説明

組成物

本発明は、細胞生物学および医学の領域であり、人工的骨髄様環境を作成するための組成物とそのインビトロ法、およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞生物学および医学の領域であり、人工的骨髄様環境を作成するための組成物とそのインビトロ法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトでは、「骨髄微小環境」(BME)と呼ぶ特殊な環境が骨小腔内に存在し、これは少なくとも10類の異なる血球、骨の回復に必要な細胞、および広範な種々の分化細胞を生み出すことができる多数の幹細胞/前駆細胞の生成のための主要な部位を構成する。ヒトの健康は、「造血」と呼ばれるプロセスにより産生される異なる血球の絶え間ない供給に決定的に依存している。BMEは、体内を循環する少数の多能性幹細胞や前駆細胞(SPC)に、全体の造血プロセスを構成する10種類もの異なる血球を生成するように指令する。SPCは体内に広く分布しているため、自然の機構が、a)SPCが骨髄の外からBMEに帰る(SPC帰巣と呼ばれる)、b)SPCとBMEとの適当な接着性相互作用(移植と呼ばれる)を促進することによりBME内にSPCを保持する、c)休止SPCを活性型に変えてその増殖を促進する、d)多数のしばしば矛盾するシグナルにもかかわらずアポトーシスに対してSPCを生き残らせる(SPCの生存と呼ばれる)、e)SPCに、自己再生(より多くのSPCを産生するため)または系統の運命決定(lineage commitment)と分化(より多くの成熟血球を産生するため)の経路に沿って増殖するように指令するように機能する。従ってSPCが関与する造血におけるBMEの役割は、個体の一生を通して効率的な多系統の血球生成を確実にするために、個々に制御され微妙にバランスされた一連の工程として構築される。
【0003】
血球産生の維持と最適化を引き起こすSPC機能(帰巣、移植、休止状態からの活性化、活性化SPCの休止の誘導、細胞の生存、自己再生、系統の運命決定と分化に沿った成長)に関する全プロセスはBMEにより制御されるが、この制御に関与する正確な機構が科学者によって完全には理解されておらず、上記のインビトロまたはインビボの記載の1つまたはそれ以上の工程を制御し種々の他の用途を可能にするBME様環境の作成のための方法は先行技術には存在しない。
【0004】
先行技術では、骨髄中に存在する補助細胞は、SPCが必要とする微小環境の生成のためのすぐ近くの種々のサイトカインや成長制御物質のみを提供し、従って造血に必要なかかる成分の受動的な供給源として機能すると考えられてきた。文献で一般的な他の見解は、まれな集団の補助細胞のみがSPC成長を支持する能力を有するというものである。本出願人はそのような考え方には反対であり、適切な条件が与えられれば任意の補助細胞がSPCに優れたシグナルを提供することを見いした。本出願人は、血球生成が増強されるかまたは制御される人工的骨髄様環境の作成を助ける組成物を開発した。本発明により開示される組成物と方法は、造血のすべての工程が大きく改良されるようなものである。さらに本発明は、所望の作用が現れるには、SPCがABMEを構成する補助細胞にわずかに接触することが必要であることを強調し、従って補助細胞が積極的な役割を果たすことを強調する。すなわち先行技術では、SPCを拡張する試みが行われてきた。しかし現在のところ、インビトロで有効な人工的BMEを作成することにより血球生成を実質的に改良または制御ことは可能ではない。本発明はこのニーズを満たす。
【0005】
発明の目的:
本発明の主要な目的は、血球生成が増強または制御される人工的骨髄様環境の作成を助ける組成物を提供することである。
本発明の別の目的は、かかる環境を調製するための方法を提供することである。
【発明の開示】
【0006】
発明の詳細な説明:
I.組成物:
従ってある態様において本発明は、血球の制御生成のための人工的インビトロ骨髄環境(ABME)を開発するのに有用な組成物であって:
(i)間葉細胞、
(ii)生物学的物質、化学的物質、および免疫学的物質から選択される造血調節物質;および
(iii)ABME作成のためおよび本発明を実施するための培地
を含んでなる組成物に関する。
【0007】
本明細書において用語「造血調節物質(hematopoietic modulator)」は、これが使用されない標準から、インビトロ造血の1つまたはそれ以上の工程を変化させることができる物質を意味し、これにより、1つまたはそれ以上の系統のより多くの血球が生成されるか、または2つまたはそれ以上の系統の血球の相対的比率が変化し、間葉細胞の細胞内シグナルまたはSPCまたはその両方に対する調節作用を通して作用する。かかる物質は、生物学的物質、化学的物質、または免疫学的物質でもよい。造血調節物質は、人工的インビトロBMEの生成に必須であり、本発明は造血調節物質のいくつかの例を提供する。3種類の造血調節物質が有効であることがわかっている:a)生物学的、b)化学的、およびc)免疫学的。これらの調節物質は本明細書において「造血調節物質」または「ヘマモジュレーター(hematomodulator)」と呼ぶ。
【0008】
生物学的造血調節物質:
生物学的物質または生物学的造血調節物質は、1)細胞から調製された適当な調整培地;2)成長因子および細胞刺激物質、例えばトランスフォーミング成長因子ベータ(TGFβ)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、または3)天然のタンパク質、例えばフィブロネクチン、ビブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、およびインテグリン結合ドメインもしくは活性化ドメインを含有するこれらの断片、およびインテグリンのようなこれらの受容体の調節物質、から選択される。該天然のタンパク質は、種および属全体にわたる天然に存在する相同的遺伝子から得られるタンパク質、およびこれらの合成作成された機能性相同物もしくは模倣物がある。かかる生物学的造血調節物質は、SPC帰巣、SPC自己再生、SPC移植、分化のための系統へのSPCの運命決定、および強い血球生成に有用な標的細胞中の複数の細胞内シグナルを生成または維持することにより作用する。組成物中の生物学的物質の濃度範囲は、約0.1ナノモル〜50マイクロモルである。
【0009】
化学的造血調節物質:
造血調節物質として使用される化学的物質または化学的造血調節物質は、SPC帰巣、SPC自己再生、SPC移植、分化のための系統へのSPCの運命決定、および強い血球生成に有用な標的細胞中の特異的細胞内シグナル伝達の増強物質または調節物質でもよい。かかる化学的物質は、タンパク質、ペプチドまたはこれらの機能的同族体と構造的に関連してもしなくてもよく、特異的細胞内シグナルの増強物質として作用する。化学造血調節物質は:
(i)タンパク質キナーゼC増強物質、(ii)タンパク質キナーゼを含む環状グアノシン1リン酸(cGMP)活性化プロセスの増強物質、(iii)焦点接着キナーゼの増強物質、(iv)PI3−キナーゼ、PDキナーゼ、Aktキナーゼ、およびAkt活性化経路の他の下流のメンバーを同時に活性化する増強物質、(v)Ca++シグナル伝達の調節物質、Ca++−カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼを含む、(vi)インテグリン結合キナーゼの増強物質、および(vii)(i)〜(vi)から選択される2つまたはそれ以上の増強物質の適当な組合せを含むコンビナトリアル増強物質、から選択される。前記したペプチドとタンパク質試薬は、個々のアミノ酸に従いその3文字コードにより特定し、配列の続きはN末端で開始しC末端で終止する。
【0010】
タンパク質キナーゼC増強物質は、脂質様物質、例えば天然または合成ジアシルグリセロール、ファルネシルチオトリアゾール、または非脂質様化学物質、例えば(−)インドラクタムV、12−O−テトラデカノイルホルボール13−アセテートにより例示されるホルボールエステル基のメンバー、または細胞中の生成したジアシルグリセロールが長期間機能できるように細胞中のジアシルグリセロールリパーゼ酵素を阻害する物質、例えば1,6−ビス(シクロヘキシルオキシイミノカルボニルアミノ)ヘキサン(U−57908)、でもよい。cGMP活性化プロセスの増強物質は、cGMP様化合物でもよく、これは容易に細胞に入り、タンパク質キナーゼを含むcGMP依存性プロセスを直接または間接に増強する。かかる化合物は、8−(4−クロロフェニルチオ)グアノシン3’,5’−サイクリック1リン酸塩、アデノシン3’,5’−サイクリックモノホスホチオエート−Rp−異性体塩、またはその特異的ホスホジエステラーゼにより細胞内のcGMPの破壊を阻害する化合物、例えばザプリナスト(Zaprinast)およびシルデナフィル(Sildenafil)およびこれらの機能的同族体でもよい。焦点接着キナーゼ増強物質は、間葉細胞と相互作用できるか、または特にその細胞表面上に存在する種々のインテグリン分子と相互作用できるタンパク質またはペプチドモチーフでもよく、その後焦点接着キナーゼは活性化され、同時に細胞内でインテグリン受容体関連シグナルが生成され、増強または維持される。線状ペプチド性の造血調節物質は本明細書に記載され、すべての場合に、アミノ酸の標準的3文字コードで記載されるペプチド/タンパク質配列とアミノ末端アミノ酸で開始されカルボキシ末端アミノ酸で終止する配列を有する。ペプチド造血調節物質の例は、Trp−Gln−Pro−Pro−Arg−Ala−Arg−Ile、配列モチーフ「Arg−Gly−Asp−Serine」を有する配列を含む線状または「ヘッドツーテイル(head to tail)環状ペプチド」またはその機能性同族体;インテグリン結合キナーゼ、PI3キナーゼ、およびAkt−キナーゼの増強物質はペプチド、Trp−Gln−Pro−Pro−Arg−Ala−Arg−Ile、配列モチーフ「Arg−Gly−Asp−Ser」を有する線状または環状ペプチド、およびタンパク質TGFβ1である。
【0011】
化学的物質は、細胞内貯蔵からCa++イオンを放出するかまたはCa++チャネルの活性化によりより多くの細胞外Ca++イオンが細胞に入り、その後にプロテインキナーゼを含むいくつかのCa++依存性酵素が活性化されることを可能にするカルシウム動員物質でもよく、かかる造血調節物質は、タプシガルギン、シクロピアゾン酸、および8−(N,N−ジエチルアミノ)オクチル−3,4,5−トリメトキシベンゾエート(TMB−8)により例示される。化学造血調節物質は間葉細胞内のチロシンキナーゼのインヒビターでもよく、3−アミノ−2,4−ジシアノ−5−(3’,4,5’−トリヒドロキシフェニル)ペンタ−2,4−ジエノニトリル(トリホスチンAG183、チルホスチンA51と同義)により例示される。
【0012】
化学的造血調節物質は、ペプチドAla−Pro−Ser−Gly−His−Tyr−Lys−GlyのようなFGF受容体機能の制御物質でもよく、これは間葉細胞で使用されて、そのままABMEを形成するかまたは他の造血調節物質(例えばTGFβ1)により形成されるABMEの相乗的増強物質となる。
【0013】
さらに造血調節物質は、酸化窒素、間質細胞由来因子−1アルファ(以後「SDF−1アルファ」と呼ぶ)および間質細胞由来因子−1ベータ(以後「SDF−1ベータ」と呼ぶ)のような拡散性の化学メッセンジャーを介するシグナル伝達を促進する物質でもよい。本発明者は、間葉細胞が酸化窒素、SDF−1アルファ、およびSDF−1ベータを産生することができ、ABMEの組成物が生成した後、これらの化学メッセンジャーがABMEにより産生量が増加することを見いだした。酸化窒素、SDF−1アルファ、およびSDF−1ベータは、後述するように強固な造血を刺激するABMEの機能的機構に関与する。SDF−1アルファ、およびSDF−1ベータの分子はSPCの誘引物質として作用し、SPCが長距離を化学移動してABMEに達することを可能にする。間葉細胞からのSDF−1アルファおよびSDF−1ベータ分泌が上昇している場合、これらにより形成される化学走化性勾配が大きくなり、より長距離に達することができるようになり、これらの影響範囲が拡大し、ABMEの周りの環境のより広い部分からのSPCの採取が促進される。SDF−1アルファとSDF−1ベータは移植を助け、SPCとそこから得られる子孫の成長のインデューサーとしても作用して、強い造血を促進する。
【0014】
本発明者は造血調節物質が、ABMEを形成する間葉細胞中で例えばコネクシン43(Connexin43)のようなギャップジャンクションタンパク質の発現を上昇させることができることを確定した。コネクシン43は、細胞内通信を促進する天然の造血中に重要な役割を果たす。
【0015】
本発明者は、ABME中の酸化窒素含量の増加が強い血球生成に有用な影響を与えることを確定した。酸化窒素は反応性が高く、非常に迅速に酸素分子と結合し、従って破壊される。従って間葉細胞内の酸素含量の有効な低下を促進するかまたは低酸素症を誘導する物質は、酸化窒素シグナル伝達の延長を促進し、ABMEの機能に有用な影響を示す。細胞の低酸素状態はまた、ABME機能を促進するVEGFの放出、脈管形成および血管形成を促進する新しい血管を生成する内皮細胞の動員と活性化を含む新規遺伝子発現の促進因子であり、これはインビボの血管形成に密接に関連している。酸素圧の低下を含む環境は、SPCの表面上のCXCR4受容体の発現を促進し、CXCR4分子の上昇したかかるSPCはより良くガイドされ、SDF−1介在化学誘引を介してABMEに誘引される。間葉細胞中の酸化窒素は、この拡散性メッセンジャーを「酸化窒素ドナー」から標的細胞に人工的に導入することにより増加させることができ、例えばこれらに、s−ニトロソペニシラミン(SNP)、2−(N,N−ジメチルアミノ)−ジアゼノレート−2−オキシド(DEANONOate)などのいくつかの化合物を用いて生成した酸化窒素の可逆性付加物を接触させることにより、より良好な関連する性質が、接触した細胞により示される。
【0016】
造血調節物質は、間葉細胞のインテグリン受容体、焦点接着キナーゼ、bFGF−受容体を活性化できるモチーフを含む線状または環状ペプチドである化学的物質でもよい。このようなアルファ5:ベータ1の調節物質、アルファ2:ベータ1の調節物質、アルファ2b:ベータ3の調節物質、アルファV:ベータ5の調節物質、アルファV:ベータ3の調節物質、アルファ4:ベータ1の調節物質、フィブロネクチン接着促進因子(FAK−アクチベーター)、Arg−Gly−Asp−Serのようなインテグリン調節物質、Ala−Pro−Ser−Gly−His−Tyr−Lys−GlyのようなbFGF制御物質、天然のフィブロネクチンまたは種々のインテグリン相互作用ドメインを含有するフィブロネクチンのサブフラグメント、細胞結合ドメイン、ヘパリン結合ドメイン、およびゼラチン結合ドメイン。該化学的物質の量は約0.1〜100マイクロモルでもよい。
【0017】
造血調節物質は、酸素依存性死滅ドメインモチーフ(その一例はHIF−1αである)が関与するタンパク質または転写因子の細胞内分解を防止できる化学的物質でもよい。
【0018】
免疫学的造血調節物質:
本明細書で定義される免疫学的造血調節物質は、特に間葉細胞のような標的細胞中のインテグリン受容体からの細胞接着シグナルを活性化できる、抗体またはその機能性同族体でもよい。免疫学的造血調節物質の選択された非限定例は、インテグリンベータサブユニットに対する活性化抗体である。かかる免疫学的造血調節物質は、標的細胞を50%またはそれ以上に凝集させるのに充分な濃度で使用される。
【0019】
造血調節物質のプライミング:
生物学的、化学的または免疫学的造血調節物質の一部は、SPCに接触してこれらをプライムまたは活性化するのに随時使用され、次によりよい結果のためにABMEとともに使用される。プライミング造血調節物質のいくつかの例は:ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼインヒビター(3アミノベンズアミド)、TGFベータ1の潜伏関連ペプチド、グリコ−結合体を含有する細胞表面関連マンノース6−ホスフェート、IGFIおよびIGFIIエフェクター、cGMPシグナル伝達の増強物質がある。
上記物質がタンパク質である場合、これはその同族体、合成作成または人工的に工学作成した分子を含む。
【0020】
本発明で使用される間葉細胞は、肝臓、骨髄腸骨稜、大腿骨、および肋骨から得られる細胞または間葉幹細胞を意味する。通常選択される細胞は、造血コロニーを生成できないものである。さらにこれらの細胞は、均一または不均一でもよく、繊維芽細胞、マクロファージ、骨芽細胞、内皮細胞、および平滑筋細胞のような細胞を含む。上記の増殖培地は、動物細胞を培養するのに適したものである。培地は、胎児牛血清(FBS)および随時メチルセルロース、エリスロポエチン、造血成長および分化因子、およびインターロイキンを補足した、イスコブ改変ダルベッコー培地(IMDM)、ダルベッコー改変イーグル培地(DMEM)、アルファ最小基本培地(MEM)、RPMI−1640から選択される。
【0021】
本発明の実施において、ABME接触の初期のサイクル(通常48〜72時間の短時間)で増幅されたSPCは単離することができ、かかる新鮮なABMEとの接触を1回またはそれ以上の回数繰り返してさらなる利点を得ることにより、さらに増幅することができる。
【0022】
II.キット
本発明はまた、人工的骨髄環境(ABME)を作成するための、およびこれを種々の応用(血球生成の1つまたはそれ以上の個々の工程の制御を達成することを含む)に使用するための有用なキットまたは複数のキットであって:
a)前節で記載したものから選択される生物学的、化学的または免疫学的物質である1つまたはそれ以上の造血調節物質、
b)ジメチルスルホキシド、リン酸緩衝液、IMDMを含む造血調節物質の希釈剤、
c)間葉細胞を培養するのに適した培地、例えば前節で記載した成長補助物質を含むダルベッコー培地、RPMI−1640、IMDM、
d)PBSまたはIMDMのような使用された造血調節物質を除去するのに有用な水溶液、
e)ABMEの細胞を採取するのに有用な、および/またはさらなる使用のために活性化SPCをリサイクルするのに有用な溶液、例えばタンパク質分解酵素、インヒビター、およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む溶液、
f)幹前駆細胞をプライムするための造血調節物質の溶液(このような物質は前節で記載したものと同じである)、
g)プライムした幹前駆細胞を使用する前にプライミング物質を除去するための洗浄溶液、例えばリン酸緩衝化生理食塩水またはIMDM、
h)ABMEの支持鋳型または足場(scaffold)、ABMEの細胞、造血促進成長、分化および生存因子、増殖培地、および随時メチルセルロース、血清、適当な足場を含む、インビトロの血球生成のための培地、および
i)指示のマニュアル
を含むキットを提供する。
【0023】
足場は、フィブロネクチン、コラーゲン、または任意の他の同様の基質の2つまたはそれ以上の基質を含む。
【0024】
キットは、i)ABMEを生成する所定の間葉細胞集団の品質を評価するための、ii)その可能な造血調節物質機能のための生物学的、化学的および免疫学的物質の定量的スクリーニングのための、iii)強い血球生成のためにABMEを調製し、幹前駆細胞をプライムするための、iv)単一のまたは複数の系統でインビトロで生成された血球の組成を変化させるABMEを調製するための、v)ある試料中に存在する幹前駆細胞の休止状態を誘導するための、他の試薬を随時含有する。この試薬系は市販の包装された形で、試薬の適合性が許容するなら組成物または混合物として、試験装置の構成で、またはより典型的には試験キットで、すなわち必要な試薬を使用してアッセイを実施するための説明書を有する、1つまたはそれ以上の容器、装置などのパッケージされた組合せとして提供される。
【0025】
上記物質のプライミングの具体例は以下の通りである:
【表1】

【0026】
III 相乗作用:
血球の成長のための条件は骨髄(体内)で最も適しているため、当該分野において血球の増殖と成長は骨髄(体内)でのみ起きると、当該分野では考えられてきた。これらの条件を体外に作成し、血球の成長を増強することは困難であると考えられてきた。これらの仮説に反して本発明者は、血球の制御された成長と増殖に適したインビトロ環境を開発することを助ける新規組成物とキットを開発した。適当な細胞と、造血調節物質および場合によりABME細胞の支持体とを補足した培地との組合せを使用する環境が開発される。こうして作成した環境は、造血に非常に適しており、天然のBMEに似ている。ABMEは、(i)より強い化学誘引による帰巣の増強;(ii)間葉細胞とSPCとの細胞接着を促進することによる移植の増強;(iii)Badのようなアポトーシス促進性分子を減少させることによるアポトーシスシグナルに対するSPCの生存の増強;(iv)骨髄系統およびリンパ球系統に沿ったSPCの運命決定;(v)自己再生および分化経路に沿ったその増殖を促進するための休止SPCの活性化;および(vi)必要な場合のSPC休止状態の誘導、を促進する。
【0027】
さらに本発明の組成物は、すべての成分が使用される時のみ、人工的骨髄様環境を生成することができSPCと造血細胞の成長を促進することができることがわかった。間葉細胞は、造血調節物質による処理無しで使用されると、維持されないし、効率的な人工的骨髄様環境(BME)も作成されない。この結果を与えるのは成分の組合せ(すなわち、細胞と適切な造血調節物質を含む処理培地)のみである。従って本発明の組成物とキットは相乗的であり、驚くべきことに人工的骨髄様環境を作成することが発見され、この結果は、成分が単独に使用される時観察されないものである。従って組成物とキットは相乗的である。
【0028】
IV.方法
ある実施態様において本発明は、人工的骨髄環境を作成するための方法であって:
(i)間葉細胞を得て、これを適切な増殖培地中で培養する工程;
(ii)間葉細胞に造血調節物質を20分〜24時間接触させる工程(こうして、その細胞内シグナル伝達経路が活性化され、これらは骨髄環境のような性質を獲得する);
(iii)前駆細胞(SPC)を得て、場合によりこれをプライムする工程;
(iv)ABMEとの相乗的参加を可能にする細胞内シグナル伝達経路を活性化してより多くの血球の生成するために、上記工程(ii)のように処理した間葉細胞にSPCを接触させ、これを場合により造血調節物質と接触させる工程;
(v)プライムしたSPCにABMEまたは培地中の活性化間葉細胞を20分またはそれ以上接触させて、SPC帰巣、SPC移植、SPC活性化、SPC自己再生、リンパ球および骨髄系統に沿ったSPCの運命決定を達成して強い造血を得る工程、を含むことを特徴とする方法を提供する。この方法はまた、造血調節物質の適切な選択により、具体的な目的のためのSPC休止を誘導するのに使用することもできる。
【0029】
間葉細胞は、腸骨稜から得られる細胞、成体の肋骨または大腿骨から採取される骨髄細胞を含み、20%ヒトもしくは胎児牛血清補足イスコブ改変ダルベッコー培地(IMDM)のような適当な培養培地で、細胞が増殖し、通常細胞培養で3〜4回の連続継代後約3〜6週間で107個またはそれ以上の間葉細胞が得られる条件下で維持される。「細胞培養条件」は、培養物を37℃および5〜7%二酸化炭素の加湿雰囲気中で無菌条件下で適切な細胞培養グレードのプラスチック(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、アメリカ合衆国)中で維持することを含む。
【0030】
上記したように使用される血球生成のための培地は、20%血清を有し、インターロイキン(例えば、IL−1ベータ、IL−3、およびILー6)、幹細胞因子、系統特異的成長因子(例えば、エリスロポエチン、GM−CSF、G−CSF)、および0.8%までのメチルセルロースを補足したIMDMでもよく、培養物は、血球コロニーが良く成長するかまたはコロニーを形成しさらなる分析と使用のために成長が明らか/区別可能になる条件下で12〜14時間維持される。ABME機能の定量性を評価するために同様に設計されたアッセイは、以後「ABMEのための定量的造血コロニー形成アッセイ(HCFA−ABME)」と呼ぶ。
【0031】
ABME作成のために使用された間葉細胞の量は、ABMEで処理されるSPCの数に依存し、方法は、必要な間葉細胞数を増加または減少に合うように適切にスケールが決定される。通常間葉細胞の量は、標的SPCの1.5倍である。
【0032】
間葉細胞に造血調節物質を接触させる工程は、20%血清を有するIMDM中の造血調節物質の適切な溶液/懸濁物で間葉細胞を覆い、標準的細胞培養条件で細胞を0.5〜24時間維持することにより行われ、こうして細胞が活性化され、ABME様性質が誘導され、これは造血調節物質適用が除去された後でさえ、充分な期間有用に維持される。
【0033】
ABME細胞が、使用されるSPC細胞と比較して1.5倍過剰であるように、場合によりSPCまたはSPCを含有する細胞の集団(例:骨髄から単離された単核細胞、臍帯血からの有核細胞、SPC動員後の末梢血からの有核細胞)を調製されたABMEと混合してもよい。SPCとABMEは一般的な培地に懸濁されて、適切な培養条件下で少なくとも30分間維持される。SPCが適当な表面上で接着性にされると、ABME細胞はその上または周りで被覆することができる。さらに各具体的な応用により必要な他の試薬を補足した、IMDM、20%血清、および0.8%メチルセルロースを含む培地を使用して、ABMEとSPCの両方を被覆してもよい。
【0034】
具体的な造血調節物質が使用される濃度、および最適の結果を得るためにあるバッチの間葉細胞が接触される時間は変化し、これらの正確な詳細は個々の場合に決定され、本明細書に記載の造血調節物質の有用な濃度範囲および処理時間は単に指針である。
【0035】
別の実施態様においてこの方法は、インキュベーション中に拡散によりインサイチュで生成される造血のインヒビターを減少させる含有するコンパートメント培養物に適合するように改変され、ここでABMEとSPCの細胞はあるコンパートメント中に含有され、必要なもしくは好ましい成長因子および分化因子または造血調節物質を有する培地を、別のおよび交換可能なコンパートメントからの細胞に接触させる。
【0036】
さらに別の実施態様において方法はフロー培養系に適合するように改変され、ここでABMEとSPCの細胞はある支持体/コンパートメントに含有され、こうして自然にインサイチュで生成する造血インヒビターの蓄積を避けるために、培養培地を構成する適用培地、造血調節物質を有する接触培地、洗浄液、分化培地が、プログラムされた方法で細胞に浸透または通過することを可能にし、細胞への連続的栄養供給を可能にして結果が改良される。
【0037】
本発明者は研究の過程で、強い造血を促進するためにABMEが準備できているかまたはSPCが活性化されていることがわかった場合は、間葉細胞の造血調節物質への接触を続けることが必須ではないことを見いだした。同じ数のSPCが標準としての間葉細胞またはABMEと、本来同等の実験条件下で接触されると、非常に多数のSPCがABMEに動員され、これらがさらにHCFAについて処理されると、標準と比較してABMEでコロニー数の有意な上昇が見られ、帰巣の増強、より有効な移植、および強い血球生成を示唆している。この結果は、試料中に存在する活性化SPCの比率の上昇を意味し、これは、一部のSPCが休止状態を励起させて活性化状態に入り、および/または自己再生を受けて活性化SPC細胞の比率を上昇させたことをさらに示唆する。
【0038】
別の実施態様において本発明者は、正常なSPCが休止状態と等しい状態を達成するように、ABMEの機能を調節する負の造血調節物質を同定した。かかる調節は、細胞サイクル制御特性において差を有する正常なSPCと病的SPCとを区別するためのプロトコールの開発を可能にする。すなわちこの方法は、抗新生物薬を使用してインビトロで白血病SPCの選択的破壊のための治療法を支持してインビボの化学療法に伴う有害な副作用を避ける。
【0039】
本発明を以下の実施例により例示するが、これらは例示目的であり、決して本発明の範囲または概念を限定するものではない。
【実施例】
【0040】
実施例1
a)間葉細胞の入手と調製:
腸骨稜または肋骨から得られる骨髄細胞をイスコブ改変ダルベッコー培地(IMDM)に充分分散させて単一細胞懸濁物を得て、同じ培地で少なくとも3回洗浄して、それぞれ2〜3000rpm(500〜1000×g)で5分間遠心分離して細胞を採取する。洗浄した骨髄細胞(少なくとも108個の細胞)を最大7日間IMDMと20%胎児牛血清またはヒト血清中で細胞培養条件下で維持する。こうして数日で得られた典型的な標準的組織培養グレードのプラスチック(T−25フラスコ、ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、アメリカ合衆国)上の接着性細胞層を普通のIMDMで洗浄し、同じ培地中の標準的細胞培養物を数回継代してさらに拡張する。典型的には3回の継代後、固有の造血すなわちメチルセルロースアッセイで造血コロニーを与える能力が失われる。108個の骨髄細胞から出発して3〜6回の継代で少なくとも107個の間葉細胞が得られる。こうして得られた間葉細胞は、後述の方法でABMEを作成するのに適している。
【0041】
b)ABMEで使用するのに適したSPCの調製
上記工程(a)で得られた洗浄した骨髄細胞を注意深くフィコール−ハイパークの勾配(密度1.007、シグマケミカル社(Sigma Chemical Company)、セントルイス、ミズーリ州)上に重層し、クボタ遠心分離機(クボタコーポレーション(Kubota Coporation)、日本国113−0033、東京都文京区)のスイングアウトローターで1500rpm(1000×g)で15分間遠心分離する。界面層から単核細胞(MNC)が採取され、1000×gでの連続的遠心分離と再懸濁によりIMDMで3回洗浄する。次に20%ヒト血清または胎児牛血清を補足したIMDMにMNCを適当な密度(105〜107MNC/ml)で懸濁する。ここで調製したMNCはそのままABMEとともに使用される。ここで単離されたMNCと同様の環境でSPCはインビボで見つかる可能性が高い。
【0042】
例示目的でこの方法は、上記2つの条件をシミュレートするために、MNCならびに高度に濃縮されたCD34+抗原を発現するSPCとともに試験される。必要な場合、CD34+細胞はCD34+細胞単離キット(ダイナール(Dynal)、スメスタッド(Smestad)、N−0309、オスロ、ノルウェイ)を使用して製造業者の説明書に従ってMNC画分から常法で回収されるが、他の適当な方法を使用してもよい。CD34+細胞はまた、適当な方法を使用して骨髄からまたは臍帯血から動員した後、白血球搬出法により採取される。ABMEへの提示の前または後にCD34-(CD34陰性)前駆体から生成したCD34+細胞は、所望の結果を与える。こうして調製されたSPCはまた、適当なヘマト調節物質でプライムするのに適している。
【0043】
c)間葉細胞は一定数のSPCから造血を刺激する:
間葉細胞がSPC細胞の運命に直接影響を与えることを調べるために、いくつかの実験を行った。あるセットの実験で間葉細胞を別々に培養し、ほとんど50,000個の細胞を、過剰量の種々の精製したおよびヒト特異的サイトカインおよび造血コロニー刺激成長因子(ステムセルテクノロジーズ(Stem cell Technologies)、トロント、カナダ)とともにIMDM中に0.8%メチルセルロースおよび20〜30%血清を含む典型的なHCFA培地に暴露した。さらに詳しくはHCFAで日常的に使用される造血成長因子の量は、2国際単位/ミリリットル(2I.U.ml-1)のエリスロポエチン(EPO)、50ナノグラム/ミリリットル(50ng/ml-1)の幹細胞因子(SCF)および20ナノグラム/ミリリットル(20ng/ml-1)ずつの顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターロイキン−1ベータ(IL−1β)、インターロイキン−3(IL−3)およびインターロイキン−6(ILー6)である{すべての成長因子とサイトカインはステムセルテクノロジーズ(Stem cell Technologies)(バンクーバー、カナダ)から}。本明細書に記載の方法により調製される間葉細胞は、過剰量のすべての必要な成長因子を与えても、それ自体でコロニー形成アッセイ培地で造血コロニーを形成することができなかった。
【0044】
別のセットの実験において50,000個の同じ間葉細胞をまず約100,000個のMNCと混合し、37℃で少なくとも30分間維持し、コロニー生成アッセイのために処理した。いくつかの実験で、これらの2つの種類の細胞を混合すると、MNCの細胞のみを使用した標準と比較して、造血コロニーの数と細胞充実性の改良が見られた。増加は1.5〜10倍であった。間葉細胞のみを使用して得られたコロニー形成の増強は、試料間で変動が大きく予測不可能であった。MNCと間葉細胞を一緒に処理した時のみ数と細胞充実性が上昇して造血コロニーが形成されたことは、間葉細胞により作り出される、MNC中に存在するSPCがより生産性である新しい環境の証拠である。この増加は、自己再生および両方の因子の組合せによる、あらかじめ存在するが休止状態のSPCの活性化と新しいSPCの生成を引き起こす。
【0045】
d)間葉細胞に造血調節物質を接触させるとより良好な結果が得られる:
異なるバッチの間葉細胞は同じ造血調節物質に対して応答が異なるため、造血調節物質の実際の用途には、その用量と接触する期間の最適化を必要とする。多くの実験から本発明者は、一般に便利な出発点は、1〜25ナノグラム/ml(活性成分について)の範囲の生物学的造血調節物質、10nM〜50マイクロモル溶液の範囲の化学的造血調節物質、および10〜50ピコモル溶液の範囲の免疫学的造血調節物質の使用であることを確定した。
【0046】
ABMEを作成するために間葉細胞を、20%ヒト血清または胎児牛血清を有するIMDMに含有される造血調節物質を含む接触培地で所望の期間(8〜24時間の範囲)カバーして、取り出した。次に接触させた細胞を、造血調節物質の無い接触培地(IMDM+20%FCS)を使用して2回洗浄し、そのまままたは間葉細胞を採取した後使用し、これはインビトロABMEの組成である。場合によりABME細胞は支持体上で構成され、これはより良好な結果のために細胞を2つまたはそれ以上の次元に分散させる。必要な数のMNC/SPCおよびABMEの細胞を取り、適当な期間(0.5〜6時間の範囲)一緒に維持し、次にインビトロ造血コロニー形成アッセイまたは造血のために処理する。
【0047】
すなわち本発明者は4セットの実験を行った:(a)単核細胞を未処理の間葉細胞に暴露した;(b)MNCを生物学的物質[TGFβ1]と接触させた間葉細胞に暴露した;(c)MNCを化学的物質1[12−O−テトラデカノイルホルボール、13アセテート/(−)インドラクタムV]と接触させた間葉細胞に暴露した;および(d)MNCを免疫学的物質[活性化、抗インテグリンベータ3抗体]で処理した間葉細胞に暴露した。結果を図1に示すが、以下の通りである:
(A)この場合、低い細胞充実性の血球コロニーはほとんど生成しなかった;
(B)(A)より数が多く細胞充実性の高い血球コロニーが形成された;
(C)(A)より少なくとも4倍大きく(B)より大きい、細胞の大きなコロニーが観察された;
(D)驚くべきことに(A)または(B)より多い高密度の細胞コロニーが形成された。
【0048】
実施例2:
生物学的造血調節物質の作用
調製法は以下を含む:IMDM、20%血清、および細胞から造血調節物質−CMを放出するために適切な量(例:エリスロポエチン2I.U.ml-1;GM−CSF20〜50ng.ml-1)で必要な適当な調節物質(例:エリスロポエチンとGM−CSF)を含む1ミリリットルの培地に、細胞培養条件下で37℃で維持したMNC(>107個の細胞)。適当な期間(8〜96時間の範囲)後、冷却クボタ遠心分離機(5000×g、15分)で遠心分離した後細胞を取り出し、上清として得られた生物学的造血調節物質−CMをそのまま、またはさらに処理して存在する活性成分を濃縮した後使用した。CMの処理は一般に約4℃の冷却環境で行われ、親和性クロマトグラフィーの原理を使用した。簡単に説明すると、マトリックス(例えばヘパリンセファロース)上に固定化した適当な親和性リガンドを取り、低塩緩衝液中で造血調節物質−CMを吸収させ、吸収しない成分をローディング緩衝液で洗い流し、造血調節物質−CMの活性成分をまず高塩(例えば1.5モルNaCl)緩衝液により溶出し、次に濃縮し、保存緩衝液と平衡化させ、将来の使用のために−70℃で保存した。他の2つの生物学的造血調節物質(すなわち、生物学的物質−1と生物学的物質−2)は、それぞれTGFβ1とFGF−2であると確認された。
【0049】
生物学的造血調節物質−CM、TGFβ1、およびFGF−2は適切な条件下で同様に効率的なABMEであった;しかしそれぞれにおいて生成されたABMEは異なっていた。典型的には生物学的造血調節物質−CM、TGFβ1、およびFGF−2は、IMDMと20%ヒト血清または胎児牛血清中1〜25ナノグラムml-1の濃度範囲で使用して間葉細胞に8〜24時間細胞培養条件下で接触させてABMEを作成した。図2に示すように、造血調節物質のみを使用した時(図2C、2Dおよび2E)より強いABME関連の性質が現れたが、間葉細胞を使用しない場合(図2A)または生物学的造血調節物質無しで使用した場合(図2B)はそうではなかった。図は、各場合に生成された血球の密度を示し、これはコロニーの細胞充実度に比例する。最良のコロニーは、間葉細胞に造血調節物質を接触させる時にのみ形成される。
【0050】
実施例3:コロニー形成に対する生物学的造血調節物質の作用
本発明者は、TGFβ1とFGF−2の使用により得られたABMEが、別々に使用した時、間葉細胞からABMEを作成するのにほぼ同じ強さであり、各ABMEが顕著に弱まることなくその親間葉細胞と自由に混合することを、実験により確定した。
【0051】
間葉細胞を使用する定量的、系統特異的コロニー形成アッセイに関するあるセットの実験を行った:(A)どの生物学的物質とも接触せず[図3A対照]、またはTGFβ1[図3A 生物学的物質1]またはFGF−2[図3A 生物学的物質2]と接触した後。顆粒球−赤芽球−単球およびマクロファージ(GEMM)、バースト形成単位−赤芽球(BFU−E)および顆粒球−マクロファージ(GM)を含むいくつかの特異的系統に沿ったコロニー形成は、両方のABMEにより均一に刺激されること、およびTGFβ1とFGF−2は、この作用を維持する各ABMEを作成するのにほぼ同じ強さであることが明らかである。特にGEMMコロニー形成の刺激は、ABMEが多能性前駆体を刺激して、自己再生に等しいより多くの新しい多能性細胞を生成することができることを示す。
【0052】
図3Bにおいて本出願人は、TGFβ1またはFGF−2の使用により作成されるABMEがいずれも、個々に試験すると未処理間葉細胞に適合性であることを証明した。従ってこれらの2つのABMEのそれぞれは、未処理間葉細胞と混合するのに適している。これに対して両方のABMEを等しい比率で混合すると、組合せは個々の場合より弱いABMEであった。これは、これらが互いに拮抗性であり同一ではないことを明瞭に示している。
【0053】
実施例4:コロニー形成に対する化学的造血調節物質の作用
本発明者は、細胞内シグナル生成および/または種々のタンパク質キナーゼ、特にcGMP依存性キナーゼ、脂質依存性キナーゼ(例、PKC)、ホスファチジルイノシトールホスフェート依存性キナーゼおよびファミリー(P13K、PDK、Akt、pBad、mTOR)、細胞接着依存性キナーゼ(FAK、ILK)、受容体チロシンキナーゼ(例:FGFR、VEGFR、IGF−1R、IGF−2R)、受容体−セリン/スレオニンキナーゼ(例:TGFβ1受容体)、および細胞内Ser/Thrキナーゼ(例:MAPK−キナーゼおよびp38MAPKキナーゼ)、Ca++イオン依存性キナーゼ(Ca++−CaM依存性キナーゼ)の機能の維持を調節するいくつかの造血調節物質を試験し、かかる機能をもたらすことができる任意の新しい分子は造血調節物質の候補であることを示した。
【0054】
ABME作成について、間葉細胞を適当な期間(5分〜24時間の範囲)20%ヒト血清または胎児牛血清を有するIMDM(適切な量の造血調節物質も存在する)を使用して接触させた。高濃度の造血調節物質も長い接触時間も良好な結果は与えないため、有効な造血調節物質溶液の調製と間葉細胞を接触させる期間は注意深い最適化が必要である;有用な範囲は造血調節物質について1ナノモル〜100μモルであり、接触期間は5分〜24時間である。
【0055】
別の態様において本発明者は、生物学的物質と化学的物質のいくつかの組合せは相乗的に作用し、いずれか1つのみを使用した時と比較してより良好なABMEが作成されることを確定した。
【0056】
別の態様において本発明は、適当な化学的造血調節物質を使用して血球生成を抑制できることを確定した。これらは、SPC休止を促進することを示すために「陰性造血調節物質」と呼ばれる。かかる造血調節物質は、もし優勢であるなら、他の造血調節物質の刺激作用を弱めることができる。
【0057】
図4は、異なる造血調節物質の使用が、種々の系統で異なって血球生成を刺激することができるABMEを作成することを示す。図4Bと4Cは、コロニー形成に対する化学的造血調節物質の作用を示す。図4Dは、生物学的造血調節物質と化学的造血調節物質との組合せの作用がABME作成において相乗作用を示すことができるを示す。図4Eは、陰性造血調節物質によるABMEの用量依存性の減弱を示す。
【0058】
実施例5:免疫学的造血調節物質
本発明者は、インテグリン受容体を介して間葉細胞上の接着性相互作用を活性化できる抗体試薬またはその機能性同族体は、造血調節物質として作用することを確定した。さらにかかる免疫学的造血調節物質は生物学的造血調節物質および/または化学的造血調節物質と相乗作用して、インビトロでより良好なABMEを作成する。かかる免疫学的造血調節物質は、20%ヒト血清または胎児牛血清を有するIMDMを含む培地中10〜100マイクログラム.ml-1の範囲で有用性である。間葉細胞にこの培地を適当な期間(1〜24時間の範囲)、間葉細胞がABMEを生成する培養条件下で接触させる。別の態様において免疫学的造血調節物質の使用は、より良好な結果を得るために化学的造血調節物質および/または生物学的造血調節物質の使用と組合せることができる。
【0059】
図5に示すように、間葉細胞が使用されるとほんのわずかの血球コロニーしかが形成されない(対照:黒い棒)。これに対して免疫学的造血調節物質の溶液(ヒトベータ3インテグリンサブユニットに対する抗体)を、20%ヒト血清または胎児牛血清を有するIMDMを含む培地に懸濁した50マイクログラム/ミリリットルの溶液を使用して間葉細胞を1時間接触させると、間葉細胞は非常に有効なABMEを生成し、インビトロでのコロニー形成と血球生成が増強された。
【0060】
実施例6:SPCをABMEに接触させる前にSPCをさらにプライムすることにより結果を改良する
SPCまたはSPCを有するMNCの集団はまた、特異的化学的物質で別々にプライムして、これらがABMEに接触した後、より多くの良好な血球コロニーを形成するようにすることができる。SPCのプライミング自体が、プライミングの無い細胞と比較してより良好でより多くのコロニーを形成できるが、最良の結果は、プライムしたSPCをABMEと組合せた時に得られた。本発明者は、SPCをプライムすることができ、改良されたコロニー形成/血球コロニーを与える少なくとも10個の異なる化学的物質を同定し、これはこの方法もまた、新しいプライミング物質(潜伏関連ペプチド、3−アミノベンズアミド、IGF−1とII、マンノース6p含有グリコール結合体)の同定に有用であることを意味する。プライミング物質はインテグリン性接着に関連するシグナルを活性化することができ、IGF−I受容体、マンノース6−ホスフェート/IGFII受容体、cGMP依存性機能を活性化するか、またはSPCに対するポリ(ADP−リボースホスフェート)ポリメラーゼ機能を阻害することができ、これらに機能的に相同的な新しい分子はプライミング物質として受容されることを示す。これらのプライミング物質は造血を有意に調節したため、これらは造血調節物質として受容される。
【0061】
実施例7:帰巣の調節:
実験A
5×105個の間葉細胞を、20%血清を含有するIMDM中直径35mmのシャーレ(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、アメリカ合衆国)で成長させた。細胞がコンフルエンスになった後、培地を除去し、細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(ギブコビーアールエル(GIBCO BRL))(PBS)で2回洗浄し、培地を10ngml-1のTGFβ1含有処理培地と交換しして、37℃の5%CO2の標準的細胞培養環境に戻した。4時間後処理培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、0.5%血清を含有するIMDMの1mlでカバーし、37℃で5%CO2でのインキュベーションを続けた。18時間後調整培地を採取し、CD34+SPCのインビトロ帰巣を支える能力について測定した。別の平行実験において、等しい数の間葉細胞も使用し、TGFβ1を使用せず、この実験から得られた調整培地を比較のために標準として使用した。結果を図6(a〜c)に示す。TGFβ1で間葉細胞を処理後(こうしてこれらは活性ABMEを生成する)、有意に多い量のSDF−1αを放出され、これはそこにSPCを誘引するためにABMEの近傍に化学的勾配を作成することができ、こうしてこの帰巣を促進する。図6(a〜b)に示すように、未処理の間葉細胞は、TGFβ1で処理した間葉細胞と比較して、まったくまたはほとんどぎりぎりの帰巣しか示さない。帰巣は、適当な量の中和抗体をSDF−1αまたはその受容体CXCR−4に加えて、SPCの化学誘引に対するその作用を中和することにより、またはプロセスの特異性を示すSDF1の外からの添加により勾配を破壊することにより、帰巣を調節することができた。
【0062】
実験B
間葉細胞を無菌の1cm×1cmのカバーガラス上でほぼコンフルエンスまで増殖させて、10ngml-1のTGFβ1を含有する処理培地でカバーし、加湿無菌雰囲気と5%CO2中で18時間インキュベートした。次にカバーガラスをPBSで洗浄し、こうして作成したABMEを20%血清を有する0.2mlのIMDM中2×106個のMNCまたは2×105個のCD34+細胞の懸濁物でカバーした。37℃で1時間後カバーガラスをPBSで洗浄し、細胞を固定し、CD34+特異抗体(クローンHPCA1、ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、アメリカ合衆国)で染色した。結果を図6(d〜f)に示す。結合したCD34+細胞の数を計測し、TGFβ1を使用しなかった平行参照実験で結合した同様の細胞の数と比較した。間葉細胞でTGFβ1により生成されたABMEは、参照カバーガラスと比較して有意に多い数のCD34+細胞が結合し、ABMEへのこれらの細胞の帰巣は間葉細胞単独より優れていた。図6(d〜f)から、間葉細胞をTGFβ1で処理すると、間葉細胞へのCD34+細胞の接着が増加することがわかる。
【0063】
実施例8:移植の調節
図6dで見られたABMEへのCD34+細胞の接着が機能的に関連しているかどうか、そしてもしそうならかかる移植を促進するどのような機構がABMEにより使用されているかを決定するために、移植実験を行った。
【0064】
間葉細胞(24ウェルディッシュ中5×104細胞/ウェル)をIMDM+20%胎児牛血清でほとんどコンフルエンスになるまで増殖させた。培地を除去し、PBSで2回洗浄した。間葉細胞中のαiib:β3インテグリンシグナル伝達を選択的に活性化する化学的造血調節物質[ビオチン−Ser−Gly−Ser−Gly−Cys*−Asn−Pro−Arg−Gly−Asp(Tyr−OMe)Arg−Cys*Lys(C*−C*の間で環化した)、10マイクログラムml-1、18時間]を使用してABMEを調製した。生成したABMEをPBSで2回洗浄し、αiib:β3インテグリンの相互作用を阻害する別のペプチド[1−アダマンタンアセチル−Cys*Gly−Arg−Gly−Asp−Ser−Pro−C(Cys*−Cys*の間で環化した)]の存在下または非存在下で、0.2mlのCD34+SPC細胞(105ml-1)の懸濁物で1時間カバーした。インキュベーションの最後に細胞をPBSで2回洗浄し、造血コロニー形成アッセイ(HCFA)のために処理した。造血コロニー形成のために、結合したSPCを有するABME細胞をマルチウェルディッシュから採取し、20%血清、0.8%メチルセルロース、および過剰量の種々の精製およびヒト特異的サイトカイン、および造血コロニー刺激成長因子[ステムセルテクノロジーズ(Stem cell Technologies)(バンクーバー、オンタリオ、カナダ)から]を含有する1mlのIMDMに再懸濁した。さらに詳しくはHCFAで通常使用される造血成長因子の量は、2国際単位/ミリリットル(2IU.ml-1)のエリスロポエチン(EPO)、50ナノグラム/ミリリットル(50ng/ml-1)の幹細胞因子(SCF)および20ナノグラム/ミリリットル(20ng/ml-1)ずつの顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、インターロイキン−1ベータ(IL−1β)、インターロイキン−3(IL−3)およびインターロイキン−6(ILー6)であった。細胞を造血コロニーが大きくなるまで12〜14日間インキュベートした。結果を図7に示す。ペプチド化学調節物質により生成したABMEは、有意に多い造血コロニーを生成することができたが、この造血調節物質機能は阻害性ペプチドで阻害され、コロニー数はインヒビター用量依存性に低下した。結果は、αiib:β3インテグリン相互作用を介してABMEへのSPCにより確立された接触が機能的に関連し、障害された場合はABMEの機能を弱めることを明らかに示している。従ってこれらの結果は、造血調節物質によるABMEへのSPCの接着の促進は機能的に関連し、インビトロのSPC移植に等しく、さらにこの移植はインビトロで調節することができることを明らかに示す。
【0065】
実施例9:系統の運命決定の調節
造血中のSPCの系統の運命決定は、生成される成熟Bリンパ球の組成に影響を与える。ABMEの適切な使用により2つの系統の成熟血球生成の組成を改変できることを示すために、系統の運命決定実験を行った。
【0066】
間葉細胞(24ウェルディッシュ中5×104細胞/ウェル)をIMDM+20%胎児牛血清でほとんどコンフルエンスになるまで増殖させた。培地を除去し、PBSで2回洗浄した。2つの生物学的造血調節物質(TGFβ1 10ngml-1、bFGF 10ngml-1、18時間)を別々に使用して、2つのABMEを調製した。生成したABMEをPBSで2回洗浄し、CD34+SPC細胞(105ml-1)の懸濁物0.2mlで37℃で1時間カバーした。次に洗浄後ディッシュのすべての細胞を採取し、HCFAで使用した。14日後、生成した成熟血球を採取し、懸濁物のアリコートを顕微鏡で観察して成熟リンパ系細胞と骨髄系細胞を同定し計測した。結果を図8aに示す。bFGFにより調製したABMEを使用した時、より多くのリンパ系細胞が産生され、ABMEを調製するためにTGFβ1を使用した時は、より多くの骨髄系細胞生成を支持した。これらの結果は、特異的造血調節物質を選択して調製したABMEを使用して、系統の運命決定を調節し、生成された成熟血球中の骨髄系細胞およびリンパ系細胞の組成物または産生を改変できることを明瞭に示す。
【0067】
この実験は、生成した成熟血球の組成は赤芽球系細胞および骨髄系細胞について改変することができることを証明するために行った。間葉細胞(24ウェルディッシュ中5×104細胞/ウェル)をIMDM+20%胎児牛血清でほとんどコンフルエンスになるまで増殖させた。培地を除去し、PBSで2回洗浄した。1つのウェルの細胞をカルシウムイオンキレート物質であるBAPTA(5マイクロモル)のジブロモ誘導体で1時間処理したが、別のウェルにはBAPTA誘導体の無い培地のみを加えた。37℃で1時間インキュベーション後、両方のウェルにTGFβ1を加え(10ngml-1)、さらに18時間インキュベーションを続けた。両方のウェルで生成したABMEを洗浄し、CD34+SPCを使用してHCFAのために使用した。14日後成熟血球を採取し、赤芽球系および骨髄系系統の細胞について定量した。結果を図8bに示す。結果は、ジブロモBAPTA誘導体をABMEの生成のために使用すると、ジブロモBAPTAを使用しなかった標準実験と比較して、赤芽球系細胞および骨髄系細胞集団の比率の有意な差があることを示した。
【0068】
実施例10:細胞生存の調節
ABMEが細胞生存を促進する性質を有するかどうかを調べるために実験を行った。ホスホ(セリン473)Akt/PKB、ホスホール−Badのような生存促進分子の存在について間葉細胞を調べると、これらの物質が細胞中に非常に少量存在することがわかった。しかし間葉細胞を使用してABMEを調製すると、ABME細胞中ではホスホ(セリン473)Akt/PKB、ホスホ−Bad、活性化酸化窒素シンターゼのような生存促進因子の有意なアップレギュレーションがあった。これらの結果は、生存促進因子がABME中で活性化され、従ってこれらはABMEとの接触中にSPCに輸送されることを示す。別のセットの実験では、3アミノベンズアミドを使用してポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼの阻害によりSPC中で生存促進シグナルがアップレギュレートされた。結果を図9(a〜d)に示す。結果は、この処理後SPCは、生成される造血コロニーの数を相乗的に増加させることができ、SPC−細胞生存がインビトロで調節できることを示した。
【0069】
実施例11:自己再生の調節
実験A
MNC中に存在する休止状態の原始前駆体がABMEと接触すると刺激されて、混合系統からなる(GEMM)より多くのコロニーを形成するかどうかを調べるために実験を行った。
【0070】
間葉細胞をIMDM+20%胎児牛血清でほとんどコンフルエンスになるまで増殖させた。培地を除去し、PBSで2回洗浄した。生物学的造血調節物質すなわちTGFベータ1(20ngml-1)を使用してABMEを調製した。生成したABMEをPBSで2回洗浄し、非酵素溶液(シグマ(Sigma))で細胞を分離させた。一定数のMNC(すなわち2×105)を種々の用量の分離した間葉細胞(2×104、5×104、1×105)と混合し、1時間インキュベートした。インキュベーションの最後に細胞を造血コロニー形成アッセイ(HCFA)のために処理した。対照間葉細胞に対してABMEの細胞を実験で使用すると、GEMMコロニー形成の用量依存性上昇が観察された(図10a)。第2にGEMM生成の刺激については、最も高い濃度(1×105)の間葉細胞より最も低い濃度のABMEからの細胞(2×104)でより効率的であり、ほぼ10倍の効率の上昇を示した。
【0071】
実験B
SPC自己再生の点でABMEは利点を有するかどうかを調べるために実験を行った。
【0072】
間葉細胞を無菌の1cm×1cmのカバーガラス上でほぼコンフルエンスまで増殖させて、10ngml-1のTGFβ1を含有する処理培地でカバーし、加湿無菌雰囲気と5%CO2中で18時間インキュベートした。次にカバーガラスをPBSで洗浄し、こうして作成したABMEを20%血清を有する0.2mlのIMDM中2×105個のCD34+細胞の懸濁物でカバーした。1時間後、細胞を洗浄し、結合した細胞を0.8%メチルセルロースと成長因子とを含有する20%血清を有する培地でカバーした。48時間後のCD34+細胞の数の変化をCD34+特異抗体(クローンHPCA1、ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、アメリカ合衆国)で追跡した。結果を図10bに示す。TGFβ1を使用しなかった他の実験と比較して、ABMEはより多くのCD34+細胞増殖を支持することがわかった。さらにABMEは、間葉細胞と比較して有意に多量の自己再生のプロモーターJagged1を含有することが確定された(図10c)。
【0073】
実施例12:正常な酸素条件下での低酸素症の誘導
具体的な造血調節物質を使用して正常な酸素条件下で低酸素症を作成する可能性を調べるために、これらの実験を行った。
【0074】
実験A
生物学的調節物質すなわちTGFβ1を使用して上記実験#1に示した詳細に従って、ABME生成のために間葉細胞を処理した。所定の時間後細胞を固定し、HIF1α(これは低酸素症に関連する特異的転写因子である)に対する抗体を用いて免疫染色した。対照細胞と比較して、TGFβ1で処理した間葉細胞ではHIF1αの明瞭な核発現が見られた(図11a)。
【0075】
実験B
生物学的調節物質すなわちTGFβ1を使用して上記実施例7(a)に示した詳細に従って、ABME生成のために間葉細胞を処理し、200μMのヒポキシ(Hypoxy)プローブ(ケミコン(Chemicon)、アメリカ合衆国)で48時間インキュベートした。細胞を固定し、標識物の検出に特異的な抗体を用いて免疫染色した。結果を図11bに示す。TGFβ1を使用して作成したABMEは標識物の高い取り込みを示し、低酸素症条件の存在を示した。
【0076】
実施例13:造血機能における適合性についての間葉細胞の評価
実施例8に記載した方法で、ABME生成における間葉細胞の有用性を評価するために種々の間葉細胞のスクリーニングを行うことができる。結果を図12に示し、ここで2つの別の骨髄試料から培養した間葉細胞集団と接触した時の造血調節物質の効力が比較される。同じバッチのSPCを使用しある既知の造血調節物質を標準点として維持して、ある間葉細胞試料の「ABME生成能力」を評価することができる。
【0077】
実施例14:造血調節物質のスクリーニング:
実施例8に記載した方法で間葉細胞を使用して、しかし種々の可能な造血調節物質の補助物質を有する処理培地を使用して、新規造血調節物質をスクリーニングすることができる。結果を図13に示すが、ここでABME生成について刺激性対阻害性造血調節物質の作用が示される。既知の造血調節物質を標準点として取り込み、同じバッチのSPCを使用するなら、標準造血調節物質に換算してABMEを導入する能力について試験物質を評価することができ、陽性/陰性;強力/余り強力ではない/無効な造血調節物質などとして判定される。
【0078】
本発明で使用された材料:
本発明で使用したすべての材料は市販されている。骨髄、SPC、間葉細胞、培養培地、成長因子と分化因子、インターロイキン、血清、抗体のような生物学的物質は、バイオテクノロジー会社、例えばカンブレックス・バイオサイエンス(Cambrex Bioscience)、アメリカ合衆国;アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)、アメリカ合衆国;ギブコビーアールエル(GIBCO BRL)、アメリカ合衆国;シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)、アメリカ合衆国;サンタクルツバイオテクノロジー(Santacruz Biotechnology)、アメリカ合衆国;ネオマーカー(Neomarker)、アメリカ合衆国;ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、アメリカ合衆国;ステムセルテクノロジーズ(Stem cell Technologies)、バンクーバー、オンタリオ、カナダ;バッケム(Bachem)、スイス;アレクシス社(Alexis Corporation)、スイス;プロメガ社(Promega Corporation)、アメリカ合衆国;ペプロテック(Peprotech)、英国などから得た。細胞分離製品は、ダイナール(Dynal)、ノルウェー、から;メチルセルロースはシグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)、アメリカ合衆国から;細胞培養関連プラスチックはベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、アメリカ合衆国;コーニング(Corning)、コスター(Costar)、アメリカ合衆国から;細胞培養関連装置(例えば二酸化炭素インキュベーター)はフォルマ(Forma)、アメリカ合衆国から;光学的装置例えば種々のタイプの顕微鏡はツァイス(Zeiss)、ドイツ;オリンパス社(Olympus Corporation)、日本、およびニコン、日本、から得た。
【0079】
本発明の利点と工業応用:
本発明の組成はABMEの作成に使用され、これは以下:
a)自然のまたは人工的造血の異なる工程を調節するのに、
b)健康なおよび疾患の骨髄細胞中の骨髄機能を評価するのに、
c)体内の内因性サイトカインおよび成長/分化因子のレベルに影響を与えることなく、自然の造血を迅速に増強するのに、
d)自己造血を刺激することにより、SPC移植で観察される移植片対宿主反応病を最小にまたは排除するのに、
e)適当な遺伝子または分子を導入して新規機能の作成においてインビトロ移植SPCを使用するのに、
f)インビトロ移植可能なおよび移植不可能なSPCを選択的に破壊するのに、
g)インビトロで1つまたはそれ以上の系統の血球の強い成長を促進するのに、
h)当該分野で公知の方法により骨髄から白血病前駆細胞を排除するのに、
i)正常酸素条件下で細胞の低酸素状態を促進するのに、
j)正常なおよび病的なSPCの休止状態を誘導するのに、
k)造血の1つまたはそれ以上の工程を制御する新しい薬剤を発見するのに、
l)SPCを非造血細胞の運命に分化またはその逆を可能にする新しい薬剤を発見するのに、
m)新に生成された免疫細胞を、細胞性または抗体性免疫応答により、選択された生物学的標的を破壊するように養成するのに、
n)新に生成された免疫細胞を、自己の正常な標的細胞を避けて自己免疫疾患の弱体作用を防止するように養成するのに、
o)新に生成された免疫細胞を、寛容を誘導して同種組織インプラントを許容するように養成するのに、有用である。
【0080】
本発明を詳細に説明したが、これは本発明の精神と範囲を逸脱することなく、かつ過度の実験をすることなく、ある広範囲の同等のパラメータ、濃度、および条件内で実施できることを当業者は理解されたい。
本発明を詳細に説明したが、これは本発明の精神と範囲を逸脱することなく、かつ過度の実験をすることなく、ある広範囲の同等のパラメータ、濃度、および条件内で実施できることを当業者は理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1A〜1D:図1は、異なる種類の培地に単核細胞を蒔いた時の造血コロニーの生成を示す。
【図2】図2A〜2E:図2Bは、MNCを間葉細胞と混合することによるコロニー形成アッセイの結果を示し、2C、2Dおよび2Eは、それぞれ生物学的、化学的または免疫学的造血調節物質の間葉細胞との接触工程を含めた後の結果を示す。2Aは、間葉細胞の無いMNCのみから生成されるコロニーの性質を示す。
【図3】図3A〜3Bは、それぞれ別々に使用した時TGFβ1とFGF−2の使用で効力の等しいABMEが生成されることを示す。
【図4】図4A〜4Eは、コロニー生成と造血細胞の成長に及ぼす種々の造血調節物質の作用を示す。
【図5】図5は、免疫学的造血調節物質の作用とその効力を示す。
【図6】図6(a−c)は、ABME中に存在する間葉細胞が、適当な造血調節物質で処理されるとSDF1αのような化学走化性分子の発現量を増加させ、従って遊走または帰巣および接着が増強されることを示す。
【図7】図7は、異なる造血調節物質の適切な組合せを選択することにより造血が調節されることを示す。棒は、一定数のMNCが使用される時生成する造血コロニーと、活性化および阻害性タイプの造血調節物質を使用して間葉細胞で生成されるABMEを示す。
【図8】図8(a−b)は、適当な造血調節物質で作成したABMEをHSPCに接触させることによる、HSPCの系統の運命決定の変化を示す。
【図9】図9(a−d)は、細胞生存因子を適当な造血調節物質で処理することによるABME中の細胞生存因子の増加を示す。
【図10】図10(a−b)は、適当な造血調節物質を使用することによるSPCの自己再生分裂の上昇を示す。図10(c)は、自己再生を指示する調製されたABME細胞中のシグナル伝達分離Jagged1の発現を上昇を示す。
【図11】図11(a−b)は、適当な造血調節物質の使用による標準酸素条件下での細胞の低酸素環境の作成を示す。
【図12】図12は、ある造血調節物質に接触した時にABMEを生成する2つまたはそれ以上のある間葉細胞集団の相対的効力の評価を示す。
【図13】図13は、ABME生成についての刺激性または阻害性造血調節物質のスクリーニングを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SPC機能と骨髄プロセスのいくつかの工程を調節するための人工的骨髄様環境(ABME)を開発するための組成物であって:
a]間葉細胞の培養物;
b]細胞内シグナル伝達を活性化することができる造血調節物質または複数の調節物質、ここで当該造血調節物質は、例えば生物学的物質、化学的物質、免疫調節剤、およびこれらの1つまたはそれ以上の適当な組合せよりなる群から選択される;
c]適当な血清(例えばFBSまたはヒト血清;5〜30%)または他の血清代替物を補足し、および場合により造血調節物質、メチルセルロース、エリスロポエチン、造血成長および分化因子、インターロイキン1ベータ、インターロイキン3、およびインターロイキン6を補足した、イスコブ改変ダルベッコー培地(IMDM)、ダルベッコー改変イーグル培地(DMEM)、アルファ最少基本培地(α−MEM)、RPMI−1640のような哺乳動物細胞の培養に適した培地から選択される処理培地、適用培地または接触培地;
d]追加の細胞外マトリックスまたは2つまたはそれ以上の次元でマトリックスを形成することができるその模倣物の成分を含む細胞の支持体
を含む組成物。
【請求項2】
処理培地、適用培地または接触培地は、1つまたはそれ以上の造血調節物質、胎児牛血清もしくは哺乳動物源(5〜30%)から選択される血清、または適当な血清代替物、エリスロポエチンもしくはその模倣物:2IU/mlの精製された成長因子および分化因子、および濃度範囲1〜10ナノモルで使用されるインターロイキン、および0.8%メチルセルロースを補足されたIMDM、DMEM、αMEM、RPMI−1640のような哺乳動物細胞の培養に適した培地を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
造血調節物質は以下の表Iに記載された調節物質から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の組成物:
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【請求項4】
間葉細胞は哺乳動物の胎児、好ましくはヒト起源の胎児から得られた組織から得られることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
間葉細胞は哺乳動物起源、好ましくはヒト起源の臍帯血と胎盤から得られることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
間葉細胞は哺乳動物、好ましくはヒト起源の腸骨稜、肋骨、大腿骨、または任意の他の適当な骨試料から得られることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
人工的骨髄環境の作成及び本明細書に記載の種々の目的のためのその使用であって:
i)好ましくは胎児牛血清および場合によりメチルセルロースとエリスロポエチンを補足したイスコブ改変ダルベッコー培地(IMDM)、ダルベッコー改変イーグル培地(DMEM)、アルファ最小基本培地(MEM)、RPMI−1640から選択される哺乳動物細胞の培養に適した増殖培地で間葉細胞を得て増殖させる工程、
ii)上記i)で調製された間葉細胞に、請求項3に記載の造血調節物質または複数の調節物質を少なくとも30分間接触させて、こうして間葉細胞を活性化してABMEを生成する工程、
iii)場合により、工程ii)のABME細胞を洗浄して造血調節物質を除去する工程、
iv)工程7.iii)で作成されたABMEの細胞に、SPCをそのまままたは場合によりこれらをプライミング造血調節物質で処理した後に接触させて、SPC帰巣、SPC移植、SPC自己再生のような特徴を有する造血を活性化し、骨髄様環境でインビトロで存在するような血球を強固に生成する工程、
v)場合により、工程ivで得られたSPCを新鮮なABMEと1回またはそれ以上のサイクルの接触で処理して、SPC集団および運命決定された前駆体を漸次拡張し、より大きな利点を達成する工程、
を含むことを特徴とする方法及び使用。
【請求項8】
骨髄組織または複数の組織に造血調節物質を接触させてそのABME関連性質を改良することにより、骨髄組織または複数の組織をインビトロで回復させる方法。
【請求項9】
請求項1の組成物と請求項7の方法に従いインビトロでABMEをまず調製し、これを、外科の分野の公知の方法により受容者に移植することによる、天然の組織中の骨髄環境を調節する方法。
【請求項10】
造血調節物質として使用するための新しい生物学的、化学的または免疫学的物質を発見するための方法。
【請求項11】
インビトロでABMEを生成する相対的効力において、間葉細胞を与えることができる複数の組織試料を比較する方法。
【請求項12】
請求項3から選択される適当な造血調節物質で調製されるABMEを使用して、SPCの休止状態を誘導する方法。
【請求項13】
正常なSPCと病的SPCとを区別する方法。
【請求項14】
SPCの骨髄集団から白血病前駆体を追い出す方法。
【請求項15】
正常な酸素条件下で間葉細胞の低酸素状態を誘導し維持する方法。
【請求項16】
インビトロで血球生成を制御するための人工的骨髄環境(ABME)を作成するのに有用なキットであって:
a)生物学的、化学的または免疫学的物質である1つまたはそれ以上の造血調節物質、
b)ジメチルスルホキシド、リン酸緩衝液、IMDMを含む造血調節物質の希釈剤、
c)間葉細胞を培養するのに適した培地、例えば成長補助物質を補足したダルベッコー培地、RPMI−1640、IMDM、
d)リン酸緩衝化生理食塩水またはIMDMのような使用された造血調節物質を除去するのに有用な水溶液、
e)ABMEの細胞を採取するのに有用な、および/またはさらなる使用のために活性化SPCをリサイクルするのに有用な溶液、例えばタンパク質分解酵素、インヒビター、およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む溶液、
f)幹前駆細胞をプライムするための造血調節物質の溶液、
g)プライムした幹前駆細胞を使用する前にプライミング物質を除去するための洗浄溶液、例えばリン酸緩衝化生理食塩水またはIMDM、
h)ABMEの支持鋳型または足場(scaffold)、ABMEの細胞、造血促進成長因子、分化因子および生存因子、増殖培地、および随時メチルセルロース、血清を含む、インビトロの血球生成のための培地、および
i)指示のマニュアル
を含むキット。
【請求項17】
請求項5に記載のキットであって、造血調節物質のための希釈剤、造血調節物質を間葉細胞に接触させてABMEを作成するのに適した培地、使用された造血調節物質を除去するのに有用な溶液、ABMEの細胞および/または活性化SPCを採取するための溶液、SPCをさらにABMEと相乗作用できるようにするプライミング物質として作用する造血調節物質の溶液、その使用後のプライミング物質を除去するために洗浄溶液、インビトロ移植、SPC活性化、SPC自己再生、および強い血球生成を促進するためのABMEにプライムしたSPCを接触させるための培地、をさらに含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−531166(P2008−531166A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557602(P2007−557602)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002249
【国際公開番号】WO2006/092650
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(507293837)ナショナル センター フォー セル サイエンシズ (1)
【出願人】(507293848)タタ インスティテュート オブ ファンダメンタル リサーチ (1)
【Fターム(参考)】