説明

細胞洗浄遠心機

【課題】別部材である金属製のカバーをボウルに被着することなくボウルの試験管ホルダが当たる箇所の傷付きを防いでコストダウンとロータの安定した回転を実現することができる細胞洗浄遠心機を提供すること。
【解決手段】駆動源であるモータと、該モータによって回転駆動されるロータと、該ロータ上に円形列に回動自在に装着された複数の試験管ホルダ7と、該試験管ホルダ7に保持された複数の試験管8内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、前記ロータと共に回転して前記複数の試験管8を所定角度に保持するボウル11と、前記試験管ホルダ7を保持する保持手段とを備えた細胞洗浄遠心機において、前記試験管ホルダ7が回転して遠心力によって前記ボウル11に面接触又は線接触するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力を利用して赤血球等の生体細胞を洗浄するための細胞洗浄遠心機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞洗浄遠心機は、輸血検査時の抗グロブリン試験、交差適合試験、不規則抗体スクリーニング等において血液中の赤血球を生理食塩水等の洗浄液で洗浄して懸濁液中の余分な抗体等を除去するために用いられている。
【0003】
この種の細胞洗浄遠心機は、駆動源であるモータと、該モータによって回転駆動されるロータと、該ロータ上に円形列に回動可能に装着された複数の試験管ホルダと、ロータと共に回転して前記複数の試験管ホルダを40°又は45°に近い角度に保持するボウルと、ロータに装着された洗浄液分配素子と、磁気コイルへの通電により発生する磁気吸引力によって前記試験管ホルダを垂直又は垂直に近い角度に吸着保持する磁気素子を備えている。
【0004】
ここで、上記試験管ホルダは、試験管を保持する磁性部材であって、前記ロータと共に回転して遠心力によって外周水平方向に回動し、ロータと共に回転するボウルと当接して、試験管を所定角度に保持した状態で回転するものである。又、前記洗浄液分配素子は、ロータと共に回転して試験管ホルダに保持された試験管の内部に洗浄液を供給するものである。
【0005】
ところで、特許文献1には、洗浄遠心機の洗浄液分配素子が開示されており、この洗浄液分配素子は、内面が円錐形状の容器の底面外周から放射状に設置されたノズルを有しており、これがロータと共に回転することによって、その中央から注入された洗浄液を等分に分配し、試験管ホルダに保持された複数の試験管の内部にノズルから洗浄液を供給することを特徴としている。
【0006】
又、特許文献2には、ロータと共に回転する洗浄液分配素子に孔を穿設し、この孔から試験管ホルダの保持された各試験管内に洗浄液を供給する構成が開示されている。又、この特許文献2には、磁気素子を使用して試験管ホルダをロータに保持させること構成も開示されている。
【0007】
更に、特許文献3及び4には、ロータに試験管ホルダをリムや回転部材を用いて垂直方向に対して小さな角度傾けて保持したまま低速で回転駆動し、試験管から洗浄液の上澄液を排出する技術が開示されている。
【0008】
又、特許文献5には、磁気素子によってロータに試験管ホルダを垂直方向よりも小さな角度で傾けた状態で保持し、ロータを低速で回転させつつ、試験管ホルダに保持された試験管から洗浄液の上澄液を排出する技術が開示されている。
【0009】
その他、特許文献6には、ロータの停止時に該ロータに傾斜した状態で保持された試験管ホルダ(バケット)をロータが高速で回転した状態では遠心力によって該ロータの内面に密着させ、該試験管ホルダを垂直に保った状態でロータと一体に回転させる技術が開示されている。
【0010】
他方、細胞洗浄遠心機として、洗浄液注入工程、遠心工程、上澄液排出工程及び揺動工程を含む洗浄プロセスを順次自動的に実行する自動血球洗浄遠心機が知られている。例えば、非特許文献1に示されているように、本出願人によって製品名「himacMC450」として販売されている自動血球洗浄遠心機が周知である。この自動血球洗浄遠心機を用いた洗浄プロセスは次の手順によって実行される。
(1)先ず、準備として、自動血球洗浄遠心機のドアを開け、血球等の生体細胞が収容された試験管をロータの試験管ホルダにセットした後にドアを閉める。尚、通常、生体細胞を入れた試験管は24本使用するのが一般的であるが、検体数が少ないときには、試験管数を12本としてロータのバランスが崩れないように試験管ホルダに試験管を1本おきにセットして洗浄することもある。
(2)次に、洗浄液注入工程として、モータによってロータを加速回転させ、その遠心力によって試験管ホルダ内の試験管下部を外方に回動させ、試験管を垂直方向からロータの中心軸に対して一定の角度に傾けた状態となるよう、ロータ(モータ)を回転させる。このとき、送液ポンプ動作をオン(ON)状態(ポンプに給電した状態)にすることにより、ロータと共に回転する洗浄液分配素子を介して洗浄液を試験管に注入する。すると、血球は、洗浄液注入の勢いによって攪拌されて洗浄される。
(3)次に、遠心工程において、例えばロータ(モータ)を3000rpmで45秒間回転させて遠心処理する。これによって血球は試験管の底部に沈殿し、血清等の不要物質は上澄に残る。
(4)次に、上澄液排出工程において、磁気コイルへの通電をオン(ON)状態として磁気素子動作をオン(ON)し、該磁気素子に発生する吸引力によって試験管ホルダをほぼ垂直状態又は上方に小さな角度で開いた状態に吸着して固定する。この状態で再びロータを例えば400rpmの低速で回転させると、試験管の上部は小さな角度で開いた状態又は垂直状態となるため、上澄液は遠心力によって試験管の壁面を上昇して外部へ排出される。そして、ロータ(モータ)の回転を直ちに停止すると、沈殿した血球のみが試験管内に残る。
(5)次に、揺動工程において、ロータの回転と停止を交互に小刻みに繰り返すか、或いはロータの正回転と逆回転を交互に小刻みに繰り返すことによって試験管ホルダに保持された試験管に揺動を与え、試験管の底に血球を沈殿させ、固着した血球を解す。
(6)以上の(2)〜(5)の工程を白球洗浄の1サイクルとして、通常、このサイクルを3〜4回繰り返した後、自動血球洗浄遠心機のドアを開けて試験管を取り出すことによって洗浄を完了する。
【特許文献1】特開昭50−022693号公報
【特許文献2】実開平2−081640号公報
【特許文献3】特公昭48−027267号公報
【特許文献4】特開昭60−150857号公報
【特許文献5】実開昭54−167860号公報
【特許文献6】特開2001−079451号公報
【非特許文献1】日立工機株式会社ホームページ「日立自動血球洗浄機 MC450」、<URL:http://www.hitachi-koki.co.jp/himac/products/centrifuges/smal_centrifuges/mc450/mc450.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような従来の細胞洗浄遠心機では、ロータが回転しているときの試験管ホルダの傾きは、試験管ホルダのボウルに接触する部位によって決まり、該試験管ホルダがボウルと接触する部位は、試験管ホルダの大きさとボウルの内壁の内径によって決まる。
【0012】
ロータが回転し始め、試験管ホルダに遠心力が働くと、この遠心力によって試験管ホルダはその底の部分がボウルの内壁に当たるまでロータの外周方向に持ち上がり、試験管ホルダはボウルに当たった状態で回転し続ける。そして、ロータの回転が停止すると、試験管ホルダに作用していた遠心力が無くなるため、試験管ホルダは自重によってボウルから離れて下を向いた位置に戻る。
【0013】
通常、試験管ホルダはステンレス等の耐腐食性金属で構成されており、ボウルは形状の関係からポリカーボネート等の樹脂で成型加工されて製作される。
【0014】
ここで、従来の試験管ホルダとこれがボウルの内壁に当たった状態を図6に示す。尚、図6において、(a)は試験管ホルダとボウルの接触状態を上から見た図、(b)は(a)のD−D線断面図、(c)は遠心回転時の試験管ホルダと試験管の斜視図である。
【0015】
従来は、図6(a)に示すように、ボウル111と係合する試験管ホルダ107の係合部107Aは湾曲した板状に成形され、その曲率はボウル111の内壁面の曲率よりも大きいため、図6(b)に示すように、ボウル111は試験管ホルダ107のエッジの角部で点接触により係合していた。このため、細胞洗浄遠心機を運転し、ロータを回転する度に試験管ホルダ107はボウル111と点接触し、その点には接触する度に集中荷重が掛かっていた。そして、ボウル111をポリカーボネート(PC)等の樹脂で製作すると、係合点に加わる荷重によって該試験管ホルダ117の角部が該ボウル111の接触部へ食い込んで傷付き、へこみ等が生じていた。
【0016】
そこで、ボウル111の傷付きを防ぐために、図6(b)に示すように試験管ホルダ107と係合するボウル111の部位をステンレス等の金属から成るカバー106で覆う等の対策が施されているが、ボウル111はポリカーボネート等の通常成形で製作されるため、それを金属製のカバー106で覆う場合には、金属と樹脂の密着性を良くするためにボウル111のカバー106を嵌める部位を機械加工する必要があり、ボウル111が高価な部品となっていた。
【0017】
又、長期間使用しているとカバー106がずれ、それが取り付けてあるボウル111のバランスが崩れてロータの安定した回転が得られなくなってしまうという問題も発生する。
【0018】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、別部材である金属製のカバーをボウルに被着することなくボウルの試験管ホルダが当たる箇所の傷付きを防いでコストダウンとロータの安定した回転を実現することができる細胞洗浄遠心機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、駆動源であるモータと、該モータによって回転駆動されるロータと、該ロータ上に円形列に回動自在に装着された複数の試験管ホルダと、該試験管ホルダに保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、前記ロータと共に回転して前記複数の試験管を所定角度に保持するボウルと、前記試験管ホルダを保持する保持手段とを備えた細胞洗浄遠心機において、前記試験管ホルダが回転して遠心力によって前記ボウルに面接触又は線接触するよう構成したことを特徴とする。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記試験管ホルダの前記ボウルへの係合部をボウルの内壁面に平行に接触させるとともに、該係合部の少なくとも一部の曲率をボウルの内壁の曲率と同一に設定したことを特徴とする。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記試験管ホルダの前記ボウルへの係合部を曲面形状としたことを特徴とする。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記試験管ホルダにバネ部材を取り付け、該バネ部材を介して試験管ホルダを前記ボウルに面接触させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1〜3記載の発明によれば、試験管ホルダが遠心力によってボウルの内壁に面接触するため、ボウルの内壁に試験管ホルダの角部による集中荷重が作用することがなく、ボウルの傷付きを防ぐために従来のように試験管ホルダと係合するボウルの部位をステンレス等の金属から成るカバーで覆う必要がない。この結果、ボウルの機械加工と別部材である金属製のカバーが不要となり、ボウルのコストダウンを図ることができるとともに、カバーのずれに伴うボウルのバランスの崩れを防いでロータの安定した回転を実現することができる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、試験管ホルダが遠心力によってボウルの内壁に係合しても、該試験管ホルダは、これに取り付けられたバネ部材を介してボウルの内壁に面接触するため、ボウルの内壁に試験管ホルダの角部による集中荷重が作用することがなく、又、試験管ホルダがボウルに接触するときの衝撃がバネ部材の弾性変形によって吸収されるため、ボウルの傷付きが確実に防がれるとともに、試験管ホルダがボウルに接触するときの該試験管ホルダの反発を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は本発明に係る細胞洗浄遠心機の全体構成を示す断面図、図2は同細胞洗浄遠心機の各洗浄処理工程における試験管ホルダの動作状態を示す要部断面図である。
【0027】
本発明に係る細胞洗浄遠心機1は、図1に示すように、矩形ボックス状の筐体(フレーム)2と、該筐体2の上部を開閉するドア3を備えており、筐体2内には、駆動軸(回転軸)4を有するモータ5と、該モータ5の駆動軸4に連結されて回転駆動されるロータ6が組み込まれている。又、ロータ6上には、複数(例えば24個)の試験管ホルダ7が平面視で円形列に配置されており、各試験管ホルダ7は、ロータ6の外周に上下方向に回動可能に装着されている。そして、各試験管ホルダ7内には、予め赤血球等の生体細胞が適量収容された試験管8が保持される。尚、試験管ホルダ7はステンレス(SUS)等の磁性材料によって構成されている。
【0028】
又、細胞洗浄遠心機1は、試験管ホルダ7をロータ6に垂直又は垂直に近い小さい角度で保持するための保持手段として、磁力によって試験管ホルダ7を吸着するための磁気素子9を備えている。この磁気素子9は、円盤状の上部磁性体部材9aと下部磁性体部材9bと、これらの上部磁性体部材9aと下部磁性体部材9bによって挟み込まれるように設置された絶縁導線のリング状の磁気コイル9cを備えている。これらの磁性体部材9a,9bと磁気コイル9cは、モータ5の駆動軸4に固定されており、ロータ6と共に一体的に回転する。尚、回転する磁気コイル9cには、制御装置10から電流が不図示の一対のスリップリングを介して供給される。
【0029】
而して、磁気コイル9cに電流が通電されると該磁気コイル9cに磁場を生じ、例えばSUS430材等の磁性材料によって構成された試験管ホルダ7は、上部磁性体部材9aと下部磁性体部材9bと共に磁気回路を形成するため、上部磁性体部材9a及び下部磁性体部材9b(磁気素子9)に強く吸着される。即ち、磁気素子9の磁気コイル9cに電流を通電することによって、磁気素子9(磁性体部材9a,9b)は1個の磁石として作用し、磁性材料から成る試験管ホルダ7を吸着する。尚、本実施の形態では、上部磁性体部材9aの外径は下部磁性体部材9bのそれよりも大きく設定されており、このため、磁性体部材9a,9b(磁気素子9)の吸着面は、図2(3)に示すように、試験管8が鉛直線に対して上方に所定角度θ1(約8°)開いた状態になるように試験管ホルダ7を吸着することができる。
【0030】
上述のように磁気素子9の動作をオンすることによって、試験管ホルダ7は、図2(3)に示すように、垂直又は垂直に近い小さい角度θ1傾斜した状態で吸着され、磁気素子9の動作をオフして吸着力を解除することによって、試験管ホルダ7は、回転速度に応じて作用する遠心力によって水平方向に回動する。この磁気素子9の動作を小刻みにオン/オフすることにより試験管ホルダ7を図2(4)に示すように揺動させることができる。
【0031】
他方、後述のように、洗浄処理工程の他の工程(遠心工程(図2(2)参照)において、磁気素子9の動作をオフして吸着力を解除した状態でロータ6を高速で回転させれば、遠心力によって試験管ホルダ7が水平方向に回動する。これによって、試験管8を保持する試験管ホルダ7が水平方向に回動し、試験管ホルダ7はその下部がボウル11に当たるまで傾き、該試験管ホルダ7に保持された試験管8内の血球等の試料が遠心分離される。例えば、磁気素子9の動作をオフして吸着力を解除した状態でモータ5を3000rpmで回転させることによって試験管ホルダ7の下端部がボウル11に当接したとき、試験管ホルダ7は、試験管8と鉛直線(ロータ中心軸6aと平行な線)が成す角度θ2が約40°となるように回動する。尚、モータ5には例えば誘導モータが使用され、その回転数(回転速度)は制御装置10によって制御される。
【0032】
又、本発明に係る細胞洗浄遠心機1は、複数の試験管8内に洗浄液を供給するための洗浄液分配素子12を備えている。この洗浄液分配素子12は、ロータ6と一体に回転するようにロータ6上に構成されており、この洗浄液分配素子12に洗浄液を供給するための洗浄液供給路13が設けられている。この洗浄液供給路13には送液ポンプ14が結合されており、この送液ポンプ14の動作電源を制御装置10によってオン(ON)させることによって、不図示の細胞洗浄液容器から洗浄液を洗浄液供給路13を通して細胞洗浄遠心機1の上部に位置する洗浄液供給ノズル13aに供給することができる。後述する洗浄液注入工程(図2(1)参照)では、洗浄液供給ノズル13aから下方に噴出した洗浄液は、ロータ6と一体で高速回転する洗浄液分配素子12の中央部内に入り、該洗浄液分配素子12内の遠心力によって外周に分流され、試験管ホルダ7に保持された試験管8と同数(24本)の各流路に分岐され、洗浄液分配素子12の外周に形成された注入口から勢い良く各試験管8内に注入される。尚、図1において、17はチャンバ、18はドアカバー、19はカバーパッキンである。
【0033】
以上のように構成された細胞洗浄遠心機1によって例えば輸血検査等を行うための血球洗浄プロセスを図2に基づいて以下に説明する。
(1)洗浄液注入行程:
先ず、図2(1)に示す洗浄液注入工程においては、予め赤血球等の生体細胞が適量収容された24本の試験管8を保持する同数(24本)の試験管ホルダ7は、モータ5(ロータ6)の最高回転数(回転速度)が3000rpmに達するように加速回転されることによって遠心力が与えられる。前述のように、細胞洗浄液(例えば、生理食塩水)は、遠心力によって洗浄液分配素子12内の外周に分流され、試験管ホルダ7に保持された試験管8と同数(24本)の各流路に分岐され、洗浄液分配素子12の外周から勢い良く各試験管8内に注入される。注入された洗浄液は、洗浄液分配素子12の外側に位置する各試験管8の内壁に当たり、壁面を伝わり試験管8内の底部にある生体細胞を浮遊させて懸濁状態を作り出す。そして、試験管8に適量の洗浄液が注入されると、制御装置10によって送液ポンプ14の動作が停止されて洗浄液注入工程が終了する。
(2)遠心工程:
引き続き、図2(2)に示すように、浮遊している生体細胞が試験管8の底部に沈殿し、血清等の不要物質が上澄に残るような高速回転の条件、例えば本実施の形態では3000rpmで35秒間ロータ6の高速回転を継続して遠心分離を行う。そして、遠心分離後にモータ5の回転を停止する。
(3)上澄液排出工程:
次に、図2(3)に示すように、制御装置10よって磁気素子9の磁気コイル9cに通電すると(即ち、磁気素子9の動作をON状態にすると)、磁気素子9は磁性材料から成る試験管ホルダ7を吸着してこれを保持する。前述のように、磁気素子9の上部磁性体部材9aの外径は下部磁性体部材9bのそれよりも若干大きく設定されているため、磁気素子9の試験管ホルダ7を吸着する面は上方に所定角度θ1(約8°)だけ開いており、従って、試験管ホルダ7とこれに保持された試験管8は、上方に同角度θ1(約8°)傾いたほぼ垂直状態に近い状態で保持される。
【0034】
次に、磁気素子9に通電した状態で、モータ5を回転数約400rpmの低速で回転させると、試験管8内の上澄液は、400rpmの回転による遠心力によって試験管8の内壁面を上昇して外部へ排出され、試験管8の底部にある赤血球等の生体細胞はそのまま底部に残る。
(4)揺動工程:
上澄液排出工程が終了すると、次の揺動工程において、図2(4)に示すように、モータ5は小刻みに回転と停止を繰り返す。これによって、試験管ホルダ7は、回転による遠心力で外周方向に振られ、停止と共に磁気素子9に衝突することにより揺動を与えられ、試験管8の底部に沈殿して固着した細胞塊を解す作用を果たす。
【0035】
以上説明した工程を1洗浄サイクルとして、このサイクルを3〜4回繰り返すことによって試験管8内の赤血球等の生体細胞を洗浄し、抗体等の異物をより完全に分離して取り除くことができる。
【0036】
以上のようにして洗浄された赤血球等の生体細胞が残った試験管8は、細胞洗浄遠心機1のドア3を開けて外部に取り出される。
【0037】
次に、本発明の要旨を図3〜図5に基づいて説明する。
【0038】
図3において、(a)は試験管ホルダとボウルの接触状態を上から見た図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は遠心回転時の試験管ホルダと試験管の斜視図である。
【0039】
図3に示す形態では、試験官ホルダ7の底部のボウル11の内壁と係合する係合部7Aが図3(b)に示すようにボウル11の内壁面と平行に接触するように該係合部7Aを上方に延ばすとともに、図3(c)に示すように係合部7Aの幅方向中央に接触部7aを部分的に形成し、この接触部7aの曲率を図3(a)に示すようボウル11の内壁の曲率と同一としている。
【0040】
従って、試験管ホルダ7が遠心力によってボウル11の内壁に接触しても、その係合部7Aに形成された接触部7aがボウル11の内壁に面接触することとなるため、ボウル11の内壁に集中荷重が作用することがなく、ボウル11の傷付きを防ぐために従来のように試験管ホルダ7と係合するボウル11の部位をステンレス等の金属から成るカバーで覆う必要がない。この結果、ボウル11の機械加工と別部材である金属製のカバーが不要となり、ボウル11のコストダウンを図ることができるとともに、カバーのずれに伴うボウル11のバランスの崩れを防いでロータ6の安定した回転を実現することができる。尚、本形態において、ボウル11の材質をポリカーボネート(PC)とし、ロータ6の回転と停止を繰り返して試験官ホルダ7のボウル11への係合を繰り返したが、ボウル11に傷付きは発生しなかった。
【0041】
図4は本発明の他の形態を示す図であり、同図において、(a)は試験管ホルダとボウルの接触状態を上から見た図、(b)は(a)のB−B線断面図、(c)は遠心回転時の試験管ホルダと試験管の斜視図である。
【0042】
本形態においては、試験管ホルダ7の加工性を良くするために、試験管ホルダ7のボウル11と係合部7Aを上方に延ばし、その端部においてエッジが接触しないようにしている。この場合は、試験管ホルダ7とボウル11の係合は線接触に近い状態が得られるため、図3に示した形態と同様に、別部材である金属製のカバーをボウル11に被着することなく、該ボウル11の試験管ホルダ7が当たる箇所の傷付きを防いでコストダウンとロータ6の安定した回転を実現することができるという効果が得られる。尚、本形態において、ボウル11の材質をポリカーボネート(PC)とし、ロータ6の回転と停止を繰返して試験官ホルダ7のボウル11への係合を繰り返したが、ボウル11の係合部では表面の光沢具合が微妙に異なるように見える程度で傷等の発生はなかった。
【0043】
図5は本発明の更に別の形態を示す図であり、同図において、(a)は試験管ホルダと試験管の正面図、(b)が(a)のC−C線断面図、(c)は遠心回転時に試験管ホルダがボウルに係合している状態を示す断面図である。
【0044】
本形態では、試験管ホルダ7の底部に弾性体(例えばバネ性ステンレス板)で構成されたバネ部材20を溶接等で取り付けている。ここで、バネ部材20は、そのボウル11との係合部20aが図5(c)に示すようにボウル11の内壁面と平行になるようにプレス加工によって屈曲されている。又、このバネ部材20の幅は、2〜3mmと試験管ホルダ7の直径の1/7〜1/5に設定されている。
【0045】
本形態によれば、試験管ホルダ7が図5(c)に示すように遠心力によってボウル11の内壁に係合しても、該試験管ホルダ7は、その底部に取り付けられたバネ部材20を介してボウル11の内壁に面接触するため、ボウル11の内壁に集中荷重が作用することがなく、又、試験管ホルダ7がボウル11に接触するときの衝撃がバネ部材20の弾性変形によって吸収されるため、ボウル11の傷付きが確実に防がれるとともに、試験管ホルダ7がボウル11に接触するときの該試験管ホルダ7の反発を低減することができる。そして、ボウル11の傷付きを防ぐために従来のように試験管ホルダ7と係合するボウル11の部位をステンレス等の金属から成るカバーで覆う必要がない。
【0046】
従って、本形態においても、ボウル11の試験管ホルダ7が当たる箇所の傷付きを防いでコストダウンとロータ6の安定した回転を実現することができるという効果が得られる。尚、本形態において、ボウル11の材質をポリカーボネート(PC)とし、ロータ6の回転と停止を繰返して試験管ホルダ7のボウル11への係合を繰り返したが、係合した瞬間、バネ部材20が若干弾む感じが見られるものの、ボウル11の係合部には傷等は生じなかった。又、係合した瞬間の試験管8の弾みが細胞の洗浄具合に与える影響を確認したが、従来と同様に良好な洗浄具合であった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る細胞洗浄遠心機の全体構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係る細胞洗浄遠心機の各洗浄処理工程における試験管ホルダの動作状態を示す要部断面図である。
【図3】(a)は本発明の実施の形態1に係る試験管ホルダとボウルの接触状態を上から見た図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は遠心回転時の試験管ホルダと試験管の斜視図である。
【図4】(a)は本発明の実施の形態2に係る試験管ホルダとボウルの接触状態を上から見た図、(b)は(a)のB−B線断面図、(c)は遠心回転時の試験管ホルダと試験管の斜視図である。
【図5】(a)は本発明の実施の形態3に係る試験管ホルダと試験管の正面図、(b)が(a)のC−C線断面図、(c)は遠心回転時に試験管ホルダがボウルに係合している状態を示す断面図である。
【図6】(a)は従来の試験管ホルダとボウルの接触状態を上から見た図、(b)は(a)のD−D線断面図、(c)は遠心回転時の試験管ホルダと試験管の斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 細胞洗浄遠心機
2 筐体
3 ドア
4 駆動軸
5 モータ
6 ロータ
7 試験管ホルダ
7A 試験管ホルダの係合部
7a 試験管ホルダの接触部
8 試験管
9 磁気素子
9a 磁気素子の上部磁性体部材
9b 磁気素子の下部磁性体部材
9c 磁気素子の磁気コイル
10 制御装置
11 ボウル
12 洗浄液分配素子
13 洗浄液供給路
13a 洗浄液供給ノズル
14 液送ポンプ
17 本体チャンバ
18 ドアカバー
19 カバーパッキン
20 バネ部材
20a バネ部材の係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源であるモータと、該モータによって回転駆動されるロータと、該ロータ上に円形列に回動自在に装着された複数の試験管ホルダと、該試験管ホルダに保持された複数の試験管内に洗浄液を供給する洗浄液分配素子と、前記ロータと共に回転して前記複数の試験管を所定角度に保持するボウルと、前記試験管ホルダを保持する保持手段とを備えた細胞洗浄遠心機において、
前記試験管ホルダが回転して遠心力によって前記ボウルに面接触又は線接触するよう構成したことを特徴とする細胞洗浄遠心機。
【請求項2】
前記試験管ホルダの前記ボウルへの係合部をボウルの内壁面に平行に接触させるとともに、該係合部の少なくとも一部の曲率をボウルの内壁の曲率と同一に設定したことを特徴とする請求項1記載の細胞洗浄遠心機。
【請求項3】
前記試験管ホルダの前記ボウルへの係合部を曲面形状としたことを特徴とする請求項1記載の細胞洗浄遠心機。
【請求項4】
前記試験管ホルダにバネ部材を取り付け、該バネ部材を介して試験管ホルダを前記ボウルに面接触させたことを特徴とする請求項1記載の細胞洗浄遠心機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−154038(P2009−154038A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331683(P2007−331683)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】