説明

結合構造およびステアリング装置

【課題】締結作業性に優れるとともに、既存のものに対して変更部位が少なく、低コストにて構成することができる結合構造およびこのような結合構造を用いたステアリング装置を提供する。
【解決手段】自在継手に設けられたヨークのボス部にシャフトの端部が挿入された状態において、このボス部から外径方向に延びる一対のフランジ部に付設されるボルト構造の締め付けによって、ボス部を縮径させて前記シャフトとヨークとを連結するための結合構造である。ボス部に挿入されたシャフトの端部に係止する筒体を、フランジ部に設けられる嵌合孔に内嵌する。筒体にボルト構造のボルト部材が挿通されて、ボルト構造による締め付けが行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシャフトの連結部に使用する自在継手と軸の結合構造およびステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図14に示すように、ステアリング装置1は、ステアリングホイール2とステアリングギヤ3の間に複数本のシャフト4を配設したものである。すなわち、軸方向が相違するステアリングホイール2とステアリングギヤ3との間で、ステアリングホイール2に付与した回転トルクをステアリングギヤ3に伝達する。車載スペース等との兼ね合いでステアリングシャフト4を一直線に配置できない場合は、ステアリングシャフト4間に一または複数の軸継手5を配置し、ステアリングシャフト4を屈曲させた状態でもステアリングギヤ3に正確な回転運動を伝達できるようにしている。
【0003】
軸継手(自在継手)5としては、図15に示すようなユニバーサルジョイントの一種であるカルダン型自在継手を使用する場合がある。ここで、カルダン型自在継手は、一対のU字状の本体部13,14に、一対の翼片部6,7が十字軸8を介して接続されていることにより、各本体部13,14の軸心同士が一直線上に位置しなくても回転力を伝達することが出来る。そして、本体部13の底壁に、シャフト4が結合される結合構造mが設けられている。
【0004】
結合構造mとしては、図15と図16に示すように、自在継手5のヨーク9の雌セレーション11にシャフト4の端部の雄セレーション12を挿入して、ボルト固定するものがある。
【0005】
すなわち、ヨーク9は、シャフト4の端部の雄セレーション12が嵌入されるボス部15と、このボス部15から外径方向に突出する一対のフランジ部16a、16bとを有する。この場合、ボス部15は、その周壁に軸方向に沿って延びるスリット状の切欠部を有する円筒状体であって、切欠両端部からそれぞれフランジ部16a、16bが平行に突設される。
【0006】
また、一方のフランジ部16aに貫通孔17が設けられるとともに、他方のフランジ部16bにねじ孔18が設けられる。そして、ボルト部材20のねじ軸20aが貫通孔17に挿通され、ねじ孔18にねじ軸20aが螺着される。すなわち、ボルト部材20のねじ軸20aをねじ孔18に対して螺進させれば、フランジ部16a、16bが相互に接近する。この接近によって、ボス部15が縮径して、シャフト4の端部の雄セレーション12をガタ無く締め付けることができて、軸継手(自在継手)5とシャフト(軸)4とを結合することができる。
【0007】
また、雄セレーション12には、図15に示すように、周方向凹部21が設けられ、この凹部21の一部に、前記ボルト部材20のねじ軸20aが係合する。これによって、ヨーク10に対するシャフト4の位置決めがなされる。すなわち、このボルト部材20が、ボス部15によるシャフト4の締め付けと、シャフト4の位置決めを行っていた。
【0008】
しかしながら、図15と図16に示すものでは、ボルト部材20の締め付け固定が完了するまで、位置決めが安定しない。このため、ボルト部材20の締め付け固定が完了するまでの間、シャフト4が所定の軸方向位置からずれないように、作業者はその位置を維持させる必要がある。このため、結合作業性に劣り、作業時間が大となっていた。
【0009】
そこで、従来には、ボルト部材20による締め付け固定時に、シャフトの位置ずれが防止される結合構造が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載のものは、図17に示すように、シャフト4側に弾性変形可能な係合凸部(係合片)25を設けるとともに、ヨーク10側に、係合凸部25が係合する係合凹部26を設けたものである。
【0010】
この図例の係合片25は、シャフト4の先端に小径軸部を設け、この小径軸部に設けられるものであって、シャフト先端側からシャフト基端側に向かって外径方向に傾斜する傾斜片からなる。このため、シャフト4の雄セレーション12をヨーク10のボス部15に挿入して行けば、係合片25がボス部15の雌セレーション11によって、内径側へ押圧されて挿入が許容されることになる。そして、係合片25が係合凹部26に対応する位置まで挿入されれば、係合片25への内径側への押圧が解除される。このように解除されれば、弾性復元力によって係合片25が拡径状の元の状態に戻る。これによって、係合片25が係合凹部26に係合状となって、シャフト4のヨーク10からの抜けを防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−292165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図17に示すものでは、シャフト4側に弾性変形可能な係合凸部(係合片)25を設けるとともに、ヨーク10側に、係合凸部25が係合する係合凹部26を設ける必要があり、部品点数の増加、及び、各部材の形状の複雑化を招くことになっていた。しかも、図17に示すように、係合凸部25をシャフト4側に設ける場合、雄セレーション12の先端にさらに小径軸部を突設してこの係合凸部25を設ける必要がある。このため、ボス部15の軸方向長さが大となって、コンパクト化を図ることができない。なお、前記特許文献1には、シャフト4側に係合凹部26を設けるとともに、ヨーク10側に係合凸部を設けたものも記載されている。しかしながら、この場合も、部品点数の増加、及び、各部材の形状の複雑化を招くことになっていた。しかも、この場合であっても、係合凸部25をボルト部材の配置位置よりも軸方向にずらせる必要があって、ボス部15の軸方向長さが大となる。
【0013】
このように、特許文献1に記載のものでは、係合凹部26に係合凸部25が係合して、シャフト4のヨーク10からの抜けを防止することができるが、逆方向、すなわち、ヨーク10に対する挿入方向のシャフト4の移動を規制することができない。このため、ボルト部材を螺着する際に、シャフト4の移動が移動するおそれがあり、安定した締め付け作用を行うことができない。
【0014】
しかも、図17に示すものでは、結合状態を解除するには、ヨークの外径側から解除用工具27を係合凹部26に押し込んで、係合凸部25を押圧する必要がある。このため、別途、解除用工具を必要とするとともに、その解除作業の手間がかかるものとなっていた。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みて、締結作業性に優れるとともに、既存のものに対して変更部位が少なく、低コストにて構成することができる結合構造およびこのような結合構造を用いたステアリング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の結合構造は、自在継手に設けられたヨークのボス部にシャフトの端部が挿入された状態において、このボス部から外径方向に延びる一対のフランジ部に付設されるボルト構造の締め付けによって、前記ボス部を縮径させて前記シャフトとヨークとを連結するための結合構造であって、前記ボス部に挿入されたシャフトの端部に係止する筒体を、前記フランジ部に設けられる嵌合孔に内嵌し、この筒体に前記ボルト構造のボルト部材を挿通して、このボルト構造による締め付けを行うものである。
【0017】
本発明の結合構造によれば、フランジ部に設けられる嵌合孔に筒体を内嵌すれば、この筒体がシャフトの端部に係止する。このため、ヨークに対するシャフトの端部の位置決めがなされる。そして、このように位置決めされた状態で、ボルト構造のボルト部材を筒体に挿通することができ、このボルト構造による締め付けを行うことができる。また、ボルト構造のボルト部材を螺退させれば、このボルト部材をフランジ部から外すことができ、これによって、シャフトとヨークとの結合状態を解除できる。しかも、シャフトの端部の形状は従来形状を維持できるとともに、ヨーク側に新たな係止部等を設ける必要がない。
【0018】
前記筒体の周壁に軸方向に延びるスリットを設け、この筒体を、フランジ部に設けられる嵌合孔に圧入するものであってもよい。このように、筒体を嵌合孔に圧入するものであれば、筒体を嵌合孔に内嵌した際には、筒体の抜けを規制することができる。また、スリットを設けることによって、筒体の縮径性の向上を図ることができる。前記筒体に外周面の圧入開始端部に、圧入開始端に向かって縮径するテーパ面を設けるのが好ましい。テーパ面を設けることによって、テーパ面が圧入開始時のガイドとなる。また、前記筒体を樹脂にて構成することも可能である。
【0019】
ボルト構造のボルト部材の座面が直接的に前記嵌合孔の座面に当接するものであって、ボルト構造のボルト部材の座面と前記嵌合孔との間に座金を介在させたものであってもよい。
【0020】
ボルト部材の座面又は座金からなるボルト構造の座面と前記筒体との間に隙間を設けるのが好ましい。
【0021】
ボルト構造のボルト部材は、フランジ部が別部材であるナット部材に螺合するものとすることができる。また、一方のフランジ部にボルト構造のボルト部材が挿通される貫通孔を設けるとともに、他方のフランジ部にこのボルト部材が螺合する雌ねじ部を設けたものであってもよい。この場合、ボルト構造のボルト部材が螺合する雌ねじ部を有するナット部材を他方のフランジ部に一体化したものであってもよい。
【0022】
前記自在継手が、例えば、内径面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のトルク伝達ボールと、前記外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持する保持器とを備えた固定型等速自在継手であり、トラック溝とボールの間の隙間を詰めるガタ詰め機構を設けている。
【0023】
このような前記固定型等速自在継手では、トラック溝の底面が単一の円弧部から構成されたトラックオフセットタイプであっても、トラック溝の底面が円弧部と直線部をからなるアンダーカットフリータイプであってもよい。
【0024】
また、前記自在継手が、ダブルカルダン型自在継手であってもよい。
【0025】
本発明のステアリング装置は、前記結合構造を用いたものである。このため、軸は位置決めされた状態で、ボルト構造のボルト部材を筒体に挿通することができ、このボルト構造による締め付けを行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の結合構造では、位置決めされた状態で、ボルト構造のボルト部材を筒体に挿通することができ、このボルト構造による締め付けを行うことができる。このため、作業者は、軸の位置ずれを気にすることなく、ボルト構造のボルト部材を螺着することができ、作業性の向上を図ることができて、短時間で安定した結合作業を行うことができる。しかも、シャフトの端部の形状は従来形状を維持できるとともに、ヨーク側に新たな係止部等を設ける必要がないので、既存のものに対して変更部位が少なく、低コストにて構成することができる。
【0027】
筒体を嵌合孔に圧入するものであれば、筒体の抜けが規制され、安定した位置決めを行うことができ、作業性に優れる。また、スリットを設けることによって、圧入時に筒体が弾性的に縮径して圧入性の向上を図って、圧入時において筒体の損傷や破損等を防止できる。筒体にテーパ面を設けることによって、テーパ面が圧入開始時のガイドとなって、圧入開始が安定する。筒体を樹脂にて構成すれば、軽量化および生産性の向上等を図ることができる。
【0028】
座金を用いない場合は部品点数の削減を図ることができ、組立性の向上及び低コスト化を図ることができる。また、座金を用いる場合、ボルト部材の頭がめり込む事(座面陥没)を防止したり、ボルト部材に安定した締め付け力を発揮させたりできる。
【0029】
ナット部材を用いる場合、フランジ部にねじ孔を設ける必要が無くなって、加工性の向上を図ることができる。フランジ部に、ボルト構造のボルト部材が螺合する雌ねじ部を設けたものでは、ナット部材を用いる必要が無くなって、部品点数の削減を図ることができ、組立性の向上及び低コスト化を図ることができる。
【0030】
固定型等速自在継手には機能及び加工面から、外輪のトラック溝と内輪のトラック溝間にはボールを介してすきまがあり、このすきまは、継手の中立状態で内輪または外輪のどちらか一方を固定して他方をラジアル方向またはアキシャル方向に移動させたときの移動量となり、移動させる方向によって、ラジアルすきま、アキシャルすきまのように呼ばれる。これらすきまは、内・外輪間の円周方向のガタツキ(回転バックラッシュ)に大きく影響を与え、トラック溝すきまが大きい程回転バックラッシュも大きくなる。これに対して、トラック溝とボールの間の隙間を詰めるガタ詰め機構を設けることによって、このような回転バックラッシュを詰めることができる。
【0031】
また、前記自在継手が、ダブルカルダン型自在継手であってもよい。カルダン型自在継手は構造が簡単であるが、カルダンジョイント単体では、二軸が交差角をとると、機構的に不等速となるのが避けられない。そのため、二つのカルダン型自在継手を組み合せたダブルカルダン型自在継手を用いれば、カルダン型自在継手単体の回転変動を相殺することができ、等速性を確保することができる。
【0032】
本発明のステアリング装置は、前記結合構造を用いたものであり、短時間で安定した結合作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の結合構造の一部断面で示す平面図である。
【図2】前記図1に示す結合構造の一部断面で示す正面図である。
【図3】前記図2におけるY−Y線断面図である。
【図4】前記図1に示す結合構造の要部拡大断面図である。
【図5】図1に示す結合構造におけるフランジ部と筒体との関係を示す断面図である。
【図6】結合構造におけるフランジ部と変形例の筒体との関係を示す断面図である。
【図7】前記図6に示す筒体の正面図である。
【図8】前記図6に示す筒体の要部拡大断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態の結合構造の要部拡大断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態の結合構造の要部拡大断面図である。
【図11】本発明の第4実施形態の結合構造の要部拡大断面図である。
【図12】自在継手が固定型等速自在継手である結合構造を示す断面図である。
【図13】自在継手がダブルカルダン型自在継手である結合構造を示す断面図である。
【図14】一般的なステアリング装置の斜視図である。
【図15】従来の結合構造の一部断面で示す平面図である。
【図16】従来の結合構造の断面図である。
【図17】従来の他の結合構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下本発明の実施の形態を図1〜図13に基づいて説明する。
【0035】
図1から図3に本発明に係る結合構造を示す。この結合構造は、ステアリング装置1において、自在継手30とシャフト(軸)31とを結合するためのものである。この場合の自在継手30は、一対のU字状本体部42,43が十字軸40を介して接続されるカルダン型自在継手である。
【0036】
本体部42,43は、それぞれ、一対の翼片部34,35を有するものであって、各本体部42,43の翼片部34、35は、十字軸40を介して接続されている。そして、各本体部42の底壁に設けられたヨーク32に、シャフト31が結合される本発明にかかる結合構造Mが設けられている。
【0037】
結合構造Mは、ボス部45と、このボス部45から外径方向に延びる一対の平行なフランジ部46,47とを備える。ボス部45は、軸方向に沿ったスリット状の切欠部を有する筒状体であって、その切欠端部からフランジ部46,47が外径方向に延びている。ボス部45の内径面には雌セレーション48が設けられている。この雌セレーション48は、後述するように、シャフト31の端部に設けられら雄セレーション49が嵌合する。
【0038】
図3〜図5に示すように、一方のフランジ部46には,ボス部45の軸方向に対して直交する方向に延びる貫通孔50が設けられている。貫通孔50は、本体部50aと、他方のフランジ部47と反対側の開口側の大径部50bとからなる。この場合、ボス部45の雌セレーション48の一部に対して横切るものである。
【0039】
また、他方のフランジ部47には,一方のフランジ部46の貫通孔50の本体部50aに対向する孔部51と、この孔部51に連設されるねじ孔52とが形成される。この際、自由状態では、貫通孔50の軸心と、孔部51の軸心と、ねじ孔52の軸心とが一致している。なお、孔部51もボス部45の雌セレーション48の一部に対して横切るものである。この自由状態においては、フランジ部46,47の相対面する対向面46a,47aとの間に所定寸の隙間53が設けられる。
【0040】
一方のフランジ部46の貫通孔50の本体部50aと、他方のフランジ部47の孔部51に筒体54が嵌入され、この筒体54に、ボルト構造55のボルト部材56が一方のフランジ部46側から挿入されることになる。すなわち、フランジ部46の貫通孔50の本体部50aと他方のフランジ部47の孔部51とで、筒体54が嵌入される嵌合孔59を構成する。
【0041】
図5に示すように、貫通孔50の本体部50aと他方のフランジ部47の孔部51とで構成される嵌合孔59の孔径をDyとし、筒体54の外径をDiとした場合に、Dy>Diとし、嵌合孔59の軸方向長さをLyとし、筒体54の軸方向長さをLiとした場合に、Ly>Liとする。これによって、図4に示すように、筒体54を簡単に挿入(嵌入)することができる。しかも、筒体54の一端縁54aを孔部51の段付面51aに当接させた状態で、筒体54の他端縁54bが貫通孔50の大径部50bから後退した状態となる。
【0042】
また、ボス部45に嵌入されるシャフト31の端部の雄セレーション49には、図2に示すように、筒体54が嵌合(係合)する断面円弧状の周方向溝57が設けられている。周方向溝57の底面の曲率半径と、筒体54の外径面(外周面)の曲率半径とが略一致している。このため、筒体54に周方向溝57に係合した際には、周方向溝57の底面と筒体54の外径面とが密接状に係合する。このため、筒体54が嵌合孔59に嵌入された状態で、シャフト31とヨーク32は、軸方向に対して確実に位置決めすることが出来る。
【0043】
この場合、ボルト構造55のボルト部材56が一方のフランジ部46側から筒体54に挿入されて、ねじ孔52に螺着されるが、貫通孔50の大径部50bには座金60が嵌合される。すなわち、図4に示すように、座金60の裏面60aである座面61Aと、大径部50bの底面64とが直接的に当接している。このため、ボルト部材56の頭部56aと座面61Bとで座金60が挟持される。この際、前記したように、筒体54の他端縁54bが貫通孔50の大径部50bから後退した状態となるので、座金60の裏面60bと筒体54の他端縁54bとの間に所定寸の隙間Sが形成される。
【0044】
次に、前記のように構成された結合構造Mを用いたシャフト31とボス部45との結合方法を説明する。まず、シャフト31の端部の雄セレーション49をボス部45に挿入(嵌入)する。すなわち、雄セレーション49をボス部45の雌セレーション48に嵌合させる。次に、嵌合孔59に筒体54を挿入(嵌入)する。これによって、筒体54を図2等に示すように、シャフト31の端部の雄セレーション49に設けられた周方向溝57に係合させる。
【0045】
このように、筒体54を嵌合孔59に嵌入させた状態では、シャフト31は、ボス部45に所定位置に位置決めされた状態で、ボス部45に対する軸方向の移動及び周方向の回動が規制される。次に、座金60を貫通孔50の大径部50bに嵌合した状態で、ボルト構造55のボルト部材56の雄ねじ56bを一方のフランジ部46側から筒体54に挿入して、他方のフランジ部47のねじ孔52に螺着する。
【0046】
この場合、ボルト部材56をねじ孔52に対して螺進させていけば、一方のフランジ部46と他方のフランジ部47とが相互に接近する。すなわち、フランジ部46、47間の隙間53の寸法が小となる。これによって、ボス部45が縮径し、雌セレーション48と雄セレーション49とが密接して、シャフト31がボス部45にガタ無く結合された状態となる。
【0047】
本発明の結合構造によれば、シャフト31が位置決めされた状態で、ボルト構造55のボルト部材56を筒体54に挿通することができ、このボルト構造55による締め付けを行うことができる。このため、作業者は、軸の位置ずれを気にすることなく、ボルト構造55のボルト部材56を螺着することができ、作業性の向上を図ることができて、短時間で安定した結合作業を行うことができる。しかも、シャフト31の端部の形状は従来形状を維持できるとともに、ヨーク32側に新たな係止部等を設ける必要がないので、既存のものに対して変更部位が少なく、低コストにて構成することができる。
【0048】
座金60からなるボルト構造55の座面61Aと筒体54の他端縁54bとの間に隙間Sが設けている。この隙間Sを設けたことによって、筒体54を配設したとしても、ボルト構造55による締め付け作業に支障を来すことがなく、安定した締め付け作業を行うことができる。
【0049】
他方にフランジ部47にボルト構造55のボルト部材56が螺合する雌ねじ部(ねじ孔)52を設けているので、ナット部材を用いる必要が無くなって、部品点数の削減を図ることができ、組立性の向上及び低コスト化を図ることができる。
【0050】
ところで、筒体54としては、図6と図7に示すように、その周壁に軸方向に延びるスリット62を設けたものであってもよい。この場合、貫通孔50の本体部50aと他方のフランジ部47の孔部51とで構成される嵌合孔59の孔径をDyとし、自由状態における筒体54の外径をDiとした場合に、Dy<Diとし、嵌合孔59の軸方向長さをLyとし、筒体54の軸方向長さをLiとした場合に、Ly>Liとする。
【0051】
Dy<Diであるので、筒体54を嵌合孔59に挿入する際には、筒体54は縮径して圧入されることになる。この際、筒体54はスリット62を有するので、筒体54は安定して縮径することになる。
【0052】
このように、この図6と図7に示す筒体54を用いれば、筒体54が嵌合孔59に圧入されることになる。このため、筒体を嵌合孔59に内嵌した際には、筒体54の抜けを規制することができる。また、スリット62を設けることによって、筒体の縮径性の向上を図ることができ、圧入作業の容易化を図ることができる。
【0053】
ところで、図6と図7に示すようにスリット62を設けたものであっても、図1等に示すようにスリットを有さないものであっても、筒体54の材質が金属材料や樹脂材料であってもよい。なお、金属材料としては、炭素鋼や鋼板,ばね鋼等の種々の金属材料を用いることができ、樹脂材料としては、プラスチック等の種々の樹脂材料を用いることができる。
【0054】
特に、スリット62を設けた筒体54の場合、スリット62によって、筒体の縮径性の向上を図ることができるので、樹脂材料を用いても、圧入する際の縮径力の付与によっても損傷乃至破損しにくい。これに対して、スリットを有さない筒体54に樹脂材料を用いれば、圧入する際の縮径力の付与によって損傷乃至破損するおそれがある。このため、スリット62を設けることによって、筒体54に樹脂材料を用いることが可能となって、軽量化および低コスト化を図ることが可能である。
【0055】
筒体54を嵌合孔59に圧入するものであれば、図8に示すように、この筒体54は外周面の圧入開始端部に圧入開始端に向かって所定テーパ角度αで縮径するテーパ面63を設けてもよい。筒体54にテーパ面63を設けることによって、テーパ面63が圧入開始時のガイドとなって、圧入開始が安定する。なお、図1等に示すスリットを有さない筒体54であっても、このようなテーパ面63を設けてもよい。
【0056】
次に、図9は、ボルト構造55に座金60を用いていないものを示している。すなわち、一方のフランジ部46の大径部50bの底面64に、ボルト部材56の頭部56aの座部65の座面65aが直接的に嵌合している。図9に示す結合構造Mは前記図1等に示す結合構造Mと同様の構成である。このため、図9においては、図1に示す結合構造Mと同一の部材には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0057】
従って、図9に示す結合構造Mであっても、前記図1等に示す結合構造Mと同様の作用効果を奏する。しかも、座金60を用いない場合は部品点数の削減を図ることができ、組立性の向上及び低コスト化を図ることができる。しかしながら、前記図1に示すように、座金を用いる場合、ボルト部材56の頭部56aがめり込む事(座面陥没)を防止したり、ボルト部材56に安定した締め付け力を発揮させたりできる。
【0058】
図9に示すように、座金を用いない場合であっても、ボルト部材56の頭部56aの座部65と、筒体54の他端縁54bとの間に隙間Sが設けられる。隙間Sを設けたことによって、筒体54を配設したとしても、ボルト構造55による締め付け作業に支障を来すことがなく、安定した締め付け作業を行うことができる。
【0059】
図10は、フランジ部47自体にねじ孔を設けずに、このフランジ部47にナット部材66を付設しているものである。すなわち、ナット部材66を、小径部66aと、大径部66bとで構成する。また、フランジ部47には貫通孔67が設けられる。この貫通孔67は、一方のフランジ部46側の第1孔部67aと、一方にフランジ部46と反対側の第2孔部67bと、第1孔部67aと第2孔部67bとの間の小径の第3孔部67cとからなる。
【0060】
この場合、ナット部材66の小径部66aがフランジ部47の第2孔部67bに嵌合する。例えば、小径部66aを第2孔部67bに圧入することによって、一体化を図るようにできるが、溶接等の接合手段にて一体化してもよい。
【0061】
この結合構造Mでは、フランジ部46の貫通孔50の本体部50aと、フランジ部47の第1孔部67aとで、筒体54が内嵌される嵌合孔59が構成される。すなわち、筒体54は、その一端縁54aが第1孔部67aの段差面68に当接した状態で、嵌合孔59に嵌入される。そして、貫通孔50の大径部50bに座金60を嵌合した状態で、ボルト部材56を一方のフランジ部46側から挿入して、ナット部材66のねじ部69に螺着する。
【0062】
このため、この図10に示す結合構造Mであっても、ボルト部材56をナット部材66のねじ部69に対して螺進させていけば、一方のフランジ部46と他方のフランジ部47とが相互に接近する。これによって、ボス部45が縮径して、雌セレーション48と雄セレーション49とが密接して、シャフト31がボス部45にガタ無く結合された状態となる。
【0063】
次に、図11では、フランジ部47にナット部材66を付設するものではなく、フランジ部47から突出したボルト部材56の雄ねじ56bの先端部に、ナット部材73を螺着するものである。このため、フランジ部47には、一方のフランジ部46側の第1孔部71aと、一方のフランジ部46と反対側の第2孔部71bとをからなる貫通孔71が設けられている。
【0064】
この結合構造Mでは、フランジ部46の貫通孔50の本体部50aと、フランジ部47の第1孔部71aとで、筒体54が内嵌される嵌合孔59が構成される。すなわち、筒体54は、その一端縁54aが第1孔部71aの段差面72に当接した状態で、嵌合孔59に嵌入される。そして、貫通孔50の大径部50bに座金60を嵌合した状態で、ボルト部材56を一方のフランジ部46側から挿入して、ボルト部材56の雄ねじ56bの先端部をフランジ部47から突出させて、その突出部にナット部材73を螺着する。
【0065】
このため、この図11に示す結合構造Mであっても、ボルト部材56をナット部材73に対して螺進させていけば、一方のフランジ部46と他方のフランジ部47とが相互に接近する。これによって、ボス部45が縮径して、雌セレーション48と雄セレーション49とが密接して、シャフト31がボス部45にガタ無く結合された状態となる。
【0066】
このように、ナット部材73を用いる場合、図1〜6等に示すフランジ部47にねじ孔52を設ける必要が無くなって、加工性の向上を図ることができる。しかしながら、図3等に示すように、フランジ部47に、ボルト構造55のボルト部材56が螺合する雌ねじ部(ねじ孔)52を設けたものでは、ナット部材を用いる必要が無くなって、部品点数の削減を図ることができ、組立性の向上及び低コスト化を図ることができる。
【0067】
図12では、自在継手に固定型等速自在継手を用いている。固定型等速自在継手はツェッパ型ジョイント(BJ)で、内周面に複数のトラック溝80を形成した外側継手部材としての外輪81と、外周面に複数のトラック溝82を形成した内側継手部材としての内輪83と、外輪81のトラック溝80と内輪83のトラック溝82とで協働して形成されるボールトラックに配された複数のボール84と、ボール84を保持する保持器85とで主要部が構成されている。内輪83の内周には、雌スプライン86が形成され、この雌スプライン86に、シャフト31の端部に設けられた雄スプライン87が嵌合している。
【0068】
この固定型等速自在継手では、シャフト31の軸端にプランジャユニット90を取り付けている。このプランジャユニット90は、ボール部材にて構成される押圧部91と、この押圧部を押圧する弾性部材(図示省略)と、弾性部材を収容するケース94からなるアッセンブリ体である。
【0069】
また、保持器85の外輪81奥側端部には受け部材95を取り付けている。この受け部材95は、保持器85の端部開口を覆う蓋状をなし、部分球面状の球面部95aとその外周に環状に形成された取付け部95bとで構成される。球面部95aの内面(シャフトと対向する面)は凹球面で、この凹球面は押圧部91からの押圧力を受ける受け部92として機能する。取付け部95bは、保持器85の端部に圧入、溶接等の適宜の手段で固定されている。
【0070】
プランジャユニット90の押圧部91と受け部材95の受け部92とが互いに当接し、押圧部91がケース内に退入して圧縮コイルばね(図示省略)が圧縮される。これにより、シャフト31と一体化された内輪83が、弾性力により外輪81の開口側に軸方向に変位し、この変位によりトラック溝80,82に配置されたボール84とトラック溝80,82が当接するため、トラック溝80,82のアキシャルすきまが無くなり、回転バックラッシュが防止される。このため、プランジャユニット90と、受け部材95とで、トラック溝80,82とボール84の間の隙間を詰めるガタ詰め機構M1を構成している。
【0071】
この等速自在継手の外輪81は、マウス部81aと、このマウス部81aの底壁から突設される軸部81bとからなり、この軸部81bが、本発明にかかる結合構造Mのボス部45を構成する。この場合の結合構造は、図1に示す結合構造と同様であるので、図1と同一符号を附してその説明を省略する。このため、本発明にかかる結合構造Mを介して、等速自在継手の外輪81にシャフト31を安定して結合することができる。
【0072】
図13に、ダブルカルダンジョイントに適用した実施例を示す。周知のとおりカルダンジョイントは不等速ジョイントであるため、ステアリング装置に使用すると操舵フィーリングに悪影響を及ぼすことがある。そこで、この不具合を除去するため、カルダンジョイント30を2個1組で使用したのがダブルカルダンジョイントである。
【0073】
このように、本発明にかかる結合構造Mは、自在継手として、図1に示すようなカルダン型自在継手であっても、図11に示すような固定型等速自在継手であっても、図12に示すダブルカルダン型自在継手であってもよく、種々の自在継手に適応することができる。カルダン型自在継手は構造が簡単であるが、カルダンジョイント単体では、二軸が交差角をとると、機構的に不等速となるのが避けられない。そのため、二つのカルダン型自在継手を組み合せたダブルカルダン型自在継手を用いれば、カルダン型自在継手単体の回転変動を相殺することができ、等速性を確保することができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記各実施形態では、嵌合孔59は、一方のフランジ部46に設けられる貫通孔50と、他方のフランジ部47の孔部51等で構成していた。しかしながら、筒体54を嵌入した状態で、シャフト31の周方向溝57に係合して、シャフト31の位置決めが可能であれば、嵌合孔59は、一方のフランジ部46に設けられる貫通孔50のみでもって構成するようにしてもよい。また、図1等に示す結合構造Mにおいて、フランジ部47に設けられるねじ孔52の軸方向長さとしても、ボルト部材56の雄ねじ56bが螺着できて、フランジ部46、47の締め付けが可能であれば、種々変更できる。
【0075】
また、筒体54は、円筒体にて構成していたが、その外径面が円筒面でない多角形面であってもよい。このため、シャフト31の周方向溝57としても、その底面の断面形状が円弧面に限るものではない。図10と図11と図12と図13とに示す結合構造Mにおいて、座金を使用しないものであってもよい。
【0076】
自在継手に、図12に示すような固定型等速自在継手を用いる場合、トラック溝の底面が単一の円弧部から構成されたトラックオフセットタイプであっても、トラック溝の底面が円弧部と直線部をからなるアンダーカットフリータイプであってもよい。
【符号の説明】
【0077】
30 自在継手
31 シャフト
32 ヨーク
46,47 フランジ部
50 貫通孔
52 ねじ孔
53 隙間
55 ボルト構造
56 ボルト部材
60 座金
62 スリット
63 テーパ面
73 ナット部材
80,82 トラック溝
81 外側継手部材(外輪)
83 内側継手部材(内輪)
84 ボール
85 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自在継手に設けられたヨークのボス部にシャフトの端部が挿入された状態において、このボス部から外径方向に延びる一対のフランジ部に付設されるボルト構造の締め付けによって、前記ボス部を縮径させて前記シャフトとヨークとを連結するための結合構造であって、
前記ボス部に挿入されたシャフトの端部に係止する筒体を、前記フランジ部に設けられる嵌合孔に内嵌し、この筒体に前記ボルト構造のボルト部材を挿通して、このボルト構造による締め付けを行うことを特徴とする結合構造。
【請求項2】
前記筒体の周壁に軸方向に延びるスリットを設け、この筒体を、フランジ部に設けられる嵌合孔に圧入したことを特徴とする請求項1に記載の結合構造。
【請求項3】
前記筒体に外周面の圧入開始端部に、圧入開始端に向かって縮径するテーパ面を設けたことを特徴とする請求項2に記載の結合構造。
【請求項4】
前記筒体を樹脂にて構成したことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の結合構造。
【請求項5】
ボルト構造のボルト部材の座面が直接的に前記嵌合孔の座面に当接することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の結合構造。
【請求項6】
ボルト構造のボルト部材の座面と前記嵌合孔の座面との間に座金を介在させたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の特徴とする結合構造。
【請求項7】
ボルト部材の座面又は座金からなるボルト構造の座面と前記筒体との間に隙間を設けたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の結合構造。
【請求項8】
ボルト構造のボルト部材は、フランジ部と別部材であるナット部材に螺合することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の結合構造。
【請求項9】
一方のフランジ部にボルト構造のボルト部材が挿通されて前記嵌合孔を構成する貫通孔を設けるとともに、他方のフランジ部にこのボルト部材が螺合する雌ねじ部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の結合構造。
【請求項10】
前記自在継手が、内径面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材としての複数のトルク伝達ボールと、前記外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持する保持器とを備えた固定型等速自在継手であり、トラック溝とボールの間の隙間を詰めるガタ詰め機構を設けていることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の結合構造。
【請求項11】
前記固定型等速自在継手は、トラック溝の底面が単一の円弧部から構成されたトラックオフセットタイプであることを特徴とする請求項10に記載の結合構造。
【請求項12】
前記固定型等速自在継手は、トラック溝の底面が円弧部と直線部とからなるアンダーカットフリータイプであることを特徴とする請求項10に記載の結合構造。
【請求項13】
前記自在継手が、ダブルカルダン型自在継手であることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の結合構造。
【請求項14】
前記請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の結合構造を用いたことを特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−281364(P2010−281364A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134237(P2009−134237)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】