説明

経口・経腸栄養組成物

【課題】 外科術前後、基質的疾患、外傷などの侵襲下にある患者の栄養管理に適し、たんぱく質代謝改善作用、抗酸化作用を有する経口・経腸栄養組成物を提供することである。
【解決手段】 100kcalあたり、少なくとも
ビタミンC 60〜120mg、
ビタミンA 250〜600IU、
ビタミンE 2.8〜5mg、
亜鉛 1.3〜4.0mg、
銅 0.05〜0.3mg(但し、亜鉛/銅は重量比で10以上である)、
セレン 5〜15μg、および
たんぱく質 3〜6g
を含有し、前記たんぱく質は、その総量に対して植物性たんぱく質を18〜50重量%含有し、さらに脂質として、ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸の重量比が2〜4である脂肪酸組成を有する脂質と、中鎖脂肪酸トリグリセライドとを含有し、この中鎖脂肪酸トリグリセライドを脂質カロリーの15〜50重量%の割合で含有した経口・経腸栄養組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科術前後、基質的疾患、外傷などの侵襲下にある患者の栄養管理に適した経口・経腸栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば手術侵襲下にある患者や重度外傷患者の回復のためには、栄養療法が必須である。このような患者は、多くの場合異化亢進状態にあり、さらに酸化ストレスに曝露されていることに加えて、消化吸収能力の低下がみられる場合もある。さらに、高齢の患者等では、褥創を予防するためにたんぱく質代謝を活性化させることが有益である。従って、このような患者に対する栄養療法では、栄養学的に優れているだけでなく、患者の状態を考慮した栄養組成物の補給が必要となる。
【0003】
ところで、通常食を摂取することが不可能な患者に対する栄養組成物として、特許文献1には、特定の脂質およびたんぱく質を一定の割合で含有し、さらにビタミン、ミネラル、微量元素などを含有した栄養組成物が開示されている。この栄養組成物は、腸管機能の劣った高齢者等の腸管機能を改善するなどの効果がある。
【0004】
特許文献2には、高齢者の栄養要求に合致するように、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル、微量元素などを含むポリメリック完全栄養組成物が記載されている。
【0005】
特許文献3には、特に高齢者の免疫反応を改善したり、感染を予防するのに効果的な多ビタミン、多ミネラル栄養補給剤が開示されている。
【0006】
しかしながら、植物性たんぱく質を含有し、かつ侵襲下にある患者に対するたんぱく質代謝、抗酸化および消化吸収能の低下に配慮した栄養組成物は知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開2003‐313142号公報
【特許文献2】特開昭64‐67164号公報
【特許文献3】特開平6‐340535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特に外科術前後、基質的疾患、外傷などの侵襲下にある患者の栄養管理に適し、たんぱく質代謝改善作用、抗酸化作用を有する経口経腸栄養組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、以下に示す栄養組成物を摂取することにより、侵襲下にある患者のたんぱく質代謝、酸化ストレス状態を改善することができるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)100kcalあたり、少なくとも
ビタミンC 60〜120mg、
ビタミンA 250〜600IU、
ビタミンE 2.8〜5mg、
亜鉛 1.3〜4.0mg、
銅 0.05〜0.3mg(但し、亜鉛/銅は重量比で10以上である)、
セレン 5〜15μg、および
たんぱく質 3〜6g
を含有し、前記たんぱく質は、その総量に対して植物性たんぱく質を18〜50重量%含有し、さらに脂質として、ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸の重量比が2〜4である脂肪酸組成を有する脂質と、中鎖脂肪酸トリグリセライドとを含有し、この中鎖脂肪酸トリグリセライドを脂質カロリーの15〜50重量%の割合で含有したことを特徴とする経口・経腸栄養組成物。
【0011】
(2)100kcalあたり、微量元素として、
クロム 3〜15μg、
モリブデン 3〜15μg、および
マンガン 0.32〜0.8mg
を含有した請求項1記載の経口・経腸栄養組成物。
(3)100kcalあたり、ビタミンDを20〜60IU含有した請求項1または2記載の経口・経腸栄養組成物。
(4)100kcalあたり、オリゴ糖を0.1〜1g含有した請求項1〜3のいずれかに記載の経口・経腸栄養組成物。
(5)100kcalあたり、食物繊維を0.2〜3g含有した請求項1〜4のいずれかに記載の経口・経腸栄養組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の栄養組成物は、たんぱく質代謝改善作用および抗酸化作用を示すことが期待できるので、特に外科術前後、基質的疾患、外傷などの侵襲下にある患者の栄養管理に適するという効果がある。また、日本人の食事を考慮して、植物性たんぱく質を含有しているので、長期的な栄養管理を行なうのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の栄養組成物は、たんぱく質代謝、抗酸化作用および消化吸収を考慮して、所定量のビタミン、ミネラルを含有し、さらにたんぱく質として植物性たんぱく質を含有している。
【0014】
ビタミンC、ビタミンA、亜鉛はコラーゲンおよびたんぱく質代謝の調節に有用である(MacKay D et al., Alt Med Rev, Vol. 8, 359-77, 2003)。そこで、本発明では創傷治癒を促進し、褥瘡を予防するために、ビタミンC、ビタミンAおよび亜鉛の含有量を多くしている。すなわち、本発明の栄養組成物は、100kcalあたり、ビタミンCを60〜120mg、ビタミンAを250〜600IUおよび亜鉛(Zn)を1.3〜4.0mg含有している。本発明では亜鉛を1.6〜3.5 mg配合していることがより好ましい。さらに、本発明では銅(Cu)を0.05〜0.3mg含有し、Zn/Cuが重量比で10以上、特に10〜45であるのが、たんぱく質代謝を改善する上で好ましい。
【0015】
ビタミンC、ビタミンEおよびビタミンAは抗酸化作用があることが知られている(Hillstrom RJ, J Nutri 2003, 133: 3047-51、Baines et al, Curr Opin Glin Nutr Metab Care 2002、Fairfield KM and Fletcher RH, JAMM, 19, 3116-26, 2002)。また、亜鉛(Zn)は生体内の抗酸化酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の、セレン(Se)はグルタチオンペルオキシターゼのそれぞれ構成成分として、抗酸化に寄与している(山倉文幸、活性酸素・フリーラジカル、2巻、56-66、1991、高木洋治、静脈経腸栄養 Vol.18、70-8、2003)。そこで、本発明では抗酸化作用を改善するために、前記したようにビタミンC、ビタミンAおよびZnの含有量を多くすると共に、100kcalあたりビタミンEを2.8〜5mg、Seを5〜15μg含有している。同じくSODの構成成分であるマンガン(Mn)を0.32〜0.8mg含有することが好ましい。
【0016】
消化器等の術後には消化吸収能の低下に伴い、体内の脂溶性ビタミンの低下が見られる (Johnson EJ et al., Am J Clin Nutr 55, 857-64, 1992、Haderslev et al., Gut 2003、玉川ら、日本消化器外科学会報告 PP-1-051)。そこで、本発明では、前記したようにビタミンA、ビタミンEの含量を多くすると共に、100kcalあたりビタミンDを20〜60IU含有させるのが好ましい。
【0017】
また、本発明の栄養組成物は100kcalあたり3〜6gのたんぱく質を含有し、患者へのたんぱく質補給を可能としている。たんぱく質は、栄養管理上、100kcalあたり4.5〜6gを含有しているのがより好ましい。たんぱく質には、乳たんぱく質と共に、日本人の食事を考慮して植物性たんぱく質(例えば大豆たんぱく質など)を用いる。下痢の発生の防止、便性の改善、薬理学的活性、循環器疾患、慢性疾患に対する予防の立場から、たんぱく質総量に対して、植物性たんぱく質を18〜50重量%含有しているのがよい。
【0018】
脂質は、ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸の重量比が2〜4である脂肪酸組成を有する脂質と、中鎖脂肪酸トリグリセライドとを含有し、この中鎖脂肪酸トリグリセライドを脂質カロリーの15〜50重量%の割合で含有する。
【0019】
脂質は、ω3系脂肪酸を含有する脂質およびω6系脂肪酸を含有する脂質を配合する。好ましいω3系脂肪酸はα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸であり、ω3系脂肪酸の合計が、脂肪酸組成中3〜20重量%を含有するものを用いる。また、好ましいω6系脂肪酸はリノール酸である。このω6系脂肪酸が脂質の脂肪酸組成中10〜40重量%を含有しているものを用いる。ω3系脂肪酸とω6系脂肪酸の両方を含有する油としてはシソ油、エゴマ油、アマニ油、キリ油、魚油、サフラワー油、コーン油、大豆油、ナタネ油などの食用油を例示しうる。これらの油の2種またはそれ以上を混合することによって、前記したω6/ω3比を有する脂質を得ることができる。さらに、他の脂質として配合される中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)は、炭素数が8〜10の飽和脂肪酸にて構成される脂質であり、速やかに吸収・代謝されるため、術後等の消化吸収能の低下している状態への栄養補給効果に優れている。
【0020】
さらに、本発明では、各種の糖質が配合される。このような糖質としては、例えばデンプン、デキストリン、ショ糖、グルコース、ガラクトース、マルトースなどが挙げられる。また血糖値の上昇の起こりにくい果糖、キシリトール、パラチノース、糖アルコールなどを一部配合することも可能である。
【0021】
また本発明では、100kcalあたりオリゴ糖を0.1〜1g配合してもよい。オリゴ糖を配合することで、腸内環境の維持改善作用が期待できる。オリゴ糖としては、例えばフラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクチュロース、イソマルトオリゴ糖、パノース、ゲンチオリゴ糖、キシロオリゴ糖、キチンオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノースなどが挙げられ、これらの一もしくは二以上の成分を配合することができる。フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖の配合が特に望ましく、これらは前述の効果に加えてミネラル吸収促進機能を有している。
【0022】
クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)は、糖・脂質・アミノ酸など多くの代謝に関わっており、術後等の侵襲下においても代謝調節に有用である。そこで、本発明では、前記したようにMnを含有すると共に、100kcalあたりCr 3〜15μgおよびMo3〜15μgを含有することが好ましい。
【0023】
本発明では、100kcalあたり、食物繊維を0.2〜3g配合してもよい。 食物繊維としては、例えばセルロース、リグニン、難消化性デキストリン、難消化性スターチ、ポリデキストロース、アラビアガム、グアガム分解物、水溶性ペクチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、カラギーナン、アルギン酸、小麦フスマ、大豆ファイバー、キトサン、キチン、サイリウムなどが挙げられ、これらの一もしくは二以上の成分を配合することができる。
【0024】
脂質および糖質の配合量は特に限定されないが、例えば1日あたりのカロリー摂取を1200〜2000kcalとした場合、具体的には脂質が210〜800kcal、糖質が560〜1400kcalとなる量である。本発明では、1200kcal摂取で、少なくともビタミンC、A、E、亜鉛、セレンの所要量を充たすことができる。
【0025】
本発明では、上記の有効成分以外にも各種の栄養成分を配合することができる。このような栄養成分としては、例えば蛋白質加水分解物、アミノ酸、上記以外のビタミン類やミネラル類などが挙げられる。ミネラルとしては、上記Zn、Cu、Se、Cr、Mo、Mn以外に、例えばNa、K、Mg、Ca、P、Cl、Fe、Cu、Iなどの有機塩又は無機塩を配合することができる。ビタミンとしては上記したビタミンA、D、E以外の脂溶性ビタミンや、ビタミンB1 、B2 、B6 、B12、パントテン酸、ナイアシン、ビオチン、葉酸などの水溶性ビタミンを配合することができる。ビタミンKはビタミンK2であってもよい。さらに、必要に応じてイソフラボン、グルコサミン、カテキン類、ポリフェノールなどを配合してもよい。さらに、疲労回復等に有用とされるクエン酸を100kcalあたり0.1〜3g配合することができる。
【0026】
このようにして得られた栄養組成物は、その形態は特に限定されないが、例えば各有効成分及び各栄養成分を粉粉混合して得られる粉末のもの、および水に溶解して得られる液状のもの、液状のものを乾燥させて得られる粉末のものなどの各種形態で使用される。液状の栄養組成物の調製に当たっては、必要に応じ、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウムなどの乳化剤を用いてもよい。
【0027】
このようにして得られた栄養組成物は、外科術前後、基質的疾患、外傷などの侵襲下にある患者等への栄養補給の際に使用される。その投与形態としては、状況に応じて経口または経管にて投与することができる。
【0028】
また、本栄養組成物は、嚥下障害が見られる場合や胃瘻への投与を行なう場合などには、必要に応じて糊料(増粘剤、ゲル化剤)を添加して粘体状またはゼリー状に調製することもできる。その際に使用する糊料としては、例えば寒天、ゼラチン、カラギーナン、アラビアガム、グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム、ジェランガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、その他糊料として通常使用し得る多糖類などがあげられ、これらの一種又は二種以上を組み合わせたものを用いる。これら糊料の配合割合は、粘体状またはゼリー状に調製した栄養組成物100重量部に対して5重量部以下の割合が好ましい。
【0029】
本発明の栄養組成物は、年齢や症状などにより異なるが、通常の食事の摂取が困難な場合には、ヒト成人一人当り一日1200kcal〜2000kcalを経口的または経管・経腸的に投与することが好ましい。また、補食的に通常の食事と併用することも可能である。
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(液状製剤の製造)
表1に示す配合で、カロリーが1000kcalである液状の滅菌栄養組成物を、定法に従い調製した。表に示す栄養組成物は精製水で全量が1000mLになるようにした。なお、総カロリーに対する脂質カロリーの占める割合は20%、中鎖脂肪酸トリグリセライドの脂質カロリーに占める割合は38重量%、脂肪酸組成(ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸)比は3、蛋白質カロリーの占める割合は20%、総たんぱく質に占める大豆蛋白質の割合は20重量%である。オリゴ糖には乳果オリゴ糖を用い、食物繊維にはグアガム分解物を使用した。
【実施例2】
【0032】
(液状製剤の製造)
表1に示す配合の栄養組成物を用いた他は、実施例1と同様にして滅菌栄養組成物調製した。なお、総カロリーに対する脂質カロリーの占める割合は25%、中鎖脂肪酸トリグリセライドの脂質カロリーに占める割合は30重量%、脂肪酸組成(ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸)比は2.1、蛋白質カロリーの占める割合は16%、総たんぱく質に占める大豆蛋白質の割合は35重量%である。
【0033】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
100kcalあたり、少なくとも
ビタミンC 60〜120mg、
ビタミンA 250〜600IU、
ビタミンE 2.8〜5mg、
亜鉛 1.3〜4.0mg、
銅 0.05〜0.3mg(但し、亜鉛/銅は重量比で10以上である)、
セレン 5〜15μg、および
たんぱく質 3〜6g
を含有し、
前記たんぱく質は、その総量に対して植物性たんぱく質を18〜50重量%含有し、
さらに脂質として、ω6系脂肪酸/ω3系脂肪酸の重量比が2〜4である脂肪酸組成を有する脂質と、中鎖脂肪酸トリグリセライドとを含有し、この中鎖脂肪酸トリグリセライドを脂質カロリーの15〜50重量%の割合で含有したことを特徴とする経口・経腸栄養組成物。
【請求項2】
100kcalあたり、微量元素として、
クロム 3〜15μg、
モリブデン 3〜15μg、および
マンガン 0.32〜0.8mg
を含有した請求項1記載の経口・経腸栄養組成物。
【請求項3】
100kcalあたり、ビタミンDを20〜60IU含有した請求項1または2記載の経口・経腸栄養組成物。
【請求項4】
100kcalあたり、オリゴ糖を0.1〜1g含有した請求項1〜3のいずれかに記載の経口・経腸栄養組成物。
【請求項5】
100kcalあたり、食物繊維を0.2〜3g含有した請求項1〜4のいずれかに記載の経口・経腸栄養組成物。

【公開番号】特開2006−104147(P2006−104147A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294757(P2004−294757)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】