説明

経口固形製剤

【課題】 ビタミンB12は、抗貧血薬として有効である。しかし、ビタミンB12は一般的に他有効成分と配合した際に安定性が悪いことが知られている。本発明は、コンドロイチンをはじめとする薬物を配合した製剤における有効成分の安定化を図り、対象疾患に適した配合剤を得ることを目的とする。
【解決手段】 コンドロイチンとビタミンB12、更に異種ビタミン類の配合において、ケイ酸類及び/または酸化マグネシウムを配合したことを特徴とする配合製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムコ多糖、ビタミンB12並びにケイ酸類及び/または酸化マグネシウムからなる固形製剤に関する。特に含まれるビタミンB12の安定性の良い固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シアノコバラミン、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミンなどのビタミンB12類は、抗貧血薬として有用であり、種々の悪性貧血と、それに伴う神経障害から引き起こされる手足の痺れ、膝や腰の痛み、顔面神経痛、目や脳の疲れなどを認めた際に投与される。
【0003】
しかしながら、ビタミンB12類は、光、水分、pH、熱などの外部環境の影響により、それ自身の含量が低下し、不安定なビタミンとして知られている。また、他の薬物(例えば、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンC、ニコチン酸アミドの異種ビタミン類)などと共存するときも、含量の低下が起こり、事実、他のビタミンを同時に配合した従来の処方・製法においてビタミンB12は不安定となった(比較例6)。
【0004】
このような不安定なビタミンB12類を医薬品や食品として利用するためには、ビタミンB12類を安定化することが必須であり、現に、製剤的工夫によるビタミンB12の安定化した技術がいくつか開示されている。
例えば、ビタミンB12類をデンプン及びデキストリンの混合物中に分散して粉末とし、プレミックス製剤原料とする技術が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この開示技術では、患者が服用できる具体的な錠剤、顆粒剤等の製剤については言及されておらず、吸湿性の高い薬物や、酸性又は塩基性薬物を配合して製剤化した場合に生じる諸問題を克服するためには、更なる工夫が必要であった。
一方、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどのムコ多糖は、高分子多糖類の一種であり、生体内の細胞間に存在し、水分及び栄養の細胞への補給や細胞の水分保持の働きをする。更に、この働きにより、骨と骨をつなぐ細胞組織が潤滑になり、柔軟性が保持される。ムコ多糖の減少により、骨同士がぶつかり合って関節痛を招くことになる。そのため、関節痛疾患などの緩和に、ムコ多糖は服用され、医薬品、食品などの分野で広く使われている。
【0005】
従って、ビタミンB12類とムコ多糖であるコンドロイチン硫酸ナトリウムを同時に服用した場合、関節痛、神経痛の緩和などの効果が期待できる。
しかしながら、一般的な製造方法において、ムコ多糖を同時に配合した場合、ビタミンB12は、不安定になり、製剤化することが困難である(比較例1〜5、7)。
【0006】
製品化するための従来技術では、低水分化することによりビタミンB12類を安定化させる糖衣錠(特許文献2)や、フィルムコート錠(特許文献3)が開示されている。現に、フィルムコート錠の製品が市販されている(非特許文献1)。しかしながら、特許文献2では、高湿度下に保存すると錠剤にひび割れが起き、製剤として問題があった。また、特許文献3では、当然の事ながらフィルムコート工程が必須となり、工程管理も煩雑で、即ちコスト高の製造方法の選択が余儀なくされていた。
【0007】
ビタミンB12の安定性の課題を解決したムコ多糖配合の経口製剤の開発は、製造方法のコストが高いものとなった。従って、これら従来の製剤は、製造コストの観点で必ずしも満足されるものではなかった。
【0008】
つまり、ムコ多糖とビタミンB12を同時に配合した製剤において、ビタミンB12が安定で、かつ簡便な製造方法は知られていなかった。
【特許文献1】特開平3−173823号公報
【特許文献2】特開2002−179559号公報
【特許文献3】特開2003−300883号公報
【非特許文献1】「アクテージAN錠 添付文書」特徴の項 武田薬品工業株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、元々、安定性に問題のあるビタミンB12とムコ多糖を同時に配合、更に異種ビタミン類と配合しても、簡便な工程で製造可能な固形製剤を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために添加剤を種々検討した結果、ビタミンB12及びムコ多糖に、ケイ酸類及び/または酸化マグネシウムを同時に配合し製造すると、ビタミンB12が安定で、かつ簡便な工程で製造可能な優れた固形製剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)ムコ多糖、ビタミンB12並びにケイ酸類及び/または酸化マグネシウムからなる組成混合物、(2)ムコ多糖、ビタミンB12、異種ビタミン並びにケイ酸類及び/または酸化マグネシウムからなる組成混合物、(3)ケイ酸類及び/または酸化マグネシウムとムコ多糖の重量比が1:1〜1:20である(1)〜(2)記載の組成混合物、(4)ムコ多糖がヒアルロン酸、コンドロイチン、グリコサミドグリカンまたはこれらの塩から1以上選ばれる(1)〜(3)記載の組成混合物、(5)ケイ酸類が合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、二酸化ケイ素、含水二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、軽質酸化アルミニウムから1以上選ばれる(1)〜(4)記載の組成混合物、(6)異種ビタミンが塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセル硫酸エステル塩、塩酸ジセチアミン、塩酸フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、L−システイン、L−塩酸システイン、アスパラギン酸から1以上選ばれる(1)〜(5)記載の組成混合物、(1)〜(6)からなる固形製剤、(8)ムコ多糖がコンドロイチンの塩であり、ケイ酸類がケイ酸マグネシウムであり、異種ビタミンがリン酸ピリドキサール、コハク酸トコフェロールカルシウム、ビスベンチアミンである(2)または(3)からなる固形製剤に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ムコ多糖との配合により不安定化するビタミンB12を安定化し、ムコ多糖配合剤を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ビタミンB12、異種ビタミン類及びムコ多糖に、ケイ酸類及び/または酸化マグネシウムを配合することにより、ビタミンB12が安定で、かつ簡便な工程で製造可能な優れた固形製剤は、例えば以下のとおりである。
本発明において使用される有効成分としては、ビタミンB12類(シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン、塩酸ヒドロキソコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、メチルコバラミン)、が挙げられる。このうちビタミンB12類に関しては、安定性や使用原料の供給性を勘案し、シアノコバラミン及びメチルコバラミンが好ましく、更に好ましくはメチルコバラミンである。
【0014】
本発明においてケイ酸類とは、粉末状の多孔質の無機物質を意味し、二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウムまたは酸化マグネシウムから選ばれる1種以上であり、好ましくはケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムである。これらのケイ酸類、酸化マグネシウムを製剤に配合する場合は、ケイ酸類・酸化マグネシウムとムコ多糖の重量比が1:1〜1:20であることが好ましく、より好ましくは1:2〜1:20、更に好ましくは1:4〜1:20であるが、本発明を達成する重量比であれば良く、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明において異種ビタミンとは、塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセル硫酸エステル塩、塩酸ジセチアミン、塩酸フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、L−システイン、L−塩酸システイン、アスパラギン酸である。
更に本発明で用いるムコ多糖とはヒアルロン酸、コンドロイチン、グリコサミドグリカン類及びこれらの塩である。ムコ多糖としては、例えば、日本薬局方外医薬品成分規格収載のコンドロイチン硫酸ナトリウム又は紀文フードケミファ株式会社などから販売されている経口用食品グレードのヒアルロン酸ナトリウムの1種以上を使用することができるが、これに限定されるものではない。このうち、医薬品としてはコンドロイチン硫酸ナトリウムを使用する事が好ましい。
【0016】
本発明の製剤の製造に使用するその他の添加剤としては、結晶セルロース、乳糖、デンプン、マンニトールなどの賦形剤、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクなどの滑沢剤があり、この他必要に応じて流動促進剤、緩衝剤、保存剤、香料、色素、矯味剤などを使用することができる。
【0017】
本発明における固形製剤は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが挙げられる。
【0018】
本発明における経口固形製剤の製造方法としては、例えば、製剤機械技術ハンドブック(製剤機械技術研究会設立10周年記念出版編集委員会、地人書館)、粉体の圧縮成形性技術(粉体工学・製剤と粒子設計部会編、日刊工業新聞社)のような刊行物に記載されている直接粉末圧縮法や湿式造粒法を用いることができる。
【0019】
本発明は更に下記の実施例及び実験例で詳しく説明されるが、これらの例は単なる実例であって本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例などにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
メチルコバラミン 3gと結晶セルロース 540gをポリ袋にて混合し倍散末を調製した。その後、コンドロイチン硫酸ナトリウム 1800g、コハク酸トコフェロールカルシウム 100g、ベンフォチアミン 100g、ニコチン酸アミド 120g、ケイ酸カルシウム 108g、乳糖 64g、カルメロースカルシウム 150g及び倍散末を、V型混合機(株式会社ダルトン製、「VM―10」)にて15分間混合した。さらに、ステアリン酸マグネシウム 15gを加えV型混合機で1分間混合し、打錠末を調製した。得られた打錠末についてロータリー式打錠機(株式会社畑鐵工所製、「HT-AP15SSII」)にて製錠し9mm径の錠剤を得た。
以下、実施例2〜13及び比較例1〜7は、表1、2に示した処方で、実施例1に示した製造方法に準拠し、各錠剤を得た。
【0022】
<試験方法>
各実施例及び比較例をガラス瓶中(密栓系)で50℃において8週間放置した後、ビタミンB12の試験開始時に対する残存率(%)を測定した。なお、ビタミンB12の残存率の測定は液体クロマトグラフィー法により行った。
【表1】

【表2】

【0023】
<試験結果>
表1中、ビタミンB12類の残存率(%)は、実施例は開始時に対する割合で8割を越え、比較例に較べ高く、安定性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ムコ多糖、ビタミンB12並びにケイ酸類及び/または酸化マグネシウムからなる組成混合物、更にはムコ多糖、ビタミンB12、異種ビタミン並びにケイ酸類及び/または酸化マグネシウムからなる組成混合物を用い、錠剤などを簡便な製造方法で製造可能であり、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品などで応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムコ多糖、ビタミンB12並びにケイ酸類及び/または酸化マグネシウムからなる組成混合物
【請求項2】
ムコ多糖、ビタミンB12、異種ビタミン並びにケイ酸類及び/または酸化マグネシウムからなる組成混合物
【請求項3】
ケイ酸類及び/または酸化マグネシウムとムコ多糖の重量比が1:1〜1:20である請求項1〜2記載の組成混合物。
【請求項4】
ムコ多糖がヒアルロン酸、コンドロイチン、グリコサミドグリカンまたはこれらの塩から1以上選ばれる請求項1〜3記載の組成混合物
【請求項5】
ケイ酸類が合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、二酸化ケイ素、含水二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、軽質酸化アルミニウムから1以上選ばれる請求項1〜4記載の組成混合物
【請求項6】
異種ビタミンが塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセル硫酸エステル塩、塩酸ジセチアミン、塩酸フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸ナトリウム、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、L−システイン、L−塩酸システイン、アスパラギン酸から1以上選ばれる請求項2〜5記載の組成混合物
【請求項7】
請求項1〜6からなる固形製剤
【請求項8】
ムコ多糖がコンドロイチンの塩であり、ケイ酸類がケイ酸マグネシウムであり、異種ビタミンがリン酸ピリドキサール、コハク酸トコフェロールカルシウム、ビスベンチアミンである請求項2または3からなる固形製剤

【公開番号】特開2007−297309(P2007−297309A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125383(P2006−125383)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000108339)ゼリア新薬工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】