説明

細菌感染のための抗菌療法

本発明は、標的突然変異生成および異種発現による細菌性病因の分子遺伝子学的アプローチ、と共にin vitroおよびin vivoモデルを提供し、S. aureusの色素が、病原因子および抗菌療法のための潜在的な新規標的であることを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的突然変異生成および異種発現による細菌性病因の分子遺伝子学的アプローチ、と共にin vitroおよびin vivoモデルを提供し、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus、以下、S. aureusと記載)の色素が、病原因子および抗菌療法のための潜在的な新規標的であることを示す。
【背景技術】
【0002】
Ogston(1881)は、スタフィロコッカス(ブドウ球菌)属という用語をつくり、外科手術による膿瘍に由来する膿より回収した細菌のブドウの様な塊を表現した(ギリシャ語でスタフィロ(staphylo)とはブドウ)。その後間もなく、Rosenbach(1884)が、純培養にてこの病原体を単離し、種名をS. aureus(ラテン語で黄金色)と示した。それはこの病原体が、通常皮膚表面に定着する弱毒性のブドウ球菌と比べて、表面に色素を有する特徴を有するためである。
【0003】
抗菌療法の時代は70年目に入り、感染性疾患による疾病率および死亡率を大幅に低下させた。しかし、耐性菌が出現して、今や大流行し、医学界に重大な難題をもたらした。気がかりな傾向は、グラム陽性細菌の病原体であるS. aureusにおいて特に顕著であり、この病原体は、第一世代の抗生物質療法に対してしだいに耐性になっている。S. aureusはおそらく、世界で最も頻繁に生命に関わる深刻な細菌感染を引き起こし、また、様々な多くの疾患を生じ、それは単純な炎症性の腫れ物または膿痂疹から劇症敗血症または毒素性ショック症候群まで重篤性は様々である。S. aureusは、菌血症、病院関連の(院内)感染、皮膚および軟組織の感染、創傷部の感染、ならびに骨および関節の感染の主な原因として突出している。また、心内膜炎および食中毒の最も一般的な病原体の1つである。
【0004】
24,000件を超える侵襲性の細菌分離株についての米国内の前向き調査は、メチシリン耐性(MRSA)を有する病原性S. aureus株が、1995年の22%から現在57%に増加していることを示している。MRSAは現在、市中感染および病院においてしばしば確認されている。公衆衛生の真の危機に対処すべく、緊急に、新たな種類の抗生物質を発見する必要がある。10種未満の抗菌スキャホールドに基づく、半世紀にわたる類似体の合成によって、100種を超える抗菌剤が開発および販売されたが、オキサゾリジノンコアを除いて、耐性発生問題に対処する新たなスキャホールドは、過去30年間現れていない。
【0005】
S. aureusのカロテノイド色素などの細菌性病原因子を標的とする新しい種類の抗生物質の開発は、全く考えられていなかったアプローチである。古典的な抗生物質のアプローチは、細胞壁の生合成、タンパク質の合成、DNA複製、RNAポリメラーゼ、または代謝経路などの必須細胞機能を標的とすることによって、細菌を殺すか、または細菌の増殖を抑制することを試みる。これら従来の治療法は、毒性の危険性が高い。それはこれら細胞機能の多くがまた、哺乳動物細胞にも必須であり、また微生標的と宿主細胞における対応物との間に精密な分子差異を必要とするためである。第2に、同一の必須標的を繰り返し使用することによって、細菌が治療中に特定の抗生物質に対して耐性へと進化した場合、同一の標的に作用する他の薬剤に対しても、たとえその細菌が他のその薬剤に曝されたことがなくても、同時に交差耐性となり得る。第3に、従来の治療法は、細菌に対して「生か死か」のチャレンジ、すなわち、強い選択圧を課し、抗菌剤耐性へと進化させる。最後に、現在多くの抗生物質は、非常に広範囲の活性を有し、それは正常な細菌叢の多くの構成要素を根絶し、クロストリジウム・ディフィシル大腸炎または二次真菌感染症(例えば、カンジダ菌)などの望ましくない合併症を引き起こす副作用を伴う。
【0006】
MRSAの出現は、S. aureus感染の経験的治療におけるメチシリンおよび関連抗生物質(オキサシリン、ジクロキサシリン)および全てのセファロスポリング(cephalosporing)(例えば、セファゾリン、セファレキシン)の臨床的有用性を危うくした。MRSAは、しばしば、マクロライド(例えば、エリスロマイシン)、β-ラクタマーゼインヒビターの組合せ(例えば、ユナシン、オウグメンチン)およびフルオロキノロン(例えば、シプロフロキサシン)に対して顕著なレベルの耐性を有し、時には、クリンダマイシン、トリメトプリム/サルファメトキシソール(Bactrim)、およびリファンピンに耐性である。重篤なS. aureus感染において、バンコマイシンの静脈内投与は、最後の手段であるが、バンコマイシン(MRSAの治療に一般的に用いられている、静脈投与される抗生物質)に対するS. aureusの耐性が報告されている。
【0007】
リネゾリド(ザイボックス)またはキヌプリスチン/ダルホプリスチン(シネルシド(Synercid))のような新たな抗MRSA剤は、従来的な標的を使用し、リボソームサブユニットに結合して、RNA合成を抑制するが、これらの薬剤はかなり高価である。
【0008】
S. aureusの色素についてのその後の研究によって、一連のカロテノイドを産生する複雑な生合成経路が明らかとなった。食用果実および野菜にて産生される同様のカロテノイドが、そのフリーラジカル捕捉特性および一重項酸素をクエンチする優れた能力のために、有効な抗オキシダント剤としてよく知られている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カロテノイドが、微生物において病原性/耐性因子として機能することを示す。一実施形態において、本発明は、S. aureusのカロテノイドが、その抗オキシダント特性のために、好中球による殺滅を減じ、かつ疾病病因を促す病原因子であること、およびカロテノイド色素の産生を薬理学的に阻害することによって、生物をオキシダントおよび血液による殺滅に対してより感受性にする証拠、を示す。
【0010】
本発明は、細菌感染を治療するための方法であって、細菌中のカロテノイドの産生および/または活性を抑制する薬剤を、感染した被験体に投与することを含む、上記方法を提供する。一実施形態において、細菌感染はスタフィロコッカス感染である。別の実施形態において、細菌はスタフィロコッカス種である。さらなる実施形態において、細菌は、S. aureusである。
【0011】
本発明はまた、カロテノイドをターゲティングすることによって、MRSAを阻害、治療するか、またはMRSAの効果的な治療を改善する方法を提供する。一態様において、カロテノイドは、スタフィロコッカス種のカロテノイドである。別の態様において、本方法は、カロテノイドをターゲティングすることを含み、かかるターゲティングは、カロテノイド合成インヒビターの使用を含む。さらなる実施形態において、カロテノイド合成インヒビターは、例えば、2-ジエチルアミノエチル-2,2-ジフェニル-バレレート(SKF 525-A)などの混合機能オキシダーゼインヒビターである。
【0012】
本発明はまた、細菌感染を治療するのに有用なMRSA 治療剤をスクリーニングするための方法であって、カロテノイドを産生する細菌とカロテノイドの産生または活性を抑制すると思われる試験薬剤とを接触させること、および酸化剤の存在下および非存在下において当該薬剤の効果を測定すること、を含む上記方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書中および特許請求の範囲にて用いられる場合、単数形は、特に明記しない限り、複数の対象物を含む。したがって、例えば、単に「タンパク質」といえば、複数の当該タンパク質を含み、「細胞」とは、当業者に公知である1または複数種の細胞などを含む。
【0014】
特に規定しない限り、本明細書中に用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野における当業者に一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似するかまたは同等のものを、開示される方法および組成物の実施に用いることが可能であるが、例示となる方法、装置および材料が本明細書中に記載される。
【0015】
本明細書中、上記および全体にわたって論じられる刊行物は、本願出願日以前に開示されたというだけの意味で提供される。本明細書中に記載されるこれらの刊行物は、先行する開示によって、本願発明者らが、それら開示に先行する権利を有さないことを認めるものとして解釈されるものではない。
【0016】
カロテノイドを発現する微生物の感染を治療するのに有用な方法および組成物が提供される。例えば、本発明は、S. aureus感染(メチシリン-およびバンコマイシン-耐性株によって生じる感染も含む)を治療するのに有用な方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、単独で、またはかかる感染を治療するための従来の抗菌剤および抗生物質と組み合わせて用いることができる。さらに、本明細書中に開示される方法および組成物は、異物感染、カテーテル感染もしくは血管内感染、慢性骨髄炎(osteomyeletis)、院内感染もしくは術後感染、再発性皮膚感染、または免疫抑制状態にある宿主におけるS. aureus感染などに用いることができる。
【0017】
カロテノイドは、主要な種類の天然色素である。600を超える様々なカロテノイドが、細菌、真菌類、藻類、植物および動物において同定されている(Staub, O., In: Pfander, H.(編), Key to Carotenoids, 第2版, Birkhuser Verlag, Basel)。これらは、光合成における補助的色素として、抗オキシダントとして、ヒトおよび動物においてビタミンの前駆体として、ならびに光防護および種特異的な彩色のための色素として機能する。カロテノイドは、例えば、医薬、食用色素ならびに動物の飼料および栄養サプリメントなどについて、歴史的に関心が持たれてきた。これらの天然産物が、癌および慢性疾患の抑制(主にその抗オキシダント特性による)に重要な働きをし得ること、さらに最近では、これら天然産物が、癌細胞との特定の相互作用によって有効な腫瘍抑制活性を示すことが発見され、それらの医薬品としての可能性に関心が高まっている(Bertram, J. S., Nutr. Rev., 1999;57:182-191; Singhら、Oncology, 1998;12:1643-168; Rock, C. L., Pharmacol. Ther., 1997;75:185-197; Edgeら、J. Photochem. Photobiol., 1997;41:189-200を参照)。
【0018】
カロテノイドは、いろいろな微生物由来の生合成遺伝子を組み合わせて、生合成経路を作り出した組換え微生物において産生することができる。現在、24種のカロテノイド生合成酵素に対する150種以上の遺伝子(crt)が、種々の様々なカロテノイドを作製するのに用いることができる細菌、植物、藻類および菌類より単離されている。
【0019】
完全なカロテノイド生合成経路が、数多くの細菌よりクローニングされており、かかる経路において、生合成酵素遺伝子は、遺伝子クラスター内に配置されている(Armstrong, Ann. Rev. Microbiol., 1997, 51:629; Sandmann, Eur. J. Biochem., 1994, 223:7を参照)。それぞれ、ゼアキサンチンジグリコシドならびに非環式キサントフィルのスペロイデン(speroidene)およびスフェロイデノン(spheroidenone)を合成する、エルビニア属ならびにロドバクター属の経路が最初に、含まれる全ての酵素が同定された(Armstrongら、Mol. & General Gene., 1989, 216:254; Langら、J. Bacteriol., 1995, 177:2064; LeeおよびLiu, Mol. Microbiol., 1991, 5:217; Misawaら、J. Bacteriol., 1990, 172:6704)。
様々な手法が、カロテノイド生合成遺伝子をクローニングするために用いられてきた(Hirschberg, J., In: Carotenoids: Biosynthesis and Metabolism, Vol. 3, Carotenoids, G. Britton, Ed. Basel: Birkhuser Verlag, 148-194, 1998)。エルビニア属由来のカロテノイド生合成遺伝子を発現するE. coliにおける機能的特徴の補完をうまく用いて、種々の微生物のおよび植物のカロテノイド生合成遺伝子をクローニングした(Verdoesら、Biotech.およびBioeng., 1999, 63:750; Zhuら、PlantおよびCell Physiology, 1997, 38:357; Kajiwaraら、Plant Mol. Biol., 1995, 29:343; Peckerら、Plant Mol. Biol., 1996, 30:807; 植物のカロテノイド生合成については Hirschbergら、Pure and Applied Chemistry, 1997, 69:215 1にて評論されている; CunninghamおよびGantt, Ann. Rev. of Plant Physiol. and Plant Mol. Biol., 1998, 49:557)。
【0020】
初期カロテノイド生合成酵素であるGGDPシンターゼ、フィトエンシンターゼおよびフィトエンデサチュラーゼをコードする遺伝子は、クローニングされた全てのカロテノイド生合成遺伝子の半数以上を占める。様々なフィトエンデサチュラーゼ遺伝子が利用可能であり、2、3、4または5個の二重結合をフィトエンに導入し、カロテン(植物、シアノバクテリア、藻類)(Bartleyら、Eur. J. of Biochem., 1999, 259:396)、ニューロスポレン(ロドバクター)(Raisigら、J. Biochem., 1996, 119:559)、リコペン(ほとんどの真正細菌および真菌類)(Verdoesら、Biotech.およびBioeng., 1999, 63:750; RuizHidalgoら、Mol. & Gen. Genetics, 1997, 253:734)または3,4-ジデヒドロリコペン(Neurospora crassa)(Schmidhauserら、Mol.およびCell Biol., 1990, 10:5064)をそれぞれ産生する。以下は、クローニングされているカロテノイド生合成遺伝子の例である:
crtE: ロドバクター・カプシュラタス(R. capsulatus)およびエルビニア・ウレドボラ(E. uredovora)由来のGGPP-シンターゼ
crtB: R. capsulatusおよびE. uredovora由来のフィトエンシンターゼ
crtI: E. uredovoraおよびエルビニア ヘルビコラ(E. herbicola)由来のフィトエンデサチュラーゼ
crtY: E. uredovoraおよびE. herbicola由来のリコペンシクラーゼ
crtA: R. capsulatusおよびロドバクター・スフェロイデス(R. spaeroides)由来のスフェロイデンモノオキシゲナーゼ
crtO: Synechocistis種由来のβ-C4-ケトラーゼ(オキシゲナーゼ)
crtW: Algaligenes種, A. aurantiacum由来のβ-C4-ケトラーゼ
crtD: R. capsulatusおよびR. spaeroides由来のメトキシニューロスポレンデサチュラーゼ
crtX: E. uredovoraおよびE. herbicola由来のゼアキサンチングルコシルトランスフェラーゼ
crtZ: E. uredovoraおよびE. herbicola由来のβ-カロテンヒドロキシラーゼ
crtU: ストレストミセス・グリセウス(S. griseus)由来のβ-カロテンデサチュラーゼ
crtM: S. aureus 由来のデヒドロスクアレンシンターゼ
crtN: S. aureus由来のデヒドロスクアレンデサチュラーゼ
主要なヒト病原体 S. aureusは、通常皮膚表面に定着する弱毒性のブドウ球菌(例えば、スタフィロコッカス・エピデルミディス(S. epidermidis))と比べて、明るい黄色の色素沈着がみられる特徴のために二次的に名付けられた(アウレウス(aureus)とはラテン語で黄金色)。S. aureusの色素に関するその後の研究により、一連のカロテノイドを産生する複雑な生合成経路が明らかとなった。食用の果実および野菜にて産生される同様のカロテノイドは、フリーラジカル捕捉特性および一重項酸素をクエンチする優れた能力のために、有効な抗オキシダントとして、よく認識されている。S. aureusの色素は同様の特性を有し得る。本発明は、その黄金色のカロテノイド色素を用いて、宿主の先天性の免疫系であるオキシダントベースのクリアランス機構に対して抵抗できるか否かを調べた。例えば、好中球およびマクロファージは、反応分子(例えば、過酸化物、漂白剤および一重項酸素など)による「酸化的破壊」を生じることによって、貪食された細菌を殺す。
【0021】
カロテノイド色素によってもたらされる黄金色は、ヒト病原体 S. aureusの名前の由来となる特徴である。突然変異生成および異種発現を組み合わせた分子遺伝学的分析を用いて、この特徴的な表現型が実は病原因子であり、その抗オキシダント特性により、食細胞の殺滅より細菌を防御することを示した。現在、地域社会および病院における、抗菌剤耐性の急速な進化によって、かかる重大な病原体を効果的に制御することが危ぶまれている。カロテノイド合成を抑制することによって、悪化したS. aureus感染を治療するための新規治療法を提供することができ、かかる治療法において、効率的に病原体を、正常な宿主の先天性の免疫防御によるクリアランスに対してより感受性にすることができる。
【0022】
本発明は、カロテノイド色素の産生が、B群レンサ球菌(Streptococcus:GBS)のマクロファージによる殺滅に対する耐性の原因となることを示す。GBSは、ヒト新生児における侵襲性細菌感染、例えば、肺炎、敗血症および髄膜炎の主な原因である。カロテノイド色素の産生に必要とされる遺伝子(CylE)は同定されている。この色素は、当該生物において、疾病病因に重要な、細胞傷害特性および炎症反応を促進する特性を有する溶血素/細胞溶解素毒素の産生に必要とされる。侵襲性感染に関連する他の細菌性および真菌性のヒト病原体(例えば、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、サラチア・マルセセン(Serratia marcesens))は、抗オキシダント特性を有するカロテノイドまたはメラニン様色素を産生する。すなわち、これは、一般的な病原性のテーマであり、食細胞のクリアランス機構に対する色素産生の潜在的な選択的優位性を示す。
【0023】
したがって、抗菌療法のために色素産生をターゲティングするアプローチを、色素(例えば、酸化防御をもたらすカロテノイド色素または他の色素)を産生する生物まで拡大することができる。特に、アスペルギルス種は、免疫不全者(例えば、癌化学療法)における重大な死亡原因であり、バークホルデリア・セパシアは、嚢胞性線維症における重大な死亡原因である。アスペルギルスおよびバークホルデリアは共に、一般に多剤耐性であり、既存の抗生物質療法に耐性である。
【0024】
本発明は、標的遺伝子を欠失させる(そして、色素の無いS. aureus変異体を作製する)分子遺伝学的アプローチおよび「生試薬(living reagent)」を作製するためのクローニング技術(他の細菌にS. aureusの色素を発現させる)を用いて、S. aureus疾病病因における色素の真の重要性を特定したことを示す。S. aureusのカロテノイド色素は実際に、過酸化物および一重項酸素より細菌を防御し、マウスおよびヒト血液中における殺滅ならびに精製したヒト好中球による殺滅に対して、細菌をより耐性にした。S. aureusの膿瘍形成のマウスモデルを使用して、カロテノイド色素が、in vivoにおける細菌の生存および疾患の進行を促進したことを示した。好中球のオキシダント産生が低減したマウスを使用した対照実験によって、カロテノイド色素の産生が、その抗オキシダント特性のために、S. aureusの病原性に関与していたことが示された。本発明は、S. aureusの色素産生の薬理学的阻害によって、細菌がオキシダントに対してより感受性となり、かつ血液中における生存能が低減したことを示す。
【0025】
食細胞が病原体を除去する1つの重要な機構は、NADPHオキシダーゼによって生じた活性酸素種を放出することである。本発明は、S. aureusによって発現されるようなカロテノイドが、上記の防御分子に対する防御機能を果たすことを示す。例えば、ΔCrtM変異体は、野生型S. aureus株よりも、10〜100倍効率的に過酸化水素によって殺滅され、100〜1,000倍効率的に一重項酸素によって殺滅された。同様に、化膿レンサ球菌(以下、S. pyogenesと記載)におけるブドウ球菌の色素の異種発現は、一重項酸素による死亡率が100〜1,000倍低下したことに関連した。
【0026】
本発明は、微生物感染の治療のためにカロテノイド合成を抑制し、抗微生物活性を促す、方法および薬剤を提供する。例えば、一態様において、混合機能オキシダーゼインヒビターである2-ジエチルアミノエチル-2,2-ジフェニル-バレレート(SKF 525-A, Calbiochem)は、S. aureusにおける色素形成を抑制することを示し、当該薬剤の存在下で増殖したS. aureusの野生型株において、カロテノイド産生の濃度依存的な減少が示された。S. aureusの色素形成のブロッキングによって、一重項酸素による殺滅に対する当該生物の感受性が濃度依存的に増加し、かつヒト全血における当該生物の生存能は低下する。対照として、ΔCrtM変異体をSKF 525-Aに曝した対比実験においては、オキシダント感受性または血液中における生存能に顕著な影響はなかった。
【0027】
本発明は、カロテノイドの産生および/または活性を抑制することによって細菌感染を治療するための有用な方法および組成物を提供する。特に、本発明は、細菌感染(例えば、スタフィロコッカス種による細菌感染)した被験体を治療するための方法であって、被験体をスタフィロコッカス種のカロテノイドの活性および/または産生を抑制する薬剤と接触させることを含む上記方法、を提供する。一態様において、この薬剤は、小分子、ポリヌクレオチド(例えば、リボザイムまたはアンチセンス分子)、ポリペプチド(例えば、抗体)またはペプチド模倣体である。本発明の一態様において、薬剤はカロテノイド合成を抑制する薬剤である。例えば、この薬剤は、2-ジエチルアミノエチル-2,2-ジフェニル-バレレート(SKF 525-A, Calbiochem)、2,4-ジクロロ-6-フェニルフェノキシエチルアミン、2,4-ジクロロ-6-フェニルフェノキシエチルジエチルアミン、およびピペロニルブトキシドなどの混合機能オキシダーゼインヒビターであり得る。
【0028】
別の態様において、カロテノイド合成インヒビターは、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド(例えば、アンチセンス、リボザイム、またはsiRNA)を含む。例えば、アンチセンス技術は、標的遺伝子の配列が既知である場合、当該遺伝子をダウンレギュレートするための方法である。スタフィロコッカス種のカロテノイド遺伝子を含む多数のカロテノイド遺伝子が当該分野で公知である。本態様において、所望の遺伝子(例えば、crtMおよび/またはcrtN)に由来する核酸の断片をクローニングし、そしてプロモータに作動可能に連結して、RNAのアンチセンス鎖が転写されるようにする。この構築物を次に、標的細胞に導入し、そしてRNAのアンチセンス鎖を産生する。アンチセンスRNAは、目的のタンパク質をコードするmRNAの蓄積を抑制することによって、遺伝子発現を抑制する。このように、crtMおよび/またはcrtNに対するアンチセンス分子は、病原性微生物のカロテノイド合成を減少させ、それによって貪食細胞による酸化障害に対して、当該微生物を感受性にする。当業者は、特定の遺伝子の発現を低減するために、アンチセンス技術を使用するに際して、いくらか検討すべき事項があることがわかるであろう。例えば、アンチセンス遺伝子の適当なレベルの発現には、当業者に公知である様々な調節エレメントを用いた様々なキメラ遺伝子を使用することを必要とし得る。
【0029】
本発明において、抑制性の核酸を使用して細菌カロテノイドの生合成経路の発現を調節することによって、有用な治療方法を提供することは明らかである。例えば、本発明は、カロテノイドの生合成経路における酵素をコードする、crtMおよびcrtNを含む多数の遺伝子を同定する。あるいは(または加えて)、C30 カロテノイドの合成を生じるcrtM/crtN遺伝子をノックアウトすることが望ましくあり得る。一般的な分子生物学的手法を用いて、抑制性核酸分子、例えば、野生型細菌(例えば、スタフィロコッカス種)によって産生されるcrtNおよび/またはcrtM 核酸と相互作用し得るアンチセンス分子を作製することができる。
【0030】
本明細書中にて用いられる場合、単離された核酸には、in vivoにて産生された核酸が天然に結合している、タンパク質、脂質、および他の核酸が実質的に存在しない。一般に、この核酸は、少なくとも70重量%、80重量%、90重量%またはそれ以上純粋であり、そしてin vitroにて核酸を合成するための従来方法をin vivoにおける方法に代えて用いることができる。本明細書中で用いられる場合、「核酸」または「ポリヌクレオチド」または「オリゴヌクレオチド」とは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのポリマーを指し、これらは、別個の断片またはより大きな遺伝子構築物の一成分(例えば、プロモータが例えば、アンチセンス分子をコードする核酸に作動可能に連結されることによる)としての形態である。多数の遺伝子構築物(例えば、プラスミドおよび他の発現ベクター)が、当該分野にて公知であり、それらを用いて、無細胞系または原核細胞または真核細胞(例えば、酵母、昆虫、もしくは哺乳動物)にて本発明に係る所望の核酸を産生することができる。本発明に係る核酸は、本発明に係るペプチドを作製するために、従来の分子生物学的手法にて容易に用いることができる。
【0031】
アンチセンス核酸、リボザイム、またはsiRNAを含むポリヌクレオチドは、「発現ベクター」に挿入することができる。「発現ベクター」という用語は、当該分野にて公知であるプラスミド、ウイルスまたは他のビヒクルなどの遺伝子構築物を指し、これらには、例えば、アンチセンス分子を含めることができる。発現ベクターは一般に、複製起点、およびプロモータならびに形質転換した細胞の表現型選択を可能とする遺伝子を含む。誘導性および構成的プロモータを含む様々なプロモータを本発明に用いることができる。一般に、発現ベクターは、宿主/標的細胞と適合性がある種に由来するレプリコン部位および制御配列を含む。
【0032】
当業者に公知である従来技術を使用して、本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主/標的細胞の形質転換またはトランスフェクションを実施することができる。例えば、宿主細胞がE. coliである場合、DNAを取り込むことができるコンピテント細胞を、当該分野で公知であるCaCl2、MgCl2またはRbCl法を使用して作製することができる。あるいは、エレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションなどの物理的手段を用いることができる。エレクトロポレーションは、高電圧の電気インパルスによって、ポリヌクレオチドを細胞内に移入することができる。さらに、ポリヌクレオチドは、当該分野で周知の方法を使用して、原形質融合によって宿主細胞に導入することができる。エレクトロポレーションおよびリポフェクションなどの、真核細胞を形質転換するための好適な方法もまた公知である。
【0033】
本発明に含まれる宿主細胞または標的細胞は、本発明のポリヌクレオチドを用いて、抑制性核酸分子を発現することができる任意の細胞である。また、この用語は、宿主/標的細胞の子孫も含む。有用な宿主/標的細胞としては、細菌細胞、真菌細胞(例えば、酵母細胞)、植物細胞および動物細胞を含む。例えば、宿主細胞は、哺乳動物細胞などの高等真核細胞、または酵母細胞などの下等真核細胞であっても良いし、あるいは宿主細胞は、細菌細胞などの原核細胞であっても良い。宿主細胞への構築物の導入は、カルシウムリン酸トランスフェクション、DEAE-Dextranが仲介するトランスフェクション、またはエレクトロポレーションにより行うことができる(Davis, L., Dibner, M., Battey, I., Basic Methods in Molecular Biology(1986))。適切な宿主の典型的な例として、以下のものが挙げられる:酵母などの真菌細胞、Drosophila S2およびSpodoptera Sf9などの昆虫細胞、CHO、COSまたはBowesメラノーマなどの動物細胞、植物細胞など。適切な宿主の選択は、本明細書中の教唆に基づいて、当業者が為し得る範囲内であるとみなされる。
【0034】
宿主細胞は、真核性の宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞)であり得る。一態様において、宿主細胞は、細胞培養における増殖に適合した哺乳動物系産生細胞である。当該分野で一般的に用いられるこのような細胞の例としては、CHO、VERO、BHK、HeLa、CV1(Cos、Cos-7を含む)、MDCK、293、3T3、C127、骨髄腫細胞系(特にマウス)、PC12およびW138細胞がある。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、複数の複合組換えタンパク質、例えば、サイトカイン、凝固因子、および抗体の産生のために広く用いられる(Braselら、Blood 88:2004-2012, 1996; Kaufmanら、J.Biol Chem 263: 6352-6362, 1988; McKinnonら、J Mol Endocrinol 6:231-239, 1991; Woodら、J. Immunol 145:3011-3016, 1990)。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠損変異体細胞系(Urlaubら、Proc Natl Acad Sci USA 77:4216-4220, 1980)は、これら細胞において、効率的なDHFR選択が可能であることおよび増幅可能な遺伝子発現系であることによって、高レベルの組換えタンパク質の発現を可能とすることから、広く一般的に用いられているCHO宿主細胞系である(Kaufman, Meth Enzymol 185:527-566, 1990)。さらに、これらの細胞は、接着培養または浮遊培養時の操作が容易であり、また比較的良好な遺伝的安定性を示す。CHO細胞およびこれら細胞において発現される組換えタンパク質は、十分に特徴付けがなされ、監督官庁によって医療品の製造において使用することが承認されている。
【0035】
このような抑制剤(例えば、小分子(2-ジエチルアミノエチル-2,2-ジフェニル-バレレート)および抑制性核酸)の活性は、本明細書中に記載されるアッセイ(in vitroアッセイおよびin vivoアッセイ)など、当業者に公知である従来法を使用して測定することができる。
【0036】
本発明はまた、細菌の増殖を抑制するための方法であって、細菌と抑制有効量のカロテノイド生合成インヒビター(すなわち、カロテノイド合成インヒビター)とを接触させることを含む、上記方法を提供する。「接触させる」という用語は、微生物(例えば、細菌)を薬剤に曝し、そしてその薬剤が、微生物を抑制する、殺す、もしくは溶解するか、または微生物を酸化破壊に対して感受性にできることを指す。生物とカロテノイドの生合成を抑制する薬剤との接触は、例えば、薬剤を細菌培養物に添加するか、または細菌によって汚染された表面と当該薬剤とを接触させることによって、in vitroにて起こすことができる。
【0037】
あるいは、接触は、例えば、細菌感染に罹患しているかまたは感染症にかかりやすい被験体に薬剤を投与することによって、in vivoにて行うことができる。In vivoにおける接触には、非経口的なもの、および局所的なものの両方を含む。「抑制する」または「抑制有効量」とは、例えば、静菌効果または殺菌効果を生じるために、特定の細菌細胞型の呈色を減じるために、または細菌によって産生される特定のカロテノイド量を減少させるために、十分な薬剤の量を指す。カロテノイドインヒビターの使用によって影響され得る細菌としては、グラム陰性細菌およびグラム陽性細菌の両方を含む。例えば、影響され得る細菌としては、S. aureus、S. pyogenes(A群)、レンサ球菌(Streptococcus)種(ビリダンス(viridans)群)、レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)(B群)、S. bovis、レンサ球菌(嫌気性種)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、およびエンテロコッカス(Enterococcus)種;例えば、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、およびブランハメラ・カタラーリス(Branhamella catarrhalis)などのグラム陰性菌;炭疽菌(Bacillus anthracis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、アクネ菌(P.acne)、ジフテロイド(好気性および嫌気性)であるジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)およびコリネバクテリア(Corynebacterium)種、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、破傷風菌(Clostridium tetani)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、大腸菌(Escherichia coli)、エンテロバクター(Enterobacter)種、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirablis)および他の種、シュードモナス エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、サルモネラ(Salmonella)、赤痢菌、セラシア(Serratia)、並びにカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)などのグラム陽性菌が含まれる。特に、本発明の方法および組成物は、活性酸素種(例えば、NADPHオキシダーゼによって産生される種)からの防御を生じるカロテノイドを合成するあらゆる病原体に対して有用である。1または複数のこれらの細菌による感染は、菌血症、肺炎、髄膜炎、骨髄炎、心内膜炎、静脈洞炎、関節炎、尿道感染、破傷風、壊疽、大腸炎、急性胃腸炎、膿痂疹、座瘡、酒さ(acne posacue)、創傷部の感染、生まれながらの感染、筋膜炎、気管支炎、および種々の膿瘍、院内感染、並びに日和見性感染などの疾患を生じ得る。細菌の増殖を抑制する方法はまた、細菌と、1または複数種の抗生物質を組み合わせたペプチドとを接触させることを含むことができる。
【0038】
真菌もまた、カロテノイドインヒビターの影響を受けやすくあり得る(例えば、犬小胞子菌(Microsporum canis)および他のミクロスポラム(Microsporum)種;ならびにトリコフィトン(Trichophyton)種(トリコフィトン・ルブラム(T. rubrum)およびトリコフィトン メンタグロフィテス(T. mentagrophytes)など)、酵母(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(C. Tropicalis)、または他のカンジダ種)、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、トルロプシス・グラブラータ(Torulopsis glabrata)、エピデルモフィトン・フロコサム(Epidermophyton floccosum)、癜風菌(Malassezia furfur)(Pityropsporon orbiculareまたはP. ovale)、クリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、および他のアスペルギルス種、接合菌(例えば、クモノスカビ(Rhizopus)、ケカビ(Mucor))、パラコクシジオイデス症病原菌(Paracoccidioides brasiliensis)、ブラストミセス・デルマティティジス(Blastomyces dermatitides)、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)、コクシジオイデス・イミティス(Coccidioides immitis)、およびスポロトリクス・シェンキイ(Sporothrix schenckii)。
【0039】
カロテノイド生合成インヒビターは、ヒトまたは非ヒト動物を含むあらゆる宿主に、例えば、酸化攻撃耐性とするカロテノイドの産生を抑制するのに有効な量で投与することができる。一態様において、当該投与によって、細菌、ウイルス、および/または真菌の増殖を抑制する。したがって、本方法および組成物は、抗菌剤、抗ウイルス剤、および/または抗真菌剤として有用である。
【0040】
当該分野において公知である種々の方法のいずれかを用いて、カロテノイド抑制剤を単独で、または他の抗生剤と組み合わせて投与することができる。例えば、注射または、点滴によってゆっくりと時間をかけて、非経口的に投与することができる。抑制剤(および抗生剤)は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、吸引、または経皮投与によって投与され得る。
【0041】
別の態様において、カロテノイド生合成インヒビターは、単独でまたは他の抗生物質/抗真菌剤と組み合わせて、局所投与用に(例えば、ローション、クリーム、スプレー、ゲル、または軟膏)処方することができる。このような局所製剤は、眼、皮膚、および口、膣などにおける粘膜における微生物、真菌および/またはウイルスの存在または感染を治療または抑制するのに有用である。市場における製剤の例としては、局所ローション、クリーム、セッケン、ワイプスなどを含む。リポソームに処方して、毒性を低減させたり、または生物学的利用能を高めたりすることができる。他の送達方法としては、ミクロスフェアもしくはプロテイノイドへの封入を伴う経口法、エアロゾル送達(例えば、肺への)または経皮送達(例えば、イオン導入法または経皮エレクトロポレーション)を含む。他の投与方法は、当業者に公知である。
【0042】
カロテノイドインヒビターを含有する組成物を非経口的に投与するための製剤は、殺菌した水性または非水性溶液、懸濁液、およびエマルジョンを含む。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)およびエチルオレエートなどの注射用有機エステルである。水性担体の例としては、水、食塩水および緩衝媒質、アルコール性/水性溶液およびエマルジョンまたは懸濁液を含む。非経口ビヒクルの例としては、食塩水、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンガーおよび固定油を含む。静脈内ビヒクルは、流動性および栄養補給物、電解質補給物(リンゲルデキストロースをベースとするもの)などを含む。保存料および、他の抗菌剤、抗オキシダント、キレート剤、不活性ガスなど他の添加剤も含めることができる。
【0043】
本発明は、細菌、ウイルスおよび/または真菌に関連した障害を抑制するための方法であって、治療有効量のカロテノイド生合成インヒビター(例えば、crtMおよび/もしくはcrtNインヒビター)を単独でまたは他の抗菌剤と組み合わせて、上記障害を有するか、またはかかる障害の危険にある被験体に接触させるか、または投与することを含む、前記方法を提供する。「抑制する」という用語は、障害の徴候または症状(例えば、発疹、痛みなど)を阻止または改善することを意味する。改善し得る疾患の徴候の例としては、被験体におけるTNFの血液中レベルの増加、発熱、低血圧、好中球減少、白血球減少、血小板減少、播種性血管内凝固、成人呼吸窮迫症候群、ショックおよび臓器不全が含まれる。本発明にて治療し得る被験体の例としては、グラム陰性細菌の感染、ヘビ中毒または肝不全より生じる内毒素血症などの毒血症を含む。他の例としては、皮膚炎の被験体ならびにグラム陽性細菌もしくはグラム陰性細菌、ウイルス、または真菌による皮膚感染またはそれらによる感染を被りやすい損傷を有する被験体を含む。候補となる被験体の例としては、大腸菌(E. coli)、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、ブドウ球菌(staphylococci)または肺炎球菌(pneumococci)による感染に罹患している被験体を含む。他の被験体としては、銃創、腎不全または肝不全、外傷、やけど、免疫機能の低下を生じる感染(例えば、HIV感染)、造血性新生物、多発性骨髄腫、キャッスルマン病または心臓粘液腫を有する被験体を含む。医学の分野における当業者は、従来の基準を容易に用いて、本発明による治療に適切な被験体を同定することができる。
【0044】
治療有効量は、皮膚炎または発疹からなる被験体の症状を低減するのに十分な量として、皮膚の痛みの重篤度を測定することによって評価することができる。一般的に、疾患または障害の症状を、少なくとも50%、90%または100%低減させるのに十分な量の本発明の治療用組成物を用いて、被験体を処置する。一般的に、最適用量は、障害ならびに被験体の体重、細菌、ウイルスまたは真菌による感染の型、性別、および症状の重篤性などの要因に応じて変わる。しかし、当業者によって好適な用量は、容易に決定され得る。一般的に、好適な用量は、0.5〜40 mg/体重kg、例えば、1〜8 mg/体重kgである。
【0045】
前述のとおり、本発明の組成物および方法は、さらなる(例えば、カロテノイド生合成インヒビターに加えて)治療剤(例えば、TNFのインヒビター、抗生物質など)の使用を含み得る。カロテノイド生合成インヒビター、他の治療剤、および/または抗生物質を同時に投与しても良いし、逐次的に投与しても良い。好適な抗生物質としては、アミノグリコシド(例えば、ゲンタマイシン)、β-ラクタム(例えば、ペニシリンおよびセファロスポリン)、キノロン(例えば、シプロフロキサシン)およびノボビオシンを含む。一般的に、抗生物質は、殺菌量、抗ウイルス量および/または抗真菌量にて投与する。
【0046】
カロテノイド生合成インヒビターを用いた本発明の方法および組成物は、抗生物質耐性細菌株についての深刻化している問題に対処すること、ならびに炭素菌などの生物テロに用いられる物質、伝染病、コレラ、胃腸炎、多剤耐性結核(MDR TB)によって生じる疾患を含む感染性疾患を治療することおよび/または、かかる感染性疾患の発生を阻止することに有用な広域スペクトラムの抗菌剤として有用である。
【0047】
本発明におけるカロテノイド合成インヒビターを含む医薬組成物は、担体、賦形剤、および添加剤または助剤を使用して、被験体に投与するのに好適な形態であり得る。頻繁に用いられる担体または助剤としては、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトールおよび他の糖類、タルク、ミルクタンパク質、ゼラチン、デンプン、ビタミン、セルロースおよびその誘導体、動物油および植物油、ポリエチレングリコールならびに、殺菌した水、アルコール、グリセロール、および多価アルコールなどの溶媒を含む。静脈内ビヒクルとしては、流動性および栄養補給物を含む。保存料としては、抗菌剤、抗オキシダント、キレート剤、および不活性ガスを含む。他の医薬的に許容可能な担体としては、塩、保存料、緩衝液などを含む、水溶液および非毒性賦形剤であって、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第15版, Easton: Mack Publishing Co., 1405-1412, 1461-1487(1975)、およびThe National Formulary XIV.,第14版, Washington: American Pharmaceutical Association(1975)(これらの開示内容は本明細書中に参照として援用される)などに記載されるものを含む。医薬組成物の様々な成分についてのpHおよび正確な濃度は、当該分野における所定の技術によって調整する。GoodmanおよびGilmanらによる、The Pharmacological Basis for Therapeutics(第7版)を参照のこと。
【0048】
本発明における医薬組成物は、局所的にまたは全身的に投与することができる。「治療上有効な用量」とは、細菌感染の症状を阻止、治療または少なくとも部分的に止めるのに必要とされる、本発明による薬剤の量である。この用途に有効な量はもちろん、疾患の重篤度ならびに被験体の体重および一般的な状態に応じて変化する。一般的に、in vitroにて用いられる用量より、in situ投与に関する有効な量について、有効なガイダンスを得ることができ、動物モデルを用いて、感染を治療するのに有効な用量を決定することができる。様々な濃度が、例えば、Langer, Science, 249: 1527,(1990); Gilmanら(編)(1990)(それぞれ本明細書中に参照として援用されている)に記載されている。
【0049】
本明細書中で用いられる場合、「治療上有効な量を投与する」とは、本発明の医薬組成物を、かかる組成物がその意図される治療作用を果たすことができる被験体に与えるかまたは使用する方法を含むことが意図される。治療上有効な量は、被験体における感染の程度、各個体の年齢、性別および体重などの要因によって変化する。用法を調整して、最適な治療反応を与えることができる。例えば、毎日複数回に分けて投与しても良いし、治療状況によっては、その用量を比例的に減らしても良い。
【0050】
医薬組成物は、都合の良い方法で、例えば、注射(皮下、静脈内など)、経口投与、吸引、経皮投与または直腸投与によって投与することができる。投与経路に応じて、医薬組成物をなんらかの物質でコーティングすることによって、かかる医薬組成物を不活性化し得る酵素、酸および他の天然の条件による作用から当該医薬組成物を保護することができる。医薬組成物はまた、非経口的にまたは腹腔内に投与することもできる。分散剤をまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物、ならびに油中に含めて調製することができる。保存および使用に関する通常の条件下において、これらの調製物は、微生物の増殖を阻止するために保存料を含んでも良い。
【0051】
注射用に好適な医薬組成物としては、殺菌した注射用溶液または分散剤を即座に調製するための、殺菌した水溶液(水溶性)または分散液および殺菌した粉末剤を含む。全ての場合において、組成物は、滅菌されていなければならず、そして容易に注入できる(syringability)程度まで流動性を保持していなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適切な混合物ならびに植物油を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、コーティング(例えば、レチシン)の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒子サイズを保持することよって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物による作用からの保護は、種々の抗微生物剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって達成され得る。多くの場合、等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム))を組成物中に含むことが、好ましい。注射可能な組成物の延長された吸収は、吸収を遅延させる薬剤(例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチン)を組成物中に含むことによってもたらされ得る。
【0052】
殺菌した注射用溶液は、必要とされる量の医薬組成物を、適切な溶媒に単独で、または上に列挙した成分と組み合わせて含め、必要に応じてその後、ろ過滅菌することによって調製することができる。一般的に、分散剤は、医薬組成物を、基本的分散媒体および上に列挙したものに由来する必要とされる他の成分を含む殺菌したビヒクルに含めることによって調製できる。
【0053】
医薬組成物は、例えば、不活性な希釈剤または食用の担体と共に経口投与することができる。医薬組成物および他の成分はまた、硬殻または軟殻のゼラチンカプセルへ封入、錠剤への圧縮、または個々の食事に直接含めることもできる。治療による経口投与のために、医薬組成物を、賦形剤と組み合わせて、および摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、ウエハースなどの形態で用いることができる。このような組成物および調製物は、少なくとも1重量%の活性化合物を含むべきである。組成物および調製物の割合は、当然変化し得、1単位につき約5重量%〜約80重量%であるのが都合が良い。
【0054】
錠剤、トローチ、丸薬、カプセルなどはまた、以下のものを含むことができる:結合剤(グラガカントゴム(gum gragacanth)、アカシア、コーンスターチまたはゼラチンなど);賦形剤(リン酸二カルシウム);崩壊剤(コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸など);潤滑剤(マグネシウムステアレートなど);および甘味剤(スクロース、ラクトースまたはサッカリンなど)あるいは香味剤(例えば、ペパーミント、メチルサリチレートまたはサクラ香味剤)。投薬単位形態がカプセルである場合、上記種類の材料に加えて、液体担体を含むことができる。様々な他の材料が、コーティング剤として、またはそうでなければ、投薬単位の物理的形態を変更するために存在し得る。例えば、錠剤、丸薬またはカプセルを、セラック、糖またはその両方を用いてコーティングすることができる。シロップ剤またはエリキシル剤は、甘味剤としてスクロース、保存料としてメチルおよびプロピルパラベン、色素および、サクラまたはオレンジなどの香味料、といった薬剤を含むことができる。もちろん、いずれかの投薬単位形態を調製するのに用いられる材料はいずれも、医薬的に純粋であり、かつ用いられる量において実質的に非毒性/生体適合性でなければならない。さらに、医薬組成物を除放性調製物および製剤に含めることができる。
【0055】
従って、「医薬的に許容可能な担体」とは、溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収を遅延させる薬剤などを含むことが意図される。医薬的に活性な物質のための上記媒体および薬剤の使用は、当該分野において周知である。従来の媒体または薬剤のいずれも、医薬組成物と不適合である場合を除いて、治療用組成物および治療方法にそれらを用いることを検討する。補助的な活性化合物も、医薬組成物に含めることができる。
【0056】
投与および均一性を容易にするために投薬単位形態を非経口組成物に処方するのが、特に有利である。本明細書中で用いられる場合「投薬単位形態」とは、治療される個体の単回用量として好適な、物理的に分離した単位を指す。所定量の医薬組成物を含有する各単位を、所望される治療効果を生じるように、所望される医薬担体も含めて計算する。本発明における投薬単位形態の特性は、医薬組成物および得られる特定の治療効果の特徴に関連する。
【0057】
便利かつ有効な投与のために、主たる医薬組成物は、許容可能な投薬単位中に医薬的に許容可能な好適な担体と共に、有効量にて組み合わされている。補助的な活性成分を含有する組成物である場合、その用量は、当該成分の一般的な投与量および投与方法を参考にして決定する。
【0058】
細菌性生物(例えば、スタフィロコッカス種)におけるカロテノイド合成を抑制するのに有用な薬剤は、一般的に用いられている抗生物質および/または抗菌剤と組み合わせて用いることができる。したがって、本発明の医薬組成物は、カロテノイド合成インヒビターおよび1または複数のさらなる抗菌剤または抗生物質を含むことができる。
【0059】
以下の実施例は、本発明の実例を提供するものであって、本発明を限定するものとしていかなる場合にも解釈すべきではない。
【実施例】
【0060】
S. aureusのカロテノイドの生合成経路は、デヒドロスクアレンシンターゼおよびデヒドロスクアレンデサチュラーゼをそれぞれコードする、crtM遺伝子およびcrtN遺伝子の必須機能を含む。S. aureusの色素の生物活性を調べるために、crtMの対立遺伝子の置換による金色を帯びたヒト臨床分離株の同質遺伝子系統の変異体を作製した。ΔCrtM変異体は、色素を持たず、野生型カロテノイドの440、462および491 nMの波長における特徴的な3つのピークからなるスペクトルを欠いていた。野生型およびΔCrtMのS. aureus間で、増殖速度、静止期の密度、表面電荷、浮揚性または疎水性の違いは見られなかった。S. aureusのcrtMおよびcrtNは共に、4,4’-ジアポニューロスポレンの産生に関与する。機能獲得解析を促すために、両遺伝子を、色素の無いS. pyogenes、すなわち、S. aureusの疾患スペクトラムと類似した疾患スペクトラムに関連するヒト病原体に発現させた。pCrtMNプラスミドを用いて形質転換した場合、かかるS. pyogenesは、カロテノイドのスペクトル特性を有する黄色の色素沈着を生じた。同一のpCrtMNベクターを用いたS. aureus ΔCrtM変異体の補完によっても、色素沈着が部分的に回復した。
【0061】
細菌、マウス、ヒトCGD患者および化学試薬: 野生型S. aureus株(Pig1)を、アトピー性皮膚炎を有する子供の皮膚より単離した。S. pyogenes(Streptococcus pyogenes)5448株は、血清型が十分に特徴付けされた M1T1 臨床分離株である。 CD1マウスおよびC57Bl/6マウスは、Charles Riverより購入した。gp91Phox-/-マウスは、Veteran’s Administration Medical Center, San Diegoにて飼育し、トリメトプリム/スルファメトキサゾール予防をして実験の3日前まで維持した。S. aureusおよびS. pyogenesを、Todd-Hewitt ブロス(THB)中またはTHB寒天(Difco, Detroit, MI)上にて増殖した。特に明記しない限り、全ての実験は、36〜48時間のS. aureusの固相培養または24時間のS. pyogenesの固相培養に由来する細菌を用いて、色素の表現型が容易に識別できる時点で行った。
【0062】
ヒトCGD患者:患者は、gp47phoxを欠損(エクソン2の同系ΔGT 欠失)している18歳の女性であった。研究時に、彼女は良好な健康状態にあり、彼女は週に3回、皮下注射によってインターフェロン-γ(50 mcg/m2)を投与される薬物療法のみを受けていた。
【0063】
カロテノイド欠損 S. aureus変異体, ΔCrtMの作製 S. aureus crtM遺伝子とクロラムフェニコール アセチルトランスフェラーゼ(cat) カセットとの、正確なインフレーム対立遺伝子置換を、S. pyogenesまたはStreptococcus agalactiaeについて記載されるPCR法にわずかな変更を加えて実施した。プライマーは、S. aureus N315株のゲノムと相互参照される公開されているS. aureus crtMN配列に基いて設計した。PCRによって、プライマー:crtMupF 5’-TTAGGAAGTGCATATACTTCAC-3’(配列番号1)およびcrtMstartR 5’―GGTGGTATATCCAGTGATTTTTTTCTCCATACTAGTCCTCCTATATTGAAATG-3’(配列番号2)を用いて、crtMの上流の500 bp未満を増幅し、同様にプライマー:crtMendF 5’-TACTGCGATGAGTGGCAGGGCGGGGCGTAACAAAGTATTTAGTATTGAAGC-3’(配列番号3)およびcrtMdownR 5’-GGCACCGTTATACGATCATCGT-3’(配列番号4)を用いて、crtMのすぐ下流のおよそ500 bpの配列を増幅した。crtMstartRプライマーおよびcrtMendFプライマーは、cat遺伝子の5’および3’末端にそれぞれ対応した25 bpの5’突出を設けた。上流および下流のPCR産物を完全cat遺伝子の650 bpのアンプリコン(pACYC184由来)と結合し、これをプライマーのcrtMupFおよびcrtMdownRを使用した第2ラウンドのPCRにおける鋳型とした。crtMとcatとのインフレームの置換を含む得られたPCR アンプリコンを、温度感受性ベクターpHY304にサブクローニングし、ノックアウトプラスミドを作製した。このベクターを用いて、許容S. aureus RN4220株(Paul Sullam博士より分与)をまず形質転換し、その次にエレクトロポレーションによって、S. aureus Pig1株を形質転換した。形質転換体を30℃にて生育し、プラスミド複製を許容しない温度(40℃)、および別の抗生物質選択に移し、そして色素表現型を用いて、候補変異体を同定した。crtM対立遺伝子の対立遺伝子の置換は、PCR反応によって最終変異体 ΔCrtMより単離した染色体DNAにおけるcatのターゲティング挿入およびcrtMの欠如が示されることによって、明確に確認することができる。
【0064】
補完および異種発現研究 プライマー:CrtF 5’-CAGTCTAGAAATGGCATTTCAATATAGGAG-3’(配列番号5)およびCrtR 5’-ATCGAGATCTCTCACATCTTTCTCTTAGA-3’(配列番号6)を用いて、野生型S. aureus Pig1株の染色体より、隣接しているCrtM遺伝子およびCrtN遺伝子を増幅した。この断片をシャトル発現ベクターpDCermに方向性を持ってクローニングし、そしてこの組換えプラスミド(pCrtMN)を用いて、エレクトロポレーションによってS. aureus ΔCrtM変異体およびS. pyogenes5448株を形質転換した。
【0065】
S. aureusのカロテノイドのスペクトルプロファイル 野生型S. aureus Pig1株およびその同系ΔCrtM変異体を固相培養(48時間)に付し、それをメタノール抽出に供した。その抽出物の吸光度のプロファイルを、MBA 2000分光光度計(Perkin Elmer)を用いて測定した。
【0066】
オキシダント感受性アッセイ オキシダントに対する感受性についての試験を、PBS(S. aureus)またはTHB(S. pyogenes)中にて行った。過酸化水素(H2O2)を、終濃度が1.5%となるように、2×109個の細菌に添加して、37℃にて1時間インキュベートし、そして1,000 U/mlのカタラーゼ(Sigma)を添加して、残留するH2O2をクエンチした。生存するcfuを計数するために、希釈物をTHA上に播種した。一重項酸素アッセイのために、108個のS. aureusまたは4×108個のS. pyogenesを、24ウェルの培養皿のそれぞれのウェル中、1-6μg/mlメチレンブルーの存在下または非存在下にて、100ワットの光源よりちょうど10cm離して、37℃にてインキュベートした。希釈物をTHA上に播種してから1〜3時間後に、細菌生存率を調べた。対照プレートは、ホイルで包むか、メチレンブルーの非存在下で光に曝したものの、上記同様に操作した。この対照プレートは、細菌を殺す証拠は示さなかった。
【0067】
全血死滅アッセイ 細菌をPBS中で2回洗浄し、25μl PBS中に104 cfuの接種菌液に希釈し、そしてヘパリン処理したチューブにて、採取したばかりの75μlのヒトまたはマウスの血液と混合した。このチューブを、撹拌しながら37℃にて4時間インキュベートし、このとき、希釈液を、生存数(cfu)を計数するために、THA上に播種した。
【0068】
好中球細胞内生存アッセイ 好中球を、健全なヒトボランティアより、製造元の指示通りにHistopaqueグラジェント(Sigma)を使用して、精製した。細胞内生存アッセイを以下のように実施した。細菌培養物をPBS中で2回洗浄し、100μl RPMI + 10%FCS中に4.5×106 cfuの濃度になるまで希釈し、そして同一の培地中にて3×105個の好中球と混合し(感染の多重度: MOI = 15:1)、700×gにて5分間遠心分離し、その後、37℃、5%CO2インキュベーター内にてインキュベートした。ゲンタマイシン(Gibco)(最終濃度が、S. aureusについては400μg/mlおよびS. pyogenesについては100μg/ml)を10分後に添加し、細胞外の細菌を殺した。特定の時点で、試料ウェル中の内容物を採取し、遠心分離して好中球をペレット化し、そして洗浄して抗生物質を含む培地を除去した。次に、好中球を0.02%triton-X中で溶解し、そしてTHA上に播種することによって、cfuを算出した。細菌接種液と10%ヒト自己血清を氷上で15分間予めインキュベートすることを含む工程を加えて、複数回アッセイを繰り返した。
【0069】
皮下感染についてのマウスモデル 10〜16週齢のCD-1マウスまたはgp91Phox-/-マウスの片方の体側部(無作為に選択)に細菌試験株を皮下注射し、同時に直接比較するために、別の株を反対の体側部より皮下注射した。局在的なS. aureusおよびS. pyogenesの皮下感染を生じる確立したプロトコルに従って、細菌培養物を、PBS中にて洗浄し、希釈し、再懸濁し、特定の接種液にて殺菌したCytodexビーズ(Amersham)と1:1の割合で混合した。進行中の潰瘍の最大長×最大幅によって調べられる病変範囲を毎日記録した。累積病変範囲は、所定の日における各処置群における全ての動物に由来する病変範囲の総合計を示す。8日目(S. aureus)または5日目(S. pyogenes)に、動物を安楽死させ、皮膚病変部を切除し、PBS中にてホモジナイズし、および定量培養のためにTHA上に播種した。
【0070】
統計 オキシダント感受性、血液による死滅、好中球における生存率における実験差異の有意性は、対応のないステューデントt検定によって調べた。マウス in vivoチャレンジ研究の結果は、対応のあるステューデントt検定によって調べた。
【0071】
保証 全ての動物実験は、動物の使用およびケアに関するUCSD委員会によって承認されており、また承認されている獣医学的基準を用いて実施した。ヒト血液を使用した実験は、Dual Tracked UCSD ヒトResearch Protection Program / CHSD IRBによって承認された。ヒト被験体からは事前に同意が得られていた。
【0072】
浮揚性、表面電荷、および疎水性についてのアッセイ 浮揚性を測定するために、1 mlの連続した重層勾配(各70%、60%および50%パーコール)を5 mlガラス試験管に調製した。1 mlの一晩培養した細菌培養物を、パーコール層の最上部に置き、その試験管をスイング型(swinging bucket)遠心分離機で、500×gにて8分間遠心分離し、そしてそれぞれのパーコール境界相への細菌の移動を記録した。表面電荷を測定するために、細菌を遠心分離によって回収し、そしてモルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液(20mM, pH = 7.0)で洗浄した。1 mlの培養物を、0.5 ml MOPSに再懸濁し、およびOD600にて測定した。細菌細胞を、室温にて、15分間、最終濃度0.5 mg/mlのチトクロムC(Sigma, St. Louis, MO)と共にインキュベートした。試料を遠心分離し(13,000×gにて5分間)、そして上清中に残っているチトクロムCの量を、530 nmにて定量した。チトクロムC値を、培養 OD600 = 1.0ごとに結合を反映するように調節した。疎水性を測定するために、0.5 mlのS. aureus培養物を洗浄し、1.0 ml PBS中に再懸濁し、300μlのn-ヘキサデカンを、細胞懸濁液の最上部へ重層し、そして当該管を60秒間ボルテックスした。試料を室温にて30分間インキュベートし、相分離させた。水相を取り出し、そして、水相のOD600 対PBS中の培養物のOD600 の比率を測定した。
【0073】
プロテアーゼおよびカセリシジン(cathelicidin)感受性アッセイ ヒト好中球エラスターゼおよびカテプシンGは、Calbiochemより購入した。抗菌性ペプチド mCRAMPは、Louisiana State University Protein Facility(Martha Juban, Director)にて合成した。S. aureusの培養物を、10 mM リン酸緩衝液(pH 7.2) + 0.5%LB中に、1×106 CFU/ml未満で希釈した(1:2,000)。90μlの当該細菌懸濁液を、96ウェルプレート中の複製ウェルに加えた。カテプシンG(20および100 mU/ml)、ヒト好中球エラスターゼ(12.5および50μg/ml)およびマウス CRAMP(0.4〜3μM)の希釈物を、10mM リン酸緩衝液中に調製し、10μl容量のウェルに加えた;ネガティブ対照としては、10mM リン酸緩衝液のみを用いた。37℃にて2時間のインキュベーションの後、各ウェルの25μlのアリコートをPBS中に連続希釈し、そしてTHB上に播種した。各実験は、二重および繰り返し行った。
【0074】
食作用取り込みアッセイ S. aureusを、BacLightTM キット(Invitrogen, Carlsbad, CA)の構成要素であるSYTOR9を製造元の取り扱い説明書に従って用いて、15分間、室温にて標識した。標識した細菌を3回洗浄して、過剰な色素を除去し、10%ヒト自己血清中にて、氷上で10分間、予めオプソニン化した。細菌を3×106個の精製したヒト好中球にMOI =15にて加え、37℃にて5分間インキュベートし、そして500×gにて6分間遠心分離し、好中球をペレット化した。上清を捨て、そして細胞のペレットを、PBS中0.1mg/mlエチジウムブロマイド15 ml中に再懸濁し、細胞外の細菌の蛍光をクエンチした。細胞内に細菌を伴う好中球の割合を、蛍光顕微鏡下にて直接可視化することによって計測した。実験は、二重および繰り返し行った。典型的な画像を、UCSD Digital Imaging Core FaciltyにおけるDelta Vision Deconvolution Microscope System(Nikon TE-200 Microscope)を使用して撮った。
【0075】
S. aureusのカロテノイドの生合成経路は、それぞれ、デヒドロスクアレンシンターゼおよびデヒドロスクアレンデサチュラーゼをコードするcrtM遺伝子およびcrtN遺伝子の必須機能を含む(図1a)。S. aureusの色素の生物活性を調べるために、crtMの対立遺伝子の置換による黄金色を帯びたヒト臨床分離株の同質遺伝子系統の変異体を作製した(図1a)。これまでの報告と同じく、野生型(WT)株の色素沈着は、増殖の初期静止期には明らかとなり、そして36〜48時間にてプラトーに達する前に活発化する(図1b)。ΔCrtM変異体は色素が無く、野生型カロテノイドにおける440、462および491 nMの波長からなる特徴的な3つのスペクトルプロファイルがなかった(図1b)。野生型およびΔCrtMのS. aureus間で、増殖速度、静止期における密度、表面電荷、浮揚性または疎水性において、差異は見られなかった(図5a-d)。S. aureusのcrtMおよびcrtNは共に、4,4’-ジアポニューロスポレンを産生するのに関与する。機能獲得分析を行うために、両遺伝子を、色素の無いS. pyogenes(S. aureusの疾患スペクトラムと類似した疾患スペクトラムを有するヒト病原体)に発現した。pCrtMNプラスミドを用いて形質転換した場合、S. pyogenesは、カロテノイドのスペクトル特性を有する黄色の色素沈着を生じた(図1b)。pCrtMNベクターを用いたS. aureus ΔCrtM変異体の補完によって、色素沈着が完全に回復した(図1b)。
【0076】
食細胞が病原体を除去するための重要な機構の1つは、NADPHオキシダーゼによって産生された活性酸素種の放出である。S. aureusによって発現される細菌カロテノイドは、これらの防御分子に対する保護機能を果たし得ることが示唆されている。このことを実験的に調べるために、野生型およびΔCrtMのS. aureusのオキシダントに対する感受性をin vitroにて比較した。図1cおよび1dに示されるように、野生型S. aureus株と比べて、ΔCrtM変異体は、過酸化水素および一重項酸素によって効果的に死滅した。pCrtMNを用いた補完によって、一重項酸素による死滅に抵抗するΔCrtM変異体の能力が回復した(図1d)。同様に、ブドウ球菌色素のS. pyogenesにおける異種発現によって、一重項酸素に対する感受性が著しく減少した(図1e)。
【0077】
次に、S. aureusのカロテノイドにより観察された抗オキシダント活性が、先天性の免疫クリアランスに対する細菌の耐性を高めることができるか否かを、2種のex vivoアッセイ系(ヒトまたはマウスの全血における生存および精製したヒト好中球との共培養)を使用して調べた。野生型S. aureusは、色素の無いΔCrtMよりも、ヒト好中球内(図2a, 図6f)および正常マウスまたはヒトドナーの全血内(図2b, e)にてかなり良好に生存した。前者の効果は、食作用の速度の差によるとは言えなかった。それは、野生型S. aureusおよびΔCrtM変異体の取り込みは同程度であったためである(図6a)。また、好中球の酸化的破壊の程度の違いによるものでもなかった。それは、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)還元アッセイにおいて、野生型および変異体の取り込みは同様の結果を生じたためである(図6b)。pCrtMNを用いたS. aureus ΔCrtM変異体の補完によって、マウス全血(図2b)による殺滅に対する耐性が回復した。同様に、ブドウ球菌カロテノイドを発現する色素を有するS. pyogenesは、親株に対してヒト好中球における生存能が高まっていることが示された(図2c)。
【0078】
S. aureusのカロテノイドの発現と増大した食細胞耐性との関連性が、その抗オキシダント特性の直接の結果であったことを立証するために、酸化的破壊インヒビター(ジフェニレンヨードニウム(DPI))の存在下で、アッセイを繰り返した。酸化的破壊をDPIによって抑制した場合、野生型およびΔCrtMのS. aureusは、ヒト好中球(図2d)およびマウスの血液(図6d)内で等しく良好に生存した。Gp47Phox-/-は、慢性肉芽腫症(CGD)の患者にて一般に見られるように食細胞の酸化的破壊機能が遺伝的に欠損しており、そしてgp91Phox-/- マウスは、ヒトX連鎖CGDのモデルである11。正常なヒトおよびマウスの血液(CD1またはC57Bl/6)中においてのみ、野生型の生存率が色素の無いΔCrtM S. aureusのそれを顕著に上回ったが、NADPHオキシダーゼ活性を欠いているヒトgp47phox-/-患者またはgp91Phox-/-マウスの血液中ではそうでもなかった(図2e, f)。
【0079】
近年、活性酸素種を用いた好中球による病原体の明白な殺滅は、カリウムフラックスにおける変化を介した顆粒プロテアーゼの活性化を大部分は反映し得ることが報告された。カテプシンGによる抗菌作用に対する感受性について野生型およびΔCrtM S. aureusに違いはなく、両株は、S. aureusについてこれまでに観察されていたようにヒト好中球エラスターゼに耐性であった(図6d)。先天性の免疫防御に重要な哺乳動物の好中球の他のエフェクタ分子は、抗菌性ペプチドのカセリシジン(cathelicidin)ファミリーである14。カロテノイド欠損 S. aureus変異体は、野生型株と比べて、マウス カセリシジンmCRAMPによる殺滅の影響を同等に受けやすかった(図6e)。これらの結果は、好中球媒介性の殺滅に対する耐性における、S. aureusのカロテノイドの、フリーラジカルを捕捉する抗オキシダント特性の主要な機能を支持する。
【0080】
in vitroおよびex vivoの結果は、S. aureusのカロテノイドが、オキシダント耐性および食細胞における生存に必要であり、またそれらを促進するのに関与することを示す。疾病病因に対するこれら所見の意義を評価するために、マウスの皮下チャレンジモデルが開発された。これらの研究において、個々の動物において、一方の体側部には野生型S. aureus株を、もう片方の体側部にはΔCrtM変異体を同時に注射した。野生型(106 cfu)の注射部位にて、マウスは累積サイズが4日目までに80 mm2に達するかなり大きな膿瘍を発症し、一方、反対側の体側部への等量のカロテノイド欠損変異体の注射によっては、可視病巣は生じなかった(図3a)。個々のマウスにおいて、2つの異なるチャレンジ用量(106 cfuから107 cfu)による皮膚病変部に由来する定量培養によって、ΔCrtM変異体と比べて野生型S. aureusはかなり多く生存していることが、一貫して示された(図3a)。抗オキシダント効果が、in vivoにおけるS. aureusのカロテノイドによってもたらされる防御機構に重要であることを確認するために、皮下感染実験をgp91Phox-/-マウスにて繰り返し行った。宿主NADPHオキシダーゼ機能の非存在下にて、野生型およびΔCrtM変異体 S. aureusは、同様の累積サイズを有する病変を生じ、また膿瘍の定量培養において生存率における有利性は検出されなかった(図3b)。次に、S. aureusのカロテノイドが細菌の病原性を増強するのに関与することを、CrtMNを発現するS. pyogenesによって生じる感染の経過を、ベクターのみを用いて形質転換した対照によって生じる感染の経過と比較することによって、調べた。図3cにおいて、カロテノイド発現株によって生じた病変は、野生型株によって生じた病変と比べて、かなり大きく、また多数の生存している細菌を含んでいた。このin vivo実験の生データを表1に示す。
【表1】

【0081】
防御効果が、明るい黄色(golden yellow)の色素によって細菌にもたらされる場合、カロテノイド合成を抑制する薬剤によって、S. aureusは、免疫クリアランスの影響を受けやすくなると考えられる。これまでに、混合機能オキシダーゼインヒビターである、2-ジエチルアミノエチル-2,2-ジフェニル-バレレート(SKF 525-A, Calbiochem)が、S. aureusにおける色素形成を抑制することが示されているが、これらの実験において、δカロテノイド中間体のそれ程多くはない残留した蓄積物が認められた。図4aに示すように、この薬剤の存在下で増殖したS. aureusの野生型株における色素産生は、濃度依存的に減少した。S. aureusの色素形成を阻害することによって、一重項酸素殺滅に対する生物の感受性は濃度依存的に高まり(図4b)、ヒト全血における野生型S. aureusの生存能減は減少した(図4c)。対照として、対比実験においてΔCrtM変異体をSKF 525-Aに曝しても、オキシダント感受性または血液における生存能に顕著な影響はなかった(図4b, c)。
【0082】
カロテノイド色素によって与えられた黄金色は、ヒト病原体であるS. aureus(黄色ブドウ球菌)の名前の由来となる特徴である。突然変異生成と異種発現とを組み合わせた分子遺伝学的分析を実施し、この特徴的な表現型が実は病原因子であり、その抗オキシダント特性により、食細胞による殺滅より細菌を防御することを示した。現在、地域社会および病院における、抗菌剤耐性の急速な進化によって、この重大な病原体を効果的に制御することが危ぶまれている。原理上は、カロテノイド合成を抑制することによって、悪化したS. aureus感染を治療するための新規治療法を提供することができ、かかる治療法において、効率的に病原体を、正常な宿主の先天性の免疫防御によるクリアランスに対してより感受性にすることができる。
【0083】
さらに、野生型S. aureusは、ヒトドナーまたは正常マウスの全血中およびヒト好中球の細胞内にて、色素の無いΔCrtM よりも、かなり良好に生存した。後者の効果は、食作用速度の違いによっては説明できなかった。それは、野生型S. aureusおよびΔCrtM変異体の取り込みは、同程度であったことによる。また上記の差は、好中球の酸化的破壊の程度の差に起因するものでもなかった。それは、野生型株および変異体株の取り込みが、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)還元アッセイにおいて、同様の結果を生じたことによる。pCrtMNを用いたS. aureus ΔCrtM変異体の補完によって、マウスの全血またはヒト好中球による殺滅に対する耐性が回復した。同様に、ブドウ球菌カロテノイドを発現する色素性S. pyogenesは、親株と比べて、ヒト好中球内において高い生存能を示した。
【0084】
S. aureusのカロテノイド発現と高い食細胞耐性との関連が、抗オキシダント特性の直接的な影響によるものであることを立証するために、酸化的破壊インヒビターであるジフェニレンヨードニウム(DPI)の存在下で、アッセイを繰り返し行った。酸化的破壊をDPIで抑制した場合、野生型およびΔCrtM S. aureusは、ヒト好中球およびマウス血液中にて、同様に良好に生存した。gp91Phox-/- マウスは、食細胞の酸化的破壊機能が遺伝的に欠損しているヒトX連鎖慢性肉芽腫症のモデルを示す。色素の無いΔCrtM S. aureusを上回る野生型S. aureusの生存能における優位性は、正常マウス(CD1またはC57Bl/6)の血液中においてのみ顕著であり、NADPHオキシダーゼ活性を欠くgp91Phox-/-マウスの血液中では、顕著な優位性は見られなかった。
【0085】
活性酸素種よる病原体の好中球による明白な殺滅は、カリウムフラックス中における変化を介した顆粒プロテアーゼの活性化を大部分反映し得ることが、近年報告された。カテプシンGによる抗菌作用に対する感受性について、野生型およびΔCrtMのS. aureusにおいて差異は確認されず、またS. aureusについてこれまでに観察されているように、両株はヒト好中球エラスターゼに対して耐性であった。先天性の免疫防御に重要な哺乳動物好中球の他のエフェクタ分子は、抗菌性ペプチドのカセリシジンファミリーである。カロテノイド欠損 S. aureus変異体は、野生型株と比べて、マウスカセリシジンmCRAMPによる殺滅の影響を同等に受けやすかった。これらの結果は、好中球媒介性の殺滅に対する耐性における、S. aureusのカロテノイドのフリーラジカルを捕捉する抗オキシダント特性の主要な機能を支持する。
【0086】
in vitroおよびex vivoの結果は、S. aureusのカロテノイドが、オキシダント耐性および食細胞における生存に必要であり、またそれらを促進するのに関与することを示す。疾病病因に対するこれら所見の意義を評価するために、マウスの皮下チャレンジモデルが開発された。これらの研究において、個々の動物において、一方の体側部には野生型S. aureus株を、もう片方の体側部にはΔCrtM変異体を同時に注射した。野生型の注射部位にて、マウスはかなり大きな皮下膿瘍を発症し、一方、反対側の体側部への等量のカロテノイド欠損変異体の注射によっては、可視膿瘍は生じなかった。個々のマウスの、皮膚病変部に由来する定量培養によって、ΔCrtM変異体と比べて野生型S. aureusはかなり多く生存していることが、一貫して示された。抗オキシダント効果が、in vivoにおけるS. aureusのカロテノイドによってもたらされる防御機構に重要であることを確認するために、皮下感染実験をgp91Phox-/-マウスにて繰り返し行った。宿主NADPHオキシダーゼ機能の非存在下にて、野生型およびΔCrtM変異体 S. aureusは、同様の累積サイズを有する病変を生じ、また膿瘍の定量培養において生存能における有利性は検出されなかった。さらに、S. pyogenesの感染は、膿瘍形成よりも壊死性潰瘍の発症に関連があったが、カロテノイド発現株によって生じた病変は、野生型株によって生じた病変と比べて、かなり大きく、また多数の生存している細菌を含んでいた。
【0087】
防御効果が、明るい黄色(golden yellow)の色素によって細菌にもたらされる場合、カロテノイド合成を抑制した薬剤を試験して、当該薬剤によって、S. aureusは、免疫クリアランスの影響を受けやすくなるか否かを調べた。これまでに、混合機能オキシダーゼインヒビターである、2-ジエチルアミノエチル-2,2-ジフェニル-バレレート(SKF 525-A, Calbiochem)が、S. aureusにおける色素形成を抑制することが示されており、この薬剤の存在下で増殖したS. aureusの野生型株におけるカロテノイド産生は、濃度依存的に減少した。S. aureusの色素形成を阻害することによって、一重項酸素による殺滅に対する生物の感受性は濃度依存的に高まり、ヒト全血における生存能は減少した。対照として、対比実験においてΔCrtM変異体をSKF 525-Aに曝しても、オキシダント感受性または血液における生存能に顕著な影響はなかった。
【0088】
数多くの実施形態および特徴を上記したが、上記の実施形態および特徴の変更物および変形物が、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の開示による教唆または範囲から離れることなくなされ得ることは当業者によって理解されるであろう。本明細書の添付物は、さらなる説明をもたらすものであるが、発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1のA-Eは、S. aureusのカロテノイド色素およびその抗オキシダント機能についての遺伝子操作を示す。A) S. aureusのカロテノイド合成の生化学的経路および対立遺伝子の置換によるcrtM(デヒドロスクアレンシンターゼをコードする)の突然変異生成。B) ΔcrtM変異体におけるS. aureusの色素沈着の除去; S. pyogenesにおけるS. aureus 4’4’-ジアポニューロスポレン色素の異種発現。C) 過酸化水素またはD) 一重項酸素による殺滅に対するS. aureus ΔCrtM変異体の感受性の増大、およびpCrtMNを用いた補完による野生型耐性レベルの補完。E) 4’4’-ジアポニューロスポレンを発現するS. pyogenesの一重項酸素に対する感受性の低下。エラーバーは、示した変数の標準偏差を示す;示した結果は、少なくとも3回の実験における典型である。
【図2】図2のA-Fは、S. aureusのカロテノイド色素が、好中球内のオキシダントによる殺滅および全血に対する耐性を与えることを示す。野生型およびΔCrtM S. aureusのA)単離したヒト好中球およびB) マウス全血との共培養における生存能。また、ベクターのみまたはpCrtMNを用いて補完したΔCrtMの全血における生存能も(B)に示す。(C)マウス全血におけるS. pyogenesの生存能に対するcrtMNプラスミド発現の効果。D)ヒト好中球との共培養における野生型およびΔCrtM変異体のS. aureusの生存能に対する酸化的破壊インヒビターであるDPIの効果。E)正常およびNADPHオキシダーゼ機能を欠くgp47phox-/-患者、またはF)野生型CD1およびC57Bl/6マウスおよびgp91Phox-/-マウスの血液、における野生型およびΔCrtM変異体 S. aureusの相対的生存能。結果は少なくとも3回の実験における典型である。CGDヒト患者に由来する血液を使用したアッセイを2回実施した。
【図3】図3のA-Cは、S. aureusのカロテノイドが、皮下膿瘍モデルにおける病原性の原因となることを示す。2種の細菌株を、マウスのそれぞれ反対側の体側部に比較のために皮下注射した。線グラフは、示した細菌株によって生じた累積皮膚病巣の大きさの合計を示す。散布図上の点は、個々のマウスの皮膚病変部より回収した色素を有する株のcfu対色素の無い株のcfu の比率である。写真画像は、各処置群における典型的なマウスを示す。A) CD1マウスにおける野生型(WT)対ΔCrtM変異体 S. aureus、B)gp91Phox-/-マウスにおける野生型対ΔCrtM変異体 S. aureus、およびC)ブドウ球菌の4’4’-ジアポニューロスポレンのS. pyogenes +/- 発現。
【図4】図4のA-Bは、S. aureusの色素の産生を抑制することによって、オキシダント感受性および食細胞のクリアランスが増大することを示す。野生型およびΔCrtM変異体 S. aureusを、SKF 525-Aの存在下または非存在下において、示した濃度で培養した。A)色素沈着の表現型、B)一重項酸素に対する感受性、およびC)マウス全血における生存数、において見られた効果を示す。結果は少なくとも3回の実験における典型である。
【図5】図5のA-Dは、S. aureus crtM遺伝子の対立遺伝子の置換による、異型効果(pleiomorphic effect)の欠失を示す。 A)固相培養における野生型S. aureusおよびΔcrtM変異体の静止期における生きた細菌の濃度ならびにその後の新鮮なTHB培地中における細菌の増殖速度の類似性。B)パーコール中の移動によって調べられる浮遊密度、C)N-ヘキサデカンへの分離によって調べられるような疎水性、およびD)チトクロムC結合によって測定される表面電荷、といった点において、野生型S. aureusおよびΔcrtM変異体間に測定可能な差異はない。
【図6】図6のA-Cは、S. aureusのカロテノイド色素の抗食細胞特性に関するさらなる分析を示す。A)野生型およびΔcrtM変異体 S. aureusは、ヒト好中球によって同程度、貪食される。典型的な研究法であるデコンボリューション蛍光顕微鏡検査によって、細胞内(緑色)および細胞外の(赤色)生物が示される。B)野生型およびΔcrtM変異体 S. aureusは、ニトロブルーテトラゾリウム還元によって測定されるように、ヒト好中球による酸化的破壊を同程度生じる。C)酸化的破壊インヒビターである、ジフェニレンヨードニウム(DPI)の、正常マウス血液中における野生型およびΔCrtM変異体 S. aureusの生存数への影響。
【図6B】図6BのD-Fは、S. aureusのカロテノイド色素の抗食細胞特性に関するさらなる分析を示す。D)顆粒プロテアーゼであるカテプシンGおよびヒト好中球エラスターゼ、またはE)マウスカセリシジンmCRAMPによる殺滅に対する野生型およびΔCrtM変異体 S. aureus株の感受性。F)野生型およびΔCrtM変異体 S. aureus間の好中球細胞内における生存能における差異は、自己血清を用いて予めオプソニン化した実験においても、オプソニン化をしていない実験(例えば、図6A)においても同様である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌感染を治療するための方法であって、細菌中のカロテノイドの産生および/または活性を抑制する薬剤を、感染した被験体に投与することを含む、上記方法。
【請求項2】
細菌感染がブドウ球菌の感染による、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細菌がスタフィロコッカス(Staphylococcus)種である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
細菌がスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
カロテノイドをターゲティングすることによってMRSAを予防もしくは治療するかまたはMRSAの効果的な治療を改善するための方法。
【請求項6】
カロテノイドがスタフィロコッカス種のカロテノイドである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
カロテノイドのターゲティングが、カロテノイド合成インヒビターの使用を含む、請求項5記載の方法。
【請求項8】
カロテノイド合成インヒビターが混合機能オキシダーゼインヒビターである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
混合機能オキシダーゼインヒビターが、2-ジエチルアミノエチル-2,2-ジフェニル-バレレート、2,4-ジクロロ-6-フェニルフェノキシエチルアミン、2,4-ジクロロ-6-フェニルフェノキシエチルジエチルアミン、およびピペロニルブトキシドからなる群から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
混合機能オキシダーゼが、2-ジエチルアミノエチル-2,2-ジフェニル-バレレートである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
カロテノイドのターゲティングまたは抑制が、カロテノイドの合成を抑制すること、カロテノイドの分解もしくは除去を増大すること、またはカロテノイドの機能を中和することを含む、請求項1または5記載の方法。
【請求項12】
微生物と抑制有効量のカロテノイド合成インヒビターとを接触させることを含む、微生物の増殖を抑制するための方法。
【請求項13】
in vitroにて接触させる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
微生物が存在すると思われる面に接触させる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
微生物がカロテノイドを含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
微生物が細菌である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
in vivoにて接触させる、請求項12記載の方法。
【請求項18】
局所投与により、in vivoにて接触させる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
細菌がグラム陽性である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
細菌が、スタフィロコッカス・アウレウスまたはスタフィロコッカス・エピデルミディス(S. epidermidis)である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
細菌がグラム陰性である、請求項16記載の方法。
【請求項22】
細菌が、E. coli、P. aeruginosa、およびS. typhimuriumからなる群から選択される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
カロテノイド合成インヒビターを、少なくとも1種の抗生物質と組み合わせて投与する、請求項12記載の方法。
【請求項24】
抗生物質が、アミノグリコシド、ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム、モノバクタム、キノロン、テトラサイクリン、グリコペプチド、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ニトロフイラントイン(nitrofuirantoin)、リファンピンおよびムピロシンからなる群から選択される種類に属する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
抗生物質が、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネチルミシン、t-オブラマイシン(obramycin)、ストレプトマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、エリスロマイシンエストレート/エチルスクシネート/グルセプタテルラクトビオネート(gluceptatellactobionate)/ステアレート、ペニシリン G、ペニシリン V、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、アンピシリン、アモキシシリン、チカルシリン、カルベニシリン、メズロシリン、アズロシリン、ピペラシリン、セファロチン、セファゾリン、セファクロール、セファマンドール、セフォキシチン、セフイロキシム(cefuiroxime)、セフォニシド、セフメタゾール、セフォテタン、セフプロジル(cefprozil)、ロラカルベフ(loracarbef)、セフェタメト、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタジジム、セフェピム、セフィキシム、セフポドキシム、セフスロジン、i-ミペネム(mipenem)、アズトレオナム、フレロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ロメフロキサシン、シノキサシン、ドキシサイクリン、m-イノサイクリン、テトラサイクリン、バンコマイシン、およびテイコプラニンからなる群から選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
カロテノイド合成インヒビターおよび医薬的に許容可能な担体を含んでなる組成物。
【請求項27】
組成物が、ローション、クリーム、ゲル、軟膏またはスプレーである、請求項26記載の組成物。
【請求項28】
組成物が、局所投与用である、請求項40記載の組成物。
【請求項29】
細菌感染を治療するのに有用なMRSA 治療剤をスクリーニングするための方法であって、カロテノイドを産生する細菌とカロテノイドの産生または活性を抑制すると思われる試験薬剤とを接触させること、酸化剤の存在下および非存在下における薬剤の効果を測定すること、を含む、上記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図6B】
image rotate


【公表番号】特表2008−536933(P2008−536933A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507790(P2008−507790)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/014486
【国際公開番号】WO2007/075186
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【Fターム(参考)】