説明

組成物およびその製造方法

【課題】医療用途に用いることができる生体適合性に優れた組成物、成形体、医用材料および製造方法の提供。
【解決手段】生体吸収性ポリマー(例えば、ポリ乳酸)にコラーゲン分子を分散させて製造される組成物、該組成物を膜状体、板状体、棒状体、筒状体、糸状体、網状体、袋状体、塊状体、織布または不織布とした成形体、及び該成形体を用いた神経再生ガイドチューブ、人工脊髄、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工脳硬膜などの人工医用代替膜、人工靱帯、人工腱、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強剤、創傷保護材、人工皮膚及び人工角膜からなる群より選択される医用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術用具や再生医療用の細胞足場材料などの医用材料等に用いることのできる組成物およびその製造方法に関する。また、本発明は、その組成物を利用した成形体、及びその成形体を用いた医用材料にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体吸収性材料としては、動物由来のコラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸に代表される生分解性ポリマーが用いられていた。
【0003】
医用材料として用いられる各種素材のうち動物由来のコラーゲンは、生体親和性及び組織適合性に優れ、抗原性が低く、かつ、宿主細胞の分化・増殖を促進させる作用を有し、止血作用を有し、かつ、生体内で完全に分解吸収されることから、医用材料の素材として特に優れた特性を有している。動物由来のコラーゲンとしては、現在、I〜XIX型までが発見されており、このうちI〜V型コラーゲンが、医用材料として多様な方法で使用されている。なかでも細胞外マトリックスとして有用なI型コラーゲンが最も多く使用されている。これらのコラーゲンは、コラーゲン分子がモノマー〜オリゴマー程度に分解された状態であるため、水、体液又は血液などと接触すると、極めて早くゾル化してしまう。また、コラーゲンのみでは医用材料としては強度が低い。このため、従来、生体吸収性組成物としては、コラーゲンと、ポリ乳酸やポリグリコール酸などの生分解性ポリマーを単純に組合わせた材料が用いられていた。具体的には、例えば、生体吸収性ポリマーの表面をコラーゲンでコーティングすることによって生体適合性を高める方法や(非特許文献1参照)、コラーゲンスポンジを生体吸収性ポリマーの不織布で補強する方法がある(特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
しかし、生体吸収性ポリマーの表面をコラーゲンでコーティングする方法では、ポリマーが表面から加水分解されていく過程で、簡単にコラーゲンコーティングがとれてしまうという欠点がある。また、コラーゲンスポンジを生体吸収性ポリマーの不織布で補強する方法では、コラーゲンスポンジと生体吸収性ポリマーがはずれてしまうという問題があった。
【特許文献1】特許公開2001−340446号公報
【非特許文献1】Transplantation. 1999 Jan 27;67(2):241-5.
【非特許文献2】ASAIO Journal, 47(3): p206-10. 2001.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来の技術においては、生体吸収性ポリマーとコラーゲンは、生体吸収性ポリマーの表面にコラーゲンをコーティングした材料を用いる等、両者の複合体として用いられてきた。しかし、これらは別々の素材からなる構造体であり、一体ではないため、操作性に難があり、また、ポリマーが表面から加水分解されていく過程で、最表面のコラーゲンコーティングがはずれてしまうため、生体内ではコラーゲンの作用が十分な期間、期待できないという問題があった。
【0006】
上記の理由から、コラーゲンが本来有する生化学的特性を保持しながらも、縫合操作を必要とする医用材料として用いる場合に縫合可能な程度の物性を有し、更に生体への適用後も一定期間その形状を保持することのできる材料、その製造方法、及びそれに基づく医用材料、例えば、神経再生ガイドチューブ、人工脊髄、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、代替脳硬膜などの人工医用代替膜、人工靭帯、人工腱、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、人工皮膚、又は人工角膜などの開発が求められてきた。そして各種医用材料のなかでも特に、倫理上の問題もなく、安定して供給され、生体への適用後は、術創の癒着を防止し、感染の恐れがなく、組織の変性を起こさず、適用後の分解速度をコントロールでき、更に生体膜、特に脳硬膜、心膜、胸膜、腹膜又は漿膜等に対して再生促進作用を有する、医用代替膜として使用することができる材料の開発も臨床現場で強く求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生体吸収性ポリマーにコラーゲン分子を分散させてなる組成物が、医用材料として特に優れた特性を有することを見いだして本発明を完成した。
【0008】
また本発明は、生体吸収性ポリマーにコラーゲン分子を分散させてなる組成物を用いた成形体(例えば、膜(メンブラン、フィルム、シート)、板(、ボード)、棒状体(ロッド)、筒状体(パイプ、チューブ)、糸状体、網状体(メッシュ)、袋状体、塊状体、織布、不織布等)を提供する。これらの成形体は、例えば、神経再生ガイドチューブ、人工脊髄、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、代替脳硬膜などの人工医用代替膜、人工靭帯、人工腱、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、人工皮膚、人工角膜等として応用することができる。
【0009】
本発明の、生体吸収性ポリマーにコラーゲン分子を分散させてなる組成物の概略構成は図1に示したとおりである。
本発明の組成物の原料として使用する生体吸収性ポリマーとは、生体内で加水分解等により次第に分解されていくポリマーを意味し、具体的には、グリコール酸、乳酸(D体、L体、DL体)、カプロラクトン、ジオキサノン、エチレングリコール及びトリメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の単量体を重合してなる重合体を挙げることができる。これらのうち、本発明の組成物の原料として好ましいのは、ポリグリコール酸、又はポリ乳酸であり、特に好ましいのはポリ乳酸である。
【0010】
本発明の組成物の原料として使用するコラーゲン分子としては、インテグリン(integrin)やフィブロネクティン(fibronectin)などの接着因子が認識しうる部位(アミノ酸配列)を保有しているコラーゲンであればよく、I型〜XIX型の何れでも用いることができるが、従来から用いられているI型〜V型の各種コラーゲン分子が好ましい。さらに、細胞接着性及び必要により施される酵素処理の容易さ等の理由から、更に好ましくはI〜III型コラーゲンのいずれか1種又は2種以上の型のコラーゲン分子を混合したものを、最も好ましくはI型コラーゲンを用いることができる。これらコラーゲン分子の由来は、特に限定されず、一般に、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、カンガルー、鳥、魚などの動物の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器などである。また、コラーゲン分子を抽出する際のコラーゲンの可溶化の方法としては、中性可溶化コラーゲン、酸可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン又は酵素可溶化コラーゲンを使用することができる。これらのうち、酵素可溶化コラーゲンは、不溶性コラーゲンを、酵素(例えば、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、プロナーゼなど)で処理したもので、これらの処理によりコラーゲン分子中の抗原性の強いテロペプチド部分が除去されて抗原性が低減されるので、特に好ましい。
【0011】
また、コラーゲン分子が生体吸収性ポリマーに分散された状態とは、コラーゲン分子が生体吸収性ポリマー中にほぼ均一に存在している状態である。コラーゲンをポリマー中に分散するには、出来上がった組成物中にコラーゲンが均一に分散しているかぎり、いかなる方法によってもよいが、好ましくは、両者(コラーゲンとポリマー)を同一の溶媒に溶かして溶液となし、そこから溶媒を除去(蒸発させ)することによって、両者が均一に混ざった組成物が得られる。また、それぞれを、同一または異なった溶媒中の溶液となしこれらの溶液を均一に混合もしくは相互分散させて(乳化分散させて)から、溶媒を除去する方法でもよい。また、ポリマーの溶液中に微粉末のコラーゲンを均一に懸濁させておき、この懸濁液から溶媒を除去することによってもよい。また、ポリマーが、コラーゲンが変性しない程度の、余り高くない温度で溶融する場合には、溶融したポリマーに微粉状のコラーゲンを混錬して均一分散させる方法によってもよい。
【0012】
したがって、本発明の組成物を得るには、例えば、コラーゲン溶液及び生体吸収性ポリマーを溶媒に溶解し、十分に混合させて混合溶液を得、この混合溶液から溶媒を除去して組成物を得ればよく、場合によりこの混合溶液を目的に応じて必要な形態の材料に成形しながら溶媒を除去してもよい。
【0013】
ここで、用いられるコラーゲン溶液の溶媒としては、テトラフルオロプロパノール等を挙げることができる。コラーゲン溶液を調製するには、例えば上記のような抽出コラーゲン(勿論、精製後)のテトラフルオロプロパノール溶液(コラーゲン濃度は、好ましくは約0.5〜3重量%、特に約1重量%)を調製する。
【0014】
また、コラーゲン溶液と生体吸収性ポリマーの共通の溶媒としては、生体吸収性ポリマーとコラーゲン分子の双方が溶解可能な溶媒であるならば、特に、限定されるものではない。例えばテトラフルオロプロパノールを挙げることができる。
【0015】
コラーゲン溶液と生体吸収性ポリマーの混合溶液におけるコラーゲンの濃度は0.1重量%〜2.5重量%が好ましく、ポリマーの濃度は0.1重量%〜25重量%が好ましく、更に好ましくは1重量%〜10重量%である。ポリマーの濃度が0.1重量%より低い場合には溶媒を蒸発させるのに多大の時間を要し、また、25重量%以上では、コラーゲンを混合したときに、ポリマー中のコラーゲン分子の分散が不均一になりやすいからである。
【0016】
また、本発明の組成物における、コラーゲンと生体吸収性ポリマーの割合は、コラーゲンが0.1〜15重量%/ポリマーであればよく、好ましくはコラーゲンが0.5〜5重量%/ポリマーであり、より好ましくはコラーゲンが1〜3重量%/ポリマーである。コラーゲンの割合が0.1重量%/ポリマーより低い場合には、細胞の接着性が不十分になり、15重量%/ポリマーより高い場合には、組成物を成形体にしたときの機械的強度が不十分になるからである。
【0017】
本発明の組成物は、目的に応じて従来の方法により種々の形状に成形した成形体とすることができる。例えば、膜状体(メンブラン、フィルム、シート)、板状体(ボード)、棒状体(ロッド)、筒状体(パイプ、チューブ)、糸状体、網状体(メッシュ)、袋状体、塊状体、織布、不織布等である。シート状の成形体を得る場合には、上記混合溶液を、バット等をその型とした容器中に注いで進展させ、溶媒を蒸発させることにより、シート状の組成物を得ることができる。また、容器に注ぐ混合溶液の量を調節し、薄く進展させて溶媒を蒸発させることで、薄層フィルム状の組成物を得ることができる。また、当該混合溶液を用いたエレクトロスピニングによって不織布状の成形体を得ることができる。さらに、シート状の組成物を溶融押出で紡糸することにより、本発明の組成物からなる糸状成形体を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組成物は、従来の生体吸収性ポリマーと比較して、優れた生体適合性を有し、かつ生体内において長期に渡って細胞が接着しやすいという特性を有する。これは、コラーゲン分子が生体吸収性ポリマー内に含有されているので、単なる表面のみにコラーゲンをコーティングした場合と異なり、生体内や培養液中で生体吸収性ポリマーが次第に加水分解されていく過程においても常に生体適合性が高く、細胞が接着しやすい状態を保つことができることによる。すなわち、本発明の組成物またはその成形体を生体内に適用した場合、単に生体吸収性ポリマーの表面をコラーゲンでコーティングしただけであれば、生体内に置かれた組成物がその表面から加水分解されていく過程において、比較的初期に表面のコラーゲンコーティングが生体吸収性ポリマーから離れてしまい、コラーゲンが本来有する生化学的特性による効果が失われてしまう。しかし、本発明の組成物は、コラーゲン分子を均一に生体吸収性ポリマー内に含有しているため、ポリマーが表面から加水分解されていく過程においても、つねに生体適合性が高く、細胞が接着しやすい状態を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
以下の方法により、本発明の組成物からなるフィルム状成形体を作成した。
(1)豚皮由来のコラーゲンの抽出コラーゲン(日本ハム社製アテロコラーゲン)0.5gおよびポリ−L−乳酸(シグマ社製)5gをテトラフルオロプロパノール(和光純薬社製)20mlに入れ、30℃で150分間撹拌し、混合溶液とした。
(2)得られた混合溶液約5mlをバット(10cm×10cm)に注いで進展した後、大気圧下25℃にて約24時間放置し、溶媒を蒸発させ、本発明のフィルム状成形体を得た。
【実施例2】
【0021】
以下の方法により、本発明の組成物からなる糸状成形体を作成した。
(1)実施例1で得られたフィルム状成形体を約5mm角に細断して微量押出試験機に充填し、177℃にて溶融させた。
(2)微量押出試験機のピストンにて溶融物に荷重を与え、溶融物を直径1mmのダイ(紡糸口)により押し出した。
(3)押し出された溶融物を空気中で放熱しながら巻取り、本発明の糸状成形体を得た。
【0022】
試験例1
実施例1で得られたフィルム状成形体の生体適合性を評価するために、細胞培養ディッシュ底面に当該フィルム状成形体を貼り、その上で細胞培養を行った。細胞培養ディッシュ(BD社製、直径約10cm)に、実施例1で得られたフィルム状成形体(直径約10cm)を置き、その上にDulbecco変法Eagle培養液(DMEM)約10mlを注いだ。対照として細胞培養ディッシュにコラーゲンを含まないポリ乳酸フィルムを貼った系を準備した。線維芽細胞(3T3株、約10個)を用い、37℃で24〜48時間、細胞培養を行った。細胞増殖を光学顕微鏡で観察した。また、培養後、細胞を細胞染色用色素(クリスタルバイオレット)で染色し吸光度を測定することで定量的に細胞の増殖および、生体適合性(細胞付着性)を評価した。コラーゲンを含まないポリ乳酸フィルムの場合に比べ、本発明のフィルム状成形体には有意に多くの細胞が付着し(図2)、さらに本発明のフィルム状成形体を用いた系の方が細胞の増殖も有意に早かった(図3)。
【0023】
試験例2
実施例2で得られた糸状成形体及び従来の生体吸収性糸への、細胞の付着性を、糸に付着した細胞のDNA量を比較することで確認した。
DMEM50mlを入れたスピナーフラスコ(250ml)内に、実施例2で得られた糸状成形体(約20cm)、及び対象としてポリ乳酸からなる糸(約20cm)を固定し、線維芽細胞(3T3株、10個/ml培地)を浮遊させた状態で、37℃で24時間、動的培養を行った。それぞれの糸に付着した細胞からフェノール抽出法を用いてDNAを抽出し、分光光度計で吸光度(260nm)を測定することにより、DNA量を算出して、それぞれの糸への単位長さ当たりの細胞付着量を比較した。ポリ乳酸単独からなる糸の場合と比較して、コラーゲンを含有した本発明の糸状成形体には有意に多くの細胞が付着した(図4)。また、顕微鏡による観察においても、ポリ乳酸単独からなる糸では、細胞がはじかれてポリマー表面にあまり付着していないのに対して、本発明の糸状成形体には、細胞が進展し、成形体表面に広く付着していた(図5)。
【実施例3】
【0024】
実施例2で得られた糸状成形体(φ:0.1mm)を筒状に編んで、本発明の組成物からなる内径約2mm、膜厚約1mm、長さ約10mmのチューブ状成形体を作成して本発明の神経再生ガイドチューブを得た。ラット(体重300g)の座骨神経5mmを切除し、両側の神経断端を上記神経再生ガイドチューブに内挿し、10−0ナイロン糸で結紮して、連結した。術後、1,2,3及び4月後に、HRP染色によって軸索輸送を、大脳体性感覚誘発電位及び誘発筋電図によって生理学的機能を観察した。ラットを犠牲死させ、肉眼及び光学顕微鏡下、座骨神経の形態を観察した。
手術12か月後ですでに、座骨神経の形態及び機能の回復が認められ、再生した神経の状態も、正常状態により近かった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の組成物は、従来の生分解性ポリマーに比べて、優れた物性、特に優れた生体適合性を有するため、それのみで成形し各種医用材料として使用することができ、縫合することもできる。また、本発明の組成物は、生体内に適用した場合、すぐには溶解せずに、約1〜8週間その形状を保持することができる。これらの理由から、本発明の組成物は、更に用途に応じて膜状、管状、袋状、塊状などの形態に加工することによって、各種医用材料として使用することができる。例えば、神経再生ガイドチューブ、人工脊髄、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工脳硬膜などの人工医用代替膜、人工靭帯、人工腱、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、人工皮膚又は人工角膜などとして使用して、傷害を受けた生体組織が回復、再生するのを促すことができる。あるいは、圧迫止血材、あるいは細胞培養における三次元培地としても使用することができる。
【0026】
また、上記のようにして得られた本発明の組成物からなる医用代替膜は、各種外科手術後の膜欠損部分を補填することによって、膜欠損部分における臓器と周辺組織との癒着を予防するために使用することができる。本発明の医用代替膜においては、癒着を防止する必要のある周辺組織と接する側に架橋したゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層が向くように、その片面又は両面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した本発明の組成物を使用する。本医用代替膜を、心膜の代替膜として使用する場合は、両面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した代替膜を、また胸膜、腹膜又は漿膜の代替膜として使用する場合は、片面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した代替膜を、ゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層が周辺組織と接する側に向くように使用する。脳硬膜の代替膜として使用する場合は、両面又は片面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した代替膜のいずれも使用することができる。片面にゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層を形成した代替膜を使用する場合は、ゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層が、脳実質組織と接する側に向くように使用する。更にまた、上記の用途のほか、血管、消化管、気管、尿管、膀胱、粘膜、歯根膜などの縫合に、補強材としても使用することができる。
【0027】
上記のように生体膜の欠損部分を補填する材料としての本発明の医用代替膜は、脳硬膜、心膜、胸膜、腹膜又は漿膜の代替膜として使用することができる。本代替膜を術創に適用すると、術創周辺に残存している脳硬膜、心膜、胸膜、腹膜又は漿膜などの生体膜が、本代替膜との接触箇所から本代替膜のコラーゲン部分を再生の足場として伸展して再生する一方、生体組織がゼラチンゲル層又はヒアルロン酸層と接する箇所では、細胞の侵入・伸展が予防されるために癒着が防止され、最終的には欠損部分が、再生した生体膜によって塞がれ、本代替膜は、生体によって分解吸収され、完全に消失する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態によるコラーゲン分子を均一に含有する生体吸収性ポリマーの概略図である。
【図2】本発明のフィルム状成形体をしいた培養皿上での線維芽細胞の付着を、ポリ乳酸単独からなるフィルムの場合と比較した。コラーゲンを含まないポリ乳酸単独の場合に比べ、本発明のフィルム状成形体には有意に多くの細胞が付着していた。
【図3】本発明のフィルム状成形体(ポリ−L−乳酸/コラーゲン)をしいた培養皿上での線維芽細胞の増殖を、ポリ乳酸単独からなるフィルム(ポリ−L−乳酸単独)の場合と比較した。コラーゲンを含まないポリ乳酸単独の場合に比べ、有意に細胞の増殖も早かった。
【図4】本発明の糸状成形体(ポリ−L−乳酸/コラーゲン)に付着した細胞のDNA量を、ポリ乳酸単独からなる糸(ポリ−L−乳酸)の場合と比較した結果である。本発明の糸状成形体には、糸の全体に渡って多くの細胞が付着している。
【図5】本発明の糸状成形体に付着した細胞の顕微鏡像である。ポリ乳酸単独からなる糸では、細胞がはじかれてポリマー表面にあまり付着していない(団子状に付着している)のに対して、本発明の糸状成形体上には、細胞が進展し、材料表面に広く付着していた(糸全体に渡って細胞が付着している)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性ポリマーにコラーゲン分子を分散させてなる組成物。
【請求項2】
生体吸収性ポリマーが、グリコール酸、乳酸、カプロラクトン、ジオキサノン、エチレングリコール及びトリメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の単量体を重合してなる重合体である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の組成物を膜状体、板状体、棒状体、筒状体、糸状体、網状体、袋状体、塊状体、織布、または不織布に成形してなる成形体。
【請求項4】
神経再生ガイドチューブ、人工脊髄、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工脳硬膜などの人工医用代替膜、人工靭帯、人工腱、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、人工皮膚及び人工角膜からなる群より選択される、請求項3記載の成形体からなる医用材料。
【請求項5】
請求項3記載の棒状体または筒状体の成形体であるか、または請求項3記載の糸状体の成形体を円筒状に編んでなる、請求項4記載の神経再生ガイドチューブ。
【請求項6】
請求項1または2記載の組成物の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−177074(P2007−177074A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377047(P2005−377047)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】