説明

細胞活性剤

【課題】大量に産出される羊毛を有効利用できる用途を見出すこと、および発毛/育毛に有効な細胞活性剤の機能を有する薬剤を安価に提供すること。
【解決手段】羊毛由来のタンパク質、ポリペプチド、低級ペプチドおよびアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の成分または該成分の誘導体からなる羊毛由来ポリペプチドを含有することを特徴とする細胞活性剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞活性剤に関する。さらに詳しくは、線維芽細胞を活性化させ、発毛および育毛に有効な細胞活性を促進する羊毛由来のポリペプチドを含有する発毛/育毛剤の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、頭髪の脱毛について壮年男性を中心に関心が持たれていたが、最近では社会的に活動する人たちも高年齢化が進み、また、精神的にもストレスが高まる時代的背景から、老年層や若年層の抜け毛やはげ、さらに女性にも抜け毛に対する懸念から育毛、発毛への関心が高まり、育毛剤の市場が拡大し、多くの製品が販売されている。
【0003】
頭髪組織には、毛の成長に直接影響を及ぼす組織である毛包がある。毛包は皮膚の真皮内で毛根を包み、毛の栄養を司っている。毛髪の脱毛・発育不良因子は大別すると、[1]毛包の未形成、[2]毛包内増殖因子の不具合、[3]毛母細胞の不活化がある。
【0004】
これまで市販されている育毛剤に用いられている物質としては、[1]の対策として、ビタミンE、塩化カルプロニウム、センブリエキスなどが知られ、これらは抹消血管を拡張して血行を促進するものである。
【0005】
また、[3]の対策として、塩酸ジフェンヒドラミン、グリチルリチン誘導体、ヒノキチオールなどが知られているが、これらは抗炎症や抗菌効果により頭皮を清浄に保ち、皮脂過多や頭皮細菌類の増殖を抑え、毛母細胞の分裂を促すものである。
【0006】
また、[3]の場合のもう一つの原因として男性ホルモン作用が挙げられるが、この対策としては、オイゲノールやオイゲニルグルコシド、丁子などが知られており、男性ホルモン作用の制御を目的に用いられている。
【0007】
[2]の対策としては各種の細胞活性剤が用いられ、毛の成長に関与する各種酵素活性の賦活化を目的としており、ニンジンエキス、プラセンタエキス、ミノキシジルなどはこれに該当する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の課題を解決する1手段として、頭髪を構成するタンパク質を補完するものとして、比較的容易に入手できる羊毛由来のポリペプチドを外用素材として安価に有効利用することにより、線維芽細胞を活性化させ、コラーゲン、エラスチンなどの真皮細胞間マトリックス成分や毛の成長に促進的に働く細胞増殖因子を増加させ、発毛/育毛に有効な細胞活性剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意研究の結果、羊毛由来のポリペプチドが、ヒト線維芽細胞増殖作用などの生理活性機能を有し、頭髪の発毛、育毛に効果のあることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
1.羊毛由来のタンパク質、ポリペプチド、低級ペプチドおよびアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の成分または該成分の誘導体からなる羊毛由来ポリペプチドを含有することを特徴とする細胞活性剤。
2.羊毛由来ポリペプチドが、羊毛のアルカリ加水分解物である前記1に記載の細胞活性剤。
【0011】
3.羊毛由来ポリペプチドが、カルボキシル基、スルホン基、硫酸エステル基、リン酸エステル基からなるアニオン性基、ポリエチレングリコール基、ポリアルコール基からなるノニオン性基および/またはアミノ基からなるカチオン性基から選ばれた水溶性基が導入された水溶性羊毛由来ポリペプチドである前記1に記載の細胞活性剤。
【0012】
4.前記1〜3のいずれかに記載の細胞活性剤を含むことを特徴とする発毛/育毛剤。
5.細胞活性剤が、水あるいは水−親水性溶剤混合溶媒の溶液、分散液、エマルジョン、乳液、ペースト状、クリーム状、コロイド状、ゲル状またはゾル状物である前記4に記載の発毛/育毛剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、羊毛由来ポリペプチド、羊毛アルカリ加水分解物あるいは羊毛由来ポリペプチド誘導体を主成分とした水溶液、分散液、ゲル剤などを生理活性剤として使用し、線維芽細胞を活性化、増殖化することにより線維芽細胞の持つ様々な機能が発現され、発毛/育毛に有効な細胞活性剤として極めて有用に、しかも極めて安価に提供できる。これらは単独成分として使用したり、あるいは従来使用されてきた他の発毛/育毛剤類に添加し、複合効果を発揮させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明をさらに詳細に説明する。羊毛のタンパク質は、毛髪を構成するタンパク質と同様にケラチンタンパク質である。本発明で用いられる羊毛由来ポリペプチド、羊毛アルカリ加水分解物あるいは羊毛由来ポリペプチド誘導体を主成分とした液あるいは粉末などの製剤は、公知の方法で羊毛から取り出されたタンパク質類、ポリペプチド類、低級ペプチド類、アミノ酸類などを主成分として含むもの、およびそれら羊毛由来ポリペプチドに反応性化合物を反応させて得られた誘導体を主成分として含む。
【0015】
本発明において、上記の「羊毛由来のタンパク質、ポリペプチド、低級ペプチドおよびアミノ酸から選ばれる少なくとも1種」または「羊毛由来のタンパク質、ポリペプチド、低級ペプチドおよびアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の成分または該成分の誘導体からなる羊毛由来ポリペプチド」を「羊毛由来ポリペプチド」と総称することがある。
【0016】
羊毛から羊毛由来のポリペプチドを得る1例の方法としては、例えば、脱脂した羊毛を過酢酸や過蟻酸で処理した溶液を、アルカリ溶液でpHを調整後、不溶部分を濾別し、得られた溶液を透析する方法が挙げられる。また、別の例としては、上記溶液に尿素水溶液を加えながら、2−メルカプトエタノールやチオグリコール酸などのチオアルコールを作用させ、羊毛ケラチン中のS−S結合をSH基にし、羊毛ポリペプチドを溶出させる方法が挙げられる。また、別の例としては、上記の方法におけるチオアルコールの代わりにチオ硫酸ソーダを用いる方法やドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤の存在下にチオアルコールやチオ硫酸ソーダなどの還元剤を用いる方法が挙げられる。また、さらに別の方法としては、脱脂した羊毛をアルカリ溶液で処理し、可溶化部分を酸で中和した後、透析によって羊毛由来ポリペプチドを得る方法が挙げられる。
【0017】
また、上記の羊毛由来ポリペプチドに反応性化合物を反応させて、羊毛由来ポリペプチドの誘導体を得ることができる。特に重要な誘導体は、水溶性誘導体であり、羊毛由来ポリペプチドに水溶性基あるいは水溶性基に変性し得る基を有する親水性反応性化合物を反応させることによって、水溶性基が導入された羊毛由来ポリペプチドの水溶性誘導体が得られる。
【0018】
上記誘導体に導入される水溶性基としては、従来公知のアニオン性、ノニオン性、および/またはカチオン性の水溶性基が挙げられる。例えば、アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン基、硫酸エステル基、リン酸エステル基などが挙げられ、ノニオン性基としては、ポリエチレングリコール基、ポリアルコール基などが挙げられ、カチオン性基としてはアミノ基などが挙げられる。
【0019】
また、上記の誘導体は、導入された水溶性基に対して対イオン(カウンターイオン)となるアルカリ類あるいは酸類で中和することで水溶液にすることができる。誘導体の好ましい水溶性基はカルボキシル基であり、該カルボキシル基は、例えば、アシル化反応やカルボン酸塩化物によるアミノ基への化学修飾反応などによって導入することができ、これをアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどで中和することで水溶液とすることができる。この際、アシル化反応には、アシル化剤として無水コハク酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸などの酸無水物あるいはカルボン酸塩化物が好適に用いられ、また、モノクロル酢酸などのα−ハロゲン化アルキルカルボン酸などが好適に用いられる。
【0020】
本発明の細胞活性剤の線維芽細胞増殖活性について説明する。発毛/育毛に有効な細胞活性機能は、線維芽細胞を活性化、増殖化する機能に関連するものと考えられる。線維芽細胞とは真皮を構成している細胞である。ヒトの皮膚は表皮、真皮および皮下組織からなっているが、真皮は表皮の下にある結合組織層である。真皮組織において細胞と細胞の間には細胞間マトリックスと呼ばれる部分があり、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ムコ多糖、プロテオグリカンなどから構成されている。
【0021】
この中で、基質タンパク質であるコラーゲンは、マトリックス全体の70%〜80%を占め、コラーゲンの変質は皮膚の老化に繋がる。エラスチンは、マトリックス全体の2〜4%を占め、ペプチド鎖間に架橋結合が多く弾性に富んだ構造タンパク質である。フィブロネクチンは、細胞の接着や伸展を担う糖タンパク質で、ムコ多糖は動物の粘性分泌物から得られる多糖であり、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸はこれに該当する。また、プロテオグリカンは、ムコ多糖とタンパク質の共有結合化合物の総称である。これらの細胞間マトリックス成分は、皮膚に弾力性を付与する機能を有している。
【0022】
本発明の羊毛由来ポリペプチドとして、羊毛アルカリ加水分解物の細胞活性化性能を評価するために培養試験を行い、非常に優れた効果を示した。正常ヒト真皮線維芽細胞を用いて培養試験を行った結果、牛血清アルブミン(以下、「BSA」と称する。)と同等の効果を示した。しかも、線維芽細胞賦活効果が知られているシルクプロテインとのヒト真皮線維芽細胞に対する比較試験で顕著な賦活効果を示した。また、ヒト皮膚三次元真皮モデル内線維芽細胞に対しても、線維芽細胞活性化の効果があり、カゼインやNZcaseよりも高い活性化の効果を示し、細胞活性化の作用が知られているシルクプロテインやセリシンよりも高い細胞活性賦活効果があった。
【0023】
羊毛アルカリ加水分解物が、細胞賦活効果を示した真皮組織における線維芽細胞は、毛成長促進作用に代表されるような様々な機能を有している。細胞が活性化されることにより、それらの機能が活発に発現するという優れた効果を与えられるものと考えられる。線維芽細胞は、毛成長促進作用を有する肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor;以下、「HGF」と称する。)を産生する。
【0024】
ヒトの毛組織は、皮膚の付随器官であり、皮膚が形を変えて分化したものであり、外胚葉由来の上皮系マトリックスおよび毛乳頭を含む真皮エレメントからなっている。毛の発生プロセスにおいては線維芽細胞とケラチノサイトの相互作用により制御されつつ、次第に毛包が形成される。
【0025】
毛包では間葉系の線維芽細胞が構成要素である毛乳頭細胞と未分化な毛母細胞が接して存在し、これらの細胞間の相互作用により毛の発育分化がなされる。HGFは線維芽細胞や肝細胞などの間葉系細胞から産生される細胞成長因子で、毛乳頭細胞から毛母細胞への情報伝達に関わるパラクリン因子(paracrine factor)の一つであり、毛包の伸長とDNA合成を促進する作用を有することが明らかになっている。
【0026】
すなわち、毛乳頭細胞の構成要素である線維芽細胞は、毛の成長促進作用を有するHGFを作り出しているので、線維芽細胞が活性化されれば、HGFの産生が増加し毛の成長も促進され、発毛/育毛効果が具現化される。従って、本発明の羊毛由来ポリペプチドを含有する細胞活性剤は、発毛/育毛剤に有効に使用することができる。
【0027】
本発明の細胞活性剤における線維芽細胞活性化機構については、羊毛アルカリ加水分解物中に塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor;以下、「bFGF」と称する。)様の線維芽細胞賦活因子が存在し、または羊毛由来ポリペプチド自体がbFGF様の活性を有し、これらの物質が線維芽細胞に働きかけて、線維芽細胞の増殖をもたらすものと考えられる。
【0028】
本発明の細胞活性剤は、その主成分である羊毛由来ポリペプチドの作用により、線維芽細胞を増殖または活性化させ、その増殖または活性化された線維芽細胞より様々な物質、例えば、グリコーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸などの真皮組織の細胞間マトリックス成分やVEGFに代表されるサイトカイン、生理活性物質などが分泌され、毛包成長などの効果が発揮されるものと思われる。
【0029】
本発明の発毛/育毛剤は、羊毛由来ポリペプチドの毛包活性作用を利用したもので、毛包の賦活化により効果的な発毛や育毛を達成する。毛包は毛の成長に直接影響を及ぼす組織で、皮膚の真皮内で毛根を包み、毛の栄養を司っている。毛包の活動により毛周期は次の3期に構成されている。すなわち、[1]毛包が長く伸び、毛を盛んに作り出す成長期、[2]毛包が萎縮し、毛の下端が上昇し始める退行期、[3]毛包が完全に萎縮し、毛が抜け始める休止期である。
【0030】
髪の毛の発育不良を大別すると、次の3つのタイプが存在する。すなわち、[1]毛包の未形成、[2]毛包内増殖因子の不具合、[3]毛母細胞の不活化である。[1]の場合の症状は、発毛不良となり、対策としては、毛周期の成長期短縮化を遅らせるため、毛包を活性化させる細胞活性剤や毛包周辺の毛細血管中の血液循環を改善させる血行促進剤などが用いられる。
【0031】
[2]の場合の症状は、毛乳頭細胞の不活性化により細毛化や薄毛化が進む。対策としては、細胞活性剤により毛乳頭細胞を賦活化させることなどが考えられる。[3]の場合の症状は、毛母細胞分裂不良により毛が伸長しなくなることであり、対策としては毛母細胞不活性化の原因(例えば、頭皮の汚れ、皮脂過多、男性ホルモンなど)を除去することである。
【0032】
羊毛を構成するタンパク質は、ケラチンであり、毛髪を構成するタンパク質と同じタンパク質成分である。本発明の発毛/育毛剤は、羊毛由来ポリペプチドは線維芽細胞活性化作用を有し、毛包活性化作用を有するので、本発明の発毛/育毛剤を毛包に作用させれば、毛包の萎縮を抑制し、毛周期における退行期への移行の時期を遅らせることができる。また、萎縮した毛包に本発明の発毛/育毛剤を作用させることにより、毛包を活性化させ、毛周期の休止期から成長期への転換に効果を発揮させることができる。
【0033】
本発明の発毛/育毛剤は、羊毛由来ポリペプチドを主体とした細胞活性剤を担体若しくは媒体に保持されたもので、例えば、溶液、分散液、エマルジョン、乳液、ペースト状、クリーム状、コロイド状、ゲル状またはゾル状などの様々な形態で用いられる。
【0034】
使用の際には、該発毛/育毛剤を羊毛由来ポリペプチド換算で0.00001〜0.05g/cm2量を塗布、散布、貼付けなどにより頭皮に作用させる。このようにすれば、羊毛由来ポリペプチドにより作用個所の線維芽細胞が活性化され、HGFなどを分泌し毛包上皮系細胞の増殖を促進し、また、一方、VEGFなどのサイトカインを分泌して毛包下部の血管新生を促進し、総じて頭皮における毛成長を促進し、発毛/育毛効果を得ることができる。
【0035】
本発明の発毛/育毛剤の使用形態は、特に制限されないが、上記の羊毛由来ポリペプチドを主体とした細胞活性剤を、必要に応じて種々の添加剤とともに、水あるいは水−親水性溶剤混合溶媒を媒体とする溶液、分散液、エマルジョン、乳液、ペースト状、クリーム状、コロイド状、ゲル状またはゾル状物などとする。
【0036】
上記の親水性溶剤としては、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。本発明の発毛/育毛剤中の細胞活性剤の量は、目的に合わせて差異があるが、目安としては、発毛/育毛剤100質量部中で1〜50質量部程度を占める量である。本発明の発毛/育毛剤の使用量は特に限定されない。
【0037】
以上のようにして、本発明の細胞活性剤を発毛/育毛剤に用いれば、羊毛由来ポリペプチドの作用で、線維芽細胞が活性化、増殖化され、線維芽細胞の持つ様々な機能が発現され、毛包形成、毛成長に加えて、皮膚の薄化防止、微生物感染予防、創傷治癒、効果的な細胞培養などが実現される。
【0038】
本発明の発毛/育毛剤には、本発明の効果を損じない範囲で添加剤を加えることができる。添加剤としては、医薬品、医薬部外品および化粧品に添加される公知の配合成分が挙げられる。それらの例としては、植物油、ワックス類、脂肪酸エステル、脂肪族アルコールなど;水溶性ポリマー、増粘剤、界面活性剤など;ビタミン剤、尿素、グリセリン、湿潤剤、保湿剤、紫外線吸収剤など;防腐剤、酸化防止剤、キレート形成剤、pH調整剤など;色素、香料などが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0040】
実施例1(羊毛アルカリ加水分解物の合成)
攪拌機、逆流コンデンサー、温度計、窒素導入管および滴下装置を取り付けた反応装置に、羊毛微粉10部に10部のエタノールを添加し、湿潤させ、次いでイオン交換水80部を添加し、羊毛微粉を分散させた。10%水酸化ナトリウム水溶液20部を滴下して添加した。pHをアルカリ性に保ちながら、湯浴にて80℃にて5時間加温、攪拌し、羊毛を加水分解した。水溶液を冷却後、希塩酸で中和し、ろ過をした。ろ液を脱塩し、凍結乾燥を行い、羊毛アルカリ加水分解物を得た。以下、「WAH」と略称する。
【0041】
実施例2(羊毛アルカリ加水分解物のヒト真皮線維芽細胞活性試験)
(1)使用細胞
正常ヒト真皮線維芽細胞は、ヒューマンサイエンス資源バンクより分譲を受けたTIG−112について培養を行い、PDL=25〜28の細胞を試験に供した。培養は、超純水で作製した0.95%Eagle's MEM(Gibco社製)培地に10%牛胎児血清(Gibco社製)を添加し、組織培養用10cmφのディッシュ(IWAKI製)に播種し、37℃、5%CO2の条件で行った。これを1.3×106cells/ml(10%DMSO含FBS、1ml)の条件で液体窒素中に保存し、試験培養を行うごとに融解再培養した。
【0042】
(2)被検物および試験培地の調整
超純水99mlにEagle's MEM粉末培地0.95g、NaHCO30.22gを溶解し、1N塩酸でpHを7.0〜7.2に調整し、そこに1mlの牛胎児血清を混合し基準培地とした。別に、羊毛アルカリ加水分解物(WAH)0.2gを溶解した超純水に上記と同様の調整を行い、WAH0.2%含有試験培地とした。これらを所定の比率で混合し、WAHを0.05%、0.10%、0.15%、0.20%夫々含有する培地を作製し、試験培地とした。
【0043】
(3)培養試験
線維芽細胞は融解再培養1日後、24穴のマイクロプレート(IWAKI製)に8×103cells/wellとなるように播種し、10%FBS含有Eagle's MEM培地1ml/wellで1日培養し、定着させた。細胞定着後、n=4、1ml/wellで各試験培地に交換し、8日間37℃、5%CO2の条件下で培養試験を行った。
【0044】
(4)アラマーブルーによる細胞増殖評価
上記の条件で所定期間培養を行った後、通常の10%FBS含有Eagle's MEM培地(1ml/well)に交換し、各ウェルに100μLのアラマーブルーを添加し、4時間培養を行った。その後各培地を試験管に取り、PBS(−)で1/2に希釈後、570nmと600nmの吸光度を測定し、還元率を算出し増殖効果の評価を行った。
【0045】
(5)試験結果
表1に培養8日後の各サンプルの還元率およびWAH0%を基準とした各還元比率を示した。
【0046】

【0047】
この結果を見ると、羊毛アルカリ加水分解物(WAH)は対照(基準培地)と比較して高いアラマーブルー還元比率を示しており、WAHにはヒト真皮線維芽細胞に対する賦活効果があることが明らかになった。
【0048】
実施例3(WAHとシルクプロテインのヒト真皮線維芽細胞活性比較試験)
実施例2と同様にして、正常ヒト真皮線維芽細胞としてTIG−112について培養試験を行い、PDL=25〜28の細胞を試験に供した。Eagle's MEM粉末培地に1mlのFBSを混合し、基準培地とした。別にシルクプロテイン(SP)を溶解した超純水を使用し、上記と同様の調整を行い、SPを1.0%含有する培地とした。試験培地の調整は実施例2と同様にして所定の比率で混合し、SPを0.1%、0.2%、0.5%、1.0%夫々含有する培地を作製した。また、比較のため、0.2%WAH含有培地を作製し比較培地とし、実施例2と同様にして培養試験を行った。
【0049】
(3)培養試験
線維芽細胞は実施例2と同様にして、融解再培養1日後、24穴のマイクロプレートに9×103cells/wellとなるように播種し、10%FBS含有Eagle's MEM培地1ml/wellで1日培養し定着させた。細胞定着後、n=3、1ml/wellで各試験培地に交換し8日間37℃、5%CO2の条件下で培養試験を行った。
【0050】
(4)アラマーブルーによる細胞増殖評価
上記の条件で所定期間培養を行った後、実施例2と同様にして、通常の10%FBS含有Eagle's MEM培地(1ml/well)に交換し、各ウェルに100μlのアラマーブルーを添加し4時間培養を行った。その後各培地を試験管に取り、PBS(−)で1/2に希釈後570nmと600nmの吸光度を測定し、還元率を算出し、増殖効果の評価を行った。
【0051】
(5)試験結果
表2にFBS1.0%を基準とした培養8日後の各サンプルの還元比率を示した。
【0052】

【0053】
この結果から羊毛アルカリ加水分解物にはシルクプロテインよりも顕著なヒト真皮線維芽細胞に対する賦活効果があることが明らかになった。
【0054】
実施例4(羊毛アルカリ加水分解物のヒト皮膚三次元真皮モデル内線維芽細胞に対する活性濃度の検討)
(1)使用皮膚モデル
東洋紡績(株)の三次元皮膚モデル MATREX LDMキットを用いた。本皮膚モデルは、コラーゲン内にヒト線維芽細胞を包埋し、三次元的に培養したヒト皮膚真皮モデルであり、簡便に細胞試験が可能であることから、動物皮膚代替試験、代謝試験、細胞毒性試験などに用いられている。本試験の原理は、線維芽細胞内のミトコンドリアの脱水素酵素が添加した基質であるMTT(3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を還元してホルマザンを生成するが、そのホルマザン量は細胞活性が強いほど多量であることを応用したものである。
【0055】
(2)試験方法
アッセイ培地1.2mlを入れたアッセイプレート上にヒト線維芽細胞組織ウェルを置き、WAHをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて溶解し、0.75%、1.0%、1.5%、2.0%、3.0%、6.0%の各濃度に調製したWAHリン酸緩衝生理食塩水溶液0.5mlをウェル内に添加した。37℃にて20時間培養した後、MTT含有培地に培地交換をし、37℃にて3時間培養した。培養後ヒト皮膚組織部分を切り取り、生成したホルマザンを酸性イソプロパノール2.0mlで抽出した。抽出液は570nmにてその吸光度を測定し、対照であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と比較した。
【0056】
(3)試験結果
表3に各試料の吸光度の測定値と対照(PBS)を1.0としたときのWAH溶液濃度系列の吸光度比を表した。
【0057】

【0058】
WAH溶液は0.75%から3.0%の濃度にかけて、ヒト皮膚三次元真皮モデル内線維芽細胞活性化の効果があった。
【0059】
実施例5(羊毛アルカリ加水分解物とシルクプロテインのヒト皮膚三次元真皮モデル内線維芽細胞活性比較試験)
(1)使用皮膚モデル
実施例4と同様に東洋紡績(株)の三次元皮膚モデル MATREX LDMキットを用いた。
【0060】
(2)試験方法
アッセイ培地1.2mlを入れたアッセイプレート上にヒト線維芽細胞組織ウェルを置き、WAHをリン酸緩衝生理食塩水にて溶解し、1.0%の濃度に調製したWAHリン酸緩衝生理食塩水溶液0.5mlをウェル内に添加した。37℃にて20時間培養した後、MTT含有培地に培地交換をし、37℃にて3時間培養した。培養後ヒト皮膚組織部分を切り取り、生成したホルマザンを酸性イソプロパノール2.0mlで抽出した。抽出液は570nmにてその吸光度を測定し、対照であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と比較した。また、比較のため、WAHの代わりにシルクプロテイン(SP)の0.5%、1.0%、2.0%リン酸緩衝生理食塩水溶液も調製し、WAHと同様に試験した。
【0061】
(3)試験結果
表4に各試料の吸光度の測定値と対照(PBS)を1.0としたときの各試料の吸光度比を表にした。
【0062】

【0063】
WAH1.0%溶液は、ヒト皮膚三次元真皮モデル内線維芽細胞に対して、シルクプロテインよりも高い細胞活性賦活効果があった。
【0064】
実施例6(羊毛アルカリ加水分解物の頭髪発毛・育毛の試験)
羊毛アルカリ加水分解物を0.2%含有する30%エタノール溶液を準備した。前頭部および頭央部が脱毛している高年齢男性の頭部に1日一回ほぼ2mlを頭部全面に塗布し、これをほぼ6ヶ月間継続した。その結果、前頭部および頭央部の脱毛している部分に発毛が見られ、さらに大きく育毛することが観察された。
【0065】
実施例7(羊毛アルカリ加水分解物のアシル化物の調製)
WAH5gをイオン交換水200mlに溶解し、2N水酸化ナトリウム溶液にてpH9になるように調整した。室温攪拌下、コハク酸無水物20gを4時間、順次添加し、反応系のpH低下を抑えるため、2N水酸化ナトリウム溶液添加により、pHを8〜10に調整しながら反応させた。さらに5時間攪拌を行った後、2N塩酸溶液にて中和後、脱塩、凍結乾燥を行い、WAHアシル化物を得た。
これを実施例2〜5と同様に培養試験し、同様に線維芽細胞の活性化が認められた。また、実施例6と同様にして頭髪の発毛・育毛試験を行い、脱毛している部分に発毛が見られ、さらに育毛することが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、比較的容易に入手できる羊毛由来のケラチン系のポリペプチドを外用素材として有効利用することにより、発毛/育毛に有効な細胞活性剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羊毛由来のタンパク質、ポリペプチド、低級ペプチドおよびアミノ酸から選ばれる少なくとも1種の成分または該成分の誘導体からなる羊毛由来ポリペプチドを含有することを特徴とする細胞活性剤。
【請求項2】
羊毛由来ポリペプチドが、羊毛のアルカリ加水分解物である請求項1に記載の細胞活性剤。
【請求項3】
羊毛由来ポリペプチドが、カルボキシル基、スルホン基、硫酸エステル基、リン酸エステル基からなるアニオン性基、ポリエチレングリコール基、ポリアルコール基からなるノニオン性基および/またはアミノ基からなるカチオン性基から選ばれた水溶性基が導入された水溶性羊毛由来ポリペプチドである請求項1に記載の細胞活性剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞活性剤を含むことを特徴とする発毛/育毛剤。
【請求項5】
細胞活性剤が、水あるいは水−親水性溶剤混合溶媒の溶液、分散液、エマルジョン、乳液、ペースト状、クリーム状、コロイド状、ゲル状またはゾル状物である請求項4に記載の発毛/育毛剤。

【公開番号】特開2008−19244(P2008−19244A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148778(P2007−148778)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】