説明

細胞保護のための2置換17−イミノエストロゲン化合物

変性性疾患および変性性障害を処置するための化合物、組成物および方法が開示される。以下の化合物を参照のこと。この化合物は、細胞保護特性を有し、シクロペンタノフェナントレン関連ステロイドのクラスに属し、このステロイドは、誘導体化エストロゲン様構造を有し、顕著な雌性化活性を有さずに、細胞保護活性を与え、それにより例えば、変性性障害の処置において、または組織移植における使用のため、または他の疾患、障害もしくは状態のために治療的に投与される場合に、望ましくない副作用を回避する。このような変性性障害としては、神経変性性障害、眼の障害、心臓血管の障害、ミトコンドリア病、骨の障害、関節の障害、結合組織の障害もしくは軟骨の障害、または興奮毒性経路の活性の変化と関連した障害が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、2004年5月27日に出願された米国仮特許出願第60/575,162号の利益を主張し、これは、本明細書中にその全体が参考として援用される。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、一般的に、新規のクラスの細胞保護ステロイド(シクロペンタノフェナントレン関連)化合物、ならびに変性性疾患および関連する状態、ならびに特に望ましくない細胞死または細胞損傷と関連する障害を含む変性性障害を処置するためにこのような化合物を使用するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の記述)
ヒトおよび動物を苦しめる多くの変性性疾患、障害および状態は、組織および細胞に有害な損傷により特徴付けられていて、多くの場合望ましくない易感染性の細胞活性および頻繁に細胞死を生じる。最近の技術的洗練は、細胞変性の詳細な分子的理解(とりわけ遺伝的因子および環境因子;反応性遊離ラジカル(例えば、反応性酸素種);興奮毒性機構、自己免疫機構および炎症機構の役割の認識が挙げられる);ならびにアポトーシスおよび壊死のような細胞死プロセスの特徴づけに洞察を提供する。変性性疾患の範囲および社会に対するその費用は、広範囲にわたり、基本的な生活の質および人の生産性に大規模な影響を有する。
【0004】
変性性障害としては、細胞死または細胞損傷を特徴とする多数の急性の再発性/軽減性および/または慢性の消耗性の状態が挙げられ、例えば、神経学的疾患および神経変性性疾患(例えば、アルツハイマー病、ハンティングトン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、中程度認識障害など)、循環性疾患および心臓病(例えば、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、虚血、心不全など)、癌、自己免疫疾患および炎症性疾患、遺伝子した遺伝病および遺伝した障害、外傷性損傷、関節炎、代謝病および消化器系の疾患、眼科的疾患または眼科的損傷、皮膚科学的障害、筋骨格障害、内分泌障害、腎臓障害、肝臓障害、胃腸障害および呼吸器障害、その他が挙げられる。
【0005】
エストロゲン、ステロイドホルモン(例えば、17−β−エストラジオール、エストロン)および構造的に関連する誘導体化合物は、変性性障害の処置における使用のための細胞保護剤の候補として、特に多くの化学的特性および生物学的特性に基づいて、神経保護剤としてかなりの関心を引き付けてきた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献21、特許文献22、特許文献23、特許文献24、特許文献25、特許文献26、特許文献27、特許文献28、特許文献29、特許文献30、特許文献31を参照のこと;また非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11を参照のこと)。
【0006】
これらの努力にもかかわらず、これらの化合物の特定の適用または疾患の適応症に対するこれらの化合物の関連に関する多くの道が探求されないまま残っていて、それらとしては、所望の生物学的特性、生理学的特性および/または薬理学的特性に対する化学的特性の関係、合成の相対的な容易さ(または天然由来のエストロゲン化合物の場合における単離の容易さ、課題を提示し得るその化合物の純度およびロット間の一貫性)、細胞保護剤としての効力、安定性、バイオアベイラビリティ、適切な処方物に対する適応性ならびに他の懸念事項が挙げられる。この分野における最近の進歩は、例えば、特許文献32、特許文献33、特許文献34、特許文献35、特許文献36、特許文献37、特許文献38、特許文献39、特許文献40、特許文献41、特許文献42、特許文献43、特許文献44、特許文献45、特許文献46、特許文献47、特許文献48、特許文献49、特許文献50、特許文献51を参照のこと。
【特許文献1】米国特許第6,692,763号明細書
【特許文献2】米国特許第6,511,969号明細書
【特許文献3】米国特許第6,420,353号明細書
【特許文献4】米国特許第6,334,998号明細書
【特許文献5】米国特許第6,333,317号明細書
【特許文献6】米国特許第6,258,856号明細書
【特許文献7】米国特許第6,232,326号明細書
【特許文献8】米国特許第6,172,056号明細書
【特許文献9】米国特許第6,089,941号明細書
【特許文献10】米国特許第5,990,177号明細書
【特許文献11】米国特許第5,866,561号明細書
【特許文献12】米国特許第5,521,168号明細書
【特許文献13】米国特許第5,512,557号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2004/0067923号明細書
【特許文献15】国際公開第03/072109号パンフレット
【特許文献16】国際公開第03/072110号パンフレット
【特許文献17】米国特許出願公開第2004/0043410号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2003/0186954号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第2003/0176409号明細書
【特許文献20】米国特許出願公開第2003/0130303号明細書
【特許文献21】米国特許出願公開第2003/0050295号明細書
【特許文献22】米国特許出願公開第2003/0049838号明細書
【特許文献23】米国特許出願公開第2002/0183299号明細書
【特許文献24】米国特許出願公開第2002/0165213号明細書
【特許文献25】米国特許出願公開第2002/0028793号明細書
【特許文献26】米国特許出願公開第2002/0022593号明細書
【特許文献27】米国特許出願公開第2001/0051602号明細書
【特許文献28】国際公開第03/015704号パンフレット
【特許文献29】米国特許第4,897,389号明細書
【特許文献30】欧州特許第753,300号明細書
【特許文献31】米国特許第5,554,603号明細書
【特許文献32】米国特許第6,844,456号明細書
【特許文献33】米国特許出願公開第2002/0132802号明細書
【特許文献34】米国特許出願公開第2002/0035100号明細書
【特許文献35】米国特許第5,554,601号明細書
【特許文献36】米国特許第5,824,672号明細書
【特許文献37】米国特許第5,843,934号明細書
【特許文献38】米国特許第5,859,001号明細書
【特許文献39】米国特許第5,877,169号明細書
【特許文献40】米国特許第5,939,407号明細書
【特許文献41】米国特許第5,972,923号明細書
【特許文献42】米国特許第6,172,088号明細書
【特許文献43】米国特許第6,197,833号明細書
【特許文献44】米国特許第6,207,658号明細書
【特許文献45】米国特許第6,319,914号明細書
【特許文献46】米国特許第6,326,365号明細書
【特許文献47】米国特許第6,339,078号明細書
【特許文献48】米国特許第6,350,739号明細書
【特許文献49】国際公開第01/10430号パンフレット
【特許文献50】国際公開第02/13870号パンフレット
【特許文献51】米国特許出願公開第2003/0105167号明細書
【非特許文献1】Dykensら、「Exp.Gerontol.」、2003年、第38巻、第1−2号、p.101−107
【非特許文献2】Wangら、「Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.」、2003年、第44巻、第5号、p.2067−75
【非特許文献3】Garcia−Seguraら、「Prog.Neurobiol.」、2001年、第63巻、第1号、p.29−60
【非特許文献4】Deshpandeら、「Ind.J.Physiol.Pharmacol.」、2000年、第44巻、第1号、p.43−49
【非特許文献5】Behlら、「Biochem.Biophys.Res.Commun.」、1995年、第216巻、p.473−82
【非特許文献6】McCulloughら、「Trends Endocrinol.Metab.」、2003年、第14巻、第5号、p.228−235
【非特許文献7】Kulkarniら、「Arch.Women Ment.Health」、2002年、第5巻、p.99−104
【非特許文献8】Zemlyakら、「Brain Res.」、2002年、第958巻、p.272−76
【非特許文献9】Kompoliti、「Front.Biosci.」、2003年、第8巻、p.391−400
【非特許文献10】Mooradian、「J.Steroid Biochem.Molec.Biol.」、1993年、第45巻、第6号、p.509−511
【非特許文献11】Kupinaら、「Exp.Neurol.」、2003年、第180巻、p.55−73
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、明らかに、細胞保護剤として使用するために最適化され得るさらなる化合物に対する必要性(生理学的に関連する文脈における変性性障害および変性性疾患の処置における使用のためのこのような化合物の適合性の実証を含む)が依然として存在する。本発明は、治療的に有益な細胞保護作用のための組成物および方法を提供することによりこの必要性に取り組み、そして他の関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の簡単な要旨)
手短には、本発明は、一般的に、細胞保護剤としての活性を有する化合物、ならびにそれらを使用するための方法およびそれらを含有する薬学的組成物に関する。より詳細には、本発明の化合物は、以下の一般式(I):
【0009】
【化2】

を有し、この立体異性体、プロドラッグおよび薬学的に受容可能な塩を含み、ここでRおよびRは、本明細書中に定義されるとおりである。
【0010】
本発明の化合物は、広い範囲の治療適用にわたって有用性を有し、変性性障害、変性性疾患および関連する状態、特に望ましくない細胞死または細胞損傷と関連した疾患の処置に使用され得る。例えば、多数の変性性障害および変性性疾患が、限定的な理論に従には従わないが、アポトーシスプロセスまたは壊死プロセスによる不適切な細胞死を生じる興奮毒性経路の活性の変化と関連していて、従って、本明細書中で記載される化合物の予想外に有利な細胞保護特性は、このような状態の管理に有用に適用され得る。従って、特定の実施形態は、変性性障害を処置するための方法に関連し、治療的に有効量の構造(I)の化合物を、変性性障害を有するか、その障害を有する危険性が疑われる被験体に投与する工程を包含する。特定の実施形態において、変性性障害は、(i)神経変性性障害、(ii)眼の疾患、(iii)心臓血管の疾患、(iv)骨、関節、結合組織または軟骨の障害、(v)興奮毒性経路の活性の変化と関連した障害、(vi)組織移植障害および(vi)ミトコンドリア病(例えば、フリートライヒ失調症)から選択される。別の実施形態において、変性性障害は、アルツハイマー病、軽度の認知障害、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および多発性硬化症である。別の実施形態において、変性性障害は、緑内障、色素性網膜炎、黄斑変性、眼内圧の上昇およびレーバー遺伝性視神経ニューロパシーから選択される眼の疾患である。別の実施形態において、変性性障害は、脳卒中、虚血および心筋梗塞からなる群より選択される心臓血管の疾患である。別の実施形態において、変性性障害は、変形性関節症、関節リウマチおよび乾癬性関節炎から選択される骨、関節、結合組織または軟骨の障害である。
【0011】
本発明の方法は、特定の実施形態において、有効量の構造(I)の化合物を、好ましくは薬学的組成物の形態で、それを必要とする哺乳動物に投与する工程を包含する。従って、別の実施形態において、薬学的組成物は、本発明の一種以上の化合物を、薬学的に受容可能なキャリアおよび/または希釈剤と組合せて含有することが開示される。別の実施形態では、本発明は、以下(i)構造(I)の化合物である第1の細胞保護化合物;(ii))抗酸化剤、抗エストロゲン、ホルモン、無機物、ビタミン、神経ペプチド、コレステロール低下剤、アルツハイマー病処置剤、脳卒中処置剤および治療抗体から選択される少なくとも1つの第2の化合物;ならびに(iii)薬学的に受容可能なキャリアを含有する薬学的組成物を提供する。別の実施形態において、変性性障害を有するか、または該障害を有する危険性が疑われる被験体に、上記の(i)、(ii)および(iii)を含有する治療有効量の薬学的組成物を投与する工程を包含する、変性性障害を処置するための方法が提供される。別の実施形態において、変性性障害を有するか、または該障害を有する危険性が疑われる被験体に、治療有効量の以下、(i)構造(I)の化合物である第1の細胞保護化合物、および(ii)抗酸化剤、抗エストロゲン、アブラナ科のインドール化合物、プロブコールまたはプロブコールのアナログ、レラキシンホルモン、タクリン、ニュートロフィン、スタチン、メラトニン、ステロールまたは5α−スタノール吸収インヒビター、カルシウムおよびビタミンDから選択される少なくとも1つの第2の化合物を投与する工程を包含する、変性性障害を処置するための方法が提供される。さらなる実施形態において、第1の細胞保護化合物および第2の細胞保護化合物は、別個に投与され、異なるさらなる実施形態において、第1の細胞保護化合物および第2の化合物は、一緒に投与される。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、興奮毒性経路の分子成分を単離するための方法を提供し、この方法は、構造(I)の化合物とこの分子成分との間の結合相互作用を可能にするために十分な条件下で十分な時間、生物学的サンプルとこの構造(I)の化合物またはこれらの誘導体とを接触させ、それによりこの経路の成分を単離する工程を包含する。さらなる特定の実施形態において、上記化合物は、固定されるか、検出可能に標識されるか、または検索可能に標識される。
【0013】
本発明のこれらの局面および他の局面は、以下の詳細な説明を参照して明らかになる。この目的のために、特定の背景情報、手順、化合物および/または組成物をより詳細に記載する種々の参考文献が、本明細書中に示され、これらは、それぞれその全体が示されるように本明細書中に参考として援用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、関連する部分および特定の実施形態において、以下により詳細に記載するステロイド(シクロペンタノフェナントレン関連)化合物の驚くべき細胞保護特性に関する。本明細書中にまた記載されるように、これらの細胞保護化合物は、臨床的に害を及ぼし、有害であるか、またはこのような変性性障害を伴い得る、細胞に対する有害な細胞死もしくは損傷のレベルを低減する(すなわち、統計的に有意な様式で減少させる)ことによって、変性性障害(変性性疾患を含む)を処置するために治療的に使用され得る。本明細書中に開示される細胞保護(神経保護を含む)化合物の特に有利な特徴は、エストロゲンクラスのステロイドホルモンに類似する構造に関わらず、本明細書中に記載される細胞保護化合物は、顕著な雌性化活性を有さない範囲で、実質的に雌性化しないことである。従って、例えば、乳房、皮膚および(女性では)子宮のような組織において他のエストロゲンおよびエストロゲン様化合物により示される雌性化効果に関する懸念があり得るので、これらの非雌性化細胞保護化合物は、雌性化活性の危険性が最小限で男性患者および女性患者に投与され得る。雌性化させるエストロゲンはまた、肝臓におけるプロトロンビン因子を増加させ、このことは、脳卒中、肺塞栓症、冠状動脈心臓疾患などの危険性の増加と関係している。本発明の非雌性化化合物は、雄性の被験体および雌性の被験体に投与される場合にこのような障害の危険性を最小化する。
【0015】
従って、上で述べたように、本発明は、一般的に細胞保護剤としての活性を有する化合物、ならびにこの化合物を使用するための方法およびこの化合物を含有する薬学的組成物に関する。本発明の化合物は、以下の一般式(I):
【0016】
【化3】

を有する化合物であるか、またはその立体異性体、プロドラッグもしくは薬学的に受容可能な塩であって、ここで:
は、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキルまたは置換アリールアルキルであり;
は、−NR3a3b、−O−R3aまたは−NR3aC(=O)R3bであり;そして、
3aおよびR3bは、同じであるかまたは異なっており、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、複素環および置換複素環から独立に選択される。
【0017】
本明細書中で使用される場合、以下の用語は、以下の意味を有する。
【0018】
アルキルは、直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和の、環状または非環状の、1〜14個の炭素原子を有する炭化水素を意味するのに対して、「低級アルキル」は、1〜6個の炭素原子を有することのみを除いて同じ意味を有する。代表的な飽和直鎖アルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルなどが挙げられるのに対して、飽和分枝アルキルとしては、イソプロピル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、イソペンチルなどが挙げられる。不飽和アルキルは、隣接する炭素原子間に少なくとも一つの二重結合または三重結合を含む(ぞれぞれ、「アルケニル」または「アルキニル」とも称される)。代表的な直鎖アルキルおよび分枝鎖アルキルとしては、エチレニル、プロピレニル、2−ブテニル、イソブチレニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−メチル−1−ブテニル、2−メチル−2−ブテニル、2,3−ジメチル−2−ブテニルなどが挙げられるのに対して、代表的な直鎖アルキニルおよび分枝鎖アルキニルとしては、アセチレニル、プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−メチル−1−ブチニルなどが挙げられる。代表的な飽和環状アルキルとしては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、−CHシクロヘキシルなどが挙げられるのに対して、不飽和環状アルキルとしては、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、−CHシクロヘキセニルなどが挙げられる。環状アルキルはまた、本明細書中では、「環状炭素」系とも称され、8〜14個の炭素原子を有する二環式環系および三環式環系(例えば、一つ以上の芳香族環状炭素(例えば、フェニル)または非芳香族環状炭素(例えば、シクロヘキサン)に融合したシクロアルキル(例えば、シクロペンタンまたはシクロヘキサン)が挙げられる。代表的な環状炭素部分としては、アダマンチルなどが挙げられる。
【0019】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を意味する。
【0020】
「オキソ」は、カルボニル基(すなわち、=O)を意味する。
【0021】
「ニトロ」は、−NOを意味する。
【0022】
「モノアルキルアミノまたはジアルキルアミノ」は、それぞれ1個または2個のアルキルで置換されたアミノを意味する。
【0023】
「アルカンジイル」は、2個の水素原子が、同じ炭素原子または異なる炭素原子から取られた二価アルキル(例えば、−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、−CH(CH)CH−などを意味する。
【0024】
「アリール」は、芳香族環状炭素部分(例えば、フェニルまたはナフチル)を意味する。
【0025】
「アリールアルキル」は、アリール部分で置換された少なくとも一つのアルキル水素原子を有するアルキル(例えば、ベンジル、−(CHフェニル、−(CHフェニル、−CH(フェニル)など)を意味する。
【0026】
「ヘテロアリール」は、窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有し、少なくとも1個の炭素原子を含む5〜10員の芳香族複素環式環を意味し、単環式環系および二環式環系の両方を含む。代表的なヘテロアリールとしては、ピリジル、フリル、ベンゾフラニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、キノリニル、ピロリル、インドリル、オキサゾリル、ベンゾキサゾリル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、イソキサゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、シンノリニル、フタラジニルおよびキナゾリニルが挙げられる。
【0027】
「ヘテロアリールアルキル」は、ヘテロアリール部分で置換された少なくとも1つのアルキル水素を有するアルキル(例えば、−CHピリジニル、−CHピリミジニルなど)を意味する。
【0028】
「複素環」は、飽和、不飽和または芳香族のいずれかの、窒素、酸素および硫黄から独立に選択される1〜4個のヘテロ原子を含む5〜7員の単環または7〜10員の二環、複素環式環を意味し、ここで、窒素および硫黄のヘテロ原子は、必要に応じて酸化され得、そして、窒素へテロ原子は、必要に応じて四級化され得、任意の上記の複素環が、ベンゼン環に融合した二環式環が挙げられる。複素環は、任意のヘテロ原子または炭素原子によって結合され得る。複素環としては、上に定義したヘテロアリールが挙げられる。従って、ヘテロ環としてはまた、上に列挙したヘテロアリールに加えて、モルホリニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ヒダントイニル(hydantoinyl)、バレロラクタミル(valerolactamyl)、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロピリジニル、テトラヒドロピリミジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオピラニル、テトラヒドロピリミジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオピラニルなどが挙げられる。
【0029】
「ヘテロシクロアルキル」は、複素環で置換された少なくとも1つのアルキル水素を有するアルキル(例えば、−CHモルホリニルなど)を意味する。
【0030】
用語「置換された」は、本明細書中で使用される場合、少なくとも1個の水素原子が置換基で置換されている上記の基のいずれか(例えば、アルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、複素環およびヘテロシクロアルキル)を意味する。オキソ置換基(=O)の場合、2個の水素原子が置換される。置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシ、オキソ、アルキル、置換アルキル(例えば、一置換または二置換の、アミノアルキル、アルキルオキシアルキルなど)、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリール、置換へテロアリール、ヘテロアリールアルキル、置換へテロアリールアルキル、複素環、置換複素環、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、−NR、−NRC(=O)R、−NRC(=O)NR、−NRC(=O)OR、−NRSO、−OR、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)NR、−OC(=O)R、−OC(=O)OR、−OC(=O)NR、−NRSO、−CONR(アルカンジイル)OR、−CONR(アルカンジイル−O)1−6(アルカンジイル)NRまたは式−Y−Z−Rのラジカルが挙げられ、ここで、Yは、アルカンジイル、置換アルカンジイルまたは直接結合であり、Zは、−O−、−S−、−S(=O)−、−S(=O)−、−N(R)−、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−N(R)C(=O)−、−C(=O)N(R)−または直接結合であり、ここで、R、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、独立に、水素、アミノ、アルキル、置換アルキル(ハロゲン化アルキルを含む)、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、置換ヘテロアリールアルキル、複素環、置換複素環、ヘテロシクロアルキルもしくは置換ヘテロシクロアルキルであるか、またはRおよびRは、それらが結合する窒素原子と一緒になって複素環または置換複素環を形成する。
【0031】
基および置換基の位置の記載において、以下の番号付けシステムがIUPACおよびChemical Abstracts Serviceにより用いられる慣習にシクロペンタノフェナントレンの核の番号付けを適合させるように、使用される
【0032】
【化4】


【0033】
さらに、用語「ステロイド」は、本明細書中で使用される場合、上記シクロペンタノフェナントレン核を有する化合物を意味することが意図される。
【0034】
本発明の化合物は、一般的に遊離酸または遊離塩基として利用され得る。あるいは、本発明の化合物は、酸付加塩または塩基付加塩の形態(例えば、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩など)で使用され得る。本発明の遊離アミノ化合物の酸付加塩は、当該分野で周知の方法によって調製され得、有機酸および無機酸から形成され得る。適切な有機酸としては、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、桂皮酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、グリコール酸、グルタミン酸およびベンゼンスルホン酸が挙げられる。適切な無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸および硝酸が挙げられる。塩基付加塩は、カルボン酸アニオンとともに形成する塩を含み、有機カチオンおよび無機カチオン(例えば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウムおよびカルシウム)ならびにアンモニウムイオンおよびこれらの置換誘導体(例えば、ジベンジルアンモニウム、ベンジルアンモニウム、2−ヒドロキシエチルアンモニウムなど)から選択されるカチオン)で形成される塩を含む。従って、用語、構造(I)の「薬学的に受容可能な塩」は、任意かつ全ての受容可能な塩の形態を包含することが意図される。
【0035】
さらに、プロドラッグはまた、本発明の文脈に包含される。プロドラッグは、患者に投与される場合に、インビボで構造(I)の化合物を放出する任意の共有結合したキャリアである。プロドラッグは、一般的に、決まりきった操作またはインビボでのいずれかで親化合物を生じるように修飾が切断されるような様式で官能基を修飾することにより調製される。プロドラッグとしては、例えば、ヒドロキシ基、アミン基またはスルフヒドリル基が、患者に投与される場合に、切断してヒドロキシ基、アミン基またはスルフヒドリル基を形成する任意の基に結合された本発明の化合物が挙げられる。従って、プロドラッグの代表的な例としては、(これらに限定されないが)アルコールのアセテート誘導体、ホルメート誘導体およびベンゾエート誘導体ならびに構造(I)の化合物のアミン官能基が挙げられる。さらに、カルボン酸(−COOH)の場合、エステル(例えば、メチルエステル、エチルエステルなど)が用いられ得る。
【0036】
立体異性体に関して、構造(I)の化合物は、キラル中心を有し得、ラセミ化合物、ラセミ混合物として、および個々のエナンチオマーまたはジアステレオマーとして存在し得る。全てのこのような異性体形態は、本発明に包含され、これらの混合物も包含する。さらに、構造(I)の化合物の結晶形態のいくつかは、多形体として存在し得、これは、本発明に包含される。さらに、構造(I)の化合物のいくつかはまた、水もしくは他の有機溶媒との溶媒和物を形成し得る。このような溶媒和物も同様に本発明の範囲に包含される。
【0037】
構造(I)の化合物ならびに以下で考察するより詳細な実施形態は、有機化学の分野の当業者に公知の技術によって作製され得、より詳細には、実施例に例証されるとおりである。
【0038】
一実施形態において、Rは、−NR3a3bであり、化合物は、以下の構造(II):
【0039】
【化5】

を有する。
【0040】
別の実施形態において、Rは、−O−R3aであり、化合物は、以下の構造(III):
【0041】
【化6】

を有する。
【0042】
別の実施形態において、R2は、−NR3aC(=O)R3bであり、化合物は、以下の構造(IV):
【0043】
【化7】

を有する。
【0044】
以下の構造(II)、(III)および(IV)のより詳細な実施形態において、Rは、アルキルである。さらにより詳細な実施形態において、Rはアダマンチルであり、上記化合物は、構造(II−1)、(III−1)および(IV−1):
【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

を有する。
【0047】
上記構造(II−1)、(III−1)および(IV−1)のより詳細な実施形態において、R3aおよびR3bは、独立に水素および低級アルキルから選択される。
【0048】
上記のように、本発明の化合物は、広い範囲の治療適用にわたって有用性を有し、任意の疾患、障害、症候群または他の状態を含み得る変性性障害の処置または予防に使用され得、細胞変性は、被験体または生物学的供給源に存在するか、または存在することが予想され、そして好ましい実施形態において、このような細胞変性は、この障害において主要な因子または二次的な因子である。細胞変性は、1つ以上の冒された器官、組織または他の解剖学的部位内で、細胞死または細胞性塞栓の統計学的に有意な増加として(例えば、当該分野で確立された方法論(例えば、Greenら、1998、Science 281:1309)に従って決定され得るアポトーシスおよび/または壊死の局在的な増加として)明らかとなり得る。細胞変性はまた、活性酸素種(ROS)または他のラジカルのような反応性遊離ラジカルに対する曝露の結果として、細胞に対する有害な損傷の形態中に存在し得、このような細胞損傷に対する生物マーカーが記載されている(例えば、HalliwellおよびGutteridge、Free Radicals in Biology and Medicine(第3版)、1999 Oxford Univ.Press、NY)。
【0049】
上で述べたように、疾患、障害および状態の数の増加は、細胞の生存度および/または損傷を評価するための方法、ならびにこのような障害の臨床的な徴候および症状に関して本開示および技術水準を考慮して、本明細書中に提供されるような変性性障害として同定された。当業者は、変性性障害が存在することを証明するために、この疾患の定義に適した1つ以上のパラメーターの、正常範囲からの統計学的に有意な逸脱を証明するための判定基準を容易に決定し得る。例えば、Current Medical Diagnosis and Treatment 2004−(第43版)、L.M.Tierneyら、2003、McGraw−Hill、NY;Prognosis of Neurological Disorders−第2版、W.Randolphら(編)、2000、Oxford Univ.Press、NY;Multiple Sclerosis:Diagnosis、Medical Management and Rehabilitation、J.S.BurksおよびK.P.Johnson、2000、Demos Medical Publishing、NY;ならびにParkinson’s Disease and Its Diagnosis、J.M.S.Pearse、1992、Oxford Medical Publications、Oxford Univ.Press、NYを参照のこと。
【0050】
例示例のように、被験体または生物学的供給源が多発性硬化症(MS)を示す臨床パラメーターの範囲内にあるか否かを決定することが望ましい場合、当業者に承認されるMSの徴候および症状(例えば、McDonaldら(2001、Annals of Neurology 50(1):121−127)およびそれに引用される参考文献において参照される臨床的徴候)、または当該分野において公知であるMSを診断するための他の手段は、被験体または生物学的供給源をMSと決定するために使用され得る。同様に、当業者は、本明細書中に提供されるような他の変性性障害の存在を決定するための当該分野で認められた判定基準を認識している。
【0051】
本明細書中に開示される1つ以上の細胞保護化合物が治療上の利益を提供することが企図される変性性障害としては、慢性、急性および/または寛解型(remitting)/再発型の障害が挙げられ、したがってこれらの障害としてはまた、以下が挙げられる:
神経変性障害(例えば、末梢神経系および/または中枢神経系におけるニューロンの進行性の損失によって特徴付けられる障害);神経学的疾患および神経変性性疾患ならびに神経学的状態および神経変性状態(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、末梢性ニューロパシー、帯状疱疹、脳卒中、外傷性の傷害、認知障害、軽度の認知障害、外傷性の脳傷害および他の脳傷害、ハンティングトン病、年齢に関連した痴呆および記憶障害、末梢神経損傷、脳水腫、血腫);神経学的外科手術および胸部外科手術に関する種々の神経学的結果ならびに他の変性性の結果、精神分裂病およびてんかん、ダウン症候群、ターナー症候群、脊髄の傷害、低血糖;
後天性免疫不全症候群(AIDS)に関連した変性性状態;
アルコール誘導性の痴呆、ウェルニッケ−コルサフ関連性の痴呆;
骨、関節、結合組織および/または軟骨の種々の障害(例えば、骨粗しょう症、骨髄炎(osteomyclitis)、虚血性の骨疾患、線維性形成異常、くる病、クッシング症候群および変形性関節症、関節炎ならびに骨、関節、結合組織および/または軟骨の変性状態の他の型(関節リウマチ、乾癬性関節炎;筋萎縮性の障害(例えば、筋ジストロフィー、デュシェーヌ型筋ジストロフィーなど)が挙げられる;皮膚障害(例えば、皮膚炎、湿疹、乾癬および皮膚の老化);低下した創傷治癒;
耳硬化症のような耳の障害;
心臓組織および他の組織の虚血、心筋梗塞、慢性心不全または急性心不全、不整脈(cardiac dysrhymia)、心房細動、発作頻拍(paroxymial tachycardia)、心室細動およびうっ血性心不全、無酸素症、低酸素症;また、アテローム硬化症、動脈硬化および末梢血管の疾患、糖尿病(I型またはII型)が挙げられる循環障害もまた含む心臓および血管系の疾患ならびに状態のような種々の心臓血管疾患;脳卒中を含む他の心臓血管疾患;肺炎、慢性閉塞性肺疾患(気管支炎、気腫(emphysemia)、喘息)が挙げられる肺の種々の疾患;
胃腸管の障害(例えば、潰瘍およびヘルニア);組織の損傷を特徴とする歯の状態(例えば、歯周炎);肝炎および肝硬変を含む肝疾患;急性膵炎を含む膵臓の病気;腎疾患(例えば、急性腎不全および糸球体腎炎);
種々の血液障害(例えば、血管のアミロイドーシス、動脈瘤、貧血、出血、鎌状赤血球貧血、自己免疫疾患、赤血球破砕症候群、好中球減少症、白血球減少症、骨髄の失語(bone marrow aphasia)、汎血球減少症、血小板減少症、血友病など);
糖尿病性網膜症、緑内障、黄斑変性(例えば、萎縮型の黄斑変性または「乾性」黄斑変性、滲出型の黄斑変性または「湿性」黄斑変性、および加齢性黄斑変性)、網膜変性、色素性網膜炎(RP)、網膜の断裂または円孔、網膜剥離、網膜虚血、外傷に関連した急性網膜症、炎症媒介性の変性、外科手術後の合併症、光ダイナミック療法(PDT)を含むレーザー療法に関連した損傷、無影灯による医原性の網膜症、薬物性の網膜症、常染色体優勢の視神経萎縮、中毒性弱視/栄養性弱視;レーバー遺伝性視神経萎縮(LHON)、上昇した眼内圧、目の症状発現または合併症を伴う他のミトコンドリア病、眼球の新脈管形成/新生血管新生を含む、眼の疾患、障害または傷害;前部虚血性視神経症;異型RP;バルデー−ビードル症候群;ベスト病;青錐体色覚異常(Blue−Cone Monochromacy);標的黄斑症;白内障;中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー;コロイデレミア;錐体ジストロフィー;杆体ジストロフィー;錐体−杆体ジストロフィー;杆体−錐体ジストロフィー;先天停止性夜盲症;サイトメガロウイルス性網膜炎;糖尿病性黄斑浮腫;優性遺伝子ドルーゼン(Dominant Drusen);巨細胞性動脈炎(GCA);ゴールドマン−ファーヴルジストロフィー;グレーブス眼症;脳回転状萎縮;クロロキン誘導性網膜症;虹彩炎;若年性網膜分離;キーンズ・セイアー症候群;ローレンス−ムーン−ビードル症候群;レーバー先天黒内症;狼瘡誘導性の綿状白斑;黄斑ドルーゼン;黄斑萎縮;Malattia Leventinese;眼ヒストプラスマ症候群;小口病;酸化的損傷;増殖性硝子体網膜症;レフサム病;白点状網膜炎;未熟児網膜症;杆体全色盲;RPおよびアッシャー症候群;強膜炎;部分的(Sector)RP;シェーグレン−ラルソン症候群;ソーズビー基底ジストロフィー;シュタルガルト病、および網膜の他の疾患を含む眼の他の変性性障害;
特にフリートライヒ運動失調が挙げられ、そしてまたミトコンドリア脳障害、乳酸アシドーシスおよび脳卒中(MELAS)、進行性外眼筋麻痺症(PEO)、糖尿病、赤色ぼろ線維に関連したミクローヌスてんかん(myoclonus−epilepsy associated with ragged−red fibers)(MERRF)、ミトコンドリア関連性糖尿病、てんかん、運動失調、網膜症、視神経萎縮、腎不全、骨髄不全、およびミトコンドリアの機能不全に関連した他の疾患が挙げられるミトコンドリア障害(例えば、Simpkinsら、2005、Curr.Drug Targets−CNS & Neurolog.Dis.4:69−83;Finsterer、2004、Eur.J.Neurol.11:163;Bettsら、2004、Neurochem Res.29:505;Pavlakisら、1984、Ann.Neurol.16:481;Montagnaら、1988、Neurology 38:751;Beal、HowellおよびBodis−Wollner(編)、Mitochondria and Free Radicals in Neurodegenerative Diseases、1997 Wiley−Liss、New York;Scheffler、Mitochondria、1999 Wiley−Liss、New York、Ch.7(pp.273−325)を参照のこと)。理論に拘束されることを望まないが、本明細書中に開示される細胞保護化合物は、ミトコンドリアに対する保護効果、安定化効果および/または抗酸化効果を媒介するのに十分な条件ならびに時間で、有用かつ有利に投与され得、それによって、種々の細胞プロセスの維持および持続に関するようなミトコンドリアの機能(有気呼吸および代謝エネルギーの産生(例えば、ATP産生)が挙げられる)を保存し、細胞内のカルシウムの恒常性をモニタリングし、そして媒介し、興奮毒性、アポトーシスおよび壊死、ならびに他の役割のようなプロセスによって細胞の生存を調節する。したがって、さらにこのような限定的な理論には従わずに、本開示の細胞保護化合物は、細胞中のミトコンドリアに、そうでなければ細胞が本明細書中に記載されるような変性性状態の基礎をなすアポトーシス経路、興奮毒性経路および/または壊死経路に従って進みやすくなり得る、種々の環境性の侵襲および/または遺伝子に基づく機能不全に対する抵抗性を与えると考えられる。
【0052】
したがって、本明細書中に開示される化合物は、本明細書中に記載される変性性障害を含むミトコンドリアの機能の変化に関連した疾患および障害に罹患するか、またはこれらを潜在的に発症しやすい患者に対する改善効果、治療効果、対症的効果、リハビリ効果、防止効果および/または予防効果を有し得る。このような疾患は、異常であるか、通常を超えるか、非効率的であるか、無効であるか、または有害(deleterious)なミトコンドリアの活性(例えば、ミトコンドリアの機能に関する、生体分子および/もしくは補因子(例えば、ATP、カルシウム、糖分解の前駆物質、中間体または産物、電子供与体、電子受容体ならびに関連する中間体および補因子を含む電子伝達系および酸化的リン酸化経路の構成要素、アポトーシス促進因子および抗アポトーシス因子など)の取り込み、放出、活性、隔離、輸送、代謝、異化、合成、貯蔵または加工の欠損)、ならびに/または不適当であるか、有害(harmful)であるか、またはミトコンドリアと直接的かまたは間接的に相互作用する有害(deleterious)な生体分子および生体高分子(例えば、タンパク質およびペプチドならびにそれらの誘導体、炭水化物およびオリゴ糖ならびに糖タンパク質および糖脂質のような複合糖質を含むそれらの誘導体、脂質、核酸およびイオン、メディエーター、前駆体、異化代謝産物を含む補因子など)によって特徴付けられ得る。
【0053】
このような疾患および障害としては、例として非限定で、以下が挙げられる:アルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)のような慢性の神経変性性障害;自己免疫疾患;I型およびII型を含む真性糖尿病;ミトコンドリア関連疾患(ミトコンドリア構造異常を伴う先天性筋ジストロフィー、重篤なmtDNA枯渇を伴う致死性の乳児ミオパシーおよび中程度のmtDNAの減少を伴う良性の「後期発症型(later−onset)」ミオパシー、MELAS(ミトコンドリア脳障害、乳酸アシドーシスおよび脳卒中)およびMIDD(ミトコンドリア糖尿病および難聴))が挙げられるが、これらに限定されない);MERRF(ミクローヌスてんかん赤色ぼろ線維症候群;myoclonic epilepsy ragged red fiber syndrome);関節炎;NARP(ニューロパシー;運動失調;色素性網膜炎症候群);MNGIE(ミオパシーおよび外眼筋麻痺症;ニューロパシー;胃腸;脳障害)、LHON(レーバー遺伝性視神経萎縮)、キーンズ・セイアー症候群、パーソン症候群(Pearson’s Syndrome);PEO(進行性外眼筋麻痺症);ウォルフラム症候群;DIDMOAD(尿崩症、真性糖尿病、眼萎縮症(Optic Atrophy)、難聴);リー症候群(Leigh’s Syndrome);失調症;精神分裂病;ならびにガン、腫瘍および乾癬のような過剰増殖性疾患。
【0054】
本明細書中で開示される1以上の細胞保護化合物が治療利益を提供することが企図される他の変性性障害としては、虚血性の状態および疾患が挙げられ(例えば、米国特許第5,877,169号および同第6,339,078号)、特に、神経細胞、内皮細胞および/または心臓細胞に影響を及ぼす虚血性障害が挙げられる。従って、虚血性事象としては、脳血管疾患、クモ膜下出血、心筋梗塞、外科手術、外傷および血管を通る血流の閉塞が挙げられる。
【0055】
簡潔な背景として、虚血は、酸素化された(oxygenated)血液の身体の部分への不適切な流れに関連する急性状態であり、これを供給する血管の狭窄または閉塞によって引き起こされる。虚血は、組織への血流が臨界値未満に低下する時はいつでも起こる。この血流の減少は、以下からもたらされ得る:(i)塞栓(血餅)による血管の閉塞;(ii)アテローム硬化症に起因する血管の閉塞;(iii)血管の破損(出血性脳卒中);(iv)血管狭窄に起因する血管の閉塞(例えば、血管痙攣の間に起こる血管の閉塞およびおそらく一過性脳虚血発作(TIA)の間に起こる血管の閉塞、ならびにクモ膜下出血の後で起こる血管の閉塞)。虚血が起こる状態としては、さらに以下が挙げられる:(i)心筋梗塞;(ii)外傷;および(iii)心臓手術および/または胸郭手術ならびに神経手術の間の、このような手術の目的を達成するために発汗し得る際の血流の減少または停止。心筋梗塞の間、心臓の停止または器官への血液の流れを減少する損傷が起こり、虚血が生じる。心臓組織自体はまた、虚血性障害を受け得る。種々の外科手術の間、血流の減少、血餅または産生される気泡は、有意な虚血性損傷をもたらし得る。
【0056】
虚血性事象が起こる場合、虚血性部位から生じる傷害の段階的変化が存在し得る。血流制限の部位における細胞は、壊死および病変の中心(core)の形成を生じ得る。半影は、傷害が直ちに致死性ではないが細胞死に向かってゆっくりと進行する場合、この中心の周囲に形成される。細胞死へのこの進行は、虚血性事象の短い時間内に、血流の回復において覆され得る。
【0057】
本発明の他の実施形態において、変性性障害とは、細胞、組織もしくは器官の摘出または再灌流の前、その間またはその後、あるいは細胞、組織もしくは器官の保存の間に、組織移植手順において移植される集団内に存在するか、または組織移植手順の宿主部位に存在する細胞の、生存に対する任意の脅威またはこの細胞に対する任意の損傷を言及し得、ここでこの細胞は、従って、体内のいかなる細胞にも関し得る。(例えば、米国特許第5,972,923号および同第5,824,672号)。
【0058】
簡潔な背景として、移植の間の器官または組織における細胞の生存度の保存は、しばしば疑わしい。組織が移植のプロセスを生き残る可能性は、多くの因子に依存し得、これらの因子としては、摘出前の組織の状態、組織が体外に留まる時間の長さ、およびレシピエントにおいて組織の再灌流を開始するために使用される手順が挙げられる。組織および器官の移植の成功に影響を及ぼす傷害の1つの源は、酸素剥奪である。器官、組織および細胞の傷害は、酸素化された血液の組織および細胞への通常の流れが妨げられる場合に起こる。この妨害は、生きているドナーまたは最近死亡したドナーから移植組織を摘出する外科的手順の間、およびその後のレシピエント内への移植の前のエキソビボの保存の間に起こり得る。移植プロセスの特に疑わしい段階は、例えば、レシピエントへの組織の移植(grafting)および移植された組織の酸素化された血液での再灌流であり得る。非限定の理論に従い、再灌流が起こりエネルギー代謝が再開する時、抗酸化能力が低下している細胞内にフリーラジカルが蓄積し得る。フリーラジカルのこの蓄積は、組織における移植後傷害に寄与し得、レシピエント宿主による損傷した細胞の数の増大および免疫応答の増強をもたらす。従って、移植細胞へのこの免疫応答は、移植手順の間の細胞損傷の結果として宿主免疫系に不適切に曝された細胞抗原によって惹起される炎症性反応を誘導し得る。
【0059】
本発明の組成物および方法によって保護される移植細胞としては、レシピエントへの移植のためにドナーから得られた細胞、組織または器官が挙げられ、この移植細胞は、ヒト被験体または動物に由来し得、そしてある被験体から同じ被験体に戻して移植されてもよく、またはレシピエントの健康を改善する目的で、ある被験体(ドナー)から別の被験体(レシピエント)へ移植されてもよい。ドナー被験体は生きている被験体、胎児または最近死亡した被験体でもよい。移植片としては、健康なドナーから摘出された補充可能な細胞(例えば、幹細胞、血液細胞、骨髄細胞、胎盤細胞、肝臓細胞、精子および卵子)が挙げられ得る。また、健康なドナーから摘出された1以上の器官(例えば、腎臓)および、(例えば死の時点で死体から摘出され得る、)生存細胞を含む器官(例えば、心臓、肺または角膜組織)において提示される細胞の細胞保護もまた、本発明によって企図される。本明細書中で開示される細胞保護が有用に適用される細胞の最後の群としては、胎児から摘出された胎児組織に存在し得る細胞(例えば、脳組織)が挙げられる。
【0060】
本発明の組成物および方法を用いて細胞保護され得る組織は、胎児組織または小児、青年または成人に由来し得、血液およびその成分の全て(赤血球、白血球、血小板および血漿を含む);中枢神経組織(脳および脊髄組織、ニューロンおよび膠を含む);末梢神経組織(神経節、下垂体後葉、副腎髄質および松果体組織を含む);結合組織(皮膚、靭帯、腱、軟骨、骨および線維芽細胞を含む);筋肉組織(骨格筋組織、平滑筋組織および心筋組織またはこれらに由来する細胞を含む);内分泌組織(下垂体前葉、甲状腺、副甲状腺、副腎皮質、膵臓およびその下位区分、精巣、卵巣、胎盤およびこれらの組織の各々の部分である内分泌細胞を含む);血管(動脈、静脈、毛細管およびこれらの血管由来の細胞);心臓組織および器官全体;心臓弁;肝臓;腎臓;腸;骨;免疫組織(血液細胞、骨髄および脾臓を含む);目およびその部分;生殖器官組織;および泌尿器組織が挙げられ得るが、これらに限定されない。本発明の方法は、例えば、赤血球が動物ドナーからこのドナーに戻されるかもしくは動物レシピエントに移動される輸血のプロセスに適用され得るか、または無制限に達成され得る。さらなる適用としては、移植の間の組織または組織型(例えば、パーキンソン病の処置における胎児脳組織移植のための胎児組織、移植の間の心臓、および事故による切断後の身体の部分の再付着)の保存および保護が挙げられる。
【0061】
上記のように、変性性障害としては、変性性疾患および関連する状態が挙げられ、1以上の多くの可能性のある因子の結果として望ましくない細胞死または細胞損傷を伴う、広範な種々の状態を含み得る。非限定の理論に従い、例えば、本明細書中で提供される多くの変性性障害は、アポトーシスプロセスまたは壊死プロセスを介する不適切な細胞死をもたらす興奮毒性経路の活性の変化に関連する。実際、グルタミン酸興奮毒性は、事実上全ての神経変性性疾患における機構として関係しており、この疾患において、神経細胞死は顕著な特徴である。簡潔には、細胞外グルタミン酸とN−メチル−D−アスパラギン酸レセプター(NMDA−R)との相互作用に対する続発症は、細胞質Ca2+レベルの上昇を含み、これは、ミトコンドリア内Ca2+レベルの上昇をもたらし、ミトコンドリア内部膜電位の喪失、ATP産生の低下および反応性酸素化学種(ROS)の増大の出現を生じ、これは、細胞内成分の損傷を媒介し、アポトーシスおよび壊死の細胞メカニズムに寄与する。(例えば、Albinら,1992 Neurology 42:733−738;Danyszら,2000 Neurotox.Res.2:85−97;Ghoshら,1995 Science 268:239;Zeronら,2002 Neuron 33:849;AlbersおよびBeal,2002 Neurochem.Int.40(6):559−64;Vajda,2002 J Clin.Neuro Sci.9:4−8;Greenamyre,1986 Arch.Neurol.43:1058−1062;Lees,1993 Neuroscience 54:287−322;Liptonら,1994 N.Engl.J.Med.330:613−622;Masliahら,1996 Ann.Neurol.40:759−766;Parsonsら,1999 Neuropharmacol.38,735−767;Bealら(編),Mitochondria&Free Radicals in Neurodegenerative Diseases,1997 Wiley−Liss,Inc.,NYを参照)。従って、本明細書中で開示される組成物は、興奮毒性刺激に対する応答において、このような興奮毒性経路の活性を(例えば、統計的に有意性をもって)低下することによって細胞保護効果を与えることが本明細書中で示され、従って、変性性障害を処置するために使用され得る。しかし、本発明は限定される必要はなく、本明細書中で提供されるように、興奮毒性機構または興奮毒性経路の部分は、グルタミン酸塩のような細胞外因子以外の刺激(すなわち、興奮毒性機構は、その代わり細胞内事象に対する応答において進行し得る)および必ずしもNMDA−Rを介して媒介される必要がないシグナルを介することによって活性化されるか、または他の古典的興奮毒性経路レセプター(カイニン酸レセプター(KA−R)もしくはα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)レセプター(AMPA−R))によって活性化されて、変性性障害に寄与し得ることが企図される。
【0062】
このような非限定の理論にさらに従って、興奮毒性経路は、生物学的プロセスの特定の調節に寄与する。このようなプロセスとしては、細胞生存プロセス、アポトーシスプロセス、壊死プロセス、増殖プロセスおよび/または分化プロセスが挙げられる。本発明に関連して、従って、「興奮毒性経路」としては、細胞におけるこれらのプロセスおよび類似のプロセスの制御に関連する分子成分間の、一時的もしくは安定的な結合または相互作用が挙げられる。目的の特定の経路に依存して、このような経路の誘導を決定するための適切なパラメーターが、選択され得る。例えば、細胞生存度に関連する経路については、細胞生存(例えば、生存日数、代謝インジケーターなど)を評価するための多くの技術、およびアポトーシス(例えば、アネキシンV結合、DNAフラグメント化アッセイ、カスパーゼ活性など)を決定するための多くの技術が存在する。興奮毒性経路の他の局面は、特定の細胞表現型に関連する。この表現型は、例えば、細胞内メディエーターのレベルの変化(例えば、統計的に有意な上昇または低下)(例えば、環状ヌクレオチドまたは生理学的に活性なイオン種(特に、Ca2+またはMg2+のような二価カチオンなど)のレベルの変化、または活性化したキナーゼもしくはホスファターゼのレベルの変化)、遺伝子発現の特異的誘導(例えば、転写産物または翻訳産物として検出可能であるか、もしくはこのような産物のバイオアッセイによって検出可能であるか、または細胞質因子の核内局在として検出可能である)、あるいは細胞形態学などの変化(例えば、特定の刺激(例えば、NMDA−Rを介したグルタミン酸塩、または細胞質Ca2+を上昇する薬剤)に対する細胞応答性)であり、本明細書中で提供されるように、特定の細胞が興奮毒性経路を含むか否かを決定するために容易に同定され得る。
【0063】
このような経路は、例えば、ROS産生を誘導するかまたは促進する刺激によって、細胞において誘導され得る。細胞は、本明細書中で提供されるように、1以上の任意の数の刺激(例えば、サイトカイン、成長因子、ポリペプチドホルモンのようなホルモン、細胞ストレッサー(cell stressor)またはペプチド)によって刺激され得る。ROS(過酸化水素を含む)の細胞内産生は、直接的または間接的なROSインジケーターを用いる確立された方法論によって(例えば、2’,7’−ジクロロ二酢酸フルオレセイン(HDCFDA)または5−クロロメチル−2’,7’−ジクロロ二酢酸ジヒドロフルオレセイン(CM−HDCFDA)および6−クロロメチル−2’,7’−ジクロロ二酢酸ジヒドロフルオレセイン(CM−HDCFDA)のような蛍光ROSインジケーターを用いることによって)、決定され得る。次いで、ROSによって誘導されたDCF蛍光は、例えば、蛍光定量法、蛍光顕微鏡法もしくはフローサイトフルオロメトリー、または当該分野で公知の他の方法に従って測定され得る。ROSは、生物系において種々の他の技術のいずれかによっても検出され得る。これらの技術としては、スピントラッピング(ここで、反応性のラジカルが分子トラップと反応させられて長期間存在する(long−lived)ラジカルを産生する)が挙げられ、また、分子フィンガープリンティング(これは、酸化的損傷の最終産物を測定する)も挙げられる。このようなトラッピングのための特定の組成物および方法、ならびにROSを決定するための他の手段は、当該分野で公知であり、そしてROSを同定するための技術の選択は、検出される特定の反応性酸素種に依存し得る(例えば、HalliwellおよびGutteridge、前出を参照)。同様に、細胞内Ca2+のレベルの変化(例えば、統計的に有意な上昇または低下)を決定するための広範な種々の手段(ミトコンドリアCa2+レベルの変化と細胞質Ca2+レベルの変化を識別するための手段を含む)は、本明細書中で記載され、そして当該分野で公知である(例えば、Haugland,Handbook of Fluorescent Probes and Research Products(第9版),2002 Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR)。
【0064】
親和性技術は、本発明に関連して特に有用であり、この技術は、細胞によって誘導された、本明細書中で開示される細胞保護化合物と特異的にかつ/もしくは選択的に相互作用する分子成分を、同定するための方法を企図する。特に、固定化されている(例えば、ガラス、プラスチック、ポリマー、金属、架橋多糖類または他の基質(例えば、プレート、ウェル、ビーズ、メッシュ、カラム、フィルター、樹脂、膜など)のような固相上に共有結合または非共有結合を介して保持されている)か、検出可能に標識されている(例えば、容易に検出可能な部分(例えば、フルオロフォア、発色団、放射性核種、量子ドット、酵素、ハプテン、エピトープ、アビジン、ビオチンもしくはストレプトアビジンのような親和性ドメイン、プロテインA、プロテインGなど、または他の検出可能な部分)に共有結合されているかもしくは非共有結合されているか、または結合されている)か、あるいは検索可能に(retrievably)タグ標識されている(例えば、容易に検索可能な部分(例えば、磁性粒子もしくは常磁性粒子、ポリヒスチジン、グルタチオンもしくはグルタチオン−S−トランスフェラーゼのような親和性ドメイン、マルトース結合タンパク質、レクチン、多糖類、アビジン、ビオチンもしくはストレプトアビジン、プロテインA、プロテインGなど、ハプテンまたは、myc、FLAG(登録商標)、ヘマグルチニンもしくは他のモノクローナル抗体規定エピトープタグなどのようなエピトープタグ)に共有結合されているかもしくは非共有結合されているか、または結合されている)、本開示の細胞保護化合物の誘導体は、相互作用性の細胞誘導分子化合物が適切な条件下で結合し得る親和性リガンドとして使用され得る。従って、関連の実施形態は、細胞保護化合物と細胞誘導分子成分(例えば、タンパク質またはペプチド、脂質(リン脂質、糖脂質および他の脂質を含む)、核酸(DNAおよびRNAを含む)、炭水化物(オリゴ糖類および多糖類ならびにこれらの誘導体を含む)、代謝物、中間体、補因子など)との間の特異的結合相互作用を利用して細胞成分の単離を達成する、任意の方法を含み得る。例えば、Scopes,R.K.,Protein Purification:Principles and Practice,1987,Springer−Verlag,NY;Weir,D.M.,Handbook of Experimental Immunology,1986,Blackwell Scientific,Boston;Deutscher,M.P.,Guide to Protein Purification,1990,Methods in Enzymology Vol.182,Academic Press,New York;ならびにHermanson,G.T.ら,Immobilized Affinity Ligand Techniques,1992,Academic Press,Inc.,Californiaを参照;これらは、細胞誘導成分(例えば、タンパク質およびペプチド)を単離し性質決定するための親和性技術に関する詳細について、本明細書によりその全体が参考として援用される。
【0065】
用語「単離される」は、物質を本来の環境(例えば、この物質が天然に存在する場合は、天然環境)から取り出すことを意味する。例えば、生きている動物中に天然に存在するタンパク質またはペプチドは単離されていないが、共存する物質のいくらかまたは全てから分離される同じタンパク質またはペプチドは、単離されている。従って、例えば、このようなタンパク質は、多サブユニット複合体もしくは膜小胞の一部分であり得、そして/またはこのようなペプチドは、組成物の一部分であり得、そしてそのタンパク質もしくはペプチドの天然の環境の一部ではないこのような複合体、小胞もしくは組成物において、なお単離され得る。従って、本明細書中で提供される特定の実施形態は、興奮毒性経路の分子成分を単離するための方法を企図し、この方法は、生物学的サンプルと本明細書中で開示される構造を有する化合物とを、この化合物と分子成分との間の結合相互作用を可能にするために十分な条件下で十分な時間にわたって接触する工程、ならびに、それにより経路成分を単離する工程を包含する。関連の実施形態は、(好ましくは、本明細書中で開示されるように、このような変化が、変性性障害の原因であるか、結果であるかまたは変性性障害に関連するような状況において、)このような成分の構造の変化または生物活性の変化の決定を提供する。興奮毒性経路分子成分のこのような単離および性質決定は、被験体における変性性障害を有する危険性または変性性障害の存在の決定のための有用な情報、およびさらなる治療の開発のための有用な情報をも提供することが期待される。単離された成分の構造的性質決定は、当該分野で利用可能な方法論の範囲である。例えば、タンパク質またはペプチドの場合、当業者は、このようなポリペプチドをコードし得かつこのようなポリペプチドの生物学的発現を指向し得るポリヌクレオチドを同定しそして単離するための種々の技術を、理解する(例えば、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,2003 Wiley&Sons,NY;Sambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(第3版),2001 Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY)。
【0066】
生物学的サンプルとしては、任意の組織または細胞調製物が挙げられる。生物学的サンプルは、被験体または生物学的供給源から、血液サンプル、生検標本、組織外植片、器官培養物または任意の他の組織もしくは細胞調製物を得ることによって提供され得る。被験体または生物学的供給源は、ヒトもしくは非ヒト動物、一次細胞培養物もしくは培養適合性細胞株であり得、この細胞株としては、染色体に組み込まれた核酸配列もしくはエピソームにより組換えられた核酸配列を含み得る遺伝的に操作された細胞株、不死細胞株、不死化細胞株もしくは不死化可能な細胞株(例えば、インビトロで少なくとも10回倍化可能である細胞株)、体細胞ハイブリッドもしくは細胞質ハイブリッド「サイブリッド(cybrid)」細胞株(生物学的起源の異なる核DNAおよびミトコンドリアDNAを有するミトコンドリアサイブリッド細胞を含む。例えば、米国特許第5,888,498号および国際出願公開第WO95/26793号を参照)、分化細胞株もしくは分化可能な細胞株、形質転換細胞株などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の特定の好ましい実施形態において、被験体または生物学的供給源は、変性性障害を有することが疑われ得るか、または変性性障害を有する危険性があることが疑われ得、この障害は、例えば、興奮毒性経路の活性の変化(例えば、ミトコンドリア機能の変化(例えば、米国特許第6,140,067号を参照))に関連する疾患、または1以上の細胞タンパク質の酸化的修飾に関連する疾患である。そして本発明の特定の好ましい実施形態において、被験体もしくは生物学的供給源は、このような疾患の危険性または存在がないことが公知であり得る。特定の他の好ましい実施形態において、生物学的サンプルは、生物学的起源の異なる核DNAおよびミトコンドリアDNAを有するサイブリッド細胞株を含み、特定の実施形態において、この細胞は、ヒト細胞、不死細胞、神経細胞、神経芽細胞または他の形質転換細胞(例えば、SH−SY5Yヒト神経芽細胞)であり得る。特定の他の特に好ましい実施形態において、生物学的サンプルは、被験体または生物学的供給源から容易に得られるサンプル(例えば、血液、皮膚、骨格筋、肝臓または軟骨)を含む。
【0067】
細胞誘導分子成分(例えば、タンパク質)の「生物学的活性」は、条件、プロセス、経路、動的構造、状態またはこの成分に関連する他の活性に直接関連する、任意の検出可能なパラメーターであり得、そしてこのパラメーターは、被験体または生物学的供給源由来の生物学的サンプルにおける成分機能の変化の検出を可能にする。従って、本発明の方法は、生物学的活性を有する成分が、例えば、酵素、構造タンパク質、レセプター、リガンド、膜チャネル、制御タンパク質、サブユニット、複合体成分、シャペロンタンパク質、結合タンパク質もしくは本明細書中で提供される判断基準を含む他の判断基準に従う生物学的活性を有するタンパク質であり得る、このような相関に一部関する。このような活性としては、存在する細胞誘導分子成分の量、または検出可能である所定の成分の機能の量が挙げられ得る。細胞誘導分子成分の「生物学的活性の変化」は、任意の状態または症状を言及し得、変性性障害を伴う状態または症状が挙げられる。この変性性障害は、例えば、1以上のこのような成分の生物学的活性の検出可能な変化(例えば、適切なコントロールと比較して統計的に有意な様式での増大または減少)によって特徴づけられるか、または細胞の生存度の変化もしくは立体構造の変化によって特徴づけられるか、興奮毒性経路の活性の変化によって特徴づけられるか、あるいは本明細書中に提供される興奮毒性経路分子成分の修飾によって特徴づけられる、疾患または障害である。
【0068】
タンパク質またはペプチドの生物学的活性の変化は、このタンパク質中の1以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは挿入;このタンパク質の転写後修飾;タンパク質の発現レベルの変化(例えば、存在量の統計学的に有意な増大もしくは減少);酸化的修飾構造または酸化的事象、ならびに酸化非依存性構造または酸化非依存性事象、遺伝子および/もしくはその遺伝子産物の間の直接的相互作用、このような相互作用の結果として形成され得る中間体(代謝物、異化産物、基質、前駆体、補因子など)の間の相互作用の結果として生じる構造的変化もしくは機能的変化に、その起源を有し得る。本明細書中で提供される特定の実施形態に従って、タンパク質の生物活性の変化は、生物学的に活性なタンパク質と本明細書中で開示される細胞保護化合物のいずれかのような導入された薬剤との、直接的または間接的な相互作用から得られ得る。
【0069】
さらに、生物学的活性の変化は、呼吸の活性の変化、代謝活性の変化または他の生化学的活性もしくは生物物理学的活性の変化を、変性性障害を有する生物学的供給源の幾つかもしくは全ての細胞において、生じ得る。非限定の例として、顕著に障害性であるミトコンドリア電子輸送鎖(ETC)活性は、反応性酸素種(ROS)のような増大したフリーラジカルの産生または酸化的リン酸化の欠損と同様に、少なくとも1つのタンパク質の生物学的活性の変化に関連し得る。さらなる例として、ミトコンドリア膜電位の変化、アポトーシス経路の誘導ならびに細胞内の異型化学的架橋種および生化学的架橋種の形成(酵素的機構または非酵素的機構のどちらによる形成も)は全て、興奮毒性経路の活性の変化に寄与し得る生物学的活性の表示としてみなされ得る。
【0070】
変性性障害において変化し得る、関連の生物学的活性は、本開示の視点において、特定の変性性障害と親密性(familiarity)を有することが知られる。例えば、明確な変性性障害である骨粗しょう症のための組み合わせ治療に関連して、ビタミンDレセプター遺伝子型およびアポリポタンパク質Eについての遺伝子型と共に、特定のエストロゲンレセプター遺伝子型は、エストロゲンを含む治療レジメンの感受性に関連している(米国特許第6,566,064号参照)。従って、これらの遺伝子型は、1以上の変性性障害に関連を有する生物学的活性の変化を表し得る。別の例としては、神経変性性障害に関連して、米国特許出願公開第2003/0129134号に開示される生物マーカーは、関連する生物学的活性の変化を提供し得る。アルツハイマー病に特定の関連を有するさらなる例は、このような疾患を発症する危険性のあるヒト女性被験体が、少なくとも1つのApoE4対立遺伝子を有するか否かを含む。このような被験体の他の明確なエストロゲン化合物に対する応答性、およびこのような応答性とApoE4遺伝子型との間の相関は、米国特許第6,432,643号および米国特許出願公開第2002/0102725号に記載される。
【0071】
(治療方法)
別の実施形態において、本発明は、変性性障害を処置するための方法を提供する。このような方法としては、本発明の化合物をその状態を処置するために十分な量で温血動物に投与する工程を包含する。この文脈において、「処置」は、予防的投与を含む。従って、特定の特に関連する実施形態において、本発明の実施形態は、以下を処置するための方法を企図する:(i)神経変性性障害(例えば、アルツハイマー病、軽度の認知障害、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症)、(ii)眼の疾患(例えば、緑内障、色素性網膜炎、黄斑変性、眼内圧の上昇またはレーバー遺伝性視神経ニューロパシー)、(iii)心臓血管疾患(例えば、脳卒中、虚血または心筋梗塞)、(iv)骨、間接、結合組織または軟骨の障害(例えば、変形性関節症、関節リウマチまたは乾癬性関節炎)、(v)興奮毒性経路の活性の変化に関連する障害、(vi)組織移植または(vi)ミトコンドリア障害(例えば、フリートライヒ運動失調)。このような方法は、好ましくは(以下で議論される)薬学的組成物形態における、本発明の化合物の全身性投与を包含する。本明細書中で使用されるように、全身性投与としては、投与の経口方法および非経口方法が挙げられる。経口投与のために適切な、本発明の化合物の薬学的組成物はまた、散剤、顆粒剤、丸剤、錠剤およびカプセル剤、ならびに液剤、シロップ剤、懸濁剤および乳剤が挙げられる。これらの組成物はまた、香料(flavorant)、保存剤、懸濁化剤、増粘剤および乳化剤、ならびに他の薬学的に受容可能な添加物をも含有し得る。経口投与のために、本発明の化合物は、注射水溶液中に調製され得、この注射水溶液は、構造(I)の化合物に加えて、緩衝液、抗酸化剤、静菌剤およびこのような溶液中に一般的に使用され得る他の添加物を含有し得る。
【0072】
本発明の方法の実施において、構造(I)の化合物は、代表的に、1種以上の構造(I)の化合物を1種以上の薬学的に受容可能なキャリアと組み合わせて含む、薬学的に受容可能な組成物の形態で患者に投与される。治療的使用のための「薬学的に受容可能なキャリア」は、薬学分野で周知であり、例えば、Remingtons Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro編,1985)において記載される。例えば、生理学的pHの無菌の生理食塩水およびリン酸緩衝化生理食塩水が、使用され得る。構造(I)の化合物の親油性ゆえに、親油性溶媒が好ましいキャリアであり、そして/または好ましいキャリアの成分であり得る。保存剤、安定剤、色素およびさらに香味添加剤が、薬学的組成物中に提供され得る。例えば、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp−ヒドロキシ安息香酸エステルが、保存剤として添加され得る(同著者、1449)。さらに、抗酸化剤および懸濁化剤が、使用され得る(同著者)。
【0073】
また、本発明は、特定の実施形態において、組成物および処置の方法を特に企図し、この組成物および処置の方法は組み合わせで、以下を含む:(i)まず第1の細胞保護化合物として、エストロゲンまたはエストロゲン誘導体、エストロゲンアナログもしくはエストロゲンホモログの代わりに、本明細書中で開示される構造(I)の化合物の少なくとも1種、およびそれと共に、(ii)少なくとも1種の第2の化合物であって、抗酸化剤(例えば、米国特許第5,972,923号に開示されるグルタチオンおよび他の抗酸化剤、ならびに、アスコルビン酸塩、尿酸、α−トコフェロール、β−カロテン、フラボノイド、デスフェリオキサミンであって、例えば、HalliwellおよびGutteridge,Free Radicals in Biology and Medicine,1999 Oxford Univ.Press,NYもまた参照);抗エストロゲン剤(例えば、米国特許第6,677,324号、および例えば、Buzdar,2005 Clin.Canc.Res.11:906s、McDonnell,2005 Clin.Canc.Res.11:871s(TAS−108)、Eng−Wongら,2004 Expert Rev.Anticanc.Ther.4:523(ラロキシフェン(raloxifene))、Gradishar,2004 Oncologist 9:378(タモキシフェン);Lordら,2002 Altern Med Rev 7:112(2−ヒドロキシエストロンおよび2−ヒドロキシエストラジオール)を参照);ホルモン(例えば、ゴナドトロピン、ゴナドトロピン放出ホルモン、メラトニン(例えば、米国特許出願公開第2004/0223963号)、レラキシン(例えば、米国特許第6,251,863号、Conradら,2004 Am J Physiol Regul.Integr Comp Physiol 287:R250,Hayes 2004 Reprod Biol Endocrinol 2:36));無機質(例えば、カルシウム、マグネシウム);ビタミン(例えば、ビタミンD、ビタミンE、セレン、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12);カルシウム+ビタミンD(例えば、米国特許出願公開第2003/0045510号);神経ペプチド(例えば、ニューロトロフィン(例えば、米国特許第5,990,078号)もしくは神経成長因子のような成長因子);スタチン(例えば、米国特許出願公開第2004/0259886号)もしくはナイアシン(例えば、イノシトールヘキサニコチネート)のようなコレステロール低下剤;プロブコールもしくはプロブコールのアナログのようなアルツハイマー病処置薬剤(例えば、米国特許第6,274,603号、Tardifら,2003 Curr Opin Lipidol.14:615を参照)、AGI−1067(Doggrell 2003 Expert Opin Invest Drugs 12:1855,Tardif 2003 Am J Cardiol 91:41A;Wasserman 2003 Am J Cardiol 91:34A)、タクリン(パルス放出投薬および/または持続性放出投薬を含む、例えば、米国特許第6,036,973号参照)、塩酸ドネペジル(Donepezil hydrochloride)(AriceptTM)、メマンチンHCl(memantine HCl)(例えば、Namenda(登録商標))、アセチルコリンエステラーゼインヒビター(例えば、ヒューペルジンA(huperzine A)、ガランタミン、他のポリアミン、例えば、Duら,2004 Curr Pharm Des.10:3141を参照);脳卒中処置薬剤(例えば、組織プラスミノゲン活性化剤、tPA、マグネシウム);治療用抗体(例えば、アブシキシマブ(Abciximab)(ReoProTM)、ナタリズマブ(natalizumab)(Tysabri(登録商標))、アダリムマブ(adalimumab)(Humira(登録商標))、インフリキシマブ(Remicade(登録商標))、エファリズマブ(efalizumab)(Raptiva(登録商標))または他の治療用抗体);アブラナ科インドール化合物(例えば、米国特許第6,605,605号)(ブラシニン(brassinin)類、カマレキシン(camalexin)類、およびフィトアレキシン類(Ruszkowskaら,2003 Adv Exp Med Biol 527:629)、インドール−3−カルビノール(I3C)および3,3’−ジインドリルメタン(DIM)(Leibeltら,2003 Toxicol.Sci 74:10);ステロールもしくは5−α−スタノール吸収インヒビター(例えば、米国特許出願公開第2003/0119796号)、またはアミロイド−P疾患、神経変性または細胞毒性を処置する薬剤(例えば、米国特許出願公開第2005/0031651号);ならびに、特定の実施形態において必要に応じて、(iii)薬学的に需要可能なキャリア。特定のこのような実施形態において、そして非限定の理論に従い、第1の細胞保護化合物および第2の細胞保護化合物は、組み合わせた一緒の投与においても別々の投与においても、相乗効果をもたらし得(例えば、どちらかの化合物単独の投与からの結果よりも統計的に有意により強く作用する)、そして特定の他のこのような実施形態において、第1の化合物および第2の化合物は、付加的な効果および付加的未満の(less−than−additive)効果をもたらし得るが、これらの発明実施形態は、限定を意図せず、特定のこのような実施形態について、本明細書中で開示される第1の細胞保護化合物構造(I)の、簡便にかつ第2の化合物と同時に投与され得る形態における有用性によって、予期せぬ利益が得られる。
【0074】
本明細書中で提供される1以上の化合物を含む薬学的組成物は、患者に投与される組成物のために可能である任意の形態であり得る。例えば、この組成物は、固体、液体または気体(エアロゾル)の形態であり得る。投与の代表的な経路としては、非限定で、経口投与、局所投与(例えばパッチの形態での経皮投与および眼の投与を含む)、非経口投与(例えば、舌下投与または経頬投与)、舌下投与、直腸投与、経膣投与および鼻内投与が挙げられる。本明細書中で使用される場合、用語「非経口」は、皮下注射、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、胸骨内、空洞内(intracavernous)注射、腹腔内、くも膜下腔内、眼内、眼窩後方、外耳道内(intrameatal)、子宮内の注射、輸液技術または電気的に補助された送達方法(例えば、エレクトロポレーションまたはイオン導入法)が挙げられる。この薬学的組成物は、患者に対するこの化合物の投与において、その中に含まれる活性成分を生物活性にするように処方される。患者に投与される化合物は、1以上の投薬単位の形態をとり得(例えば、1錠の錠剤が単回投薬単位であり得る)、そしてエアロゾル形態の本発明の1種以上の化合物の容器は、複数の投薬単位を保持し得る。
【0075】
特定の実施形態における経路である経口投与について、賦形剤および/または結合剤が存在し得る。例は、ショ糖、カオリン、グリセリン、デンプンデキストラン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースおよびエチルセルロースである。着色剤および/または香味添加剤が、存在し得る。コーティング殻が、使用され得る。
【0076】
この組成物は、液体の形態であり得る(例えば、エリキシル剤、シロップ剤、液剤、乳剤または懸濁剤)。この液剤は、2つの例として、経口投与のためまたは注射による送達のためのものであり得る。経口投与が意図される場合、この組成物は、構造(I)の1種以上の化合物に加え、1種以上の甘味剤、保存剤、色素/染料および風味増強剤を含有し得る。注射によって投与されることを意図する組成物において、1以上の界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散化剤、懸濁化剤、緩衝液、安定剤および等張剤が、含有され得る。
【0077】
本明細書中で使用される液体薬学的組成物は、液剤、懸濁剤などの形態のどの形態であろうと、1種以上の以下のアジュバントを含有し得る:無菌希釈剤(例えば注射用水、食塩水、好ましくは生理食塩水、リンガー液、等張塩化ナトリウム)、不揮発性油(例えば、溶媒または懸濁化培地として寄与する合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリド)、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の溶媒;抗菌剤(例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸またはジスルフィドナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸);緩衝液(例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液またはリン酸緩衝液)および等張性を調整する薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。非経口調製物は、ガラス製またはプラスチック製の、アンプル、使い捨てシリンジまたは多用量バイアルに封入され得る。生理食塩水は、アジュバントの代表例である。注射可能な薬学的組成物は、好ましくは無菌である。
【0078】
非経口投与または経口投与のどちらかを意図する液体組成物は、本明細書中で提供される化合物の、適切な投薬が得られるような一定量を含むべきである。代表的に、この量は、この組成物の少なくとも0.01重量%である。経口投与が意図される場合、この量は、この組成物の0.1重量%と約70重量%との間で変化し得る。代表的な経口組成物は、この化合物の約4重量%と約50重量%との間を含む。代表的な組成物および調製物は、非経口投薬単位がこの化合物の0.01重量%〜1重量%の間を含むように調製される。
【0079】
この薬学的組成物は、キャリアが液剤、乳剤、軟膏またはゲルのベースを適切に含み得る場合、局所投与を意図され得る。例えば、このベースは、1以上の以下を含み得る:ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、蜜蝋、鉱物油、希釈剤(例えば水およびアルコール)、ならびに乳化剤および安定剤。局所投与のための薬学的組成物中に、増粘剤が存在し得る。経皮投与が意図される場合、この組成物は、経皮パッチまたは電気的に補助された送達のためのデバイス(例えば、エレクトロポレーションデバイスまたはイオン導入法デバイス)を含み得る。局所処方物は、この化合物の約0.1%w/v(単位容量あたりの重量)から約10%w/vまでの濃度を含み得る。
【0080】
この組成物は、例えば、坐剤の形態で、直腸投与を意図され得る。坐剤は、直腸で融解し、薬物を放出する。直腸投与のための組成物は、適切な非刺激性賦形剤として、油性ベースを含み得る。このようなベースとしては、非限定で、ラノリン、カカオバターおよびポリエチレングリコールが挙げられる。本発明の方法において、本明細書中で記載される構造(I)の化合物は、挿入物、ビーズ、持続性放出処方物、パッチまたは迅速に放出される処方物の使用を通して、投与され得る。
【0081】
この化合物の最適投薬量は、患者の体重および健康状態;処置される物理的状態の重症度および生存時間;活性成分、投与様式および使用される組成物の特定の形態に依存することは、当業者に明らかである。最小の女性化効果を伴うかまたは女性化効果を伴わない、効果的な治療を提供するために十分である最小投薬量の使用が、通常は好ましい。患者は一般に、治療有効性もしくは予防有効性、および女性化効果について、処置されるかまたは予防される状態のために適したアッセイおよび女性化活性を測定するために適したアッセイを用いて、モニタリングされる。これらのアッセイは、当業者によく知られている。適切な用量は、患者の大きさ、状態および代謝に伴って、そして(ある場合において)患者の性別に従って変わるが、代表的に、10kg〜60kgの個体につき、約10mLから約500mLまでの範囲である。特定の実施形態に従って、この化合物は、膜透過性である(好ましくは細胞膜および/またはミトコンドリア外膜および/もしくはミトコンドリア内膜を透過性である)ことが理解される。特定の他の実施形態に従い、本明細書中で開示される化合物の使用は、別の化合物に結合する薬剤(例えば、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体)、タンパク質またはリポソーム(この化合物の所望の標的化局在への送達を補助する)を含み得る。
【0082】
以下の実施例は、本発明を例示し、これを限定することを意図しない。当業者は、慣用的実験を通して、本明細書中で開示されるこの特定の化合物および手順の多くの等価物を理解し得る。このような等価物は、本発明の範囲内であると考えられる。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
(構造(I)の代表的化合物の合成)
【0084】
【化10】


【0085】
(化合物番号2の合成)
エストロン(化合物番号1)(1.08g)と1−アダマンタノール(0.70g)とのヘキサン(30ml)中撹拌懸濁液に、0℃でアルゴン雰囲気下で、BF・EtO(1.6ml)をシリンジを介して滴下した。この混合物を撹拌し、そして4時間の期間にわたって、室温まで温めた。次いで、溶媒を減圧下で除去した。残渣を、水で滴定した。得られた固体を、濾過によって回収し、そして酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒から再結晶化させて、化合物番号2を白色固体として得た(0.792g)。
【0086】
【化11】


【0087】
(化合物番号3の合成)
化合物番号2(0.202g)のメタノール(20ml)中溶液に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(0.350g)およびピリジン(2.0ml)を加えた。この混合物を、17時間にわたって還流した。次いで、この混合物を、水で滴定した。得られた固体を、濾過によって回収し、そして高真空下で乾燥して、化合物番号3を白色固体として得た(0.167g)。LC−MS:C2837NOについての計算値:419;実測値:420。
【0088】
(実施例2)
(さらなる代表的な化合物の合成)
実施例1に示した手順を化合物番号2の合成のために用い、以下の化合物もまた、調製した。
【0089】
【化12】


【0090】
(化合物番号4の合成)
化合物番号2(0.202g)のエタノール(10ml)中溶液に、ヒドラジン(1.0ml)を加えた。この混合物を、17時間にわたって還流し、次いで溶媒を減圧下で除去した。残渣を、シリカゲルカラム上でジクロロメタン中2.5%メタノールを用いて精製し、化合物番号4を白色固体として得た(0.172g)。LC−MS:C2838Oについての計算値:418;計算値:419。
【0091】
【化13】

【0092】
【化14】


【0093】
(化合物番号5の合成)
化合物番号2(0.202g)のメタノール(10ml)中溶液に、O−メチルヒドロキシルアミン塩酸塩(0.415g)およびピリジン(1.0ml)を加えた。この混合物を、17時間にわたって還流した。次いで、溶媒を、減圧下で除去した。残渣を、酢酸エチル中に溶解し、そしてブラインで洗浄した。粗生成物を、シリカゲルカラム上でヘキサン中10%酢酸エチルを用いて精製し、化合物番号5を淡黄色固体として得た(0.197g)。C2939NOについてのLC−MS:計算値:433;実測値:431。
【0094】
【化15】

【0095】
【化16】


【0096】
(化合物番号6の合成)
化合物番号2(0.100g)のエタノール(10ml)中溶液に、アセトヒドラジン(0.185g)を加えた。この混合物を、18時間にわたって還流した。次いで、この混合物を、水で滴定した。得られた固体を、濾過によって回収し、水で洗浄し、そして高真空下で乾燥して、白色固体を得た(0.102g)。LC−MS:C3040についての計算値:460;実測値:483(M+Na)。
【0097】
(実施例3)
(さらなる代表的化合物、親和性樹脂およびビオチン誘導体の合成)
【0098】
【化17】


【0099】
(化合物番号7の合成)
化合物番号2(0.202g)のメタノール(10ml)中溶液に、カルボキシメトキシルアミンヘミ塩酸塩(0.370g)を加えた。この混合物を、18時間にわたって還流した。次いで、この混合物を、酢酸エチルで希釈し、そして飽和NaHCO水溶液、ブラインで洗浄し、次いで、硫酸ナトリウムで乾燥した。この粗生成物を、シリカゲルカラム上でヘキサン中20%酢酸エチルを溶出液として用いて精製し、化合物番号7を白色固体として得た(0.198g)。
【0100】
【化18】

【0101】
【化19】


【0102】
(化合物番号8の合成)
化合物番号7(40mg)および2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)(100mg)のメタノール(2ml)中溶液を、18時間にわたって還流した。この混合物を、酢酸エチルで希釈し、そして水で(5回)洗浄し、そして硫酸ナトリウムで乾燥して、化合物番号8を白色固体として得た。この粗生成物は、分析的に純粋であった。LC−MS:C3653についての計算値:607;実測値:608。
【0103】
【化20】


【0104】
(親和性樹脂番号9の合成)
NHS活性化−セファロース樹脂(20ml)を、NMPで(4回)洗浄し、そして化合物番号8(6.1mg)のNMP(20ml)およびDIEA(1ml)中の溶液で室温で4時間振盪した。LC−MSは、この溶液中の化合物番号8の完全な消失を示した。エタノールアミン(1ml)を加え、そしてこの混合物を、18時間振盪して、親和性樹脂番号9を得た。これを、次いでメタノール(3回)、NMP(3回)およびメタノール(3回)で洗浄した。
【0105】
【化21】


【0106】
(ビオチン誘導体番号10の合成)
化合物番号8(0.179g,0.29ミリモル)を、DCM/DMF(1/1,20ml)中に溶解した。DIEA(1ml)およびビオチン−NHSエステル(60mg)を、加えた。この混合物を、室温で18時間撹拌した。溶媒を、減圧下で除去した。残渣を、RP−HPLC上で精製し、ビオチン誘導体番号10を、オフホワイトの固体として得た(0.123g)。LC−MS:C4667Sについての計算値:833;実測値:834。
【0107】
(実施例4)
(さらなる化合物の合成)
【0108】
【化22】


【0109】
(化合物番号11の合成)
エストロン(化合物番号1)(0.540g)のメタノール(20ml)中溶液に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(0.690g)およびピリジン(2.0ml)を加えた。この混合物を、17時間にわたって還流した。次いで、この混合物を、水で滴定した。得られた固体を、濾過によって回収し、そして高真空下で乾燥して、化合物番号11を白色固体として得た(0.167g)。LC−MS:C1823NOについての計算値:285;実測値:286。
【0110】
【化23】

【0111】
【化24】


【0112】
(化合物番号12の合成)
エストロン(化合物番号1)(0.540g)のエタノール(20ml)中溶液に、アセトヒドラジン(0.740g)およびピリジン(2.0ml)を加えた。この混合物を、18時間にわたって還流した。次いでこの混合物を、水で滴定した。得られた固体を、濾過によって回収し、水で洗浄し、そして高真空下で乾燥して、化合物番号12を白色固体として得た(0.616g)。LC−MS:C2026についての計算値:326;実測値:327。H NMRは、2種の回転異性体の混合物を示した。
【0113】
【化25】


【0114】
(化合物番号13の合成)
エストロン(化合物番号1)(0.540g)のエタノール(20ml)中溶液に、O−メチル−ヒドロキシルアミン(0.835g)およびピリジン(2.0ml)を加えた。この混合物を、18時間にわたって還流した。次いで、この混合物を、水で滴定した。得られた固体を、濾過によって回収し、水で洗浄し、そして高真空下で乾燥して、化合物番号13を白色固体として得た(0.576g)。LC−MS:C1925NOについての計算値:299;実測値:300。
【0115】
【化26】

【0116】
【化27】


【0117】
(化合物番号14の合成)
エストロン(化合物番号1)(0.540g)のエタノール(20ml)中溶液に、ヒドラジン一水和物を加えた。この混合物を、18時間にわたって還流した。次いで、この混合物を、水で滴定した。得られた固体を濾過によって回収し、水で洗浄し、そして高真空下で乾燥して、化合物番号14を白色固体として得た(0.552g)。LC−MS:C1824Oについての計算値:284;実測値:285。
【0118】
【化28】

【0119】
【化29】


【0120】
(化合物番号15の合成)
エストロン(化合物番号1)(0.540g)のメタノール(25ml)中溶液に、カルボキシメトキシルアミンヘミ塩酸塩(1.10g)を加えた。この混合物を、17時間にわたって還流した。次いで、この混合物を、水で希釈した。得られた固体を、濾過によって回収し、そして高真空下で乾燥して、化合物番号15を白色固体として得た(0.700g)。
【0121】
【化30】


【0122】
(実施例5)
(細胞保護活性)
この実施例は、上記の実施例1および実施例2に従って合成された化合物の細胞保護活性を、小脳顆粒細胞および皮質ニューロンを使用して実証する実験を、記載する。
【0123】
(小脳顆粒細胞の調製)
培養した小脳顆粒細胞を、以前に記載されたように(Courtneyら,1990 J Neurosci.10:3873−3879)、生後7日目のWistarラットから調製した。細胞を、ポリ−D−リジンでコーティングした直径10cmのプラスチック組織培養皿上に、1×10細胞/mlの接種密度でプレート培養した。細胞を、イーグル塩を含有する最小必須培地(MEM)(GIBCOBRL/Life Technologies,Inc.,Grand Island,NY)に10%(容量/容量)ウシ胎仔血清、25mM KCl、30mMグルコース、2mMグルタミン、100μg/mlストレプトマイシン、および100U/mlペニシリンを加えたもの(インキュベーション培地)中で培養した。24時間後、10mMシトシンアラビノシドを加え、非神経細胞増殖を阻害した。細胞を、37℃で、5%CO/95%空気の湿潤雰囲気中で維持し、そしてインビトロで7〜8日後に使用した。
【0124】
(皮質ニューロン)
外因性NMDAレセプターを発現するラット皮質ニューロンの一次培養物を、本質的にStoutら(1998 Nat.Neurosci.1:366−373)によって記載されているように調製した。
【0125】
(蛍光定量的Ca2+測定)
細胞質Ca2+を、96ウェルプレート中で培養した神経において、magfluo−4(細胞浸透性低親和性Ca2+色素、Molecular Probes,Inc.,Eugene,OR)を使用して測定した。カルシウムの蛍光検出による実験的決定の前に、細胞を、24時間の間、試験細胞保護化合物(10μM)またはビヒクルコントロールのどちらかに曝露した。magfluo−4のストック溶液(1mg/ml)を、DMSO中で実験の日に調製し、次いで、HBSS中で4μMの終濃度まで希釈した。この培養培地を注意深く吸引し、そして細胞に色素(4μM溶液を1ウェルあたり100μl)を、インキュベーター(37℃、5%/CO/95%空気の湿潤雰囲気中)内で25分間加えた。次いで、ローディング緩衝液を色素非含有HBSSと置換し、そしてこのプレートを、蛍光プレートリーダー(FLIPR,Molecular Devices,Inc.,Sunnyvale,CA)において、製造業者の指示に従い、488nM(励起)および525nm(放出)での約20〜30分間にわたる継続的なモニタリングによってアッセイした。
【0126】
ベースライン測定が確立した後、細胞を、蛍光モニタリングを継続しながら、HEPES緩衝化塩溶液(HBSS)中の100μMグルタミン酸塩および10μMグリシンに曝露した。このHBSSは、137mM NaCl、5mM KCl、10mM NaHCO、20mM HEPES、5.5mMグルコース、0.6mM KHPO、1.4mM CaCl、0.9mM MgSOを含有した。グルタミン酸塩添加の約10分間後、EGTAを添加し、そして蛍光モニタリングを継続した。約3分間後、ミトコンドリア脱カップリング剤FCCPを添加し(終濃度1μM未満)、そして蛍光読み取りを続けた。
【0127】
ビヒクルコントロール群において検出された細胞質Ca2+シグナルと比較して、グルタミン酸塩添加の約3分間後まで、本発明の化合物で事前処理した細胞は、有意な細胞質Ca2+のレベルの低下を持続的に示した。このような細胞内細胞質Ca2+レベルの低下により、興奮毒性からもたらされる壊死およびアポトーシスの両方は、対応して減少した。EGTAの添加後、全ての群についての細胞質Ca2+レベルは、ベースライン未満まで低下し、FCCPの投与後再び検出可能になった。このことは、非限定の理論に従い、グルタミン酸塩に対する細胞応答の過程の間のミトコンドリアによる隔絶されたCa2+の放出を反映する。本発明の化合物によって事前処理した細胞において(コントロール細胞と比較して)、Ca2+のより低いレベルをFCCP処理後に観察し、このことは、上述のように、この化合物による初期時点での検出可能な細胞内細胞質Ca2+蓄積の抑止を確実にした。
【0128】
45Ca2+取り込み実験)
小脳顆粒細胞を、ポリ−L−リジンコーティング96ウェルプレート中に、1ml中1×10細胞(1ウェルあたり100μl)の接種密度で、プレート培養した。45Ca2+取り込みの実験的決定の前に、細胞を、24時間の間、インキュベーション培地中の試験細胞保護化合物(10μM)またはビヒクルコントロールのどちらかに曝露した。血清非含有インキュベーション培地中の化合物(1μM)に24時間曝露した後、幾つかのデータを得た。小脳顆粒細胞を、実験前に15mMグルコースおよび1.2mM MgClで補強したインキュベーション培地で2回洗浄し、そして45Ca2+含有培地(0.05miCi/実験緩衝液10ml)中でインキュベートした。この細胞を、HBSS中グルタミン酸塩/グリシン(100μM/10μM)に、Ca2+存在下で曝露した。細胞を、MgCl含有インキュベーション培地中で2回洗浄し、残留細胞外45Ca2+を除去した。次いで、この細胞を、Ca2+非含有ジゴキシゲニン含有(0.001%)KCl溶液中で2分間洗浄し、遊離の細胞質カルシウムを細胞から除去した。次いで、ジゴキシゲニン浸透細胞を、2%Triton(登録商標)X−100で溶解し、そして放射活性を、Beckman LS6500多目的シンチレーションカウンターにおいて計測した。各組の条件を三連で実施し、別々の場合で少なくとも3回繰り返した。培養皮質ニューロン細胞についても、本質的に同じ手順を使用した。
【0129】
グルタミン酸塩に対する応答における小脳顆粒細胞による45Ca2+取り込みは、血清の非存在下もしくは存在下で、本発明の化合物を浸透させた細胞において、ビヒクルコントロールと比較して阻害された。皮質ニューロンによる45Ca2+取り込みもまた、本発明の化合物を浸透させた細胞において、コントロールと比較して阻害された。従って、細胞内Ca2+蓄積の減少により、本発明の化合物は、細胞をグルタミン酸塩誘導興奮毒性から保護した。この興奮毒性は、さもなければ、アポトーシス機構および/または壊死機構を介して細胞質Ca2+のレベルの上昇の続発症として進行している。
【0130】
(乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出によるグルタミン酸塩毒性のアッセイ)
小脳顆粒細胞を、96ウェルプレート(Becton−Dickinson黒色ポリ−d−リジンコーティングプレート、BD Biosciences,San Jose,CA)中でプレート培養した(1ウェルあたり1×10細胞)。細胞を、試験細胞保護化合物と共に、成長培地中で24時間または48時間にわたって事前インキュベートした。この培養培地を吸引し、そして細胞を、HEPES緩衝化援用液(HBSS)中100μMのグルタミン酸塩および10μMのグリシンに曝露した。このHBSSは、137mM NaCl、5mM KCl、10mM NaHCO、20mM HEPES、5.5mMグルコース、0.6mM KHPO、1.4mM CaCl、0.9mM MgSOを含有した。1時間後、NMDAレセプターアンタゴニストMK−801(ジゾシルピン、Sigma,St.Louis,MO;10μM)を添加し、NMDAレセプター活性化をブロックした。神経傷害を、最初の傷害(insult)の24時間後、細胞毒性検出キット(Roche Molecular Biochemicals;Indianapolis,IN)を用いる供給者の指示に従う乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出の定量的測定によって評価した。
【0131】
グルタミン酸塩に対する応答における、小脳顆粒細胞によるLDH放出は、本発明の化合物を浸透させた細胞において、ビヒクルコントロールと比較して阻害された。この観察は、本発明の化合物の細胞保護効果を反映し、興奮毒性刺激後のLDH放出の範囲で、この化合物に曝露された細胞における細胞死の減少を表した。
【0132】
(実施例6)
(興奮毒性経路成分の親和性単離のための化合物番号9の使用)
化合物番号9を得るための化合物番号8のNHS−活性化ビーズ上への固定化は、上の実施例3に記載される。上述のように興奮毒性経路を含むグルタミン酸塩応答性細胞(例えば、上の実施例において記載されるように調製した、小脳顆粒細胞または皮質ニューロン)を、使用前に、IB緩衝液(250mMショ糖,0.2mM K+EGTA,1mMコハク酸ナトリウム,10mM Tris,pH7.8)中または他の適切な緩衝液(単離する成分の特性に依存する)中に、25mg/mlのタンパク質濃度で浮遊(suspend)させ、−80℃で保存する。化合物番号9(すなわち、NHS−活性化SepharoseTMビーズ上に固定化した化合物番号8)の2mlスラリーに、2mlの解凍した細胞溶解液調製物および5mlの2×カラム緩衝液(1% TritonX−100TM,2Mグリセロール,1mMジチオスレイトール,1mM CaCl,40mMショ糖,1mM TEA/EGTAおよび25mM TEA/TES,pH7.3,標準プロテアーゼインヒビターカクテルで補強)を加える。容量を、蒸留水の添加により10mlにし、そしてこの混合物を、4℃で穏やかに撹拌しながら3時間インキュベートする。このビーズを、遠心分離によってペレット化し、そして上清をカラム通過物質画分として保存する。このビーズを、2×カラム緩衝液で2回洗浄し、次いで、使い捨ての10mlカラム内に充填し、このカラムを、30mlの2×カラム緩衝液、50mlの2×カラム緩衝液(100mM TEA/TESを含有するように改変した)、10mlの100mM 10mM TPP含有TEA/TES緩衝液、および50mlの2×1M NaCl含有カラム緩衝液で連続的に洗浄する。次いで、10mM Cpd8/40%(v/v)PEG400/10%(v/v)EtOH溶出液および50%(v/v)2×カラム緩衝液を含む10mlの溶液中にこのビーズを再懸濁し、懸濁液をチューブに移し、このビーズを穏やかに懸濁しながら1時間4℃でインキュベートすることによって、このカラムを溶出する。このビーズをペレット化し、そしてこの上清を保存する;次いで、この溶出工程を繰り返す。回収したカラム洗浄液画分を、タンパク質含量について基準化し、そして4〜12%ポリアクリルアミド−SDS NU−PAGETMTris−グリシンゲル上で、MES緩衝化系(Invitrogen,Inc.,Carlsbad,CA)を用いて、供給者の指示に従って電気泳動する。このゲルを、SeeBluePlus2TM(Invitrogen)で染色し、親和性単離されたタンパク質を可視化する。
【0133】
(実施例7)
(色素性網膜炎についてのマウス網膜外植片モデルにおける細胞保護)
この実施例は、網膜外植体または器官型培養系における、上記の実施例1および実施例2に従って合成される化合物の細胞保護活性の実証を記載する。
【0134】
網膜を、rd1変異体マウス(Bowesら,1990 Nature 347:677;Frassonら,1999 Nat.Med.5:1183)から生後7日で切り出した。この網膜は、自然発生のcGMPホスホジエステラーゼ変異を網膜杆細胞光受容体に保有し、この変異は、眼変性性疾患である色素性網膜炎(RP)についてのこの動物モデルにおいて、迅速かつ早熟な杆細胞アポトーシスをもたらす。コントロールの網膜を、バックグラウンド系統(C3H)から得た。網膜を、培養皿挿入物に接着した平坦なニトロセルロース膜上にマウントし、血清非含有R16培養培地中に、21日間(出生後28日目に対応するステージを示す)維持した(Caffeら,2001 J.Chem.Neuroanat.22:263)。
【0135】
動物間の偏差を減少するため、個々の動物由来の網膜を、実験的に対にし、1つの網膜を試験化合物に曝露し、そして反対のコントロールに溶媒ビヒクルのみを与えた。従って、培養の開始において、各対のうち1つの網膜を、1μMの化合物番号5(前出の実施例2を参照)に曝露し、その対の反対のコントロール網膜に等容量の試験化合物ビヒクル(DMSO)を与えた。培地を、2日毎に交換し、そして培養21日目に、この調製物を緩衝化4%パラホルムアルデヒド中で固定し、その後、クリオトーム(cryotome)で8μmの切片に切断し、そしてヘマトキシリンで染色した。
【0136】
切片を含むスライドを、光学顕微鏡検査を用いて、網膜の核外層における光受容体の列を各切片につき5視野について計数することによって、コード化しそして記録した。5視野の値を、各スライドについて平均化した。代表的に、異なる切断深度を代表する各調製物由来の6枚の切片を記録し、そして6枚のスライドから集めた平均値を平均化し、網膜あたりの網膜光受容体の残留する列の平均値を得た。この値を、統計的分析のために使用した。データを、スチューデント対応t検定によって分析した。また、処理:未処理の網膜の比も、各動物内対について計算し、そして1.0に設定した集団平均を用い、スチューデント1群t検定によって分析した。1回のこのような実験からのデータを、表1に示す。このデータは、未処理の網膜と比較して処理した網膜における、網膜細胞のより有意に大きい範囲の保護について、一貫している。
【0137】
【表1】

本明細書中で言及されるか、出願データシートに列挙される全ての上記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国の特許、外国の特許出願および非特許刊行物は、本明細書中で参考としてその全体が援用される。
【0138】
上から理解されるように、本発明の特定の実施形態は、本明細書中で例示の目的で記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の改変がなされ得る。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲による以外に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造:
【化1】

を有する化合物またはその立体異性体、プロドラッグもしくは薬学的に受容可能な塩であって、ここで:
は、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキルまたは置換アリールアルキルであり;
は、−NR3a3b、−O−R3aまたは−NR3aC(=O)R3bであり;そして、
3aおよびR3bは、同じであるかまたは異なっており、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アリールアルキル、置換アリールアルキル、複素環および置換複素環から独立に選択される、
化合物またはその立体異性体、プロドラッグもしくは薬学的に受容可能な塩。
【請求項2】
が−NR3a3bである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
がアルキルである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
がアダマンチルである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
3aおよびR3bが、両方とも水素である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
が−O−R3aである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
がアルキルである、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
がアダマンチルである、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
3aが水素である、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
3aが低級アルキルである、請求項8に記載の化合物。
【請求項11】
3aがメチルである、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
が−NR3aC(=O)R3bである、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
がアルキルである、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
がアダマンチルである、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
3aが水素であり、R3bが低級アルキルである、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
3bがメチルである、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
薬学的に受容可能なキャリアと組合せて請求項1に記載の化合物を含有する、薬学的組成物。
【請求項18】
変性性障害を処置するための方法であって、変性性障害を有するか、または該障害を有する危険性が疑われる被験体に、請求項17に記載の薬学的組成物を治療有効量投与する工程を包含する、方法。
【請求項19】
前記変性性障害が、以下(i)神経変性性障害、(ii)眼の疾患、(iii)心臓血管の疾患、(iv)骨、関節、結合組織または軟骨の障害、(v)興奮毒性経路の活性の変化と関連した障害、(vi)組織移植障害および(vi)ミトコンドリア病からなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記変性性障害が、アルツハイマー病、軽度の認知障害、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および多発性硬化症からなる群より選択される神経変性性障害である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記変性性障害が、緑内障、色素性網膜炎、黄斑変性、眼内圧の上昇およびレーバー遺伝性視神経ニューロパシーからなる群より選択される眼の疾患である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記変性性障害が、脳卒中、虚血および心筋梗塞からなる群より選択される心臓血管の疾患である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記変性性障害が、変形性関節症、関節リウマチおよび乾癬性関節炎からなる群より選択される骨、関節、結合組織または軟骨の障害である、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記変性性障害が、フリートライヒ運動失調である、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
以下、(i)請求項1に記載の化合物である、第1の細胞保護化合物;(ii)抗酸化剤、抗エストロゲン、ホルモン、無機物、ビタミン、神経ペプチド、コレステロール低下剤、アルツハイマー病処置剤、脳卒中処置剤および治療抗体からなる群より選択される少なくとも1つの第2の化合物;ならびに(iii)薬学的に受容可能なキャリアを含有する、薬学的組成物。
【請求項26】
変性性障害を処置するための方法であって、変性性障害を有するか、または該障害を有する危険性が疑われる被験体に、請求項25に記載の薬学的組成物を治療有効量投与する工程を包含する、方法。
【請求項27】
変性性障害を処置するための方法であって、変性性障害を有するか、または該障害を有する危険性が疑われる被験体に、治療有効量の以下、(i)請求項1に記載の化合物である、第1の細胞保護化合物;および(ii)抗酸化剤、抗エストロゲン、ホルモン、無機物、ビタミン、神経ペプチド、コレステロール低下剤、アルツハイマー病処置剤、脳卒中処置剤および治療抗体からなる群より選択される少なくとも1つの第2の化合物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項28】
前記第1の細胞保護化合物および前記第2の化合物が別々に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の細胞保護化合物および前記第2の化合物が一緒に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
興奮毒性経路の分子成分を単離するための方法であって、請求項1に記載の化合物と該分子成分との間の結合相互作用を可能にするために十分な条件下で十分な時間、生物学的サンプルと請求項1に記載の化合物とを接触させ、それにより該分子成分を単離する工程を包含する、方法。
【請求項31】
前記化合物が固定されるか、検出可能に標識されるか、または検索可能に標識される、請求項30に記載の方法。

【公表番号】特表2008−500368(P2008−500368A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515380(P2007−515380)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/018688
【国際公開番号】WO2005/116047
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(505233675)ミジェニックス コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】