説明

細胞活性分析装置及び細胞活性分析方法、並びに細胞同定方法

【課題】個々の生細胞に対する外部刺激の活性を分析する。
【解決手段】細胞活性分析装置100は、生細胞C1、C2に接する金属薄膜5と、金属薄膜5と実質的に接する界面Fを有するプリズム3と、P偏光の平行光束をプリズム3に入射させ表面プラズモン共鳴現象を発生させる所定の入射角で界面Fに入射させる光源1と、その反射光の2次元強度分布に相当する強度像を所定の倍率に拡大する対物レンズ6と、拡大された強度像を撮像する撮像部7と、強度像の画像データをサンプリングする画像取得部21と、強度像の画像データから生細胞C1、C2の少なくとも一部の像を計測対象として選択するための表示部23及び操作部24と、計測対象の輝度値を抽出し、生細胞C1、C2に対して外部刺激を与えた前後での計測対象の輝度値の変化に基づいて、計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する画像処理部22とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞の反応活性を分析する細胞活性分析装置及び細胞活性分析方法、並びに細胞同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面プラズモン共鳴(SPR)法の原理が様々な研究及び検査等で利用されている。表面プラズモン共鳴法の原理を用いて測定される対象物には、例えば酵素、抗体、DNA又は細胞等が挙げられる。このうち、細胞を測定対象物としたもので、表面プラズモン共鳴装置を用いて生細胞に対する外部刺激の活性を評価する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、表面プラズモン共鳴装置を用い、生細胞が外部刺激に曝露された際に観察される1次シグナルの後に出現する2次シグナルを指標として、生細胞に対する外部刺激の活性を評価している。シグナルとは、生細胞を対象とする通常のSPR測定と同様にして測定された誘電率(屈折率)の変化のことを示す。
【0003】
さらに細胞を測定対象物としたものとして、特許文献2には、プレート上に固定された細胞集団に含まれる個数を簡便に算出する方法およびシステムが記載されている。例えば、当該方法では、細胞を分析する方法であって、表面プラズモン共鳴イメージングを用いてプレート上に固定された細胞に起因する反射光強度を測定する工程、及び、該反射光強度から、該細胞に関するパラメータを算出する工程を包含する。具体的には、細胞数、細胞の接着面積または細胞の大きさといった細胞に関するパラメータを分析する方法が記載されている。
【0004】
この他にも、非特許文献1に、表面プラズモン共鳴装置を用いて細胞の付着密度等の細胞に関するパラメータを分析する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3795312号公報
【特許文献2】特開2004−271337号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Alexander W Peterson, Michael Halter, Alessandro Tona, Kiran Bhadriraju and Anne L Plant, "Surface plasmon resonance imaging of cells and surface-associated fibronectin", BMC Cell Biology, 2009, 10:16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された方法では、リアルタイムで複数の生細胞に対する外部刺激の活性の平均値を評価することはできるものの、個々の生細胞に対する外部刺激の活性を分析、評価するのは困難である。
【0008】
また、特許文献2に記載されている細胞を分析する方法及び装置、並びに非特許文献1に記載された方法は、上述したとおり、細胞数、細胞の接着面積または細胞の大きさといった細胞に関するパラメータの算出及び分析を目的とした方法及び装置(システム)である。そのため、このような方法及び装置(システム)を利用した場合には、生細胞に対する上記以外のパラメータを含む刺激応答を直接的に分析、評価することができないので、感度良く当該活性を分析、評価することは難しい。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、個々の生細胞に対する外部刺激の活性を分析することができる細胞活性分析装置及び細胞活性分析方法、並びに細胞同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る細胞活性分析装置は、
表面プラズモン共鳴現象を利用して生細胞に対する外部刺激の活性を分析する細胞活性分析装置であって、
一方の面で前記生細胞に接する金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の平行光束を、前記屈折光学素子に入射させ、前記表面プラズモン共鳴現象を発生させる所定の入射角で前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面に入射した前記平行光束の反射光の2次元強度分布に相当する強度像を所定の倍率に拡大する拡大光学系と、
前記拡大光学系で拡大された前記強度像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で撮像された前記強度像の画像データをサンプリングする画像取得手段と、
前記画像取得手段によりサンプリングされた前記強度像の画像データから、前記生細胞の少なくとも一部の像を計測対象として選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された前記計測対象の輝度値を抽出し、前記生細胞に対して前記外部刺激を与えた前後での前記計測対象の輝度値の変化に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する算出手段と、
を備える。
【0011】
好ましくは、前記選択手段は、前記計測対象を複数指定可能であり、
前記算出手段は、前記強度像の画像データから、選択された複数の前記計測対象各々の輝度値を抽出し、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を、前記計測対象毎に算出する。
【0012】
さらに好ましくは、前記選択手段は、同一の前記生細胞の像における複数の異なる箇所を前記計測対象として選択する。
【0013】
また、好ましくは、前記算出手段は、前記生細胞に対して前記外部刺激を与える前の前記計測対象の輝度値と、前記外部刺激を与えた後の前記計測対象の輝度値との差分に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する。
【0014】
好ましくは、前記算出手段は、前記強度像の画像データにおける前記生細胞が存在していない箇所の輝度値の成分に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を補正する。
【0015】
さらに好ましくは、前記所定の入射角は、前記金属薄膜に、前記生細胞が接していないときの共鳴角に等しい。
【0016】
さらに好ましくは、前記算出手段により算出された前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報に基づいて前記生細胞を同定する同定手段をさらに備える。
【0017】
また、好ましくは、前記金属薄膜に接する前記生細胞を、前記一方の面側から観察する顕微鏡をさらに備える。
【0018】
好ましくは、前記選択手段は、
前記画像取得手段によってサンプリングされた前記強度像の画像データに基づく画像を表示する表示手段と、
操作入力により、前記画像取得手段によってサンプリングされた前記強度像の画像データの中から前記生細胞の少なくとも一部の像を、選択された前記計測対象として指定する操作手段と、
をさらに備える。
【0019】
また、好ましくは、前記金属薄膜は、前記生細胞を含む生細胞群を、離隔して複数配置可能である。
【0020】
さらに好ましくは、複数の前記生細胞群各々に異なる前記外部刺激を与える外部刺激付与手段をさらに備える。
【0021】
本発明の第2の態様に係る細胞活性分析方法は、
表面プラズモン共鳴現象を利用して生細胞に対する外部刺激の活性を分析する細胞活性分析方法であって、
金属薄膜の一方の面に接するよう前記生細胞を配置する配置工程と、
P偏光の平行光束を、前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子に入射させ、前記表面プラズモン共鳴現象を発生させる所定の入射角で前記界面に入射させる入射工程と、
前記界面に入射した前記平行光束の反射光の2次元強度分布に相当する強度像を、拡大光学系によって所定の倍率に拡大する拡大工程と、
前記拡大光学系で拡大された前記強度像を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程において撮像された前記強度像の画像データをサンプリングする画像取得工程と、
前記画像取得工程によりサンプリングされた前記強度像の画像データから、前記生細胞の少なくとも一部の像を計測対象として選択する選択工程と、
前記選択工程により選択された前記計測対象の輝度値を抽出し、前記生細胞に対して前記外部刺激を与えた前後での前記計測対象の輝度値の変化に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する算出工程と、
を含み、
前記算出工程により算出された前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を指標として、前記生細胞の少なくとも一部に対する前記外部刺激の活性を分析する。
【0022】
好ましくは、前記選択工程では、前記計測対象を複数指定可能であり、
前記算出工程では、前記強度像の画像データから、選択された複数の前記計測対象各々の輝度値を抽出し、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を、前記計測対象毎に算出する。
【0023】
さらに好ましくは、前記選択工程では、同一の前記生細胞の像における複数の異なる箇所を前記計測対象として選択する。
【0024】
また、好ましくは、前記算出工程では、前記生細胞に対して前記外部刺激を与える前の前記計測対象の輝度値と、前記外部刺激を与えた後の前記計測対象の輝度値との差分に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する。
【0025】
好ましくは、前記算出工程では、前記強度像の画像データにおける前記生細胞が存在していない箇所の輝度値の成分に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を補正する。
【0026】
また、好ましくは、前記所定の入射角は、前記金属薄膜に、前記生細胞が接していないときの共鳴角に等しい。
【0027】
最も好ましくは、前記選択工程は、
前記画像取得工程によってサンプリングされた前記強度像の画像データに基づく画像を表示する表示工程と、
操作入力により、前記画像取得工程によってサンプリングされた前記強度像の画像データの中から前記生細胞の少なくとも一部の像を、選択された前記計測対象として指定する操作工程と、
をさらに含む。
【0028】
また、好ましくは、前記配置工程では、前記生細胞を含む生細胞群を離隔して複数配置する。
【0029】
さらに好ましくは、複数の前記生細胞群各々に異なる前記外部刺激を与える。
【0030】
本発明の第3の態様に係る細胞同定方法は、
本発明の細胞活性分析方法を用いた分析により得られた生細胞に係る反射光の強度の変化に関する情報に基づいて前記生細胞を同定する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、生細胞が接する金属薄膜に実質的に接する界面に入射するP偏光の平行光束の反射強度像の画像データがサンプリングにより取得される。そして、取得された画像データから、生細胞の少なくとも一部の像が計測対象として選択され、選択された像の輝度の変化に基づいて計測対象の反射光の強度の変化に関する情報が算出される。計測対象となる生細胞は誘電体であり、その誘電率(屈折率)は外部刺激に対する反応により変化する。その結果、表面プラズモン共鳴現象の共鳴角が変化し、そこで、反射した反射光の強度が変化する。したがって、算出された反射光の強度の変化に関する情報を算出すれば、その情報に基づいて、その反射光に係る個々の生細胞に対する外部刺激の活性を分析することができる。本発明によれば、個々の生細胞及び/又は個々の生細胞内の一部分の性質等を評価・解析したり、特定の種類の生細胞を単離したりすることができるので、生細胞ごとに反応が異なることを検出することが可能になり、個々の細胞を単離せずに分析することが可能になり、個々の細胞内での個々の場所ごとの分析が可能となる。その結果、個々の生細胞ごとの活性の挙動を検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る細胞活性分析装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1の細胞活性分析装置における反射光の強度の入射角度依存性の一例を示すグラフである。
【図3】図3(A)乃至図3(H)は、入射角を1°ずつ変えたときに撮像された反射強度像の画像の一例である。
【図4】図4(A)乃至図4(C)は、生細胞(RBL−2H3細胞)を刺激しない場合の反射強度像の画像の時間変化の一例である。
【図5】図5(A)乃至図5(C)は、生細胞(RBL−2H3細胞)を刺激した場合の反射強度像の画像の時間変化の一例である。
【図6】図6(A)は、刺激されていない計測対象の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。図6(B)は、生細胞(RBL−2H3細胞)を刺激された計測対象の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。
【図7】図1の画像処理部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図8】反射光の強度に含まれる各種成分を説明するための図である。
【図9】図9(A)乃至図9(C)は、生細胞(RBL−2H3細胞)の異なる部分における反射光の強度の変化の一例である。
【図10】金属薄膜の他の例を示す図である。
【図11】図11(A)は、マルチウェルチャンバーが搭載された細胞活性分析装置の一部の斜視図であり、図11(B)は、図11(A)の細胞活性分析装置で撮像された画像の一例を示す図である。
【図12】図12(A)はPAM212細胞、図12(B)はA431細胞を刺激した場合の反射強度像の画像の一例である。
【図13】図13(A)はPAM212細胞、図13(B)はA431細胞を刺激した場合の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。
【図14】抗DNP-マウスIgEを結合したRBL−2H3細胞及び結合していないRBL−2H3細胞が配置されたセンサチップを示す図である。
【図15】図14に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及びPMAで刺激した場合の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。
【図16】図16(A)乃至図16(C)は、図14に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及びPMAで刺激した場合の反射強度像の画像の時間変化の一例である。
【図17】抗DNP−マウスIgEを結合したRBL−2H3細胞及びヒトIgE抗体を結合したRBL−3D4細胞が配置されたセンサチップを示す図である。
【図18】図17に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及び抗ヒトIgE抗体で刺激した場合の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。
【図19】図19(A)乃至図19(C)は、図17に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及び抗ヒトIgEで刺激した場合の反射強度像の画像の時間変化の一例である。
【図20】抗DNP−マウスIgEを結合するRBL−2H3細胞及び、A431細胞が配置されたセンサチップを示す図である。
【図21】図21(A)及び図21(B)は、図20に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及びEGFで刺激した場合の反射強度の時間変化の一例である。
【図22】図22(A)及び図22(B)は、図20に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及びEGFで刺激した場合の反射強度像の画像の時間変化の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
本発明の実施形態に係る細胞活性分析装置100は、表面プラズモン共鳴現象を利用して生細胞に対する外部刺激の活性を分析する装置である。なお、細胞活性分析装置100が設置される空間の温度は、不図示のサーモスタットにより、好ましくは37℃に調節されているがこの限りではない。
【0035】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る細胞活性分析装置100の構成について説明する。図1に示すように、細胞活性分析装置100は、光源1と、偏光板2と、プリズム3と、ガラス基板4と、金属薄膜5と、対物レンズ6と、撮像部7と、コンピュータ8と、フローセル9と、液体供給部10と、顕微鏡11と、を備える。本実施形態では、光源1と、偏光板2と、プリズム3と、ガラス基板4と、金属薄膜5と、対物レンズ6と、撮像部7とで構成される光学系の光軸をAXとする。
【0036】
光源1は、例えば半導体レーザである。この半導体レーザは、例えば波長が635nmのレーザ光を発振出力する。光源1から出力されたレーザ光は、不図示のコリメータレンズ等により平行光束に変換されて、偏光板2に入射する。なお、光源1としては、赤色、白色LED(Light Emitting Diode)等を用いてもよい。
【0037】
偏光板2は、入射したレーザ光を直線偏光の平行光束に変換して出射する。この直線偏光は、後述するガラス基板4と金属薄膜5との間の界面Fに対してP偏光となる。この光源1と偏光板2とが、入射手段に対応する。
【0038】
プリズム3としては、例えばS−LAL−10ガラスが採用される。このガラスの屈折率は1.72である。プリズム3は、偏光板2によりP偏光となった平行光束を入射する。
【0039】
ガラス基板4についても例えばS−LAL−10ガラスが採用される。すなわち、ガラス基板4とプリズム3とは、屈折率が同じである。両者は、屈折率1.72のマッチングオイルによって接着される。これにより、プリズム3に入射したレーザ光(P偏光)は、ガラス基板4に入射し、そのまま直進する。このプリズム3とガラス基板4とが、屈折光学素子に対応する。
【0040】
ガラス基板4上には金属薄膜5が蒸着されている。金属薄膜5は、例えば金膜である。この他、Ag、Cu、Zn、Al、Kなどの薄膜も、金属薄膜5として用いることができる。金属薄膜5の厚みは、例えば50nmである。金属薄膜5は、ガラス基板4上に例えば蒸着により成膜されている。ガラス基板4に入射したレーザ光は、ガラス基板4と金属薄膜5との間の界面Fに、全反射条件を満たし前記表面プラズモン共鳴現象を発生させる入射角θ=56°で入射する。仮に金属薄膜5が設置されていない状態であれば、このレーザ光は、界面Fで全反射する。
【0041】
界面Fで反射したレーザ光は、ガラス基板4及びプリズム3から出射して、対物レンズ6に入射する。対物レンズ6は、レーザ光を屈折させて出射する。対物レンズ6では、前側焦点距離よりも後側焦点距離の方が長いものが使用されている。したがって、この対物レンズ6は、物体像を所定の倍率で拡大して像面上に結像させる。対物レンズ6から出射されたレーザ光は、撮像部7の撮像面に到達する。
【0042】
撮像部7は、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサである。撮像部7は、界面Fで反射されたレーザ光を受光する。撮像部7の撮像面と界面Fとは共役の関係にある。したがって、撮像部7の撮像面に、プリズム3の界面Fに入射した平行光束の反射光の2次元強度分布に相当する強度像、すなわち反射強度像が結像する。
【0043】
この反射強度像は、対物レンズ6により、例えば、2倍乃至40倍に拡大されている。撮像部7は、その反射強度像を撮像する。撮像部7は、その反射強度像に相当する画像信号を出力する。
【0044】
撮像部7から出力された画像信号は、コンピュータ8に入力される。コンピュータ8は、CPU及びメモリ(いずれも不図示)を有している。CPUがメモリに格納されたプログラムを実行することにより、図1に示す画像取得部21、画像処理部22、表示部23及び操作部24の各機能が実現される。
【0045】
画像取得部21は、入力された画像信号を一定の時間間隔でサンプリングし、サンプリングにより得られた画像データを画像処理部22に出力する。画像処理部22は、画像取得部21により取得された画像データを、表示部23に出力する。表示部23は、入力した画像データに基づく画像を表示する。
【0046】
操作部24は、ユーザの操作入力を受け付けるユーザインターフェイスであり、例えばキーボード、タッチパネルやマウスを有している。操作部24は、表示部23に表示された画像を見るユーザによって操作される。ユーザは、操作部24を操作して、例えば表示部23に表示された反射強度像の画像内の特定の計測対象を指定する。操作部24の操作入力により、指定された画像内の計測対象の位置座標等は、画像処理部22に入力される。
【0047】
画像処理部22は、サンプリングされた反射強度像の画像データから、操作部24の操作入力により指定された計測対象の輝度値(計測対象が領域であれば、その領域の輝度値の平均値)を抽出し、抽出された計測対象の輝度値の時間変化に基づいて、計測対象の反射光の強度の時間変化に関する情報を算出する。この反射光の強度の時間変化は、計測対象の誘電率(屈折率)の時間変化に相当する。画像処理部22は、算出した計測対象の反射光の強度の時間変化に関する情報をグラフ化し、そのグラフの画像データを、表示部23に出力する。
【0048】
表示部23は、サンプリングにより得られた反射強度像の画像と、指定された計測対象における反射光の強度の時間変化を示すグラフの画像とを同時に表示する。ユーザは、反射光の強度の時間変化を示すグラフを参照しながら、生細胞に対する外部刺激の活性を分析することができる。
【0049】
金属薄膜5における界面Fの反対側の表面(一方の面)には、活性反応の計測対象である生細胞C1、C2が付着している。なお、金属薄膜5への生細胞C1、C2の付着方法は、例えば生細胞C1、C2と金属薄膜5との間に適当なスペーサ(ポリ−L−リジン等)を用いて生細胞C1、C2を固定する方法が挙げられるが、当該技術分野で公知の方法ならどのような方法でも構わない。さらには、本発明者らによって開発された、細胞膜の脂質への親和性を利用する方法、共有結合で繋ぎ止める方法又は陽電荷で繋ぎ止める方法も挙げられる(Yanase et al. 2007. Biosensors Bioelectron. 23,562−567、及び、特開2007−14327号公報参照)。
【0050】
金属薄膜5上には、液体を流す流路としてのフローセル9が設けられている。フローセル9とは、金属薄膜5上にセットされた生細胞C1、C2に曝露させる液体を流す流路である。フローセル9は、液体供給部10に接続されている。この液体供給部10からフローセル9内に生細胞C1、C2に曝露させる液体が供給される。
【0051】
フローセル9を流れる液体には、例えば生細胞C1、C2上の抗体と結合する可能性のある抗原等が含まれている。抗原が生細胞C1、C2上の抗体に結合すると、生細胞C1、C2が刺激されて活性化する(特許文献1参照)。すなわち、フローセル9及び液体供給部10によって生細胞C1、C2を液体に曝露させることにより、生細胞C1、C2に外部刺激が加えられるので、本実施形態では、フローセル9及び液体供給部10が刺激付与手段に対応する。
【0052】
顕微鏡11は、金属薄膜5にセットされた生細胞C1、C2を、界面Fの反対側から観察するために設置されている。金属薄膜5には、予め位置合わせ用のマーク(不図示)が設けられている。このマークは、顕微鏡11の撮像視野内と撮像部7の撮像視野内との両方に収まる位置に設けられている。このマークにより、顕微鏡11の観察画像内の特定の部分と、撮像部7によって撮像された画像の特定の部分との位置関係が明らかとなる。両画像に写るマークの像を基準として、撮像部7で撮像された反射強度像の画像に写る特定の生細胞C1、C2の顕微鏡11の観察視野内の位置を特定し、例えばピペッティング操作等、その他当該技術分野で公知の方法を用いてその生細胞C1、C2を取り出すこともできる。
【0053】
図2のグラフには、撮像部7で受光される反射光の強度の入射角依存性の一例が示されている。このグラフでは、横軸が界面Fへの平行光束の入射角度θを示しており、縦軸が、その入射角θにおける反射光の強度を示している。図2には、3本の特性曲線(a)乃至(c)が示されている。
【0054】
特性曲線(a)は、金属薄膜5に何も置かれていない状態(生細胞C1、C2がない状態)での反射光の強度の入射角依存性を示す曲線である。これによれば、表面プラズモン共鳴現象により、入射角56°において反射光の強度が最も減衰している。この入射角56°を、共鳴角という。本実施形態では、生細胞C1、C2が接していない場合の反射光の強度が最も暗くなるように、界面Fへのレーザ光の入射角度を56°に設定している。
【0055】
特性曲線(b)は、生細胞C1、C2が金属薄膜5にセットされ、生細胞C1、C2がまだ刺激されていない状態での反射光強度の入射角依存性を示す曲線である。生細胞C1、C2は、誘電体であるため、生細胞C1、C2が当接する金属薄膜5の周辺では、誘電率(屈折率)が変化し、反射光強度の入射角依存性が特性曲線(a)から特性曲線(b)へシフトし、共鳴角も56°からθ1へシフトする。
【0056】
特性曲線(c)は、生細胞C1、C2が、金属薄膜5にセットされ、フローセル9を流れる液体に含まれる抗原等により、生細胞C1、C2が刺激され、その刺激に反応した状態での反射光強度の入射角依存性を示す曲線である。生細胞C1、C2が刺激され、その刺激に反応すると、生細胞C1、C2の誘電率(屈折率)はさらに変化するため、反射光の強度の入射角依存性が特性曲線(b)から特性曲線(c)へシフトし、共鳴角もθ1からθ2へシフトする。
【0057】
本実施形態では、平行光束の界面Fへの入射角が56°に固定されている。そこで、入射角56°に着目すると、金属薄膜5に生細胞C1、C2が接していない状態では、反射光の強度はI1となり最も暗くなっている。また、生細胞C1、C2が金属薄膜5に付着すると反射光の強度はI2となり、I1よりもΔI1だけ強くなっている。さらに、金属薄膜5に付着した生細胞C1、C2が抗原等により刺激され、その刺激に反応すると、反射光の強度はI2からΔI2だけ増えてI3となり、さらに強くなる。
【0058】
このように、撮像部7によって撮像される反射強度像の画像では、生細胞C1、C2が存在していない場所は暗くなり、細胞が存在している場所は明るくなり、生細胞C1、C2が活性化している場所は、さらに明るくなる。
【0059】
図3(A)乃至図3(H)には、それぞれレーザ光の入射角θを53°から60°まで1°ずつ変化させたときの反射強度像の画像が示されている。図3(A)乃至図3(H)に示すように、生細胞C1、C2が存在している箇所と生細胞C1、C2が存在していない箇所とのコントラストが最も大きいのは、入射角θ=56°となる。このことは、図2において、生細胞C1、C2が存在していないときの共鳴角が56°で、反射光が最も減衰していることからも明らかである。すなわち、入射角を共鳴角と同じθ=56°とすると、Δl1を最大とすることができるので、画像のコントラストが増すのである。
【0060】
図4(A)乃至図4(C)には、生細胞C1、C2を刺激していない状態における0分後、10分後、20分後の反射強度像の画像の変化が示されている。また、図5(A)乃至図5(C)には、生細胞C1、C2を刺激した後における0分後、10分後、20分後の反射強度像の画像の変化が示されている。図4(A)乃至図4(C)と図5(A)乃至図5(C)を比較すると明らかなように、外部刺激に対して生細胞C1、C2が反応すると、生細胞C1、C2に相当する箇所の輝度が変化しているのがわかる。
【0061】
ユーザは、コンピュータ8の表示部23に表示された反射強度像を見ながら、操作部24(例えばマウス)を操作して、表示部23に表示された反射強度像の画像内の特定の計測対象を指定することができる。この計測対象は、点(例えば一つの生細胞の一部)として指定するようにしてもよいし、領域(例えば一つの生細胞全体の領域)として指定するようにしてもよい。
【0062】
ユーザは、操作部24を操作して、例えば、図4(A)に示す明るい部分、すなわち生細胞が存在する部分を幾つか選択して、複数の生細胞を一度に指定することができる。画像処理部22は、指定された生細胞に対応する部分の反射光の強度の変化のグラフの画像を作成して、その画像を表示部23に表示させる。
【0063】
図6(A)及び図6(B)には、このようにして指定された幾つかの生細胞それぞれに対応する部分の反射光の強度の時間変化及びその反射光の強度の平均値の時間変化が示されている。図6(A)では、生細胞が刺激されないまま金属薄膜5にセットされた状態での各部分の反射光の強度の時間変化等が示され、図6(B)では、生細胞が刺激され、反応した状態での各部分の反射光の強度の時間変化等が示されている。
【0064】
図6(A)と図6(B)とを比較するとわかるように、生細胞が刺激されて反応し、活性化すると、その部分の反射光の強度が大きく変化している。なお、図6(B)のグラフ下部の水平線は、その時点で、フローセル9に溶液(DNP−HSAを含む溶液)が流されて生細胞が刺激されていることを示している。図4(A)乃至図4(C)、図5(A)乃至図5(C)、図6(A)、図6(B)に係る具体的な内容については、後述する実施例において詳細に説明する。
【0065】
ところで、コンピュータ8には、指定された計測対象における反射光の強度の変化をさらに精度良く求めるための機能が用意されている。図7には、コンピュータ8の画像処理部22のさらなる詳細構成が示されている。
【0066】
図7に示すように、画像処理部22は、操作内容解析部30と、計測対象抽出部31と、初期値保持部32と、暗成分抽出部33と、差分部34、35と、波形生成部36と、を備える。
【0067】
操作内容解析部30は、操作部24から入力された操作内容を解析する。解析の結果得られる操作内容には、指定された計測対象の画像内の位置座標や、生細胞が存在しない部分として指定された位置の画像内の位置座標や、波形データの計測開始指令等が含まれている。
【0068】
操作内容解析部30は、指定された計測対象の画像内の位置座標を、計測対象抽出部31に出力する。また、操作内容解析部30は、波形データの計測開始指令を、計測対象抽出部31、初期値保持部32及び暗成分抽出部33に出力する。さらに、操作内容解析部30は、生細胞が存在しない部分として指定された位置の画像内の位置座標を、暗成分抽出部33に出力する。
【0069】
計測対象抽出部31は、波形データの計測開始指令が入力されると、操作内容解析部30から入力された計測対象の位置座標に基づいて、計測対象の輝度値を、計測対象毎に抽出して出力する。なお、波形データの計測開始指令が入力された時点での最初の計測対象の輝度値のみを、初期値保持部32に出力する。
【0070】
初期値保持部32は、波形データの計測開始指令が入力された時点で、計測対象抽出部31から出力される計測対象の輝度値を計測対象毎に保持して出力する。この出力は、計測中は初期値として保持され、出力され続ける。
【0071】
暗成分抽出部33は、波形データの計測開始指令が入力されると、操作内容解析部30から入力された生細胞の存在しない部分の輝度値の変化量を抽出して出力する。この変化量は、最初の値は0である。それ以降は、その次のサンプリング時点で得られた輝度値が、当該変化量として算出される。
【0072】
差分部34は、計測対象抽出部31から出力された計測対象の輝度値から、初期値保持部32から出力されたその計測対象の輝度値の初期値を差し引いて出力する。
【0073】
差分部35は、差分部34から出力された輝度値から、暗成分抽出部33から出力された輝度値を差し引いて出力する。
【0074】
波形生成部36は、差分部35から出力された輝度値を反射光の強度に変換し、これまでに得られた反射光の強度を時系列に並べることにより、反射光の強度の時間変化のグラフの画像データを生成して出力する。
【0075】
反射強度像における計測対象での反射光の強度Iには、図8に示すように、(A)生細胞の反応による変化分と、(B)刺激を与える前の生細胞のデフォルトの強度成分と、(C)生細胞が存在していない領域の強度の変化の成分とが含まれている。画像処理部22では、計測対象抽出部31から出力される輝度値が反射光の強度Iに相当し、初期値保持部32から出力される輝度値が(B)の成分に相当し、暗成分抽出部33から出力される輝度値が(C)の成分に相当する。
【0076】
この計測においては、(B)、(C)の成分は、それぞれバックグラウンド、及びノイズよりなる。したがって、差分部34、35において、計測対象抽出部31から出力される輝度値から、初期値保持部32から出力される輝度値と、暗成分抽出部33から出力される輝度値とを差し引いてその輝度値を補正すれば、本来計測したい(A)の成分の波形データを精度良く取得することができる。
【0077】
次に、本実施形態に係る細胞活性分析装置100を用いた生細胞の活性を分析する方法について順を追って説明する。
【0078】
まず、生細胞C1、C2が金属薄膜5上にセットされる。この状態で、レーザ光の出射が開始され、撮像部7で反射強度像が撮像され、表示部23に、その反射強度像の画像が表示される。表示された画像では、生細胞C1、C2が存在している部分が明るく表示されるので、表示部23に表示された画像を見たユーザは、操作部24を操作して、その画像内の生細胞C1、C2を計測対象として指定し、生細胞が存在しない部分を指定する。
【0079】
操作部24により、計測対象や、生細胞が存在しない部分が指定され、計測開始指令が入力されると、計測対象における反射光の強度の時間変化のグラフの表示が開始される。この状態で、液体供給部10から抗原等を含む液体の供給が開始されてフローセル9を液体が流れるようになる。これにより、金属薄膜5にセットされる生細胞C1、C2が刺激され、条件を満たせば、その刺激に反応し、活性化する。
【0080】
生細胞C1、C2が反応すると、その誘電率(屈折率)が変化して、計測対象の反射光強度が変化し、その変化が、表示部23に表示されるグラフに表れるようになる。ユーザは、その時間変化に基づいて、生細胞C1、C2に対する外部刺激の活性を分析する。例えば、生細胞C1は活性化しているが生細胞C2は活性化していない等、生細胞ごとに反応が異なることなどを検出することができる。
【0081】
また、この分析方法により、予め特定の生細胞における反射光の強度の時間変化の特性が既知である場合、生細胞C1、C2の種別を同定することも可能である。例えば、画像処理部22の波形生成部36が、同定手段として、幾つかの生細胞における反射光の強度の時間変化の特性を示す波形データを記憶しているものとする。そして、波形生成部36が、現在作成中の計測対象の生細胞の波形と、すでに記憶されている波形データとの相関演算により求め、相関性が最大の細胞を、計測中の生細胞として同定することができる。逆に、形状が異なる複数の生細胞が混合した状態において、各種生細胞に対する外部刺激の活性を調べたい場合には、表示部23に表示される生細胞のうち形状が異なる生細胞をそれぞれ計測対象として指定すれば、わざわざ各形状の生細胞ごとに単離せずに分析することができる。
【0082】
このように、本実施形態では、個々の生細胞を計測対象として指定すれば、外部刺激による個々の生細胞の活性化を分析することができる。計測対象となった生細胞をさらに利用する場合には、ユーザは、顕微鏡11でその生細胞を観察しながら、ピペッティング操作等でその生細胞を生きた状態で回収することも可能である。なお、細胞活性分析装置100に、生細胞を自動的に回収するピペット装置(不図示)をさらに設けておき、そのピペット装置を用いて、生細胞を自動的に回収するようにしてもよい。
【0083】
また、本実施形態に係る細胞活性分析装置100によれば、図9(A)に示すように、同じ生細胞の複数の異なる部分を計測対象として複数指定可能である。図9(A)に示す画像では、操作部24の操作入力により、1つの生細胞内部で、無作為に抽出された複数の計測対象である計測点P1乃至P13が指定されている。これらの計測点のうち、P1乃至P5は、生細胞中心付近、すなわち核近傍の計測点であり、P6乃至P12は、生細胞の辺縁、すなわち細胞膜付近の計測点である。P13は細胞がいない部分の計測点である。
【0084】
ここで、ある抗原を含む溶液が、液体供給部10からフローセル9に供給された場合について説明する。液体が供給された後、反射強度像の画像は、図9(A)に示す画像から、図9(B)に示す画像に変化する。図9(C)には、このときの計測点P1乃至P5、すなわち生細胞中心付近の計測点の反射光の強度の平均値の変化と、計測点P6乃至P12の反射光の強度の平均値の変化とが示されている。図9(C)に示すように、生細胞の辺縁、すなわち細胞膜付近の計測点よりも、生細胞の中心付近、すなわち核近傍の計測点の方が、反射光強度の変化が大きくなっているのがわかる。この結果、この液体による刺激においては、細胞膜付近よりも、核近傍の誘電率(屈折率)変化が大きいということが明らかになる。
【0085】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、生細胞C1、C2が接する金属薄膜5に実質的に接する界面Fに入射するP偏光の平行光束の反射強度像の画像がサンプリングにより取得される。そして、取得された画像データから、生細胞C1、C2の少なくとも一部の像が計測対象として選択され、選択された像の輝度の変化に基づいて計測対象の反射光の強度の変化に関する情報が算出される。
【0086】
計測対象となる生細胞C1、C2は誘電体であり、その誘電率(屈折率)は外部刺激による反応により変化する。生細胞C1、C2の誘電率(屈折率)が変化すると、その周辺の誘電率(屈折率)が変化するので、結果的に表面プラズモン共鳴現象の共鳴角が変化し、そこで、反射した反射光の強度が変化する。したがって、選択された個々の生細胞C1、C2に係る部分の反射光の強度の変化に関する情報を算出すれば、その情報に基づいて、個々の生細胞C1、C2に対する外部刺激の活性を分析することができる。
【0087】
なお、上記実施形態では、表示部23及び操作部24が選択手段に対応したが、本発明はこれには限られない。例えば、図4(A)乃至図4(C)、図5(A)乃至図5(C)に示すように、生細胞が存在する領域の輝度は、生細胞が存在していない領域の輝度よりも大きくなっていることを利用して、画像処理部22が、選択手段として、計測対象となる生細胞を自動的に選択するようにしてもよい。画像処理部22は、撮像された反射強度像の画像において、空間的な輝度の変化が所定の閾値以上の点、すなわち変化点(エッジ)を抽出して、そのエッジに囲まれる画像データの一部を計測対象として選択すればよい。
【0088】
また、上記実施形態では、レーザ光の反射面が、金属薄膜5とガラス基板4と金属薄膜5との界面Fとなるクレッチマン配置の光学系を採用したが、本発明はこれには限られず、オット配置の光学系を採用するようにしてもよい。この場合には、界面Fは、金属薄膜5に対して近接場光(エバネッセント光)が生ずるような、ナノメータオーダの実質的に接する距離に配置される必要がある。
【0089】
また、金属薄膜5は、撮像視野内全面に設けられる必要はなく、図10に示すように、ガラス基板4の上に、小さな金属薄膜15を例えばマトリクス状に配置するようにしてもよい。この場合、各金属薄膜15には、それぞれ異なる生細胞を配列するようにしてもよい。このようにすれば、同一の外部刺激に対する各種生細胞の反応を一度に計測することができる。
【0090】
また、上記実施形態では、刺激付与手段を、フローセル9及び液体供給部10としたが、本発明はこれには限られない。
【0091】
金属薄膜5上の生細胞に、外部刺激を与える抗原を含む液滴を垂らすノズルを有する液滴吐出装置を、刺激付与手段として用いるようにしてもよい。この場合ノズルを複数有し、生細胞のクラスタ(例えば1個〜100個の生細胞の集合)を配列し、異なる抗体等を含む液滴を各クラスタに、吐出するようにしてもよい。
【0092】
さらに、本発明の第2の態様に係る細胞活性分析方法においては、フローセル9及び液体供給部10を省いた細胞活性分析装置100を用い、例えばピペット又は注入器等の当該技術分野において公知の液滴吐出器材を人が操作して、外部刺激を与える実施形態でも可能である。
【0093】
このように、本実施形態に係る細胞活性分析装置100及び細胞活性分析方法によると、算出された反射光の強度の時間変化(刺激を与えた前後での変化)に基づいて、個々の生細胞及び/又は個々の生細胞の一部の性質等を評価することができる。その結果、個々の生細胞の性質を解析・単離したり、ある特定の活性を持つ生細胞をスクリーニングしたり、細胞活性に関わる特定の生体分子(外部刺激)をスクリーニングしたり、又は、主に生細胞のどの部分において活性化が起こるのかを調べたり等多様な細胞に関する研究に利用することができる。
【0094】
本実施形態に係る細胞活性分析装置100および細胞活性分析方法は、医療用の診断装置、診断方法等にも利用することができる。例えば、生体より採取した生細胞(血液又は生検材料等)の迅速なアレルギー反応検査に利用できる。また、がん等の病変部細胞を増殖因子等で刺激し、迅速に機能検査又は正常細胞か悪性細胞かの判定を行うこともできる。更には、個人により異なる必要薬剤量の解析(個人毎の末梢血細胞(リンパ球、好塩基球、好酸球又は抗原提示細胞等)の薬剤反応性を解析する)も行うことができる。他には、薬剤アレルギーの原因薬剤の同定にも利用されうる。
【0095】
生細胞を何らかの物質または物理的条件の変化により刺激した際には多様な反応がおこる(例えば、受容体分子および関連する細胞内情報伝達分子の凝集・会合、リン酸化、脱リン酸化又は膜へのトランスロケーションを含む細胞内転位等)。本実施形態によれば、これらの反応時には、どのような活性変化を伴っているのかも解析することができる。
【0096】
特に、本実施形態に係る細胞活性分析装置100及び細胞活性分析方法では、個々の生細胞及び/又は個々の生細胞の一部まで分析することができるため、従来と比べより高感度に上述したような診断、評価又は解析等をすることができる。
【0097】
また、本実施形態の細胞活性分析装置100及び細胞活性分析方法は、臨床診断用ハイスループットスクリーニング装置、例えばハイスループットアレルギー診断装置としても利用することができる。例えば、まず、生体より採取した血液からマイクロ磁気ビーズ等を用いて好塩基球を含む溶液(その他、生細胞を含めばどのようなものでも構わない)を得る。該好塩基球液を、図11(A)に示すようなマルチウェルチャンバー40(例えば、注入した溶液が離隔されるようマトリクス状にウェルが空いたもの)に、外部刺激の吐出の際に述べたような液滴吐出装置、又は、ピペッティング等により注入する。
【0098】
更に、当該好塩基球液が注入されるマルチウェルチャンバー40に合うよう設計されたアレルゲン投与用のマルチチャンバー41も用意する。このアレルゲン投与用マルチチャンバー41も上述したような液滴吐出装置のようになっており、血液が注入された各ウェルに、好ましくは同時に、異なるアレルゲンを投与する。そこで、本実施形態の細胞活性分析装置100及び細胞活性分析方法を利用する。上述した細胞活性分析装置100の撮像部7によって撮像される画像を、コンピュータ8の表示部23に表示させる。すると、図11(B)に示すような画像が表示され、従来の診断法よりも短時間で高信頼性の診断を行うことができる。逆に、アレルゲンが同一で、好塩基球液を採取した検体が異なる場合でも構わない。このような装置はアレルギー診断装置以外にも、例えばハイスループット癌診断装置等、様々なハイスループットスクリーニング装置として利用することができる。
【0099】
以下、本明細書において使用されている用語について説明する。
【0100】
本明細書において使用される「細胞」とは、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、どのような種類の細胞でも構わない。また、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。生細胞はこのうち生きた細胞を示す。このうち、好ましくはヒト由来の細胞であり、さらに好ましくはマスト細胞、ケラチノサイト、ヒト好塩基球又はヒトB細胞であるがそれらに限定されない。
【0101】
本明細書において使用される「所定の倍率」とは、対物レンズ6のような拡大光学系による強度像の拡大倍率を意味する。所定の倍率は、画像取得手段によってサンプリングされた画像データが、個々の生細胞が識別できる倍率である必要がある。所定の倍率は、例えば、上述したとおり2倍〜40倍である。
【0102】
本明細書において使用される「外部刺激」とは、細胞表面の受容体に対するリガンド(例えば本実施形態で述べた抗原等の生体分子)、温度若しくはpH等の環境変化、又は、機械的若しくは電気的刺激等、細胞の活性(例えば、細胞内の情報伝達系の賦活等)に対して作用する全ての刺激を包含する。
【実施例】
【0103】
以下、本実施形態に係る細胞活性分析装置100及び細胞活性分析方法を利用した実施例について詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものでない。
【0104】
細胞活性分析装置100は、波長630nmのダイオードレーザの光源1、偏光板2、金属薄膜5(50nm)を蒸着したガラス基板4及びプリズム3(S−LAL−10、屈折率=1.72)、サーモスタット、対物レンズ6(4倍)およびCMOSカメラ(撮像部7)を備えるものを使用した。CMOSカメラによって得られた画像は、上記実施形態に係るコンピュータ8が実行する画像処理ソフトウエアプログラムに相当するImage-Pro(Media Cybernetics製)を用いて輝度解析を行った。
【0105】
まず、生細胞としてRBL−2H3細胞(Rat Basophilic Leukemia cell、ラット好塩基性白血病細胞株)、外部刺激としてDNP−HSA(Dinitrophenyl-Human Serum Albumin(Sigma-Aldrich Japan製、日本、東京))抗原を用い、個々のRBL−2H3細胞の誘電率(屈折率)の変化を調べた例について説明する。なお、RBL−2H3細胞は、細胞内にヒスタミンを含む顆粒を持ち、細胞表面にIgE受容体を発現しているため、抗原−IgE刺激により細胞の活性化が可能である。
【0106】
まず、RBL−2H3細胞は、10%のウシ胎児血清(FCS)、100U/mlのペニシリンおよび100μgのストレプトマイシンを加えたRPMI(Roswell Park Memorial Institute)培地で培養しておき、実験の前日にトリプシンを用いて回収した。回収したRBL−2H3細胞を、50ng/mlの抗DNP−IgE(Sigma-Aldrich Japan製、日本、東京)の存在下において、センサチップ(金薄膜蒸着ガラス基板)上で一晩培養した(37℃)。
【0107】
次に、チップを上述した細胞活性分析装置100に装着し、ランニングバッファ(PIPES buffer)を流した。その後、DNP−HSA(50ng/ml)を注入し、そのままランニングバッファを流しつづけ、当該細胞活性分析装置100を用い、対物レンズ(4倍)で拡大された反射光の強度像を10秒ごとにCMOSカメラで画像化した。さらに、当該画像からImage-Proによって個々の生細胞を選択領域とした時間変化に基づく輝度解析を行った。なお、コントロールとして同条件下でDNP−HSAを注入しないものも、画像化及び輝度解析を行った。
【0108】
図4(A)乃至図4(C)はDNP−HSAによって刺激していないRBL−2H3細胞、図5(A)乃至図5(C)はDNP−HSAによって刺激したRBL−2H3細胞のCMOSカメラでの画像を示す。図4(A)乃至図4(C)に示すように、それぞれのRBL−2H3細胞の屈折率は、DNP−HSA(抗原)で刺激しない場合は20分間変化はなかった。しかし、図5(A)乃至図5(C)に示すように、DNP−HSAで刺激した場合は明らかに増加した。
【0109】
図6(A)は図4(A)乃至図4(C)の画像から、図6(B)は図5(A)乃至図5(C)の画像から、RBL−2H3細胞を五つ無作為に選び、Image-Proを用いて測定したこれらの輝度値(屈折率)の変化及びそれらの平均値を10秒ごとにプロットしたものである。図6(B)のグラフ内下部の線は、DNP−HSAによって刺激している時間を示す。なお、以下に述べる同様のグラフについても当該線は刺激している時間を示す。図6のグラフにおいても、上述したように、RBL−2H3細胞の屈折率は、DNP−HSAで刺激していない20分間は変化がほとんどなく、DNP−HSAで刺激した後には明らかに増加した。
【0110】
これらの結果から、本実施形態に係る細胞活性分析装置100によると、時間変化に基づく複数の生細胞に対する外部刺激(本実施例では、例えばDNP−HSA(抗原)による刺激)の活性を、任意の物質でラベリングすることなく、個々の生細胞毎に分析することができることがわかった。更に、図6(B)に示すように、同種細胞且つ同様の外部刺激を付与した細胞であっても、反射光の強度すなわち外部刺激による生細胞の反応の程度が異なっている。これは、複数の生細胞に対する刺激応答の平均値を評価する従来の方法よりも、外部刺激の活性を個々の生細胞ごとに分析できる本発明の方がより高感度の検出が可能であることを示している。
【0111】
実施形態において詳細に述べたとおり、本実施形態に係る細胞活性分析装置100によると、細胞の一部の領域の誘電率(屈折率)、すなわち、一つの細胞内の(複数の異なる)領域における反応を分析可能である。図9も、図4(A)乃至図4(C)、図5(A)乃至図5(C)、図6(A)及び図6(B)と同様に、DNP−HSAでの刺激によるRBL−2H3細胞の誘電率(屈折率)すなわち細胞の反応を示すが、一つの細胞内の複数の異なる領域を計測対象として、外部刺激の活性ならびに細胞応答を分析した一例である。
【0112】
他の種類の生細胞又は外部刺激での実施例の結果について、以下簡単に述べる。
【0113】
まず、生細胞としてPAM212細胞及びA431細胞、外部刺激としてEGF(Epidermal Growth Factor)(10ng/ml、R&D system製、ミネソタ州ミネアポリス)を用いた例について簡単に説明する。PAM212細胞(マウス角化細胞株)は、細胞表面にEGF受容体を発現しているため、EGF刺激による細胞の活性化が可能である。A431細胞(Human epithelial carcinoma cell line、ヒト扁平上皮細胞癌株)も、細胞表面に細胞表面にEGF受容体を高発現しているため、EGF刺激による細胞の活性化が可能である。なお、生細胞の培養、画像化及び輝度解析方法については上述したRBL−2H3細胞での実施例と同様であるため省略する。
【0114】
図12(A)はPAM212細胞、図12(B)はA431細胞を刺激した場合の反射強度像の画像の一例である。また、図13(A)はPAM212細胞、図13(B)はA431細胞を刺激した場合の計測対象の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。図12(A)及び図12(B)に示すそれぞれのTrack1〜Track5は、無作為に選んだ五つの生細胞又は生細胞群を示しており、これらの反射光の強度の時間変化を、図13(A)及び図13(B)においてグラフ化している。
【0115】
なお、Track6はバックグラウンド、すなわち生細胞が存在していない箇所であり、計測対象の反射光の強度の変化に関する情報の補正に使用するものである。図13(A)及び図13(B)における太線は平均値を示している。図12(A)、図12(B)及び図13(A)、図13(B)に示すように、どのような種類の生細胞であっても刺激による活性化を観察することができ、細胞又は刺激の種類によっては刺激による活性化の後、反射光の強度(すなわち誘電率(屈折率))が刺激前より減少することもあることがわかった。更に、図13(A)、図13(B)に示すように両細胞は類似したグラフのパターンをとっているが、その反射光の強度の値から両細胞を区別することが可能であることも示された。また、計測対象は、上述したような一つの生細胞内の一部から、図12(A)、図12(B)及び図13(A)、図13(B)に示すような多数の生細胞が集まった細胞群の領域まで、選択及び測定することができることもわかった。
【0116】
さらに、生細胞として抗DNP−マウスIgEを結合したRBL−2H3細胞及び結合していないRBL−2H3細胞、外部刺激としてDNP−HSA及びRBL−2H3細胞の活性化を誘起するPMA(Calbiochem製、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いた例について簡単に説明する。なお、生細胞の培養、画像化及び輝度解析方法については同様に省略する。
【0117】
図14は、抗DNP−マウスIgEを結合したRBL−2H3細胞及び結合していないRBL−2H3細胞が配置されたセンサチップを示す図である。抗DNP−マウスIgEを結合しているRBL−2H3細胞は、予めIgEを結合するようHydrocell(Cell seed Inc、日本、東京)において培養しておいた円形状の細胞である。抗DNP−マウスIgEを結合していないRBL−2H3細胞は、スピンドル形状の細胞である。
【0118】
図15は、図14に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及びPMAで刺激した場合の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。aは抗DNP−マウスIgEを結合したRBL−2H3細胞のグラフであり、bは抗DNP−マウスIgEを結合していないRBL−2H3細胞のグラフである。図16(A)乃至図16(C)は、図14に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及びPMAで刺激した場合の反射強度像の画像の時間変化の一例である。
【0119】
図15に示すように、やはりDNP−HSAの刺激では抗DNP−マウスIgEを結合したRBL−2H3細胞のみが活性化し、抗DNP−マウスIgEを結合していないRBL−2H3細胞はPMAでの刺激によって活性化されていることが分かる。図16(A)乃至図16(C)でも同様に、20minにおけるDNP−HSAのみの刺激では主に円形状の細胞のみが明るく画像化され(図中矢印で示す)、PMA刺激後の40minではスピンドル形状の細胞も明るく画像化されている(図中矢印で示す)。なお、図15のグラフa及びbは、これら矢印で示す両細胞の反射光の強度の時間変化の平均値を示すものである。図15及び図16(A)乃至図16(C)の結果から、異なる形状の生細胞が混合している状態であって、各々の生細胞に対する外部刺激の活性が異なる場合には、わざわざ各形状の生細胞ごとに単離せずに各々の反射強度像の画像の時間変化を分析可能であることが示された。
【0120】
次に、生細胞としてRBL−2H3細胞及びRBL−3D4細胞、外部刺激としてDNP−HSA及び抗ヒトIgE抗体を用いた例について簡単に説明する。なお、生細胞の培養、画像化及び輝度解析方法については同様に省略する。RBL−3D4細胞は、RBL−2H3細胞に遺伝子工学的な手法を用いて本発明者が樹立した細胞であり、ヒトIgE受容体を発現する。RBL−2H3細胞はラット由来細胞のため、ラット、マウス由来のIgEしか結合できない。一方、RBL−3D4細胞はヒトIgE受容体も発現しているため、ヒト由来のIgEを結合させ、抗ヒトIgE抗体により刺激し、細胞を活性化することができる。
【0121】
ここで、RBL−3D4細胞の樹立方法について簡単に説明しておく。まず、ヒト高親和性IgE受容体(FcεRI)α-subunit 及びラットγ-subunit のcDNAを使って、細胞外領域としてヒトα-subunit、細胞膜貫通領域・細胞内領域としてγ-subunitをもつヒトIgE受容体キメラタンパクのcDNAを作製した。作製したcDNAをpEF−BOS発現ベクターに組み込み、ネオマイシン耐性ベクターと共にエレクトロポレーション法を使ってRBL−2H3細胞に導入した。導入細胞はネオマイシン存在下で培養することで選別した。受容体の発現は、ヒトIgE受容体を認識するモノクローナル抗体(CRA−1)を使って、フローサイトメトリーにより確認した。このように樹立したヒトIgE受容体発現細胞をRBL−3D4細胞とした。
【0122】
図17は、RBL−2H3細胞及びRBL−3D4細胞が配置されたセンサチップを示す図である。RBL−2H3細胞は抗DNP−マウスIgE(anti-DNP mIgE)を結合したスピンドル形状の細胞であり、RBL−3D4細胞はヒトIgE抗体(hIgE)を結合した円形状の細胞である。図18は、図17に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及び抗ヒトIgE抗体(BETYL製、テキサス州モンゴメリー)で刺激した場合の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。aはRBL−2H3細胞のグラフであり、bはRBL−3D4細胞のグラフである。
【0123】
図19(A)乃至図19(C)は、図17に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及び抗ヒトIgEで刺激した場合の反射強度像の画像の時間変化の一例を示す図である。なお、図19(B)中の矢印はDNP−HSAにより刺激され活性化したスピンドル形状のRBL−2H3細胞を示し、図19(C)中の矢印は抗ヒトIgE抗体により刺激され活性化した円形状のRBL−3D4細胞を示す。図18のグラフa及びbは、これら矢印で示す両細胞の反射光の強度の時間変化の平均値を示すものである。図18及び図19(A)乃至図19(C)に示すように、DNP−HSAの刺激では抗DNP−マウスIgEを結合したRBL−2H3細胞のみが活性化し、抗ヒトIgE抗体での刺激ではヒトIgE抗体を結合したRBL−3D4細胞のみが活性化されていることが分かる。これらの結果から、本実施形態に係る細胞活性分析装置100および細胞活性分析方法を利用することにより、相補的な抗原への特異的IgE抗体を持つ細胞を識別することができることが証明された。
【0124】
次に、生細胞として抗DNP−マウスIgEを持つRBL−2H3細胞及びA431細胞、外部刺激としてDNP−HSA及びEGFを用いた例について簡単に説明する。なお、生細胞の培養、画像化及び輝度解析方法については同様に省略する。
【0125】
図20は、RBL−2H3細胞及びA431細胞(及びA431細胞群(A431 cluster))が配置されたセンサチップを示す図である。RBL−2H3細胞は抗DNP−マウスIgEを持つスピンドル形状の細胞であり、A431細胞は円形状の細胞である。図21(A)及び図21(B)は、図20に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及びEGFで刺激した場合の反射光の強度の時間変化の一例を示すグラフである。なお、図21に示すように、DNP−HSA及びEGFでの刺激は同時に行った。図22(A)及び(B)は、図20に示すセンサチップにおいて、DNP−HSA及びEGFで刺激した場合の反射強度像の画像の時間変化の一例を示す図である。
【0126】
図22(A)は刺激を与える前の画像(cont)を示し、図22(B)はその30分後のDNP−HSA及びEGFでの刺激を与えている間における画像を示す。また、図中の矢印は、それぞれの細胞のうち無作為に選択した五つの細胞を示す。矢尻が三角形のものはRBL−2H3細胞を示し、くの字状のものはA431細胞を示す。図21(A)において、aはこれら五つのRBL−2H3細胞の変化を示すグラフであり、bも五つのA431細胞の変化を示すグラフである。図21(A)に示すように、同種の細胞においても反射光の強度の時間変化には差異はあるが、aとbは明らかに異なるグラフのパターンであることがわかる。
【0127】
図21(B)において、aはRBL−2H3細胞の変化の平均値を示し、bはA431細胞の変化の平均値を示し、cはRBL−2H3細胞及びA431細胞の平均値を示し、dは全体の画像での平均値を示す。ここで、a(RBL−2H3細胞平均)のグラフは時間が経過しても反射光の強度は上昇したままである。逆に、b(A431細胞平均)のグラフは、ある程度時間が経過すると刺激前よりも下がっている。そのため、画像全体の平均値であるdのグラフの変化が弱くなってしまっている。
【0128】
これらの結果から、本実施形態に係る細胞活性分析装置100および細胞活性分析方法を利用する際に、異なる性質を示す生細胞が混合している状態において共培養を行い、且つ同時に複数の刺激を与えた場合であっても、個々の生細胞の誘電率(屈折率)に関する特有のシグナルパターンが観察できることがわかった。すなわち、平均値を評価する従来の方法より高感度かつ迅速に、その細胞の種類及び性質等を検出できるということが示された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、個々の生細胞に対する外部刺激の活性を分析することができる細胞活性分析装置及び細胞活性分析方法が提供される。これらの細胞活性分析装置及び細胞活性分析方法によって、個々の生細胞及び/又は個々の生細胞内の一部分の性質等を評価・解析したり、特定の種類の生細胞を単離したりすることができる。また、ある特定の活性を持つ生細胞をスクリーニングしたり、細胞活性に関わる特定の生体分子(外部刺激)をスクリーニングしたり、更には、主に生細胞のどの部分において活性化が起こるのかを調べたり等多様な細胞に関する研究に利用することができる。具体的には、医療用の診断装置、例えばハイスループットアレルギー診断装置に利用することができる。
【0130】
本発明は、上記発明の実施形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0131】
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報および特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【符号の説明】
【0132】
1 光源
2 偏光板
3 プリズム
4 ガラス基板
5、15 金属薄膜
6 対物レンズ
7 撮像部
8 コンピュータ
9 フローセル
10 液体供給部
11 顕微鏡
21 画像取得部
22 画像処理部
23 表示部
24 操作部
30 操作内容解析部
31 計測対象抽出部
32 初期値保持部
33 暗成分抽出部
34、35 差分部
36 波形生成部
40 マルチウェルチャンバー
41 マルチチャンバー
100 細胞活性分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴現象を利用して生細胞に対する外部刺激の活性を分析する細胞活性分析装置であって、
一方の面で前記生細胞に接する金属薄膜と、
前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子と、
P偏光の平行光束を、前記屈折光学素子に入射させ、前記表面プラズモン共鳴現象を発生させる所定の入射角で前記界面に入射させる入射手段と、
前記界面に入射した前記平行光束の反射光の2次元強度分布に相当する強度像を所定の倍率に拡大する拡大光学系と、
前記拡大光学系で拡大された前記強度像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で撮像された前記強度像の画像データをサンプリングする画像取得手段と、
前記画像取得手段によりサンプリングされた前記強度像の画像データから、前記生細胞の少なくとも一部の像を計測対象として選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された前記計測対象の輝度値を抽出し、前記生細胞に対して前記外部刺激を与えた前後での前記計測対象の輝度値の変化に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する算出手段と、
を備える細胞活性分析装置。
【請求項2】
前記選択手段は、前記計測対象を複数指定可能であり、
前記算出手段は、前記強度像の画像データから、選択された複数の前記計測対象各々の輝度値を抽出し、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を、前記計測対象毎に算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞活性分析装置。
【請求項3】
前記選択手段は、同一の前記生細胞の像における複数の異なる箇所を前記計測対象として選択する、
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞活性分析装置。
【請求項4】
前記算出手段は、前記生細胞に対して前記外部刺激を与える前の前記計測対象の輝度値と、前記外部刺激を与えた後の前記計測対象の輝度値との差分に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の細胞活性分析装置。
【請求項5】
前記算出手段は、前記強度像の画像データにおける前記生細胞が存在していない箇所の輝度値の成分に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を補正する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の細胞活性分析装置。
【請求項6】
前記所定の入射角は、前記金属薄膜に、前記生細胞が接していないときの共鳴角に等しい、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の細胞活性分析装置。
【請求項7】
前記算出手段により算出された前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報に基づいて前記生細胞を同定する同定手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の細胞活性分析装置。
【請求項8】
前記金属薄膜に接する前記生細胞を、前記一方の面側から観察する顕微鏡をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の細胞活性分析装置。
【請求項9】
前記選択手段は、
前記画像取得手段によってサンプリングされた前記強度像の画像データに基づいて画像を表示する表示手段と、
操作入力により、前記画像取得手段によってサンプリングされた前記強度像の画像データの中から前記生細胞の少なくとも一部の像を、選択された前記計測対象として指定する操作手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の細胞活性分析装置。
【請求項10】
前記金属薄膜は、前記生細胞を含む生細胞群を、離隔して複数配置可能である、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の細胞活性分析装置。
【請求項11】
複数の前記生細胞群各々に異なる前記外部刺激を与える外部刺激付与手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項10に記載の細胞活性分析装置。
【請求項12】
表面プラズモン共鳴現象を利用して生細胞に対する外部刺激の活性を分析する細胞活性分析方法であって、
金属薄膜の一方の面に接するよう前記生細胞を配置する配置工程と、
P偏光の平行光束を、前記金属薄膜の他方の面に実質的に接する界面を有する屈折光学素子に入射させ、前記表面プラズモン共鳴現象を発生させる所定の入射角で前記界面に入射させる入射工程と、
前記界面に入射した前記平行光束の反射光の2次元強度分布に相当する強度像を、拡大光学系によって所定の倍率に拡大する拡大工程と、
前記拡大光学系で拡大された前記強度像を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程において撮像された前記強度像の画像データをサンプリングする画像取得工程と、
前記画像取得工程によりサンプリングされた前記強度像の画像データから、前記生細胞の少なくとも一部の像を前記計測対象として選択する選択工程と、
前記選択工程により選択された前記計測対象の輝度値を抽出し、前記生細胞に対して前記外部刺激を与えた前後での前記計測対象の輝度値の変化に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する算出工程と、
を含み、
前記算出工程により算出された前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を指標として、前記生細胞の少なくとも一部に対する前記外部刺激の活性を分析することを特徴とする細胞活性分析方法。
【請求項13】
前記選択工程では、前記計測対象を複数指定可能であり、
前記算出工程では、前記強度像の画像データから、選択された複数の前記計測対象各々の輝度値を抽出し、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を、前記計測対象毎に算出する、
ことを特徴とする請求項12に記載の細胞活性分析方法。
【請求項14】
前記選択工程では、同一の前記生細胞の像における複数の異なる箇所を前記計測対象として選択する、ことを特徴とする請求項13に記載の細胞活性分析方法。
【請求項15】
前記算出工程では、前記生細胞に対して前記外部刺激を与える前の前記計測対象の輝度値と、前記外部刺激を与えた後の前記計測対象の輝度値との差分に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を算出する、ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか一項に記載の細胞活性分析方法。
【請求項16】
前記算出工程では、前記強度像の画像データにおける前記生細胞が存在していない箇所の輝度値の成分に基づいて、前記計測対象の反射光の強度の変化に関する情報を補正する、ことを特徴とする請求項12乃至15のいずれか一項に記載の細胞活性分析方法。
【請求項17】
前記所定の入射角は、前記金属薄膜に、前記生細胞が接していないときの共鳴角に等しい、ことを特徴とする請求項12乃至16のいずれか一項に記載の細胞活性分析方法。
【請求項18】
前記選択工程は、
前記画像取得工程によってサンプリングされた前記強度像の画像データに基づく画像を表示する表示工程と、
操作入力により、前記画像取得工程によってサンプリングされた前記強度像の画像データの中から前記生細胞の少なくとも一部の像を、選択された前記計測対象として指定する操作工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項12乃至17のいずれか一項に記載の細胞活性分析方法。
【請求項19】
前記配置工程では、前記生細胞を含む生細胞群を離隔して複数配置する、ことを特徴とする請求項12乃至18のいずれか一項に記載の細胞活性分析方法。
【請求項20】
複数の前記生細胞群各々に異なる前記外部刺激を与える、ことを特徴とする請求項19に記載の細胞活性分析方法。
【請求項21】
請求項12乃至20のいずれか一項に記載の細胞活性分析方法を用いた分析により得られた生細胞に係る反射光の強度の変化に関する情報に基づいて前記生細胞を同定する細胞同定方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図12】
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【図16】
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【図19】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−193752(P2011−193752A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61710(P2010−61710)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】