(4μM)による前処理は、アルカリホスファターゼ活性のBMP媒介性誘導を阻害した(各条件についてn=6、平均±S.Dとして示される結果)。(b)化合物C/ドルソモルフィンによるC2C12細胞の処理は、DNA結合色素(CyQuant)を使用してアッセイされる細胞数に影響を及ぼさなかった。(c〜e)10dpfにおけるカルセイン蛍光染色によるゼブラフィッシュの石灰化した骨格構造の可視化、左側面図。野生型のDMSO処理された魚は、11〜14セグメントの正常な椎骨染色を示した(c)。化合物C/ドルソモルフィン(1〜4μM)による24hpfにおけるゼブラフィッシュの処理は、10dpfにおいて背側化の形跡を伴わない生存可能な魚をもたらした。しかし、椎骨セグメントおよび脳顔面頭蓋骨の石灰化の減少は、化合物C/ドルソモルフィン処理した魚 対 ビヒクル処理した魚によって観察された(d〜e)。(f)4μMの化合物C/ドルソモルフィン処理によって、石灰化した椎骨の数の有意な減少(P<0.001)が、観察された(DMSOについてはn=19;化合物C/ドルソモルフィン処理(DM)についてはn=18、平均±S.D.として示される結果)。
【図26】図26は、化合物C/ドルソモルフィンによって処理された発生中のゼブラフィッシュは、低下した椎骨および脳顔面頭蓋骨の石灰化を示すが、他の点では生存可能である。(a)24hpf(背腹軸特定の完了後)に化合物C/ドルソモルフィン(1〜4μM)によるゼブラフィッシュの処理は、背側化をもたらさなかったが、10dにおいて椎骨セグメントおよび脳顔面頭蓋骨の石灰化の形跡を減少させた。(b)しかし、処理された魚は、野生型コントロールの魚と比較して、明視野顕微鏡によって形態学的に全体として正常であり、かつ生存可能であるように見える(c)。
【図27】図27は、化合物C/ドルソモルフィンが培養された肝細胞腫由来細胞においてBMP誘導性ヘプシジン発現およびHJV誘導性ヘプシジン発現を阻害することを示す。(a)BMP2(25ng/ml)によるHep3B細胞の処理は、ヘプシジンルシフェラーゼレポーターアッセイ(Hep−Luc)によって測定される場合、未処理の細胞と比較してヘプシジンプロモーター活性をほぼ50倍増大させた。化合物C/ドルソモルフィン(10μM)による同時処理は、BMP2によるヘプシジンプロモーター活性の誘導を廃絶した(三連の測定値、平均±S.D.として示される結果)。(b)HJVによるHep3B細胞のトランスフェクションは、ヘプシジンプロモーター活性を12倍増大させた。化合物C/ドルソモルフィンによる処理は、ヘプシジンプロモーター活性のHJV媒介性の増大を遮断した(三連の測定値、平均±S.D.として示される結果)。(c)ヘプシジンmRNAのレベルは、HepG2細胞においてqRT−PCRによって測定された。化合物C/ドルソモルフィン(10μM)による処理は、基礎のヘプシジン発現を50分の1に減少させた。BMP2による処理は、基礎レベルを上回ってヘプシジンを16倍増大させた。BMP2と組み合わせた化合物C/ドルソモルフィン(10μM)による処理は、ヘプシジンmRNAのレベルを基礎レベル未満に減少させた(三連の測定値、結果は平均±S.D.として示される)。(d〜e)Hep3B細胞において、qRT−PCRによって測定されたヘプシジンmRNAおよびId1 mRNAのレベルは、6時間にわたるIL−6(100ng/ml)処理に応答して増大した。化合物C/ドルソモルフィン(4μM)単独またはIL−6と組み合わせた化合物C/ドルソモルフィン(4μM)による処理は、ヘプシジンmRNAおよびId1 mRNAのレベルを基礎レベル未満まで減少させ、コントロール遺伝子(18S)の発現に対する効果を有さなかった(三連の測定値、結果は平均±S.D.として示される)。
【図28】図28は、AMPKの阻害がヘプシジンのBMP誘導性発現を阻害しないことを示す。Hep3B細胞において、BMP4(20ng/ml)は、4時間にわたる処理後にqRT−PCRによって測定されるヘプシジンmRNAのレベルを35倍増大させた。AMPK活性(250μM)を廃絶することが公知である濃度のAra−Aまたは化合物C/ドルソモルフィン(DM、4μM)単独による処理は、ヘプシジン発現のベースラインレベルを、それぞれ、40%および27%低下させた。BMP4による処理の30分前のAra−Aによる前処理は、BMP4がヘプシジン発現を誘導する能力に著しい影響を及ぼさなかったが、化合物C/ドルソモルフィンによる前処理は、BMP4に対する応答を完全に廃絶した(結果は平均±S.D.として示される、BMP4単独に対して
【数1】

)。
【図29】図29は、化合物C/ドルソモルフィンが鉄媒介性の肝臓BR−SMAD活性化およびヘプシジンの発現を阻害することを示す。(a)成体ゼブラフィッシュにおける鉄−デキストラン(Fe−Dex)の腹腔内注射は、デキストラン注射した魚(Dex)と比較して、1時間後の肝臓抽出物においてSMAD1/5/8リン酸化(α−チューブリンレベルに対して正規化される)のほぼ3倍の増大をもたらした(各群においてn=3、P<0.001)。(b)23μg/gの化合物C/ドルソモルフィンと鉄−デキストラン(Fe−dex+DM)との同時注射は、鉄−デキストランおよびビヒクル(Fe−dex+DMSO)を注射された魚と比較して、ゼブラフィッシュ肝臓においてSMAD1/5/8リン酸化をほぼ3分の1に減少させた(各群においてn=3、P<0.03)。(c)成体マウスにおける鉄−デキストランおよびビヒクル(Fe−Dex+DMSO)の静脈内注射は、デキストランおよびビヒクル(Dex+DMSO)を注射されたマウスと比較して、1時間後の肝臓抽出物において3倍よりも大きいSMAD1/5/8リン酸化の増大をもたらした。鉄−デキストランおよび化合物C/ドルソモルフィン(Fe−Dex+DM)を注射されたマウスは、肝臓SMAD1/5/8リン酸化の増大を示さなかった。(d)鉄−デキストランおよびビヒクル(Fe−dex+DMSO)を腹腔内に注射されたゼブラフィッシュは、デキストランおよびビヒクル(Dex+DMSO)を注射した魚と比較して、注射の3時間後において4倍よりも大きい肝臓ヘプシジンmRNAレベル(肝臓の脂肪酸結合タンパク質mRNAレベルに対して正規化される)の増大を示した(各群においてn=4、P<0.01、ANOVA)。鉄−デキストランと23μg/gの化合物C/ドルソモルフィン(Fe−dex+DM)との同時注射は、鉄−デキストラン処理した魚と比較
【数2】

して、ヘプシジンmRNAレベルをデキストラン処理した魚と有意に異ならないレベルまで減少させた。(e)C57BL/6マウスにおいて、化合物C/ドルソモルフィン(10mg/kg)の尾静脈単回注射は、6時間に肝臓ヘプシジンmRNAレベルをコントロールにおける肝臓ヘプシジンmRNAレベルの3分の1まで減少させた(各群においてn=6、P<0.0l、結果は平均±S.Dとして示される)。(f)C57BL/6マウスにおいて、12時間間隔で2回の化合物C/ドルソモルフィン(10mg/kg)の腹腔内注射は、最初の注射の24時間後に測定された血清鉄レベルを、60%を上回って増大させた(野生型においてn=8、化合物C/ドルソモルフィンにおいてn=7、P<0.001、結果は平均±S.Dとして示される)。パネルa、b、およびfは、各々、3つの独立した実験を示す一方で、パネルc〜eは、各々、2つの独立した実験を示す。(g)鉄のホメオスタシスにおけるBMPシグナリングの役割についての提案されたモデル。高い血清鉄レベル、HJV、およびIL−6は、全て、ヘプシジンの転写をアップレギュレートするために肝臓においてBMPシグナリングを必要とする。増大したヘプシジンレベルは、フェロポーチン分解および細胞内貯蔵から血液への鉄輸送の減少を引き起こす。化合物C/ドルソモルフィンによるBMPシグナリングの阻害は、基礎ヘプシジン転写を減少させ、より高い血清鉄レベルをもたらす。したがって、BMPシグナリングは、血清における鉄のフィードバック調節に必須である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(詳細な説明)
本発明は、(i)ホールアニマル(例えば、ゼブラフィッシュ)スクリーニングの開発、(ii)細胞ベースのELISAスクリーニングの開発、および(iii)BMPインヒビターの新規クラスの同定に基づく。したがって、第1の局面において、本発明は、骨形成タンパク質(BMP)シグナリングまたはトランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナリングを阻害する化合物を同定する方法を提供する。上記ゼブラフィッシュスクリーニングおよび細胞ベースのELISAスクリーニングは、BMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路をモジュレートする化合物を同定するために使用され得る。以下でさらに考察される通り、BMPインヒビターの新規クラスは、TGF−βシグナリングに対してほとんど影響を有することなくBMPシグナリングを特異的に阻害する化合物C/ドルソモルフィンによって例示される。このような化合物のさらなる例は、図17において示される。
【0023】
本発明はまた、変化したBMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングに関連する疾患および状態を処置する方法および変化したBMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングに関連する疾患および状態を予防する方法を提供し、その方法は、スクリーニング方法を使用して同定される化合物(例えば、本明細書中に記載されるもの(例えば、化合物C/ドルソモルフィン))の投与を包含する。したがって、例えば、本発明は、BMPシグナリングの阻害によって利益を得る疾患または状態を有する患者を処置する方法を含み、その方法は、ドルソモルフィンまたは関連する化合物の投与を包含する。それらの表現型を変化させるか、または維持するために培養細胞を操作する方法もまた、本発明に含まれる。例えば、化合物C/ドルソモルフィンなどの化合物は、幹細胞(例えば、胚性幹細胞または成体幹細胞)の分化を妨げるために使用され得るか、あるいは他の条件下で、所望の系統に沿って幹細胞を分化させるために使用され得る。
【0024】
本発明は、以下のように、さらに説明される。
【0025】
(治療方法)
BMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路をモジュレートする化合物(例えば、本明細書に記載されるスクリーニング方法を使用して同定された化合物)は、これらのシグナリング経路のモジュレーションから利益を得る疾患または状態を処置または予防する方法において使用され得る。これらの経路のモジュレーションによって処置され得る疾患および状態の例は、以下に記載されるものを含む。
【0026】
本発明者らは、骨形成タンパク質レセプター2(BMPR2)の欠損が心肺の異常(例えば、肺高血圧症)を引き起こし得るBMPシグナリングの増大をもたらし得る(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005)ことを示した。したがって、本発明によるBMPシグナリングの阻害は、心肺の疾患および状態を予防または処置するために使用され得る。例えば、本発明の方法は、罹患していない個体(例えば、肺高血圧症に対する遺伝的素因を有するもの)において家族性の原発性肺高血圧症および散発性の原発性肺高血圧症の発症を予防するために使用するためか、あるいは罹患した個体における疾患の進行を逆転するか、遅らせるか、または予防するために使用され得る。
【0027】
特定の先天性心臓弁奇形において、過剰なBMP刺激は、心室内または弁の前駆体における過剰または不十分な組織成長をもたらし得る(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005;Delotら,Development 130:209−220,2003)。本発明に従って、BMPシグナリングの阻害は、過剰なBMPシグナルを補正し、したがって正常な弁または心組織の成長を回復させるために行われ得る。
【0028】
過剰なBMPシグナリングは、BMP II型レセプター発現の喪失、またはBMP自体の過剰発現のいずれかに起因して、乳癌、前立腺癌、および腎細胞癌を含む特定の固形腫瘍の腫瘍形成に寄与し得る(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005;Waiteら,Nat.Rev.Genet.4:763−773,2003;Alarmoら,Genes Chromosomes Cancer 45:411−419,2006;Kimら,Cancer Res.60:2840−2844,2000;Kimら,Oncogene 23:7651−7659,2004;Kimら,Clin.Canc.Res.9:6046−6051,2003)。TGF−βおよびBMPは、炎症応答または免疫応答を減弱させ得(Choi KCら,Nat Immunology,7:1057−65,2006)、このことは、感染(すなわち,ウイルス、細菌、真菌、寄生生物、または結核菌)に対抗する個体の能力を損ない得る。したがって、BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングは、炎症応答または免疫応答を増大させ得る。本発明にしたがって、BMPシグナリングの阻害は、補助的または一次的な化学療法のいずれかとして、臨床上の利益に関してこのような腫瘍細胞(および他の腫瘍細胞型)の増殖を遅らせるかまたは廃絶するために行われ得る。また、BMPインヒビターは、特定の型の癌(例えば、前立腺癌および乳癌などの腺癌)の骨転移特性を妨害するために使用され得る。さらに、BMPシグナリングの阻害は、骨肉腫などの骨を形成する腫瘍において骨芽細胞の活性を改善するために(補助的または一次的な化学療法として)使用され得る。さらに、BMPインヒビターは、多発性骨髄腫、および他の骨を標的とする腫瘍などの状態において病理学的に増大する破骨活性(また、その標的遺伝子RANKLの作用を介してBMPによって調節される)を阻害するために使用され得る。
【0029】
別の例において、BMPシグナリングの阻害は、炎症性障害(例えば、強直性脊椎炎または他の「セロネガティブ」な脊椎関節症)における病的な骨形成/骨固定を改善するために行われ得る。
【0030】
さらなる例において、BMPシグナリングは、本発明に従って、鉄欠乏を処置および予防することにおいて使用するために阻害され得る。特に、BMPは、鉄吸収を遮断するヘプシジンのポジティブな調節因子である。したがって、BMPを阻害することは、鉄吸収を増大させ、および貧血および鉄欠乏性貧血に対する処置に寄与するために使用され得る。したがって、本発明の治療方法は、貧血を有する患者(例えば、鉄代償療法および/またはエポゲン(epogen)療法に対する不完全または緩徐な応答を有する患者)を処置するために使用され得る。
【0031】
本発明にしたがって、特異的なBMPモジュレーションはまた、治療用途のために特定の系列に対する幹細胞(例えば、胚性幹細胞)または組織の祖先細胞の分化を指揮するために使用され得る(Parkら,Development 131:2749−2762,2004;Pashmforoushら,Cell 117:373−386,2004)。例として、BMPシグナリングを活性化することが見いだされた化合物は、脈管構造の成長を促進する方法において使用するための血管芽細胞形成を促進するために使用され得る。
【0032】
別の例において、胚性幹細胞集団における低分子インヒビターによるBMPシグナルの操作は、自己複製または調節性の分化を促すために使用され得る。なぜならば、このプロセスは、ヒト胚性幹細胞におけるBMPシグナルとFGFシグナルとの間のバランスによって調節され、そしてマウス胚性幹細胞においてLIFと組み合わせたBMPの活性によって促進されるからである。
【0033】
BMPによって媒介される骨の異所形成または石灰化(例えば、病的な血管または心臓弁の石灰化、アテローム性動脈硬化症、および腎性骨形成異常症におけるもの)は、BMPインヒビターによって阻害され得る。補綴代用血管または補綴心臓弁の場合において、このことは、例えば、全身投与されるか、補綴材料中に直接組み込まれるによって行われ得る。
【0034】
進行性骨化性線維形成異常症(FOP)として公知である遺伝の稀な常染色体優性疾患は、最近、レセプターキナーゼが構成的に活性である傾向にあるALK2レセプターにおける変異から生じることが見出されている(Shoreら,Nat.Genet.38:525−527,2006)。不適切な骨形成(自然発生的および傷害に対して続発である)のような初期の小児期におけるこれらの疾患の発現,正常な身体中心部および四肢の骨格構成と並行に、「第2の骨格」の過剰な鉱化作用を引き起こす。BMPシグナリングの特異的インヒビターは、過剰な骨形成を予防するか、または病的な骨形成の後退を誘導するために使用され得る。望ましくないか、または病的な骨形成は、阻害され得、そして骨の後退は、BMPインヒビターの全身投与または局所投与によって達成され得る。
【0035】
TGF−βは、肝臓、腎臓、および肺を含むヒト線維性疾患における線維症の中心的メディエーターである。したがって、特異的TGF−βインヒビターは、これらまたは他の疾患状況において線維症を軽減するために使用され得る。
【0036】
マルファン症候群患者によって示される弁および大動脈の異常は、TGF−βシグナリングの病的なアップレギュレーションから生じると考えられる。したがって、特異的TGF−βインヒビターは、マルファン症候群の心臓血管の合併症を処置または予防するために使用され得る。
【0037】
異常なTGF−β/BMPシグナリングはまた、大動脈瘤、アテローム性動脈硬化症、および遺伝性出血性毛細管拡張症候群などのヒト疾患に環に関与している。したがって、これらのシグナリング経路をモジュレートする化合物は、これらおよび関連する疾患および状態の処置および予防にも使用され得る。
【0038】
BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングを阻害することに加えて、化合物は、これらの経路を活性化する本発明に従って同定され得る。BMPシグナリングを活性化する化合物は、例えば、骨の成長または発達の促進によって利益を得る疾患または状態の処置において使用され得る。したがって、このような化合物は、骨粗鬆症および骨減少症を処置するため、そして骨折した骨の治癒を促進するために使用され得る。さらに、BMPシグナリングを活性化する化合物は、腎臓虚血再灌流障害における急性尿細管壊死を処置するため、卒中再灌流障害を改善するため、そして炎症性腸疾患を改善するために使用され得る。BMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路をモジュレートする化合物は、当業者によって適切であると決定される投薬量および投与レジメンの使用によって被験体(例えば、ヒト、家庭内のペット、家畜、または他の動物)を処置するために使用され得、そしてこれらのパラメータは、例えば、処置される障害の型および程度、被験体の全体的な健康状態、上記化合物の治療指数および投与経路に依存して変動し得る。標準的な臨床試験は、本発明の任意の特定の薬学的組成物についての用量および投与頻度を最適化するために使用され得る。使用され得る例示的な投与経路は、経口、非経口、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、局所、頭蓋内、眼窩内、眼、脳心室内、関節内、脊髄内、嚢内、腹腔内、鼻腔内、エーロゾル、または坐剤による投与を含む。本発明において使用され得る処方物を作製するための方法は、当該分野において周知であり、そして例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第20版,A.R.Gennaro編),Lippincott Williams & Wilkins,2000において見出され得る。
【0039】
治療方法において患者に投与されることに加えて、本明細書で記載される化合物は、エキソビボで、患者(上記を参照のこと)に移植される細胞および組織、ならびに構造材料を処理するために使用され得る。例えば、上記化合物は、例えば、移植において使用され得る外植組織を処理するために使用され得る。
【0040】
(機構的研究および実験的研究)
本発明はまた、研究ツールとして本明細書中で記載される化合物の使用を含む。例えば、上記化合物は、本明細書通で記載されるような活性を有する他の化合物の開発において使用され得る。これらの方法において、本明細書中に記載される化合物は、さらなる化合物の設計のためのモデルまたは他の化合物を試験することにおけるコントロールとして使用され得る。
【0041】
さらに、本発明は、これらのシグナリングプロセスの研究において本明細書に記載される化合物(あるいは他のBMPシグナリング改変因子またはTGF−βシグナリング改変因子)の使用を含む。1つの例において、BMPインヒビターおよびTGF−βインヒビターは、細胞モデルもしくは動物モデルにおいてBMPシグナリングを減少させるためか、過剰なBMPシグナリングを補正し、そして疾患表現型を減少させるかためか、または他の疾患表現型を模擬する不十分なBMPシグナリングを誘導するために使用され得る。例えば、発生中の動物に対するBMP選択的インヒビターの投与は、BMPシグナリングに決定的に依存する心臓血管の発生および脈管形成の局面を撹乱し、したがってBMPシグナリング経路の異常または不十分な機能が関与する先天性心疾患または肺血管疾患を再現し得、このことは、有益な疾患モデルおよび見識を提供する(Waiteら,Nat.Rev.Genet.4:763−773,2003;Delotら,Development 130:209−220,2003)。別の例において、本発明の化合物(例えば、化合物C/ドルソモルフィン)は、インビボおよびインビトロにおいてBMP作用のSMAD依存的機構とSMAD非依存的機構との間を区別するために使用され得る。
【0042】
(スクリーニング方法)
上に記載される通り、本発明は、BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングのいずれかを特異的にモジュレートする化合物(例えば、低分子有機分子または低分子無機分子)を同定するための方法(例えば、ハイスループット法)を提供する。BMPおよびTGF−βは、レセプターおよび下流メディエーターの異なるサブセットを活性化し、そしてまた、異なる機能、およびときとして反対の機能を有する。しかし、上で考察される通り、TGF−β/BMPレセプターの全体的な構造類似性に起因して、伝統的な生物化学的方法によるTGF−β経路またはBMP経路に対して特異性を有する低分子の同定が、挑戦されている。本発明の方法は、下に記載される通り、これらの挑戦を克服し、そして特定のモジュレーター(アンタゴニストまたはアゴニスト)の同定を可能にする。
【0043】
(ホールアニマルスクリーニング方法)
ゼブラフィッシュにおいて、TGF−β依存性シグナリングカスケードおよびBMP依存性シグナリングカスケードは、胚形成パターンにおいて異なる役割を果たす。例えば、BMPシグナリングは、腹側細胞の運命を確立するために必要とされ、そしてBMPシグナリングの喪失は、胚の体軸の背側化をもたらす。対照的に、新規の(TGF−β)シグナリングは、腹側の脳および背側の中内胚葉を誘導するために背側の中胚葉において必要とされ、このようなシグナリングの減少は、単眼症および/または比較的小さい頭の形成を生じる。ゼブラフィッシュ胚におけるシグナリング経路のいずれかの阻害によってもたらされる異なる表現型は、本発明に従って、候補化合物と接触したゼブラフィッシュ胚の表現型解析によっていずれかの経路を阻害する化合物の同定を容易にする。
【0044】
これらの原理に基づいて、本発明者らは、優先的にBMPシグナリングを阻害するが、TGF−βシグナリングを阻害しない化合物(化合物C/ドルソモルフィン)を同定した。この化合物は、以下でさらに記載される。このスクリーニング方法によって提供される特異性のさらなる支援において、本発明者らは、SB−431542(TGF−β/アクチビン/nodalの分岐の公知の特異的インヒビター)がnodalシグナリングの喪失と一致する表現型(例えば、単眼症)であるが、背側化ではない表現型をもたらす。BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングのいずれかに対する各化合物の特異性は、本発明に従って、一方または他方の表現型を引き起こすが、両方の表現型を引き起こすわけではないか否かを決定し得る。上記アッセイはまた、非特異的毒性に対して高感度であり、その非特異的毒性は、代表的に、常同的な異常または死をあまりもたらさない。したがって、本発明の表現型ベースのホールアニマルスクリーニングプラットフォームは、発見のために使用され得、そして毒性化合物を同時に選択しながら、BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングの特異的な選択的インヒビターの最適化をもたらす。
【0045】
本発明のホールアニマルベースのスクリーニング方法の1つの例にしたがって、1〜2時間齢(hour old)のゼブラフィッシュ胚が、96ウェルプレートのウェルに配置される(1ウェルあたり3個の胚)。したがって、次いで数十種から数千種の様々な低分子から構成されるケミカルライブラリーは、約2〜10μMの最終濃度で上記ウェルにピントランスファー(pin−transfer)される。胚は、次の24〜48時間の過程にわたって観察され、BMPシグナリングの喪失(背側化した胚、図1)またはnodalシグナリングの喪失(単眼症、図2)と一致する表現型について手術用顕微鏡下で評点される。
【0046】
処理された胚における軸の背側化およびnodalシグナリングの喪失は、領域特異的分子マーカーとのインサイチュハイブリダイゼーションを使用して確認され得る。例えば、背側化した胚において、背側マーカーKrox20およびPax2.1は、大きく拡大するが、腹側外側マーカー(eve1)は、減少する。さらに、nodalシグナリング阻害に起因する背側の中内胚葉および腹側の神経構造の喪失は、グースコイドの喪失および尾の発現がないことの各々によって確認され得る。
【0047】
(細胞培養スクリーニング方法)
BMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路をモジュレートする化合物はまた、培養細胞を使用して同定および特徴付けられ得る。BMP経路の阻害は、BMP4によるSMAD1/5/8リン酸化の誘導を妨げるが、TGF−β経路の阻害は、TGF−βによるSMAD2リン酸化の誘導を遮断する。対照的に、BMP経路の活性化は、BMP4によるSMAD1/5/8リン酸化の増大をもたらすが、TGF−β経路の活性化は、TGF−βによるSMAD2リン酸化の増大をもたらす。この技術は、BMPまたはTGF−βに対する候補化合物の特異性を確認するために使用され得る。
【0048】
1つの例において、本発明の細胞ベースのアッセイは、SMADタンパク質(SMAD2またはSMAD1/5/8)の活性化が測定される酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)である。細胞内SMADタンパク質は、リン酸化(活性な)状態と非リン酸化(不活性な)状態との間で平衡して存在し、活性化されたタンパク質は、核に保持されている(Schmiererら,Mol.Cell.Biol.25:9845−9858,2005)。上で考察される通り、SMADタンパク質は、リガンドによって係合される場合、I型およびII型のBMPセリン−トレオニンキナーゼレセプターまたはTGF−βセリン−トレオニンキナーゼレセプターのヘテロマー複合体によってリン酸化される。これらのリガンドの主要な効果は、一般に、特定のSMADの活性化からの遺伝子転写に寄与し得る。リン酸化されたSMADは、ウェスタンブロッティングによって高い特異性で、市販の抗リンタンパク質抗体を使用して全細胞抽出物において検出され得る(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005)。
【0049】
本発明によって提供される改良された方法において、リン酸化されたSMADは、上記抗体にアクセス可能なホスホ−SMAD抗原を固定化および与えることによって高い感度および特異性を有する全細胞に検出される。1%〜8%のパラホルムアルデヒド溶液による伝統的な固定、およびその後のメタノールまたは希薄な界面活性剤(例えば、Triton−X100)の溶液による透過処理は、受容できない結果をもたらし、シグナルは、そのシグナルが検出される場合、バックグラウンドの1.2〜1.3倍のみである(ウェスタンブロットにおいて、これらの信号雑音比は、10〜20である)。この懸案事項は、核内可溶性タンパク質を架橋および固定化することができなかった固定プロセスの結果であり得、それは、パラホルムアルデヒドによって見られる表面電荷特性の大きな変化に起因して、次に、核の不完全な透過処理、固定によるネオエピトープ(neoepitope)の形成、または固定による隠蔽のような抗原の提示へと広がる。
【0050】
本発明は、10分間〜15分間にわたって氷冷メタノールを使用して最初に原形質膜および核膜を徹底的に透過性にし、そして細胞骨格構造を維持しつつタンパク質を沈殿させ、次いで10分間〜15分間にわたって生理食塩水中の0.25%〜2%のグルタルアルデヒド溶液を用いて室温にて沈殿したタンパク質を架橋させることによって上に記載した固定の懸案事項を克服する。これは、単独で、1.2〜3の信号雑音比における改善を達成し、これは、大きな改善であるが、依然として、高いバックグラウンドに起因して、辛うじてハイスループットスクリーニングに十分であるにすぎない。グルタルアルデヒド固定剤は、二官能性であり、近接しないことに起因して隣接するアミンと反応しない末端アルデヒドによって置換される、標的タンパク質上の多くのアミノ窒素をもたらす。このアルデヒドは、最終的に、カルボン酸まで酸化され、このカルボン酸は、元のアミン窒素とは反対の電荷であり、したがって表面電荷特性を変化させる。この改変を防止するために、上記グルタルアルデヒドは、代わりに、pH8〜10において25〜200mMの濃度の二官能性アミン分子(例えば、リジン、エチレンジアミン、またはフェニレンジアミン)によって「クエンチされる」。これらの分子は、一置換されたグルタルアルデヒド分子上の自由な(free)アルデヒドと反応してアミド結合を形成し、末端アミンまたはアミン/カルボン酸双性イオン(これらのいずれかは、元の電荷配置に近い)を脱離させる。本発明者らは、この工程が、ハイスループット用途のための多くの十分なマージンである信号雑音比を7〜10の範囲までさらに改良することを見出した。
【0051】
本発明者らはまた、このアッセイにおいて変異細胞を使用し、この変異細胞は、BMPII型レセプターを欠く。ウェスタンブロッティングおよび遺伝子発現研究からの結果(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005)と一致して、本発明者らは、これらの変異細胞がこのアッセイにおいてBMP7および同様のリガンドに対する実質的に上昇した感度を有することを見出す(図3)。この知見は、代わりのBMPレセプター(例えば、アクチビンII型レセプター)の使用によって説明され、その活性は、インタクトであり、およびBMP II型レセプターの非存在下で増強され得る。組換えBMP7は、いくつかの小動物疾患モデルにおいて有用なインビボ活性を有することが見出されている。野生型細胞と比較してこれらの変異細胞を使用するこのハイスループットアッセイの適用は、この代替的なシグナリング経路を標的とし、そして臨床的に有用な様式で特異的なBMP7模倣物(mimics)として機能する特定の分子を示すために使用され得る。
【0052】
このアッセイは、BMPリガンドによるSMAD経路の活性化を優先的に阻害する化合物を同定するために首尾よく使用されており、BMPシグナリング経路をモジュレートする低分子の同定のためのスクリーニングアッセイとしてのその有用性を示す。TGF−β媒介性SMAD2リン酸化およびBMP媒介性SMAD1/5/8リン酸化を検出するこのアッセイのバージョンを使用して、本発明者らは、化合物C/ドルソモルフィンがTGF−βレセプター系のセリン−トレオニンキナーゼ活性に対してBMPレセプターのセリン−トレオニンキナーゼ活性を優先的に阻害することを示す。したがって、このアッセイは、以前には任意の他の低分子のものと見なされていなかった新規の活性(BMPシグナリングの優先的な阻害)を有する化合物の同定を補助し、そしてこれらの2つの経路の各々に対する特異性および効力(IC50)における定量的データを提供した(図4)。
【0053】
上に記載されたアッセイは、いくつかの利点を提供する。例えば、それは、レポーター構築物による細胞の安定なトランスフェクションを必要とせず、したがって実質的に任意の細胞株に対する薬物選択を伴わずに初期継代の一次細胞によって実施され得る。それはまた、改良された特異性を提供する。特に、短い時間経過にわたって近位のシグナル伝達分子(SMAD)の活性化を測定することによって、このアッセイは、無関係の経路をモジュレートする、細胞毒性を引き起こすか、またはそうでなければ転写または翻訳を与える活性または化合物の偶発的な検出を回避する。本発明者らは、曝露の5〜60分後に測定されたSMADリン酸化が特定のリガンド(すなわち、BMPおよびTGF−β)またはそれらのインヒビター(すなわち、ノギンおよびフォリスタチン)によってのみモジュレートされ、そして非特異的な毒性または活性化(例えば、熱ショック、浸透圧ショック、非特異的および特異的なMAPキナーゼの活性化または阻害、ならびに遺伝子転写またはタンパク質翻訳の阻害)によってモジュレートされないことを見出す。対照的に、レポーター構築物の発現に依存するアッセイは、任意のこれらの因子によって容易に撹乱され得る。これらの制限は、BMPシグナリングまたはTGF−βシグナリングのアンタゴニストを同定しようとする場合、特に厄介である。なぜならば、レポーター発現法は、多くの非特異的アンタゴニストを同定する傾向があり得るからである。特異的BMPアゴニストまたは特異的TGF−βアゴニストの同定はまた、遺伝子転写がSMADの厳密な機能でも、転写補助抑制因子および転写活性化補助因子の厳密な機能(それらの活性は、経路に依存しない様式で化合物によってモジュレートされ得る)でもないので、レポーター発現法に限定されない。
【0054】
上に記載されたアッセイによって提供されるさらなる利点は、結果が細胞刺激後に3時間以内に得られ得るので、その迅速性に関係するが、しかしより高い感度が、より長い時間枠(例えば、12時間)にわたって達成され得る。さらに、上記アッセイは、それが他のアッセイ形式よりも少量でありかつ比較的安価な試薬を必要とするので、対費用効果が高く、そのアッセイをハイスループット用途に対して特に適切にする。
【0055】
上記アッセイはまた、任意の細胞型を使用するインビトロにおけるBMPシグナリング経路またはTGF−βシグナリング経路の生物学的モジュレーターの測定のためのアッセイとして研究において使用され得る。さらに、そのアッセイは、BMPのアゴニストまたはアンタゴニスト、あるいはTGF−βのアゴニストまたはアンタゴニストとして作用する治療可能性を有する化合物の、大きい処理量のスクリーニングのためのプラットフォームとして使用され得る。さらに、上記アッセイは、臨床的に関連し得るBMPシグナルまたはTGF−βシグナルに対するエキソビボ組織における異常な応答を検出するための診断ツール、および患者由来の組織サンプルから、例えば、BMPまたはTGF−βに対する腫瘍組織の応答における予後の情報または臨床病理学的な情報をもたらし得る診断ツールとして使用され得る。さらに、上記アッセイは、他の核内タンパク質のELISA分析の構成において使用され得る。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
上に記載したものなどのスクリーニング法を使用して、本発明者らは、骨形成タンパク質リガンドによるSMADの活性化を優先的に阻害する低分子を同定した。この分子(化合物C/ドルソモルフィン)は、AMPキナーゼシグナリング経路の活性化のインヒビターとして先に記載される(Zhouら,J.Clin.Invest.108:1167−1174,2001;Calbiochemカタログ番号171260;Sigmaカタログ番号P5499;図5)。
【0057】
BMP活性化およびTGF−β活性化に対する化合物C/ドルソモルフィンの効果を示す実験の結果が、図6および7に示される。図6に示される通り、本発明者らは、化合物C/ドルソモルフィンが、BMP4によるSMAD1、SMAD5、およびSMAD8の活性化によって示されるように、0.5μMのIC50でBMPシグナリングを阻害することを見出した(図6)。本発明者らはまた、その化合物がTGF−βシグナリング経路に影響を及ぼさないを見出した(図7)。化合物C/ドルソモルフィンは、約15〜30μMのIC50でAMPキナーゼ活性を阻害することが先に記載された(Zhouら,J.Clin.Invest.108:1167−1174,2001)。化合物C/ドルソモルフィンは、したがって、AMPキナーゼシグナリング経路に対して15倍〜60倍よりも大きい特異性でBMPシグナリングを阻害する。化合物C/ドルソモルフィンは、BMP4によって媒介されるMAPキナーゼp38の活性化の有意な阻害を示さない(図8)。以前の報告は、化合物C/ドルソモルフィンがまたPI−3キナーゼ、JAK、STAT、PKA、PKC、およびそれらのそれぞれのリガンドによる種々の他の経路の活性化の有意な阻害を示さないことを示した。
【0058】
本発明者らはまた、化合物C/ドルソモルフィンが最小限の非特異的毒性を有する特異的様式でインビボでのBMPシグナリングの阻害を示すことを見出す。BMPリガンドまたはそれらの内因性インヒビターのトランスジェニック過剰発現は、背腹軸パターン形成を変化させることによって初期(受精後0〜48時間、または0〜48hpf)ゼブラフィッシュ胚の発生を改変することが公知である(図9A〜C)。ゼブラフィッシュ胚におけるBMPの過剰発現は、腹側化として公知である、前方構造(anterior structure)の低下した発生を伴う腹側構造の過大な発生を引き起こす(Nguyenら,Dev.Biol.199:93−110,1998)。ノギンまたは他のBMPアンタゴニストの過剰発現は、低下した尾びれの発生から重度に減少した尾の発生までの重症度の範囲である背側化を引き起こす(Furthauerら,Dev.Biol.214:181−196,1999)。BMPアゴニズムまたはBMPアンタゴニズムから生じるこれらの古典的な形態学は、インビボでの活性の迅速な確認のための方法を提供し、提供される化合物は、上に記載したように、生物が利用可能である。このアッセイはまた、非特異的毒性に対して感度が高く。その非特異的毒性は、代表的に、あまり常同的ではない異常または死をもたらす。
【0059】
5〜20μMの化合物C/ドルソモルフィンに曝露されたゼブラフィッシュ胚は、BMPシグナリングの特異的阻害(図9D〜F)および他の非特異的毒性の非存在と一致する、ノギンを過剰発現するゼブラフィッシュ胚で見出される背側化の古典的な形態学の知見を伴う進行性の背側化を示す。ゼブラフィッシュにおける有効濃度が、インタクトなゼブラフィッシュ胚に対する分子のバイオアベイラビリティの違いに起因して培養細胞において見られるものとは異なり得ることに、留意すべきである。
【0060】
BMPリガンドは、多分化能C2C12筋線維芽細胞株を含む種々の細胞型における骨芽細胞分化および骨形成遺伝子発現を誘導することが公知である。この活性は、種々のBMPリガンドの骨形成可能性についての合理的な代理である。本発明者らは、4μMの化合物C/ドルソモルフィンがBMP4またはBMP6によって誘導されたC2C12細胞の骨形成分化(アルカリホスファターゼ活性によって測定される)をインビトロで完全に阻害することを見出した(図10)。この阻害は、100ng/mlのノギン(BMP2活性およびBMP4活性の優先的なインヒビター)による細胞の前処理によって見られる阻害よりも強力である。さらに、骨形成分化のこの阻害は、BMP、化合物C/ドルソモルフィン、ノギン、またはそれらの種々の組合せによる処理後の細胞数によってアッセイした場合、細胞毒性を伴わなかった(下のパネル)。C2C12分化に対する化合物C/ドルソモルフィンの効果を示すさらなる実験の結果を、図11に示す。
【0061】
化合物C/ドルソモルフィンは、野生型細胞およびBMP II型レセプターを欠く変異細胞においてBMPシグナリングを有効に中和する。本発明者らはまた、化合物C/ドルソモルフィンが野生型細胞およびBMP II型レセプターノックアウト細胞においてBMP2、4、6、7、および9の活性を有効に阻害することを見出す。これらの特質、およびAMPキナーゼのセリン−トレオニンキナーゼ活性を阻害することにおける化合物C/ドルソモルフィンの公知の(あまり強力ではない)活性は、化合物C/ドルソモルフィンがBMP I型レセプター(ALK2、ALK3、またはALK6)セリン−トレオニンキナーゼの活性を阻害し得ることを示す。化合物C/ドルソモルフィンがI型レセプターALK2、ALK3、およびALK6の活性形態を阻害することを示す実験の結果を、図12および図21hに示し、そして化合物C/ドルソモルフィンが骨鉱化作用を破壊することを示す実験の結果を、図13〜図16に示す。
【0062】
化合物C/ドルソモルフィンの構造アナログもまた、本発明の方法において試験および使用され得る。種々の程度の特異性および効力でVEGFR2を阻害すると以前に記載されているこのようなアナログの例を、図17に示す。
【0063】
化合物C/ドルソモルフィンを特徴付けるさらなる実験を、以下で実施例2において記載する。
【0064】
(実施例2)
骨形成タンパク質(BMP)シグナルは、発生パターン形成、器官形成、および組織リモデリングを協同し、そして成熟した生物において必須の生理学的役割を果たす。ここで、本発明者らは、ゼブラフィッシュにおける背腹軸形成を撹乱する化合物についてのスクリーニングにおいて同定されたBMPシグナリングの最初の公知である低分子インヒビター(化合物C/ドルソモルフィン)を記載する。初期胚発生の間における化合物C/ドルソモルフィンに対する曝露は、BMPシグナリングの遺伝的破壊に関連する背側化欠損の完全な範囲を再現し、そしてまた内因性BMPアンタゴニストであるコーディンのノックダウンを代償する。化合物C/ドルソモルフィンは、BMP I型レセプターALK2、ALK3、およびALK6を選択的に阻害し、したがってBMP媒介性SMAD1/5/8リン酸化、標的遺伝子の転写、および骨形成分化を遮断することが見出されている。化合物C/ドルソモルフィンを使用して、本発明者らは、ゼブラフィッシュおよびマウスの鉄ホメオスタシスにおけるBMPシグナリングの役割を試験した。インビトロにおいて、化合物C/ドルソモルフィンは、全身の鉄調節因子であるヘプシジンのBMP媒介性転写、ヘモジュベリン(hemojuvelin)媒介性転写、およびインターロイキン6媒介性転写を阻害し、このことは、BMPレセプターがこれらの刺激の全てによってヘプシジン誘導を調節することを示唆する。インビボにおいて、鉄による全身的なチャレンジは、肝臓におけるSMAD1/5/8リン酸化およびヘプシジン発現を迅速に誘導したが、化合物C/ドルソモルフィンによる処理は、SMAD1/5/8リン酸化、正規化されたヘプシジン発現、および増大した血清鉄レベルを遮断した。これらの知見は、鉄−ヘプシジンホメオスタシスにおける肝臓BMPシグナリングについての必須の生理学的役割および薬理学的なBMP阻害が高いヘプシジンレベルによって引き起こされる慢性疾患の貧血を処置するために使用され得ることを示唆する。
【0065】
(結果)
(化合物C/ドルソモルフィンは、ゼブラフィッシュ胚において背側化を誘導する)
実施例1において上に記載される通り、BMPシグナリングの低分子インヒビターを、BMPアンタゴニストが発生中のゼブラフィッシュ胚を背側化するという前提に基づいて、インビボスクリーニングアッセイを使用して探索した。7,500を超える化合物が、公知の生物活性分子からなる本発明者らの低分子コレクション、FDA承認薬物、および市販の分子多様性ライブラリー、ゼブラフィッシュ胚を、96ウェルプレートに配置し、そして受精後の時間(hpf)で4時間において開始される化合物と一緒にインキュベートし、そして24hpfおよび48hpfにおいて視覚的に評価した。本発明者らが化合物C/ドルソモルフィンと称する、腹側極に由来する構造の犠牲における球状胚の背側極に由来する構造の拡大によって発現される(Nguyenら,Dev.Biol.199:93−110,1998;Furthauerら,Dev.Biol.214:181−196,1999;Mintzerら,Development 128:859−869,2001;Schmidら,Development 127:957−967,2000)ようなゼブラフィッシュ胚の劇的かつ再現可能な背側化をもたらす1つの化合物(図18a)を、同定した(図18b〜図18e)。
【0066】
化合物C/ドルソモルフィンによって誘導された背側化の状況は、用量およびタイミングの関数として変化した。6〜8hpfにおいて添加された場合、化合物C/ドルソモルフィンは、ノギンを過剰発現するゼブラフィッシュおよびlost−a−fin(ALK8変異体)ゼブラフィッシュのもの(Mullinsら,Development 123:81−93,1996;Furthauerら,Dev.Biol.214:181−196,1999)に類似する腹側の尾びれの非存在として発現する軽度の背側化を引き起こした(図18b〜c)。6hpfにおいて化合物C/ドルソモルフィンによって処理したゼブラフィッシュは、時として、存在しない腹びれに加えて異所性の尾付属器を示し(図18d)、このことは、シールド期(shield stage)後に熱ショック誘導性のドミナントネガティブなBMP I型レセプターを発現するトランスジェニックゼブラフィッシュに似ている(Pyatiら,Development 132:2333−2343,2005)。化合物C/ドルソモルフィンを1〜2hpfにて胚に添加した場合、胚の腹側極に由来する尾の尾側構造および後方構造は、より著しく破壊され(図18e)、このことは、より重度のBMPシグナリング欠損を有する魚に似ている(Mullinsら,Development 123:81−93,1996)。実際に、2hpfにおける化合物の添加は、芽期における卵形の背側化した形態(図18f〜図18g)、および10体節期における異常な尾芽形態(図18h〜図18i)を有するlost−a−fin魚において観察されたものと同様の変化した原腸陥入および体節形成(Mullinsら,Development 123:81−93,1996)をもたらした。8hpf以下における5μM以上の化合物C/ドルソモルフィンによる胚の処理は、欠損したBMPシグナリングを有するゼブラフィッシュにおいて観察される高い浸透度、背側化欠損の範囲に関して表現型模写(phenocopy)した(図19ならびに表1および2)が、単眼症(欠損したTGF−βシグナリングに関連する表現型(Sampathら,Nature 395:185−189,1998))をもたらさなかった。
【0067】
化合物C/ドルソモルフィンは、上に記載した通り、10μM〜20μMの推定された機能的KでインビトロにおいてAMP活性化キナーゼ(AMPK)活性に拮抗することが先に示された分子である(Zhouら,J.Clin.Invest.108:1167−1174,2001)。AMPK阻害が背腹軸形成に対する化合物C/ドルソモルフィンの効果に寄与するか否かを試験するために、本発明者らは、C75およびAra−AなどのAMPK活性の構造的に関連しないインヒビター(Kimら,J.Biol.Chem.279:19970−19976,2004;Yoonら,Diabetes 55:2562−2570,2006)を試験した。これらのインヒビターは、ゼブラフィッシュ胚を背側化しなかったが、代わりに、背側化する濃度の化合物C/ドルソモルフィンによって観察されなかった非特異的毒性(例えば、発達遅延および死)を引き起こさなかった(表3)。さらに、モルホリノ注射によるゼブラフィッシュにおけるAMPK活性のノックダウンは、背側化を引き起こさなかった(図20)。化合物C/ドルソモルフィンは、レセプターチロシンキナーゼKDRの活性を阻害することが示された一連の化合物(Fraleyら,Bioorg.Med.Chem.Lett.12:2767−2770,2002)に構造的に関連する。しかし、本発明者らの実験において使用した化合物C/ドルソモルフィンの用量において、本発明者らは、体節間の血管の破壊された形成などのゼブラフィッシュの血管発生に対するKDR阻害の任意の公知の効果(Habeckら,Curr.Biol.12:1405−1412,2002)を観察しなかった(図18c〜図18f)。したがって、化合物C/ドルソモルフィン誘導性背側化は、AMPK阻害またはKDR阻害によって引き起こされない。
【0068】
(化合物C/ドルソモルフィンは、腹側マーカー発現を抑制し、そして背側マーカー発現を拡大させる)
背腹軸形成に対する化合物C/ドルソモルフィンの影響を確認するために、背側マーカーおよび腹側マーカーの発現が、試験される。18体節期における腹側マーカーeve1の発現は、背側化と一致して、化合物C/ドルソモルフィン処理した胚において減少した(Mullinsら,Development 123:81−93,1996)。6体節期において、pax2.1発現は、眼柄、中脳−後脳境界、および耳胞の境界を定める(Littleら,Birth Defects Res.C Embryo Today 78:224−242,2006)。化合物C/ドルソモルフィン処理は、これらの背側組織の拡大を誘導した(図181〜図18m)。同様に、化合物C/ドルソモルフィンは、krox20、菱脳節3および5のマーカー、ならびにmyoD(後方の筋節ののマーカー)の横方向への拡大を誘導した(図18n〜図18o)。したがって、化合物C/ドルソモルフィンは、ゼブラフィッシュBMP経路変異体において見られる背側化の効果と一致して、背側および腹側の発現マーカーの変化を誘導した(Littleら,Development 131:5825−5835,2004)。
【0069】
(化合物C/ドルソモルフィンは、コーディンモルファント胚における腹側化を逆転させる)
化合物C/ドルソモルフィンによる処理はゼブラフィッシュにおけるBMPアンタゴニズムを模擬するので、化合物C/ドルソモルフィンは内因性BMPアンタゴニストコーディンの喪失によって引き起こされる腹側化を減少させ得ることが、仮定される(Hammerschmidtら,Development 123:143−151,1996;Naseviciusら,Nat.Genet.26:216−220,2000)。ゼブラフィッシュに、1細胞期においてコーディンモルホリノ(1ng)を注射し、それは、尾構造および内部細胞塊(ICM)の拡大を伴う中程度の腹側化を引き起こした(図18p)(Naseviciusら,Nat.Genet.26:216−220,2000;Leungら,Dev.Biol.277:235−254,2005)。2hpfにおけるコーディンモルファントの化合物C/ドルソモルフィン処理は、腹側化およびICMの拡大を妨げた(図18q)。したがって、化合物C/ドルソモルフィン処理は、ゼブラフィッシュ胚における内因性BMPアンタゴニストの喪失を代償し、このことは、BMPアンタゴニストとしてのその機能を確認する。
【0070】
(化合物C/ドルソモルフィンは、SMAD依存性であるが、SMAD非依存性ではないBMPシグナルを阻害する)
BMPシグナリングに対する化合物C/ドルソモルフィンの効果を、インビトロで試験した。培養したマウス肺動脈平滑筋細胞(PASMC)は、BMPレセプターの補完を発現し、そして種々のBMPリガンドに対する応答において、SMAD1/5/8活性化、MAPK p38活性化、および分化インヒビター(Id)遺伝子(一般に、増殖を促進し、そして分化を阻害するように作用するドミナントネガティブに作用するベーシックへリックス−ループ−へリックス型転写因子の群)の転写を示す(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005;Miyazonoら,Sci STKE 2002,PE40,2002)。化合物C/ドルソモルフィンは、MAPK p38活性化に影響を及ぼすことなくBR−SMADのBMP4誘導性リン酸化を用量依存性の様式(IC50=0.47μM)で阻害した(図21a〜図21b)。SMAD1/5/8活性化およびMAPK p38活性化を機能的に分離する化合物C/ドルソモルフィンの固有の能力は、BMPが異なる機構によってこれらのエフェクターを活性化することを示唆する。化合物C/ドルソモルフィンとは対照的に、ノギンは、BMPリガンドの隔離によるSMAD依存性シグナリングおよびSMAD非依存性シグナリングの阻害と一致して、SMAD1/5/8およびMAPK p38の両方のBMP4誘導性リン酸化を阻害した(図21c)。化合物C/ドルソモルフィン(4μM)は、構造的に多様なBMPの活性を阻害し、BMP2、4、6、および7によるBR−SMAD活性化を遮断し(図21d)、そして未処理の細胞においてリン酸化SMADのレベルを基礎レベル未満まで減少させた。化合物C/ドルソモルフィンは、BMPシグナリングに対して阻害性である濃度以上において、TGF−β1またはアクチビンAによるSMAD2活性化を阻害しなかった(図21e〜図21f)。これらの結果を、図22a〜図22eにおいて定量的に記載する。
【0071】
(化合物C/ドルソモルフィンは、BMP I型レセプター機能を阻害する)
化合物C/ドルソモルフィンがBMP II型レセプターの機能を阻害するか否かを試験するために、本発明者らは、BMP II型レセプター(BMPR−II)を欠くPASMCにおいて化合物C/ドルソモルフィンを試験した。BMPR−II欠損細胞は、I型BMPレセプターを活性化するために、BMPR−IIに代えてアクチビンIIa型レセプター(ActR−IIa)を利用する(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005)。化合物C/ドルソモルフィンは、BMPR−II欠損細胞においてBMP2、4、6、および7によるシグナリングを阻害し(図23)、このことは、化合物C/ドルソモルフィンがBMPR−IIの存在下または非存在下においてBMPシグナルを阻害することを示す。この知見は、化合物C/ドルソモルフィンがII型レセプターの下流におけるBMP I型レセプターのシグナリングを阻害し得ることを示唆した。この仮説を試験するために、細胞を、BMP I型レセプターALK2、ALK3、ALK6の構成的に活性な(ca)形態によってトランスフェクトした。caALK2、caALK3、またはcaALK6によるトランスフェクションは、細胞抽出物においてSMAD1/5/8のリン酸化を増大させたが、化合物C/ドルソモルフィン(10μM)とのプレインキュベーションは、リン酸化SMAD1/5/8のこの増大を阻害した(図21g)。同様に、caALK2、caALK3、またはcaALK6によるトランスフェクションは、リガンドの非存在下でId1プロモーター(BRE−Luc)活性を5倍〜12倍増大させた。化合物C/ドルソモルフィンは、caALK2、caALK3、およびcaALK6の活性を阻害し、caALK6を上回るcaALK2およびcaALK3に対する明らかな選択性を有した(図21h)。同様の濃度において、化合物C/ドルソモルフィンは、構成的に活性なALK4、ALK5、またはALK7、TGF−βレセプターおよびアクチビンI型レセプターの機能を阻害しなかった(図24)。化合物C/ドルソモルフィンの、BMP媒介性SMAD1/5/8リン酸化を遮断する能力、およびSMAD1/5/8をリン酸化し、そして下流の転写を誘導する活性化BMP I型レセプターの能力を阻害する能力は、化合物C/ドルソモルフィンがBMP I型レセプターキナーゼ機能を阻害することを強力に主張する。
【0072】
(化合物C/ドルソモルフィンは、BMP媒介性の骨形成分化および骨鉱化作用を阻害する)
BMP媒介性シグナリングおよび転写活性を遮断する化合物C/ドルソモルフィンの能力は、化合物C/ドルソモルフィンがBMP誘導性の骨芽細胞分化を遮断し得ることを示唆した。筋線維芽細胞であるC2C12細胞におけるアルカリホスファターゼ活性は、5日間の培養後において、BMP4によって効率的に誘導され、そしてBMP6によってより低い程度に誘導された(図25a)。この活性は、4μM(細胞数に対する有意な効果が観察されなかった濃度(図25b))の化合物C/ドルソモルフィンの添加によってほぼ完全に廃絶された。これらの知見は、BMP機能の阻害と一致して、化合物C/ドルソモルフィンが多分化能の間葉由来細胞において細胞毒性を伴わずにBMP誘導性の骨形成分化を阻害することを示唆する。
【0073】
インビトロでの骨形成分化に対する化合物C/ドルソモルフィンの効果がインビボでの骨形成まで拡大され得るか否かを試験するために、本発明者らは、ゼブラフィッシュ胚おける骨鉱化作用を分析した。初期胚発生の間の背側化を回避するために、ゼブラフィッシュを、24hpfに始まる背腹軸の確立後に化合物C/ドルソモルフィンに曝露した。受精後10日目に、カルセイン染色を、骨鉱化作用を評価するために行った。化合物C/ドルソモルフィンによる処理は、コントロールの幼生と比較した場合、より少ないカルセイン染色された椎骨セグメントを伴う骨鉱化作用の阻害を生じた(図25c〜図25f)。変化した骨鉱化作用にかかわらず、化合物C/ドルソモルフィンによって処理した魚は、その他の点で、明視野顕微鏡によって形態学的および機能的に正常であるようであった(図26)。
【0074】
(化合物C/ドルソモルフィンは、BMP誘導性ヘプシジン転写、HJV誘導性ヘプシジン転写、およびIL−6誘導性ヘプシジン転写を阻害する)
BMP、HJV、およびIL−6は、培養した肝細胞(Babittら,Nat.Genet.38:531−539,2006;Truksaら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.103:10289−10293,2006;Nemethら,J.Clin.Invest.1 13:1271−1276,2004;Leeら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.101:9263−9265,2004)および培養した肝細胞腫細胞(Truksaら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.103:10289−10293,2006;Babittら,J.Clin.Invest.117:1933−1939,2007)においてヘプシジン発現を誘導する。HJVは、BMP補助レセプターとして機能するが、IL−6誘導性ヘプシジン発現がBMPシグナリングを必要とするか否かは、不明確である(Wangら,Cell Metab.2:399−409,2005)。BMP2による処理(図27a)またはHJVをコードするcDNAによるトランスフェクション(図27b)は、肝細胞腫由来Hep3B細胞においてヘプシジンプロモーターの転写活性を誘導した。BMP2誘導性ヘプシジンプロモーター活性およびHJV誘導性ヘプシジンプロモーター活性は、化合物C/ドルソモルフィンの添加によって両方とも有効に抑制された。HepG2細胞は、Hep3B細胞よりも高い基礎ヘプシジン発現を示す(Babittら,Nat.Genet.38:531−539,2006)。化合物C/ドルソモルフィンによる処理は、HepG2細胞において基礎ヘプシジン発現を、50分の1を上回って減少させ、そしてBMP2によるヘプシジン発現の誘導を廃絶した(図27c)。化合物C/ドルソモルフィンとは対照的に、AMPKを阻害するために十分な濃度でのAra−AによるHep3B細胞の処理(Chenら,Dev.Biol.291:227−238,2006)は、BMP誘導性のヘプシジンmRNA発現を損なわず、化合物C/ドルソモルフィンがAMPKに対する効果を介してヘプシジン発現を阻害しないことを疑わしくした(図28)。IL−6による処理は、Hep3B細胞においてヘプシジン発現およびId1発現を誘導したが、化合物C/ドルソモルフィンの添加は、ヘプシジンおよびId1の両方のIL−6媒介性誘導を遮断した(図21d〜図21e)。これらの知見は、BMP媒介性ヘプシジン発現、HJV媒介性ヘプシジン発現、およびIL−6媒介性ヘプシジン発現が、全て、BMP I型レセプターを介するシグナリングによって調節されることを示唆する。
【0075】
(化合物C/ドルソモルフィンは、肝臓において鉄媒介性のBR−SMAD活性化を阻害する)
インビボで、鉄は、ヘプシジンの肝臓発現を誘導して、過剰なフェロポーチン媒介性の鉄輸送を適応的に抑制する(Fraenkelら,J.Clin.Invest.115:1532−1541,2005;Nemethら,Science 306:2090−2093,2004)が、BMPシグナリングがこのフィードバックプロセスに関与するか否かは、不明確であった。ヘプシジンの鉄フィードバック調節におけるBMPシグナリングの潜在的な役割を確認するために、肝臓のSMAD1/5/8活性化に対する全身的な鉄チャレンジの効果を、試験した。成体ゼブラフィッシュにおける鉄−デキストランの腹腔内注射は、デキストラン注射したコントロールと比較して、1時間以内に肝臓抽出物においてSMAD1/5/8リン酸化のほぼ3倍の増大をもたらした(図29a)。ゼブラフィッシュに鉄−デキストランおよびドルソモルフィンを同時注射した場合、SMAD1/5/8リン酸化は、鉄−デキストランおよびビヒクルを注射した魚と比較して、ほぼ3分の1に低下した(図29b)。同様に、マウスにおいて、鉄−デキストランおよびビヒクルの静脈内注射は、デキストランおよびビヒクルを注射したマウスと比較して、1時間後に肝臓抽出物において3倍よりも大きいSMAD1/5/8リン酸化の増大をもたらした(図29c)。マウスにおける化合物C/ドルソモルフィンの同時注射は、肝臓のSMAD1/5/8リン酸化における鉄媒介性の増大を廃絶した。2つの種におけるこれらの観察は、肝臓のSMAD1/5/8活性化が鉄によって迅速に誘導され、そして化合物C/ドルソモルフィンによって有効に阻害されることを示す。
【0076】
(化合物C/ドルソモルフィンは、ゼブラフィッシュにおいて鉄誘導性のヘプシジン転写を阻害する)
全身的な鉄チャレンジは、インビボでヘプシジン発現を誘導することが公知であるが、原因である機構は、ヘプシジンプロモーターが鉄レベルの変化に応答することが公知である認識可能な転写エレメントを欠くので、完全に理解されていない。鉄チャレンジが肝臓のSMAD1/5/8活性化を生じるという観察は、BMPシグナリングが鉄に応答してヘプシジン発現を媒介するという仮説をもたらす。成体ゼブラフィッシュは、通常、比較的低いレベルのヘプシジンを発現する。3時間後、鉄−デキストランおよびビヒクルをよって処理した魚は、デキストランおよびビヒクルを注射した魚と比較して、肝臓のヘプシジンmRNAレベルにおける4倍の増大を示した(図29d)。化合物C/ドルソモルフィンによる魚の同時処理は、鉄−デキストラン注射によって見られるヘプシジン発現の増大を阻害し、このことは、鉄がBMP依存的機構によってヘプシジン発現を誘導することを示唆する。
【0077】
(化合物C/ドルソモルフィンは、基礎肝臓ヘプシジン発現を低下させ、そしてマウスにおいて高鉄血症を誘導する)
標準的な鉄が豊富な食餌を与えた野生型C57BL/6成体マウスは、おそらく鉄の豊富な供給によって誘導された実質的なヘプシジンを発現する(Nicolasら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99:4596−4601,2002)。ゼブラフィッシュにおける鉄誘導性のヘプシジン発現を遮断する化合物C/ドルソモルフィンの能力は、化合物C/ドルソモルフィンが基礎ヘプシジン発現を阻害し、そして鉄が充実したマウスにおいて血清鉄レベルを増大させ得るという仮説をもたらした。化合物C/ドルソモルフィンを静脈内に投与した6時間後、肝臓のヘプシジンmRNAレベルは、ビヒクルを注射したマウスの3分の1のレベルまで減少した(P<0.01)(図29e)。ヘプシジンレベルの変化は、フェロポーチンによる細胞内の鉄の変化した動員によって24時間以内に血清鉄濃度に影響を及ぼす(Nemethら,J.Clin.Invest.113:1271−1276,2004)。24時間にわたる化合物C/ドルソモルフィンの投与は、血清鉄の総濃度における60%の増大をもたらした(図29f)。したがって、化合物C/ドルソモルフィン処理は、成体マウスにおいてヘプシジン発現の基礎レベルを減少させること、および血清鉄濃度を増大させることに有効である。
【0078】
(方法)
(ゼブラフィッシュ胚において背腹軸撹乱する低分子についてのスクリーニング)
ゼブラフィッシュにおける低分子スクリーニングを、いくつかの改変と共に、先に記載された通り(Petersonら,Nat.Biotechnol.22:595−599,2004)に行った。野生型ゼブラフィッシュの対を、交配し、そして新しい受精卵を、E3緩衝液を含む96ウェルプレートに三連で配置した。受精後の時間(hpf)で4時間において、化合物を、5〜10μMでウェルに添加した。胚を、28.5℃でインキュベートし、そして胚の全体の形態を、先に記載される通り(Mullinsら,Development 123:81−93,1996)、12hpf、24hpf、および48hpfにおいて胚軸の背側化または腹側化について試験した。合計で、合成のスクリーニング化合物(Chembridge Corporation、5,580種の低分子)および公知の生物活性化合物(Microsource Discovery Systems、1,840種の低分子およびSigma−Aldrich、150種の低分子)を含む7,570種の化合物を、スクリーニングした。追跡研究のために、化合物C/ドルソモルフィンおよびAra−A(アデノシン9−β−D−アラビノフラノシド)を、Sigma(St.Louis,MO)から購入し、そしてC75を、EMD Biosciences(San Diego,CA)から購入した。
【0079】
(ホールマウントゼブラフィッシュインサイチュハイブリダイゼーション)
インサイチュハイブリダイゼーションを、先に記載される通り(Westerfield,The Zebrafish Book(University of Oregon Press,Eugene,OR,1993))に行った。ゼブラフィッシュkrox20プローブ、pax2.1プローブ、およびMyoDプローブを、先に記載される通り(Weinbergら,Development 122:271−280,1996)に産生した。
【0080】
(細胞培養)
野生型PASMCおよびBMPR−II欠損PASMCを、先に記載される通り(Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005)に単離し、そして10% FBSを補充したRPMI培地(Invitrogen)において培養した。C2C12細胞(American Type Culture Collection,Manassas,VA)を、グルタミンおよび10% FBSを補充したDMEMにおいて培養した。HepG2細胞およびHep3B細胞(ATCC)を、10% FBSを含み、L−グルタミンを含む最小必須α培地(α−MEM,Invitrogen)において培養した。SMAD活性化インビトロの研究のために、PASMCを、0.5% FCS RPMI中で24時間にわたってインキュベートし、次いで薬物化合物、ノギン、またはビヒクルと一緒に30分間にわたってプレインキュベートし、次いで組換えBMP2、4、6、もしくは7、またはTGF−β1またはアクチビンA(R&D Systems,Minneapolis,MN)を30分間にわたって添加した。
【0081】
(BMP応答性のSMADリン酸化およびTGF−β応答性のSMADリン酸化のイムノブロット分析)
細胞抽出物または組織を、SDS溶解緩衝液(62.5mM Tris−HCl(pH6.8)、2% SDS、10%グリセロール、50mM DTT、0.01%ブロモフェノールブルー)中で機械的にホモジナイズし;SDS−PAGEによって分離し;抗ホスホ−SMAD1/5/8、抗ホスホ−SMAD2(Cell Signaling,Beverly,MA)、または抗α−チューブリン(Upstate/Millipore,Billerica,MA)Abによってイムノブロットし;そしてECL Plus(GE Healthcare,Piscataway,NJ)を使用して可視化した。Levels of免疫反応性タンパク質を、Stormホスホイメージャー(phosphorimager)(GE Healthcare)においてImageQuantソフトウェアによって定量した。
【0082】
(アルカリホスファターゼ活性)
C2C12細胞を、2% FBSを補充したDMEMにおいて1ウェルあたり2000個の細胞で96ウェルプレートに播種した。ウェルを、BMPリガンドおよび化合物C/ドルソモルフィンまたはビヒクルによって四連で処理した。細胞を、50μlのTris緩衝化生理食塩水/1% Triton X−100による5日間の培養後に回収した。溶解物を、96ウェルプレート(Sigma)中のp−ニトロ−フェニルホスフェート試薬に1時間にわたって添加し、そしてアルカリホスファターゼ活性を、405nMにおける吸光度として示した。細胞の生存率および量を、それぞれ、アルカリホスファターゼ測定に使用したものと同様に処理した再現ウェルを使用してCell−タイターGlo(Promega)および核色素CyQuant(Invitrogen)の結合によって測定した。
【0083】
(ゼブラフィッシュの骨鉱化作用)
野生型ゼブラフィッシュ胚を、フェニルチオ尿素(PTU)を含むE3緩衝液中で育てた(Westerfield,The Zebrafish Book(University of Oregon Press,Eugene,OR,1993))。受精後の日数(dpf)で1日目に、胚を、化合物C/ドルソモルフィン(1〜4μM)またはDMSOビヒクルによって処理した。5dpf以降において、幼生に、1日おきに1時間にわたって給餌した。それぞれの給餌後に、残りの食物を、洗い流し、そして培地を、化合物C/ドルソモルフィンまたはビヒクルを含むE3で置換した。10dpfにおいて、幼生を、先に記載される通り(Duら,Dev.Biol.238:239−246,2001)に、カルセイン(0.2%)中に30分間にわたって浸漬した。胚を、結合していないカルセインを除去するためにE3緩衝液において3時間にわたって繰り返し洗浄し、そしてトリカインによって麻酔した。石灰化した骨格構造を、緑色蛍光によって可視化し、そして椎体の数を、計数した。
【0084】
(BMP応答性エレメントおよびヘプシジンプロモータールシフェラーゼレポーターアッセイ)
6ウェルプレート中で50%コンフルエンスまで増殖させたマウスPASMCを、BMP I型レセプターの構成的に活性な形態を発現する0.6μgのプラスミド(caALK2、caALK3、またはcaALK6、Dr.Kohei Miyazono,University of Tokyo,Japanによって親切にも提供された(Fujiiら,Mol.Biol.Cell 10:3801−3813,1999))との組み合わせにおいて、0.3μgのId1プロモータールシフェラーゼレポーター構築物(BRE−Luc,Dr.Peter ten Dijke,Leiden University Medical Center,Netherlands(Korchynskyiら,J.Biol.Chem.277:4883−4891,2002))によって、Fugene6(Roche)を使用して一過性にトランスフェクトした。アクチビンI型レセプター機能およびTGF−β I型レセプター機能を評価するために、PASMCを、I型レセプターの構成的に活性な形態を発現する0.6μgのプラスミド(caALK4、caALK5、およびcaALK7、Dr.Kohei Miyazonoによってまた提供された(Okadomeら,J.Biol.Chem.271:21687−21690,1996;Shimizuら,Genes Cells 3:125−134,1998))との組み合わせにおいて、0.3μgのPAI−1プロモータールシフェラーゼレポーター構築物(CAGA−Luc,Dr.Peter ten Dijke(Dennlerら,Embo J.17:3091−3100,1998))によって一過性にトランスフェクトした。両方のレポーターに対して、0.2μgのpRL−TKウミシイタケルシフェラーゼ(Promega)を、トランスフェクション効率についてのコントロールとして使用した。PASMCを、トランスフェクションの1時間後に開始して24時間にわたってかまたは実験の完了まで、化合物C/ドルソモルフィン(4〜10μM)またはビヒクルと一緒にインキュベートした。細胞抽出物を、回収し、そして相対的なプロモーター活性を、デュアルルシフェラーゼアッセイキット(Promega)を使用してウミシイタケルシフェラーゼ活性に対するホタルルシフェラーゼ活性の比によって定量した。HepG2細胞またはHep3B細胞を、FLAGタグ化ヒトHJVをコードする20ngのcDNAを伴ってかまたは伴わずに、トランスフェクション効率ついてのコントロールとして0.25μgのpRL−TKとの組み合わせにおいて、2.5μgのヘプシジンプロモータールシフェラーゼレポーター(Babittら,Nat.Genet.38:531−539,2006)によって一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後に、HepG2細胞およびHep3B細胞を、1% FBS α−MEM中で6時間にわたってインキュベートした、化合物C/ドルソモルフィン(10μM)またはビヒクルによって30分間にわたって処理し、次いでBMP2(25ng/ml)の存在下または非存在下で16時間にわたってインキュベートした。ヘプシジンプロモーター活性を、上記のようなルシフェラーゼアッセイによって測定した。
【0085】
(鉄−デキストラン注射)
成体の魚を、トリカインによって麻酔し、そしてその魚に対して、10μlの鉄−デキストラン溶液(100mg/ml、デキストランの平均MW=5000、Sigma)を化合物C/ドルソモルフィン(23μg/g)またはビヒクル(DMSO)と一緒に腹腔に注射した。コントロールの魚に、10μlのデキストラン(平均MW=5000、Sigma)を注射した。魚を、水中で生き返らせた。注射の1時間後に、魚を、氷上で麻酔し、そして肝臓を、200μLのSDS溶解緩衝液中に回収し、そして機械的にホモジナイズした。15μLのタンパク質抽出物を、上に記載した通り、SDS−PAGEによって分画し、そしてイムノブロットした。注射の3時間後に、全RNAを、Trizol試薬(Invitrogen)を使用して機械的にホモジナイズしたゼブラフィッシュ肝臓から抽出した。
【0086】
標準的な食餌(Isopro RMH 3000,Prolab)で育てた12週齢のC57BL/6マウスに、尾静脈を介して0.2g/kgのデキストラン(平均MW=5000,Sigma)または0.2g/kgの鉄−デキストランUSP(DexFerrum,American Regent Laboratories)を注射した。デキストランは、ビヒクルのみと一緒に注射されたが、鉄−デキストランは、ビヒクルまたは化合物C/ドルソモルフィン(10mg/kg)のいずれかと一緒に注射された。注射の1時間後に、マウスを、屠殺し、そして肝臓セグメントを、500μlのSDS溶解緩衝液中に回収し、そして機械的にホモジナイズした。20μLの肝臓抽出物を、SDS−PAGEによって分離し、そしてイムノブロットした。全RNAを、Trizolを使用して機械的にホモジナイズしたマウス肝臓から回収した(化合物C/ドルソモルフィン(10mg/kg)またはDMSOの単一腹腔内用量による注射の6時間後)。
【0087】
(定量的ヘプシジンRT−PCR)
Hep3B細胞またはHepG2細胞を、化合物C/ドルソモルフィン(10μM)の存在下または非存在下において1% FCS α−MEM中で6時間にわたって、BMP2(25ng/ml)またはヒトIL−6(R&D Biosystems、100ng/ml)を伴ってかまたは伴わずにインキュベートし、次いでRNAを、Trizolによって培養細胞から抽出した。定量的RT−PCRを、先に記載される通り(Babittら,Nat.Genet.38:531−539,2006;Yuら,J.Biol.Chem.280:24443−24450,2005)に、Id1またはヒトヘプシジン(HAMP)をコードするmRNAについて行い、そして18SリボソームRNA(rRNA)レベルまたはβ−アクチンmRNAレベルに対して正規化した。
【0088】
マウス実験およびゼブラフィッシュ実験において、定量的RT−PCRを、処理した動物の肝臓から抽出した等量のRNAから生成したcDNAに対して行った。三連または四連の実験を、示した通りに行った。ゼブラフィッシュヘプシジンをコードするmRNAの発現レベルおよびマウスヘプシジン(HAMPl)をコードするmRNAの発現レベルを、先に記載される通り(Fraenkelら,J.Clin.Invest.115:1532−1541 ,2005;Wangら,Cell Metab.2:399−409,2005)に測定し、そしてそれぞれ、肝臓の脂肪酸結合タンパク質mRNA(ゼブラフィッシュ)レベルまたは18S rRNA(マウス)レベルに対して正規化した。
【0089】
(血清鉄測定)
全血を、マウスから心穿刺によってMicrotainer血清分離チューブ(BD Scientific)に回収し、そして血清を、製造業者の指示書に従って単離した。血清鉄レベルを、Iron/UIBCキット(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)を使用して比色定量アッセイによって測定した。
【0090】
(統計解析)
比較した測定値の統計的有意性を、ボンフェローニ補正によるスチューデントの両側T−検定または一元配置ANOVAを使用して測定した。SMAD1/5/8リン酸化の化合物C/ドルソモルフィン阻害のヒルプロット分析を、GraFitソフトウェア(Erithacus Software,Surrey,England)を使用して行った。
【0091】
(他の実施形態)
本明細書に引用された全ての刊行物および特許は、あたかも各々の個々の刊行物または特許が参考として援用されると具体的かつ個別に示されたかのように、参考として援用される。本明細書中の単数形(例えば、「a」および「the」)の使用は、文脈が反対のことを示さない限り、対応する複数形の表示を除外しない。本発明は、理解の明確さの目的のための例示および例によってある程度詳細に記載されているが、特定の変更および改変が添付の請求項の精神または範囲から逸脱することなく本発明に対して行われ得ることは、本発明の教示に鑑みて当業者に対して容易に明らかである。
【0092】
表1−初期ゼブラフィッシュ発生の異なる期間の間における化合物C/ドルソモルフィン(10μM)による処理は、種々の浸透度を有する背側化の種々の程度を誘発する。発生のより早期に開始される継続的曝露は、より重度な背側化の欠損を引き起こす。ゼブラフィッシュ胚は、受精後の種々の時間において開始される化合物C/ドルソモルフィンに継続的に曝露され、そして48hpfにおいて規定される通りに表現型について評価された。2hpfにおいて開始される化合物C/ドルソモルフィン処理は、高い浸透度を有する重度の背側化を誘発するが、4〜6hpfにおける化合物C/ドルソモルフィンは、高い浸透度を有する軽度〜中程度の背側化を誘発した。8hpfにおいて開始される化合物C/ドルソモルフィン処理は、85%の浸透度を有する軽度の背側化を誘発したが、10hpf以降における処理は、背側化を誘導しなかった。毒性は、この濃度の化合物C/ドルソモルフィンによって観察されなかった。間欠曝露:ゼブラフィッシュ胚は、受精後の種々の時間において開始される化合物C/ドルソモルフィンに曝露され、次いで間欠曝露の効果を試験するために時間間隔の後で新鮮な培地に移された。2hpfにおいて開始される化合物C/ドルソモルフィンは、曝露が4hpf、6hpf、または8hpfまで継続された場合、進行性により重度の背側化を誘発し、2〜8hpfの曝露は、2hpf後において化合物C/ドルソモルフィンに対して継続的に曝された胚のように、同一の重症度および浸透度をもたらした(100%で重度に背側化した)。4〜8hpfにおける化合物に対する曝露および6〜8hpfにおける化合物に対する曝露は両方とも、軽度〜中程度の背側化を誘発した。したがって、背腹軸形成に対する化合物C/ドルソモルフィンの効果は、10hpfよりも前に限定され、そして感受性のこの期間におけるより早期かつより長い曝露によって、より浸透性かつ重度になった。
【0093】
表2−初期の胚発生の間における種々の濃度の化合物C/ドルソモルフィン(0〜10μM)によるゼブラフィッシュの処理は、種々の浸透度および重症度を伴う背側化を誘発した。ゼブラフィッシュ胚は、3hpfにおいて開始される種々の濃度の化合物C/ドルソモルフィンに継続的に曝され、そして図19で規定される通り、48hpfにおいて表現型について評価した。2μM以下の濃度の化合物C/ドルソモルフィンは、これらの条件下で背側化を誘発しなかったが、5〜10μMの範囲の濃度は、進行性により高い割合の胚において進行性により重度の背側化を誘発し、10μMは、試験したほぼ全ての胚において中程度または重度の背側化を誘導した。
【0094】
表3−化合物C/ドルソモルフィンは、AMPキナーゼ(AMPK)の公知のインヒビターである。化合物C/ドルソモルフィンの効果がAMPKのモジュレーションに起因したという可能性を排除するために、本発明者らは、ゼブラフィッシュ胚における背腹軸形成に対するC75(AMPK活性を抑制することが公知である脂肪酸合成のインヒビター)の効果を試験した。3hpfにおいて開始されるC75によるゼブラフィッシュ胚の処理は、試験された任意の濃度(1〜100μg/ml)で背側化の形跡を伴わずに、25μg/ml以上の濃度で非特異的毒性をもたらした。対照的に、化合物C/ドルソモルフィンによる処理は、同じ条件下で、高い浸透度および最小限の毒性を伴う背側化を誘導した。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨形成タンパク質(BMP)シグナリングまたはトランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナリングを阻害する化合物を同定する方法であって、該方法は、非ヒト胚と候補化合物とを接触させる工程および該胚の表現型を観察する工程を包含し、ここで:
未処理のコントロールと比較した場合の該胚の背側化の検出が、BMPシグナリングを阻害する化合物の同定を示し;そして
未処理のコントロールと比較した場合の該胚の腹側化の検出が、BMPシグナリングを増強または開始する化合物の同定を示し;そして
未処理のコントロールと比較した場合の単眼症または頭のサイズの減少の検出が、TGF−βシグナリングを阻害する化合物の同定を示す;
方法。
【請求項2】
前記非ヒト胚は、ゼブラフィッシュ胚、アフリカツメガエル胚、メダカ胚、およびキイロショウジョウバエ胚からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
骨形成タンパク質(BMP)シグナリングまたはトランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナリングをモジュレートする化合物を同定する方法であって、該方法は、
細胞と候補化合物とを接触させる工程;
メタノール処理によって該細胞の原形質膜および核膜を透過性にし、そして該細胞中のタンパク質を沈殿させる工程;
グルタルアルデヒドによって沈殿したタンパク質を架橋する工程;
二官能性アミンによって該細胞由来の該グルタルアルデヒドをクエンチする工程;ならびに
未処理の細胞と比較した場合の化合物処理した細胞におけるSMAD2またはSMAD1/5/8のリン酸化に対する該候補化合物の効果を決定する工程であって、SMAD1/5/8の増大したリン酸化の検出が、BMPシグナリングを活性化する化合物の同定を示し、SMAD1/5/8の減少したリン酸化の検出が、BMPシグナリングを阻害する化合物の同定を示し、SMAD2の増大したリン酸化の検出が、TGF−βシグナリングを活性化する化合物の同定を示し、そしてSMAD2の減少したリン酸化の検出が、TGF−βシグナリングを阻害する化合物の同定を示す、工程;
を包含する、方法。
【請求項4】
前記メタノールは、氷冷であり、そして前記メタノール処理は、10分間〜15分間にわたって行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
グルタルアルデヒド溶液は、0.25%〜2%のグルタルアルデヒドの濃度を含み、そしてグルタルアルデヒド処理は、10分間〜15分間にわたって行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記二官能性アミンは、25〜200mMの濃度および8〜10のpHにおいて使用されるリジン、エチレンジアミン、およびフェニレンジアミンからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
SMAD1/5/8またはSMAD2のリン酸化の検出は、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)の使用によって行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
骨形成タンパク質(BMP)シグナリングの阻害によって利益を得る被験体における疾患または状態を処置または予防する方法であって、該方法は、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナリングと比較してBMPシグナリングを選択的に阻害する化合物を該被験体に投与する工程を包含する、方法。
【請求項9】
前記化合物は、6−[4−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−フェニル)]−3−ピリジン−4−イル−ピラゾロ[1,5−a]−ピリミジン(化合物C/ドルソモルフィン)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物は、図17に示される化合物から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記疾患または状態は、家族性または散発性の原発性肺高血圧症、遺伝性出血性毛細管拡張症候群、心臓弁奇形、癌(一次治療として原発性腫瘍の増殖または転移をモジュレートすること、あるいは伝統的な癌治療に補助療法を提供することにおけるもの))、貧血、血管の石灰化、アテローム性動脈硬化症、弁の石灰化、腎性骨形成異常症、炎症性障害、ウイルスによる感染、細菌による感染、真菌による感染、結核菌による感染、寄生生物による感染、および進行性骨化性線維形成異常症からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記癌は、乳癌、前立腺癌、腎細胞癌、骨転移、骨肉腫、および多発性骨髄腫からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記炎症性障害は、強直性脊椎炎である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナリングの阻害によって利益を得る被験体における疾患または状態を処置または予防する方法であって、該方法は、骨形成タンパク質(BMP)シグナリングと比較してTGF−βシグナリングを選択的に阻害する化合物を該被験体に投与する工程を包含する、方法。
【請求項15】
前記疾患または状態は、線維性疾患あるいはマルファン症候群の弁または大動脈の異常である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記線維性疾患は、肝臓、腎臓、または肺の線維性疾患である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
骨形成タンパク質(BMP)インヒビターを含む薬学的組成物。
【請求項18】
前記骨形成タンパク質(BMP)インヒビターは、6−[4−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−フェニル)]−3−ピリジン−4−イル−ピラゾロ[1,5−a]−ピリミジン(化合物C/ドルソモルフィン)である、請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
細胞の表現型を改変する方法であって、該方法は、該細胞と骨形成タンパク質(BMP)インヒビターとを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項20】
前記細胞は、胚性幹細胞または成体幹細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記骨形成タンパク質(BMP)インヒビターは、治療目的または診断目的のためにエキソビボまたはインビボで前記幹細胞の増殖または分化を可能にする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記BMPインヒビターは、6−[4−(2−ピペリジン−1−イル−エトキシ)−フェニル)]−3−ピリジン−4−イル−ピラゾロ[1,5−a]−ピリミジン(化合物C/ドルソモルフィン)である、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19a】
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【図19b】
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【図19c】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26a】
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【図26b】
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【図26c】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2010−503383(P2010−503383A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527464(P2009−527464)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/019831
【国際公開番号】WO2008/033408
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】